説明

架橋性ジチエノピロール化合物およびその重合体

【課題】導電性材料または半導性材料として好適に用いることができる架橋性ジチエノピロール化合物およびその重合体を提供すること。
【解決手段】式(1)で示される化合物およびその重合体。


[式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアルコキシ基であり、Lは、置換基を有してもよい2価の炭化水素基、置換基を有してもよいオキシアルキレン基またはこれらの組合せからなる2価の基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性ジチエノピロール化合物およびその重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロール、チオフェン、アニリン等のようにヘテロ原子が環内外に存在する五員環構造または六員環構造を有する化合物或いは炭化水素系芳香環構造を有する化合物を重合して得られる重合体は、半導性を有する。これらの重合体を、半導性材料(半導体)として、固体電解トランジスタ、有機薄膜トランジスタ、電波による個体識別(RFID)器等の様々な有機エレクトロニクス部材に用いることが検討されている。また、ドーピングされたこれらの重合体は、導電性を有しており、共存させるドーパント量を調整することにより電気特性および光学特性を適切にコントロールすることができる。そのため、ドーピングされたこれらの重合体は、各種電極、エレクトロクロミック材料、各種センサー、一次電池、二次電池、固体電解コンデンサ、帯電防止剤等の様々な用途に用いることが検討されている。
【0003】
ポリチオフェン等のπ共役系重合体に架橋構造を付与する従来の方法としては、例えば、光反応(非特許文献1〜3)、および架橋性単量体の共存下での重合(非特許文献4および5)などが挙げられる。π共役系重合体に架橋構造を付与することによって、導電性や光電変換性能が向上することが報告されており、また、一般的に耐熱性等が向上することが知られている。
【0004】
特許文献1および非特許文献6において、ジチエノピロールに由来する構成単位を有する重合体が報告されており、導電性材料または半導性材料としての用途が検討されている。しかし、架橋性ジチエノピロール化合物に由来する構成単位を有する重合体は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0262183号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Advanced Functional Materials,2009年,第19巻,p.1−9
【非特許文献2】Macromolecules,2009年,第42巻,p.1610−1618
【非特許文献3】Synthetic Metals,2008年,第158巻,p.643−653
【非特許文献4】Macromolecular Chemistry and Physics,2008年,第209巻,p.1959−1966
【非特許文献5】Macromolecular Rapid Communications,2006年,第27巻,p.793−798
【非特許文献6】Journal of American Chemical Society,2008年,第130巻,p.13167−13176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
導電性材料または半導性材料として好適に用いることができる架橋性ジチエノピロール化合物およびその重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアルコキシ基であり、Lは、置換基を有してもよい2価の炭化水素基、置換基を有してもよいオキシアルキレン基またはこれらの組合せからなる2価の基である。]
で示される化合物。
[2] R〜Rが水素原子であり、Lがアルキレン基またはフェニレン基である上記[1]に記載の化合物。
[3] 上記[1]または[2]に記載の化合物に由来する構成単位を含む重合体。
[4] 置換基を有してもよい芳香族化合物に由来する構成単位をさらに含む上記[3]に記載の重合体。
[5] 置換基を有してもよい芳香族化合物が、式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアルコキシ基であり、Rは、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよいヘテロアリール基である。]
で示される化合物である上記[4]に記載の重合体。
[6] ドーパントを含む上記[3]〜[5]のいずれか一つに記載の重合体。
[7] 上記[1]または[2]に記載の化合物を含む有機エレクトロニクス部材。
[8] 電極、固体電解コンデンサ、熱電素子、圧電素子、アクチュエーター、センサー、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ、電波による個体識別(RFID)器、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)または有機半導体素子である上記[7]に記載の有機エレクトロニクス部材。
[9] 上記[3]〜[6]のいずれか一つに記載の重合体を含む有機エレクトロニクス部材。
[10] 電極、固体電解コンデンサ、熱電素子、圧電素子、アクチュエーター、センサー、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ、電波による個体識別(RFID)器、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)または有機半導体素子である上記[9]に記載の有機エレクトロニクス部材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の架橋性ジチエノピロール化合物およびその重合体は、導電性材料または半導性材料として好適に用いられる。また、本発明の重合体は、架橋構造を有するため、耐熱性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。また以下では、「式(1)で示される化合物」等を、「化合物(1)」等と略称することがある。
【0015】
まず、本発明の化合物(1)および本発明の重合体に含まれ得る化合物(2)について説明する。式(1)および式(2)中のR、R、R、R、R、RおよびRの置換基を有してもよいアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜15、さらに好ましくは1〜12である。アルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。アルキル基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、アルコキシポリアルキレンオキシ基等が挙げられる。
【0016】
式(1)および式(2)中のR、R、R、R、RおよびRの置換基を有してもよいアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜12である。アルコキシ基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシル基、テトラデシルオキシ基、ペンタデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、ヘプタデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、ノナデシルオキシ基、イコシルオキシ基等が挙げられる。アルコキシ基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、アルコキシポリアルキレンオキシ基等が挙げられる。
【0017】
式(2)中のRの置換基を有してもよいアリール基の炭素数は、好ましくは6〜30、より好ましくは6〜10である。アリール基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ピレン環、ペリレン環、テトラセン環、ペンタフェン環、ペンタセン環、ルビセン環等から誘導されるアリール基が挙げられる。アリール基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アルコキシポリアルキレンオキシ基等が挙げられる。
【0018】
式(2)中のRの置換基を有してもよいヘテロアリール基の原子数は、好ましくは5〜30、より好ましくは5〜10である。ヘテロアリール基としては、例えば、チオフェン環、ピロール環、フラン環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、テトラゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドール環、イソインドール環、インダゾール環、フタラジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、β−カルボリン環等から誘導されるヘテロアリール基が挙げられる。ヘテロアリール基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アルコキシポリアルキレンオキシ基等が挙げられる。
【0019】
式(1)中のLの置換基を有してもよい2価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは1〜30、より好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜10である。2価の炭化水素基は、脂肪族でも芳香族でもよい。2価の脂肪族炭化水素基は、直鎖状でも、分枝鎖状でもよく、飽和(例:アルキレン基)でも、不飽和(例:アルケニレン基、アルキニレン基)でもよく、好ましくはアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10である。さらに好ましいアルキレン基として、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基が挙げられる。
【0020】
2価の芳香族炭化水素基(即ち、アリーレン基)としては、例えば、フェニレン基等が挙げられる。フェニレン基は、オルトフェニレン基、メタフェニレン基、パラフェニレン基のいずれでもよい。
【0021】
式(1)中のLの置換基を有してもよいオキシアルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10である。オキシアルキレン基としては、例えばエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基、ペンチレンオキシ基、シクロヘキセンオキシ基等が挙げられる。
【0022】
式(1)中のLは、2価の炭化水素基および/またはオキシアルキレン基の組合せからなる2価の基でもよい。この組合せとしては、例えば、2価の炭化水素基同士の組合せ(例:アルキレン基とフェニレン基との組合せ、数個のフェニレン基の組合せ(オリゴフェニレン基と呼ばれることもある))、2価の炭化水素とオキシアルキレン基との組合せ(例:フェニレン基とオキシアルキレン基との組合せ)が挙げられる。
【0023】
式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立に、好ましくは水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基であり、より好ましくは水素原子であり、Lは、好ましくはアルキレン基またはフェニレン基であり、より好ましくはアルキレン基である。式(1)において、R〜Rが水素原子であり、Lがアルキレン基である組合せがさらに好ましい。式(2)において、RおよびRは、好ましくは水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基であり、より好ましくは水素原子であり、Rは、好ましくは置換基を有してもよいアルキル基、より好ましくは炭素数1〜15のアルキル基である。
【0024】
本発明の化合物(1)は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0025】
【化3】

【0026】
式(3)〜式(5)中のR〜RおよびLは上記と同義である。式(3)〜式(5)中のXは、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、好ましくは臭素原子である。
【0027】
化合物(3)〜化合物(5)の反応は、不活性雰囲気中(例えばアルゴン雰囲気)において塩基および触媒の存在下で行われる。塩基としては、例えば、リチウム tert−ブトキシド、ナトリウム tert−ブトキシド、カリウム tert−ブトキシド、リチウム(ビストリメチルシリル)アミド、ナトリウム(ビストリメチルシリル)アミド、カリウム(ビストリメチルシリル)アミド等が挙げられる。触媒としては、例えば、トリス(ジベンジリデンアセトン)ビスパラジウム(0)等のパラジウム触媒等が挙げられる。反応溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等が挙げられる。反応温度は、通常0〜165℃、好ましくは80〜165℃である。反応時間は、通常1〜72時間、好ましくは3〜48時間である。反応終了後に、粗生成物を公知の手法(例えば、抽出、クロマトグラフィー)で精製することが好ましい。
【0028】
次に、本発明の重合体について説明する。本発明の重合体は、化合物(1)に由来する構成単位を含むことを特徴とする。本発明の重合体は、化合物(1)による架橋構造を有するので、通常、溶媒に溶解せず、GPC等によって平均分子量を測定することができない。そのため、本発明では、重合体の平均分子量に特に限定は無い。
【0029】
本発明の重合体は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。化合物(1)に由来する構成単位の量は、共重合体の全構成単位中、好ましくは0.5〜50mol%、より好ましくは1〜20mol%である。
【0030】
共重合体としては、例えば、2種以上の化合物(1)の共重合体、化合物(1)と置換基を有してもよい芳香族化合物との共重合体等が挙げられる。置換基を有してもよい芳香族化合物は、特に限定されないが、例えば、ベンゼン、フルオレン、シクロペンタジチオフェン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、チオフェン、ピロール、フラン、シロール、ゲルモール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、1,2,5−チアジアゾール等が挙げられる。芳香族化合物の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アルコキシポリアルキレンオキシ基等が挙げられる。
【0031】
置換基を有してもよい芳香族化合物は、好ましくは縮環化合物であり、より好ましくは化合物(2)である。化合物(2)の説明は、上記の通りである。
【0032】
本発明の重合体の導電性を向上させるために、ドーパントを添加してもよい。ドーパントは、アニオンであることが好ましい。酸化されて正の電荷を帯びた重合体に対して、アニオンであるドーパントはカウンターアニオンとして機能する。ドーパントとしては、例えば、PF、SbF、AsF等の5B族元素のハロゲン化アニオン;BF等の3B族元素のハロゲン化アニオン;I(I)、Br、Cl等のハロゲンアニオン;ClO等のハロゲン酸アニオン;AlCl、FeCl、SnCl等の金属ハロゲン化物アニオン;硝酸アニオン(NO);硫酸アニオン(SO2−);p−トルエンスルホン酸アニオン、ナフタレンスルホン酸アニオン、CHSO、CFSO等の有機スルホン酸アニオン;CFCOO、CCOO等のカルボン酸アニオン;および上記のアニオン種を主鎖または側鎖に有する変性ポリマー;などが挙げられる。これらのドーパントは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
ドーパントの添加方法については特に限定されない。例えば、単量体を重合した後に、得られた重合体に所望のドーパントを適宜添加してもよい。また、単量体を化学酸化的重合させる場合または重合体に化学酸化的ドーピングを施す場合には、重合またはドーピングに用いられる酸化剤由来のアニオンを、ドーパントとして用いることができる。また、単量体を電気化学的重合させる場合または重合体に電気化学的ドーピングを施す場合には、重合またはドーピングに用いられる電解質由来のアニオンを、ドーパントとして用いることができる。
【0034】
ドーパントの添加量は、用いるドーパントにより任意に調整することができるが、重合体100重量部に対して、好ましくは1〜1000重量部、より好ましくは1〜100重量部である。
【0035】
本発明の重合体は、化合物(1)および必要に応じて他の単量体(例えば、化合物(2))を化学酸化的重合または電気化学的重合することによって製造することが好ましい。以下、重合について、ドーピングと共に説明する。
【0036】
化学酸化的重合または化学酸化的ドーピングにおいて用いられる溶媒は、特に制限されず、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、テトロヒドロフラン、メタノール、水等が挙げられる。
【0037】
化学酸化的重合または化学酸化的ドーピングにおいて用いられる酸化剤は、特に限定されないが、ハロゲンまたは遷移金属塩であることが好ましい。酸化剤としては、例えば、I、Br、Cl等のハロゲン;塩化第二鉄(FeCl)、過塩素酸第二鉄(Fe(ClO)、硫酸第二鉄(Fe(SO)、炭素数1〜16のアルコキシベンゼンスルホン酸鉄、炭素数1〜16のアルキルベンゼンスルホン酸鉄、フェノールスルホン酸鉄、スルホイソフタル酸鉄ジアルキルエステル、アルキルスルホン酸鉄、ナフタレンスルホン酸鉄、アルコキシナフタレンスルホン酸鉄、テトラリンスルホン酸鉄等の第二鉄塩;等が挙げられる。また、前記第二鉄塩(即ち、鉄(III)塩)の代わりに、鉄(III)をセリウム(IV)、銅(II)、マンガン(VII)、ルテニウム(III)で置き換えた塩も、酸化剤として使用することができる。
【0038】
酸化剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。併用する酸化剤の組合せとしては、例えば、ドーパント作用を有する酸化剤同士の組合せ;ドーパント作用を有さない酸化剤同士の組合せ;ドーパント作用を有する酸化剤(例えば、ドーパント作用を有する1種以上の第二鉄塩)とドーパント作用を有さない酸化剤(例えば、ドーパント作用を有さない1種以上の第二鉄塩)との組合せ;が挙げられる。
【0039】
化学酸化的重合または化学酸化的ドーピングにおいて、溶媒中の酸化剤の量(即ち「酸化剤のモル量/溶媒の体積」)は、好ましくは0.001〜10mol/Lであり、より好ましくは0.01〜1mol/Lである。
【0040】
化学酸化的重合において、溶媒中の単量体の量(即ち、「単量体のモル量/溶媒の体積」)は、採用する重合条件等により適宜設定することができるが、好ましくは0.001〜10mol/Lであり、より好ましくは0.01〜1mol/Lである。
【0041】
化学酸化的重合または化学酸化的ドーピングにおける反応温度としては、特に限定されないが、−50℃〜200℃が好ましい。化学酸化的重合または化学酸化的ドーピングにおける反応時間としては、特に限定されないが、1分〜48時間が好ましい。
【0042】
化学酸化的重合または化学酸化的ドーピングにおいて、添加剤として支持塩を用いてもよい。支持塩は、特に限定されないが、例えば、過塩素酸イオン、四フッ化ホウ素イオン、六フッ化リンイオン、ハロゲン原子イオン、六フッ化ヒ素イオン、六フッ化アンチモンイオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、アルキルスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、アルキルナフタレンスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸イオン、ポリビニルスルホン酸イオンなどのアニオンを含む支持塩が挙げられる。
【0043】
電気化学的重合または電気化学的ドーピングにおいて用いられる溶媒としては、例えば、ニトロメタン、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、ニトロベンゼン、シアノベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0044】
電気化学的重合または電気化学的ドーピングにおいて用いられる支持電解質としては、例えば、(a)リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオン、四級アンモニウムイオンなどのカチオンと、(b)過塩素酸イオン、四フッ化ホウ素イオン、六フッ化リンイオン、ハロゲン原子イオン、六フッ化ヒ素イオン、六フッ化アンチモンイオン、硫酸イオン、硫酸水素イオンなどのアニオンとの組合せからなる支持電解質が挙げられる。支持電解質は1種のみを用いても、2種以上を併用しても良い。
【0045】
電気化学的重合または電気化学的ドーピングにおいて用いられる電解液としては、上記溶媒と上記支持電解質からなる電解液が挙げられる。また電解液として、アルキルイミダゾリウム塩、アルキルピリジニウム塩等のイオン液体を用いることもできる。
【0046】
電気化学的重合において、電解液中の単量体の量(即ち、「単量体のモル量/電解液の体積」)は、採用する重合条件等により適宜設定することができるが、好ましくは0.001〜10mol/Lであり、より好ましくは0.01〜1mol/Lである。
【0047】
電気化学的重合または電気化学的ドーピングにおいて、電解液中の支持電解質の量(即ち「支持電解質のモル量/電解液の体積」)は、好ましくは0.001〜10mol/Lであり、より好ましくは、0.01〜1mol/Lである。
【0048】
電気化学的重合または電気化学的ドーピングにおいて用いられる電極材料としては、例えば、白金、金、ニッケル、ITO等が挙げられる。
【0049】
電気化学的重合または電気化学的ドーピングにおいて印加する際の電圧は、採用する条件等により適宜設定することができるが、好ましくは0.1〜1.5V(vs Ag/Ag)であり、より好ましくは0.3〜1.2V(vs Ag/Ag)である。電圧印加する際の温度は、好ましくは−50〜50℃であり、より好ましくは−30〜30℃である。
【0050】
電気化学的重合または電気化学的ドーピングにおける反応温度としては、特に限定されないが、−50℃〜50℃が好ましい。電気化学的重合または電気化学的ドーピングにおける反応時間としては、特に限定されないが、1分〜48時間が好ましい。
【0051】
本発明の化合物および重合体は、半導性材料または導電性材料として、有機エレクトロニクス部材に有用である。そこで、本発明は、本発明の化合物および/または重合体を含む有機エレクトロニクス部材も提供する。有機エレクトロニクス部材としては、例えば、電極、固体電解コンデンサ、熱電素子、圧電素子、アクチュエーター、センサー、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ、電波による個体識別(RFID)器、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)、有機半導体素子等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0053】
実施例1
減圧乾燥し、アルゴン置換した反応容器に3,3’−ジブロモ−2,2’−ビチオフェン162mg(0.501mmol)、ナトリウム tert−ブトキシド231mg(2.40mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ビスパラジウム(0)クロロホルム付加体11mg(0.011mmol)、(±)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル38mg(0.061mmol)およびトルエン1.5mLを加えた。混合物を25℃で20分間攪拌した。その後、1,4−ジアミノブタン22mg(0.25mmol)を加え、反応混合物を100℃で24時間攪拌した。反応終了後、塩化ナトリウム水溶液でクエンチし、クロロホルム(5mL×3回)で抽出した。抽出後、有機相を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮および減圧乾燥し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、式(6)で示される化合物を94.5mg(0.229mmol,91%)で得た。
【0054】
【化4】

【0055】
化合物(6)の物性データ
H−NMR(600MHz、CDCl)σ:7.12(d,J=5.1Hz,4H)、6.88(d,J=5.1Hz,4H)、4.11−4.14(m,4H)、1.85−1.90(m,4H)
【0056】
実施例2
温度計を備えた50mL三つ口フラスコに、化合物(6)4.2mg(0.010mmol)、式(7)で示される化合物170.3mg(0.490mmol)、過塩素酸第二鉄・n水和物(無水物の含有量が70重量%以上のもの)886mg、アセトニトリル10mLおよびクロロホルム5mLを加えた。反応混合物を25℃で24時間撹拌した。反応終了後、反応液をろ過し、化合物(6)と化合物(7)との共重合体205mgを得た。
【0057】
【化5】

【0058】
得られた共重合体を乾燥させた後、ガラス基板上に圧縮成形して、電極を作製した。その電極(共重合体)の導電率を四探針法で測定したところ、2.12×10−2S/cmであった。
【0059】
また、得られた重合体を10重量%のヒドラジン・一水和物の水溶液に10分間浸漬して、脱ドーピング重合体を調製した。得られた脱ドーピング重合体を、乾燥させて、その導電率を四探針法で測定したところ、導電性は確認されなかった。これは、ドーピング・脱ドーピングにより導電性が変化する導電性重合体に特有の現象である。
【0060】
実施例3
温度計を備えた50mL三つ口フラスコに、化合物(6)21.2mg(0.050mmol)、化合物(7)156.4mg(0.450mmol)、過塩素酸第二鉄・n水和物886mg、アセトニトリル10mLおよびクロロホルム5mLを加えた。反応混合物を25℃で24時間撹拌した。反応終了後、反応液をろ過し、化合物(6)と化合物(7)との共重合体195mgを得た。
【0061】
得られた共重合体を乾燥させた後、ガラス基板上に圧縮成形して、電極を作製した。その電極(共重合体)の導電率を四探針法で測定したところ、1.13×10−2S/cmであった。
【0062】
また、得られた重合体を、10重量%のヒドラジン・一水和物の水溶液に10分間浸漬して、脱ドーピング重合体を調製した。得られた脱ドーピング重合体を、乾燥させて、その導電率を四探針法で測定したところ、導電性は確認されなかった。これは、ドーピング・脱ドーピングにより導電性が変化する導電性重合体に特有の現象である。
【0063】
実施例4
1,4−ジアミノブタンの代わりに1,5−ジアミノペンタン26mg(0.25mmol)を用いた以外は実施例1と同様の手順で、式(8)で示される化合物を92.8mg(0.218mmol,87%)で得た。
【0064】
【化6】

【0065】
化合物(8)の物性データ
H−NMR(400MHz、CDCl)σ:7.13(d,J=5.4Hz,4H)、6.92(d,J=5.4Hz,4H)、4.13(t,J=6.8Hz,4H)、1.85(q,J=7.4Hz,4H)、1.37−1.29(m,2H)
【0066】
実施例5
1,4−ジアミノブタンの代わりに1,6−ジアミノヘキサン29mg(0.25mmol)を用いた以外は実施例1と同様の手順で、式(9)で示される化合物を99.0mg(0.225mmol,90%)で得た。
【0067】
【化7】

【0068】
化合物(9)の物性データ
H−NMR(400MHz、CDCl)σ:7.11(d,J=5.4Hz,4H)、6.91(d,J=5.4Hz,4H)、4.13(t,J=6.8Hz,4H)、1.82−1.78(m,4H)、1.31−1.27(m,4H)
【0069】
実施例6
白金板を陽極とし、白金線を陰極として配置した電解槽に、0.1Mテトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム/塩化メチレン溶液10mLを入れ、化合物(9)4.4mg(0.010mmol)を溶解させて、窒素置換を行った。陽極に対して1.2V(Ag/Ag)の定電位で電圧印加し、電解重合を行ったところ、陽極上に黒色重合体が生成した。生成した重合体を脱水アセトニトリルで洗浄後、乾燥させて、化合物(9)の単独重合体を得た。
【0070】
実施例7
1,4−ジアミノブタンの代わりに1,7−ジアミノヘプタン33mg(0.25mmol)を用いた以外は実施例1と同様の手順で、式(10)で示される化合物を107mg(0.234mmol,92%)で得た。
【0071】
【化8】

【0072】
化合物(10)の物性データ
H−NMR(400MHz、CDCl)σ:7.13(d,J=5.2Hz,4H)、6.96(d,J=5.2Hz,4H)、4.14(t、J=7.0Hz,4H)、1.84−1.79(m,4H)、1.28−1.24(m,6H)
【0073】
実施例8
1,4−ジアミノブタンの代わりに1,8−ジアミノオクタン36mg(0.25mmol)を用いた以外は実施例1と同様の手順で、式(11)で示される化合物を9.28mg(0.218mmol,87%)で得た。
【0074】
【化9】

【0075】
化合物(11)の物性データ
H−NMR(400MHz、CDCl)σ:7.13(d,J=5.3Hz,4H)、6.98(d,J=5.3Hz,4H)、4.16(t,J=6.9Hz,4H)、1.82−1.80(m,4H)、1.25(s,8H)
【0076】
実施例9
トリス(ジベンジリデンアセトン)ビスパラジウム(0)クロロホルム付加体、(±)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチルおよび1,4−ジアミノブタンの代わりに、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム17mg(0.029mmol)、1,1−ビス(ジフェニルフホスフィノ)フェロセン31mg(0.056mmol)およびp−フェニレンジアミン27mg(0.25mmol)を用いた以外は実施例1と同様の手順で、式(12)で示される化合物を83.3mg(0.193mmol,78%)で得た。
【0077】
【化10】

【0078】
化合物(12)の物性データ
H−NMR(400MHz、CDCl)σ:7.76(s,4H),7.24(d,J=0.8Hz,8H)
【0079】
比較例1
温度計を備えた50mL三つ口フラスコに、化合物(7)173.8mg(0.450mmol)、過塩素酸第二鉄・n水和物886mg、アセトニトリル10mLおよびクロロホルム5mLを加えた。反応混合物を25℃で24時間撹拌した。反応終了後、反応液をろ過し、化合物(7)の単独重合体206mgを得た。得られた重合体を乾燥させて、その導電率を四探針法で測定したところ、9.67×10−3S/cmであった。
【0080】
実験例1
実施例2および3で得られた共重合体並びに比較例1で得られた単独重合体の熱重量測定(TG)を株式会社リガク製熱分析装置Thermo plus TG−DTA TG8120を用いて行った。なお、昇温速度は毎分10℃とした。測定結果を表1に示す。化合物(7)の単独重合体(比較例1)に対して、化合物(6)および化合物(7)の共重合体(実施例2および3)は、重量減少が少なく、耐熱性が高かった。
【0081】
【表1】

【0082】
また、実施例6で得られた重合体も上記と同様にして熱重量測定(TG)をしたところ、400℃到達時の重量保持率は91.3%であった。この結果から分かるように、化合物(9)の単独重合体(実施例6)も、化合物(7)の単独重合体(比較例1)に比べて耐熱性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の架橋性ジチエノピロール化合物およびその重合体は、半導性材料または導電性材料として、例えば、インク、帯電防止剤、有機エレクトロニクス部材(例えば、電極、固体電解コンデンサ、熱電素子、圧電素子、アクチュエーター、センサー、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ、電波による個体識別(RFID)器、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)、有機半導体素子等)などの様々な用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

[式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアルコキシ基であり、Lは、置換基を有してもよい2価の炭化水素基、置換基を有してもよいオキシアルキレン基またはこれらの組合せからなる2価の基である。]
で示される化合物。
【請求項2】
、R、RおよびRが水素原子であり、Lがアルキレン基またはフェニレン基である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物に由来する構成単位を含む重合体。
【請求項4】
置換基を有してもよい芳香族化合物に由来する構成単位をさらに含む請求項3に記載の重合体。
【請求項5】
置換基を有してもよい芳香族化合物が、式(2):
【化2】

[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアルコキシ基であり、Rは、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよいヘテロアリール基である。]
で示される化合物である請求項4に記載の重合体。
【請求項6】
ドーパントを含む請求項3〜5のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の化合物を含む有機エレクトロニクス部材。
【請求項8】
電極、固体電解コンデンサ、熱電素子、圧電素子、アクチュエーター、センサー、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ、電波による個体識別(RFID)器、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)または有機半導体素子である請求項7に記載の有機エレクトロニクス部材。
【請求項9】
請求項3〜6のいずれか一項に記載の重合体を含む有機エレクトロニクス部材。
【請求項10】
電極、固体電解コンデンサ、熱電素子、圧電素子、アクチュエーター、センサー、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ、電波による個体識別(RFID)器、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)または有機半導体素子である請求項9に記載の有機エレクトロニクス部材。

【公開番号】特開2013−28585(P2013−28585A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−49807(P2012−49807)
【出願日】平成24年3月6日(2012.3.6)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】