説明

架橋性ニトリルゴム組成物およびその製造方法

【課題】スコーチ安定性に優れ、かつ、耐熱性、耐オゾン性および耐摩耗性に優れた架橋物を与えることができる架橋性ニトリルゴム組成物を提供すること。
【解決手段】ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)に、ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴム(b1)と無機過酸化物(b2)とを含有するマスターバッチ(B)を配合してなる架橋性ニトリルゴム組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性ニトリルゴム組成物およびその製造方法に係り、スコーチ安定性に優れ、かつ、耐熱性、耐オゾン性および耐摩耗性に優れた架橋物を与えることができる架橋性ニトリルゴム組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)は、耐油性、機械的特性、耐薬品性等を活かして、ホースやチューブなどの自動車用ゴム部品の材料として使用されており、また、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムのポリマー主鎖中の炭素−炭素二重結合を水素化した水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(HNBR)はさらに耐熱性に優れるため、ベルト、ホース、ダイアフラム等のゴム部品に使用されている。
【0003】
このようなアクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムなどの各種ゴムにおいて、加工性および機械特性を向上させるために、たとえば、特許文献1では、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムなどの各種ゴムに、架橋ゴム粒子、および金属過酸化物を添加して、ゴム混合物を得る技術が開示されている。しかしながら、この特許文献1のゴム混合物においては、加工性および機械特性は向上するものの、金属過酸化物の分散性が低く、そのため、この特許文献1のゴム混合物を用いて得られる架橋物は、耐熱性や耐オゾン性が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−514041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、スコーチ安定性に優れ、かつ、耐熱性、耐オゾン性および耐摩耗性に優れた架橋物を与えることができる架橋性ニトリルゴム組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このような架橋性ニトリルゴム組成物を用いて得られる架橋物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴムに、ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴムと無機過酸化物とを含有するマスターバッチを配合することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)に、ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴム(b1)と無機過酸化物(b2)とを含有するマスターバッチ(B)を配合してなる架橋性ニトリルゴム組成物が提供される。
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物において、好ましくは、前記カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)100重量部に対する、前記マスターバッチ(B)の配合量が、0.1〜50重量部である。
【0008】
また、本発明によれば、上記いずれかの架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなる架橋物が提供される。
【0009】
さらに、本発明によれば、ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴム(b1)に、無機過酸化物(b2)を配合してマスターバッチ(B)を得る工程と、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)に、前記マスターバッチ(B)を配合する工程と、を有する架橋性ニトリルゴム組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スコーチ安定性に優れ、かつ、耐熱性、耐オゾン性および耐摩耗性に優れた架橋物を与えることができる架橋性ニトリルゴム組成物、およびその製造方法、ならびに、このような架橋性ニトリルゴム組成物を架橋して得られ、耐熱性、耐オゾン性および耐摩耗性に優れた架橋物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
架橋性ニトリルゴム組成物
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)に、ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴム(b1)と無機過酸化物(b2)とを含有するマスターバッチ(B)を配合してなる組成物である。
【0012】
カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)
本発明で用いるヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)(以下、「カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)」と略記する。)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、カルボキシル基含有単量体および必要に応じて加えられる共重合可能なその他の単量体を共重合する工程を経て得られる、ヨウ素価が120以下のゴムである。
【0013】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリルなどが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0014】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは15〜55重量%、さらに好ましくは20〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる架橋物の耐油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0015】
カルボキシル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能であり、かつ、エステル化されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個以上有する単量体であれば特に限定されない。このようなカルボキシ基含有単量体としては、たとえば、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体などが挙げられる。また、カルボキシル基含有単量体には、これらの単量体のカルボキシル基がカルボン酸塩を形成している単量体も含まれる。さらに、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の無水物も、共重合後に酸無水物基を開裂させてカルボキシル基を形成するので、カルボキシル基含有単量体として用いることができる。
【0016】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0017】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸などが挙げられる。また、α,β−不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0018】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0019】
これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になることから、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体が好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸がより好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0020】
カルボキシル基含有単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜8重量%、さらに好ましくは1〜5重量%である。カルボキシル基含有単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる架橋物の機械特性および耐磨耗性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると、架橋性ニトリルゴム組成物のスコーチ安定性が悪化したり、得られる架橋物の耐疲労性が低下するおそれがある。
【0021】
本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、およびカルボキシル基含有単量体とともに、得られる架橋物がゴム弾性を発現するという点より、共役ジエン単量体を共重合したものであることが好ましい。
【0022】
共役ジエン単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、およびカルボキシル基含有単量体と共重合可能なものであれば特に限定されないが、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数4〜6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0023】
共役ジエン単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは89.9〜39.9重量%、より好ましくは77〜44.5重量%、さらに好ましくは75〜49重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0024】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、カルボキシル基含有単量体、および共役ジエン単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体(I)を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体(I)としては、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(上述の「カルボキシル基含有単量体」に該当するものを除く)、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0025】
α−オレフィン単量体としては、炭素数が3〜12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0026】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0027】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(「メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル」の略記。以下同様。);アクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸メトキシエチルなどの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸シアノブチルなどの炭素数2〜12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1〜12のフルオロアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;ジメチルアミノメチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレートなどのアミノ基含有α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル;などが挙げられる。
【0028】
フッ素含有ビニル単量体としては、たとえば、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0029】
共重合性老化防止剤としては、たとえば、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0030】
これらの共重合可能なその他の単量体(I)は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体(I)の単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0031】
カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)のヨウ素価は、120以下であり、好ましくは60以下、より好ましくは40以下、特に好ましくは30以下である。カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)のヨウ素価が高すぎると、得られる架橋物の耐熱性および耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0032】
カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜120、より好ましくは30〜110、特に好ましくは40〜100である。カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られる架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0033】
また、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)におけるカルボキシル基の含有量、すなわち、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは5×10−4〜5×10−1ephr、より好ましくは1×10−3〜1×10−1ephr、特に好ましくは5×10−3〜8×10−2ephrである。カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)のカルボキシル基含有量が少なすぎると得られる架橋物の機械的強度が低下するおそれがあり、多すぎると架橋物の耐寒性が低下する可能性がある。
【0034】
本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)の製造方法は、特に限定されず、たとえば、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、カルボキシル基含有単量体、共役ジエン単量体、および、必要に応じて加えられるこれらと共重合可能なその他の単量体を共重合する方法が便利で好ましい。重合法としては、公知の乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法および溶液重合法のいずれをも用いることができるが、重合反応の制御が容易であることから乳化重合法が好ましい。なお、共重合して得られた共重合体のヨウ素価が120より高い場合には、共重合体の水素化(水素添加反応)を行うとよい。この場合における、水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0035】
マスターバッチ(B)
本発明で用いるマスターバッチ(B)は、ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴム(b1)に、無機過酸化物(b2)を配合してなるものである。
【0036】
ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴム(b1)(以下、「ニトリル共重合ゴム(b1)」と略記する。)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、および必要に応じて加えられる共重合可能なその他の単量体を共重合して得られる、ヨウ素価が120以下のゴムである。ニトリル共重合ゴム(b1)はマスターバッチ(B)のバインダとして作用し、ニトリル共重合ゴム(b1)によって無機過酸化物(b2)をマスターバッチ(B)中で分散させておくことにより、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)に対する無機過酸化物(b2)の分散性が向上する。
【0037】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、上述したカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)と同様のものを用いることができる。また、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは15〜55重量%、さらに好ましくは20〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる架橋物の耐油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0038】
本発明で用いるニトリル共重合ゴム(b1)は、得られる架橋物がゴム弾性を発現し易いことから、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と共役ジエン単量体を共重合したものであることが好ましい。共役ジエン単量体としては、上述したカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)と同様のものを用いることができる。また、共役ジエン単量体単位の含有量は、ニトリル共重合ゴム(b1)の全単量体単位に対して、好ましくは90〜40重量%、より好ましくは85〜45重量%、さらに好ましくは80〜50重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0039】
また、本発明で用いるニトリル共重合ゴム(b1)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、および共役ジエン単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体(II)を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体(II)としては、上述の「カルボキシル含有単量体」および上述の「その他の単量体(I)」と同様のものが例示される。その他の単量体(II)の単位の含有量は、ニトリル共重合ゴム(b1)の全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、特に好ましくは0重量%である。
【0040】
本発明で用いるニトリル共重合ゴム(b1)のヨウ素価は、120以下であり、好ましくは60以下、より好ましくは50以下、特に好ましくは40以下である。ニトリル共重合ゴム(b1)のヨウ素価が高すぎると、得られる架橋物の耐熱性および耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0041】
本発明で用いるニトリル共重合ゴム(b1)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜120、より好ましくは30〜110、特に好ましくは40〜100である。ニトリル共重合ゴム(b1)のポリマームーニー粘度が上記範囲にある場合に、架橋性ゴム組成物の加工性が良好なものとなる傾向がある。
【0042】
本発明で用いるニトリル共重合ゴム(b1)の製造方法は、特に限定されず、上述したカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)と同様の方法を用いることができる。
なお、製造されたカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)およびニトリル共重合ゴム(b1)の各単量体単位含有量は、(1)ケルダール法でα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位含有量を求め、中和滴定によりカルボキシル基含有量を求めた値からカルボキシル基含有単量体単位含有量を求め、残部を共役ジエン単量体単位として計算で求めても良いし、(2)H−NMRを用い、各単量体単位含有量を従来公知の方法で測定して求めても良い。
【0043】
本発明で用いる無機過酸化物(b2)としては、長周期型周期表第2族〜第12族の元素の過酸化物であれば特に限定されないが、本発明の効果がより一層顕著になることから、長周期型周期表第2族、第6族および第12族の元素の過酸化物が好ましく、長周期型周期表第12族の元素の過酸化物が特に好ましい。このような無機過酸化物(b2)の具体例としては、過酸化亜鉛、過酸化クロム、過酸化マグネシウムおよび過酸化カルシウムが好ましく、過酸化亜鉛が特に好ましい。
【0044】
無機過酸化物(b2)は、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)のカルボキシル基を架橋させるための架橋剤として作用し、架橋剤として無機過酸化物(b2)を用いることにより、架橋性ニトリルゴム組成物のスコーチ安定性を向上させることができる。加えて、本発明においては、無機過酸化物(b2)を、ニトリル共重合ゴム(b1)に配合し、マスターバッチ(B)とし、これをカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)に配合することにより、得られる架橋物の耐熱性および耐オゾン性を向上させることができる。
【0045】
本発明で用いるマスターバッチ(B)中における、ニトリル共重合ゴム(b1)と無機過酸化物(b2)との比率(重量基準)は、「ニトリル共重合ゴム(b1):無機過酸化物(b2)」の重量比で、好ましくは90:10〜10:90であり、より好ましくは80:20〜20:80、さらに好ましくは70:30〜30:70である。ニトリル共重合ゴム(b1)の含有量が多すぎると、架橋性ニトリルゴム組成物の架橋反応性が低下するおそれがある。一方、ニトリル共重合ゴム(b1)の含有量が少なすぎると、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)中へのマスターバッチ(B)の分散性が低下してしまい、得られる架橋物の機械特性が低下するおそれがある。
【0046】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、マスターバッチ(B)の含有量は、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜30重量部、より好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは3〜15重量部である。マスターバッチ(B)の含有量が少なすぎると、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)のカルボキシル基の架橋が不十分となってしまい、得られる架橋物の機械特性および耐磨耗性が低下するおそれがある。一方、多すぎると、加工性およびスコーチ安定性が悪化する場合がある。
【0047】
本発明で用いるマスターバッチ(B)は、ニトリル共重合ゴム(b1)と無機過酸化物(b2)とを配合することで調製される。なお、これらを配合する際には、(ア)ニトリル共重合ゴム(b1)と無機過酸化物(b2)とを非水系で混合(ドライブレンド)する方法、(イ)ニトリル共重合ゴム(b1)のラテックスと、無機過酸化物(b2)を溶媒に分散させてスラリー状としたものを混合し、ついで凝固・乾燥する方法、等が挙げられるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、上記(イ)の方法が好ましい。なお、上記(イ)の方法を用いた場合の凝固・乾燥方法としては、例えば、塩化カルシウム等の凝固剤で凝固させ、ろ過、水洗後に乾燥する等の従来公知の凝固・乾燥方法が適用できる。
【0048】
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、本発明の効果がより一層顕著になる点から、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)およびマスターバッチ(B)に加えて、有機過酸化物架橋剤、硫黄系加硫剤、ポリアミン系架橋剤、多価エポキシ系架橋剤、多価イソシアナート系架橋剤またはアジリジン系架橋剤を含有させることが好ましく、有機過酸化物架橋剤を含有させることが特に好ましい。
【0049】
有機過酸化物架橋剤としては、従来公知のものを用いることができ、ジクミルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3−トリメチルシクロヘキサン、4,4−ビス−(t−ブチル−ペルオキシ)−n−ブチルバレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキシン−3、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、p−クロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられるが、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンが好ましい。これらは一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0050】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、有機過酸化物架橋剤の含有量は、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)およびニトリル共重合ゴム(b1)の合計100重量部に対して、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部、さらに好ましくは2〜10重量部である。有機過酸化物架橋剤の含有量が少なすぎると、得られる架橋物の機械特性(破断強度など)が悪化する場合がある。一方、多すぎると、得られる架橋物の伸びが低下し過ぎる場合がある。
【0051】
さらに、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)、マスターバッチ(B)および必要に応じて用いられる有機過酸化物架橋剤に加えて、ゴム加工分野において通常使用されるその他の配合剤を配合してもよい。このような配合剤としては、たとえば、補強剤、充填材、老化防止剤、光安定剤、スコーチ防止剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、受酸剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤、シランカップリング剤、共架橋剤、架橋助剤、架橋遅延剤、発泡剤などが挙げられる。これらの配合剤の配合量は、配合目的に応じた量を適宜採用することができる。
【0052】
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で上記カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)およびニトリル共重合ゴム(b1)以外のゴムを配合してもよい。
このようなゴムとしては、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴムなどが挙げられる。
カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)およびニトリル共重合ゴム(b1)以外のゴムを配合する場合における、架橋性ニトリルゴム組成物中の配合量は、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)およびニトリル共重合ゴム(b1)の合計100重量部に対して、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0053】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)、マスターバッチ(B)および必要に応じて使用される上記各成分を好ましくは非水系で混合することで調製される。本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を調製する方法としては、マスターバッチ(B)および有機過酸化物架橋剤ならびに熱に不安定な共架橋剤や架橋助剤などを除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で一次混練した後、オープンロールなどに移してマスターバッチ(B)、有機過酸化物架橋剤や熱に不安定な共架橋剤や架橋助剤などを加えて二次混練することにより調製できる。なお、一次混練は、通常、10〜200℃、好ましくは30〜180℃の温度で、1分間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間行い、二次混練は、通常、10〜90℃、好ましくは20〜60℃の温度で、1分間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間行う。
【0054】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物のコンパウンド・ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜120、より好ましくは30〜110、特に好ましくは40〜100である。架橋性ニトリルゴム組成物のコンパウンド・ムーニー粘度が低すぎると、得られる架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0055】
架橋物
本発明の架橋物は、上述した本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明の架橋物は、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜1時間である。
なお、架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0056】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0057】
このようにして得られる本発明の架橋物は、耐熱性、耐オゾン性および耐摩耗性に優れるものである。
【0058】
このため、本発明の架橋物は、このような特性を活かし、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置およびボールねじ等)用のシール、バルブおよびバルブシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、などの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下において、特記しない限り「部」は重量基準である。なお、試験、評価は以下によった。
【0060】
ヨウ素価
ニトリルゴムのラテックス100gをメタノール1リットルで凝固した後、60℃で一晩真空乾燥することで、乾燥ゴムを得て、得られた乾燥ゴムを用いて、JIS K6235に準じて、ヨウ素価を測定した。
【0061】
カルボキシル基含有量
2mm角のニトリルゴム0.2gに、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数として求めた(単位はephr)。
【0062】
アクリロニトリル単量体単位含有量
JIS K6384に従い、ケルダール法によって測定したニトリルゴム中の窒素含有量から計算により求めた(単位は重量%)。
【0063】
ムーニー粘度(ポリマームーニー、コンパウンド・ムーニー)
ニトリルゴムのムーニー粘度(ポリマームーニー)および架橋性ニトリルゴム組成物のムーニー粘度(コンパウンド・ムーニー)をJIS K6300に従って測定した(単位は(ML1+4、100℃))。
【0064】
スコーチ安定性
架橋性ニトリルゴム組成物のムーニースコーチ時間(t5およびt35)を、JIS K6300に従って145℃で測定した。ムーニースコーチ時間(t5およびt35)の値が大きいほど、スコーチ安定性に優れる。
【0065】
常態物性(引張強度、伸び、硬さ)
架橋性ニトリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状の架橋物を得た。次いで、得られた架橋物をギヤー式オーブンに移して150℃で4時間二次架橋し、得られたシート状の架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られたこの試験片を用いて、JIS K6251に従い、架橋物の引張強度および伸びを、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いて架橋物の硬さを、それぞれ測定した。
【0066】
耐熱老化性
上記常態物性の評価に用いたシート状の架橋物と同様のものを得た後、JIS3号形ダンベルで打ち抜き、試験片を作製した。得られた試験片を用いて、JIS K6257「加硫ゴムの老化試験方法」の4項「空気加熱老化試験(ノーマルオーブン法)」の規定に準拠して、150℃、336時間の条件で空気加熱老化処理を行った。空気加熱老化処理を行った試験片(熱老化後の試験片)について、JIS K6251に従い、「伸び」を、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いて「硬さ」を、それぞれ測定した。これらの測定結果から、下記式より、伸び変化率、硬さ変化量を求めた。伸び変化率および硬さ変化量の絶対値が小さいほど、耐熱老化性に優れる。
伸び変化率(%)={((熱老化後の伸び)−(常態での伸び))/(常態での伸び)}×100
硬さ変化量=(熱老化後の硬さ)−(常態での硬さ)
【0067】
耐オゾン性(静的オゾン試験)
上記常態物性の評価に用いたシート状の架橋物と同様のものを得た後、JIS K6259に準じて、40℃、オゾン濃度50pphmの環境下で、40%伸長して保持し、それぞれ、24時間後、48時間後、72時間後、168時間後、および336時間後のクラック発生状態を、以下の基準にしたがって評価した。クラックの発生が少ないほど耐オゾン性に優れる。
NC:クラックの発生が認められない。
A1〜4,B1〜4,C1〜4:アルファベットはクラック数を表し、Aに比べてBが多く、Bに比べてCが多い。また、数字が大きいほどクラックの大きさが大きい。
【0068】
耐摩耗性
上記常態物性の評価に用いたシート状の架橋物と同様のものを得た後、JIS K6265に規定されているピコ摩耗試験に従い、荷重44N、毎分60回転にて摩耗減量を測定し、耐摩耗指数(index)を求めた。耐摩耗指数が大きいほど、耐摩耗性に優れる。
【0069】
製造例1(カルボキシル基含有ニトリルゴム(A−1)の製造)
金属製ボトルに、イオン交換水180部、濃度10%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル37重量部、メタクリル酸4重量部、t−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン59重量部を仕込んだ。そして、金属製ボトルを5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、金属製ボトルを回転させながら16時間重合反応した。そして、濃度10%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去することにより、アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体ゴムのラテックス(固形分濃度30%)を得た。
【0070】
次いで、上記にて得られたラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が800ppmになるように、オートクレーブ中に、上記にて製造したラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行うことで、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A−1)のラテックスを得た。
【0071】
そして、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A−1)のラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、60℃で12時間真空乾燥することにより、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A−1)を得た。
得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A−1)は、ヨウ素価が28、カルボキシル基含有量が0.04ephr、ポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)85であった。
なお、ケルダール法でアクリロニトリル単位含有量を求め、カルボキシル基含有量からメタクリル酸単位含有量を求め、残部を1,3−ブタジエン単位として計算により求めたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A−1)の組成は、アクリロニトリル単位36重量%、1,3−ブタジエン単位60重量%、メタクリル酸単位4重量%であった。
【0072】
製造例2(バインダ用のニトリルゴム(b1−1)のラテックスの製造)
金属製ボトルに、イオン交換水180部、濃度10%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル37部、および分子量調整剤(t−ドデシルメルカプタン)0.5部の順に仕込み、ボトル内部の気体を窒素で3回置換した後、ブタジエン63部を仕込んだ。そして、金属製ボトルを5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合触媒)0.1部を仕込み、金属製ボトルを回転させながら16時間重合反応した。そして、濃度10%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去することで、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムのラテックス(L1)(固形分濃度約30%)を得た。なお、得られたラテックス(L1)に含まれるゴムは、ヨウ素価が280であった。
【0073】
そして、得られたラテックス(L1)に含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が800ppmになるように、オートクレーブ中に、上記にて製造したラテックス(L1)およびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、バインダ用のニトリルゴム(b1−1)のラテックス(固形分濃度30%)を得た。得られたラテックスに含まれるニトリルゴム(b1−1)は、ヨウ素価が26、ポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)が90であった。
なお、ケルダール法でアクリロニトリル単位含有量を求め、残部を1,3−ブタジエン単位として計算により求めたバインダ用のニトリルゴム(b1−1)の組成は、アクリロニトリル単位36重量%、1,3−ブタジエン単位64重量%であった。
【0074】
製造例3(バインダ用のニトリルゴム(b1−2)の製造)
水素添加反応を行う際に、パラジウムの配合量を、ラテックス(L1)に含有されるゴムの乾燥重量に対して750ppmとなるように調整した以外は、製造例2と同様にして、バインダ用のニトリルゴム(b1−2)のラテックス(固形分濃度30%)を得た。得られたラテックスに含まれるニトリルゴム(b1−2)は、ヨウ素価が30、ポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)が90であった。
なお、製造例2と同様にして求めたバインダ用のニトリルゴム(b1−2)の組成は、アクリロニトリル単位36重量%、1,3−ブタジエン単位64重量%であった。
【0075】
製造例4(バインダ用のニトリルゴム(b1−3)の製造)
水素添加反応を行う際に、パラジウムの配合量を、ラテックス(L1)に含有されるゴムの乾燥重量に対して700ppmとなるように調整した以外は、製造例2と同様にして、バインダ用のニトリルゴム(b1−3)のラテックス(固形分濃度30%)を得た。得られたラテックスに含まれるニトリルゴム(b1−3)は、ヨウ素価が45、ポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)88であった。
なお、製造例2と同様にして求めたバインダ用のニトリルゴム(b1−3)の組成は、アクリロニトリル単位36重量%、1,3−ブタジエン単位64重量%であった。
【0076】
製造例5(バインダ用のニトリルゴム(b1’−4)の製造)
水素添加反応を行う際に、パラジウムの配合量を、ラテックス(L1)に含有されるゴムの乾燥重量に対して400ppmとなるように調整した以外は、製造例2と同様にして、バインダ用のニトリルゴム(b1’−4)のラテックス(固形分濃度30%)を得た。得られたラテックスに含まれるニトリルゴム(b1’−4)は、ヨウ素価が130、ポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)が65であった。
なお、製造例2と同様にして求めたバインダ用のニトリルゴム(b1’−4)の組成は、アクリロニトリル単位36重量%、1,3−ブタジエン単位64重量%であった。
【0077】
実施例1
固形分濃度が20%の過酸化亜鉛スラリー250部を攪拌しながら、製造例2で得られたニトリルゴム(b1−1)のラテックス(固形分濃度30%)167部を、徐々に滴下することで、ラテックス混合物を得た。そして、凝固剤として塩化カルシウム5部を溶解した凝固水3000部を準備し、この凝固水の中に、上記にて得られたラテックス混合物を滴下することでクラムとし、これをろ過・水洗後、60℃で12時間真空乾燥することにより、マスターバッチ(B−1)を得た。なお、マスターバッチ(B−1)においては、ニトリルゴム(b1−1):過酸化亜鉛=50:50(重量比)であった。
【0078】
次いで、バンバリーミキサを用いて、製造例1で得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A−1)100部に、SRFカーボンブラック(商品名「シーストS」、東海カーボン社製)40部、トリメリット酸エステル(商品名「ADK Cizer C−8」、ADEKA社製、可塑剤)5部、ステアリン酸(加工助剤)1部、4,4’−ジ−(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ナウガード 445」、ケムチュラ社製、老化防止剤)1.5部、および2−メルカプトベンズイミダゾール(商品名「ノクラック MB」、大内新興社製、老化防止剤)1.5部を添加して、50℃で5分混合した。次いで、得られた混合物を50℃のロールに移して、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(有機過酸化物架橋剤)40%品(GEO Specialty Chemicals Inc製、商品名「Vul Cup 40KE」)7部、および上記にて製造したマスターバッチ(B−1)10部を配合して、混練することにより、架橋性ニトリルゴム組成物を得た。
【0079】
そして、上述した方法により、得られた架橋性ニトリルゴム組成物のコンパウンド・ムーニー粘度、およびスコーチ安定性、ならびに、架橋物の常態物性、耐熱老化性、耐オゾン性、および耐摩耗性の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
実施例2
ニトリルゴム(b1−1)のラテックスの代わりに、製造例3で得られたニトリルゴム(b1−2)のラテックスを用いた以外は、実施例1と同様にして、マスターバッチ(B−2)を製造し、得られたマスターバッチ(B−2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を製造した。なお、マスターバッチ(B−2)においては、ニトリルゴム(b1−2):過酸化亜鉛=50:50(重量比)であった。そして、得られた架橋性ニトリルゴム組成物を用いて、実施例1と同様にして、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
実施例3
ニトリルゴム(b1−1)のラテックスの代わりに、製造例4で得られたニトリルゴム(b1−3)のラテックスを用いた以外は、実施例1と同様にして、マスターバッチ(B−3)を製造し、得られたマスターバッチ(B−3)を用いた以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を製造した。なお、マスターバッチ(B−3)においては、ニトリルゴム(b1−3):過酸化亜鉛=50:50(重量比)であった。そして、得られた架橋性ニトリルゴム組成物を用いて、実施例1と同様にして、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
比較例1
ニトリルゴム(b1−1)のラテックスの代わりに、製造例5で得られたニトリルゴム(b1’−4)のラテックスを用いた以外は、実施例1と同様にして、マスターバッチ(B’−4)を製造し、得られたマスターバッチ(B’−4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を製造した。なお、マスターバッチ(B’−4)においては、ニトリルゴム(b1’−4):過酸化亜鉛=50:50(重量比)であった。そして、得られた架橋性ニトリルゴム組成物を用いて、実施例1と同様にして、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
比較例2
マスターバッチ(B−1)を配合せず、かつ、SRFカーボンブラック配合量を40部から90部に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、実施例1と同様にして、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
比較例3
マスターバッチ(B−1)10部の代わりに、酸化亜鉛(「亜鉛華1号」、正同化学社製)5部を用いた以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、実施例1と同様にして、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1より、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)に、ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴム(b1)と無機過酸化物(b2)とを含むマスターバッチ(B)を配合して得られる架橋性ニトリルゴム組成物は、スコーチ安定性に優れ、かつ、常態物性(引張強度、伸び、硬さ)、耐熱性、耐オゾン性および耐摩耗性に優れた架橋物を与えることができることが確認できる(実施例1〜3)。
【0087】
これに対して、マスターバッチのバインダとして、ヨウ素価が120超であるニトリル共重合ゴムを用いた場合には、耐熱性および耐オゾン性に劣る結果となった(比較例1)。
ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴム(b1)と無機過酸化物(b2)とを含むマスターバッチ(B)を配合しなかった場合には、引張強度、耐熱性、耐オゾン性、耐磨耗性に劣る結果となった(比較例2)。
また、ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴム(b1)を使用し、無機過酸化物(b2)とを含むマスターバッチ(B)の代わりに酸化亜鉛を用いた場合には、スコーチ安定性に劣る結果となった(比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)に、ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴム(b1)と無機過酸化物(b2)とを含有するマスターバッチ(B)を配合してなる架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項2】
前記カルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)100重量部に対する、前記マスターバッチ(B)の配合量が、0.1〜50重量部である請求項1に記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなる架橋物。
【請求項4】
ヨウ素価が120以下であるニトリル共重合ゴム(b1)に、無機過酸化物(b2)を混合してマスターバッチ(B)を得る工程と、
ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリル共重合ゴム(A)に、前記マスターバッチ(B)を配合する工程と、を有する架橋性ニトリルゴム組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−74139(P2011−74139A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224891(P2009−224891)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】