説明

架橋性フッ素ゴム組成物、及び、フッ素ゴム成形品

【課題】ゴム表面に積層又は塗装によりフッ素樹脂層を形成することなく、低摩擦性を有するフッ素ゴム成形品を製造するための架橋性フッ素ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ビニリデンフルオライド単位を含むフッ素ゴム(A)、フッ素樹脂(B)、及び、架橋剤(C)を含み、上記フッ素樹脂(B)は、エチレン単位及びテトラフルオロエチレン単位を含む共重合体からなり、主鎖末端に熱的に安定な基を有することを特徴とする架橋性フッ素ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性フッ素ゴム組成物、及び、フッ素ゴム成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴムは、優れた耐薬品性、耐溶剤性及び耐熱性を示すことから、自動車工業、半導体工業、化学工業等の各種分野において広く使用されており、例えば、自動車産業においては、エンジンならびにその周辺装置、AT装置、燃料系統ならびにその周辺装置などに使用されるホース、シール材等として使用されている。
【0003】
しかし、フッ素ゴム、例えばプロピレン〔P〕−テトラフルオロエチレン〔TFE〕共重合体ゴムなどは低温で脆化することがあるので、その改善のために融点が240〜300℃のエチレン〔Et〕−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂〔ETFE〕を配合し、溶融混練した後、放射線架橋又はパーオキサイド架橋する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、特許文献2には、フッ素ゴム(ビニリデンフルオライド〔VdF〕系ゴム)とフッ素樹脂〔ETFE〕と含フッ素熱可塑性エラストマーとを配合したフッ素ゴム組成物をプレス架橋(160℃10分間)し、ついでオーブン架橋(180℃4時間)して熱時強度が改善された架橋ゴムを製造する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、共通のパーオキサイド系架橋剤と反応する反応点をそれぞれに有する含フッ素エラストマー75〜98重量%及びフッ素樹脂25〜2重量%よりなる含フッ素共重合体組成物が記載されている。
【0006】
特許文献4には、共にポリオール架橋性であるフッ素ゴムとフッ素樹脂とのゴム成形品が記載されている。
【0007】
シール材等の分野において、ゴムの特性を活かしながら摩擦係数を低下させる方法としては、例えば、フッ素樹脂(又はフッ素樹脂繊維層)をゴムの表面に積層する方法(特許文献5、6)、ゴムの表面にフッ素樹脂の塗膜を形成する方法(特許文献7)などが提案されている。
【0008】
特許文献8には、ビニリデンフルオライド単位を含むフッ素ゴム及びフッ素樹脂を、フッ素樹脂の融点よりも5℃低い温度以上の温度で混練して得られた架橋性フッ素ゴム組成物を成形架橋し、その後フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱すると、表面のフッ素樹脂比率が増大した低摩擦性のフッ素ゴム成形品が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭50−32244号公報
【特許文献2】特開平6−25500号公報
【特許文献3】特開2000−230096号公報
【特許文献4】特開2001−131346号公報
【特許文献5】特開平7−227935号公報
【特許文献6】特開2000−313089号公報
【特許文献7】特開2006−292160号公報
【特許文献8】国際公開第2010/029899号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜4には、フッ素ゴムとフッ素樹脂とを混合して成形品を得ることが記載されているが、得られる成形品は、低摩擦性及び撥水性が充分でなく、改善の余地があった。
【0011】
また、特許文献5〜7のように、ゴム表面に積層又は塗装によりフッ素樹脂層を形成した場合、表面のフッ素樹脂により低摩擦性を有する成形品を得ることができるが、フッ素ゴムとフッ素樹脂の界面での接着性を高めることが重要な課題となり、その解決に悩まされているのが現状である。
【0012】
特許文献8のように、フッ素ゴムとフッ素樹脂とをフッ素樹脂の融点よりも5℃低い温度以上の温度で混練して得られる架橋性フッ素ゴム組成物を使用した場合、得られるフッ素ゴム成形品表面のフッ素樹脂比率が十分に高くならず、低摩擦性の点から改善の余地があった。
【0013】
本発明は、ゴム表面に積層又は塗装によりフッ素樹脂層を形成することなく、低摩擦性を有するフッ素ゴム成形品を製造するための架橋性フッ素ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、ビニリデンフルオライド単位を含むフッ素ゴム(A)、フッ素樹脂(B)、及び、架橋剤(C)を含み、上記フッ素樹脂(B)は、エチレン単位及びテトラフルオロエチレン単位を含む共重合体からなり、主鎖末端に熱的に安定な基を有することを特徴とする架橋性フッ素ゴム組成物である。
上記フッ素樹脂(B)は、更に、ヘキサフルオロプロピレン単位を含むことが好ましい。
上記ビニリデンフルオライド単位を含むフッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)との質量割合(A)/(B)が、60/40〜97/3であることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、上述の架橋性フッ素ゴム組成物を架橋して得られることを特徴とするフッ素ゴム成形品でもある。
上記フッ素ゴム成形品において、フッ素樹脂(B)の面積占有率が5〜100%であることが好ましい。
上記フッ素ゴム成形品は、シール材であることが好ましい。
上記フッ素ゴム成形品は、摺動部材であることが好ましい。
上記フッ素ゴム成形品は、非粘着性部材であることが好ましい。
上記フッ素ゴム成形品は、表面に撥水撥油性を有することが好ましい。
【0016】
本発明は、フッ素ゴムに、主鎖末端に熱的に安定な基を有するフッ素樹脂を混練することにより、少量のフッ素樹脂の添加で、ゴム成形品の表面にフッ素樹脂が偏析して、該表面の摩擦係数が下がることを見出し、完成させたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、主鎖末端に熱的に安定な基を有するフッ素樹脂を含有するものであるため、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物を架橋させて得られるフッ素ゴム成形品は、撥水性等のゴム特性を有し、かつ、低摩擦性に優れるという特性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、ビニリデンフルオライド単位を含むフッ素ゴム(A)、フッ素樹脂(B)、及び、架橋剤(C)を含む。
各成分及び要件について、以下に詳述する。
【0019】
(A)ビニリデンフルオライド(VdF)単位を含むフッ素ゴム
ビニリデンフルオライド(VdF)単位を含むフッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド(VdF)単位を含む共重合体からなるフッ素ゴム(以下、「VdF系フッ素ゴム」ともいう。)である。上記VdF系フッ素ゴムは、少なくともビニリデンフルオライドに由来する重合単位を含むフッ素ゴムである。
【0020】
VdF単位を含む共重合体としては、VdF単位と、含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位(但し、VdF単位は除く。)とを含む共重合体であることが好ましい。VdF単位を含む共重合体は、更に、VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の共重合単位を含むことが好ましい。
【0021】
VdF単位を含む共重合体としては、30〜85モル%のVdF単位及び70〜15モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位を含むことが好ましく、30〜80モル%のVdF単位及び70〜20モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位を含むことがより好ましい。VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の共重合単位は、VdF単位と含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位の合計量に対して、0〜10モル%であることが好ましい。
【0022】
含フッ素エチレン性単量体としては、例えば、TFE、CTFE、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEともいう)、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体が挙げられる。なかでも、TFE、HFP及びPAVEからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
上記PAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)−(CFCFCFO)−R (1)
(式中、YはF又はCFを表し、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0〜5の整数を表し、qは0〜5の整数を表す。)、及び、一般式(2):
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、XはH、F又はCFを表し、Rは、直鎖又は分岐した、炭素数が1〜6のフルオロアルキル基、若しくは、炭素数が5又は6の環状フルオロアルキル基を表す。)
からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
一般式(2)におけるRは、H、Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1〜2個含むフルオロアルキル基であってもよい。
【0025】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)又はパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)であることがより好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)であることが更に好ましい。これらをそれぞれ単独で、又は、任意に組み合わせて用いることができる。
【0026】
VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0027】
このようなVdF単位を含む共重合体として、具体的には、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体などの1種又は2種以上が好ましく挙げられる。これらのVdF単位を含む共重合体のなかでも、耐熱性、圧縮永久ひずみ、加工性、コストの点から、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体がとくに好ましい。
【0028】
VdF/HFP共重合体としては、VdF/HFPのモル比が45〜85/55〜15であるものが好ましく、より好ましくは50〜80/50〜20であり、さらに好ましくは60〜80/40〜20である。
【0029】
VdF/HFP/TFE共重合体としては、VdF/HFP/TFEのモル比が40〜80/10〜35/10〜35のものが好ましい。
【0030】
VdF/PAVE共重合体としては、VdF/PAVEのモル比が65〜90/10〜35のものが好ましい。
【0031】
VdF/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/TFE/PAVEのモル比が40〜80/3〜40/15〜35のものが好ましい。
【0032】
VdF/HFP/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/PAVEのモル比が65〜90/3〜25/3〜25のものが好ましい。
【0033】
VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/TFE/PAVEのモル比が40〜90/0〜25/0〜40/3〜35のものが好ましく、より好ましくは40〜80/3〜25/3〜40/3〜25である。
【0034】
VdF系フッ素ゴム(A)は、加工性が良好な点から、ムーニー粘度(ML1+10(121℃))が5〜140であることが好ましく、10〜120であることがより好ましく、20〜100であることが更に好ましい。
ムーニー粘度は、ASTM−D1646及びJIS K6300に準拠して測定することができる。
測定機器 :ALPHA TECHNOLOGIES社製のMV2000E型
ローター回転数:2rpm
測定温度 :121℃
【0035】
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、VdF系フッ素ゴム(A)を97〜60質量%含有することが好ましい。60質量%未満であると、ゴム弾性が損なわれるおそれがある。97質量%を超えると、組成物の低摩擦特性が発現しないおそれがある。
【0036】
(B)フッ素樹脂
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、フッ素樹脂(B)を含有する。VdF系フッ素ゴム(A)に特定のフッ素樹脂を添加すると、該フッ素樹脂が、得られるゴム成形品の表面に偏析して、該表面の摩擦係数を好適に低減させることができる。
【0037】
フッ素樹脂(B)は、エチレン単位及びテトラフルオロエチレン単位を含む共重合体(以下、「エチレン〔Et〕/テトラフルオロエチレン〔TFE〕共重合体」ともいう)からなるフッ素樹脂であり、主鎖末端に熱的に安定な基を有する。
【0038】
上記Et/TFE共重合体としては、Et/TFEのモル比が70〜19/30〜81であるものが好ましく、60〜19/40〜81であるものがより好ましい。
【0039】
上記Et/TFE共重合体は、更に、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕単位を含むことが好ましい。Et単位、TFE単位及びHFP単位からなる三元共重合体(以下、エチレン〔Et〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕/テトラフルオロエチレン〔TFE〕共重合体ともいう)とすることにより、VdF系フッ素ゴム(A)との相溶性に優れる。
【0040】
上記Et/HFP/TFE共重合体は、VdF系フッ素ゴム(A)との相溶性に優れる点で、HFP単位を1〜30モル%含むことが好ましく、5〜20モル%含むことがより好ましい。
【0041】
フッ素樹脂(B)は、更に、変性モノマー単位を含んでいてもよい。
上記変性モノマー単位としては、式(I):
CH=CFR (I)
(式中、Rは炭素数2〜10のフルオロアルキル基である。)
で示されるフルオロビニル化合物が挙げられる。
式(I)中、Rの炭素数が2より少ないとテトラフルオロエチレン共重合体の改質(たとえば、共重合体の成形時や成形品のクラック発生の抑制)が十分になされず、一方、10より多くなると重合反応性の点で不利になる。
得られる共重合体の耐熱性の点からは、R基はパーフルオロアルキル基、ω−ハイドロ基またはω−クロロパーフルオロアルキル基であるのが最も好ましい。
このようなフルオロビニル化合物のうち、共重合性、モノマーの製造時の経済性、得られた共重合体の物性から、式(II):
CH=CF(CFH (II)
(式中、nは2〜10の数である。)
で表されるフルオロビニル化合物が好ましい。なかでも、とりわけnが3〜5の数であるフルオロビニル化合物(II)が好ましい。
【0042】
上記変性モノマー単位は、上記フッ素樹脂中、0.1〜10モル%であることが好ましい。0.1モル%未満であると柔軟性が失われるおそれがあり、10モル%を超えると耐熱性が低下するおそれがある。
【0043】
フッ素樹脂(B)とVdF系フッ素ゴム(A)との相溶性向上のため、少なくとも1種の多官能化合物を添加してもよい。多官能化合物とは、1つの分子中に同一又は異なる構造の2つ以上の官能基を有する化合物である。
【0044】
多官能化合物が有する官能基としては、カルボニル基、カルボキシル基、ハロホルミル基、アミド基、オレフィン基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、エポキシ基等、一般に反応性を有することが知られている官能基であれば任意に用いることができる。これらの官能基を有する化合物は、VdF系フッ素ゴム(A)との親和性が高いだけではなく、フッ素樹脂(B)が持つ反応性を有することが知られている官能基とも反応しさらに相溶性が向上することが期待される。
【0045】
フッ素樹脂(B)は、主鎖末端に熱的に安定な基を有する。
主鎖末端に熱的に安定な基を有することにより、成形品表面の樹脂の面積占有率を高めることができる。
上記熱的に安定な基としては、アミド基(−CONH)、アルキル基(パーフルオロアルキル基、フルオロアルキル基及びアルキル基を含む)、アルコキシ基(−OR)、アルコキシカルボニル基(−COOR)、アシルオキシ基(−OC(=O)R)、及び、アシル基(−COR)を挙げることができる。
なかでも、比較的末端処理が容易である点で、フッ素樹脂(B)は、主鎖末端にアミド基を有することが好ましい。
【0046】
主鎖末端にアミド基を有するフッ素樹脂(B)は、赤外線吸収スペクトルにおける主鎖のCH基に起因する2881cm−1での吸収ピークの高さに対する、末端NH基のNH結合に起因する3506cm−1での吸収ピークの高さの比(3506cm−1/2881cm−1)が0.1以上であると好ましい。
また、主鎖末端にアミド基を有するフッ素樹脂(B)は、主鎖のCH基に起因する2881cm−1での吸収ピークの高さに対する、末端NH基のNH結合に起因する3506cm−1での吸収ピークの高さの比(3506cm−1/2881cm−1)が0.15以上であるとより好ましい。
【0047】
主鎖末端にアミド基を有するフッ素樹脂(B)は、上述した単量体成分と重合開始剤を用いて重合し、末端をアミド化処理することにより得ることができる。
末端をアミド化処理する前の、合成されたフッ素樹脂の主鎖末端には、重合開始剤由来の−OCOOR等が存在する。例えば、−OCOORは、アミド化処理することで−CONH基に変換することができる。
【0048】
上記アミド化処理は、得られたフッ素樹脂を、アンモニアガス又はアンモニアを生成しうる窒素化合物と接触させることにより行うことができる。
【0049】
処理前のフッ素樹脂をアンモニアガスと接触させる方法としては、反応容器内に処理前の共重合体を設置し、アンモニアガスを反応容器内に供給する方法が挙げられる。反応容器内へのアンモニアガスの供給は、アミド化に不活性な気体と混合して混合ガスとしてから行ってもよい。
【0050】
上記アミド化に不活性な気体としては特に限定されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。上記アンモニアガスは、混合ガスの1質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、上記範囲内であれば、80質量%以下であってもよい。
【0051】
上記アミド化処理は、0℃以上、100℃以下で行うことが好ましく、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上であり、また、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。温度が高すぎるとフッ素樹脂等が分解したり、融着したりするおそれがあり、低すぎると処理に長時間を要する場合があり、生産性の点で好ましくない。
【0052】
上記アミド化処理の時間は、フッ素樹脂の量にもよるが、通常、1分〜24時間程度である。
【0053】
フッ素樹脂(B)は、メルトフローレート(MFR 265℃/5kg)が5g/10分以上であることが好ましく、10g/10分以上であることがより好ましい。
上記メルトフローレートは、ASTM D1238の方法により得られる値である。
【0054】
フッ素樹脂(B)は、融点が、VdF系フッ素ゴム(A)の架橋温度以上であることが好ましい。フッ素樹脂(B)の融点は、VdF系フッ素ゴム(A)の種類により適宜決定されるが、通常、150℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることが更に好ましい。上限は特に限定されないが、200℃であってよい。
上記融点は、DSCの方法により得られる値である。
【0055】
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、VdF系フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)との質量割合(A)/(B)が、60/40〜97/3であることが好ましい。
フッ素樹脂(B)の割合が少なすぎると、組成物の低摩擦特性が発現しないおそれがあり、多すぎると、ゴム弾性が損なわれるおそれがある。
上記質量割合(A)/(B)は、70/30以上がより好ましく、85/15以下がより好ましい。
【0056】
(C)架橋剤
本発明における架橋剤としては、一般的にフッ素ゴムに適用可能な架橋剤として公知のものであれば特に限定されず、例えば、ポリアミン系架橋剤、ポリオール系架橋剤、又は、パーオキサイド系架橋剤を挙げることができる。
架橋系について、耐薬品性の観点からは、パーオキサイド架橋系が好ましく、耐熱性の観点からはポリオール架橋系が好ましい。架橋剤(C)は、必要とする特性に応じて適宜選択するとよい。
【0057】
上記ポリアミン系架橋剤としては、例えば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどのポリアミン化合物が挙げられる。これらの中でも、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0058】
上記ポリオール系架橋剤としては、例えば、ポリヒドロキシ化合物などを挙げることができる。
上記ポリヒドロキシ化合物としては、耐熱性に優れる点から、ポリヒドロキシ芳香族化合物が好ましい。
【0059】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’―ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAなどが挙げられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて共重合体を凝析した場合は、上記金属塩は用いないことが好ましい。
【0060】
上記架橋剤(C)がポリヒドロキシ化合物である場合、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、架橋促進剤を更に含むことが好ましい。上記架橋促進剤は、ポリマー主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の生成と、生成した二重結合へのポリヒドロキシ化合物の付加を促進する。
【0061】
上記架橋促進剤としては、オニウム化合物があげられ、オニウム化合物のなかでも、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、及び、1官能性アミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、第4級アンモニウム塩及び第4級ホスホニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0062】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、例えば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8―ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド(以下、DBU−Bとする)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7―ウンデセニウムクロライド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライドなどが挙げられる。これらの中でも、架橋性及びフッ素ゴム成形品の物性が優れる点から、DBU−Bが好ましい。
【0063】
また、第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、例えば、テトラブチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロライド、トリブチルアリルホスホニウムクロライド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロライド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロライドなどをあげることができ、これらの中でも、架橋性及びフッ素ゴム成形品の物性が優れる点から、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(BTPPC)が好ましい。
【0064】
また、上記架橋促進剤として、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている塩素フリー架橋促進剤を用いることもできる。
【0065】
上記架橋促進剤の配合量は、VdF系フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.01〜8質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜5質量部である。上記架橋促進剤が、0.01質量部未満であると、フッ素ゴムの架橋が充分に進行せず、得られるフッ素ゴム成形品の耐熱性及び耐油性が低下する傾向があり、8質量部をこえると、上記架橋性フッ素ゴム組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0066】
上記パーオキサイド系架橋剤としては、例えば、有機過酸化物などを挙げることができる。
上記有機過酸化物としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエイトなどをあげることができる。これらの中でも、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3が好ましい。
【0067】
上記架橋剤が有機過酸化物である場合、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は架橋助剤を含むことが好ましい。
上記架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン)、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどが挙げられる。これらの中でも、架橋性及びフッ素ゴム成形品の物性が優れる点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0068】
上記架橋助剤の配合量は、VdF系フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5.0質量部である。上記架橋助剤が、0.01質量部未満であると、架橋時間が実用に耐えないほど長くなる傾向があり、10質量部を超えると、架橋時間が速くなり過ぎることに加え、フッ素ゴム成形品の圧縮永久歪も低下する傾向がある。
【0069】
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物において、架橋剤(C)の含有量は、VdF系フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.2〜10質量部であることが好ましい。0.2質量部未満であると、架橋密度が低くなり圧縮永久歪みが大きくなる傾向がある。10質量部を超えると、架橋密度が高くなりすぎるため、圧縮時に割れやすくなる傾向がある。
架橋剤(C)の含有量は、より好ましくは、下限が0.5質量部、上限が3質量部である。
【0070】
上記架橋性フッ素ゴム組成物は、必要に応じてフッ素ゴム中に配合される通常の添加剤、例えば充填剤、加工助剤、受酸剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することができ、これらの添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用すればよい。
【0071】
次に、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物を用いて、フッ素ゴム成形品を製造する方法について説明する。
【0072】
上記フッ素ゴム成形品は、(I)本発明の架橋性フッ素ゴム組成物を調製する調製工程、(II)得られた調製物を成形架橋する成形架橋工程、(III)得られた架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム成形品を得る熱処理工程を含む製造方法によって製造することができる。
【0073】
以下、各工程について説明する。
【0074】
(I)調製工程
調製工程(I)は、上述のVdF系フッ素ゴム(A)、フッ素樹脂(B)、及び、架橋剤(C)、ならびに、必要な添加剤を混合して、架橋性フッ素ゴム組成物を調製する工程である。
架橋性フッ素ゴム組成物を調製する工程としては、上述の各成分を混練して調製する方法や、共凝析して調製する方法が挙げられる。
【0075】
上記各成分を混練して調製する方法としては、VdF系フッ素ゴム(A)、フッ素樹脂(B)及び架橋剤(C)を、フッ素樹脂(B)の融点以上で混練する方法が挙げられる。上記融点以上で混練することにより、得られるフッ素ゴム成形品の機械的強度を向上させ、摩擦係数を低下させることができる。
混練温度の上限は、VdF系フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)のいずれか低い方の熱分解温度であることが好ましい。
【0076】
上記混練は、更に、架橋剤(C)をVdF系フッ素ゴム(A)の架橋反応が進行しない条件で行うことが好ましい。架橋反応を進行させないで混練することによって、フッ素ゴム成形品の機械的強度を更に向上させ、摩擦係数を更に低下させることができる。架橋剤(C)の混練は、架橋反応が進行しないのであれば、VdF系フッ素ゴム(A)、フッ素樹脂(B)及び架橋剤(C)を、フッ素樹脂(B)の融点以上で同時に混練してもよいし、VdF系フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを、フッ素樹脂(B)の融点以上の温度で混練して予備混合物を得たのち、予備混合物と架橋剤(C)とを架橋反応を進行させない条件で混練してもよい。
【0077】
上記架橋反応が進行しない条件で混練するためには、架橋に最低限必要とされる成分を添加せずに混練するか、又は、架橋反応に必要な温度未満で混練すればよい。
上記架橋反応が進行しない条件は主に架橋剤の種類によって決まる。例えば、架橋剤(C)としてポリオール架橋剤を使用する場合、ポリオール架橋剤、架橋促進剤及び受酸剤を、フッ素樹脂(B)の融点以上の温度で同時に混練すると、通常架橋反応が進行するので、後述の2段階混練工程において、ポリオール架橋剤、架橋促進剤及び受酸剤のうち少なくとも1つを、予備混合物を得る工程で添加せずに、予備混合物を得た後の架橋性フッ素ゴム組成物(フルコンパウンド)を得る工程で添加することが好ましい。
また、架橋剤(C)としてパーオキサイド架橋剤を使用する場合、フッ素樹脂(B)の融点以上の温度で混練する際にパーオキサイド架橋剤が存在すると、通常架橋反応が進行するので、後述の2段階混練工程において、予備混合物を得た後、架橋性フッ素ゴム組成物(フルコンパウンド)を得る工程でパーオキサイド架橋剤を添加することが好ましい。
【0078】
上記各成分を混練して調製する方法としては、VdF系フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を、フッ素樹脂(B)の融点以上で混練して予備混合物(プレコンパウンド)を得た後、予備混合物に架橋剤(C)及び任意の他の添加剤を添加し、架橋温度未満で混練して架橋性フッ素ゴム組成物(フルコンパウンド)を得る2段階混練工程、
VdF系フッ素ゴム(A)、フッ素樹脂(B)及び架橋剤(C)を、フッ素樹脂(B)の融点以上、かつ、架橋反応が進行しない条件下で混練して予備混合物(プレコンパウンド)を得た後、予備混合物に任意の他の添加剤を添加し、架橋温度未満で混練して架橋性フッ素ゴム組成物(フルコンパウンド)を得る2段階混練工程、又は、
VdF系フッ素ゴム(A)、フッ素樹脂(B)、架橋剤(C)及び任意の他の添加剤を、フッ素樹脂(B)の融点以上、かつ、架橋反応が進行しない条件下で混練して架橋性フッ素ゴム組成物(フルコンパウンド)を得る1段階混練工程、
であることがより好ましく、2段階混練工程であることが更に好ましく、特に、
VdF系フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を、フッ素樹脂(B)の融点以上で混練して予備混合物を得た後、予備混合物に架橋剤(C)及び任意の他の添加剤を添加し、架橋温度未満で混練して架橋性フッ素ゴム組成物を得る2段階混練工程、であることが好ましい。
【0079】
2段階混練工程における予備混合物(プレコンパウンド)を調製するための混練では、架橋反応が進行しない条件下で混練することが重要であり、フッ素樹脂(B)の融点以上の温度で架橋反応が進行しない成分(たとえば特定の架橋剤のみ、架橋剤と架橋促進剤の組合せのみ、など)を添加することは妨げられない。
【0080】
2段階混練工程における予備混合物(プレコンパウンド)を得るための混練は、例えば、フッ素樹脂(B)の融点以上、たとえば180℃以上でVdF系フッ素ゴム(A)と混練することにより行うことができる。
【0081】
上記混練には、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を使用できるが、高剪断力を加えることができる点で、加圧ニーダー又は二軸押出機等の押出機を用いることが好ましい。
【0082】
2段階混練工程における架橋性フッ素ゴム組成物(フルコンパウンド)を得るための混練は、架橋剤(C)の分解温度未満、たとえば100℃以下の温度でオープンロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダーなどを用いて行うことができる。
【0083】
ここで、上記混練と類似の処理としてフッ素樹脂中でフッ素ゴムをフッ素樹脂の溶融条件下で架橋する処理(動的架橋)がある。両者を対比すると、動的架橋が熱可塑性樹脂のマトリックス中にゴムをブレンドし、混練しながらゴムを架橋させる処理であるのに対し、上記混練は、フッ素ゴムの架橋を引き起こさない条件(架橋に必要な成分の不存在、又はその温度で架橋反応が起こらない配合など)で混練するものであり、本質的に異なる。
【0084】
本発明における混練工程で得られる架橋性フッ素ゴム組成物は、VdF系フッ素ゴム(A)が連続相を形成し、かつ、フッ素樹脂(B)が分散相を形成している構造、又はVdF系フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)が共に連続相を形成している構造をとっているものと推定される。この点でもマトリックス中に架橋ゴムがミクロに分散した組成物が得られる動的架橋とは異なる。
【0085】
上記共凝析して調製する方法としては、VdF系フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を共凝析させた後、架橋剤(C)を添加して架橋性フッ素ゴム組成物を調製する方法が挙げられる。
上記共凝析は、例えば、(i)VdF系フッ素ゴム(A)の水性分散液と、フッ素樹脂(B)の水性分散液とを混合した後に凝析する方法、(ii)VdF系フッ素ゴム(A)の粉末を、フッ素樹脂(B)に添加した後に凝析する方法、(iii)フッ素樹脂(B)の粉末を、VdF系フッ素ゴム(A)の水性分散液に添加した後に凝析する方法が挙げられる。なかでも、各樹脂が均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。
【0086】
上記凝析は、例えば、凝集剤を用いて行うことができる。このような凝集剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸アルミニウム、ミョウバン等のアルミニウム塩、硫酸カルシウム等のカルシウム塩、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化ナトリウムや塩化カリウム等の一価カチオン塩等の公知の凝集剤が挙げられる。凝集剤により凝析を行う際、凝集を促進させるために酸又はアルカリを添加してpHを調整してもよい。
【0087】
VdF系フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して共凝析粉末を得た後、該共凝析粉末に架橋剤(C)を添加する。共凝析粉末と架橋剤(C)との混合は、フッ素樹脂(B)の融点未満の温度で、例えば、オープンロール等を用いた通常の混合方法により行うとよい。
【0088】
(II)成形架橋工程
工程(II)は、工程(I)で得られた架橋性フッ素ゴム組成物を成形し、架橋して架橋成形品を製造する工程である。成形及び架橋の順序は限定されず、成形した後架橋してもよいし、架橋した後成形してもよいし、成形と架橋とを同時に行ってもよい。
【0089】
例えばホース、長尺板ものなどの場合は押出成形した後架橋する方法が適切であり、異形の成形品の場合は、ブロック状の架橋物を得た後切削などの成形処理を施す方法も採れる。また、ピストンリングやオイルシールなどの比較的単純な成形品の場合、金型などで成形と架橋を同時に並行して行うことも通常行われている方法である。
【0090】
成形方法としては、例えば押出成形法、金型などによる加圧成形法、インジェクション成形法などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0091】
架橋方法も、スチーム架橋法、加圧成形法、放射線架橋法、加熱により架橋反応が開始される通常の方法が採用できる。本発明においては、フッ素ゴム成形品表面のフッ素樹脂の占有率を効率的に高める観点から、加熱による架橋反応が好適である。
【0092】
上記架橋性フッ素ゴム組成物の成形及び架橋の方法及び条件は、採用する成形及び架橋において公知の方法及び条件の範囲内でよい。
【0093】
架橋を行う温度は、VdF系フッ素ゴム(A)の架橋温度以上であり、フッ素樹脂(B)の融点未満であることが好ましい。架橋をフッ素樹脂(B)の融点以上でおこなうと、多数の凸部を有する成形品を得ることができないおそれがある。
架橋時間としては、例えば、1分間〜24時間であり、使用する架橋剤などの種類により適宜決定すればよい。
【0094】
ところで、ゴムの架橋において、最初の架橋処理(1次架橋という)を施した後に2次架橋と称される後処理工程を施すことがあるが、次の熱処理工程(III)で説明するように、従来の2次架橋工程と本発明における成形架橋工程(II)及び熱処理工程(III)とは異なる処理工程である。
【0095】
(III)熱処理工程
この工程では、成形架橋工程(II)で得られた架橋成形品を上記フッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム成形品を得る。
【0096】
上記熱処理工程(III)は、架橋成形品表面のフッ素樹脂占有率を高めるために行う処理工程であり、この目的に即して、フッ素樹脂(B)の融点以上かつVdF系フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)の熱分解温度未満の温度が加熱温度として採用される。
【0097】
加熱温度がフッ素樹脂の融点よりも低い場合は、多数の凸部を有する成形品を得ることができない。また、フッ素ゴム及びフッ素樹脂の熱分解を回避するために、VdF系フッ素ゴム(A)又はフッ素樹脂(B)のいずれか低い方の熱分解温度未満の温度でなければならない。好ましい加熱温度は、短時間で低摩擦化が容易な点から、フッ素樹脂(B)の融点より5℃以上高い温度である。
【0098】
上記の上限温度は通常のフッ素ゴムの場合であり、超耐熱性を有するフッ素ゴムの場合は、上限温度は超耐熱性を有するフッ素ゴムの分解温度であるので、上記上限温度はこの限りではない。
【0099】
熱処理工程(III)において、加熱温度は加熱時間と密接に関係しており、加熱温度が比較的下限に近い温度では比較的長時間加熱を行い、比較的上限に近い加熱温度では比較的短い加熱時間を採用することが好ましい。このように加熱時間は加熱温度との関係で適宜設定すればよいが、加熱処理をあまり長時間行うとフッ素ゴムが熱劣化することがあるので、加熱処理時間は、耐熱性に優れたフッ素ゴムを使用する場合を除いて実用上96時間までである。通常、加熱処理時間は1分間〜96時間が好ましく、生産性が良好な点から1分間〜24時間がより好ましいが、摩擦係数を充分に低下させたい場合は8〜96時間であることが好ましい。
【0100】
ところで、従来行われている2次架橋は1次架橋終了時に残存している架橋剤を完全に分
解してフッ素ゴムの架橋を完結し、架橋成形品の機械的特性や圧縮永久ひずみ特性を向上
させるために行う処理である。
【0101】
したがって、フッ素樹脂(B)の共存を想定していない従来の2次架橋条件は、その架橋条件が偶発的に熱処理工程の加熱条件と重なるとしても、2次架橋ではフッ素樹脂の存在を架橋条件設定の要因として考慮せずにフッ素ゴムの架橋の完結(架橋剤の完全分解)という目的の範囲内での加熱条件が採用されているにすぎず、フッ素樹脂(B)を配合した場合にゴム架橋物(ゴム未架橋物ではない)中でフッ素樹脂(B)を加熱軟化又は溶融する条件を導き出せるものではない。
【0102】
なお、上記成形架橋工程(II)において、VdF系フッ素ゴム(A)の架橋を完結させるため(架橋剤(C)を完全に分解するため)の2次架橋を行ってもよい。
【0103】
また、熱処理工程(III)において、残存する架橋剤(C)の分解が起こりVdF系フッ素ゴム(A)の架橋が完結する場合もあるが、熱処理工程(III)におけるかかるVdF系フッ素ゴム(A)の架橋はあくまで副次的な効果にすぎない。
【0104】
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物を用いて、上述の製造方法によれば、表面にフッ素樹脂が偏析し、本来のゴム特性に加え、低摩擦性に優れたフッ素ゴム成形品を好適に得ることができる。
なお、フッ素樹脂が偏析した状態は、レーザー顕微鏡により観察できる。
このような本発明の架橋性フッ素ゴム組成物を用いて得られたフッ素ゴム成形品もまた、本発明の一つである。
【0105】
上記フッ素ゴム成形品は、フッ素樹脂(B)の面積占有率が5〜100%であることが好ましい。上記面積占有率が5%未満であると、低摩擦特性や非粘着特性が発現しないおそれがある。
上記面積占有率は、10%以上がより好ましく、20%以上が更に好ましい。
なお、上記面積占有率は、キーエンス社製、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9700)を用いて、成形品表面を測定し、凸部(フッ素樹脂部)断面積を求め、断面積合計の値が、測定全領域面積に占める割合を占有率とした値である。
【0106】
本発明のフッ素ゴム成形品は、その低摩擦性や、撥水性等の本来のゴム特性を利用して、シール材、摺動部材、非粘着性部材などとして有用である。
【0107】
具体的には、次の成形品が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0108】
シール材:
半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野では、O(角)−リング、パッキン、ガスケット、ダイアフラム、その他の各種シール材等があげられ、これらはCVD装置、ドライエッチング装置、ウェットエッチング装置、酸化拡散装置、スパッタリング装置、アッシング装置、洗浄装置、イオン注入装置、排気装置に用いることができる。具体的には、ゲートバルブのO−リング、クォーツウィンドウのO−リング、チャンバーのO−リング、ゲートのO−リング、ベルジャーのO−リング、カップリングのO−リング、ポンプのO−リング、ダイアフラム、半導体用ガス制御装置のO−リング、レジスト現像液、剥離液用のO−リング、その他の各種シール材として用いることができる。
【0109】
自動車分野では、エンジンならびに周辺装置に用いるガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、各種シール材や、AT装置の各種シール材に用いることができる。燃料系統ならびに周辺装置に用いるシール材としては、O(角)−リング、パッキン、ダイアフラムなどが挙げられる。具体的には、エンジンヘッドガスケット、メタルガスケット、オイルパンガスケット、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、バルブステムシール、マニホールドパッキン、酸素センサー用シール、インジェクターO−リング、インジェクターパッキン、燃料ポンプO−リング、ダイアフラム、クランクシャフトシール、ギアボックスシール、パワーピストンパッキン、シリンダーライナーのシール、バルブステムのシール、自動変速機のフロントポンプシール、リアーアクスルピニオンシール、ユニバーサルジョイントのガスケット、スピードメーターのピニオンシール、フートブレーキのピストンカップ、トルク伝達のO−リング、オイルシール、排ガス再燃焼装置のシール、ベアリングシール、キャブレターのセンサー用ダイアフラム等として用いることができる。
【0110】
航空機分野、ロケット分野及び船舶分野では、ダイアフラム、O(角)−リング、バルブ、パッキン、各種シール材等があげられ、これらは燃料系統に用いることができる。具体的には、航空機分野では、ジェットエンジンバルブステムシール、ガスケット及びO−リング、ローテーティングシャフトシール、油圧機器のガスケット、防火壁シール等に用いられ、船舶分野では、スクリューのプロペラシャフト船尾シール、ディーゼルエンジンの吸排気用バルブステムシール、バタフライバルブのバルブシール、バタフライ弁の軸シール等に用いられる。
【0111】
化学プラント分野では、バルブ、パッキン、ダイアフラム、O(角)−リング、各種シール材等があげられ、これらは医薬、農薬、塗料、樹脂等化学品製造工程に用いることができる。具体的には、化学薬品用ポンプ、流動計、配管のシール、熱交換器のシール、硫酸製造装置のガラス冷却器パッキング、農薬散布機、農薬移送ポンプのシール、ガス配管のシール、メッキ液用シール、高温真空乾燥機のパッキン、製紙用ベルトのコロシール、燃料電池のシール、風洞のジョイントシール、ガスクロマトグラフィー、pHメーターのチューブ結合部のパッキン、分析機器、理化学機器のシール、ダイアフラム、弁部品等として用いることができる。
【0112】
現像機等の写真分野、印刷機械等の印刷分野及び塗装設備等の塗装分野では、乾式複写機のシール、弁部品等として用いることができる。
【0113】
食品プラント機器分野では、バルブ、パッキン、ダイアフラム、O(角)−リング、各種シール材等があげられ、食品製造工程に用いることができる。具体的には、プレート式熱交換器のシール、自動販売機の電磁弁シール等として用いることができる。
【0114】
原子力プラント機器分野では、パッキン、O−リング、ダイアフラム、バルブ、各種シール材等が挙げられる。
【0115】
一般工業分野では、パッキング、O−リング、ダイアフラム、バルブ、各種シール材等が挙げられる。具体的には、油圧、潤滑機械のシール、ベアリングシール、ドライクリーニング機器の窓、その他のシール、六フッ化ウランの濃縮装置のシール、サイクロトロンのシール(真空)バルブ、自動包装機のシール、空気中の亜硫酸ガス、塩素ガス分析用ポンプのダイアフラム(公害測定器)等に用いられる。
【0116】
電気分野では、具体的には、新幹線の絶縁油キャップ、液封型トランスのベンチングシール等として用いられる。
【0117】
燃料電池分野では、具体的には、電極、セパレーター間のシール材や水素・酸素・生成水配管のシール等として用いられる。
【0118】
電子部品分野では、具体的には、放熱材原料、電磁波シールド材原料、コンピュータのハードディスクドライブのガスケット等に用いられる。
【0119】
現場施工型の成形に用いることが可能なものとしては特に限定されず、例えばエンジンのオイルパンのガスケット、磁気記録装置用のガスケット、クリーンルーム用フィルターユニットのシーリング剤等が挙げられる。
【0120】
また、磁気記録装置(ハードディスクドライブ)用のガスケット、半導体製造装置やウェハー等のデバイス保管庫等のシールリング材等のクリーン設備用シール材に特に好適に用いられる。
【0121】
さらに、燃料電池セル電極間やその周辺配管等に用いられるパッキン等の燃料電池用のシール材等にも特に好適に用いられる。
【0122】
摺動部材:
自動車関連分野では、ピストンリング、シャフトシール、バルブステムシール、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、オイルシールなどが挙げられる。
一般に、他材と接触して摺動を行う部位に用いられるフッ素ゴム製品が挙げられる。
【0123】
非粘着性部材:
コンピュータ分野での、ハードディスククラッシュストッパーなどが挙げられる。
また、複写機、プリンタ分野でのロール部品などが挙げられる。
【0124】
撥水撥油性を利用する分野:
自動車のワイパーブレード、屋外テントの引き布などが挙げられる。
【実施例】
【0125】
次に本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0126】
本明細書における各種の特性については、次の方法で測定した。
【0127】
(1)架橋(加硫)特性
キュラストメーターII型(JSR(株)製)にて最低トルク(ML)、最高トルク(MH)、誘導時間(T10)及び最適加硫時間(T90)を測定した。
【0128】
(2)フッ素樹脂の−NH基の比
フッ素樹脂を室温にて圧縮成形し、厚さ1.5〜2.0mmのフィルムを作成した。フィルムの赤外吸収スペクトル分析によってピークの吸光度を測定した。なお、赤外吸収スペクトル分析は、Perkin−Elmer FTIRスペクトロメーター1760X(パーキンエルマー社製)を用いて40回スキャンして行った。得られたIRスペクトルをPerkin−Elmer Spectrum for Windows Ver.1.4Cにて自動でベースラインを判定させピークの吸光度を測定した。また、フィルムの厚さはマイクロメーターにて測定した。
フッ素樹脂は赤外線吸収スペクトルにおける主鎖のCH基に起因する2881cm−1での吸収ピークの高さに対する、末端NH基のNH結合に起因する3506cm−1での吸収ピークの高さの比(3506cm−1/2881cm−1)を求めた。
【0129】
(3)摩擦係数
レスカ社製フリクションプレーヤーFPR2000で、加重20g、回転モード、回転数60rpm、回転半径10mmで測定を行い、回転後5分以上経過した後、安定した際の摩擦係数を読み取り、その数値を動摩擦係数とした。
【0130】
(4)フッ素樹脂の面積占有率
キーエンス社製、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9700)を用いて、架橋フッ素ゴムシートの表面を測定し、凸部断面積を求め、断面積合計の値が、測定全領域面積に占める割合を面積占有率とした。
【0131】
用いた他の材料は以下の通りである。
<フッ素樹脂a>
エチレン/TFE/HFP/HP=46.1/36.5/17.0/0.4(モル%)、融点161℃、−OC(=O)OR末端
<フッ素樹脂b>
エチレン/TFE/HFP/HP=46.1/36.5/17.0/0.4(モル%)、融点161℃、アミド末端(−CONH)、
−NH基の比(3506cm−1/2881cm−1)=0.23
<フッ素樹脂c>
エチレン/TFE/HFP/HP=48.8/37.8/17.5/0.4(モル%)、融点192℃、−OC(=O)OR末端
<フッ素樹脂d>
エチレン/TFE/HFP/HP=48.8/37.8/17.5/0.4(モル%)、融点192℃、アミド末端(−CONH)、
−NH基の比(3506cm−1/2881cm−1)=0.20
<フッ素樹脂e>
エチレン/TFE/HFP/HP=46.1/36.5/17.0/0.4(モル%)、融点161℃、カルボキシル末端(−COOH)
なお、フッ素樹脂の組成は、いずれも、「TFE」はテトラフルオロエチレン、「HFP」はヘキサフルオロプロピレン、「HP」はHC=CF(CFHを表す。
【0132】
<フッ素ゴム>
ダイキン工業(株)製のダイエルG−7401
(ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、架橋剤(ビスフェノールAF)を含む)
<充填剤1>
カーボンブラック(Cancarb社製のMTカーボン:N990)
<受酸剤1>
酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製のMA150)
<受酸剤2>
水酸化カルシウム(近江化学工業(株)製のCALDIC2000)
【0133】
実施例1
3Lのニーダー内にフッ素ゴムとフッ素樹脂bの、充填率80%の量を投入し溶融混練した。材料温度が180℃に達した後、更に5分混練した後に、材料を取り出し、プレコンパウンドを調製した。
得られたプレコンパウンドを、8インチロール2本を備えたオープンロールに巻きつけ、充填剤1を1質量部、受酸剤1を3質量部、受酸剤2を6質量部添加し、20分混練した。得られた組成物を24時間冷却し、再度8インチロール2本を備えたオープンロールを用いて、30〜80℃でフルコンパウンドを調製した。
【0134】
得られたフルコンパウンドを、8インチオープンロールにより、3mm厚さの未加硫フッ素ゴムシートに成形した。
【0135】
この未架橋フッ素ゴムシートを、金型で160℃にて20分間プレス架橋し、厚さが2mmの架橋フッ素ゴムシートを得た。
得られた架橋フッ素ゴムシートについて、樹脂の面積占有率、摩擦係数を測定した。
【0136】
更に、得られた架橋フッ素ゴムシートを、250℃に維持された加熱炉中に24時間又は96時間放置して、熱処理を行った。
熱処理後の架橋フッ素ゴムシートについて、樹脂の面積占有率、及び、摩擦係数を同様に測定した。結果を表2に示した。
【0137】
実施例2〜4、比較例1〜5
フルコンパウンドの組成、混練温度、成形架橋条件を、表1に記載のとおりにした以外は、実施例1と同様にして、架橋フッ素ゴムシートを作製して、評価した。
なお、プレコンパウンドの調製時における溶融混練において、フッ素樹脂a、b、又はeを使用した場合は、材料温度が180℃に達した後、更に5分間混練した後に、材料を取り出した。フッ素樹脂c又はdを使用した場合は、材料温度が200℃に達した後、更に5分間混練した後に、材料を取り出した。
また、未架橋ゴムシートの成形架橋時、フッ素樹脂a、b、c、又はdを使用した場合は、160℃で20分間プレス架橋した。フッ素樹脂eを使用した場合は、160℃で40分間プレス架橋した。
【0138】
【表1】

【0139】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、低摩擦性に優れたフッ素ゴム成形品を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニリデンフルオライド単位を含むフッ素ゴム(A)、フッ素樹脂(B)、及び、架橋剤(C)を含み、
前記フッ素樹脂(B)は、エチレン単位及びテトラフルオロエチレン単位を含む共重合体からなり、主鎖末端に熱的に安定な基を有する
ことを特徴とする架橋性フッ素ゴム組成物。
【請求項2】
フッ素樹脂(B)は、更に、ヘキサフルオロプロピレン単位を含む請求項1記載の架橋性フッ素ゴム組成物。
【請求項3】
ビニリデンフルオライド単位を含むフッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)との質量割合(A)/(B)が、60/40〜97/3である請求項1又は2記載の架橋性フッ素ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の架橋性フッ素ゴム組成物を架橋して得られることを特徴とするフッ素ゴム成形品。
【請求項5】
フッ素樹脂(B)の面積占有率が5〜100%である請求項4記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項6】
シール材である請求項4又は5記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項7】
摺動部材である請求項4又は5記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項8】
非粘着性部材である請求項4又は5記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項9】
表面に撥水撥油性を有する請求項4又は5記載のフッ素ゴム成形品。

【公開番号】特開2013−56979(P2013−56979A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195257(P2011−195257)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】