説明

架橋性ラテックス

【課題】分散が安定であり、良好な耐水性および良好な耐アルコール性の双方を有する膜を製造することができ、または分散物が比較的低い温度で加熱することにより、もしくは比較的短時間加熱することにより、もしくはこれら双方により、有用な程度の架橋を達成することができる分散物を提供する。
【解決手段】(a)酸官能性モノマーもしくはアミン官能性モノマーまたはこれらの混合物から選択される1種以上の官能性モノマーの重合単位を、ポリマーの固形分重量を基準にして1重量%〜10重量%含む、1種以上の膜形成性ポリマーの分散された粒子;並びに(b)1分子あたり4つ以上のグリシジル基を有する、1種以上の多グリシジル化合物;を含む、安定な水性分散物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成性ポリマーの分散された粒子を含む安定な水性分散物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性媒体中で分散された粒子の形態で1種以上のポリマーを含む分散物を提供することが望まれる。この分散物が基体に適用されて、水が蒸発させられる場合に、その粒子が、良好な耐水性および良好な耐アルコール性を提供する凝集膜を形成することができるように設計されたこのような分散物を提供することも望まれる。過去においては、このような分散物を設計する試みは妨げられた、というのは、良好な耐水性または良好な耐アルコール性を有していた分散物が設計されることができたが、その両方を有していた分散物は設計できなかったからである。
【0003】
このような凝集膜が製造される場合に、最終膜中のポリマーが架橋されていることが望ましい。過去においては、このような架橋は、比較的長時間比較的高温で膜を加熱することを必要とした。
M.ラーチネン(Lahtinen)ら(Journal of Applied Polymer Science,第87巻、第4号、610〜615ページ、2003年)は、ラテックスポリマーが3重量%のアクリル酸を含み、グリシジル化合物が1分子あたり1、2または3つのグリシジル基を含む、ラテックスポリマーとグリシジル化合物との混合物を記載する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.ラーチネン(Lahtinen)ら(Journal of Applied Polymer Science,第87巻、第4号、610〜615ページ、2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下の利点の一以上を有する分散物を提供することが望まれる:分散物が安定である;分散物が、良好な耐水性および良好な耐アルコール性の双方を有する膜を製造することができる;または分散物が比較的低い温度で加熱することにより、もしくは比較的短時間加熱することにより、もしくはこれら双方により、有用な程度の架橋を達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態においては、
(a)酸官能性モノマーもしくはアミン官能性モノマーまたはこれらの混合物から選択される1種以上の官能性モノマーの重合単位を、ポリマーの固形分重量を基準にして1重量%〜10重量%含む、1種以上の膜形成性ポリマーの分散された粒子;並びに
(b)1分子あたり4つ以上のグリシジル基を有する、1種以上の多グリシジル化合物;
を含む、安定な水性分散物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において使用され、かつテキストブックオブポリマーサイエンス(Textbook of Polymer Science)第二版1971年においてFWビルメイヤー(Billmeyer),JR.によって定義される「ポリマー」は、より小さな化学繰り返し単位の反応生成物からなる相対的に大きな分子である。ポリマーは線状、分岐、スター形状、ループ、超分岐、架橋またはこれらの組み合わせである構造を有することができ;ポリマーは単一種類の繰り返し単位を有することができるか(ホモポリマー)、またはポリマーは2種類以上の繰り返し単位を有することができる(コポリマー)。コポリマーは、ランダムに、シーケンスで、ブロックで、他の配置で、またはこれらのいずれかの混合または組み合わせで配置される様々な種類の繰り返し単位を有することができる。
【0008】
化学反応を行い、ポリマー中で繰り返し単位の1つになることができる化合物は「モノマー」と称される。生じる繰り返し単位は、本明細書においては、そのモノマーの「重合単位」と称される。
【0009】
本明細書において使用される場合、「ビニル」ポリマーは、重合反応に関与する炭素−炭素二重結合を、モノマーのそれぞれが少なくとも1つ有するモノマーの重合により形成されるポリマーである。ビニルポリマーはホモポリマーまたはコポリマーであることができる。ビニルポリマーにおける繰り返し単位になることができるモノマーは「ビニルモノマー」と称される。
【0010】
本明細書において使用される場合、「(メタ)アクリル」とは、「アクリルまたはメタクリル」を意味し、「(メタ)アクリラート」とはアクリラートまたはメタクリラートを意味する。
【0011】
ポリマー分子量は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC、ゲル浸透クロマトグラフィー(すなわち、GPC)とも称される)のような標準的な方法によって測定されうる。一般的に、ポリマーは1,000以上の重量平均分子量(Mw)を有する。ポリマーは極端に高いMwを有することができ;あるポリマーは1,000,000を超えるMwを有し;典型的なポリマーは1,000,000以下のMwを有する。あるポリマーはMnすなわち数平均分子量によって特徴づけられる。
【0012】
あるポリマーは架橋され、架橋されたポリマーは無限大のMwを有すると見なされる。このような場合には、溶媒中でのその不溶性のせいで、サイズ排除クロマトグラフィーは行われることができず、そのポリマーはいわゆるゲル%試験によって特徴づけられる。本明細書において使用される場合、「ポリマーの重量」とは、ポリマーの乾燥重量を意味する。
【0013】
ポリマーを特徴づける方法の1つは、示差走査熱量測定によって測定されるガラス転移温度(Tg)である。
【0014】
本明細書において使用される場合、「分散物」は、1種以上の固体物質が液体物質の体積全体に分布させられている組成物である。分散物中の液体物質は、本明細書においては、液体「媒体」と称される。本明細書においては、液体媒体が液体媒体の重量を基準にして45重量%以上の水を含む場合には、分散物は「水性」であると見なされる。
【0015】
本明細書においては、分散物が攪拌せずに25℃で通常の重力下で24時間静置させられる場合に、固体粒子が一緒に集まらなければ、分散物は「安定」であると見なされる。不安定である分散物中の粒子は、容器の底に沈降することにより、または液体媒体の上面に浮かぶことにより、または液体媒体の体積中でのいずれか場所で凝集することにより、またはこれらの組み合わせによって一緒に集まる場合がある。容器の頂部または底で粒子が一緒に集まる場合には、相分離が目視されうる。また、容器は一定期間乱されないままで静置された後で容器を評価し、様々な特性(例えば、固形分、粒子サイズ、ゲル%および膨潤指数)を容器の頂部と容器の底で測定することにより不安定性は検出されることができ;頂部での測定値と底での測定値との間の有意な差は不安定性の表れである。
【0016】
本明細書においては、ポリマーが25℃で:そのポリマーの粒子の分散物が提供され、その分散物の層が基体上に配置され、そして液体媒体が蒸発させられた場合に、その結果、ポリマーの粒子が感知できる引っ張り強さを有する膜を提供するのに充分一緒に融合していた:という特性を有する場合には、ポリマーは「膜形成性」であると見なされる。膜形成性ポリマーであるという特性はそのポリマーに固有のものであり、そのポリマーが分散粒子、固体ブロックなどの何らかの具体的な物理形態で存在しているかどうかには関係がない。
【0017】
本明細書において使用される場合、「グリシジル化合物」は、化合物の分子が構造:
【化1】

を有するグリシジル基を1つ以上含む化合物である。
「多グリシジル化合物」は1分子あたり2つ以上のグリシジル基を含む化合物である。1分子あたり4つ以上のグリシジル基を含む化合物は、本明細書において、「スーパーテトラグリシジル化合物」と称される。グリシジル基の部分ではないグリシジル化合物の分子の部分は、本明細書においては、そのグリシジル化合物の「骨格」と称される。
【0018】
本明細書において使用される場合、「グリシジルエーテル」は、エーテル結合を介して骨格に結合された1つ以上のグリシジル基を含む化合物である。すなわち、グリシジルエーテル化合物は、構造:
【化2】

を含む。
【0019】
本明細書において使用される場合、化合物のpKaは、25℃の水中でのその化合物の酸解離定数の負の対数である。本明細書においては、化合物が7未満のpKaを有する場合には、化合物は酸性であると見なされる。
【0020】
本明細書において使用される場合、「酸官能性モノマー」は重合反応に関与する反応性基と、重合反応に関与する反応性基ではない、化合物を酸性にする不安定(labile)水素を有する基とを有する酸性化合物である。酸官能性ビニルモノマーは、ビニル重合反応に関与しうる炭素−炭素二重結合を有し、かつモノマー化合物に7未満のpKaを与える不安定水素を有する基も有する。
【0021】
本明細書において使用される場合、塩基性化合物はその共役酸が7を超えるpKaを有する化合物である。本明細書において使用される場合、「揮発性(fugitive)塩基」は、25℃および1気圧で標準の周囲大気に曝露される場合に蒸発する塩基性化合物である。
【0022】
本発明の組成物中のポリマーはあらゆる種類のポリマーであることができる。好適なポリマーには、例えば、ウレタンポリマー、ビニルポリマー、他の種類のポリマーおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0023】
ある実施形態においては、ビニルポリマーが使用される。ある好適なビニルモノマーには、例えば、芳香族ビニルモノマー、(メタ)アクリラートモノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和二酸、アルケン、炭化水素ジエン、非炭化水素多エチレン性不飽和モノマー、これらの置換体、およびこれらの混合物が挙げられる。ある実施形態においては、組成物中の全ての膜形成性ポリマーはビニルポリマーである。
【0024】
好適な芳香族ビニルモノマーには、例えば、スチレンおよび置換スチレン(例えば、アルファ−メチルスチレン、パラ−エチルスチレンおよびビニルトルエンなど)が挙げられる。
【0025】
好適な(メタ)アクリラートモノマーには、例えば、(メタ)アクリル酸、不飽和二酸、(メタ)アクリル酸のエステル((メタ)アクリラートエステルとも称される)、(メタ)アクリル酸のアミド、およびこれらの置換体が挙げられる。ある好適な(メタ)アクリル酸の置換エステルには、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリラートエステルおよびアミノアルキル(メタ)アクリラートエステルが挙げられる。
【0026】
好適な二酸には、例えば、フマル酸、イタコン酸およびマレイン酸が挙げられる。
好適なアルケンには、例えば、エチレンおよびプロピレンが挙げられる。ある置換アルケンには、例えば、酢酸ビニルが挙げられる。
好適な炭化水素ジエンには、例えば、4〜6コの炭素原子を有するジエンが挙げられる。好適なジエンには、例えば、ブタジエンおよびイソプレンが挙げられる。
好適な非炭化水素多エチレン性不飽和モノマーには、例えば、マレイン酸ジアリル、エチレングリコールジメタクリラートおよびメタクリル酸アリルが挙げられる。
【0027】
ある実施形態においては、1種以上の芳香族ビニルモノマーが使用される。ある実施形態においては、1種以上の置換もしくは非置換(メタ)アクリラートエステルが使用される。ある実施形態においては、1種以上のジエンが使用される。ある実施形態においては、1種以上のカルボキシル官能性モノマーが使用され、これは(メタ)アクリル酸および不飽和二酸から選択される。ある実施形態においては、アクリル酸およびメタクリル酸の一方または双方、並びにスチレンが、場合によっては、1種以上の追加のモノマーと共に使用される。ある実施形態においては、使用されるモノマーは、スチレン、1種以上の非置換(メタ)アクリラートエステル、アクリル酸およびメタクリル酸の一方もしくは双方、並びに場合によっては1種以上の追加のモノマーを含む。
【0028】
置換もしくは非置換アルキル(メタ)アクリラートエステルが使用されるある実施形態においては、アルキル基は1〜18個の炭素原子を有する。ある実施形態においては、そのアルキル基は8個以下の炭素原子、または好ましくは6個以下の炭素原子を有する。ある実施形態においては、そのアルキル基は非置換である。
【0029】
ビニルポリマーが使用されるある実施形態においては、使用されるビニルモノマーは、得られるビニルポリマーが所望の範囲のTgを有するように、フォックス(Fox)式を用いて選択されうる。例えば、ある実施形態においては、ビニル芳香族モノマーは1種以上のジエンと、もしくは1種以上の非置換アルキル(メタ)アクリラートモノマーと、またはこれらの組み合わせと共重合され、各モノマーの具体的なモノマーおよび具体的な量は、フォックス式に従って、得られるポリマーが所望の範囲内のTgを有するであろう様に選択される。
【0030】
1種以上の芳香族ビニルモノマーが使用される実施形態においては、全てのビニル芳香族モノマーの合計量は、ポリマーの全乾燥重量を基準にして10重量%〜90重量%である。1種以上のジエンが使用される実施形態においては、全てのジエンの合計量は、ポリマーの全乾燥重量を基準にして10重量%〜90重量%である。1種以上の非置換アルキル(メタ)アクリラートエステルが使用される実施形態においては、全ての非置換アルキル(メタ)アクリラートエステルの合計量は、ポリマーの全乾燥重量を基準にして10重量%〜90重量%である。
【0031】
1種以上の酸官能性モノマーが使用される実施形態においては、全酸官能性モノマーの合計量は、ポリマーの全乾燥重量を基準にして1重量%〜10重量%である。
【0032】
ある実施形態においては、メチロールアミド基を有しないポリマーが使用される。
ある実施形態においては、追加の官能基を有しないポリマーが使用される。本明細書において使用される場合、「追加の官能基」はカルボキシル基、エステル結合およびアミン基以外の、架橋形成可能な何らかの化学基である。ある実施形態においては、追加の官能基を有さずかつアミン基を有しないポリマーが使用される。
【0033】
本発明の実施において、膜形成性ポリマーであるポリマーが使用される。ある実施形態においては、35℃以下、または22℃以下のTgを有するポリマーが使用される。ある実施形態においては、−25℃以上;または−10℃以上;または5℃以上のTgを有するポリマーが使用される。
【0034】
本発明の実施において、水性媒体中に分散された粒子として1種以上のポリマーが存在する。ある実施形態においては、この水性媒体は、水を、水性媒体の重量を基準にして45重量%以上;または50重量%以上;または75重量%以上;または90重量%以上の量で含む。
【0035】
全組成物の重量を基準にしたパーセンテージとして表されるポリマーの乾燥重量として本明細書において定義される「ポリマー固形分」で、組成物を特徴づけることが場合によっては有用である。ある実施形態においては、本発明の組成物は10%以上の;または20%以上の;または40%以上のポリマー固形分を有する。独立して、ある実施形態においては、本発明の組成物は60%以下のポリマー固形分を有する。
【0036】
ある実施形態においては、水性媒体中のポリマーの分散された粒子は30ナノメートルから5マイクロメートルの粒子サイズ中央値を有する。ある実施形態においては、ポリマーの分散された粒子は50ナノメートル以上;または100ナノメートル以上の粒子サイズ中央値を有する。ある実施形態においては、ポリマーの分散された粒子は1マイクロメートル以下;または500ナノメートル以下の粒子サイズ中央値を有する。
【0037】
ある実施形態においては、水性分散物は7.5以上のpHを有する。このような実施形態のいくつかにおいては、水性分散物は1種以上の水可溶性揮発性塩基を含む。このような分散物が基体に適用された場合には、水が蒸発させられ、水の蒸発が進むにつれて、揮発性塩基も蒸発が進み、そして基体上に残った分散物の残留物中の状態は酸性になる。
【0038】
膜形成性ポリマーのある好適な水性分散物は7未満のpHで存在する。ある実施形態においては、1種以上の塩基性化合物がそのような分散物に添加されて、pHを7.5以上に上昇させる。このような実施形態のいくつかにおいては、1種以上の揮発性塩基が添加される。このような実施形態のいくつかにおいて、揮発性塩基の量および不揮発性塩基性化合物の量は、揮発性塩基が存在しなくなった場合に、分散物のpHが7未満になるであるように調節される。
【0039】
ある好適な揮発性塩基は、1気圧で20℃未満、または0℃未満の沸点を有する。ある好適な揮発性塩基は、例えば、アンモニア、メチルアミン、他のアルキルアミンおよびこれらの混合物である。ある実施形態においては、アンモニアが使用される。
【0040】
ある実施形態においては、膜形成性ポリマーの粒子の好適な水性分散物は水性乳化重合のプロセスによって製造される。このような実施形態のいくつかにおいては、重合は7未満のpHで行われ、得られるポリマー粒子の安定な分散物は7未満のpHを有する。このような実施形態のいくつかにおいては、1種以上の揮発性塩基が分散物に添加されて、pHを7.5以上にする。
【0041】
本発明の組成物は1種以上のスーパーテトラグリシジル化合物を含む。ある実施形態においては、グリシジルエーテルでもある1種以上のスーパーテトラグリシジル化合物が使用される。このような実施形態のいくつかにおいては、全てのグリシジル化合物がエーテル結合を介して骨格に結合されている1種以上のスーパーテトラグリシジル化合物が使用される。
【0042】
ある実施形態においては、本発明の組成物は、3つ以下のグリシジル基を有する多グリシジル化合物を含まない。
ある実施形態においては、エポキシド環以外の環状構造を有しない、1種以上のスーパーテトラグリシジル化合物が使用される。ある実施形態においては、使用される全てのスーパーテトラグリシジル化合物はエポキシド環以外の環状構造を有しない。
【0043】
好適なスーパーテトラグリシジル化合物の2つの例は、式:
【化3】

を有する、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、および式:
【化4】

(式中、nは3である)を有するポリグリセロール3−ポリグリシジルエーテルである。好適なスーパーテトラグリシジル化合物の他の例は、nが2であるかまたはnが3より大きい、ポリグリセロール−3−ポリグリシジルエーテルの類似体である。
【0044】
ある実施形態においては、アミノ基、カルボキシル基、表面活性官能基(すなわち、疎水性基および親水性基の双方)、またはこれらの組み合わせを追加的に有するスーパーテトラグリシジル化合物が使用される。ある実施形態においては、アミノ基、カルボキシル基または表面活性官能基のいずれかを有するスーパーテトラグリシジル化合物は使用されない。
【0045】
ある実施形態においては、全てのスーパーテトラグリシジル化合物の量は、ポリマーの乾燥重量を基準にして、0.1重量%〜20重量%である。ある実施形態においては、全てのスーパーテトラグリシジル化合物の量は、ポリマーの乾燥重量を基準にした重量パーセントで、0.2%以上;または0.5%以上である。ある実施形態においては、全てのスーパーテトラグリシジル化合物の量は、ポリマーの乾燥重量を基準にした重量パーセントで、15%以下;または10%以下である。
【0046】
ある実施形態においては、2,000以下;または1,000以下;または600以下の分子量を有するスーパーテトラグリシジル化合物が使用される。ある実施形態においては、組成物中の全てのスーパーテトラグリシジル化合物は1,000以下の分子量を有する。ある実施形態においては、置換または非置換(メタ)アクリラートモノマーの1種以上の重合単位を含むポリマーではないスーパーテトラグリシジル化合物が使用される。
【0047】
ある実施形態においては、組成物は、本発明の分散された粒子中のポリマー鎖と架橋を形成することができ、かつケイ素原子を有する化合物を含まない。ある実施形態においては、組成物は、本発明の分散された粒子中のポリマー鎖と架橋を形成することができ、かつ窒素原子を有する化合物を含まない。ある実施形態においては、組成物は、本発明の分散された粒子中のポリマー鎖と架橋を形成することができ、かつ多グリシジル化合物ではない化合物を含まない。ある実施形態においては、組成物はカルボジイミド化合物を含まない。ある実施形態においては、組成物は、本発明の分散された粒子中のポリマー鎖と架橋を形成することができ、かつスーパーテトラグリシジル化合物ではない化合物を含まない。
【0048】
本発明の組成物は安定な分散物である。ある実施形態においては、安定な分散物は全ての成分の混合物を高速乳化にかけることを含むプロセスによって製造される。高速乳化の可能な装置の一例は、顔料分散物を製造することができるローター/スターターミキサーである。このような回転ディスク分散機のいくつかにおいては、周速は1,000cm/秒以上である。このような回転ディスク分散機のいくつかにおいては、ディスクは1分間あたり4,000回転以上で回転する。高速乳化に使用されることもできる他のアプローチには、例えば、ホモジナイザー、乳化剤、超音波装置、インライン乳化剤、および他の好適な装置の要素を組み合わせている装置が挙げられる。あらゆる好適な高速乳化装置が、好適な回転ディスク分散機によって生じる乳化効果に等しい乳化効果を有しうることが意図される。
【0049】
ある実施形態においては、本発明の分散物は基体に適用される。ある実施形態においては、このように適用された分散物は、例えば、基体の表面上に層を形成することができる。別の実施形態においては、このように適用された分散物は、基体の本体にある孔に、基体の本体を貫通して、または基体の厚み未満の幾分かの深さまで移動することができる。分散物が、基体の本体の孔に、基体の厚みの半分を超える深さまで移動する場合には、分散物を基体に適用するプロセスは、本明細書においては、基体を「飽和する」と称される。
【0050】
好適な基体は多孔質である。ある好適な多孔質の基体は繊維から製造される。繊維から製造される好適な基体は、例えば、木材、紙、織布、不織布、他の繊維基体およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0051】
ある実施形態においては、本発明の分散物が基体に適用された後で、ポリマーの別々の粒子が融合して、もはや別個の粒子ではないポリマー塊を形成する。本発明は理論に拘束されるわけではないが、水の蒸発中および/または蒸発後に、1つの粒子中のポリマー鎖が広がり、隣の粒子中のポリマー鎖の間に結びつくことが意図される。融合のプロセスはある実施形態においては、部分的である場合があり、その結果、粒子間の境界の幾分かの影響が残る。別の実施形態においては、融合は広範囲におよぶ場合があり、その結果、粒子境界からの影響を残すことなく、ポリマー塊は単一の凝集塊として挙動する。
【0052】
ある実施形態においては、本発明の分散物が基体に適用された後、ポリマーは架橋を受ける。架橋は基体の適用後のどの時点でも起こりうる。架橋は水の蒸発の前に、水の蒸発中に、水の蒸発後に、またはこれらのいずれかの組み合わせで起こりうる。ある実施形態においては、1つのスーパーテトラグリシジル化合物上の2つのグリシジル基が、異なるポリマー鎖に結合したまたは同じポリマー鎖に結合した2つの官能基(アミン基または酸基)と反応する場合には、ポリマー鎖上の部位間の架橋が構築される。本発明は理論に拘束されるものではないが、スーパーテトラグリシジル化合物に関連する架橋反応が酸条件によって触媒されることが意図される。次いで、pHが7.5を超える場合には分散物中で架橋反応は妨げられるが、分散物が基体に適用され、水が蒸発し、pHが7未満に下がる場合に架橋反応が進行する。
【0053】
架橋が起こる実施形態においては、架橋はポリマー粒子の融合前に、ポリマー粒子の融合中に、ポリマー粒子の融合後に、またはこれらのいずれかの組み合わせで起こる場合がある。本発明は理論に拘束されるものではないが、ポリマー粒子の広範囲の融合およびポリマーの塊全体にわたるポリマー鎖の広範囲の架橋の双方を有することが望ましいことが意図される。
【0054】
ある実施形態においては、任意の酸が組成物中に含まれうる。このような酸は架橋プロセス中に触媒として機能し得たことが意図される。ある実施形態においては、このような酸は6未満のpKaを有する。ある実施形態においては、p−トルエンスルホン酸が含まれる。このような酸が含まれる場合には、その量は、組成物中のポリマーの乾燥重量100部あたりの酸の重量で、0.05部以上;または0.1部以上である。このような酸が含まれるいくつかの実施形態においては、その量は、組成物中のポリマーの乾燥重量100部あたりの酸の重量で、2部以下;または1部以下である。別の実施形態においては、このような任意の酸は含まれない。
【0055】
ある実施形態においては、基体への適用後に、組成物は150℃以下で120分間以下の間加熱される。ある実施形態においては、基体への適用後に、組成物は140℃以下で110分間以下の間加熱される。ある実施形態においては、基体への適用後に、組成物は110℃以下で40分間以下の間加熱される。
【0056】
他の化合物(すなわち、本明細書で上述されたポリマー、グリシジル化合物および任意の酸とは異なる化合物)が場合によっては、本発明の組成物に含まれることができる。このような何らかの他の化合物は組成物に入れられうる、というのは、それらは必要とされる成分から除くのが不都合だからである。例えば、水性乳化重合によって製造されたポリマー粒子が使用される場合には、ポリマー粒子の分散物は重合プロセスから残される化合物、例えば、界面活性剤および開始剤フラグメントなどを含みうる。例えば、以下の1種以上のような他の化合物が使用されうる:界面活性剤、湿潤剤、消泡剤、顔料、分散剤、触媒、膜非形成性樹脂およびこれらの混合物。
【0057】
ある実施形態においては、エポキシ官能性界面活性剤が使用される。このような実施形態のいくつかにおいては、エポキシ官能性界面活性剤、スーパーテトラグリシジル化合物および水が一緒に混合され、高速乳化にかけられて逆エマルションを生じさせる。逆エマルションは、次いで、ポリマー粒子の分散物と混合されることができる。別の実施形態においては、エポキシ官能性界面活性剤は使用されない。
【0058】
ある実施形態においては、水可溶性エポキシ樹脂架橋剤が使用され、これはその水溶解度特性のせいで穏やかな混合下で水性ポリマー分散物に添加される。
【0059】
本明細書および請求の範囲の目的のために、本明細書において開示されたそれぞれの操作は、他に特定されない限りは、25℃で行われるものと理解される。
【実施例】
【0060】
以下の実施例において、以下の定義および略語が使用される。
ラテックスポリマー#1(L1)は水性乳化重合によって製造され、18℃のTgを有するポリマーである。ラテックスポリマー#1は次のプロファイルに適合する:
30重量%〜70重量%のビニル芳香族モノマー;
30重量%〜70重量%の(メタ)アクリル酸のエステル;
2重量%〜7重量%の(メタ)アクリル酸。
【0061】
ラテックスポリマー#2(L2)は、L2が4%のメタクリル酸および2.5%のアクリル酸を有していたことを除いて、L1に類似していた。
ラテックスポリマー#3(L3)は、モノマー選択が28℃のTgに到達するように調節され、ポリマーサイズが160ナノメートルであったことを除いて、L1に類似していた。
ラテックスポリマー#4(L4)は、モノマー選択が26℃のTgに到達するように調節され、モノマーが1%のメタクリル酸および0.2%のメタクリル酸アリルを含んでいたことを除いて、L1に類似していた。
ラテックスポリマー#5(L5)は、モノマー選択が16℃のTgに到達するように調節され、モノマーが0.5%のメタクリル酸アリルを含んでいたことを除いて、L1に類似していた。
ラテックスポリマー#6(L6)は2相組成物であった。これら相のそれぞれはL1に類似していた。L6の固形分重量に基づいて70固形分重量%である第1の相は、32℃のTgを有し、2.5%のメタクリル酸を含んでいた。L6の固形分重量に基づいて30固形分重量%である第2の相は第1の相の存在下で重合され、15℃のTgを有し、1%のアクリル酸を含んでいた。
ラテックスポリマー#7(L7)は2相組成物であった。これら相のそれぞれはL1に類似していた。L7の固形分重量に基づいて70固形分重量%である第1の相は、32℃のTgを有し、2.25%のメタクリル酸および0.2%のメタクリル酸アリルを含んでいた。L7の固形分重量に基づいて30固形分重量%である第2の相は第1の相の存在下で重合され、17℃のTgを有し、1.5%のアクリル酸を含んでいた。
【0062】
【表1】

【0063】
逆分散物(ID)の製造:グリシジルエーテルおよびエポキシ官能性界面活性剤が金属ビーカーに入れられて、2000rpmで5分間攪拌された。脱イオン水が一度に2g添加された。2gの水の各添加後に、混合物の液滴が、脱イオン水を収容するアルミニウム皿に引き落とされた。液滴は水中で直ちに広がり、このプロセスは停止される。
【0064】
ゲル%試験:水性ポリマー分散物は400マイクロメートルの湿潤厚みでポリエチレンテレフタラート(PET)マイラーホイル上に適用される。ラテックス膜を50℃で30分間乾燥し、必要に応じて100または130℃で硬化させた後、少量のラテックス膜(当初膜重量)がトルエン(この場合に使用された溶媒)中で24時間置かれる。溶解していない膨潤したポリマーがナイロンスクリーン上にろ別され、秤量される(膨潤ポリマー重量)。次いで、それは130℃で3時間乾燥させられる。溶解しなかったポリマーを乾燥させた後、重量が測定された(最終乾燥膜重量)。ゲル%は次のように計算される:
100×(最終乾燥膜重量)/(当初膜重量)
【0065】
膨潤指数(SWI)試験:膨潤指数は次のように計算される:
[(膨潤ポリマー重量)−(最終乾燥ポリマー重量)]/(最終乾燥膜重量)
【0066】
膜製造:水性分散物が、400マイクロメートルまたは600マイクロメートルの厚みでポリエチレンテレフタラートマーラーホイルに適用された。膜は50℃で20分間乾燥させられた。乾燥した膜は、次いで、再び、換気オーブン内で30分間80℃または130℃で加熱された。膜は次いで、20℃、湿度50%の室内で24時間から3日間平衡化された。さらなる加熱を受けなかったサンプルは本明細書において「30/80」サンプルと示される。いくつかのサンプルは150℃で60分間のさらなる熱処理を受けた;これらは「60/150」と示される。
【0067】
固形分%は、水性分散物のサンプルを採取し、それを秤量し(湿潤重量)、次いで、それを130℃で1時間乾燥させ、次いでそれを再び秤量した(乾燥重量)。
固形分%は:
100×(乾燥重量)/(湿潤重量)
である。
【0068】
可とう性評定(Flex):膜は手で試験され、可とう性は以下のスケールで判断された:1=柔らかい;2=可とう性;3=少し固い;4=固くなってきている;5=固い;6=より固い。
【0069】
膜は目視で観察され(Vis)、以下のスケールで判断された:1=透明;2=わずかに黄色;3=黄色;4=かなり黄色;5=黄色かつ不透明;6非常に強い黄色かつ不透明。
【0070】
膜の耐溶媒性は、脱脂綿片を溶媒で飽和させ、それを膜上に配置し、それをガラス皿で覆って蒸発を妨げた。一定期間後に、膜は観察され、次のように評定された:
1=全体的に白色または破壊;
2=異なる色および光沢、おそらくは白化を伴う;
3=光沢または色の損失、目に見える白色の陰;
4=光沢のわずかな損失(いくつかの角度からのみ見える)
5=膜上の目に見える影響なし。
【0071】
引っ張り強さは75mm長さ、10mm幅で中央部分の幅5mmの膜サンプルについて試験された。穴開け機はNAEF22/028であった。引っ張り試験はASTM D2370−92に従って、ハウンドフィールド(Houndfield)5000伸長測定器を用いて、クロスヘッド速度100mm/分で行われた。
【0072】
実施例1:サンプルC1〜28
サンプルは次のように製造され試験された。示された量は固体物質の重量部である。頭に「C」が付いているサンプル番号は比較サンプルを示す。「n」で示される結果はその試験が行われなかったことを意味する。
【0073】
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【0074】
R16またはR9のグリシジルエーテル架橋剤を使用するサンプルは、水可溶性エポキシ樹脂架橋剤を使用するサンプルと比較して、より高いゲル%を示した。
R11の、分子あたり2つのグリシジル基を有するグリシジルエーテル架橋剤を使用するサンプルは、水可溶性エポキシ樹脂架橋剤を使用するサンプルと比較して、わずかに高いゲル%しか示さなかった。
R11の、分子あたり2つのグリシジル基を有する架橋剤を使用するサンプルは、他のR16およびR9のスーパーテトラグリシジルエーテル架橋剤と比較して、劣ったゲル%を示した。
【0075】
実施例2:サンプル(C)29〜33
ガラスビーカー中で、磁気攪拌機を使用して混合しつつ、架橋剤を水性ポリマー分散物に添加することにより、「穏やかな」混合が行われた。
高剪断混合(H.S.)は、金属ビーカー内で、高速ローター/ステーターミキサー(ライネリ−グループ(Rayneri−Group)VMIターボテスト(Turbotest)タイプ33−300、電力300W、0〜3300rpmが可能)を使用して、高速(2000rpm超)で混合しつつ、水性ポリマー分散物を架橋剤に滴下添加することにより行われた。
膜は105℃で30分間乾燥させられた。ゲル%およびSWIはトルエンを用いて400マイクロメートルの厚みの膜について測定された。引っ張りおよび耐溶媒性試験についての膜は600マイクロメートルの厚みであった。膜はさらに130℃で30分間硬化させられ、引っ張りおよび耐溶媒性試験の前に少なくとも3日間制御された湿度および温度の部屋で貯蔵された。
【0076】
【表6】

【0077】
架橋剤を有する全てのサンプルは許容できる特性を有していた。R9を使用するサンプルはR9Dを使用するサンプルのよりも良好な全体的な耐溶媒性を有していた。
【0078】
サンプルC34〜39
サンプルC35およびC36は高剪断混合を用いて混合された。サンプルC37〜C39は、架橋剤が水分散可能なので、穏やかな混合で混合された。試験はサンプルC29〜33におけるように行われた。
【0079】
【表7】

【0080】
グリシジルエーテル架橋剤を使用するサンプルのみが良好な耐エタノール性および良好な耐水性を示した。
【0081】
サンプルC40〜46
サンプルは高剪断混合で混合された。耐溶媒性はサンプルC29〜33におけるように行われた。ゲル%、TgおよびSWI試験は、架橋剤の添加なしにキャストされたラテックス膜から製造された膜について行われた(「nXL」は架橋されていないサンプルについて行われた試験を示す)。
【0082】
【表8】

【0083】
サンプル47
サンプル47はR−9(3重量部)を伴い高速で混合されたラテックスポリマーL1(乾燥重量で100部)を含んでいる。サンプル47は室温で(約20℃)86日間乱すことなく貯蔵された。サンプルは容器の頂部から、容器の底から、および完全な均一化を確実にするためにサンプルが激しく再混合された後のサンプルから取り出された。結果は次の通りであった:
【0084】
【表9】

【0085】
実施例47のもう一つのものが乱されることなく室温で貯蔵され、次のように試験された:
【0086】
【表10】

【0087】
実施例47は安定な分散物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸官能性モノマー、アミン官能性モノマーおよびこれらの混合物から選択される1種以上の官能性モノマーの重合単位を、ポリマーの固形分重量を基準にして1重量%〜10重量%含む、1種以上の膜形成性ポリマーの分散された粒子;並びに
(b)1分子あたり4つ以上のグリシジル基を有する、1種以上の多グリシジル化合物;
を含む、安定な水性分散物。
【請求項2】
前記ポリマーがビニルポリマーである、請求項1に記載の水性分散物。
【請求項3】
前記官能性モノマーが1種以上の酸官能性モノマーを含む、請求項1に記載の水性分散物。
【請求項4】
1種以上の揮発性塩基の添加により、前記分散物のpHを7未満の値から7.5を超える値にする工程を含む方法によって前記分散物が製造された、請求項1に記載の水性分散物。
【請求項5】
前記分散物の全ての成分の混合物を高速乳化にかける工程を含む方法によって前記分散物が製造された、請求項1に記載の水性分散物。
【請求項6】
請求項1の組成物で多孔質基体を飽和させることを含む、飽和した多孔質基体を製造する方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法を含み、かつ前記分散物を架橋することまたは前記分散物が架橋するのを可能にすることをさらに含むプロセスによって製造された飽和した多孔質基体。

【公開番号】特開2011−116980(P2011−116980A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−249560(P2010−249560)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】