説明

架橋性樹脂組成物

【課題】 優れた電気特性、耐熱性および密着性を有する架橋樹脂および架橋樹脂複合体を得ることができる、成形性に優れる架橋性樹脂組成物およびその用途を提供する。
【解決手段】 少なくとも一つの分子鎖末端に炭素−炭素不飽和結合を有する末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂と、非極性ラジカル発生剤とを含む架橋性樹脂組成物および架橋性樹脂複合体、ならびにこれらを架橋してなる架橋樹脂および架橋樹脂複合体を用いる。これらの架橋樹脂および架橋樹脂複合体は、電気回路基板に使用する電気材料等として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性樹脂組成物およびその用途に関する。より詳しくは、優れた電気特性、耐熱性および密着性を有する架橋樹脂および架橋樹脂複合体を得ることができる、成形性に優れる架橋性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通信の高速化、高周波化に伴って、通信回路基板やアンテナ基板等の絶縁基板およびプリント配線板には、今まで以上に電気特性に優れた絶縁材料が求められている。誘電正接が小さく電気特性に優れる絶縁材料として、ポリフェニレンエーテル樹脂およびそれを架橋してなる架橋樹脂が用いられている。例えば、特許文献1には、基材にポリフェニレンエーテル樹脂が含浸されたプリプレグの製造方法が開示されている。しかしこのプリプレグは成形性に劣る場合があった。また、該プリプレグを架橋して得られる架橋樹脂は、耐熱性、密着性および電気特性が不十分な場合があった。
【0003】
成形性に優れる樹脂組成物として、特許文献2には、特定の数平均分子量を有するポリフェニレンエーテル樹脂を含む樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3には、末端をメタクリロイル基などで封鎖したポリフェニレンエーテル樹脂を含む樹脂組成物が開示されている。しかしこれらの樹脂組成物を用いて得られる架橋樹脂は、電気特性が不十分であった。
【0004】
特許文献4には、ジイソプロピルベンゼンオリゴマーを硬化剤として含むポリフェニレンエーテル樹脂組成物が開示されている。さらに、かかる組成物を用いると、ポリフェニレンエーテル樹脂を効率よく硬化し、架橋樹脂を得られる旨が記載されている。しかしこの製造方法により得られる架橋樹脂は、耐熱性や密着性が不足する場合があった。また、電気特性も十分ではない場合があった。
【0005】
【特許文献1】特開平8−259712号公報
【特許文献2】特開2002−265777号公報
【特許文献3】特表2003−515642号公報
【特許文献4】特開2000−336108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた電気特性、耐熱性および密着性を有する架橋樹脂および架橋樹脂複合体を得ることができる、成形性に優れる架橋性樹脂組成物およびその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、少なくとも一つの分子鎖末端に炭素−炭素不飽和結合を有するを有する末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂、および非極性ラジカル発生剤を含む架橋性樹脂組成物を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに到った。
【0008】
かくして本発明によれば、下記[1]〜[15]が提供される。
[1]少なくとも一つの分子鎖末端に炭素−炭素不飽和結合を有する末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂、および非極性ラジカル発生剤を含む架橋性樹脂組成物。
[2]前記炭素−炭素不飽和結合が共役系を形成していることを特徴とする[1]記載の架橋性樹脂組成物。
[3]前記末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂が下記式(1)で表される繰り返し単位を90重量%以上含有することを特徴とする[1]または[2]記載の架橋性樹脂組成物。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、もしくはハロアルキル基を表す。)
【0011】
[4]前記非極性ラジカル発生剤が下記式(4)の構造を有する炭化水素化合物である[1]〜[3]のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R、R、R、R'、R'、及びR'は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表す。)
【0014】
[5]前記非極性ラジカル発生剤が下記式(5)の構造を有する炭化水素化合物である[1]〜[3]のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物。
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Rは、芳香族炭化水素基、Rは、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
【0017】
[6]前記非極性ラジカル発生剤は、1分間半減期温度が150℃〜350℃である[1]〜[5]のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物。
[7]さらに架橋性化合物を含む[1]〜[6]のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物。
[8]前記末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂の数平均分子量が2,000〜15,000である[1]〜[7]のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物。
【0018】
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物を支持体に塗布または含浸してなる、架橋性樹脂複合体。
[10][1]〜[8]のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物を架橋してなる架橋樹脂。
[11][1]〜[8]のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物を支持体上で架橋してなる架橋樹脂複合体。
[12][9]に記載の架橋性樹脂複合体を架橋してなる架橋樹脂複合体。
[13]前記架橋を別の支持体上で行ってなる[11]に記載の架橋樹脂複合体。
[14][1]〜[8]のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物のワニスを支持体に塗布または含浸し、乾燥する工程を含む、架橋性樹脂複合体の製造方法。
[15][1]〜[8]のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物を架橋する工程を含む架橋樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の架橋性樹脂組成物は成形性に優れ、これを架橋することで、優れた電気特性、耐熱性および密着性を有する架橋樹脂および架橋樹脂複合体を得ることができる。本発明の架橋樹脂および架橋樹脂複合体は、電気回路基板に使用する電気材料等として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂)
本発明の架橋性樹脂組成物は、少なくとも一つの分子鎖末端に不飽和炭化水素基を有する末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂、および非極性ラジカル発生剤を含む。本発明に用いられる末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、置換基を有していてもよいフェニレンオキシ基が1,4−結合してなる繰り返し単位を有する重合体である。かかる繰り返し単位は、下記式(1)で表される。
【0021】
【化4】

【0022】
式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、もしくはハロアルキル基を表す。中でも、RおよびRはアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。RおよびRは水素原子であることが好ましい。
【0023】
末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂中における式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。本発明に用いられる末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を有していてもよい。かかる繰り返し単位は、二価の有機基であれば特に限定されない。具体的には、アルキレン基、アリーレン基および酸素原子などが挙げられる。
【0024】
末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、これらの繰り返し単位から形成される直鎖状の重合体であってもよいが、かかる重合体が複数結合した構造を有する分岐鎖状の重合体であってもよい。
【0025】
本発明に用いられる末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、少なくとも一つの分子鎖末端に炭素−炭素不飽和結合を有する。末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、全分子鎖末端中、80%以上に炭素−炭素不飽和結合を有することが好ましく、90%以上の分子鎖末端に炭素−炭素不飽和結合を有することが特に好ましい。
【0026】
本発明において、「分子鎖末端に炭素−炭素不飽和結合を有する」とは、分子鎖末端の前記式(1)で表される繰り返し単位において、1位(すなわち、酸素原子)もしくは4位に直接、または他の二価の有機基を介して、ビニル基;またはエチニル基;が存在することを表す。かかる基としては、ビニル基が高い架橋反応性を有するため好ましい。架橋することにより架橋後の分子量が上がり、ガラス転移点が上昇し耐熱性等が向上する。
【0027】
また、炭素−炭素不飽和結合は、共役系を形成していることが好ましい。ここで、共役系を形成するとは、該炭素−炭素不飽和結合と他の不飽和結合とが単結合を間に1個はさんで存在することをいう。ここで他の不飽和結合としては、炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、芳香環などが挙げられ、炭素−炭素二重結合および芳香環が好ましい。
【0028】
未変性のポリフェニレンエーテル樹脂の分子鎖末端を変性して不飽和炭化水素基を導入する方法としては、未変性のポリフェニレンエーテル樹脂に、塩基性の水酸化物の存在下、炭素−炭素不飽和結合を有するハロゲン化炭化水素化合物を反応させる方法が挙げられる。塩基性の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化テトラアルキルアンモニウムが挙げられる。炭素−炭素不飽和結合を有するハロゲン化炭化水素化合物としては、例えば、p−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、p−ブロモメチルスチレン、m−ブロモメチルスチレン、および臭化アリル等が挙げられる。また、反応を促進するためにテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩を相間移動触媒として使用しても良い。反応条件は特に限定されないが、反応温度は通常30〜100℃、反応時間は通常0.5〜20時間である。末端を変性することでポリフェニレンエーテル樹脂中の極性構造が減少するので、これを用いて得られる架橋樹脂は電気特性に優れる。
【0029】
本発明に用いられる末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される、標準ポリスチレン換算の数平均分子量で、好ましくは2,000〜15,000、より好ましくは2,000〜10,000である。数平均分子量がこの範囲であると、樹脂の流動性と耐熱性が共に優れた樹脂を製造することが可能になる。
【0030】
(未変性のポリフェニレンエーテル樹脂の製造法)
末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂の前駆体として用いられる、未変性のポリフェニレンエーテル樹脂の製造法は、公知の方法をいずれも採用することができ、特に限定されないが、酸化重合法が好ましい。酸化重合法は、式(2)で表される1価のフェノールおよび/または式(3)で表される2価のフェノールを触媒の存在下に酸化重合する方法である。酸化重合法によれば、上記の分子量範囲のポリフェニレンエーテル樹脂を容易に得ることができる。酸化の方法としては、直接酸素ガスもしくは空気を使用する方法、または電極酸化の方法が挙げられる。
【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
式(2)および式(3)中、R〜Rは式(1)と同様の意味を表す。また、式(3)中、R’1〜R’4はそれぞれ式(1)のR〜Rと同様の意味を表す。
【0034】
酸素ガスまたは空気を用いて酸化重合をする場合の触媒としては、銅塩とアミン類を組み合わせた触媒が用いられる。銅塩としては、CuCl、CuBr、CuSO、CuCl、CuBr、CuSO、CuI等が挙げられる。アミン類としては、ピリジン、メチルピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、ポリ−4−ビニルピリジン、ピペリジン、モルホリン、トリエタノールアミン、n−ブチルアミン、オクチルアミン、ジブチルアミン、N,N−ジメチル−n−ヘキシルアミン、N,N−ジメチル−n−ブチルアミン、トリエチルアミン、(N,N−ジ−tert−ブチル)エチレンジアミン2−アミノエタンチオール、2−メルカプト−1−エタノール、1,2−ジメルカプト−4−メチルベンゼン等が挙げられる。
【0035】
重合において使用される溶媒は特に限定はなく、重合反応の温度についても限定はないが、0〜50℃で行うことが好ましい。
【0036】
高分子量のポリフェニレンエーテル樹脂は、The Journal of Organic Chemistry, 1969年, 第34巻, 297頁などに開示される再分配反応により分子量を低減させ、上記の分子量範囲として用いることもできる。再分配反応は、ポリフェニレンエーテル樹脂に、ラジカル開始剤の存在下にフェノール類を反応させることにより分子量を低減させる方法である。
【0037】
再分配反応に用いるフェノール類としては、フェノール、o−ブロモフェノール、m−ブロモフェノール、p−ブロモフェノール、p−クロロフェノール、2,6−ジクロロフェノール、ペンタクロロフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,6−キシレノール、メシトール、2,6−ジメチル−4−(ベンゾイロキシ)フェノール、p−メトキシフェノール、p−フェノキシフェノール、ヒドロキノンモノベンゾエート、β−ナフトール、p−ヒドロキシベンゾニトリル、2,6−ジメチルフェノール、p−ニトロフェノール、メチルp−ヒドロキシベンゾエート、サリチル酸メチル、ビスフェノールA、2,6−ジメチルフェノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。フェノール類の使用量は、所望のポリフェニレンエーテルの分子量に応じて適切に調節できるが、ポリフェニレンエーテル樹脂100重量部に対し0.5〜10重量部が好ましい。
【0038】
ラジカル開始剤としては、過酸化ベンゾイル,3,3’,5,5’−テトラメチル−1,4−ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノキシル、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。ラジカル開始剤の使用量は、ポリフェニレンエーテル樹脂100重量部に対し0.5〜5.0重量部が好ましい。また、反応促進剤として、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸マンガンなどのカルボン酸金属塩を用いることが好ましい。
【0039】
再分配反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に限定されないが、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素が好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール類、ラジカル開始剤および必要に応じ用いられるカルボン酸金属塩を溶媒中に溶解または分散させ、これを加熱することにより再分配反応を行うことができる。反応の温度は、好ましくは60〜120℃であり、反応時間は、好ましくは10分〜6時間である。
【0040】
以上により得られるポリフェニレンエーテル樹脂は、通常、末端に水酸基、またはオルト位もしくはメタ位に置換基を有していてもよいフェニル基を有している。この未変性のポリフェニレンエーテル樹脂の末端を上記の方法により変性することで、本発明に用いる末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂を得ることができる。
【0041】
(非極性ラジカル発生剤)
本発明の架橋性樹脂組成物は、非極性ラジカル発生剤を含む。非極性ラジカル発生剤は、双極子モーメントが0.5以下で加熱によりラジカルを発生し、架橋反応を開始させることができる化合物である。その双極子モーメントは、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.15以下である。
また、本発明に用いられる非極性ラジカル発生剤は、1分間半減期温度が好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
前記非極性ラジカル発生剤としては、式(4)〜(6)のいずれかの構造を有するものが好ましく、式(4)又は式(5)の構造を有するものがより好ましい。
【0042】
【化7】

【0043】
式(4)中の、R、R、R、R'、R'、及びR'は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表す。R、R、及びRのうち、少なくとも一つは芳香族炭化水素基であることが好ましい。また、R'、R'、及びR'のうち、少なくとも一つは芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0044】
【化8】

【0045】
式(5)中の、Rは、芳香族炭化水素基、Rは、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。
【0046】
【化9】

【0047】
式(6)中の、nは数平均重合度を表し、通常2〜50、好ましくは3〜40である。
【0048】
非極性ラジカル発生剤の具体例としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジフェニルブタン、1,4−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2,2−テトラフェニルエタン、2,2,3,3−テトラフェニルブタン、3,3,4,4−テトラフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルプロパン、1,1,2−トリフェニルエタンなどの式(4)で表される炭化水素化合物;
【0049】
トリフェニルメタン、1,1,1−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニルプロパン、1,1,1−トリフェニルブタン、1,1,1−トリフェニルペンタン、1,1,1−トリフェニル−2−プロペン、1,1,1−トリフェニル−4−ペンテン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどの式(5)で表される炭化水素化合物;などが挙げられる。また、式(4)〜(6)で表されるものの他、2,3−トリメチルシリルオキシ−2,3−ジフェニルブタンを用いることもできる。
これらの中でも、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンおよびトリフェニルメタンが好ましい。
非極性ラジカル発生剤を用いることにより、得られる架橋樹脂複合体の電気特性を著しく向上させることができる。その原理は不明だが、非極性ラジカル発生剤の分解生成物に極性物質が含まれないためと推測される。
【0050】
これらの非極性ラジカル発生剤は、1種単独で用いることができるが、これらの2種以上を混合した非極性ラジカル発生剤の混合物を用いることもできる。2種以上の非極性ラジカル発生剤を併用し、その混合比を変化させることで、得られる架橋性樹脂の溶融状態を自由に制御することが可能である。
【0051】
非極性ラジカル発生剤の使用量は、末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂100重量部に対して、通常0.2〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。非極性ラジカル発生剤の量があまりに少ないと架橋が不十分となり、高い架橋密度の架橋樹脂が得られなくなるおそれがある。非極性ラジカル発生剤の量が多すぎる場合には、架橋効果が飽和する一方で、所望の物性を有する架橋樹脂が得られなくなるおそれがある。
【0052】
本発明では上記の非極性ラジカル発生剤を架橋剤として用いるが、本発明の架橋性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記非極性ラジカル発生剤以外の架橋剤を含ませてもよい。他の架橋剤としては過酸化物などがあげられる。
【0053】
(架橋性化合物)
本発明の架橋性樹脂組成物には、さらに架橋性化合物を含むことが好ましい。架橋性化合物とは、ラジカル反応性の不飽和基を分子中に有する低分子または高分子の化合物である。架橋性化合物は、該不飽和基を分子中に2個以上有し末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂との相溶性に優れる化合物が好ましい。架橋性化合物としては、ジビニルベンゼンやジビニルナフタレンなどの多官能ビニル化合物;トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタリルシアヌレートなどのシアヌル酸類;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルセバケート、トリアリルホスフェートなどの多価酸のジアリルエステル;ジエチレングリコールビスアリルカーボネート;エチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンのアリルエーテル、ペンタエリトリットの部分的アリルエーテルなどのアリルエーテル類;アリル化ノボラック、アリル化レゾール樹脂等のアリル変性樹脂;トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMTP)やトリメチロールプロパントリアクリレートなどの、3〜5官能のメタクリレート化合物やアクリレート化合物;を用いることができる。これらの中ではトリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートが架橋反応性が高いので好ましく、トリアリルイソシアヌレートが誘電正接を悪化させること無く、伝送損失を小さく抑えることができる点から特に好ましい。
また、必要に応じて2種類の架橋性化合物を併用してもよい。2種以上の架橋性化合物を併用することで、電気特性を維持しながら耐熱性を向上させることができる。具体的にはトリアリルイソシアヌレートと、3〜5官能のメタクリレート化合物またはアクリレート化合物とを併用することが好ましい。
【0054】
架橋性化合物の総量は、その種類によって適宜選択されるが、末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂100重量部に対して、通常10〜100重量部、好ましくは10〜70重量部である。トリアリルイソシアヌレートと3〜5官能のメタクリレート化合物またはアクリレート化合物とを併用する場合は、後者の量を末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂100重量部に対して5〜15重量部とすることが好ましい。5重量部未満であると、積層板の耐熱性向上の効果を十分に得ることができないおそれがあり、逆に、15重量部を超えると、誘電特性が低下するおそれがある。
【0055】
(その他の添加剤)
本発明の架橋性樹脂組成物には、各種の添加剤、例えば、強化材、相溶化剤、酸化防止剤、難燃剤、充填剤、着色剤、光安定剤などを含有させることができる。
【0056】
強化材としては、ガラス繊維、ガラス布、紙基材、ガラス不織布などが挙げられる。
【0057】
相溶化剤としては、スチレン・ブタジエンブロックコポリマー、スチレン・イソプレンブロックコポリマー、1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリブタジエン、マレイン変性ポリブタジエン、アクリル変性ポリブタジエン、エポキシ変性ポリブタジエン、ビニルベンジルエーテル系樹脂などが挙げられる。
【0058】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系、リン系、アミン系などの各種のプラスチック・ゴム用酸化防止剤などが挙げられる。これらの酸化防止剤は単独で用いてもよいが、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0059】
難燃剤としては、リン含有難燃剤、窒素含有難燃剤、ハロゲン含有難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物系難燃剤、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、などが挙げられる。中でも、ハロゲン含有難燃剤が好ましく、ハロゲンとして臭素原子を含み、不飽和結合を有さない臭素化有機化合物が、架橋反応に影響しないのでより好ましい。かかる臭素化有機化合物としては、デカブロモジフェニルエタン、4,4−ジブロモビフェニル、エチレンビステトラブロモフタルイミド等の芳香族臭素化化合物が特に好ましい。さらに、ハロゲン含有難燃剤として、ハロゲン化トリアリルイソシアヌレートやフッ素化脂肪族樹脂等を用いることもできる。また、難燃剤としては、真比重が2.0〜3.5の範囲にあるものが好ましい。難燃剤の量は、ポリフェニレンエーテル樹脂100重量部に対し、好ましくは10〜40重量部である。
【0060】
充填材としては、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水和物の粉末;窒化ホウ素、ワラストナイト、タルク、カオリン、クレー、マイカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の、金属酸化物、窒化物、珪化物または硼化物等の無機フィラー;などが挙げられる。充填材の添加により、得られる架橋樹脂および架橋樹脂複合体の熱膨張係数を低減させることができるので、加熱時の寸法変化率を低減し、多層プリント配線板等に用いたときの信頼性を向上させることができる。これら充填材は、二種類以上を併用してもよい。充填剤として、シランカップリング剤等で表面処理したものを用いることもできる。充填材の量は、末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂100重量部に対し、通常0〜200重量部、好ましくは5〜60重量部である。
【0061】
着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。
【0062】
(架橋性樹脂組成物の製造方法)
本発明の架橋性樹脂組成物は、上記の末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂、非極性ラジカル発生剤および必要に応じ用いられる架橋性化合物や添加剤などの任意成分を混合して得られる。混合の方法は特に限定されないが、これらの各成分を溶媒中に均一に溶解または分散させてワニスとして架橋性樹脂組成物を得る方法や、押出機などを用いて末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂を加熱溶融し、均一に混練する方法などが挙げられる。
【0063】
ワニスとして架橋性樹脂組成物を得る場合に用いられる溶媒としては、上記各成分を均一に溶解または分散させることができるものであれば特に限定されないが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類;等が挙げられる。これらは一種単独で、または二種以上を混合して用いることができる。
【0064】
(架橋性樹脂複合体)
本発明の架橋性樹脂複合体は、上記本発明の架橋性樹脂組成物を支持体に塗布または含浸してなる。架橋性樹脂組成物は、これを加熱溶融して塗布または含浸に用いてもよいが、均一に塗布または含浸を行うことができ、また作業性に優れるとの観点から、前記のワニスとして用いることが好ましい。ワニスを支持体に塗布または含浸し、乾燥により溶媒を除去することで、本発明の架橋性樹脂複合体が得られる。ワニス中の末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂の濃度は、好ましくは40〜70重量%である。また、乾燥の条件は、架橋性樹脂組成物の組成等に応じて適宜設定されるが、温度は110〜130℃が好ましく、乾燥時間は5〜10分間が好ましい。
【0065】
架橋性樹脂組成物の塗布に用いられる支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ナイロンなどの樹脂;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、銀などの金属材料;などからなるものが挙げられる。また、支持体として金属箔を用いる場合は、その表面がシランカップリング剤などで表面処理をしてあることが接着性の観点から好ましい。
【0066】
架橋性樹脂組成物を支持体へ塗布する方法は特に制限されず、スピンコート、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法などの公知の塗布方法が挙げられる。
【0067】
架橋性樹脂組成物の含浸に用いられる支持体は、繊維材である。この方法によれば、架橋性樹脂組成物が繊維材に含浸された架橋性樹脂複合体であるプリプレグを得ることができる。ここで用いる繊維材の材質は、有機及び/又は無機の繊維であり、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維などの無機の繊維;アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリル繊維などの有機の繊維;が挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。繊維材の形状としては、マット、クロス、不織布などが挙げられる。その中でも、E型、NE型、S型、T型及びD型などのガラスクロス;およびアラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリル繊維などの有機繊維;が好ましい。また、これらの繊維材はその表面がシランカップリング剤などで表面処理をしてあることが好ましい。
【0068】
架橋性樹脂組成物の繊維材への含浸は、例えば、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により繊維材に塗布することにより達成される。
【0069】
(架橋樹脂)
本発明の架橋樹脂は、上記本発明の架橋性樹脂組成物を架橋してなる。架橋性樹脂組成物の架橋は、例えば、本発明の架橋性樹脂組成物を加熱溶融するなどして、該組成物中の末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂および架橋性化合物が架橋反応を起す温度以上に維持することによって行うことができる。架橋性樹脂を架橋させるときの温度は、通常170〜250℃、好ましくは180〜230℃である。また、架橋する時間は特に制約されないが、通常数分から数時間である。
【0070】
架橋性樹脂組成物がシート状又はフィルム状の成形体である場合には、該成形体を必要に応じて積層し、熱プレスする方法が好ましい。熱プレスするときの圧力は、通常0.5〜20MPa、好ましくは2〜5MPaである。熱プレスは、真空または減圧雰囲気下で行ってもよい。熱プレスは、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行なうことができる。
【0071】
(架橋樹脂複合体)
本発明の架橋樹脂複合体は、(A)上記本発明の架橋性樹脂組成物を支持体上で架橋してなるもの、(B)上記本発明の架橋性樹脂複合体を架橋してなるもの、および(C)上記本発明の架橋性樹脂複合体を別の支持体上で架橋してなるもの、である。
【0072】
上記(B)に係る架橋樹脂複合体を得る方法としては、架橋性樹脂複合体を必要に応じて積層し、熱プレスする方法が挙げられる。熱プレスの条件は、前記架橋性樹脂を架橋する場合と同様である。
【0073】
上記(A)または(C)に係る架橋樹脂複合体を得る方法としては、板状またはフィルム状に成形された架橋性樹脂組成物又は架橋性樹脂複合体を、熱プレスによって、支持体に積層させ、さらに加熱を続けることによって末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂および架橋性化合物を架橋する方法が挙げられる。熱プレスの条件は、前記架橋性樹脂を架橋する場合と同様である。
【0074】
ここで用いられる新たな支持体としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔などの金属箔;プリント配線板;導電性ポリマーフィルム、他の樹脂フィルムなどのフィルム類;などが挙げられる。また、該支持体としてプリント配線板を用いると、多層プリント配線板を製造することができる。
【0075】
銅箔などの金属箔やプリント配線板上の導電層は、その表面が、シランカップリング剤、チオール系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、各種接着剤などで処理されているものが好ましい。これらのうちシランカップリング剤で処理されているものが特に好ましい。
【0076】
本発明の架橋性樹脂組成物および架橋性樹脂複合体は流動性及び密着性に優れているので、平坦性に優れ、かつ、支持体との密着性に優れた架橋樹脂複合体を得ることができる。本発明の架橋樹脂及び架橋樹脂複合体は、電気絶縁性、機械的強度、耐熱性、誘電特性などに優れている。また架橋樹脂複合体は、支持体との密着性が良好であり、電気材料として好適である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。実施例および比較例に各特性は、以下の方法に従い測定した。
【0078】
(1)数平均分子量(Mn)
ポリフェニレンエーテル樹脂の数平均分子量(Mn)は、トルエンを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定により、標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0079】
(2)成形性
プリプレグの成形性を、架橋樹脂複合体Aの凹凸とカスレから評価した。まず、架橋樹脂複合体Aの表面状態の観察から凹凸を評価した。次いで、架橋樹脂複合体Aを50℃の塩化第二鉄溶液(サンハヤト社製)に浸漬し、エッチングして銅箔を剥離した。この銅箔剥離後の架橋樹脂複合体の状態を表面および断面の双方から観察し評価した。なお、表面観察は目視にて行い、断面観察は、架橋樹脂複合体の断面を研磨機を用いて研磨してから、光学顕微鏡を用いて観察を行った。
評価基準は以下の通りである。ここで、凹凸とは、IPC規格の配線パターンに沿って凹凸になっていることが目視で観察されることを言い、カスレとは、銅箔と樹脂、樹脂とガラスクロス、樹脂とIPC基板など異種材料間で空間が発生していることをいう。凹凸のないものは、配線パターンの有無に関わらず、積層板は平坦になる。
A:全く凹凸も、カスレもなく、平坦である。
B:全面積の一部に、銅箔表面の凹凸、または、カスレのいずれかが発生した。
C:銅箔表面に凹凸があり、かつ、銅箔剥離後の表面・断面観察により全面的にカスレが発生した。
【0080】
(3)ガラス転移温度(Tg)
銅箔が除去された架橋樹脂複合体Bについて、動的粘弾性測定によりガラス転移温度を測定した。ガラス転移温度が高いほど架橋樹脂複合体が耐熱性に優れることを表す。
【0081】
(4)ピール強度
架橋樹脂複合体Cから銅箔を引き剥がすときの強度を、JIS C6481に基づいて測定した。ピール強度の値に応じて以下の指標で評価した。ピール強度が大きいほど、銅箔との密着性に優れることを表す。
A:0.50kN/mを超える
B:0.35kN/mを超え0.50kN/m以下
C:0.35kN/m以下
【0082】
(5)誘電損失
インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社製、型番号E4991A)を用いて、周波数1GHzにおける、銅箔が除去された架橋樹脂複合体Cの誘電損失(tanδ)を容量法にて測定した。
【0083】
製造例1:変性PPE−(1)の製造
ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE;日本ジーイープラスチックス株式会社製:商品名「ノリルPX9701」、Mn=14,000)を36部、フェノール類として2,6−ジメチルフェノールを1.54部、ラジカル開始剤としてt−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(日本油脂社製:商品名「パーブチルI」)を1.06部、およびナフテン酸コバルト0.0015部を溶剤のトルエン90部に添加し、混合した。得られた混合液を80℃に加温し、1時間攪拌しながら再分配反応を行った。反応終了後、多量のメタノールを加えてPPEを再沈殿させ、不純物を除去して、減圧下80℃で3時間乾燥して溶剤を完全に除去した。得られたPPEのMnは2,400であった。
【0084】
温度調節器、撹拌装置、冷却設備及び滴下ロートを備えたフラスコに、上記で低分子量化したPPE(Mn=2400)を200部、クロロメチルスチレン(p−クロロメチルスチレンとm−クロロメチルスチレンとの比が50/50,東京化成工業社製)14.51部、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド0.818部、トルエン400部を供給し、混合した。この混合液の温度を75℃とし、攪拌しながら、水酸化ナトリウムの50%水溶液22部を20分間かけて滴下し、さらに75℃で4時間撹拌を続けて変性反応を行った。次に、10%塩酸水溶液で混合液を中和した後、多量のメタノールを添加し、生成物を再沈殿後、ろ過した。ろ過物をメタノール:水=80:20の比率の混合液で3回洗浄した後、減圧下80℃で3時間乾燥することで、変性PPE−(1)を得た。この変性PPE−(1)のMnは、2,700であった。
【0085】
この変性PPE−(1)について赤外線吸収スペクトル(IR)測定、およびH核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)測定を行った。その結果、IR測定によりフェノール性水酸基が存在しないこと、およびNMRチャート上5〜6ppm付近に現れるビニルベンジル基を示すシグナルが見られることにより、変性PPE−(1)が、分子末端にビニルベンジル基を有するポリフェニレンエーテル樹脂であることが確認された。
【0086】
製造例2:未変性PPE−(1)の製造
PPE「ノリルPX9701」を250部、フェノール類としてビスフェノールAを2.5部、ラジカル開始剤としてt−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(「パーブチルI」)を1.06部、およびナフテン酸コバルトを0.0056部を溶剤のトルエン600部に添加し、混合した。得られた混合液を90℃に加温し、1時間攪拌しながら再分配反応を行った。反応終了後、多量のメタノールを加えて生成物を再沈殿させ、不純物を除去して、減圧下80℃で3時間乾燥して溶剤を完全に除去し、未変性PPE−(1)を得た。未変性PPE−(1)のMnは9,000であった。
【0087】
製造例3:変性PPE−(2)の製造
再分配反応によりMn=2,400としたPPE200部に代えて、製造例2で得られた未変性PPE−(1)200部を用いた他は、製造例1と同様にして変性反応を行い、変性PPE−(2)を得た。この変性PPE−(2)のMnは、9,300であった。また、製造例1と同様にして、変性PPE−(2)が、分子末端にビニルベンジル基を有するポリフェニレンエーテル樹脂であることを確認した。
【0088】
製造例4:変性PPE−(3)の製造
クロロメチルスチレン14.51部に代えて、2−クロロエチルビニルエーテル10.13部を用いた他は、製造例3と同様にして変性反応を行い、変性PPE−(3)を得た。この変性PPE−(3)のMnは、9,200であった。また、変性PPE−(3)のIR測定およびH−NMR測定を行った。その結果、IR測定によりフェノール性水酸基が存在しないこと、およびNMRチャート上4〜5ppm付近に現れるビニルオキシ基由来のシグナルが見られることにより、変性PPE−(3)が、分子末端にビニルオキシ基を有するポリフェニレンエーテル樹脂であることが確認された。
【0089】
実施例1
変性PPE−(1)70部を、溶剤のトルエン100部に加え、80℃にて30分間攪拌、混合して完全に溶解した。得られた溶液に、架橋性化合物としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC;日本化成社製)30部、難燃剤として臭素化有機化合物であるデカブロモジフェニルエタン(アルベマール浅野社製:商品名「SAYTEX8010」、Br含有量82%)を20部及び非極性ラジカル発生剤として2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(日本油脂社製:商品名「ノフマーBC−90」、双極子モーメント0.00)を4.0部を添加した。さらに無機充填材として球状シリカ(電気化学工業株式会社製:商品名「FB3SDC」)14部を添加して、これらを混合、分散して架橋性樹脂組成物のワニスを得た。
【0090】
次に、このワニスをEタイプのガラスクロス(日東紡績社製:商品名「WEA2116E」)に含浸させ、温度180℃で3分間加熱乾燥し、溶媒を除去して樹脂含有量55%のプリプレグである架橋性樹脂複合体を得た。こうして得られたプリプレグを用いて、下記(A)〜(C)の方法により架橋樹脂複合体をそれぞれ作成した。
【0091】
(A)100mm角に切り出したプリプレグ1枚を、IPC基板(IPC規格多目的基板)と電解銅箔(Type F0、厚み0.018mm、古河サーキットフォイル社製)で挟み、熱プレス機により、平板形状を保ちながら、熱プレスして架橋樹脂複合体Aを得た。熱プレスの条件は、温度220℃、時間60分、圧力3MPaとした。この架橋樹脂複合体Aを用いて成形性の評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0092】
(B)プリプレグ1枚の両側を、電解銅箔(Type F0、厚み0.018mm、古河サーキットフォイル社製)で挟み、熱プレス機により、平板形状を保ちながら、熱プレスして架橋樹脂複合体Bを得た。熱プレスの条件は、温度220℃、時間60分、圧力3MPaとした。次いで、この架橋樹脂複合体Bを、50℃の塩化第二鉄溶液(サンハヤト社製)に浸漬し、表面の銅箔を取り除いた。銅箔が除去された架橋樹脂複合体Bについて、動的粘弾性測定装置を用いてガラス転移温度を測定した。それらの評価結果を表1に示す。
【0093】
(C)プリプレグ7枚を重ね、その両側を電解銅箔(Type F0、厚み0.018mm、古河サーキットフォイル社製)2枚で挟み、熱プレス機により、平板形状を保ちながら、熱プレスして架橋樹脂複合体Cを得た。熱プレスの条件は、温度220℃、時間60分、圧力3MPaとした。架橋樹脂複合体Cにつきピール強度の測定を行った。また、この架橋樹脂複合体Cを20mm角の大きさに切り出し、40℃の塩化第二鉄溶液(サンハヤト社製)に浸漬し、表面の銅箔を取り除いた。銅箔が除去された架橋樹脂複合体Cについて、誘電損失を測定した。その評価結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
実施例2,3
変性PPE−(1)70部に代えて、それぞれ変性PPE−(2)70部および変性PPE−(3)70部を用いた他は、実施例1と同様にして、プリプレグおよび架橋樹脂複合体を製造した。これらについて各特性を評価した結果を表1に示す。
【0096】
実施例4
非極性ラジカル発生剤として、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン3.2部に代えて、トリフェニルメタン(双極子モーメント0.13)3.9部を用いた他は、実施例2と同様にして、プリプレグおよび架橋樹脂複合体を製造した。これらについて各特性を評価した結果を表1に示す。
【0097】
実施例5
非極性ラジカル発生剤として、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン3.2部に代えて、1,1,2,2−テトラフェニルエタン(双極子モーメント0.18)6.4部を用いた他は、実施例2と同様にして、プリプレグおよび架橋樹脂複合体を製造した。これらについて各特性を評価した結果を表1に示す。
【0098】
比較例1
変性PPE−(2)70部に代えて、未変性PPE−(1)70部を用いた他は、実施例2と同様にして、プリプレグおよび架橋樹脂複合体を製造した。これらについて各特性を評価した結果を表1に示す。
【0099】
比較例2
架橋剤として2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン4.0部に代えて、ジ−t−ブチルパーオキシド2.2部(日本油脂社製:商品名「パーブチルD」、双極子モーメント0.66)を用い、熱プレスの条件を温度200℃、時間20分、圧力3MPaとした他は、比較例1と同様にして、プリプレグおよび架橋樹脂複合体を製造した。これらについて各特性を評価した結果を表1に示す。
【0100】
比較例3
未変性PPE−(1)70部に代えて、変性PPE−(2)70部を用いた他は、比較例2と同様にして、プリプレグおよび架橋樹脂複合体を製造した。これらについて各特性を評価した結果を表1に示す。
【0101】
以上より明らかなように、本発明の架橋性樹脂組成物は成形性に優れるので、これを用いて得られる架橋樹脂複合体は、凹凸も、カスレもなく、平坦なものとなった。さらに、該架橋樹脂複合体は、銅箔との密着性が高く、耐熱性が高く、さらに誘電損失が小さく電気特性に優れるものであった(実施例1〜5)。
【0102】
これに対し、分子鎖末端に炭素−炭素不飽和結合を有さない(未変性の)ポリフェニレンエーテル樹脂を用いると、得られる架橋樹脂複合体は、耐熱性が低く電気特性も不十分であった(比較例1)。また、架橋剤として極性を有するジ(2−t−ブチルペルオキシイソプロピルベンゼン)を用いると、架橋性樹脂組成物の成形性が低く、得られる架橋樹脂複合体は銅箔との密着性が低いものであった(比較例2,3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの分子鎖末端に炭素−炭素不飽和結合を有する末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂、および非極性ラジカル発生剤を含む架橋性樹脂組成物。
【請求項2】
前記炭素−炭素不飽和結合が共役系を形成していることを特徴とする請求項1記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項3】
前記末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂が下記式(1)で表される繰り返し単位を90重量%以上含有することを特徴とする請求項1または2記載の架橋性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、もしくはハロアルキル基を表す。)
【請求項4】
前記非極性ラジカル発生剤が下記式(4)の構造を有する炭化水素化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物。
【化2】

(式中、R、R、R、R'、R'、及びR'は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表す。)
【請求項5】
前記非極性ラジカル発生剤が下記式(5)の構造を有する炭化水素化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物。
【化3】

(式中、Rは、芳香族炭化水素基、Rは、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
【請求項6】
前記非極性ラジカル発生剤は、1分間半減期温度が150℃〜350℃である請求項1〜5のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項7】
さらに架橋性化合物を含む請求項1〜6のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項8】
前記末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂の数平均分子量が2,000〜15,000である請求項1〜7のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物を支持体に塗布または含浸してなる、架橋性樹脂複合体。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物を架橋してなる架橋樹脂。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物を支持体上で架橋してなる架橋樹脂複合体。
【請求項12】
請求項9に記載の架橋性樹脂複合体を架橋してなる架橋樹脂複合体。
【請求項13】
前記架橋を別の支持体上で行ってなる請求項11に記載の架橋樹脂複合体。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物のワニスを支持体に塗布または含浸し、乾燥する工程を含む、架橋性樹脂複合体の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれかに記載の架橋性樹脂組成物を架橋する工程を含む架橋樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2009−13261(P2009−13261A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175398(P2007−175398)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】