説明

架橋性重合体及び架橋体。

【課題】新規な架橋性重合体及び架橋体を提供する。
【解決手段】N−ビニルマレイミド、N−アリルマレイミドのような不飽和基が置換したN−置換マレイミドと、1−メチレンインダン、1−メチレンテトラリン、5−メチレン−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテンのようなエキソメチレン化合物を共重合して、側鎖にビニル基或いはアリル基等の不飽和基が存在する架橋性重合体、および該架橋性重合体を架橋して得られる高耐熱性の架橋重合体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性重合体及び架橋体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マレイミド系重合体としては、N−アリールマレイミドとメタクリル酸エステルとの共重合体(特許文献1〜4)、マレイミド類とスチレン類との共重合体(特許文献5)、マレイミド類とアクリロニトリルとスチレン類との共重合体(特許文献5〜7)等が開示されている。
【0003】
また、非特許文献1〜3には、エチレン系不飽和化合物とマレイミドとのラジカル共重合が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭43−9753号公報
【特許文献2】特開昭61−141715号公報
【特許文献3】特開昭61−171708号公報
【特許文献4】特開昭62−109811号公報
【特許文献5】特開昭47−6891号公報
【特許文献6】特開昭61−76512号公報
【特許文献7】特開昭61−276807号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Omayu, A.;Matsumoto, A.,Macromol.Chem.Phys.,2008,209,2312
【非特許文献2】Omayu, A.;Ueno, T.;Matsumoto, A.,Macromol.Chem.Phys.,2008,209,1503
【非特許文献3】Omayu, A.;Yoshioka, S.;Matsumoto, A.,Macromol.Chem.Phys.,2009,210,1210
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な架橋性重合体及び架橋体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位と、を有する架橋性重合体を提供する。
【化1】


[式中、pは0〜3の整数を示し、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。但し、pが1〜3の整数であるとき、R及びRは一緒になってメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基を形成していてもよい。また、pが2以上の整数であるとき、複数存在するR及びRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化2】


[式中、mは0〜3の整数を示す。]
【0008】
本発明はまた、下記式(3)で表される構造単位を有する架橋性重合体を提供する。
【化3】


[式中、pは0〜3の整数を示し、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、mは0〜3の整数を示す。但し、pが1〜3の整数であるとき、R及びRは一緒になってメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基を形成していてもよい。また、pが2以上の整数であるとき、複数存在するR及びRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0009】
本発明はまた、下記式(4)で表される構造を有する架橋性重合体を提供する。
【化4】


[式中、pは0〜3の整数を示し、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、mは0〜3の整数を示す。但し、pが1〜3の整数であるとき、R及びRは一緒になってメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基を形成していてもよい。また、pが2以上の整数であるとき、複数存在するR及びRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。また、nが2以上の整数であるとき、複数存在するp、m、R、R、R、R及びRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0010】
本発明に係る架橋性重合体は、窒素原子上に特定の二重結合を備える構造単位(式(1)で表される構造単位)を有している。そのため、本発明に係る架橋性重合体は、加熱等により当該二重結合同士を反応させることで、容易に架橋体を形成することができる。そして、本発明に係る架橋性重合体を架橋してなる架橋体は、式(1)で表される構造単位に由来する構造と、式(2)で表される構造とを有しているため、耐熱性に優れたものとなる。本発明に係る架橋性重合体を架橋してなる架橋体が優れた耐熱性を示すことの理由は、必ずしも明らかではないが、式(2)で表される構造単位が、芳香環を有し、かつ特徴的なカルド型骨格を有していることが一因であると考えられる。
【0011】
本発明に係る架橋性重合体は、下記式(5)で表されるマレイミド化合物と下記式(6)で表されるエキソメチレン化合物とをラジカル共重合してなる架橋性重合体であることが好ましい。このような架橋性重合体は、式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位とを単量体単位とする架橋性重合体であり、このような架橋性重合体によれば、本発明の効果がより確実に奏されるようになる。
【化5】


[式中、pは0〜3の整数を示し、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。但し、pが1〜3の整数であるとき、R及びRは一緒になってメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基を形成していてもよい。また、pが2以上の整数であるとき、複数存在するR及びRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化6】


[式中、mは0〜3の整数を示す。]
【0012】
本発明はさらに、上記の架橋性重合体を架橋してなる、架橋体を提供する。本発明に係る架橋体は、上記の架橋性重合体を架橋してなるものであるため、優れた耐熱性を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規な架橋性重合体及び架橋体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る架橋性重合体及び架橋体の好適な実施形態について以下に説明する。
【0015】
(架橋性重合体)
本実施形態に係る架橋性重合体は、下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位とを有する。
【0016】
【化7】

【0017】
式中、pは0〜3の整数を示し、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。但し、pが1〜3の整数であるとき、R及びRは一緒になってメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基を形成していてもよい。また、pが2以上の整数であるとき、複数存在するR及びRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0018】
【化8】

【0019】
式中、mは0〜3の整数を示す。
【0020】
本実施形態に係る架橋性重合体においては、式(1)で表される構造単位が、窒素原子上に特定の二重結合を有している。そのため、本実施形態に係る架橋性重合体は、加熱等により当該二重結合同士を反応させることで、容易に架橋体を形成することができる。そして、本実施形態に係る架橋性重合体を架橋してなる架橋体は、式(1)で表される構造単位に由来する構造と、式(2)で表される構造とを有しているため、耐熱性に優れたものとなる。
【0021】
本実施形態に係る架橋性重合体を架橋してなる架橋体が優れた耐熱性を示すことの理由は、必ずしも明らかではないが、式(2)で表される構造単位が、芳香環を有し、かつ特徴的なカルド型骨格を有しているためと考えられる。
【0022】
マレイミド系重合体における耐熱性向上のためには、マレイミド骨格の窒素原子上に、アリール基又はアルキル基を配置する方法が考えられる。しかしながら、マレイミドの骨格の窒素原子上にアリール基を配置した場合には、耐熱性は向上するものの、硬く且つ脆いため加工性が悪いこと、重合体が着色し外観が悪いこと、等の問題が生じる場合がある。また、マレイミド骨格の窒素原子上にアルキル基を配置した場合には、着色は生じ難いものの、耐熱性を十分に満足することは困難である。
【0023】
さらに、マレイミド系重合体中に水酸基やカルボキシル基等を含有させることにより、耐熱性の向上を図ることも考えられるが、このようなマレイミド系重合体は、極性官能基を有しているため、耐水性に乏しくなる傾向がある。
【0024】
これに対して本実施形態に係る架橋性重合体によれば、上述の特定の構造単位を有することにより、優れた耐熱性を有する架橋体が得られる。そして、当該架橋体は、加工性が良好であり、着色が生じ難く、耐水性に優れる、という優れた物性を有するものとなる。また、本実施形態に係る架橋性重合体を所定形状に成型した後加熱することによって、所定形状に成型された架橋体を得ることもできる。すなわち、上記架橋体は、架橋体自体が加工性に優れるのみならず、所定形状に容易に成型することが可能なものである。
【0025】
式(1)で表される構造単位としては、例えば、下記式(1−1)、(1−2)、(1−3)、(1−4)、(1−5)、(1−6)、(1−7)、(1−8)でそれぞれ表される構造単位が挙げられる。なお、式(1−2)中、qは1〜3の整数を示す。
【0026】
【化9】

【0027】
式(1)においてpが0である場合とは、例えば式(1−1)で表される構造単位のように、窒素原子とオレフィン性二重結合とが直接結合していることを示す。
【0028】
式(1)において、「R及びRは一緒になってメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基を形成」とは、例えば式(1−5)、(1−6)、(1−7)、(1−8)で表される構造単位のように、Rが結合する炭素原子とRが結合する炭素原子とが、メチレン鎖、エチレン鎖、プロピレン鎖又はブチレン鎖を介して連結していることを示す。
【0029】
式(1)で表される構造単位としては、pは1〜3の整数である構造単位が好ましい。このような構造単位を有する架橋性重合体によれば、加工性及び耐熱性に一層優れる架橋体を得ることができる。
【0030】
また、式(1)で表される構造単位としては、R及びRが水素原子である構造単位が好ましく、R、R及びRが水素原子である構造単位がより好ましい。このような構造単位を有する架橋性重合体は、二重結合が架橋性に優れるものとなり、より緻密な三次元架橋構造を形成することができると考えられる。そのため、このような構造単位を有する架橋性重合体によれば、耐熱性に一層優れる架橋体が得られる。
【0031】
なお、式(2)においてmが0である場合とは、下記式(2−1)で表される構造単位を意味する。
【0032】
【化10】

【0033】
本実施形態に係る架橋性重合体は、下記式(3)で表される構造単位を有するものであってもよい。式中、p、m、R、R、R、R及びRは上記と同義である。
【0034】
【化11】

【0035】
このような構造単位を有する架橋性重合体によれば、当該架橋性重合体を架橋してなる架橋体の耐熱性が、一層優れるようになる。このような効果が奏される理由は、必ずしも明らかではないが、式(2)で表されるような芳香環と特徴的なカルド型骨格とを有する構造が、架橋点となる二重結合の近傍に存在しているためと考えられる。また、式(2)で表されるような特徴的なカルド型骨格とマレイミド骨格とが隣接した構造を有していることも一因と考えられる。
【0036】
さらに本実施形態に係る架橋性重合体は、下記式(4)で表される構造を有するものであってもよい。式中、p、m、R、R、R、R及びRは上記と同義であり、nは1以上の整数である。
【0037】
【化12】

【0038】
このような構造を有する架橋性重合体によれば、当該架橋性重合体を架橋してなる架橋体の耐熱性が、より一層優れるようになる。このような効果が奏される理由は、必ずしも明らかではないが、式(3)で表される構造単位に由来する架橋構造が、架橋体全体にわたって連続して形成されるためと考えられる。
【0039】
式(4)中、nは、例えば、1〜1000とすることができる。また、5〜500とすることもできる。
【0040】
本実施形態に係る架橋性重合体の重量平均分子量Mwは、例えば、300〜600000とすることができる。また、300〜300000とすることもできる。
【0041】
本実施形態に係る架橋性重合体の数平均分子量Mnは、例えば、300〜300000とすることができる。また、300〜150000とすることもできる。
【0042】
本実施形態に係る架橋性重合体の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnは、例えば、1〜10とすることができる。また、1〜5とすることもできる。
【0043】
本実施形態に係る架橋性重合体は、式(2)で表される構造単位が芳香環を有し、かつ特徴的なカルド型骨格を有しているため、耐熱性に優れる。また、式(1)で表される構造単位がアリル基を有しているため、加熱等により架橋して架橋体を形成する。このため、本実施形態に係る架橋性重合体におけるガラス転移温度Tgの測定に際し、ガラス転移温度Tgが観測される前に加熱による架橋が進行する場合がある。
【0044】
本実施形態に係る架橋性重合体は、下記式(5)で表されるマレイミド化合物と下記式(6)で表されるエキソメチレン化合物とを、ラジカル共重合してなる架橋性重合体であることが好ましい。式中、p、m、R、R、R、R及びRは上記と同義である。
【0045】
【化13】

【0046】
【化14】

【0047】
このような架橋性重合体は、式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位とを単量体単位とする架橋性重合体であり、このような架橋性重合体によれば、本発明の効果がより確実に奏されるようになる。
【0048】
本実施形態に係る架橋性重合体は、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位以外の構造単位を有していてもよい。このような構造単位としては、例えば、式(1)で表される構造単位におけるアリル基を変性してなる構造単位、N−アルキルマレイミド由来の構造単位、N−アリールマレイミド由来の構造単位等が挙げられる。
【0049】
本実施形態に係る架橋性重合体は、式(1)で表される繰り返し単位と、式(2)で表される繰り返し単位とからなる架橋性重合体であってもよい。ここで、当該架橋性重合体は、式(1)で表される繰り返し単位及び式(2)で表される繰り返し単位以外に、末端基を有していてもよい。
【0050】
(架橋性重合体の製造方法)
本実施形態に係る架橋性重合体は、例えば、式(5)で表されるマレイミド化合物と式(6)で表されるエキソメチレン化合物とを、ラジカル共重合する共重合工程を備える製造方法により製造することができる。式中、p、m、R、R、R、R及びRは上記と同義である。
【0051】
【化15】

【0052】
【化16】

【0053】
ここで、式(5)で表されるマレイミド化合物は、無水マレイン酸と下記式(7)で表される1級アミンとの反応により得ることができる。式中、p、R、R、R、R及びRは、上記と同義である。
【0054】
【化17】

【0055】
なお、無水マレイン酸と式(7)で表される1級アミンとの反応は、例えば、Journal of Applied Polymer Science,Vol.61,853−863(1996)に記載の方法によって行うことができる。
【0056】
また、式(6)で表されるエキソメチレン化合物のうち、mが0である化合物(1−メチレンベンゾシクロブテン)は、例えば、Macromolecules,Vol.28,5947−5950(1995)に記載の方法によって製造することができる。
【0057】
また、式(6)で表されるエキソメチレン化合物のうち、mが1である化合物(1−メチレンインダン)は、例えば、Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,Vol.29,1779−1787(1991)に記載の方法によって製造することができる。
【0058】
また、式(6)で表されるエキソメチレン化合物のうち、mが2である化合物(1−メチレンテトラリン)は、例えば、α−テトラロンとメチルトリフェニルホスフィノブロミドとのWittig反応によって製造することができる。
【0059】
さらに、式(6)で表されるエキソメチレン化合物のうち、mが3である化合物(5−メチレン−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン)は、例えば、1−ベンゾスベロンとメチルトリフェニルホスフィノブロミドとのWittig反応によって製造することができる。
【0060】
共重合工程は、例えば、式(5)で表されるマレイミド化合物と、式(6)で表されるエキソメチレン化合物と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルと、溶媒とを含有する混合液を、減圧条件下、所定の反応温度で、所定の反応時間反応させることにより、行うことができる。
【0061】
共重合工程における式(6)で表されるエキソメチレン化合物の使用量は、式(5)で表されるマレイミド化合物1モルに対して、0.1〜10モルであることが好ましく、0.5〜2.0モルであることがより好ましい。
【0062】
また、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルの使用量は、式(5)で表されるマレイミド化合物1モルに対して、0.001〜0.15モルとすることが好ましく、0.01〜0.10とすることがより好ましい。
【0063】
また、溶媒の使用量は、上記混合液における式(5)で表されるマレイミド化合物の濃度が0.01〜10mol/Lとなるような量であることが好ましく、0.1〜5mol/Lとなるような量であることがより好ましい。
【0064】
減圧条件は、例えば、上記混合液を耐圧容器に入れた後、冷却して混合液を固化させ、次いで耐圧容器内を減圧し、密封することにより調整することができる。なお、減圧条件において、真空度は0.5Torr以下とすることができる。また、真空度は0.1Torr以下とすることもできる。
【0065】
反応温度は、例えば、−80〜150℃とすることができ、40〜100℃としてもよい。また、反応時間は、例えば、0.5〜40時間とすることができ、3〜8時間としてもよい。
【0066】
なお、本製造方法においては、反応温度を高くすること、反応時間を短くすること、上記混合液における上記マレイミド化合物及び上記エキソメチレン化合物の濃度を低くすること、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルの使用量を多くすること、等によって、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの小さい架橋性重合体を得ることができる。
【0067】
また、本製造方法においては、反応温度を低くすること、反応時間を長くすること、上記混合液における上記マレイミド化合物及び上記エキソメチレン化合物の濃度を低くすること、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルの使用量を少なくすること、等によって、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの大きい架橋性重合体を得ることができる。
【0068】
また、共重合工程は、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル以外のラジカル開始剤を用いて行うこともできる。共重合工程で用いられるラジカル開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、オクタノイルパーオキシド、アセチルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーブチルピバレート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ系開始剤;等が挙げられる。
【0069】
共重合工程では、式(1)で表される構造単位を有する架橋性重合体を得るために、上記マレイミド化合物中のマレイミド部分以外の二重結合が反応することを十分に抑制する必要がある。すなわち、上記の好適な反応条件によれば、上記マレイミド化合物中のマレイミド部分以外の二重結合が反応することを十分に抑制しつつ、架橋性重合体が得られる。
【0070】
また、共重合工程では、式(5)で表されるマレイミド化合物及び式(6)で表されるエキソメチレン化合物以外の単量体をさらに上記混合液に含有させ、共重合させることもできる。このような単量体としては、N−アルキルマレイミド、N−アリールマレイミド等が挙げられる。これらの単量体であれば、上記マレイミド化合物中のマレイミド部分以外の二重結合が反応することを十分に防止しつつ、共重合させることができる。
【0071】
共重合工程では、上記ラジカル共重合により架橋性重合体が得られる。そして、上記製造方法は、当該架橋性重合体が含有する二重結合の一部を変性する変性工程を備えていても良い。
【0072】
(架橋体)
本実施形態に係る架橋体は、上記の架橋性重合体を架橋してなるものである。
【0073】
架橋性重合体は、窒素原子上に特定の二重結合を備える構造単位(式(1)で表される構造単位)を有している。そのため、架橋性重合体は、加熱等により当該二重結合同士を反応させることで、容易に架橋体を形成することができる。そして、当該架橋性重合体を架橋してなる架橋体は、式(1)で表される構造単位に由来する構造と、式(2)で表される構造とを有しているため、耐熱性に優れたものとなる。
【0074】
本実施形態に係る架橋体が優れた耐熱性を示すことの理由は、必ずしも明らかではないが、式(2)で表される構造単位が、芳香環を有し、かつ特徴的なカルド型骨格を有しているためと考えられる。
【0075】
本実施形態に係る架橋体は、5%重量減少温度T95が、好ましくは250〜500であり、より好ましくは300〜450である。さらに、本実施形態に係るマレイミド系重合体の重量減少の微分曲線のピーク温度を示すTmaxは、好ましくは330〜600であり、より好ましくは350〜500である。このように耐熱性に優れる架橋体は、高耐熱性樹脂等の用途に好適に使用することができる。
【0076】
本実施形態に係る架橋体は、架橋性重合体を熱架橋したものであってもよく、架橋剤により架橋したものであってもよい。
【0077】
架橋剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、オクタノイルパーオキシド、アセチルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−、ジクミルパーオキシド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーブチルピバレート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;等が挙げられる。
【0078】
架橋剤の使用量は、架橋性重合体100gに対して0.1〜10gが好ましく、0.2〜5gがより好ましい。
【0079】
本実施形態に係る架橋体は、架橋性重合体を架橋する架橋工程を備える製造方法により製造することができる。架橋工程は、例えば、架橋性重合体を、100〜180℃に加熱して熱架橋することにより行うことができる。また、架橋工程は、例えば、架橋性重合体と架橋剤とを含有する混合液を、反応温度100〜180℃で反応させることにより行うこともできる。
【0080】
また架橋工程は、架橋性重合体を光照射により架橋することにより行うこともできる。例えば、架橋性重合体に、可視光;紫外線;加速電子線、α線、β線、γ線等の放射線;等を照射することによって架橋を行うことができる。照射量は、例えば、0.1〜500kGyとすることができる。なお、可視光又は紫外線により光照射を行う場合には、架橋性重合体に開始剤及び/又は増感剤を混合してもよい。
【0081】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0083】
実施例で得られた重合体の物性値は、以下に示す方法により求めた。
(1)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn
重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnは、標準ポリスチレン換算GPC装置CCPDRE−8020(東ソー(株)製)を用いて測定し、流出溶媒にはTHFを用いた。
(2)分子量分布
上記(1)により得られた重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnを、分子量分布を示す値とした。
(3)ガラス転移温度測定(DSC)
ガラス転移温度(Tg)は、DSC6200(セイコー電子工業(株)製)を用いて測定した。
(4)熱分解温度測定(TG/DTA)
TG/DTA6200(セイコー電子工業(株)製)を用いて、昇温・降温速度を10℃/分、窒素雰囲気で測定し、5%重量減少温度T95と、重量減少の微分曲線のピーク温度を示すTmaxを求めた。
(5)核磁気共鳴分光法(NMR)
BRUKER製AV300(300MHz)を用い、ケミカルシフトはCDClH:7.26ppm、13C:77.0ppm)を基準として、NMRスペクトルを求めた。
【0084】
(実施例1:N−アリルマレイミドと1−メチレンインダンとの共重合体)
10mL用のメスフラスコに、N−アリルマレイミド222mg(2.0mmol)、1−メチレンインダン260mg(2.0mmol)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル16.4mg(東京化成工業(株)製、0.1mmol)を加えた後に、1,2−ジクロロエタン(和光純薬(株)製)を加えることで全量を10mLとした。
【0085】
この混合溶液を20mLの2方コックが接続されているパイレックス(登録商標)製容器に移した後に−78℃に冷却した。混合溶液が固化したことを確認後に真空ポンプを用いてパイレックス(登録商標)製反応容器を0.1Torrまで減圧し、溶封した。
【0086】
その反応溶液を60℃の水浴に浸し、5時間振とうさせた後に室温まで冷却させた。その後、反応容器を開封し、200mLのメタノール中に反応混合物を流し込んだところ、白色固体が生成し、PTFEフィルターを備えたろ過装置に注ぎ込むことで単離した。ろ紙上の白色固体を10mLのメタノールで洗浄し、1Torrの真空乾燥機にて12時間乾燥することで、乾燥した白色固体として架橋性重合体(248mg)を得た。その対理論収率は31%であった。
【0087】
得られた白色固体は、H−NMR及び13C−NMRによって、N−アリルマレイミドと1−メチレンインダンとが共重合した架橋性重合体であることが確認された。参考までにH−NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
H−NMR:δ 7・5−6.2(メチレンインダンの芳香環)、6.0−5.5(N上のアリル基のオレフィン部分)、5.4−5.0(N上のアリル基のオレフィン部分)、4.4−3.8(N上のアリル基のアリル位)、3.8−0.5(主鎖及びメチレンインダン飽和炭化水素)
【0088】
得られた架橋性重合体について、GPC測定を行ったところ、重量平均分子量Mwは21300であり、数平均分子量Mnは14100であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.5であった。
【0089】
また、得られた架橋性重合体について、DSC測定及びTG/DTA測定を行ったところ、測定過程で架橋して、架橋体が生じた。生じた架橋体のDSC測定及びTG/DTA測定の結果は、表1に示すとおりであった。なお、測定過程で架橋体が生じたため、架橋性重合体のガラス転移温度Tgは測定することができなかった。また、架橋体のガラス転移温度Tgは、観測されず、測定することができなかった。
【0090】
(実施例2:N−アリルマレイミドと1−メチレンインダンとの共重合体)
10mL用のメスフラスコに、N−アリルマレイミド222mg、1−メチレンインダン260mg(2.0mmol)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル16.4mg(東京化成工業(株)製、0.1mmol)を加えた後に、1,2−ジクロロエタン(和光純薬(株)製)を加えることで全量を10mLとした。
【0091】
この混合溶液を20mLの2方コックが接続されているパイレックス(登録商標)製容器に移した後に−78℃に冷却した。混合溶液が固化したことを確認後に真空ポンプを用いてパイレックス(登録商標)製反応容器を0.1Torrまで減圧し、溶封した。
【0092】
その反応溶液を80℃の水浴に浸し、3時間振とうさせた後に室温まで冷却させた。その後、反応容器を開封し、200mLのメタノール中に反応混合物を流し込んだところ、白色固体が生成し、PTFEフィルターを備えたろ過装置に注ぎ込むことで単離した。ろ紙上の白色固体を10mLのメタノールで洗浄し、1Torrの真空乾燥機にて12時間乾燥することで、乾燥した白色固体として架橋性重合体(208mg)を得た。その対理論収率は39%であった。
【0093】
得られた白色固体は、H−NMR及び13C−NMRによって、N−アリルマレイミドと1−メチレンインダンとが共重合した架橋性重合体であることが確認された。
【0094】
得られた架橋性重合体について、GPC測定を行ったところ、重量平均分子量Mwは10500であり、数平均分子量Mnは8100であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.3であった。
【0095】
また、得られた架橋性重合体について、DSC測定及びTG/DTA測定を行ったところ、測定過程で架橋して、架橋体が生じた。生じた架橋体のDSC測定及びTG/DTA測定の結果は、表1に示すとおりであった。なお、測定過程で架橋体が生じたため、架橋性重合体のガラス転移温度Tgは測定することができなかった。また、架橋体のガラス転移温度Tgは、観測されず、測定することができなかった。
【0096】
(実施例3:N−アリルマレイミドと1−メチレンテトラリンとの共重合体)
10mL用のメスフラスコに、N−アリルマレイミド548mg、1−メチレンテトラリン577mg、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル32.8mg(東京化成工業(株)製)を加えた後に、1,2−ジクロロエタン(和光純薬(株)製)を加えることで全量を10mLとした。
【0097】
この混合溶液を20mLの2方コックが接続されているパイレックス(登録商標)製容器に移した後に−78℃に冷却した。混合溶液が固化したことを確認後に真空ポンプを用いてパイレックス(登録商標)製反応容器を0.1Torrまで減圧し、溶封した。
【0098】
その反応溶液を60℃の水浴に浸し、20時間振とうさせた後に室温まで冷却させた。その後、反応容器を開封し、200mLのメタノール中に反応混合物を流し込んだところ、白色固体が生成し、PTFEフィルターを備えたろ過装置に注ぎ込むことで単離した。ろ紙上の白色固体を10mLのメタノールで洗浄し、1Torrの真空乾燥機にて12時間乾燥することで、乾燥した白色固体として架橋性重合体(88mg)を得た。その対理論収率は8%であった。
【0099】
得られた白色固体は、H−NMR及び13C−NMRによって、N−アリルマレイミドと1−メチレンテトラリンとが共重合した架橋性重合体であることが確認された。参考までにH−NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
H−NMR:δ 7.5−6.2(メチレンテトラリンの芳香環)、6.0−5.5(N上のアリル基のオレフィン部分)、5.4−5.0(N上のアリル基のオレフィン部分)、4.4−3.7(N上のアリル基のアリル位)、3.2−0.7(主鎖及びメチレンテトラリン飽和炭化水素)
【0100】
得られた架橋性重合体について、GPC測定を行ったところ、重量平均分子量Mwは5200であり、数平均分子量Mnは4500であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.2であった。
【0101】
また、得られた架橋性重合体について、DSC測定及びTG/DTA測定を行ったところ、測定過程で架橋して、架橋体が生じた。生じた架橋体のDSC測定及びTG/DTA測定の結果は、表1に示すとおりであった。なお、測定過程で架橋体が生じたため、架橋性重合体のガラス転移温度Tgは測定することができなかった。また、架橋体のガラス転移温度Tgは、観測されず、測定することができなかった。
【0102】
(実施例4)
実施例1で得られた架橋性重合体を、0.1Torrまで減圧し、200℃で2時間加熱した。室温まで冷却したのち取り出して、架橋体を得た。得られた架橋体は、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、トルエン、THFに不溶であった。また、得られた架橋体についてDSC測定及びTG/DTA測定を行ったところ、実施例1と同様の結果が得られた。
【0103】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位と、を有する架橋性重合体。
【化1】


[式中、pは0〜3の整数を示し、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。但し、pが1〜3の整数であるとき、R及びRは一緒になってメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基を形成していてもよい。また、pが2以上の整数であるとき、複数存在するR及びRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化2】


[式中、mは0〜3の整数を示す。]
【請求項2】
下記式(3)で表される構造単位を有する架橋性重合体。
【化3】


[式中、pは0〜3の整数を示し、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、mは0〜3の整数を示す。但し、pが1〜3の整数であるとき、R及びRは一緒になってメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基を形成していてもよい。また、pが2以上の整数であるとき、複数存在するR及びRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項3】
下記式(4)で表される構造を有する架橋性重合体。
【化4】


[式中、pは0〜3の整数を示し、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、mは0〜3の整数を示し、nは1以上の整数を示す。但し、pが1〜3の整数であるとき、R及びRは一緒になってメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基を形成していてもよい。また、pが2以上の整数であるとき、複数存在するR及びRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。また、nが2以上の整数であるとき、複数存在するp、m、R、R、R、R及びRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項4】
下記式(5)で表されるマレイミド化合物と下記式(6)で表されるエキソメチレン化合物とをラジカル共重合してなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の架橋性重合体。
【化5】


[式中、pは0〜3の整数を示し、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。但し、pが1〜3の整数であるとき、R及びRは一緒になってメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基を形成していてもよい。また、pが2以上の整数であるとき、複数存在するR及びRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化6】


[式中、mは0〜3の整数を示す。]
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の架橋性重合体を架橋してなる、架橋体。

【公開番号】特開2012−36232(P2012−36232A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174773(P2010−174773)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】