説明

架橋樹脂組成物、及び架橋樹脂組成物を被覆した電線・ケーブル及びモールド加工電線

【課題】モールド樹脂成形体との気密性が向上された電線・ケーブル及びモールド加工電線を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタン(TPU)100質量部に対し、酸無水物、シラン、アミン、エポキシのうち少なくとも一つの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物からなり、前記樹脂組成物は電子線照射で架橋処理されている架橋樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタンからなる架橋樹脂組成物、及び架橋樹脂組成物を被覆した電線・ケーブル及びモールド加工電線に関するものである。
【0002】
従来、自動車や、ロボット、電子機器用等に使用されるケーブルのシース材料としては、優れた機械特性と、低温での柔軟性を有することから、熱可塑性ポリウレタン(以下、TPU)が広く用いられている。電線・ケーブルの使用環境等によって、耐熱性、耐油性、耐摩耗性など種々の特性が要求され、特に耐熱性の要求される場合には、TPUを架橋処理することで、耐熱性を確保する方法が用いられている。
【0003】
また、これらの電線・ケーブルにセンサなどの機器部品や電極端子、その他の電子回路を接続する場合には、その接続部およびその近傍の周囲をモールド樹脂成形体で被覆し、接続部での防水を図っている。
【0004】
例えば、自動車用のアンチロックブレーキシステム(以下、ABS)のケーブルとして使用する場合、耐熱性や防水性が要求される。ABSは、自動車の安全制御システムとして、車輪速センサ、電子制御ユニット、及び油圧ユニットから構成され、車輪速センサは、車輪部に備え付けられているため、センサとシステムを結ぶケーブルは過酷な使用環境に晒され、耐熱性を有するケーブルであることは必須条件となる。一般に、センサとケーブルの接続部は、防水性の目的から、モールド樹脂成形体で被覆されており、モールド樹脂成形体としては、耐熱性や耐衝撃性、耐油性の高いポリアミドが多用されている。
【0005】
使用環境の影響による接触不良などを防ぐため、ケーブル接続部での防水性、つまり、電線の最外層絶縁体、又はケーブルのシースとモールド樹脂成形体との気密性の向上が特に要求されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、ABSセンサケーブルのシース材料として熱可塑性ポリウレタンと熱可塑性ポリエステルの混合樹脂組成物を架橋し、モールド樹脂成形体組成物との熱融着性を向上する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/013291号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電線・ケーブルの機械強度や柔軟性の観点から、最外層絶縁体材やシース材としては、混合樹脂とするよりも、TPU単独で用いることが好ましい。しかし、TPUを単独で用いると電線・ケーブルの端末に被覆するモールド樹脂成形体との気密性(防水性の評価の指標)の向上が難しいという問題があった。
【0009】
また、近年環境問題に対する意識が世界的に高まりつつあり、燃焼時にハロゲン有害ガスを発生することが懸念されるため、これら電線・ケーブルの絶縁体はハロゲンを含有しない材料から構成されることが求められる。
【0010】
そこで、本発明は、高い耐熱性を有する架橋樹脂組成物、及び前記架橋樹脂組成物を最外層絶縁体又はシースに適用し、モールド樹脂成形体との気密性が向上された電線・ケーブル及びモールド加工電線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために第1の発明は、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対し、酸無水物、シラン、アミン、エポキシのうち少なくとも一つの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物からなり、前記樹脂組成物は電子線照射により架橋処理されている架橋樹脂組成物である。
【0012】
第2の発明は、前記樹脂組成物中にトリアジン系またはリン系の難燃剤を含有する架橋樹脂組成物である。
【0013】
第3の発明は、前記難燃剤は前記樹脂組成物中の熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下含有する架橋樹脂組成物である。
【0014】
第4の発明は、前記トリアジン系難燃剤はメラミンシアヌレートである架橋樹脂組成物である。
【0015】
第5の発明は、導体の外周に絶縁体を有する電線において、前記電線の最外層に位置する絶縁体が、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対し、酸無水物、シラン、アミン、エポキシのうち少なくとも一つの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物から構成され、前記樹脂組成物は電子線により架橋処理されている電線である。
【0016】
第6の発明は、前記樹脂組成物中にトリアジン系またはリン系の難燃剤を含有する電線である。
【0017】
第7の発明は、前記難燃剤は前記樹脂組成物中の熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下含有する電線である。
【0018】
第8の発明は、導体上に絶縁体を有する電線を複数本撚りした電線コアの外周に絶縁体を有するケーブルにおいて、前記ケーブルの最外層に位置する絶縁体としてのシースが、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対し、酸無水物、シラン、アミン、エポキシのうち少なくとも一つの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物から構成され、前記樹脂組成物は電子線により架橋処理されているケーブルである。
【0019】
第9の発明は、前記樹脂組成物中にトリアジン系またはリン系の難燃剤を含有するケーブルである。
【0020】
第10の発明は、前記難燃剤は前記樹脂組成物中の熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下含有するケーブルである。
【0021】
第11の発明は、導体の外周に絶縁体を有する電線において、前記電線の最外層に位置する絶縁体が、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対し、酸無水物、シラン、アミン、エポキシのうち少なくとも一つの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物から構成され前記樹脂組成物は電子線により架橋処理された電線であり、前記電線の端末をモールド樹脂成形体で被覆されているモールド加工電線である。
【0022】
第12の発明は、導体の外周に絶縁体を有する電線において、前記電線の最外層に位置する絶縁体が、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対し、酸無水物、またはシラン、いずれかの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物から構成され、前記樹脂組成物は電子線により架橋処理された電線であり、前記電線の端末をポリブチレンテレフタレート樹脂から構成されるモールド樹脂成形体で被覆されているモールド加工電線である。
【0023】
第13の発明は、前記樹脂組成物中にトリアジン系またはリン系の難燃剤を含有するモールド加工電線である。
【0024】
第14の発明は、前記難燃剤は前記樹脂組成物中の熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下含有するモールド加工電線である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高い耐熱性を有する架橋樹脂組成物、及び架橋樹脂組成物を最外層絶縁体又はシースに適用し、モールド樹脂成形体との気密性が向上された電線・ケーブル及びモールド加工電線を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の架橋樹脂組成物を単層の絶縁体として用いた電線を示す断面図である。
【図2】本発明の架橋樹脂組成物を多層の絶縁体として用いた電線を示す断面図である。
【図3】本発明の架橋樹脂組成物を単層のシースとして用いたケーブルを示す断面図である。
【図4】本発明の架橋樹脂組成物を多層のシースとして用いたケーブルを示す断面図である。
【図5】本発明及び比較例におけるモールド樹脂成形体を被覆したケーブルの気密性を試験する試験装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0028】
図1〜図4は、本発明の架橋樹脂組成物を用いた電線・ケーブルの構造を示したものである。
【0029】
図1は、多数本の素線を撚り合わせて形成した導体11の外周に、本発明の樹脂組成物を最外層絶縁体12aとして単層で押出被覆し、これを電子線架橋して形成された電線10である。
【0030】
図2は、多数本の素線を撚り合わせて形成した導体11の外周に、絶縁体12として本発明の樹脂組成物、またはポリオレフィン樹脂組成物を被覆し、さらにその外周に最外層絶縁体12aとして本発明の樹脂組成物を押出被覆し、これを電子線架橋して形成された電線10である。
【0031】
図3は、図1に示した単層の絶縁体を有する電線10を複数撚り合わせた多芯撚り線13の外周に、本発明の樹脂組成物をシース22aとして押出被覆し、これを電子線架橋して形成されたケーブル20である。この場合、電線10の絶縁体は、本発明の樹脂組成物で構成されても、ポリオレフィン樹脂で構成されていても良い。
【0032】
図4は、図1に示した単層の絶縁体を有する電線10を複数撚り合わせた多芯撚り線13の外周に、内層の絶縁体22として本発明の樹脂組成物、またはポリオレフィン樹脂組成物を、シース22aとして本発明の樹脂組成物を押出被覆し、これを電子線架橋して形成されたケーブル20である。この場合、電線10の絶縁体は、本発明の樹脂組成物で構成されても、ポリオレフィン樹脂で構成されていても良い。
【0033】
この電線10やケーブル20は、導体11にセンサなどの機器部品や電極端子を接続する際には、その接続部及びその近傍の外周に、機器部品や電極端子を覆うように、樹脂を射出成形してモールド被覆してもよい。
【0034】
本発明の架橋樹脂組成物は柔軟且つ耐熱性に優れており、特に架橋樹脂組成物を電線10の最外層絶縁体12aや、ケーブル20のシース22aに適用した電線・ケーブルは、その端末の接続部をモールド樹脂で被覆された場合にも、モールド樹脂成形体との高い気密性を示す。
【0035】
以下に、本発明の架橋樹脂組成物について説明する。
【0036】
本発明の架橋樹脂組成物は、TPU100質量部に対し、酸無水物、シラン、アミン、エポキシのうち少なくとも一つを含むビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物からなり、この樹脂組成物を電子線照射で架橋処理したものである。
【0037】
本発明で用いられるTPUは、ポリエステル系ウレタン(アジペート系、カプロラクトン系、ポリカーボネイト系)、ポリエーテル系ウレタンが挙げられ、耐湿熱性などの点からポリエーテル系ウレタンが好ましい。
【0038】
上記樹脂組成物に適用するビニルモノマ含有TPUにおいて、ビニルモノマの添加量が0.01質量部未満であると、モールド樹脂成形体を被覆した際に、良好な気密性を確保できない。また、ビニルモノマが20質量部より多いと電線の最外層絶縁体または、ケーブルのシース表面にビニルモノマがブリードアウトし、外観が悪くなる。
【0039】
さらに好ましくは、TPU100質量部に対して、ビニルモノマが1質量部以上10質量部以下であるとよい。0.01質量部含まれていることで、最低限度の気密性は達成できるものの、ビニルモノマは20質量部を上限として、その添加量が多いほど、モールド樹脂成形体との気密性が良好なものとなる。一方で、あまり多く添加しすぎると、一般に後述するようなビニルモノマは液体状であるものが多いため、TPUを含む樹脂組成物に大量に添加すると、樹脂組成物自体の粘度が低くなり、成形する際にある程度の粘度調整が必要となる場合もあるため、製造面からすると、ビニルモノマの添加量としては1質量部以上10質量部以下であると良い。
【0040】
樹脂組成物に添加された酸無水物、シラン、アミン、エポキシのいずれかの官能基を含むビニルモノマは非常に高い反応性を有しており、電子線照射によりTPUとグラフトし、TPUとビニルモノマの官能基が強固に結合し、耐熱性に優れた架橋樹脂組成物となる。
【0041】
酸無水物含有ビニルモノマとしては無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられる。
【0042】
シラン含有ビニルモノマとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのシラン化合物が挙げられる。
【0043】
アミン含有ビニルモノマとしては、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾールなどのアミン化合物が挙げられる。
【0044】
エポキシ含有ビニルモノマとしては、ビニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、リモネンモノオキシド、1,3−ブタジエンモノエポキシド、1,2−エポキシ−9−デセン、グリシジルメタクリレート、ビニルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0045】
さらに、上記樹脂組成物中に、難燃剤を添加しても良い。添加量としては、TPU100質量部に対し、30質量部以上200質量部以下であると良い。
【0046】
難燃剤としては、トリアジン系難燃剤やリン系難燃剤を用いることが好ましく、これらを単独または併用して用いることができる。30質量部未満であると、十分な難燃性を付与することができず、200質量部より多いと絶縁体またはシースの表面にブルームし、外観を損なう。
【0047】
トリアジン系難燃剤としては、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンフォスフェートなどが挙げられる。中でもメラミンシアヌレートは成形時にメラミンが昇華し、金型の汚染を防止する効果があるため好ましい。リン系難燃剤としては赤燐、リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル、ホスファゼン化合物などが挙げられる。
【0048】
なお、難燃剤としては、塩素や臭素を含むハロゲン系難燃剤や、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの金属水和物などもあるが、ハロゲン系難燃剤は燃焼時に有害ガスを発生させるため適用できない。また金属水和物は、160〜300℃近傍で分解が始まるため、高温環境下にさらされると樹脂組成物が発泡し、外観を損なう。さらに、樹脂組成物を電線・ケーブルの最外層絶縁体やシースなどに適用し、電線・ケーブルの端末を射出成形などでモールド被覆する場合には、樹脂組成物中の難燃剤として金属水和物を使用すると、絶縁体(最外層絶縁体やシースを含む)が発泡し、モールド樹脂成形体との気密性の低下を招くため適用が困難である。
【0049】
上記樹脂組成物には、必要に応じて難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、滑剤、着色剤、補強剤、界面活性剤、酸化防止剤、無機充てん剤、カップリング剤、可塑剤、金属キレート剤、発泡剤、相溶化剤、加工助剤、安定剤などを添加することができる。
【0050】
次に、本発明の樹脂組成物を絶縁体に適用した電線・ケーブルについて説明する。
【0051】
上記樹脂組成物を導体上、または電線コア上に押出被覆し、電子線架橋し、電線・ケーブルの絶縁体として用いることができる。特に本発明の架橋樹脂組成物は、電線の最外層絶縁体やケーブルのシースとして好適に用いることができる。
【0052】
導体は、銅線に限らず、その他の金属や合金、セラミックスや有機物の線状体など、充分な導電性が確保できるものであれば使用可能である。
【0053】
架橋させる際の電子線照射の線量は、特に規定はないが100〜200kGyが好ましく、十分に架橋が進行するのに必要な量であればよい。本発明の樹脂組成物を電子線により架橋することで、耐熱性に優れる架橋樹脂組成物となる。電子線照射架橋以外の架橋方法として有機過酸化物を用いた化学架橋などがあるが、本発明の樹脂組成物のベース樹脂であるTPUの押出加工温度は200℃を超えるため、押出時にスコーチが発生するため、本発明の樹脂組成物の架橋方法としては適さない。
【0054】
さらに電線またはケーブルに電極端子等を接続させる場合、その接続部周辺にモールド樹脂を被覆する必要があるが、これら架橋樹脂組成物を最外層絶縁体又は、シースとして適用した電線・ケーブルは、上記効果に加え、接続部周辺に被覆されるモールド樹脂成形体との良好な気密性を示す。
【0055】
本発明の架橋樹脂組成物からなる絶縁体またはシースが、その外周に被覆されるモールド樹脂成形体との気密性に優れる理由は、以下のように説明される。
【0056】
本発明の樹脂組成物のベースポリマーはTPUから構成され、TPUは、ハードセグメントであるジイソシアネートと短鎖グリコールのウレタン結合部とソフトセグメントである長鎖グリコールからなり、このようなTPUに、酸無水物基、シラン基、アミン基、エポキシ基のいずれかの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを添加し、架橋させると、上記ビニルモノマのビニル基がTPUの長鎖グリコール部分とラジカル反応してグラフトし、強固に結合されるため、耐熱性に優れた架橋樹脂組成物とすることができる。さらに、これら架橋樹脂組成物からなる最外層絶縁体やシースを有する電線・ケーブルの外周にモールド樹脂成形体を被覆した場合、シースに保有されている官能基がモールド樹脂成形体を構成するポリマとも反応するため、モールド樹脂成形体との気密性を向上させることができると考えられる。
【0057】
特にモールド樹脂成形体として汎用されているポリアミドとの密着性が良好である。これは、モールド樹脂成形体を構成するポリマに含有されているアミノ基やカルボン酸が、最外層絶縁体や、シースを構成する架橋樹脂組成物に保有されている官能基と反応しているためと考えられる。
【0058】
その他ポリブチレンテレフタレート(以下、PBT)からなるモールド樹脂成形体との気密性も樹脂組成物中に添加するビニルモノマの官能基を適宜選定することにより向上される。後述する実施例に示すとおり、PBTからなるモールド樹脂成形体の場合、最外層絶縁体又はシースとなる架橋樹脂組成物に含有するビニルモノマとしては、特に酸無水物基又はシラン基を有するビニルモノマであるとその効果が高いことが分かった。
【0059】
上記架橋樹脂組成物を、電線・ケーブルに適用する場合、図1〜図4に示すように絶縁体は単層でも多層構造でもよい。絶縁体を多層構造とし、最外層に位置する最外層絶縁体、またはシースに本発明の架橋樹脂組成物を適用し、最外層以外の絶縁体(つまり内層に位置する絶縁体)には、本発明の樹脂組成物を用いても良いし、ポリオレフィン樹脂を適用することも可能である。
【0060】
ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸ポリオレフィン、エチレン系α−オレフィン共重合体などが挙げられ、これらを単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。特にEVAは、上記したような架橋樹脂組成物からなる最外層絶縁体やシースとの密着性に優れており、ケーブル端末加工時の寸法安定性を確保できる点から好適である。
【0061】
最外層絶縁体、またはシース以外のポリオレフィン樹脂からなる絶縁体には、必要に応じて難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、滑剤、着色剤、補強剤、界面活性剤、酸化防止剤、無機充てん剤、カップリング剤、可塑剤、金属キレート剤、発泡剤、相溶化剤、加工助剤、安定剤などを添加することができる。
【0062】
本発明の樹脂組成物を架橋させる際には、上述したように電子線により架橋処理を行うが、電線、ケーブルの最外層以外の絶縁体(つまり内層に位置する絶縁体)として、上記のポリオレフィン樹脂を被覆する際の架橋方法は特に規定するものではない。
【0063】
架橋処理は、有機過酸化物または硫黄化合物による化学架橋、電子線、放射線などによる照射架橋、その他の化学反応を利用した架橋などがあるが、いずれの架橋方法でも適用可能である。
【0064】
なお、本発明の樹脂組成物は、電線・ケーブルに限定されるものではなく、パイプ、シート、チューブ、ロッド、紐などの押出成形物やフィルムなどのブロー成形物、ボトル、各種容器、繊維などあらゆる成形物で電子線照射により架橋処理されているものに適用可能である。
【実施例】
【0065】
次に本発明の実施例を比較例と併せて以下に説明する。
【0066】
構成48本/0.08mmの導体に絶縁体として低密度ポリエチレン(d:920kg/m2)であるミラソン3530(三井デュポンケミカル製)を外径1.4mmになるように40mm押出機(L/D=24)を用いて、押出被覆する。得られた絶縁電線に照射量100kGyで電子線を照射し、この絶縁電線を2本撚り合わせた多芯撚り線を用意した。実施例1、2では、上記多芯撚り線上にシースとして表1の実施例1、2に示す組成物を外径4.0mmになるように押出被覆した。得られたケーブルを200kGyで電子線を照射し、シースを架橋させ、図3に示すようなケーブルを作製した。
【0067】
また、実施例1、2以外の実施例及び比較例では、上記多芯撚り線上に内層絶縁体としてEVA(VA=33%)、EV170(三井デュポンケミカル製)を外径が3.4mmとなるように被覆し、さらに、シースとして表1に示す組成物を外径4.0mmになるように押出被覆した。得られたケーブルを200kGyで電子線を照射し、シースを架橋させ、図4に示すようなシースが2層からなるケーブルを作製した。
【0068】
耐熱試験としてJASO D608のAVXに準拠し、ケーブル同径(4mmφ)に6回巻付け、200℃の恒温槽内で30分間加熱した後、室温になるまで放冷したとき、ケーブル外観が溶融または亀裂がないものを合格(○)とした。溶融または、亀裂が出たものについては、不合格(×)とした。
【0069】
架橋度は、JASO D608のAVXに準拠してゲル分率を記載した。
【0070】
ブルーム評価は、ケーブルを23℃、50%RH環境下で1週間後のケーブル外観を観察し、ブルームのしないものを合格(○)、ブルームが激しく外観を損ねるものを(×)とした。
【0071】
また、実施例21〜38、及び、比較例11〜13は、シースに難燃剤を添加した場合の実施例である。この場合の難燃性評価は、JASO D608のAVXに準拠し、ケーブルを水平に保ち、10秒炎を当て、炎を取り去った後、消火するまでの時間で評価する。炎除去から60秒以下で消火されれば良く、30秒以内に消火したものであると、さらに難燃性に優れていると判断できる。
【0072】
剥離評価は、ガラス繊維強化ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)(GF(ガラス繊維含有率)=30%)デンカGR−2030G(電気化学工業製)を短冊状(長さ100mm、幅10mm、厚さ1mm)に射出成形し、得られた短冊サンプルに表1〜3に示すシース材料を熱プレス成形にて張合わせ、電子線照射した。得られたサンプルを引張速度50mm/minでT字剥離試験を実施し、剥離強度40N/cm以上を合格(○)とした。40N/cm未満であるものは、不合格(×)とした。
【0073】
気密性評価は、図5に示すようにケーブル26の片端にポリアミド(GF=30%)レニー1002F(三菱エンジニアリングプラスチックス製)を射出成形でモールド成形(直径φ15mm、長さ20mm、ケーブル挿入長さ15mm)してモールド樹脂成形体25として端末を封止したものをサンプルとした。得られたサンプルを−40℃×30分、120℃×30分でヒートショック試験1000サイクルを実施した。
【0074】
その後、図5に示すようにサンプルを、ポリアミドモールド樹脂成形体25が水槽23の水24に浸るようにした状態で、ケーブル26端末に空気供給機21から0.2MPaで圧縮空気を30秒送り込んだ。その間にポリアミドモールド樹脂成形体25とケーブル26の間から気泡22が出ないものを合格とした。
【0075】
試験数は50本とし、合格数/試験数で表し、合格数50のものを合格とした。評価としては、50/50であれば合格であるが、さらに、ケーブルとポリアミドモールド樹脂成形体の気密性を確認するために、合格と判定されたケーブルについて、ケーブルとポリアミドモールド樹脂成形体の引き抜き試験を行った。ケーブルが抜けずにポリアミドモールド樹脂成形体が破壊したものを○、ケーブルとポリアミドモールド樹脂成形体の界面が破壊したものを△とした。なお、合格数50未満のものは×と判定した。
【0076】
上記のように各項目について評価し、耐熱性、ブルームの有無、剥離性及びポリアミドモールド樹脂成形体との気密性において、すべて合格であるものについて、総合評価を合格(○)とする。耐熱性、ブルームの有無、剥離性及びポリアミドモールド樹脂成形体との気密性のいずれかひとつでも不合格である場合には、総合評価も不合格(×)となる。
【0077】
実施例1
シースにおいて、TPUとしてET890(BASFジャパン製)100質量部、シラン含有ビニルモノマとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのKBM503(信越シリコーン製)1質量部を、2軸押出機(東洋精機製ラボプラストミル、L/D=30)を用いて、ダイス温度200℃、スクリュ回転数150rpm、吐出量3kg/hでコンパウンドを作製した。シース外径4.0mmとなるように40mm押出機(L/D=24)により押出被覆し、図3に示す様なケーブルを作製した。得られたケーブルに200kGyの電子線を照射し架橋処理を行った。
【0078】
その結果を表1に示す。シースのゲル分率は77%であり、十分に架橋されていることが確認できる。また、シースの外観にブルームはなく、耐熱性試験においても溶融や亀裂などは見られないことから、十分な耐熱性を有していることが分かる。さらに、剥離強度は45N/cm、ポリアミドモールド樹脂成形体と気密性試験についても50本中50本が合格しており、引き抜き試験の際にはモールド樹脂成形体が破壊されていることから、より強固にシースとポリアミドモールド樹脂成形体が密着していることが分かる。全ての評価に合格しているため、総合判定も合格(○)である。
【0079】
実施例2
シースにおいて、TPUとしてET890(BASFジャパン製)100質量部、エポキシ含有ビニルモノマとしてグリシジルメタクリレートのブレンマーG(日本油脂製)1質量部を、2軸押出機(東洋精機製ラボプラストミル、L/D=30)を用いて、ダイス温度200℃、スクリュ回転数150rpm、吐出量3kg/hでコンパウンドを作製した。シース外径4.0mmとなるように40mm押出機(L/D=24)により押出被覆し、図3に示す様なケーブルを作製した。得られたケーブルに200kGyの電子線を照射し架橋処理を行った。
【0080】
その結果、表1に示すように、シースのゲル分率は77%であり、十分に架橋されていることが確認できる。また、シースの外観にブルームはなく、耐熱性試験においても溶融や亀裂などは見られないことから、十分な耐熱性を有していることが分かる。さらに、剥離強度は44N/cm、ポリアミドモールド樹脂成形体と気密性試験についても50本中50本が合格しており、引き抜き試験の際にはモールド樹脂成形体が破壊されていることから、より強固にシースとポリアミドモールド樹脂成形体が密着していることが分かる。全ての評価に合格しているため、総合判定も合格(○)である。
【0081】
実施例3
シースにおいて、TPUとしてET890(BASFジャパン製)100質量部、アミン含有ビニルモノマとして2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジンのMAVT(四国化成工業製)1質量部を、2軸押出機(東洋精機製ラボプラストミル、L/D=30)を用いて、ダイス温度200℃、スクリュ回転数150rpm、吐出量3kg/hでコンパウンドを作製した。内層絶縁体として、EVA EV170(三井デュポンケミカル製)を用い、内層絶縁体外径3.4mm、シース外径4.0mmとなるように40mm押出機(L/D=24)により押出被覆し、図4に示す様なケーブルを作製した。得られたケーブルに200kGyの電子線を照射し架橋処理を行った。
【0082】
その結果を表1に示す。シースの外観にブルームはなく、耐熱性試験においても溶融や亀裂などは見られないことから、十分な耐熱性を有していることが分かる。剥離強度は41N/cmであり、シースとポリアミドモールド樹脂成形体との引き抜き試験の際には、シースとモールド樹脂成形体の界面が破壊されていることから、実施例1、2に比較すると多少密着性が劣っていると考えられるものの、気密性試験については50本中50本が合格しており、十分な気密性を有していることが確認できる。全ての評価に合格しているため、総合判定も合格(○)である。
【0083】
実施例4
シースにおいて、TPUとしてET890(BASFジャパン製)100質量部、酸無水物含有ビニルモノマとして日本油脂製の無水マレイン酸1質量部を、2軸押出機(東洋精機製ラボプラストミル、L/D=30)を用いて、ダイス温度200℃、スクリュ回転数150rpm、吐出量3kg/hでコンパウンドを作製した。内層絶縁体として、EVA EV170(三井デュポンケミカル製)を用い、内層絶縁体外径3.4mm、シース外径4.0mmとなるように40mm押出機(L/D=24)により押出被覆し、図4に示す様なケーブルを作製した。得られたケーブルに200kGyの電子線を照射し架橋処理を行った。
【0084】
その結果を表1に示す。シースの外観にブルームはなく、耐熱性試験においても溶融や亀裂などは見られないことから、十分な耐熱性を有していることが分かる。さらに、剥離強度は43N/cm、ポリアミドモールド樹脂成形体と気密性試験についても50本中50本が合格しており、引き抜き試験の際にはモールド樹脂成形体が破壊されていることから、より強固にシースとポリアミドモールド樹脂成形体が密着していることが分かる。全ての評価に合格しているため、総合判定も合格(○)である。
【0085】
実施例5〜8
シースにおいて、TPUとしてET890(BASFジャパン製)、アミン含有ビニルモノマとして2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジンのMAVT(四国化成工業製)を表1に示した配合で、2軸押出機(東洋精機製ラボプラストミル、L/D=30)を用いて、ダイス温度200℃、スクリュ回転数150rpm、吐出量3kg/hでコンパウンドを作製した。内層絶縁体として、EVA EV170(三井デュポンケミカル製)を用い、内層絶縁体外径3.4mm、シース外径4.0mmとなるように40mm押出機(L/D=24)により押出被覆し、図4に示す様なケーブルを作製した。得られたケーブルに200kGyの電子線を照射し架橋処理を行った。
【0086】
その結果、表1に示すように、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジンを0.01〜20質量部の間で添加した実施例5〜8では、いずれの評価も良好であり、総合評価も合格となる。特に、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジンの添加量が3〜20質量部の実施例6〜8では、シースとポリアミドモールド樹脂成形体との引き抜き試験において、ポリアミドモールド樹脂成形体が破壊されていることから、より強固にシースとポリアミドモールド樹脂成形体が密着していることが確認できる。
【0087】
実施例9〜12
シースにおいて、TPUとしてET890(BASFジャパン製)、シラン含有ビニルモノマとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのKBM503(信越シリコーン製)を表1に示した配合で、2軸押出機(東洋精機製ラボプラストミル、L/D=30)を用いて、ダイス温度200℃、スクリュ回転数150rpm、吐出量3kg/hでコンパウンドを作製した。内層絶縁体として、EVA EV170(三井デュポンケミカル製)を用い、内層絶縁体外径3.4mm、シース外径4.0mmとなるように40mm押出機(L/D=24)により押出被覆し、図4に示す様なケーブルを作製した。得られたケーブルに200kGyの電子線を照射し架橋処理を行った。
【0088】
その結果、表1に示すように、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを0.01〜20質量部の間で添加した実施例9〜12では、いずれの評価も良好であり、総合評価も合格となる。特に、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの添加量が3〜20質量部の実施例10〜12では、シースとポリアミドモールド樹脂成形体との引き抜き試験において、ポリアミドモールド樹脂成形体が破壊されていることから、より強固にシースとポリアミドモールド樹脂成形体が密着していることが確認できる。
【0089】
実施例13〜16
シースにおいて、TPUとしてET890(BASFジャパン製)、酸無水物含有ビニルモノマとして日本油脂製の無水マレイン酸を表1に示した配合で、2軸押出機(東洋精機製ラボプラストミル、L/D=30)を用いて、ダイス温度200℃、スクリュ回転数150rpm、吐出量3kg/hでコンパウンドを作製した。内層絶縁体として、EVA EV170(三井デュポンケミカル製)を用い、内層絶縁体外径3.4mm、シース外径4.0mmとなるように40mm押出機(L/D=24)により押出被覆し、図4に示す様なケーブルを作製した。得られたケーブルに200kGyの電子線を照射し架橋処理を行った。
【0090】
その結果、表1に示すように、無水マレイン酸を0.01〜20質量部の間で添加した実施例13〜16では、いずれの評価も良好であり、総合評価も合格となる。特に、無水マレイン酸の添加量が3〜20質量部の実施例14〜16では、シースとポリアミドモールド樹脂成形体との引き抜き試験において、ポリアミドモールド樹脂成形体が破壊されていることから、より強固にシースとポリアミドモールド樹脂成形体が密着していることが確認できる。
【0091】
実施例17〜20
シースにおいて、TPUとしてET890(BASFジャパン製)、エポキシ含有ビニルモノマとしてグリシジルメタクリレートのブレンマーG(日本油脂製)を表1に示した配合で、2軸押出機(東洋精機製ラボプラストミル、L/D=30)を用いて、ダイス温度200℃、スクリュ回転数150rpm、吐出量3kg/hでコンパウンドを作製した。内層絶縁体として、EVA EV170(三井デュポンケミカル製)を用い、内層絶縁体外径3.4mm、シース外径4.0mmとなるように40mm押出機(L/D=24)により押出被覆し、図4に示す様なケーブルを作製した。得られたケーブルに200kGyの電子線を照射し架橋処理を行った。
【0092】
その結果、表1に示すように、グリシジルメタクリレートを0.01〜20質量部の間で添加した実施例17〜20では、いずれの評価も良好であり、総合評価も合格となる。特に、グリシジルメタクリレートの添加量が3〜20質量部の実施例18〜20では、シースとポリアミドモールド樹脂成形体との引き抜き試験において、ポリアミドモールド樹脂成形体が破壊されていることから、より強固にシースとポリアミドモールド樹脂成形体が密着していることが確認できる。
【0093】
また、実施例1〜20においては、ケーブル端末に被覆するモールド樹脂成形体として、ポリアミド樹脂を用いて実施したところ、いずれも良好な結果が得られたため、モールド樹脂成形体として、ポリアミドに代えて、ポリブチレンテレフタレート((GF=30%)ノバデュラン5010G30X4(三菱エンジニアリングプラスチックス製))を用いたところ、気密性試験において、すべて試験数50本中40本以上が合格と、ポリアミドモールド樹脂成形体の場合と比較すると多少劣るものの、気密性を示すことが確認された。特にシランを含有する3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを添加した実施例1、9〜12及び、酸無水物を含有する無水マレイン酸を添加した実施例4、13〜16のケーブルについては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)モールド樹脂成形体との気密性試験においてすべて50本中50本が合格と、高い気密性を示すことがわかった。
【0094】
【表1】

【0095】
実施例21〜38
シースにおいて、TPUとしてET890(BASFジャパン製)、シラン含有ビニルモノマとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのKBM503(信越シリコーン製)、酸無水物含有ビニルモノマとして日本油脂製の無水マレイン酸、トリアジン系難燃剤としてメラミンシアヌレートのMC−5S(堺化学工業製)、リン系難燃剤として芳香族縮合リン酸エステルのPX−200(大八化学工業製)を表2に示した配合で、2軸押出機(東洋精機製ラボプラストミル、L/D=30)を用いて、ダイス温度200℃、スクリュ回転数150rpm、吐出量3kg/hでコンパウンドを作製した。内層絶縁体として、EVA EV170(三井デュポンケミカル製)を用い、内層絶縁体外径3.4mm、シース外径4.0mmとなるように40mm押出機(L/D=24)により押出被覆し、図4に示す様なケーブルを作製した。得られたケーブルに200kGyの電子線を照射し架橋処理を行った。
【0096】
その結果を表2に示す。難燃剤を添加した実施例21〜38についても、全ての評価に合格し、総合評価も○である。また、難燃剤を添加した場合でも、実施例1〜20と同様の傾向が見られ、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、無水マレイン酸などの官能基を有するビニルモノマの添加量が0.01質量部の実施例21〜24、実施例29〜32と比較し、官能基を有するビニルモノマの添加量が20質量部である実施例25〜28、実施例33〜38では、シースとポリアミドモールド樹脂成形体との引き抜き試験において、ポリアミドモールド樹脂成形体自体が破壊されていることから、官能基を有するビニルモノマの添加量は、規定の範囲内でより多いほど、シースとポリアミドモールド樹脂成形体との密着性が良好であることが確認できる。
【0097】
また、ケーブルの難燃性についても、難燃剤を30〜200質量部添加した実施例21〜36では、難燃性試験において、炎の除去から30秒以内で自己消火されていることから、優れた難燃性を示すことが確認できる。実施例37、38については、60秒以下で自己消火されており、難燃性は示すものの、難燃剤の添加量が20質量部と少ないため、実施例21〜36に比べ難燃性が多少劣るものとなっている。これより、難燃剤のより好ましい添加量としては、TPU100質量部に対し、30質量部以上200質量部以下であると良いことが分かる。
【0098】
また、実施例21〜38についても、ケーブル端末に被覆するモールド樹脂成形体として、ポリアミド樹脂に代えて、ポリブチレンテレフタレート((GF=30%)ノバデュラン5010G30X4(三菱エンジニアリングプラスチック製))を用いたところ、気密性試験において、すべて試験数50本中50本が合格と、ポリアミドモールド樹脂成形体を被覆した場合と、同等の気密性を示すことが確認された。
【0099】
【表2】

【0100】
比較例1
シースにTPU、内層絶縁体としてEVAを用い、照射量を0kGyとしてケーブルを作製した。
【0101】
その結果を表3に示す。シースの外観にブルームは発生しておらず、電子線を照射していないため、シースのゲル分率は0であり、架橋されていない。また架橋していないため、ポリアミドモールド樹脂成形体とも密着するため気密性も十分であるが、耐熱性試験において、シースが溶融してしまい、不合格(×)と判定した。
【0102】
比較例2
シースにTPU、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0103】
その結果、表3に示すように、外層にブルームは確認されず、耐熱性も十分であるが、官能基を有するビニルモノマを添加していないため、剥離強度が基準値以下の22N/cmとなり、ポリアミドモールド樹脂成形体との気密性についても試験数50本に対し、合格数が0本と、気密性を示さないため、総合評価は不合格(×)となる。
【0104】
比較例3
シースにおいて、TPU100質量部、アミン含有ビニルモノマとして2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン0.009質量部、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0105】
その結果、表3に示すように、外層にブルームは確認されず、耐熱性も十分であるが、官能基を有するビニルモノマの添加量が規定値以下の0.009と少なかったため、剥離強度が基準値以下の38N/cmとなり、ポリアミドモールド樹脂成形体との気密性についても試験数50本に対し、合格数が42本と、気密性が低く、総合評価も不合格(×)となる。
【0106】
比較例4
シースにおいて、TPU100質量部、アミン含有ビニルモノマとして2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン21質量部、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0107】
その結果、表3に示すように、耐熱性、剥離強度、ポリアミドモールド樹脂成形体との気密性については良好であったが、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジンの添加量が規定値を超える21質量部であったため、シースの表面にブルームが発生してしまい、総合評価も不合格(×)となる。
【0108】
比較例5
シースにおいて、TPU100質量部、シラン含有ビニルモノマとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.009質量部、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0109】
その結果、表3に示すように、外層にブルームは確認されず、耐熱性も十分であるが、官能基を有するビニルモノマの添加量が規定値以下の0.009と少なかったため、剥離強度が基準値以下の39N/cmとなり、ポリアミドモールド樹脂成形体との気密性についても試験数50本に対し、合格数が40本と、気密性が低く、総合評価も不合格(×)となる。
【0110】
比較例6
シースにおいて、TPU100質量部、シラン含有ビニルモノマとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン21質量部、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0111】
その結果、表3に示すように、耐熱性、剥離強度、ポリアミドモールド樹脂成形体との気密性については良好であったが、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの添加量が規定値を超える21質量部であったため、シースの表面にブルームが発生してしまい、総合評価も不合格(×)となる。
【0112】
比較例7
シースにおいて、TPU100質量部、無水マレイン酸0.009質量部、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0113】
その結果、表3に示すように、外層にブルームは確認されず、耐熱性も十分であるが、官能基を有するビニルモノマの添加量が規定値以下の0.009と少なかったため、剥離強度が基準値以下の39N/cmとなり、ポリアミドモールド樹脂成形体との気密性についても試験数50本に対し、合格数が43本と、気密性が低く、総合評価も不合格(×)となる。
【0114】
比較例8
シースにおいて、TPU100質量部、無水マレイン酸21質量部、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0115】
その結果、表3に示すように、耐熱性、剥離強度、ポリアミドモールド樹脂成形体との気密性については良好であったが、無水マレイン酸の添加量が規定値を超える21質量部であったため、シースの表面にブルームが発生してしまい、総合評価も不合格(×)となる。
【0116】
比較例9
シースにおいて、TPU100質量部、グリシジルメタクリレート0.009質量部、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0117】
その結果、表3に示すように、外層にブルームは確認されず、耐熱性も十分であるが、官能基を有するビニルモノマの添加量が規定値以下の0.009と少なかったため、剥離強度が基準値以下の38N/cmとなり、ポリアミドモールド樹脂成形体との気密性についても試験数50本に対し、合格数が38本と、気密性が低く、総合評価も不合格(×)となる。
【0118】
比較例10
シースにおいて、TPU100質量部、グリシジルメタクリレート21質量部、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0119】
その結果、表3に示すように、耐熱性、剥離強度、ポリアミドモールド樹脂成形体との気密性については良好であったが、グリシジルメタクリレートの添加量が規定値を超える21質量部であったため、シースの表面にブルームが発生してしまい、総合評価も不合格(×)となる。
【0120】
比較例11
シースにおいて、TPU100質量部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン10質量部、メラミンシアヌレートを210質量部、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0121】
その結果、表3に示すように、耐熱性、ポリアミドモールド樹脂成形体との気密性、難燃性については良好であったが、シースを構成する樹脂組成物中に添加した難燃剤が規定量より多かったために、シース表面に難燃剤がブルームしたため×と判定した。よって総合評価も不合格(×)となる。
【0122】
比較例12
シースにおいて、TPU100質量部、シラン含有ビニルモノマとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン10質量部、リン系難燃剤として芳香族縮合リン酸エステルを210質量部、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0123】
その結果、表3に示すように、耐熱性、ポリアミドモールド樹脂成形体との気密性、難燃性については良好であったが、シースを構成する樹脂組成物中に添加した難燃剤が規定量より多かったために、シース表面に難燃剤がブルームしたため×と判定した。よって総合評価も不合格(×)となる。
【0124】
比較例13
シースにおいて、TPU100質量部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン10質量部、難燃剤として水酸化マグネシウムを100質量部、内層絶縁体としてEVA、照射量を200kGyとしてケーブルを作製した。
【0125】
その結果、表3に示すように、耐熱性、難燃性、ブルームについては良好であったが、シースを構成する樹脂組成物中に添加する難燃剤として金属水和物を用いたために、成形中の熱により、金属水和物が分解されて発泡し、シースとポリアミドモールド樹脂成形体との間に隙間ができてしまい、気密性試験において、試験数50本に対して合格数5本と少なく、総合評価も不合格(×)となる。
【0126】
また、比較例1〜13についても、ケーブル端末に被覆するモールド樹脂成形体として、ポリアミド樹脂に代えて、ポリブチレンテレフタレートを用いたところ、比較例1、4、6〜8、10〜12では、気密性試験において、試験数50本中40本以上が合格しており、モールド樹脂成形体としてポリブチレンテレフタレートを用いた場合でも、ビニルモノマの添加量を増やすと気密性を示すことが分かるが、外層表面にブルーム発生してしまう等の問題があるため、適さない。
【0127】
【表3】

【0128】
以上、実施例と比較例を説明したが、比較例2のようにTPUにビニルモノマを添加しない場合、またはTPUに添加するビニルモノマの量が比較例3、5、7、9のように0.01質量部よりも少ないと、ポリアミドモールド樹脂成形体との十分な気密性を得ることができず、比較例4、6、8、10のようにビニルモノマの添加量が20質量部よりも多すぎるとシース表面にブルームしてしまう。また比較例1のように、樹脂組成物を被覆したシースを電子線照射しないと、架橋されていないため、耐熱性がなく、熱を加えると溶融してしまい、ケーブル形状を保持することができない。従って、TPU100質量部に対して官能基を含有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下添加した樹脂組成物に、電子線照射により架橋された、架橋樹脂組成物を電線の最外層絶縁体、又はケーブルのシースとして用いることで、電線、又はケーブル端末に被覆するポリアミドモールド樹脂成形体との気密性を向上することができる。さらに、樹脂組成物にトリアジン系またはリン系難燃剤を30質量部以上200質量部以下添加することで上記効果に加え、難燃性も付与することができる。
【符号の説明】
【0129】
10 電線
11 導体
12、22 絶縁体
12a 最外層絶縁体
13 多芯撚り線
20 ケーブル
22a シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタン100質量部に対し、酸無水物、シラン、アミン、エポキシのうち少なくとも一つの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物からなり、前記樹脂組成物は電子線照射により架橋処理されていることを特徴とする架橋樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物中にトリアジン系またはリン系の難燃剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の架橋樹脂組成物。
【請求項3】
前記難燃剤は前記樹脂組成物中の熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下含有することを特徴とする請求項2に記載の架橋樹脂組成物。
【請求項4】
前記トリアジン系難燃剤はメラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項2または3に記載の架橋樹脂組成物。
【請求項5】
導体の外周に絶縁体を有する電線において、前記電線の最外層に位置する絶縁体が、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対し、酸無水物、シラン、アミン、エポキシのうち少なくとも一つの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物から構成され、前記樹脂組成物は電子線により架橋処理されていることを特徴とする電線。
【請求項6】
前記樹脂組成物中にトリアジン系またはリン系の難燃剤を含有することを特徴とする請求項5に記載の電線。
【請求項7】
前記難燃剤は前記樹脂組成物中の熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下含有することを特徴とする請求項6に記載の電線。
【請求項8】
導体上に絶縁体を有する電線を複数本撚りした電線コアの外周に絶縁体を有するケーブルにおいて、前記ケーブルの最外層に位置する絶縁体としてのシースが、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対し、酸無水物、シラン、アミン、エポキシのうち少なくとも一つの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物から構成され、前記樹脂組成物は電子線により架橋処理されていることを特徴とするケーブル。
【請求項9】
前記樹脂組成物中にトリアジン系またはリン系の難燃剤を含有することを特徴とする請求項8に記載のケーブル。
【請求項10】
前記難燃剤は前記樹脂組成物中の熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下含有することを特徴とする請求項9に記載のケーブル。
【請求項11】
導体の外周に絶縁体を有する電線において、前記電線の最外層に位置する絶縁体が、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対し、酸無水物、シラン、アミン、エポキシのうち少なくとも一つの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物から構成され、前記樹脂組成物は電子線により架橋処理された電線であり、前記電線の端末をモールド樹脂成形体で被覆されていることを特徴とするモールド加工電線。
【請求項12】
導体の外周に絶縁体を有する電線において、前記電線の最外層に位置する絶縁体が、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対し、酸無水物、またはシラン、いずれかの官能基を分子構造内に有するビニルモノマを0.01質量部以上20質量部以下含有した樹脂組成物から構成され、前記樹脂組成物は電子線により架橋処理された電線であり、前記電線の端末をポリブチレンテレフタレート樹脂から構成されるモールド樹脂成形体で被覆されていることを特徴とする請求項11に記載のモールド加工電線。
【請求項13】
前記樹脂組成物中にトリアジン系またはリン系の難燃剤を含有することを特徴とする請求項11または12に記載のモールド加工電線。
【請求項14】
前記難燃剤は前記樹脂組成物中の熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下含有することを特徴とする請求項13に記載のモールド加工電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−18957(P2013−18957A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21759(P2012−21759)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】