説明

架橋樹脂組成物及びそれを用いた電線・ケーブル

【課題】難燃剤を配合することなく、JIS C 3660−2−1で定めるホットセット特性(200℃)を満足する耐熱性に優れた架橋樹脂組成物及びそれを用いた信頼性の高い電線・ケーブルを提供する
【解決手段】平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンと平均分子量が1000〜10万のポリオレフィンとからなる重合体成分と、架橋剤とを含有し、前記超高分子量ポリエチレンと前記ポリオレフィンの配合比が、質量比で10〜50:50〜90である架橋樹脂組成物、及びこの架橋樹脂組成物で形成された被覆層を有する電線・ケーブルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れる電線被覆用の架橋樹脂組成物と、それを用いた電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
架橋樹脂組成物として、従来からポリオレフィン系の樹脂組成物が知られている。ポリオレフィン系、なかでもポリエチレン系の樹脂組成物は、電気的特性、機械的特性、化学的特性などに優れるため、工業用の電線・ケーブルの絶縁被覆のみならず、家庭用の電線・ケーブルの絶縁被覆など、多くの用途に用いられている。このように樹脂組成物を電線等の被覆材として使用する際には、一定基準以上の耐熱性が求められるため、これらの架橋樹脂組成物の耐熱性の向上のために難燃剤を配合する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された架橋樹脂組成物は、第1の重合体成分100質量部に対し、第2の重合体成分0.1質量部と難燃剤5〜200質量部とを含む。ここで、第1の重合体成分は、(A)ポリオレフィン系樹脂又はゴム5〜95質量%と、(B)炭素同士の不飽和結合を有するエチレン共重合体95〜5質量%とから成り、第2の重合体成分は、1種以上の官能基を含有するポリエチレン系樹脂又はゴムを含む。これらの重合体成分中には、全重合体成分1g当たり10−8〜10−3g当量の官能基が含まれる。また、難燃剤としては、ハロゲン化難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤が挙げられており、これらの難燃剤を含有することによって、当該架橋樹脂組成物は、JIS C3005で規定される加熱変形特性(120℃)を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−62158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された架橋樹脂組成物は、耐熱性について現在の国内の基準である加熱変形特性(120℃)(JIS C3005)を目標に設計されたものであるため、国際規格に対応するJIS C 3660−2−1で定めるホットセット特性(200℃)については考慮されていない。一方、今後の産業のグローバル化を視野に入れると、国際規格の基準を満足させる耐熱性を有する被覆電線・ケーブルが求められることは必至である。
さらに、特許文献1に開示された架橋樹脂組成物は難燃剤を配合しているが、例えば、無機系難燃剤を配合した場合、配合率が高くなると機械的強度や可撓性及び加工性、耐摩耗性が低下するという問題点を有すると考えられる。
【0006】
本発明は、従来の電線被覆用の架橋樹脂組成物と、それを用いた電線・ケーブルにおける上記課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、難燃剤を配合することなく、JIS C 3660−2−1で定めるホットセット特性(200℃)を満足する耐熱性に優れた架橋樹脂組成物及びそれを用いた信頼性の高い電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、電線被覆用の架橋樹脂組成物の材料として通常使用されるポリオレフィンに加え、ある一定量の超高分子量ポリエチレンを用いた場合、40%という低い架橋度でも、難燃剤を使用することなく上記ホットセット特性(200℃)を満足し、且つ、該架橋樹脂組成物に求められる引張伸び特性をも満足することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の課題は下記(1)〜(7)により達成される。
(1)平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンと平均分子量が1000〜10万のポリオレフィンとからなる重合体成分と、架橋剤とを含有し、前記超高分子量ポリエチレンと前記ポリオレフィンの配合比が、質量比で10〜50:50〜90であることを特徴とする電線被覆用架橋樹脂組成物。
(2)前記ポリオレフィンがポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)に記載の電線被覆用架橋樹脂組成物。
(3)前記重合体成分100質量部に対して、前記架橋剤を0.5〜3.0質量部含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の電線被覆用架橋樹脂組成物。
(4)前記架橋剤が、ラジカル発生剤であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の電線被覆用架橋樹脂組成物。
(5)前記架橋剤が、シラン化合物であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の電線被覆用架橋樹脂組成物。
(6)前記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の架橋樹脂組成物で形成された被覆層を有することを特徴とする電線・ケーブル。
(7)前記被覆層の架橋度が40%以下であることを特徴とする前記(6)に記載の電線・ケーブル。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)によれば、難燃剤を配合することなく、200℃のホットセット試験を満足する優れた耐熱性を持つ架橋樹脂組成物を実現することができる。また、超高分子量ポリエチレンを配合するので、従来のポリオレフィンのみを使用した架橋樹脂組成物に比べて低い架橋度でも優れた耐熱性を得ることができる。更に、難燃剤を使用することなく上記ホットセット特性(200℃)を満足させることができるので、架橋剤の使用も低く抑えられるため、電線のコストを大幅に削減することができる。
上記(2)によれば、平均分子量が1000〜10万のポリオレフィンとしてポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種を用いるので、超高分子量ポリエチレンとより相溶しやすくなる。
上記(3)によれば、架橋剤を必要以上に用いることなく架橋反応を進めることができる。
上記(4)によれば、ラジカル発生剤を用いた化学架橋により架橋反応させるので、安定的に架橋反応を進めることができる。
上記(5)によれば、シラン化合物を用いたシラン架橋により架橋反応させるので、リードタイム(押出からから規格を満足するまでの日数)を短縮でき、樹脂のリユースを容易にすることができる。
上記(6)によれば、ホットセット特性(200℃)を満足する耐熱性に優れた電線・ケーブルを提供することができる。
上記(7)によれば、40%という低い架橋度でもホットセット特性(200℃)を満足する電線・ケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電線被覆用架橋樹脂組成物及びそれを用いた電線・ケーブルについて詳細に説明する。
【0011】
〔架橋樹脂組成物〕
本発明の架橋樹脂組成物は、平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンと平均分子量が1000〜10万のポリオレフィンとからなる重合体成分と、架橋剤とを含有する。
【0012】
超高分子量ポリエチレンは、例えば、触媒の存在下でエチレン単量体を、極限粘度をかえて多段階で重合させることにより製造することができ、平均分子量が100万以上のものをいう。超高分子量ポリエチレンは、エチレンの単独重合体であってもよいが、プロピレンを主成分とする他のα−オレフィンとのブロック共重合体あるいはランダム共重合体であってもよい。本発明に用いる超高分子量ポリエチレンは、平均分子量が100万〜600万のものが好ましく、100万〜400万のものがより好ましい。超高分子量ポリエチレンの市販品としては、例えば、ハイゼックスミリオン(登録商標)240S(商品名、三井化学株式会社製、平均分子量200万)等を挙げることができる。
【0013】
前記超高分子量ポリエチレンは、重合体成分中、10〜50質量%配合し、重合体成分中、20〜40質量%配合することが好ましい。超高分子量ポリエチレンの配合は、耐熱性に寄与する反面、引張伸び特性を損なうおそれがあるが、前記範囲とすることにより、得られる被覆層の架橋度を40%以下の低い値としても難燃剤を使用することなく所望のホットセット特性(耐熱性)を得ることができ、同時に引張伸び特性への影響を抑えることができる。
【0014】
ポリオレフィンは、平均分子量が1000〜10万の従来公知のものを使用でき、特に限定はされないが、例えば、ポリエチレン(具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE))、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレン(PP)等を挙げることができる。これらのポリオレフィンは超高分子量ポリエチレンとの相溶性に優れ、かつ引張伸び特性への影響を抑えることができる。
【0015】
前記ポリオレフィンは、重合体成分中、50〜90質量%配合し、重合体成分中、60〜80質量%配合することが好ましい。前記範囲とすることにより、架橋樹脂組成物が良好な引張伸び特性を得ることができる。
【0016】
本発明では、平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンと平均分子量が1000〜10万のポリオレフィンとからなる重合体成分とを架橋させてJIS C 3660−2−1で定める200℃におけるホットセット特性を満足させる架橋樹脂組成物とする。架橋方法としては特に限定されないが、ラジカル発生剤の存在下で架橋させる化学架橋や、シラン化合物の存在下で架橋させるシラン架橋、放射線架橋などが挙げられる。
【0017】
化学架橋に用いるラジカル発生剤としては、特に限定はされないが、例えば、ジクロロプロパノール(DCP)、第3ブチル−ベルオキシド等を用いることができる。ラジカル発生剤は、重合体成分100質量部に対し、0.5〜3.0質量部配合するのが好ましく、0.5〜1.5質量部がより好ましい。前記範囲とすることで、良好に架橋反応が進行する。
【0018】
シラン架橋に用いるシラン化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどを用いることができる。シラン化合物は、重合体成分100質量部に対し、0.5〜3.0質量部配合するのが好ましく、0.5〜1.5質量部がより好ましい。前記範囲であると、架橋度を40%以下とするのに適している。従来のポリオレフィン系架橋樹脂組成物では、例えば架橋度を60質量%以上とすることで所望の耐熱性を得ることができたが、本発明においては、架橋度を40%以下としても所望の耐熱性を得ることができるので、このように架橋剤の使用量を低く抑えることができる。
【0019】
本発明において、シラン架橋により架橋させる場合は、シラン化合物をラジカル発生剤の存在下でグラフト重合させることが好ましい。シラン架橋の際に用いるラジカル発生剤は、重合体成分100質量部に対し、0.05〜0.5質量部配合するのが好ましく、0.1〜0.2質量部がより好ましい。さらに、シラン架橋により架橋させる場合には、シラノール縮合触媒を配合することが好ましい。シラノール縮合触媒としてジブチル錫ジラウレートなどを配合することができる。
【0020】
なお、架橋度を低く抑えることの利点としては、上述のように、架橋剤の配合量を低減できること、またシラン架橋の場合には、所望の耐熱性を得るまでのリードタイムを短縮できること等の効果を挙げることができる。
【0021】
また必要に応じて、補強材、充填剤、酸化防止剤、滑剤などを添加することができる。
補強材としては、例えば、シリカなどを挙げることができる。充填剤としては、例えば、炭酸カルシウムなどを挙げることができる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤などを挙げることができる。滑剤としては、例えば、ステアリン酸などを挙げることができる。
【0022】
〔電線・ケーブル〕
本発明の電線・ケーブルは、上述した本発明の架橋樹脂組成物で形成された被覆層によって導体が被覆された電線・ケーブルである。この電線・ケーブルは、具体的には、例えば、外径0.5〜3.0mmφの軟銅線を複数本撚った導体を一体に覆うように本発明の架橋樹脂組成物を用いて押出成形し、次いで架橋し被覆層を形成することで得られる。本発明において、当該被覆層の架橋度は、リードタイムの短縮と、架橋剤の低減の観点から40%以下であることが好ましく、20〜40%であることがより好ましい。上述した本発明の架橋樹脂組成物を用いることで、40%以下の架橋度でホットセット特性(200℃)を満足する耐熱性に優れた電線・ケーブルの被覆層を形成することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
表1及び表2に示す各材料を記載された割合で混合し、230℃で押出成形することにより架橋樹脂組成物を作製し、これを導体に2mmの厚さとなるように被覆して、実施例1〜3及び比較例1〜3の電線を作製し、下記の試験に供した。
なお、表中で使用した材料の詳細を以下に記載する。
【0025】
・ポリオレフィン:NUC−5130(ダウケミカル日本株式会社製)
・超高分子量ポリエチレン:ハイゼックスミリオン(登録商標)240S(平均分子量200万)(三井化学株式会社製)
・シラン化合物:S210(チッソ株式会社製)
・ラジカル発生剤:Luperox(登録商標)500T(Elf Atochem North America社製)
・シラノール縮合触媒:U−810(日東化成株式会社製)
【0026】
<耐熱性試験>
耐熱性試験として、JIS C 3660−2−1で定めるホットセット特性試験(200℃試験)を行った。なお、ホットセット特性試験は、20N/cmの加負荷時及び常温に冷却後の無負荷時の伸び率を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0027】
<引張伸び試験>
引張伸び試験は、JIS C 3005で定める方法で行った。具体的には、上記電線から軟銅線を抜き取り、JIS K 6251の引張試験に規定するダンベル状3号形の試験片を作製して、この試料片を引張速度200mm/分にて実施した。引張伸び率は下記式で算出した。結果を表1及び表2に示す。
引張伸び率(%)=[(引張試験後の試料長)−(引張試験前の試料長)]×100/(引張試験前の試料長)
【0028】
<架橋度の測定>
架橋度は、JIS C 3005で定める方法にて測定した。具体的には、上記電線から厚さ1mmの試験片約0.5gを採取し、キシレンに試料を入れ、溶解せずに残った試料の質量の、浸漬前の試料の質量に対する割合を求めた。すなわち、架橋度は下記式で算出した。結果を表1及び表2に示す。
架橋度(%)=キシレン浸漬後の質量/キシレン浸漬前の質量×100
【0029】
<総合判定>
ホットセット特性(加負荷)が175%以下、ホットセット特性(無負荷)が15%以下、及び引張伸び率が200%以上を満たすものを「合格」と判断し、上記項目のうちいずれか1つでも前記基準から外れるものを「不合格」とした。結果を表1及び表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1及び表2より、本発明の架橋樹脂組成物を被覆した電線(実施例1〜3)は、比較例1〜3と比べて、耐熱性及び引張伸び特性においてバランスがとれた特性を有することが確認できた。また、実施例1〜3は全て40%以下の架橋度で架橋し、優れたホットセット特性(200℃)を満足させることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、工業用又は家庭用の電線・ケーブルやその絶縁被覆などの製造分野で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンと平均分子量が1000〜10万のポリオレフィンとからなる重合体成分と、架橋剤とを含有し、
前記超高分子量ポリエチレンと前記ポリオレフィンの配合比が、質量比で10〜50:50〜90であることを特徴とする電線被覆用架橋樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィンがポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の電線被覆用架橋樹脂組成物。
【請求項3】
前記重合体成分100質量部に対して、前記架橋剤を0.5〜3.0質量部含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電線被覆用架橋樹脂組成物。
【請求項4】
前記架橋剤が、ラジカル発生剤であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電線被覆用架橋樹脂組成物。
【請求項5】
前記架橋剤が、シラン化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電線被覆用架橋樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の架橋樹脂組成物で形成された被覆層を有することを特徴とする電線・ケーブル。
【請求項7】
前記被覆層の架橋度が40%以下であることを特徴とする請求項6に記載の電線・ケーブル。

【公開番号】特開2013−35944(P2013−35944A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173339(P2011−173339)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(501418498)矢崎エナジーシステム株式会社 (79)
【Fターム(参考)】