説明

架橋着色剤分散物の製造方法

架橋性部分を有する部分的に中和された分散剤ポリマーが、分散剤上の架橋性部分と架橋剤とを反応させることにより着色剤のための分散剤として用いられる、架橋着色剤分散物の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋分散物特に水性架橋着色剤分散物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年11月23日出願の米国仮特許出願第61/263635号からの35U.S.C.§119に基づく優先権を主張するものである。
【0003】
顔料の水性分散物は、インクジェット印刷において広く使用されている。顔料は典型的に水性ビヒクル中で不溶性であることから、多くの場合、水性ビヒクル中で顔料の安定した分散物を生成するためにポリマー分散剤または界面活性剤などの分散助剤を使用することが求められる。
【0004】
従来の分散剤は、物理的相互作用により粒子状固体上に吸着されている。数多くの従来の分散剤には、それらがより強く吸着または変位する材料によって粒子状固体の表面から容易に変位され、結果として分散物の不安定化および軟凝集をもたらすかもしれないという欠点がある。
【0005】
さまざまな分散方法が公知である。ポリマー分散剤を用いて顔料を分散させる2本ロールミリング方法は、米国特許第5310778号明細書中で開示されている。溶媒の組合せが使用され、ポリマー分散剤が、細かく分散した顔料粒子上に溶媒混合物から沈殿させられる方法が、米国特許第6923045号明細書中で開示されている。
【0006】
米国特許出願公開第2005/0009977号明細書は、少なくとも2つのエポキシ基を有する架橋剤と分散剤を架橋するステップを含む液体媒質中に分散された封入粒子状固体を製造するための方法を記述している。
【0007】
特開平9−104834号公報は、最初に樹脂を酸性化合物で処理して中性または酸性の分散物を製造し、その後続いて塩基性化合物を用いて樹脂のカルボキシル基を中和することによって、顔料と樹脂を用いて水性顔料分散物を生産するための方法について記述している。
【発明の概要】
【0008】
安定した着色剤分散物を製造するための操作が容易でより効果的でかつよりコストが低い方法に対するニーズが存在する。本発明は、部分的に中和された分散剤ポリマーを使用して分散剤ポリマーを顔料表面上に効果的に吸着させ、残留する未吸着ポリマーの量を削減して架橋剤と分散剤ポリマーの架橋に対する未吸着ポリマーの干渉を低下または除去することによる架橋着色剤分散物の製造方法を提供することによって、このニーズを満たす。
【0009】
本発明の一実施形態は、架橋着色剤分散物の製造方法において、
(a) 架橋性部分を有する部分的に中和された分散剤ポリマーを伴う水性ビヒクル中に着色剤を分散させるステップであって、前記分散剤ポリマーが着色剤に吸着され、残留する未吸着の分散剤ポリマーが着色剤濃度の20%未満であるステップと;
(b) 分散剤上の架橋性部分を架橋剤と反応させるステップと;
(c) 水性ビヒクルのpHを8超に調整するステップと;
を含む方法を提供している。
【0010】
別の実施形態は、この方法が、ステップ(a)またはステップ(c)の後に限外濾過により分散物を精製するステップをさらに含むことを規定している。
【0011】
別の実施形態は、未吸着分散剤ポリマーが着色剤濃度の10%未満であることを規定している。
【0012】
別の実施形態は、未吸着の分散剤ポリマーが着色剤濃度の5%未満であることを規定している。
【0013】
別の実施形態は、水性ビヒクルのpHがステップ(c)において8〜10.5に調整されることを規定している。
【0014】
別の実施形態は、架橋剤が、エポキシド、イソシアネート、カルボジイミド、N−メチロール、オキサゾリン、シランおよびその混合物からなる群から選択された1つまたは複数の要素であることを規定している。
【0015】
別の実施形態は、pHが8〜10.5であることを規定している。
【0016】
別の実施形態は、分散剤ポリマーが30%まで中和されていることを規定している。
【0017】
別の実施形態は、分散剤ポリマーが50%まで中和されていることを規定している。
【0018】
別の実施形態は、分散剤ポリマーが70%まで中和されていることを規定している。
【0019】
別の実施形態は、分散剤ポリマーが、ポリウレタン、ポリビニルおよびポリエステルからなる群から選択されることを規定している。
【0020】
別の実施形態は、分散剤ポリマーがポリウレタンであることを規定している。
【0021】
別の実施形態は、分散剤ポリマーがポリビニルであることを規定している。
【0022】
別の実施形態は、分散剤ポリマー上の架橋性部分が、酸、ヒドロキシル、アミノおよびそれらの混合物からなる群から選択された1つまたは複数の要素であることを規定している。
【0023】
別の実施形態は、分散剤ポリマー上の架橋性部分が酸であることを規定している。
【0024】
別の実施形態は、架橋剤がエポキシドであることを規定している。
【0025】
別の実施形態は、架橋剤がイソシアネートであることを規定している。
【0026】
別の実施形態は、分散剤ポリマー上の架橋性部分対架橋剤のモル比が15:1〜1:1.5であることを規定している。
【0027】
別の実施形態は、分散剤ポリマー上の架橋性部分対架橋剤のモル比が9:1〜1:1.1であることを規定している。
【0028】
別の実施形態は、分散剤ポリマー上の架橋性部分対架橋剤のモル比が8:1〜1:1であることを規定している。
【0029】
本発明のこれらのおよび他の特徴および利点は、以下の詳細な説明を読むことにより、当業者がより容易に理解するものである。明確さを期して別個の実施形態として以上および以下で記述されている本発明の一部の特徴は、単一の実施形態の組合せの形で提供されてもよい。逆に、単一の実施形態に関連して記載されている本発明のさまざまな特徴は、別個にまたは任意の下位組合せの形で提供されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0030】
別段の記載または定義のないかぎり、本明細書で使用されている全ての技術的および科学的用語は、本発明が関係する技術分野における当業者が一般に理解する意味を有する。
【0031】
別段の記載のないかぎり、全ての百分率、部分、比率などは、重量に基づくものである。
【0032】
量、濃度または他の値またはパラメータが、好ましい上位値および好ましい下位値の範囲、好ましい範囲またはリストのいずれかとして示されている場合、これは、範囲が別個に開示されているか否かとは無関係に、任意の上位範囲限界または好適値と任意の下位範囲限界または好適値の任意の対からなる全ての範囲を特定的に開示するものとして理解すべきである。一数値範囲が本明細書に記されている場合、別段の記載のないかぎり、この範囲は、その端点およびその範囲内の全ての整数および分数を含むように意図される。
【0033】
「約」という用語が1つの値または一範囲の端点を記述する上で使用されている場合、本開示は、言及されている具体的値または端点を含むものとして理解されるべきである。
【0034】
本明細書で使用される通り、以上で記述した分散剤ポリマーを用いて生成された分散物は、粒子特にインクジェットインク用顔料を分散させるために利用可能である。これらのインクは、普通紙、写真用紙、ネットワークおよび商業印刷向け用紙ならびに繊維基材を含む、全ての通常使用されるインクジェット基材上に印刷可能である。
【0035】
本明細書で使用される「分散物」という用語は、1つの相が、バルク物質全体を通して分布した細かく分割された粒子(多くの場合コロイドサイズ範囲内のもの)で構成され、これらの粒子が分散相または内部相であり、バルク物質が連続相または外部相である2相系を意味する。
【0036】
本明細書で使用される「分散剤」という用語は、多くの場合コロイドサイズの極めて細かい固体粒子の均一で最大限の分離を促進するために懸濁用媒質に添加される表面活性剤を意味する。顔料用としての分散剤は、最も多くの場合ポリマー分散剤である。
【0037】
本明細書で使用される「P/D」という用語は、顔料と分散剤の間の比を意味する。
【0038】
本明細書で使用される「水性ビヒクル」という用語は、水または水と少なくとも1つの水溶性または部分的に水溶性(すなわちメチルエチルケトン)の有機溶媒(共溶媒)との混合物を意味する。
【0039】
本明細書で使用される「Mw」という用語は、重量平均分子量を意味する。
【0040】
本明細書で使用される「Mn」という用語は、数平均分子量を意味する。
【0041】
本明細書で使用される「中和度」という用語は、中和剤により中和される分散剤ポリマー上の酸性成分のモル百分率を意味する。
【0042】
本明細書で使用される「D50」という用語は、粒径分布の50パーセンタイル(中央値)の体積粒子直径を意味する。
【0043】
本明細書で使用される「D95」という用語は、粒径分布の95パーセンタイルの体積粒子直径を意味する。
【0044】
本明細書で使用される「cPs」という用語は、粘度単位であるセンチポイズを意味する。
【0045】
本明細書で使用される「mN・m−1」という用語は、表面張力単位であるミリニュートン/メートルを意味する。
【0046】
本明細書で使用される「mPa・s」という用語は、粘度単位であるミリパスカル秒を意味する。
【0047】
本明細書で使用される「AN」という用語は、固体ポリマー1グラムあたりのKOHmg数である酸性度指数を意味する。
【0048】
本明細書で使用される「DBTDL」という用語は、ジブチルスズジラウレートを意味する。
【0049】
本明細書で使用される「DEA」という用語は、ジエタノールアミンを意味する。
【0050】
本明細書で使用される「TBA」という用語は、トリブチルアミンを意味する。
【0051】
本明細書で使用される「DMPA」という用語はジメチロールプロピオン酸を意味する。
【0052】
本明細書で使用される「TMXDI」という用語は、m−テトラメチレンキシリレンジイソシアネートを意味する。
【0053】
本明細書で使用される「NMP」という用語は、n−メチルピロリドンを意味する。
【0054】
本明細書で使用される「IPDI」という用語は、イソホロンジイソシアネートを意味する。
【0055】
本明細書で使用される「TEB」という用語は、Dow Chemicalによって供給される試薬であるトリエチレングリコールモノブチルエーテルを意味する。
【0056】
本明細書で使用される「スルホラン」という用語は、テトラメチレンスルホンを意味する。
【0057】
本明細書で使用される「BzMA」という用語は、ベンジルメタクリレートを意味する。
【0058】
本明細書で使用される「BMA」という用語は、ブチル酸メタクリレート(butyl methacrylate acid)を意味する。
【0059】
本明細書で使用される「MAA」という用語は、メタクリレートを意味する。
【0060】
本明細書で使用される「ETEGMA」という用語は、エトキシトリエチレングリコールメタクリレートを意味する。
【0061】
本明細書で使用されるEternacoll(登録商標)UH−50は、日本国東京の宇部興産株式会社製のポリカーボネートジオールである。
【0062】
本明細書で使用されるDenacol(登録商標)321は、日本国大阪のナガセケミカル株式会社製の架橋試薬であるトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルである。
【0063】
本明細書で使用されるNipex(登録商標)180は、Degussa,Germany製のブラック顔料である。
【0064】
本明細書で使用される「PMMA」という用語は、ポリメチルメタクリレートを意味する。
【0065】
本明細書で使用される「GPC」という用語は、Gel Permeation Chromatography(ゲル透過クロマトグラフィ)を意味する。
【0066】
別段の指摘のないかぎり、上述の化学物質はAldrich (Milwaukee,WI)または他の類似の実験室用化学物質供給業者から得たものである。
【0067】
さらに、前後に別段の具体的記載のないかぎり、単数での言及は複数をも含んでいてもよい(例えば、「a」および「an」は、1、または1以上を意味していてもよい)。
【0068】
一実施形態において、本発明は、架橋着色剤分散物の製造方法において、
(a) 架橋性部分を有する部分的に中和された分散剤ポリマーを伴う水性ビヒクル中に着色剤を分散させるステップであって、前記ポリマーが着色剤に吸着され、残留する未吸着の分散剤ポリマーが着色剤濃度の20%未満であるステップと;
(b) 分散剤上の架橋性部分を架橋剤と反応させるステップと;
(c) 水性ビヒクルのpHを8超に調整するステップと;
を含む方法を提供する。
【0069】
ステップ(a)中の分散剤ポリマーは、架橋性部分を有するランダムまたは構造化ポリマーである。有用な架橋性部分は、COOHおよびSOHなどの酸性基、ヒドロキシル、メルカプトおよびアミノ基である。分散剤ポリマーは通常、親水性モノマーと疎水性モノマーの両方で構成される。一般に、疎水性領域は、顔料表面と相互作用して分散をもたらす分散剤のセグメントまたは官能基である吸収セグメントを含む部分である。親水性領域は、水性ビヒクルとの相互作用によって分散物を安定化させるセグメントである。さらに、分散剤ポリマーは酸性基を含み、これらの酸性基は、着色剤を分散させるために分散剤ポリマーが使用される前に、部分的に中和される。この部分的中和の目的は、分散剤ポリマーのための親水性と疎水性の最適な平衡を得、こうして未吸着の分散剤ポリマーのレベルを最小限におさえながら着色剤の表面上にそれを吸着させることができるようにすることにある。典型的には、中和度は分散剤ポリマーの酸性度指数(acid number)に応じて30%〜90%、より典型的には50%〜70%である。多くの場合、分散剤ポリマーの酸性度指数が高くなればなるほど、分散剤ポリマーを過度に疎水性にすることなく中和度を低くすることができる。より典型的には、中和度は、残留する未吸着分散剤ポリマーが着色剤濃度の20%未満となるように調整される。
【0070】
上述の部分的中和を達成するために利用される中和剤は、アルカリ金属、アミン類などの水酸化物であり得る。中和剤の例としては、有機塩基、例えばモノ−、ジ−、またはトリ−メチルアミン、モルホリン、n−メチルモルホリン、アルコールアミン類、例えばジメチルエタノールアミン(DMEA)、アミノメチルプロパノールおよびメチルジエタノールアミン、ピリジン、アンモニウムヒドロクロリド、テトラ−アルキルアンモニウム塩例えばテトラメチルアンモニウムヒドロクロリド、テトラエチル−アンモニウムヒドロクロリドなどが含まれる。典型的には、中和剤はジメチルエタノールアミンまたはアルカリ金属水酸化物である。最も典型的には、中和剤は水酸化カリウムである。
【0071】
未吸着分散剤上の架橋性部分も架橋剤と反応し得ることから、水性ビヒクル中の未吸着分散剤ポリマーは、後続する架橋ステップを妨げる傾向をもつ。したがって、水性ビヒクルから未吸着分散剤ポリマーの量を削減することが極めて重要である。典型的には、水性ビヒクル中の未吸着分散剤ポリマーの量は、着色剤濃度の20%未満、より典型的には10%未満そして最も典型的には5%未満まで削減される。未吸着分散剤ポリマーの量の削減は、分散剤ポリマーの中和度を調整することによって達成される。場合により、分散物中の一部の溶媒および不純物は、ステップ(a)の後の限外濾過によって除去可能である。
【0072】
ステップ(b)において、ステップ(a)の生成物は、架橋剤と反応させられる。下表で特定されているのは、分散剤ポリマー中にある適切な架橋性官能基および架橋剤中に存在するかもしれない相手方の架橋基である。下表で言及されている「酸」は、カルボン酸およびスルホン酸を含むが、これらに限定されない。
【0073】
【表1】

【0074】
追加の有用な架橋剤は、m−テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチロプロパン(trimethylopropane)ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、オキサゾリン−官能性ポリマー、水性ポリカルボジイミド樹脂およびシランを含む水性ビヒクル中で可溶性または不溶性の架橋剤である。
【0075】
分散剤ポリマー上の架橋性部分対架橋剤のモル比は、15:1〜1:1.5、典型的には9:1〜1:1.1そして最も典型的には8:1〜1:1である。モル比を計算するにあたっては、分散剤ポリマー上の全ての架橋性部分と架橋剤上の全ての架橋基が含められる。
【0076】
ステップ(c)では、pHが8超、そして典型的には8〜10.5に調整される。典型的にはpHは、アルカリ金属水酸化物、アンモニアまたは第三級アミンの水溶液を分散物に添加することによって調整される。ステップ(c)は、ステップ(b)で架橋が行なわれた後にのみ発生し得る。ステップ(b)の前にpHを調整する(増大させる)と、顔料の表面上に先に吸着されていた分散剤ポリマーが親水性の増大に起因して未吸着状態になると考えられる。架橋分散物の安定性は、pHを8超に調整した後も未吸着分散剤ポリマーの含有量が増大しなかったという発見事実によって確認される。
【0077】
場合により、分散物は、ステップ(a)またはステップ(c)の後、限外濾過ステップによってさらに精製される。限外濾過は、任意の従来の直交流中空繊維膜上で実施可能である。典型的には、膜は、0.75mm超、より典型的には1mm超の内径をもつ繊維を有する。膜を構築するための適切な市販の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデンおよびセラミックが含まれる。
【0078】
限外濾過プロセス中に、水性ビヒクル中の余剰の溶媒、所望されない不純物および未吸着の分散剤ポリマーは、脱イオン水を用いた不連続またはより典型的には連続ダイアフィルトレーションによって除去される。多くの場合、分散物は、ダイアフィルトレーションの開始前に脱イオン水を用いて顔料濃度5%未満、より典型的には顔料濃度3%未満まで希釈される。多数回の容量希釈の後、分散物は、顔料10%超まで濃縮される。
【0079】
本発明のための適切な分散剤ポリマーとしては、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエステルおよびポリビニルが含まれる。ランダムポリマーおよび構造化ポリマーの両方を使用することができる。「構造化ポリマー」という用語は、ブロック、分岐またはグラフト構造を有するポリマーを意味する。構造化ポリマーの例としては、米国特許第5085698号明細書中に開示されているものなどのABまたはBABコポリマー;欧州特許出願公開第A−0556649号明細書中に開示されているものなどのABCブロックコポリマー;および米国特許第5231131号明細書中に開示されているものなどのグラフトポリマーが含まれる。ポリマー組成に言及する際に、2重スラッシュはブロック間の分離を表わし、単一スラッシュはランダムコポリマーを表わすことを指摘しておかなければならない。したがって、BzMA//MAA//BzMA8//10//8は、長さが平均8BzMA(ベンジルメタクリレート)単位である第1のAブロック、長さが平均10MAA(メタクリル酸)単位であるBブロックそして長さが平均8BZMA単位である最終Aブロックを伴うABAトリブロックポリマーである。他の適切なポリマーとしては、例えば米国特許第5,085,698号明細書;5,852,075号明細書;6,117,921号明細書;6,262,152号明細書;6,306,994号明細書;および6,433,117号明細書中に記載されているものが含まれる。
【0080】
着色剤
インク、特にインクジェットインクを製造するためには、単独または組合せた形で多種多様な有機および無機顔料を分散剤ポリマーを用いて分散させてもよい。本明細書で使用される「顔料」という用語は、分散剤を用いて分散させて、分散剤の存在下で分散的条件下で処理する必要のある不溶性着色剤を意味する。着色剤は同様に、分散した染料も含んでいる。分散プロセスは、結果として安定した分散顔料をもたらす。発明力ある分散剤ポリマーと共に使用される顔料には、自己分散型顔料は含まれない。顔料粒子は、インクジェット印刷装置を通して、特に約10ミクロン〜約50ミクロンの範囲の直径を通常有する駆出用ノズルにおいてインクの自由流を可能にするのに充分小さいものである。粒径は同様に、顔料分散物の安定性にも影響を及ぼし、これはインクの寿命全体を通して極めて重要である。微粒子のブラウン運動が、粒子の軟凝集を防ぐ一助となる。同様に、色の濃さおよび光沢を最大限にするために小さい粒子を使用することも望まれる。有用な粒径範囲は、典型的には約0.005ミクロン〜約15ミクロンである。典型的には、顔料粒径は、約0.005〜約5ミクロン、最も典型的には約0.005〜約1ミクロンの範囲内になければならない。動的光散乱によって測定される平均粒径は、約500nm未満、典型的には約300nm未満である。
【0081】
選択された1つまたは複数の顔料は、乾燥形態または湿潤形態で使用されてもよい。例えば、顔料は通常、水性媒質中で製造され、結果として得られる顔料は、水湿潤プレスケークとして得られる。プレスケーク形態では、顔料は、乾燥形態のようなレベルまでは凝集しない。したがって、水湿潤プレスケーク形態の顔料は、乾燥形態の顔料ほど予備混合プロセスにおいて脱凝集するための混合用エネルギーを必要としない。代表的な市販の乾燥顔料は、米国特許第5085698号明細書中に列挙されている。
【0082】
インクジェットインクにおいて有用な色特性を有する顔料のいくつかの例としては、以下のものが含まれる:Pigment Blue 15:3およびPigment Blue 15:4由来のシアン顔料;Pigment Red 122およびPigment Red 202由来のマゼンタ顔料;Pigment Yellow 14、Pigment Yellow 95、Pigment Yellow 110、Pigment Yellow 114、Pigment Yellow 128およびPigment Yellow 155由来のイエロー顔料;Pigment Orange 5、Pigment Orange 34、Pigment Orange 43、Pigment Orange 62、Pigment Red 17、Pigment Red 49:2、Pigment Red 112、Pigment Red 149、Pigment Red 177、Pigment Red 178、Pigment Red 188、Pigment Red 255およびPigment Red 264由来のレッド顔料;Pigment Green 1、Pigment Green 2、Pigment Green 7およびPigment Green 36由来のグリーン顔料;Pigment Blue 60、Pigment Violet 3、Pigment Violet 19、Pigment Violet 23、Pigment Violet 32、Pigment Violet 36およびPigment Violet 38由来のブルー顔料;;TiOおよびZnOなどのホワイト顔料;そしてブラック顔料のカーボンブラック。本明細書で使用される顔料の名称および略語は、Society of Dyers and Colourists,Bradford,Yorkshire,UKにより確立され、The Color Index,Third Edition,1971中で公開された顔料の「C.I」呼称である。
【0083】
有機顔料の場合、インクは、インク総重量に基づく重量で、最高およそ30%、典型的に0.1%〜約25%そしてより具体的には0.25%〜10%の顔料を含んでいてもよい。無機顔料が選択された場合、一般に無機顔料は有機顔料よりも高い密度を有することから、インクは、有機顔料を用いた匹敵するインクの場合よりも高い重量百分率の顔料を含む傾向にある。
【0084】
分散剤ポリマーは典型的には、全インク組成物の重量に基づく重量で0.1%〜20%そしてより具体的には0.2%〜約10%の範囲内で存在する。
【0085】
顔料分散物の製造
本発明の顔料分散物は、当該技術分野において公知の従来のミリングプロセスを用いて製造可能である。大部分のミリングプロセスは、第1の混合ステップとそれに続く第2の粉砕ステップが関与する2段階プロセスを用いている。第1のステップは、全ての成分すなわち顔料、分散剤、液体担体、中和剤および任意のあらゆる添加剤を混合して、配合された「プレミックス」を得るステップを含む。典型的には、全ての液体成分が最初に添加され、その後中和剤、次に分散剤が添加され、最後に顔料が添加される。混合ステップは一般に、撹拌付きの混合容器内で行なわれ、この混合ステップのためには高速分散器(HSD)が特に適している。HSDに取付けられ500rpm〜4000rpmそしてより典型的には2000rpm〜3500rpmで作動するCowelタイプのブレードが、所望の混合を達成するのに最適なせん断を提供する。適切な混合は、上記の条件下で15分〜120分の時間混合することによって達成される。
【0086】
第2のステップには、プレミックスを粉砕して顔料分散物を生成するステップが含まれる。典型的には、粉砕には、メディアミリングプロセスが関与しているが、他のミリング技術を使用することもできる。本発明においては、Eiger Machinery Inc.,Chicago,Illinois製の実験室規模のEiger Minimill(M250型、VSE EXP)が用いられる。粉砕は、約820グラムのYTZ(登録商標)ジルコニアメディアをミルに投入することで達成された。ミルディスクは2000rpm〜4000rpm、典型的には3000rpm〜3500rpmの速度で作動させられる。分散物は、ミルを通した典型的流量が200〜500グラム/分そしてより典型的には300グラム/分である再循環粉砕プロセスを用いて処理される。ミリングは、溶媒の一部分を粉砕の外部に保持しミリングの完了後に添加する段階的手順を使用して行なうことができる。これは粉砕効率を最大限にする最適なレオロジーを達成するために行われる。ミリング中外部に保持されるこの溶媒の量は、分散物毎に変動するが、典型的には、合計800グラムのバッチサイズについて200〜400グラムである。典型的には、本発明の分散物は合計4時間のミリングに付される。
【0087】
ブラック分散物については、マイクロフルイダイザーを用いる代替的粉砕プロセスを使用することができる。マイクロフルイダイゼーションは、高圧下のノズルを通した顔料の衝突によってミリングが行われる非メディアミリングプロセスである。典型的には、毎分400グラムの流量と15000psiで顔料分散物を合計12回ミルを通過させて処理する。実施例中でブラック分散物を作製するにあたっては、ダイアモンドZチャンバを備えた実験室規模(Newton,MassachusettsのMicrofluidics社から入手可能であるM−110Y型)の高圧空気圧式マイクロフルイダイザーが利用された。
【0088】
充填剤、可塑化剤、顔料、カーボンブラック、シリカゾル、他のポリマー分散物および公知の均展剤、湿潤剤、消泡剤、安定剤、および所望の最終用途のための公知の他の添加剤も分散物中に取込まれてもよい。
【0089】
架橋顔料分散物の製造
架橋ステップでは、架橋用化合物が、室温または高温で4時間〜8時間の期間にわたり、以上で製造された顔料分散物と混合される。架橋反応を促進するためには、触媒を添加することが望ましいかもしれない。有用な触媒は、液体中に可溶なまたは不溶な触媒であり得、架橋反応に応じて選択可能である。一部の適切な触媒としては、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)、トリブチルアミン(「TBA」)およびジメチルドデシルアミンが含まれる。架橋反応が完了した後、架橋分散のpHを、必要な場合少なくとも8.0、より典型的には8.0〜12.0そして最も典型的には8.0〜11.0に調整することができる。場合により、当該技術分野において公知の従来の濾過手順を用いて、分散物をさらに処理してもよい。分散物から共溶媒および他の汚染物質、イオンまたは不純物を除去する限外濾過技術を用いて分散物を処理してもよい。その後、pH、伝導度、粘度および粒径について各分散物を試験することができる。分散物の安定性は、利用される分散剤の有用性を実証するのに重要であるとみなされている。
【0090】
充填剤、可塑化剤、顔料、カーボンブラック、シリカゾル、他のポリマー分散物および公知の均展剤、湿潤剤、消泡剤、安定剤、および所望の最終用途のための公知の他の添加剤も分散物中に取込まれてもよい。
【0091】
インクビヒクル
本開示の顔料インクは、インクビヒクル、典型的には水性担体媒質としても公知である水性インクビヒクル、水性分散物そして場合により他の成分を含む。
【0092】
インクビヒクルは、1つまたは複数の水性分散物および任意の添加剤のための液体担体(または媒質)である。「水性インクビヒクル」という用語は、水または水と一般に共溶媒または保湿剤と呼ばれる1つまたは複数の有機水溶性ビヒクル成分との混合物で構成されるインクビヒクルを意味する。適切な混合物の選択は、所望される表面張力および粘度、選択された顔料、顔料インクジェットインクの乾燥時間およびインクが印刷される紙のタイプなどの、具体的利用分野の要件によって左右される。当該技術分野において、共溶媒は、印刷された基材上でインクの浸透および乾燥を補助できる場合、浸透剤と呼ばれることがある。
【0093】
水溶性有機溶媒および保湿剤の例としては、アルコール類、ケトン類、ケト−アルコール類、エーテル類他、例えばチオジグリコール、スルホラン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンおよびカプロラクタム;グリコール類、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコールおよびヘキシレングリコール;オキシエチレンまたはオキシプロピレンの付加ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど;トリオール類、例えばグリセロールおよび1,2,6−ヘキサントリオール;多価アルコールの低級アルキルエーテル類、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル;多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類、例えばジエチレングリコールジメチルまたはジエチルエーテル;尿素および置換尿素が含まれる。
【0094】
水と多価アルコール、例えばジエチレングリコールの混合物が、水性インクビヒクルとして典型的なものである。水とジエチレングリコールの混合物の場合、インクビヒクルは通常約30%の水と70%のジエチレングリコール〜95%の水と5%のジエチレングリコール、より典型的には、60%の水と40%のジエチレングリコール〜95%の水と5%のジエチレングリコールを含む。百分率は、インクビヒクルの総重量に基づくものである。水とブチルカルビトールの混合物も同様に、有効なインクビヒクルである。
【0095】
インク中のインクビヒクルの量は典型的に、インクの総重量に基づく重量で約70%〜約99.8%、そしてより典型的には約80%〜約99.8%の範囲内である。
【0096】
グリコールエーテル類および1,2−アルカンジオール類などの界面活性剤または浸透剤を含み入れることによってインクビヒクルを高速浸透(高速乾燥)性のものにすることができる。グリコールエーテル類は、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテルおよびジプロピレングリコールモノ−イソプロピルエーテルを含む。典型的な1,2−アルカンジオール類は、C4−6アルカンジオール類であり、1,2−ヘキサンジオールが最も典型的である。適切な界面活性剤としては、エトキシル化アセチレンジオール類(例えばAir Productsから市販されているSurfynol(登録商標)シリーズ)、エトキシル化アルキル第1級アルコール類(例えばShellから市販されているNeodol(登録商標)シリーズ)および第2級アルコール類(例えばUnion Carbideから市販されているTergitol(登録商標)シリーズ)、スルホスクシネート(例えばCytecから市販されているAerosol(登録商標)シリーズ)、有機シリコーン類(例えばWitcoから市販されているSilwet(登録商標)シリーズ)およびフルオロ表面活性剤(例えば本件特許出願人から市販されているZonyl(登録商標)シリーズ)が含まれる。
【0097】
添加される1つまたは複数のグリコールエーテルおよび1つまたは複数の1,2−アルカンジオールの量は、典型的には、インクの総重量に基づいて、1〜15重量%、そしてより典型的には2〜10重量%である。界面活性剤は、典型的には、インクの総重量に基づく重量で0.01〜5%そしてより典型的には0.2〜2%の量で使用されてもよい。
【0098】
微生物の成長を阻害するために殺生物剤を使用してもよい。
【0099】
顔料インクジェットインクは、典型的に、25℃で約20mN・m−1〜約70mN・m−1の範囲内の表面張力を有する。粘度は、25℃で30mPa・s程度の高さであり得るが、典型的にはこれより幾分か低い。インクは、広範囲の駆出条件、材料構成およびノズルの形状とサイズに適合した物理的特性を有する。インクは、インクジェット装置内で有意なレベルまで詰まることがないように長期間の優れた貯蔵安定性を有していなければならない。さらに、インクは、それと接触するインクジェット印刷装置の部品を腐食させてはならず、本質的に無臭で非毒性でなければならない。
【0100】
いずれか特定の粘度範囲またはプリントヘッドに限定されるわけではないが、本開示のインクは、より低粘度の利用分野に特に適している。したがって本開示のインクの粘度(25℃での)は、約7mPa・s未満あるいは約5mPa・s未満、さらに一層有利には約3.5mPa・s未満であってもよい。
【0101】
以下の実施例は、本発明を例示するものであるが、これに限定されるわけではない。
【実施例】
【0102】
水感応性化学物質を取扱うための標準的な実験室技術を、以下の実施例のために使用した。例えば、使用前にガラス製品を完全に乾燥させ、モノマーを分子篩上に保管し、カニュレーション手順を用いて材料を乾燥状態に保った。
【0103】
予測された分子量および分子量分布を確認するために、ゲル透過クロマトグラフィ(GPC)を使用した。GPCシステムには、Waters 1515 Isocratic HPLC Pump、Waters 2414 Refractine Index Detector、Waters Autosampler、40℃にセットされた4本のStyregel Columns(HR0.5、HR1、HR2およびHR4)を収納したWaters Column Heaterが含まれていた。試料を1mL/分の流量でテトラヒドロフラン(THF)により溶出させた。狭い分子量範囲を有するポリメチルメタクリレート(PMMA)標準から開発した較正曲線を伴うBreeze 3.30ソフトウェアを用いて、試料を分析した。Polymer Laboratories Ltd.からの光散乱データに基づき、PMMA標準についての公称ピーク分子量は以下の通りであった:300000、150000、60000、30000、13000、6000、2000および1000。
【0104】
粒径測定
分散物、顔料およびインクの粒径を、Honeywell/Microtrac (Montgomeryville,PA)製のMicrotrac(登録商標)UPA150分析装置を用いて動的光散乱により決定した。
【0105】
この技術は、粒子の速度分布と粒径の関係に基づくものである。レーザーにより生成された光が各粒子から散乱させられ、粒子ブラウン運動によってドップラー偏移される。偏移された光と偏移されていない光の周波数差は、増幅されデジタル化され、粒径分布を導出するために分析される。結果はD50またはD95として報告されている。
【0106】
未吸着ポリマーの決定
分散物内の未吸着ポリマーを決定するために、分散物の試料を、着色剤が約5重量%程度になるまで脱イオン水で希釈する。典型的には、この希釈した分散物の試料25グラムを、Backman L−8超遠心分離機を用いて1〜2時間15,000〜20,000rpmで遠心分離する。当業者であれば、分散物の特性に基づいて遠心分離の最適な条件を容易に決定できる。遠心分離中、未吸着分散剤ポリマーは上清中にとどまるが、着色剤は、着色剤表面上の吸着済み分散剤ポリマーと共に底面に向かって堆積する。遠心分離の後、上清を収集し、全ての揮発性物質を除去するため、150℃にセットしたオーブン内で3時間、あるいはその重量が一定になるまで乾燥させることにより、上清中の未吸着分散剤ポリマーの量を得る。次に、未吸着分散剤の重量を遠心分離された希釈試料中の着色剤の重量で除することによって、未吸着ポリマーの百分率を計算する。あるいは、分散物を類似の要領で遠心分離し、その後上清溶液についてHPLC分析を実施することにより、未吸着ポリマーを決定することができる。分散剤ポリマーの公知の濃度を使用することにより、HPLCの較正を行なう。
【0107】
分散剤1(ポリウレタン、TMXDI−ポリカーボネートジオール−DEA終端型)
窒素雰囲気下で、追加の漏斗、凝縮器および撹拌器が備わり、乾燥されてアルカリおよび酸を含まないフラスコに対し、Eternacoll(登録商標)UH−50(269g)、DMPA(200g)、Sulfolane(526g)およびDBTL(0.08g)を添加した。結果として得られた混合物を60℃まで加熱し、完全に混合した。この混合物に対し、追加の漏斗を介してTMXDI(547g)を添加し、その後続いてスルホラン(15g)を用いて追加の漏斗内のあらゆる残留TMXDIをフラスコ内へ洗い流した。反応混合物の温度を100℃まで上昇させ、イソシアネート含有量が1.2%以下に達するまで、100℃に維持した。その後、温度を60℃まで冷却し、60℃に維持し、その間、フラスコ上に取付けた追加の漏斗を介して5分間にわたりDEA(41.3g)を添加し、続いて、スルホラン(g)を用いて追加の漏斗内の残留DEAをフラスコ内に洗い流した。温度を1時間60℃に保った後、追加の漏斗を介して10分間にわたり水性KOH(1351.2g、3重量%)を添加し、続いて脱イオン水(528g)を添加した。混合物を1時間60℃に維持し、室温まで冷却して、31.2%の固体と15.5%のスルホランを伴うポリウレタン分散剤を得た。この分散剤は、8195のMN、15393のMW、80という酸性度指数そして1.88というPDを有する。
【0108】
分散剤2(アクリル樹脂、ジブロック8ETEGMA//30BzMA/11MAA)
窒素雰囲気下で追加の漏斗、熱電対および機械式撹拌器の備わった乾燥した5Lのフラスコに対して、カニュレーションを介してTHF(2777g)を添加し、続いて開始剤1,1−ビス(トリメチルシリルオキシ)−2−メチルプロペン(120.9g)と触媒テトラブチルアンモニウムm−クロロベンゾエート(アセトニトリル中の1.0M溶液3.13ml)を添加した。フラスコへモノマーを補給している間に、シリンジポンプを用いて、追加量の同じ触媒(アセトニトリル中の1.0M溶液2.4mlとTHF10.9g)を添加した。モノマー補給物Iは、トリメチルシリルメタクリレート(906g)とベンジルメタクリレート(2752.3g)を含み、これを60分かけて添加し、その間に反応は65℃まで発熱した。反応混合物を1時間同じ温度に保った後、HPLCは、95%超のモノマー転換を示した。その後、エチルトリエチレングリコールメタクリレート(1027.1g)を含むモノマー補給物IIを15分かけて添加した。アクリルポリマー中のETEGMAブロックの形成は、第2の補給が終了してから90分後に98%超まで進行していることがわかった。結果として得られた混合物を、メタノール(400.34g)で希釈した。2−ピロリドンを添加するのと同時に120℃までゆっくりと加熱することにより、THFおよび他の揮発性副産物を蒸留した。最終的ポリマー溶液は、85.2という測定上の酸性度指数を有する固形分を45.1%含有していた。この分散剤ポリマーのMnは8543、Mwは9568、PDは1.12である。
【0109】
分散剤3(アクリル樹脂、ジブロック8ETEGMA//30BMA/11MAA)
BzMAの代わりにBMAを使用したという点を除いて、分散剤2の製造手順と類似の手順を用いて分散剤3を製造した。最終的ポリマー溶液は、98.2という測定上の酸性度指数を有する固形分を45.1%含有していた。この分散剤ポリマーのMnは9018、Mwは9635そしてPDは1.07である。
【0110】
顔料分散物の製造
マゼンタおよびブラックの顔料と共に以上で製造した3つの分散剤を用いて、顔料分散物を製造した。表1、表2および表7中の例については、PR122(マゼンタ)およびNipex 180(ブラック)を用いた。顔料分散物2A(および後に架橋顔料分散物を製造するために使用した2Aの部分)を限外濾過精製ステップに付した。
【0111】
マゼンタ分散物を製造するためには、以下の手順を用いた。Eiger Minimillを使用して、典型的に20〜30%の顔料装填量でプレミックスを製造し、標的分散剤レベルを、顔料/分散剤(P/D)比で1.5〜3.0に選択した。2.5というP/Dは、顔料上40%の分散剤レベルに対応する。場合により、予備混合段階において顔料の湿潤化と溶解を促進し、ミリング段階中の粉砕を容易にするため、全分散物調合の10%で共溶媒を添加した。他の類似の共溶媒も適切であるものの、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(Dow Chemical社より供給されているTEB)が、最適な共溶媒である。溶解度および水中への溶解を促進するためKOHまたはアミンのいずれかで分散剤1を予め中和した。予備混合段階中、顔料レベルを典型的に27%に維持し、その後、ミリング段階中に、メディアミル粉砕条件を最適にするため脱イオン水を添加することにより約24%まで低下させた。典型的には4時間であったミリング段階の完了後、分散物中の顔料レベルを脱イオン水での希釈によって約10〜15%まで低下させた。
【0112】
ブラック分散物については、ミリングのためにマイクロフルイダイザーを使用したという点を除いて、以上のものと類似のプロセスを使用した。
【0113】
架橋顔料分散物の製造
架橋ステップにおいては、架橋用化合物を顔料分散物1A、2A、3Aまたは4Aと混合し、6〜8時間効率良く撹拌しながら60℃〜80℃で加熱した。架橋反応が完了した後、必要な場合、少なくとも約8.0にpHを調整した。架橋顔料分散物1B−1C、2B−2C、3Bおよび4Bを、対応する顔料分散物1A、2A、3Aおよび4Aを用いて製造した。これらの分散物についての架橋性部分、架橋剤、中和度および未吸着分散剤ポリマーの百分率を含めた追加の詳細を表1に列挙する。
【0114】
【表2】

【0115】
印刷信頼性試験
3%の顔料濃度を標的として、標準インクジェットインクビヒクルを用いて分散物をインクに調合した。各インクをHP88カートリッジ中に充填し、HP K5400プリンタ(Hewlett−Packard Co.)を用いて印刷した。信頼性試験は、カートリッジ中のインク全量を消費してしまうまでテスト画像を反復的に印刷することからなっていた。典型的に、これには約160ページを費やした。10ページ毎に、ノズルチェックパターンが印刷され、プリントヘッド中の不発(欠落)ノズルの数が計数される。プリントヘッドにはおよそ1056のノズルがある。欠落ノズルの平均数が、印刷信頼性の尺度として用いられる。さらに、各ページに細い線が印刷され、線幅の平均縁部標準偏差が測定される。これは方向違いのノズルについての標示を提供する。線幅の値が低くなればなるほど、印刷信頼性は良くなる。
【0116】
安定性試験
3%の顔料濃度を標的とする、ブチルセルソルブ10%、ブチルカルビトール16%および2−ピロリジノン5%からなる試験目的に適した攻撃的なビヒクル中に各インクを調合することにより、分散物安定性を試験した。インクの粒径を測定し、粒径再測定の1週間前から60℃にセットしたオーブン内にインクを置いた。粒径の増大は、顔料の凝集の結果であり、したがって、長期安定性の低さを示している。
【0117】
実施例1:部分的に中和された分散剤
表2に示されている通り、ブラック分散物(BP−1〜BP−6)は、ブラック顔料Nipex(登録商標)180および分散剤2を用いて製造し、マゼンタ分散物(MP−1〜MP−4)はPR122および分散剤3を用いて製造した。BP−1およびMP−1は100%の中和度を有する対照分散物である。結果は、中和度が低下する(例えばBP−1からBP−6またはMP−1からMP−4)につれて、未吸着分散剤ポリマーの百分率も同様に減少することを示した。さらに、中和度が低下するにつれて、pHの対応する低下も観察された。測定された粒径(D50およびD95)は、中和が漸進的に低減されるにつれてわずかな上向き傾向を示した。しかしながら、この変化は、良質のインクを作るための限界内に充分入るものである。全ての分散物の粘度は、優れたインクジェットインクを作るための許容可能な範囲内にあった。
【0118】
【表3】

【0119】
実施例2:安定性−マゼンタインク
表1に概略的に示した対応する分散物1A−1Cおよび2A−2Cを用いて、マゼンタインク1A−1Cおよび2A−2Cを製造した。初期粒径は下表3に要約されている。結果は、架橋が全く無い分散物(1Aおよび2A)で作製したインクが大きい粒径を有し、したがって不安定であったのに対し、架橋された顔料分散物で作製した発明力あるインク(1B、1C、2Bおよび2C)が、その小さな粒径により実証されるように、安定していることを示した。
【0120】
【表4】

【0121】
実施例3:印刷信頼性−マゼンタインク
対応する分散物1A、1Bおよび1Cを用いて、インク1D、1Eおよび1Fを作製した。下表4にまとめた結果は、未精製の架橋された顔料分散物で作製したインク1Eおよび1Fの印刷信頼性が低いという欠点を示した。しかしながら、対応する精製された分散物2A、2Bおよび2Cで作製したインク2D、2Eおよび2Fは優れた印刷信頼性を示した。
【0122】
【表5】

【0123】
実施例4:安定性−ブラックインク
表1に概略的に示された対応する分散物3A−3Bおよび4A−4Bを用いて、ブラックインク3A−3Bおよび4A−4Bを製造した。下表5に、初期粒度ならびにエージング試験後の粒径をまとめる。結果は、架橋が全く無い分散物(3Aおよび4A)で作製したインクがエージング試験後に大粒径の増加を有し、したがって不安定であったのに対し、架橋された顔料分散物で作製した発明力あるインク(3Bおよび4B)が、エージング試験後の小粒径の増加により実証されるように、安定していることを示した。
【0124】
【表6】

【0125】
実施例5:印刷信頼性−ブラックインク
下表6に示されている通り、発明力ある架橋された分散物で作製したインク3Eおよび4Eの印刷信頼性は、比較用インク3Dおよび4Dの印刷信頼性よりも優れていた。
【0126】
【表7】

【0127】
実施例6:顔料分散物の精製
顔料分散物1Aおよび2Aの製造のための手順と類似の手順を用いて、マゼンタ顔料分散物5Aおよび5Bを製造した。中和度が50%の分散物5Aおよび中和度が70%の分散物5Bを結果としてもたらした使用成分が下表7に列挙されている。両方の分散物5Aおよび5B共、スパイラルカラム(spiral wound column)を用いた限外濾過に付し、それに続いて溶媒、未吸着分散剤ポリマーおよび顔料と共に導入された他のあらゆる不純物を除去するために脱イオン水を用いた洗浄に付した。精製の前後に、分散物中の未吸着分散剤ポリマーの百分率を測定した。表7に示されているように、精製ステップは未吸着分散剤ポリマーの含有量を削減した。
【0128】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋着色剤分散物の製造方法において、
(a) 架橋性部分を有する部分的に中和された分散剤ポリマーを伴う水性ビヒクル中に着色剤を分散させるステップであって、前記分散剤ポリマーが前記着色剤に吸着され、残留する未吸着の前記分散剤ポリマーが前記着色剤濃度の20%未満であるステップと;
(b) 前記分散剤上の前記架橋性部分を架橋剤と反応させるステップと;
(c) 前記水性ビヒクルのpHを8超に調整するステップと;
を含む方法。
【請求項2】
ステップ(a)またはステップ(c)の後に限外濾過により前記分散物を精製するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記未吸着の分散剤ポリマーが前記着色剤濃度の10%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記未吸着の分散剤ポリマーが前記着色剤濃度の5%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(c)において、前記水性ビヒクルのpHが8〜10.5に調整される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記架橋剤が、エポキシド、イソシアネート、カルボジイミド、N−メチロール、オキサゾリン、シランおよびその混合物からなる群から選択された1つまたは複数の要素である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記pHが8〜10.5である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記分散剤ポリマーが30%まで中和されている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記分散剤ポリマーが50%まで中和されている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記分散剤ポリマーが70%まで中和されている、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記分散剤ポリマーが、ポリウレタン、ポリビニルおよびポリエステルからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記分散剤ポリマーがポリウレタンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記分散剤ポリマーがポリビニルである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記分散剤ポリマー上の前記架橋性部分が、酸、ヒドロキシル、アミノおよびそれらの混合物からなる群から選択される1つまたは複数の要素である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記分散剤ポリマー上の前記架橋性部分が酸である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記架橋剤がエポキシドである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記架橋剤がイソシアネートである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記分散剤ポリマー上の前記架橋性部分対前記架橋剤のモル比が15:1〜1:1.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記分散剤ポリマー上の前記架橋性部分対前記架橋剤の前記モル比が9:1〜1:1.1である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記分散剤ポリマー上の前記架橋性部分対前記架橋剤の前記モル比が8:1〜1:1である、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2013−511598(P2013−511598A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540075(P2012−540075)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/057350
【国際公開番号】WO2011/063188
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】