説明

架橋結合熱可塑性ポリウレタンを含むゴルフボール

【課題】効率的に製造することが可能で、優れた擦過抵抗を持つ、ゴルフボールカバー材料を開発すること。
【解決手段】本開示は、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーから製造されるゴルフボールに関する。この架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、硬セグメントに配される架橋結合を含み、該架橋結合は、フリーラジカル重合開始剤によって触媒される、硬セグメントに配される不飽和結合の反応産物である。架橋結合は、鎖伸長剤として、不飽和ジオールから形成されてもよい。不飽和ジオールは、トリメチロールプロパン・モノアリルエーテル(TMPME)であってもよい。このゴルフボールは、カバー層に該架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含んでもよく、その場合、該カバー層は、高度の擦過抵抗を示すことが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールおよびその製造に関し、特に、熱可塑性ポリウレタンカバーを有するゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールカバーは、一般に、二つのタイプ:熱可塑性カバーおよび熱硬化性カバーに分けられる。熱可塑性ポリマー材料は、可逆的に融解させることが可能であり、したがって、この特性を利用する種々の製造技術、例えば、圧縮成形において使用することが可能である。一方、熱硬化性ポリマー材料は、一般に、二つ以上の成分を混ぜ合わせて硬化性ポリマー材料を形成することによって形成されるが、この材料は、再融解または再加工することができない。各タイプのポリマー材料は、ゴルフボールの製造に使用される場合、利点と欠点を提示する。
【0003】
ゴルフボールカバー用の熱可塑性材料としては、通常、イオノマー樹脂、高度に中和された酸ポリマー組成物、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、およびそれらの混合物が挙げることができる。これらの中でも、イオノマー樹脂およびポリウレタン樹脂は、ゴルフボールカバー用として好まれる材料である。
【0004】
ゴルフボールカバー用としては、従来から、イオノマー樹脂、例えば、Surlyns(登録商標)(E.I. DuPont de Nemours and Companyから市販される)が使用されている。例えば、Dunlop Rubber Companyは、ゴルフボールカバーのためのSurlynsの使用に関して最初の特許を取得した。すなわち、1969年7月8日公刊の特許文献1である。それ以来、ゴルフボールのカバー組成におけるイオノマー樹脂の使用に関していくつかの開示が提出されている。例えば、特許文献2から6である。
【0005】
しかしながら、イオノマー樹脂で覆われたゴルフボールは、クラブ、特にアイアンで繰り返し打撃されると、クラブフェース上の溝によってカバー面が剥離される場合があるという問題に悩まされる。言い換えると、イオノマーカバーの擦過抵抗は劣っている。さらに、イオノマー被覆ボールは、通常、バラタゴムまたはポリウレタン被覆ボールに比べて、スピンおよび感触特性が劣る。カバー用により柔らかいイオノマー樹脂を用いることによって、スピンおよび感触はある程度改善されるが、同時に、ゴルフボールの反発弾性が損なわれる。なぜなら、通常、そのようなボールの反発係数(C.O.R.)はより低くなるからである。さらに、このようなより柔らかいイオノマーカバーの擦過抵抗は、多くの場合、依然として十分ではない。
【0006】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーも、(例えば)特許文献7から9に記載されるように、カバー材料として使用することが可能である。しかしながら、それらの文献に開示される熱可塑性ポリウレタンエラストマーも、成形性、打撃感触、コントロール、反発弾性、および、アイアンショットに対する擦過抵抗に関する全ての要件を満たしているわけではない。
【0007】
一方、熱硬化性ポリマー材料、例えば、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリウレアエラストマー、ジエン含有ポリマー、架橋結合メタロセン触媒ポリオレフィン、およびシリコンも、ゴルフボールの製造のために使用することが可能である。これらの材料の内、熱硬化性ポリウレタンエラストマーが好まれる。
【0008】
バラタゴムおよびイオノマー樹脂に代わる代用物として熱硬化性ポリウレタンエラストマーを使用するために、例えば、特許文献10から14に記載されるように、従来から多くの試みが為されてきた。熱硬化性ポリウレタンエラストマーは、比較的安価であり、打撃感触および擦過抵抗も良好である。特に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、軟化イオノマー樹脂ブレンドに比べ、擦過抵抗において改善を示す場合がある。しかしながら、熱可塑性材料は、原料を導入し、次いで、硬化反応を実行するために複雑な製造プロセスを必要とし、このため、製程プロセスの効率低下が引き起こされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3454280号明細書
【特許文献2】米国特許第3819768号明細書
【特許文献3】米国特許第4323247号明細書
【特許文献4】米国特許第4526375号明細書
【特許文献5】米国特許第4884814号明細書
【特許文献6】米国特許第4911451号明細書
【特許文献7】米国特許第3395109号明細書
【特許文献8】米国特許第4248432号明細書
【特許文献9】米国特許第4442282号明細書
【特許文献10】米国特許第3989568号明細書
【特許文献11】米国特許第4123061号明細書
【特許文献12】米国特許第5334673号明細書
【特許文献13】米国特許第5885172号明細書
【特許文献14】米国特許出願第12/691282号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって前述の理由により、効率的に製造することが可能で、優れた擦過抵抗を持つ、ゴルフボールカバー材料の開発が求められている。当該技術分野では、前述の、従来技術の欠点に対処するシステムおよび方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一局面では、本開示は、ゴルフボールであって、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含み;該架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、硬セグメントおよび軟セグメントを含み;その際、該架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、硬セグメントに配される架橋結合を含み、該架橋結合は、フリーラジカル重合開始剤によって触媒される、該硬セグメントに配される不飽和結合の反応産物であることを特徴とするゴルフボールを提供する。
【0012】
上述のゴルフボールのある特定実施態様では、本開示は、ゴルフボールであって、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーが、アリルエーテル側基から形成される架橋結合を含み、該架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーが、下記の反応剤:(a)下式
【化1】

の(上式において、Rは、修飾された官能基を持つか、または持たないアルキル基であり、xおよびyは1から4の整数である)、二つの一次ヒドロキシル基、および、少なくとも一つのアリルエーテル側基を有する不飽和ジオール;(b)少なくとも二つの、イソシアネートとの反応部位を有し、約450未満の分子量を持つ鎖伸長剤;(c)約500と約4,000の間の分子量を持つ長鎖ポリオール;および(d)硬セグメントにおいてフリーラジカル重合起動によって架橋構造を誘発するフリーラジカルの生成を可能とするのに十分な程度のフリーラジカル重合開始剤、から成る混合物と、有機イソシアネートとを反応させることによって形成される反応産物であることを特徴とするゴルフボールを提供する。
【0013】
別の局面では、本開示は、ゴルフボールであって:内部コア層、該内部コア層を事実上取り囲む外部コア層、該外部コア層を事実上取り囲む内部カバー層、および、該内部カバー層を事実上取り囲む外部カバー層を含み、外部カバー層は、硬セグメントに架橋結合を配置させる架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含み、該架橋結合は、フリーラジカル重合開始剤によって触媒される、硬セグメントにおける不飽和結合の反応産物であることを特徴とするゴルフボールを提供し;該ゴルフボールは、下記の要件:(1)該ゴルフボールは、10から130キログラムの負荷の下に約2から約4ミリメートルの圧縮変形を持つ;(2)内部コア層は、1秒当たり40メートルにおいて、約0.79から約0.92の反発係数を持ち、内部コアの反発係数は、該ゴルフボールのものよりも高い;(3)外部カバー層は、約20から約75のショアーD硬度を持つ、および、(4)外部カバー層は、約1 kpsiから約150 kpsiの曲げ弾性係数を持つ、を満たす。
【0014】
当業者においては、本発明の他のシステム、方法、特色、および利点は、下記の図面および詳細な説明を精査することによって明白であろう。このようなさらに別のシステム、方法、特色、および利点は全て、本説明および本要約の中に含まれること、本発明の範囲内に納まること、および下記の特許請求項によって保護されることが意図される。
【0015】
本発明は、下記の図面および説明を参照することによってより良く理解することが可能である。図面における成分は、必ずしも実尺に合致するものではなく、むしろ、本発明の原理の具体的説明に力点が置かれる。さらに、図面では、種々の製図面を通じて、同じ参照数字は対応部品を表す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本開示による代表的ゴルフボールを示し、該ゴルフボールは2片構造を有する。
【図2】内部カバー層および外部カバー層を有する、第2の代表的ゴルフボールを示す。
【図3】内部コアおよび外部コアを有する、第3の代表的ゴルフボールを示す。
【図4】内部コア、外部コア、内部カバー層、および外部カバー層を有する、第4の代表的ゴルフボールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般に、本開示は、架橋結合が硬セグメントにおいて形成される、架橋結合熱可塑性ポリウレタンから製造されるゴルフボールを提供する。このゴルフボールのいずれの層も架橋結合熱可塑性ポリウレタンから製造されてよいが、特定実施態様では、カバーが、架橋結合熱可塑性ポリウレタンから製造される。この特定の架橋結合のために、カバーの擦過抵抗を大きく改善することが可能である。
【0018】
本明細書では下記に特にそうではないと論ずる場合を除いて、本明細書において論ずるゴルフボールは、一般に、当該技術分野において公知のいずれのタイプのゴルフボールであってもよい。すなわち、本開示が反対を指示する場合を除いて、ゴルフボールは、一般に、ゴルフボール用に通例的に使用されるものであれば、いずれの構造を持っていてもよく、ゴルフボール製造において使用が知られる各種材料であれば、そのいずれのものから製造されてもよい。
【0019】
図1は、本開示の第1実施態様に一致するゴルフボール100を示す。ゴルフボール100は、2片型ゴルフボールである。具体的には、ゴルフボール100は、コア120を事実上取り囲むカバー層110を含む。ゴルフボール100では、カバー110とコア120のいずれか、または両方が、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーから製造されてもよい。特定実施態様では、カバー110は、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む。
【0020】
熱可塑性ポリウレタンは硬セグメントおよび軟セグメントを含むことが知られるが、それと同様に、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーも、硬セグメントおよび軟セグメントを含んでもよい。熱可塑性ポリウレタンは、一般に、(1)長鎖ポリオール、(2)比較的短い鎖伸長剤、および(3)ジイソシアネートから製造される。一旦反応すると、鎖伸長剤およびジイソシアネートから構成されるポリマー鎖部分同士は、弱い(すなわち、非共有)結合を通じて、例えば、ファンデルワールス力、双極子相互作用、または水素結合によって自然に軸揃えされて、半結晶構造に変換される。これらの部分は、一般に、硬セグメントと呼ばれる。なぜなら、この半結晶構造は、長鎖ポリオールから構成される非晶部分よりも硬いからである。
【0021】
架橋結合熱可塑性ポリウレタンは、硬セグメントに特異的に配される架橋を含んでもよい。これらの架橋は、フリーラジカル重合開始剤によって触媒される、硬セグメントにおける不飽和結合の反応産物であってもよい。これらの不飽和結合は、鎖伸長剤として不飽和ジオールを用いることによって硬セグメントの中に導入されてもよい。特定実施態様では、架橋は、硬セグメントの中に存在するアリルエーテル側基から形成されてもよい。
【0022】
特定実施態様では、この架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは:
(a)下式
【化2】

の(上式において、Rは、修飾された官能基を持つか、または持たないアルキル基であり、xおよびyは1から4の整数である)、二つの一次ヒドロキシル基、および、少なくとも一つのアリルエーテル側基を有する不飽和ジオール;
(b)少なくとも二つの、イソシアネートとの反応部位を有し、約450未満の分子量を持つ鎖伸長剤;
(c)約500と約4,000の間の分子量を持つ長鎖ポリオール;および
(d)硬セグメントにおいてフリーラジカル重合起動によって架橋構造を誘発するフリーラジカルの生成を可能とするのに十分な程度のフリーラジカル重合開始剤、
から成る混合物と、有機イソシアネートとを反応させることによって誘導されてもよい。
【0023】
上に列挙した反応剤はそれぞれ、特異的反応剤のどの特定の態様であっても、上記の一般式にしたがって、他の反応剤の、他の任意の特異的態様と混合、整合させることが可能であるという理解の下に、さらに詳細に論ぜられる。さらに、いずれの反応剤であれ、一般に、同一タイプの他の反応剤と組み合わせて使用することが可能であり、したがって、ここに挙げるリストはいずれも、別様に明言しない限り、それらの混合物を含むものと仮定してよい。
【0024】
有機イソシアネートは、公知の、芳香族、脂肪族、および脂環型の、ジまたはポリイソシアネートの内のいずれを含んでもよい。適切なイソシアネートの例としては、2,2'-、2,4'-(および特に)4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、および、それらのアイソマー混合物;ポリフェニレン・ポリメチレン・ポリイソシアネート(ポリ-MDI、PMDI);2,4-および2,6-トルエンジイソシアネート、および、それらのアイソマー混合物、例えば、2,4-および2,6-アイソマーの80:20混合物;飽和イソフォロンジイソシアネート;1,4-ジイソシアナトブタン;1,5-ジイソシアナトペンテン;1,6-ジイソシアナトヘキサン;1,4-シクロヘキサンジイソシアネート;PMDIの脂環類縁体などが挙げられる。
【0025】
適切な鎖伸長剤としては、一般的ジオール、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、ジヒドロキシエトキシヒドロキノン、1,4-シクロ-ヘキサンジメタノール、1,4-ジヒドロキシシクロヘキサンなどを含んでもよい。グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンなどの架橋剤の少量を、このジオール鎖伸長剤と共に使用してもよい。
【0026】
一般的ジオール鎖伸長剤の外に、さらにジアミン類およびアミノアルコール類も使用してよい。適切なジアミンの例としては、脂肪族、脂環型、または芳香族ジアミンが挙げられる。特に、ジアミン鎖伸長剤は、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4-シクロヘキシエンジアミン、ベンジジン、トルエンジアミン、ジアミノフェニルメタン、フェニレンジアミンまたはヒドラジンのアイソマーであってもよい。さらに、芳香族アミン、例えば、MOCA(4,4'-メチレンン-ビス-O-クロロアニリン)、M-CDEA(4,4'-メチレンビス(3-シクロ-2-6-ジエチル-ラニリン))を用いてもよい。適切なアミノアルコールの例は、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-オレイエタノールアミン、N-シクロヘキシルイソプロパノールアミンなどである。さらに、架橋結合熱可塑性ポリウレタンを形成するには、種々のタイプの鎖伸張剤の混合物を用いてもよい。
【0027】
長鎖ポリオール(「ポリオール」)は、一般に、ポリエステルポリオール、またはポリエーテルポリオールであってもよい。したがって、架橋結合熱可塑性ポリウレタンは、一般型のポリウレタン:ポリエーテル原料のポリウレタンエラストマー、または、ポリエステル原料のポリウレタンエラストマー、または、それらの混合物であってもよい。
【0028】
長鎖ポリオールは、500と4,000の間の分子量を持つポリヒドロキシ化合物であってもよい。適切な長鎖ポリオールとしては、一般に、直鎖ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリラクトン(例えば、ε-カプロラクトン)、およびそれらの混合物を挙げてもよい。ポリオールは、ヒドロキシル末端基を有するポリオールの外に、カルボキシル、アミノ、またはメルカプト末端基を含んでもよい。
【0029】
ポリエステルポリオールは、ジカルボン酸と、ジオール、または、その、エステル形成可能な誘導体とを反応させることによって生成される。適切なジカルボン酸の例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、およびテレフタル酸が挙げられる。適切なジオールの例としては、エタンジオール、ジエチレングリコール、1,2-および1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、グリセリンおよびトリメチロールプロパン、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4-シクロヘキサン-ジメタノールなどが挙げられる。実地応用において特異的ポリエステルを製造するに際し、ジカルボン酸およびジオールの両方を、個別に、または混合物として使用することが可能である。
【0030】
ポリエーテルポリオールは、多価アルコールの重合開始剤による、アルキレンオキシドの、環開放性付加重合によって調製される。適切なポリエーテルポリオールの例としては、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)がある。ブロックコポリマー、例えば、ポリオキシプロピレンとポリオキシエチレングリコール、ポリ-1,2-オキシブチレンとポリオキシエチレングリコール、ポリ-1,4-テトラメチレンとポリオキシエチレングリコール、の結合も本発明では好まれる。
【0031】
ポリカーボネートポリオールは、フォスゲン、クロロギ酸エステル、ジアルキルカーボネート、またはジアリルカーボネートと、ジオールを縮重反応させることによって製造される。架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーの適切なポリカーボネートポリオールにおけるジオールの例としては、エタンジオール、ジエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、および1,5-ペンタンジオールがある。
【0032】
本架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、フリーラジカル重合起動によって硬セグメントにおいて架橋結合構造を誘発可能となるように、十分な程度のフリーラジカル重合開始剤を含んでもよい。このフリーラジカル重合開始剤は、熱的切断またはUV放射によってフリーラジカルを生成してもよい。製造プロセスにおけるフリーラジカル重合開始剤の半減期、およびその動作温度を考慮に入れる場合、重合開始剤の、不飽和ジオールに対する重量比は、100:0.1から100:100であってもよい。特定実施態様では、フリーラジカル重合開始剤の、不飽和ジオールに対する重量比は、約5:100であってもよい。
【0033】
架橋結合構造を有する、本発明のポリウレタンエラストマーを製造するために、種々の、公知のフリーラジカル重合開始剤をラジカル供給源として使用してよい。適切なラジカル重合開始剤は、過酸化物、硫黄および硫化物を含んでもよく、ある実施態様では、過酸化物が特に適切である場合がある。この過酸化物は、脂肪族過酸化物、または/および、芳香族過酸化物、または、それらの混合物であってもよい。ある実施態様では、フリーラジカル重合開始剤として、芳香族過酸化物、例えば、ジアセチルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン、2,5-ビス-(t-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシル)バレレート、1,4-ビス-(t-ブチルペルオキシイソプロピル)-ベンゼン、t-ブチルペルオキシベンゾエート、1,1-ビス-(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5トリ-メチルシクロヘキサン、およびジ(2,4-ジクロロ-ベンゾイル)を使用してよい。
【0034】
不飽和ジオールは、一般に、少なくとも一つの不飽和結合を持つものであればいずれのジオールであってもよい。公知されるように、不飽和結合は、二つの炭素原子の間の二重結合(アルケンの場合のように)であってもよいし、または、三重結合(アルキンの場合のように)であってもよい。特定実施態様では、不飽和ジオールは、二つの一次アルコール基を有していてもよい。二つの一次アルコール基が存在することによって好適な反応動態がもたらされ、そのため、架橋結合熱可塑性ポリウレタンが、簡単に調節される「一工程」連続プロセスとして形成される可能性がある。
【0035】
特定実施態様では、不飽和ジオールは、二つの一次ヒドロキシル基、および少なくとも一つのアリルエーテル側基を有し、下式:
【化3】

の通りであってもよく、上式において、Rは、修飾された官能基を持つか、または持たないアルキル基であり、xおよびyは1から4の整数である。特定実施態様では、xおよびyは、共に、1、2、3、または4の数値を持ってもよい。別の実施態様では、xおよびyは、それぞれ、1と4の間の異なる数値を持ってもよい。
【0036】
一特定実施態様では、不飽和ジオールは、トリメチルプロパン・モノアリルエーテル("TMPME")であってもよい。TMPMEはまた、「トリメチロール・プロパン・モノアリル・エーテル」、「トリメチロール・プロパン・モノアリルエーテル」、または、「トリメチルプロパン・モノアリル・エーテル」と名づけられてもよい。TMPMEは、CAS no. 682-11-1を有する。TMPMEはさらに、1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-[(2-プロペン-1-イルオキシ)メチル]、または、2-アリルオキシメチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールとも呼ばれる。TMPMEは、Perstorp Specialty Chemicals ABから購入することが可能である。
【0037】
式(1)の不飽和ジオールとして使用することが可能な、他の適切な化合物は:1,3-プロパンジオール、2-(2-プロペン-1-イル)-2-[(2-プロペン-1-イルオキシ)メチル];1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-[(2-プロペン-1-イルオキシ)メチル];1,3-プロパンジオール、2,2-ビス[(2-プロペン-1-イルオキシ)メチル;および、1,3-プロパンジオール、2-[(2,3-ジブロモプロポキシ)メチル]-2-[(2-プロペン-1-イルオキシ)メチル]を含んでもよい。式(1)の範囲内に入る、さらに別の化合物も、当業者には公知であり、かつ、本開示において使用することが可能と考えられる。
【0038】
架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーの、不飽和ジオールに対する重量比は、一般に約100:0.1から約100:25であってもよい。特定実施態様では、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーの、不飽和ジオールに対する重量比は、約100:10であってもよい。さらに、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを構成する反応剤のNCO指数は、約0.9から約1.3であってもよい。一般に知られるように、NCO指数とは、イソシアネート官能基の、活性水素含有基に対するモル比である。特定実施態様では、NCO指数は、約1.0である。
【0039】
必要に応じて、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、さらに、充填剤および/または添加剤などの追加成分を含んでもよい。充填剤および添加剤は、種々の所望の特徴、例えば、物理的特性の強化、UV光耐性、およびその他の特性のいずれに基づいて使用されてもよい。例えば、UV光耐性を向上させるために、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、少なくとも一つの光安定剤を含んでもよい。光安定剤は、束縛アミン、UV安定剤、またはそれらの混合物を含んでもよい。
【0040】
さらに、この架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーには、無機または有機充填剤を添加することが可能である。適切な無機充填剤としては、ケイ酸塩ミネラル、金属酸化物、金属塩、クレイ、金属ケイ酸塩、グラスファイバー、天然繊維ミネラル、合成繊維ミネラル、またはそれらの混合物が挙げられてもよい。適切な有機充填剤は、カーボンブラック、フラーレンおよび/またはカーボンナノチューブ、メラミン・コロフォニー、セルロース線維、ポリアミド線維、ポリアクリロニトリル線維、ポリウレタン線維、芳香族および/または脂肪族ジカルボン酸エステルを原料とするポリエステル繊維、炭素線維、またはそれらの混合物を含んでもよい。無機および有機充填剤は、個別に、またはそれらの混合物として使用してよい。充填剤の総量は、ポリウレタン成分の、約0.5から約30重量パーセントであってもよい。
【0041】
さらに、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーの燃焼耐性を改善するために、難燃剤を使用してもよい。適切な難燃剤は、有機リン酸塩、金属リン酸塩、金属ポリリン酸塩、金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム水和物、三酸化アンチモン、酸化ヒ素)、金属塩(例えば、硫酸カルシウム、膨張性黒鉛)、およびシアヌル酸誘導体(例えば、メラミンシアヌレート)を含んでもよい。これらの難燃剤は、個別に、または、それらの混合物として使用してよく、該難燃剤の総量は、ポリウレタン成分の約10から約35重量パーセントであってもよい。
【0042】
強靱性および圧縮リバウンドを向上させるために、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、少なくとも一つの分散剤、例えば、不飽和結合を含むモノマーまたはオリゴマーを含んでもよい。適切なモノマーの例としては、スチレン、アクリルエステルが挙げられ;適切なオリゴマーとしては、ジおよびトリ-アクリレート/メタクリレート、エステルアクリレート/メタクリレート、ウレタン、またはウレアアクリレート/メタクリレートが挙げられる。
【0043】
ゴルフボールの最外層が架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む場合、該架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、より優れた視認性を助長するために、少なくとも一つの白色色素を含んでもよい。この白色色素は、二酸化チタン、酸化亜鉛、またはそれらの混合物から成る群から選ばれてもよい。
【0044】
架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、前述の全ての成分を混ぜ合わせ反応させるのに、一般に、一軸スクリュー法、二軸スクリュー法、またはバッチ法によって行ってもよい。この反応プロセスの産物は、ペレットまたは粉砕チップの形を取ってもよい。
【0045】
一軸スクリュー法または二軸スクリュー法を使用する場合、スクリュー押出機における溶融状反応混合物の滞在時間は、一般に、約0.3から約10分の範囲内にあってもよいが、ある実施態様では、約0.4から約4分であってもよい。スクリュー筐体の温度は、約70度摂氏から約280度摂氏の範囲にあってもよい。押出機を離れる溶融物は、冷却し、続く注入または押出応用に備えて任意の方法で破砕して小片にしてもよい。
【0046】
架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを形成するのにバッチ法を使用するのであれば、成分は全て溶融状態にあり、約70度摂氏から120度摂氏の範囲の温度において約1から約3分間、高度の攪拌装置によって混ぜ合わされる。次いで、該混合物に対し、約70度摂氏から150度摂氏の範囲の温度において約5から約18時間、後続硬化プロセスを施す。このバッチ法によって製造される産物は、注入または押出応用に備えてチップ形状に破砕されてもよい。
【0047】
図2は、本開示の第2実施態様によるゴルフボール200を示す。ゴルフボール200は、コア230、コア230を事実上取り囲む内部カバー層220、および、内部カバー220を事実上取り囲む外部カバー層210を含む。ゴルフボール200のどの層も、前述の架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含んでよい。
【0048】
ある実施態様では、内部カバー層220および外部カバー層210は共に架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む。別の実施態様では、内部カバー層220、または外部カバー層210のいずれかが架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む。さらに別の実施態様では、特に、外部カバー層210が、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む。これらの実施態様では、外部カバー層210は、約20から約75、または約40から約65の、表面ショアーD硬度を持ってもよい。外部カバー層210は、ASTM D790にしたがって、約1から約150 kpsiの曲げ弾性係数を有していてもよい。
【0049】
図3は、本開示の第3実施態様によるゴルフボール300を示す。ゴルフボール300は、内部コア層330、内部コア層330を事実上取り囲む外部コア層320、および、外部コア層320を事実上取り囲むカバー層310を含む。ゴルフボール300のどの層も、前述の架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含んでよい。ある実施態様では、カバー層310は、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む。カバー層210の場合と同様、カバー層310も、約20から約75、または約40から約65の、表面ショアーD硬度を持ってもよい。カバー層310はさらに、ASTM D790にしたがって、約1から約150 kpsiの曲げ弾性係数を有していてもよい。
【0050】
図4は、本開示の第4実施態様によるゴルフボール400を示す。ゴルフボール400は、内部コア層440、内部コア層440を事実上取り囲む外部コア層430、外部コア層430を事実上取り囲む内部カバー層420、および、内部カバー層420を事実上取り囲む外部カバー層410を含む。ゴルフボール400のどの層も、前述の架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含んでよい。
【0051】
ある実施態様では、内部カバー層420および外部カバー層410は共に架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む。別の実施態様では、内部カバー層420、または外部カバー層410のいずれかが架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む。特定実施態様では、外部カバー層410が、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む。これらの実施態様では、外部カバー層410は、約20から約75、または約40から約65の、表面ショアーD硬度を持ってもよい。外部カバー層410はさらに、ASTM D790にしたがって、1から150 kpsiの曲げ弾性係数を有していてもよい。
【0052】
本開示によるゴルフボールの構造は、前述の実施態様に限定されない。本開示によるゴルフボールは、一般に、任意の構造を、例えば、規制合致構造または規制非合致構造を取ってもよい。規制合致ゴルフボールとは、全米ゴルフ協会(USGA)によって承認されるゴルフ規則に合致するゴルフボールである。
【0053】
上に色々に記述される架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、射出成形または圧縮成形によるゴルフボールの製造に使用されてもよい。生産性の向上を実現するために、特定実施態様では射出成形が使用されてもよい。一般に、フリーラジカル重合開始剤は、製造時のいくつかの段階の任意の段階において、ポリマー混合物に加えてよい。例えば、ラジカル開始剤は、ポリマー混合物の押出時に、または、圧縮形成時に加えてもよい。同様に、フリーラジカル重合開始剤は、製造時のいくつかの段階の任意の段階において活性化して架橋結合を形成するようにしてもよい。例えば、フリーラジカル重合開始剤は、押出プロセス時、加熱によって活性化してもよい。
【0054】
架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む層(単数または複数)以外の、どのボール層(単数または複数)においても、適切な材料として、ゴルフボール製造に使用されることが公知の種々の材料の内のいずれを選ぶことも可能である。具体的には、これらの他の材料は、下記の群:(1)熱可塑性材料であって、イオノマー樹脂、高度に中和された酸ポリマー組成物、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、およびそれらの混合物から成る群から選ばれる熱可塑性材料;または、(2)熱硬化材料であって、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリウレアエラストマー、ジエン含有ポリマー(例えば、ポリブタジエン)、架橋結合メタロセン触媒ポリオレフィン、シリコン、およびそれらの混合物から成る群から選ばれる熱硬化材料、から選ばれてもよい。
【0055】
例えば、コア構造が多層構造を持つ実施態様では、内部コア層330(図3に示すように)、または内部コア層440(図4に示すように)を構成する材料の選択は、特に限定されない。内部コア層330または内部コア層440を構成する材料は、下記の群:(1)熱可塑性材料であって、イオノマー樹脂、高度に中和された酸ポリマー組成物、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、およびそれらの混合物から成る群から選ばれる熱可塑性材料;または、(2)熱硬化材料であって、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリウレアエラストマー、ジエン含有ポリマー(例えば、ポリブタジエン)、架橋結合メタロセン触媒ポリオレフィン、シリコン、およびそれらの混合物から成る群から選ばれる熱硬化材料、から選ばれてもよい。
【0056】
各種熱可塑性および熱硬化性材料の中でも、特定実施態様では、イオノマー樹脂または高度に中和された酸ポリマー組成物は、内部コア層330または内部コア層440を含んでもよい。例えば、Surlyn, HPF 1000, HPF 2000, HPF AD1027, HPF AD1035, HPF AD1040、およびそれらの混合物を使用してよい。なお、これらは全てE.I. Dupont de Nemours and Companyによって生産される。
【0057】
内部コア層330または内部コア層440は、熱プレス成形または射出成形などの製造法によって製造してもよい。内部コア層330または内部コア層440の直径は、約19ミリメートルから約37ミリメートルの範囲、または約21ミリメートルから約35ミリメートルの範囲、または約23ミリメートルから約32ミリメートルの範囲にあってもよい。内部コア層330または内部コア層440は、20から70の表面ショアーD硬度を持ってもよい。
【0058】
ある実施態様では、内部コア層330または内部コア層440が熱可塑性材料から製造される場合、外部コア層320または外部コア層430は、熱硬化性材料から製造されてもよい。特に、外部コア層320または外部コア層430は、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリウレアエラストマー、ジエン含有ポリマー(例えば、ポリブタジエン)、架橋結合メタロセン触媒ポリオレフィン、シリコン、およびそれらの混合物を含んでもよい。特定実施態様では、外部コア層320または外部コア層430はポリブタジエンを含んでもよい。
【0059】
特定実施態様では、コア層は、優れた反発弾性能を実現するために、1,4-シス-ポリブタジエンを含んでもよい。具体的には、外部コア層320または外部コア層430のための基材として1,4-シス-ポリブタジエンを使用し、他の成分と混ぜ合わせてもよい。しかしながら、一般に、1,4-シス-ポリブタジエンは、外部コア層320または外部コア層430の組成物の100重量部に対し、少なくとも50重量部であってもよい。
【0060】
さらに、外部コア層320または外部コア層430の組成物に対し、他の添加物、例えば、架橋剤、およびより大きい比重を持つ充填剤を加えてもよい。架橋剤は、ジアクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛、およびメタクリル酸マグネシウムから成る群から選ばれてもよい。特定実施態様では、反発弾性の上昇を実現するためにアクリル酸亜鉛を使用してもよい。
【0061】
比重を増すために、適切な充填剤を、コア層のゴム組成物に加えてもよい。充填剤は、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、および炭酸マグネシウムであってもよい。他の充填剤、例えば、比較的大きな比重を持つ金属粉、例えば、タングステンを使用してもよい。充填剤の量を調整することによって、外部コア層320または外部コア層430の比重を調節してもよい。
【0062】
最後に、外部コア層320または外部コア層430は、30から75の表面ショアーD硬度を持ってもよい。
【0063】
それとは別に、内部コア層330または内部コア層440は前述の熱硬化材料を含み、一方、外部コア層320または外部コア層430は、熱可塑性材料、またはそれらの任意の組み合わせを含んでもよい。
【0064】
コア構造が多層である実施態様では、秒当たり40メートルにおける内部コア層(例えば、図3の内部コア層330、図4の内部コア層440)のC.O.R.は、約0.79から約0.92であってもよく、ゴルフボール全体のC.O.R.より高くてもよい。さらに、秒当たり40メートルにおけるゴルフボールのC.O.R.は、少なくとも約0.77であってもよい。
【0065】
ゴルフボールの最終カバー層が形成された後、該ゴルフボールに対し、各種の、従来の仕上げプロセス、例えば、バフ研磨、スタンピング、および塗装を実施してよい。完成ゴルフボールは、10から130キログラムの負荷において2から4ミリメートルの圧縮変形を呈してもよい。
【0066】
特定実施態様では、本開示によるゴルフボールにおいて、各種測定特性の内の任意のものが、任意の組み合わせにおいて存在してよい。例えば、本開示による複数部分ゴルフボールは、下記の特性:(1)該ゴルフボールは、10から130キログラムの負荷において約2から約4ミリメートルの圧縮変形を持つ;(2)内部コア層は、秒当たり40メートルにおいて、約0.79から約0.92の反発係数を持ち、内部コアの反発係数は、ゴルフボールのそれよりも高い;(3)外部カバー層は、約20から約75のショアーD硬度を持つ;および、(4)外部カバー層は、約1 kpsiから約150 kpsiの曲げ弾性係数を持つ、を呈してもよい。
【実施例】
【0067】
本開示による二つのゴルフボールを下記のように製造し、その擦過抵抗をいくつかの比較例と比較した。
【0068】
各ゴルフボールについて、そのコアは、表1から選ばれる材料から製造し、カバー層は、表2から選ばれる材料から製造した。表1および表2に掲げる材料の量は、重量部(pbw)として、または、重量パーセントとして示す。
【0069】
【表1】

【0070】
TAIPOL(商標)BR0150は、Taiwan Synthetic Rubber Corp.によって生産されるゴムの商品名である。
【0071】
【表2】

【0072】
"PTMEG"は、2,000の数平均分子量を持つ、ポリテトラメチレンエーテルグリコールであり、InvistaからTerathane(登録商標)2000の商品名の下に販売される。"BG"は、1,4-ブタンジオールであり、BASFおよび他の供給業者から購入可能である。"TMPME"は、トリメチロールプロパンモノアリルエーテルで、Perstop Specialty Chemicals ABから購入可能である。"DCP"は、ジクミルペルオキシドであり、LaPorte Chemicals Ltd.にから購入可能である。最後に、"MDI"は、ジフェニルメタンジイソシアネートであり、Suprasec(登録商標)1100の商品名の下にHuntsmanから購入可能である。
【0073】
カバー材料C、D、E、およびFは、PTMEG、BG、TMPME、DCP、およびMDIを表示の割合で混ぜ合わせることによって形成された。具体的には、これらの材料は、高度の攪拌装置において成分を1分間混ぜ合わせ、約70度摂氏の温度から始め、次いで、約100度摂氏の温度で10時間の後硬化プロセスを実行することによって調製した。硬化後のポリウレタンエラストマーは破砕して小チップとした。
【0074】
カバー材料G、H、およびIは、従来のゴルフボールカバー材料である。Texin(登録商標)245は、Bayer MaterialScience AGから市販される熱可塑性ポリウレタン樹脂の商品名である。Elastollan(登録商標)1195Aは、BASFから市販される熱可塑性ポリウレタン樹脂の商品名である。Surlyn 8940およびSurlyn 9910は、E.I. DuPont de Nemours and Companyから市販されるイオノマー樹脂の商品名である。
【0075】
上記コア材料およびカバー材料から、表3に示すように7種のゴルフボールが製造された。一般に、これらのゴルフボールは、ゴルフボール製造技術において公知の射出成形プロセスを用いて製造した。
【0076】
各場合において、コアは39.3 mmの直径を有し、ゴルフボールの全体直径は42.7 mmであり、ゴルフボールの総重量は45.4グラムであった。
【0077】
【表3】

【0078】
擦過抵抗試験は、下記のようにして行った:Nike Victory Red鍛造標準型サンドウェッジ(ロフト:54°;バウンス:12°;シャフト:True Temper Dynamic Goldシャフト;フレックス:S)を、Miyamae Co., Ltd.製造のスウィングロボットに固定し、次いで、約32 m/sのヘッドスピードでスウィングした。クラブ面は、真直打撃を行うように方向づけた。ティーの前後位置は、クラブが垂直となるダウンスウィング点よりも4インチ後ろとなるように調節した。ティーの高さ、および、ティーに対する、クラブのトゥー−ヒールの相対位置は、打撃マークの中心が、ソールの、約3/4インチ上となるように、かつ、トゥーからヒールに向かうフェース横断線の中心となるように調節した。各ボールについて三つのサンプルを試験した。各ボールについて3回の打撃を行った。
【0079】
擦過抵抗を定量するには、他の方法、例えば、Brad Tutmarkの名の下に2010年1月21日に出願された、名称「ゴルフボール摩耗インジケータ」なる、共通委託代理人による、同時係属出願(特許文献14)において記載される方法を使用することも可能である。
【0080】
上述の擦過抵抗試験後、各ゴルフボールを目視で観察し、下記のスケールに従って等級評価した。すなわち、ほとんどまたは全く損傷が見られず、僅かに溝の跡または凹みしか見られない場合、ゴルフボールカバーは等級"1"とし;カバーに小さい切痕または波状痕が明らかである場合、ゴルフボールカバーは等級"2"とし;中等量のカバー材料がボール表面から浮き上がっているが、カバー材料は依然としてボールに付着している場合、ゴルフボールカバーは等級"3"とし;最後に、カバー材料が剥がれ、かろうじてゴルフボールに付着している場合、ゴルフボールカバーは等級"4"とした。
【0081】
コアおよびカバー層のショアーD硬度値は、ショアーD硬度試験器によって測定可能となるよう層の球面において測定した。
【0082】
表3に示すように、硬セグメントに架橋結合を配置させる、すなわち、フリーラジカル重合開始剤によって触媒されて、硬セグメントに配される不飽和結合の反応産物である架橋結合を有する、架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む組成物から製造される実施例1および2は、優れた擦過抵抗を実現する。
【0083】
これまで本発明の様々な実施態様が説明されたわけであるが、本明細書は、限定的ではなく、例示的であることを意図するもので、本発明の範囲内に納まる、より多くの実施態様および実施例が可能であることは当業者には明白であろう。したがって、本発明は、添付の特許請求項およびその等価物に徴するという点を除いては、限定されてはならない。さらに、各種改変および変更は、添付の特許請求の範囲内において実行することが可能である。
【符号の説明】
【0084】
100 ゴルフボール
110 カバー
120 コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフボールであって:
架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含み;
該架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、硬セグメントおよび軟セグメントを含み;
該架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、該硬セグメントに配される架橋結合を含み、該架橋結合は、フリーラジカル重合開始剤によって触媒される、該硬セグメントに配される不飽和結合の反応産物であることを特徴とする、
ゴルフボール。
【請求項2】
前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーが、鎖伸長剤として不飽和ジオールを含むことを特徴とする、請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記フリーラジカル重合開始剤は、前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーにおいて、約0.1:100から約100:100の、フリーラジカル重合開始剤・対・不飽和ジオール重量比として存在することとを特徴とする、請求項2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記フリーラジカル重合開始剤の、前記不飽和ジオールに対する重量比が約5:100であることを特徴とする、請求項3に記載のゴルフボール。
【請求項5】
前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーの、前記不飽和ジオールに対する重量比が、約100:0.1から約100:25であることを特徴とする、請求項2に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーの、前記不飽和ジオールに対する重量比が約100:10であることを特徴とする、請求項2に記載のゴルフボール。
【請求項7】
前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーが、アリルエーテル側基から形成される架橋結合を含み、該架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、下記の反応剤:
(a)下式、
【化1】

の不飽和ジオールであって、二つの一次ヒドロキシル基、および、少なくとも一つのアリルエーテル側基を有する不飽和ジオール、上式において、Rは、修飾された官能基を持つか、または持たないアルキル基であり、xおよびyは1から4の整数である;
(b)少なくとも二つの、イソシアネートとの反応部位を有し、約450未満の分子量を持つ鎖伸長剤;
(c)約500と約4,000の間の分子量を持つ長鎖ポリオール;および
(d)前記硬セグメントにおいて、フリーラジカル重合起動によって架橋構造を誘発するフリーラジカルの生成を可能とするのに十分な程度のフリーラジカル重合開始剤、
から成る混合物と、有機イソシアネートとを反応させることによって形成される反応産物であることを特徴とする、請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項8】
前記不飽和ジオールが、トリメチルプロパン・モノアリルエーテルであることを特徴とする、請求項7に記載のゴルフボール。
【請求項9】
前記フリーラジカル重合開始剤が、熱的切断およびUV放射の内の少なくとも一つによってフリーラジカルを生成することを特徴とする、請求項7に記載のゴルフボール。
【請求項10】
前記フリーラジカル重合開始剤が、過酸化物、硫黄、および硫化物から成る群から選ばれることを特徴とする、請求項7に記載のゴルフボール。
【請求項11】
前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを形成する前記反応剤のNCO指数が、約0.9から約1.3であることを特徴とする、請求項7に記載のゴルフボール。
【請求項12】
前記ゴルフボールが、コア、および、該コアを事実上取り囲むカバー層を含み;かつ、
該カバー層が、前記硬セグメントに架橋結合を配置させる前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む、
ことを特徴とする、請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項13】
前記ゴルフボールが、コア、および、該コアを事実上取り囲むカバー層を含み;
該カバー層が、該コアを事実上取り囲む内部カバー層、および、該内部カバー層を事実上取り囲む外部カバー層を含み;
該内部カバー層が、前記硬セグメントに架橋結合を配置させる前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む、
ことを特徴とする、請求項7に記載のゴルフボール。
【請求項14】
前記ゴルフボールが、コア、および、該コアを事実上取り囲むカバー層を含み;
該カバー層が、該コアを事実上取り囲む内部カバー層、および、該内部カバー層を事実上取り囲む外部カバー層を含み;
該外部カバー層が、前記硬セグメントに架橋結合を配置させる前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む、
ことを特徴とする、請求項7に記載のゴルフボール。
【請求項15】
前記外部カバー層が、約20と約75の間のショアーD硬度を有することを特徴とする、請求項14に記載のゴルフボール。
【請求項16】
ゴルフボールであって:内部コア層、該内部コア層を事実上取り囲む外部コア層、該外部コア層を事実上取り囲む内部カバー層、および、該内部カバー層を事実上取り囲む外部カバー層を含み;
該外部カバー層は、硬セグメントに架橋結合を配置させる架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含み、該架橋結合は、フリーラジカル重合開始剤によって触媒される、該硬セグメントにおける不飽和結合の反応産物であり;かつ、
該ゴルフボールは、下記の要件:
(1)該ゴルフボールは、10から130キログラムの負荷の下に約2から約4ミリメートルの圧縮変形を持つ;
(2)該内部コア層は、1秒当たり40メートルに対し、約0.79から約0.92の反発係数を持ち、該内部コアの反発係数は、該ゴルフボールのものよりも高い;
(3)該外部カバー層は、約20から約75のショアーD硬度を持つ;および、
(4)該外部カバー層は、約1 kpsiから約150 kpsiの曲げ弾性係数を持つ、
を満たすことを特徴とする、ゴルフボール。
【請求項17】
前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーが、鎖伸長剤として不飽和ジオールを含むことを特徴とする、請求項16に記載のゴルフボール。
【請求項18】
前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーの、前記不飽和ジオールに対する重量比が、100:0.1から100:15であることを特徴とする、請求項17に記載のゴルフボール。
【請求項19】
前記フリーラジカル重合開始剤は、前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーにおいて、約0.1:100から約100:100の、フリーラジカル重合開始剤・対・不飽和ジオール重量比として存在することとを特徴とする、請求項19に記載のゴルフボール。
【請求項20】
前記架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーが、アリルエーテル側基から形成される架橋結合を含み、該架橋結合熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、下記の反応剤:
(a)下式、
【化2】

の不飽和ジオールであって、二つの一次ヒドロキシル基、および、少なくとも一つのアリルエーテル側基を有する不飽和ジオール、上式において、Rは、修飾された官能基を持つか、または持たないアルキル基であり、xおよびyは1から4の整数である;
(b)少なくとも二つの、イソシアネートとの反応部位を有し、約450未満の分子量を持つ鎖伸長剤;
(c)約500と約4,000の間の分子量を持つ長鎖ポリオール;および
(d)前記硬セグメントにおいて、フリーラジカル重合起動によって架橋構造を誘発するフリーラジカルの生成を可能とするのに十分な程度のフリーラジカル重合開始剤、
から成る混合物と、有機イソシアネートとを反応させることによって形成される反応産物であることを特徴とする、請求項16に記載のゴルフボール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−11171(P2012−11171A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276977(P2010−276977)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(505424859)ナイキ インターナショナル リミテッド (249)