説明

架橋芳香族高分子電解質膜とその製造方法、および架橋芳香族高分子電解質膜を用いた高分子形燃料電池

【課題】イオン導電性と膜の機械強度とを両立させた架橋芳香族高分子電解質膜を製造する。
【解決手段】芳香族高分子フィルム基材に対して、放射線照射による架橋構造の付与、および、グラフト重合工程によるグラフト鎖の形成を行った後、グラフト重合により形成されたグラフト鎖の一部をスルホン酸基に化学変換することによりグラフト鎖にスルホン酸基を導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋芳香族高分子電解質膜とその製造方法、および架橋芳香族高分子電解質膜を用いた高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子形燃料電池は、そのエネルギー密度が高いことから、電気自動車、家庭用定置及び電子機器の電源として期待されている。この燃料電池においては電解質である電解質膜は最も重要な部材の一つである。高分子形燃料電池においては、電解質膜は両面に電極が接合されており、膜と電極とは実質的に一体構造になっている。このため、電解質膜はプロトンを伝導するための電解質として作用し、また、加圧下においても燃料である水素と酸素を直接接触させないための隔膜としての役割も有する。このような電解質膜としては、長期間作動において高いイオン導電性及び膜バリアー性を保持しなければならない。そのため、高分子電解質膜に、高いイオン導電性及び強い機械強度が要求される。
【0003】
現在、高分子電解質膜として、デュポン社によって開発されたフッ素樹脂系のパーフルオロスルホン酸膜「ナフィオン(登録商標)」等が一般に用いられてきた。しかしながら、「ナフィオン」等のフッ素系電解質膜は、イオン導電性には優れているが、100℃以上の高温での機械強度に劣ること、製造コストが高いこと、などの課題も存在する。
そのため、前記「ナフィオン(登録商標)」等に替わる低コストの電解質膜を開発する努力が行われてきた。本発明と密接関連する放射線グラフト重合法により、フッ素系高分子フィルムにスルホン酸基を導入して高分子電解質膜を作製する方法が、特許文献1、特許文献2、特許文献3に提案されている。フッ素系高分子フィルムは、耐溶媒性が高いため、グラフト溶液又はスルホン化溶液中にフィルムの形状が維持でき、厚みが一様に均一な高分子電解質膜が得られる。また、ポリオレフィン高分子(ポリエチレン又はポリプロピレン)フィルムも耐溶媒性が高いため、放射線グラフト重合法により高分子電解質膜を合成できる(非特許文献1)。これらの放射線グラフト重合高分子電解質膜は、高いイオン導電性を有し、且つ製造コストが低いことから注目されている。
【0004】
また、本発明と密接に関連する高分子フィルムの放射線架橋では、特許文献4にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムの放射線架橋を開示した。放射線架橋PTFEフィルムは耐放射線性が向上すると共に、モノマーの放射線グラフト重合性も向上することが開示されている。例えば、グラフトモノマーとしてスチレンを用いた場合、未架橋のPTFEに比較し、架橋PTFEはグラフト率を著しく増加させることができ、このため未架橋PTFEの2〜10倍のスルホン酸基を架橋PTFEに導入できることを開示している。しかし、架橋PTFEの機械強度が低いため(<30MPa)、これを用いて製造された電解質膜の機械強度は不十分であった。
【0005】
さらに、本発明に密接に関連する芳香族高分子電解質膜は、高い機械強度、低い水素透過性があり、80℃以上の高温低加湿燃料電池への応用が期待されている。特に、スーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれるポリエーテルエーテルケトン、ポリイミドなどに代表される芳香族高分子鎖にスルホン酸基を導入した電解質膜などが研究開発の対象となっている。
【0006】
これらの芳香族高分子電解質膜の製造は、スルホン酸基を有するモノマーからの合成、または、電解質膜の前駆体である芳香族高分子を直接スルホン化してからキャストにより製膜するなどの方法で行われている。いずれも、親水性のスルホン酸基が電解質膜の主鎖骨格に直接接合されるため、芳香族高分子骨格の本来のエンジニアリング特性が大きく失われると共に、疎水性の骨格と親水性のスルホン酸基の間に明瞭なミクロ分離が存在しないため、高いイオン導電性の実現が困難であった。さらに、芳香族高分子電解質膜は、含水性が大きく、化学安定性が低いため、これらの高分子電解質膜を用いて作製した電池においては、電池運転直後から、膜の膨張又は分解による膜の亀裂が起こるため、電池アノードとカソードとの隔離役割がなくなり、この結果、数十時間の短時間運転においても電池性能の大幅な低下が起こる。このような状況から、現在まで、芳香族高分子を用いた電解質膜は市場化されていない。
【0007】
そこで、芳香族高分子電解質膜に明瞭な親水相と疎水相とのミクロ分離を形成するために、芳香族炭化水素系高分子フィルムにイオン導電性基を導入することができるモノマーを放射線グラフト重合して、芳香族高分子電解質膜を作製する試みがなされている。この方法では、グラフト重合反応を行うための有機溶媒もしくはモノマー溶液に芳香族炭化水素系高分子フィルムを浸漬したり、あるいは、スルホン化反応を行うためのスルホン化溶液にグラフトした芳香族炭化水素系高分子フィルムを浸漬している。しかしながら、この方法では、浸漬処理において芳香族炭化水素系高分子フィルムの形状が著しく変化するため、燃料電池に適用できる電解質膜を得るのは困難であった。
【0008】
芳香族高分子フィルム基材の高い機械強度を高分子電解質膜に生かすために、本発明者らは、放射線架橋を利用して、電解質膜の基材である芳香族高分子フィルムに充分な放射線架橋を実施した。架橋した芳香族高分子フィルムは、溶媒に対する耐性が高く、スルホン化溶液中では変形しないので、芳香族高分子フィルム基材の骨格に導電性のスルホン酸基が直接付与された電解質膜を得ることができた(特許文献5)。しかしながら、この電解質膜は、基材の骨格がスルホン化されたため、機械強度及び耐加水分解性が不十分であるという問題が残っている。
【0009】
また、本発明者らは、芳香族高分子フィルムに対してグラフト重合を実施し、そのグラフト鎖の一部をスルホン酸基に化学変換している(特許文献6)。具体的には、特定溶媒を利用してスチレングラフトしたポリエーテルエーテルケトンフィルムを合成し、該グラフトフィルムを低温低濃度のスルホン化溶液中でスルホン化して電解質膜を得ている。
【0010】
しかしながら、特許文献6の方法は、グラフト反応、もしくはスルホン化反応中において、フィルム形状が変化してしまい、グラフト率の高い、又は、イオン導電性の高い電解質膜の製造は困難であった。そこで、本発明者らは、特許文献7に開示したように、スルホン化反応による変形を避けるため、直接スルホン酸基又はスルホン酸基に簡単に変換できるスルホン酸エステル基などを有するスチレン系モノマーを放射線グラフトした。その結果、高い機械強度と高いイオン導電性を持つ電解質膜を製造することができた。しかしながら、これらのモノマーはまだ市販されておらず、高価なモノマーという問題が残っている。
【0011】
また、脂環式炭化水素を含むポリイミド膜のグラフト鎖の一部がスルホン酸基に化学変換されている高分子電解質膜が知られている(特許文献8)。しかしながら、これらの脂環式炭化水素を含むポリイミド基材フィルムは、現在市販されておらず、その生産コストが高いと予想されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−291417号公報
【特許文献1】特開2001−348439号公報
【特許文献2】特開2002−313364号公報
【特許文献3】特開2003−82129号公報
【特許文献4】特開2001−348439号公報
【特許文献5】特開2008−195748号公報
【特許文献6】特開2008−53041号公報
【特許文献7】特開2009−67844号公報
【特許文献8】特開2010−92787号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Grafted polymer electrolyte membrane for direct methanol fuel cells, Journal of Membrane Science, Volume 251, Issues 1-2, 1 April 2005, Pages 121-130 M. Shen, S. Roy, J.W. Kuhlmann, K. Scott, K. Lovell, J.A. Horsfall
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題を解消して、イオン導電性と膜の機械強度とを両立させた架橋芳香族高分子電解質膜を低コストで製造できる方法、架橋芳香族高分子電解質膜および高分子形燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、電子線、ガンマ線などの放射線の産業利用の研究開発、特に、放射線照射による高分子フィルムの架橋やグラフト重合技術を確立するとともに、この技術によって高分子形燃料電池の要求性能を満たす燃料電池などの高性能高分子電解質膜を安価、且つ経済的に製造する方法の開発に成功し、上記課題を解決できることを見出した。
【0016】
すなわち、上記の課題を解決するために、本発明は、以下のことを特徴としている。
【0017】
本発明の架橋芳香族高分子電解質膜の製造方法は、芳香族高分子フィルム基材に対して、放射線照射による架橋構造の付与、および、下記グラフト重合工程によるグラフト鎖の形成を行った後、グラフト重合により形成されたグラフト鎖の一部をスルホン酸基に化学変換することにより前記グラフト鎖にスルホン酸基を導入する。
【0018】
グラフト重合工程:架橋構造が付与された芳香族高分子フィルム基材に、スルホン化反応でスルホン酸基導入可能な芳香環を有するビニルモノマー(1)、および、加水分解でスルホン酸基に変換可能なスルホニル基、ハロゲン化スルホニル基、スルホン酸塩基もしくはスルホン酸エステル基を有するビニルモノマー(2)から選ばれる少なくとも1種のビニルモノマーをグラフト重合する工程。
【0019】
また、本発明の架橋芳香族高分子電解質膜の製造方法は、芳香族高分子フィルム基材に対して、放射線照射による架橋構造の付与、および、下記グラフト重合工程によるグラフト鎖の形成を行った後、グラフト重合により形成されたグラフト鎖の一部をスルホン酸基に化学変換することにより前記グラフト鎖にスルホン酸基を導入するとともに、グラフト鎖のアルコキシシラン基を加水分解して前記グラフト鎖間にシラン架橋構造を付与する。
【0020】
グラフト重合工程:架橋構造が付与された芳香族高分子フィルム基材に、スルホン化反応でスルホン酸基導入可能な芳香環を有するビニルモノマー(1)、および、加水分解でスルホン酸基に変換可能なスルホニル基、ハロゲン化スルホニル基、スルホン酸塩基もしくはスルホン酸エステル基を有するビニルモノマー(2)から選ばれる少なくとも1種のビニルモノマーと、アルコキシシラン基を有し且つスルホン酸基保持可能な芳香環を有するビニルモノマー(3)、および、アルコキシシラン基を有し且つ芳香環を持たないビニルモノマー(4)から選ばれる少なくとも1種のビニルンモノマーとを共グラフト重合する工程。
【0021】
さらに、本発明の架橋芳香族高分子電解質膜の製造方法においては、ビニルモノマー(1)のグラフト重合により形成されたグラフト鎖の芳香環にスルホン酸基を導入するスルホン化反応は、濃度0.2M以下のスルホン化溶液を室温以下の温度で前記架橋芳香族高分子フィルム基材に接触させて行うことが好ましい。
【0022】
また、本発明の架橋芳香族高分子電解質膜の製造方法においては、グラフト重合工程の前に、(1)から(4)のビニルモノマー、および、多官能性ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のビニルモノマーを、芳香族高分子フィルム基材にグラフト重合することが好ましい。
【0023】
さらに、本発明の架橋芳香族高分子電解質膜は、架橋構造が付与されている芳香族高分子フィルム基材にビニルモノマーのグラフト鎖が形成されている架橋芳香族高分子電解質膜であって、グラフト鎖にはスルホン酸基が導入されている。
【0024】
また、本発明の架橋芳香族高分子電解質膜は、架橋構造が付与されている芳香族高分子フィルム基材にビニルモノマーのグラフト鎖が形成されている架橋芳香族高分子電解質膜であって、グラフト鎖にはスルホン酸基が導入され、且つ、グラフト鎖間にシラン架橋構造が付与されている。
【0025】
そして、本発明の架橋芳香族高分子電解質膜においては、グラフト鎖が、芳香環を有し、この芳香環に前記スルホン酸基が導入されていることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明の架橋芳香族高分子電解質膜においては、芳香族高分子フィルム基材が、ポリエーテルエーテルケトン構造、ポリエーテルケトン構造、ポリスルホン構造、またはポリイミド構造を有することが好ましい。
【0027】
また、本発明の高分子形燃料電池は、上記の架橋芳香族高分子電解質膜を有する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、従来相反するイオン導電性と膜の機械強度とを両立させた架橋芳香族高分子電解質膜を安価、且つ効率よく製造することができる。この架橋芳香族高分子電解質膜は、コンピューター、パソコンに代表される携帯機器、家庭用コジェネレーション、自動車等の燃料電池の電解質膜として使用することができる。
【0029】
また、無機微粒子をシラン架橋構造のサイトとして、有機の芳香族高分子骨格の相とイオン導電性基を持つグラフト鎖の相とのハイブリット化による、ハイブリット電解質膜を得るもことできる。シラン架橋は、電解質膜の化学的、熱的、機械強度、寸法安定性などの特性を向上させ、また、高温での保水性も与えるため、電解質膜の更なる高性能化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】架橋芳香族高分子電解質膜の製造プロセスの一例を示したフローチャートである。
【図2】架橋芳香族高分子電解質膜の製造プロセスの別の一例を示したフローチャートである。
【図3】架橋芳香族高分子電解質膜の製造プロセスのさらに別の一例を示したフローチャートである。
【図4】架橋芳香族高分子電解質膜の製造プロセスのさらに別の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の架橋芳香族高分子電解質膜は、架橋構造が付与されている芳香族高分子フィルム基材にビニルモノマーのグラフト鎖が形成され、このグラフト鎖にはスルホン酸基が導入されている高分子電解質膜であって、放射線架橋した芳香族高分子骨格の相と、イオン導電性基としてスルホン酸基を持つ高分子グラフト鎖の相とを含む多相構造を持つ高分子電解質膜である。また、本発明の架橋芳香族高分子電解質膜は、架橋構造が付与されている芳香族高分子フィルム基材にビニルモノマーのグラフト鎖が形成され、このグラフト鎖にはスルホン酸基が導入され、且つ、グラフト鎖間にシラン架橋構造が付与されている高分子電解質膜であって、放射線架橋した芳香族高分子骨格の相と、イオン導電性基としてスルホン酸基を持つ高分子グラフト鎖の相と、シラン架橋構造とを含むハイブリット高分子電解質膜である。
【0032】
本発明の架橋芳香族高分子電解質膜の製造方法は、芳香族高分子フィルム基材に対して、放射線照射による架橋構造の付与、および、各種のビニルモノマーをグラフト重合してグラフト鎖の形成を行った後、グラフト鎖にスルホン酸基を導入し、または、さらに、グラフト鎖間にシラン架橋構造を付与する方法であって、簡便なフィルム・ツ・フィルムプロセスで高分子電解質膜を製造する方法である。
【0033】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
(芳香族高分子フィルム基材)
本発明において使用する「芳香族高分子フィルム基材」は、芳香族高分子電解質膜の基材となるフィルム形態を有する高分子材料である。本発明において使用することができる芳香族高分子フィルム基材の例としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、芳香族ポリアミド(PAMDX6)、ポリフェニルエーテル(PPO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのうち1種、又は2種以上の共重合体若しくは混合物から構成されるフィルムが挙げられる。なかでも、機械強度又は熱安定性が高い、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリスルホンのいずれかの構造を持つ芳香族高分子フィルム基材が好ましく用いられる。これら芳香族高分子フィルム基材は市販されており、安価、且つ容易に入手することができる。この芳香族高分子フィルム基材に対して、予め放射線照射して架橋構造を付与することで、芳香族高分子フィルム基材の耐溶媒性が高くなる。そのため、化学改質として、放射線グラフト重合、スルホン化反応等の処理を施しても芳香族高分子フィルム基材のフィルム形状が維持できることから、簡便なフィルム・ツ・フィルム製造プロセスによる高分子電解質膜の製造が可能になる。
【0034】
芳香族高分子フィルム基材の厚さは特に限定されないが、5〜200μmが好ましい。5μmより薄いと得られる高分子電解質膜の強度が低下する場合があり、200μmより厚いと得られる高分子電解質膜の膜抵抗が大きくなり燃料電池等の特性が不足する場合がある。そのため、充分な強度と高いイオン導電性能が達成されるように、5〜200μmの間に目的にあわせて調整されればよい。
(放射線照射による架橋構造の付与)
本発明において、放射線照射による架橋構造の付与とは、芳香族高分子フィルム基材に電離性放射線照射し、芳香族高分子フィルム基材の芳香族高分子鎖同士に架橋を導入することである。放射線照射で架橋構造を付与する芳香族高分子フィルム基材は、後述する第2グラフト重合によりビニルモノマーがグラフト重合された芳香族高分子フィルム基材も含む。ビニルモノマーがグラフト重合された芳香族高分子フィルム基材に電離性放射線照射した場合には、芳香族高分子フィルム基材の芳香族高分子鎖同士、グラフト鎖と芳香族高分子鎖、又はグラフト鎖同士に架橋が導入される。
【0035】
芳香族高分子フィルム基材に架橋構造を付与することにより、グラフト溶液、スルホン化溶液を含むほとんどの溶液及び有機溶媒に不溶となる。その結果、芳香族高分子フィルム基材の形状を保持した状態でグラフト重合またはスルホン化反応を行うことができ、グラフト率が高く、イオン導電性が高い高分子電解質膜の製造が可能となる。更に、架橋構造の付与された芳香族高分子電解質膜は、その含水性が著しく抑制されることから、燃料電池用高分子電解質膜に必要な耐酸化性、機械強度に優れた性質を示すものとなる。
【0036】
芳香族高分子フィルム基材(後述する第2グラフト重合によりビニルモノマーをグラフトした芳香族高分子フィルム基材を含む)への架橋構造の付与は、放射線により芳香族高分子鎖上に生成したラジカルなどの活性点間の反応を利用して行われる。従って、高分子鎖上にラジカル等の活性種を発生する反応を起こすエネルギー源であれば、放射線は特に制限されるものではない。具体的には、γ線、電子線、イオンビーム、X線などが挙げられる。
【0037】
放射線は、例えば、室温〜350℃、真空下、不活性ガス下又は酸素存在下で、芳香族高分子フィルム基材、又はビニルモノマーをグラフトした芳香族高分子フィルム基材に0.5〜200MGyの吸収線量で照射する。これにより、架橋構造が付与される。架橋密度の一つの尺度として、該芳香族高分子のゲル化率が挙げられる。このゲル化率は、芳香族高分子の良溶媒中における高分子の不溶重量の全重量に対する比率として定義される。
【0038】
ゲル化率が40%以上であれば、グラフト重合およびスルホン化反応において芳香族高分子フィルム基材の形状が保持でき、水又は有機溶液中に溶けない架橋芳香族高分子電解質膜が得られる。必要な架橋線量は、芳香族高分子フィルム基材の種類によって異なる。例えば、ポリエーテルエーテルケトンフィルム基材の場合、20MGy以下ではゲル化率が40%に達しないため、得られる架橋芳香族高分子電解質膜の機械強度が低くなる場合があり、燃料電池用電解質膜として使用困難である。また、100MGy以上では、得られる電解質膜が脆くなる場合がある。従って、ポリエーテルエーテルケトンの場合、30〜100MGyの範囲の架橋線量で照射することが好ましい。
【0039】
酸素存在下で生成したラジカルは一部過酸化物構造になるため、照射雰囲気は真空下又は不活性ガス下がより好ましい。高温で照射することで放射線架橋を促進することができるため、より低線量で高ゲル化率が達成できる。また、照射したサンプルを80℃以上で熱処理することにより、残留ラジカルが結合し、架橋効果が更に向上する。したがって、真空下、80〜250℃で2〜24時間の熱処理がより好ましい。
(グラフト重合するビニルモノマー)
本発明において、芳香族高分子フィルム基材にグラフト重合するビニルモノマーは、下記A群の、スルホン化反応でスルホン酸基導入可能な芳香環(芳香族環)を有するビニルモノマー(1)、下記B群の加水分解でスルホン酸基に変換可能なハロゲン化スルホニル基、スルホン酸塩基もしくはスルホン酸エステル基を有するビニルモノマー(2)、下記C群のアルコキシシラン基を有し且つスルホン酸基保持可能な芳香環を有するビニルモノマー(3)、下記D群のアルコキシシラン基を有し且つ芳香環を持たないビニルモノマー(4)が挙げられる。芳香族高分子電解質膜にイオン導電性基としてスルホン酸基を導入するためには、A群およびB群のビニルモノマーからなる群から1種又は2種以上のビニルモノマーをグラフト重合する。芳香族高分子電解質膜をハイブリット化するためには、A群およびB群のビニルモノマーからなる群から1種又は2種以上のビニルモノマーと、C群およびD群のビニルモノマーからなる群から1種又は2種以上のビニルモノマーをグラフト重合する。
【0040】
スルホン酸基導入ないしハイブリッド化のためのビニルモノマーのグラフト重合を促進するために、このグラフト重合に先立ち、A群、B群、C群、D群のビニルモノマー、および下記E群の多官能性ビニルモノマー(5)からなる群から1種又は2種以上のビニルモノマーをグラフト重合することができる。なお、上記したスルホン酸基導入ないしハイブリッド化のためのビニルモノマーのグラフト重合を、以下、第1グラフト重合ともいい、この第1グラフト重合を促進するために、第1グラフト重合に先立って行うグラフト重合を、第2グラフト重合ともいう。
(1)A群:
スルホン化反応でスルホン酸基導入可能な芳香環を有するビニルモノマーとしては、スチレン、およびα−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン類、ジメチルスチレン類、トリメチルスチレン類、ペンタメチルスチレン類、ジエチルスチレン類、イソプロピルスチレン類、ブチルスチレン類(3-tert-ブチルスチレン、4-tert-ブチルスチレンなど)のアルキルスチレン、クロロスチレン類、フルオロスチレン類などのスチレン誘導体などが挙げられる。
(2)B群:
加水分解でスルホン酸基に変換可能なスルホニル基、ハロゲン化スルホニル基、スルホン酸塩基もしくはスルホン酸エステル基を有するビニルモノマーとしては、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸リチウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、スチレンスルホン酸メチルエステル、スチレンスルホン酸エチルエステル、ビニルスルホン酸アンモニウム、ビニルスルホン酸リチウム、ビニルスルホン酸エチルエステルなどが挙げられる。
(3)C群:
アルコキシシラン基を有し且つスルホン酸基保持可能な芳香環を有するビニルモノマーとしては、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、p−スチリルエチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
(4)D群:
アルコキシシラン基を有し且つ芳香環を持たないビニルモノマーとしては、ジエトキシメチルビニルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジエトキシメチルアリルシラン、アリルトリメトキシシランなどが挙げられる。
(5)E群:
多官能性ビニルモノマーとしては、ジビニルベンゼン、ビス(ビニルフェニル)エタン、2,4,6-トリアリロキシ-1,3,5-トリアジン(トリアリルシアヌレート)、トリアリル-1,2,4-ベンゼントリカルボキシレート(トリアリルトリメリテート)、ジアリルエーテル、トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリワン、1,4-ジビニルオクタフルオロブタン、ビス(ビニルフェニル)メタン、ジビニルアセチレン、ジビニルスルフィド、ジビニルスルフォン、ジビニルスルホキシドなどが挙げられる。
(第1グラフト重合)
第1グラフト重合は、架橋構造が付与された芳香族高分子フィルム基材に、スルホン化反応でスルホン酸基導入可能な芳香環を有するビニルモノマー(1)、および、加水分解でスルホン酸基に変換可能なスルホニル基、ハロゲン化スルホニル基、スルホン酸塩基もしくはスルホン酸エステル基を有するビニルモノマー(2)から選ばれる少なくとも1種のビニルモノマーをグラフト重合する。あるいは、芳香族高分子フィルム基材または架橋構造が付与された芳香族高分子フィルム基材に、スルホン化反応でスルホン酸基導入可能な芳香環もしくはカルボニル基を有するビニルモノマー(1)、および、加水分解でスルホン酸基に変換可能なスルホニル基、ハロゲン化スルホニル基、スルホン酸塩基もしくはスルホン酸エステル基を有するビニルモノマー(2)から選ばれる少なくとも1種のビニルモノマーと、アルコキシシラン基を有し且つスルホン酸基保持可能な芳香環を有するビニルモノマー(3)、および、アルコキシシラン基を有し且つ芳香環を持たないビニルモノマー(4)から選ばれる少なくとも1種のビニルンモノマーとを共グラフト重合する。
【0041】
(3)や(4)のビニルモノマーをグラフト重合することにより、高分子電解質膜にシラン架橋構造を付与できる。(3)や(4)のビニルモノマーは、重量比で50%以下添加して共グラフト重合することが好ましい。50%以上に添加すると、グラフト重合性が低下する場合がある。また、得られる高分子電解質膜のシラン架橋密度が大きくなりすぎて、高分子電解質膜が脆くなる恐れがある。
【0042】
第1グラフト重合においては、多官能性ビニルモノマー(5)を架橋剤として添加して共グラフト重合することもできる。多官能性ビニルモノマー(5)は、重量比で10%以下添加してグラフト重合することが好ましい。10%を超えて添加すると、グラフト重合性が低下する場合がある。また、得られる高分子電解質膜が脆くなる恐れがある。
【0043】
第1グラフト重合後は、ビニルモノマーの種類にもよるが、スルホン化工程、加水分解工程等を経て高分子電解質膜が得られる。
【0044】
第1グラフト重合の手法は特に限定されず、例えば、熱グラフト重合や放射線グラフト重合などによって行われる。
(熱グラフト重合)
熱グラフト重合は、芳香族高分子フィルム基材をビニルモノマー溶液中に浸漬させ、空気中または窒素等の不活性雰囲気下、40〜100℃、なかでも50〜80℃で1〜48時間、なかでも5〜20時間重合反応を行うことが好ましい。芳香族高分子の芳香環は高いラジカル捕捉能があるため、熱によって生成したラジカルが基材の芳香環に捕捉され、グラフト重合の出発点として基材の高分子鎖に枝のようなグラフト鎖が形成される。
【0045】
熱グラフト重合はプロセスが簡便、コストが低いという特徴があるが、熱によって生成するラジカル量が少ないため、グラフト率を20%以上にすることが難しい。このため、後述するが、第2グラフト重合では、要求グラフト率が低いこと、及び、グラフト反応性の高いモノマーが選択できることから、第2グラフト重合は熱グラフト重合によって行われることが好ましい。
(放射線グラフト重合)
放射線グラフト重合は、放射線を照射することで、芳香族高分子フィルム基材にラジカルが生成し、そのラジカルとビニルモノマーが接触することでグラフト鎖が形成される。ラジカル量は照射量によってコントロールできるため、高いグラフト率が得られる。このため、第1グラフト重合は放射線グラフト重合によって行われることが好ましい。
【0046】
芳香族高分子フィルム基材へのビニルモノマーのグラフト重合は、基材のみを放射線照射後に、ビニルモノマーを反応させる、いわゆる前照射法、又は基材及びビニルモノマーを同時に放射線照射してビニルモノマーを反応させる、いわゆる同時照射法のいずれの方法でも可能であるが、ホモポリマーの生成量の少ない前照射法が好ましい。
【0047】
前照射法には二通りの方法、すなわち、芳香族高分子フィルム基材を不活性ガス中で照射するポリマーラジカル法と、芳香族高分子フィルム基材を酸素存在下で照射するパーオキサイド法とがあり、いずれも使用可能である。
【0048】
前照射法の一例としては、まず芳香族高分子フィルム基材をガラス製容器などに挿入した後、この容器を真空脱気し、不活性ガスと置換する。その後、芳香族高分子フィルム基材を含む容器に−10℃〜80℃の温度、好ましくは室温付近で、放射線照射した後、ビニルモノマー溶液を、この照射した基材を含む容器内に充填してグラフト重合させる。
【0049】
前記放射線の照射量は、1kGy以下では、グラフト鎖が十分に形成されない場合がある。そのため、1kGy以上、好ましくは5kGy以上、さらに好ましくは10kGy以上であることが望ましい。また、前記放射線の照射量が高い場合には、照射コストが高くなり、基材である高分子が破断して脆くなり、電池への使用に耐えられなくなる。このため、前記放射線の照射量は500kGy以下、好ましくは100kGy以下、さらに好ましくは60kGy以下であることが望ましい。
【0050】
照射に使用される放射線の種類は特に限定がなく、γ線、X線、電子線、イオンビーム、紫外線などが例示される。ラジカル生成の容易さからγ線、電子線が好ましい。
【0051】
芳香族高分子フィルム基材と、ビニルモノマー溶液とを接触させる際には、真空下、不活性ガス雰囲気や大気中などで行われる。グラフト鎖を充分に形成させるためには、酸素によるラジカルの失活を防ぐことができる、真空下または不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。本発明においては、グラフト重合を行う際の反応雰囲気中の酸素濃度を0.01%(体積%、以下同様)に調整することが好ましい。酸素濃度が0.01%を超えるとグラフト重合性が低下する場合がある。不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどが使用できる。
(グラフト重合温度・時間)
適度なグラフト重合速度を得るために、グラフト重合温度は40℃以上であることが好ましい。また、ホモポリマーの形成およびラジカルの失活を防ぐため、グラフト重合温度は100℃以下が好ましい。第1グラフト重合時間は、0.1〜40時間、特に0.5〜10時間が好ましい。
(グラフト重合溶媒)
また、ホモポリマーの生成を抑制するために、ビニルモノマーを溶媒で希釈して使用することが好ましい。ビニルモノマーを希釈するための溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、トルエン、ヘキサン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、イソプロピルアミン、ジエタノールアミン、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等の含窒素化合物等の溶媒が挙げられる。これらのなかから適宜選択して使用することができる。なお、溶媒を用いる場合、ビニルモノマー濃度は、特に限定されないが、20〜80vol%であることが好ましい。
(スルホン化工程)
第1グラフト重合において(1)のビニルモノマーを使用した場合には、第1グラフト重合の後、スルホン化反応によりグラフト鎖の一部を化学変換してスルホン酸基を導入する。このスルホン化反応のためのスルホン化工程は公知の方法によって行うことができる。例えば、クロロスルホン酸のジクロロエタン溶液やクロロホルム溶液等のスルホン化溶液中に浸漬することによってクロロスルホン酸基等のスルホン酸基を導入し、その後純水中に浸漬して加水分解することによりスルホン化する等の方法が採用できる。
【0052】
芳香族高分子フィルム基材の主鎖の芳香環のスルホン化を抑え、グラフト鎖の芳香環のスルホン化を優先させるために、低濃度のスルホン化溶液で、低温度でスルホン化反応を行うことが好ましい。例えば、濃度0.2M以下、好ましくは濃度0.1M以下、より好ましくは濃度0.05M以下のクロロスルホン酸溶液等のスルホン化溶液で、室温以下の温度でスルホン化反応を行うことが望ましい。
(加水分解工程)
第1グラフト重合において(2)のビニルモノマーを使用した場合には、第1グラフト重合の後、加水分解してスルホン酸基に変換することによりグラフト鎖の一部にスルホン酸基を導入する。この加水分解工程は公知の方法によって行うことができる。例えば、スチレンスルホン酸エチルエステルをグラフトした芳香族高分子フィルム基材を、95℃の熱水中で24時間処理し、加水分解すれば、スルホン酸エチルエステル基がイオン導電性基であるスルホン酸基に変換され、所期の高分子電解質膜が得られる。
【0053】
第1グラフト重合において(3)や(4)のビニルモノマーを使用した場合にも、第1グラフト重合の後、シラン架橋構造を導入するために加水分解を行う。この加水分解工程は公知の方法によって行うことができる。例えば、p−スチリルトリメトキシシランをグラフトした芳香族高分子フィルム基材を、60℃の塩酸水溶液中で24時間処理し、加水分解すれば、無機のシラン架橋構造が芳香族高分子フィルム基材のグラフト鎖間に導入され、所期の高分子ハイブリット電解質膜が得られる。
【0054】
スルホン酸基変換のための加水分解とシラン架橋構造導入のための加水分解は、別々で実施できるが、同一の水溶液中で同時に実施することもできる。
(第2グラフト重合)
第2グラフト重合は第1グラフト重合に先立って行われ、その実施時期は、芳香族高分子フィルム基材に放射線照射による架橋構造を付与する前、もしくはその後である。第2グラフト重合の手法は特に限定されず、例えば、上記した熱グラフト重合、または放射線グラフト重合などを挙げられる。要求グラフト率が低いことや、グラフト重合のコストなどを考えると、熱グラフト重合が好ましい。
【0055】
第2グラフト重合において使用されるビニルモノマーは、上記した(1)〜(5)のいずれかのビニルモノマーを使用できる。なかでも多官能性ビニルモノマー(5)は、熱グラフト重合性が高いこと、芳香族高分子主鎖間に架橋構造を付与できること、及び未反応のビニル基がその後の第1グラフト重合を促進することができるため、好ましい。特に、ジビニルベンゼンが好ましい。
【0056】
得られる高分子電解質膜の機械強度を低下させないため、第2グラフト重合工程におけるビニルモノマーのグラフト率は20%以下、好ましくは10%以下に調整することが望ましい。また、第1グラフト重合を促進させるために、グラフト率は2%以上、好ましくは4%以上に調整することが望ましい。
(架橋芳香族高分子電解質膜の製造)
図1は、架橋芳香族高分子電解質膜の製造プロセスの一例を示したフローチャートである。
【0057】
図1は、芳香族高分子フィルム基材に対して、ジビニルベンゼン等のビニルモノマー(5)をグラフト重合した(第2グラフト重合工程)後、放射線照射して架橋構造を付与し(放射線架橋工程)、次いで、スチレン等のビニルモノマー(1)をグラフト重合し(第1グラフト重合工程)、スルホン化反応を行ってグラフト鎖にスルホン酸基を導入して(スルホン化工程)、架橋芳香族高分子電解質膜を得ている。
【0058】
図1の製造プロセスにおいて第2グラフト重合工程と放射線架橋工程の順序を変えて架橋芳香族高分子電解質膜を製造することもできる。そのフローチャートを図2に示す。このプロセスでは、第2グラフト重合によって芳香族高分子フィルム基材にグラフトされた高分子グラフト鎖(グラフト鎖)が、放射線架橋工程において架橋促進に寄与するため、好ましい。図2のプロセスにおいて、放射線架橋工程から第1グラフト重合工程が短期間でなされる場合は、架橋のための放射線照射で生成したラジカルをそのまま第1グラフト重合に使用できる。放射線架橋後にすぐ第1グラフト重合しない場合は、前照射法等により放射線照射してラジカルを生成するなどして第1グラフト重合を行う。
【0059】
芳香族高分子電解質膜の製造プロセスの別の一例を図3に示す。図3の製造プロセスは、図1の製造プロセスの第1重合工程においてスチレン等のビニルモノマー(1)とp−スチリルトリメトキシシラン等のビニルモノマー(3)を使用している。シランビニルモノマー(3)の高分子グラフト鎖にシラン架橋構造を導入するために、スルホン化工程の後、加水分解工程を実施する。
【0060】
芳香族高分子電解質膜の製造プロセスのさらに別の一例を図4に示す。図4の製造プロセスは、図3の製造プロセスの第1重合工程においてスチレンスルホン酸エチルエステル等のビニルモノマー(2)とp−スチリルトリメトキシシラン等のビニルモノマー(3)を使用している。ビニルモノマー(1)を使用していないため、スルホン化工程は不要である。加水分解工程は、ビニルモノマー(2)の高分子グラフト鎖の一部をスルホン酸基に変換するとともに、ビニルモノマー(3)の高分子グラフト鎖にシラン架橋構造を導入するために実施する。
【0061】
上記図1から図4の製造プロセスにおいては、第1グラフト重合工程のビニルモノマー溶液に多官能性ビニルモノマー(5)を架橋剤として添加することもできる。
<架橋芳香族高分子電解質膜>
架橋芳香族高分子電解質膜は、導入されるイオン導電性基としてのスルホン酸基の量、即ちイオン交換容量が、第1グラフト重合工程のグラフト率によって制御される。
【0062】
適度なイオン交換容量や含水率を得るためには、第1グラフト重合工程におけるグラフト率が20%以上、好ましくは30%以上となるように調整することが望ましい。また、架橋芳香族高分子電解質膜に適度な機械強度などを付与するためには、グラフト率が150%以下、好ましくは120%以下、さらに好ましくは100%以下に調整することが望ましい。
【0063】
また、架橋芳香族高分子電解質膜にイオン導電性を付与するためには、架橋芳香族高分子電解質膜のイオン交換容量が0.8mmol/g以上、好ましくは1.2mmol/g以上に調整することが望ましい。また、架橋芳香族高分子電解質膜の寸法変化を抑制し、強度を充分に確保するためには、イオン交換容量を2.5mmol/g以下、好ましくは2.0mmol/g以下に調整することが望ましい。
【0064】
架橋芳香族高分子電解質膜は、25℃におけるプロトン伝導率が0.02Scm−1以上であることが好ましく、0.04Scm−1以上であることがより好ましい。プロトン伝導率が0.02Scm−1未満であると、膜抵抗が大きく十分な燃料電池等の性能が得られなくなる場合がある。
【0065】
ここで、架橋芳香族高分子電解質膜のイオン導電性を上げるためには、架橋芳香族高分子電解質膜を薄くすることも考えられる。しかし現状では、架橋芳香族高分子電解質膜を薄くすると破損しやすい。このため、通常では10μm〜200μm厚の範囲の架橋芳香族高分子電解質膜が使用される。燃料電池用として使用する場合、架橋芳香族高分子電解質膜の膜厚は、10μm〜200μm、好ましくは20μm〜150μmの範囲に調整される。
【0066】
かくして得られた架橋芳香族高分子電解質膜は、従来の膜には見られない機械強度や柔軟性を有し、また、電極と組み合わせた電池全体の抵抗も低く、製造コストも市販されているナフィオン(登録商標)(デュポン社製)に比べて極めて安価である。
【0067】
この架橋芳香族高分子電解質膜は燃料電池用として用いられる。
【0068】
架橋芳香族高分子電解質膜は膜としての重要な各特性、すなわち、イオン交換容量は広い範囲である1.2〜2.0mmol/g、膜強度は40〜100MPa、含水率は30〜100wt%、25℃における電気伝導度は0.04〜0.25S/cmの各々の数値範囲内に制御して作製することができる。特性をこれらの限られた範囲内に制御できることも本発明の特徴である。
<高分子形燃料電池>
高分子形燃料電池は、正極と負極の間に上記架橋芳香族高分子電解質膜が設けられているものである。なお、正極、負極の構成、材質、燃料電池の構成は公知のものとすることができる。
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
(実施例1)
基材として、芳香族高分子であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム(Victrex(日本語:ビクトレックス)社製、Victrex APTIVTM Film 2000 Series)を使用した。基材の膜厚は50μm、幅は60mm、長さ200mmである。フィルム基材を照射台に固定させ、この状態で、PEEKフィルム基材に1MVの電圧、10mA電子線を60分間で40MGyの線量になるように照射し、架橋したPEEKフィルム基材を得た(放射線架橋工程)。
【0071】
次に、架橋PEEKフィルム基材に、多官能性ビニルモノマー(5)であるジビニルベンゼン(DVB)のグラフト重合を行った(第2グラフト重合工程)。第2グラフト重合は以下の条件で行った。
【0072】
グラフト重合反応液として、DVB(和光純薬工業株式会社製、80%,異性体混合物):1,4−ジオキサン=25:75(容積%)の混合溶液を使用した。上記基材を上記反応液に浸漬し、常温で不活性ガスであるアルゴンを20分間流すことで空気と置換した。次いで、50℃、20時間の条件で熱グラフト重合を行った。グラフトされた基材を80℃、8時間で乾燥した。
【0073】
DVBのグラフト率は6.5%であった。
【0074】
その後、DVBがグラフトされた架橋PEEKフィルムを基材として、放射線グラフト重合を行った(第1グラフト重合工程)。第1グラフト重合は以下の条件で行った。
【0075】
基材の前照射としては、コバルト60のγ線をアルゴンガス中、常温で行った。γ線照射量は30kGyである。グラフト重合の反応液は、ビニルモノマー(1)であるスチレン(和光純薬工業株式会社製):n−プロピルアルコール=50:50(容積%)の混合溶液を使用した。反応液は予め常温で不活性ガスであるアルゴンを20分間流すことで空気と置換した。上記基材をこの反応液に浸漬し、アルゴン雰囲気中、80℃、16時間でグラフト重合させた。グラフトフィルムを反応液から取り出し、トルエン溶媒で洗浄し、80℃で8時間乾燥した。
【0076】
スチレンのグラフト率は43%であった。
【0077】
最後に、スチレングラフトしたフィルムを0.05Mクロロスルホン酸の1,2−ジクロロエタン溶液中、5℃で72時間処理した後、水洗による加水分解処理を行う(スルホン化工程)ことで架橋芳香族高分子電解質膜を得た。
【0078】
本実施例で得られた架橋芳香族高分子電解質膜のイオン交換容量、含水率、プロトン伝導度、引張強度を表1に示す。
【0079】
なお、グラフト率、イオン交換容量、含水率、プロトン伝導度、引張強度は以下の測定によって求めた。
(1)グラフト率(%)
グラフト率(%)はビニルモノマーグラフト重合前後の重量変化から、次式(G[重量%])として表される。
【0080】
G=100(W − W)/W
:グラフト重合前の乾燥状態の重量(g)
:グラフト重合後の乾燥状態の重量(g)
(2)イオン交換容量(mmol/g)
架橋芳香族高分子電解質膜のイオン交換容量(Ion Exchange Capacity, IEC)は次式で表される。
【0081】
IEC=n/Wm
n:架橋芳香族高分子電解質膜のスルホン酸基量(mmol/g)
Wm:架橋芳香族高分子電解質膜の乾燥重量(g)
nの測定は、架橋芳香族高分子電解質膜を1M硫酸溶液中に50℃で4時間浸漬し、完全にプロトン型(H型)とした後、脱イオン水でpH=6〜7まで洗い、遊離酸を完全に除去後、飽和NaCl水溶液中に24時間浸漬することでイオン交換を行い、プロトンHを遊離し、その後、該電解質膜とその水溶液を0.02M NaOHで中和滴定することで、架橋芳香族高分子電解質膜のスルホン酸基量を、プロトンH量n=0.02V((V:滴定した0.02M NaOHの体積(ml))として求めた。
(3)含水率(%)
80℃の熱水中で24時間保存したプロトン型の架橋芳香族高分子電解質膜を取り出し、表面の水を軽く拭き取った後、含水重量Wwを測定した。この膜を60℃にて16時間、真空乾燥後、重量測定することで高分子電解質膜の乾燥重量Wdを求め、Ww、Wdから次式により含水率を算出した。
【0082】
含水率=100(Ww−Wd)/Wd
(4)プロトン伝導度(S/cm)
室温の水中で保存したプロトン型の架橋芳香族高分子電解質膜を取り出し、その膜を両白金電極に挟み、インピーダンスより膜抵抗を測定した。架橋芳香族高分子電解質膜のプロトン伝導度は次式により算出した。
【0083】
κ=d/(Rm・S)
κ:架橋芳香族高分子電解質膜のプロトン伝導度(S/cm)
d:両白金電極の距離(cm)
Rm:架橋芳香族高分子電解質膜の抵抗(Ω)
S:抵抗測定における架橋芳香族高分子電解質膜の電気流れの断面積(cm
(5)機械強度
架橋芳香族高分子電解質膜の機械的強度として、引張強度(MPa)を、室温(約25℃)、湿度50%RHの下、JISK7127に準じ、ダンベル型の試験片を用いて測定した。
(実施例2)
基材として、芳香族高分子であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム(Victrex(日本語:ビクトレックス)社製、Victrex APTIVTM Film 2000 Series)を使用した。基材の膜厚は50μm、幅は60mm、長さ200mmである。PEEKフィルム基材に、多官能性ビニルモノマー(5)であるジビニルベンゼン(DVB)のグラフト重合を行った(第2グラフト重合工程)。第2グラフト重合は以下の条件で行った。
【0084】
グラフト重合反応液として、DVB(和光純薬工業株式会社製、80%,異性体混合物):1,4−ジオキサン=25:75(容積%)の混合溶液を使用した。上記基材をこの反応液に浸漬し、常温で不活性ガスであるアルゴンを20分間流すことで、空気と置換した。次に50℃、20時間で熱グラフト重合を行った。グラフトされた基材を80℃、8時間で乾燥した。
【0085】
DVBのグラフト率は7.8%であった。
【0086】
次に、DVBグラフトされたPEEKフィルム基材を照射台に固定させ、この状態で、PEEKフィルム基材に1MVの電圧、10mA電子線を60分間で40MGyの線量になるように照射し、架橋したPEEKフィルム基材を得た(放射線架橋工程)。
【0087】
その後、架橋したDVBがグラフトされたPEEKフィルムを基材として、放射線グラフト重合を行った(第1グラフト重合工程)。第1グラフト重合は以下の条件で行った。
【0088】
基材の前照射としては、コバルト60のγ線をアルゴンガス中、常温で行った。γ線照射量は30kGyである。グラフト重合の反応液は、ビニルモノマー(1)であるスチレン(和光純薬工業株式会社製):n−プロピルアルコール=50:50(容積%)の混合溶液を使用した。反応液は予め常温で不活性ガスであるアルゴンを20分間流すことで空気と置換した。上記基材をこの反応液に浸漬し、アルゴン雰囲気中、80℃、16時間でグラフト重合させた。グラフトフィルムを反応液から取り出し、トルエン溶媒で洗浄し、80℃で8時間乾燥した。
【0089】
スチレンのグラフト率は38%であった。
【0090】
最後に、スチレングラフトしたフィルムを0.05Mクロロスルホン酸の1,2−ジクロロエタン溶液中、5℃で72時間処理した後、水洗による加水分解処理を行う(スルホン化工程)ことで架橋芳香族高分子電解質膜を得た。
【0091】
本実施例で得られた架橋芳香族高分子電解質膜のイオン交換容量、含水率、プロトン伝導度、引張強度を表1に示す。
(実施例3)
実施例1において、放射線グラフト重合のスチレンモノマーを含む反応液に、シラン架橋構造が導入できるビニルモノマー(3)のp−スチリルトリメトキシシラン(STMS)(信越化学株式会社製)を追加して、スチレン:STMS:n−プロピルアルコール=25:25:50(容積%)の混合溶液(グラフト重合反応液)を調製し、第1グラフト重合を行った。
【0092】
スチレンとSTMSの総グラフト率は28%であった。
【0093】
他は実施例1と同様に操作して架橋芳香族高分子ハイブリット電解質膜を得た。
【0094】
本実施例で得られた架橋芳香族高分子ハイブリット電解質膜のイオン交換容量、含水率、プロトン伝導度、引張強度を表1に示す。
(実施例4)
基材として、芳香族高分子であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム(Victrex(日本語:ビクトレックス)社製、Victrex APTIVTM Film 2000 Series)を使用した。基材の膜厚は50μm、幅は60mm、長さ200mmである。フィルム基材を照射台に固定させ、この状態で、PEEKフィルム基材に1MVの電圧、10mA電子線を60分間で40MGyの線量になるように照射し、架橋したPEEKフィルム基材を得た(放射線架橋工程)。
【0095】
次に、架橋PEEKフィルム基材に多官能性ビニルモノマー(5)であるジビニルベンゼン(DVB)のグラフト重合を行った(第2グラフト重合工程)。第2グラフト重合は以下の条件で行った。
【0096】
グラフト重合反応液として、DVB(和光純薬工業株式会社製、80%,異性体混合物):1,4−ジオキサン=25:75(容積%)の混合溶液を使用した。上記基材をこの反応液に浸漬し、常温で不活性ガスであるアルゴンを20分間流すことで、空気と置換した。次に50℃、20時間で熱グラフト重合を行った。グラフトされた基材を80℃、8時間で乾燥した。
【0097】
DVBのグラフト率は6.5%であった。
【0098】
その後、DVBがグラフトされた架橋PEEKフィルムを基材として、放射線グラフト重合を行った(第1グラフ重合工程)。第1グラフト重合は以下の条件で行った。
【0099】
基材の前照射としては、コバルト60のγ線をアルゴンガス中、常温で行った。γ線照射量は30kGyである。グラフト重合の反応液は、ビニルモノマー(2)であるスチレンスルホン酸エチルエステル(ETSS)東ソー株式会社製):ジオキサン=25:75(容積%)の混合溶液を使用した。反応液は予め常温で不活性ガスであるアルゴンを20分間流すことで空気と置換した。上記基材をこの反応液に浸漬し、アルゴン雰囲気中、80℃、16時間でグラフト重合させた。グラフトフィルムを反応液から取り出し、トルエン溶媒で洗浄し、80℃で8時間乾燥した。
【0100】
ETSSのグラフト率は93%であった。
【0101】
最後に、イオン交換水中に95℃で24時間浸漬して加水分解処理を行う(加水分解工程)ことで架橋芳香族高分子電解質膜を得た。
【0102】
本実施例で得られた架橋芳香族高分子電解質膜のイオン交換容量、含水率、プロトン伝導度、引張強度を表1に示す。
(実施例5)
実施例1において得られた架橋PEEKフィルム基材に、ビニルモノマー(1)であるスチレンのグラフト重合を行った(第2グラフ重合工程)。第2グラフト重合は以下の条件で行った。
【0103】
グラフト重合反応液として、スチレン(和光純薬工業株式会社製):n−プロピルアルコール=50:50(容積%)の混合溶液を使用した。上記基材をこの反応液に浸漬し、常温で不活性ガスであるアルゴンを20分間流すことで、空気と置換した。次に50℃、20時間で熱グラフト重合を行った。グラフトされた基材を80℃、8時間で乾燥した。
【0104】
スチレンのグラフト率は9.7%であった。
【0105】
その後、スチレンがグラフトされた架橋PEEKフィルムを基材として、放射線グラフト重合を行った(第1グラフト重合工程)。第1グラフト重合は以下の条件で行った。
【0106】
基材の前照射としては、コバルト60のγ線をアルゴンガス中、常温で行った。γ線照射量は30kGyである。グラフト重合の反応液は、ビニルモノマー(1)であるスチレン(和光純薬工業株式会社製):n−プロピルアルコール=50:50(容積%)の混合溶液を使用した。反応液は予め常温で不活性ガスであるアルゴンを20分間流すことで空気と置換した。上記基材をこの反応液に浸漬し、アルゴン雰囲気中、80℃、16時間でグラフト重合させた。グラフトフィルムを反応液から取り出し、トルエン溶媒で洗浄し、80℃で8時間乾燥した。
【0107】
スチレンのグラフト率は36%であった。
【0108】
最後に、スチレングラフトしたフィルムを0.05Mクロロスルホン酸の1,2−ジクロロエタン溶液中、5℃で72時間処理した後、水洗による加水分解処理を行う(スルホン化工程)ことで架橋芳香族高分子電解質膜を得た。
【0109】
本実施例で得られた架橋芳香族高分子電解質膜のイオン交換容量、含水率、プロトン伝導度、引張強度を表1に示す。
(実施例6)
実施例1において、DVBのグラフト重合工程(第2グラフト重合工程)を省略して、直接架橋したPEEKフィルムを基材に、ビニルモノマー(1)であるスチレンをグラフト重合した(第1グラフト重合工程)。スチレングラフト重合時間は、72時間まで延長した。
【0110】
スチレンのグラフト率は31%であった。
【0111】
他は実施例1と同様に操作した。
【0112】
本実施例で得られた架橋芳香族高分子電解質膜のイオン交換容量、含水率、プロトン伝導度、引張強度を表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、放射線架橋を実施しないPEEKフィルムを基材として、DVBをグラフト重合した後、スチレンをグラフト重合した。
【0113】
DVBのグラフト率は7.8%であった。また、スチレンのグラフト率は56%であった。
【0114】
他は実施例1と同様に操作した。
【0115】
本実施例で得られた架橋芳香族高分子電解質膜のイオン交換容量、含水率、プロトン伝導度、引張強度を表1に示す。
(参考例)
ナフィオン212(デュポン社製)の特性について実施例1と同様に測定して評価した。その結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
上記実施例の架橋芳香族高分子電解質膜は、イオン交換容量が1.0〜2.0mmol/g、含水率が30〜100%、引張り破断強度が40〜100MPa、25℃におけるプロトン伝導度が0.06〜0.15S/cmを有し、広い範囲のイオン交換容量、高い膜強度を持つ。このため、実施例で得られた架橋芳香族高分子電解質膜は、特に燃料電池膜に適している。また、安価に作製できる。実施例6は、スチレングラフト重合時間が長いので、コスト的には、実施例1〜5のように第2グラフト重合を行うことが好ましい。
【0118】
これに対して、比較例1は、架橋付与されないため引っ張り強度が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族高分子フィルム基材に対して、放射線照射による架橋構造の付与、および、下記グラフト重合工程によるグラフト鎖の形成を行った後、グラフト重合により形成されたグラフト鎖の一部をスルホン酸基に化学変換することにより前記グラフト鎖にスルホン酸基を導入することを特徴とする架橋芳香族高分子電解質膜の製造方法。
グラフト重合工程:架橋構造が付与された芳香族高分子フィルム基材に、スルホン化反応でスルホン酸基導入可能な芳香環を有するビニルモノマー(1)、および、加水分解でスルホン酸基に変換可能なスルホニル基、ハロゲン化スルホニル基、スルホン酸塩基もしくはスルホン酸エステル基を有するビニルモノマー(2)から選ばれる少なくとも1種のビニルモノマーをグラフト重合する工程。
【請求項2】
芳香族高分子フィルム基材に対して、放射線照射による架橋構造の付与、および、下記グラフト重合工程によるグラフト鎖の形成を行った後、グラフト重合により形成されたグラフト鎖の一部をスルホン酸基に化学変換することにより前記グラフト鎖にスルホン酸基を導入するとともに、グラフト鎖のアルコキシシラン基を加水分解して前記グラフト鎖間にシラン架橋構造を付与することを特徴とする架橋芳香族高分子電解質膜の製造方法。
グラフト重合工程:架橋構造が付与された芳香族高分子フィルム基材に、スルホン化反応でスルホン酸基導入可能な芳香環を有するビニルモノマー(1)、および、加水分解でスルホン酸基に変換可能なスルホニル基、ハロゲン化スルホニル基、スルホン酸塩基もしくはスルホン酸エステル基を有するビニルモノマー(2)から選ばれる少なくとも1種のビニルモノマーと、アルコキシシラン基を有し且つスルホン酸基保持可能な芳香環を有するビニルモノマー(3)、および、アルコキシシラン基を有し且つ芳香環を持たないビニルモノマー(4)から選ばれる少なくとも1種のビニルンモノマーとを共グラフト重合する工程。
【請求項3】
前記ビニルモノマー(1)のグラフト重合により形成されたグラフト鎖の芳香環にスルホン酸基を導入するスルホン化反応は、濃度0.2M以下のスルホン化溶液を室温以下の温度で前記架橋芳香族高分子フィルム基材に接触させて行うことを特徴とする請求項1または2に記載の架橋芳香族高分子電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記グラフト重合工程の前に、前記(1)から(4)のビニルモノマー、および、多官能性ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のビニルモノマーを、前記芳香族高分子フィルム基材にグラフト重合することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の架橋芳香族高分子電解質膜の製造方法。
【請求項5】
架橋構造が付与されている芳香族高分子フィルム基材にビニルモノマーのグラフト鎖が形成されている架橋芳香族高分子電解質膜であって、前記グラフト鎖にはスルホン酸基が導入されていることを特徴とする架橋芳香族高分子電解質膜。
【請求項6】
架橋構造が付与されている芳香族高分子フィルム基材にビニルモノマーのグラフト鎖が形成されている架橋芳香族高分子電解質膜であって、前記グラフト鎖にはスルホン酸基が導入され、且つ、前記グラフト鎖間にシラン架橋構造が付与されていることを特徴とする架橋芳香族高分子電解質膜。
【請求項7】
前記グラフト鎖は、芳香環を有し、この芳香環に前記スルホン酸基が導入されていることを特徴とする請求項5または6に記載の架橋芳香族高分子電解質膜。
【請求項8】
前記芳香族高分子フィルム基材は、ポリエーテルエーテルケトン構造、ポリエーテルケトン構造、ポリスルホン構造、またはポリイミド構造を有することを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の架橋芳香族高分子電解質膜。
【請求項9】
請求項5から8のいずれかの架橋芳香族高分子電解質膜を有する高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−249093(P2011−249093A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119903(P2010−119903)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】