説明

架橋高分子物の変性方法

【課題】強酸性基を有する架橋有機高分子を、臨界温度よりも低い緩和された水溶液条件下で処理することにより、該架橋有機高分子を水中に溶解変性させる方法を提供する。
【解決手段】強酸性基を有する架橋有機高分子を、300℃以上370℃以下の温度、且つ、飽和水蒸気圧もしくはそれよりも高い圧力下で、pH12以上のアルカリ性水溶液と接触させることにより、前記架橋有機高分子を前記アルカリ性水溶液中に溶解させることを特徴とする架橋有機高分子の変性方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強酸性基を有する架橋有機高分子の新規な変性方法に関する。詳しくは、強酸性基を有する架橋有機高分子を、臨界温度よりも低い温度において飽和水蒸気圧よりも高い圧力下にアルカリ性水溶液と接触させることにより、前記架橋有機高分子を水溶液中に溶解させる架橋有機高分子の変性方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強酸性基を持つ架橋有機高分子は、強酸性陽イオン交換体として幅広い用途に使用されているが、化学的に安定であるがゆえに、その効率的な分解方法或いは物質再利用の方法が確立されていない。
【0003】
従来、強酸性基を持つ架橋有機高分子の使用後の処置方法としては、固化法、焼却法、埋立法等が知られているが、固化法や埋立法は物質の循環再利用の点で望ましくなく、焼却法では多量の熱エネルギーを消費する上に窒素酸化物などの環境汚染物質を発生させる懸念がある。
【0004】
また、臨界点以上の高温高圧力下の水中で酸化剤により処理して分解する方法(特許文献1)や、非酸化雰囲気の超臨界水中で処理してオイル状物を生成させる方法(特許文献2)も提案されているが、特殊な耐圧性反応器や加温加圧のために大量のエネルギーを必要とする、或いは、強酸性基を予め鉱酸で処理する必要がある、全ての有機成分が炭酸ガスまで分解されてしまい資源再利用が不可能であることなど、省資源、省エネルギーの観点から満足なものではなかった。
【0005】
一方、特許文献3には、強酸性基を持つ架橋有機高分子を鉱酸等による再生処理を行うことなく、臨界温度以下の水媒中で酸性基を遊離低分子化する方法が開示されている。この方法によれば、強酸性基を持つ架橋有機高分子を、溶液と固形分とに分離することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平1−38532号公報
【特許文献2】特開平11−49889号公報
【特許文献3】特開2007−297458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、溶解変性後の溶液に固形分が残存しているために、変性後、溶液と固形分を分離することが必要になるなど、変性後の処理が煩雑となる傾向にあった。
【0008】
本発明はかかる問題を解決すべくなされたもので、その目的は、強酸性基を有する架橋有機高分子を、臨界温度よりも低い緩和された水溶液条件下で処理することにより、該架橋有機高分子を水中に溶解変性させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、架橋有機高分子を処理する水溶液のpHに着目し、この水溶液のpHを所定値以上とすることにより、強酸性基を有する架橋性有機高分子を可溶化できる方法を見出した。即ち、強酸性基を有する架橋有機高分子について、臨界温度よりも低い温度において、飽和水蒸気圧もしくはそれよりも高い圧力下で、アルカリ性水溶液と接触させれば、該架橋有機高分子を水中に可溶化出来ることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
(1) 強酸性基を有する架橋有機高分子を、300℃以上370℃以下の温度、且つ、飽和水蒸気圧もしくはそれよりも高い圧力下で、pH12以上のアルカリ性水溶液と接触させることにより、前記架橋有機高分子を前記アルカリ性水溶液中に溶解させることを特徴とする架橋有機高分子の変性方法。
【0011】
(2) 前記強酸性基がスルホン酸基であることを特徴とする(1)に記載の架橋有機高分子の変性方法。
【0012】
(3) 前記架橋有機高分子が架橋ポリスチレン骨格を有することを特徴とする(1)または(2)に記載の架橋有機高分子の変性方法。
【0013】
(4) 前記架橋ポリスチレン骨格がジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンであり、前記架橋ポリスチレンにおけるジビニルベンゼンの配合量が3重量%以上16重量%以下であることを特徴とする(3)に記載の架橋有機高分子の変性方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、処理した強酸性基を有する架橋有機高分子の実質的に全てをアルカリ性水溶液に溶解させることができ、固形分の残存のない溶解変性水溶液を得ることができるため、変性処理後の固形分の分離作業を省略することができ、処理液を液体として容易に保管、移送し、また、後処理等を容易に行なうことができる。
しかも、本発明によれば、水溶液を強酸性に変化させることなく変性処理を行なうことができるので、処理液の酸性化による器材の腐食の可能性を排除しながら、強酸性基を持つ架橋有機高分子を効率的に変性することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の架橋有機高分子の変性方法の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
なお、以下において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」の両方をさす。
【0016】
[1]架橋有機高分子
本発明にかかる架橋有機高分子は、強酸性基を有することを必須とする。以下、本発明にかかる架橋有機高分子について説明する。
【0017】
[1−1]架橋有機高分子
本発明にかかる架橋有機高分子は、粒状または適宜裁断または粉砕された任意の形状の固体であり、その基体の化学構造としては、種々のものが適用可能である。
【0018】
基体架橋有機高分子の化学構造としては、例えば架橋ポリスチレンやポリ(メタ)アクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルなどの合成高分子や、セルロースなど天然に生産される多糖類の架橋体などが挙げられる。これらの中では、合成高分子が好ましく、架橋ポリスチレンが更に好ましい。
【0019】
架橋ポリスチレンとしては、ジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンが好ましい。ジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンのジビニルベンゼンの配合量は、ポリスチレンに対して通常3重量%以上、通常16重量%以下、好ましくは14重量%以下である。
【0020】
本発明にかかる架橋有機高分子は、粒状、繊維状、膜状等、その形状や形態、大きさに特に制限はないが、例えば吸着材料、並びにイオン交換体およびキレート剤などの加工用中間材料として利用される粒状の樹脂が挙げられ、その大きさは粒子径が通常5mm以下、好ましくは1mm以下であり、また、通常0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上である。
【0021】
[1−2]強酸性基
本発明にかかる架橋有機高分子が有する強酸性基とは、塩酸、硫酸などの鉱酸と同様に解離して強酸性を示す交換基をいい、例えばスルホン酸基、硫酸エステル基、亜硫酸エステル基等が挙げられる。中でも実用性の観点よりスルホン酸基が好ましい。
【0022】
架橋有機高分子が有する強酸性基の量には特に制限はないが、通常基体の架橋有機高分子に対する強酸性基の重量割合で1ミリ当量以上、好ましくは2ミリ当量以上であり、また、通常10ミリ当量以下、好ましくは7ミリ当量以下である。
【0023】
また、これらの強酸性基は水素形であってもよいが、一部、または全部がアルカリ金属イオン形および/またはアルカリ土類金属イオン形となっていてもよく、鉱酸による再生処理が不要である点より、一部、または全部がナトリウムイオン形或いはカルシウムイオン形となっているものが更に好ましい。
【0024】
強酸性基の一部がアルカリ金属イオン形やアルカリ土類金属イオン形となっている場合、架橋有機高分子中の全強酸性基のうちの50モル%以上がアルカリ金属イオン形やアルカリ土類金属イオン形となっていることが好ましい。この割合が低過ぎると、処理に使用されるアルカリ性水溶液が強酸性基の中和のために消費されてしまうため、本発明による変性効果を十分に得ることができない。
【0025】
[1−3]架橋有機高分子の変性の態様
本発明の架橋有機高分子の変性方法の実施により、架橋有機高分子中の強酸性基が遊離低分子化され、架橋有機高分子から分離される。これにより、含硫黄官能基を含む強酸性基が除去され、基体の架橋有機高分子の物質循環やエネルギー源としての再利用が可能となる。
【0026】
[2]架橋有機高分子の変性方法
本発明では、強酸性基を有する架橋有機高分子を、臨界温度よりも低い、300℃以上370℃以下の温度で、飽和水蒸気圧もしくはそれよりも高い圧力下でアルカリ性水溶液と接触させることを必須とする。
【0027】
ここで、本発明における臨界温度とは、気−液平衡で気体と液体の区別がなくなる点をいい、例えば純水の臨界温度は374℃である。尚、臨界圧力は純水の場合、22MPa(218気圧)である。
【0028】
本発明における架橋有機高分子の変性は、かかる臨界温度より低い雰囲気下で行われるが、その雰囲気温度は通常330℃以上、好ましくは350℃以上であり、また、通常370℃以下である。雰囲気温度が高すぎると消費エネルギー過多であり、処理装置の耐久性を低下させる。雰囲気温度が低すぎると変性に要する時間が長くなるか、十分な変性が行われない。
【0029】
また、上記温度で実施する場合の雰囲気圧力は、処理温度における水の飽和水蒸気圧力もしくはそれよりも高い圧力であり、通常22MPa未満、好ましくは21MPa以下、更に好ましくは20MPa以下である。雰囲気圧力が高すぎると消費エネルギー過多であり、処理装置の耐久性を低下させる。一方、雰囲気圧力が低すぎると水溶液中の水の一部または全部が揮発してしまうので処理が行われなくなる。
【0030】
強酸性基を有する架橋有機高分子をアルカリ性水溶液と接触させる方法としては、通常、架橋有機高分子を上記雰囲気中でアルカリ性水溶液に接触する方法等が挙げられ、具体的には[2−3]に記載の方法が挙げられる。
【0031】
また、変性は所望の変性率に相当する処理時間を設定することで、変性結果を制御することができる。処理時間としては通常5分間以上、好ましくは30分間以上であり、また、通常300分間以下、好ましくは150分間以下である。処理時間は対象となる架橋有機高分子の反応性・化学性状に応じて適宜設定される。
【0032】
[2−2]変性処理用アルカリ性水溶液
本発明の変性方法に使用されるアルカリ性水溶液のpHは通常12以上である。アルカリ性水溶液のpHが低すぎると変性が不十分となるからである。一方、pHが14以上になると実用上、測定不可能となるので、pHの上限としては、通常14以下である。なお、pHが高すぎると薬剤が過剰で不経済となる。
【0033】
本発明の変性方法に使用されるアルカリ性水溶液としては、具体的には、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの水溶液が好ましい。中でも、その濃度が、0.1モル/L以上、10モル/L以下の水酸化ナトリウム水溶液を好適に用いることができる。
【0034】
本発明の変性方法に使用されるアルカリ性水溶液の使用量は、強酸性基を有する架橋有機高分子の重量に対して通常50重量%以上、好ましくは100重量%以上であり、また、通常10000重量%以下、好ましくは500重量%以下である。アルカリ性水溶液の使用量が少なすぎると処理液の酸性化の抑制が不十分となる場合があり、多すぎるとアルカリ性水溶液量やエネルギー利用効率が下がり、不経済である。
【0035】
[2−3]変性方法の態様
本発明にかかる変性処理は、回分法或いは流通法のいずれの方式でも可能であり、既知の装置をそのまま或いは組み合わせて使用することができる。すなわち、密閉式の耐圧容器中に、規定量の強酸性基を有する架橋有機高分子とアルカリ性水溶液を入れ、所定温度に加熱後所定の圧力で保持して処理を完了する、或いは、強酸性基を有する架橋有機高分子物を充填した筒状反応管の一方よりポンプ等でアルカリ性水溶液を送入し、他方より変性後の混合物を排出させる、などの方法が採用される。
【0036】
[3]変性後の処理
本発明による架橋有機高分子の変性により、処理に供した架橋有機高分子はその実質的に全量が水溶液に溶解する。
この処理済の水溶液は既知の排水処理方法により資化ないし無害化される。
【0037】
なお、ここで、「架橋有機高分子の実質的に全量が溶解する」とは、変性処理に供した架橋有機高分子の95重量%以上、特に98重量%以上が溶解し、得られる処理液が、固液分離等の特段の処理を必要とすることなく、液体として容易に保管、移送、後処理等を行う状態をさす。
【0038】
本発明の変性方法において、このように、処理に供した架橋有機高分子の実質的に全量をアルカリ性水溶液中に溶解させるために、前述の高pHのアルカリ性水溶液を用いて、前述の処理条件で処理を行うと共に、更に、処理後に得られる処理液のpHが通常8以上で、使用したアルカリ性水溶液のpH以下となるような条件を採用することが好ましい。この処理後に得られる処理液のpHが低過ぎると架橋有機高分子の溶解性が悪い場合があり、高過ぎると、薬剤が過剰で不経済となる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
内径12mm、長さ150mmのステンレス管に、強酸性基を有する架橋有機高分子である、市販の強酸性陽イオン交換樹脂「ダイヤイオンSK1B(三菱化学(株)製)」(架橋ポリスチレンスルホン酸型ナトリウム形,3g中の固形分1.65g,ポリスチレンに対するジビニルベンゼンの含有量8重量%のスチレン−ジビニルベンゼン架橋共重合体を基体とし、この樹脂1gあたり4.6ミリ当量のスルホン酸基を有し、その100%がナトリウム塩形とされているもの)3gと、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液(pH13)12mL(12g)とを入れ、空隙をアルゴンガスで満たして両端をステンレスネジで密栓した。このとき、水酸化ナトリウム水溶液は、設定温度(350℃)で水が蒸発しない条件(即ち、飽和水上気圧以上)となるように計算して仕込んだ。
このステンレス管を350℃の溶融塩浴で120分間加熱した後、冷却し、その後、内容物を取出したところ、褐色溶液(pH約9)のみが得られ、固形物が完全に消失していた。
【0041】
[比較例1]
水酸化ナトリウム水溶液の代わりに脱塩水を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、褐色溶液ともに黒色固形物0.1gが得られた。この固形分の主成分は炭素であった。
【0042】
以上の結果から明らかなように、脱塩水を用いた比較例1では固形物が残っているのに対し、pH13の水酸化ナトリウム水溶液を用いた実施例1では固形分が全溶解するため、液体としての保管・移送・後処理を容易に行いうるとともに、残余の固形分についての処理が不要となる。このため、例えば、得られた液は送水管を介して既存の排水処理設備に容易に移送して無害化することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強酸性基を有する架橋有機高分子を、300℃以上370℃以下の温度、且つ、飽和水蒸気圧もしくはそれよりも高い圧力下で、pH12以上のアルカリ性水溶液と接触させることにより、前記架橋有機高分子を前記アルカリ性水溶液中に溶解させることを特徴とする架橋有機高分子の変性方法。
【請求項2】
前記強酸性基がスルホン酸基であることを特徴とする、請求項1に記載の架橋有機高分子の変性方法。
【請求項3】
前記架橋有機高分子が架橋ポリスチレン骨格を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の架橋有機高分子の変性方法。
【請求項4】
前記架橋ポリスチレン骨格がジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンであり、前記架橋ポリスチレンにおけるジビニルベンゼンの配合量が3重量%以上16重量%以下であることを特徴とする、請求項3に記載の架橋有機高分子の変性方法。

【公開番号】特開2010−195978(P2010−195978A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44296(P2009−44296)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】