説明

架空ケーブルの布設工法

【課題】急峻な勾配と曲がりの多い山間部等において、例えば、66kV電圧階級の架空ケーブルの布設作業を安全且つ確実に行うことができる架空ケーブルの布設工法を提供する。
【解決手段】本発明に係る架空ケーブルの布設工法は、支持物の上側にガイド滑車を備えて成る吊架ベルト架け替え用の治具本体を取り付ける工程と、複数の支持物間に、メッセンジャーワイヤーを延線架設する工程と、メッセンジャーワイヤーに複数の吊金車を取り付け、この吊金車を介して架空ケーブルをメッセンジャーワイヤーに沿って展開する工程と、ラッシングマシンを使用して、メッセンジャーワイヤーに架空ケーブルを縛り付ける工程と、から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の鉄柱等による支持物間に架設されるメッセンジャーワイヤーに対し、例えば、複数条の架橋ポリエチレンケーブルを架空ケーブルとしてラッシングする布設工事を行うための架空ケーブルの布設工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常より、架空ケーブルは、主として22kV以下の電圧階級のものが、市街地等の平坦部に適用されている。
【0003】
また、66kV電圧階級の架橋ポリエチレンケーブルを架空ケーブルとして使用することは、例えば、民間工場等の私有地内における平坦部に適用されている程度である。
【0004】
この他、66kV電圧階級の架橋ポリエチレンケーブルを架空ケーブルとして使用することは、例えば、鉄道の平坦な軌道敷地内に布設されている例がある。
【0005】
この様に、66kV電圧階級の架橋ポリエチレンケーブルは、架空ケーブルとして使用することはあっても、従来においては、平坦部のみに適用されており、66kV電圧階級の架橋ポリエチレンケーブルを架空ケーブルとして、急峻な勾配と曲がりの多い山間部等において適用された事例は、存在しなかった。
【0006】
そして、市街地等の平坦部へ架空ケーブルを布設する工法として、一般的に、以下のような手法が採用されていた。
【0007】
まず、図14に示すように、複数の鉄柱等による支持物Q間に、メッセンジャーワイヤーMWを延線架設する。
【0008】
そして、図14・図15示すように、メッセンジャーワイヤーMWに先導ローラ21の上方ローラ部分を載架させ、当該先導ローラ21の下方に位置する連結部分の前方に、引きロープ22の一端を固定する。
【0009】
これと同時に、地上に配置された、例えば、3つのドラム23から引き出された3条の架空ケーブルPを、先導ローラ21の下方に位置する延線ヨーク16の後方に固定する。
【0010】
また、30°〜90°までの内外重角度の支持物QにおけるメッセンジャーワイヤーMWの引留め箇所には、図18に示すように、垂直に配置された複数のカーブローラ24を備えた取付台25が取り付けられ、架空ケーブルPを引き通すようにしている。
【0011】
この様な折曲した引留め箇所においては、カーブローラ24から延線ヨーク16が出たところから、先導ローラ21、移動ローラ27を取り付けるようにする。
【0012】
さらに、内外カーブにおける支持物Qの上方側面には、図19に示すように、垂直に配置された引き通しローラ26が取り付けられ、架空ケーブルPを引き通すようにしている。
【0013】
ここにおいても、引き通しローラ26から延線ヨーク16が出たところから、先導ローラ21、移動ローラ27を取り付けるようにする。
【0014】
具体的には、図14に示すように、メッセンジャーワイヤーMWに第1番目の移動ローラ27の上方ローラ部分を載架させ、当該移動ローラ27の下方ローラ部分に、先導ローラ21に連結されている3条の架空ケーブルPを乗せる。
【0015】
この移動ローラ27は、図16に示すように、L字形のアーム28の上端に2輪の上方ローラ部分29が設けられ、下側の水平部分には、3条の架空ケーブルPがそれぞれ乗せられるように、横3列に支持ローラ30が取り付けられている。
【0016】
また、先導ローラ21の下方に位置する連結部分の後方と、第1番目の移動ローラ27の下方ローラ部分同士を、連結ワイヤー31で連結する。この連結ワイヤー31は、地上にあるワイヤー巻取りドラム32に巻かれている。
【0017】
そして、引きロープ22を引いて、先導ローラ21をメッセンジャーワイヤーMWに沿って約4mだけ移動させる。
【0018】
次に、メッセンジャーワイヤーMWに第2番目の移動ローラ27の上方ローラ部分を載架させ、当該移動ローラ27の下方ローラ部分に、先導ローラ21に連結されている3条の架空ケーブルPを乗せる。
【0019】
そして、第1番目の移動ローラ27と、第2番目の移動ローラ27のそれぞれの下方ローラ部分を連結ワイヤー31で連結し、引きロープ22を引いて先導ローラ21をメッセンジャーワイヤーMWに沿って約4mだけ移動させる。
【0020】
この作業を繰り返し行うことで、図14に示すように、メッセンジャーワイヤーMWに沿って、約4m間隔毎に各移動ローラ27が配設される。
【0021】
この様に、メッセンジャーワイヤーMWに沿った架空ケーブルPの延線は、先導ローラ21に取り付けられた引きロープ22を引いて行われるが、このとき、先導ローラ21と、各移動ローラ27のそれぞれの下方ローラ部分同士を連結ワイヤー31で連結してあるため、架空ケーブルP自体には、延線張力が加わらないものとなる。
【0022】
すなわち、先導ローラ21と各移動ローラ27、各移動ローラ27の下方ローラ部分に乗せられた3条の架空ケーブルPが、常に一体となってメッセンジャーワイヤーMWに沿って移動することから、架空ケーブルP自体に延線張力が加わってしまう事態を回避しているのである。
【0023】
また、先導ローラ21と各移動ローラ27は、支持物Qを自動通過できるようにしてある。
【0024】
すなわち、図16に示すように、アーム状の受金具33を支持物Qに締め付けバンド33C等によって予め取り付けておく。この受金具33は、下側にメッセンジャーワイヤーMWの固定部33A、上側にメッセンジャーワイヤーMWの掛架部33Bを備えている。
【0025】
メッセンジャーワイヤーMWは掛架部33Bに仮留めされており、先導ローラ21と各移動ローラ27におけるそれぞれの上方ローラ部分が、受金具33の上を乗り越えるようにして通過する。
【0026】
尚、各移動ローラ27の配置作業が終わったときには、メッセンジャーワイヤーMWを、受金具33の固定部33Aに手作業で移動させて固定しておく。
【0027】
次に、ドラム23側に位置する支持物Qに作業員が上って、ラッシングマシンLMを設置する。このラッシングマシンLMは、ラッシングワイヤーLWを用いて、メッセンジャーワイヤーMWに3条の架空ケーブルPを縛り付けるものである。
【0028】
ラッシングマシンLMは、図17に示すように、メッセンジャーワイヤーMWに3条の架空ケーブルPを近づけ、メッセンジャーワイヤーMWと3条の架空ケーブルPを抱きかかえるように装着される。
【0029】
このラッシングマシンLMは、メッセンジャーワイヤーMWとケーブルを束ねる先導部6と、ラッシングマシン本体9によって概ね構成されている。
【0030】
ラッシングマシン本体9は、先導部6の後端側に連結され、近接しているメッセンジャーワイヤーMWと3条の架空ケーブルPのそれぞれの廻りを旋回するように先導部6を支軸にして回転するものであり、メッセンジャーワイヤーMWに3条の架空ケーブルPを縛り付けるラッシングワイヤーLWが巻装されている左右一対の回転ドラム8を備えている。
【0031】
そして、連結ワイヤー31のワイヤー巻取りドラム32側の基端部を切断し、ラッシングマシンLMの先導部6に、連結ワイヤー31を連結する。同時に、地上において所定の方向に牽引する引っ張りロープ(図示せず)を連結する。
【0032】
ラッシング時には、この引っ張りロープを地上にいる作業員が手で引っ張るか、あるいはウインチで引っ張る等して、ラッシングマシンLMを、メッセンジャーワイヤーMW、3条の架空ケーブルのそれぞれに沿って移動させる。
【0033】
このとき、ラッシングマシンLMの旋回する回転ドラム8からラッシングワイヤーLWが引き出され、メッセンジャーワイヤーMWおよび3条の架空ケーブルPのそれぞれに、ピッチ間隔が約20cm以内とした二重螺旋状となるようにラッシングワイヤーLWを連続的に巻き付けていく。
【0034】
また、ラッシングマシンLMの先導部6は、進行方向に位置する各移動ローラ27の上方ローラ部分に突き当たり、各移動ローラ27を前方に押し出しながら移動して行く。
【0035】
一径間毎のラッシングが終了すると、集められた各移動ローラ27を支持物Q上において作業員が回収する。また、ラッシングマシンLMを手動によって次の径間にセットし直す。そして、次の径間のラッシング作業が行われる。
【特許文献1】特になし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
しかしながら、上述したような平坦部に架空ケーブルを布設する工法は、例えば、山間部等のように急峻な勾配のあるところでは、採用することができなかった。
【0037】
なぜなら、66kV電圧階級の架橋ポリエチレンケーブルは、大容量の電力を送電するためのものであることから、絶縁体の厚さが約1cmとなり、22kV電圧階級の倍となる。そのため、例えば、導体サイズが等しい22kV電圧階級のケーブルと比べた場合、重量にして2倍程度重くなり、ケーブルの直径にして1.5倍程度太くなる。
【0038】
このことから、従来の22kV電圧階級の架空ケーブルのように取扱うことは容易ではない。
【0039】
更に具体的には、山間部等の急峻な勾配のあるところで支持物Qに架空ケーブルPを布設する場合において、上述した平坦部における布設工法を実施すると、以下のような弊害が生じてしまう。
【0040】
例えば、図12・図13のように、メッセンジャーワイヤーMWに取り付けられた各移動ローラ27に乗せられている架空ケーブルPは、傾斜方向に滑落し、その結果、架空ケーブルPにおいて、曲がりが発生する。
【0041】
架橋ポリエチレンケーブルは、大きく曲げられるとケーブル内の導体を被覆しているポリエチレンの厚みに変動が生じて、絶縁性能が低下するため、この絶縁性能に影響を及ぼさない最小の曲げ半径(許容曲げ半径)が決められている。この許容曲げ半径は、ケーブルの直径に比例した値で決められており、直径が大きいケーブルほど許容曲げ半径は大きく、曲げに対して弱くなる。
【0042】
すなわち、図12・図13のように、各移動ローラ27に乗せられている架空ケーブルPは、傾斜方向に滑落し、その結果、架空ケーブルPの許容曲げ半径を超過してしまう虞れがある。
【0043】
特に、本発明の架空ケーブルは、66kV電圧階級の架橋ポリエチレンケーブルであるため、従来の22kV電圧階級に比べ重量が重いため、滑落し易くなる。さらに、直径が太いため、許容曲げ半径が大きく、この許容曲げ半径の値を割りやすくなる。
【0044】
また、例えば、山間部等のように急峻な勾配のあるところや、水平方向で急峻な曲がりのあるところで支持物Qに架空ケーブルPを布設する場合には、メッセンジャーワイヤーMWに取り付けた各移動ローラ27が支持物Qを通過する際に、支持物Qが邪魔になって、支持物Qを実際上かわすことができない事態が生じる。
【0045】
しかも、水平方向で急峻な曲がりのあるところでは、引きロープ22がカーブの曲がり方向において、その内側にさらに強く引っ張られるため、支持物Qを通過する際に、移動ローラ27が傾いてしまい、当該移動ローラ27の支持ローラ30に乗っている架空ケーブルPが脱落する虞れがある。
【0046】
そこで、本発明は、如上のような従来存した諸事情に鑑み創出されたもので、急峻な勾配と曲がりの多い山間部等において、例えば、66kV電圧階級の架橋ポリエチレンケーブルを架空ケーブルPとして布設する作業を安全且つ確実に行うことができ、しかも、架空ケーブルPの延線速度、すなわち支持物Qが1スパン当たりの架空ケーブルPの布設作業時間を、3日から1日以下に容易に短縮することができる架空ケーブルPの布設工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0047】
本発明に係る架空ケーブルの布設工法は、支持物の上側にガイド滑車を備えて成る吊架ベルト架け替え用の治具本体を取り付ける工程と、複数の支持物間に、メッセンジャーワイヤーを延線架設する工程と、メッセンジャーワイヤーに複数の吊金車を取り付け、この吊金車を介して架空ケーブルをメッセンジャーワイヤーに沿って展開する工程と、ラッシングマシンを使用して、メッセンジャーワイヤーに架空ケーブルを縛り付ける工程とから成ることで、上述した課題を解決した。
【0048】
また、架空ケーブルをメッセンジャーワイヤーに沿って展開する工程は、吊金車の下方に架空ケーブルを固定して行うことで、同じく上述した課題を解決した。
【0049】
さらに、メッセンジャーワイヤーに取り付けた複数の吊金車のそれぞれは、曳航ロープにより連結されていることで、同じく上述した課題を解決した。
【0050】
また、ラッシングマシンを使用して、メッセンジャーワイヤーに架空ケーブルを縛り付ける工程は、ラッシングマシンの先頭に宙乗器を配置した、宙乗器付きのラッシングマシンを使用して行うことで、同じく上述した課題を解決した。
【0051】
加えて、宙乗器付きのラッシングマシンを使用した際、宙乗器で吊金車を回収しながらラッシングを行うことで、同じく上述した課題を解決した。
【0052】
また、一径間毎のラッシング終了時に、宙乗器付きのラッシングマシンを手動によって次の径間にセットし直すことで、同じく上述した課題を解決した。
【0053】
この他、支持物は、急峻な斜面に設置されており、架空ケーブルは、架橋ポリエチレンケーブルから成ることで、同じく上述した課題を解決した。
【0054】
また、曳航ロープの牽引は、急峻な斜面の上り、下りにおけるメセンジャーワイヤーの自重と、架空ケーブルの自重を予め計算して牽引することで、同じく上述した課題を解決した。
【0055】
さらに、治具本体は、曳航ロープが載せられるガイド滑車と、ガイド滑車の軸受部分下側から水平方向に突出した水平アーム部の前後に配置した支持アーム部によって支えられた状態で固定したガイド部から成り、架空ケーブルをガイド部により支持していることで、同じく上述した課題を解決した。
【0056】
また、治具本体は、ガイド滑車の軸受部上側に載架部を備え、メッセンジャーワイヤーに治具本体の載架部を載架させることで、同じく上述した課題を解決した。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、急峻な勾配と曲がりの多い山間部等においても、例えば、66kV電圧階級の架空ケーブルPの布設作業を安全且つ確実に行うことができ、しかも、架空ケーブルPの延線速度、すなわち支持物Qが1スパン当たりの架空ケーブルPの布設作業時間を、3日から1日以下に容易に短縮することができる。
【0058】
また、本発明に係る架空ケーブルPの布設工法においては、所定の吊金車1を使用するものであるが、この吊金車1を使用する場合には、支持物Q上において作業員の人力によって次径間にこの吊金車1を付け替える必要が生じる。
【0059】
このとき、吊金車1の吊り間隔は、架空ケーブルPの許容面圧、許容曲げ半径等で制約を受けるため、数m間隔となり、吊金車1の一つ当たりに加わっているケーブル重量が数10kgに達する。
【0060】
この数10kgの荷重が加わっている吊金車1を外して付け替えるには、その都度、架空ケーブルPを仮吊りする必要があり、延線作業を一旦停止しなければならず、極めて作業効率が悪くなるという問題点を有していたが、本発明によれば、この問題点を解消し、連続的な延線作業を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
【0062】
本発明に係る架空ケーブルPの布設工法は、図2のように架空ケーブルPの脱落防止と、メッセンジャーワイヤーMWに対する吊金車1の架け替え時における着脱を容易にするため、吊金車1を使用するものである。
【0063】
この吊金車1は、図7(a)(b)に示すように、下方に吊架ベルト2を備え、3条の架空ケーブルPにこの吊架ベルト2を巻き付けて縛り、吊るようにしている。
【0064】
このように、縛っておくと、図12・図13のような急峻な斜面を曳航ロープ11で牽引する場合、3本の架橋ポリエチレンケーブルが自重によってばらけることが無く、安全・確実に牽引することができる。
【0065】
そして、図2・図5(a)(b)・図6に示すように、支持物Qの上側に、吊架ベルト2架け替え用の治具本体3を設置しておく。
【0066】
この治具本体3は、架空ケーブルPが通過できるようにしたエフレックス管によるガイド部4と、当該ガイド部4を支持し、且つ曳航ロープ11を通過させるためのガイド滑車5を備えている。
【0067】
また、本工法においては、架空ケーブルPの延線後、吊金車1を回収する必要があるため、ラッシングマシンLMと宙乗器Rとを連結し、宙乗器Rに乗っている作業員は、ラッシングに合わせて手作業で吊金車1を回収するようにしている。
【0068】
宙乗器Rは、図8・図10に示すように、メッセンジャーワイヤーMWに沿った進行方向に対して、作業員が横向きに座ることのできる略椅子型に形成されている。この宙乗器Rの上側には、前後一対の吊滑車が付設されている。そして、吊滑車の一端側を、ラッシングマシンLMの先導部6に牽引部材7を介して連結してある。
【0069】
尚、図9・図11に示すように、宙乗器Rの座席上に、架空ケーブルPが通過できるようにしたエフレックス管によるガイド部4を配設しても良い。
【0070】
ラッシングマシンLMは、図10・図11に示すように、メッセンジャーワイヤーMW、3条の架空ケーブルPのそれぞれに装着され、これに沿って移動する先導部6と、左右一対の回転ドラム8を備えたラッシングマシン本体9と、降雨時に使用する当該ラッシングマシン本体9の上側を覆う雨用カバー10とによって概ね構成されている。
【0071】
ラッシングマシン本体9は、先導部6の一端側に連結され、メッセンジャーワイヤーMWおよび3条の架空ケーブルPのそれぞれの廻りを旋回するように、先導部6を支軸にして回転するものであり、ラッシングワイヤーLWが巻装されている左右一対の回転ドラム8を備えている。
【0072】
そして、ラッシングマシンLMをメッセンジャーワイヤーMWに沿って進行方向に引っ張ることで、一定のピッチでスムーズに、メッセンジャーワイヤーMW、3条の架空ケーブルPのそれぞれをラッシングできるのであるが、ラッシングマシンLMの曳航は、次の支持物Qの下部方向等から行うため、急峻な上り勾配箇所では、進行方向と曳航方向とが一致しない。
【0073】
この場合、図4に示すように、宙乗器RがラッシングマシンLMの先頭にくるようにして、メッセンジャーワイヤーMWに宙乗器Rが架けられることで、宙乗器Rおよびこれに乗る作業員の全重量によってラッシングマシンLMの進行方向の登り勾配が緩和され、スムーズなラッシング作業が実現できるようにしてある。
【0074】
また、図7(a)(b)に示すように、吊架ベルト2は、吊金車1にカラビナ1Aを介して、3条の架空ケーブルPのそれぞれを束ねて縛り込むように固定している。このことにより、急峻な勾配と曲がりの多い山間部でのケーブルPの滑落を防止している。
【0075】
さらに、メッセンジャーワイヤーMWに吊架させた吊金車1と吊架ベルト2との中間部分は、メッセンジャーワイヤーMWの下側に配された、図2のような曳航ロープ11により連結されている。
【0076】
治具本体3は、吊金車1の架け替え時に、架空ケーブルPが自動的に仮吊り状態となるように構成されている。
【0077】
具体的には、図5(a)(b)、図6に示すように、円筒状の可撓性を有するエフレックス管によるガイド部4の上側長手方向に沿って、架空ケーブルPが容易に取り出せるように、切れ目4Aが設けられている。
【0078】
このエフレックス管によるガイド部4は、曳航ロープ11が載せられるガイド滑車5におけるL字状の軸受部14の下側から水平方向に突出した、水平アーム部15の前後3箇所に配置した円弧状の支持アーム部12によって支えられた状態で固定されている。
【0079】
また、ガイド滑車5の軸受部14の上側には、治具本体3を支持物Q上に吊り上げて固定するための載架部13が設けられている。
【0080】
このように構成された治具本体3は、支持物Qの上側に固定されるのであるが、このとき二重防護された不図示のスリングベルトを介して、さらなる安全対策が図られている。
【0081】
次に、本発明に係る架空ケーブルPの布設工法の一例を説明する。
【0082】
まず、図1に示すように、複数の鉄柱等による支持物Q間に、メッセンジャーワイヤーMWを延線架設する。
【0083】
また、支持物Qの上側には、図2に示すように、架空ケーブルPが通過できるガイド部4を支持し且つ曳航ロープ11を通過させるためのガイド滑車5を備えて成る吊架ベルト2架け替え用の治具本体3を取り付けておく。
【0084】
そして、作業員が支持物Qに上り、メッセンジャーワイヤーMWに第1番目の吊金車1を載架させると同時に、地上に配置された3つのドラムから引き出された3条の架空ケーブルPを吊金車1の吊架ベルト2に縛り付ける。
【0085】
また、図2に示すように、メッセンジャーワイヤーMWに吊架させた吊金車1と吊架ベルト2との中間部分に、メッセンジャーワイヤーMWの下側に配された曳航ロープ11を連結する。
【0086】
このとき曳航ロープ11は、支持物Qの上側に配した治具本体3のガイド滑車5上に載せられており、曳航ロープ11を引っ張ることで、曳航によって吊金車1と吊架ベルト2との中間部分がメッセンジャーワイヤーMWに沿って移動する。
【0087】
そして、メッセンジャーワイヤーMWに沿って曳航ロープ11を引いて、1番目の吊金車1を約5m程度移動させてから、メッセンジャーワイヤーMWに第2番目の吊金車1を載架させる。これと同時に、地上に配置された3つのドラムから引き出された3条の架空ケーブルPを、第2番目の吊金車1の吊架ベルト2に縛り付ける。
【0088】
次に、第1番目の吊金車1と、第2番目の吊金車1のそれぞれを曳航ロープ11で連結し、当該曳航ロープ11を引いて、両吊金車1をメッセンジャーワイヤーMWに沿って約5m移動させる。
【0089】
尚、一連の作業を急峻な山岳部の斜面で行うため、曳航ロープ11には、上り斜面では、メッセンジャーワイヤーMWの荷重と、架橋ポリエチレンケーブルの荷重の両者の荷重分の牽引力が必要であり、下り斜面では、逆に、両者の荷重に対して引っ張り上げる力が必要になるが、メッセンジャーワイヤーMWの荷重と、架橋ポリエチレンケーブルの荷重は、予め分かっているので、荷重を予め計算しておけば、急峻な山岳部の斜面でも、小型のウインチで対応することができる。
【0090】
各吊金車1が支持物Qを通過するときには、架空ケーブルPは治具本体3のガイド部4に載せられた状態で支持されているため、吊金車1の一つ当たりに加わっているケーブル重量は極端に小さくなる。
【0091】
また、ガイド部4のエフレックス管に、潤滑剤を塗布しておけば、架空ケーブルPの動きが良くなり、布設効率の向上に貢献する。
【0092】
そして、図2に示すように、ガイド部4によって支持されている部分においては、吊金車1に吊られている吊架ベルト2自体が弛緩した状態となり、支持物Qを介しての吊金車1の架替作業が容易に行えるものとなる。
【0093】
すなわち、図3に示すように、支持物Qに治具本体3のガイド部4が設置されていない状態において、架空ケーブルPとして架橋ポリエチレンケーブルを使用すると、吊金車1の一つ当たりに加わるケーブル重量が数10kgに達する。
【0094】
この数10kgの荷重が加わっている吊金車1を外して付け替えるには、その都度、架空ケーブルPを仮吊りする必要があり、延線作業を一旦停止しなければならず、極めて作業効率が悪くなるという問題点を有していたが、支持物Qに治具本体3のガイド部4を設置すること、さらには、ガイド部4に潤滑剤を適用することにより、この問題点を解消し、連続的な延線作業を実現できるのである。
【0095】
而して、このような作業を繰り返し行うことで、メッセンジャーワイヤーMWに沿って、約5m間隔毎に各吊金車1が配設される。
【0096】
次に、メッセンジャーワイヤーMWに3条の架空ケーブルPを、ラッシングワイヤーLWを用いて縛り付けるために、ラッシングマシンLMを設置する。
【0097】
そして、宙乗器RがラッシングマシンLMの先頭にくるように、メッセンジャーワイヤーMWに宙乗器Rが架けられる。このときラッシングマシンLMと宙乗器Rは、牽引部材7を介して連結されている。
【0098】
その後、ラッシングマシンLMを移動させて、ラッシングを行う。ラッシングマシンLMの移動は、図4のようにラッシングマシンLMに取り付けた引きロープHを、地上にいる作業員が手で引っ張るか、あるいはウインチが引っ張ることで行う。
【0099】
このとき、図4に示すように、宙乗器Rに乗った作業員が、吊金車1の吊架ベルト2を外しながらラッシングを行う。また、作業員は、吊金車1を順次回収していく。
【0100】
そして、ラッシング時には、ラッシングマシンLMが、メッセンジャーワイヤーMW、3条の架空ケーブルPのそれぞれに沿って移動し、旋回する回転ドラム8からラッシングワイヤーLWが引き出され、メッセンジャーワイヤーMWおよび3条の架空ケーブルPのそれぞれに、ピッチ間隔を20cm以内とした二重螺旋状となるようにラッシングワイヤーLWを巻き付けていく。
【0101】
一径間毎のラッシングが終了すると、ラッシングマシンLMを、作業員による手作業によって、次の径間にセットし直す。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、複数の鉄柱等である支持部間に架設されているメッセンジャーワイヤーMWに対し、複数条の架橋ポリエチレンケーブルからなる超重量の架空ケーブルPをラッシングしながら布設するための架空ケーブルPの布設工法として、種々の現場において広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】支持物間にメッセンジャーワイヤーを設置した状態を示す側面図である。
【図2】支持物に治具本体を取り付けた状態で、吊金車によって架空ケーブルを径間に設置する状態を示す側面図である。
【図3】支持物に治具本体が存在しない状態で、吊金車によって架空ケーブルを径間に設置する状態を示す側面図である。
【図4】宙乗器でラッシング作業を行っている状態を示す側面図である。
【図5】治具本体の一例を示し、(a)はガイド部を取り外した状態を示すガイド滑車の前方斜視図、(b)はガイド部を取り付ける状態を示すガイド滑車の分解斜視図である。
【図6】治具本体の全体の構成を示す斜視図である。
【図7】吊金車の一例を示し、(a)は吊架ベルトに架空ケーブルを取り付けた状態の正面図、(b)は吊架ベルトに架空ケーブルを取り付けた状態の斜視図である。
【図8】宙乗器の使用状態の一例を示す側面図である。
【図9】宙乗器の他の使用状態を示す側面図である。
【図10】宙乗器とラッシングマシンを連結した状態を示す側面図である。
【図11】宙乗器とラッシングマシンを連結し、ガイド部を使用している状態を示す側面図である。
【図12】急峻な山間部における架空ケーブルの布設状態を説明した側面図である。
【図13】急峻な山間部における架空ケーブルの布設状態を説明した側面図である。
【図14】従来例における架空ケーブルの布設工法を説明した側面図である。
【図15】先導ローラの使用状態を示す斜視図である。
【図16】支持物近辺における移動ローラの通過状態を示す斜視図である。
【図17】ラッシングマシンの使用状態を示す斜視図である。
【図18】支持物近辺におけるカーブローラの配置例を示す斜視図である。
【図19】支持物近辺における他のカーブローラの配置例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0104】
P…架空ケーブル Q…支持物
R…宙乗器 MW…メッセンジャーワイヤー
LM…ラッシングマシン LW…ラッシングワイヤー
H…引きロープ
1…吊金車 1A…カラビナ
2…吊架ベルト 3…治具本体
4…ガイド部 4A…切れ目
5…ガイド滑車 6…先導部
7…牽引部材 8…回転ドラム
9…ラッシングマシン本体 10…雨用カバー
11…曳航ロープ 12…支持アーム
13…載架部 14…軸受部
15…水平アーム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持物の上側にガイド滑車を備えて成る吊架ベルト架け替え用の治具本体を取り付ける工程と、複数の支持物間に、メッセンジャーワイヤーを延線架設する工程と、メッセンジャーワイヤーに複数の吊金車を取り付け、この吊金車を介して架空ケーブルをメッセンジャーワイヤーに沿って展開する工程と、ラッシングマシンを使用して、メッセンジャーワイヤーに架空ケーブルを縛り付ける工程と、から成ることを特徴とした架空ケーブルの布設工法。
【請求項2】
架空ケーブルをメッセンジャーワイヤーに沿って展開する工程は、吊金車の下方に架空ケーブルを固定して行う請求項1に記載の架空ケーブルの布設工法。
【請求項3】
メッセンジャーワイヤーに取り付けた複数の吊金車のそれぞれは、曳航ロープにより連結されている請求項1または2に記載の架空ケーブルの布設工法。
【請求項4】
ラッシングマシンを使用して、メッセンジャーワイヤーに架空ケーブルを縛り付ける工程は、ラッシングマシンの先頭に宙乗器を配置した、宙乗器付きのラッシングマシンを使用して行う請求項1乃至3のいずれかに記載の架空ケーブルの布設工法。
【請求項5】
宙乗器付きのラッシングマシンを使用した際、宙乗器で吊金車を回収しながらラッシングを行う請求項1乃至4のいずれかに記載の架空ケーブルの布設工法。
【請求項6】
一径間毎のラッシング終了時に、宙乗器付きのラッシングマシンを手動によって次の径間にセットし直す請求項1乃至5のいずれかに記載の架空ケーブルの布設工法。
【請求項7】
支持物は、急峻な斜面に設置されており、架空ケーブルは、架橋ポリエチレンケーブルから成る請求項1乃至6のいずれかに記載の架空ケーブルの布設工法。
【請求項8】
曳航ロープの牽引は、急峻な斜面の上り、下りにおけるメッセンジャーワイヤーの自重と、架空ケーブルの自重を予め計算して牽引する請求項1乃至7のいずれかに記載の架空ケーブルの布設工法。
【請求項9】
治具本体は、曳航ロープが載せられるガイド滑車と、ガイド滑車の軸受部分下側から水平方向に突出した水平アーム部の前後に配置した支持アーム部によって支えられた状態で固定したガイド部から成り、架空ケーブルをガイド部により支持している請求項1乃至8のいずれかに記載の架空ケーブルの布設工法。
【請求項10】
治具本体は、ガイド滑車の軸受部上側に載架部を備え、メッセンジャーワイヤーに治具本体の載架部を載架させる請求項1乃至9のいずれかに記載の架空ケーブルの布設工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−215361(P2007−215361A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34397(P2006−34397)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)