説明

架空光ドロップケーブル

【課題】耐クマゼミ性に優れ、引き込み作業を容易にする架空光ドロップケーブルを提供する。
【解決手段】支持線12と光ファイバ心線10を、被覆体13で被覆してなる架空光ドロップケーブル15において、被覆体13が、ゴム又はプラスチックに対して、脂肪酸アミドとシリコーンを混和してなる樹脂組成物を主成分とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外で使用される、架空線から需要場所の取付点に引き入れる引き込み線としての架空光ドロップケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
架空に敷設された配線系ケーブルから一般加入者宅へ引き込み配線するための、いわゆる架空光ドロップケーブルとして、単心光ファイバ心線の両側又は片側に、鋼線あるいはFRP(ガラス繊維強化プラスチック)などからなる抗張力体を配置し、これらを低密度ポリエチレンや塩化ビニルなどの樹脂で一括被覆し、かかるケーブルにさらに支持線を沿わせて一体化したものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−337255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記低密度ポリエチレンなどで被覆した架空光ドロップケーブルでは、ケーブル表面の摩擦係数が大きく、クマゼミがケーブルに止まり産卵活動を行ってしまうという問題がある。近年、主に西日本でクマゼミの産卵管がケーブルを貫通し、光ファイバ心線を損傷させる被害が多発している。
【0005】
また、被覆に低密度ポリエチレンなどを用いた場合には、摩擦係数が大きいため、敷設(引き込み)作業時の滑りが悪く、光ファイバ心線に負荷がかかり伝送特性の低下を招くおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、ケーブル表面に滑性を付与して、クマゼミが足で止まりにくく、産卵活動を抑制し、かつ産卵管をケーブル表面で滑らせ、産卵管の侵入を防ぎ、また動摩擦係数を小さくすることによって引き込み作業を容易にした架空光ドロップケーブルを提供するものである。さらに従来の難燃性を維持しつつ、これらの機能を有するノンハロゲンの架空光ドロップケーブルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、支持線と光ファイバ心線を、被覆体で被覆してなる架空光ドロップケーブルにおいて、
前記被覆体が、ゴム又はプラスチックに対して、脂肪酸アミドとシリコーンを混和してなる樹脂組成物を主成分とする架空光ドロップケーブルである。
【0008】
前記樹脂組成物が、ゴム又はプラスチック100質量部に対して、脂肪酸アミドを0.1〜10質量部、シリコーンを0.1〜10質量部混和してなるとよい。
【0009】
前記樹脂組成物が、ゴム又はプラスチック100質量部に対して、ノンハロゲン難燃剤を10〜200質量部含ませてもよい。
【0010】
JIS K 7125に準拠した動摩擦係数が0.5未満であるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被覆体の動摩擦係数が小さいため、クマゼミが止まろうとしても、足を滑らせ止まりにくくなり、また止まったとしても、クマゼミの産卵管をケーブル表面で滑らせ、産卵管の侵入を防ぐ耐クマゼミ性に優れ、かつ、引き込み作業が容易な架空光ドロップケーブルを提供できる。また従来の難燃性を維持したまま、これらの機能を有するノンハロゲンの架空光ドロップケーブルとすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る架空光ドロップケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0014】
まず、図1に示すように、架空光ドロップケーブル15は、支持線12と光ファイバ心線10を被覆体13で被覆して形成され、また光ファイバ心線10の上下に抗張力体11が配置され、その上部の抗張力体11上に支持線12が配置されている。
【0015】
この被覆体13は、後述する樹脂組成物を押出被覆することにより形成され、支持線12を被覆する支持線被覆部13aと、抗張力体11、光ファイバ心線10を被覆する断面略四角形状の光ファイバ心線被覆部13bと、支持線被覆部13aと光ファイバ心線被覆部13bを連結する首部13cとから構成され、その光ファイバ心線被覆部13bの両側に光ファイバ心線10を引き出すための切り欠き部14とが形成される。
【0016】
さて、本実施の形態に係る架空光ドロップケーブル15の被覆体13の樹脂組成物は、動摩擦係数を小さくするべく、ゴム又はプラスチックからなるベースポリマに、脂肪酸アミドとシリコーン(シリコーン化合物)を含ませるようにしたものである。
【0017】
ベースポリマとして使用するゴム・プラスチックとしては、ポリマ中にハロゲン物質を含まないあらゆるものを用いることができる。ゴム系材料としては、例えば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルコポリマ、エチレン・プロピレン・ジエンターポリマ、シリコーンゴムなどが挙げられる。プラスチック材料としては、高、中、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン・コポリマ、エチレン・メチルアクリレートコポリマ、エチレン・エチルアクリレートコポリマ、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニルコポリマ、エチレン・ブテンコポリマ、エチレン・メチルメタアクリレートコポリマ、エチレン・オクテンコポリマ、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアミドエラストマ、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフォン、ポリスルフォン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンターポリマ、メタクリレート・ブタジエン・スチレンターポリマ、メタクリル・スチレンコポリマ、スチレン・アクリロニトリルコポリマ、オキシベンゾイルポリエステル、ポリアセタール、メタクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。ベースポリマは、これらを変性したものであってもよく、また必要に応じて複数組み合わせて使用することもできる。ベースポリマとしては、さらに紫外線や電子線などのエネルギー線による硬化樹脂も用いることができる。
【0018】
脂肪酸アミドとしては、ステアロアミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアロアミド、オレイルパルミドアミド、ステアリルエルクアミド、ステアリルオレイルアミド、及びオレイン酸ビスアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種、もしくは2種以上を混合したものを用いることが好ましい。
【0019】
本発明において、脂肪酸アミドの添加量は、ベースポリマ100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、0.3〜1質量部の範囲がより好ましい。脂肪酸アミドの添加量が0.1質量部より少ないと、ブリードする脂肪酸アミドの量が少なく動摩擦係数が十分に小さくならず、クマゼミの産卵活動を妨げることができない(クマゼミが架空光ドロップケーブル15に止まり、クマゼミの産卵管が架空光ドロップケーブル15を貫通してしまう。)また10質量部より多いとブリードする脂肪酸アミドの量が多くなり、その結果として粘着性が高くなり、動摩擦係数が大きくなり作業性に問題を生じる。
【0020】
シリコーンとしては、オルガノポリシロキサンやオルガノポリシロキサンとポリオレフィンをブレンドしたものを用いることができる。
【0021】
本発明において、シリコーンの添加量は、ベースポリマ100質量部に対して、0.1〜10質量部である。0.1質量部より少ないと添加効果を得ることができず、10質量部より多いと、ケーブル押し出しの際にコンパウンドがスクリュー上で滑ってしまい、上手く押し出しできず、ケーブルの外形が安定しないなどの問題を生じるおそれがある。
【0022】
一方、難燃性を付与するために、ベースポリマにノンハロゲン難燃剤を必要に応じて添加することができる。ノンハロゲン難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、及びこれらにニッケルが固溶した金属水酸化物などが挙げられる。またシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸塩やステアリン酸カルシウム等の脂肪酸、又は脂肪酸金属塩等によって表面処理されているものを用いても差し支えない。
【0023】
ベースポリマに添加するノンハロゲン難燃剤の添加量は、特に規定しないが、ベースポリマ100質量部に対して、10〜200質量部の範囲で要求される難燃レベルにあわせて加減することが好ましい。例えば、JIS C 3005に規定されている60°傾斜燃焼試験の合格レベルであれば、20〜40質量部が好ましく、垂直燃焼試験の合格レベルであれば150〜200質量部であることが好ましい。ノンハロゲン難燃剤の添加量が10質量部より少ないと十分な難燃性が得られず、200質量部より多いと機械特性が著しく低下する。
【0024】
また、ベースポリマにノンハロゲン難燃助剤として、メラミン、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミンシアヌレート、硫酸メラミン等の1、3、5ートリアジン誘導体、赤燐からなる群より選ばれる少なくとも1種、もしくは2種以上を混合してもよい。
【0025】
本実施の形態の作用を説明する。
【0026】
本実施の形態に係る架空光ドロップケーブル15では、ゴム又はプラスチックに対して、脂肪酸アミドとシリコーンを混和してなる樹脂組成物を、光ファイバ心線10と支持線12上に押出被覆して被覆体13を形成している。
【0027】
脂肪酸アミド及びシリコーンを併用添加することで、脂肪酸アミド単独、又はシリコーン単独で添加したときよりも、被覆体13の動摩擦係数を小さくでき、これにより、JIS K 7125に準拠した動摩擦係数0.5未満を達成できる。
【0028】
被覆体13の動摩擦係数を小さくできるため、架空光ドロップケーブル15にクマゼミが止まろうとしても、足を滑らせ止まりにくくなり、また止まったとしても、クマゼミの産卵管を架空光ドロップケーブル15表面で滑らせ、産卵管の侵入を防ぐことができ、耐クマゼミ性を向上できる。
【0029】
また、架空光ドロップケーブル15によれば、被覆体13の動摩擦係数を小さくできるので、引き込み作業が容易になる。
【0030】
さらに架空光ドロップケーブル15では、ベースポリマ100質量部に対して、ノンハロゲン難燃剤を10〜200質量部の範囲で添加しているため、機械特性を低下させることなく、十分な難燃性を維持できる。
【0031】
上記配合以外にも必要に応じて他の脂肪酸などの滑剤、酸化防止剤、無機充填剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加剤を加えることが可能である。
【0032】
また、本実施の形態に係る架空光ドロップケーブル15の被覆体13は、複数層有していても良く、その場合には、本実施の形態に係る樹脂組成物を被覆体13の最外層とすることにより、耐クマゼミ性の効果を得ることができる。
【実施例】
【0033】
次に本発明の実施例と比較例とを説明する。
【0034】
図1に示す架空光ドロップケーブル15を作製した。光ファイバ心線10には、外径250μmの単心紫外線硬化型樹脂被覆光ファイバ心線を用い、架空光ドロップケーブル15の抗張力体11には、外径0.5mmのアラミドFRPロッドを用い、支持線12には、外径1.2mmの単鋼線を用いた。
【0035】
表1に示した配合割合で各種成分を配合し、加圧ニーダによって200℃で混練後、混練物をペレットにし、これを樹脂組成物として、光ファイバ心線10と2本の抗張力体11と支持線12とを図1に示すように平行に並べた状態で180℃で押出被覆して、被覆体13を形成し、全体の幅が約2mm、同高さが約5mmの架空光ドロップケーブル15(実施例1〜9、比較例1〜6)を作製した。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例1〜9、比較例1〜6において、ベースポリマとしては、高密度ポリエチレン、エチレン・ブテンコポリマ(共重合体)、エチレン・オクテンコポリマ(共重合体)、低密度ポリエチレン、エチレン・エチルアクリレート、ポリブチレンテレフタレートを用いた。難燃剤としては、水酸化マグネシウムを用い、難燃助剤としては、赤燐、メラミンシアヌレートを用いた。脂肪酸アミドとしては、オレイン酸ビスアミド(日本化成(株)製スリパックスO)、シリコーンとしては、オルガノポリシロキサンやオルガノポリシロキサンとポリオレフィンをブレンドしたもの(オルガノポリシロキサン/ポリオレフィンブレンドポリマ)を用いた。比較例における滑剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛を用いた。
【0038】
架空光ドロップケーブルの評価を、以下に示す方法により判定した。
【0039】
(1)引張試験
作製したペレットをロールで混練し、1mmシートにプレス成型後、JIS C 3005に準拠して引張試験を行い、伸び300%以上、引張強さ12MPa以上を目標値とした。
【0040】
(2)動摩擦係数測定
作製した架空光ドロップケーブルを、JIS K 7125に準拠して動摩擦係数を測定し、0.5未満を目標値とした。
【0041】
(3)難燃性試験
作製した架空光ドロップケーブルを、JIS C 3005に準拠して60°傾斜燃焼試験を行い、炎を取り去った後の延焼時間を測定し、60秒以内に自然消火したものを合格とした。
【0042】
(4)耐クマゼミ性判定試験
クマゼミの生息地域である沖縄県西原町にて実験を行った。実験は縦1m×横1m×高さ2mのケージを準備し、ケージ内に雌のクマゼミを10匹放して行った。このケージ内には、作製した架空光ドロップケーブルが格子状に張り渡されている。クマゼミの成虫は寿命が短いため、餌となる樹液を確保するために、クマゼミが好む樹木をケージの中央に配置した。
【0043】
7日後に架空光ドロップケーブルを取り出し、目視による観察を行い、外観が損傷していれば不合格(×)、損傷が見られなければ合格(○)とした。
【0044】
以上の評価結果を表1に併せて示す。
【0045】
表1に示すように、実施例1〜9では、いずれも引張強さ、伸び、動摩擦係数が目標値を満足しており、60°傾斜燃焼試験、耐クマゼミ性判定試験も全て合格し、良好な特性を示した。
【0046】
表1において、配合剤である脂肪酸アミドに着目すると、実施例1〜9では、0.1〜10質量部の脂肪酸アミド、及び0.1〜10質量部のシリコーンを併用添加しており、耐クマゼミ性を向上させる効果が得られることがわかる。
【0047】
また、シリコーンは規定範囲外であり脂肪酸アミドを含まない比較例1、及びシリコーンと脂肪酸アミドを含まずほかの滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛)を添加した比較例2と比較例3では、動摩擦係数が大きく、耐クマゼミ性が不十分であった。脂肪酸アミドが規定範囲外であるとともにシリコーンを添加していない比較例4では、表面がべたついて、動摩擦係数が大きくなり耐クマゼミ性が不十分となった。
【0048】
脂肪酸アミド単独添加である比較例5、及びシリコーン単独添加である比較例6は、動摩擦係数が大きく、耐クマゼミ性が不合格となった。
【0049】
以上の結果から、脂肪酸アミド及びシリコーンを併用添加することで、脂肪酸アミド単独、又はシリコーン単独で添加したときよりも、耐クマゼミ性を向上でき、脂肪酸アミドの添加量を、ベースポリマ100質量部に対して、0.1〜10質量部とし、かつシリコーンの添加量を、ベースポリマ100質量部に対して、0.1〜10質量部とすることで、耐クマゼミ性を向上できることがわかる。
【符号の説明】
【0050】
10 光ファイバ心線
11 抗張力体
12 支持線
13 被覆体
14 切り欠き部
15 架空光ドロップケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持線と光ファイバ心線を、被覆体で被覆してなる架空光ドロップケーブルにおいて、 前記被覆体が、ゴム又はプラスチックに対して、脂肪酸アミドとシリコーンを混和してなる樹脂組成物を主成分とすることを特徴とする架空光ドロップケーブル。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、ゴム又はプラスチック100質量部に対して、脂肪酸アミドを0.1〜10質量部、シリコーンを0.1〜10質量部混和してなる請求項1記載の架空光ドロップケーブル。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、ゴム又はプラスチック100質量部に対して、ノンハロゲン難燃剤を10〜200質量部含む請求項1記載の架空光ドロップケーブル。
【請求項4】
JIS K 7125に準拠した動摩擦係数が0.5未満である請求項3に記載の架空光ドロップケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2011−102922(P2011−102922A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258259(P2009−258259)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】