説明

架空線用難着氷テープ及び難着氷架空線

【課題】架空線に過冷却水滴が衝突したときに氷が付着するのを防止ないしは低減できる難着氷テープを提供する。
【解決手段】金属テープ2の片面に表面処理により微細な凹凸を設け、その表面に前記微細な凹凸に沿うように薄い撥水性材料層3を設け、その撥水性材料層3の表面の算術平均粗さを3.1μm以下とし、前記金属テープ2のもう一方の面に接着剤層4を設けた難着氷テープ。撥水性材料層3がもともと氷が付着しにくい性質を有している上に、その撥水性材料層の表面に算術平均粗さ3.1μm以下という微細な凹凸を設けたため、撥水性材料層の表面と過冷却水滴の衝突により発生する氷との間に無数の微細な空隙ができ、撥水性材料層の表面から氷が剥がれやすくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線や架空地線のような架空線の着氷を低減するための難着氷テープと、それを用いた難着氷架空線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
架空送電線は雪国や雪山のような場所に建設されていることが多く、しばしば架空送電線に雪が付着し、問題を起こしている。こういった自然環境下では、高山の樹木で見られる樹氷のように空気中の過冷却水による着氷現象も起こりやすく、架空送電線や架空地線にも着氷が発生することがある。架空送電線への着氷は、着雪と同様、ギャロッピング振動の原因となり、短絡事故を引き起こす。
【0003】
架空線の着雪防止対策としては、(a)架空線に撥水性樹脂などからなる難着雪テープを巻いて、着雪が大きくならないうちに滑落させる方法(特許文献1)、(b)架空線に一定間隔でリングを取り付けることにより、着雪後の雪を分断して、脱落しやすくする方法、(c)架空送電線に磁性材料を巻き付け、架空送電線に流れる電流で磁性材料を発熱させて、着雪を融かす方法(引用文献2)、などが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−141938号公報
【特許文献2】特開2006−318792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、架空線の着氷防止に関しては適当な対策がないのが現状である。前記(a)、(b)の対策は着雪防止には効果があるが、過冷却された水滴の衝突による着氷に対しては、ほとんど効果がない。その理由は、過冷却水滴の衝突による着氷は、架空線への付着力が強く、着雪のように架空線上を滑ることがないためである。また前記(c)の対策は着氷防止にも効果があるが、磁性材料は重量が大きく、架空線及び鉄塔に対する負荷が増大するため、適用範囲は制限される。また冬期以外でも発熱するため、電力ロスが大きい。
【0006】
本発明の目的は、以上のような問題点に鑑み、架空線に過冷却水滴が衝突しても氷の付着を防止ないしは低減できる難着氷テープと、それを用いた難着氷架空線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
金属テープの表面に撥水性材料層を設けると、金属テープそのままの表面よりも氷が付着しにくくなる。さらに氷の付着力を低減させるべく、撥水性材料層の表面粗さを変えて過冷却水により氷を付着させる実験を行ったところ、撥水性材料層の表面粗さを小さくしていくと氷の付着力が低下する傾向が見られ、撥水性材料層の表面の算術平均粗さを3.1μm以下にすると、過冷却水滴が衝突しても氷が付着しにくくなることが判明した。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明に係る架空線用難着氷テープは、金属テープの片面に表面処理により微細な凹凸を設け、その表面に前記微細な凹凸に沿うように薄い撥水性材料層を設け、その撥水性材料層の表面の算術平均粗さを3.1μm以下とし、前記金属テープのもう一方の面に接着剤層を設けたことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明に係る架空線用難着氷テープは、金属テープの片面に撥水性材料層を設け、その撥水性材料層の表面を算術平均粗さ3.1μm以下の微細な凹凸面とし、前記金属テープのもう一方の面に接着剤層を設けたものであってもよい。
【0010】
また、本発明に係る架空線用難着氷テープは、高強度繊維テープの片面に撥水性材料を含浸させて撥水性材料層を設け、その撥水性材料層の表面を算術平均粗さ3.1μm以下の微細な凹凸面とし、前記高強度繊維テープのもう一方の面に接着剤層を設けたものであってもよい。
【0011】
また、本発明に係る難着氷架空線は、架空送電線や架空地線などの架空線に、上述した難着氷テープのいずれかを、撥水性材料層を外側にしてらせん状に巻き付けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、撥水性材料層がもともと氷が付着しにくい性質を有している上に、その撥水性材料層の表面に算術平均粗さ3.1μm以下という微細な凹凸が設けられているため、撥水性材料層の表面と過冷却水滴の衝突により発生する氷との間に無数の微細な空隙ができ、撥水性材料層の表面から氷が剥がれやすくなる。このため、本発明に係る難着氷テープを撥水性材料層を外側にして架空線に巻きつけておくことにより、架空線の着氷を防止ないしは低減することができる。また本発明に係る難着氷テープは撥水性材料層と反対側の面に接着剤層を設けてあるので、架空線に接着により簡単に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る架空線用難着氷テープの一実施例を示す拡大断面図。
【図2】氷付着力の測定方法を示す説明図。
【図3】撥水性材料層の表面粗さが異なるテープについて氷付着力を測定した結果を示すグラフ。
【図4】図1の難着氷テープに氷を付着させた状態を示す拡大断面図。
【図5】本発明に係る難着氷架空線の一実施例を示す側面図。
【図6】本発明に係る架空線用難着氷テープの他の実施例を示す拡大断面図。
【図7】本発明に係る架空線用難着氷テープのさらに他の実施例を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0014】
図1は本発明に係る架空線用難着氷テープの一実施例を示す。この難着氷テープ1は、金属テープとしてアルミテープ2を使用している。アルミテープ2の片面には、サンドブラスト、エッチング等の表面処理により微細な凹凸が設けられ、その表面には、微細な凹凸に沿うように薄い撥水性材料層3が設けられている。この撥水性材料層3の表面の算術平均粗さRa(JIS B 0601(1994)に規定)は3.1μm以下となっている。つまり、アルミテープ2の片面の微細な凹凸は、その上に薄い撥水性材料層3を設けたときに、撥水性材料層3の表面の算術平均粗さRaが3.1μm以下となるように形成される。撥水性材料としてはフッ素樹脂系又はシリコーン樹脂系の材料が用いられる。またアルミテープ2のもう一方の面には接着剤層4が設けられている。
【0015】
上記のように、撥水性材料層3の表面の算術平均粗さRaを3.1μm以下にすると、そこに過冷却水滴が衝突しても着氷が発生しにくくなる。このような知見は次のような実験から得られたものである。
【0016】
まず、所要枚数のアルミテープを用意し、それぞれのアルミテープの片面にサンドブラストにより表面粗さの異なる微細な凹凸を設け、さらに各々の表面に薄くフッ素樹脂を塗布することにより撥水性材料層を設けて、撥水性材料層の表面粗さが異なる多数の試料を作製した。各試料の撥水性材料層の表面粗さは、算術平均粗さで5.3μm〜2.8μmの範囲に分布させた。
【0017】
次に、各試料を接着剤により平板に張り付け、その上で水を凍らせたときの氷の付着力を測定した。氷付着力の測定は図2のようにして行った(北海道立工業試験場の試験方法に準拠)。すなわち、−10℃の恒温槽11の中で、平板12に張り付けた試料13を水平に設置し、その上に内径2.8cmの円筒14を置き、その中に水を注入し、水が凍った後に、円筒14を水平方向に引っ張って、氷15を引き剥がす力を測定した。その結果は次のとおりであった。
【0018】
【表1】

【0019】
この結果をグラフに表すと図3のようになる。この実験結果によれば、撥水性材料層表面の算術平均粗さと氷付着力との間には相関があり、算術平均粗さが小さくなるほど氷付着力が小さくなることが分かる。なお図3において、×印は後述の氷付着試験において氷が付着したもの、○印は氷が付着しなかったものを示す。
【0020】
その理由は次のように考えられる。図4は例えば算術平均粗さ3.0μmの微細な凹凸がある撥水性材料層3の表面に氷5が付着した状態を模式的に示す。撥水性材料層3の表面に微細な凹凸があると、撥水性材料層3と氷5の境界に微細な空隙Sが無数に残り、氷5の付着力が格段に小さくなる。これは、算術平均粗さ3.0μmの微細な凹凸がある撥水性材料層3の表面には氷が付着しにくくなることを示している。
【0021】
そこで次に各試料について氷付着試験を行った。この試験は、−10℃の恒温槽の中で、平板に張り付けた試料を水平に設置し、試料の表面に真上から過冷却水を滴下させて、氷が付着するか否かを調べるものである。その結果は表2のとおりであった。表2において、氷付着「有り」は滴下した過冷却水が凍って試料表面に付着したもの、氷付着「無し」は滴下した過冷却水が試料表面で凍って球状になり、試料表面に付着しなかったものである。
【0022】
【表2】

【0023】
この実験結果によると、撥水性材料層表面の算術平均粗さが3.2μmのときは氷が付着する場合と付着しない場合があるが、算術平均粗さが3.2μmより大きくなると氷が付着し、3.2μmより小さくなると氷が付着しないことが分かる。
【0024】
したがって、撥水性材料層の表面の算術平均粗さRaを3.1μm以下にすることにより、その表面に過冷却水滴が衝突しても着氷が発生しにくい難着氷テープを得ることができる。
【0025】
図5は図1の難着氷テープ1を用いた難着氷架空線を示す。この難着氷架空線6は、図1の難着氷テープ1を、撥水性材料層3を外側にしてACSR等の架空線7にらせん状に巻き付け、接着剤層4により架空線7に固定したものである。この難着氷架空線6は、難着氷テープ1が巻き付けられているため、過冷却水滴が衝突しても着氷が発生しにくく、着氷によるギャロッピング振動の発生を防止することができる。
【0026】
図6は本発明に係る架空線用難着氷テープの他の実施例を示す。この難着氷テープ1は、アルミテープ2の片面に、微細な凹凸を設けることなく、撥水性材料層3を設け、その撥水性材料層3の表面を算術平均粗さ3.1μm以下の微細な凹凸面とし、前記アルミテープ2のもう一方の面に接着剤層4を設けたものである。
このような難着氷テープ1を架空線に巻き付けることによっても、難着氷架空線を構成することができる。
【0027】
図7は本発明に係る架空線用難着氷テープのさらに他の実施例を示す。この難着氷テープ1は、ガラス繊維テープ又はカーボン繊維テープ等からなる高強度繊維テープ8の片面に撥水性材料を含浸させて撥水性材料層3を設け、その撥水性材料層3の表面を算術平均粗さ3.1μm以下の微細な凹凸面とし、前記高強度繊維テープ8のもう一方の面に接着剤層4を設けたものである。
このような難着氷テープ1を架空線に巻き付けることによっても、難着氷架空線を構成することができる。
【符号の説明】
【0028】
1:難着氷テープ
2:アルミテープ(金属テープ)
3:撥水性材料層
4:接着剤層
5:氷
6:難着氷架空線
7:架空線
8:高強度繊維テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属テープの片面に表面処理により微細な凹凸を設け、その表面に前記微細な凹凸に沿うように薄い撥水性材料層を設け、その撥水性材料層の表面の算術平均粗さを3.1μm以下とし、前記金属テープのもう一方の面に接着剤層を設けたことを特徴とする架空線用難着氷テープ。
【請求項2】
金属テープの片面に撥水性材料層を設け、その撥水性材料層の表面を算術平均粗さ3.1μm以下の微細な凹凸面とし、前記金属テープのもう一方の面に接着剤層を設けたことを特徴とする架空線用難着氷テープ。
【請求項3】
高強度繊維テープの片面に撥水性材料を含浸させて撥水性材料層を設け、その撥水性材料層の表面を算術平均粗さ3.1μm以下の微細な凹凸面とし、前記高強度繊維テープのもう一方の面に接着剤層を設けたことを特徴とする架空線用難着氷テープ。
【請求項4】
架空線に、請求項1ないし3のいずれかに記載の難着氷テープを、撥水性材料層を外側にしてらせん状に巻き付けたことを特徴とする難着氷架空線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−222912(P2012−222912A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84962(P2011−84962)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【Fターム(参考)】