架線金具類の劣化予測マッピング装置及び劣化予測マッピング方法
【課題】架線金具類の腐食速度並びに摩耗速度の予測を、効率的に、且つ精度良く実施することができる劣化予測マッピング装置、及び劣化予測マッピング方法を提供する。
【解決手段】重回帰分析手段10は、説明変数を入力する説明変数入力手段11と、説明変数と腐食速度、及び摩耗速度との関係式を構築する関係式構築手段12と、説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する選択変数関係式選択手段13と、入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する非選択変数関係式選択手段14と、選択変数関係式選択手段13及び非選択変数関係式選択手段14のうち評価が高い関係式を選択する関係式選択手段15と、選択された関係式と関係式構築手段12により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証する関係式検証手段16と、を備えている。
【解決手段】重回帰分析手段10は、説明変数を入力する説明変数入力手段11と、説明変数と腐食速度、及び摩耗速度との関係式を構築する関係式構築手段12と、説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する選択変数関係式選択手段13と、入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する非選択変数関係式選択手段14と、選択変数関係式選択手段13及び非選択変数関係式選択手段14のうち評価が高い関係式を選択する関係式選択手段15と、選択された関係式と関係式構築手段12により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証する関係式検証手段16と、を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架線金具類の劣化予測マッピング装置及び劣化予測マッピング方法に関し、さらに詳しくは、架線金具類の腐食速度及び摩耗速度を重回帰分析により予測してマッピングする際に、予測の精度を向上させる劣化予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、送電設備の経年化に伴って架線金具類の老朽化が進んでおり、これら設備の有効活用ならびに設備機能維持のために、的確なメンテナンスと、そこから派生する諸課題への取り組みは、効果的な設備投資や設備保安を維持する上で必要不可欠なものとなっている。一般に、架線金具類の腐食速度予測には、各種影響因子(ぬれ時間、硫黄酸化物濃度等)を考慮した重回帰分析が適用される。しかし、目的変数と説明変数間の線形性を前提とする重回帰分析では、腐食現象が持つ特異性からその精度向上が図れないといった問題がある。
【0003】
また、架線金具類の腐食現象がその領域特有の環境からの影響(気温、湿度、ぬれ時間等)を受けるため、その予測精度向上には解析領域の細分化(地域別・線路別等)が不可欠となる。しかし、膨大な腐食量調査が必要となることから現実的ではないといった問題がある。
また、架線金具類の摩耗速度予測には各種影響因子(荷重径間、速度比等)を考慮した重回帰分析が適用される。重回帰分析とは、予測したい事象(目的変数と呼ぶ)とそれに影響を及ぼす因子群(説明変数と呼ぶ)との間に式を当て嵌めることにより、予測式を構築する手法である。しかし、重回帰分析では説明変数の線形結合から成る式を当て嵌める、すなわち目的変数と説明変数間に線形の関係が成り立つことが前提とされており、摩耗現象が持つ特異性からその精度向上が図れないといった問題がある。
また、架線金具類の摩耗現象は、その設備(荷重径間、高低差等)の影響が大きいため、摩耗量調査結果から得られた摩耗速度予測式は、当該地点の予測値のみを与えるため、その分布に偏りが出るといった問題がある。
【0004】
従来から重回帰分析を利用した腐食速度の評価方法として特許文献1には、金属材料の腐食速度を目的変数とし、その腐食速度に影響を与える環境因子と地形因子を説明変数とする重回帰分析を行うにあたり、少なくとも説明変数の一つとして相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間を含め、測定した金属材料の腐食速度に基づき重回帰分析法により腐食速度推定式を求め、求めた腐食速度推定式に基づいて非測定エリアの金属材料の腐食速度を推定演算して求める腐食速度評価方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−224405公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている従来技術は、説明変数の1つの相対湿度に重み付けした仮想ぬれ時間を含めて評価するが、仮想ぬれ時間の重み付けの判定は人的に行われるため、重み付けの精度がばらついて腐食速度推定式の精度を低下させるといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、説明変数間の相互作用の加味、最適な説明変数(それらの相互作用も含む)の選択、クラスタリングによる解析領域の細分化により、架線金具類の腐食速度並びに摩耗速度の予測を、効率的に、且つ精度良く実施することができる劣化予測マッピング装置、及び劣化予測マッピング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、重回帰分析手段により複数の鉄塔の架線金具類に係る腐食速度及び摩耗速度を夫々予測し、該予測の結果をマッピング化して表示する劣化予測マッピング装置であって、前記重回帰分析手段は、プログラムに従って順次処理を行う中央処理装置と、前記プログラム及びデータを格納する読出し専用メモリと、一次的にデータを記憶し、該記憶したデータを読み出して前記中央処理装置に供給する随時アクセスメモリと、を有する制御部に含まれ、前記架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力する説明変数入力手段と、該説明変数入力手段により入力された説明変数と前記腐食速度、及び該説明変数と摩耗速度との関係式を構築する関係式構築手段と、前記説明変数入力手段により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する選択変数関係式選択手段と、前記説明変数入力手段により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する非選択変数関係式選択手段と、前記選択変数関係式選択手段及び前記非選択変数関係式選択手段のうち評価が高い関係式を選択する関係式選択手段と、前記関係式選択手段により選択された関係式と前記関係式構築手段により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証する関係式検証手段と、を備え、前記関係式検証手段で、前記関係式構築手段により構築された関係式より前記関係式選択手段により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、該関係式で選択した説明変数により再試行を行うことを特徴とする。
本発明により、腐食速度および摩耗速度に影響を及ぼすと思われる事象のデータ群から必要なものを選別し、予測式を構築することが出来る。また構築した予測式から腐食速度および摩耗速度を予測し、その結果をマップ化することが出来る。
【0008】
請求項2は、説明変数入力手段、関係式構築手段、選択変数関係式選択手段、非選択変数関係式選択手段、関係式選択手段、及び関係式検証手段を備え、重回帰分析手段により複数の鉄塔の架線金具類に係る腐食速度及び摩耗速度を夫々予測し、該予測の結果をマッピング化して表示する架線金具類の劣化予測マッピング装置の劣化予測マッピング方法であって、前記説明変数入力手段が、前記架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力するステップと、前記関係式構築手段が、前記説明変数入力手段により入力された説明変数と前記腐食速度、及び該説明変数と前記摩耗速度との関係式を構築するステップと、前記選択変数関係式選択手段が、前記説明変数入力手段により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップと、前記非選択変数関係式選択手段が、前記説明変数入力手段により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップと、前記関係式選択手段が、前記選択変数関係式選択手段及び前記非選択変数関係式選択手段のうち評価が高い関係式を選択するステップと、前記関係式検証手段が、前記関係式選択手段により選択された関係式と前記関係式構築手段により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証するステップから成り、前記関係式検証手段で、前記関係式構築手段により構築された関係式より前記関係式選択手段により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、該関係式で選択した説明変数により再試行を行うことを特徴とする。
本発明は請求項1と同様の作用効果を奏する。
【0009】
請求項3は、前記説明変数入力手段により入力する説明変数を選別する手順は、前記目的変数及び前記説明変数の候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出し、該単相関係数の絶対値が小さい方を前記説明変数候補から削除し、前記目的変数との単相関係数の絶対値の降順に前記説明変数を順位付け、残った前記説明変数候補のうち前記順位付けにより順位付けされた上位の所定数を説明変数とすることを特徴とする。
一般に説明変数を多く用いるほどモデルの当てはまり度は高くなるが、必ずしも全ての説明変数候補を利用することが良いわけではない。従って重回帰分析に利用する説明変数の組み合わせを検討する必要がある。また分析結果に悪影響を及ぼす多重共線性(通称マルチコと呼ばれる)を避ける必要がある。マルチコは非常に高い相関関係にある説明変数を用いることに起因するものであり、マルチコを避ける意味でも説明変数の選別は重要である。上述の理由から、目的変数との単相関係数および説明変数同士の単相関係数から説明変数の選別を以下の手順で行う。
1.目的変数および説明変数候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出する。
2.単相関係数の絶対値が0.9より大きい説明変数候補の取捨選択をおこなう。即ち、単相関係数の絶対値が小さい方を説明変数候補から削除する。
3.目的変数との単相関係数の絶対値の降順に説明変数を順位付ける。
4.残った説明変数候補のうち3.の順位付けの上位5つを説明変数とする。
これにより、予測精度を高めつつ、マルチコを避けることができる。
【0010】
請求項4は、前記説明変数入力手段は、腐食の主要因の1つである塩分による汚損の度合いを示す汚損区分データを前記説明変数に含ませ、該汚損区分の境界線を等高線と見做して、各区分内の汚損度に傾斜を設けて連続値としたことを特徴とする。
汚損区分データとは腐食の主要因の一つであると考えられている塩分による汚損の度合いを示すものであり、想定最大塩分付着密度(mg/cm2)を複数段階で評価したものである。また、汚損区分は概ね海岸線に並行するような形で分布しており、使用可能なデータは沿岸部に海岸線に沿うように位置する鉄塔を多く含んでいる。そのため重回帰分析において鉄塔の立地位置の汚損区分の微妙な変化を反映することが出来ず、汚損区分データを十分に活用できないことが想像される。そこで、汚損区分の境界線を等高線に見立て、各区分内の汚損度(=想定最大塩分付着密度)に傾斜をつけることでより現実に近い連続値とすることを試みた。これにより、鉄塔の立地位置の汚損区分の微妙な変化を重回帰分析に反映することができる。
【0011】
請求項5は、前記重回帰分析において、前記環境因子と前記汚損度及び時間が腐食現象に対して相乗効果を及ぼす相互作用は、前記説明変数の積として表現することを特徴とする。
相乗効果を及ぼす因子の数(積算する前記説明変数の項数)についても、同様にStep−wise法を用いて決定する。具体的には、2項の積までを説明変数とした場合、3項の積までを説明変数とした場合と順次説明変数として検討する積の項の次数を上げてモデルを構築し、評価が上がらなくなる次数を求める。これにより、各説明変数間の相互作用による相乗効果も反映した予測式が構築ができる。
【0012】
請求項6は、前記架線金具類の腐食現象が、該架線金具類が配置された領域に特有の環境影響を受けるため、該領域をいくつかの部分集合に分類するクラスタリングにより前記領域の最適化を行うことを特徴とする。
一般に架線金具類の腐食現象は、その領域特有の環境影響(気温、湿度、ぬれ時間等)を受けるため、その予測精度向上には解析領域の細分化(地域別・線路別等)が不可欠となる。しかし、膨大な腐食量調査が必要となることから現実的ではない。そこで必要最小限のデータから最大の効果を発揮するよう、各種クラスタリングの検討による領域最適化を行う。これにより、解析領域の予測精度を向上させることができる。
【0013】
請求項7は、前記クラスタリングにおいて、クラスタ数を変えながら関係式の構築・評価を行うことで最適な領域分割数を求めることを特徴とする。
分割数を決め、クラスタリングを行い、クラスタ毎に予測式を構築する。次に各クラスタの予測式をトータルで評価し、その分割数での予測式の評価とする。これを分割数を増やしながら評価し、評価が極大となる分割数を求める。これにより、最適な領域分割数を求めることができる。
【0014】
請求項8は、前記予測の結果をマッピング化する手順は、前記クラスタリングにより前記領域を最適な数の部分集合に分類し、該部分集合ごとに前記説明変数を選別して該説明変数による関係式を構築し、構築した各関係式を前記重回帰分析により更新し、予測地点の部分集合を決定し、決定した部分集合の関係式に従って予測し、予測した値に基づいて表示部にマッピング化することを特徴とする。
これにより任意地点が前記クラスタリング結果基づいて構築した予測式の内、最適なものを選択し予測・マッピング化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、劣化に係る観測データ(腐食速度、摩耗速度)およびそれに影響を及ぼすと思われる因子群を入力することにより、予測式を構築できる。予測式構築の過程において、入力された因子群から予測に必要な因子の選別を行い、最良のモデルを構築する説明変数の組み合わせを求めるため、事前に各因子の予測に対する有用性検証が不要となる。
さらに各因子の相互作用の考慮、領域分割および領域毎の予測式構築により、腐食現象が持つ特異性にも柔軟に対応できる。また領域分割の際には、予測式の精度評価を基準に最適な分割数も求めるため領域分割に係る事前検討も不要となる。
これらにより、ユーザは予測したい現象および影響を及ぼすと思われる因子群を入力するだけで、1)予測に有用な因子の選別、2)予測に適した領域の分割、3)領域毎の予測式の構築が行える。
【0016】
また本発明は構築した予測式を用いて予測した結果のマッピング手法を備えており、これにより鉄塔の腐食速度の予測を効率的に実施できる。
【0017】
また、目的変数との単相関係数および説明変数同士の単相関係数から説明変数の選別を、1)目的変数および説明変数候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出する、2)単相関係数の絶対値が0.9より大きい説明変数候補の取捨選択をおこなう、3)目的変数との単相関係数の絶対値の降順に説明変数を順位付ける、4)残った説明変数候補のうち3)の順位付けの上位5つを説明変数とする、手順で行うため、予測精度を高めつつ、マルチコを避けることができる。
また、離散値データ(汚損区分など)は境界線を等高線に見立て、各区分内の汚損度(=想定最大塩分付着密度)に傾斜をつけることでより現実に近い連続値とするので、鉄塔の立地位置の汚損区分の微妙な変化を重回帰分析に反映することができる。
また、順次説明変数として検討する積の項の次数を上げてモデルを構築し、評価が上がらなくなる次数を求めたので、各説明変数間の相互作用による相乗効果を予測式に反映することができる。
【0018】
また、順次説明変数として検討する積の項の次数を上げてモデルを構築し、評価が上がらなくなる次数を求めるので、各説明変数間の相互作用による相乗効果を予測式に反映することができる。
また、必要最小限のデータから最大の効果を発揮するよう、各種クラスタリングの検討による領域最適化を行うので、解析領域の予測精度を向上させることができる。
これにより対象領域に応じた領域分割による最適な予測式の構築が出来る。
また、本発明で求めた腐食速度予測式に基づく、腐食速度予測マップを生成するので、鉄塔の腐食速度の予測を、効率的に、且つ精度良く実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の劣化予測マッピング装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【図2】(a)は汚損区分の境界線を等高線と見做した図、(b)は(a)の断面図である。
【図3】(a)は最小二乗法を示す図、(b)は決定概念を示す図である。
【図4】(a)ははずれ値除去前の腐食速度ヒストグラムを示す図、(b)ははずれ値除去後の腐食速度ヒストグラムを示す図である。
【図5】説明変数の選別を示す図である。
【図6】重回帰分析結果を示す図である。
【図7】Step−wiseアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【図8】重回帰分析結果を示す図である。
【図9】Step−wise経過の一例を示す図である。
【図10】腐食速度、汚損区分、塩分に係る因子の単相関係数を示す図である。
【図11】塩分に係る因子を考慮した重回帰分析結果を示す図である。
【図12】(a)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ1)を示す図である。
【図13】(a)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ2)を示す図、(b)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ3)を示す図、(c)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ1)を示す図、(d)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ2)を示す図、(e)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ3)を示す図である。
【図14】重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ4)を示す図である。
【図15】領域最適化に関する検討結果を示す図である。
【図16】(a)は秋田県の架線金具類腐食速度予測マップ(調整前)を示す図、(b)は新潟県の架線金具類腐食速度予測マップ(調整前)を示す図である。
【図17】(a)はクラスタリングなしの秋田県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(b)はクラスタリングありの秋田県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(c)はクラスタリングなしの新潟県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(d)はクラスタリングありの新潟県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図である。
【図18】(a)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングなし)を示す図、(b)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ1)を示す図、(c)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ3)を示す図、(d)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ3)を示す図である。
【図19】摩耗量調査結果データのヒストグラムを示す図である。
【図20】(a)は超高圧系のヒストグラムを示す図、(b)は標準系のヒストグラムを示す図である。
【図21】(a)は超高圧系の説明変数の選別を説明する図、(b)は標準系の説明変数の選別を説明する図である。
【図22】(a)は超高圧系の重回帰分析結果を示す図、(b)は標準系の重回帰分析結果を示す図である。
【図23】各検討手法の決定係数一覧を示す図である。
【図24】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ1)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ2)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ3)を示す図である。
【図25】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ4)を示す図である。
【図26】各検討手法の決定係数一覧を示す図である。
【図27】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ1)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ2)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ3)を示す図である。
【図28】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ4)を示す図である。
【図29】(a)は秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(b)は新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(c)は秋田県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(d)は新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図である。
【図30】(a)はクラスタリングなしの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(b)はクラスタリングありの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図である。
【図31】(c)はクラスタリングなしの新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(d)はクラスタリングありの新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(e)はクラスタリングなしの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(f)はクラスタリングありの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(g)はクラスタリングなしの新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(h)はクラスタリングありの新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図である。
【図32】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングなし)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり:1/2)を示す図である。
【図33】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(クラスタリングあり:2/2)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり、1/3)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり、2/3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり、3/3)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングなし)を示す図、(f)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、1/2)を示す図、(g)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、2/2)を示す図である。
【図34】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準形、クラスタリングあり:1/3)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、2/3)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、3/3)を示す図である。
【図35】鉄塔の腐食速度マップ作成を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0021】
図1は本発明の劣化予測マッピング装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。本発明に係る劣化予測マッピング装置100は、一般的なコンピュータのハードウェア構成と同様に、プログラムに従って順次処理を行うCPU(中央演算処理装置)と、プログラム又は普遍的なデータを格納するROM(読出し専用メモリ)と、一次的にデータを記憶したり、そのデータを読み出してCPUに供給するRAM(随時アクセスメモリ)と、大量のデータを格納するデータベース(DB)4と、キーボード及びマウス等の入力装置によりデータを入力する入力部5と、マッピングデータを表示する出力部6と、各部を接続するバス7と、を備えて構成されている。尚、CPU、ROM、RAMを制御部8とする。また、本発明は、上述した実施形態のみに限定されたものではない。上述した実施形態の劣化予測マッピング装置100を構成する各機能をそれぞれプログラム化し、あらかじめCD−ROM等の記録媒体に書き込んでおき、コンピュータに搭載したCD−ROMドライブのような媒体駆動装置にこのCD−ROM等を装着して、これらのプログラムをコンピュータのメモリあるいは記憶装置に格納し、それを実行することによって、本発明の目的が達成されることは言うまでもない。この場合、記録媒体から読み出されたプログラム自体が上述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体も本発明を構成することになる。
【0022】
従って、重回帰分析手段10は、制御部8に含まれ、ROMに記憶したプログラムに基づいてCPUが演算処理して重回帰分析が行われる。また、重回帰分析手段10の構成は、鉄塔の腐食速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力する説明変数入力手段11(図1の入力部5)と、説明変数入力手段11により入力された説明変数と腐食速度との関係式を構築する関係式構築手段12と、説明変数入力手段11により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する選択変数関係式選択手段13と、説明変数入力手段11により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する非選択変数関係式選択手段14と、選択変数関係式選択手段13及び非選択変数関係式選択手段14のうち評価が高い関係式を選択する関係式選択手段15と、関係式選択手段15により選択された関係式と関係式構築手段12により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証する関係式検証手段16と、を備え、関係式検証手段16で、関係式構築手段12により構築された関係式より関係式選択手段15により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、この関係式で選択した説明変数により再試行を行う。
【0023】
架線金具類の腐食速度の予測に際し使用したデータ(説明変数候補)は、標高、海岸距離の地形因子2種、気温、湿度(2種)、降水量、ぬれ時間(6種)、速度比(3種)、吹上角(3種)、二酸化硫黄濃度、汚損区分の環境因子18種および経過年の合計21種である。まず説明変数として、目的変数との相関係数が比較的高いもの上位幾つかを選択するが、この選択が最善であることは証明できない。また、使用可能なデータの種類が多いことからも、説明変数が最適なものであるかを検証する必要がある。そこで説明変数に不要なものが含まれていないか、また他の説明変数候補にモデル(関係式)を改善できるものがないかを検討する。検討にはStep−wise法を用いる。このStep−wise法は、構築したモデルに対し説明変数の追加/削除を行い、評価が上がらなくなるまで続けるアルゴリズムである。これにより、今回使用できるデータのうち最良のモデルを構築する説明変数の組み合わせを求める。
一般に、架線金具類の腐食速度予測には、各種影響因子(ぬれ時間、硫黄酸化物濃度等)を考慮した重回帰分析が適用される。しかし、目的変数と説明変数間の線形性を前提とする重回帰分析では、腐食現象が持つ特異性からその精度向上が図れない結果も得られている。このため、本発明では非線形分析手法を適用し、相互作用も加味することで精度の高い予測式を構築する。
汚損区分データは6段階の離散値であるが、現実の状況を考えると汚損度(=想定最大塩分付着密度)が離散的に変化するのは不自然である。そこで汚損区分の境界線を等高線に見立て、各区分内の汚損度に傾斜をつけることでより現実に近い連続値とすることを試みた。
【0024】
図2(a)は汚損区分の境界線を等高線と見做した図、(b)は(a)の断面図である。6段階の離散値を「汚損区分.傾斜なし」、連続値としたものを「汚損区分.傾斜あり」と名付けた。両者は本来的に同一のデータであるため、後述の説明変数選別の手順においていずれを採用するか決定することとした。
【0025】
ここで、重回帰分析とは、ある変数y(目的変数と呼ぶ)とそれに影響を及ぼす変数xi(説明変数と呼ぶ)との間の関係式(モデルと呼ぶ)を統計的手法により求めるものである。これにより、各説明変数の寄与の度合いの評価や目的変数の予測が可能となる。
モデルの基本的な求め方は最小二乗法であり、目的変数の観測値と推定値の誤差の二乗平均が最小となるモデルの各係数を求めるものである。求められたモデルは、決定係数により評価される。決定係数とは説明変数が目的変数をどの程度説明できるかを示すものであり、構築したモデルのデータに対する当てはまりの良さを表す。決定係数は1.0に近いほどその当てはまりが良いことを表す。図3(a)は最小二乗法を示す図、(b)は決定概念を示す図である。
決定係数の一般的な定義は以下の通りである。
【0026】
また他にもモデルの選択基準(モデルに用いる説明変数の選択基準)として用いられる係数としてAIC等がある。AICは当てはまりの良さと共にモデルの複雑度(項数)も加味して評価するものであり、値が小さいほどモデルとして良いことを示す。定義式は以下の通りである。
【0027】
重回帰分析は、目的変数の推定誤差が正規分布に従っていることを前提としている。そのため、扱う目的変数が正規分布から大きくずれている場合、正しいモデル(本件の場合腐食速度の予測式)が求められない。
そこで正規分布から大きく外れていると思われるデータをはずれ値として除去し、除去後のデータを以降の検討のインプットとした。具体的には、95%の信頼区間の外にあるものをはずれ値とみなし、除去した。
はずれ値除去前後の目的変数のヒストグラムを図4に示す。図4(a)は、はずれ値除去前、図4(b)は、はずれ値除去後を示す。
今回架線金具類の腐食速度の予測に際し使用できるデータ(説明変数候補)は、標高、海岸距離の地形因子2種、気温、湿度(2種)、降水量、ぬれ時間(6種)、速度比(3種)、吹上角(3種)、二酸化硫黄濃度、汚損区分の環境因子18種および経過年の合計21種である。一般に説明変数を多く用いるほどモデルの当てはまり度は高くなるが、必ずしも全ての説明変数候補を利用することが良いわけではない。従って重回帰分析に利用する説明変数の組み合わせを検討する必要がある。また分析結果に悪影響を及ぼす多重共線性(通称マルチコと呼ばれる)を避ける必要がある。マルチコは非常に高い相関関係にある説明変数を用いることに起因するものであり、マルチコを避ける意味でも説明変数の選別は重要である。
【0028】
上述の理由から、目的変数との単相関係数および説明変数同士の単相関係数から説明変数の選別を行った。予測精度(構築したモデルの当てはまり度)の観点から、利用する説明変数は目的変数との相関が高い(符号不問)ことが望ましいため、相関係数の絶対値の上位5つを説明変数として採用した。またマルチコを避けるため、互いの相関が高い説明変数(絶対値が0.9以上のもの)については相関係数の絶対値が大きい方のみ利用することとした。以下に説明変数選別の手順を示す。
1.目的変数および説明変数候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出する。
2.単相関係数の絶対値が0.9より大きい説明変数候補の取捨選択
単相関係数の絶対値が小さい方を説明変数候補から削除する
3.目的変数との単相関係数の絶対値の降順に説明変数を順位付ける
4.残った説明変数候補のうち3.の順位付けの上位5つを説明変数とする
重回帰分析の限界を把握する上で、上記手順にて選別した5つの説明変数の組み合わせの最適性を検証する必要がある。これについては後述する。
【0029】
図5に上記手順による説明変数選択結果を示す。図中、太枠で囲まれたものが説明変数として選択されたものを示す。また斜線で消されているものはマルチコを避けるために、説明変数候補から外されたことを示す。汚損区分については、連続値に加工したもの「傾斜あり」が選択されている。
前記で選別した説明変数を用いて重回帰分析を実施した結果を図6に示す。目的変数である腐食速度は、上記選択された説明変数(標高、相対湿度、ぬれ時間6、吹上角.西風、経過年数)の線形和で説明されることとなり、偏回帰係数が線形和の各項の重みを表す。したがって、架線金具類の腐食速度は以下の式で説明される。
また重回帰分析時に求まるこの式の決定係数は0.708となった。
上記の結果は、上記で選択した説明変数のみでモデルを構築した結果である。目的変数との相関係数が比較的高いもの上位5つを選択することとしたが、本手法による選択が最善であることは証明できない。また今回使用可能なデータの種類が多いことからも、上記説明変数が最適なものであるかを検証する必要がある。
【0030】
そこで上記説明変数に不要なものが含まれていないか、また他の説明変数候補にモデルを改善できるものがないかを検討する。検討にはStep−wise法を用いる。図7にStep−wise法のアルゴリズム概要を示す。即ち、図2における説明変数入力手段11、関係式構築手段12、選択変数関係式選択手段13、非選択変数関係式選択手段14、関係式選択手段15、及び関係式検証手段16を備えた劣化予測マッピング装置の劣化予測マッピング方法であって、説明変数入力手段11が、架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力して、関係式構築手段12が、説明変数入力手段11により入力された説明変数と腐食速度、及び説明変数と摩耗速度との関係式を構築するステップ(S1)と、選択変数関係式選択手段13が、説明変数入力手段11により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップ(S2)と、非選択変数関係式選択手段14が、説明変数入力手段11により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップ(S3)と、関係式選択手段15が、選択変数関係式選択手段13及び非選択変数関係式選択手段14のうち評価が高い関係式を選択するステップ(S4)と、関係式検証手段16が、関係式選択手段15により選択された関係式と関係式構築手段12により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証するステップ(S5)と、を含み、関係式検証手段16で、関係式構築手段12により構築された関係式より関係式選択手段15により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合(S5でYes)は、この関係式で選択した説明変数により再試行を行う(S6)。
【0031】
図7に示す通り、Step−wise法は、構築したモデルに対し説明変数の追加/削除を行い、評価が上がらなくなるまで続けるアルゴリズムである。したがって本アルゴリズムの適用により、今回使用できるデータのうち最良のモデルを構築する説明変数の組み合わせを求めることができる。なお、モデルの評価にはAICを用いた。
予測式構築に用いる説明変数の選択については、Step−Wise法により、最適な予測式の構築に用いる説明変数の選択を行う仕組みを備えている。従って、劣化に影響を及ぼすと思しき新たな因子が出てきた場合、入力に追加し実行するだけで予測に有用な因子かどうかの判断ができる。さらに各説明変数の相互作用を考慮に入れた。これは例えば環境因子と汚損度や時間が腐食現象に対し相乗効果を及ぼす可能性を想定してのことである。重回帰分析において、相互作用は説明変数の積として表現される。また今回何項の積まで検討した方が良いかについても、同様にStep−wise法を用いて検討した。具体的には、2項の積までを説明変数とした場合、3項の積までを説明変数とした場合と順次説明変数として検討する積の項の次数を上げモデルを構築、評価が上がらなくなる次数を求めた。
【0032】
結果を図8に、Step−wise法の経過の一例を図9に示す。図6と図8の比較より予測式から追加・削除された説明変数があること、相互作用の項が追加されていること、Step−wise法の結果の方が精度が高いことが分かる。これはStep−wise法適用によるモデル検討が有効であることを示す。また図9から本結果が現在使用できるデータから重回帰分析により求めることが出来る最良のモデルであることが分かる。
除かれた説明変数:なし
追加された説明変数:降水量、二酸化硫黄濃度
モデルの決定係数の向上:0.708→0.747
【0033】
また、本発明の実施中、新たな影響因子(塩分に係る因子1〜3)のデータが入手可能となった。
本データは塩分に関するデータであり、塩分は汚損の主要因でもあるため、意味するものが汚損区分データと重複する恐れがある。そこで汚損区分との相関にも配慮しつつ、重回帰分析の説明変数として扱うべきか否かの判断を行う。図10に汚損区分および腐食速度と塩分に係る因子1〜3との単相関係数を示す。
図10から分かる通り、塩分に係る因子1と2は汚損区分と比較的相関がある。しかし単相関係数は0.6〜0.8程度であり、同時に説明変数として扱っても問題ないと思われる。一方、塩分に係る因子1〜3のそれぞれの相関を見ると、塩分に係る因子1と塩分に係る因子3の単相関係数が0.9を超えている。したがってマルチコを生じる恐れがあるため、腐食速度との相関がより高い塩分に係る因子1を採用することとする。
また各データとも腐食速度との単相関係数は低く、より良いモデルの構築への貢献はあまり期待できない。塩分に係る因子1〜3のデータの有効性は、構築したモデルに含まれるか否かで判断することとする。
【0034】
重回帰分析の結果を図11に示す。重回帰分析の手順は前記で述べた手順に従い実施した。図11からわかる通り塩分に係る因子1〜3を追加検討することにより、決定係数が0.747から0.750に向上した。また構築されたモデルに、塩分に係る因子1〜3(塩分に係る因子3)の項が含まれている。以上のことより、塩分に係る因子1〜3を説明変数候補に加えることはモデルの精度向上に有効であることが確認された。
【0035】
以上の結果から、架線金具類の腐食速度予測について、重回帰分析およびその他の非線形手法の適用を検討した。検討の結果、重回帰分析が最適であると判断した。また重回帰分析の実施方針は以下のものが最適であると判断した。
1.塩分に係る因子1〜3も説明変数として用いる。
2.Step−wise法を用いて最適な説明変数の組み合わせを求める。
3.説明変数間の相互作用も検討する。
【0036】
一般に、架線金具類の腐食現象がその領域特有の環境影響(気温、湿度、ぬれ時間等)を受けるため、その予測精度向上には解析領域の細分化(地域別・線路別等)が不可欠となる。しかし、膨大な腐食量調査が必要となることから現実的ではない。そこで必要最小限のデータから最大の効果を発揮するよう、各種クラスタリングの検討による領域最適化とともに現場活用に資するマッピングに係る検討を行った。
【0037】
ファジークラスタリングに対し、曖昧性を一切持たせないクラスタリングをハードクラスタリングと呼ぶ。以下に検討結果について述べる。尚、めっき速度を予測するためのクラスタリング手法では、ハードクラスタリングにこだわらず、県別や海岸からの距離、ファジークラスタリングが良いが、より好ましいのはハードクラスタリングである。
ハードクラスタリングにより分類された各クラスタのサンプル数を以下に示す。ハードクラスタリングについても、分類クラスタの最適な数も併せて検証するため、分類クラスタ数2、3、4について検証した。
[分類クラスタ数:2]
クラスタ1:50件
クラスタ2:186件
[分類クラスタ数:3]
クラスタ1:19件
クラスタ2:166件
クラスタ3:51件
[分類クラスタ数:4]
クラスタ1:50件
クラスタ2:19件
クラスタ3:95件
クラスタ4:72件
【0038】
図12〜図14にハードクラスタリングを用いた重回帰分析結果を示す。図12(a)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ1)を示す図である。図13(a)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ2)を示す図、(b)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ3)を示す図、(c)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ1)を示す図、(d)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ2)を示す図、(e)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ3)を示す図である。図14は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ4)を示す図である。
各種クラスタリングおよび自己組織化マップによる領域最適化について検討した。各手法による領域最適化後、重回帰分析により作成したモデルの決定係数を図15に示す。
【0039】
各手法について全クラスタの決定係数の平均値で比較すると、ハードクラスタリングによる3クラスタに領域分割する方法が最良であった(平均決定係数:0.804)。そこで当該手法で作成したモデルに従い、秋田県、新潟県の腐食速度予測マップを作成した。予測地点は気象データと同様の1km間隔の点とし、各予測地点の所属クラスタは重心が最も近いクラスタとした。
クラスタリングを実施しない(1クラスタ)、2クラスタに分類、3クラスタに分類…と試行していき、全体的に決定係数の向上が見られなくなったところで、試行をやめ、最適なクラスタ数を求める方法を採用した。従って、この方法に従うことで、収集したデータ(もしくは対象とする地域)に適したクラスタ数を求めることができる。
【0040】
しかし前述の決定係数の向上にのみ注目し構築した予測式では、予測結果が負となる、定性的に不自然と思われる箇所が生じる不具合が確認された(図16参照)。図16(a)は秋田県の架線金具類腐食速度予測マップ(調整前)を示す図、(b)は新潟県の架線金具類腐食速度予測マップ(調整前)を示す図である。これは秋田・新潟全域のマップを作成するには非常に限られたデータに強くフィッティングした結果、少数のデータの特徴(もしくは誤差)に引っ張られたことに起因すると思われる。そこで各クラスタについて再度、はずれ値を除去し、大多数のデータにより支持される特徴のみから予測式の構築を行った。
【0041】
図17(a)はクラスタリングなしの秋田県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(b)はクラスタリングありの秋田県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(c)はクラスタリングなしの新潟県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(d)はクラスタリングありの新潟県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図である。クラスタリングを実施しない場合にも不具合が確認されたため、腐食速度に影響を及ぼしている確率が高い因子のみを採用することとした。具体的には、重回帰分析時に算出される各係数のp値による検定により、当該因子の係数が0でない確率が高いもののみを選別することを行った。
【0042】
図18(a)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングなし)を示す図、(b)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ1)を示す図、(c)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ2)を示す図、(d)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ3)を示す図である。
クラスタリングを実施しない場合、標高に強く影響を受けたマップとなった。その結果、内陸部の標高が高い箇所にAの領域(腐食速度が0.0に近い)が広がっている。腐食の主要因が塩分に係る因子であるとしても、内陸部で全く腐食が進まないというのは不自然である。一方クラスタリングを施す場合、海岸からの距離が近い領域では比較的腐食速度が速く、海岸距離が大きい領域では腐食速度がなだらかに変化するマップとなっている。さらに河川等の影響があると思われる領域では、海岸距離が同程度の他の領域よりも腐食速度が速くなっている。これらのことから、クラスタリングを施したマップの方が局所的な特徴を捉えつつ大局的にも整合性の取れたマップとなっていると判断でき、領域最適化(ハードクラスタリング)の有効性が確認できた。
【0043】
一般に、架線金具類の摩耗速度予測には各種影響因子(荷重径間、速度比等)を考慮した重回帰分析が適用される。しかし、関係の線形性を前提とする重回帰分析では、摩耗現象が持つ特異性からその精度向上が図れない事象も発生している。このため、重回帰分析による精度向上の限界把握と非線形分析手法の適用可能性について検討し、摩耗速度予測の精度向上を図る。
今回摩耗速度予測に使用するデータは、摩耗量調査データであり超高圧系と標準系の2種類である。図19に摩耗量調査データ(=腐食速度)のヒストグラムを示す。グラフが双峰となっており、値が大きい方の山が超高圧系、小さいほうが標準系という分布になっていた。そこで超高圧系と標準系は異なるデータとして扱うこととした。
【0044】
前述の通り、超高圧系と標準系は別データとして扱うこととした。したがってそれぞれについて、重回帰分析の精度向上について検討した。検討内容および手順は腐食速度と同様である。
腐食速度予測の場合と同様に、95%信頼区間外のデータをはずれ値として除去することとした。また超高圧系のデータは非常に数が少ないため、はずれ値の除去は行わないこととした。
【0045】
図20(a)は超高圧系のヒストグラムを示す図、(b)は標準系のヒストグラムを示す図である。
今回架線金具類の摩耗速度の予測に際し利用できるデータ(説明変数候補)は、標高、海岸距離の地形因子2種、連続係数(3種)、径間長(2種)、荷重径間、前後径間長差、前後径間長比、支持点高低差、tanδ(3種)、地線/下腕金地上高、地線/下腕金標高、重量荷重径間、連続係数荷重径間、連続係数径間平均、電線サイズ(2種)、電線重量(3種)の鉄塔諸元(22種)、速度比(3種)、吹上角(3種)の環境因子6種および経過年数の合計31種である。
【0046】
図21(a)は超高圧系の説明変数の選別を説明する図、(b)は標準系の説明変数の選別を説明する図である。図中、太枠で囲まれたものが説明変数として選択されたものを示す。また斜線で消されているものはマルチコを避けるために、説明変数候補から外されたことを示す。
【0047】
超高圧系の重回帰分析の結果を図22(a)に示す。相互作用も加味したStep−wise法による検討まで実施した結果である。また、標準系の重回帰分析の結果を図22(b)に示す。相互作用も加味したStep−wise法による検討まで実施した結果である。
架線金具類の摩耗速度予測について、重回帰分析およびその他の非線形手法の適用を検討した。検討の結果、重回帰分析が最適であると判断した。また重回帰分析の実施方針は以下のものが最適であると判断した。
1.超高圧系と標準系それぞれのモデルを構築する。
2.塩分に係る因子も説明変数として用いる。
3.Step−wise法を用いて最適な説明変数の組み合わせを求める。
4.説明変数間の相互作用も検討する。
【0048】
一般に、架線金具類の摩耗現象はその設備(荷重径間、高低差等)の影響が大きいため、摩耗量調査結果から得られた摩耗速度予測式は、当該地点の予測値のみを与える。この予測された点情報をもとに平面情報へ展開し、効果的なマッピングを行うため、マッピングに資する影響因子の抽出と点面展開手法について検討した。
これまでの検討で、架線金具類の摩耗速度予測には重回帰分析が適していることが分かった。また後述するが、摩耗速度予測結果の点面展開には限られた点の予測値を空間的に展開していく補完法等の手法は用いず、重回帰分析の説明変数に制限を設けることで鉄塔所在地以外でも予測可能なモデルの構築を行う。よってマッピングに資する影響因子とは、モデルの説明変数である。
架線金具類の摩耗現象はその設備の影響が大きい。しかし一方で設備の所在地は限られており、その分布には偏りがある。
点面展開の方法として補完法があるが、この手法ではサンプル点(本件では摩耗速度予測が可能な地点すなわち設備所在地を意味する)が面展開したい領域に均等に分布していることを前提としている。サンプル点の分布に偏りがある場合でも補完法のよる点面展開は可能であるが、補完法の基本的な考え方「近傍のサンプル点との距離による加重平均」では、精度良い点面展開ができない。
【0049】
そこで、設備に関するデータ(鉄塔諸元)以外のデータからモデルを構築することとした。鉄塔諸元データを用いないモデルであれば、摩耗速度予測が設備の所在地に限られないため、全域で予測可能となる。よって鉄塔諸元データを用いないモデル構築を点面展開の代替手法として検討した。検討の結果、高い決定係数を実現でき、鉄塔諸元以外のデータからモデルを構築する手法は点面展開の代替手法として問題ないと判断した。ハードクラスタリングによる領域最適化の検討と併せて実施したため、結果詳細は次に示す。
以下に鉄塔諸元データ以外のデータについて実施した、分類数が2〜4のハードクラスタリングによる領域最適化の検討結果を述べる。
検討の結果、ハードクラスタリングにより3クラスタに分類した場合が最良であった。図23に各検討した手法の決定係数を示す。図24(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:3分類、クラスタ1)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:3分類、クラスタ2)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:3分類、クラスタ3)を示す図である。
【0050】
図25(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:4分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:4分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:4分類、クラスタ3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:4分類、クラスタ4)を示す図である。
検討の結果、ハードクラスタリングにより3クラスタに分類した場合が最良であった。図26に各検討した手法の決定係数を示す。図27(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:3分類、クラスタ1)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:3分類、クラスタ2)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:3分類、クラスタ3)を示す図である。
【0051】
図28(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:4分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:4分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:4分類、クラスタ3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:4分類、クラスタ4)を示す図である。
マッピングに資する影響因子、効果的な点面展開手法およびハードクラスタリングによる領域最適化について検討した。超高圧系、標準系とも鉄塔諸元以外のデータを用いた重回帰分析を効果的な点面展開手法の代替案として採用することとした。したがってマッピングに資する影響因子は、摩耗速度予測マップの作成に使用される因子、すなわち重回帰分析により構築されたモデルに含まれる説明変数となる。
全クラスタの決定係数の平均をその手法の決定係数として評価すると、ハードクラスタリングにより3クラスタに領域分割する方法が最良であった。そこで当該手法で作成したモデルに従い、秋田県、新潟県の腐食速度予測マップを作成した。予測地点は気象データと同様の1km間隔の点とし、各予測値点の所属クラスタは重心が最も近いクラスタとした。
【0052】
図29(a)は秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(b)は新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(c)は秋田県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(d)は新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図である。しかし摩耗についても、腐食と同様に決定係数の向上にのみ注視した方法で構築した予測式では、負の予測値や定性的に不自然と思われる箇所が生じる不具合が生じた(図29参照。負の予測値は白で表示)。不具合の発生箇所が非常に海岸に近い領域や内陸部の奥部であることから、今回使用したデータに強くフィッティングした結果、それらのデータの傾向から外れたデータについて極端な予測値が出る等の歪が生じたものと考えられる。その他、線路毎に経過年が異なっている上に各線路の経過年数のデータが1、2種程度であることによる弊害も見られた。同一地点もしくは局所領域に異なる経過年数のデータが乏しいため、地域特性と時間特性による影響を区別できないことがその一例である。今回は下記の調整の際に必要に応じ配慮することで対応したが、今後は地域および経過時間のバリエーションに富むデータを使用できるようになることにも期待したい。
【0053】
上述の不具合対応のため、摩耗についてもはずれ値の厳密な除去やp値の検定による尤度の高い因子のみからの式の構築を実施し、マップを作成した。はずれ値除去後は、クラスタリングについては2分類の方が3分類よりも決定係数が良かったため、2分類のものを採用した。図30(a)はクラスタリングなしの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(b)はクラスタリングありの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図である。図31(c)はクラスタリングなしの新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(d)はクラスタリングありの新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(e)はクラスタリングなしの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(f)はクラスタリングありの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(g)はクラスタリングなしの新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(h)はクラスタリングありの新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図である。領域最適化の効果確認のため、クラスタリングを実施しない場合のマップも併せて示す。
【0054】
また図32(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングなし)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり:1/2)を示す図である。図33(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(クラスタリングあり:2/2)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり、1/3)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、ハードクラスタリングあり、2/3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり、3/3)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングなし)を示す図、(f)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、1/2)を示す図、(g)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、2/2)を示す図である。図34(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準形、クラスタリングあり:1/3)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、2/3)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、3/3)を示す図である。
【0055】
クラスタリングの有無に関わらず、負の予測値となる箇所が残っている。また超高圧系のマップでは、クラスタリングを実施した場合、内陸部の一部に非常に摩耗速度が遅い領域(Aの領域)が生じている。これは不自然にも思えるが、データを詳細に見ると高い標高に位置し摩耗速度が非常に小さい鉄塔からなるクラスタに対応していることが分かった。したがってこの結果は、数値データとして見る限りにおいては不自然ではないと言える。しかし定性的には不自然と思われるため、可能であれば今後実計測データとの比較等による検証や十分な量のデータを用いたモデル構築が望まれる。
標準系のマップについては、クラスタリングを実施しない方が、粗が目立たない結果となった。しかし海岸距離に強く影響を受けている形となっており、その他の要因等の局所的な影響は無視されているようにも見える。したがって超高圧系と同様に実測データとの比較による検証や十分なデータからのモデル構築を実施することが望まれる。
全体的に見て腐食速度に比べ、負の予測値や局所的に急峻な変化等が見られ粗が目立つマップとなった。これは今回使用できる金具のデータ数が非常に少ないこと、また使用可能なデータの中に秋田・新潟県内の鉄塔がほとんど含まれていなかったことが原因と思われる。しかし現実には限られたデータからの予測の必要がある。そこで既設の鉄塔に限定されるが、鉄塔諸元を用いた予測式(図22参照)から鉄塔単位で摩耗速度を予測することを試行した。
【0056】
架線金具類の経年劣化(=腐食速度)の予測とマッピングに係る検討を実施した。以下に結果をまとめる。
1.架線金具類の腐食速度予測に関する検討
a.重回帰分析の精度向上(影響因子最適化等)とその限界把握
単相関係数を参考にした説明変数の選択からStep−wise法による説明変数の最適組み合わせの探索を行った。また説明変数の積として表現される相互作用も加味した検討を行った。
検討の結果、Step−wise法および相互作用の検討が有用であることが確認された。
b.塩分に係る因子の追加による精度向上検討
新たに入手可能となった影響因子(塩分に係る因子)の追加検討による精度向上について検討した。既に使用している汚損区分データとの重複(汚損区分との高い相関)が懸念されたが、同時に説明変数として扱っても問題ない程度の相関であった。また腐食速度との相関も他の説明変数候補に比較しやや高く、精度向上に貢献できることが確認できた。
以上のことから、鉄塔の腐食速度予測手法として以下の方針が最適であると判断した。 ・Step−wise法による重回帰分析を採用する
・説明変数の相互作用(積の項)も検討する
・塩分に係る因子も説明変数として考慮する
【0057】
2.腐食領域最適化とマッピングに関する検討
c.ハードクラスタリングによる領域最適化
ハードクラスタリングについても、ファジークラスタリング同様、最適分類数の検討まで行った。同様に2〜4まで分類数を変えモデルを構築した結果、分類数3の場合が決定係数が最大となった。したがってハードクラスタリングの場合、最適分類数は3であると判断した。また決定係数も本研究で実施した全ての手法の中で最良であった。
以上のことから、領域最適化の手法として以下のものが最適であると判断した。またその結果構築したモデルに従い、秋田県および新潟県の腐食速度予測マップを作成した。
・ハードクラスタリングによる3クラスタへの分類
【0058】
3.架線金具類の摩耗速度予測に関する検討
d.重回帰分析の精度向上(影響因子最適化等)とその限界把握
目的変数である摩耗速度の分布から、超高圧系と標準系は分けて扱うこととした。したがってそれぞれでモデルを構築する。単相関係数を参考にした説明変数の選択からStep−wise法による説明変数の最適組み合わせの探索を行った。また説明変数の積として表現される相互作用も加味した検討を行った。
検討の結果、超高圧系、標準系ともStep−wise法および相互作用の検討が有効であることが確認された。
【0059】
4.摩耗領域最適化とマッピングに関する検討
e.マッピングに資する影響因子の検討
架線金具類の摩耗速度予測には重回帰分析が適していることが分かった。点面展開手法の代替手法として、鉄塔諸元以外のデータから重回帰分析により構築したモデルによる予測を採用することとした。これは予測したい領域に比べデータ数が非常に少なくまた偏りがあることから、点面展開では対応しきれないと判断したためである。鉄塔諸元を使用しない場合、鉄塔の所在に関わらず予測が可能となるため、モデルから直接(点面展開等の処理を行わず)マッピングが可能となる。したがってマッピングに資する影響因子とは、マッピングに使用する因子、すなわち当該モデルの説明変数である。
f.効果的な点面展開手法の検討
使用可能なデータは既設の鉄塔に関するものであるが故、その分布に非常に偏りがある。そのため、鉄塔諸元以外のデータから予測可能なモデルの構築を検討した。検討の結果、当該モデルでも問題ないことが確認された。
g.ハードクラスタリングによる領域最適化
摩耗速度についても、腐食速度同様、最適分類数の検討まで行った。2〜4まで分類数を変えモデルを構築した結果、分類数3の場合が決定係数が最大となった。したがって、最適分類数は3であると判断した。
【0060】
以上のことから、摩耗速度予測のマッピング手法として鉄塔諸元以外のデータからモデルを構築する手法が良いと判断した。また領域最適化については、ハードクラスタリングによる3クラスタへの分類が最適である。ただし、過度のフィッティングを和らげる等の目的で更なるはずれ値の除去やp値の考慮等を行う場合には、分類数については適宜変更した方が良い場合がある。
【0061】
図35は、腐食速度予測マップ作成フローを示す図である。
まず、3クラスに分類したハードクラスタリングを行う(S10)。クラスタ毎に説明変数を選別するために、目的変数との相関上位5つを選別する(S11)。そのとき、説明変数同士の相関が高いものは、目的変数との相関が一番高いもの1つを残しその他は削除する。次に、選別された説明変数によるモデルを構築する。このとき各クラス毎にモデルを構築する(S12)。次に、各モデルをStep−wise法により更新する(S13)。次に予測地点の所属クラスタを決定する。このとき、各クラスタの重心からの距離により決定する(S14)。次に所属クラスタのモデルに従って予測する(S15)。そして、その予測値をGIS(Geographic Information System:文字や数値データ等を地図と結び付けて管理・分析・表示するシステム)に載せてマッピング化する(S16)。
【符号の説明】
【0062】
4 DB、5 入力部、6 出力部、7 バス、8 制御部、10 重回帰分析手段、11 説明変数入力手段、12 関係式構築手段、13 選択変数関係式選択手段、14 非選択変数関係式選択手段、15 関係式選択手段、16 関係式検証手段、100 劣化予測マッピング装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、架線金具類の劣化予測マッピング装置及び劣化予測マッピング方法に関し、さらに詳しくは、架線金具類の腐食速度及び摩耗速度を重回帰分析により予測してマッピングする際に、予測の精度を向上させる劣化予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、送電設備の経年化に伴って架線金具類の老朽化が進んでおり、これら設備の有効活用ならびに設備機能維持のために、的確なメンテナンスと、そこから派生する諸課題への取り組みは、効果的な設備投資や設備保安を維持する上で必要不可欠なものとなっている。一般に、架線金具類の腐食速度予測には、各種影響因子(ぬれ時間、硫黄酸化物濃度等)を考慮した重回帰分析が適用される。しかし、目的変数と説明変数間の線形性を前提とする重回帰分析では、腐食現象が持つ特異性からその精度向上が図れないといった問題がある。
【0003】
また、架線金具類の腐食現象がその領域特有の環境からの影響(気温、湿度、ぬれ時間等)を受けるため、その予測精度向上には解析領域の細分化(地域別・線路別等)が不可欠となる。しかし、膨大な腐食量調査が必要となることから現実的ではないといった問題がある。
また、架線金具類の摩耗速度予測には各種影響因子(荷重径間、速度比等)を考慮した重回帰分析が適用される。重回帰分析とは、予測したい事象(目的変数と呼ぶ)とそれに影響を及ぼす因子群(説明変数と呼ぶ)との間に式を当て嵌めることにより、予測式を構築する手法である。しかし、重回帰分析では説明変数の線形結合から成る式を当て嵌める、すなわち目的変数と説明変数間に線形の関係が成り立つことが前提とされており、摩耗現象が持つ特異性からその精度向上が図れないといった問題がある。
また、架線金具類の摩耗現象は、その設備(荷重径間、高低差等)の影響が大きいため、摩耗量調査結果から得られた摩耗速度予測式は、当該地点の予測値のみを与えるため、その分布に偏りが出るといった問題がある。
【0004】
従来から重回帰分析を利用した腐食速度の評価方法として特許文献1には、金属材料の腐食速度を目的変数とし、その腐食速度に影響を与える環境因子と地形因子を説明変数とする重回帰分析を行うにあたり、少なくとも説明変数の一つとして相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間を含め、測定した金属材料の腐食速度に基づき重回帰分析法により腐食速度推定式を求め、求めた腐食速度推定式に基づいて非測定エリアの金属材料の腐食速度を推定演算して求める腐食速度評価方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−224405公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている従来技術は、説明変数の1つの相対湿度に重み付けした仮想ぬれ時間を含めて評価するが、仮想ぬれ時間の重み付けの判定は人的に行われるため、重み付けの精度がばらついて腐食速度推定式の精度を低下させるといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、説明変数間の相互作用の加味、最適な説明変数(それらの相互作用も含む)の選択、クラスタリングによる解析領域の細分化により、架線金具類の腐食速度並びに摩耗速度の予測を、効率的に、且つ精度良く実施することができる劣化予測マッピング装置、及び劣化予測マッピング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、重回帰分析手段により複数の鉄塔の架線金具類に係る腐食速度及び摩耗速度を夫々予測し、該予測の結果をマッピング化して表示する劣化予測マッピング装置であって、前記重回帰分析手段は、プログラムに従って順次処理を行う中央処理装置と、前記プログラム及びデータを格納する読出し専用メモリと、一次的にデータを記憶し、該記憶したデータを読み出して前記中央処理装置に供給する随時アクセスメモリと、を有する制御部に含まれ、前記架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力する説明変数入力手段と、該説明変数入力手段により入力された説明変数と前記腐食速度、及び該説明変数と摩耗速度との関係式を構築する関係式構築手段と、前記説明変数入力手段により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する選択変数関係式選択手段と、前記説明変数入力手段により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する非選択変数関係式選択手段と、前記選択変数関係式選択手段及び前記非選択変数関係式選択手段のうち評価が高い関係式を選択する関係式選択手段と、前記関係式選択手段により選択された関係式と前記関係式構築手段により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証する関係式検証手段と、を備え、前記関係式検証手段で、前記関係式構築手段により構築された関係式より前記関係式選択手段により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、該関係式で選択した説明変数により再試行を行うことを特徴とする。
本発明により、腐食速度および摩耗速度に影響を及ぼすと思われる事象のデータ群から必要なものを選別し、予測式を構築することが出来る。また構築した予測式から腐食速度および摩耗速度を予測し、その結果をマップ化することが出来る。
【0008】
請求項2は、説明変数入力手段、関係式構築手段、選択変数関係式選択手段、非選択変数関係式選択手段、関係式選択手段、及び関係式検証手段を備え、重回帰分析手段により複数の鉄塔の架線金具類に係る腐食速度及び摩耗速度を夫々予測し、該予測の結果をマッピング化して表示する架線金具類の劣化予測マッピング装置の劣化予測マッピング方法であって、前記説明変数入力手段が、前記架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力するステップと、前記関係式構築手段が、前記説明変数入力手段により入力された説明変数と前記腐食速度、及び該説明変数と前記摩耗速度との関係式を構築するステップと、前記選択変数関係式選択手段が、前記説明変数入力手段により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップと、前記非選択変数関係式選択手段が、前記説明変数入力手段により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップと、前記関係式選択手段が、前記選択変数関係式選択手段及び前記非選択変数関係式選択手段のうち評価が高い関係式を選択するステップと、前記関係式検証手段が、前記関係式選択手段により選択された関係式と前記関係式構築手段により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証するステップから成り、前記関係式検証手段で、前記関係式構築手段により構築された関係式より前記関係式選択手段により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、該関係式で選択した説明変数により再試行を行うことを特徴とする。
本発明は請求項1と同様の作用効果を奏する。
【0009】
請求項3は、前記説明変数入力手段により入力する説明変数を選別する手順は、前記目的変数及び前記説明変数の候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出し、該単相関係数の絶対値が小さい方を前記説明変数候補から削除し、前記目的変数との単相関係数の絶対値の降順に前記説明変数を順位付け、残った前記説明変数候補のうち前記順位付けにより順位付けされた上位の所定数を説明変数とすることを特徴とする。
一般に説明変数を多く用いるほどモデルの当てはまり度は高くなるが、必ずしも全ての説明変数候補を利用することが良いわけではない。従って重回帰分析に利用する説明変数の組み合わせを検討する必要がある。また分析結果に悪影響を及ぼす多重共線性(通称マルチコと呼ばれる)を避ける必要がある。マルチコは非常に高い相関関係にある説明変数を用いることに起因するものであり、マルチコを避ける意味でも説明変数の選別は重要である。上述の理由から、目的変数との単相関係数および説明変数同士の単相関係数から説明変数の選別を以下の手順で行う。
1.目的変数および説明変数候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出する。
2.単相関係数の絶対値が0.9より大きい説明変数候補の取捨選択をおこなう。即ち、単相関係数の絶対値が小さい方を説明変数候補から削除する。
3.目的変数との単相関係数の絶対値の降順に説明変数を順位付ける。
4.残った説明変数候補のうち3.の順位付けの上位5つを説明変数とする。
これにより、予測精度を高めつつ、マルチコを避けることができる。
【0010】
請求項4は、前記説明変数入力手段は、腐食の主要因の1つである塩分による汚損の度合いを示す汚損区分データを前記説明変数に含ませ、該汚損区分の境界線を等高線と見做して、各区分内の汚損度に傾斜を設けて連続値としたことを特徴とする。
汚損区分データとは腐食の主要因の一つであると考えられている塩分による汚損の度合いを示すものであり、想定最大塩分付着密度(mg/cm2)を複数段階で評価したものである。また、汚損区分は概ね海岸線に並行するような形で分布しており、使用可能なデータは沿岸部に海岸線に沿うように位置する鉄塔を多く含んでいる。そのため重回帰分析において鉄塔の立地位置の汚損区分の微妙な変化を反映することが出来ず、汚損区分データを十分に活用できないことが想像される。そこで、汚損区分の境界線を等高線に見立て、各区分内の汚損度(=想定最大塩分付着密度)に傾斜をつけることでより現実に近い連続値とすることを試みた。これにより、鉄塔の立地位置の汚損区分の微妙な変化を重回帰分析に反映することができる。
【0011】
請求項5は、前記重回帰分析において、前記環境因子と前記汚損度及び時間が腐食現象に対して相乗効果を及ぼす相互作用は、前記説明変数の積として表現することを特徴とする。
相乗効果を及ぼす因子の数(積算する前記説明変数の項数)についても、同様にStep−wise法を用いて決定する。具体的には、2項の積までを説明変数とした場合、3項の積までを説明変数とした場合と順次説明変数として検討する積の項の次数を上げてモデルを構築し、評価が上がらなくなる次数を求める。これにより、各説明変数間の相互作用による相乗効果も反映した予測式が構築ができる。
【0012】
請求項6は、前記架線金具類の腐食現象が、該架線金具類が配置された領域に特有の環境影響を受けるため、該領域をいくつかの部分集合に分類するクラスタリングにより前記領域の最適化を行うことを特徴とする。
一般に架線金具類の腐食現象は、その領域特有の環境影響(気温、湿度、ぬれ時間等)を受けるため、その予測精度向上には解析領域の細分化(地域別・線路別等)が不可欠となる。しかし、膨大な腐食量調査が必要となることから現実的ではない。そこで必要最小限のデータから最大の効果を発揮するよう、各種クラスタリングの検討による領域最適化を行う。これにより、解析領域の予測精度を向上させることができる。
【0013】
請求項7は、前記クラスタリングにおいて、クラスタ数を変えながら関係式の構築・評価を行うことで最適な領域分割数を求めることを特徴とする。
分割数を決め、クラスタリングを行い、クラスタ毎に予測式を構築する。次に各クラスタの予測式をトータルで評価し、その分割数での予測式の評価とする。これを分割数を増やしながら評価し、評価が極大となる分割数を求める。これにより、最適な領域分割数を求めることができる。
【0014】
請求項8は、前記予測の結果をマッピング化する手順は、前記クラスタリングにより前記領域を最適な数の部分集合に分類し、該部分集合ごとに前記説明変数を選別して該説明変数による関係式を構築し、構築した各関係式を前記重回帰分析により更新し、予測地点の部分集合を決定し、決定した部分集合の関係式に従って予測し、予測した値に基づいて表示部にマッピング化することを特徴とする。
これにより任意地点が前記クラスタリング結果基づいて構築した予測式の内、最適なものを選択し予測・マッピング化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、劣化に係る観測データ(腐食速度、摩耗速度)およびそれに影響を及ぼすと思われる因子群を入力することにより、予測式を構築できる。予測式構築の過程において、入力された因子群から予測に必要な因子の選別を行い、最良のモデルを構築する説明変数の組み合わせを求めるため、事前に各因子の予測に対する有用性検証が不要となる。
さらに各因子の相互作用の考慮、領域分割および領域毎の予測式構築により、腐食現象が持つ特異性にも柔軟に対応できる。また領域分割の際には、予測式の精度評価を基準に最適な分割数も求めるため領域分割に係る事前検討も不要となる。
これらにより、ユーザは予測したい現象および影響を及ぼすと思われる因子群を入力するだけで、1)予測に有用な因子の選別、2)予測に適した領域の分割、3)領域毎の予測式の構築が行える。
【0016】
また本発明は構築した予測式を用いて予測した結果のマッピング手法を備えており、これにより鉄塔の腐食速度の予測を効率的に実施できる。
【0017】
また、目的変数との単相関係数および説明変数同士の単相関係数から説明変数の選別を、1)目的変数および説明変数候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出する、2)単相関係数の絶対値が0.9より大きい説明変数候補の取捨選択をおこなう、3)目的変数との単相関係数の絶対値の降順に説明変数を順位付ける、4)残った説明変数候補のうち3)の順位付けの上位5つを説明変数とする、手順で行うため、予測精度を高めつつ、マルチコを避けることができる。
また、離散値データ(汚損区分など)は境界線を等高線に見立て、各区分内の汚損度(=想定最大塩分付着密度)に傾斜をつけることでより現実に近い連続値とするので、鉄塔の立地位置の汚損区分の微妙な変化を重回帰分析に反映することができる。
また、順次説明変数として検討する積の項の次数を上げてモデルを構築し、評価が上がらなくなる次数を求めたので、各説明変数間の相互作用による相乗効果を予測式に反映することができる。
【0018】
また、順次説明変数として検討する積の項の次数を上げてモデルを構築し、評価が上がらなくなる次数を求めるので、各説明変数間の相互作用による相乗効果を予測式に反映することができる。
また、必要最小限のデータから最大の効果を発揮するよう、各種クラスタリングの検討による領域最適化を行うので、解析領域の予測精度を向上させることができる。
これにより対象領域に応じた領域分割による最適な予測式の構築が出来る。
また、本発明で求めた腐食速度予測式に基づく、腐食速度予測マップを生成するので、鉄塔の腐食速度の予測を、効率的に、且つ精度良く実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の劣化予測マッピング装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【図2】(a)は汚損区分の境界線を等高線と見做した図、(b)は(a)の断面図である。
【図3】(a)は最小二乗法を示す図、(b)は決定概念を示す図である。
【図4】(a)ははずれ値除去前の腐食速度ヒストグラムを示す図、(b)ははずれ値除去後の腐食速度ヒストグラムを示す図である。
【図5】説明変数の選別を示す図である。
【図6】重回帰分析結果を示す図である。
【図7】Step−wiseアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【図8】重回帰分析結果を示す図である。
【図9】Step−wise経過の一例を示す図である。
【図10】腐食速度、汚損区分、塩分に係る因子の単相関係数を示す図である。
【図11】塩分に係る因子を考慮した重回帰分析結果を示す図である。
【図12】(a)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ1)を示す図である。
【図13】(a)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ2)を示す図、(b)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ3)を示す図、(c)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ1)を示す図、(d)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ2)を示す図、(e)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ3)を示す図である。
【図14】重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ4)を示す図である。
【図15】領域最適化に関する検討結果を示す図である。
【図16】(a)は秋田県の架線金具類腐食速度予測マップ(調整前)を示す図、(b)は新潟県の架線金具類腐食速度予測マップ(調整前)を示す図である。
【図17】(a)はクラスタリングなしの秋田県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(b)はクラスタリングありの秋田県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(c)はクラスタリングなしの新潟県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(d)はクラスタリングありの新潟県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図である。
【図18】(a)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングなし)を示す図、(b)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ1)を示す図、(c)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ3)を示す図、(d)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ3)を示す図である。
【図19】摩耗量調査結果データのヒストグラムを示す図である。
【図20】(a)は超高圧系のヒストグラムを示す図、(b)は標準系のヒストグラムを示す図である。
【図21】(a)は超高圧系の説明変数の選別を説明する図、(b)は標準系の説明変数の選別を説明する図である。
【図22】(a)は超高圧系の重回帰分析結果を示す図、(b)は標準系の重回帰分析結果を示す図である。
【図23】各検討手法の決定係数一覧を示す図である。
【図24】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ1)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ2)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ3)を示す図である。
【図25】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ4)を示す図である。
【図26】各検討手法の決定係数一覧を示す図である。
【図27】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ1)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ2)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(3分類、クラスタ3)を示す図である。
【図28】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(4分類、クラスタ4)を示す図である。
【図29】(a)は秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(b)は新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(c)は秋田県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(d)は新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図である。
【図30】(a)はクラスタリングなしの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(b)はクラスタリングありの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図である。
【図31】(c)はクラスタリングなしの新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(d)はクラスタリングありの新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(e)はクラスタリングなしの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(f)はクラスタリングありの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(g)はクラスタリングなしの新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(h)はクラスタリングありの新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図である。
【図32】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングなし)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり:1/2)を示す図である。
【図33】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(クラスタリングあり:2/2)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり、1/3)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり、2/3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり、3/3)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングなし)を示す図、(f)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、1/2)を示す図、(g)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、2/2)を示す図である。
【図34】(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準形、クラスタリングあり:1/3)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、2/3)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、3/3)を示す図である。
【図35】鉄塔の腐食速度マップ作成を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0021】
図1は本発明の劣化予測マッピング装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。本発明に係る劣化予測マッピング装置100は、一般的なコンピュータのハードウェア構成と同様に、プログラムに従って順次処理を行うCPU(中央演算処理装置)と、プログラム又は普遍的なデータを格納するROM(読出し専用メモリ)と、一次的にデータを記憶したり、そのデータを読み出してCPUに供給するRAM(随時アクセスメモリ)と、大量のデータを格納するデータベース(DB)4と、キーボード及びマウス等の入力装置によりデータを入力する入力部5と、マッピングデータを表示する出力部6と、各部を接続するバス7と、を備えて構成されている。尚、CPU、ROM、RAMを制御部8とする。また、本発明は、上述した実施形態のみに限定されたものではない。上述した実施形態の劣化予測マッピング装置100を構成する各機能をそれぞれプログラム化し、あらかじめCD−ROM等の記録媒体に書き込んでおき、コンピュータに搭載したCD−ROMドライブのような媒体駆動装置にこのCD−ROM等を装着して、これらのプログラムをコンピュータのメモリあるいは記憶装置に格納し、それを実行することによって、本発明の目的が達成されることは言うまでもない。この場合、記録媒体から読み出されたプログラム自体が上述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体も本発明を構成することになる。
【0022】
従って、重回帰分析手段10は、制御部8に含まれ、ROMに記憶したプログラムに基づいてCPUが演算処理して重回帰分析が行われる。また、重回帰分析手段10の構成は、鉄塔の腐食速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力する説明変数入力手段11(図1の入力部5)と、説明変数入力手段11により入力された説明変数と腐食速度との関係式を構築する関係式構築手段12と、説明変数入力手段11により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する選択変数関係式選択手段13と、説明変数入力手段11により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する非選択変数関係式選択手段14と、選択変数関係式選択手段13及び非選択変数関係式選択手段14のうち評価が高い関係式を選択する関係式選択手段15と、関係式選択手段15により選択された関係式と関係式構築手段12により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証する関係式検証手段16と、を備え、関係式検証手段16で、関係式構築手段12により構築された関係式より関係式選択手段15により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、この関係式で選択した説明変数により再試行を行う。
【0023】
架線金具類の腐食速度の予測に際し使用したデータ(説明変数候補)は、標高、海岸距離の地形因子2種、気温、湿度(2種)、降水量、ぬれ時間(6種)、速度比(3種)、吹上角(3種)、二酸化硫黄濃度、汚損区分の環境因子18種および経過年の合計21種である。まず説明変数として、目的変数との相関係数が比較的高いもの上位幾つかを選択するが、この選択が最善であることは証明できない。また、使用可能なデータの種類が多いことからも、説明変数が最適なものであるかを検証する必要がある。そこで説明変数に不要なものが含まれていないか、また他の説明変数候補にモデル(関係式)を改善できるものがないかを検討する。検討にはStep−wise法を用いる。このStep−wise法は、構築したモデルに対し説明変数の追加/削除を行い、評価が上がらなくなるまで続けるアルゴリズムである。これにより、今回使用できるデータのうち最良のモデルを構築する説明変数の組み合わせを求める。
一般に、架線金具類の腐食速度予測には、各種影響因子(ぬれ時間、硫黄酸化物濃度等)を考慮した重回帰分析が適用される。しかし、目的変数と説明変数間の線形性を前提とする重回帰分析では、腐食現象が持つ特異性からその精度向上が図れない結果も得られている。このため、本発明では非線形分析手法を適用し、相互作用も加味することで精度の高い予測式を構築する。
汚損区分データは6段階の離散値であるが、現実の状況を考えると汚損度(=想定最大塩分付着密度)が離散的に変化するのは不自然である。そこで汚損区分の境界線を等高線に見立て、各区分内の汚損度に傾斜をつけることでより現実に近い連続値とすることを試みた。
【0024】
図2(a)は汚損区分の境界線を等高線と見做した図、(b)は(a)の断面図である。6段階の離散値を「汚損区分.傾斜なし」、連続値としたものを「汚損区分.傾斜あり」と名付けた。両者は本来的に同一のデータであるため、後述の説明変数選別の手順においていずれを採用するか決定することとした。
【0025】
ここで、重回帰分析とは、ある変数y(目的変数と呼ぶ)とそれに影響を及ぼす変数xi(説明変数と呼ぶ)との間の関係式(モデルと呼ぶ)を統計的手法により求めるものである。これにより、各説明変数の寄与の度合いの評価や目的変数の予測が可能となる。
モデルの基本的な求め方は最小二乗法であり、目的変数の観測値と推定値の誤差の二乗平均が最小となるモデルの各係数を求めるものである。求められたモデルは、決定係数により評価される。決定係数とは説明変数が目的変数をどの程度説明できるかを示すものであり、構築したモデルのデータに対する当てはまりの良さを表す。決定係数は1.0に近いほどその当てはまりが良いことを表す。図3(a)は最小二乗法を示す図、(b)は決定概念を示す図である。
決定係数の一般的な定義は以下の通りである。
【0026】
また他にもモデルの選択基準(モデルに用いる説明変数の選択基準)として用いられる係数としてAIC等がある。AICは当てはまりの良さと共にモデルの複雑度(項数)も加味して評価するものであり、値が小さいほどモデルとして良いことを示す。定義式は以下の通りである。
【0027】
重回帰分析は、目的変数の推定誤差が正規分布に従っていることを前提としている。そのため、扱う目的変数が正規分布から大きくずれている場合、正しいモデル(本件の場合腐食速度の予測式)が求められない。
そこで正規分布から大きく外れていると思われるデータをはずれ値として除去し、除去後のデータを以降の検討のインプットとした。具体的には、95%の信頼区間の外にあるものをはずれ値とみなし、除去した。
はずれ値除去前後の目的変数のヒストグラムを図4に示す。図4(a)は、はずれ値除去前、図4(b)は、はずれ値除去後を示す。
今回架線金具類の腐食速度の予測に際し使用できるデータ(説明変数候補)は、標高、海岸距離の地形因子2種、気温、湿度(2種)、降水量、ぬれ時間(6種)、速度比(3種)、吹上角(3種)、二酸化硫黄濃度、汚損区分の環境因子18種および経過年の合計21種である。一般に説明変数を多く用いるほどモデルの当てはまり度は高くなるが、必ずしも全ての説明変数候補を利用することが良いわけではない。従って重回帰分析に利用する説明変数の組み合わせを検討する必要がある。また分析結果に悪影響を及ぼす多重共線性(通称マルチコと呼ばれる)を避ける必要がある。マルチコは非常に高い相関関係にある説明変数を用いることに起因するものであり、マルチコを避ける意味でも説明変数の選別は重要である。
【0028】
上述の理由から、目的変数との単相関係数および説明変数同士の単相関係数から説明変数の選別を行った。予測精度(構築したモデルの当てはまり度)の観点から、利用する説明変数は目的変数との相関が高い(符号不問)ことが望ましいため、相関係数の絶対値の上位5つを説明変数として採用した。またマルチコを避けるため、互いの相関が高い説明変数(絶対値が0.9以上のもの)については相関係数の絶対値が大きい方のみ利用することとした。以下に説明変数選別の手順を示す。
1.目的変数および説明変数候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出する。
2.単相関係数の絶対値が0.9より大きい説明変数候補の取捨選択
単相関係数の絶対値が小さい方を説明変数候補から削除する
3.目的変数との単相関係数の絶対値の降順に説明変数を順位付ける
4.残った説明変数候補のうち3.の順位付けの上位5つを説明変数とする
重回帰分析の限界を把握する上で、上記手順にて選別した5つの説明変数の組み合わせの最適性を検証する必要がある。これについては後述する。
【0029】
図5に上記手順による説明変数選択結果を示す。図中、太枠で囲まれたものが説明変数として選択されたものを示す。また斜線で消されているものはマルチコを避けるために、説明変数候補から外されたことを示す。汚損区分については、連続値に加工したもの「傾斜あり」が選択されている。
前記で選別した説明変数を用いて重回帰分析を実施した結果を図6に示す。目的変数である腐食速度は、上記選択された説明変数(標高、相対湿度、ぬれ時間6、吹上角.西風、経過年数)の線形和で説明されることとなり、偏回帰係数が線形和の各項の重みを表す。したがって、架線金具類の腐食速度は以下の式で説明される。
また重回帰分析時に求まるこの式の決定係数は0.708となった。
上記の結果は、上記で選択した説明変数のみでモデルを構築した結果である。目的変数との相関係数が比較的高いもの上位5つを選択することとしたが、本手法による選択が最善であることは証明できない。また今回使用可能なデータの種類が多いことからも、上記説明変数が最適なものであるかを検証する必要がある。
【0030】
そこで上記説明変数に不要なものが含まれていないか、また他の説明変数候補にモデルを改善できるものがないかを検討する。検討にはStep−wise法を用いる。図7にStep−wise法のアルゴリズム概要を示す。即ち、図2における説明変数入力手段11、関係式構築手段12、選択変数関係式選択手段13、非選択変数関係式選択手段14、関係式選択手段15、及び関係式検証手段16を備えた劣化予測マッピング装置の劣化予測マッピング方法であって、説明変数入力手段11が、架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力して、関係式構築手段12が、説明変数入力手段11により入力された説明変数と腐食速度、及び説明変数と摩耗速度との関係式を構築するステップ(S1)と、選択変数関係式選択手段13が、説明変数入力手段11により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップ(S2)と、非選択変数関係式選択手段14が、説明変数入力手段11により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップ(S3)と、関係式選択手段15が、選択変数関係式選択手段13及び非選択変数関係式選択手段14のうち評価が高い関係式を選択するステップ(S4)と、関係式検証手段16が、関係式選択手段15により選択された関係式と関係式構築手段12により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証するステップ(S5)と、を含み、関係式検証手段16で、関係式構築手段12により構築された関係式より関係式選択手段15により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合(S5でYes)は、この関係式で選択した説明変数により再試行を行う(S6)。
【0031】
図7に示す通り、Step−wise法は、構築したモデルに対し説明変数の追加/削除を行い、評価が上がらなくなるまで続けるアルゴリズムである。したがって本アルゴリズムの適用により、今回使用できるデータのうち最良のモデルを構築する説明変数の組み合わせを求めることができる。なお、モデルの評価にはAICを用いた。
予測式構築に用いる説明変数の選択については、Step−Wise法により、最適な予測式の構築に用いる説明変数の選択を行う仕組みを備えている。従って、劣化に影響を及ぼすと思しき新たな因子が出てきた場合、入力に追加し実行するだけで予測に有用な因子かどうかの判断ができる。さらに各説明変数の相互作用を考慮に入れた。これは例えば環境因子と汚損度や時間が腐食現象に対し相乗効果を及ぼす可能性を想定してのことである。重回帰分析において、相互作用は説明変数の積として表現される。また今回何項の積まで検討した方が良いかについても、同様にStep−wise法を用いて検討した。具体的には、2項の積までを説明変数とした場合、3項の積までを説明変数とした場合と順次説明変数として検討する積の項の次数を上げモデルを構築、評価が上がらなくなる次数を求めた。
【0032】
結果を図8に、Step−wise法の経過の一例を図9に示す。図6と図8の比較より予測式から追加・削除された説明変数があること、相互作用の項が追加されていること、Step−wise法の結果の方が精度が高いことが分かる。これはStep−wise法適用によるモデル検討が有効であることを示す。また図9から本結果が現在使用できるデータから重回帰分析により求めることが出来る最良のモデルであることが分かる。
除かれた説明変数:なし
追加された説明変数:降水量、二酸化硫黄濃度
モデルの決定係数の向上:0.708→0.747
【0033】
また、本発明の実施中、新たな影響因子(塩分に係る因子1〜3)のデータが入手可能となった。
本データは塩分に関するデータであり、塩分は汚損の主要因でもあるため、意味するものが汚損区分データと重複する恐れがある。そこで汚損区分との相関にも配慮しつつ、重回帰分析の説明変数として扱うべきか否かの判断を行う。図10に汚損区分および腐食速度と塩分に係る因子1〜3との単相関係数を示す。
図10から分かる通り、塩分に係る因子1と2は汚損区分と比較的相関がある。しかし単相関係数は0.6〜0.8程度であり、同時に説明変数として扱っても問題ないと思われる。一方、塩分に係る因子1〜3のそれぞれの相関を見ると、塩分に係る因子1と塩分に係る因子3の単相関係数が0.9を超えている。したがってマルチコを生じる恐れがあるため、腐食速度との相関がより高い塩分に係る因子1を採用することとする。
また各データとも腐食速度との単相関係数は低く、より良いモデルの構築への貢献はあまり期待できない。塩分に係る因子1〜3のデータの有効性は、構築したモデルに含まれるか否かで判断することとする。
【0034】
重回帰分析の結果を図11に示す。重回帰分析の手順は前記で述べた手順に従い実施した。図11からわかる通り塩分に係る因子1〜3を追加検討することにより、決定係数が0.747から0.750に向上した。また構築されたモデルに、塩分に係る因子1〜3(塩分に係る因子3)の項が含まれている。以上のことより、塩分に係る因子1〜3を説明変数候補に加えることはモデルの精度向上に有効であることが確認された。
【0035】
以上の結果から、架線金具類の腐食速度予測について、重回帰分析およびその他の非線形手法の適用を検討した。検討の結果、重回帰分析が最適であると判断した。また重回帰分析の実施方針は以下のものが最適であると判断した。
1.塩分に係る因子1〜3も説明変数として用いる。
2.Step−wise法を用いて最適な説明変数の組み合わせを求める。
3.説明変数間の相互作用も検討する。
【0036】
一般に、架線金具類の腐食現象がその領域特有の環境影響(気温、湿度、ぬれ時間等)を受けるため、その予測精度向上には解析領域の細分化(地域別・線路別等)が不可欠となる。しかし、膨大な腐食量調査が必要となることから現実的ではない。そこで必要最小限のデータから最大の効果を発揮するよう、各種クラスタリングの検討による領域最適化とともに現場活用に資するマッピングに係る検討を行った。
【0037】
ファジークラスタリングに対し、曖昧性を一切持たせないクラスタリングをハードクラスタリングと呼ぶ。以下に検討結果について述べる。尚、めっき速度を予測するためのクラスタリング手法では、ハードクラスタリングにこだわらず、県別や海岸からの距離、ファジークラスタリングが良いが、より好ましいのはハードクラスタリングである。
ハードクラスタリングにより分類された各クラスタのサンプル数を以下に示す。ハードクラスタリングについても、分類クラスタの最適な数も併せて検証するため、分類クラスタ数2、3、4について検証した。
[分類クラスタ数:2]
クラスタ1:50件
クラスタ2:186件
[分類クラスタ数:3]
クラスタ1:19件
クラスタ2:166件
クラスタ3:51件
[分類クラスタ数:4]
クラスタ1:50件
クラスタ2:19件
クラスタ3:95件
クラスタ4:72件
【0038】
図12〜図14にハードクラスタリングを用いた重回帰分析結果を示す。図12(a)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ1)を示す図である。図13(a)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ2)を示す図、(b)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:3分類、クラスタ3)を示す図、(c)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ1)を示す図、(d)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ2)を示す図、(e)は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ3)を示す図である。図14は重回帰分析結果(ハードクラスタリング:4分類、クラスタ4)を示す図である。
各種クラスタリングおよび自己組織化マップによる領域最適化について検討した。各手法による領域最適化後、重回帰分析により作成したモデルの決定係数を図15に示す。
【0039】
各手法について全クラスタの決定係数の平均値で比較すると、ハードクラスタリングによる3クラスタに領域分割する方法が最良であった(平均決定係数:0.804)。そこで当該手法で作成したモデルに従い、秋田県、新潟県の腐食速度予測マップを作成した。予測地点は気象データと同様の1km間隔の点とし、各予測地点の所属クラスタは重心が最も近いクラスタとした。
クラスタリングを実施しない(1クラスタ)、2クラスタに分類、3クラスタに分類…と試行していき、全体的に決定係数の向上が見られなくなったところで、試行をやめ、最適なクラスタ数を求める方法を採用した。従って、この方法に従うことで、収集したデータ(もしくは対象とする地域)に適したクラスタ数を求めることができる。
【0040】
しかし前述の決定係数の向上にのみ注目し構築した予測式では、予測結果が負となる、定性的に不自然と思われる箇所が生じる不具合が確認された(図16参照)。図16(a)は秋田県の架線金具類腐食速度予測マップ(調整前)を示す図、(b)は新潟県の架線金具類腐食速度予測マップ(調整前)を示す図である。これは秋田・新潟全域のマップを作成するには非常に限られたデータに強くフィッティングした結果、少数のデータの特徴(もしくは誤差)に引っ張られたことに起因すると思われる。そこで各クラスタについて再度、はずれ値を除去し、大多数のデータにより支持される特徴のみから予測式の構築を行った。
【0041】
図17(a)はクラスタリングなしの秋田県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(b)はクラスタリングありの秋田県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(c)はクラスタリングなしの新潟県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図、(d)はクラスタリングありの新潟県の架線金具類腐食速度予測マップを示す図である。クラスタリングを実施しない場合にも不具合が確認されたため、腐食速度に影響を及ぼしている確率が高い因子のみを採用することとした。具体的には、重回帰分析時に算出される各係数のp値による検定により、当該因子の係数が0でない確率が高いもののみを選別することを行った。
【0042】
図18(a)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングなし)を示す図、(b)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ1)を示す図、(c)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ2)を示す図、(d)は架線金具類腐食速度予測モデル(クラスタリングあり:3分類、クラスタ3)を示す図である。
クラスタリングを実施しない場合、標高に強く影響を受けたマップとなった。その結果、内陸部の標高が高い箇所にAの領域(腐食速度が0.0に近い)が広がっている。腐食の主要因が塩分に係る因子であるとしても、内陸部で全く腐食が進まないというのは不自然である。一方クラスタリングを施す場合、海岸からの距離が近い領域では比較的腐食速度が速く、海岸距離が大きい領域では腐食速度がなだらかに変化するマップとなっている。さらに河川等の影響があると思われる領域では、海岸距離が同程度の他の領域よりも腐食速度が速くなっている。これらのことから、クラスタリングを施したマップの方が局所的な特徴を捉えつつ大局的にも整合性の取れたマップとなっていると判断でき、領域最適化(ハードクラスタリング)の有効性が確認できた。
【0043】
一般に、架線金具類の摩耗速度予測には各種影響因子(荷重径間、速度比等)を考慮した重回帰分析が適用される。しかし、関係の線形性を前提とする重回帰分析では、摩耗現象が持つ特異性からその精度向上が図れない事象も発生している。このため、重回帰分析による精度向上の限界把握と非線形分析手法の適用可能性について検討し、摩耗速度予測の精度向上を図る。
今回摩耗速度予測に使用するデータは、摩耗量調査データであり超高圧系と標準系の2種類である。図19に摩耗量調査データ(=腐食速度)のヒストグラムを示す。グラフが双峰となっており、値が大きい方の山が超高圧系、小さいほうが標準系という分布になっていた。そこで超高圧系と標準系は異なるデータとして扱うこととした。
【0044】
前述の通り、超高圧系と標準系は別データとして扱うこととした。したがってそれぞれについて、重回帰分析の精度向上について検討した。検討内容および手順は腐食速度と同様である。
腐食速度予測の場合と同様に、95%信頼区間外のデータをはずれ値として除去することとした。また超高圧系のデータは非常に数が少ないため、はずれ値の除去は行わないこととした。
【0045】
図20(a)は超高圧系のヒストグラムを示す図、(b)は標準系のヒストグラムを示す図である。
今回架線金具類の摩耗速度の予測に際し利用できるデータ(説明変数候補)は、標高、海岸距離の地形因子2種、連続係数(3種)、径間長(2種)、荷重径間、前後径間長差、前後径間長比、支持点高低差、tanδ(3種)、地線/下腕金地上高、地線/下腕金標高、重量荷重径間、連続係数荷重径間、連続係数径間平均、電線サイズ(2種)、電線重量(3種)の鉄塔諸元(22種)、速度比(3種)、吹上角(3種)の環境因子6種および経過年数の合計31種である。
【0046】
図21(a)は超高圧系の説明変数の選別を説明する図、(b)は標準系の説明変数の選別を説明する図である。図中、太枠で囲まれたものが説明変数として選択されたものを示す。また斜線で消されているものはマルチコを避けるために、説明変数候補から外されたことを示す。
【0047】
超高圧系の重回帰分析の結果を図22(a)に示す。相互作用も加味したStep−wise法による検討まで実施した結果である。また、標準系の重回帰分析の結果を図22(b)に示す。相互作用も加味したStep−wise法による検討まで実施した結果である。
架線金具類の摩耗速度予測について、重回帰分析およびその他の非線形手法の適用を検討した。検討の結果、重回帰分析が最適であると判断した。また重回帰分析の実施方針は以下のものが最適であると判断した。
1.超高圧系と標準系それぞれのモデルを構築する。
2.塩分に係る因子も説明変数として用いる。
3.Step−wise法を用いて最適な説明変数の組み合わせを求める。
4.説明変数間の相互作用も検討する。
【0048】
一般に、架線金具類の摩耗現象はその設備(荷重径間、高低差等)の影響が大きいため、摩耗量調査結果から得られた摩耗速度予測式は、当該地点の予測値のみを与える。この予測された点情報をもとに平面情報へ展開し、効果的なマッピングを行うため、マッピングに資する影響因子の抽出と点面展開手法について検討した。
これまでの検討で、架線金具類の摩耗速度予測には重回帰分析が適していることが分かった。また後述するが、摩耗速度予測結果の点面展開には限られた点の予測値を空間的に展開していく補完法等の手法は用いず、重回帰分析の説明変数に制限を設けることで鉄塔所在地以外でも予測可能なモデルの構築を行う。よってマッピングに資する影響因子とは、モデルの説明変数である。
架線金具類の摩耗現象はその設備の影響が大きい。しかし一方で設備の所在地は限られており、その分布には偏りがある。
点面展開の方法として補完法があるが、この手法ではサンプル点(本件では摩耗速度予測が可能な地点すなわち設備所在地を意味する)が面展開したい領域に均等に分布していることを前提としている。サンプル点の分布に偏りがある場合でも補完法のよる点面展開は可能であるが、補完法の基本的な考え方「近傍のサンプル点との距離による加重平均」では、精度良い点面展開ができない。
【0049】
そこで、設備に関するデータ(鉄塔諸元)以外のデータからモデルを構築することとした。鉄塔諸元データを用いないモデルであれば、摩耗速度予測が設備の所在地に限られないため、全域で予測可能となる。よって鉄塔諸元データを用いないモデル構築を点面展開の代替手法として検討した。検討の結果、高い決定係数を実現でき、鉄塔諸元以外のデータからモデルを構築する手法は点面展開の代替手法として問題ないと判断した。ハードクラスタリングによる領域最適化の検討と併せて実施したため、結果詳細は次に示す。
以下に鉄塔諸元データ以外のデータについて実施した、分類数が2〜4のハードクラスタリングによる領域最適化の検討結果を述べる。
検討の結果、ハードクラスタリングにより3クラスタに分類した場合が最良であった。図23に各検討した手法の決定係数を示す。図24(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:3分類、クラスタ1)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:3分類、クラスタ2)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:3分類、クラスタ3)を示す図である。
【0050】
図25(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:4分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:4分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:4分類、クラスタ3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:4分類、クラスタ4)を示す図である。
検討の結果、ハードクラスタリングにより3クラスタに分類した場合が最良であった。図26に各検討した手法の決定係数を示す。図27(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:3分類、クラスタ1)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:3分類、クラスタ2)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:3分類、クラスタ3)を示す図である。
【0051】
図28(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:4分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:4分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:4分類、クラスタ3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:4分類、クラスタ4)を示す図である。
マッピングに資する影響因子、効果的な点面展開手法およびハードクラスタリングによる領域最適化について検討した。超高圧系、標準系とも鉄塔諸元以外のデータを用いた重回帰分析を効果的な点面展開手法の代替案として採用することとした。したがってマッピングに資する影響因子は、摩耗速度予測マップの作成に使用される因子、すなわち重回帰分析により構築されたモデルに含まれる説明変数となる。
全クラスタの決定係数の平均をその手法の決定係数として評価すると、ハードクラスタリングにより3クラスタに領域分割する方法が最良であった。そこで当該手法で作成したモデルに従い、秋田県、新潟県の腐食速度予測マップを作成した。予測地点は気象データと同様の1km間隔の点とし、各予測値点の所属クラスタは重心が最も近いクラスタとした。
【0052】
図29(a)は秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(b)は新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(c)は秋田県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図、(d)は新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップ(調整前)を示す図である。しかし摩耗についても、腐食と同様に決定係数の向上にのみ注視した方法で構築した予測式では、負の予測値や定性的に不自然と思われる箇所が生じる不具合が生じた(図29参照。負の予測値は白で表示)。不具合の発生箇所が非常に海岸に近い領域や内陸部の奥部であることから、今回使用したデータに強くフィッティングした結果、それらのデータの傾向から外れたデータについて極端な予測値が出る等の歪が生じたものと考えられる。その他、線路毎に経過年が異なっている上に各線路の経過年数のデータが1、2種程度であることによる弊害も見られた。同一地点もしくは局所領域に異なる経過年数のデータが乏しいため、地域特性と時間特性による影響を区別できないことがその一例である。今回は下記の調整の際に必要に応じ配慮することで対応したが、今後は地域および経過時間のバリエーションに富むデータを使用できるようになることにも期待したい。
【0053】
上述の不具合対応のため、摩耗についてもはずれ値の厳密な除去やp値の検定による尤度の高い因子のみからの式の構築を実施し、マップを作成した。はずれ値除去後は、クラスタリングについては2分類の方が3分類よりも決定係数が良かったため、2分類のものを採用した。図30(a)はクラスタリングなしの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(b)はクラスタリングありの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図である。図31(c)はクラスタリングなしの新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(d)はクラスタリングありの新潟県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(e)はクラスタリングなしの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(f)はクラスタリングありの秋田県の超高圧系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(g)はクラスタリングなしの新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図、(h)はクラスタリングありの新潟県の標準系架線金具類摩耗速度予測マップを示す図である。領域最適化の効果確認のため、クラスタリングを実施しない場合のマップも併せて示す。
【0054】
また図32(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングなし)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり:1/2)を示す図である。図33(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(クラスタリングあり:2/2)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり、1/3)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、ハードクラスタリングあり、2/3)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系、クラスタリングあり、3/3)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングなし)を示す図、(f)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、1/2)を示す図、(g)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、2/2)を示す図である。図34(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準形、クラスタリングあり:1/3)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、2/3)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系、クラスタリングあり、3/3)を示す図である。
【0055】
クラスタリングの有無に関わらず、負の予測値となる箇所が残っている。また超高圧系のマップでは、クラスタリングを実施した場合、内陸部の一部に非常に摩耗速度が遅い領域(Aの領域)が生じている。これは不自然にも思えるが、データを詳細に見ると高い標高に位置し摩耗速度が非常に小さい鉄塔からなるクラスタに対応していることが分かった。したがってこの結果は、数値データとして見る限りにおいては不自然ではないと言える。しかし定性的には不自然と思われるため、可能であれば今後実計測データとの比較等による検証や十分な量のデータを用いたモデル構築が望まれる。
標準系のマップについては、クラスタリングを実施しない方が、粗が目立たない結果となった。しかし海岸距離に強く影響を受けている形となっており、その他の要因等の局所的な影響は無視されているようにも見える。したがって超高圧系と同様に実測データとの比較による検証や十分なデータからのモデル構築を実施することが望まれる。
全体的に見て腐食速度に比べ、負の予測値や局所的に急峻な変化等が見られ粗が目立つマップとなった。これは今回使用できる金具のデータ数が非常に少ないこと、また使用可能なデータの中に秋田・新潟県内の鉄塔がほとんど含まれていなかったことが原因と思われる。しかし現実には限られたデータからの予測の必要がある。そこで既設の鉄塔に限定されるが、鉄塔諸元を用いた予測式(図22参照)から鉄塔単位で摩耗速度を予測することを試行した。
【0056】
架線金具類の経年劣化(=腐食速度)の予測とマッピングに係る検討を実施した。以下に結果をまとめる。
1.架線金具類の腐食速度予測に関する検討
a.重回帰分析の精度向上(影響因子最適化等)とその限界把握
単相関係数を参考にした説明変数の選択からStep−wise法による説明変数の最適組み合わせの探索を行った。また説明変数の積として表現される相互作用も加味した検討を行った。
検討の結果、Step−wise法および相互作用の検討が有用であることが確認された。
b.塩分に係る因子の追加による精度向上検討
新たに入手可能となった影響因子(塩分に係る因子)の追加検討による精度向上について検討した。既に使用している汚損区分データとの重複(汚損区分との高い相関)が懸念されたが、同時に説明変数として扱っても問題ない程度の相関であった。また腐食速度との相関も他の説明変数候補に比較しやや高く、精度向上に貢献できることが確認できた。
以上のことから、鉄塔の腐食速度予測手法として以下の方針が最適であると判断した。 ・Step−wise法による重回帰分析を採用する
・説明変数の相互作用(積の項)も検討する
・塩分に係る因子も説明変数として考慮する
【0057】
2.腐食領域最適化とマッピングに関する検討
c.ハードクラスタリングによる領域最適化
ハードクラスタリングについても、ファジークラスタリング同様、最適分類数の検討まで行った。同様に2〜4まで分類数を変えモデルを構築した結果、分類数3の場合が決定係数が最大となった。したがってハードクラスタリングの場合、最適分類数は3であると判断した。また決定係数も本研究で実施した全ての手法の中で最良であった。
以上のことから、領域最適化の手法として以下のものが最適であると判断した。またその結果構築したモデルに従い、秋田県および新潟県の腐食速度予測マップを作成した。
・ハードクラスタリングによる3クラスタへの分類
【0058】
3.架線金具類の摩耗速度予測に関する検討
d.重回帰分析の精度向上(影響因子最適化等)とその限界把握
目的変数である摩耗速度の分布から、超高圧系と標準系は分けて扱うこととした。したがってそれぞれでモデルを構築する。単相関係数を参考にした説明変数の選択からStep−wise法による説明変数の最適組み合わせの探索を行った。また説明変数の積として表現される相互作用も加味した検討を行った。
検討の結果、超高圧系、標準系ともStep−wise法および相互作用の検討が有効であることが確認された。
【0059】
4.摩耗領域最適化とマッピングに関する検討
e.マッピングに資する影響因子の検討
架線金具類の摩耗速度予測には重回帰分析が適していることが分かった。点面展開手法の代替手法として、鉄塔諸元以外のデータから重回帰分析により構築したモデルによる予測を採用することとした。これは予測したい領域に比べデータ数が非常に少なくまた偏りがあることから、点面展開では対応しきれないと判断したためである。鉄塔諸元を使用しない場合、鉄塔の所在に関わらず予測が可能となるため、モデルから直接(点面展開等の処理を行わず)マッピングが可能となる。したがってマッピングに資する影響因子とは、マッピングに使用する因子、すなわち当該モデルの説明変数である。
f.効果的な点面展開手法の検討
使用可能なデータは既設の鉄塔に関するものであるが故、その分布に非常に偏りがある。そのため、鉄塔諸元以外のデータから予測可能なモデルの構築を検討した。検討の結果、当該モデルでも問題ないことが確認された。
g.ハードクラスタリングによる領域最適化
摩耗速度についても、腐食速度同様、最適分類数の検討まで行った。2〜4まで分類数を変えモデルを構築した結果、分類数3の場合が決定係数が最大となった。したがって、最適分類数は3であると判断した。
【0060】
以上のことから、摩耗速度予測のマッピング手法として鉄塔諸元以外のデータからモデルを構築する手法が良いと判断した。また領域最適化については、ハードクラスタリングによる3クラスタへの分類が最適である。ただし、過度のフィッティングを和らげる等の目的で更なるはずれ値の除去やp値の考慮等を行う場合には、分類数については適宜変更した方が良い場合がある。
【0061】
図35は、腐食速度予測マップ作成フローを示す図である。
まず、3クラスに分類したハードクラスタリングを行う(S10)。クラスタ毎に説明変数を選別するために、目的変数との相関上位5つを選別する(S11)。そのとき、説明変数同士の相関が高いものは、目的変数との相関が一番高いもの1つを残しその他は削除する。次に、選別された説明変数によるモデルを構築する。このとき各クラス毎にモデルを構築する(S12)。次に、各モデルをStep−wise法により更新する(S13)。次に予測地点の所属クラスタを決定する。このとき、各クラスタの重心からの距離により決定する(S14)。次に所属クラスタのモデルに従って予測する(S15)。そして、その予測値をGIS(Geographic Information System:文字や数値データ等を地図と結び付けて管理・分析・表示するシステム)に載せてマッピング化する(S16)。
【符号の説明】
【0062】
4 DB、5 入力部、6 出力部、7 バス、8 制御部、10 重回帰分析手段、11 説明変数入力手段、12 関係式構築手段、13 選択変数関係式選択手段、14 非選択変数関係式選択手段、15 関係式選択手段、16 関係式検証手段、100 劣化予測マッピング装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重回帰分析手段により複数の鉄塔の架線金具類に係る腐食速度及び摩耗速度を夫々予測し、該予測の結果をマッピング化して表示する架線金具類の劣化予測マッピング装置であって、
前記重回帰分析手段は、プログラムに従って順次処理を行う中央処理装置と、前記プログラム及びデータを格納する読出し専用メモリと、一次的にデータを記憶し、該記憶したデータを読み出して前記中央処理装置に供給する随時アクセスメモリと、を有する制御部に含まれ、
前記架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力する説明変数入力手段と、
該説明変数入力手段により入力された説明変数と前記腐食速度、及び該説明変数と摩耗速度との関係式を構築する関係式構築手段と、
前記説明変数入力手段により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する選択変数関係式選択手段と、
前記説明変数入力手段により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する非選択変数関係式選択手段と、
前記選択変数関係式選択手段及び前記非選択変数関係式選択手段のうち評価が高い関係式を選択する関係式選択手段と、
前記関係式選択手段により選択された関係式と前記関係式構築手段により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証する関係式検証手段と、を備え、
前記関係式検証手段で、前記関係式構築手段により構築された関係式より前記関係式選択手段により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、該関係式で選択した説明変数により再試行を行うことを特徴とする架線金具類の劣化予測マッピング装置。
【請求項2】
説明変数入力手段、関係式構築手段、選択変数関係式選択手段、非選択変数関係式選択手段、関係式選択手段、及び関係式検証手段を備え、重回帰分析手段により複数の鉄塔の架線金具類に係る腐食速度及び摩耗速度を夫々予測し、該予測の結果をマッピング化して表示する架線金具類の劣化予測マッピング装置の劣化予測マッピング方法であって、
前記説明変数入力手段が、前記架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力するステップと、
前記関係式構築手段が、前記説明変数入力手段により入力された説明変数と前記腐食速度、及び該説明変数と前記摩耗速度との関係式を構築するステップと、
前記選択変数関係式選択手段が、前記説明変数入力手段により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップと、
前記非選択変数関係式選択手段が、前記説明変数入力手段により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップと、
前記関係式選択手段が、前記選択変数関係式選択手段及び前記非選択変数関係式選択手段のうち評価が高い関係式を選択するステップと、
前記関係式検証手段が、前記関係式選択手段により選択された関係式と前記関係式構築手段により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証するステップから成り、
前記関係式検証手段で、前記関係式構築手段により構築された関係式より前記関係式選択手段により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、該関係式で選択した説明変数により再試行を行うことを特徴とする架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項3】
前記説明変数入力手段により入力する説明変数を選別する手順は、前記目的変数及び前記説明変数の候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出し、該単相関係数の絶対値が小さい方を前記説明変数候補から削除し、前記目的変数との単相関係数の絶対値の降順に前記説明変数を順位付け、残った前記説明変数候補のうち前記順位付けにより順位付けされた上位の所定数を説明変数とすることを特徴とする請求項2に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項4】
前記説明変数入力手段は、腐食の主要因の1つである塩分による汚損の度合いを示す汚損区分データを前記説明変数に含ませ、該汚損区分の境界線を等高線と見做して、各区分内の汚損度に傾斜を設けて連続値としたことを特徴とする請求項2又は3に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項5】
前記重回帰分析において、前記環境因子と前記汚損度及び時間が腐食現象に対して相乗効果を及ぼす相互作用は、前記説明変数の積として表現することを特徴とする請求項2乃至4の何れか一項に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項6】
前記架線金具類の腐食現象が、該架線金具類が配置された領域に特有の環境影響を受けるため、該領域をいくつかの部分集合に分類するクラスタリングにより前記領域の最適化を行うことを特徴とする請求項2乃至5の何れか一項に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項7】
前記クラスタリングにおいて、クラスタ数を変えながら関係式の構築・評価を行うことで最適な領域分割数を求めることを特徴とする請求項6に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項8】
前記予測の結果をマッピング化する手順は、前記クラスタリングにより前記領域を最適な数の部分集合に分類し、該部分集合ごとに前記説明変数を選別して該説明変数による関係式を構築し、構築した各関係式を前記重回帰分析により更新し、予測地点の部分集合を決定し、決定した部分集合の関係式に従って予測し、予測した値に基づいて表示部にマッピングすることを特徴とする請求項2乃至7の何れか一項に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項1】
重回帰分析手段により複数の鉄塔の架線金具類に係る腐食速度及び摩耗速度を夫々予測し、該予測の結果をマッピング化して表示する架線金具類の劣化予測マッピング装置であって、
前記重回帰分析手段は、プログラムに従って順次処理を行う中央処理装置と、前記プログラム及びデータを格納する読出し専用メモリと、一次的にデータを記憶し、該記憶したデータを読み出して前記中央処理装置に供給する随時アクセスメモリと、を有する制御部に含まれ、
前記架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力する説明変数入力手段と、
該説明変数入力手段により入力された説明変数と前記腐食速度、及び該説明変数と摩耗速度との関係式を構築する関係式構築手段と、
前記説明変数入力手段により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する選択変数関係式選択手段と、
前記説明変数入力手段により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する非選択変数関係式選択手段と、
前記選択変数関係式選択手段及び前記非選択変数関係式選択手段のうち評価が高い関係式を選択する関係式選択手段と、
前記関係式選択手段により選択された関係式と前記関係式構築手段により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証する関係式検証手段と、を備え、
前記関係式検証手段で、前記関係式構築手段により構築された関係式より前記関係式選択手段により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、該関係式で選択した説明変数により再試行を行うことを特徴とする架線金具類の劣化予測マッピング装置。
【請求項2】
説明変数入力手段、関係式構築手段、選択変数関係式選択手段、非選択変数関係式選択手段、関係式選択手段、及び関係式検証手段を備え、重回帰分析手段により複数の鉄塔の架線金具類に係る腐食速度及び摩耗速度を夫々予測し、該予測の結果をマッピング化して表示する架線金具類の劣化予測マッピング装置の劣化予測マッピング方法であって、
前記説明変数入力手段が、前記架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力するステップと、
前記関係式構築手段が、前記説明変数入力手段により入力された説明変数と前記腐食速度、及び該説明変数と前記摩耗速度との関係式を構築するステップと、
前記選択変数関係式選択手段が、前記説明変数入力手段により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップと、
前記非選択変数関係式選択手段が、前記説明変数入力手段により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップと、
前記関係式選択手段が、前記選択変数関係式選択手段及び前記非選択変数関係式選択手段のうち評価が高い関係式を選択するステップと、
前記関係式検証手段が、前記関係式選択手段により選択された関係式と前記関係式構築手段により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証するステップから成り、
前記関係式検証手段で、前記関係式構築手段により構築された関係式より前記関係式選択手段により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、該関係式で選択した説明変数により再試行を行うことを特徴とする架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項3】
前記説明変数入力手段により入力する説明変数を選別する手順は、前記目的変数及び前記説明変数の候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出し、該単相関係数の絶対値が小さい方を前記説明変数候補から削除し、前記目的変数との単相関係数の絶対値の降順に前記説明変数を順位付け、残った前記説明変数候補のうち前記順位付けにより順位付けされた上位の所定数を説明変数とすることを特徴とする請求項2に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項4】
前記説明変数入力手段は、腐食の主要因の1つである塩分による汚損の度合いを示す汚損区分データを前記説明変数に含ませ、該汚損区分の境界線を等高線と見做して、各区分内の汚損度に傾斜を設けて連続値としたことを特徴とする請求項2又は3に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項5】
前記重回帰分析において、前記環境因子と前記汚損度及び時間が腐食現象に対して相乗効果を及ぼす相互作用は、前記説明変数の積として表現することを特徴とする請求項2乃至4の何れか一項に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項6】
前記架線金具類の腐食現象が、該架線金具類が配置された領域に特有の環境影響を受けるため、該領域をいくつかの部分集合に分類するクラスタリングにより前記領域の最適化を行うことを特徴とする請求項2乃至5の何れか一項に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項7】
前記クラスタリングにおいて、クラスタ数を変えながら関係式の構築・評価を行うことで最適な領域分割数を求めることを特徴とする請求項6に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【請求項8】
前記予測の結果をマッピング化する手順は、前記クラスタリングにより前記領域を最適な数の部分集合に分類し、該部分集合ごとに前記説明変数を選別して該説明変数による関係式を構築し、構築した各関係式を前記重回帰分析により更新し、予測地点の部分集合を決定し、決定した部分集合の関係式に従って予測し、予測した値に基づいて表示部にマッピングすることを特徴とする請求項2乃至7の何れか一項に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【公開番号】特開2012−13674(P2012−13674A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274021(P2010−274021)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(591280197)株式会社構造計画研究所 (59)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(591280197)株式会社構造計画研究所 (59)
【Fターム(参考)】
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