説明

架線金具

【課題】金具表面を防食処理することによって寿命延伸を図ることができる架線金具を提供する。
【解決手段】溶融亜鉛めっき層11は、架線金具9の金具表面の腐食を防止する金属めっき層である。腐食防止層12は、架線金具9の金具表面の溶融亜鉛めっき層11の表面に塗布されて、この溶融亜鉛めっき層11の表面に密着しこの溶融亜鉛めっき層11の腐食を防止する塗膜である。腐食防止層12は、錆層に容易に浸透して錆層を固着化する錆転換型の防食塗料を塗布して形成されるプライマ層である。耐候性向上層13は、腐食防止層12の表面に塗布されて、高電圧下で導電性を有するとともにこの腐食防止層12の耐候性を向上させる塗膜である。耐候性向上層13は、塗膜表面の硬度(機械的強度)を向上させて傷つき防止効果を図るトップコート層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金具表面が防食処理されている架線金具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の架線金具は、鉄系金属材の金具本体を純亜鉛中に浸漬した後に、アルミニウムを含有する亜鉛合金中に浸漬し、この金具本体の表面に金属めっき層を形成している(例えば、特許文献1参照)。このような従来の架線金具は、金属めっき層によって鉄系金属材の金具本体の表面を保護し、鉄系金属材の腐食を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-204334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の架線金具は、金具表面の材質が亜鉛めっき鋼で形成されているため、塩害地区での使用によって経年とともに金具表面の腐食が進み、この金具表面が損傷して寿命が著しく短くなる。このため、従来の架線金具は、長期間の架設や重塩害地域での使用によって、金具表面から腐食生成物である鉄錆が流れ出し、この腐食生成物が導電物質として機能するため、絶縁体としての性能が低下してしまう問題点がある。
【0005】
この発明の課題は、金具表面を防食処理することによって寿命延伸を図ることができる架線金具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図3に示すように、金具表面が防食処理されている架線金具であって、前記金具表面の溶融亜鉛めっき層(11)の表面に塗装されて、この溶融亜鉛めっき層の表面に密着しこの亜鉛めっき層の表面の腐食を防止する腐食防止層(12)と、前記腐食防止層の表面に塗装されて、高電圧下で導電性を有するとともにこの腐食防止層の耐候性を向上させる耐候性向上層(13)とを備える架線金具(8A,8B)である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の架線金具において、前記耐候性向上層は、導電性金属フレーク含有塗料を塗布して形成されていることを特徴とする架線金具である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の架線金具において、前記腐食防止層は、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料又はアクリル樹脂塗料を塗布して形成されていることを特徴とする架線金具である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の架線金具において、図2に示すように、取付対象物(5)に着脱自在に装着可能な分割構造を有し、この取付対象物を挟み込む第1及び第2の挟持片(9a,9b)を備え、前記第1及び前記第2の挟持片は、これらを分離可能に締結する締結ボルト(10a)を挿入する挿入孔(9c,9d)を有することを特徴とする架線金具である。
【発明の効果】
【0010】
この発明によると、金具表面を防食処理することにより寿命延伸を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施形態に係る架線金具の使用状態を一例として示す概略図である。
【図2】この発明の実施例に係る架線金具の外観図であり、(A)は正面図であり、(B)は平面図であり、(C)は左側面図であり、(D)は背面図である。
【図3】この発明の実施形態に係る架線金具の一部を拡大して模式的に示す部分断面図である。
【図4】この発明の実施例及び比較例1〜3に係る架線金具の課電暴露試験前後の絶縁抵抗の測定結果を示すグラフである。
【図5】比較例4に係る架線金具の課電暴露試験前後の絶縁抵抗の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1に示すトンネル1は、山腹などの地中を貫通して列車を通過させるための固定構造物(土木構造物)である。図1に示すトンネル1は、列車が走行する線路を一つの固定構造物内に収容する単線用の鉄道トンネル(単線トンネル)である。トンネル1は、このトンネル1の上半分を形成する半円状のアーチ部1aなどを備えている。
【0013】
架線2は、線路上空に設置される架空電車線である。架線2は、電気機関車又は電車などの電気車の集電装置(パンタグラフ)のすり板が摺動することによってこの電気車に負荷電流を供給するトロリ線2aと、このトロリ線2aの重量による弛み(弛度)が小さくなるようにこのトロリ線2aを支持するちょう架線2bと、き電用変電所からトロリ線2aに電力を供給するき電線2cなどを備えている。
【0014】
支持装置3は、架線2を支持する装置である。図1に示す支持装置3は、トンネル1のアーチ部1aに取り付けられておりこのトンネル1内で架線2を支持するトンネル内電車線支持装置である。支持装置3は、曲線引金具4と、水平支柱5と、保護カバー6と、がいし7と、支持金具8A,8Bと、架線金具9などを備えている。
【0015】
曲線引金具4は、架線2のトロリ線2aを正規の位置に保持する部材であり、トロリ線2aの上部を把持するイヤーなどを先端部で支持している。水平支柱5は、架線2及び曲線引金具4を支持する部材である。水平支柱5は、例えば、芯材の表面を繊維強化プラスチック(FRP)によって被覆した被覆管又は一般構造用炭素鋼鋼管などからなる絶縁水平主材(絶縁水平パイプ)である。保護カバー6は、水平支柱5の表面を保護する部材である。保護カバー6は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂製の筒状部材であり、がいし7の金具部7cに水平支柱5が支持される箇所と、支持金具8A,8Bをこの水平支柱5が支持する箇所とに嵌め込まれて装着されている。がいし7は、電気導体を絶縁して支持する部材である。がいし7は、トンネル1によって架線2を支持するときにこのトンネル1と架線2との間を電気的に絶縁する絶縁体である。図1に示すがいし7は、水平支柱5をトンネル1によって支持するときに使用される絶縁用の電車線路用がいしの一種である支持がいしである。がいし7は、硬質な磁器製の絶縁体の表面に釉薬を施して形成された本体部(磁器部)7aと、この本体部7aの頭部外面に接合されて支持物に連結される金具部(キャップ金具)7bと、本体部7aの頭部内面に接合されて支持物に連結される金具部(ピン金具)7cと、金具部7bと金具部7cとを連結するベース金具部7dなどを備えている。支持金具8Aは、曲線引金具4を支持する金具であり、支持金具8Bは架線2のちょう架線2b及びき電線2cを支持する金具である。支持金具8Aは、トロリ線2aを把持する側とは反対側の曲線引金具4の端部(上端部)を上下方向に揺動自在に支持するアーム支持金具であり、上端部が架線金具9に固定されており、下端部が曲線引金具4に連結されている。支持金具8Bは、ちょう架線2b及びき電線2cを保持するき電/ちょう架線支持金具であり、ちょう架線2b及びき電線2cの外周面との間に間隙部が形成されるようにちょう架線2b及びき電線2cを支持する。支持金具8A,8Bは、例えば、一般構造用圧延鋼材などであり、表面に溶融亜鉛めっき層11などの金属めっき層が形成されている。
【0016】
図1及び図2に示す架線金具9は、電車線路に使用される種々の金具である。架線金具9は、金具表面が防食処理されている耐食性電車線金具であり、電路設備として使用される場合には、直流電圧では1500V、交流電圧では20〜25kVの高電圧下で使用される。架線金具9は、図1に示すように、支持金具8A,8Bを水平支柱5に取り付けるためのパイプバンド類などの電車線金具であり支持装置3の一部を構成し、図2に示すように分離可能な2ピース構造である。架線金具9は、図2に示すように、挟持片9a,9bと挿入孔9c,9dなどを備えている。挟持片9a,9bは、水平支柱5に着脱自在に装着可能な分割構造を有し、この水平支柱5を挟み込む部材である。挟持片9a,9bは、いずれも略同一構造であり、外観が略長方形状の板状部材であり、断面が略U字状に形成されている。挟持片9a,9bは、例えば、一般構造用圧延鋼材などであり、長さ方向の中央部が水平支柱5の外周面に沿って外側に湾曲している。挟持片9a,9bは、図1に示す支持金具8A,8Bが外側表面に溶接などによって固定されている。挿入孔9c,9dは、連結部材10の締結ボルト10aを挿入する部分である。挿入孔9cは、挟持片9aの一方の端部寄りと他方の端部寄りにそれぞれ等間隔で2つ形成されている四角形状の貫通孔(角孔)である。一方、挿入孔9dは、挟持片9bの一方の端部寄りと他方の端部寄りに挿入孔9cと対向する位置にそれぞれ等間隔で2つ形成されている円形状の貫通孔(丸孔)である。架線金具9は、図2に示す連結部材10と、図3に示す溶融亜鉛めっき層11と、腐食防止層12と、耐候性向上層13などを備えている。
【0017】
図2に示す連結部材10は、架線金具9の挟持片9aと挟持片9bとを着脱自在に連結する部材である。連結部材10は、図2に示すように、締結ボルト10aと、ナット10b,10cと、割りピン10dと、座金10eなどを備えている。締結ボルト10aは、挟持片9aと挟持片9bとを分離可能に締結する部材である。締結ボルト10aは、水平支柱5及び保護カバー6を挟持片9aと挟持片9bとの間に挟み込んだ状態で、挟持片9a,9bに装着される。締結ボルト10aは、例えば、挿入孔9cと嵌合する断面形状が四角形の角部10fと、挿入孔9dに挿入される雄ねじ部10gと、この雄ねじ部10gを貫通する貫通孔10hとを有するステンレス製の角根丸頭ボルトである。ナット10b,10cは、締結ボルト10aの雄ねじ部10gに装着される部材である。割りピン10dは、ナット10b,10cの脱落を防止する部材であり、締結ボルト10aの雄ねじ部10gの貫通孔10hに差し込まれる。座金10eは、ナット10bと挟持片9bとの間に挿入される部材である。座金10eは、締結ボルト10aに対してナット10bを回転させたときに、ナット10bのナット底面の角部が挟持片9a,9bの表面の塗膜に当たりこの塗膜が傷つくのを防止する。
【0018】
図3に示す溶融亜鉛めっき層11は、架線金具9の金具表面の腐食を防止する金属めっき層である。溶融亜鉛めっき層11は、例えば、金具表面の耐食性を向上させるために、溶融亜鉛浴中に素材金属である架線金具9を直接浸漬して、この架線金具9の表面に亜鉛被覆層を形成する溶融亜鉛めっき法によって形成されている。溶融亜鉛めっき層11は、例えば、付着量が500g/m2以上になるように、架線金具9の全面に形成されており、挿入孔9c,9dの内周面にも形成されている。
【0019】
腐食防止層12は、架線金具9の溶融亜鉛めっき層11の表面に塗布されて、この溶融亜鉛めっき層11の表面に密着しこの溶融亜鉛めっき層11の腐食を防止する塗膜である。腐食防止層12は、錆層に容易に浸透して錆層を固着化する錆転換型の防食塗料を塗布して形成されるプライマ層である。腐食防止層12は、例えば、高分子キレート剤作用によって化学的に安定な無機/有機結合体の防食皮膜を形成し、同時に赤錆層を非晶質錆に変換する防食タイプの錆止め塗料(錆面防食プライマ)を塗布して形成される。腐食防止層12は、金属素材である溶融亜鉛めっき層11の表面に溶剤型一液性のエポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料又はアクリル樹脂塗料を塗布して形成されている。腐食防止層12は、耐食性と絶縁性の両性能の保持から30μm以上の膜厚が確保されていることが望ましく、膜厚が60μmを超えると塗膜の可撓性が上がり、上塗り塗膜表面硬度との相関性が必要であるため、膜厚が30〜60μmの範囲内になるように塗布されて形成されている。腐食防止層12は、溶剤一液型変性エポキシ樹脂塗料の希釈率が15%を下回ると当該材料のレベリング性が下がるため、めっき層表面への馴染み性能及び錆層への浸透性が必須条件であり、希釈率が40%を超えると要求膜厚減になり、性能発揮のための膜厚確保が困難になるため、希釈量が15〜40%の範囲内になるように塗布され形成されている。
【0020】
耐候性向上層13は、腐食防止層12の表面に塗布されて、高電圧下で導電性を有するとともにこの腐食防止層12の耐候性を向上させる塗膜である。耐候性向上層13は、塗膜表面の硬度(機械的強度)を向上させて傷つき防止効果を図るトップコート層である。耐候性向上層13は、例えば、腐食性物質を遮断し長期的な耐食性及び耐薬品性を向上させ、有害な紫外線による劣化を防止し塗膜の化学的な安定性も向上させる金属フレーク(金属顔料)を含有したトップコート塗料を塗布することによって形成される。耐候性向上層13は、本体がアクリルポリオール樹脂を主成分とし、硬化剤がイソシアネート樹脂を主成分とし、導電性金属フレーク13aを含有するポリウレタン樹脂塗料を塗布して形成されており、このような導電性金属フレーク含有塗料としてはステンレス、アルミニウム又は亜鉛などの導電性金属フレーク13aを含有する。耐候性向上層13は、図3に示すように、乾燥時には樹脂の層内に導電性金属フレーク9aが数層にオーバーラップしている状態になる。耐候性向上層9は、耐候性と導電性及び強度の各性能を保持するため、30μm以上の膜厚が確保されていることが望ましい。導電性金属フレーク9aは、厚みが0.3〜0.5μm、縦横の大きさが20μm×30μm〜40μm×50μmの極薄片であり、アスペクト比(直径:厚み)が大きいものが好ましく、層数(厚さ)が7〜12枚(30〜50μm)であることが好ましい。
【0021】
次に、この発明の実施形態に係る架線金具の製造方法について説明する。
溶剤型一液性のエポキシ樹脂塗料をシンナーによって希釈率15〜40%で希釈し、架線金具9の溶融亜鉛めっき層11の表面に希釈後の溶剤型一液性のエポキシ樹脂塗料を刷毛塗り又はスプレー塗装によって塗布し、常温で16時間〜7日間程度放置し乾燥させて腐食防止層12を形成する。このとき、溶融亜鉛めっき層11の表面に錆層が存在するときには、この錆層を塗装前に除去するとともに、溶融亜鉛めっき層11の表面に油又はグリースなどが付着しているときには、これらをシンナーによって塗装前に除去する。次に、導電性金属フレーク含有塗料をシンナーによって希釈し、架線金具9の腐食防止層12の表面に希釈後の導電性金属フレーク含有塗料を刷毛塗り又はスプレー塗装によって塗布し、常温で16時間〜7日間程度放置し乾燥させて耐候性向上層13を形成する。その結果、金具表面が耐食処理された架線金具9が製造される。
【0022】
この発明の実施形態に係る架線金具には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、架線金具9の金具表面の溶融亜鉛めっき層11の表面に塗装されて、この溶融亜鉛めっき層11の表面に密着しこの溶融亜鉛めっき層11の表面の腐食を腐食防止層12が防止し、この腐食防止層12の表面に塗装されて、高電圧下で導電性を有するとともにこの腐食防止層12の耐候性を耐候性向上層13が向上させる。このため、架線金具9の金具表面が防食処理されて、溶融亜鉛めっき層11及び母材である鋼の腐食の進行を遅らせることができる。その結果、架線金具9を塩害地区で使用するときに、この架線金具9の寿命を延ばすことができ、メンテナンスコストを大幅に削減することができる。特に、架線金具9がトンネル1内で使用される場合には、絶縁性能を維持しつつこのトンネル1内の漏水による腐食を防ぐことができる。
【0023】
(2) この実施形態では、導電性金属フレーク含有塗料を塗布して耐候性向上層13が形成されている。このため、導電性金属フレーク13aによる腐食性物質の遮断効果によって塗膜の変質を防ぐとともに、導電性金属フレーク13aによって有害な紫外線による劣化を防ぐことができる。その結果、耐食性、耐薬品性及び耐汚染性を向上させることができ、初期の塗膜性能を長期間にわたり維持することができる。また、耐候性向上層13の表面に低電圧下では絶縁性があるが高電圧下では導電性を付与することができる。例えば、低電圧下だけではなく高電圧下においても絶縁性を付与する塗料を塗布して耐候性向上層13を形成した場合には、この耐候性向上層13の一部がはく離するとこの部分にアーク電流が流れて溶融亜鉛めっき層11が損傷し、この損傷箇所から腐食が進行する可能性がある。この実施形態では、導電性金属フレーク13aによって耐候性向上層13に高電圧下で導電性を付与することができるため、この耐候性向上層13にアーク電流が流れるのを防ぎ、架線金具9の金具表面の腐食を防止することができる。
【0024】
(3) この実施形態は、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料又はアクリル樹脂塗料を塗布して腐食防止層12が形成されている。このため、新亜鉛メッキの場合、簡単な素地調整後塗布することで防食効果を発揮し、赤錆層の場合錆層に浸透して錆を固定化し安定性のある物質に変換することができる。その結果、塗膜が大気を遮断して溶融亜鉛めっき層11を保護することができる。また、腐食防止層12が耐アルカリ性及び耐酸性に優れ、可撓性を有し、溶融亜鉛めっき層11との密着性に優れ、耐水性及び耐塩水噴霧性にも優れており、取扱いが簡単でスプレーや刷毛で容易に塗装することができる。
【0025】
(4) この実施形態では、水平支柱5に着脱自在に装着可能な分割構造を挟持片9a,9bが有しており、この水平支柱5をこの挟持片9a,9bが挟み込み、この挟持片9a,9bを分離可能に締結する締結ボルト10aを挿入する挿入孔9c,9dをこの挟持片9a,9bが有する。例えば、従来のパイプバンドのような架線金具では、一対の挟持片を蝶番によって開閉自在に連結するヒンジ構造を採用しているため、このヒンジ構造部分に塗料を塗布することができない。しかし、この実施形態では、一対の挟持片9a,9bがヒンジ構造を有さない分割構造である。このため、一対の挟持片9a,9bを分離させた状態で、挿入孔9c,9dの内周面を含む挟持片9a,9bの表裏に塗料を塗布することができる。
【実施例】
【0026】
次に、この発明の実施例及び比較例について説明する。
電車線支持装置などに使用されるパイプバンド類を防食処理して、実施例及び比較例に係る架線金具を製造し、各架線金具について暴露試験を実施して絶縁性能を評価した。
(実施例)
実施例1は、図3に示す実施形態に係る架線金具の挟持片の溶融亜鉛めっき層の表面に特殊変性エポキシ樹脂塗料を塗布し、この特殊変性エポキシ樹脂塗料の塗膜表面にステンレスフレーク入り塗料を塗布した対策品の架線金具である。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
表1は、この発明の実施例に係る架線金具に使用した特殊変性エポキシ樹脂塗料の成分内容及び含有量である。表2は、この発明の実施例に係る架線金具に使用した特殊変性エポキシ樹脂塗料のJIS K 5600に規定する試験条件で測定した塗膜性能である。分割構造の架線金具の一対の挟持片の金具表面を素地調整し、表1,2に示す特殊変性エポキシ樹脂塗料 (日本パーカライジング株式会社製 商品名トリック1000)をシンナーで希釈率15〜40%に希釈して、この金具表面の全面に、膜厚が20μm以上になるようにスプレーで塗布し、常温で16時間〜7日間放置して乾燥させた。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
表3は、この発明の実施例に係る架線金具に使用したステンレスフレーク入り塗料の成分及び含有量である。表4は、この発明の実施例に係る架線金具に使用したステンレスフレーク入り塗料のJIS K 5600に規定する試験条件で測定した塗膜性能である。表3に示す本体/硬化剤を4/1の割合で配合したステンレスフレーク入り塗料をシンナーで希釈して、表1,2に示す特殊変性エポキシ樹脂塗料の乾燥後の塗膜の表面に、膜厚が20μm以上になるようにスプレーで塗布し、常温で16時間〜7日間放置して乾燥させ、実施例に係る架線金具を製造した。
【0033】
次に、ステンレスフレーク入り塗料による塗膜の抵抗率を測定した。表3に示す本体/硬化剤を4/1の割合で配合したステンレスフレーク入り塗料をシンナーで希釈して高絶縁体のタイルの表面に、特殊変性エポキシ樹脂塗料とステンレスフレーク入り塗料の塗膜の合計が厚さ0.26〜0.28mmとなるように、幅10mm×測定長さ50mmで3本のラインで塗布して塗装皮膜を形成した。1000Vの絶縁抵抗計を用いてこの塗装皮膜の抵抗を測定し、抵抗率(固有抵抗)を計算した。その結果、抵抗率が0.1〜0.35(0.1,0.3,0.35)(MΩ)であり、抵抗率が5.2〜19.6(5.2,16.8,19.6)(Ωm)であり、測定長さ10mmで測定した場合にはいずれも0(MΩ)であった。このため、ステンレスフレーク入り塗料による塗膜が絶縁体よりも僅かに抵抗が小さいことが確認された。
【0034】
(比較例)
比較例1は、従来のヒンジ構造の挟持片の溶融亜鉛めっき層の表面にセラミックス溶射(ニッケルクロムの下地処理溶射後にアルミナを溶射)してセラミックス溶射層を厚さ0.3mm程度形成し防食処理した架線金具である。比較例2は、比較例1と同じ従来のヒンジ構造の挟持片の溶融亜鉛めっき層の表面にセラミックス溶射(ニッケルクロムの下地処理溶射をしないでアルミナを溶射)してセラミックス溶射層を厚さ0.3mm程度形成して防食処理した架線金具である。比較例3は、比較例1と同じ従来のヒンジ構造の挟持片の溶融亜鉛めっき層の表面を防食処理していない現用品(未対策品)の架線金具である。比較例4は、比較例1と同じ従来のヒンジ構造の挟持片の溶融亜鉛めっき層の表面に飽和ポリエステル樹脂による粉体塗装によって防食処理した架線金具である。
【0035】
(課電暴露試験の結果)
財団法人鉄道総合技術研究所の勝木塩害試験場において実施例及び比較例1〜3に対して課電曝露試験を実施した。勝木塩害試験場は、新潟県村上市勝木(がつぎ)に位置し、道路を隔てて日本海に面しており、潮風に含まれる塩分が絶縁物に付着して絶縁性能が低下するいわゆる塩害を受けやすい環境にあり、絶縁物の耐塩害性能の評価及び検証に適している。課電曝露試験は、実施例及び比較例1〜3に係る架線金具を絶縁水平主材に間隔をあけて2つ取り付けて、絶縁金具間にDC3000Vの電圧をかけた状態で7ヵ月間にわたり屋外で暴露し、暴露開始後の架線金具の腐食状態を観察した。比較例4は、表5及び図4に示す比較例1〜3とは別に、勝木塩害試験場において課電曝露試験を実施した。課電曝露試験は、実施例及び比較例1〜3と同様に、架線金具を絶縁水平主材に間隔をあけて2つ取り付けて、絶縁金具間にDC3000Vの電圧をかけた状態で17ヵ月間にわたり屋外で暴露し、暴露開始後の架線金具の腐食状態を観察した。なお、実施例及び比較例1〜3は、比較例4の課電暴露試験を開始してから10ヶ月経過に課電暴露試験を開始した。
【0036】
【表5】

【0037】
【表6】

【0038】
表5及び表6は、この発明の実施例及び比較例に係る架線金具の課電曝露試験による絶縁性能の評価結果であり、課電暴露試験前後のがいしの絶縁水平主材の上下金具間の絶縁抵抗値(MΩ)を暴露期間(ヶ月)経過後に絶縁抵抗計によって測定した測定結果ある。ここで、表5及び表6に示す4000表記は、絶縁抵抗計の測定結果が∞である。図4及び図5に示す縦軸は、課電暴露試験前後の絶縁水平主材の上下金具間の絶縁抵抗値(MΩ)であり、横軸は暴露期間(ヶ月)である。表5、表6、図4及び図5に示す「散水なし」は、実施例及び比較例1〜4に散水をせずに課電暴露試験を実施したときの評価結果であり、「散水あり」は実施例及び比較例1〜4に散水をして課電暴露試験を実施したときの絶縁抵抗値(MΩ)の測定結果である。
【0039】
表5、表6、図4及び図5に示す「散水なし」の場合には、実施例及び比較例1〜4のいずれについても絶縁抵抗値に変化が認められなかった。表5及び図4に示す「散水あり」の場合には、実施例については7ヶ月経過後の課電暴露試験後の絶縁抵抗値が15(MΩ)であり比較例1と同様に絶縁性能が良好であり、比較例2,3に比べて暴露試験後の絶縁抵抗値が高くなっており、絶縁性能を維持していることが確認された。一方、表5及び図4に示す「散水あり」の場合には、比較例2,3については7ヶ月経過後の課電暴露試験後の絶縁抵抗値が実施例に比べて低く、絶縁性能が低下していることが確認された。
【0040】
表5及び図4に示す「散水あり」の場合には、実施例については課電暴露試験を開始してから7ヶ月経過後の表面を観察すると、金具表面に腐食生成物が流れておらず、金具表面が全体として良好な状態であることが確認された。一方、比較例1〜3については、実施例1に比べて課電曝露試験前後において外観に変化が認められて、課電曝露試験後に腐食が確認された。特に、比較例3については暴露試験を開始してから7ヶ月経過後の表面を観察すると、金具表面が腐食して腐食生成物が雨水などに溶け出し、金具表面が変色し架線金具の損傷が進んでいた。比較例1,2は、比較例3に比べて比較的外観に腐食が認められなかった。しかし、比較例1,2は、挟持片の挿入孔に締結ボルトを挿入してナットによって締め付けたときに、セラミックス溶射層が割れて溶融亜鉛めっき層にき裂が発生することが確認された。このため、比較例1,2は、き裂箇所の溶融亜鉛めっき層がはく離して、素地金属が露出し錆が発生する危険性がある。一方、実施例は、挟持片の挿入孔に締結ボルトを挿入してナットによって強く締め付けたときに、塗膜がはく離しても溶融亜鉛めっき層が残るため、素地金属が露出し錆が発生するのを防ぐことができる。比較例4は、一般的には防食性が優れていると言われているが、表6及び図5に示すように、8ヶ月経過後の絶縁抵抗値が5(MΩ)、17ヶ月経過後の絶縁抵抗値が3(MΩ)であり、実施例及び比較例1〜3に比べて暴露試験後の絶縁抵抗値が低く、塩害を受けやすい環境下では絶縁性能を十分に維持できないことが確認された。
【0041】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、電車線設備などの電路設備で使用される架線金具9を例に挙げて説明したが、電路設備以外の電力用又は電信用の架線金具についてもこの発明を適用することができる。例えば、電車線路、き電線路、これらに附属する機器、電線及び防護設備などに使用する架線金具や、高圧送電線とこの支持物との間を絶縁するがいしなどについてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、トンネル区間で架線金具9を使用する場合を例に挙げて説明したが、トンネル区間以外の明かり区間で架線金具9を使用することもできる。さらに、この実施形態では、架線金具9がパイプバンドである場合を例に挙げて説明したが、トロリ線2aを把持するイヤー、ちょう架線又は補助ちょう架線を把持するクリップ、可動ブラケットの振止パイプ部、振止装置又は曲線引装置などのアーム部などについてもこの発明を適用することができる。
【0042】
(2) この実施形態では、取付対象物が水平支柱5である場合を例に挙げて説明したが、垂直支柱又は傾斜支柱などについてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、架線金具9の全面に腐食防止層12及び耐候性向上層13を形成して防食処理する場合を例に挙げて説明したが、架線金具9の片面に腐食防止層12及び耐候性向上層13を形成して防食処理することもできる。
【符号の説明】
【0043】
1 トンネル
1a アーチ部
2 架線
2a トロリ線
2b ちょう架線
2c き電線
3 支持装置
4 曲線引金具
5 水平支柱(取付対象物)
6 保護カバー
7 がいし
7a 本体部
7b,7c 金具部
7d ベース金具部
8A,8B 支持金具
9 架線金具
9a,9b 挟持片
9c,9d 挿入孔
10 連結部材
10a 締結ボルト
10b,10c ナット
10d 割りピン
10e 座金
11溶融亜鉛めっき層
12 腐食防止層
13 耐候性向上層
13a 導電性金属フレーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金具表面が防食処理されている架線金具であって、
前記金具表面の溶融亜鉛めっき層の表面に塗装されて、この溶融亜鉛めっき層の表面に密着しこの亜鉛めっき層の表面の腐食を防止する腐食防止層と、
前記腐食防止層の表面に塗装されて、高電圧下で導電性を有するとともにこの腐食防止層の耐候性を向上させる耐候性向上層と、
を備える架線金具。
【請求項2】
請求項1に記載の架線金具において、
前記耐候性向上層は、導電性金属フレーク含有塗料を塗布して形成されていること、
を特徴とする架線金具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の架線金具において、
前記腐食防止層は、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料又はアクリル樹脂塗料を塗布して形成されていること、
を特徴とする架線金具。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の架線金具において、
取付対象物に着脱自在に装着可能な分割構造を有し、この取付対象物を挟み込む第1及び第2の挟持片を備え、
前記第1及び前記第2の挟持片は、これらを分離可能に締結する締結ボルトを挿入する挿入孔を有すること、
を特徴とする架線金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−52776(P2013−52776A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192822(P2011−192822)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【出願人】(000151036)株式会社電業 (6)
【Fターム(参考)】