説明

柑橘果実のカビ抑制方法、及び柑橘果実のカビ抑制貯蔵装置

【課題】 本発明の課題は、柑橘果実にカビ抑制剤を付着させる処理を短時間で行うことができ、処理時に柑橘果実が傷付く虞のない柑橘果実のカビ抑制方法を提供することである。
【解決手段】 複数の柑橘果実を収納したコンテナ7を収容室2内に入れ、この収容室2内に所定方向の気流を起こしつつ、カビ抑制剤を含む処理液を噴霧し、複数の柑橘果実の表面に処理液を付着させることを特徴とする柑橘果実のカビ抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミカンなどの柑橘果実のカビ抑制方法、及び柑橘果実のカビ抑制貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘果実は、ミカン科に含まれる果実の総称である。柑橘果実としては、温州ミカン、伊予柑、ポンカン、夏ミカン、ハッサク、ネーブル、バレンシアオレンジ、キンカン、グレープフルーツ、柚、ダイダイ、スダチ、レモン、ライムなどが挙げられる。
柑橘果実は、通常、収穫後、柑橘果実を追熟させることや、水分含有量を低下させることによって腐敗果の発生を防ぐため、予措が行われる。
【0003】
上記予措を行った場合でも、柑橘果実には水分が含まれている。このため、貯蔵中(果実の流通期間も含む。以下同じ)、柑橘果実にカビが発生しうる。
貯蔵時に、カビの発生を抑制するため、従来、カピリンを有効成分として含むカビ抑制剤を柑橘果実に付着処理することが知られている。
このカピリンは、カワラヨモギ抽出物に含まれ、人体への悪影響がないため好ましい。
【0004】
例えば、特許文献1には、カピリンと、ペクチン分解酵素活性阻害作用を示すポリフェノールと、HLBが8〜20のポリグリセリン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルと、脂肪酸グリセリドと、を含有する抗カビ性組成物を、果皮表面に接触させて処理した柑橘果実が開示されている。
該抗カビ性組成物を果皮表面に接触させる方法として、柑橘果実を抗カビ性組成物に浸漬する方法(特許文献1の(実施例1))や、柑橘果実を抗カビ性組成物が含浸された搬送ローラーにて搬送しながら柑橘果実に抗カビ性組成物を塗布し、更に該組成物を噴霧する方法(特許文献1の(実施例8)及び図1)が開示されている。
【特許文献1】特開2006−230283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、柑橘果実を抗カビ性組成物(カビ抑制剤)に浸漬する方法では、短時間に多くの柑橘果実を処理することができない。また、浸漬する際に、柑橘果実が浸漬槽に当たって、柑橘果実が傷付く虞がある。
さらに、処理時間を早めるためは、多量の抗カビ性組成物が必要となり得る上、各生産者は、大型の浸漬槽を準備しなければならず、さらに、浸漬槽から発生する臭気を防ぐために局所排気装置を設置するなど、多額の設備投資を要する。
また、カビ抑制剤の使用量が多くなると処理の途中でカビ抑制剤の劣化を防ぐため、濃度管理を行う必要がある。さらに、カビ抑制剤には、溶媒として、揮発性の高いアルコール成分が含まれている場合があるが、アルコール成分などの揮発を防ぐため浸漬槽を密封するなどの工夫も必要になる。
【0006】
一方、柑橘果実を搬送ローラーで搬送しつつ、柑橘果実に抗カビ性組成物(カビ抑制剤)を塗布及び噴霧する方法では、上記と同様に、短時間に多くの柑橘果実を処理することができない。また、搬送ローラーで柑橘果実を搬送する際に、柑橘果実が傷付く虞がある。
さらに、各生産者は、抗カビ性組成物の含浸された搬送ローラーを準備しなければならず、多額の設備投資を要する。また、上記浸漬槽と同様に、局所排気装置の設置、カビ抑制剤の濃度管理、溶剤対策などが必要になる。
【0007】
本発明の課題は、柑橘果実にカビ抑制剤を付着させる処理を短時間で行うことができ、
更に、処理時に柑橘果実が傷付く虞のない柑橘果実のカビ抑制方法及び柑橘果実のカビ抑制貯蔵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の手段は、柑橘果実のカビ抑制方法に係り、複数の柑橘果実を収納したコンテナを収容室内に入れ、この収容室内に所定方向の気流を起こしつつ、カビ抑制剤を含む処理液を噴霧し、前記複数の柑橘果実の表面に前記処理液を付着させることを特徴とする。
【0009】
上記カビ抑制方法は、複数の柑橘果実を収納したコンテナを収容室に入れ、気流を起こしつつカビ抑制剤を噴霧するので、カビ抑制剤のミストが、気流に乗ってコンテナ内の柑橘果実の略全体に行き渡る。このため、コンテナ内に収納された複数の柑橘果実の表面に、カビ抑制剤を付着させることができる。このように複数の柑橘果実にカビ抑制剤を一時に付着させるので、上記浸漬法や塗布方法などに比して、カビ抑制剤の付着処理を短時間で行うことができる。また、コンテナ内に収納したままで付着処理を行うので、柑橘果実が傷付く虞がない。
カビ抑制剤の付着処理後の柑橘果実は、必要に応じて、そのままコンテナに収納した状態で収容室内に留めておき、長期間に亘ってカビの発生を抑えつつ貯蔵できる。また、カビ抑制剤の付着処理後の柑橘果実は、処理直後に搬出し、選別梱包後、市場に出荷しても良い。この場合、柑橘果実の流通中においても、カビの発生を抑える効果が持続するので、本発明の柑橘果実は、無処理果実に比して品質面で優れている。
また、本発明のカビ抑制方法は、例えば、柑橘果実の収穫後の貯蔵施設(例えば、予措のための貯蔵施設)として既に生産者が所有している収容室に、カビ抑制剤をミスト状にする噴霧装置を追加することによって実施できる。従って、生産者の設備投資の負担を軽減することもできる。
【0010】
好ましい上記カビ抑制方法は、上記処理液のミストが、平均粒径100μm以下とされている。
好ましい上記カビ抑制方法は、上記処理液のミストが、マイナスに帯電されている。
【0011】
好ましい上記カビ抑制方法は、上記カビ抑制剤にカピリンが有効成分として含まれている。
【0012】
本発明の第2の手段は、柑橘果実のカビ抑制貯蔵装置に係り、収容室と、前記収容室内に気流を生じさせる送風装置と、前記収容室内にカビ抑制剤を含む処理液をミスト状にして噴出する噴霧装置と、前記収容室内に設置され且つ複数の柑橘果実が収納されたコンテナと、を有する。
【0013】
上記カビ抑制貯蔵装置は、噴霧装置によって処理液を噴霧することにより、カビ抑制剤のミストが、気流に乗って収容室内の略全体に行き渡る。このため、コンテナ内に収納された複数の柑橘果実の表面に、カビ抑制剤を付着させることができる。このように複数の柑橘果実にカビ抑制剤を一時に付着させるので、カビ抑制剤の付着処理を短時間で行うことができる。また、コンテナ内に柑橘果実を収納したままでカビ抑制剤を付着させるので、柑橘果実が傷付く虞がない。
カビ抑制剤の付着処理後の柑橘果実は、そのままコンテナに収納した状態で収容室内に留めておくことにより、長期間に亘ってカビの発生を抑えつつ貯蔵できる。また、処理直後に、柑橘果実を出荷することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の柑橘果実のカビ抑制方法及び柑橘果実のカビ抑制貯蔵装置によれば、柑橘果実にカビ抑制剤を付着させる処理を、短時間で行うことができる。また、本発明のカビ抑制方法及びカビ抑制貯蔵装置によれば、処理時に柑橘果実の表面を傷付ける虞がなく、従って、カビ抑制剤のカビ防止効果と相乗して、柑橘果実を長期間に亘って腐敗させずに貯蔵できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<カビ抑制貯蔵装置>
以下、本発明について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
図1〜図3において、1は、本発明の柑橘果実のカビ抑制貯蔵装置を示す。該カビ抑制貯蔵装置1は、収容室2と、該収容室2内に気流を生じさせる送風装置3と、外気を吸排気する換気装置33と、収容室内にカビ抑制剤を含む処理液をミスト状にして噴出する噴霧装置と、収容室2内に設けられたコンテナ設置スペースと、該設置スペースに設置され且つ複数の柑橘果実が収納されたコンテナ7と、を有する。噴霧装置は、収容室2内に配設された噴霧ノズル4と、該噴霧ノズル4にカビ抑制剤を含む処理液を圧送する圧送装置5と、を有する。
【0016】
収容室2は、例えば、直方体状の構造体からなり、正背面壁21,22、両側面壁23,23及び天面壁25を有する。
また、正面壁21には、コンテナを出し入れするための搬入口26が形成されている。該搬入口26は、開閉扉やカーテンなどの扉部材27によって、開閉自在とされている。正面壁21、背面壁22、両側面壁23,23、天面壁25及び扉部材27は、例えば、断熱材が具備された建材によって形成されている。
また、収容室2の一空間に差圧室2’を形成するために、差圧壁28が設けられている。該差圧壁28は、背面壁22の近傍に且つ背面壁22に対して略平行に設けられ、該差圧壁28と背面壁22の間に、差圧室2’が形成されている。該差圧室2’には、空調機32などの機械設備が収納されている。
該差圧壁28には、通気口24(例えば、網目状の開口)が設けられている。該通気口24は、差圧壁28の幅方向中央部(本実施形態では、収容室2の通路29に対応した位置)に設けられている。また、通気口24は、例えば、差圧壁28の下端部から、差圧シート8の差圧壁28に対する取付部8aの近傍まで設けられている。このように通気口24と差圧シート8を設けることにより、各々のコンテナ7を通過する風量が均一化されるため、カビ抑制剤を含むミストをコンテナ7内により均等に行き渡らせることができる。
収容室2の大きさ(容積)は、複数個のコンテナ7を収容できる大きさであれば特に限定されず、生産者の規模などに応じて適宜設計される。
【0017】
収容室2内には、コンテナ7を設置するためのコンテナ設置スペースが設けられている。
本実施形態の貯蔵装置1は、両側面壁23,23の近傍であって、正面壁21から背面壁22の方向(この方向を「長手方向」という。該長手方向と直交する方向を「幅方向」という)における2つの領域に、コンテナ設置スペースがそれぞれ設けられている。該2箇所のコンテナ設置スペースの間には、通路29が確保されている。
各コンテナ7は、両側面壁23,23から少しの間隔を有した状態で、長手方向及び幅方向に多列に並べられている。また、各コンテナ7は、2段以上に多段状に積み上げてもよい。もっとも、コンテナ7の上方領域に送風空間を確保できる程度に、コンテナ7は、積み上げられる。なお、図示した例では、1つのコンテナ設置スペースに、コンテナ7が長手方向に6列、幅方向に2列配置されていると共に、各列2段に積み上げられているが、このような設置に限定されるものではない。
以下、コンテナ設置スペースに設置された複数のコンテナ7を総称して、「コンテナ集合体」という。
【0018】
上記コンテナ集合体の天面及び正面には、収容室2を差圧式とするために、差圧シート8が被せられている。
具体的には、差圧シート8は、矩形状に形成されている。該差圧シート8の一端辺8aは、差圧壁28に取付けられ、該差圧シート8は、コンテナ集合体の天面から正面を覆うと共に、差圧シート8の他端辺8bは、床面に接している。従って、コンテナ集合体の両側面(収容室2の両側面壁23,23に対向する面)及び背面は、差圧シート8によって覆われていない。該差圧シート8を有しないコンテナ集合体の開放面(本実施形態ではコンテナ集合体の両側面)に対応して、噴霧ノズル4が配置されている。
【0019】
次に、送風装置3は、送風ファン31と、空調機32と、を有する。ただし、送風装置3は、送風ファン31または空調機32の何れか一方でもよい。
送風ファン31は、差圧壁28に直接取り付けられている。該送風ファン31は、差圧壁28の幅方向両側であって、差圧シート8の取付部8aと天面壁25の間に取り付けられている。該送風ファン31は、差圧室2’の空気を、収容室2の上方領域(差圧シート8と天面壁25で囲われる空間)に送り、収容室2内に気流を生じさせる。従って、送風ファン31は、差圧室2’の空気を収容室2内に送り、収容室2内の空気を差圧室2’内に取り込む循環送風を行う。
空調機32は、送風機能と冷暖房機能(外部熱源による熱交換器)を具備する。また、該空調機32は、除湿機能及び/又は加湿機能を具備していてもよい。なお、空調機32が、除湿機能及び/又は加湿機能を有しない場合には、別個独立した除湿装置及び/又は加湿装置を、差圧室2’などに設けてもよい。
該空調機32は、差圧室2’に設置されている。空調機32の吹き出し口33は、差圧壁28の幅方向中央部であって、差圧シート8の取付部8aと天面壁25の間に設けられている。
空調機32は、差圧室2’の空気を取り込み、ダクト34を介して、吹き出し口33から収容室2に暖めた風又は冷却した風を送り、収容室2内に気流を生じさせる。従って、空調機32は、送風ファン31と同様に、差圧室2’の空気を収容室2内に送り、収容室2内の空気を差圧室2’内に取り込む循環送風を行う。
好ましくは、背面壁22に、収容室2(差圧室2‘)の空気を室外に排出する(又は外気を取り込む)ための換気装置33が取り付けられる。一方、側面壁23には、外気を収容室2に導入(又は排出)するための吸排気口34が設けられる。なお、これら換気装置33及び吸排気口34の取付け位置や個数は収容室2の大きさなどに応じて設定される。また、上記換気装置33と吸排気口34は、その取り付け場所を逆にしても良い。
【0020】
上記収容室2には、噴霧ノズル4が設けられている。
本実施形態では、コンテナ集合体の天面及び正面が差圧シート8で覆われている。このため、噴霧ノズル4は、コンテナ集合体の両側面に対応するように、収容室2の両側面壁23,23にそれぞれ設けられている。各噴霧ノズル4の噴霧口は、コンテナ集合体の側面方向にミストを噴出できるように向けられている。もっとも、噴霧ノズル4の噴霧口は、例えば、収容室2の天面壁25方向に向けられていてもよい。カビ抑制剤を含むミストをコンテナ集合体に均一に噴霧でき且つコンテナ7の搬入に支障のない場所であれば、噴霧ノズル4の取付位置、向き及び個数は、任意に設定できる。
噴霧ノズル4は、ミストを円錐状に拡げて噴霧するタイプが好ましい。
前記ミストは、好ましくは平均粒径100μm以下、より好ましくは平均粒径1μm〜100μm、特に好ましくは10μm〜100μmである。噴霧ノズル4は、かかる平均粒径のミストを発生できるものが好ましい。ミストの平均粒径が余りに小さいと、該ミストが柑橘果実の表面に付着し難く、一方、ミストの平均粒径が100μmを越えると、該ミストがコンテナ7内に良好に行き渡らない場合がある。
従って、上記平均粒径のミストを噴霧することにより、コンテナ7内に収納された全ての柑橘果実の表面に、ミストを確実に付着させることができる。平均粒径100μm以下のミストの場合には、処理室2内にミストが長時間浮遊・充満している状態で、噴霧装置から比較的離れた柑橘果実にまでミストを気流に乗せて行き渡らせることができる。
ただし、前記平均粒径は、噴霧ノズルの噴出口から30cmの位置において、レーザ光散乱方式で測定した値をいう。
【0021】
上記ミストの噴霧量は、柑橘果実の数などに応じて適宜設定される。ミストの噴霧量は、好ましくは、柑橘果実1トン当たり、1.5kg〜3.0kg程度である。
複数の噴霧ノズル4は、好ましくは、一定間隔を開けて配置される。なお、コンテナ7が2段以上に積まれている場合には、コンテナ7の段数と噴霧ノズル4の段数を同じにする必要はない。
【0022】
また、収容室2の外部には、上記噴霧ノズル4にカビ抑制剤を含む処理液を圧送するための、圧送装置5が設けられている。もっとも、該圧送装置5は、収容室2内や差圧室2’内に設けてもよい。
圧送装置5と噴霧ノズル4は、パイプ(図1〜3において図示せず)で繋がれている。
この圧送装置5は、カビ抑制剤を含む処理液を充填するためのタンク(同、図示せず)を備えている。該タンクから圧送装置5に吸い上げられた処理液は、圧送装置5によって加圧され、パイプを介して、噴霧ノズル4からミストとなって噴出される。
圧送装置5の圧力は、好ましくは、噴霧ノズル4から噴出されるミストが上記平均粒径となり、且つ噴霧量が上記範囲となるように設定される。
図4に、噴霧ノズル4から処理液を噴霧する圧送装置5の具体的構成例を示す。
図4(a)は、噴霧ノズル4に、パイプを介して、加圧エアーと加圧処理液を導入し、噴霧ノズル4(2流体用)から処理液をミスト状にして噴霧する構成例である。図4(a)において、51は、エアーコンプレッサーを示し、52は、エアーフィルターを示し、53は、エアーレギュレータを示し、54は、液加圧装置(ポンプ)を示し、55は、ストレーナーを示し、56は、液レギュレータを示し、57は、処理液を入れるタンクを示す。なお、図4(a)において、適正な粒径及び噴霧量が得られることを条件として、エアーコンプレッサー51、エアーフィルター52及びエアーレギュレター53を省き、噴霧ノズル4を1流体用としても良い。
図4(b)は、図4(a)の圧送装置5の変形例である。この変形例では、液加圧装置等は設けられておらず、タンクに入れられた処理液が、パイプを介して噴霧ノズル4(又はエアーパイプ)にサイフォン効果で導入される。
【0023】
コンテナ7は、例えば、底面の四方に壁面が立設された上面開口型の直方体状の箱体である。コンテナ7の少なくとも四方の壁面は、上記ミストが通過可能な無数の孔を有する。例えば、コンテナ7の各壁面は、網目状に形成されており、この壁面の無数の網目(孔)を通じて、コンテナ7内にカビ抑制剤のミストが通過可能である。
このようなコンテナ7は、従来公知のものを使用でき、例えば、プラスチック製の農業用キャリー(例えば、縦×横×高=520mm×370mm×300mm)などを用い得る。
【0024】
コンテナ7内に収納される柑橘果実は、例えば、温州ミカン、伊予柑、ポンカン、夏ミカン、ハッサク、ネーブル、バレンシアオレンジ、キンカン、グレープフルーツ、柚、ダイダイ、スダチ、レモン、ライムなどが挙げられる。
【0025】
上記貯蔵装置1には、上記の他に、収容室2内の温度を検知する温度センサー、収容室2内の湿度を検知する湿度センサー、収容室2内の風速を検知する風速センサー、及び、各装置類を制御する制御盤などが具備されている(何れも図示せず)。
【0026】
<カビ抑制剤>
本発明のカビ抑制剤は、柑橘果実のカビの発生を抑制する効能を有し、且つ溶液状であれば特に限定されず、従来公知のカビ抑制剤を使用することができる。
好ましくは、カピリンを有効成分として含むカビ抑制剤が使用される。該カピリンは、人為的に合成することもできるが、カワラヨモギから抽出したものが好ましい。なお、カピリンを含むカワラヨモギ抽出物を得る方法は、特開2006−230283号公報に詳しく開示されているので、それを参照されたい。
【0027】
カビ抑制剤中に於けるカピリンの濃度は、好ましくは2000ppm未満である。2000ppm以上であると柑橘果実のカビ抑制効果にバラつきが生じる虞がある。一方、カピリンの濃度の下限は、30ppmを超える。余りに薄いとカビ抑制効果を十分に奏しないからである。より好ましくは、カピリンの濃度は、150〜1500ppmである。
【0028】
さらに、上記カビ抑制剤には、カピリンの他に、ポリフェノールが含まれていることが好ましい。
ポリフェノールは、同一分子内に複数のフェノール性水酸基(ヒドロキシ基)をもつ化合物の総称である。ポリフェノールとしては、大豆に含まれるイソフラボン、緑茶に含まれるカテキン、コーヒー豆に含まれるクロロゲン酸、カカオ豆に含まれるクロマミド類、葡萄果皮に含まれるアントシアニン、ウコンに含まれるクルクミン、ゴマに含まれるセサミン、桂皮等から抽出することができるタンニンなどが挙げられる。ポリフェノールは、好ましくはペクチン分解酵素活性阻害作用を示すものが選択され、より好ましくは、タンニンである。タンニンは、リンゴ、芍薬、桂皮等から抽出できる縮合型タンニン;タンニン酸、チョウジ等の加水分解型タンニンなどが挙げられ、好ましくは加水分解型タンニンであり、より好ましくはタンニン酸である。
【0029】
ポリフェノールの濃度は、特に限定されないが、好ましくは、カピリンとの重量濃度比がカピリン:ポリフェノール=1:1〜1:1000であり、より好ましくは1:30〜1:100である。
【0030】
さらに、上記カビ抑制剤には、上記の他に、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステルが含まれていることが好ましい。
ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルは、好ましくは、Griffinの経験式から計算されるHLB値(Hydrophile-Lipophile Balance Value値)が8〜20であり、より好ましくは、HLB値が14〜20のものである。かかるポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステルが含有されていることにより、カビの発生をより一層抑制できる。
ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステルの濃度は、特に限定されないが、好ましくはカピリンとの重量濃度比が、カピリン:ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステル=1:1〜1:1000であり、より好ましくは同1:10〜1:200である。
【0031】
さらに、上記カビ抑制剤には、上記の他に、脂肪酸グリセリドが含まれていることが好ましい。
脂肪酸グリセリドは、グリセリンと脂肪酸とのエステルであり、モノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドのうち一種又は二種以上を含有する脂肪酸グリセリドを使用できる。
脂肪酸グリセリドの濃度は、特に限定されず、好ましくはカピリンとの重量濃度比が、カピリン:脂肪酸グリセリド=1:3〜1:5000であり、より好ましくは、同1:25〜1:400である。
なお、上記ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、及び脂肪酸グリセリドの具体例は、特開2006−230283号公報に詳しく開示されているので、それを参照されたい。
【0032】
本発明で使用されるカビ抑制剤は、カピリン、及び、必要に応じて、ポリフェノール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸ポリグリセリドから選ばれる少なくとも1種を配合し、各成分が上記濃度範囲となるように溶媒を加えることによって調製される。
溶媒は、水や低級アルコール(メタノール、エタノール等)などを用い得る。通常は、水によって希釈できるが、アルコールを添加することにより、各成分の分散性が良好となる。エタノールなどのアルコールを含む場合には、カビ抑制剤のアルコール濃度は、20〜50質量%程度であり、好ましくは、30〜40質量%である。
【0033】
上記カビ抑制剤をミスト状にし、果実表面に付着させることにより、カビの発生及び増殖を抑制できる。特に、緑かび病菌や青かび病菌等の糸状菌を原因とするカビの発生を抑制できる。
【0034】
次に、柑橘果実の予措工程を含めたカビ抑制方法について説明する。
<通常の予措工程>
収穫された柑橘果実は、コンテナ7に入れられる。
そして、複数の柑橘果実の収納されたコンテナ7を、収容室2の搬入口26から搬入し、これをコンテナ設置スペースに、多列多段状に設置する(図1〜図3)。柑橘果実は、コンテナ7に満杯に入れてもよいが、通常、コンテナ容積の0.8倍〜0.95倍程度に入れられる。コンテナ7を収容室2内に載置した後、差圧シート8を被せ、コンテナ集合体の天面及び正面を覆う。
図5に、腐敗果の発生の防止や、貯蔵中の品質劣化の防止のために行われる予措工程の一例を示す。予措工程は、一般に、昇温工程と、保温工程と、冷却工程と、を有する。
昇温工程は、果実への結露を防止するため、室温を徐々に上げる工程である(1時間当たり1℃〜2℃の昇温)。
保温工程は、果実の品種によって異なるが、概ね、室温を18℃〜25℃、湿度を75%〜85%の状態で1日〜2日保持し、柑橘果実の表面からの蒸散により果皮の水分含有量を低下させる工程である。
冷却工程は、扉の部分開放及び/又は外気の強制導入などにより、概ね1日前後かけて果実の温度を徐々に外気温度近くまで下げる工程である。
収容室2の室温や湿度は、温度センサーなどで検知され、それを基に制御盤によって空調機32の送風温度及び/又は加除湿機能がコントロールされる。
【0035】
<カビ抑制工程>
本発明のカビ抑制工程は、上記予措工程後に引き続いて行うことが好ましい。予措工程と一連の作業(工程)として行えるので効率的だからである。もっとも、カビ抑制工程は、予措工程中において行ってもよいし、予措工程の一部と併用して行ってもよい。或いは、予措工程を行った後、柑橘果実を入れたコンテナ7を搬出した後、該コンテナ7を同じ又は別途の収容室に入れて、カビ抑制工程を行っても良い。
予措工程に引き続いてカビ抑制工程を行う場合には、上記冷却工程の完了後、開放された扉を閉じ、又は外気導入を停止する。
次に、送風装置3(送風ファン31及び/又は空調機32)を作動させ、収容室2内に風を送り、気流を生じさせる。
【0036】
送風装置3の作動によって収容室2内に送られた風は、差圧シート8で覆われていないコンテナ集合体の側面からコンテナ7内部へと入り、収容室2の通路29方向へと流れた後、通気口24から差圧室2’へ戻り、再び、送風装置3によって収容室2内に循環する。図1〜図3において、収容室2内の風の流れを太矢印で示す。
【0037】
送風装置3(送風ファン31及び/又は空調機32)の風量は、収容室2内の大きさや柑橘果実の収納量などに応じて適宜設定される。好ましくは、送風装置3の風量は、気流を受けるコンテナ7の面の面風速が0.15〜0.35m/秒となるよう設定される。ミストを柑橘果実の表面に確実に付着させるためである。
【0038】
送風と略同時または送風開始後、圧送装置5を作動させ、各噴霧ノズル4から処理液を噴霧する。噴霧ノズル4から噴霧された処理液は、微細なミストとなり、該ミストは気流に乗って、コンテナ7内に収納された柑橘果実に行き渡る。該ミストが、コンテナ7内の複数の柑橘果実に良好に行き渡ることにより、柑橘果実の表面にミストが付着する。
具体的には、コンテナ7内には、複数の柑橘果実が詰め込まれているため、果実と果実の間の隙間が狭くなっている。このため、コンテナ7内の果実と果実の隙間を通る風速が速くなり、前記隙間に於いて渦流が生じる。その結果、ミストを含む気流が、果実の背面側(果実の背面側とは、送風方向に対面する側を果実の正面側とした場合、その反対側を意味する)に回り込み、コンテナ7内に詰め込まれた柑橘果実の全表面にミストが付着する。上記のようにコンテナ7への面風速が0.15〜0.35m/秒に設定されている場合、コンテナ7内の果実と果実の隙間の風速は、概ね0.5〜1.5m/秒程度となり、良好な渦流が生じるので好ましい。また、ミストの平均粒径が10μm〜100μmである場合、該ミストは、コンテナ7内の複数の柑橘果実に良好に行き渡るので好ましい。
【0039】
噴霧時間は、柑橘果実の表面にミストが付着し終わる(柑橘果実1トン当たり、1.5kg〜3.0kg程度)まで行われる。
【0040】
処理液の噴霧の停止と同時に、送風装置3を停止してもよいが、好ましくは、噴霧を停止した後も送風装置3を作動させ、柑橘果実の表面に付着した処理液を乾燥させる。
乾燥工程を行うことにより、果実の表面に付着した処理液中の溶媒(水分やアルコール成分など)が気化し、有効成分であるカビ抑制剤を果実表面に定着させることができる。
なお、乾燥時には、空調機に具備された除湿装置を作動させ、乾燥効率を高めてもよい。
乾燥処理後、コンテナ7を収容室2から搬出する。あるいは、乾燥処理後、コンテナ7を搬出せず、そのまま収容室2内に留めておくことにより、柑橘果実を貯蔵できる。
【0041】
上記カビ抑制剤を含むミストを噴霧している間、収容室2内を、湿度100%未満に管理することが好ましい。収容室2内が飽和状態となっていると、噴霧されたミストが、収容室2の各壁や差圧シート8に液滴となって付着するからである。湿度100%未満に管理する方法としては、空調機32の暖房機能などによって収容室2の室温を上げる、収容室2を換気する(外気を導入する)、空調機32の除湿機能などによって収容室2内の湿度を下げる、などを例示できる。これらの各方法は、2以上併用してもよい。
また、上記噴霧後の乾燥工程においても、収容室2内を、湿度100%未満に管理することが好ましい。収容室2内が飽和状態となっていると、果実表面の溶媒が気化しないからである。
【0042】
本発明のカビ抑制方法及びカビ抑制貯蔵装置は、コンテナ内に収納された複数の柑橘果実の表面に、カビ抑制剤を付着させることができる。このように複数の柑橘果実にカビ抑制剤を一時に付着させるので、短時間で処理できる。また、コンテナ内に収納したままで付着処理を行うので、柑橘果実が傷付くこともない。
【0043】
なお、上記予措工程は、カビ抑制工程を実施した後に行ってもよい。あるいは、上記予措工程の途中に、カビ抑制工程を行うこともできる。
【0044】
<カビ抑制貯蔵装置及びカビ抑制方法の他の実施形態>
本発明のカビ抑制貯蔵装置は、上記実施形態に限られず、本発明の意図する範囲で、適宜変更できる。
例えば、上記実施形態のカビ抑制貯蔵装置は、風に乗ったミストが、コンテナ集合体の側面からコンテナ7内に入るように設計されているが、例えば、ミストが、コンテナ集合体の正面及び両側面からコンテナ7内に入る構成などに変更することができる。
【0045】
図6及び図7に、他の実施形態に係るカビ抑制貯蔵装置1を示す。
該カビ抑制貯蔵装置1は、収容室2と、差圧室2’と、送風装置3と、噴霧装置(噴霧ノズル4及び圧送装置5)と、差圧シート8と、コンテナ設置スペースと、を備え、該コンテナ設置スペースに、複数の柑橘果実が収納されたコンテナ7が設置されている。
他の実施形態に係るカビ抑制貯蔵装置1は、上記実施形態と下記の点が異なり、他の点は、上記実施形態と同様である。
【0046】
具体的には、他の実施形態に係るカビ抑制貯蔵装置1は、両側面壁の近傍に通路29,29が設けられている。コンテナ設置スペースは、この2つの通路29,29の間であって、収容室2の長手方向に所定間隔を開けた2つの領域に、それぞれ設けられている。
該2つのコンテナ設置スペースに、コンテナが多列状に配置される。なお、図示した例では、1つのコンテナ設置スペースに、コンテナ7が長手方向に3列、幅方向に4列配置されていると共に、各列2段に積み上げられているが、このような設置に限定されるものではない。
【0047】
このコンテナ集合体の天面及び両側面には、差圧シート8が被せられている。従って、各コンテナ集合体の正面及び背面側は、差圧シート8で覆われておらず、通気可能である。
各噴霧ノズル4は、差圧シート8の上方(コンテナ集合体の天面の上方)に2列配置されている。もっとも、噴霧ノズル4は、1列でもよい。該噴霧ノズル4から噴霧されたミストは、コンテナ集合体の正面からコンテナ7内へ流れ、コンテナ集合体の背面を出て、通気口から差圧室2’内に入って循環する。
【0048】
他の実施形態に係るカビ抑制貯蔵装置1も同様に、送風ファン31及び/又は空調機32を作動させ、収容室2内に気流を生じさせることにより、カビ抑制剤を含むミストが、コンテナ集合体の正面から背面方向に流れる(図6参照)。
かかるカビ抑制貯蔵装置1も、コンテナ内に収納された複数の柑橘果実の表面に、カビ抑制剤を短時間で確実に付着させることができる。
【0049】
なお、上記各実施形態のカビ抑制貯蔵装置1において、差圧シート8を省略することもできる。また、同カビ抑制貯蔵装置1にコンテナ7を収容する際、各コンテナ7間に隙間を設けて収容してもよい。
【0050】
なお、上記各実施形態において、噴霧装置として、噴霧ノズル及びこれに処理液を圧送する圧送装置が用いられているが、噴霧装置は、処理液をミスト状にして噴霧できれば、これに限定されない。例えば、噴霧装置として、超音波加湿装置などを用いてもよい。超音波加湿装置は、超音波の振動により処理液をミスト状にする装置であり、液タンクと、液タンク内に超音波を加える超音波発生装置と、を有する。該超音波加湿装置は、収容室内または差圧室内に配置することが好ましい。もっとも、超音波加湿装置を室外に設けて、該装置から出るミストを、ダクトを介して、収容室(又は差圧室)に導入する方式でもよい。
【0051】
また、上記各実施形態において、処理液のミストを、下記の方法にてマイナスに帯電させてもよい。ミストがマイナスに帯電することにより、静電作用が生じ、柑橘果実の表面にミストが付着し易くなる。
ミストをマイナスに帯電させる手段としては、上記噴霧ノズルに、又は、上記超音波加湿装置に、帯電装置を具備させることが挙げられる。例えば、噴霧ノズルを用いる場合には、ノズルの噴出口に、帯電用電極を設けることにより、ミストをマイナスに帯電させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】一実施形態に係るカビ抑制貯蔵装置を天面壁側から視た参考平面図
【図2】同カビ抑制貯蔵装置を右側面壁側から視た参考側面図。
【図3】同カビ抑制貯蔵装置を正面壁側から視た参考正面図。
【図4】噴霧装置機構の一例を示す概略図。
【図5】予措工程に於ける室温と時間の関係を示すグラフ図。
【図6】他の実施形態に係るカビ抑制貯蔵装置を天面壁側から視た参考平面図。
【図7】同カビ抑制貯蔵装置を右側面壁側から視た参考側面図。
【符号の説明】
【0053】
1…カビ抑制貯蔵装置、2…収容室、2’…差圧室、3…送風装置、31…送風ファン、32…空調機、33…換気装置、34…吸排気口、4…噴霧ノズル、5…圧送装置、7…コンテナ、8…差圧シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の柑橘果実を収納したコンテナを収容室内に入れ、この収容室内に気流を起こしつつ、カビ抑制剤を含む処理液を噴霧し、前記複数の柑橘果実の表面に前記処理液を付着させることを特徴とする柑橘果実のカビ抑制方法。
【請求項2】
前記処理液のミストが、平均粒径100μm以下である請求項1に記載の柑橘果実のカビ抑制方法。
【請求項3】
前記処理液のミストが、マイナスに帯電されている請求項1または2に記載の柑橘果実のカビ抑制方法。
【請求項4】
前記カビ抑制剤が、カピリンを有効成分として含む請求項1〜3の何れかに記載の柑橘果実のカビ抑制方法。
【請求項5】
収容室と、前記収容室内に気流を生じさせる送風装置と、前記収容室内にカビ抑制剤を含む処理液をミスト状にして噴出する噴霧装置と、前記収容室内に設置され且つ複数の柑橘果実が収納されたコンテナと、を有することを特徴とする柑橘果実のカビ抑制貯蔵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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