説明

柑橘類の外皮および内皮の剥皮易化方法

【課題】物理的処理と3種類の混合酵素による処理を組み合わせることで、生の柑橘類果実の外皮および内皮の剥皮を同時に容易にする方法を提供する。
【解決手段】生の柑橘類果実の穴あけによる物理的処理を行い、かつ処理後の果実体にセルラーゼ系酵素、ペクチナーゼ系酵素およびヘミセルラーゼ系酵素の3種類を混合した酵素液を、減圧下で浸漬し、反応させることによって、外皮および内皮を同時に剥皮しやすくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物理的処理と複数酵素混合液による処理を組み合わせた柑橘類の剥皮方法に関し、詳細には、柑橘系果実の外皮および内皮の剥皮を同時に容易にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘類の果実は、可食部分である果肉(砂じょう)がじょうのう膜で包まれ、じょうのうを形成し、じょうのうが外果皮(フラベト)および内果皮(アルベド)からなる果皮で包まれている。一般的にじょうのう膜を内皮といい、果皮を外皮という(図2)。柑橘類の果実は一般的にその外皮および内皮を人の手で剥くことは困難を伴う場合が多い。時間をかけて外皮を剥いたとしてもアルベド層が厚く残っている場合が多く、可食部分を得ることは容易ではない。また果肉房の内皮(じょうのう膜)内の果肉を得ようとすれば、内皮と果肉との分離が困難で果肉が崩れることも多い。柑橘類の外皮を剥皮しやすくする方法として、凍結処理法(特許文献1)や加圧処理法(特許文献2)など物理的な処理を加える方法が知られているが、いずれも内皮の剥皮まで容易にさせるものではない。酵素を用いた剥皮易化方法として柿に対してペクチナーゼ酵素液に含浸させる方法(特許文献3、特許文献4)、酵素処理と物理的処理を組み合わせた方法として栗に対してセルラーゼおよびペクチナーゼ酵素液に浸漬し加圧する方法(特許文献5)が既に提案されているが、対象は柑橘類ではない。これらの方法は、果実部分が柔らかい柑橘類には適用することはできなかった。柑橘類を対象とした物理的処理と酵素処理を併用する方法として、外皮を剥いたまるごとの生の柑橘類果実を製造する方法(特許文献6、特許文献7)がある。これは外皮(アルベド層)を貫くが内皮(じょうのう膜)は貫かないように果皮表面に傷をつけ、ペクチナーゼ酵素液に浸漬し、減圧または加圧注入したのち、25℃以下で貯蔵することで行う。しかしこの方法でも内皮から果肉を容易に取り出す効果は記載されていない。他には柑橘類果実を剥皮するための方法および装置を提供する方法(特許文献8)が提案されている。これは酵素が内皮を貫通することなくアルベド部分に進入できるように果皮部分に切り目を入れ、ペクチナーゼ酵素液に浸漬させることで行う。ただしこの方法でも内皮に対する効果の記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1-304873号公報
【特許文献2】特公平5-20061号公報
【特許文献3】特許第3617042号明細書
【特許文献4】特開2008-86258号公報
【特許文献5】特開平10-84928号公報
【特許文献6】特許第2572476号明細書
【特許文献7】特開平5-219914号公報
【特許文献8】特開2004-159639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、物理的処理と複数酵素混合液による処理を組み合わせた柑橘類の剥皮方法の提供を目的とする。詳細には、柑橘類の外皮(アルベド層)のみならず内皮(じょうのう膜)剥皮を同時に容易にする方法を開発した。すなわち、外皮の剥皮が容易に手で行え、かつ内皮も果肉から容易に分離することができ、取り出した果肉が実割れしにくい方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来技術(特許文献6,7)のペクチナーゼ系酵素混合液での浸漬では外皮は剥皮しやすくなるが、内皮は堅固に残っており、果肉を容易に取り出せるには至らなかった。これらを鑑みて鋭意検討した結果、柑橘類果実の内皮(じょうのう膜)を貫通し果肉に届くくらいの穴あけ処理からなる物理的処理と、ヘミセルラーゼ系酵素をセルラーゼおよびペクチナーゼ系酵素に加えた混合酵素反応処理を併用することで、外皮と共に内皮の剥皮も容易となった。
【0006】
本発明は、物理的な穴あけ処理を行った柑橘類果実に対し、内外皮の構成成分を分解する3種類の酵素液を減圧下で浸漬させ、反応させることを特徴とした剥皮方法である。物理的処理としては、果肉が損傷しない程度に果実の外皮表面から内皮を貫通して果肉に達する程度までの傷つけ処理を行う。また、酵素としてセルラーゼ系、ペクチナーゼ系、およびヘミセルラーゼ系の各酵素を組み合わせることが重要となる。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] (1)外皮の剥皮が容易に手で行え、かつ
(2)内皮も果肉から実割れすることなく容易に分離することができる、柑橘類果実を製造する方法であり、
(a)柑橘類果実の果実表面から内皮を貫通して果肉に達する程度に穴あけ処理からなる物理的処理を行った後、
(b)セルラーゼ系酵素、ペクチナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素の3種類の混合酵素で酵素処理することを含む加工処理を行う、柑橘類果実を製造する方法。
[2] 酵素処理を減圧下で行うことを特徴とする[1]の柑橘類果実を製造する方法。
[3] [1]または[2]の方法により製造された柑橘類果実。
[4] 果実表面から内皮を貫通した穴を有し、外皮組織および内皮組織にセルラーゼ系酵素、ペクチナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素を検出可能に含む、[3]の柑橘類果実。
【発明の効果】
【0008】
内外皮の厚い柑橘類果実の剥皮は現在手作業で行われることが多く、その果肉を利用した食品加工は高コストを伴う。外皮および内皮を一連の工程で同時に剥皮易化する方法は、人的コストの低減に奏功するとともに、大幅な作業時間短縮にも繋がると考えられる。また酸やアルカリ等の化学薬品処理に頼らない本法の柑橘類果実体あるいは果肉房の調製によって、例えばより果肉の食感やみずみずしさを訴求したこれまでにない付加価値商品を開発、提供できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】各酵素のぺクチナーゼ活性を示す図である。
【図2】柑橘類果実の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法は、柑橘類果実の剥皮が容易に行うことができるように、柑橘類果実の外皮の剥皮が容易に行うことができ、かつ内皮と果肉の分離が果肉が実割れすることなく容易に行うことができるように、柑橘類果実に物理的処理および酵素処理を行い、柑橘類果実を加工する方法である。本発明において、このような剥皮が容易に行うことができるようにする処理を剥皮易化という。柑橘類果実の剥皮とは、柑橘類果実の外皮の剥皮および内皮の剥皮をいい、外皮の剥皮とは果実から外果皮と内果皮からなる外皮を剥がすことをいい、内皮の剥皮とは果肉が実割れすることなく内皮と果肉を分離することをいう。すなわち、本発明の方法は、外皮の剥皮が容易に行うことができ、かつ内皮と果肉の分離が果肉が実割れすることなく容易に行うことができるように、柑橘類果実に連続的に物理的処理および酵素処理を行い、柑橘類果実を加工し、剥皮易化した柑橘類果実を製造する方法である。さらに、本発明は柑橘類果実の剥皮方法である。
【0011】
対象の柑橘類としては、グレープフルーツ、オレンジ類、温州みかん、香酸柑橘(レモン、ゆず、ライム、かぼす、すだち、シークワーサー、だいだい、きんかん等)、その他柑橘(伊予柑、八朔、甘夏、夏みかん、不知火(デコポン)、ポンカン、清見、日向夏、河内晩柑、セミノール、はるか、サンフルーツ、マーコット、アンコール、晩白柚、ぶんたん、カラ、天草、スイートスプリング、なつみ、はれひめ、まりひめ、黄金柑、紅まどんな、ひめのつき、カクテルフルーツ、ミネオラ等)等が挙げられる。
【0012】
柑橘類果実への物理的処理としては、内皮および外皮を有する完全な柑橘類果実への穴あけ処理が挙げられる。穴あけ処理は、果肉が損傷しない程度に果実の外皮表面から内皮を貫通して果肉に達する程度までの傷つけ処理を行うことをいう。穴あけ処理は、先の尖った細い針状の器具を用いて行うことができ、例えば、ようじ、ドライバー、錐、千枚通し等を用いることができる。また、一度に複数の穴をあけるために、食器として用いられる家庭用フォークや生け花用の剣山、およびテンダライザー等も用い得る。さらに、カッター、ドリル、ミシン等を含む自動穴あけ機、ナイフなどの刃物類、レーザー、超音波、風圧および水圧等を利用した傷つけ処理も含む。穴あけは、柑橘類果実の表面から上記器具を用いて穴を開ける。この際、果実表面から器具を用いて損傷を施し、内皮を貫通し、果肉に達する程度の深さの穴を開ければよい。果肉(じょうのう)に少し食い込むくらいに刺し、傷をつける。
【0013】
穴あけ処理は、柑橘類果実の加工の次の工程の酵素処理の際に、酵素が外皮の内部および内皮に接触できるようにするために行う。
【0014】
外皮および内皮の構成物を分解し、剥皮しやすくする酵素としては、セルラーゼ、ペクチナーゼおよびヘミセルラーゼが挙げられ、これら3種類の酵素を組み合わせて使用する。具体的には、例えばトリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、リゾパス(Rhizopus)属(リゾパス・ニベウス(Rhizopus niveus)、リゾパス・デレマー(Rhizopus delemar)等)、バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)等の産生する酵素が挙げられる。本発明において、セルラーゼ活性を有する酵素をセルラーゼ系酵素、ぺクチナーゼ活性を有する酵素をぺクチナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ活性を有する酵素をヘミセルラーゼ系酵素という。すなわち、本発明の方法においては、セルラーゼ系酵素、ぺクチナーゼ系酵素およびヘミセルラーゼ系酵素の3種類の混合酵素を用いて酵素処理する。酵素によっては、セルラーゼ活性、ペクチナーゼ活性、およびヘミセルラーゼ活性のうち2つ以上の活性を併せ持つものもある。本発明においては、添加する酵素液に、セルラーゼ活性、ペクチナーゼ活性およびヘミセルラーゼ活性があることが重要であり、例えば、セルラーゼ系酵素と併せて、ペクチナーゼ活性およびヘミセルラーゼ活性の2つの活性を併せ持つ1種類の酵素を用いる場合も、セルラーゼ系酵素、ぺクチナーゼ系酵素およびヘミセルラーゼ系酵素の3種類の混合酵素を用いて酵素処理するという。あるいは、セルラーゼ系酵素、ぺクチナーゼ系酵素およびヘミセルラーゼ系酵素の3種類の混合酵素を用いての酵素処理をセルラーゼ活性、ぺクチナーゼ活性およびヘミセルラーゼ活性を有する酵素液を用いた酵素処理ということもできる。
【0015】
酵素は、対象の柑橘類果実の種類によっても異なるが、処理果実重量の2倍量以上の水に酵素0.1〜1.0質量%を添加し、よく懸濁して用いる。この際、上記3種類の酵素を混合した酵素液を調製して用いることが好ましい。
【0016】
酵素液を柑橘類果実中に含ませるために、減圧下で浸漬処理を行う。より詳細には上記の物理的処理を施した柑橘類果実を、上記の濃度で調製した酵素液に漬けて、好ましくは720mmHg以上にて5分間以上の減圧処理を実施する。
【0017】
減圧下で浸漬処理を行った後に、酵素反応を行う。酵素反応は以下の条件で行う。すなわち、酵素液を浸漬させた素材を35℃〜55℃の恒温水槽にて30分間〜60分間浸漬する。より好ましくは45℃の水槽に45分間の浸漬を行うことである。苦味物質の生成を抑制するために85℃以上の高温下での処理は行わないことが好ましい。苦味生成抑制として、酵素反応時にナリンギナーゼを併用することも可能である。
【0018】
上記のように、物理的処理および酵素処理した柑橘類果実の外皮および内皮の組織は軟化され剥がれ易くなり、外皮および内皮は手で容易に剥けるようになる。また、内皮を剥くときに果肉の実割れも起こらない。外皮および内皮は手を用いて剥くこともできるし、果肉が損傷しない程度であれば、例えば各種機器や水圧や風圧を利用した物理的処理によっても剥皮は可能である。
本発明の方法によれば、外皮と内皮を同時に剥皮易化することができる。
【0019】
本発明は、上記の剥皮易化方法で製造した柑橘類果実をも包含する。該果実は、果実表面から内皮を貫通した穴を有し、さらに、外皮および内皮組織にセルラーゼ系酵素、ペクチナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素を検出可能に含んでいる。ここで検出可能に含んでいるとは、例えば、抗体を用いた免疫学的測定法により検出可能な程度に含まれていることをいう。
【実施例】
【0020】
(比較例1)酵素単独使用によるグレープフルーツの剥皮易化検討
(a)試料
アメリカ産グレープフルーツ(ホワイト種)、セルラーゼ系酵素としてセルラーゼ・“オノズカ”3S、マセロチームA(共にヤクルト薬品工業株式会社)、ペクチナーゼ系酵素としてラピダーゼC80MAX L(ディー・エス・エムジャパン株式会社)を用いた。
【0021】
(b)方法
グレープフルーツに市販家庭用フォークで外皮を貫通し果肉に刺さる程度で果実全体に100箇所程度穴あけ処理を行ったのち、表1の各濃度(質量%)の各酵素液を入れたビーカーにそれぞれ浸した。所定温度の恒温水槽にビーカーを入れ、2時間後まで外皮の様子を観察した。
【0022】
【表1】

【0023】
(c)結果
2時間経過した時点でD:酵素なしと比較してC:ラピダーゼ0.2質量%で明らかな浮き皮、剥き易さが認められ、C、A、B、Dの順で外皮が剥皮しやすいことが認められた(表2:剥皮しやすい順に◎、○、△、×)。しかし、いずれの試験群も内皮の剥皮易化は認められなかった。
【0024】
【表2】

【0025】
(比較例2)酵素2種の併用によるグレープフルーツにおける外皮および内皮の剥皮易化検討
(a)試料
アメリカ産グレープフルーツ(ルビー種)、セルラーゼ系酵素としてセルラーゼ・“オノズカ”3S(ヤクルト薬品工業株式会社)(以下オノズカ)、ペクチナーゼ系酵素としてラピダーゼC80MAX L(ディー・エス・エムジャパン株式会社)(以下ラピダーゼ)を用いた。試験区は、A:オノズカとラピダーゼがそれぞれ0.2質量%ずつ、B:オノズカ0.1質量%とラピダーゼ0.3質量%、そしてC:ラピダーゼ0.4質量%の3通りに対して、物理的処理として穴あけをヘタとヘソ部分の上下2箇所のみ(穴あけ(1))、あるいは果実体に満遍なく100箇所程度施す(穴あけ(2))2通り、そして減圧下での浸漬後の反応条件を45℃のお湯に30分漬ける(反応(1))、あるいは室温で1時間放置(反応(2))の2通りをそれぞれ行う12試験区で実施した(表3)。
【0026】
(b)方法
グレープフルーツ(以下GF)に対して千枚通しを用いて、上記2通りの穴あけ処理を行った。GF重量の2倍量の酵素液を上記濃度で適宜調製した後、穴あけ処理を行ったGFを浸し、720mmHgの減圧下での浸漬処理を10分間行った。酵素液からGFを取り出し、上記2通りの反応条件で反応を行い、外皮の剥皮評価を行った。続いて果肉体を流水下で30分以上冷却したのち、内皮の剥皮評価を行った。
【0027】
(c)結果
2通りの穴あけ方法による内外皮の剥皮に違いは認められなかった。酵素液の配合はオノズカ0.1質量%とラピダーゼ0.3質量%、反応条件は45℃のお湯で30分置いたものが最も剥皮易化が認められた(表3:剥皮しやすい順に◎、○、△、×)。しかし、いずれの試験群も顕著な内皮の剥皮易化は認められなかった。
【0028】
【表3】

【0029】
(実施例1)酵素3種の併用による内皮(じょうのう膜)繊維組織の軟化作用検討
(a)試料
アメリカ産グレープフルーツ(ルビー種)、セルラーゼ系酵素としてセルラーゼ・“オノズカ”3S(ヤクルト薬品工業株式会社)、ペクチナーゼ系酵素としてラピダーゼC80MAX L(ディー・エス・エムジャパン株式会社)、ヘミセルラーゼ系酵素としてセルラーゼY-NC(ヤクルト薬品工業株式会社)、ヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム株式会社)を用いた。
【0030】
(b)方法
グレープフルーツから内皮(じょうのう膜)の組織を切り取った。表4に示す各酵素液を調製し、1)(1)+(2)+水、2)(1)+(2)+(3)、3)(1)+(2)+(4)、および4)水の4試験区を設定した。1〜3は各酵素液および水は等量ずつ混合した。調整した酵素液に内皮組織を漬け、45℃で2時間反応させて組織を観察した。
【0031】
【表4】

【0032】
(c)結果
上記試験区2(オノズカ、ラピダーゼ、セルラーゼY-NC)および3(オノズカ、ラピダーゼ、アマノ90)において内皮組織崩壊効果が顕著に見られた。
【0033】
(実施例2)内皮(じょうのう膜)付き果肉房の内皮組織軟化に寄与する酵素の検討
(a)試料
アメリカ産グレープフルーツ(ルビー種)、セルラーゼ系酵素としてセルラーゼ・“オノズカ”3S(ヤクルト薬品工業株式会社)、ペクチナーゼ系酵素としてラピダーゼC80MAX L(ディー・エス・エムジャパン株式会社)、ヘミセルラーゼ系酵素としてセルラーゼY-NC(ヤクルト薬品工業株式会社)、ヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム株式会社)を用いた。
【0034】
(b)方法
グレープフルーツから内皮(じょうのう膜)付きの果肉房を取り分けた。実施例3の方法に示す1)(1)+(2)+水、2)(1)+(2)+(3)、3)(1)+(2)+(4)、および4)水の4試験区を設定した。各酵素液および水は等量ずつ混合した。調製した酵素液に内皮付き果肉房を漬け、減圧下での浸漬後、45℃で30分間反応させて組織を観察した。
【0035】
(c)結果
上記試験区2(オノズカ、ラピダーゼ、セルラーゼY-NC)および3(オノズカ、ラピダーゼ、アマノ90)において内皮組織崩壊効果が顕著に見られた。
【0036】
(実施例3)従来法(特許第2572476号公報に記載の方法)との剥皮比較検討
(a)試料
方法1,2共にアメリカ産グレープフルーツ(フレーム種)を用いた。方法1ではセルラーゼ系酵素としてセルラーゼ・“オノズカ”3S(ヤクルト薬品工業株式会社)、ペクチナーゼ系酵素としてラピダーゼC80MAX L(ディー・エス・エムジャパン株式会社)、ヘミセルラーゼ系酵素としてヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム株式会社)を用いた。方法2では、ペクチナーゼ系酵素としてNOVOペクチネス3XL(ノボザイムズジャパン株式会社)を用いた。
【0037】
(b)方法
方法1
グレープフルーツ(以下GF)に対して千枚通しを用いて、穴あけ処理を行った。GF重量の2倍量の酵素液(セルラーゼ・オノズカ、ラピダーゼ、およびアマノ90のそれぞれ0.1質量%、0.3質量%、0.3質量%)に穴あけ処理を行ったGFを浸し、720mmHg下で5分間の減圧下での浸漬処理を行った。酵素液からGFを取り出し、45℃のお湯に漬けて45分間反応を行い、果実体を流水下で30分以上冷却したのち、外皮および内皮を剥皮し、個々の果肉房から果肉を一つ一つ取り出せるまでの時間について、方法2との比較を行った。
【0038】
方法2(特許第2572476号公報に記載の方法)
室温に置いたGFへ、果肉には届かない程度で6等分に切り込みを入れるように外皮に傷を付けた。前日から35℃に保温していた水を用いて酵素液(0.15質量%のNOVOペクチネス3XL)を調製し、そこへ傷を付けたGFを入れ、720mmHg下で3分間の減圧下浸漬処理を行った。室温にて1時間から2時間静置したのち、外皮および内皮を剥皮し、個々の果肉房から果肉を一つ一つ取り出せるまでの時間について、方法1との比較を行った。
【0039】
(c)結果
本法(方法1)で処理したGFは、特許出願されている従来法(方法2)と比較しておよそ半分の時間で、外皮および内皮の剥皮が行えた(表5)。また、方法2では、果肉の実割れが多く見られた。
【0040】
【表5】

【0041】
(実施例4)グレープフルーツ以外の柑橘類での検討
(a)試料
温州みかん、甘夏を用いた。セルラーゼ系酵素としてセルラーゼ・“オノズカ”3S(ヤクルト薬品工業株式会社)、ペクチナーゼ系酵素としてラピダーゼC80MAX L(ディー・エス・エムジャパン株式会社)、ヘミセルラーゼ系酵素としてヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム株式会社)を用いた。
【0042】
(b)方法
温州みかん、もしくは甘夏に対して穴あけ処理を行った。果実重量の2倍量の酵素液(セルラーゼ・オノズカ、ラピダーゼ、およびアマノ90のそれぞれ0.1質量%、0.3質量%、0.3質量%)に穴あけ処理を行った果実を浸し、720mmHg下で5分間の減圧下での浸漬処理を行った。酵素液から果実を取り出し、45℃のお湯に漬けて45分間反応を行い、果実体を流水下で30分以上冷却したのち、外皮および内皮の剥皮を行った。
【0043】
(c)結果
温州みかん、甘夏ともに、外皮および内皮は柔らかくなり、容易に個々の果肉を取り出せた。
【0044】
(実施例5)ヘミセルラーゼ系酵素ヘミセルラーゼ「アマノ」90中のペクチナーゼ活性測定
(a)試薬・試料
基質として1%ペクチン水溶液を用いた。標準試料としてD-ガラクツロン酸ナトリウムを適宜濃度に調製した。発色用試薬として3,5-ジメチルフェノール酢酸溶液を0.1%調製した。酵素は、ヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム株式会社)、ペクチナーゼ系酵素として、ラピダーゼ・パインアップル(ディー・エス・エムジャパン株式会社)、およびPECLYVE LI(株式会社樋口商会)を用いた。
【0045】
(b)方法
ペクチナーゼ活性は、基質のペクチン量に対するガラクツロン酸生成量の割合で評価した。ペクチンに酵素を添加し、45℃で60分間反応させたのち、エタノール沈殿を行った。得られたウロン酸について、反応開始時と60分後の2点で3,5-ジメチルフェノール法にて吸光度測定を行い、D-ガラクツロン酸ナトリウムに換算した。60分間で生成したガラクツロン酸量に基づき、ペクチナーゼ活性を評価した。
【0046】
(c)結果
結果を図1に示す。主要な酵素活性がペクチナーゼ活性である、ラピダーゼ・パインアップル、およびPECLYVE LIは45%程度のペクチナーゼ活性を示したのに対し、ヘミセルラーゼ「アマノ」90は25%程度のペクチナーゼ活性を示した。
【0047】
(実施例6)2種の酵素製剤を用いたグレープフルーツ剥皮検討
(a)試料
南アフリカ産グレープフルーツ(スタールビー種)、セルラーゼ系酵素としてセルラーゼ・“オノズカ”3S(ヤクルト薬品工業株式会社)、ヘミセルラーゼ系酵素としてヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム株式会社)を用いた。
【0048】
(b)方法
グレープフルーツ(以下GF)に対して穴あけ処理を行った。GF重量の2倍量以上の酵素液(セルラーゼ・オノズカ、アマノ90のそれぞれ0.1質量%、0.2質量%)に穴あけ処理を行ったGFを浸し、700mmHg下で5分間の減圧下での浸漬処理を2回行った。酵素液からGFを取り出し、45℃のお湯に漬けて45分間反応を行い、果実体を流水下で30分以上冷却した。その後、外皮および内皮を剥皮し、個々の果肉房からすべての果肉を一つ一つ取り出せるまでの時間を測定した。
【0049】
(c)結果
3人が1回ずつ剥皮し、平均剥皮時間は2分40秒であった。(表6)これは実施例5の方法1における3種類の酵素製剤を用いたグレープフルーツ剥皮時間と同等であった。
【0050】
【表6】

【0051】
(実施例7)2種の酵素製剤を用いたグレープフルーツ以外の柑橘類剥皮の検討
(a)試料
甘夏、サンフルーツ、デコポン、清見、河内晩柑2種(宇和ゴールド、美生柑)を用いた。セルラーゼ系酵素としてセルラーゼ・“オノズカ”3S(ヤクルト薬品工業株式会社)、ヘミセルラーゼ系酵素としてヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム株式会社)を用いた。
【0052】
(b)方法
上記6種類の柑橘果実に対して穴あけ処理を行った。果実重量の2倍量の酵素液(セルラーゼ・オノズカ、アマノ90のそれぞれ0.1質量%、0.2質量%)に穴あけ処理を行った果実を浸し、720mmHg下で5分間の減圧下での浸漬処理を2回行った。酵素液から果実を取り出し、45℃のお湯に漬けて45分間反応を行い、果実体を流水下で30分以上冷却したのち、外皮および内皮の剥皮を行った。
【0053】
(c)結果
甘夏、サンフルーツ、デコポン、清見、河内晩柑2種(宇和ゴールド、美生柑)の6種類すべて、外皮および内皮は柔らかくなり、容易に個々の果肉を取り出せた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)外皮の剥皮が容易に手で行え、かつ
(2)内皮も果肉から実割れすることなく容易に分離することができる、柑橘類果実を製造する方法であり、
(a)柑橘類果実の果実表面から内皮を貫通して果肉に達する程度の穴あけ処理からなる物理的処理を行った後、
(b)セルラーゼ系酵素、ペクチナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素の3種類の混合酵素で酵素処理することを含む加工処理を行う、柑橘類果実を製造する方法。
【請求項2】
酵素処理を減圧下で行うことを特徴とする請求項1記載の柑橘類果実を製造する方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により製造された柑橘類果実。
【請求項4】
果実表面から内皮を貫通した穴を有し、外皮組織および内皮組織にセルラーゼ系酵素、ペクチナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素を検出可能に含む、請求項3記載の柑橘類果実。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−44984(P2012−44984A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148499(P2011−148499)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000233620)株式会社マルハニチロ食品 (34)
【Fターム(参考)】