説明

柑橘類の評価装置および柑橘類の評価方法

【課題】苦味と、酸味およびす上がりとの強い相関に着目し、柑橘類の苦味を光学的にかつ非破壊的に測定・評価することを目的とする。
【解決手段】受光部において受光した透過光を、複数の波長帯チャンネルのスペクトルに分光し、複数の波長帯チャンネルのスペクトルから、複数の波長帯チャンネルの吸光度を算出し、所定の波長帯チャンネルの吸光度、吸光度の差分、吸光度の2次微分のいずれか、または、これらの組み合わせからなる検量線式と、複数の波長帯チャンネルの吸光度とに基づいて、柑橘類の内部品質を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類の苦味やす上がりの度合いなどの内部品質を、搬送ラインを使用して光学的にかつ非破壊的に測定・評価するための柑橘類の評価装置および柑橘類の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、果実、野菜などの青果類の、糖度、酸度、熟度などの内部品質を、青果類を破壊することなく外部から測定する技術が種々提案されている。
このような青果類の内部品質を非破壊的に測定する方法として、近赤外線光を青果類に照射する方法があり、これらには反射を利用する方法と透過光を利用する方法が提案されている。
【0003】
反射光を利用する方法は、例えば、比較的表皮の薄いモモ、ナシ、リンゴなどの測定に向いており、薄い表皮を通過し果肉表層部で反射された測定光は、受光部で受光され、この反射光を解析することにより内部品質を測定・評価することができる。しかしながら、この反射光を利用する方法では、果肉表層部近傍での反射光を受光するため、得られた反射光の解析からは表皮近くの内部品質のみしか得られないことになる。
【0004】
一方で、透過光を利用する評価方法では、例えば、比較的表皮の厚いミカン、オレンジなどの柑橘類、メロン、スイカなどの測定に向いており、照射測定光は果肉内部を透過して反対側から出射し、この透過光を受光部で受けて解析することにより内部品質を測定・評価することができる。
【0005】
このような透過光を利用する評価方法は、例えば、特許文献1(特開2005−9932号公報)に開示されている。
特許文献1には、搬送ライン上を搬送される青果類に対して、搬送ラインの側方側に配置した光源から測定光を照射して、青果類を透過した透過光を、搬送ラインの上方に配置した上方側受光部と、搬送ラインの下方に配置した下方側受光部とによって受光することによって、青果類全体を測定することができ、青果類のいかなる部分に内部傷害が存在していても測定・評価することができる青果類の評価装置および青果類の評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−9932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に開示された評価装置では、青果類の内部品質として、糖度、酸度、熟度などが測定可能であるが、「苦味」については記載されておらず、また、青果類の中でも柑橘類に特有な内部品質である「す上がり」についても記載されていない。
【0008】
青果類中に十数%オーダーで含まれる糖度成分や、1〜2%オーダーで含まれる酸味成分とは異なり、青果類中にppmオーダーでしか含まれていない苦味成分については、苦味成分に吸光される度合いが極めて低いため、透過光の吸光度に基づいて苦味を直接的に測定・評価することは困難であり、光学センサーによって苦味を測定できなかった。
【0009】
このため、青果類の苦味を測定・評価するためには、青果類を搾汁し、固相抽出など化学的な方法を用いたセンサーによって測定する必要があり、青果類の苦味を非破壊的に測定・評価することはできなかった。
【0010】
今回、本発明者らは、柑橘類の苦味が柑橘類の酸味およびす上がりと強い相関を有することを見いだした。本発明は、この苦味と、酸味およびす上がりとの強い相関に着目し、柑橘類の苦味を光学的にかつ非破壊的に測定・評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述したような従来技術における課題及び目的を達成するために発明されたものであって、本発明の柑橘類の評価方法は、柑橘類に対して光源から測定光を照射して、柑橘類を透過した透過光を受光部において受光することによって、柑橘類の内部品質を非破壊的に評価する柑橘類の評価方法であって、
前記受光部において受光した透過光を、複数の波長帯チャンネルのスペクトルに分光し、
前記複数の波長帯チャンネルのスペクトルから、複数の波長帯チャンネルの吸光度を算出し、
所定の波長帯チャンネルの吸光度、吸光度の差分、吸光度の2次微分のいずれか、または、これらの組み合わせからなる検量線式と、前記複数の波長帯チャンネルの吸光度とに基づいて、柑橘類の内部品質を評価することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の柑橘類の評価装置は、柑橘類に対して光源から測定光を照射して、柑橘類を透過した透過光を受光部において受光することによって、柑橘類の内部品質を非破壊的に評価する柑橘類の評価装置であって、
前記柑橘類に対して測定光を照射するための光源と、
前記柑橘類を透過した透過光を受光するための受光部と、
前記受光部で受光した透過光を、複数の波長帯チャンネルのスペクトルに分光する分光部と、
前記複数の波長帯チャンネルのスペクトルから、複数の波長帯チャンネルの吸光度を算出し、所定の波長帯チャンネルの吸光度、吸光度の差分、吸光度の2次微分のいずれか、または、これらの組み合わせからなる検量線式と、前記複数の波長帯チャンネルの吸光度とに基づいて、柑橘類の内部品質を評価する信号処理部と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
このように所定の波長帯チャンネルの吸光度、吸光度の差分、吸光度の2次微分のいずれか、または、これらの組み合わせからなる検量線式によって、柑橘類の内部品質を光学的にかつ非破壊的に、しかも正確に測定することが可能となる。
【0014】
特に、所定の波長帯チャンネルの吸光度の差分と吸光度の2次微分との組み合わせからなる検量線式を用いることによって、相関係数の高い、すなわち、測定精度の高い検量線式とすることができ、柑橘類の内部品質を正確に測定することができる。
【0015】
また、本発明の柑橘類の評価方法は、サンプルとなる柑橘類について、複数の波長帯チャンネルの吸光度を算出し、
前記サンプルとなる柑橘類について、内部品質を測定し、
前記サンプルとなる柑橘類についての複数の波長帯チャンネルの吸光度と、前記サンプルとなる柑橘類についての内部品質とに基づいて、重回帰分析によって前記検量線式が事前に導出されていることを特徴とする。
【0016】
このようにサンプルとなる青果類について、重回帰分析を用いて検量線式を導出しておくことによって、光学的にかつ非破壊的に、しかも正確に柑橘類の内部品質の測定・評価を行うことができる。
【0017】
また、本発明の柑橘類の評価方法は、前記検量線式が、600nm〜850nmの波長帯から選択される波長帯チャンネルの吸光度、吸光度の差分、吸光度の2次微分のいずれか、または、これらの組み合わせからなる項を少なくとも含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の柑橘類の評価方法は、前記柑橘類の内部品質が、柑橘類の苦味またはす上がりであることを特徴とする。
このように600nm〜850nmの波長帯の透過光を用いることによって、柑橘類の内部品質、特に、柑橘類の苦味やす上がりを正確に測定できる。これは、600nm〜850nmの波長帯の可視・近赤外線光が、特に、柑橘類のす上がりに影響されやすいことに基づいている。
【0019】
今回、本発明者らによって、柑橘類の苦味が、柑橘類のす上がりおよび酸味と強い相関があることが見いだされたことで、柑橘類の苦味を、光学的にかつ非破壊的に、しかも正確に測定することができるようになった。
【0020】
また、本発明の柑橘類の評価方法では、前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【0021】
【数1】

(ただし、AimおよびAjmは所定の波長帯チャンネルの吸光度、amおよびbは各項の係数である)
で表されることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の柑橘類の評価方法では、前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【0023】
【数2】

(ただし、Aim-1,Aim,Aim+1は所定の波長帯チャンネルの吸光度、amおよびbは各項の係数である)
で表されることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の柑橘類の評価方法では、前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【0025】
【数3】

(ただし、Aim,Ajm,Ain+1は所定の波長帯チャンネルの吸光度、am,b,cは各項の係数である)
で表されることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の柑橘類の評価方法では、前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【0027】
【数4】

(ただし、Aim-1,Aim,Aim+1,Ain+1は所定の波長帯チャンネルの吸光度、am,b,cは各項の係数である)
で表されることを特徴とする。
【0028】
また、本発明の柑橘類の評価方法では、前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【0029】
【数5】

(ただし、Aim,Ajm,Aip,Ajpは所定の波長帯チャンネルの吸光度、am,bp,cは各項の係数である)
で表されることを特徴とする。
【0030】
また、本発明の青果類の評価方法では、前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【0031】
【数6】

(ただし、Aim,Ajm,Aip,Ajp,Ain+1は所定の波長帯チャンネルの吸光度、am,bp,c,dは各項の係数である)
で表されることを特徴とする。
【0032】
このようなモデル式に基づいて検量線式を事前に導出することによって、相関係数の高い、すなわち、測定精度の高い検量線式を用いて柑橘類の苦味やす上がりなどの内部品質の測定・評価を行うことができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、柑橘類の苦味が柑橘類の酸味およびす上がりと強い相関を有することに基づき、光学的にかつ非破壊的に柑橘類の苦味やす上がりなどの内部品質を測定・評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の柑橘類の評価方法を説明する柑橘類の評価装置を用いた実施例を示した平面図である。
【図2】図2は、図2は、本発明の柑橘類の評価方法を説明する柑橘類の評価装置の概略構成図である。
【図3】図3は、柑橘類の評価装置の変形例を示す概略構成図である。
【図4】図4は、柑橘類の評価装置の変形例を示す概略構成図である。
【図5】図5は、柑橘類の評価装置の変形例を示す概略構成図である。
【図6】図6は、柑橘類の評価装置の変形例を示す概略構成図である。
【図7】図7は、柑橘類の評価装置の変形例を示す概略構成図である。
【図8】図8は、利用する波長帯チャンネルの範囲を変えて、複数のパターンの検量線式を導出した際の、本発明の評価装置によって測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数の測定結果を示したものである。
【図9】図9は、利用する波長帯チャンネルの範囲を変えて、複数のパターンの検量線式を導出した際の、本発明の評価装置によって測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数の測定結果を示したものである。
【図10】図10は、利用する波長帯チャンネルの範囲を変えて、複数のパターンの検量線式を導出した際の、本発明の評価装置によって測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数の測定結果を示したものである。
【図11】図11は、利用する波長帯チャンネルの範囲を変えて、複数のパターンの検量線式を導出した際の、本発明の評価装置によって測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数の測定結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
1.柑橘類の評価装置の装置構成
図1は、本発明の柑橘類の評価方法を説明する柑橘類の評価装置を用いた実施例を示した平面図、図2は、本発明の柑橘類の評価方法を説明する柑橘類の評価装置の概略構成図であり、符号10は全体で柑橘類の評価装置(以下、単に「評価装置」と言う)を示している。
【0036】
図1に示したように、評価装置10は、例えば、コンベアなどの搬送ライン12上に、搬送方向Xに連続して所定間隔離間して配置された搬送トレイ14を備えている。この搬送トレイ14の上面には、外方向に傾斜したテーパー面14aを有しており、このテーパー面14a上に、例えば、被評価体であるミカン、レモンなどの柑橘類16が載置されて、搬送方向Xに連続して搬送されるようになっている。
【0037】
そして、この搬送ライン12の途中には、柑橘類の測定・評価を行うための評価部18が設けられている。この評価部18においては、搬送ライン12の搬送方向Xに対して垂直な幅方向Yにおいて、搬送ライン12の一方の側方側に、光源22が配置されている。
【0038】
また、搬送ライン12の搬送方向Xに対して垂直な幅方向Yにおいて、搬送ライン12の他方の側方側に、受光部24が配置されている。
これによって、図1の一点鎖線で示したように、光源22から照射された測定光(可視・近赤外線光)が、柑橘類16の果肉内部を透過して反対側から出射して、この透過光を受光部24で受けて、解析装置25によって解析することによって、柑橘類16の苦味やす上がりなどの内部品質を測定・評価するように構成されている。
【0039】
すなわち、柑橘類16から出射される透過光は、それぞれの柑橘類によって吸収スペクトルが異なり、これにより後述するように柑橘類の苦味やす上がりなどの内部品質を計測して予め解析装置に入力されたデータと比較することによって、柑橘類の内部品質を評価することができるようになっている。
【0040】
なお、本実施例では、光源22と受光部24とが、柑橘類16を挟んで対向する位置に配置されているが、光源22から照射された測定光が、柑橘類16を透過して、受光部24に受光するように配置されていれば、光源22や受光部24の位置や数は、特に限定されるものではない。
【0041】
例えば、図3に示すように、受光部24に対向する位置に複数の光源22a〜22cを配置してもよいし、図4に示すように、柑橘類16を透過した光を通過させるための孔が設けられた搬送トレイ14を用いて、柑橘類16の下方に受光部24を配置し、柑橘類16の上方側および柑橘類16の両側方側に光源22a〜22cを配置するようにしても構わない。
【0042】
また、図5に示すように、柑橘類16の側方及び上方に複数の光源22a〜22cを配置し、光を通過させるための孔が設けられた搬送トレイ14を用いて、柑橘類16の下方に配置した受光部24によって受光するようにしてもよい。
【0043】
また、図6に示すように、受光部24を柑橘類16の上方に配置し、柑橘類16の側方から照射された測定光を、柑橘類16の上方で受光するようにしてもよく、図7に示すように、柑橘類16の側方に配置する光源22を複数の光源22a,22bとすることもできる。
【0044】
また、光源22としては、後述するような波長が含まれた光を発光できるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、レーザー、ハロゲンランプ、白色LEDなどの発光体であれば、いずれも使用可能である。
【0045】
受光部24は、解析装置25に接続されており、解析装置25は、透過光を複数の波長帯チャンネルに分光する分光部26と、複数の波長帯チャンネルのスペクトル強度を処理し、複数の波長帯チャンネル毎の吸光度を算出するとともに、後述するように、柑橘類16の苦味やす上がりなどの内部品質を測定・評価する信号処理部28とを有している。
【0046】
なお、信号処理部28には、以下のようにして事前に求められた、柑橘類16に関する検量線式が記憶されている。
2.検量線式の作成方法
まず、本発明の評価装置10によって、サンプルとなる複数の柑橘類の透過光量をそれぞれ測定するとともに、複数の波長帯チャンネル毎の吸光度を算出する。なお、吸光度は数7に示す式によって求めることができる。
【0047】
【数7】

なお、波長帯チャンネルの数としては、特に限定されるものではなく、光源22からの光が含む波長帯や受光部24の受光能力に応じて適宜変更可能であり、光源22から照射される可視・近赤外線光(おおよそ600nm〜1000nmの光)を所定の数に等分すればよい。
【0048】
次いで、各サンプルを搾汁し、化学的な方法を用いたセンサーによって、苦味値を測定する。
このようにして得られた複数の波長帯チャンネル毎の吸光度および苦味値を用いて、重回帰分析を行い、検量線式の係数を算出する。
【0049】
ここで、重回帰分析を行う際のモデルとなる式としては、例えば、吸光度の差分を用いた式や、吸光度の2次微分を用いた式、吸光度の差分や2次微分と吸光度そのものを組み合わせた式などを用いることができる。
【0050】
なお、青果類の酸味を測定する場合には、検量線式のモデル式として、吸光度の2次微分を用いることによって高い相関が得られることが知られている。また、柑橘類のす上がりを測定する場合には、後述するように、検量線式のモデル式として、吸光度の差分を用いることによって高い相関が得られることを見いだした。
【0051】
したがって、柑橘類の苦味を測定する場合には、検量線式のモデル式として、吸光度の差分、2次微分、または、これらを組み合わせた式を用いることによって、高い相関が得られ、柑橘類の苦味を正確に測定することができる。
【0052】
特に、柑橘類の苦味は、後述するように、柑橘類のす上がりと強い相関を有しているため、柑橘類の苦味を測定する場合には、主に吸光度の差分を用いたモデル式に基づいて検量線式を導出すれば、柑橘類の苦味についてより正確に測定することができる。
【0053】
具体的には、吸光度の差分を用いる場合には、数8のようなモデル式を用いることができる。
【0054】
【数8】

また、吸光度の2次微分を用いる場合には、数9のようなモデル式を用いることができる。
【0055】
【数9】

同様に、吸光度の差分と吸光度そのものの組み合わせを用いる場合には数10、吸光度の2次微分と吸光度そのものの組み合わせを用いる場合には数11、吸光度の差分と吸光度の2次微分の組み合わせを用いる場合には数12、吸光度の微分と吸光度の差分と吸光度そのものの組み合わせを用いる場合には数13にそれぞれ示すようなモデル式を用いることができる。
【0056】
【数10】

【0057】
【数11】

【0058】
【数12】

【0059】
【数13】

なお、Aim,Ajm,Aip,Ajp(n,qは自然数)はそれぞれ各波長帯チャンネルの吸光度を意味している。また、am,b,bp,c,dは各項の係数を意味している。
【0060】
また、数8から13のモデル式において、項数は特に限定されるものではなく、項数を増やすことによって(すなわち、nやqを大きくすることによって)、検量線式の正確さが増すことは言うまでもない。
【0061】
このようなモデル式に基づき、苦味値を目的変数、各チャンネルの吸光度を説明変数として重回帰分析を行うことによって、検量線式に用いる最適なチャンネルの吸光度や最適な検量線係数a〜dを求めることで、柑橘類の吸光度と苦味値の関係を示す検量線式を求めることができる。
【0062】
このように算出した検量線式は、評価装置10の信号処理部28の記憶部(図示せず)に記憶され、後述するように、評価装置10によって被検体である柑橘類16を測定・評価する際に用いられることになる。
3.柑橘類の測定・評価方法
このように構成された本発明の評価装置10では、被検体である複数の柑橘類16をそれぞれ搬送トレイ14に載置させた状態で作動させることによって、柑橘類16は搬送方向Xに順次移動させられる。
【0063】
そして、柑橘類16が評価部18に達したときに、光源22から柑橘類16に対して測定光(可視・近赤外線光)を照射する。
なお、光源22の光量としては、被検体である柑橘類16に応じて適宜設定することができ、光源22の種類を事前に変更したり、光源22に印加する電圧を変えたり、光源22と柑橘類16との間に減光フィルタを設けたりするなどして光量の調整を行うことができる。
【0064】
また、上述するように、複数の光源22を設けた場合には、光源の点灯数を変えるなどして、柑橘類16に照射する光量を調整してもよい。
このように、柑橘類16に照射された測定光(可視・近赤外線光)は、柑橘類16を透過して、受光部24で受光される。受光部24で受光した透過光は、分光部26において、複数の波長帯チャンネルに分光され、それぞれの波長帯チャンネルの信号強度が解析される。
【0065】
分光部26で解析された、それぞれの波長帯チャンネルの信号強度は、信号処理部28へと送信され、信号処理部28において、上述するような検量線式(数8〜数13)を用いて計算することによって、柑橘類16の苦味値を算出する。
【0066】
なお、評価部18で測定・評価された柑橘類16は、搬送ライン12に沿って搬送方向Xに順次移動させられ、別の柑橘類16が評価部18に達したとき、上述するように、柑橘類16の測定・評価を行う。
【0067】
このように、本発明の評価装置10では、搬送ライン12上に、複数の搬送トレイ14を備えているため、複数の柑橘類16を連続して測定・評価することができる。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
以下、柑橘類16の苦味が、酸味およびす上がりと強い相関を有していることを説明する実施例を示す。
【0069】
サンプルとなる柑橘類として、30個のミカンについて、インテリジェントセンサテクノロジー社製「味認識装置(TS−5000Z)」(以下、単に「味認識装置」という)を用いて、苦味値を測定した。
【0070】
また、酸味については、水酸化ナトリウムによる中和滴定法を用いて測定し、す上がりについては、サンプルとなるミカンの断面を写真撮影して、人が目視にて判定を行った。
30個のミカンの苦味、酸味、す上がりはそれぞれ、表1に示す値となった。
【0071】
【表1】

このように、酸味およびす上がりは、渋味や糖度などと比べても、苦味と高い相関を有し、特に、す上がりは苦味とより高い相関を有することが確認できた。
なお、渋味は、味認識装置を用いて測定し、糖度は、ブリックス計を用いて屈折率法により測定した。
【0072】
(実施例2)
以下、モデル式の形状と選択するチャンネルの波長範囲を変えた場合における、本発明の評価装置10によって測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数の測定結果を示す。
【0073】
(実施例2−1)
モデル式として、吸光度の差分を用いた場合、すなわち、数8のモデル式を用いた場合の実施例を示す。
【0074】
本実施例においては、項数を3項とした場合、すなわち、数14のモデル式とした場合と、項数を5項とした場合、すなわち、数15のモデル式とした場合について、相関係数の測定を行った。
【0075】
【数14】

【0076】
【数15】

重回帰分析を行う際に、利用する波長帯チャンネルの範囲を変えて、複数のパターンの検量線式を導出した。図8に、導出された検量線式を用いて、本発明の評価装置によって測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数の測定結果を示す。
【0077】
図8において、各パターンにおいて太枠で囲まれた範囲が、利用する波長帯チャンネルの範囲であり、太枠内の上段が数13に基づいて本発明の評価装置10を用いて測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数、太枠内の下段が数14に基づいて本発明の評価装置10を用いて測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数である。
【0078】
図8に示すように、広範囲の波長帯チャンネルを利用して、重回帰分析を行った方が、高い相関係数を得られることは言うまでもないが、比較的短波長(600nm〜750nm)から中波長(750nm〜850nm)の波長帯チャンネルを利用して重回帰分析を行う方が、比較的長波長(850nm〜1000nm)の波長帯チャンネルを利用して重回帰分析を行うよりも高い相関係数が得られている。
【0079】
このように、本発明の評価装置10において、波長帯チャンネルの差分を用いたモデル式に基づいて、柑橘類16の苦味を測定する場合には、比較的短波長から中波長の波長帯チャンネルを用いて重回帰分析を行って得られた検量線式を利用して、苦味値の算出を行うことによって、苦味値の測定をより正確に行うことができる。
【0080】
(実施例2−2)
モデル式として、吸光度の2次微分を用いた場合、すなわち、数9のモデル式を用いた場合の実施例を示す。
【0081】
本実施例においては、項数を3項とした場合、すなわち、数16のモデル式とした場合と、項数を5項とした場合、すなわち、数17のモデル式とした場合について、相関係数の測定を行った。
【0082】
【数16】

【0083】
【数17】

重回帰分析を行う際に、利用する波長帯チャンネルの範囲を変えて、複数のパターンの検量線式を導出した。図9に、導出された検量線式を用いて、本願発明の評価装置によって測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数の測定結果を示す。
【0084】
図9において、各パターンにおいて太枠で囲まれた範囲が、利用する波長帯チャンネルの範囲であり、太枠内の上段が数15に基づいて本発明の評価装置10を用いて測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数、太枠内の下段が数16に基づいて本発明の評価装置10を用いて測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数である。
【0085】
実施例2−1と同様に、比較的短波長から中波長の波長帯チャンネルを利用して重回帰分析を行う方が、比較的長波長の波長帯チャンネルを利用して重回帰分析を行うよりも高い相関係数が得られている。
【0086】
このように、本発明の評価装置10において、波長帯チャンネルの2次微分を用いたモデル式に基づいて、柑橘類16の苦味を測定する場合にも、比較的短波長から中波長の波長帯チャンネルを用いて重回帰分析を行って得られた検量線式を利用して、苦味値の算出を行うことによって、苦味値の測定をより正確に行うことができる。
【0087】
実施例2−1および実施例2−2の結果から、本発明の評価装置10において、青果類16の苦味を測定する場合には、比較的短波長(600nm〜750nm)から中波長(750nm〜850nm)の波長帯チャンネルを利用して重回帰分析を行う方が、比較的長波長(850nm〜1000nm)の波長帯チャンネルを利用して重回帰分析を行うよりも、正確な苦味値を測定できることがわかる。
【0088】
(実施例2−3)
モデル式として、吸光度の差分や2次微分、および吸光度そのものの組み合わせを用いた場合、すなわち、数10〜数13のモデル式を用いた場合の実施例を示す。
【0089】
本実施例においては、実施例2−1および実施例2−2と同様に、重回帰分析を行う際に、利用する波長帯チャンネルの範囲を変えて、複数のパターンを導出し、導出された検量線式を用いて、本願発明の評価装置によって測定した苦味値と、味認識装置を用いて測定した苦味値との相関係数を測定した。
【0090】
以下に、得られた相関係数のうち、最も相関係数が高い結果のみを示す。
吸光度の差分と吸光度そのものの組み合わせの場合、すなわち、数18のモデル式とし、波長帯チャンネルの範囲を600nm〜750nm、すなわち、実施例2−1におけるパターン7とした場合には、相関係数は0.782となった。
【0091】
【数18】

このように、吸光度そのものをモデル式に追加することによって、相関係数は0.753から0.782と高くなり、より正確に苦味値の測定が行えることがわかる。
【0092】
また、吸光度の2次微分と吸光度そのものの組み合わせの場合、すなわち、数19のモデル式とし、波長帯チャンネルを600nm〜1000nm、すなわち、実施例2−2におけるパターン4とした場合には、相関係数は0.766となった。
【0093】
【数19】

このように、吸光度そのものをモデル式に追加することによって、相関係数は0.711から0.766と高くなり、より正確に苦味値の測定が行えることがわかる。
【0094】
また、吸光度の差分と吸光度の2次微分の組み合わせの場合(利用する波長帯チャンネルの範囲は600nm〜1000nnまでの全て)、すなわち、数20のモデル式とした場合には、相関係数は0.845となった。
【0095】
【数20】

また、吸光度の差分と吸光度の2次微分と吸光度そのものの組み合わせの場合、すなわち、数21のモデル式とした場合(利用する波長帯チャンネルの範囲は600nm〜1000nmまでの全て)には、相関係数は0.846となった。
【0096】
【数21】

このように、吸光度の差分と吸光度の2次微分を組み合わせることによって、より高い相関係数が得られ、本発明の評価装置10によって、より正確な苦味値の測定を行うことができる。
【0097】
(実施例3)
以下、本発明の評価装置10を用いて、柑橘類16のす上がりについて測定した場合の結果を示す。
【0098】
なお、す上がりに関する検量線式は、苦味に関する検量線式と同様にして事前に導出され、信号処理部28に記憶されている。
実施例2と同様に、モデル式の形状と選択するチャンネルの波長範囲を変えた場合における、本発明の評価装置10によって測定したす上がり(す上がり値)と、サンプルとなる柑橘類16の断面を写真撮影して、人が目視にて判定を行ったす上がり(す上がり値)との相関係数を測定した。
【0099】
図10は、モデル式として吸光度の差分を用いた場合の測定結果、図11は、モデル式として吸光度の2次微分を用いた場合の測定結果である。
図10において、各パターンで太枠で囲まれた範囲が、利用する波長帯チャンネルの範囲であり、太枠内の上段が数22に基づいて本発明の評価装置10を用いて測定したす上がり値と、サンプルとなる柑橘類16の断面を写真撮影して、人が目視にて判定を行ったす上がり値との相関係数、太枠内の下段が数23に基づいて本発明の評価装置10を用いて測定したす上がり値と、サンプルとなる柑橘類16の断面を写真撮影して、人が目視にて判定を行ったす上がり値との相関係数である。
【0100】
【数22】

【0101】
【数23】

また、図11において、各パターンで太枠で囲まれた範囲が、利用する波長帯チャンネルの範囲であり、太枠内の上段が数24に基づいて本発明の評価装置10を用いて測定したす上がり値と、サンプルとなる柑橘類16の断面を写真撮影して、人が目視にて判定を行ったす上がり値との相関係数、太枠内の下段が数25に基づいて本発明の評価装置10を用いて測定したす上がり値と、サンプルとなる柑橘類16の断面を写真撮影して、人が目視にて判定を行ったす上がり値との相関係数である。
【0102】
【数24】

【0103】
【数25】

このように、柑橘類16のす上がりについても、苦味と同様に比較的短波長から中波長の波長帯チャンネルを用いて重回帰分析を行って得られた検量線式を利用することによって、正確なす上がり値を測定できることがわかる。
【0104】
また、モデル式として、吸光度の差分と吸光度そのものの組み合わせ(数26)を用いた場合の相関係数の最高値は0.938、吸光度の2次微分と吸光度そのものの組み合わせ(数27)を用いた場合の相関係数の最高値は0.907、吸光度の差分と吸光度の2次微分との組み合わせ(数28)を用いた場合の相関係数の最高値は0.941、吸光度の差分と吸光度の2次微分と吸光度そのものの組み合わせ(数29)を用いた場合の相関係数の最高値は0.941となった。
【0105】
【数26】

【0106】
【数27】

【0107】
【数28】

【0108】
【数29】

このように、柑橘類16のす上がりについては、吸光度の差分を用いることによって高い相関が得られ、また、苦味と同様に吸光度の差分と吸光度の2次微分を組み合わせることによって、より高い相関係数が得られ、本発明の評価装置10によって、より正確な苦味値の測定を行うことができる。
【0109】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、評価部18に、環境光を遮断するための遮光部材を設けたり、評価部18を同一搬送ライン上に複数箇所設けたりするなど、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0110】
10 評価装置
12 搬送ライン
14 搬送トレイ
14a テーパー面
16 柑橘類
18 評価部
22 光源
22a〜22c 光源
24 受光部
25 解析装置
26 分光部
28 信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類に対して光源から測定光を照射して、柑橘類を透過した透過光を受光部において受光することによって、柑橘類の内部品質を非破壊的に評価する柑橘類の評価方法であって、
前記受光部において受光した透過光を、複数の波長帯チャンネルのスペクトルに分光し、
前記複数の波長帯チャンネルのスペクトルから、複数の波長帯チャンネルの吸光度を算出し、
所定の波長帯チャンネルの吸光度、吸光度の差分、吸光度の2次微分のいずれか、または、これらの組み合わせからなる検量線式と、前記複数の波長帯チャンネルの吸光度とに基づいて、柑橘類の内部品質を評価することを特徴とする柑橘類の評価方法。
【請求項2】
サンプルとなる柑橘類について、複数の波長帯チャンネルの吸光度を算出し、
前記サンプルとなる柑橘類について、内部品質を測定し、
前記サンプルとなる柑橘類についての複数の波長帯チャンネルの吸光度と、前記サンプルとなる柑橘類についての内部品質とに基づいて、重回帰分析によって前記検量線式が事前に導出されていることを特徴とする請求項1に記載の柑橘類の評価方法。
【請求項3】
前記検量線式が、600nm〜850nmの波長帯から選択される波長帯チャンネルの吸光度、吸光度の差分、吸光度の2次微分のいずれか、または、これらの組み合わせからなる項を少なくとも含むことを特徴とする請求項1または2に記載の柑橘類の評価方法。
【請求項4】
前記柑橘類の内部品質が、柑橘類の苦味またはす上がりであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の柑橘類の評価方法。
【請求項5】
前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【数1】

(ただし、AimおよびAjmは所定の波長帯チャンネルの吸光度、amおよびbは各項の係数である)
で表されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の柑橘類の評価方法。
【請求項6】
前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【数2】

(ただし、Aim-1,Aim,Aim+1は所定の波長帯チャンネルの吸光度、amおよびbは各項の係数である)
で表されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の柑橘類の評価方法。
【請求項7】
前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【数3】

(ただし、Aim,Ajm,Ain+1は所定の波長帯チャンネルの吸光度、am,b,cは各項の係数である)
で表されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の柑橘類の評価方法。
【請求項8】
前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【数4】

(ただし、Aim-1,Aim,Aim+1,Ain+1は所定の波長帯チャンネルの吸光度、am,b,cは各項の係数である)
で表されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の柑橘類の評価方法。
【請求項9】
前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【数5】

(ただし、Aim,Ajm,Aip,Ajpは所定の波長帯チャンネルの吸光度、am,bp,cは各項の係数である)
で表されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の柑橘類の評価方法。
【請求項10】
前記検量線式を重回帰分析によって導出する際に用いられるモデル式が、
【数6】

(ただし、Aim,Ajm,Aip,Ajp,Ain+1は所定の波長帯チャンネルの吸光度、am,bp,c,dは各項の係数である)
で表されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の柑橘類の評価方法。
【請求項11】
柑橘類に対して光源から測定光を照射して、柑橘類を透過した透過光を受光部において受光することによって、柑橘類の内部品質を非破壊的に評価する柑橘類の評価装置であって、
前記柑橘類に対して測定光を照射するための光源と、
前記柑橘類を透過した透過光を受光するための受光部と、
前記受光部で受光した透過光を、複数の波長帯チャンネルのスペクトルに分光する分光部と、
前記複数の波長帯チャンネルのスペクトルから、複数の波長帯チャンネルの吸光度を算出し、所定の波長帯チャンネルの吸光度、吸光度の差分、吸光度の2次微分のいずれか、または、これらの組み合わせからなる検量線式と、前記複数の波長帯チャンネルの吸光度とに基づいて、柑橘類の内部品質を評価する信号処理部と、
を備えることを特徴とする柑橘類の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−11516(P2013−11516A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144359(P2011−144359)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】