説明

柑橘類の農薬の除去方法および食品

【課題】 柑橘類の果実に付着あるいは浸透している農薬を除去し、果実に含まれる機能性成分を含む安全で風味豊かな柑橘類の製造方法と食品
【解決手段】 柑橘類を冷凍処理することにより、果実の結合組織を凍結変性させ果実の組織と結合して存在している農薬の結合を緩め、農薬を可溶化させ、果実組織より容易に分離することができる。また、有機溶媒による洗浄あるいは超臨界、亜臨界の操作を行わないので、脂溶性の機能性有用成分は果実組織中に残存する。
従来柑橘の機能性が研究され有用であることが知られていたが、果実全体をペースト化すると、農薬が残存し利用することが出来なかった。この発明により柑橘果実を凍結し果実組織を凍結変性させ、加熱、水洗し農薬を除去することができ、機能性のある農薬を含まない柑橘加工品を作ることが出来た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、柑橘類の加工方法に関し、柑橘類の果実に付着および浸透している農薬を除去し、果実に含まれる機能性成分を含む、安全で風味豊かな柑橘類の加工方法およびその方法により製造した食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の研究によれば、柑橘類の果実には、クリプトキサンチン、ヘスペリジン、ノビレチンなど柑橘特有の機能性成分が含まれ、柑橘類は食品加工原料として有用なものである。
クリプトキサンチンは骨粗鬆症に有効であり、ヘスペリジンは毛細血管強化作用、花粉症、アトピー性皮膚炎に有効であり、ノビレチンは認知症治療の機能性が認められている。
【0003】
柑橘類の果実は病虫害の危害を受けやすく、この防除のため種々の農薬が使用され、例えば柑橘類果実の外観を損なう黒点病の防除のため、無機硫黄化合物に代わり、浸透性の機能を持ち、より効果のある有機硫黄化合物(マンネブ、あるいはマンセブ)が使用されている。この化合物は柑橘葉、果実の表面のみならず植物体に浸透し、より効果が高いので、広く使用されている。
【0004】
農業生産の安定と国民の健康の保護及び生活環境の保全を目的として農薬取締法が設定され、農薬は認可されており、製造、販売、取り扱いが規制されている。
食品中の残留農薬については食品衛生法により、食品の規格として農薬残留基準が指定され、この規格に適合しない食品の製造、販売が規制されている。
【0005】
新規の農薬は無機化合物の生理活性の機能を解明し、新規有機化合物が合成され、薬効及び薬害の試験が行われ、安全性の評価のため、急性毒試験や変異原試験が行われ、さらに柑橘果実のように食用作物に使用する農薬の場合は作物残留試験が行われ、土壌残留試験、魚毒性試験、生体内運命に関する試験が行われ、製剤の形態、安全性、薬量、施肥方法、使用上の注意事項が決まり、種類名称、包装などを整え農林大臣に農薬の登録申請が行われ、認可される。
【0006】
柑橘類の果実を利用するには、食品衛生法に従い、使用された農薬を完全に除去する必要がある。表面に展着している農薬は表面活性剤を含む水で洗浄を繰り返すことにより展着した農薬を除去することができるが、果実の組織に結合した農薬は残存する。果実に含まれる機能性成分を有効に且つ安全に利用するために果実内部の組織と結合残存する農薬を除去する手段の開発が望まれている。
【0007】
柑橘類を洗浄後、高温高圧水処理して果皮に付着した農薬を除去することが提案されている(特開2008−118940)。しかしこの装置は複雑であり、果実をスラリー化し処理を行うなど問題がある。
柑橘類を有機溶媒で常態、超臨界あるいは亜臨界で洗浄し処理することが提案されているが、機能性成分も同時に除去されるので問題がある。(特開2002−101841)(特開2005−34808)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−118940
【特許文献2】特開2002−101841
【特許文献3】特開2005−34808
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、柑橘類の果実に付着あるいは浸透している農薬を簡単に完全に除去し柑橘類の果実に含まれる機能性成分を含む安全で風味豊かな柑橘類の加工品を製造する方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
柑橘類を冷凍処理することにより、果実の結合組織を凍結変性させ果皮の組織に結合している農薬の結合を緩め、農薬を可溶化させ、果実組織より容易に分離することができる。また、有機溶媒による洗浄あるいは超臨界、亜臨界の操作を行わないので、脂溶性の機能性の有用成分は果実組織中に残存する。
【0011】
柑橘を凍結処理することにより果実組織は凍結変性し結合組織を崩壊する。果実組織の崩壊により、次工程の加熱時間が短縮され磨砕加工が容易になり、加熱時間が短縮され、柑橘類の風味成分が残存する。
【0012】
柑橘類を冷凍し組織を凍結変性させ、ついで加熱処理し、果実表面に結合した農薬、果実組織に結合している農薬を分離させ、水洗を行うことにより、分離した農薬は除去される。柑橘の機能性成分を保持し、風味豊かな農薬を含まない柑橘素材を作成する方法を案出した。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば柑橘果実表面に付着した農薬並びに、組織に結合した農薬成分を除去できる。さらにこの素材を利用した風味豊な機能性を有する安全な食品を提供することができる。
【0014】
農薬取締法により、柑橘類に利用できる農薬は種類、使用基準が定められ、食品衛生法により、食品に残留する農薬等の限度量が定められている。
農薬取締法により許可される農薬を使用基準に従い使用すれば、残留農薬基準値を超えない。農薬取締法による使用規制は柑橘類と皮をむいて食するみかんに分けて使用基準が定められている。
【0015】
みかんをまるごと利用する場合、農薬取締法による規制(使用時期および濃度、回数)は一般柑橘類の基準によらなければならない。みかんとして出荷したもの、未熟の摘果みかんを丸ごと利用する場合、みかん使用基準より厳しい柑橘類の使用基準に従わなければならない。収穫までは農薬取締法の規制を受け、収穫後は食品衛生法の規制を受ける。
【0016】
柑橘類の黒点病に無機硫黄化合物に代わる有効な有機硫黄化合物(たとえばマンセブ、マンネブ、ジチオカーバメイト化合物)があるが、使用時期は柑橘類:収穫前90日、みかん:収穫前30日である。収穫後は食品衛生法の規制に従い、残留農薬は基準値以下でなくてはならない。特に未熟みかん果実(摘果みかん)を食用に加工使用する時には農薬散布は摘果の時期の90日前(たとえば有機硫黄化合物:マンセブの場合)を守る必要がある。かつ使用した農薬の除去を確実に行う必要がある。
【0017】
従来利用されなかった柑橘類(夏みかん・橙)の果皮および摘果みかんには花粉症、アトピー性皮膚炎、認知症に有効な機能性化合物が多量に含まれる、これを利用するため、農薬を除去する方法を案出することが望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では柑橘類の果実を原料とする。柑橘を清浄な水で洗浄し果皮表面に付着する農薬、展着材を除去する。
【0019】
洗浄した果実を冷凍庫に入れ果実を完全に凍結状態にする。冷凍庫の機能及び果実の大きさ等により、その凍結処理時間は異なる。果実は果皮及び果肉を分別して処理することも、また切断して冷凍処理することも可能である。前項の洗浄と凍結の作業の順序を入れかえても良い
【0020】
完全に凍結した柑橘を取り出し解凍する。解凍は流水中あるいは温水中で短時間に行うことも可能である。その際、凍結変性により果実組織の物性が崩壊し、果実組織と結合していた農薬が分離する、分離した農薬は水洗することにより除去される。
【0021】
解凍した果実を果皮(果肉を含む)と果汁に分別し、農薬が結合している果皮を分別し蒸煮処理を行い、次いで水洗することにより農薬を除去することも可能である。
分別した果皮はスライス状あるいは粒状に処理し、その後加熱処理をすることも可能である。分別処理した果肉、果汁は合体、あるいは使用目的に合わせ使用する。
【0022】
凍結工程の前に果実を果皮(果肉を含む)と果汁に分離し行うことも可能である。果実を果皮と果汁に分離し、果皮を凍結保存する。凍結により組織と結合している農薬が分離され可溶性となり水洗除去できる。さらに解凍後加熱処理を行うことにより、農薬の可溶化が促進され除去が完全に行われる。、
【実施例1】
【0023】
選別洗浄したみかん10kgを冷凍庫に保管し完全に凍結させ流水中で解凍し果皮(果肉を含む)と果汁に分ける。果皮は30分蒸煮後水洗し農薬、苦味成分を除去する。処理をした果皮は裁断機または磨砕機で処理をする。このペースト(磨砕物)を果汁と合わせ耐熱性袋に充填し、レトルト処理を行い、まるごとみかんペーストを作る。
残留農薬の分析は残留農薬分析法((財)残留農薬研究所後藤眞康:(財)日本食品分析センター加藤誠哉著:ソフトサイエンス社)により、黒点病の防除に使用された有機硫黄化合物(マンセブ、あるいはマンネブ)を硫化炭素として補足し、残留農薬をジチオカーバメイトとして分析を行なう。
みかん凍結保管解凍洗浄後 :0.20ppm
みかん解凍加熱処理洗浄後 :0.02ppm 、残留農薬分析法:検出限界0.02ppm
残留農薬基準値はみかんの場合:10ppm,その他の柑橘類果実は10ppm,
解凍、加熱処理後、洗浄したものは残留農薬分析法の限界値まで除去できた。
このまるごとみかんペーストを常法のケーキの配合に10%加え焼成すると、クリプトキサンチンの黄金色と柑橘の好ましい香気を有するカステラをつくることが出来た。
【実施例2】
【0024】
選別洗浄した摘果みかん10kgを冷凍庫に保管し完全に凍結させ流水中で解凍し果皮(果肉を含む)と果汁に分ける。果皮は30分蒸煮後水洗し農薬、苦味質を除去する。処理をした果皮は裁断機または磨砕機で処理をする。このペースト(磨砕物)を果汁と合わせ耐熱性袋に充填しレトルト処理を行い、まるごと青みかんペーストを作る。
残留農薬の分析は残留農薬分析法((財)残留農薬研究所後藤眞康:(財)日本食品分析センター加藤誠哉著:ソフトサイエンス社)により、黒点病の防除に使用された有機硫黄化合物(マンセブ、あるいはマンネブ)を硫化炭素として補足し残留農薬をジチオカーバメイトとして分析を行った。解凍後加熱し洗浄したものの分析値は残留農薬の検出限界値であった。
このペーストは緑色で、すだち様の香気を有し、未熟のみかんにはヘスペリジンの含有量が高く白味噌、もろみ味噌とあわせ機能性のある調味料をつくることが出来た。
【0025】
以下本発明について補足する。
ここにいう農薬とは農薬取締法に基づき、農林水産大臣より柑橘類に許可された薬品の他、その他の植物、土壌の病害虫の防除ならびに除草に使用される薬品を包括する。柑橘類に使用された農薬の他、近隣で散布された農薬が柑橘類に付着、汚染されることもある。これらの農薬も柑橘類果実に取り込まれ残留する恐れがあり除去の対象の農薬である。
植物に被害を与える病害虫は、流行性があり、それに対応する病害虫に有効な有機化合物が合成され、(0005)で述べたように、新規の化合物が農薬として認定される、この農薬も包括する。農薬に関する行政は環境庁、厚生省、農林水産省の3省が分担関係し、安全使用の確保が行われている。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類を原料とし凍結保蔵し、果実を構成する組織を凍結変性させ、果実組織と結合して存在している農薬を分離させ、水洗除去する柑橘類の加工方法。
【請求項2】
柑橘類を原料とし凍結保蔵し、果実を構成する組織を凍結変性させ、果実組織と結合して存在している農薬を分離させ、加熱処理、水洗除去する柑橘類の加工方法
【請求項3】
請求項1、請求項2の方法により製造した柑橘素材を利用して製造した農薬を含まない機能性を持つ食品