説明

柑橘類果実の食味保持剤

【課題】
柑橘類果実に対する食味保持剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、キク科カワラヨモギ(学名:Artemisia capillaris Thunb.)から得られたカワラヨモギ抽出物を食味保持剤として使用することにより柑橘類果実に対して優れた食味保持効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類の果実の食味保持剤に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘類果実は収穫後、生産者から市場、店頭、消費者へと輸送される間に経時的に食味が劣化する。また、柑橘の種類によっては、数日〜数週間あるいは数ヶ月の貯蔵を経て出荷されるものもあり、この貯蔵中にも同様の食味の低下、あるいは貯蔵臭と呼ばれる変質臭の生成が起こる。これら食味の劣化や貯蔵臭の発生は、商品価値の低下を引き起こすことより、柑橘類果実の食味を長期間保つ食味保持技術が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来技術に存した上記のような問題点に鑑みて行われたものであり、柑橘類果実に対する食味保持剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
カワラヨモギ抽出物を含有する食味保持剤で柑橘類果実を処理することで柑橘類果実に対して優れた食味保持効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、柑橘類果実に対して優れた食味保持効果を発揮する食味保持剤を提供でき、当該発明を用いて食味保持期間を延長できるようになるなど商品価値を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明において使用するカワラヨモギは、キク科カワラヨモギ(学名:Artemisia capillaris Thunb.)である。本発明で使用されるカワラヨモギの部位は茎または葉、花穂、など地上部であれば特に限定されることはない。カワラヨモギは抽出効率を高めるため、必要により機械的破砕手段によって粉砕などの工程を含めて良い。
【0007】
カワラヨモギ抽出物はカワラヨモギを抽出溶媒に浸漬して得るが、カワラヨモギを浸漬する抽出溶媒には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メチルエーテルやジエチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒、植物油や動物油脂等の油脂類、水を単独又は混合して使用するとよい。該抽出溶媒にて抽出したカワラヨモギ抽出物はそのまま使用してもよいが、溶剤を完全に留去してあるいは適当に濃縮して使用してもよい。また、カワラヨモギから水蒸気蒸留により得られた精油成分をカワラヨモギ抽出物として使用してもよく、超臨界流体抽出などの公知の方法により得られた抽出物を使用してもよい。
【0008】
本発明の食味保持剤におけるカワラヨモギ抽出物の含有量は、精油を含む固形分含量として0.05重量%〜2.5重量%である。精油を含む固形分含量が0.05重量%未満あるいは2.5重量%を超えて精油を含む固形分が含まれる場合、食味保持の効果を発揮しない。
【0009】
本発明の食味保持剤には、浸透性を調整し効果をさらに高める目的で、界面活性剤を配合することが好適である。本発明に使用される界面活性剤は一般に使用されるものであれば特に限定されることはないが、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤などは食味保持剤の変性の原因となりうる可能性があり、製剤の安定性、柑橘類果実への影響、安全性を考慮すると非イオン界面活性剤が好ましく、さらに好ましくは食品添加物などで使用されるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが選択される。
【0010】
また、本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、溶解性、浸透性を考慮するとHLB値8〜20のものが好ましく、さらに好ましくはHLB値13〜20のものが選択される。ここで用いられるHLBとはGriffinの経験式から計算されるHLB値(Hydrophile−Lipophile Balance Value値)が8〜20、好ましくは13〜20のものが選択される。
【0011】
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンモノミリステート、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレート、デカグリセリンモノカプリレート、デカグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖カプリン酸エステル、ショ糖カプリル酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノヤシ油脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどが例示される。
【0012】
本発明における界面活性剤の含有量は限定されるものではないが0.01重量%〜1重量%であることが好ましい。1重量%を超えて含まれる場合、被処理果実にべとつきなどの悪影響を及ぼす可能性が生じる。
【0013】
また本発明の食味保持剤は、より効果を高める目的で脂肪酸グリセリドを配合することが好適である。本発明に用いられる脂肪酸グリセリドは、グリセリンと脂肪酸とのエステルであり、モノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドのうち一種又は二種以上を含有する脂肪酸グリセリドが使用される。
【0014】
本発明における脂肪酸グリセリドは、例えば、公知の脂肪酸とグリセリンをエステル化する方法によって製造される。脂肪酸グリセリドを製造する場合に使用する脂肪酸は、酪酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が使用され、これらの脂肪酸のうち一種又は二種以上選択して使用すると良い。
【0015】
また脂肪酸グリセリドは、主成分にグリセリドを含有する天然油脂を使用しても良い。天然油脂には、動物脂や動物油である動物油脂、又は、植物脂や植物油である植物油脂の何れを使用しても良い。
【0016】
植物脂としては、ヤシ油、パーム油等である。植物油としては、乾性油、半乾性油及び不乾性油を使用することが可能であり、乾性油としては、アマニ油、キリ油、サフラワー油が例示され、半乾性油としては、大豆油、コーン油、ゴマ油、菜種油、ヒマワリ油、綿実油が例示され、不乾性油としては、オリーブ油、ツバキ油、ヒマシ油、落花生油が例示される。また、前記天然油脂に含まれる構成油脂を分別して使用することも可能である。
【0017】
脂肪酸グリセリドは、一種又は二種以上の炭素数が8〜12の脂肪酸とグリセリンとをエステル化した脂肪酸グリセリドが使用されることが好適である。
【0018】
本発明における脂肪酸グリセリドの含有量は限定されるものではないが、0.01重量%〜5重量%であることが好ましい。
【0019】
また本発明の食味保持剤は、更に効果を高める目的でタンニンを配合することが好適である。本発明に用いられるタンニンは、植物の葉などに含まれるポリフェノールの総称である。ポリフェノールは、同一分子内に複数のフェノール性水酸基(ヒドロキシ基)をもつ化合物の総称で、光合成により生成された色素や苦味などの成分としてほとんどの植物に含まれており、抗酸化能力に優れた水溶性(一部は脂溶性)物質である。ポリフェノールとしては、大豆に含まれるイソフラボン、緑茶に含まれるカテキン、コーヒー豆に含まれるクロロゲン酸、カカオ豆に含まれるクロマミド類、葡萄果皮に含まれるアントシアニン、ウコンに含まれるクルクミン、ゴマに含まれるセサミン、カキの果実、クリの渋皮、五倍子、タマリンドの種皮、タラ末、没食子、ミモザの樹皮、リンゴ、芍薬および桂皮等から抽出することができるタンニンが例示される。好適には、柿渋やお茶に含まれている縮合型タンニンよりも、五倍子、没食子、チョウジ等に含まれている加水分解型タンニンが選択されていることがより好ましい。より好適には、タンニン酸が選択される。
【0020】
本発明におけるタンニンの含有量は限定されるものではないが、0.01重量%〜5重量%であることが好ましい。
【0021】
本発明の食味保持剤の適応できる柑橘類果実はその種類を問わないが、例えば温州みかん、甘夏、イヨカン、カラーマンダリン、河内晩柑、清見、不知火、新甘夏、せとか、セミノール、タンカン、ネーブル、八朔、はるか、はるみ、バレンシアオレンジ、晩白柚、日向夏、文旦、ポンカン、マーコット、カボス、スダチ、柚子、ライム、レモン、グレープフルーツ等が挙げられる。
【0022】
本発明の食味保持剤の使用方法としては柑橘類果実の全体を浸漬・噴霧する方法、また不織布、繊維、ウレタン、綿、吸水性ポリマーのような吸収体へ吸収させ、柑橘類果実を包む方法などがある。これらの使用方法により、柑橘類果実に対する本発明の食味保持剤の使用量を調節することができる。
【0023】
さらに、本発明の食味保持剤には植物の栄養源となりうる糖類、アミノ酸類、無機化合物類等を添加しても良い。
【実施例】
【0024】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0025】
(製造例1:カワラヨモギ抽出エキスの調製)
乾燥したカワラヨモギの花穂100gにエタノール500gを加えて常温にて24時間浸漬して抽出後、ロ過し、抽出エキス350gを得た。この抽出エキスのカワラヨモギ抽出物の含有率は1.32重量%であった。
【0026】
(製造例2:カワラヨモギ濃縮エキスの調製)
乾燥したカワラヨモギの花穂300gにエタノール1500gを加えて常温にて24時間浸漬して抽出後、ロ過し、抽出エキス1200gを得た。これよりエタノールを留去し、全量を60gとし、カワラヨモギ濃縮エキスを得た。この濃縮エキスのカワラヨモギ抽出物の含有率は25.0重量%であった。
【0027】
製造例1及び製造例2に記載のカワラヨモギ抽出エキス及びカワラヨモギ濃縮エキスを使用し、表1記載の実施例1〜11の食味保持剤及び表2記載の比較例1〜4の組成物を調製した。なお、この表における配合量は全て重量%で示す。
【0028】
調製した食味保持剤及び組成物に関して、以下の試験により食味保持効果を確認した。農薬無散布の温州みかん(宮川早生)果実を収穫し、傷がなく且つ大きさや成熟度が同等のものを選別した。実施例1〜11、及び比較例1〜4の組成物にそれぞれ50個の果実を2秒間浸漬した後風乾させた。処理した果実の外観を確認した後、各々ダンボール箱に入れて封をし、20℃で28日貯蔵後、腐敗した果実や傷んだ果実を取り除いて食味評価を行なった。また、無処理の果実についても同様に貯蔵し、対照区とした。本発明の食味保持剤を処理した果実の食味について、50名のパネラーにより各区2〜3房ずつ食べ比べ、無処理の果実を対照とした2点嗜好試験法(食味の良好なものを選択する)による食味評価を行なった。実施例の食味保持剤の評価結果を表1に、比較例の組成物の評価結果を表2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
また、食味評価に先駆けて、ヘタ枯れについても調査した。ヘタ枯れの程度については表3に従いスコア化し、その平均値で示した。ヘタ枯れスコアを表1及び表2に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
柑橘類果実に対する実施例の食味保持剤及び比較例の組成物についての評価の結果、本発明の食味保持剤は比較例の組成物に比べて優れた食味保持効果を示すことが確認された。比較例1の組成物では無処理との有意差は確認できず、比較例2の組成物では無処理よりも食味が低下していた。一方、実施例に示した本発明の食味保持剤は優れた食味保持効果を示し、非イオン界面活性剤、脂肪酸グリセリド、加水分解型タンニンを併用することにより、更に優れた食味保持効果を示すことが確認できた。しかし、比較例3の組成物で示されるように、カワラヨモギ抽出物の含有量が0.05重量%以下である場合や、比較例4で示されるように、カワラヨモギ抽出物の含有量が2.5重量%以上である場合においては、無処理に比べてヘタ枯れが抑制されて鮮度保持されていたが、本発明の食味保持効果は発揮されないことが確認された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
カワラヨモギ抽出物を含有することを特徴とし、且つカワラヨモギ抽出物の含有量が0.05重量%〜2.5重量%であることを特徴とする柑橘類果実の食味保持剤。
【請求項2】
HLB値が8〜20の非イオン界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1に記載された柑橘類果実の食味保持剤。
【請求項3】
脂肪酸グリセリドを含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された柑橘類果実の食味保持剤。
【請求項4】
加水分解型タンニンを含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載された柑橘類果実の食味保持剤。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の食味保持剤で処理された柑橘類果実。



【公開番号】特開2009−291152(P2009−291152A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149674(P2008−149674)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】