説明

柑橘類果皮からの油分の除去方法、柑橘類果皮の粉末化方法、及びその粉末からなる入浴剤、機能性食品、並びに柑橘類果皮の粉末複合化製品の製造方法

【課題】機能性食品、医薬部外品、その他の機能性材料等の添加原料としてニーズが高い柑橘類の果皮の粉末を提供するために、柑橘類の果皮から効率的に油分を除去することができる柑橘類果皮からの油分の除去方法を提供することを課題とする。
【解決手段】柑橘類の果皮中の油分を、高圧流体によって抽出し、柑橘類の果皮から除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類の果皮からの油分の除去方法、柑橘類の果皮を粉末化する粉末化方法、及びその方法によって得られた粉末からなる入浴剤、機能性食品、並びにその方法によって得られた粉末を複合化した複合化製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポンカン、伊予柑、デコポン等の柑橘類の果皮は、機能性食品、医薬部外品、その他の機能性材料等の添加原料としてニーズが高く、そのような技術に関するものとして、たとえば下記特許文献1乃至特許文献3のような特許出願がなされている。
【0003】
特許文献1は、経口摂取用ストレス由来皮膚血流低下改善組成物に関するものであり、特許文献2は、柑橘類抽出組成物に関するものであり、特許文献3は、美容洗浄料に関するものである。このような機能性食品、医薬部外品等の製剤として使用するためには、粉末とすることが好適であり、実際、上記特許文献1乃至3には、柑橘類の果皮を粉末化する技術が開示されている。
【0004】
しかし、柑橘類の果皮には、油分が多量に含まれているために、凍結乾燥や天日乾燥等の一般的な粉末化技術を採用すると、乾燥しにくいという問題がある。そこで、このような問題を解決すべく、粉末化を好適に行うために、柑橘類の果皮に含まれている油分を除去した上で粉末化をすることが考えられる。このような柑橘類果皮からの油分の抽出、除去技術として、たとえば下記特許文献4乃至6のような特許出願がなされている。
【0005】
特許文献4は、ポリメトキシフラボン類の製造方法に関し、柑橘類の果皮油を、抽出溶媒として有機酸水溶液を使用してポリメトキシフラボン類を抽出するものであり、特許文献5は、柑橘類から精油を抽出する方法及び減圧蒸留生成抽出装置に関するものであり、特許文献6は、果皮を含む柑橘の処理方法に関し、果皮を含む柑橘を、液体窒素を用いて凍結し、得られた凍結物に衝撃を与えて微細化するものである。
【0006】
しかしながら、この特許文献4乃至6に開示された技術は、油分の抽出自体を目的とした技術であるので、その油分の抽出、除去後に粉末化することを意図するものではない。これに対して、粉末化を好適に行うためには、柑橘類の果皮からの油分の抽出、除去効率ある程度良好なものとしなければ、実効を図ることができない。この点、上記特許文献4乃至6に開示された技術では、そのような実効が図れるとは必ずしも認められない。
【0007】
いずれにしても、従来では、上記特許文献1乃至3のように、柑橘類の果皮を粉末化する技術が開示された技術文献が存在するものの、実際には果皮に多量の油分が含まれているために、粉末化を行うことは容易ではなく、そのような技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−214223号公報
【特許文献2】特開2004−229528号公報
【特許文献3】特開平5−339147号公報
【特許文献4】特開2009−51738号公報
【特許文献5】特開2006−291007号公報
【特許文献6】特開2006−75115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、機能性食品、医薬部外品、その他の機能性材料等の添加原料としてニーズが高い柑橘類の果皮の粉末を提供するために、柑橘類の果皮から効率的に油分を除去することができる柑橘類果皮からの油分の除去方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、柑橘類の果皮中の油分を、高圧流体によって抽出し、柑橘類の果皮から除去することを特徴とする柑橘類果皮からの油分の除去方法を提供するものである。
【0011】
柑橘類の果皮中の油分を抽出、除去する前に、前処理を行うことが望ましい。その前処理として、柑橘類の果皮を圧搾することが例示される。また別の前処理として、柑橘類の果皮をスラリー化することが例示される。さらに別の前処理として、柑橘類の果皮をチップ化することが例示される。
【0012】
柑橘類は、たとえば冷凍保存したものが用いられる。これは、柑橘類の収穫時期が限られているので、本発明の粉末化を実施する上で、時期的な制限を受けないようにするためである。
【0013】
さらに、柑橘類の果皮としては、たとえばポンカン、伊予柑、デコポン等の果皮が用いられる。さらに、高圧にする流体としては、二酸化炭素を使用するのが望ましい。また、高圧流体としては、超臨界流体又は亜臨界流体を使用するのが望ましい。
【0014】
また本発明は、柑橘類の果皮中の油分を、高圧流体によって除去した後、粉末化することを特徴とする柑橘類果皮の粉末化方法を提供するものである。さらに本発明は、上記のような方法で余剰の油分を除去した後に粉末化された柑橘類果皮の粉末からなる入浴剤、又は機能性食品を提供するものである。さらに本発明は、上記のような方法で余剰の油分を除去した後に粉末化された柑橘類果皮の粉末に、除去された油分を添加して粉末複合化製品を製造する柑橘類果皮の粉末複合化製品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上述のように、柑橘類の果皮中の油分を、高圧流体によって抽出、除去する方法であるため、柑橘類の果皮中の油分が好適に除去されることとなり、その後の粉末化等を容易に行うことができ、機能性食品、医薬部外品、その他の機能性材料等の添加原料としてニーズが高い柑橘類の果皮の粉末を容易に得ることができるという効果がある。また、抽出、除去された油分の有効利用をも図ることができる。
【0016】
特に、高圧にする流体として二酸化炭素を使用する場合には、たとえば従来の柑橘果皮中の油分抽出技術の1つである溶媒による抽出技術のように、溶媒を別途必要とすることもなく、油分抽出のために余分なコストを発生させることもないという効果がある。
【0017】
さらに、高圧流体として超臨界流体又は亜臨界流体を使用した場合には、果皮中の油分の抽出効率が向上し、その分、果皮中の油分の残存率が少なくなるので、粉末化を一層容易に行うことができるという効果がある。
【0018】
さらに、柑橘類の果皮中の油分を除去する前に、柑橘類の果皮の圧搾、柑橘類の果皮をスラリー化、柑橘類の果皮をチップ化等の前処理を行った場合には、その後の高圧流体による油分の除去を一層容易に行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態としての柑橘類果皮からの油分の除去方法を行う装置の概略正面図。
【図2】他実施形態の柑橘類果皮の粉末化方法を行う装置の概略正面図。
【図3】一実施例のGC−MS分析結果のチャート
【図4】他実施例のGC−MS分析結果のチャート
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の柑橘類果皮からの油分の除去方法は、上述のように、柑橘類の果皮中の油分を、高圧流体によって抽出し、柑橘類の果皮から除去するものである。実際には、柑橘類の果皮中の余剰の油分が、高圧流体によって抽出、除去される。
【0021】
油分除去を容易に行う観点からは、柑橘類の果皮中の油分を除去する前に、前処理を行うことが望ましい。その前処理としては、たとえば柑橘類の果皮を圧搾すること、柑橘類の果皮をスラリー化すること、果皮をチップ化することが例示される。
【0022】
柑橘類の果皮を圧搾する手段としては、たとえば上下にローラーを配置し、その上下のローラー間に柑橘類の果皮を通過させることによって圧搾するような手段が例示される。
【0023】
一般的にリモネンは果皮中の「油胞」という袋状の粒の中に含有されている。この場合、当該油胞の粒の径よりも、上下ローラー間のクリアランスを小さくして圧搾した場合、当該粒が好適に破砕されるため、その破砕口を介してリモネンを好適に抽出除去することができる。
【0024】
さらに、柑橘類の果皮をスラリー化する手段としては、たとえば調理用の電動ミキサーが例示される。さらに、柑橘類の果皮をチップ化する手段としては、たとえば調理用の電動スライサーが例示される。
【0025】
上述のような圧搾、スラリー化、チップ化等の前処理を行うことなく、収穫した柑橘類を、水分を拭き取る等した後、そのまま油分除去を行うこともできる。
【0026】
柑橘類は、収穫した後にそのまま使用することもできるが、収穫時期が限られているので、油分除去、粉末化を実施する上で、時期的な制限を受けないようにするために、冷凍保存したものを用いることができる。粉末化する上で、冷凍保存することに特に支障はなく、また粉末化後の各種製品の品質に影響を与えることもない。
【0027】
柑橘類の種類としては、たとえばポンカン、伊予柑、ハッサク、デコポン、スィートスプリング、甘夏柑、温州ミカン、スダチ、柚、カボス、ダイダイ、その他の柑橘類を使用することができる。さらに、これらの柑橘果汁入り飲料を製造した後に残る絞り粕が、廃棄物の効果的利用の観点から好適に用いられる。すなわち、本発明における「柑橘類の果皮」には、このような柑橘果汁入り飲料を製造した後に残る絞り粕のようなものも含まれる。
【0028】
高圧にする流体としては、たとえば二酸化炭素、亜酸化窒素、トリフルオロメタン、窒素等を使用することができる。特に、作業上の安全性、工業化の可能性、さらには油分除去を実施する上でのコストの低減化の観点からは、二酸化炭素を用いるのが特に好ましい。
【0029】
さらに、高圧流体としては、油分除去の効率を高める観点から、超臨界流体又は亜臨界流体を使用するのが望ましい。上述の二酸化炭素は臨界温度が31.1℃で臨界圧力が7.38MPa、亜酸化窒素は臨界温度が36.4℃で臨界圧力が7.24MPa、トリフルオロメタンは臨界温度が25.9℃で臨界圧力が4.84MPa、窒素は臨界温度が−147℃、臨界圧力が3.39MPaである。
【0030】
また、高圧流体に加え、エントレーナー(補助溶媒)を添加することもできる。このようなエントレーナーの添加により、抽出効率をさらに高めることができる。エントレーナーの種類は特に限定されるものではない。
【0031】
さらに、本発明の柑橘類果皮の粉末化方法は、柑橘類の果皮中の油分を、高圧流体によって除去した後、粉末化するものである。また、本発明の入浴剤、若しくは機能性食品は、上記のような方法で油分が除去された柑橘類果皮の粉末からなるものである。
【0032】
さらに、本発明の柑橘類果皮の粉末複合化製品の製造方法は、上記のような上記のような方法で油分が除去された柑橘類果皮の粉末に、除去された油分を添加して粉末複合化製品を製造するものである。
【0033】
(実施形態1)
次に、上記のような柑橘類果皮からの油分の除去方法のより具体的な実施形態を、図1に従って説明する。
【0034】
先ず、一実施形態としての粉末化方法を行う装置の構成の概略について、図1に従って説明する。本実施形態の粉末化方法を行う装置は、図1に示すように、ボンベ1と、高圧容器2と、油分回収容器3と、補助溶媒用容器4と、2つの高圧ポンプ5、6と、逆止弁7と、背圧弁8と、ストップバルブ15とを具備している。
【0035】
ボンベ1は、高圧流体として用いる流体の成分としての二酸化炭素を充填したボンベであり、このボンベ1から二酸化炭素が系内に供給される。
【0036】
高圧容器2は、処理対象物である柑橘類の果皮を収容して油分を除去するための容器で、この高圧容器2の内部で前記柑橘類の果皮に高圧流体を接触させて、その果皮の粉砕物から油分を抽出除去することになる。この高圧容器2は、流体の成分を高圧流体の状態に保持するために恒温槽9内に収容されている。
【0037】
油分回収容器3は、前記高圧容器2で抽出、除去された油分と高圧流体とを供給した後、油分と高圧流体の成分とを分離して油分を収容するための容器である。
【0038】
補助溶媒用容器4は、油分を抽出、除去するための補助溶媒を収容するための容器である。補助溶媒は、高圧ポンプ6によって高圧容器2へ供給されるが、図1に示すように高圧容器2の手前で高圧流体成分と合流させて高圧流体と補助溶媒との混合流体が高圧容器2へ供給されることとなる。ただし、高圧流体とは別に高圧容器2へ単独で供給する場合もある。いずれの場合も、高圧流体と補助溶媒の混合流体が高圧容器2の内部で柑橘類の果皮と接触して油分を抽出、除去するのである。
【0039】
高圧ポンプ5は、前記ボンベ1の流体成分を高圧容器2へ供給するためのものであり、その高圧ポンプ5の圧力は、圧力計10で測定される。高圧容器2には、さらに内部を攪拌するための攪拌機11が具備されている。また、高圧容器2の内部の温度を測定可能な温度計12も具備されている。
【0040】
逆止弁7は、高圧容器2へ供給された流体が逆流するのを阻止する弁であり、ストップバルブ15は、系内が所定の圧力になるまで、油分回収容器3側への流路を閉鎖するための弁である。
【0041】
背圧弁8は、該背圧弁8の前段側にある装置配管内の圧力を一定に保つためのものである。また、ストップバルブ15を開くことによって、系内と背圧弁8とが連通状態となる。さらに、高圧ポンプ5を流通状態にした場合、背圧弁8の設定圧力を超える分の流体が系内に投入された場合、その超えた分の流体が背圧弁8を介して系外へ排出されることとなる。
【0042】
次に、上記のような装置を用いた、柑橘類果皮からの油分の除去方法のより具体的な実施形態について説明する。
【0043】
先ず、高圧容器2内に、処理対象物である柑橘類の果皮13を収容する。この柑橘類の果皮13は、予め圧搾によって粉砕されている。本実施形態では、柑橘類として、ポンカンが用いられている。次に、高圧容器2を収容している恒温槽9を所定の温度に設定し、背圧弁8を所定の解放圧力に設定した上で、ボンベ1から高圧容器2へ二酸化炭素を供給する。高圧容器2への二酸化炭素の供給は、高圧ポンプ5によって連続的になされる。
【0044】
より具体的には、高圧ポンプ5によって昇圧され、流路を介して高圧容器2側へ供給される圧力が臨界圧力以上となり、上記背圧弁8によって設定された圧力に保持されるようになっている。系内を上記設定された圧力に保持させるために、高圧容器2へ供給された流体が上流側へ逆流するのが逆止弁7によって阻止される。
【0045】
臨界圧力以上に昇圧、および臨界温度以上に昇温された流体、すなわち超臨界流体は高圧容器2へ供給される。そして、高圧容器2へ供給された超臨界流体は、該高圧容器2内で予め収容されていた柑橘果皮粉砕物から油分を抽出するのである。本実施形態では、柑橘類としてポンカンを用いているので、油分としては主にリモネンが抽出される。
【0046】
温度と圧力は、使用する流体が超臨界流体になる条件、すなわち臨界圧力以上、臨界温度以上の条件であればよい。本実施形態で用いる二酸化炭素は、温度31.1℃(臨界温度)、圧力7.38MPa(臨界圧力)以上の温度と圧力の条件下で超臨界流体となり、上記のような恒温槽の温度設定及び背圧弁8での圧力設定によって超臨界状態を維持することができる。本実施形態では、温度は40℃に設定され、圧力は20MPaに設定される。
【0047】
そして、高圧容器2内の温度と圧力が所定の値(40℃,20MPa)に達した後、高圧ポンプ5を一時停止し、所定の時間(本実施形態では2時間)、二酸化炭素を系内に保持させる。このとき、油分回収容器3への流路はストップバルブ15によって閉塞されており、油分回収容器3への二酸化炭素の供給はなされない。すなわち、系内は所定の温度と圧力に保持された状態となり、柑橘果皮の繊維や細胞内部に超臨界流体となった二酸化炭素が均一に隅々まで浸透し、そこから油分であるリモネンを抽出するための準備段階を整えることになる。さらに、浸透した超臨界二酸化炭素には既にリモネンの溶解が進行している。
【0048】
このように40℃の温度と20MPaの圧力で系内を2時間保持した後、ストップバルブ15を開くことによって油分回収容器3側への流路を開放状態とし、高圧ポンプ5の運転を再開し、高圧容器2から油分回収容器3側へも二酸化炭素を流通させる。そして、油分回収容器3側への流路を開放状態とした状態で、二酸化炭素を一定時間(たとえば5時間)流通させる。
【0049】
油分回収容器3側への流路を開放状態とした状態で、40℃の温度と20MPaの圧力で5時間、新鮮な二酸化炭素を柑橘果皮に接触させて流通することで、リモネンが溶解した超臨界二酸化炭素と、新鮮な二酸化炭素が入れ替わる。さらに、柑橘果皮に浸透した新鮮な二酸化炭素には新たにリモネンが溶解する。そして、このサイクルが5時間繰り返される。結果的に二酸化炭素を介して柑橘果皮からリモネンが抽出され、高圧容器2の外部に排出されて油分回収容器3に供給されることとなる。
【0050】
さらに、補助溶媒を添加する条件で行う場合、二酸化炭素を流通させている状態で、補助溶媒用容器4から高圧ポンプ6を介して補助溶媒を高圧容器2へ供給する。本実施形態では、補助溶媒としてエタノールを用いる。このとき、高圧容器2へ供給される流体は、二酸化炭素とエタノールの混合流体となる。エタノールは油性物質を良く溶解する効果があるため、元来脂溶性のあるニ酸化炭素と混合することによって、油分の溶解力が相乗的に向上することとなる。そして、抽出物として、超臨界二酸化炭素、エタノール、及び油分(リモネン等)の3者の混合物が油分回収容器3へ供給されることとなる。
【0051】
油分回収容器3は、大気と連通状態とされており、油分回収容器3内が減圧されることにより二酸化炭素は気体となり、エタノールから分離されて、油分分離用容器3から排出され、さらに系外に排出される。そして、油分回収容器3で油分(リモネン等)が沈殿し回収される。
【0052】
上述のように、本実施形態では、高圧容器2内に柑橘類の果皮を収容するとともに、その高圧容器2に超臨界二酸化炭素を供給し、超臨界二酸化炭素の抽出力によって柑橘類の果皮からリモネン等の油分を抽出して除去することとしたため、リモネン等の油分の抽出率、除去率が非常に良好となった。さらにエタノールを超臨界二酸化炭素の補助溶媒として用いることで、抽出率、除去率がさらに向上することとなった。
【0053】
(実施形態2)
本実施形態は、柑橘類果皮からの油分の除去方法の他の実施形態である。本実施形態においては、図2に示すように、高圧容器2で抽出、除去された油分が、該高圧容器2の底部側から引き抜かれて油分回収容器3へ供給されるようにラインが接続されており、この点で、高圧容器2の上部側から抽出、除去された油分が引き抜かれて油分回収容器3へ供給されるようにラインが接続されていた上記実施形態1と相違する。
【0054】
また、本実施形態では、攪拌機11に籠状体14が具備されており、その籠状体14内に柑橘類の果皮13が収容される。このような籠状体14としては、濾布、メッシュ、格子、その他通気性があり、収容される柑橘類の果皮13が落下しないようなものを用いることができる。このような籠状体14は、たとえば攪拌機11に吊り下げる等によって具備される。
【0055】
本実施形態では、高圧容器2で抽出、除去された油分16が、該高圧容器2の底部側から引き抜かれるように構成されているので、抽出、除去された油分16が超臨界流体と相分離した場合であっても、その分離物が籠状体14を介して高圧容器2の底部に落下する。そして高圧容器2の底部側のラインを介して当該除去された油分が油分回収容器3へ好適に供給されることとなる。その結果、果皮13に当該除去された油分が不用意に付着することが軽減されるのである。
【0056】
ボンベ1、高圧容器2、油分回収容器3、補助溶媒用容器4、2つの高圧ポンプ5、6、逆止弁7、背圧弁8等を具備して装置が構成されている点は、上記実施形態1と同じであるため、その説明は省略する。
【0057】
さらに、高圧容器2内に収容された柑橘類の果皮13から、超臨界流体によって油分が抽出、除去される作用も、上記実施形態1と同じであるため、その説明は省略する。
【0058】
(その他の実施形態)
尚、上記実施形態では、超臨界流体として二酸化炭素(臨界温度:31.1℃,臨界圧力:7.38MPa)を用いたが、これ以外に、亜酸化窒素(臨界温度:36.4℃,臨界圧力:7.24MPa)、トリフルオロメタン(臨界温度:25.9℃,臨界圧力:4.84MPa)等を使用することができる。
【0059】
また、該実施形態では、高圧流体として超臨界二酸化炭素を用いたが、操作条件として、臨界温度未満でかつ臨界圧力以上、臨界温度以上でかつ臨界圧力未満、および臨界温度と臨界圧力を共に僅かに下回る条件におかれた流体、いわゆる亜臨界二酸化炭素を用いることも可能である。さらには超臨界流体や亜臨界流体以外の高圧流体を用いることも可能である。
【0060】
また、上記実施形態では、補助溶媒としてエタノールを用いたが、補助溶媒の種類はこれに限定されるものではなく、たとえばメタノール、プロパノールなどの低級アルコール、ノルマルヘキサンやシクロヘキサンなどの炭化水素、アセトン、酢酸エチル等を用いることも可能である。要は、食品あるいは医薬品関連で適用される物質を取り扱う観点、および天然物質を劣化させずに品質を保持する観点などから適宜、選択することが好ましいのである。
【0061】
さらに、上記実施形態では、高圧容器2とは別に補助溶媒用容器4を設けたが、このような補助溶媒用容器4を設けずに、たとえば高圧容器2に補助溶媒を収容して超臨界流体とともに用いてもよい。
【0062】
さらに、上記実施形態で用いた装置に関し、高圧容器2や油分回収容器3の材質、配管の材質、機器類の型式、その他図示されていないラインフィルター、ドレン弁、バイパス配管、安全弁、架台等の一般的な附属部品については適宜、選択して使用することが可能である。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0064】
(実施例1)
本実施例では、柑橘類の果皮の一例としてのデコポンの果皮から、油分であるリモネンを、超臨界二酸化炭素によって抽出、除去した。抽出、除去の処理には、前述の図1に示した構成の装置を用いた。
【0065】
本実施例では、柑橘果皮の試料として、冷凍庫にてマイナス40℃で保存していたデコポン全果実の果汁絞り粕を解凍して、そのまま用いた。当該絞り粕206g(油分含有率0.38重量%,含油量0.78g)を、内容積300mlの高圧容器に仕込み、温度40℃、圧力20MPaに設定後、2時間保持した。その後、高圧ポンプの流量を7ml/分(液体二酸化炭素ベース)で5時間流通させた。その結果、油分を0.13g除去することができた。このときの油分除去率は、17重量%であった。
【0066】
また、図3に示すように、回収された油分をGC−MS分析した結果、リテンションタイムが6.8min(分)の位置にリモネンのピークが検出された。このことから、回収された油分中にリモネンが含有されていることが分かった。尚、図3においては、リテンションタイムが6.8minの位置以外の位置にも比較的高いピークが検出されており、リモネン以外の油分も多く含有されていることがわかった。GC−MS装置としては、SHIMADZU製GCMS−QP2010型装置を用いた。また、キャピラリーカラムとしては、CP−Sil24CB:lowbleed型(内径0.25μm、長さ30m、メディア径0.25μm)を用いた。カラム温度は、サンプル投入時には50℃とし、その温度で1分間保持した後、続いて昇温速度8℃/分で250℃まで昇温させた。サンプル量は、0.5μlの条件で処理を行った。
【0067】
尚、油分含有率は、一般的なヘキサン抽出法によって乾燥果皮10gに対してノルマルヘキサン100mlを混合し、6時間浸透抽出することによって求めた。
【0068】
(実施例2)
本実施例においても、柑橘果皮として冷凍庫にてマイナス40℃で保存していたデコポン全果実の果汁絞り粕を解凍したものを用いたが、試料としては、実施例1のように果汁絞り粕の解凍物をそのまま用いるのではなく、解凍物をスラリー化したものを用いた。抽出、除去の処理には、実施例1と同様に、図1の装置を用いた。
【0069】
スラリー化は、SB−990型卓上スーパーブレンダーを用いて、15000rpmで5分間処理の条件で行った。当該スラリー204g(油分含有率0.27重量%,含油量0.55g)を、内容積300mlの高圧容器に仕込み、温度40℃、圧力20MPaに設定後、2時間保持した。その後、高圧ポンプの流量を7ml/分(液体二酸化炭素ベース)で5時間流通させた。その結果、油分を0.11g除去することができた。このときの油分除去率は、20重量%であった。
【0070】
油分含有率は、実施例1と同様にして求めた。
【0071】
(実施例3)
本実施例においても、柑橘果皮として冷凍庫にてマイナス40℃で保存していたデコポン全果実の果汁絞り粕を解凍したものを用いたが、試料としては、実施例2のようにデコポンの果汁絞り粕の解凍物を単にスラリー化したものではなく、解凍物に含有されている余剰の果実を取り去った後に果皮のみの解凍物をスラリー化したものを用いた。抽出、除去の処理には、実施例1、2と同様に、図1の装置を用いた。
【0072】
スラリー化は、実施例2と同様の条件で行った。当該スラリー207g(油分含有率0.19重量%,含油量0.39g)を、内容積300mlの高圧容器に仕込み、温度40℃、圧力20MPaに設定後、2時間保持した。その後、高圧ポンプの流量を7ml/分(液体二酸化炭素ベース)で5時間流通させた。その結果、油分を0.11g除去することができた。このときの油分除去率は、28重量%であった。
【0073】
油分含有率は、実施例1、2と同様にして求めた。
【0074】
以上の実施例1乃至3の結果によると、冷凍庫にてマイナス40℃で保存していたデコポン全果実の果汁絞り粕を解凍したものを原料として、果汁絞り粕そのままのもの、果汁絞り粕をスラリー化したもの、果汁絞り粕から余剰の果実を除去した後の果皮のみをスラリー化したものを用いた場合、その油分除去率が、それぞれ、17重量%、20重量%、28重量%であり、果汁絞り粕から余剰の果実を除去した後の果皮のみをスラリー化したものを用いた場合に油分除去率が最も良好であり、次いで果汁絞り粕をスラリー化したものの油分除去率が良好であった。このことから、果汁絞り粕はそのまま用いるよりもスラリー化することで油分除去率が向上し、また余剰の果実を除去した上でスラリー化することで油分除去率がさらに向上することがわかった。
【0075】
(実施例4)
本実施例では、柑橘類の果皮の一例としての伊予柑の果皮から、油分であるリモネンを、超臨界二酸化炭素によって抽出、除去した。抽出、除去の処理には、前述の図1に示した構成の装置を用いた。
【0076】
本実施例では、柑橘果皮の試料として、冷凍庫にてマイナス40℃で保存していた伊予柑全果実の果汁絞り粕を解凍したものから余剰の果実を取り去った後にスラリー化したものを用いた。スラリー化は、上記実施例2、3と同様の条件で行った。当該スラリー208g(油分含有率0.11重量%,含油量0.23g)を、内容積300mlの高圧容器に仕込み、温度40℃、圧力20MPaに設定後、2時間保持した。その後、高圧ポンプの流量を7ml/分(液体二酸化炭素ベース)で5時間流通させた。その結果、油分を0.07g除去することができた。このときの油分除去率は、31重量%であった。
【0077】
また、図4に示すように、回収された油分をGC−MS分析した結果、リテンションタイムが6.8min(分)の位置にリモネンのピークが検出された。このことから、回収された油分中にリモネンが含有されていることが分かった。尚、図4においては、リテンションタイムが6.8minの位置以外の位置には高いピークがほとんど検出されておらず、従って回収された油分中にはリモネンが多く含有されていることがわかった。GC−MS装置、キャピラリーカラムは実施例1と同じものを用い、実施例1と同じ条件で処理を行った。
【0078】
油分含有率は実施例1乃至3と同様にして求めた。
【0079】
(実施例5)
本実施例では、柑橘果皮の試料として、実施例4と同様に、冷凍庫にてマイナス40℃で保存していた伊予柑全果実の果汁絞り粕を解凍したものから余剰の果実を取り去った後にスラリー化したものを用いた。上記実施例1乃至4で図1の装置を用いたのに対して、本実施例では図2の装置を用いた。
【0080】
スラリー化は、上記実施例2乃至4と同様の条件で行った。当該スラリー72g(油分含有率0.11重量%,含油量0.080g)を、内容積300mlの高圧容器に仕込み、温度40℃、圧力20MPaに設定後、2時間保持した。その後、高圧ポンプの流量を7ml/分(液体二酸化炭素ベース)で5時間流通させた。その結果、油分を0.060g除去することができた。このときの油分除去率は、76重量%であった。
【0081】
上述のように、実施例4、5では、実施例1乃至3のデコポンにおいて最も油分除去率が高かった果汁絞り粕から余剰の果実を除去した後の果皮のみをスラリー化したものを柑橘果皮の試料として用いた。その結果、実施例4及び5の伊予柑を用いた場合には、デコポンにおいて最も高かった油分除去率よりもさらに高い油分除去率を示した。このような同種の柑橘果皮試料を用いた結果から、超臨界二酸化炭素を用いた伊予柑での油分除去率は、デコポンでの油分除去率よりも高いことがわかった。さらに、装置として図1と図2を用いた場合の結果を比較した場合、それぞれ、31重量%と76重量%となった。装置としては、図2の装置を用いた場合の効果が高いことがわかった。
【符号の説明】
【0082】
1 ボンベ
2 高圧容器
3 油分回収容器
4 補助溶媒用容器
5 高圧ポンプ
6 高圧ポンプ
7 逆止弁
8 背圧弁
13 柑橘類の果皮

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類の果皮中の油分を、高圧流体によって抽出し、柑橘類の果皮から除去することを特徴とする柑橘類果皮からの油分の除去方法。
【請求項2】
柑橘類の果皮中の油分を抽出、除去する前に、柑橘類の果皮を圧搾する請求項1記載の柑橘類果皮からの油分の除去方法。
【請求項3】
柑橘類の果皮中の油分を除去する前に、柑橘類の果皮をスラリー化する請求項1記載の柑橘類果皮からの油分の除去方法。
【請求項4】
柑橘類の果皮中の油分を除去する前に、柑橘類の果皮をチップ化する請求項1記載の柑橘類果皮のからの油分の除去方法。
【請求項5】
柑橘類の果皮として、冷凍保存した柑橘類の果皮を用いる請求項1乃至4のいずれかに記載の柑橘類果皮からの油分の除去方法。
【請求項6】
柑橘類の果皮が、ポンカン、伊予柑、又はデコポンの果皮である請求項1乃至5のいずれかに記載の柑橘類果皮からの油分の除去方法。
【請求項7】
高圧状態にする流体が二酸化炭素である請求項1乃至6のいずれかに記載の柑橘類果皮からの油分の除去方法。
【請求項8】
高圧流体が、超臨界流体又は亜臨界流体である請求項1乃至7のいずれかに記載の柑橘類果皮からの油分の除去方法。
【請求項9】
柑橘類の果皮中の油分を、高圧流体によって除去した後、粉末化することを特徴とする柑橘類果皮の粉末化方法。
【請求項10】
請求項9記載の粉末化方法で粉末化された柑橘類果皮の粉末からなる入浴剤。
【請求項11】
請求項9記載の粉末化方法で粉末化された柑橘類果皮の粉末からなる機能性食品。
【請求項12】
請求項9記載の粉末化方法で粉末化された柑橘類果皮の粉末に、除去された油分を添加して粉末複合化製品を製造する柑橘類果皮の粉末複合化製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−235832(P2010−235832A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86679(P2009−86679)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(501484839)有限会社井上誠耕園 (2)
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【Fターム(参考)】