説明

染色プラスチックレンズの製造方法

【課題】従来の方法ではプラスチックレンズの染色が困難であった含金属染料を用い、均一に染色された、耐候性に優れる染色プラスチックレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】含金属染料、両親媒性溶剤、単環式モノテルペン、及び水を含有し、25℃におけるpHが3.0〜6.5の染色液を用いて染色する、染色プラスチックレンズの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色プラスチックレンズの製造方法に関する。さらに詳しくは、従来の方法ではプラスチックレンズの染色が困難であった含金属染料を用い、均一に染色された、耐候性に優れる染色プラスチックレンズを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡用のプラスチックレンズの染色には、浸漬染色法、加圧染色法、染料膜加熱法等が利用されている。これら染色法の中でも、浸漬染色法は、工程が簡便であり、また屈折率が1.5〜1.6程度のプラスチックレンズに対しては染料の浸透が容易であることから、有用な染色方法である(例えば、特許文献1及び2参照)。
プラスチックレンズを染色する際に用いられる染料は分散染料が主流であり、浸漬染色法をはじめとする種々の染色法に用いられている。例えば特許文献1には、分散染料と、ハロゲン化芳香族炭化水素からなるキャリアーとを含有する染料分散浴中に浸漬する着色プラスチックレンズの製造方法が開示されている。特許文献2には、プラスチックレンズ等に用いられる熱可塑性樹脂を、分散染料と単環式モノテルペンとを含有する染色液中に浸漬して染色する方法が開示されている。
しかしながら、分散染料を用いて染色したプラスチックレンズは長期使用の間に退色することがあり、染色プラスチックレンズのさらなる耐候性の向上が望まれている。
そこで、分散染料よりも耐候性に優れた染料の使用により、染色プラスチックレンズの耐候性を向上させることが考えられる。耐候性に優れた染料としては、含金属染料が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−248901号公報
【特許文献2】特開2004−2690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された染色法を用いて、分散染料を含金属染料に替えて染色を行っても、プラスチックレンズを染色することができなかった。
本発明は、従来の方法ではプラスチックレンズの染色が困難であった含金属染料を用い、均一に染色された、耐候性に優れる染色プラスチックレンズの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、特定条件下でプラスチックレンズの染色を行うことにより上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち本発明は、含金属染料、両親媒性溶剤、単環式モノテルペン、及び水を含有し、25℃におけるpHが3.0〜6.5の染色液を用いて染色する、染色プラスチックレンズの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、含金属染料を用いてもプラスチックレンズの染色が可能になり、均一に染色された、耐候性に優れる染色プラスチックレンズを提供することができる。得られた染色プラスチックレンズは、眼鏡用レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、望遠鏡レンズ、拡大鏡レンズ等に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、含金属染料、両親媒性溶剤、単環式モノテルペン、及び水を含有し、25℃におけるpHが3.0〜6.5の染色液を用いて染色する、染色プラスチックレンズの製造方法である。
【0008】
含金属染料によりプラスチックレンズが染色される機構は、プラスチックレンズへの含金属染料の吸着、及び/又はプラスチックレンズに存在する官能基と含金属染料との化学結合の形成による染着であると考えられる。
眼鏡用レンズとして用いられるプラスチックレンズは、例えば、熱硬化性樹脂を用いて注型重合により成形される。ここで、反応性が高い熱硬化性樹脂を用いると、反応が速いために組成の不均一化が起こりやすく、特に、成形されたレンズの樹脂注入口付近にあたる部分において、結晶領域と非結晶領域が発生しやすくなる。このようなレンズを分散染料を用いて従来の方法で染色すると、レンズ内に染料が浸透することにより染色される分散染料では、レンズの結晶領域と非結晶領域とで染色度合いに差が生じ、染色ムラが発生する。
これに対し、特定条件下で含金属染料を用いて染色すると、プラスチックレンズにおいて結晶領域と非結晶領域とが存在していたとしても染色ムラを生じることなく、均一に染色されたプラスチックレンズが得られることを見出した。
【0009】
<プラスチックレンズ>
本発明に用いられるプラスチックレンズの材質は、特に制限はなく、例えば、射出成形法により成形可能な熱可塑性樹脂製のレンズや、注型重合等により成形可能な、眼鏡用レンズ等に一般に用いられる熱硬化性樹脂製のレンズ等を用いることができる。
上記プラスチックレンズの材質としては、例えば、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種類以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種類以上の他のモノマーとの共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ハロゲン含有共重合体、スルフィド結合を有するモノマーの単独重合体、スルフィド結合を有するモノマーと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリウレア樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、ポリウレア樹脂製又はポリチオウレタン樹脂製のプラスチックレンズを用いることが好ましく、ポリウレア樹脂製のプラスチックレンズを用いることがより好ましい。ポリウレア樹脂製のプラスチックレンズは、含金属染料中の金属と化学結合を形成しうる官能基であるアミノ基を有しているため、含金属染料が染着しやすいためである。なお、含金属染料中の金属と化学結合を形成しうる官能基については後述する。
プラスチックレンズの形状に特に制限はなく、例えば、球面、回転対称非球面、多焦点レンズ、トーリック面等の非球面、凸面、凹面等の多様な曲面を有するプラスチックレンズを用いることができる。
プラスチックレンズの成形方法に特に制限はなく、レンズの材質や形状等に応じて、射出成形法、注型重合による成形法等により成形されたプラスチックレンズを用いることができる。
【0010】
本発明に用いられるプラスチックレンズは、プラスチックレンズを均一に染色する観点から、含金属染料中の金属と化学結合を形成しうる官能基を有していることが好ましい。
上記官能基は、含金属染料中の金属とイオン結合、配位結合等の化学結合を形成しうる官能基であればよい。含金属染料中の金属と化学結合を形成しやすいという観点から、該官能基は、アミノ基及びカルボキシル基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アミノ基であることがより好ましい。プラスチックレンズは、これらの官能基を1種又は2種以上有していてもよい。
【0011】
本発明に用いられるプラスチックレンズの市販品としては、例えば、ポリウレア樹脂製のプラスチックレンズであるPhoenix(HOYA株式会社製)や、ポリチオウレタン樹脂製のプラスチックレンズであるEYAS(HOYA株式会社製)等が挙げられる。
【0012】
<染色液>
本発明の染色プラスチックレンズの製造方法では、含金属染料、両親媒性溶剤、単環式モノテルペン、及び水を含有し、25℃におけるpHが3.0〜6.5の染色液を用いてプラスチックレンズを染色する。以下、染色液に含有される各成分について説明する。
【0013】
(含金属染料)
本発明に用いられる染色液は、染料として含金属染料を含有する。含金属染料とは、分子内に錯塩の形で重金属陽イオンを含む染料であり、例えば、金属アゾ錯塩染料等が挙げられる。金属アゾ錯塩染料としては、クロム、銅、ニッケル、コバルト、鉄、アンチモン等の重金属陽イオンと、o,o’−ジヒドロキシアゾベンゼン等のアゾベンゼン構造等を有する染料との錯塩等が挙げられる。含金属染料は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
含金属染料は耐候性に優れるため、含金属染料により染色された染色プラスチックレンズは優れた耐候性を発現する。
【0014】
本発明に用いられる含金属染料の市販品としては、例えば、Kayakalan Bordeaux BL(日本化薬株式会社製)、Kayakalan Grey BL 167(日本化薬株式会社製)、Kayakalan OLive(日本化薬株式会社製)等が挙げられる。
【0015】
染色液中の含金属染料の含有量は、特に制限はないが、好ましくは0.01〜2.0質量%であり、より好ましくは0.1〜1.0質量%である。染色液中の含金属染料の含有量が0.01〜2.0質量%の範囲であれば、プラスチックレンズの染色を効率よく行うことができる。
【0016】
(両親媒性溶剤)
本発明に用いられる染色液は、両親媒性溶剤を必須成分として含有する。
プラスチックレンズ、及び従来から使用されている分散染料はいずれも疎水性度が高いため両者は親和性が高いが、含金属染料は親水性であるため、疎水性度の高いプラスチックレンズとの親和性を高める必要があり、そのために、含金属染料のキャリアー効果を有する両親媒性溶剤が必要となる。
両親媒性溶剤は、水への溶解性と、含金属染料及び単環式モノテルペンの溶解能を有し、かつ染色するプラスチックレンズへの損傷がないものであれば特に制限なく用いることができる。両親媒性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、ブトキシエタノール、ブトキシエトキシエタノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、プロポキシプロパノール、ブトキシプロパノール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。
これらの中でも、水に対する溶解性が高く、かつプラスチックレンズが膨潤し難いという観点から、炭素数1〜7のアルコール類の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エタノール、イソプロピルアルコール、エトキシブトキシエタノールであることがより好ましい。
これら両親媒性溶剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
染色液中の両親媒性溶剤の含有量は、プラスチックレンズを損傷するおそれなしにキャリアーとしての効果が得られるという観点から、好ましくは1〜30質量%であり、より好ましくは10〜15質量%である。
【0017】
(単環式モノテルペン)
本発明に用いられる染色液は、浸漬染色法におけるキャリアーとして単環式モノテルペンを含有する。単環式モノテルペンは、含金属染料をプラスチックレンズ内に浸透させることができ、プラスチックレンズを損傷するおそれも少ないため、染色液のキャリアーとして好適に用いられる。
単環式モノテルペンとしては、例えばリモネン、メントール、テルピネン、フェランドレン、シルベストレン、ピネン及びテルピネオール等が挙げられる。
これら単環式モノテルペンは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
単環式モノテルペンの使用形態としては、洗浄剤として一般に市販されている単環式モノテルペン含有水溶性を使用してもよい。また、後述するアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等を使用して、染色液中で単環式モノテルペンを乳化させて使用してもよい。
染色液中の単環式モノテルペンの含有量は、プラスチックレンズを損傷するおそれなしにキャリアーとしての効果が得られるという観点から、好ましくは0.001〜1質量%であり、より好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【0018】
(その他の成分)
本発明に用いられる染色液は、プラスチックレンズを均一に染色する観点から、上記成分の他に、界面活性剤や、両親媒性溶剤以外の有機溶剤等を任意に含有していてもよい。
プラスチックレンズは、浸漬染色法により全面染色してもハーフ染色してもよいが、ハ−フ染色する場合、染色時におけるレンズの上下動の際に、染料がレンズ表面に付着、乾燥し固着する場合がある。その場合、染料の固着を防ぐため、界面活性剤を染色液中に全面染色より多量に添加するとよい。このことにより、単環式モノテルペンの乳化状態が良好になり、レンズへの染料の固着が防げるものと考えられる。
界面活性剤は、特に限定はなく従来公知のものを用いればよいが、単環式モノテルペンを安定して乳化しうるという観点から、アニオン性又はノニオン性界面活性剤であることが好ましく、ポリオキシエチレン構造を有するものがより好ましい。アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリル硫酸塩等が挙げられ、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチルアルキルエーテル、アルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
界面活性剤を染色液に含有させる場合、アニオン系界面活性剤の含有量は、染色液において、好ましくは0.0001〜1質量%、より好ましくは0.01〜0.1質量%である。また、ノニオン性界面活性剤の含有量は、染色液において、好ましくは0.0001〜1質量%、より好ましくは0.01〜0.1質量%である。界面活性剤の含有量がそれぞれ上記範囲内であると、単環式モノテルペンの乳化促進、及び染料の固着防止効果を奏し、プラスチックレンズをより均一に染色することができる。
なお、ハーフ染色時の染色液中の界面活性剤の添加量は、全面染色時に比べて質量換算で1.1〜2倍量添加することが好ましい。
【0020】
(pH)
本発明に用いられる染色液は、25℃におけるpHが3.0〜6.5である。pHが上記範囲外であると、プラスチックレンズを染色することができず、また、染色時にプラスチックレンズが損傷されるおそれがある。
該pHは、プラスチックレンズを損傷せず、含金属染料をイオン化して効率的にプラスチックレンズを染色するために、25℃におけるpHが4.0〜6.5の範囲であることが好ましい。
pH調整は、例えば酢酸、酢酸ナトリウム等のpH調整剤を用いて行うことができる。
【0021】
[染色プラスチックレンズの製造方法]
本発明の染色プラスチックレンズの製造方法は、上記成分を含有し、25℃におけるpHが3.0〜6.5の染色液を用いて染色する。これにより、均一に染色された、耐候性に優れる染色プラスチックレンズを得ることができる。以下、染色プラスチックレンズの製造方法について説明する。
【0022】
<染色液の調製>
染色液は、含金属染料、両親媒性溶剤、単環式モノテルペン、水、及びその他の任意成分を混合して調製される。単環式モノテルペンは、界面活性剤等を用いて乳化させてから、他の成分と混合することが好ましい。これ以外の各成分の混合順序や混合方法には特に制限はなく、例えば、染色液に含有される上記成分を混合した後、攪拌機で攪拌して調製する等の公知の方法を用いることができる。
また、必要に応じpH調整剤を用いる等して、上記染色液の25℃におけるpHが3.0〜6.5になるように調整する。
【0023】
<プラスチックレンズの前処理>
染色するプラスチックレンズは、含金属染料との親和性を高め、プラスチックレンズを均一に染色する観点から、染色液に浸漬する前に洗浄処理及び/又は表面処理等の前処理を行ってもよい。
洗浄処理としては、例えばオゾン処理、プラズマ処理等が挙げられる。プラスチックレンズの被染色面にオゾン処理やプラズマ処理を施しておくと、該レンズ表面に付着している有機物が取り去られ、また、プラスチックレンズ表面の親水性が高まることから、含金属染料とプラスチックレンズ表面との親和性が良くなるものと考えられる。
オゾン処理、プラズマ処理に特に制限はなく、公知のオゾン処理装置やプラズマ処理装置を用いて洗浄処理を行えばよい。プラズマ処理におけるプラズマ出力は、好ましくは50〜500W、より好ましくは100〜300W、更に好ましくは200〜300Wであり、真空度は、好ましくは略真空圧下(例えば真空度1×10-3〜1×104Pa、より好ましくは1×10-3〜1×103Pa、更に好ましくは1×10-2〜5×102Pa)である。プラズマ出力及び真空度がこの範囲であれば、十分にプラスチックレンズの洗浄処理が行われる。
洗浄処理効果の観点から、上記処理を行った直後に、プラスチックレンズを染色することが好ましい。
【0024】
<プラスチックレンズの染色>
上記のようにして調製した染色液を用いて、必要に応じて上記前処理を行ったプラスチックレンズを染色する。染色方法には特に制限はなく、浸漬染色法、加圧染色法等の公知の方法を用いることができるが、工程の簡便さの観点から、浸漬染色法が好ましい。
浸漬染色法を用いる場合、プラスチックレンズを染色する際の染色液の温度、及び染色液への浸漬時間については、レンズの材質、含金属染料の種類、両親媒性溶剤の種類等により適宜選択すればよいが、プラスチックレンズを均一に、かつ効率よく染色する観点から、染色液の温度は好ましくは70〜100℃、より好ましくは75〜90℃である。また、上記と同様の観点から、染色液への浸漬時間は好ましくは5〜120分であり、より好ましくは10〜60分である。
また、プラスチックレンズの染色は、オートクレーブ等を用いて加圧条件下で行ってもよい。加圧条件下で染色することにより、効率よくプラスチックレンズを染色することができる。圧力は、プラスチックレンズを変形させることなく、かつ効率よく染色する観点から、好ましくは0.5〜5.0MPa、より好ましくは0.8〜3.0MPaである。また、加圧条件下でプラスチックレンズの染色を行う場合には、染色液の温度は好ましくは70〜140℃、より好ましくは90〜140℃である。
染色液から引き揚げたプラスチックレンズは、必要に応じて水洗や乾燥処理を行ってもよい。乾燥温度、乾燥時間等の条件は適宜選択することができる。
【0025】
[染色プラスチックレンズ]
以上のようにして製造された染色プラスチックレンズは、均一に染色され、かつ、優れた耐候性を有しており、例えば、眼鏡用レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、望遠鏡レンズ、拡大鏡レンズ等として有用である。
得られた染色プラスチックレンズの染色濃度及び耐候性は、それぞれ実施例に記載の方法で測定することができる。なお、プラスチックレンズの染色濃度は、染色プラスチックレンズの用途や要求特性に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、染色プラスチックレンズの諸物性は、以下に示す評価方法により評価した。
【0027】
(1)染色濃度
プラスチックレンズを実施例及び比較例に記載の方法で染色した後、分光光度計(日立製作所株式会社製、型番:U3410)を用いて、染色後のプラスチックレンズの波長550nmにおける透過率t(%)を測定し、以下の式から染色濃度(%)を求めた。なお、染色前のプラスチックレンズの波長550nmにおける透過率をt0(%)とした。
染色濃度(%)=t0−t
【0028】
(2)染色均一性
実施例及び比較例に記載の方法で染色した染色プラスチックレンズの外観を目視観察し、レンズの表面荒れや染色ムラが見られないものを「合格」、表面荒れ及び/又は染色ムラが見られるものを「不合格」評価とした。
【0029】
(3)耐候性評価
プラスチックレンズを実施例及び比較例に記載の方法で染色した後、レンズを2分割し、片方をキセノンロングライフウェザーメーター(スガ試験機株式会社製、型番:WEL−25AX−HC・B・EC)を用いて、耐光促進試験を200時間実施した。実施後、耐光促進試験を実施したものとしなかったものを目視観察し、退色が見られなかったものを「合格」、退色が見られたものを「不合格」評価とした。
【0030】
調製例1(染色液1の調製)
含金属染料「Kayakalan Bordeaux BL」(日本化薬株式会社製)1.0g、両親媒性溶剤であるイソプロピルアルコール30.0g、単環式モノテルペンであるリモネンを含有した水溶液「オレンジクリーナー18」(ヤスハラケミカル株式会社製、リモネン含有濃度;90質量%)0.2mLを混合した水溶液を調製した後、酢酸を用いて、該水溶液の25℃におけるpHを5.0に調整した。この水溶液に水を添加して全体量を240mLとし、染色液1を得た。
【0031】
比較調製例1(比較染色液1の調製)
含金属染料「Kayakalan Bordeaux BL」(日本化薬株式会社製)1.0gに水を添加して全体量を240mLとした水溶液を調製した後、酢酸を用いて、該水溶液の25℃におけるpHを5.0に調整して比較染色液1を得た。
【0032】
比較調製例2(比較染色液2の調製)
「オレンジクリーナー18」を添加しなかったこと以外は調製例1と同様の方法で、比較染色液2を得た。
【0033】
比較調製例3(比較染色液3の調製)
両親媒性溶剤であるイソプロピルアルコールを添加しなかったこと以外は調製例1と同様の方法で、比較染色液3を得た。
【0034】
比較調製例4(比較染色液4の調製)
含金属染料「Kayakalan Bordeaux BL」の替わりに、分散染料である「FSPブルーAUL−S(双葉産業株式会社製)」を用いたこと以外は調製例1と同様の方法で、比較染色液4を得た。
【0035】
比較調製例5(比較染色液5の調製)
染色液のpHを2.5(25℃)に調整したこと以外は調製例1と同様の方法で、比較染色液5を得た。
【0036】
比較調製例6(比較染色液6の調製)
染色液のpHを7.0(25℃)に調整したこと以外は調製例1と同様の方法で、比較染色液6を得た。
【0037】
比較調製例7(比較染色液7の調製)
イソプロピルアルコールの替わりにo−ジクロロベンゼンを用いたこと以外は調製例1と同様の方法で、比較染色液7を得た。
【0038】
実施例1(染色プラスチックレンズ1の製造)
調製例1で調製した染色液1を80℃に加温し、ここに市販のプラスチックレンズ「Phoenix」(HOYA株式会社製、材質;ポリウレア樹脂、中心肉厚;2.0mm、染色前の波長550nmにおける透過率;90.4%)を、大気圧下で20分間浸漬して、染色プラスチックレンズ1を得た。評価結果を表1に示す。
実施例1の製造方法で得られた染色プラスチックレンズは、染色濃度、染色均一性、及び耐候性のいずれにおいても良好な結果を示した。
【0039】
実施例2(染色プラスチックレンズ2の製造)
調製例1で調製した染色液1を85℃に加温し、ここに市販のプラスチックレンズ「EYAS」(HOYA株式会社製、材質;ポリチオウレタン樹脂、中心肉厚;2.0mm、染色前の波長550nmにおける透過率;90.7%)を、大気圧下で20分間浸漬して、染色プラスチックレンズ2を得た。評価結果を表1に示す。
実施例2の製造方法で得られた染色プラスチックレンズは、染色濃度、染色均一性、及び耐候性のいずれにおいても良好な結果を示した。
【0040】
比較例1(比較染色プラスチックレンズ1の製造)
比較調製例1で調製した比較染色液1を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較染色プラスチックレンズ1を得た。評価結果を表1に示す。両親媒性溶剤及び単環式モノテルペンを含有しない比較染色液1では、プラスチックレンズは染色されなかった。
【0041】
比較例2(比較染色プラスチックレンズ2の製造)
比較調製例2で調製した比較染色液2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較染色プラスチックレンズ2を得た。評価結果を表1に示す。単環式モノテルペンを含有しない比較染色液2では、プラスチックレンズは染色されなかった。
【0042】
比較例3(比較染色プラスチックレンズ3の製造)
比較調製例3で調製した比較染色液3を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較染色プラスチックレンズ3を得た。評価結果を表1に示す。両親媒性溶剤を含有しない比較染色液3では、プラスチックレンズはほとんど染色されなかった。
【0043】
比較例4(比較染色プラスチックレンズ4の製造)
比較調製例4で調製した比較染色液4を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較染色プラスチックレンズ4を得た。評価結果を表1に示す。含金属染料の替わりに分散染料を用いた比較染色液4で染色したプラスチックレンズは、染色ムラがあり耐候性も低かった。
【0044】
比較例5(比較染色プラスチックレンズ5の製造)
比較調製例5で調製した比較染色液5を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較染色プラスチックレンズ5を得た。評価結果を表1に示す。染色液の25℃におけるpHが3.0未満である比較染色液5では、プラスチックレンズは染色されなかった。
【0045】
比較例6(比較染色プラスチックレンズ6の製造)
比較調製例6で調製した比較染色液6を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較染色プラスチックレンズ6を得た。評価結果を表1に示す。染色液の25℃におけるpHが6.5を超える比較染色液6では、プラスチックレンズは染色されなかった。
【0046】
比較例7(比較染色プラスチックレンズ7の製造)
比較調製例7で調製した比較染色液7を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較染色プラスチックレンズ7を得た。評価結果を表1に示す。両親媒性溶剤の替わりにキャリアーとしてo−ジクロロベンゼンを用いると、プラスチックレンズの表面荒れが発生し、均一な染色ができなかった。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の染色プラスチックレンズの製造方法によれば、含金属染料を用いてプラスチックレンズを均一に染色することが可能であり、眼鏡用レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、望遠鏡レンズ、拡大鏡レンズ等に好適に用いられる、耐候性に優れた染色プラスチックレンズを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含金属染料、両親媒性溶剤、単環式モノテルペン、及び水を含有し、25℃におけるpHが3.0〜6.5の染色液を用いて染色する、染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
前記両親媒性溶剤が炭素数1〜7のアルコール類である、請求項1に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
前記プラスチックレンズが、前記含金属染料中の金属と化学結合を形成しうる官能基を有し、該官能基がアミノ基及びカルボキシル基の中から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
前記単環式モノテルペンが、リモネン、メントール、テルピネン、フェランドレン、シルベストレン、ピネン及びテルピネオールの中から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
前記染色液が界面活性剤を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の染色プラスチックレンズの製造方法。

【公開番号】特開2012−190018(P2012−190018A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−35680(P2012−35680)
【出願日】平成24年2月21日(2012.2.21)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】