説明

染色体の構造異常を検出するための方法およびその装置

【解決手段】 染色体の構造が異常である遺伝子転座を検出する方法において
複数の核酸プローブの混合物と、所定の切断点領域をまたがるプローブと、
切断点の上流から当該切断点をまたがる第1プローブと、
切断点の下流から切断点手前または跨る第2プローブとがそれぞれ異なる標識物で標識されていることを特徴とする染色体の構造異常を検出する方法。
【効果】 核酸、または核酸アナログに標識したプローブを相補的な染色体領域と結合させ、染色体の構造異常を検出するに際し、擬陽性の発生頻度が低下し、かつ微細な構造異常についても検出可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色体の構造異常を検出するための方法、及び、染色体の構造異常を検出する装置に関する。
特に、核酸と結合する標識されたプローブを使用して染色体の構造異常を検出するための方法、及び、核酸と結合する標識されたプローブを使用して染色体の構造異常を検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
染色体の構造異常は遺伝性疾患や癌などで起こることが知られている。
染色体の構造異常には数種類あり、例えば、個々に過剰または欠如のある染色体、1個の染色体の部分的過剰または欠如、切断、環および染色体再配列などがある。
また、染色体再配列の中には、転座、2動原体、逆位、挿入、増幅および欠失がある。
【0003】
従来は、例えば下記の特許文献1にあるように染色体構造異常に伴う遺伝子転座と関連する切断点領域を含まないプローブが使用されていた。
切断点から1万塩基対ないし10万塩基対はなれた位置から、上流側または下流側の相補的な核酸にそれぞれ別々の標識をしたプローブを使用する。
両方のプローブが1万塩基対ないし10万塩基対離れているため、切断が生じていない間期細胞の中でも2つのプローブが離れて確認され偽陽性が生じる。
図1は、このような従来例を説明するための説明図である。
【0004】
【特許文献1】特許出願2007−512603号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決しようとする課題の一つは、核酸と結合する標識されたプローブを使用して染色体の構造異常を検出するための方法およびその装置を提供することにある。
本発明の解決しようとする課題の一つは、上記した従来の技術における問題点に鑑みて、核酸と結合する標識されたプローブを使用して染色体の構造異常を検出するための方法およびその装置において、擬陽性を顕著に低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、染色体の構造が異常である遺伝子転座を検出する方法において、複数の核酸プローブの混合物と、所定の切断点領域をまたがるプローブと、切断点の上流から当該切断点をまたがる第1プローブと、切断点の下流から切断点手前または跨る第2プローブとがそれぞれ異なる標識物で標識されることにより、前記課題を解決するものである。
同様に、本発明は、染色体の構造が異常である遺伝子転座を検出する方法において、間期細胞中の標的となる染色体DNAを染色し、染色体の構造異常が存在するか否かを決定することにより、前記課題を解決するものである。
同様に、本発明は、染色体の構造異常を検出する装置において、複数の核酸プローブの混合物と、所定の切断点領域を跨る第1プローブと、切断点の上流から切断点を跨る第2プローブと、切断点の下流から切断点手前またはまたがる第2プローブとを具備し、前記第1及び第2のプローブがをそれぞれ異なる標識物で標識されていることにより、前記課題を解決するものである。
同様に、本発明は、染色体の構造異常を検出する装置において、間期細胞の中の標的となる染色体DNAを染色し、当該染色体に構造異常が存在するか否かを決定することにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は次のように作用する。
染色体構造異常に伴う遺伝子転座と関連する切断点領域を塩基対レベルで詳細に解析し、使用するプローブの設計を実施する。
塩基対レベルの詳細な解析を実施することにより切断点領域をまたがるプローブを設計する。
切断点の上流から切断点をまたがる第1プローブと切断点の下流から切断点をまたがる第2プローブをそれぞれ異なる標識で標識する。
両方のプローブを使用して間期細胞中の標的となる染色体DNAを染色し、染色体異常に伴う遺伝子転座と関連する切断が生じない間期核では両方プローブが離れて確認されないため擬陽性はなくなる。
本発明により偽陽性と判定される、かつ微細な構造異常についても検出可能になる。
【実施例】
【0008】
以下、本発明の実施例について説明する。
本発明に係る組成物を調製する第1ステップは、染色体−特異的DNAを分離することである。
染色組成物が導かれる十分な量の特定の染色体タイプまたは染色体サブリージョンを分離すること、その後分離された染色体または染色体サブリージョンからDNAを抽出する。
抽出されたDNAは標準的な遺伝子工学技術を用いてクローニングすることによりDNAインサートを形成するために使用する。
【0009】
DNAはいくつかの源から分離できる。
染色体−特異的染色試薬は本発明により植物および動物両方のDNAから調製できる。
動物DNAの重要な源は哺乳動物特に霊長類またはゲッシ動物であり、その中では霊長類の源は特にヒトおよびモンキーであり、ゲッシ動物の源は特にラットまたはマウスなどである。
【0010】
ヒト染色体のそれぞれのための組換えDNAライブラリーから特定の遺伝子領域を含むクローンを探索するために、次のような文献を用いる。
即ち、Human BAC library: construction and rapid screening. Gene 1997; 191:69−79.を用いる。
【0011】
選別された染色体タイプから抽出されたDNAは、ベクター中で同DNAをクローニングする、または同DNAを細胞系で増殖することにより増幅する。
【0012】
シングル−コピー プローブは、ゲノムの標的領域に含まれるシングルコピー配列に相補的である核酸断片からなりたっている。
かかるプローブを構成するー方法は、標的領域をクローニングにより形成されたDNAライブラリーで始めることである。
ライブラリーにおけるクローンの中には、全配列がシングル−コピーであるDNAを含むであろうし、他のものは反復配列を含むであろうし、またさらに他のものはシングル−コピー配列および反復配列の部分を持つであろう。
個々のクローンによる選択、およびシングル−コピー配列のみを含んでいるこれらのクローンのプーリングは、標的領域に特異的にハイブリダイズするプローブをもたらす。
【0013】
核酸DNA、例えばクローンDNAのハイブリダイゼーション特異性は、インシトゥ ハイブリダイゼーションにより試験できる。
適宜のハイブリダイゼーション条件のもとで、上記ピースが所望の標的領域としての特異的なシングル−コピーまたは反復配列に結合するならば、クローンDNAはプローブに包含できる。
【0014】
これらの方法は、相補的核酸鎖の濃度が増加するほど同鎖のハイブリダイゼーション率が増加するという事実を促進する。
従って、核酸断片の不均一混合物がハイブリダイゼーションを許容する条件のもとで変性されかつインキュベートされる場合には、高濃度で存在する配列は他の場合に比較してより早く二重鎖になる。
二重鎖核酸はその後除去され、残りのものがプローブとして使用できる。
部分的にハイブリダイズした混合物はプローブとして使用できるが、二重鎖配列は標的物質に結合し得ない。
次の方法は本発明に係る標的−特異的染色を形成するのに有効な集団固定法の典型的な方法である。
【0015】
ハイブリダイゼーション混合物における二重鎖プローブ核酸は変性され、その後ハイブリダイゼーション条件のもとで高度コピー配列のための十分な時間プローブ中でインキュベートされて、実質的に二重鎖配列となる。
ハイブリダイゼーション混合物はその後サンプルに適用される。
高度に反復された配列の残留している標識されたー重鎖コピーは、サンプルのいたるところに結合し、弱くかつ幅広く分散されたシグナルを形成する。
ゲノムの標的領域のための特異的な低度コピー配列の多様な結合は、容易に識別し得る特異的シグナルを形成する。
【0016】
この方法は、染色体のプローブとして第18染色体のための、染色体−特異的ライブラリーを用いた後、1−10ng/ulの範囲のプローブ濃度を含んでいるハイブリダイゼーション混合物はサンプルに適用される以前に、プローブを変性するために加熱されかつ37℃で24時間インキュベートする。
【0017】
「プローブ標識化」(probe labeling)の特徴は、標的物質に結合したプローブが検出できるということである。
プローブ核酸断片は、変更されたヌクレオチドまたは特定の正常なヌクレオチドの尾部を付加することにより拡張できる。
正常ヌクレオチドの尾部が使用される場合には、数ある標識する手段の中で、尾部に相補的でありかつフルオロクロム、酵素、放射能、変更塩基対を含んでいる核酸による第2のハイブリダイゼーションが結合プローブの検出を可能とする。
このシステムは商業的に入手できる。
【0018】
インシトゥ ハイブリダイゼーションの前に、染色体は蛋白質を除去する試薬で処理する。
試薬は酵素または緩酸を含む。
プロナーゼ、ペプシン、プロテイナーゼK等がしばしば酵素として使用される。
典型的な酸処理は0.02−0.2N HClでなされ、続いて高温(例えば70℃)で洗浄される。
脱タンパク質の効率は、ハイブリダイゼーションを最高にするプロテアーゼ濃度とダイジェション時間との組合せを必要とするが、形態学的詳細(morphological detail)の許容し得ないロスの原因とはならない。
最適の条件は組織型および固定方法により異なる。
プロテアーゼ処理後の付加的固定は有用である。
従って、特定の適用のためには、ある実験がプロテアーゼ処理を効率的にするために要求される。
【0019】
染色体DNAが変性された後、変性要因は典型的には不均一プローブ混合物の適用以前に除去される。
ここでホルムアミドと熱は主要な変性要因であり、それらの除去は溶剤による幾度かの洗浄により都合良く遂行される。
かかる溶剤は、例えば70重量%,85重量%,100重量%冷エタノール/水系シリーズのごとく、しばしば冷却される。
変性物質の組成は他の構成物の付加または適宜の溶剤での洗浄のいずれかにより、インシトゥ ハイブリダイゼーションのために適宜に調整できる。
プローブおよび標的核酸はハイブリダイゼーション混合物の適用、およびその後の適宜の加熱により同時に変性される。
【0020】
不均一混合物が適用される時間の間の、染色体DNAおよびプローブの雰囲気の物理化学的条件はハイブリダイゼーション条件、またはアニーリング条件に関係する。
特定の適用における最上の条件は、幾多のファクターをコントロールすることにより調整でき、同ファクターとしては以下のものが含まれる。
成分の濃度、不均一混合物中の染色体のインキュベーション時間、不均一混合物を構成する核酸断片の濃度等である。
概略的には、ハイブリダイゼーション条件は、非特異的結合を最小限にするために溶融温度に十分に近づけなければならない。
他方、かかる条件は、相補的配列の正確なハイブリダイゼーションを検出レベル以下に低減し、または長いインキュベーション時間を過剰に要求すること程には厳格なものではない。
【0021】
ハイブリダイゼーション混合物中の核酸の濃度は重要な要因である。
かかる濃度は十分に高くなければならず、これによりそれぞれの染色体結合座位の十分なハイブリダイゼーションが適当な時間内(数時間〜数日)に生じる。
十分なシグナルを得るのに要する濃度より高い濃度は避けるべきであり、これにより非特異的結合が最小となる。
不均一混合物のプローブにおける核酸の濃度に関する、重要な実際の拘束は溶解度である。
断片濃度、例えば単位体積当りの核酸の単位長さに関しては上限が存在し、それは溶液中で保持できかつ効果的にハイブリダイズする。
【0022】
[SYT遺伝子を含むクローンライブラリーの選択]
ヒト染色体−特異的ライブラリーからのDNA断片は、独自に構築したBACライブラリーから入手する。
【0023】
近年の多数の研究は、特定の病気の表現型の診断に役立ちまた病気それ自身の遺伝学的性質への手がかりを提供する、構造的および数的染色体の異常の存在を明らかにした。
新種の腫瘍の特異的異常を明らかにする今日の進歩は、細胞遺伝学的分析のための代表的な高品質のバンデッド中期スプレッドを造ることの困難性により制限されている。
これらの問題は、多くのヒト腫瘍は培養基中で増殖させることが困難または不可能であるという事実に由来する。
従って、分裂細胞を得ることは普通は困難である。
たとえ細胞が培養基中で増殖できたとしても、増殖する細胞が腫瘍集団を代表するものでないという少なからぬ危険がある。
この困難性はまた存在する遺伝学的知識を臨床的診断および予後に応用することを妨げる。
【0024】
本発明はこれらの制限を、間期核内の特定の構造的および数的異常の検出を可能にすることにより克服する。
これらの異常は上に述べたごとく検出される。
特定の悪性腫瘍の遺伝学的性質が次第によく知られてきているので、遺伝学的障害を標的とするハイブリダイゼーションプローブを選択することにより、間期評価分析はますます具体的に行うことが出来る。
選択された染色体上の特定の転座は、ぴったりと切断点を側面から攻撃するハイブリダイゼーションプローブの使用により検出できる。
これらのプローブの使用は特定の病気の表現型の診断を可能にする。
これらは正常では分離されているハイブリダイゼーションドメインを一緒にし、またはハイブリダイゼーションドメインを2つのはっきり分離されたドメインに分離するので、転座は間期において検出できる。
これに加えて、これらは治療の途中で悪性細胞の減少および再出現をフォローするために使用できる。
このような応用では、存在するかも知れない細胞が少数であり、またそれらは刺激して有糸分裂させることが困難または不可能であるかも知れないので、間期分析が特に重要である。
重複および欠失、遺伝子増幅およびヘテロ接合度がなくなることに伴うプロセスも、本発明の技法を用いて中期および間期において検出できる。
そのようなプロセスは異なる腫瘍の数の増大に関連している。
【0025】
[滑肉肉腫のSYT遺伝子切断検出プローブ]
染色体異常に伴う遺伝子転座を解析するために従来から使用されているSYT遺伝子の切断点領域を含まないプローブ図1とSYT遺伝子の切断点領域をまたがるプローブ図2を使用し、肉腫細胞で生じるSYT遺伝子の遺伝子構造異常を解析した。
SYT遺伝子の切断点領域を含まないプローブを使用した場合、2つのプローブが混合した陰性シグナルと2つのシグナルが別々に観察される陽性シグナルに加え、2つのシグナルが少し離れた擬陽性シグナルが観察された。
SYT遺伝子の切断点をまたがる2種類のプローブを用いた場合、2つのプローブが混合した陰性シグナルと2つのシグナルが別々に観察される陽性シグナルのみが観察され、2つのシグナルが少し離れた擬陽性シグナルは観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、偽陽性と判定される微細な構造異常についても検出可能である。
また、染色体の構造異常はヒト以外の動物や植物でも起こるため適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】染色体異常に伴う遺伝子転座を解析するために従来から使用されているSYT遺伝子の切断点領域を含まないプローブ。
【図2】SYT遺伝子の切断点領域をまたがるプローブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色体の構造が異常である遺伝子転座を検出する方法において
複数の核酸プローブの混合物と、所定の切断点領域をまたがるプローブと、
切断点の上流から当該切断点をまたがる第1プローブと、
切断点の下流から切断点手前または跨る第2プローブとがそれぞれ異なる標識物で標識されていることを特徴とする染色体の構造異常を検出する方法。
【請求項2】
請求項1において、間期細胞中の標的となる染色体DNAを染色し、染色体の構造異常が存在するか否かを決定することを特徴とする染色体の構造異常を検出する方法。
【請求項3】
染色体の構造異常を検出する装置において、複数の核酸プローブの混合物と、所定の切断点領域を跨る第1プローブと、切断点の上流から切断点を跨る第2プローブと、切断点の下流から切断点手前またはまたがる第2プローブとを具備し、前記第1及び第2のプローブがをそれぞれ異なる標識物で標識されていることを特徴とする染色体の構造異常検出装置。
【請求項4】
請求項3において、間期細胞の中の標的となる染色体DNAを染色し、当該染色体に構造異常が存在するか否かを決定することを特徴とする染色体の構造異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−136691(P2010−136691A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316895(P2008−316895)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(507082389)株式会社GSP研究所 (2)
【Fターム(参考)】