説明

染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法及び予防・治療薬のスクリーニング方法

【課題】染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を用いた染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法や、抜本的な治療法及び予防法に用いることのできる薬剤をスクリーニングするための方法を提供すること。
【解決手段】被検血液試料中に存在する、染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質(5−メチル−2−デオキシシチジン、グルコサミン、エクトイン、2−デオキシシチジン、アラントエート、o−ヒドロキシ安息香酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、デカン酸、ヒドロキシデカン酸等)を検出又は定量し、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果と比較することによって染色体優性多発性嚢胞腎を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を用いた染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法や、かかる染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を用いた染色体優性多発性嚢胞腎の予防・治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全患者等の腎疾患を有する患者、特に腎透析を受ける患者の数は年々増加の一途を辿っており、現在20万人の患者が維持透析療法を行っており、さらに毎年3万人以上が新たに透析導入に至っている。透析療法には、一人あたり年間約500万円の費用がかかるため、20万人に対して約1兆円の医療費が恒常的に必要となっている。また、近年、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)という疾患概念が提唱され、その予防・治療の重要性に対する認識が高まりを見せている。CKDはCommon Diseaseであり、糸球体濾過量(GFR)60未満の対象者が1926万人にも上ることから、CKD対策が急務の課題となっている。以上のような状況下において、腎不全やCKD等の腎疾患の症状の予防法や、そのような症状を緩和し、透析導入を遅らせる治療法が開発されれば、患者のQOL(クオリティオブライフ)に資するだけでなく、医療費の大幅な削減が可能となり社会に大きく貢献することができる。
【0003】
腎不全に罹患すると、健常の場合では腎臓より排泄される様々な物質が体内に蓄積する。これらの物質は、腎不全の病態を診断するマーカー物質として利用されることもある。例えば、尿中に排泄されるアルブミン等の腎疾患マーカータンパク質の増加を指標として腎疾患の検出・診断する方法等が一般的に用いられている。この他の方法として、例えば、腎疾患患者の血液中でヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の濃度が上昇することを利用した腎疾患の検出方法(特許文献1参照)や、腎不全等の患者の血液中や尿中でENDO180受容体ポリペプチドの濃度が上昇することを利用した腎症の診断方法(特許文献2参照)が知られている。また、本発明者らは、キャピラリー電気泳動質量分析計(capillary electrophoresis mass spectrometry:CE−MS)を用いて腎機能低下時に蓄積し毒性を示す新規代謝性物質を網羅的に解析し、該物質を腎疾患マーカー物質として用いた腎疾患の判定方法を提唱している(特許文献3参照)。
【0004】
染色体優性多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease:ADPKD)はCKDの一つであり、日本でも2000〜4000人に1人罹患するといわれている腎疾患であり、発症すると両側の腎臓に嚢胞が多発する。進行すると腎不全を発症するほか、多くの症例で高血圧を伴うといった他の腎不全とは異なる症状も現れる。原因としては、細胞外マトリクスからの(増殖・分化・輸送の)シグナルの細胞内への伝達に関与する「ポリシスチン蛋白」をコードするPKD1遺伝子(頻度85%)、PKD2(頻度15%)の遺伝子異常があることが分かっているが、未知の原因遺伝子があることも知られている。
【0005】
本疾患の診断には超音波断層像またはCTで両側の腎臓に多数の嚢胞が存在することを確認することが必要であり、早期判定は不可能である。受診の原因になった自覚症状としては、肉眼的血尿(31%)、側腹部・背部痛(30%)、家族に多発性嚢胞腎患者がいるから(11%)、易疲労感(9%)、腹部腫瘤(8%)、発熱(7%)、浮腫(6%)、頭痛(5%)、嘔気(5%)、腹部膨満(4%)等がある。また、遺伝子解析による診断も可能であるが、PKD1及びPKD2以外にも原因遺伝子があることから、確実な診断方法ではない。さらに、本疾患に対する抜本的な治療法や予防法は存在せず、現在は高血圧の治療、血液透析などの対症療法が採られるのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−146980号公報
【特許文献2】特表2007−519394号公報
【特許文献3】特願2009−205033号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
染色体優性多発性嚢胞腎は、日本でも2000〜4000人に1人罹患するといわれている腎疾患であるにもかかわらず、早期に判定する方法、及び抜本的な治療法や予防法が存在しない。本発明の課題は、染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を用いた染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法や、抜本的な治療法及び予防法に用いることのできる薬剤をスクリーニングするための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、野生型ラット、5/6腎摘腎不全モデルラット、染色体優性多発性嚢胞腎モデルラット(Han:SPRD Cy/+ラット)の血清中に含まれる69種類の陽イオンと59種類の陰イオンを網羅的に同時測定し、5/6腎摘腎不全及び染色体優性多発性嚢胞腎のモデルラットにおいて蓄積又は減少するカチオン性及びアニオン性物質を見いだした。一方、本発明者らはすでに、ヒト腎不全において蓄積するカチオン性及びアニオン性物質を同定している(Hypertens Res in press)。その結果本発明者らは、予想に反してヒト及びラットの腎不全においては蓄積又は減少せずに、染色体優性多発性嚢胞腎モデルラットでのみ特異的な挙動を示す物質が存在することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は(1)被検血液試料中に存在する、以下の蓄積カチオン性物質、減少カチオン性物質、蓄積アニオン性物質、及び減少アニオン性物質からなる群から選ばれる1種又は2種以上の染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を検出又は定量する工程を有することを特徴とする染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法に関する。
(蓄積カチオン性物質):γ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸
(減少カチオン性物質):2−デオキシシチジン、カルニチン
(蓄積アニオン性物質):馬尿酸、アラントエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸
(減少アニオン性物質):デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸
【0010】
また、本発明は、(2)被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果を、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果と比較することにより、被検血液試料の提供者が染色体優性多発性嚢胞腎であるかどうか、又は、該提供者の染色体優性多発性嚢胞腎の症状の程度を評価する工程をさらに有することを特徴とする上記(1)に記載の染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法に関する。
【0011】
さらに、本発明は、(3)検出又は定量した染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質が、以下の蓄積カチオン性物質及び蓄積アニオン性物質からなる群から選択される場合は、被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度が、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度よりも高い場合に、被検血液試料の提供者が染色体優性多発性嚢胞腎であると評価し、又は、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度に対する被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度の高さの程度を、該提供者の染色体優性多発性嚢胞腎の症状の重さの程度であると評価することを特徴とする上記(2)記載の染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法に関する。
(蓄積カチオン性物質):γ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸
(蓄積アニオン性物質):馬尿酸、アラントエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸
【0012】
また、本発明は、(4)検出又は定量した染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質が、以下の減少カチオン性物質及び減少アニオン性物質からなる群から選択される場合は、被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度が正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度よりも低い場合に、被検血液試料の提供者が染色体優性多発性嚢胞腎であると評価し、又は、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度に対する被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度の低さの程度を、該提供者の染色体優性多発性嚢胞腎の症状の重さの程度であると評価することを特徴とする上記(2)記載の染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法に関する。
(減少カチオン性物質):2−デオキシシチジン、カルニチン
(減少アニオン性物質):デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸
【0013】
さらに、本発明は、(5)染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質が、以下の蓄積カチオン性物質、減少カチオン性物質、蓄積アニオン性物質、及び減少アニオン性物質からなる群から選ばれるCy/+ラットで特異的に変化する物質である、上記(1)又は(2)記載の染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法に関する。
(蓄積カチオン性物質):5−メチル−2−デオキシシチジン、グルコサミン、エクトイン
(減少カチオン性物質):2−デオキシシチジン
(蓄積アニオン性物質):アラントエート、o−ヒドロキシ安息香酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸
(減少アニオン性物質):デカン酸、ヒドロキシデカン酸
【0014】
また、本発明は、(6)以下の工程A〜Dを有することを特徴とする染色体優性多発性嚢胞腎予防・治療剤のスクリーニング方法に関する。
染色体優性多発性嚢胞腎非ヒト動物に被検物質を投与する工程A;
該非ヒト動物から血液試料を採取する工程B;
該血液試料中に存在する、以下の蓄積カチオン性物質、減少カチオン性物質、蓄積アニオン性物質、及び減少アニオン性物質からなる群から選ばれる1種又は2種以上の染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を検出又は定量する工程C;
(蓄積カチオン性物質):γ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸
(減少カチオン性物質):2−デオキシシチジン、カルニチン
(蓄積アニオン性物質):馬尿酸、アラントエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸
(減少アニオン性物質):デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸;
血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果を正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果と比較することにより、前記非ヒト動物の染色体優性多発性嚢胞腎の程度を評価する工程D;
【0015】
さらに、本発明は、(7)染色体優性多発性嚢胞腎の判定マーカーとして使用するためのγ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸、2−デオキシシチジン、カルニチン、馬尿酸、アラントエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸、デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸から選ばれる1種又は2種以上の化合物や、(8)染色体優性多発性嚢胞腎の判定マーカーとして使用するための5−メチル−2−デオキシシチジン、グルコサミン、エクトイン、2−デオキシシチジン、アラントエート、o−ヒドロキシ安息香酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、デカン酸、ヒドロキシデカン酸から選ばれる1種又は2種以上の化合物に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法によると、従来は確実な判定方法として超音波断層像またはCTで両側の腎臓に多数の嚢胞が存在することを確認することが必要であったのに対し、染色体優性多発性嚢胞腎マーカーの検出により染色体優性多発性嚢胞腎の判定が可能になり、早期判定が可能になる。また、本発明の染色体優性多発性嚢胞腎予防・治療剤のスクリーニング方法によると、これまでに着目されていなかった新たな染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質に着目して新規な染色体優性多発性嚢胞腎予防・治療剤を効率よくスクリーニングすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】野生型ラット(Wild)及び染色体優性多発性嚢胞腎モデルラット(Cy/+)の腎組織を示した図である。
【図2】ヒト腎不全(Hypertens Res in press)、5/6腎摘腎不全モデルラット、染色体優性多発性嚢胞腎モデルラット(Han:SPRD Cy/+ラット)において蓄積又は減少する物質の相関を示したベン図である。図中、A:Cy/+ラットでのみ変化、B:ヒト腎不全でのみ変化、C:5/6腎摘腎不全モデルラットでのみ変化、D:ヒト腎不全及びCy/+ラットで変化、E:ヒト腎不全及び5/6腎摘腎不全モデルラットで変化、F:Cy/+ラット及び5/6腎摘腎不全モデルラットで変化、G:ヒト腎不全、5/6腎摘腎不全モデルラット、及び、Cy/+モデルラットで変化、である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法としては、被検血液試料中に存在する以下の1種又は2種以上の染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を検出又は定量する工程を有する方法であれば特に制限されず、本発明の判定方法の態様には、医師による診断行為を除く判定方法の他、被検血液試料中に存在する以下の1種又は2種以上の染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を検出又は定量する工程を有することを特徴とする染色体優性多発性嚢胞腎判定のためのデータを収集する方法や、収集したデータをデータベース化する方法が含まれる。
(蓄積カチオン性物質):γ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸
(減少カチオン性物質):2−デオキシシチジン、カルニチン
(蓄積アニオン性物質):馬尿酸、アランエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸
(減少アニオン性物質):デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸
【0019】
本発明における染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質とは、上記の蓄積カチオン性物質、減少カチオン性物質、蓄積アニオン性物質、及び減少アニオン性物質からなる、染色体優性多発性嚢胞腎モデルラット(Han:SPRD Cy/+ラット)において、野生型ラットと比較して有意に蓄積又は減少する物質であり、これらの物質は、Cy/+ラットで蓄積するカチオン性物質、Cy/+ラットで減少するカチオン性物質、Cy/+ラットで蓄積するアニオン性物質、及びCy/+ラットで減少するアニオン性物質ということもできる。
【0020】
さらに、本発明における染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質としては、染色体優性多発性嚢胞腎以外の腎不全患者では蓄積又は減少しない、染色体優性多発性嚢胞腎において特異的な挙動を示す染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質であることが望ましく、具体的には以下の蓄積カチオン性物質、減少カチオン性物質、蓄積アニオン性物質、及び減少アニオン性物質を例示することができる。
(蓄積カチオン性物質):5−メチル−2−デオキシシチジン、グルコサミン、エクトイン
(減少カチオン性物質):2−デオキシシチジン
(蓄積アニオン性物質):アラントエート、o−ヒドロキシ安息香酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸
(減少アニオン性物質):デカン酸、ヒドロキシデカン酸
【0021】
上記染色体優性多発性嚢胞腎において特異的な挙動を示す染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を用いることによって、腎不全に至る前に染色体優性多発性嚢胞腎の早期判定が可能になる。
【0022】
本発明の判定方法は、被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果を、正常対照血液(非腎不全者由来の血液)試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果と比較することにより、被検血液試料の提供者が染色体優性多発性嚢胞腎であるかどうか、又は、該提供者の染色体優性多発性嚢胞腎の症状の程度を評価する工程をさらに有してもよい。また、本発明の判定方法の態様には、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を検出又は定量する工程を有し、染色体優性多発性嚢胞腎判定のためのデータを収集する方法や、収集したデータをデータベース化する方法を含んでいてもよい。さらに、前記被検血液試料及び正常被検体から採取した血液試料から構築したデータベース同士を比較する工程を、被検血液試料の提供者が染色体優性多発性嚢胞腎であるかどうか、又は、該提供者の染色体優性多発性嚢胞腎の症状の程度を評価するために用いてもよい。
【0023】
本発明の判定方法においては、検出又は定量した染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質が、上記蓄積カチオン性物質及び蓄積アニオン性物質からなる群から選択される場合は、被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度が、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度よりも高いときに、被検血液試料の提供者が染色体優性多発性嚢胞腎であると評価し、又は、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度に対する被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度の高さの程度を、該提供者の染色体優性多発性嚢胞腎の症状の重さの程度であると評価することができる。上記蓄積カチオン性物質及び蓄積アニオン性物質からなる群から選択される染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を検出又は定量する工程は、かかる判定のためにデータを収集する方法や、収集したデータをデータベース化する方法を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の判定方法においては、検出又は定量した染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質が、上記減少カチオン性物質及び減少アニオン性物質からなる群から選択される場合は、被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度が、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度よりも低いときに、被検血液試料の提供者が染色体優性多発性嚢胞腎であると評価し、又は、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度に対する被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度の低さの程度を、該提供者の染色体優性多発性嚢胞腎の症状の重さの程度であると評価することができる。上記減少カチオン性物質及び減少アニオン性物質からなる群から選択される染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を検出又は定量する工程は、かかる判定のためにデータを収集する方法や、収集したデータをデータベース化する方法を含んでいてもよい。
【0025】
上記判定のための被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質及び正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の比較方法は、公知のデータ比較処理方法であれば特に制限されないが、例えば、被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質濃度を、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質濃度より設定した基準値と比較することによって、被検血液試料の提供者が腎疾患であるかどうかを判定することができる。ここで、「基準値」とは、陽性又は陰性を判定するための値をいう。この基準値は、例えば、染色体優性多発性嚢胞腎において蓄積する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の場合は、「染色体優性多発性嚢胞腎において蓄積する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の、正常対照血液試料中における濃度の平均値+α×標準偏差(SD)」という数式において、αとして、0.5、1、2又は5を用いることによって設定することができ、染色体優性多発性嚢胞腎において減少する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の場合は、「染色体優性多発性嚢胞腎において減少する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の、正常対照血液試料中における濃度の平均値−α×標準偏差(SD)」という数式において、αとして、0.5、1、2又は5を用いることによって設定することができる。なお、濃度の分布が正規分布である集団では、いずれの数式においても、αとして2を用いることが多い。
【0026】
上記の被検血液試料としては、被検者(被検血液試料の提供者)の血液に由来する試料である限り特に制限されず、血液試料そのものであってもよいし、その血液試料から得られた血清試料や血漿試料であってもよいが、検出や定量のより高い精度を得る観点から、血漿試料を好適に例示することができる。
【0027】
上記の本件腎疾患マーカー物質の検出又は定量方法としては、本件腎疾患マーカー物質を検出又は定量し得る限り、物理化学的方法であっても生物学的方法であってもよいが、検出感度の点で物理化学的方法を好適に例示することができ、中でも、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)やキャピラリー電気泳動質量分析計(CE−MS)等の質量分析計(MS)を用いた方法をより好適に例示することができ、少量のサンプルから数百種類以上の物質を同時測定できることから、CE−MSを用いた方法を特に好適に例示することができる。
【0028】
本発明の染色体優性多発性嚢胞腎予防・治療剤のスクリーニング方法としては、染色体優性多発性嚢胞腎非ヒト動物非ヒト動物に被検物質を投与する工程A;該非ヒト動物から血液試料を採取する工程B;該血液試料中に存在する、染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質(γ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸、2−デオキシシチジン、カルニチン、馬尿酸、アラントエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸、デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸)から選ばれる1種又は2種以上の染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を検出又は定量する工程C;血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果を正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果と比較することにより、前記非ヒト動物の染色体優性多発性嚢胞腎の程度を評価する工程D;を有している限り特に制限されないが、さらに、染色体優性多発性嚢胞腎において蓄積する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度が、被検物質投与前より低下した場合、又は、染色体優性多発性嚢胞腎において蓄積する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度が、被検物質投与前より上昇した場合に、前記被検物質を腎疾患の予防・治療剤と評価する工程を有してもよい。
【0029】
上記非ヒト動物としては、非ヒト哺乳動物を好適に例示することができ、具体的にはマウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等が挙げられる。また、染色体優性多発性嚢胞腎モデル生物であってもよく、Cy/+ラットを好適に例示することができる。
【0030】
また本発明は、γ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸、2−デオキシシチジン、カルニチン、馬尿酸、アラントエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸、デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸から選ばれる1種又は2種以上の化合物を染色体優性多発性嚢胞腎の判定マーカーとして使用する方法や、染色体優性多発性嚢胞腎の判定マーカーとして使用するための、すなわち、染色体優性多発性嚢胞腎の判定マーカー用のγ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸、2−デオキシシチジン、カルニチン、馬尿酸、アラントエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸、デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸から選ばれる1種又は2種以上の化合物に関する。
【0031】
本発明はまた、5−メチル−2−デオキシシチジン、グルコサミン、エクトイン、2−デオキシシチジン、アラントエート、o−ヒドロキシ安息香酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、デカン酸、ヒドロキシデカン酸から選ばれる1種又は2種以上の化合物を染色体優性多発性嚢胞腎の判定マーカーとして使用する方法や、染色体優性多発性嚢胞腎の判定マーカーとして使用するための、すなわち、染色体優性多発性嚢胞腎の判定マーカー用の5−メチル−2−デオキシシチジン、グルコサミン、エクトイン、2−デオキシシチジン、アラントエート、o−ヒドロキシ安息香酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、デカン酸、ヒドロキシデカン酸から選ばれる1種又は2種以上の化合物に関する。
【実施例1】
【0032】
染色体優性多発性嚢胞腎モデルラットの病態
14週齢の野生型ラット(+/+ラット、n=5)、及び、藤田保健衛生大学から入手した14週齢の染色体優性多発性嚢胞腎モデルラット(Han:SPRD Cy/+ラット、n=5)の体重、腎重量、尿素窒素、血圧を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
Cy/+ラットでは、野生型ラットと比較して腎重量が増加し、腎不全の進行及び血圧上昇が認められた。さらに、Cy/+ラットでは腎上皮が異常増殖し、尿細管が拡張して嚢胞を形成していた(図1)。
【実施例2】
【0035】
染色体優性多発性嚢胞腎において蓄積する物質の同定
14週齢の野生型ラット(n=5)及び染色体優性多発性嚢胞腎モデルラット(Han:SPRD Cy/+ラット、n=5)から血漿サンプルを採取し、内標準物質を調整したメタノール溶液を添加して撹拌し、さらにクロロホルムを加えて撹拌し、4600gで5分間遠心分離した後、上清を限外ろ過フィルター(分画分子量5000)にとり、4℃、9100gで2時間遠心分離した後、ろ液を遠心濃縮してCE−TOFMSにて測定を行った。その際、69種類の陽イオンと59種類の陰イオンを網羅的に同時測定し、Cy/+ラットにおいて野生型ラットと比較して有意に(P<0.05)蓄積する物質を同定した(表2)。
【0036】
【表2】

【0037】
同定された染色体優性多発性嚢胞腎において蓄積する物質のうち、ヒト腎不全患者(Hypertens Res in press)又は5/6腎摘腎不全モデルラットにおいても同様に挙動する物質、及び、染色体優性多発性嚢胞腎において特異的に蓄積又は減少する物質を同定した。結果を図2及び表2に示す。
【0038】
以上の結果から、以下の蓄積カチオン性物質、減少カチオン性物質、蓄積アニオン性物質、及び減少アニオン性物質が、染色体優性多発性嚢胞腎以外の腎不全患者では蓄積又は減少しない、染色体優性多発性嚢胞腎において特異的な挙動を示す染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質であることが見い出された。
(蓄積カチオン性物質):5−メチル−2−デオキシシチジン、グルコサミン、エクトイン
(減少カチオン性物質):2−デオキシシチジン
(蓄積アニオン性物質):アラントエート、o−ヒドロキシ安息香酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸
(減少アニオン性物質):デカン酸、ヒドロキシデカン酸
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、従来は確実な判定方法及び予防・治療剤が存在していなかった染色体優性多発性嚢胞腎に関して、早期判定や、予防・治療剤の効率よいスクリーニングに好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検血液試料中に存在する、以下の蓄積カチオン性物質、減少カチオン性物質、蓄積アニオン性物質、及び減少アニオン性物質からなる群から選ばれる1種又は2種以上の染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を検出又は定量する工程を有することを特徴とする染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法。
(蓄積カチオン性物質):γ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸
(減少カチオン性物質):2−デオキシシチジン、カルニチン
(蓄積アニオン性物質):馬尿酸、アラントエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸
(減少アニオン性物質):デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸
【請求項2】
被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果を、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果と比較することにより、被検血液試料の提供者が染色体優性多発性嚢胞腎であるかどうか、又は、該提供者の染色体優性多発性嚢胞腎の症状の程度を評価する工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法。
【請求項3】
検出又は定量した染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質が、以下の蓄積カチオン性物質及び蓄積アニオン性物質からなる群から選択される場合は、被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度が、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度よりも高い場合に、被検血液試料の提供者が染色体優性多発性嚢胞腎であると評価し、又は、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度に対する被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度の高さの程度を、該提供者の染色体優性多発性嚢胞腎の症状の重さの程度であると評価することを特徴とする請求項2記載の染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法。
(蓄積カチオン性物質):γ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸
(蓄積アニオン性物質):馬尿酸、アラントエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸
【請求項4】
検出又は定量した染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質が、以下の減少カチオン性物質及び減少アニオン性物質からなる群から選択される場合は、被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度が正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度よりも低い場合に、被検血液試料の提供者が染色体優性多発性嚢胞腎であると評価し、又は、正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度に対する被検血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の濃度の低さの程度を、該提供者の染色体優性多発性嚢胞腎の症状の重さの程度であると評価することを特徴とする請求項2記載の染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法。
(減少カチオン性物質):2−デオキシシチジン、カルニチン
(減少アニオン性物質):デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸
【請求項5】
染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質が、以下の蓄積カチオン性物質、減少カチオン性物質、蓄積アニオン性物質、及び減少アニオン性物質からなる群から選ばれるCy/+ラットで特異的に変化する物質である、請求項1又は2記載の染色体優性多発性嚢胞腎の判定方法。
(蓄積カチオン性物質):5−メチル−2−デオキシシチジン、グルコサミン、エクトイン
(減少カチオン性物質):2−デオキシシチジン
(蓄積アニオン性物質):アラントエート、o−ヒドロキシ安息香酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸
(減少アニオン性物質):デカン酸、ヒドロキシデカン酸
【請求項6】
以下の工程A〜Dを有することを特徴とする染色体優性多発性嚢胞腎予防・治療剤のスクリーニング方法。
染色体優性多発性嚢胞腎非ヒト動物に被検物質を投与する工程A;
該非ヒト動物から血液試料を採取する工程B;
該血液試料中に存在する、以下の蓄積カチオン性物質、減少カチオン性物質、蓄積アニオン性物質、及び減少アニオン性物質からなる群から選ばれる1種又は2種以上の染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質を検出又は定量する工程C;
(蓄積カチオン性物質):γ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸
(減少カチオン性物質):2−デオキシシチジン、カルニチン
(蓄積アニオン性物質):馬尿酸、アラントエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸
(減少アニオン性物質):デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸;
血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果を正常対照血液試料中に存在する染色体優性多発性嚢胞腎マーカー物質の検出結果又は定量結果と比較することにより、前記非ヒト動物の染色体優性多発性嚢胞腎の程度を評価する工程D;
【請求項7】
染色体優性多発性嚢胞腎の判定マーカーとして使用するためのγ−グアニジノブチル酸、クレアチニン、アントラニル酸、3−メチルヒスチジン、アラントイン、トリメチルアミン−N−オキシド、ピペコリン酸、5−メチル−2−デオキシシチジン、ホモアルギニン、トリメチルリジン、α−アミノアジピン酸、ヒドロキシプロリン、グルコサミン、シトルリン、エクトイン、メチオニンスルホキシド、グリシン、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、N,N−ジメチルグリシン、グアニジノコハク酸、2−デオキシシチジン、カルニチン、馬尿酸、アラントエート、クエン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、シス−アコニット酸、イソクエン酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、3−インドキシル硫酸、トランス−アコニット酸、イセチオネート、パントテン酸、ピメリン酸、デカン酸、2−オキソグルタル酸、オクタン酸、オキソイソペンタン酸、メチル−2−オキソペンタン酸、ヒドロキシデカン酸から選ばれる1種又は2種以上の化合物。
【請求項8】
染色体優性多発性嚢胞腎の判定マーカーとして使用するための5−メチル−2−デオキシシチジン、グルコサミン、エクトイン、2−デオキシシチジン、アラントエート、o−ヒドロキシ安息香酸、フェナセツル酸、3−フェニルプロピオン酸、デカン酸、ヒドロキシデカン酸から選ばれる1種又は2種以上の化合物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−112784(P2012−112784A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261665(P2010−261665)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本腎臓学会発行、「日本腎臓学会誌第52巻・第3号学術総会号」、平成22年5月25日発行
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】