説明

染色体異常の分子検出

【課題】染色体異常および他の遺伝子再編成、たとえば、免疫グロブリン(Ig)、T細胞受容体(TCR)遺伝子再編成検出のためのハイブリッド形成技術に使用することのできる核酸プローブの提供。
【解決手段】in situハイブリダイゼーションによって間期核の少なくとも1個の染色体異常を検出する一対の核酸プローブであって、一対の核酸プローブが、染色体にハイブリダイズすると染色体の潜在的切断点にフランキングするように、かつ一対の核酸プローブが染色体の切断点クラスター領域と重ならないように、核酸プローブのそれぞれが配列にハイブリダイズし、染色体異常がない場合、核酸プローブが、レポーター分子のシグナルの共局在をもたらす、100kb以下の核酸プローブ間のゲノム距離でハイブリダイズする、一対の核酸プローブ。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、細胞遺伝学の分野、および病理学、血液学における遺伝子診断技法の適用に関する。特に、本発明は、染色体異常ならびに他の遺伝子の再編成、たとえば、免疫グロブリン(Ig)およびT細胞受容体(TCR)遺伝子の再編成を検出するためのハイブリッド形成技法に使用可能な核酸プローブに関する。
【0002】
染色体異常は、先天性障害、および悪性疾患などの後天性疾患を含む遺伝子異常および遺伝子疾患に至る原因である。上述の悪性疾患の基礎には、悪性疾患の細胞全てが共通のクローン起源を有しているという事実が存在している。悪性疾患における染色体異常は、染色体の再編成、転座、逆位、挿入、欠失および他の変異から起こるが、染色体全体の喪失または獲得も、悪性疾患に見出される。多くの染色体異常においては、2つの異なる染色体が関与している。この方法で、遺伝子または遺伝子フラグメントは、特定の染色体の通常の生理学的つながりから離れ、無関係の遺伝子または遺伝子フラグメントに隣接して、受容染色体に位置している(多くは癌遺伝子または癌原遺伝子)。そのような異常な遺伝子の組合せが、悪性疾患の基礎となっている可能性がある。
【0003】
しばしば、2つの非異常染色体が関与するそのような再編成が、いくぶん確立したパターンで起こる。切断が、2つの染色体のどちらかの、潜在的な切断点または切断点クラスター領域で起こり、結果として遺伝子または遺伝子フラグメントが、1つの染色体から除去され、続いて他の染色体へ転座し、再編成染色体を形成し、そこでは、再編成フラグメントが融合領域で融合している。
【0004】
染色体異常の検出は、広範囲な数多くの技法を使用して達成することができ、それらのいくつかは、現代の生体分子技術を伴う。細胞遺伝分析などの、常套的な染色体結合技法による従来の技法は、高度に正確ではあるが、労働集約型であり、専門家を必要とし、多くの費用を要する。自動核型決定は、出生前診断などのいくつかの診断適用に有用であるが、多くの悪性疾患の複雑な染色体異常の分析には効果がない。さらに、上述の技法は新鮮な(培養した)細胞を必要とし、それは常に利用可能であるというわけではない。
【0005】
他のより近代的な技法は、明確に規定された染色体異常を検出するための、サザンブロッティング法または他の核酸ハイブリッド形成技法もしくはPCRなどの増幅技法であり、それに適した核酸プローブまたはプライマーを利用する。これらの技法を用いて、新鮮なまたは凍結した細胞を使用することが可能であって、時には、ホルマリン固定後のサンプルでさえ、ハイブリダイズするまたは増幅する核酸配列が完全なままであり利用可能な限りは、使用することが可能である。しかしながら、上述の近代的技術によっても、前記悪性疾患に関する染色体異常の迅速なスクリーニングにおけるこれらの診断技術の適用を妨げるいくつかの欠点が見出される。
【0006】
サザンブロッティングは3〜4週間継続し、それは、悪性疾患における効果的な診断および治療の選択をするには遅すぎる上に、1つのプローブ分析につき10〜15kbの核酸配列しか分析できない。
【0007】
PCRは、迅速かつ大量の診断試験またはスクリーニングにもよく適した性質であるが、1つのPCR分析につき0.1〜2kbの核酸しか分析できず、それは、染色体内の染色体および切断点クラスター領域の非常に広いストレッチを迅速にスクリーニングすることを大きく妨げる。PCRのさらなる欠点は、不適当に組合わせたプライマーに対する、その固有の感度である。小さく、通常の、かつ生理学上の改変は、常に、プライマーに相補的な遺伝子フラグメントの核酸配列に存在可能であり、その改変によって、信頼性のあるPCRの適用が妨げられ、いつかは偽陰性の結果を生じさせる。特に、偽陰性の結果によって、PCRベースの診断試験は、非常に特異的ではあるが信頼性のある診断には十分な感度ではなくなり、言うまでもなく、悪性疾患の信頼性のある診断だけが、適した治療の予後および計画の理解に貢献し得る。
【0008】
蛍光in situハイブリッド形成技法(FISH)は、核酸配列の完全な組合わせにあまり依存せず、ポジティブな診断結果が得られる。一般的に、FISHは、大きく、主に不特定の、ハイブリダイズする核酸プローブを用いてプローブ分析を行うが、多くは、緊縮を変化すること、悪性細胞における再編成した染色体の融合領域の両側に位置する遺伝子および遺伝子フラグメントを有するプローブを用いる。大きなプローブを使用することによって、FISH技法の感度は非常に高くなる。同じところにあるプローブの結合は、一般的に蛍光色素で直接的または間接的のどちらかで検出され、試験するサンプルから得た細胞群を蛍光顕微鏡検査して視覚化される。
【0009】
しかしながら、現在使用されているFISHプロトコルでさえ、固有の欠点を有しており、これらの欠点は、主に現在のFISHプロトコルで使用されている核酸プローブの選択に関しており、そのことは、染色体異常の診断に偽陽性の結果を与え得る。たとえば、転座の場合においてシグナルが並んでいる異なる染色体に対して向けられたプローブによって、偽陽性の結果というかなり大きな危険が生じる。したがって、その診断試験は、感度はよいが、自動化した試験またはスクリーニングは言うまでもなく、大量のまたは迅速な診断試験において、標準的なFISH技法を使用するには十分特異的ではない。
【0010】
これまでは、コスミドクローン、YACクローン、または他のクローン化されたDNAフラグメント由来の一般に大きなプローブが、FISHにおけるプローブとして使用されている。再編成された染色体の融合領域に関連したこれらのプローブの正確な位置は不明であり、それらは、大部分は不特定であって、色々なゲノムの長さ(ゲノムの長さ、もしくはヌクレオチドまたは塩基の数として推定される距離(b))のもので、必要なリポーター分子、すなわち蛍光色素で単にプローブを標識すること以外はこれらのプローブを特異的に選択すること、または修飾することがない。プローブの設計または選択について、当該技術分野においては、推定上のプローブをどこに配置すべきかに関する単なる示唆以上の指導はほとんどない。これらのプローブによって得られる偽陽性の結果は、種々の染色体のいたるところに存在している広範な(主要な)反復配列による特異的ハイブリッド形成から、またはゲノムの相同配列に対するクロスハイブリッド形成から、または切断点クラスター領域との使用済みのプローブの重なりから、またはプローブのサイズ差から生じるシグナル量の違いから生じている可能性がある。これらの偽陽性の結果の原因は、頻繁に認識されるものではない。偽陽性の結果は、患者の迅速または慣例的なスクリーニングが、悪性疾患の検出または治療プロトコルの評価に必要である場合には、迅速な診断のためには特に有害である。そして、偽陽性の結果は、患者の面倒な再試験を必要とし、または慣例的なスクリーニングのプロトコルに従ってきた疑いのない依頼人でさえも再試験を必要とし、これらの人々を非常に不安にさせ得る。さらに、転座は、一般に、関係する染色体のそれぞれに1つずつ、2つの異なるプローブで検出し、その際、該プローブは、転座が存在する場合にin situハイブリッド形成の間の同じところにあるが、転座が存在しないときには分かれたシグナルを示す(たとえばEP0430402、EP0500290 A、Tkachuk et al., Science 250, 559-562, 1990; Tkachuk et al.,
“Clinical applications of fluorescence in situ hybridization”, Genetic
analysis techniques and applications vol. 8, 67-74, 1991)。しかしながら、実際にはFISHで試験を行った通常の間期の細胞の2〜4%が、2つのプローブが偶然、同じところにあるという事実によって、偽陽性の結果を示すだろう。現在のFISHプロトコルのさらなる欠点は、転座に関係のある両方の染色体と、指定した転座を検出可能な核酸プローブを決定するための両方の染色体の関係のある切断領域とを知ることが、実施に必要なことであるのに対して、現在のところは、既知の遺伝子および未知のパートナー遺伝子に由来する未知または明白ではない転座は、検出されないままである。
【0011】
本発明は、高感度で高特異性の、染色体異常の診断試験に使用可能な核酸プローブを提供する。本発明が提供する該プローブは、in situ、in vivo、またはin vitroで、たとえば(変異してないおよび/または再編成した)染色体によって転写されたまたは該染色体において発見された(m)RNAまたはDNAなどの相補核酸分子とハイブリダイズすることが可能である。本発明は、各転座分析に、別個で安定な対の核酸プローブを提供する。該プローブは、それら各々が、明確に選択された異なる配列にハイブリダイズするという点で別個であり、異常ではない染色体の個別の潜在的切断点にフランキングしている。さらに、たとえばプローブAとプローブBとによって形成した対は、たとえばプローブAとプローブXとによって形成した対とは異なる。さらに、上述の例におけるプローブA、B、およびXは、A−B、B−X、およびA−Xの3対を構成する。前記対におけるプローブは、同程度の量のシグナルの発生を容易にするという最終目的について、例えば同程度のサイズまたはゲノムの長さになるように設計するという点で同程度または安定である。さらに、前記プローブは、同程度の量のシグナルになるリポーター分子で同程度に標識することが可能である。さらに、該プローブは、それぞれ異なる蛍光で標識可能であり、異常が検出されない場合、それらが同じところにあるときには、異なる色の点における検出を容易にする。また、前記プローブは、染色体と、染色体の切断点または切断点クラスター領域の両側の同程度の距離に位置しているそれぞれの相補的なハイブリッド形成部位において、反応させるために選択され得る。本発明が提供する別個で安定な対の核酸プローブは、たとえば、同程度のサイズまたはゲノムの長さのプローブを必要とし、該対の各プローブの長さは、たとえば、1〜10kb、7〜15kb、10〜20kb、15〜30kb、20〜40kb、30〜50kb、40〜60kb、50〜70kb、60〜80kb、70〜90kb、または80〜100kbである。そのような別個で安定な、切断点領域にフランキングし、対応する融合領域をオーバーラップしていない対のプローブを使用することによってハイブリッド形成研究における偽陽性の診断が回避される。本発明は、さらに、別個で安定な対の核酸プローブを提供し、各々のプローブを、少なくとも一つの異なったリポーター分子で標識する。核酸プローブは、発色団または蛍光色素(たとえばFITCまたはTRITC)によって、もしくはビオチンおよびジゴキシゲニンなどのハプテンを導入することによって標識可能である。蛍光色素標識プローブは、直接検出可能である。ハプテン化された核酸プローブとのハイブリッド形成は、発色団、蛍光色素、またはペルオキシダーゼなどの酵素を使用して間接的に検出することによって追跡する。本発明は、さらに、別個で安定な対の核酸プローブであって、該プローブは、両プローブが単一の対応する核酸分子、またはその相補鎖にハイブリダイズすること、または1つの(異常ではない)染色体にハイブリダイズすること、またはその異常を含むこともあり得るフラグメントにハイブリダイズすることを特徴とし、血液学および腫瘍学において現在一般に使用されているような、与えられた転座に関する2つの染色体それぞれにハイブリダイズする2つのプローブ(たとえば、Tkachuk et al.,
Science 250, 559-562, 1990; Tkachuk et al., “Clinical applications of
fluorescence in situ hybridization”, Genetic analysis techniques and
applications vol. 8, 67-74 1991)の代わりに提供される。
【0012】
本発明はさらに別個の安定した対の核酸プローブを提供するが、該プローブは100kbを越えない、好ましくは50kbを越えないゲノム距離で当該核酸分子にハイブリダイズする。さらに、本発明は別個の安定した対の核酸プローブを提供するが、該プローブはin situでハイブリダイズし、FISH技法を必要とする診断テストに使用することができる。さらに、本発明は別個の安定した80対の核酸プローブを提供するが、該プローブはそれぞれin situで、多様ではあるが一般には低緊縮条件下、1細胞あたり数個のみのDNA分子にハイブリダイズする。数種のDNAフラグメントから構成される核酸プローブはハイブリッド形成の感度および特異性について中期塗抹にもとづきまたはサザンブロッティングにより試験し、プローブの主要反復配列ができるだけ少なくなるように選択して、バックグランド染色が高くなるのを避ける。核酸プローブは、診断テストに採用するに先立ち、その相対位置をマッピングし、チェックするために、ファイバーFISH(すなわち、ガラススライドに固定し伸展させた単一DNAファイバー上でのハイブリッド形成)により試験する。
【0013】
プローブは、たとえば、2つの反復配列にハイブリダイズするプローブの使用を避けるために試験する。プローブは多種のオリゴヌクレオチドセットから構成されていてもよく、それによってフランキング領域に存在する反復配列を避けることができる。かかるセットは、それぞれのフランキング領域に向けた各プローブ(またはオリゴヌクレオチドセット)について、分離したまたは個別のレポーター分子により個別に標識する。かかるプローブは多重標識オリゴヌクレオチドからなり、それぞれがフランキング領域の個別の部分にハイブリダイズする。1個のプローブは、たとえば、10〜200個の、好ましくは50〜150個のかかるオリゴヌクレオチドを含み、各オリゴヌクレオチドは、たとえば、10〜20ヌクレオチドの長さである。たとえば、MLL遺伝子のイントロン−エキソン構造は Br J Haematol 1996:93:966〜972に記載されている。この稿本によると、MLL遺伝子の殆どの切断点がエキソン9とエキソン14の間に位置していることをも示している。プローブを含むPNAは、“上流FISHプローブ”用としてエキソン3〜8に、また“下流FISHプローブ”用としてエキソン15〜31に設計することができる。特に、エキソン4およびエキソン28はプローブの設計にとって重要であるが、その理由は2つのエキソンがやや大型で、したがってPNAプローブの大部分を包含することができるからである。PNAオリゴヌクレオチドは、たとえば、その許容力が119Q3標的遺伝子からの当該エキソン4またはエキソン28とハイブリダイズし得るように合成し、1つのフランキング領域に対するプローブとして1つの反応混液中で使用することができる。
【0014】
本発明はさらに染色体異常の診断テストにおける別個の安定した対の核酸プローブの用途を提供する。本発明による対のプローブは、異常または異常なフラグメントを含む核酸の検出に、あるいは染色体異常を含む細胞のin situまたはin vitro検出に使用することができる。本発明はこのように一対または複数対の個別の安定したプローブを提供するが、該プローブは染色体異常に関係する障害または疾患、すなわち以下にさらに説明するように造血系悪性腫瘍などの悪性腫瘍の検出に使用することができる。さらに、本発明は本発明による対の核酸プローブを含んでなる診断キットまたはアッセイ法を提供するが、該キットまたはアッセイ法は染色体異常に関係する障害または疾患、すなわち造血系悪性腫瘍などの悪性腫瘍の検出に使用することができる。本発明が提供するかかる診断キットまたはアッセイ法により、治療効果をモニターすることが可能であり、また、最少残存疾患の検出または癌の初期再発を検出することが可能である。また、骨髄移植に続く骨髄細胞の起源を同定することもできる。また、細胞中のウイルス配列およびその染色体における位置を検出することもできる。さらに詳細には、本発明は造血系悪性腫瘍における染色体異常の分子検出に注目して記載しているが、一般の染色体異常の分析にも広く応用される。
【0015】
造血系悪性腫瘍における明確なあるいはなお不確かな染色体異常検出用の信頼性の高いプローブ開発について、制限することを意図しない実施例として記載し、本発明を説明する。かかるプローブは関連する悪性腫瘍の診断および分子分類に使用することができる。この新しいプローブは数種のタイプの造血系悪性腫瘍における診断テストに使用し得るもので、その分析感度、特異性および効果が増強されている。
【0016】
造血系悪性腫瘍については、毎年世界的に多くの症例が診断されている。ヨーロッパ連合(住民約3億7千5百万人)では年間約98,000人の患者が関わっている。米国(住民約2億5千万人)では患者の推定数が年間約65,500人である。造血系悪性腫瘍の大部分がリンパ系起源のもの、すなわち、急性リンパ芽球白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病、殆どの悪性リンパ腫、および多発性骨髄腫である。非ホジキンリンパ腫(NHL)が最大のグループであり、造血系悪性腫瘍全体の約半数を代表している。さらに、ヨーロッパの疫学研究によると、NHLの発生が次第に増加している(年間〜5%)ことを示しており、NHLがヨーロッパおよび恐らく殆どの西欧世界に重大な公衆衛生問題を提起していることを物語っている。ALLと診断された患者の年間数はNHLよりも少ないが、ALLは小児に広く流行しており、幼児期の最も頻度の高い悪性腫瘍を代表している。
【0017】
リンパ系悪性腫瘍は広範な約25種の異なる疾患実体からなり、臨床的な表示、予後、および治療プロトコルによる違いがある。これらの疾患実体は最近の改正ヨーロッパ・アメリカ・リンパ系新生物(REAL)分類により定義されている。この分類によると、リンパ系悪性腫瘍はB−細胞悪性腫瘍(〜90%)およびT−細胞悪性腫瘍(〜10%)に分けられる。
【0018】
リンパ系悪性腫瘍の診断と分類は一般に細胞形態学と組織形態学にもとづいており、フローサイトメトリーおよび/または免疫組織化学を通しての免疫表現型情報により補完される。この免疫表現型情報はリンパ系悪性腫瘍の分類、たとえば、ALLをプロ−B−ALL、共通−ALL、プレ−B−ALL、および数種の型のT−ALLに分類するのに有用であると思われる。免疫グロブリン(Ig)発現を伴う成熟B−細胞悪性腫瘍においては、その診断は、単一のIg軽鎖発現の検出、すなわち、IgκおよびIgλ陽性B−細胞の分布(B−細胞悪性腫瘍の場合にはひどく歪んでいる)の検出を経て免疫表現型クローン性の評価により支持することができる。
【0019】
クローン性評価の価値は悪性腫瘍の細胞すべてが共通のクローン起源をもつという事実にもとづいている。リンパ系悪性腫瘍において、このことは同一に(クローン性に)再編成されたIgとT細胞受容体(TCR)遺伝子の存在により反映されている;クローン性Igおよび/またはTCR遺伝子再編成は殆ど(90〜95%)の未成熟リンパ系悪性腫瘍に、また、実質的にすべて(>98%)の成熟リンパ系悪性腫瘍に見出される。したがって、IgおよびTCR遺伝子を分子クローン性分析することは、モノクローナル(悪性)リンパ球増殖およびポリクローナル(反応性)リンパ球増殖間の識別のためには非常に適している。したがって、リンパ球増殖が疑われるときは分子クローン性評価に付すべきである。
【0020】
過去10年間に造血性悪性腫瘍の遺伝子異常についての知識は、特に急性白血病とNHLにおいて著しく増大した。最近、確立した染色体異常がALLの35〜40%に、また、NHLの30〜40%に見出されている。これらの染色体異常は分子クローン性評価にとっての別途のあるいはさらなるマーカーとして用いることができる。より重要なことは、これらの染色体異常は適切な分類マーカーであると思われ、現在用いられている形態学的、免疫表現型分類系を補完する。幾つかの遺伝子異常は順調な予後と関係している一方、他の異常は順調でない予後、たとえば、プロ−B−ALLでのt(4:11)および共通−ALLでのt(9:22)などと関係している。幾つかの治療プロトコルでは治療の段階分けのためにこの情報を使用し始めている。それ故、確定した遺伝子異常を迅速に信頼性をもって検出することが造血性悪性腫瘍の診断と処理において本質的なものとなるだろう。
【0021】
数種の異なる型の染色体異常がALLとNHLに確認されている。前駆体−B−ALLの染色体異常は主に転座に関係しており、これが新しいまたは改変された機能を保持する融合タンパク質をエンコードする融合遺伝子を生み出す。その例としては、それぞれt(1:19)およびt(9:22)から生じたE2A−PBXおよびBCR−ABL融合タンパク質である。他の重要な染色体領域、MLL遺伝子をもつ11q23領域は急性白血病における数種の型の転座に関与している。これらの11q23転座においては異なるパートナー遺伝子が関与して、異なる融合タンパク質に導く。その一つがt(4:11)であり、幼児急性白血病の約70%に観察される。T−ALLおよびNHLにおける多くの染色体異常はIgまたはTCR遺伝子配列が発癌遺伝子配列と組み合わさったものである。これらの染色体異常は融合タンパク質を生じさせるのではなく、関与する発癌遺伝子の発現を増大または安定化させるものであって、それによって制御不能な増殖に寄与するものである。これらは特定の疾患範疇内で比較的高い頻度で起こり、たとえば、濾胞性リンパ腫の約90%ではBCL2遺伝子の関与とともにt(14:18)、また、外套細胞リンパ腫の約70%ではBCL1/サイクリンD1遺伝子の関与とともにt(11:14)である。
【0022】
起源から染色体を細胞遺伝学的に分析することは、染色体異常検出にとっての標準技術である。この技術は中期の細胞の存在を必要とし、悪性の型によっては一般に種々の細胞培養系を要求する。信頼性の高いカリオグラムを得る成功確率は悪性の型と研究室の経験に大きく依存し、50%以下から90%以上の範囲である。さらにある種の染色体異常は、T−ALLにおけるTAL1欠失および前駆体−B−ALLにおけるt(12:21)など、検出できないか、または検出が難しい。したがって、確立された染色体異常の場合には、労働集約型で時間浪費型の古典的細胞遺伝学が今や分子技術に置き換わりつつある。既述のように、遺伝子異常の分子分析はサザンブロッティング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術、およびFISH技術により実施し得る。
【0023】
サザンブロット分析は確立された染色体異常の、これまで最も信頼度の高い分子検出法であったが、この技術は適切なDNAプローブが入手可能か否かに依存し、該プローブは関与する染色体異常の関連切断点クラスター領域のすべてを認識しなければならない。後者はおそらく、BCL2およびBCL1/サイクリンD1遺伝子異常がなぜサザンブロッティングにより、それぞれ濾胞性リンパ腫の75%のみに、また外套細胞リンパ腫の50%のみに検出し得るのか説明する。さらに、サザンブロット分析は時間が掛かり、新鮮なまたは凍結細胞サンプルから誘導した比較的多量の高品質DNAを必要とする。
【0024】
過去5年に渡り、PCRベースの技術がサザンブロッティングの代替法として開発された。PCR技術は迅速で、かつ、最少量品質中程度のDNAがあれば可能であって、フォルマリン固定パラフィン埋設組織サンプルから採取したDNAであってもよいという利点を有する。また、mRNAも逆転写(RT)によりcDNAとした後使用することができる。RT−PCRは、前駆体−B−ALLおよび未分化巨大細胞リンパ腫のt(2:5)にしばしば見られるような融合遺伝子および融合転写物をもつ染色体異常の場合にとりわけ価値がある。これらの明白な利点にもかかわらず、造血系悪性腫瘍での染色体異常の検出に対するPCR技術の広範な適用は、幾つかの問題により妨害されている。もしホルマリン固定パラフィン埋設組織サンプルからのDNAまたはmRNAが期待したよりも適切でないならば、あるいはプライマーが不適合である場合には、偽陰性PCRの結果が得られる。異なる患者からのサンプル間でのPCR産物交差混入による偽陽性結果を得る場合もある;特に、融合遺伝子転写物のRT−PCR研究の場合には、偽陽性の結果を排除するのは困難である。最終的に、ルーチンPCR分析は染色体切断点の比較的小さな融合領域(<2kb)を研究する際にのみ使用することができる。このことは多重オリゴヌクレオチドプライマーセットが最も重要な切断点と融合領域を被うことが必要であり、大きな切断点または融合領域(>10kb)を研究することは難しいことを意味する。これは染色体異常の検出可能性が低く、したがって、サザンブロッティングと比較したとき、PCRによるDNAレベルでは偽陰性の結果が存在することを説明する。
【0025】
細胞遺伝子分析、サザンブロッティング、およびPCR分析に比較して、FISH技術の主な利点は、FISHがあらゆる種類の組織および細胞サンプルの間期核について実施し得ること、また、DNAまたはmRNAを抽出する必要のないことである。FISH技術においては、一般に大型のDNAプローブ(>25kb)を使用し、検討される染色体異常の2つの染色体切断点領域周辺に位置づける。これはFISHのプローブがサザンブロットプローブまたはPCRプライマーよりも相当に広い領域を走査し得ることを意味する。この利点は伝統的な切断点クラスター領域外の切断点検出にとってとりわけ重要である。さらに、大型の蛍光標識DNAプローブを使用することは、検討した遺伝子領域の欠失および転座の直接的かつ迅速な視覚化を可能とする。最新世代の蛍光顕微鏡の、多重蛍光色素フィルターの組合わせたもの、CCDカメラ、および適切なコンピューターソフトウエアとの共用は、異なる蛍光色素で標識した多重FISHプローブの組合わせ使用を可能とする。
【0026】
適切なプローブの利用可能性が染色体異常検出のFISH技術を用いるに際しての主要な制限要因である。これまでは一般に、コスミドクローン、YACクローン、または他のクローン化DNAフラグメントがこれらプローブの特異的選択または修飾なしに用いられている。これらプローブの多くは、そのゲノムの位置が正確には判っていない;それらはしばしば切断点クラスター領域と重なり合ってさえおり、それらはしばしば高いバックグランド染色を引起こす反復配列を含んでいる。さらに、転座は一般に2つの異なるプローブを使用して検出するが、その一つは関与する染色体のそれぞれについてである;これら2つのプローブは転座の場合に共局在すると推定されるが、もし転座が存在しなければ別個のシグナルを示す。しかし、実際には正常間期細胞の2〜4%は2つのシグナルが偶然に共局在するという事実により偽陽性結果を示す。
【0027】
造血性悪性腫瘍の診断と分類において、染色体異常検出のためのFISH技術または他のプローブ分析アッセイもしくはキットの日常的適用を可能とするには、別個の安定したプローブを設計することが必要である。
【0028】
1.本発明のプローブは別個の安定した対の核酸プローブを形成するように選択する;プローブのサイズはそれぞれ検出すべきゲノムの一定の限度内にあり(たとえば、1〜10、または10〜30、または20〜40、または30〜50、または40〜60kb)、その最終目標は種々プローブの蛍光シグナル強度を同等のものとすることである。
【0029】
2.本発明のさらなる態様において、対を構成するプローブの位置は正確に決定される;すなわち、切断点クラスター領域と重ならず、関連する切断点が好ましくはいずれのプローブについても50kb以内、または、さらに好ましくは25kb以内に位置し、そしてもし特定の染色体異常の2つの切断点領域がプローブの正確な位置によって30〜50kb以上離れているならば、追加のプローブを設計しなければならない。
【0030】
3.さらなる態様において、核酸プローブは(主要)反復配列を含まず、高いバックグランド染色に至るようなクロスハイブリダイズをしない。そのため数種のフラグメントから構成される核酸プローブは、ハイブリッド形成感度および特異性に対して中期塗抹にもとづき、またはサザンブロッティングにより試験することができる。
【0031】
4.核酸プローブは診断テストに採用するに先立ち、その相対位置を地図化し、チェックするために、ファイバーFISHにより別途またはさらに試験することができる。
【0032】
5.さらに見出されたことは、もし当該対を構成する2つの別個のプローブが2つの異なる蛍光色素により標識されていて染色体異常の1切断点領域を取り囲んで設計されるならば、染色体切断点の検出がより容易になり、より信頼性の高いものとなるということである。もし切断点がなければ、これはシグナルの共局在化に導くだろう。しかし、もし検討する切断点領域に切断点が生じるならば、2つの異なる標識をしたプローブが2つの別々のシグナルを生じるだろう。
【0033】
6.さらに、第三のプローブを設計(第三の蛍光色素で標識)すること、および染色体異常のパートナー遺伝子用に2つのさらなる別個のプローブ対を設計することが染色体異常の正確な同定を可能とする。
【0034】
【表1】

【0035】
悪性疾患において発見された染色体異常は、急性白血病、悪性リンパ腫、および固形腫瘍の場合などの分子分類に有用である(表1)。しかしながら、これらの異常のいくつかは、その頻度の高さ、またはその予後の値によって、他の異常よりも重要である。たとえば、t(14;18)は、NHLにおいて頻繁に生じ、t(12;21)は、小児期の前駆体B−ALLにおいて頻繁に見出される。一方、11q23領域におけるMLL遺伝子を含む転座は、予後が良好ではない要素を表し、11q23(MLL遺伝子)の異常は、既に、急性白血病における治療の層に関する重要な要素として、使用されている。また、ALLにおけるt(9;22)も、予後が良好ではなく、治療の層に使用される。
【0036】
染色体領域11q23におけるMLL遺伝子(骨髄性リンパ性白血病または混合型直系白血病に関する)は、ALLおよび急性骨髄性白血病(AML)の両方のいくつかの転座に関係している。これらの転座において、MLL遺伝子は、ショウジョウバエのトリソラックス(trithorax)遺伝子産生物に対して相同性を示すタンパクをエンコードしており、異なる染色体上のパートナー遺伝子と融合する。今日まで、少なくとも10個のパートナー遺伝子が同定されている。t(4;11)(q21;q23)、t(11;19)(q23;p13)、およびt(1;11)(p32;q23)などのこれらの転座のいくつかは、ほとんど、ALLにおいて発生するが、t(1;11)(q21;q23)、t(2;11)(p21;q23)、t(6;11)(q27;q23)、およびt(9;11)(p22;q23)などの他の転座は、AMLにおいてずっと多く観察される。他の型は、AML同様ALLにおいて報告されている。11q23異常を有する、治療によって誘導されるAMLは、以前にトポイソメラーゼII阻害剤で治療した患者において上昇し得る。11q23領域を含む再編成は、乳児急性白血病で非常に頻繁に生じ(約60〜70%)、小児および成人白血病では非常に低頻度になる(それぞれ約5%)。MLL遺伝子の再編成、とくにt(4;11)は、乳児白血病において予後が良好ではない要素になることが示されており、3年間の生存率は、生殖系列MLL遺伝子に関する症例の85〜90%と比較すると、5%である。
【0037】
大きなMLL遺伝子(100kbを越える)は、3900を越えるアミノ酸をエンコードする21個のエキソンからなる。MLL遺伝子の切断点は、5〜11のエキソンを包含する8.5〜9kbの領域にクラスターされる。それは比較的小さなサイズであるので、この切断点領域は、転座の分子検出に容易に使用し得る。2つの別個に標識したFISHプローブを、切断点領域にフランキングする配列において選択することによって、11q23領域を含むどの転座も、2つの蛍光色素シグナルの分離をもとにして検出可能であるが、2つの蛍光色素は、MLL遺伝子における再編成が起こっていないとき、同じところにある。さらに、第3の蛍光色素をパートナー遺伝子に対して向けられたプローブについて使用することによって、転座の正確な型の同定が可能になる。このFISH分析の2段階アプローチは、第1段階で、11q23(MLL遺伝子)領域を含む全ての異常を、確実に能率的かつ直接的に検出し、第2段階で、11q23の転座の型を決定することが可能である。
【0038】
リンパ性悪性疾患における染色体異常は、多くは、IgまたはTCR遺伝子を含む。例は、バーキットリンパ腫に見出される3つの型の転座(t(8;14)、t(2;8)、およびt(8;22))を含み、それにおいて、MYC遺伝子は、Igの重鎖(IGH)、Igのκ(IGK)、またはIgのλ(IGL)遺伝子セグメントにそれぞれ連結されている。この区分における転座の他の共通の型は、t(14;18)(q32;q21)であり、それは主要なNHL型の一つである、濾胞性リンパ腫の90%までにおいて観察される。この転座において、BCL2遺伝子は、JH遺伝子セグメント内または近傍のIGH遺伝子座内の領域に再編成される。この染色体異常の結果は、BCL2タンパクの過剰発現であり、それは、プログラムされた細胞死を阻害することによって、成長調節における生存要素としての機能を果たす。
【0039】
BCL2遺伝子は、3つのエキソンのみからなるが、これらは広範囲に分散されている。これらの内の最後のエキソンは、大きな3’非翻訳領域(3’UTR)をエンコ−ドしている。この3’UTRは、t(14;18)切断点の多くがクラスターしている二つの領域の一つであり、「主要切断点領域」(mbr)と呼ばれ、もう一つの切断点領域はt(14;18)転座に関係しており、BCL2遺伝子座の20〜30kb下流に位置し、「非主要クラスター領域」(mcr)と呼ばれる。第3のBCL2遺伝子切断点範囲は、vcr(種々のクラスター領域)であって、BCL2遺伝子座の5’側に位置し、とりわけ、種々の転座、すなわちt(2;18)およびt(18;22)に関係しており、該領域においては、IGKおよびIGL遺伝子のセグメントがパートナー遺伝子である。
【0040】
mbr領域の上流の領域、およびmcr領域の下流に位置したFISHプローブのセットを選択することによって、これらの両域における転座を、蛍光色素シグナルの分離で検出可能である。さらなるFISHプローブのセットは、vcr領域と他の2つの切断点クラスターとの間の距離が非常に大きすぎて(400kbまで)、同じプローブを使用することが不可能であるので、vcr領域用に設計している。全てのこれらのアプローチにおける第2段階として、IGH、IGK、およびIGL遺伝子におけるFISHプローブを、転座の正確な型の同定に使用する。
【0041】
核酸プローブのいくつかの型は、染色体異常を検出するための、本発明が提供するようなFISH技術に利用可能である。これらのプローブ型の各々は、それ自身の特有の特徴と利点を有し、同時に、相補的なアプローチ、すなわちプローブを誘導するコスミド、PAC、またはYAC、PCRベースのプローブ、またはPNAベースのプローブを構成する。
【0042】
コスミド、PAC、またはYACのライブラリーから得られたクローンは、大きなプローブを構成し、蛍光色素で標識すると、ハイブリッド形成において適したシグナルになる(Gingrich et al., 1996)。しかしながら、従来、これらのプローブの正確な位置は未知であるので、これらのプローブのさらなる選択または修飾が行われない場合、多くは、関係した染色体異常の切断点クラスター領域とオーバーラップする危険がある。さらに、そのように大きなプローブは、多くは、反復配列を含み、それはバックグラウンドの染色を高くする。別個で安定な対のプローブは、関係する染色体のうちの一つ染色体の切断点範囲の上流および下流のフランキング領域と反応するように設計したコスミド、PAC、またはYACプローブを含み、したがってファイバーFISH実験において、または小さいよく限定された、切断点クラスターとのオーバーラップを避ける切断点範囲の周辺に設計した封入または排除プローブを使用したサザンブロッティングを使用して、正確に位置付けすることができる。潜在的反復配列の存在は、ゲノムDNAのサザンブロット分析を介して排除する。
【0043】
PCRによって創製したプローブは、それらを正確に位置付け可能であるというさらなる利点を有しているが、そのためには、アプローチ配列情報が、少なくとも、プローブを産生するための標的特異PCRプライマーを設計するための範囲について必要である。一旦創製したPCR産生物を、関係する切断点クラスターの上流および下流のフランキング領域の特異的検出を妨げる反復またはクロスハイブリッド配列の存在についてチェックする。PNAベースのFISH技術用プローブは、多様な(たとえば50〜150)別個のPNAオリゴヌクレオチドを含み、各々は5〜40ヌクレオチドの典型的なサイズ、より典型的な10〜25ヌクレオチドを示し、同時に、FISH技術を使用する染色体異常の検出に適したシグナルを産生する。PNAプローブは、4つのデオキシヌクレオチドを対にした不明確なペプチドバックボーンを有し、高度な親和性を有して、相補的な核酸配列にハイブリダイズする安定な核酸フラグメントである(Egholm et al., 1993; Corey, 1997)。ミスマッチが、PNAハイブリッド形成に強く影響するという事実から、PNA認識の配列特異性は、容易に達成可能であり、それによって、PNAプローブを高度に選択性のある、FISH技術に使用するプローブにすることが可能である。PNAプローブは、in situハイブリッド形成を含む種々の適用に、高度に反復するコントロメリックまたはテロメア配列に対して使用されている(Corey, 1997)。したがって、反復配列に対して向けられた単一のPNAオリゴヌクレオチドだけが、適切なシグナル量に十分であった。安定な対の核酸プローブの設計は、切断点クラスターのフランキング領域における標的配列に対して向けられた、多様な(たとえば50〜150)別個のPNAオリゴヌクレオチドを含み、他の核酸プローブによってのみならず、その設計によって、染色体異常の検出を提供する。
【0044】
種々のタイプのプローブの適用
前述のタイプのFISHプローブのそれぞれは特有の用途を有しているが、それらは共に相補的で部分的に重なった方策を構成している。
【0045】
染色体領域11q23におけるMLI遺伝子は、ALLおよびAML両方におけるいくつかの転座に関与する検出可能な領域の一例であり(表1)、好適には、PCRベースの、またはPNAベースのFISHプローブを設計することが可能な染色体異常の完全な例を提供する。MIL遺伝子における切断点範囲は、切断点クラスターの上流および下流のフランキング領域において利用可能なアンプルエキソンと非常に密に群化されているので、別個で安定な対の、PCRベースのFISHプローブおよび/またはPNAベースのFISHプローブの設計と作製が、この染色体領域においては非常に有用である。精密に位置づけされたコスミドまたはPACクローンの設計が代替の、または付加的な方策として有用であろう。
【0046】
BCL2遺伝子範囲は、BCL2遺伝子座の5’および3’側のコーディング配列の外側にあり、且つばらばらになっているいくつかの切断点範囲を含む悪性リンパ腫におけるいくつかの染色体異常(表1)に関与している一例である。したがってBCL2遺伝子座は、利用可能な遺伝子情報が少ないほど、別個で安定な対のFISHプローブを、PCRを介して、および/またはPNAオリゴヌクレオチドのプーリングを介して生み出すことがより一層困難である染色体異常に関与している遺伝子の例を示している。かかる染色体異常においては、別個で安定な対の、コスミド、PAC、および/またはYAC誘導FISHプローブを、正確な位置の注意深い選択と変更の後に用いることが可能である。
【0047】
本発明は、以下の実施の形態が可能である。
(1)一対の同程度のサイズの核酸プローブであって、それぞれ好ましくは1〜100kb、より好ましくは1〜10kb、または7〜15kb、または10〜20kb、または10〜30kb、または20〜40kb、または30〜50kb、または40〜60kb、または50〜70kb、または60〜80kb、または70〜90kb、または80〜100kbであり、染色体の潜在的切断点にフランキングし、かつ、それぞれが少なくとも1個の異なるレポーター分子で標識されることを特徴とする一対の核酸プローブ。
【0048】
(2)一対の同程度のサイズの核酸プローブであって、それぞれ好ましくは1〜100kb、より好ましくは1〜10kb、または7〜15kb、または10〜20kb、または10〜30kb、または20〜40kb、または30〜50kb、または40〜60kb、または50〜70kb、または60〜80kb、または70〜90kb、または80〜100kbであり、染色体の潜在的切断点にフランキングする一対の核酸プローブであって、当該核酸分子に100kbを越えないゲノム距離、好ましくは50kbを越えないゲノム距離でハイブリダイズすることを特徴とするプローブ。
【0049】
(3)プローブが当該核酸分子に100kbを越えないゲノム距離、好ましくは50kbを越えないゲノム距離でハイブリダイズすることを特徴とする同程度のサイズの一対の核酸プローブ。
【0050】
(4)それぞれが少なくとも1個のレポーター分子により直接的または間接的に標識されることを特徴とする一対の核酸プローブ。
【0051】
(5)レポーター分子が酵素、発色団、蛍光色素、ハプテン(ビオチンまたはジゴキシゲニンなど)からなる群から選択されることを特徴とする一対の核酸プローブ。
【0052】
(6)プローブが単一の対応する核酸分子にハイブリダイズすることを特徴とする一対の核酸プローブ。
【0053】
(7)対応する核酸分子が染色体の少なくとも1個のフラグメントであることを特徴とする一対の核酸プローブ。
【0054】
(8)染色体が異常ではないことを特徴とする一対の核酸プローブ。
(9)in situでハイブリダイズすることを特徴とする一対の核酸プローブ。
【0055】
(10)プローブそれぞれが低緊縮条件下in situで1細胞あたり数個の直線DNA分子にハイブリダイズすることを特徴とする一対の核酸プローブ。
【0056】
(11)前記一対の核酸プローブの、染色体異常を含む核酸分子検出の用途。
(12)前記一対の核酸プローブの、染色体異常を含む細胞検出の用途。
【0057】
(13)前記一対の核酸プローブの、染色体異常を原因とする障害または疾患検出の用途。
【0058】
(14)染色体異常が悪性腫瘍に関連していることを特徴とする一対の核酸プローブの用途。
【0059】
(15)染色体異常が造血性悪性腫瘍に関連していることを特徴とする一対の核酸プローブの用途。
【0060】
(16)前述の少なくとも一対の核酸プローブを含んでなることを特徴とする診断キット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
in situハイブリダイゼーションによって間期核の少なくとも1個の染色体異常を検出する一対の核酸プローブであって、
核酸プローブのそれぞれが少なくとも1個の異なるレポーター分子で直接的に標識されて、プローブ間で同程度の強度のシグナルをもたらし、
一対の核酸プローブが、染色体にハイブリダイズすると染色体の潜在的切断点にフランキングするように、かつ一対の核酸プローブが染色体の切断点クラスター領域と重ならないように、核酸プローブのそれぞれが配列にハイブリダイズし、
染色体異常がない場合、核酸プローブが、レポーター分子のシグナルの共局在をもたらす、100kb以下の核酸プローブ間のゲノム距離でハイブリダイズすることを特徴とする一対の核酸プローブ。
【請求項2】
少なくとも1個の異なるレポーター分子が酵素、発色団、蛍光色素およびハプテンから成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載の一対の核酸プローブ。
【請求項3】
核酸プローブのそれぞれが25kbよりも大きいことを特徴とする請求項1または2記載の一対の核酸プローブ。
【請求項4】
核酸プローブのそれぞれの相対的サイズと、核酸プローブのそれぞれを標識する少なくとも1個のレポーター分子の強度と、染色体へのハイブリダイゼーションに続く核酸プローブのそれぞれの間のゲノム距離との組合せが同程度の強度の核酸プローブのシグナルをもたらすことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の一対の核酸プローブ。
【請求項5】
核酸プローブのそれぞれが多様なオリゴヌクレオチドで構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の一対の核酸プローブ。
【請求項6】
核酸プローブのそれぞれが主要反復配列を含まないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の一対の核酸プローブ。
【請求項7】
一対の核酸プローブが単一の対応する核酸分子にハイブリダイズすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の一対の核酸プローブ。
【請求項8】
対応する核酸分子が染色体の少なくとも1個のフラグメントであることを特徴とする請求項7記載の一対の核酸プローブ。
【請求項9】
一対の核酸プローブが低緊縮条件下in situで1細胞あたり数個の直線DNA分子にハイブリダイズすることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の一対の核酸プローブ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の一対の核酸プローブの使用による、染色体異常を含む核酸分子の検出方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の一対の核酸プローブの使用による、染色体異常を含む細胞の検出方法。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の一対の核酸プローブの使用による、染色体異常を原因とする障害または疾患の検出方法。
【請求項13】
染色体異常が悪性腫瘍に関連していることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
染色体異常が造血性悪性腫瘍に関連していることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載の少なくとも一対の核酸プローブを含む診断キット。
【請求項16】
少なくとも1つの追加の核酸プローブを含み、該追加の核酸プローブは少なくとも1個の異なるレポーター分子で直接的または間接的に標識され、該追加の核酸プローブは、2つ以上の切断点領域が30kb以上離れていると使用されることを特徴とする請求項15記載の診断キット。

【公開番号】特開2009−148291(P2009−148291A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48603(P2009−48603)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【分割の表示】特願平10−549084の分割
【原出願日】平成10年5月13日(1998.5.13)
【出願人】(500534898)エラスムス ユニフェルシテイト ロッテルダム (3)
【氏名又は名称原語表記】Erasmus Universiteit Rotterdam
【住所又は居所原語表記】Dr.Molewaterplein 50,Rotterdam,NETHERLANDS
【Fターム(参考)】