柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子、該遺伝子を用いて育種された納豆菌、及び該納豆菌を用いて製造された柔らかい納豆
【課題】柔らかい納豆を製造するような能力を有する納豆菌を提供し、該納豆菌を用いた柔らかい納豆の製造方法、及び該製造方法により製造された柔らかい納豆を提供する。
【解決手段】納豆菌のsofA遺伝子ならびにsofB遺伝子を取得し、該遺伝子を増幅させて、該遺伝子がコードするタンパク質を増強させることにより育種した納豆菌を開発し、該納豆菌を用いて製造した納豆は柔らかく、例えば、硬度が0.20〜0.65Nの納豆を提供することができる。
【解決手段】納豆菌のsofA遺伝子ならびにsofB遺伝子を取得し、該遺伝子を増幅させて、該遺伝子がコードするタンパク質を増強させることにより育種した納豆菌を開発し、該納豆菌を用いて製造した納豆は柔らかく、例えば、硬度が0.20〜0.65Nの納豆を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規納豆菌、及び該納豆菌を用いて製造された柔らかい納豆に関し、さらに詳細には、発酵の進行に伴い納豆を柔らかくする機能に関与する遺伝子、該遺伝子を用いた納豆菌の育種方法、該育種方法により育種された納豆菌、及び該納豆菌を用いて製造された柔らかい納豆に関する。
【背景技術】
【0002】
納豆は、大豆の煮豆を原料とし、納豆菌の発酵によって生産される伝統食品である。
納豆の品質の良し悪しを規定する因子の一つとして、硬さ(柔らかさ)があり、近年では柔らかい納豆が好まれる傾向がある。
【0003】
柔らかい納豆を製造するために、例えば、柔らかく煮上がる特性を有する大豆を選別して用いたり、大豆の蒸煮強度を強めて柔らかく煮上げた煮豆を用いたりして、柔らかい納豆を製造しようとする試みが行われているが、柔らかく煮上がる特性を有する大豆を安定して調達することが難しかったり、大豆の蒸煮強度を強めた場合は豆色が黒くなりかえって品質低下をきたすなどの問題があった。
【0004】
このような中で、他の発酵性能は従来の納豆菌と遜色がなく、かつ、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌が取得できれば、糸引性、旨み、色調、香りなどの他の特性は遜色のない柔らかい納豆を安定して製造できることが期待できる。
このような柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌については、中国のドウチから分離したバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)KFP843株などが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
このような納豆菌を用いて納豆を製造すれば柔らかい納豆は製造可能であるが、一方、納豆は発酵に用いた納豆菌の特性に応じて品質が著しく変化することが知られており、例えば、上記のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)KFP843株を用いて製造された納豆は糸引性が悪いことが知られている。
柔らかさ以外の品質は、従来の納豆菌を用いて製造された納豆と全く変わらない納豆を製造するには、従来から使用されてきた納豆菌を柔らかい納豆を製造できる能力を有するように改良することが望ましいと考えられる。
【0006】
しかし、従来から使用されて来た納豆菌を柔らかい納豆を製造できる能力を有するように改良する方法については全く不明であり、例えば、柔らかい納豆を製造する機能や、該機能に関与する遺伝子などについても、解明する必要があった。
【非特許文献1】日本食品科学工学会誌、52巻、10号、p.454−461、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の納豆菌を、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌に育種改良するために、柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子を見出し、該遺伝子を用いて従来の納豆菌を柔らかい納豆を製造する能力を有するように改良する方法及び該方法によって育種された柔らかい納豆を製造する納豆菌を提供し、該納豆菌を用いた柔らかい納豆の製造方法、及び該製造方法により製造された柔らかい納豆を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子を、通常の納豆菌中に見出した。
【0009】
具体的には、本発明者は、納豆菌の類縁菌である枯草菌168株のゲノムには存在せず、納豆菌にのみ存在する遺伝子群を解析し、これらの遺伝子群の中から、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードする2種類の遺伝子を見出すことができ、該遺伝子を、それぞれ、sofA遺伝子(以下、sofAと称する場合もある)及びsofB遺伝子(以下、sofBと称する場合もある)と命名した。
【0010】
そして、これらの遺伝子を納豆菌中で増幅し、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質を増強させることによって、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌を開発することが可能であることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質。
(A)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能、発酵が進むに従い納豆を柔らかくする機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(2)以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(3)以下の(A)、(B)、(C)又は(D)に示されるDNA。
(A)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列からなるDNA。
(B)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(C)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(D)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされた塩基配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(4)以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質。
(A)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(5)以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(6)以下の(A)、(B)、(C)又は(D)に示されるDNA。
(A)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列からなるDNA。
(B)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(C)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(D)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされた塩基配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
【0012】
(7)柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子がコードするタンパク質の機能を増強させることを特徴とするバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
(8)柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子が上記(2)又は(3)に記載の遺伝子であることを特徴とする上記(7)に記載のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
(9)柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子が上記(5)又は(6)に記載の遺伝子であることを特徴とする上記(7)に記載のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
(10)上記(7)〜(9)のいずれか1つに記載の方法により育種されたことを特徴とする柔らかい納豆を製造する機能が増強されたバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌。
(11)バシラス・サチリスSOFAH(Bacillus subtilis SOFAH)株(FERM ABP−10996)であることを特徴とする上記(10)に記載の納豆菌。
(12)バシラス・サチリスSOFBH(Bacillus subtilis SOFBH)株(FERM ABP−10997)であることを特徴とする上記(10)に記載の納豆菌。
(13)上記(10)〜(12)のいずれか1つに記載の納豆菌を用いることを特徴とする納豆の製造方法。
(14)上記(13)に記載の納豆の製造方法により製造されたことを特徴とする柔らかい納豆。
(15)上記(13)に記載の納豆の製造方法により製造され、硬度が0.20〜0.65Nであることを特徴とする上記(14)に記載の柔らかい納豆。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌が提供され、その納豆菌を用いて納豆を生産することにより、柔らかい納豆の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いる納豆菌には特に制限はないが、通常納豆工業で使用されている発酵能力に優れた納豆菌や、自然界から分離取得された納豆菌、およびさらに改良を重ねた、優れた納豆菌を用いるのが望ましい。
【0015】
納豆菌は、枯草菌バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に分類されているが、粘質物(糸引物質)などの納豆としての特徴をつくり出すことができ、納豆発酵での主体をなす細菌であって、また生育にビオチンを要求するとされるなどの特性を有していることなどから、バシラス・ナットウ(Bacillus natto)として分類されたり、枯草菌の変種としてBacillus subtilis var. nattoあるいはBacillus subtilis(natto)などと、枯草菌と区別して分類する場合もある。
【0016】
納豆菌としては、Bacillus natto IFO3009株、Bacillus subtilis IFO3335株、同IFO3336株、同IFO3936株、同IFO13169株などがあるほか、各種の納豆菌が広く使用できる。
【0017】
具体的には、市販納豆から分離したO−2株や該株の形質転換効率向上性変異株であるr22株(例えば、特開2000−224982号公報参照)が挙げられ、また市販の納豆種菌である高橋菌(T3株、東京農業大学菌株保存室)や宮城野菌(宮城野納豆製作所)など各種の納豆菌が適宜使用可能である。
【0018】
本発明のタンパク質としては、柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子がコードするタンパク質である。具体的には、配列表の配列番号2(図3)に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質があげられ、さらに配列表の配列番号2(図3)に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質に関する。
【0019】
また、配列表の配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質があげられ、さらに配列表の配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質に関する。
【0020】
本発明のタンパク質の取得・調製方法は特に限定されず、天然由来のタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組換え技術により作製した組み換えタンパク質の何れでもよい。天然由来のタンパク質を取得する場合には、かかるタンパク質を発現している細胞からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせて本発明のタンパク質を取得することができる。
【0021】
化学合成により本発明のタンパク質を調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明のタンパク質を合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質を合成することもできる。
【0022】
また、遺伝子組換え技術により本発明のタンパク質を調製する場合には、該タンパク質をコードする塩基配列からなるDNAを好適な発現系に導入することにより本発明のタンパク質を調製することができる。
【0023】
これらの中でも、比較的容易な操作でかつ大量に調製することが可能な遺伝子組換え技術による調製が好ましい。なお、遺伝子組換え技術によって本発明のタンパク質を調製する場合に、かかるタンパク質を細胞培養物から回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出を行った後、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法が用いられ、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーが用いられる。
【0024】
特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体等の抗体を結合させたカラムや、上記本発明のタンパク質に通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、これらのタンパク質の精製物を得ることができる。
【0025】
さらに、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなるタンパク質、又は、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を例示した配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列の情報に基づいて当業者であれば適宜調製又は取得することができる。
【0026】
例えば、配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いるポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR反応)によって、あるいは該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーションによって、バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。このホモログDNAの全長DNAをクローニング後、発現ベクターに組み込み適当な宿主で発現させることにより、該ホモログDNAによりコードされるタンパク質を製造することができる。
【0027】
オリゴヌクレオチドの合成は、例えば、市販されている種々のDNA合成機を用いて常法に従って合成できる。また、PCR反応は、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)製のサーマルサイクラーGene Amp PCR System 2400を用い、TaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)やKOD−Plus−(東洋紡績社製)などを使用して、常法に従って行うことができる。
【0028】
さらに、上記本発明のタンパク質とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させて融合タンパク質とすることもできる。マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、HRP等の酵素、抗体のFc領域、GFP等の蛍光物質などを具体的に挙げることができ、またペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合タンパク質は、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用した本発明のタンパク質の精製や、本発明のタンパク質の検出や、本発明のタンパク質に対する抗体の定量や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
【0029】
また、本発明のDNAとしては、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質をコードするDNA、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA、配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列又は塩基番号2082〜2459に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA、配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列又は塩基番号2082〜2459の塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNAなどがあげられる。
【0030】
このように、本発明の柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNAは、コードされるタンパク質の機能が損なわれない限り、1又は複数の位置で1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加された、あるいは逆位とされたタンパク質をコードするものであってもよい。
【0031】
このような柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加し、あるいは逆位として塩基配列を改変することによっても取得することができる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている突然変異処理によっても取得することができる。さらに、一般的にタンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードする塩基配列は、種間、株間、変異体、変種間でわずかに異なることが知られているので、実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、納豆菌全般の株、変異体、変種から得ることが可能である。
【0032】
上記「1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列を意味する。
【0033】
また、上記「1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加又は逆位された塩基配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数の塩基が置換、欠失、挿入、付加又は逆位された塩基配列を意味する。なお、本発明において、「置換、欠失、挿入、付加又は逆位」とは、アミノ酸及び塩基のいずれの場合にあっても、「置換、欠失、挿入、付加、逆位から選ばれる少なくともひとつ」を意味する。
【0034】
例えば、これら1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加又は逆位された塩基配列からなるDNA(変異DNA)は、上記のように、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列表の配列番号1又は配列番号3に示される塩基配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤を接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版(Molecular
Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor
Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989)やカレントプロトコールズ・イン・モレキュラーバイオロジー(Current Protocols
in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons (1987−1997))等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加又は逆位されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
【0035】
上記「配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列との相同性が85%以上であれば特に制限されるものではなく、例えば、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上であることを意味する。
【0036】
上記「ストリジェントな条件下」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、50〜70%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である65℃、1×SSC、0.1%SDS、又は0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件を挙げることができる。
【0037】
また、上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」とは、DNA又はRNAなどの核酸をプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍程度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。
【0038】
ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989)等に記載されている方法に準じて行うことができる。例えば、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げることができ、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAを好適に例示することができる。
【0039】
本発明のDNAの取得方法や調製方法は特に限定されるものでなく、本明細書中に開示した配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列情報又は配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いて当該DNAが存在することが予測されるcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的のDNAを単離したり、常法に従って化学合成により調製することができる。
【0040】
例えば、納豆菌から、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、次いで、このライブラリーから、本発明の遺伝子DNAに特有の適当なプローブを用いて所望クローンを選抜することにより、本発明の遺伝子DNAを取得することができる。また、これらの納豆菌からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。本発明のDNAをcDNAライブラリーからスクリーニングする方法は、例えば、モレキュラークローニング第2版に記載の方法等、当業者により常用される方法を挙げることができる。
【0041】
本発明のDNAは、その塩基配列が明らかとなったので、例えば、鋳型として納豆菌r22株のゲノムDNAを用い、該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いるポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR反応)によって、または該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーションによっても得ることができる。なお、染色体DNAは、常法により取得できる。
【0042】
オリゴヌクレオチドの合成は、例えば、市販されている種々のDNA合成機を用いて常法に従って合成できる。また、PCR反応は、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)製のサーマルサイクラーGene Amp PCR System 2400を用い、TaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)やKOD−Plus−(東洋紡績社製)などを使用して常法に従って行なうことができる。
【0043】
本発明のDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸が欠失、置換、挿入、付加又は逆位とされるように塩基配列を改変することによって取得され得る。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている突然変異処理によっても取得することができる。
【0044】
また、一般的にタンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードする塩基配列は、種間、株間、変異体、変種間でわずかに異なることがしられているので、実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、納豆菌の株、変異体、変種から得ることが可能である。
【0045】
具体的には、納豆菌、又は変異処理した納豆菌、これらの自然変異株若しくは変種から、例えば配列表の配列番号1(図1及び図2)に記載の塩基配列のうち塩基番号1937〜2362、もしくは配列表の配列番号3(図4及び図5)に記載の塩基配列のうち塩基番号2082〜2459からなる塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、該タンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。
【0046】
また、上記配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNAや、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質をコードするDNAなどからなる本発明の変異遺伝子又は相同遺伝子としては、配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列又はその一部を有するDNA断片を利用し、他の納豆菌等から、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。その他、前述の変異DNAの作製方法により調製することもできる。
【0047】
例えば、既存の納豆菌、又は変異処理した納豆菌、これらの自然変異株若しくは変種から、例えば配列表の配列番号1に示される塩基配列、又はその一部から作製したプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、該タンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得ることができる。
【0048】
育種の方法のひとつとしては、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子を遺伝子組換えにより増幅し、これらタンパク質の発現を増強させる方法がある。
【0049】
また、このような遺伝子組換え法を納豆菌で利用するには、納豆菌への遺伝子導入のための形質転換系が必要であるが、本発明では、形質転換能が向上した納豆菌を利用した実用的なレベルの形質転換系を利用して該遺伝子破壊用DNAを納豆菌に効率良く導入し、目的の遺伝子欠損株を育種することが出来たのである。
【0050】
また、納豆菌の遺伝子組換え系の一つとしては、ファージベクターを利用した形質導入法(例えば、アプライド・アンド・エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー(Appl. Environ. Microbiol.)、63巻、p.4087〜4089、1997年参照)が既に開発されており、本発明ではこの方法も利用される。
【0051】
また、例えばpHY300PLKなどの多コピー数プラスミドベクターに対して当該遺伝子を連結し、既存のコンピテンス形質転換法(例えば、フェムス・マイクロバイオロジカル・レター(FEMS Microbiol. Lett.)、236巻、p.13〜20、2004年参照)を利用して納豆菌に導入して当該遺伝子を増幅させる方法も有効である。
【0052】
さらに、本発明においては、当該遺伝子の上流域にあるプロモーター領域を、遺伝子組換えや自然変異などによって発現を向上させるように改良することも有効である。
なお、上記のような遺伝子組換え技術以外によっても、すなわち、既に目的遺伝子の発現が増強され、該遺伝子がコードするタンパク質の発現が増強している納豆菌を自然界から選抜するいわゆるスクリーニング法や、薬剤変異法などによってこれらの遺伝子の発現を増強させるなどの、従来から実施されているような他の方法によっても育種が可能である。
【0053】
目的の柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌の取得は、以下のとおりにして実施することが可能である。すなわち、分離納豆菌や育種した納豆菌を含むサンプルを滅菌水等に懸濁し、適当な濃度に希釈した後、標準寒天培地(栄研化学社製)にプレーティングし、37℃で一夜培養し、生じたコロニーを分離する。
さらに、選択したコロニーをSG培地(例えば、特開平10−215861号公報参照)に塗布後、37℃一夜培養し、粘質物を多量につくっており、糸引き性が強いと思われる納豆菌を選択する。
得られたコロニーより、常法に従い胞子液を作成して(例えば、特開平10−215861号公報参照)、納豆製造用の種菌とすることができる。
【0054】
目的の納豆菌の選抜は、以下のようにして実施することが出来る。すなわち、育種、選択した納豆菌を種菌に用いて納豆を製造し、まず糸引き性の弱い納豆しか製造できない納豆菌を除外する。次に、既存の納豆菌バシラス・サチリス r22株(以下、r22株と称する場合もある。)(例えば、特開2000−287676号公報参照)を用いて生産した納豆を対照とし、それよりも柔らかな納豆が製造できる納豆菌を選択することができる。さらに、選択した納豆菌を用いて製造した納豆の品質の評価を行い、硬さ以外の品質指標に関しても優れた納豆菌を選抜することができる。
【0055】
納豆の製造は、常法通り行えばよい。例えば、浸漬した大豆を水切りし、0.18MPaで18分間蒸煮して得た蒸煮大豆1gあたり1000から4000個の胞子を植菌し、40gずつPSPトレーにいれ、薄い被膜で表面を覆い、蓋をした後に、バッチ式納豆発酵室へ入れ、室温37〜42℃、高湿度下で発酵を行う。発酵終了後、熟成させた後、出来上がった納豆の品質を評価する。
【0056】
なお、納豆の硬度は常法(例えば、特開2004−24197号公報参照)に従って測定して確認することができる。
例えば、硬度計としては、直径1.5mmのプランジャーを装着したデジタルホースゲージ(形式:FGC−0.2、日本電産シンポ社製)を、電動式縦型簡易試験スタンド(形式:FGS−50V−L、日本電産シンポ社製)に、プランジャー部を下方にしてセットしたものなどが用いられる。
【0057】
そして、まず測定すべき納豆を15〜25℃に温めた後、豆粒を潰さないように箸で良くほぐし、任意の一粒を上記の電動式縦型簡易試験スタンドの台上におき、その後、該デジタルホースゲージを60mm/分の速度で降下させ、プランジャーで豆粒の中心を突き刺すように押潰す。プランジャーが豆粒底面から1±0.2mmのところまで降下したところで、デジタルホースゲージの降下を停止し、この時の表示値(単位:ニュートン(N)、ピーク値)が記録される。
【0058】
以下、同様にして合計14粒について表示値を計測した後、最上位2つ、及び、最下位2つの表示値を除いた10粒分の表示値の平均をとって、納豆の硬度(N)を求めることができる。
このようにして測定される納豆の好ましい硬度(N)は、0.20〜0.65N程度、より好ましいのは0.40〜0.60N程度のものが望まれる。
硬度が0.20N未満となると納豆は柔らかくなり過ぎてしまい、あまり好まれなくなるし、0.65Nよりも大きいと硬過ぎるので好まれない。
【0059】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、本発明によれば、例えば実施例に記載したように、sofA遺伝子を遺伝子組換え技術によって納豆菌中で増幅し、該遺伝子がコードする柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質の発現を増強して、柔らかい納豆を製造する能力を有する新規納豆菌の育種に成功したものであって、その一つをバシラス・サチルス SOFAH(Bacillus subtilis SOFAH)株と命名した。
【0060】
バシラス・サチルス SOFAH(Bacillus subtilis SOFAH)株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2008年(平成20年)8月20日付けで受領されており、その受領番号はFERM ABP−10996である。
【0061】
また、例えば、sofB遺伝子を遺伝子組換え技術によって納豆菌中で増幅し、該遺伝子がコードする柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質の発現を増強して新規納豆菌の育種に成功したものであって、バシラス・サチルス SOFBH(Bacillus subtilis SOFBH)株と命名した。
【0062】
バシラス・サチルス SOFBH(Bacillus subtilis SOFBH)株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2008年(平成20年)8月20日付けで受領されており、その受領番号はFERM ABP−10997である。
【0063】
このようにして選抜された柔らかい納豆を製造できる優れた納豆菌の納豆生産への利用は、従来から実施されている方法を採用すれば良く、特に制限がない。
例えば、納豆は丸大豆を原料として製造されたいわゆる丸大豆納豆が一般的であるが、一部には予め挽割った大豆を原料とする挽割り納豆もある。
【0064】
丸大豆納豆の製造方法は、原料である丸大豆を冷水に十数時間浸漬した後、蒸煮釜で加圧蒸気を用いて加圧蒸煮(0.15〜0.20MPa)して得られた蒸煮大豆に対して、高温状態(70〜100℃)で納豆菌を接種し混合した後、所定の容器に充填してから発酵室に搬入し、室温37〜42℃で所定時間(15〜20時間程度)発酵させた後、5℃前後で冷蔵熟成(12〜72時間程度)して完成させるのが一般的である。
【0065】
また、挽割り納豆の場合は、予め挽割った大豆を水に浸漬する以外は、通常の丸大豆納豆の場合と同様の方法で製造される。
【0066】
このような従来の納豆の製造方法において、本発明では発酵工程で用いる納豆菌を、前記方法によって選抜した優れた納豆菌に代えて使用することによって製造することができる。このようにして、従来の納豆と比べ柔らかい納豆が製造可能となる。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0068】
(実施例1)
(1)使用菌株等
納豆菌r22株は、市販納豆から分離された親株O−2株の形質転換能を高めた変異株であり、親株O−2株をニトロソグアニジン(NTG)を用いて化学変異処理することにより取得された株である(例えば、特開2000−224982号公報参照)。
【0069】
培地は、納豆試験法(例えば、「納豆試験法」、光琳出版、p.85−97、1990年参照)に記載のLB培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% 塩化ナトリウム)、胞子形成培地(0.068% KH2PO4、0.0535% NH4Cl、0.0106% Na2SO4、0.00006% FeCl2・4H2O、0.00126% MnCl2・4H2O、0.934% MgSO4・7H2O、0.238% グルタミン酸ナトリウム一水和物、0.025% CaCl2、0.152% 酵母エキス、1mg/ml ビオチン)、Spizizenらの形質転換培地(0.5% グルコース、5mM MgSO4・7H2O、0.05% 酵母エキス、0.6% KH2PO4、1.4% K2HPO4、0.1% クエン酸ナトリウム二水和物、0.2% 硫安、0.1μg/ml ビオチン)を用いた。ただし、必要な場合は、スペクチノマイシン(100μg/ml)、テトラサイクリン(10μg/ml)を添加した。
【0070】
スペクチノマイシン耐性遺伝子(GenBank ACCNo.X02588)はそれぞれ、pUC19のマルチクローニングサイトBamHI−XbaI間にクローニングしたものを用いた。テトラサイクリン耐性遺伝子は、大腸菌−枯草菌シャトルベクターpHY300PLK(宝酒造社製)からPCRにより増幅して用いた。
【0071】
(2)候補遺伝子の検索
柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子は、枯草菌には存在せずに、納豆菌固有に存在する遺伝子群の中にあるとの仮定のもとに、納豆菌r22株の全ゲノム配列と、GenBankに登録されているBacillus subtilis str.168株のゲノム配列(登録番号NC000964)とを比較し、その結果合計572個の納豆菌固有の遺伝子を見出した。
【0072】
これらの納豆菌固有の遺伝子群の中から、sofA遺伝子(以下、単にsofAと称する場合もある)及びsofB遺伝子(以下、単にsofBと称する場合もある)と命名した遺伝子を候補遺伝子とし、以下の実験に供した。
【0073】
なお、sofAは配列表の配列番号1(図1及び図2)に示す塩基配列を有し、この内塩基番号1937〜2362にかけて配列表の配列番号2(図3)に示すアミノ酸配列のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームの存在が確認された。
【0074】
GenBank、EMBL、DDBJ、SwissProt、PIR、PRFなどの塩基配列及びアミノ酸配列データベースについてホモロジー検索した結果、sofAはGeobacillus
sp. WCH70のMarR familyに属する転写制御因子であるTrmB遺伝子とアミノ酸配列で78%の相同性を有していることが分かった。
【0075】
MarR familyに属する転写制御因子は、薬剤耐性や酸化ストレス応答に関与するとされているが(例えば、「トレンズ・イン・マイクロバイオロジー(Trends Microbiol.)」、7巻、p.410−413、1999年参照)、Geobacillus
sp. WCH70のTrmB遺伝子が柔らかい納豆を製造する機能に関与していることについては、全く知られていない。
【0076】
sofAも納豆菌の遺伝子の転写を制御する機能を有していることが推定される、納豆菌の柔らかい納豆を製造する機構については全く知られていないことから、sofAがどのような遺伝子の転写を制御しているのかに関しては全く不明である。
【0077】
また、sofBは配列表の配列番号3(図4及び図5)に示す塩基配列を有し、この内塩基番号2082〜2459にかけて配列表の配列番号4(図6)に示すアミノ酸配列のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームの存在が確認された。
【0078】
GenBank、EMBL、DDBJ、SwissProt、PIR、PRFなどの塩基配列、アミノ酸配列データベースについてホモロジー検索した結果、sofBと塩基配列で15%以上、アミノ酸配列で15%以上の相同性を有する遺伝子は検索されず、sofBは納豆菌固有の遺伝子であることが確認された。なお、sofBが納豆を柔らかくする機構においてどのような機能を果たしているかについても、全く不明である。
【0079】
(3)sofA及びsofBの欠損株の調製
以下の方法により、sofA及びsofBのそれぞれを欠損させるための遺伝子欠損用DNA断片を作製し、納豆菌に導入してコンピテンス法により相同組換えを起こさせて、sofA及びsofBそれぞれの欠損株を作製した。
【0080】
i)遺伝子欠損用DNA断片の作製
(A)sofA欠損用DNA断片の調製
以下に記載のごとく、染色体上のsofAをスペクチノマイシン耐性遺伝子と置換してsofAを欠損させるために、sofA欠損用DNA断片を、図27に示すごとく、PCRを組み合わせた以下の方法により構築した。
【0081】
まず、スペクチノマイシン耐性遺伝子を増幅するために、GenBankに登録されている塩基配列(登録番号X02588)を基に、プライマー1(5´−GCGGCCGCGTATAATAAAGAATAATTATTAATCTGTAG−3´、配列表の配列番号5及び図7参照)及びプライマー2(5´−CTCGAGTAAATTAAAGTAATAAAGCGTTCTC−3´、配列表の配列番号6及び図8参照)の2種のオリゴDNAを調製し、これらプライマーを用いて、pUC19のマルチクローニングサイトBamHI−XbaI間にスペクチノマイシン耐性遺伝子をクローニングしたものを鋳型にし、PCRにより増幅した。
【0082】
また、sofAの上流を増幅するためにプライマー3(5´−TTGCTCATTCGTCGCATTATC−3´、配列表の配列番号7及び図9参照)及びプライマー4(5´−CTACAGATTAATAATTATTCTTTATTATACGCGGCCGCTGCTGCATAATCCGTATTGCC−3´、配列表の配列番号8及び図10参照)の2種のオリゴDNAを調製した。
さらに、sofAの下流を増幅するためにプライマー5(5´−GAAATTAGAGAACGCTTTATTACTTTAATTTACTCGAGGTAGGGAAGCTAAACAATGGC−3´、配列表の配列番号9及び図11参照)及びプライマー6(5´−CAAGCGGATTTCGTTCATAGG−3´、配列表の配列番号10及び図12参照)の2種のオリゴDNAを調製した。
【0083】
これらをプライマーとして、またr22株の全DNAを鋳型に用いて、常法どおりPCRを行い、スペクチノマイシン耐性遺伝子の増幅断片の5´末端37塩基(下線部)と相補する塩基配列を3´側に有するsofAの上流部分及びスペクチノマイシン耐性遺伝子の増幅断片の3´末端38塩基(下線部)と相補する塩基配列を5´側に有するsofAの下流部分の断片を増幅した。
【0084】
次に、プライマー3及びプライマー6の2種のプライマーを用いて、sofAの上流部分、下流部分及びスペクチノマイシン耐性遺伝子の増幅断片の混合物を鋳型としてPCRを行った。得られたPCR産物をアガロース電気泳動して生じたバンドのうち、約5kbのバンドをアガロースから回収した。
【0085】
PCR産物の内部配列を基に、プライマー7(5´−CGACCTCCATGTAGACGGTTG−3´、配列表の配列番号11及び図13参照)及びプライマー8(5´−GGCAAGCAGCTCGATATCTCC−3´、配列表の配列番号12及び図14参照)の2種のオリゴDNAを調製し、これらのプライマーを用いて、上記の回収したDNAを鋳型として、PCRにより増幅した。得られたPCR産物をsofA欠損用DNA断片として、形質転換に用いた。
【0086】
(B)sofB欠損用DNA断片の調製
以下に記載のごとく、染色体上のsofAをスペクチノマイシン耐性遺伝子と置換してsofBを欠損させるために、sofB欠損用DNA断片を、図28に示すごとく、PCRを組み合わせた以下の方法により構築した。
【0087】
まず、テトラサイクリン耐性遺伝子を増幅するために、GenBankに登録されている塩基配列(登録番号D00946)を基に、プライマー9(5´−TAAAGAATAATTATTAATCTGTAGCTGTTATAAAAAAAGGATCAA−3´、配列表の配列番号13及び図15参照)及びプライマー10(5´−AGTAATAAAGCGTTCTCTAATTTCTATTATTGCAATGTGGAATTG−3´、配列表の配列番号14及び図16参照)の2種のオリゴDNAを調製し、これらのプライマーを用いて、大腸菌−枯草菌シャトルベクターpHY300PLKを鋳型にし、PCRにより増幅した。
【0088】
また、sofBの上流を増幅するためにプライマー11(5´−TCCAAAAGAGGCCTGTCATAC−3´、配列表の配列番号15及び図17参照)及びプライマー12(5´−TACAGATTAATAATTATTCTTTATTATACGCGGCCGCCCACCCTTCTGATTACGTATTG−3´、配列表の配列番号16及び図18参照)の2種のオリゴDNAを調製した。
さらに、sofBの下流を増幅するためにプライマー13(5´−GAAATTAGAGAACGCTTTATTACTTTAATTTACTCGAGTCCTTTGCCATTTCCTCCGTC−3´、配列表の配列番号17及び図19参照)及びプライマー14(5´−TGGGATGATCTAACCGAAGGC−3´、配列表の配列番号18及び図20参照)の2種のオリゴDNAを調製した。
【0089】
これらをプライマーとして、またr22株の全DNAを鋳型に用いて、常法どおりPCRを行い、テトラサイクリン耐性遺伝子の増幅断片の5´末端23塩基(下線部)と相補する塩基配列を3´側に有するsofBの上流部分及びテトラサイクリン耐性遺伝子の増幅断片の3´末端24塩基(下線部)と相補する塩基配列を5´側に有するsofBの下流部分の断片を増幅した。
【0090】
次に、プライマー11及びプライマー14の2種のプライマーを用いて、sofBの上流部分、下流部分及びテトラサイクリン耐性遺伝子の増幅断片の混合物を鋳型としてPCRを行った。得られたPCR産物をアガロース電気泳動して生じたバンドのうち、約5.5kbのバンドをアガロースから回収した。
【0091】
PCR産物の内部配列を基に、プライマー15(5´−TCCCCATTAAAATCACCTTGC−3´、配列表の配列番号19及び図21参照)及びプライマー16(5´−AGACGCCTGCGGACACTAATC−3´、配列表の配列番号20及び図22参照)の2種のオリゴDNAを調製し、これらプライマーを用いて、上記の回収したDNAを鋳型として、PCRにより増幅した。得られたPCR産物をsofA欠損用DNA断片として、形質転換に用いた。
【0092】
ii)形質転換
PCRにより得たDNA断片を用いて、Spizizenらの形質転換培地を用いたコンピテンス法によりr22株を形質転換した。形質転換株の選択は、sofAを欠損させた株を取得する場合はスペクチノマイシン耐性を指標とし、また、sofBを欠損させた株を取得する場合はテトラサイクリン耐性を指標に行った。
【0093】
多数得られたスペクチノマイシン耐性の形質転換株、及びテトラサイクリン耐性の形質転換株のうち、それぞれ8株ずつを選択した。LB培地で37℃、120rpmで終夜培養した後にゲノムDNAを回収し、プライマー7及びプライマー8、またはプライマー15及びプライマー16を用いてPCRにより増幅し、適当な制限酵素で処理した後の切断パターンから、sofA遺伝子及びsofB遺伝子が欠損していることを確認した。
そのうちのそれぞれ1株ずつを選択し、ΔSOFA株及びΔSOFB株と命名した。
【0094】
(3)納豆試作・柔らかさの評価
上記のごとくにして取得したΔSOFA株とΔSOFB株について、それぞれ常法により胞子形成培地を用いて胞子液を作製し、常法に従い納豆を製造した後、納豆の品質及び納豆の硬さについて評価した。納豆の評価に際しては、同じ蒸煮条件、発酵条件でr22株を用いて製造した納豆を対照とした。
ΔSOFA株およびΔSOFB株を用いて製造した納豆の品質は、専門のパネラーによる官能検査の結果、外観、糸引きの強さ、ともに、r22株を用いて製造した対照と同等のものであった。
【0095】
次に、納豆の硬さを硬度計で測定した。
すなわち、硬度計は、直径1.5mmのプランジャーを装着したデジタルホースゲージ(形式:FGC−0.2、日本電産シンポ社製)を、電動式縦型簡易試験スタンド(形式:FGS−50V−L、日本電産シンポ社製)に、プランジャー部を下方にしてセットしたものを用いた。
そして、まず測定すべき納豆を15〜25℃に温めた後、豆粒を潰さないように箸で良くほぐし、任意の一粒を上記の電動式縦型簡易試験スタンドの台上においた。
その後、該デジタルホースゲージを60mm/分の速度で降下させ、プランジャーで豆粒の中心を突き刺すように押潰した。プランジャーが豆粒底面から1±0.2mmのところまで降下したところで、デジタルホースゲージの降下を停止し、この時の表示値(単位:ニュートン(N)、ピーク値)を記録した。
【0096】
以下、同様にして合計14粒について表示値を計測した後、最上位2つ、及び、最下位2つの表示値を除いた10粒分の表示値の平均をとって、納豆の硬度(N)を求めた。表1に硬度(N)を示す。
【0097】
【表1】
【0098】
ΔSOFA株やΔSOFB株で納豆を製造すると、r22株で製造した場合に比べて、硬い納豆が製造できた。
ΔSOFA株やΔSOFB株は、それぞれsofAやsofBが欠損した納豆菌であり、従って、sofA及びsofBは、それぞれ柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子であると推定された。
【0099】
(実施例2)
(1)使用菌株等
大腸菌DH5α、大腸菌ベクターpT7Blue、枯草菌ベクターpHY300PLKは宝酒造社製を用いた。
【0100】
(2)sofA増強株の調製
sofA増強株は、sofA全長の約430塩基及びその上流の約120塩基を保有するベクターを構築し、該ベクターを以下の方法で納豆菌に導入して作製した。
【0101】
i)ベクター構築
プライマー17(5´−GCTCTAGAGATGGAAAGCATCCAATGGG−3´、配列表の配列番号21及び図23参照)及びプライマー18(5´−CGCGGATCCTTATTAAAACTGCCATTGTTTAGC−3´、配列表の配列番号22及び図24参照)の2種のオリゴDNAを調製した後、これらをプライマーとして用い、r22株の全DNAを鋳型に用いて、常法どおりPCRを行い、sofAのオープンリーディングフレーム全長(426塩基)及びその上流域(124塩基)を増幅すると共に、下線部で示した位置に制限酵素XbaI及びBamHIの認識サイトをそれぞれ導入した。
この増幅したDNAをクローニングベクターpT7Blueにクローニングし、pSOFA1を得た。pSOFA1を制限酵素XbaI及びBamHIで切断後、アガロース電気泳動して生じた2本のバンドのうち、短いほうのバンド(約500塩基)をアガロースから回収し、XbaI及びBamHIで切断した枯草菌の多コピー数ベクターであるpHY300PLKに挿入した。得られたプラスミドをpSOFA2と命名し、以下の実験に供した。
【0102】
ii)形質転換
大腸菌DH5αを宿主として用いて調製したプラスミドpSOFA2を用いて、納豆菌r22株を、常法どおりプロトプラスト法により形質転換した。
形質転換株の選択は、テトラサイクリン耐性を指標に行った。複数得られた形質転換株からプラスミドを回収してpSOFA2が保持されていることを確認し、これらのうちの1株をSOFAH株とした。
【0103】
SOFAH株をテトラサイクリンを含むLB培地で30℃、150rpmでOD660が0.4となるまで培養した後に、常法どおりプラスミドを回収し、制限酵素BamHIで切断後、260及び280nmの各波長の吸光度から核酸濃度、純度を測定し、pSOFA2が多コピー存在することを確認した。
【0104】
SOFAH株及びr22株をテトラサイクリンを含む、又は含まないLB培地で37℃、150rpmでOD660が0.4となるまで培養した後に、常法どおりRNAを抽出した後、sofAの内部配列をターゲットとするRT−PCRを行い、電気泳動時のバンド強度を比較することにより、SOFAH株がr22株に比べてsofAを高発現していることを確認した。
【0105】
ここに得られたSOFAH株を、バシラス・サチリスSOFAH(Bacillus subtilis SOFAH)株と命名し、FERM ABP−10996として、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託した。
なお、プラスミドpHY300PLKを用いて、同様に、r22株の形質転換を行い、得られた1株をpHY300PLK/r22株とした。
【0106】
(3)納豆試作・柔らかさの評価
上記のSOFAH株及びpHY300PLK/r22株について、それぞれ胞子形成培地を用いて胞子液を作製し、常法に従い納豆を製造した。SOFAH株を用いて製造した納豆の品質は、専門のパネラーによる官能検査の結果、外観、糸引きの強さ、ともに、pHY300PLK/r22株を用いて作製した対照と同等のものであった
【0107】
SOFAH株が納豆発酵中にプラスミドpSOFA2を保持していることは、以下の方法で確認した。すなわち、発酵中の納豆に0.85%滅菌食塩水を加えて懸濁した液を適当に希釈し、LB寒天プレート及びテトラサイクリンを含むLB寒天プレート上に塗布して、37℃で終夜培養した後にコロニー数が両プレートでほぼ同数であることを確認した。
【0108】
次に、納豆の硬さを実施例1と同様にして測定した。納豆の評価に際しては、同じ条件で蒸煮した発酵前の煮豆、及び同じ蒸煮条件、発酵条件でpHY300PLK/r22株を用いて製造した納豆を対照とした。表2に硬度を示す。
【0109】
【表2】
【0110】
SOFAH株で煮豆を発酵すると、r22株で製造した場合に比べ、柔らかい納豆が製造できた。このことから、sofA遺伝子のコピー数を増大させて、sofAがコードするタンパク質の発現を増強させることにより、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌を育種できることが確認された。
【0111】
(実施例3)
(1)sofB増強株の調製
sofB増強株は、sofB全長の約380塩基、その上流の約570塩基、及びその下流の約140塩基を保有するベクターを構築し、該ベクターを以下の方法で納豆菌に導入して作製した。
【0112】
i)ベクター構築
プライマー19(5´−GCTCTAGATTTAGGGATATTGGTTCAAAAC−3´、配列表の配列番号23及び図25参照)及びプライマー20(5´−TCCCCCGGGACACTCCCAAAAACATAAATATTA−3´、配列表の配列番号24及び図26参照)の2種のオリゴDNAを調製した後、これらをプライマーとして用い、r22株の全DNAを鋳型に用いて、常法どおりPCRを行い、sofBのオープンリーディングフレーム全長(384塩基)、その上流域(569塩基)、及びその下流域(144塩基)を増幅すると共に、下線部で示した位置に制限酵素XbaI及びSmaIの認識サイトをそれぞれ導入した。
【0113】
この増幅したDNAをクローニングベクターpT7Blueにクローニングし、pSOFB1を得た。pSOFB1を制限酵素XbaI及びSmaIで切断後、アガロース電気泳動して生じた2本のバンドのうち、短いほうのバンド(約1100塩基)をアガロースから回収し、XbaI及びSmaIで切断した枯草菌の多コピー数ベクターであるpHY300PLKに挿入した。得られたプラスミドをpSOFB2と命名し、以下の実験に供した。
【0114】
ii)形質転換
大腸菌DH5αを宿主として用いて調製したプラスミドpSOFB2を、納豆菌r22株に、常法どおりプロトプラスト法により形質転換した。形質転換株の選択は、テトラサイクリン耐性を指標に行った。複数得られた形質転換株からプラスミドを回収してpSOFB2が保持されていることを確認し、これらのうちの1株をSOFBH株とした。
【0115】
SOFBH株をテトラサイクリンを含むLB培地で30℃、150spmでOD660が0.4となるまで培養した後に、常法どおりプラスミドを回収し、制限酵素SmaIで切断後、260及び280nmの各波長の吸光度から核酸濃度、純度を測定し、pSOFB2が多コピー存在することを確認した。
【0116】
SOFBH株及びr22株をテトラサイクリンを含む、又は含まないLB培地で37℃、150spmでOD660が0.4となるまで培養した後に、常法どおりRNAを抽出した後、sofBの内部配列をターゲットとするRT−PCRを行い、電気泳動時のバンド強度を比較することにより、SOFBH株がr22株に比べてsofBを高発現していることを確認した。
【0117】
ここに得られたSOFBH株を、バシラス・サチリスSOFBH(Bacillus subtilis SOFBH)株と命名し、FERM ABP−10997として、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託した。
【0118】
(3)納豆試作・柔らかさの評価
上記のSOFBH株及びpHY300PLK/r22株について、それぞれ胞子形成培地を用いて胞子液を作製し、常法に従い納豆を製造した。SOFBH株を用いて製造した納豆の品質は、専門のパネラーによる官能検査の結果、外観、糸引きの強さ、ともに、pHY300PLK/r22株を用いて作製した対照と同等のものであった。
【0119】
SOFBH株が納豆発酵中にプラスミドpSOFB2を保持していることは、以下の方法で確認した。すなわち、発酵中の納豆に0.85%滅菌食塩水を加えて懸濁した液を適当に希釈し、LB寒天プレート及びテトラサイクリンを含むLB寒天プレート上に塗布して、37℃で終夜培養した後にコロニー数が両プレートでほぼ同数であることを確認した。
【0120】
次に、納豆の硬さを実施例1と同様にして測定した。納豆の評価に際しては、同じ条件で蒸煮した発酵前の煮豆、及び同じ蒸煮条件、発酵条件でpHY300PLK/r22株を用いて製造した納豆を対照とした。表3に硬度を示す。
【0121】
【表3】
【0122】
SOFBH株で煮豆を発酵すると、r22株で製造した場合に比べ、柔らかい納豆が製造できた。このことから、sofB遺伝子のコピー数を増大させて、sofBがコードするタンパク質の発現を増強させることにより、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌を育種できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】sofA遺伝子を含む領域の塩基配列を示す図である。
【図2】図1に続く塩基配列を示す図である。
【図3】sofA遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図4】sofB遺伝子を含む領域の塩基配列を示す図である。
【図5】図4に続く塩基配列を示す図である。
【図6】sofB遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図7】プライマー1の塩基配列を示す図である。
【図8】プライマー2の塩基配列を示す図である。
【図9】プライマー3の塩基配列を示す図である。
【図10】プライマー4の塩基配列を示す図である。
【図11】プライマー5の塩基配列を示す図である。
【図12】プライマー6の塩基配列を示す図である。
【図13】プライマー7の塩基配列を示す図である。
【図14】プライマー8の塩基配列を示す図である。
【図15】プライマー9の塩基配列を示す図である。
【図16】プライマー10の塩基配列を示す図である。
【図17】プライマー11の塩基配列を示す図である。
【図18】プライマー12の塩基配列を示す図である。
【図19】プライマー13の塩基配列を示す図である。
【図20】プライマー14の塩基配列を示す図である。
【図21】プライマー15の塩基配列を示す図である。
【図22】プライマー16の塩基配列を示す図である。
【図23】プライマー17の塩基配列を示す図である。
【図24】プライマー18の塩基配列を示す図である。
【図25】プライマー19の塩基配列を示す図である。
【図26】プライマー20の塩基配列を示す図である。
【図27】sofA遺伝子欠損用DNA断片調製の概略を示す図である。
【図28】sofB遺伝子欠損用DNA断片調製の概略を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規納豆菌、及び該納豆菌を用いて製造された柔らかい納豆に関し、さらに詳細には、発酵の進行に伴い納豆を柔らかくする機能に関与する遺伝子、該遺伝子を用いた納豆菌の育種方法、該育種方法により育種された納豆菌、及び該納豆菌を用いて製造された柔らかい納豆に関する。
【背景技術】
【0002】
納豆は、大豆の煮豆を原料とし、納豆菌の発酵によって生産される伝統食品である。
納豆の品質の良し悪しを規定する因子の一つとして、硬さ(柔らかさ)があり、近年では柔らかい納豆が好まれる傾向がある。
【0003】
柔らかい納豆を製造するために、例えば、柔らかく煮上がる特性を有する大豆を選別して用いたり、大豆の蒸煮強度を強めて柔らかく煮上げた煮豆を用いたりして、柔らかい納豆を製造しようとする試みが行われているが、柔らかく煮上がる特性を有する大豆を安定して調達することが難しかったり、大豆の蒸煮強度を強めた場合は豆色が黒くなりかえって品質低下をきたすなどの問題があった。
【0004】
このような中で、他の発酵性能は従来の納豆菌と遜色がなく、かつ、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌が取得できれば、糸引性、旨み、色調、香りなどの他の特性は遜色のない柔らかい納豆を安定して製造できることが期待できる。
このような柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌については、中国のドウチから分離したバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)KFP843株などが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
このような納豆菌を用いて納豆を製造すれば柔らかい納豆は製造可能であるが、一方、納豆は発酵に用いた納豆菌の特性に応じて品質が著しく変化することが知られており、例えば、上記のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)KFP843株を用いて製造された納豆は糸引性が悪いことが知られている。
柔らかさ以外の品質は、従来の納豆菌を用いて製造された納豆と全く変わらない納豆を製造するには、従来から使用されてきた納豆菌を柔らかい納豆を製造できる能力を有するように改良することが望ましいと考えられる。
【0006】
しかし、従来から使用されて来た納豆菌を柔らかい納豆を製造できる能力を有するように改良する方法については全く不明であり、例えば、柔らかい納豆を製造する機能や、該機能に関与する遺伝子などについても、解明する必要があった。
【非特許文献1】日本食品科学工学会誌、52巻、10号、p.454−461、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の納豆菌を、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌に育種改良するために、柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子を見出し、該遺伝子を用いて従来の納豆菌を柔らかい納豆を製造する能力を有するように改良する方法及び該方法によって育種された柔らかい納豆を製造する納豆菌を提供し、該納豆菌を用いた柔らかい納豆の製造方法、及び該製造方法により製造された柔らかい納豆を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子を、通常の納豆菌中に見出した。
【0009】
具体的には、本発明者は、納豆菌の類縁菌である枯草菌168株のゲノムには存在せず、納豆菌にのみ存在する遺伝子群を解析し、これらの遺伝子群の中から、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードする2種類の遺伝子を見出すことができ、該遺伝子を、それぞれ、sofA遺伝子(以下、sofAと称する場合もある)及びsofB遺伝子(以下、sofBと称する場合もある)と命名した。
【0010】
そして、これらの遺伝子を納豆菌中で増幅し、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質を増強させることによって、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌を開発することが可能であることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質。
(A)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能、発酵が進むに従い納豆を柔らかくする機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(2)以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(3)以下の(A)、(B)、(C)又は(D)に示されるDNA。
(A)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列からなるDNA。
(B)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(C)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(D)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされた塩基配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(4)以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質。
(A)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(5)以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(6)以下の(A)、(B)、(C)又は(D)に示されるDNA。
(A)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列からなるDNA。
(B)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(C)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(D)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされた塩基配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
【0012】
(7)柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子がコードするタンパク質の機能を増強させることを特徴とするバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
(8)柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子が上記(2)又は(3)に記載の遺伝子であることを特徴とする上記(7)に記載のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
(9)柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子が上記(5)又は(6)に記載の遺伝子であることを特徴とする上記(7)に記載のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
(10)上記(7)〜(9)のいずれか1つに記載の方法により育種されたことを特徴とする柔らかい納豆を製造する機能が増強されたバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌。
(11)バシラス・サチリスSOFAH(Bacillus subtilis SOFAH)株(FERM ABP−10996)であることを特徴とする上記(10)に記載の納豆菌。
(12)バシラス・サチリスSOFBH(Bacillus subtilis SOFBH)株(FERM ABP−10997)であることを特徴とする上記(10)に記載の納豆菌。
(13)上記(10)〜(12)のいずれか1つに記載の納豆菌を用いることを特徴とする納豆の製造方法。
(14)上記(13)に記載の納豆の製造方法により製造されたことを特徴とする柔らかい納豆。
(15)上記(13)に記載の納豆の製造方法により製造され、硬度が0.20〜0.65Nであることを特徴とする上記(14)に記載の柔らかい納豆。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌が提供され、その納豆菌を用いて納豆を生産することにより、柔らかい納豆の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いる納豆菌には特に制限はないが、通常納豆工業で使用されている発酵能力に優れた納豆菌や、自然界から分離取得された納豆菌、およびさらに改良を重ねた、優れた納豆菌を用いるのが望ましい。
【0015】
納豆菌は、枯草菌バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に分類されているが、粘質物(糸引物質)などの納豆としての特徴をつくり出すことができ、納豆発酵での主体をなす細菌であって、また生育にビオチンを要求するとされるなどの特性を有していることなどから、バシラス・ナットウ(Bacillus natto)として分類されたり、枯草菌の変種としてBacillus subtilis var. nattoあるいはBacillus subtilis(natto)などと、枯草菌と区別して分類する場合もある。
【0016】
納豆菌としては、Bacillus natto IFO3009株、Bacillus subtilis IFO3335株、同IFO3336株、同IFO3936株、同IFO13169株などがあるほか、各種の納豆菌が広く使用できる。
【0017】
具体的には、市販納豆から分離したO−2株や該株の形質転換効率向上性変異株であるr22株(例えば、特開2000−224982号公報参照)が挙げられ、また市販の納豆種菌である高橋菌(T3株、東京農業大学菌株保存室)や宮城野菌(宮城野納豆製作所)など各種の納豆菌が適宜使用可能である。
【0018】
本発明のタンパク質としては、柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子がコードするタンパク質である。具体的には、配列表の配列番号2(図3)に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質があげられ、さらに配列表の配列番号2(図3)に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質に関する。
【0019】
また、配列表の配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質があげられ、さらに配列表の配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質に関する。
【0020】
本発明のタンパク質の取得・調製方法は特に限定されず、天然由来のタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組換え技術により作製した組み換えタンパク質の何れでもよい。天然由来のタンパク質を取得する場合には、かかるタンパク質を発現している細胞からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせて本発明のタンパク質を取得することができる。
【0021】
化学合成により本発明のタンパク質を調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明のタンパク質を合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質を合成することもできる。
【0022】
また、遺伝子組換え技術により本発明のタンパク質を調製する場合には、該タンパク質をコードする塩基配列からなるDNAを好適な発現系に導入することにより本発明のタンパク質を調製することができる。
【0023】
これらの中でも、比較的容易な操作でかつ大量に調製することが可能な遺伝子組換え技術による調製が好ましい。なお、遺伝子組換え技術によって本発明のタンパク質を調製する場合に、かかるタンパク質を細胞培養物から回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出を行った後、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法が用いられ、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーが用いられる。
【0024】
特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体等の抗体を結合させたカラムや、上記本発明のタンパク質に通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、これらのタンパク質の精製物を得ることができる。
【0025】
さらに、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなるタンパク質、又は、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を例示した配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列の情報に基づいて当業者であれば適宜調製又は取得することができる。
【0026】
例えば、配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いるポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR反応)によって、あるいは該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーションによって、バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。このホモログDNAの全長DNAをクローニング後、発現ベクターに組み込み適当な宿主で発現させることにより、該ホモログDNAによりコードされるタンパク質を製造することができる。
【0027】
オリゴヌクレオチドの合成は、例えば、市販されている種々のDNA合成機を用いて常法に従って合成できる。また、PCR反応は、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)製のサーマルサイクラーGene Amp PCR System 2400を用い、TaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)やKOD−Plus−(東洋紡績社製)などを使用して、常法に従って行うことができる。
【0028】
さらに、上記本発明のタンパク質とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させて融合タンパク質とすることもできる。マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、HRP等の酵素、抗体のFc領域、GFP等の蛍光物質などを具体的に挙げることができ、またペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合タンパク質は、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用した本発明のタンパク質の精製や、本発明のタンパク質の検出や、本発明のタンパク質に対する抗体の定量や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
【0029】
また、本発明のDNAとしては、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質をコードするDNA、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA、配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列又は塩基番号2082〜2459に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA、配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列又は塩基番号2082〜2459の塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNAなどがあげられる。
【0030】
このように、本発明の柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNAは、コードされるタンパク質の機能が損なわれない限り、1又は複数の位置で1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加された、あるいは逆位とされたタンパク質をコードするものであってもよい。
【0031】
このような柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加し、あるいは逆位として塩基配列を改変することによっても取得することができる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている突然変異処理によっても取得することができる。さらに、一般的にタンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードする塩基配列は、種間、株間、変異体、変種間でわずかに異なることが知られているので、実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、納豆菌全般の株、変異体、変種から得ることが可能である。
【0032】
上記「1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列を意味する。
【0033】
また、上記「1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加又は逆位された塩基配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数の塩基が置換、欠失、挿入、付加又は逆位された塩基配列を意味する。なお、本発明において、「置換、欠失、挿入、付加又は逆位」とは、アミノ酸及び塩基のいずれの場合にあっても、「置換、欠失、挿入、付加、逆位から選ばれる少なくともひとつ」を意味する。
【0034】
例えば、これら1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加又は逆位された塩基配列からなるDNA(変異DNA)は、上記のように、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列表の配列番号1又は配列番号3に示される塩基配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤を接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版(Molecular
Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor
Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989)やカレントプロトコールズ・イン・モレキュラーバイオロジー(Current Protocols
in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons (1987−1997))等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加又は逆位されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
【0035】
上記「配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列との相同性が85%以上であれば特に制限されるものではなく、例えば、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上であることを意味する。
【0036】
上記「ストリジェントな条件下」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、50〜70%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である65℃、1×SSC、0.1%SDS、又は0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件を挙げることができる。
【0037】
また、上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」とは、DNA又はRNAなどの核酸をプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍程度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。
【0038】
ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989)等に記載されている方法に準じて行うことができる。例えば、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げることができ、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAを好適に例示することができる。
【0039】
本発明のDNAの取得方法や調製方法は特に限定されるものでなく、本明細書中に開示した配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列情報又は配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いて当該DNAが存在することが予測されるcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的のDNAを単離したり、常法に従って化学合成により調製することができる。
【0040】
例えば、納豆菌から、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、次いで、このライブラリーから、本発明の遺伝子DNAに特有の適当なプローブを用いて所望クローンを選抜することにより、本発明の遺伝子DNAを取得することができる。また、これらの納豆菌からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。本発明のDNAをcDNAライブラリーからスクリーニングする方法は、例えば、モレキュラークローニング第2版に記載の方法等、当業者により常用される方法を挙げることができる。
【0041】
本発明のDNAは、その塩基配列が明らかとなったので、例えば、鋳型として納豆菌r22株のゲノムDNAを用い、該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いるポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR反応)によって、または該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーションによっても得ることができる。なお、染色体DNAは、常法により取得できる。
【0042】
オリゴヌクレオチドの合成は、例えば、市販されている種々のDNA合成機を用いて常法に従って合成できる。また、PCR反応は、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)製のサーマルサイクラーGene Amp PCR System 2400を用い、TaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)やKOD−Plus−(東洋紡績社製)などを使用して常法に従って行なうことができる。
【0043】
本発明のDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸が欠失、置換、挿入、付加又は逆位とされるように塩基配列を改変することによって取得され得る。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている突然変異処理によっても取得することができる。
【0044】
また、一般的にタンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードする塩基配列は、種間、株間、変異体、変種間でわずかに異なることがしられているので、実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、納豆菌の株、変異体、変種から得ることが可能である。
【0045】
具体的には、納豆菌、又は変異処理した納豆菌、これらの自然変異株若しくは変種から、例えば配列表の配列番号1(図1及び図2)に記載の塩基配列のうち塩基番号1937〜2362、もしくは配列表の配列番号3(図4及び図5)に記載の塩基配列のうち塩基番号2082〜2459からなる塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、該タンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。
【0046】
また、上記配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNAや、配列表の配列番号2(図3)又は配列番号4(図6)に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質をコードするDNAなどからなる本発明の変異遺伝子又は相同遺伝子としては、配列表の配列番号1(図1及び図2)又は配列番号3(図4及び図5)に示される塩基配列又はその一部を有するDNA断片を利用し、他の納豆菌等から、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。その他、前述の変異DNAの作製方法により調製することもできる。
【0047】
例えば、既存の納豆菌、又は変異処理した納豆菌、これらの自然変異株若しくは変種から、例えば配列表の配列番号1に示される塩基配列、又はその一部から作製したプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、該タンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得ることができる。
【0048】
育種の方法のひとつとしては、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子を遺伝子組換えにより増幅し、これらタンパク質の発現を増強させる方法がある。
【0049】
また、このような遺伝子組換え法を納豆菌で利用するには、納豆菌への遺伝子導入のための形質転換系が必要であるが、本発明では、形質転換能が向上した納豆菌を利用した実用的なレベルの形質転換系を利用して該遺伝子破壊用DNAを納豆菌に効率良く導入し、目的の遺伝子欠損株を育種することが出来たのである。
【0050】
また、納豆菌の遺伝子組換え系の一つとしては、ファージベクターを利用した形質導入法(例えば、アプライド・アンド・エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー(Appl. Environ. Microbiol.)、63巻、p.4087〜4089、1997年参照)が既に開発されており、本発明ではこの方法も利用される。
【0051】
また、例えばpHY300PLKなどの多コピー数プラスミドベクターに対して当該遺伝子を連結し、既存のコンピテンス形質転換法(例えば、フェムス・マイクロバイオロジカル・レター(FEMS Microbiol. Lett.)、236巻、p.13〜20、2004年参照)を利用して納豆菌に導入して当該遺伝子を増幅させる方法も有効である。
【0052】
さらに、本発明においては、当該遺伝子の上流域にあるプロモーター領域を、遺伝子組換えや自然変異などによって発現を向上させるように改良することも有効である。
なお、上記のような遺伝子組換え技術以外によっても、すなわち、既に目的遺伝子の発現が増強され、該遺伝子がコードするタンパク質の発現が増強している納豆菌を自然界から選抜するいわゆるスクリーニング法や、薬剤変異法などによってこれらの遺伝子の発現を増強させるなどの、従来から実施されているような他の方法によっても育種が可能である。
【0053】
目的の柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌の取得は、以下のとおりにして実施することが可能である。すなわち、分離納豆菌や育種した納豆菌を含むサンプルを滅菌水等に懸濁し、適当な濃度に希釈した後、標準寒天培地(栄研化学社製)にプレーティングし、37℃で一夜培養し、生じたコロニーを分離する。
さらに、選択したコロニーをSG培地(例えば、特開平10−215861号公報参照)に塗布後、37℃一夜培養し、粘質物を多量につくっており、糸引き性が強いと思われる納豆菌を選択する。
得られたコロニーより、常法に従い胞子液を作成して(例えば、特開平10−215861号公報参照)、納豆製造用の種菌とすることができる。
【0054】
目的の納豆菌の選抜は、以下のようにして実施することが出来る。すなわち、育種、選択した納豆菌を種菌に用いて納豆を製造し、まず糸引き性の弱い納豆しか製造できない納豆菌を除外する。次に、既存の納豆菌バシラス・サチリス r22株(以下、r22株と称する場合もある。)(例えば、特開2000−287676号公報参照)を用いて生産した納豆を対照とし、それよりも柔らかな納豆が製造できる納豆菌を選択することができる。さらに、選択した納豆菌を用いて製造した納豆の品質の評価を行い、硬さ以外の品質指標に関しても優れた納豆菌を選抜することができる。
【0055】
納豆の製造は、常法通り行えばよい。例えば、浸漬した大豆を水切りし、0.18MPaで18分間蒸煮して得た蒸煮大豆1gあたり1000から4000個の胞子を植菌し、40gずつPSPトレーにいれ、薄い被膜で表面を覆い、蓋をした後に、バッチ式納豆発酵室へ入れ、室温37〜42℃、高湿度下で発酵を行う。発酵終了後、熟成させた後、出来上がった納豆の品質を評価する。
【0056】
なお、納豆の硬度は常法(例えば、特開2004−24197号公報参照)に従って測定して確認することができる。
例えば、硬度計としては、直径1.5mmのプランジャーを装着したデジタルホースゲージ(形式:FGC−0.2、日本電産シンポ社製)を、電動式縦型簡易試験スタンド(形式:FGS−50V−L、日本電産シンポ社製)に、プランジャー部を下方にしてセットしたものなどが用いられる。
【0057】
そして、まず測定すべき納豆を15〜25℃に温めた後、豆粒を潰さないように箸で良くほぐし、任意の一粒を上記の電動式縦型簡易試験スタンドの台上におき、その後、該デジタルホースゲージを60mm/分の速度で降下させ、プランジャーで豆粒の中心を突き刺すように押潰す。プランジャーが豆粒底面から1±0.2mmのところまで降下したところで、デジタルホースゲージの降下を停止し、この時の表示値(単位:ニュートン(N)、ピーク値)が記録される。
【0058】
以下、同様にして合計14粒について表示値を計測した後、最上位2つ、及び、最下位2つの表示値を除いた10粒分の表示値の平均をとって、納豆の硬度(N)を求めることができる。
このようにして測定される納豆の好ましい硬度(N)は、0.20〜0.65N程度、より好ましいのは0.40〜0.60N程度のものが望まれる。
硬度が0.20N未満となると納豆は柔らかくなり過ぎてしまい、あまり好まれなくなるし、0.65Nよりも大きいと硬過ぎるので好まれない。
【0059】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、本発明によれば、例えば実施例に記載したように、sofA遺伝子を遺伝子組換え技術によって納豆菌中で増幅し、該遺伝子がコードする柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質の発現を増強して、柔らかい納豆を製造する能力を有する新規納豆菌の育種に成功したものであって、その一つをバシラス・サチルス SOFAH(Bacillus subtilis SOFAH)株と命名した。
【0060】
バシラス・サチルス SOFAH(Bacillus subtilis SOFAH)株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2008年(平成20年)8月20日付けで受領されており、その受領番号はFERM ABP−10996である。
【0061】
また、例えば、sofB遺伝子を遺伝子組換え技術によって納豆菌中で増幅し、該遺伝子がコードする柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質の発現を増強して新規納豆菌の育種に成功したものであって、バシラス・サチルス SOFBH(Bacillus subtilis SOFBH)株と命名した。
【0062】
バシラス・サチルス SOFBH(Bacillus subtilis SOFBH)株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2008年(平成20年)8月20日付けで受領されており、その受領番号はFERM ABP−10997である。
【0063】
このようにして選抜された柔らかい納豆を製造できる優れた納豆菌の納豆生産への利用は、従来から実施されている方法を採用すれば良く、特に制限がない。
例えば、納豆は丸大豆を原料として製造されたいわゆる丸大豆納豆が一般的であるが、一部には予め挽割った大豆を原料とする挽割り納豆もある。
【0064】
丸大豆納豆の製造方法は、原料である丸大豆を冷水に十数時間浸漬した後、蒸煮釜で加圧蒸気を用いて加圧蒸煮(0.15〜0.20MPa)して得られた蒸煮大豆に対して、高温状態(70〜100℃)で納豆菌を接種し混合した後、所定の容器に充填してから発酵室に搬入し、室温37〜42℃で所定時間(15〜20時間程度)発酵させた後、5℃前後で冷蔵熟成(12〜72時間程度)して完成させるのが一般的である。
【0065】
また、挽割り納豆の場合は、予め挽割った大豆を水に浸漬する以外は、通常の丸大豆納豆の場合と同様の方法で製造される。
【0066】
このような従来の納豆の製造方法において、本発明では発酵工程で用いる納豆菌を、前記方法によって選抜した優れた納豆菌に代えて使用することによって製造することができる。このようにして、従来の納豆と比べ柔らかい納豆が製造可能となる。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0068】
(実施例1)
(1)使用菌株等
納豆菌r22株は、市販納豆から分離された親株O−2株の形質転換能を高めた変異株であり、親株O−2株をニトロソグアニジン(NTG)を用いて化学変異処理することにより取得された株である(例えば、特開2000−224982号公報参照)。
【0069】
培地は、納豆試験法(例えば、「納豆試験法」、光琳出版、p.85−97、1990年参照)に記載のLB培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% 塩化ナトリウム)、胞子形成培地(0.068% KH2PO4、0.0535% NH4Cl、0.0106% Na2SO4、0.00006% FeCl2・4H2O、0.00126% MnCl2・4H2O、0.934% MgSO4・7H2O、0.238% グルタミン酸ナトリウム一水和物、0.025% CaCl2、0.152% 酵母エキス、1mg/ml ビオチン)、Spizizenらの形質転換培地(0.5% グルコース、5mM MgSO4・7H2O、0.05% 酵母エキス、0.6% KH2PO4、1.4% K2HPO4、0.1% クエン酸ナトリウム二水和物、0.2% 硫安、0.1μg/ml ビオチン)を用いた。ただし、必要な場合は、スペクチノマイシン(100μg/ml)、テトラサイクリン(10μg/ml)を添加した。
【0070】
スペクチノマイシン耐性遺伝子(GenBank ACCNo.X02588)はそれぞれ、pUC19のマルチクローニングサイトBamHI−XbaI間にクローニングしたものを用いた。テトラサイクリン耐性遺伝子は、大腸菌−枯草菌シャトルベクターpHY300PLK(宝酒造社製)からPCRにより増幅して用いた。
【0071】
(2)候補遺伝子の検索
柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子は、枯草菌には存在せずに、納豆菌固有に存在する遺伝子群の中にあるとの仮定のもとに、納豆菌r22株の全ゲノム配列と、GenBankに登録されているBacillus subtilis str.168株のゲノム配列(登録番号NC000964)とを比較し、その結果合計572個の納豆菌固有の遺伝子を見出した。
【0072】
これらの納豆菌固有の遺伝子群の中から、sofA遺伝子(以下、単にsofAと称する場合もある)及びsofB遺伝子(以下、単にsofBと称する場合もある)と命名した遺伝子を候補遺伝子とし、以下の実験に供した。
【0073】
なお、sofAは配列表の配列番号1(図1及び図2)に示す塩基配列を有し、この内塩基番号1937〜2362にかけて配列表の配列番号2(図3)に示すアミノ酸配列のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームの存在が確認された。
【0074】
GenBank、EMBL、DDBJ、SwissProt、PIR、PRFなどの塩基配列及びアミノ酸配列データベースについてホモロジー検索した結果、sofAはGeobacillus
sp. WCH70のMarR familyに属する転写制御因子であるTrmB遺伝子とアミノ酸配列で78%の相同性を有していることが分かった。
【0075】
MarR familyに属する転写制御因子は、薬剤耐性や酸化ストレス応答に関与するとされているが(例えば、「トレンズ・イン・マイクロバイオロジー(Trends Microbiol.)」、7巻、p.410−413、1999年参照)、Geobacillus
sp. WCH70のTrmB遺伝子が柔らかい納豆を製造する機能に関与していることについては、全く知られていない。
【0076】
sofAも納豆菌の遺伝子の転写を制御する機能を有していることが推定される、納豆菌の柔らかい納豆を製造する機構については全く知られていないことから、sofAがどのような遺伝子の転写を制御しているのかに関しては全く不明である。
【0077】
また、sofBは配列表の配列番号3(図4及び図5)に示す塩基配列を有し、この内塩基番号2082〜2459にかけて配列表の配列番号4(図6)に示すアミノ酸配列のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームの存在が確認された。
【0078】
GenBank、EMBL、DDBJ、SwissProt、PIR、PRFなどの塩基配列、アミノ酸配列データベースについてホモロジー検索した結果、sofBと塩基配列で15%以上、アミノ酸配列で15%以上の相同性を有する遺伝子は検索されず、sofBは納豆菌固有の遺伝子であることが確認された。なお、sofBが納豆を柔らかくする機構においてどのような機能を果たしているかについても、全く不明である。
【0079】
(3)sofA及びsofBの欠損株の調製
以下の方法により、sofA及びsofBのそれぞれを欠損させるための遺伝子欠損用DNA断片を作製し、納豆菌に導入してコンピテンス法により相同組換えを起こさせて、sofA及びsofBそれぞれの欠損株を作製した。
【0080】
i)遺伝子欠損用DNA断片の作製
(A)sofA欠損用DNA断片の調製
以下に記載のごとく、染色体上のsofAをスペクチノマイシン耐性遺伝子と置換してsofAを欠損させるために、sofA欠損用DNA断片を、図27に示すごとく、PCRを組み合わせた以下の方法により構築した。
【0081】
まず、スペクチノマイシン耐性遺伝子を増幅するために、GenBankに登録されている塩基配列(登録番号X02588)を基に、プライマー1(5´−GCGGCCGCGTATAATAAAGAATAATTATTAATCTGTAG−3´、配列表の配列番号5及び図7参照)及びプライマー2(5´−CTCGAGTAAATTAAAGTAATAAAGCGTTCTC−3´、配列表の配列番号6及び図8参照)の2種のオリゴDNAを調製し、これらプライマーを用いて、pUC19のマルチクローニングサイトBamHI−XbaI間にスペクチノマイシン耐性遺伝子をクローニングしたものを鋳型にし、PCRにより増幅した。
【0082】
また、sofAの上流を増幅するためにプライマー3(5´−TTGCTCATTCGTCGCATTATC−3´、配列表の配列番号7及び図9参照)及びプライマー4(5´−CTACAGATTAATAATTATTCTTTATTATACGCGGCCGCTGCTGCATAATCCGTATTGCC−3´、配列表の配列番号8及び図10参照)の2種のオリゴDNAを調製した。
さらに、sofAの下流を増幅するためにプライマー5(5´−GAAATTAGAGAACGCTTTATTACTTTAATTTACTCGAGGTAGGGAAGCTAAACAATGGC−3´、配列表の配列番号9及び図11参照)及びプライマー6(5´−CAAGCGGATTTCGTTCATAGG−3´、配列表の配列番号10及び図12参照)の2種のオリゴDNAを調製した。
【0083】
これらをプライマーとして、またr22株の全DNAを鋳型に用いて、常法どおりPCRを行い、スペクチノマイシン耐性遺伝子の増幅断片の5´末端37塩基(下線部)と相補する塩基配列を3´側に有するsofAの上流部分及びスペクチノマイシン耐性遺伝子の増幅断片の3´末端38塩基(下線部)と相補する塩基配列を5´側に有するsofAの下流部分の断片を増幅した。
【0084】
次に、プライマー3及びプライマー6の2種のプライマーを用いて、sofAの上流部分、下流部分及びスペクチノマイシン耐性遺伝子の増幅断片の混合物を鋳型としてPCRを行った。得られたPCR産物をアガロース電気泳動して生じたバンドのうち、約5kbのバンドをアガロースから回収した。
【0085】
PCR産物の内部配列を基に、プライマー7(5´−CGACCTCCATGTAGACGGTTG−3´、配列表の配列番号11及び図13参照)及びプライマー8(5´−GGCAAGCAGCTCGATATCTCC−3´、配列表の配列番号12及び図14参照)の2種のオリゴDNAを調製し、これらのプライマーを用いて、上記の回収したDNAを鋳型として、PCRにより増幅した。得られたPCR産物をsofA欠損用DNA断片として、形質転換に用いた。
【0086】
(B)sofB欠損用DNA断片の調製
以下に記載のごとく、染色体上のsofAをスペクチノマイシン耐性遺伝子と置換してsofBを欠損させるために、sofB欠損用DNA断片を、図28に示すごとく、PCRを組み合わせた以下の方法により構築した。
【0087】
まず、テトラサイクリン耐性遺伝子を増幅するために、GenBankに登録されている塩基配列(登録番号D00946)を基に、プライマー9(5´−TAAAGAATAATTATTAATCTGTAGCTGTTATAAAAAAAGGATCAA−3´、配列表の配列番号13及び図15参照)及びプライマー10(5´−AGTAATAAAGCGTTCTCTAATTTCTATTATTGCAATGTGGAATTG−3´、配列表の配列番号14及び図16参照)の2種のオリゴDNAを調製し、これらのプライマーを用いて、大腸菌−枯草菌シャトルベクターpHY300PLKを鋳型にし、PCRにより増幅した。
【0088】
また、sofBの上流を増幅するためにプライマー11(5´−TCCAAAAGAGGCCTGTCATAC−3´、配列表の配列番号15及び図17参照)及びプライマー12(5´−TACAGATTAATAATTATTCTTTATTATACGCGGCCGCCCACCCTTCTGATTACGTATTG−3´、配列表の配列番号16及び図18参照)の2種のオリゴDNAを調製した。
さらに、sofBの下流を増幅するためにプライマー13(5´−GAAATTAGAGAACGCTTTATTACTTTAATTTACTCGAGTCCTTTGCCATTTCCTCCGTC−3´、配列表の配列番号17及び図19参照)及びプライマー14(5´−TGGGATGATCTAACCGAAGGC−3´、配列表の配列番号18及び図20参照)の2種のオリゴDNAを調製した。
【0089】
これらをプライマーとして、またr22株の全DNAを鋳型に用いて、常法どおりPCRを行い、テトラサイクリン耐性遺伝子の増幅断片の5´末端23塩基(下線部)と相補する塩基配列を3´側に有するsofBの上流部分及びテトラサイクリン耐性遺伝子の増幅断片の3´末端24塩基(下線部)と相補する塩基配列を5´側に有するsofBの下流部分の断片を増幅した。
【0090】
次に、プライマー11及びプライマー14の2種のプライマーを用いて、sofBの上流部分、下流部分及びテトラサイクリン耐性遺伝子の増幅断片の混合物を鋳型としてPCRを行った。得られたPCR産物をアガロース電気泳動して生じたバンドのうち、約5.5kbのバンドをアガロースから回収した。
【0091】
PCR産物の内部配列を基に、プライマー15(5´−TCCCCATTAAAATCACCTTGC−3´、配列表の配列番号19及び図21参照)及びプライマー16(5´−AGACGCCTGCGGACACTAATC−3´、配列表の配列番号20及び図22参照)の2種のオリゴDNAを調製し、これらプライマーを用いて、上記の回収したDNAを鋳型として、PCRにより増幅した。得られたPCR産物をsofA欠損用DNA断片として、形質転換に用いた。
【0092】
ii)形質転換
PCRにより得たDNA断片を用いて、Spizizenらの形質転換培地を用いたコンピテンス法によりr22株を形質転換した。形質転換株の選択は、sofAを欠損させた株を取得する場合はスペクチノマイシン耐性を指標とし、また、sofBを欠損させた株を取得する場合はテトラサイクリン耐性を指標に行った。
【0093】
多数得られたスペクチノマイシン耐性の形質転換株、及びテトラサイクリン耐性の形質転換株のうち、それぞれ8株ずつを選択した。LB培地で37℃、120rpmで終夜培養した後にゲノムDNAを回収し、プライマー7及びプライマー8、またはプライマー15及びプライマー16を用いてPCRにより増幅し、適当な制限酵素で処理した後の切断パターンから、sofA遺伝子及びsofB遺伝子が欠損していることを確認した。
そのうちのそれぞれ1株ずつを選択し、ΔSOFA株及びΔSOFB株と命名した。
【0094】
(3)納豆試作・柔らかさの評価
上記のごとくにして取得したΔSOFA株とΔSOFB株について、それぞれ常法により胞子形成培地を用いて胞子液を作製し、常法に従い納豆を製造した後、納豆の品質及び納豆の硬さについて評価した。納豆の評価に際しては、同じ蒸煮条件、発酵条件でr22株を用いて製造した納豆を対照とした。
ΔSOFA株およびΔSOFB株を用いて製造した納豆の品質は、専門のパネラーによる官能検査の結果、外観、糸引きの強さ、ともに、r22株を用いて製造した対照と同等のものであった。
【0095】
次に、納豆の硬さを硬度計で測定した。
すなわち、硬度計は、直径1.5mmのプランジャーを装着したデジタルホースゲージ(形式:FGC−0.2、日本電産シンポ社製)を、電動式縦型簡易試験スタンド(形式:FGS−50V−L、日本電産シンポ社製)に、プランジャー部を下方にしてセットしたものを用いた。
そして、まず測定すべき納豆を15〜25℃に温めた後、豆粒を潰さないように箸で良くほぐし、任意の一粒を上記の電動式縦型簡易試験スタンドの台上においた。
その後、該デジタルホースゲージを60mm/分の速度で降下させ、プランジャーで豆粒の中心を突き刺すように押潰した。プランジャーが豆粒底面から1±0.2mmのところまで降下したところで、デジタルホースゲージの降下を停止し、この時の表示値(単位:ニュートン(N)、ピーク値)を記録した。
【0096】
以下、同様にして合計14粒について表示値を計測した後、最上位2つ、及び、最下位2つの表示値を除いた10粒分の表示値の平均をとって、納豆の硬度(N)を求めた。表1に硬度(N)を示す。
【0097】
【表1】
【0098】
ΔSOFA株やΔSOFB株で納豆を製造すると、r22株で製造した場合に比べて、硬い納豆が製造できた。
ΔSOFA株やΔSOFB株は、それぞれsofAやsofBが欠損した納豆菌であり、従って、sofA及びsofBは、それぞれ柔らかい納豆を製造する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子であると推定された。
【0099】
(実施例2)
(1)使用菌株等
大腸菌DH5α、大腸菌ベクターpT7Blue、枯草菌ベクターpHY300PLKは宝酒造社製を用いた。
【0100】
(2)sofA増強株の調製
sofA増強株は、sofA全長の約430塩基及びその上流の約120塩基を保有するベクターを構築し、該ベクターを以下の方法で納豆菌に導入して作製した。
【0101】
i)ベクター構築
プライマー17(5´−GCTCTAGAGATGGAAAGCATCCAATGGG−3´、配列表の配列番号21及び図23参照)及びプライマー18(5´−CGCGGATCCTTATTAAAACTGCCATTGTTTAGC−3´、配列表の配列番号22及び図24参照)の2種のオリゴDNAを調製した後、これらをプライマーとして用い、r22株の全DNAを鋳型に用いて、常法どおりPCRを行い、sofAのオープンリーディングフレーム全長(426塩基)及びその上流域(124塩基)を増幅すると共に、下線部で示した位置に制限酵素XbaI及びBamHIの認識サイトをそれぞれ導入した。
この増幅したDNAをクローニングベクターpT7Blueにクローニングし、pSOFA1を得た。pSOFA1を制限酵素XbaI及びBamHIで切断後、アガロース電気泳動して生じた2本のバンドのうち、短いほうのバンド(約500塩基)をアガロースから回収し、XbaI及びBamHIで切断した枯草菌の多コピー数ベクターであるpHY300PLKに挿入した。得られたプラスミドをpSOFA2と命名し、以下の実験に供した。
【0102】
ii)形質転換
大腸菌DH5αを宿主として用いて調製したプラスミドpSOFA2を用いて、納豆菌r22株を、常法どおりプロトプラスト法により形質転換した。
形質転換株の選択は、テトラサイクリン耐性を指標に行った。複数得られた形質転換株からプラスミドを回収してpSOFA2が保持されていることを確認し、これらのうちの1株をSOFAH株とした。
【0103】
SOFAH株をテトラサイクリンを含むLB培地で30℃、150rpmでOD660が0.4となるまで培養した後に、常法どおりプラスミドを回収し、制限酵素BamHIで切断後、260及び280nmの各波長の吸光度から核酸濃度、純度を測定し、pSOFA2が多コピー存在することを確認した。
【0104】
SOFAH株及びr22株をテトラサイクリンを含む、又は含まないLB培地で37℃、150rpmでOD660が0.4となるまで培養した後に、常法どおりRNAを抽出した後、sofAの内部配列をターゲットとするRT−PCRを行い、電気泳動時のバンド強度を比較することにより、SOFAH株がr22株に比べてsofAを高発現していることを確認した。
【0105】
ここに得られたSOFAH株を、バシラス・サチリスSOFAH(Bacillus subtilis SOFAH)株と命名し、FERM ABP−10996として、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託した。
なお、プラスミドpHY300PLKを用いて、同様に、r22株の形質転換を行い、得られた1株をpHY300PLK/r22株とした。
【0106】
(3)納豆試作・柔らかさの評価
上記のSOFAH株及びpHY300PLK/r22株について、それぞれ胞子形成培地を用いて胞子液を作製し、常法に従い納豆を製造した。SOFAH株を用いて製造した納豆の品質は、専門のパネラーによる官能検査の結果、外観、糸引きの強さ、ともに、pHY300PLK/r22株を用いて作製した対照と同等のものであった
【0107】
SOFAH株が納豆発酵中にプラスミドpSOFA2を保持していることは、以下の方法で確認した。すなわち、発酵中の納豆に0.85%滅菌食塩水を加えて懸濁した液を適当に希釈し、LB寒天プレート及びテトラサイクリンを含むLB寒天プレート上に塗布して、37℃で終夜培養した後にコロニー数が両プレートでほぼ同数であることを確認した。
【0108】
次に、納豆の硬さを実施例1と同様にして測定した。納豆の評価に際しては、同じ条件で蒸煮した発酵前の煮豆、及び同じ蒸煮条件、発酵条件でpHY300PLK/r22株を用いて製造した納豆を対照とした。表2に硬度を示す。
【0109】
【表2】
【0110】
SOFAH株で煮豆を発酵すると、r22株で製造した場合に比べ、柔らかい納豆が製造できた。このことから、sofA遺伝子のコピー数を増大させて、sofAがコードするタンパク質の発現を増強させることにより、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌を育種できることが確認された。
【0111】
(実施例3)
(1)sofB増強株の調製
sofB増強株は、sofB全長の約380塩基、その上流の約570塩基、及びその下流の約140塩基を保有するベクターを構築し、該ベクターを以下の方法で納豆菌に導入して作製した。
【0112】
i)ベクター構築
プライマー19(5´−GCTCTAGATTTAGGGATATTGGTTCAAAAC−3´、配列表の配列番号23及び図25参照)及びプライマー20(5´−TCCCCCGGGACACTCCCAAAAACATAAATATTA−3´、配列表の配列番号24及び図26参照)の2種のオリゴDNAを調製した後、これらをプライマーとして用い、r22株の全DNAを鋳型に用いて、常法どおりPCRを行い、sofBのオープンリーディングフレーム全長(384塩基)、その上流域(569塩基)、及びその下流域(144塩基)を増幅すると共に、下線部で示した位置に制限酵素XbaI及びSmaIの認識サイトをそれぞれ導入した。
【0113】
この増幅したDNAをクローニングベクターpT7Blueにクローニングし、pSOFB1を得た。pSOFB1を制限酵素XbaI及びSmaIで切断後、アガロース電気泳動して生じた2本のバンドのうち、短いほうのバンド(約1100塩基)をアガロースから回収し、XbaI及びSmaIで切断した枯草菌の多コピー数ベクターであるpHY300PLKに挿入した。得られたプラスミドをpSOFB2と命名し、以下の実験に供した。
【0114】
ii)形質転換
大腸菌DH5αを宿主として用いて調製したプラスミドpSOFB2を、納豆菌r22株に、常法どおりプロトプラスト法により形質転換した。形質転換株の選択は、テトラサイクリン耐性を指標に行った。複数得られた形質転換株からプラスミドを回収してpSOFB2が保持されていることを確認し、これらのうちの1株をSOFBH株とした。
【0115】
SOFBH株をテトラサイクリンを含むLB培地で30℃、150spmでOD660が0.4となるまで培養した後に、常法どおりプラスミドを回収し、制限酵素SmaIで切断後、260及び280nmの各波長の吸光度から核酸濃度、純度を測定し、pSOFB2が多コピー存在することを確認した。
【0116】
SOFBH株及びr22株をテトラサイクリンを含む、又は含まないLB培地で37℃、150spmでOD660が0.4となるまで培養した後に、常法どおりRNAを抽出した後、sofBの内部配列をターゲットとするRT−PCRを行い、電気泳動時のバンド強度を比較することにより、SOFBH株がr22株に比べてsofBを高発現していることを確認した。
【0117】
ここに得られたSOFBH株を、バシラス・サチリスSOFBH(Bacillus subtilis SOFBH)株と命名し、FERM ABP−10997として、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託した。
【0118】
(3)納豆試作・柔らかさの評価
上記のSOFBH株及びpHY300PLK/r22株について、それぞれ胞子形成培地を用いて胞子液を作製し、常法に従い納豆を製造した。SOFBH株を用いて製造した納豆の品質は、専門のパネラーによる官能検査の結果、外観、糸引きの強さ、ともに、pHY300PLK/r22株を用いて作製した対照と同等のものであった。
【0119】
SOFBH株が納豆発酵中にプラスミドpSOFB2を保持していることは、以下の方法で確認した。すなわち、発酵中の納豆に0.85%滅菌食塩水を加えて懸濁した液を適当に希釈し、LB寒天プレート及びテトラサイクリンを含むLB寒天プレート上に塗布して、37℃で終夜培養した後にコロニー数が両プレートでほぼ同数であることを確認した。
【0120】
次に、納豆の硬さを実施例1と同様にして測定した。納豆の評価に際しては、同じ条件で蒸煮した発酵前の煮豆、及び同じ蒸煮条件、発酵条件でpHY300PLK/r22株を用いて製造した納豆を対照とした。表3に硬度を示す。
【0121】
【表3】
【0122】
SOFBH株で煮豆を発酵すると、r22株で製造した場合に比べ、柔らかい納豆が製造できた。このことから、sofB遺伝子のコピー数を増大させて、sofBがコードするタンパク質の発現を増強させることにより、柔らかい納豆を製造する能力を有する納豆菌を育種できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】sofA遺伝子を含む領域の塩基配列を示す図である。
【図2】図1に続く塩基配列を示す図である。
【図3】sofA遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図4】sofB遺伝子を含む領域の塩基配列を示す図である。
【図5】図4に続く塩基配列を示す図である。
【図6】sofB遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図7】プライマー1の塩基配列を示す図である。
【図8】プライマー2の塩基配列を示す図である。
【図9】プライマー3の塩基配列を示す図である。
【図10】プライマー4の塩基配列を示す図である。
【図11】プライマー5の塩基配列を示す図である。
【図12】プライマー6の塩基配列を示す図である。
【図13】プライマー7の塩基配列を示す図である。
【図14】プライマー8の塩基配列を示す図である。
【図15】プライマー9の塩基配列を示す図である。
【図16】プライマー10の塩基配列を示す図である。
【図17】プライマー11の塩基配列を示す図である。
【図18】プライマー12の塩基配列を示す図である。
【図19】プライマー13の塩基配列を示す図である。
【図20】プライマー14の塩基配列を示す図である。
【図21】プライマー15の塩基配列を示す図である。
【図22】プライマー16の塩基配列を示す図である。
【図23】プライマー17の塩基配列を示す図である。
【図24】プライマー18の塩基配列を示す図である。
【図25】プライマー19の塩基配列を示す図である。
【図26】プライマー20の塩基配列を示す図である。
【図27】sofA遺伝子欠損用DNA断片調製の概略を示す図である。
【図28】sofB遺伝子欠損用DNA断片調製の概略を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質。
(A)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
【請求項2】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
【請求項3】
以下の(A)、(B)、(C)又は(D)に示されるDNA。
(A)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列からなるDNA。
(B)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(C)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(D)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされた塩基配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質。
(A)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
【請求項5】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
【請求項6】
以下の(A)、(B)、(C)又は(D)に示されるDNA。
(A)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列からなるDNA。
(B)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(C)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(D)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされた塩基配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
【請求項7】
柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子がコードするタンパク質の機能を増強させることを特徴とするバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
【請求項8】
柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子が請求項2又は請求項3に記載の遺伝子であることを特徴とする請求項7に記載のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
【請求項9】
柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子が請求項5又は請求項6に記載の遺伝子であることを特徴とする請求項7に記載のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法により育種されたことを特徴とする柔らかい納豆を製造する機能が増強されたバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌。
【請求項11】
バシラス・サチリスSOFAH(Bacillus subtilis SOFAH)株(FERM ABP−10996)であることを特徴とする請求項10に記載の納豆菌。
【請求項12】
バシラス・サチリスSOFBH(Bacillus subtilis SOFBH)株(FERM ABP−10997)であることを特徴とする請求項10に記載の納豆菌。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の納豆菌を用いることを特徴とする納豆の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の納豆の製造方法により製造されたことを特徴とする柔らかい納豆。
【請求項15】
請求項13に記載の納豆の製造方法により製造され、硬度が0.20〜0.65Nであることを特徴とする請求項14に記載の柔らかい納豆。
【請求項1】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質。
(A)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
【請求項2】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
【請求項3】
以下の(A)、(B)、(C)又は(D)に示されるDNA。
(A)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列からなるDNA。
(B)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(C)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(D)配列表の配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号1937〜2362の塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされた塩基配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質。
(A)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
【請求項5】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
(C)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質。
【請求項6】
以下の(A)、(B)、(C)又は(D)に示されるDNA。
(A)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列からなるDNA。
(B)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(C)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
(D)配列表の配列番号3に示される塩基配列のうち、塩基番号2082〜2459の塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされた塩基配列からなり、かつ、柔らかい納豆を製造する機能に関与するタンパク質をコードするDNA。
【請求項7】
柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子がコードするタンパク質の機能を増強させることを特徴とするバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
【請求項8】
柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子が請求項2又は請求項3に記載の遺伝子であることを特徴とする請求項7に記載のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
【請求項9】
柔らかい納豆を製造する機能に関与する遺伝子が請求項5又は請求項6に記載の遺伝子であることを特徴とする請求項7に記載のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌の育種方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法により育種されたことを特徴とする柔らかい納豆を製造する機能が増強されたバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)に属する納豆菌。
【請求項11】
バシラス・サチリスSOFAH(Bacillus subtilis SOFAH)株(FERM ABP−10996)であることを特徴とする請求項10に記載の納豆菌。
【請求項12】
バシラス・サチリスSOFBH(Bacillus subtilis SOFBH)株(FERM ABP−10997)であることを特徴とする請求項10に記載の納豆菌。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の納豆菌を用いることを特徴とする納豆の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の納豆の製造方法により製造されたことを特徴とする柔らかい納豆。
【請求項15】
請求項13に記載の納豆の製造方法により製造され、硬度が0.20〜0.65Nであることを特徴とする請求項14に記載の柔らかい納豆。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2010−57422(P2010−57422A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226726(P2008−226726)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]