説明

柔物体のためのセンサモジュール及びセンサシステム

【課題】柔物体本来の柔らかさや安全性を損なうことなく簡単に実装することができ、且つ、柔物体に対し加えられた荷重、変形を測定可能なセンサモジュールを提供する。
【解決手段】柔物体の内部に充填されている充填物の中に、センサモジュールを挿入する。このセンサモジュールは、センサモジュールの周囲の充填物で反射される光を検知するように、互いに異なる向きに配置されている複数のフォトリフレクタを有している。そして、複数のフォトリフレクタの出力に基づいて、柔物体に対し加えられた荷重又は変形による充填物の密度の変化を測定する。例えば、クッション60の四隅に4個のセンサモジュール62を挿入する。情報処理装置63は、センサモジュール62から取得した測定結果(ユーザがクッションを押した箇所)に応じて、TV61に対し制御命令を送出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッションやぬいぐるみなどの柔物体に対し加えられた荷重、変形を測定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械あるいはコンピュータシステムに対するインタラクションには、従来、ボタンやハンドルなどのハードデバイス(硬い材料からなる入力装置)が用いられるのが一般的であった。これに対し、最近の研究では、ソフトデバイス(柔らかい材料からなる入力装置)を利用することで、より直観的でユーザフレンドリなインタフェースを実現できることが提案されている。また、このようなソフトデバイスは、ハードデバイスに比べて安全性に優れるため、特に幼児・子供向けの製品に適したものとして期待されている。
【0003】
我々の身の回りには、クッション、ぬいぐるみ、ソファのような様々な柔物体が数多く存在する。例えばこれらの柔物体を入力装置として利用するには、ユーザが柔物体に対して加える操作(例えば、押す・叩く・なでる・曲げるなど)を検知し、それを入力指令に変換する必要がある。また入力装置として用いるにあたっては、柔物体が固定(拘束)されておらず、その位置や姿勢をユーザが自由に変えられることも望まれる。
【0004】
柔物体に対する荷重や変形を検知するための手法としては、柔物体の表面にひずみゲージのようなセンサを取り付け、柔物体表面の形状変化を物理的に測定するという方法が一般的である。しかしながらこの方法は、表面に取り付けられたセンサのために、柔物体本来の柔らかさ・手触りや、安全性などが損なわれるという問題がある。また、柔物体の形状や材質によってはセンサを取り付けることができないという実装上の制約もある。なお、クッションに作用する荷重を検知するものとして、自動車のシートやマッサージチェアにおける着座検知が実用化されているが(例えば特許文献1)、その方法は、クッションを固定する剛体フレームに荷重センサを取り付け、クッションを介して伝播した荷重を検知するというものであるため、柔物体そのものを入力装置に利用するという目的には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−512573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、柔物体本来の柔らかさや安全性を損なうことなく簡単に実装することができ、且つ、柔物体に対し加えられた荷重、変形を測定可能なセンサモジュールを提供することにある。また、本発明の更なる目的は、クッションやぬいぐるみのような柔物体を入力装置として利用するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明者らは鋭意研究を行い、フォトリフレクタ(反射型フォトセンサ)を利用した新規な測定手法を見出し、以下に述べる発明の構成を想起するに至った。
【0008】
具体的には、本発明に係るセンサモジュールは、柔物体の内部に充填されている充填物
の中に挿入されて使用される、センサモジュールであって、前記センサモジュールの周囲の充填物で反射される光を検知するように、互いに異なる向きに配置されている複数のフォトリフレクタを有しており、前記複数のフォトリフレクタの出力に基づいて、前記柔物体に対し加えられた荷重又は変形による前記充填物の密度の変化を測定することを特徴とする。
【0009】
柔物体内部の充填物は空気(隙間)を多く含む構造を有している。このような充填物の中にフォトリフレクタを挿入し動作させた場合、フォトリフレクタから照射された光は周囲の充填物で散乱され、その散乱光の一部(フォトリフレクタ方向に反射した光)のみがフォトリフレクタによって受光される。その受光量は、充填物の密度が高いほど増大し、充填物の密度が低いほど低下する傾向にある。すなわち、フォトリフレクタの出力は、フォトリフレクタ周囲の充填物の密度と相関を有する。この原理を利用し、本発明のセンサモジュールでは、フォトリフレクタの出力をみて充填物の密度の変化、ひいては柔物体に対し加えられた荷重又は変形を測定するのである。
【0010】
本発明の構成によれば、センサモジュールを充填物の中に挿入するだけでよく、センサモジュールを何かに固定したり、センサモジュールの姿勢(向き)を調整したりする必要がないため、柔物体に対する実装がきわめて容易である。また、センサモジュールはクッション性のある充填物の中に挿入されるため、柔物体本来の柔らかさ、手触り、安全性などを損なうこともない。
【0011】
前記センサモジュールが、無線通信により検知結果を送信する無線通信部と、バッテリと、を更に有しており、他の装置と物理的に接続されていないことが好ましい。このようにセンサモジュールをワイヤレスにすることで、センサモジュールを柔物体内部に完全に埋め込むことができるため、柔物体の可搬性が向上し、柔物体の移動、持ち上げ、姿勢の変更などが自由に行えるようになる。また、ケーブル等を排したことで、柔物体の安全性や外観デザインの向上も図られる。
【0012】
前記センサモジュールが、球体又は凸多面体の筐体内に設けられていることが好ましい。これにより、センサモジュールの引っ掛かりを無くすことができるため、センサモジュールを充填物の中に挿入する作業が簡単にできる。
【0013】
前記複数のフォトリフレクタが、前記筐体の表面に等間隔で配置されていることが好ましく、更には、6個のフォトリフレクタが、直交3軸に沿った6方向にそれぞれ配置されていることがより好ましい。これにより、センサモジュールの姿勢(向き)によらず、センサモジュール周囲の充填物の密度変化を正確に測定できるようになる。
【0014】
また、本発明に係るセンサシステムは、上述したセンサモジュールを複数個と、前記複数のセンサモジュールから測定結果を取得する情報処理装置と、を備えるセンサシステムであって、前記複数のセンサモジュールは、1つの柔物体の内部の異なる位置に挿入され、前記情報処理装置は、前記複数のセンサモジュールの挿入位置と測定結果とに基づいて、前記柔物体に対し加えられた荷重の作用点及び大きさを推定することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、荷重の作用点(つまり、ユーザが触れた位置)が分かるため、柔物体の表面をあたかもタッチセンサのように取り扱うことができ、様々な形態・用途の入力装置として柔物体を利用できるようになる。位置情報だけでなく、荷重の大きさも組み合わせれば、入力装置としての応用や可能性が更に広がるものと期待できる。また、本発明に係るセンサシステムは、複数個のセンサモジュールを異なる位置に挿入することができさえすれば、どのような種類・形状・大きさの柔物体に対しても実装が可能であることから、適用範囲がきわめて広いという利点もある。
【0016】
前記センサシステムが、前記センサモジュールのフォトリフレクタの照射光に対して感度を有するカメラを更に備え、前記柔物体と前記複数のセンサモジュールからの照射光とが写った画像を前記カメラによって撮像し、前記画像を用いて各センサモジュールの前記柔物体に対する挿入位置を特定するキャリブレーション処理を実行することが好ましい。このようなキャリブレーション機能を設けたことで、柔物体にセンサモジュールを挿入する際には厳密な位置決めが不要となり、実装の容易化が図られる。また、カメラで撮像するだけでよいので、非接触で且つ簡単にキャリブレーションを実施することができる。
【0017】
また、本発明に係る入力装置は、上述したセンサシステムと、前記センサシステムの複数のセンサモジュールが異なる位置に挿入されている柔物体と、を備え、前記センサシステムの情報処理装置が、前記柔物体に対し加えられた荷重の作用点及び/又は大きさに応じた命令を、制御対象に対して送出することを特徴とする。これにより、安全性に優れ、直観的でユーザフレンドリなインタラクションを実現可能な入力装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、柔物体本来の柔らかさや安全性を損なうことなく簡単に実装することができ、且つ、柔物体に対し加えられた荷重、変形を測定可能なセンサモジュールを提供することができる。そしてこのセンサモジュールにより、クッションやぬいぐるみのような柔物体を利用したユニークな入力装置を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】フォトリフレクタを用いた測定原理を説明するための図。
【図2】実験装置の構成を示す図。
【図3】ポリエステル綿での実験結果を示す図。
【図4】スモールフェザーでの実験結果を示す図。
【図5】天然綿での実験結果を示す図。
【図6】本発明の実施形態に係るセンサシステムの構成及び適用例を示す図。
【図7】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの構成を示す図。
【図8】キャリブレーションに関わる構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、身の回りにある柔物体(例えば、クッション、ぬいぐるみ、ソファ、ベッド、枕など)にセンサモジュールを組み込み、ユーザからの操作(例えば、押す・叩く・なでる・曲げるなど)を検知可能とすることで、これらの柔物体を各種電気機器やコンピュータシステムの入力装置として利用することを想定している。これを実現するための要素技術として、本明細書では、柔物体に付与された荷重や変形をフォトリフレクタにより測定するセンサモジュールと、複数のセンサモジュールの出力から荷重の作用点及び大きさを推定するセンサシステムとを提案する。
【0021】
以下、最初に、フォトリフレクタを用いた測定原理とその検証実験についての説明を行い、その後で、センサモジュール及びセンサシステムの具体的な構成例について説明する。
【0022】
<フォトリフレクタを用いた測定原理>
クッションやぬいぐるみなどの柔物体は、その内部に綿、毛、羽、ビーズ、スポンジなどの充填物が充填されている。これらの充填物は空気(隙間)を多く含む構造を有しており、柔物体の外から荷重を加えると充填物の密度(隙間)が変化することで柔軟性や弾力性が発揮される。
【0023】
フォトリフレクタとは、発光部から照射した光の反射光を受光部で検出するという構成の反射型フォトセンサであり、本来は、物体の有無や物体の位置を判定するために利用されるものである。このフォトリフレクタを、隙間を多く含む充填物の中に挿入した場合の動作を図1に示す。フォトリフレクタ10の照射光は周囲の充填物11で散乱され、様々な方向に拡散する。そして、その散乱光の一部(フォトリフレクタ方向に偶々反射した光)のみがフォトリフレクタ10によって受光されることとなる。このときの受光量は、充填物11の密度が高くなるほど増大し(図1(b))、充填物11の密度が低くなるほど低下する傾向にある(図1(a))。すなわち、フォトリフレクタ10の出力は、フォトリフレクタ10の周囲の充填物11の密度と相関を有する。
【0024】
本実施形態のセンサモジュールでは、この原理を利用し、フォトリフレクタ10の出力をみて充填物11の密度の変化、ひいては柔物体12に対し加えられた荷重又は変形を検知(推定)する。
【0025】
次に、充填物の密度の変化とフォトリフレクタの受光量との関係を検証するために行った実験について説明する。
【0026】
図2に示すように、10.4×10.4×14.6cmの透明なアクリルボックス21の底に、フォトリフレクタ20(コーデンシ社製SG−105)を設置した。フォトリフレクタ20は、発光部としての赤外線LEDと受光部としてのフォトセンサを有している。アクリルボックス21には、ポリエステル綿からなる充填物24が充填されており、充填物24の上部には高さを自由に設定可能なカバー23が設けられている。カバー23の高さHを変えることで、充填物24の密度を変更することができる仕組みである。
【0027】
実験手順は以下の通りである。なお、ヒステリシスの影響を確認するため、カバー23を下げた後と上げた後の両方で同じ測定を行うこととした。また充填物24の重さはタニタ社製KP−103により測定した。
【0028】
1.アクリルボックス21内に、充填物24を10.0g入れる。
2.底から12cmの高さにカバー23をセットする。
3.フォトセンサ出力を10回記録し、その平均を求める。
4.カバー23を2mm下げる。
5.カバー23が底から5.2cmの高さになるまで、ステップ3と4を繰り返す。
6.カバー23を2mm上げる。
7.フォトセンサ出力を10回記録し、その平均を求める。
8.カバー23が底から12cmの高さになるまで、ステップ6と7を繰り返す。
【0029】
図3に、実験結果を示す。横軸がポリエステル綿からなる充填物24の密度、縦軸がフォトセンサの平均測定電圧である。カバー23を徐々に押し下げ充填物24の密度を高くしていくと、それにほぼ比例するように測定電圧が増大し、逆にカバー23を徐々に引き上げ充填物24の密度を低くしていくと、測定電圧が低下していくことが分かる。0.0078〜0.0116[g/cm]の密度範囲でヒステリシスの影響がみられるので、0.0116[g/cm]よりも高い密度の充填物24を用いることが好ましいことが分かる。
【0030】
図4、図5は、それぞれスモールフェザーと天然綿の実験結果を示している。これらから、ポリエステル綿以外の材料でも同様の密度測定が可能であることが分かる。
【0031】
<センサシステムの構成>
図6は、本発明の実施形態に係るセンサシステムの構成及び適用例を示している。ここでは、クッション60をTV61の入力装置(リモコン)として動作させる例について説明する。
【0032】
センサシステムは、クッション60の内部に挿入された複数のセンサモジュール62と、これらのセンサモジュール62から測定結果を取得し、それに基づいて制御対象であるTV61に対し制御命令を送出する情報処理装置63とから構成されている。図6に示すように、4個のセンサモジュール62が、クッション60の四隅にそれぞれ埋め込まれており、その埋め込まれた部分における充填物の密度の変化を測定する。センサモジュール62の測定結果は無線通信により情報処理装置63に送られる。情報処理装置63からTV61への命令送出は、一般的なリモコンのような赤外線通信を利用することもできるし、その他の無線通信や有線通信を利用することもできる。
【0033】
(センサモジュール)
図7は、センサモジュール62の構成を示しており、(a)は外観の斜視図であり、(b)は内部構成を示す断面図である。
【0034】
センサモジュール62は、6個のフォトリフレクタ70と、無線通信モジュール71と、バッテリ72と、マイクロコントローラ73とから構成され、これらの部品は球体の筐体74に収容されている。フォトリフレクタ70には前述したコーデンシ社製のSG−105、無線通信モジュール71にはXBee Series1、バッテリ72には3.7V、350mAのLi−Poバッテリ、マイクロコントローラ73にはArduino Pro mini(ATmega328)を用いる。また筐体74はABS樹脂により作製する。
【0035】
6個のフォトリフレクタ70は、筐体74の外表面から突き出ないよう、筐体74の表面に形成された孔の中に取り付けられている。その配置は、等間隔になるように、すなわち直交3軸に沿った6方向にそれぞれが向くようになっている。6個のフォトリフレクタ70は、独立に動作するものであり、センサモジュール62の周囲6方向からの反射光を測定することが可能である。このようにセンサモジュール62は対称形状を有しており、フォトリフレクタ70も全方位的に対称配置されている。よって、センサモジュール62は天地左右の区別なくどのような姿勢(向き)で用いることも可能であるし、姿勢によらず周囲の充填物の密度変化を正確に測定することが可能である。
【0036】
マイクロコントローラ73は、フォトリフレクタ70及び無線通信モジュール71の制御や、各種信号処理及びデータ演算を担う回路である。マイクロコントローラ73は、10ビットのAD変換器を有しており、所定の時間間隔(例えば1秒ごと)で各々のフォトリフレクタ70の出力電圧を取り込み、0〜1023のデジタルデータに変換する。そして、マイクロコントローラ73は、この測定結果を無線通信モジュール71を介して情報処理装置63へと送信する。このとき、6個のフォトリフレクタ70の測定結果を個別に送信してもよいし、6個の測定結果の合計や平均などを求め、センサモジュール62として1つの測定結果だけを送信してもよい。この測定結果は、当該センサモジュール62の挿入位置周辺の充填物の密度に相当する値と考えることもできるし、或いは、当該センサモジュール62の挿入位置に作用した荷重に相当する値と考えることもできる。
【0037】
なお、各センサモジュール62の無線通信モジュール71には一意のID番号が割り当てられているため、情報処理装置63の側では4個のセンサモジュール62の測定結果を互いに区別することができる。
【0038】
(情報処理装置)
図6に示す情報処理装置63は、少なくとも、無線通信によりセンサモジュール62から測定結果を取得する機能と、取得した測定結果に基づいてTV61に対し制御命令を送出する機能とを有する装置である。CPU、メモリ、ハードディスク、通信装置などを備えた汎用のコンピュータに対し上記機能を実現するためのプログラムをインストールすることで構成することもできるし、或いは、専用の装置として構成することもできる。例えば、TV61自体又はTV61のリモコンが情報処理装置63を兼ねることも可能である。
【0039】
(動作)
クッション60には、「ON/OFF」、「チャンネルUP」、「チャンネルDOWN」、「音量UP」、「音量DOWN」の5つのボタンの模様が描かれている。ユーザがクッション60のいずれかのボタンの部分を押すと、その荷重によりクッション60が変形し(凹み)、内部の充填物の密度が変化する。このとき、荷重の作用点(ユーザが押した箇所)に近いところほど密度の変化が大きく、逆に荷重の作用点から遠いほど密度の変化が小さくなる。それゆえ、4個のセンサモジュール62の測定値を比較することで、荷重の作用点、すなわちユーザがどのボタンを押したかを推定することが可能となる。
【0040】
具体的には、情報処理装置63は、4個のセンサモジュール62の測定値の重心を計算することで、荷重の作用点(ユーザが押した箇所)を求めることができる。計算式は以下の通りである。
【数1】

ここで、nはセンサモジュール62の数(本実施形態ではn=4)である。pはi番目のセンサモジュール62の測定値であり、ここではi番目のセンサモジュール62内の全てのフォトリフレクタの出力値の合計値を用いる。x,yはi番目のセンサモジュール62のxy座標値である。x,yは、ユーザによって加えられた荷重の作用点のxy座標である。Mは全てのセンサモジュール62の測定値の合計であり、ユーザによって加えられた荷重の大きさに相当する値である。
【0041】
このような方法によれば、クッション60に埋め込んだ4個のセンサモジュール62から集めた測定値を用いて、ユーザが押した箇所(タッチ位置)を特定することができる。このことは、クッション60のような柔物体の表面をあたかもタッチセンサのように利用できることを意味する。しかも、この方法によれば、ハードデバイスのタッチセンサでは難しいとされる、押圧の強さの情報も入力することができる。
【0042】
情報処理装置63は、上記計算式により荷重の作用点x,yを求め、ユーザが押したボタンを特定する。そして、ボタンに対応した制御命令(TV61の電源オン又はオフ、チャンネルの変更、音量の変更)を生成し、TV61に送出する。これにより、クッション60をTV61のリモコンとして機能させることが可能となる。
【0043】
(キャリブレーション)
ところで、上記計算式により荷重の作用点x,yを求めるためには、予め、各センサモジュール62のクッション60内の挿入位置x,yを特定しておく必要がある。また、荷重の作用点x,yからユーザが押したボタンを特定するには、クッション60上の各ボタンの座標も予め特定しておかなければならない。そこで本実施形態では、クッション
60の中にセンサモジュール62を挿入した後、これを入力装置として使用する前に、以下に述べる手法で各種座標のキャリブレーションを行う。
【0044】
図8に示すように、本実施形態のセンサシステムは、キャリブレーションに関わる構成として、カメラ80及び表示装置81を有している。カメラ80は、センサモジュール62のフォトリフレクタの照射光に対して感度を有するものである。ここではフォトリフレクタの照射光が赤外線であるため、赤外光から可視光の少なくとも一部までの感度をもつIRカメラを用いるとよい。また表示装置81はタッチパネルディスプレイであり、入力デバイスを兼ねている。
【0045】
まず情報処理装置63は、センサモジュール62を動作させた状態で、カメラ80でクッション60を撮像する。そうすると、図8に示すように、センサモジュール62が埋め込まれた部分が明るく光ったように見える画像が得られる。カメラ80を通すことで、フォトリフレクタから発せられる赤外光が可視像化されるためである。
【0046】
情報処理装置63は、この画像を表示装置81に表示する。ユーザは、この画像上で、座標の原点(例えばクッション60の中心あたりに設定すればよい)や各センサモジュール62の挿入位置を指定したり、クッション60上に描かれたボタンの領域を指定したりすることで、各種座標を入力(教示)することができる。入力された座標値は、情報処理装置63のメモリに登録され、以降は上述した荷重の作用点及び大きさの計算に利用される。
【0047】
このようなキャリブレーション機能を設けることで、柔物体にセンサモジュール62を挿入する際には厳密な位置決めが不要となり、実装の容易化が図られる。また、カメラ80で撮像するだけでよいので、非接触で且つ簡単にキャリブレーションを実施することができる。
【0048】
<本実施形態の利点>
以上述べた本実施形態の構成によれば、センサモジュール62を柔物体の間に挿入するだけでよく、センサモジュール62を何か(例えばクッション60のカバーやフレームなど)に固定したり、センサモジュール62の姿勢(向き)を調整したりする必要がない。よって、センサモジュール62の柔物体に対する実装がきわめて容易である。また、センサモジュール62はクッション性のある充填物の中に挿入されるため、柔物体本来の柔らかさ、手触り、安全性などを損なうこともない。
【0049】
また、センサモジュール62をワイヤレスにしたことで、センサモジュール62を柔物体内部に完全に埋め込むことができるため、柔物体の可搬性が向上し、柔物体の移動、持ち上げ、姿勢の変更などが自由に行えるようになる。また、ケーブル等を排したことで、柔物体の安全性や外観デザインの向上も図られる。
【0050】
また、センサモジュール62の部品を球体の筐体内に設けたことで、センサモジュール62の表面の引っ掛かりを無くすことができ、センサモジュール62を充填物の中に挿入する作業が簡単にできる。なお筐体は、引っ掛かりの無い形状であればよいので、球体に限らず、凸多面体でもよい。
【0051】
また、本実施形態のセンサシステムを組み込めば、柔物体の表面をあたかもタッチセンサのように取り扱うことができ、様々な形態・用途の入力装置として柔物体を利用できるようになる。しかも、複数個のセンサモジュール62を異なる位置に挿入することができさえすれば、どのような種類・形状・大きさの柔物体に対しても実装が可能であることから、適用範囲がきわめて広いという利点もある。
【0052】
<他の適用例>
上記実施形態では、クッション内部にセンサモジュールを組み込み、これをTVの入力装置として利用する例を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限られず、種々の応用が可能である。
【0053】
例えば、上記実施形態では、クッションの表面にUI(ボタン)を描いたが、プロジェクタでUIの映像をクッションの表面に投影したり、或いは、UIが描かれているシートをマジックテープ(登録商標)やスナップボタンなどで着脱自在にしてもよい。プロジェクタで映像を投影する場合には、AR用のビジュアルマーカなどをクッション表面に取り付けておくことで、投影面の3次元位置を容易に特定することができる。
【0054】
また上記実施形態では、TVの入力装置を例示したが、これ以外にも、音楽プレーヤ、ラジオ、エアコンその他の電気機器の入力装置として用いることも可能である。あるいは、柔物体の表面に鍵盤の模様を設け、鍵盤を押した位置とその強さに応じてピアノ等の音を出力するようにすれば、おもちゃの楽器として利用することもできる。また、センサモジュールを埋め込んだ柔物体をゲームのコントローラとして用いたり、ユーザが押した位置・強さに応じて表情や動きを変えるぬいぐるみロボットを作製することも可能である。
【0055】
さらに、身の回りにある様々な柔物体に簡単に実装できるという利点を生かし、本発明を人の活動や行動を検知する仕組みに利用することも可能である。例えば、ベッドや枕にセンサモジュールを埋め込んでおけば、ユーザの就寝、離床、就寝中の動きなどを検知することができるので、その検知結果に応じてライトの点灯/消灯を制御したり、エアコンのタイマを制御したりするといった応用も可能である。
【符号の説明】
【0056】
10,20,70:フォトリフレクタ
11,24:充填物
12:柔物体
21:アクリルボックス
23:カバー
60:クッション
61:TV
62:センサモジュール
63:情報処理装置
71:無線通信モジュール
72:バッテリ
73:マイクロコントローラ
74:筐体
80:カメラ
81:表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔物体の内部に充填されている充填物の中に挿入されて使用される、センサモジュールであって、
前記センサモジュールの周囲の充填物で反射される光を検知するように、互いに異なる向きに配置されている複数のフォトリフレクタを有しており、
前記複数のフォトリフレクタの出力に基づいて、前記柔物体に対し加えられた荷重又は変形による前記充填物の密度の変化を測定する
ことを特徴とするセンサモジュール。
【請求項2】
無線通信により検知結果を送信する無線通信部と、バッテリと、を更に有しており、他の装置と物理的に接続されていない
ことを特徴とする請求項1に記載のセンサモジュール。
【請求項3】
前記センサモジュールは、球体又は凸多面体の筐体内に設けられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のセンサモジュール。
【請求項4】
前記複数のフォトリフレクタが、前記筐体の表面に等間隔で配置されている
ことを特徴とする請求項3に記載のセンサモジュール。
【請求項5】
6個のフォトリフレクタが、直交3軸に沿った6方向にそれぞれ配置されている
ことを特徴とする請求項4に記載のセンサモジュール。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1項に記載された複数のセンサモジュールと、前記複数のセンサモジュールから測定結果を取得する情報処理装置と、を備えるセンサシステムであって、
前記複数のセンサモジュールは、1つの柔物体の内部の異なる位置に挿入され、
前記情報処理装置は、前記複数のセンサモジュールの挿入位置と測定結果とに基づいて、前記柔物体に対し加えられた荷重の作用点及び大きさを推定する
ことを特徴とするセンサシステム。
【請求項7】
前記センサモジュールのフォトリフレクタの照射光に対して感度を有するカメラを更に備え、
前記柔物体と前記複数のセンサモジュールからの照射光とが写った画像を前記カメラによって撮像し、前記画像を用いて各センサモジュールの前記柔物体に対する挿入位置を特定するキャリブレーション処理を実行する
ことを特徴とする請求項6に記載のセンサシステム。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のセンサシステムと、
前記センサシステムの複数のセンサモジュールが異なる位置に挿入されている柔物体と、を備え、
前記センサシステムの情報処理装置が、前記柔物体に対し加えられた荷重の作用点及び/又は大きさに応じた命令を、制御対象に対して送出する
ことを特徴とする入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−36794(P2013−36794A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171597(P2011−171597)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ホームページのアドレス http://www.siggraph.org/s2011/content/fuwafuwa−detecting−shape−deformations−soft−objects−using−directional−photo−reflectivity−meas 公開者 筧豪太、杉浦裕太、ウィタナアヌーシャ、リーカリスタ、永谷直久、坂本大介、杉本麻樹、稲見昌彦、五十嵐健夫 公開のタイトル 「FuwaFuwa:Detecting Shape Deformations on Soft Objects Using Directional Photo−Reflectivity Measurements」 掲載日 平成23年6月
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】