説明

柔軟接触型荷重測定システム

【課題】小形・軽量化が容易な簡潔・薄型構造で設計の自由度及び高温環境下での安定性を有し、荷重分解能が良く、高温環境下でも安定して接触荷重の大きさ及び方向を迅速に検出できる柔軟接触型荷重センサを有する柔軟接触型荷重測定システムを提供する。
【解決手段】本発明の柔軟接触型荷重測定システム1は、荷重を受ける柔軟弾性接触部2及び柔軟弾性接触部が直接接して荷重を検出する荷重検出層3、3X、3Yを備える柔軟接触型荷重センサ1、1X、1Yを有し、荷重検出層は、電極が形成された一対の基板31、32及びその電極間に挟持され、電圧印加下で荷重を負荷することで電気抵抗値が変化する特性を備えたカーボン系や金属系を含む導電性複合材料の導電性部材33、33Yを有し、一方又は双方の基板は導電性部材33Yにより電極を兼ねて一体的に形成された構成に置換えできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟な対象物に作用する荷重を検出するための柔軟接触型荷重測定システムに関し、特に、荷重分解能が良く、小型化が図れ、接触荷重の大きさ及び方向を迅速に検出することが可能な設計の自由度がある柔軟接触型荷重センサを有する柔軟接触型荷重測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、質量やトルクなどの物体に作用する力を検出するための荷重センサは、秤や各種試験機、自動車部品やその他の産業界など多くの分野で利用されている。
【0003】
また、荷重センサの方式、種類についても、ばねを用いたエレベータの荷重検出装置や、ピエゾ素子を用いた荷重測定装置など、様々なものが存在する。
【0004】
そして、歪みゲージを用いたロードセルは、荷重を電気信号に変換する荷重変換器であり、荷重検出後のデータ処理が容易であること、また安価で一般的に高寿命であることから、体重計や荷重センサとして広く用いられている。ロードセルには、その用途ごとに、ビーム型、ダイヤフラム型などいくつか種類が存在する。また、その材料には一般的に、鉄、ステンレス、アルミなどの金属が用いられている。
【0005】
荷重センサが、対象物に加えられた荷重を測定するとき、特に、荷重センサと対象物とが面接触している場合には、対象物に加えられた荷重の分布の情報が必要になることがあり、そうした荷重分布を測定するための荷重センサについてこれまでにシート状センサ装置やタイヤの接地荷重分布検出装置など幾つか提案されている。
【0006】
また、荷重センサが、対象物に加えられた荷重を測定するとき、特に精密な作業が必要になる場合などは、荷重センサに加わる荷重から、垂直成分と水平成分とをそれぞれに検出して、荷重のベクトルを高精度に測定する必要があり、そのための方式についても歪みゲージを用いた三次元荷重分布センサや三軸方向荷重センサなど幾つか提案されている。
【0007】
荷重センサが、対象物に加えられた荷重を測定するとき、特に、荷重センサと対象物とが面接触している場合には、対象物に加えられた荷重の分布の情報が必要になることがあり、そうした荷重分布を測定するための荷重センサについてこれまでに感圧導電性インク、感圧導電性ゴムなどの感圧抵抗体を用いたセンサシート(例えば特許文献1参照)など幾つか提案されている。
【0008】
一方、近年、各種の工場などでは人間とロボットの共同作業によって製品が製造されていることから、作業中に人間とロボットが接触する恐れがある。ロボットの表面、特にロボットアーム部の表面は金属製のボディーで形成されているため、人と接触すると危険である。また、人手不足、作業効率の向上などの理由から、今後、医療や福祉等今までロボットが使川されなかった分野においてもロボットが使用されることは当然に予想され得ることであり、今後ロボットと人間が接触する頻度が一層増えつつある。
【0009】
人間とロボットが、もし予想外に接触した場合に、ロボットが荷重、荷重位置、荷重方向等を検出できないまま動き続ければ、人間に危害を加えることになる。そこで、人間とロボットが接触した揚合でも安全であり、かつ、接触した際の接触荷重を検出するセンサをロボットアーム部の表面に設けることが従来から提案されている。
【0010】
そのようなセンサの1つとして、本発明者らは、ロボットのアーム、ボディー、手先部等の作用力を検出する力覚センサとして、特にロボット、医療用ベッドなどの物体表面に固着させることによって、人体などの柔軟な接触体との接触時に柔軟変形すると同時に、接触体から物体表面に作用する接触荷重(3軸方向の力)の大きさ及びその荷重方向を検出可能な柔軟接触型荷重測定センサ(特許文献2参照)を提案している。
【0011】
さらに、食品用ロボット、医療用ロボット、産業用ロボット、機械装置用の感圧センサ、コンピュータの入力装置等の利用に供し得る、感圧素子を用いた触覚センサ(特許文献3参照)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−209384号公報
【特許文献2】特開2007−187502号公報
【特許文献3】特開2008−164557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記特許文献1に記載のセンサシート201は、図24に示すように、帯状であり且つ互いに離隔するように配置された複数の第1電極211が配置された基板210と、基板220の上方に配置された支持部材230と、支持部材230及びカバー層231よりも硬い材質からなる複数の円柱形状のコア部材240と、外部から加えられる力を受ける平坦な(凹凸のない)カバー層231と、基板210の上面に形成された帯状であり且つ互いに離隔すると共に平面視において複数の第1電極211と交差するように配置されており、外部から加えられる力に伴って第1電極211に近接する方向に変位可能である複数の第2電極221と、複数の第1電極211と複数の第2電極221とをそれぞれ覆うように配置された複数の感圧抵抗体212、222と、を備えており、部品点数が多く煩雑な構成となっている。
【0014】
このように、部品点数が多く積層された煩雑な構成のセンサシート201は、小型・軽量化が難しいとともに製作コストも高くなるという問題点がある。
【0015】
また、特許文献2に記載の柔軟接触型荷重測定センサは、図25(a)、(b)に示すように、接触体側に配置される弾性体301及びスキン層303からなる層と、物体側に配置される荷重測定層302とを具備し、荷重測定層302は、可撓性を有する弾性体301側の基板302Aと、それから間隔を隔てて対向配置した物体側の基板302Bと、基板302Aの下面に形成されマイクロスイッチSをオン状態とする電極305と、電極305と対向する基板302Bの上面に形成されたマイクロスイッチSの端子306と、からなり、接触体から物体に作用する接触荷重に応じてオン状態となるマイクロスイッチSの位置に基づいて、前記接触荷重の大きさ及びその荷重方向を検出するユニットとなるセンサセルが、図示しないが、複数連接された、部品点数が多く煩雑な構成となっている。図中、307は直流電源、308は抵抗、309は試験台、310 ロードセルである。
【0016】
このように、部品点数が多く積層された煩雑な構成の柔軟接触型荷重測定センサは、小型・軽量化が難しいとともに製作コストも高くなるという問題点がある。さらに、柔軟接触型荷重測定センサは、荷重に応じてマイクロスイッチSがON−OFF反応することを利用して荷重を検出するように構成しているため、荷重分解能があまりよくはなく荷重測定値が階段状になるとともに、マイクロスイッチS用の配線が煩雑になる等々の問題点がある。
【0017】
さらに、特許文献3に記載の触覚センサ410は、図26(a)、(b)、(c)に示すように、硬質材料で形成され、変位可能な接触子420と、この接触子420を表面に設け、接触子の変位を検出ポイント445で検出して出力する感圧素子440とを備え、感圧素子440は、シート状に形成した感圧導電シート441と、この感圧導電シート441の表面に設けた複数の第一電極442と、第一電極442と感圧導電シート441を介して交差するように感圧導電シート441の裏面に設けた複数の第二電極443とを有するユニットであるセンサセルが、図示しないが、複数連接された、特に交叉する複数の第一電極442及び第二電極443の部品点数が多く煩雑な構成となっている。
【0018】
このような構成の触覚センサ410は、各センサセルが互いに異なる複数の方向に対応した多数の櫛型又は平行電極(複数の交叉する第1電極442及び第2電極443)を有しているので、小型化が難しいとともに、特に多数のセンサセルが近接するように配置した場合には、多数の第1電極442及び第2電極443の全てからリード線を引き出すことは非常に困難である。また、各センサセルの構成が煩雑であり、センサセルの密度を高める場合の効率が非常に悪い。さらに、各センサセルで検出した荷重をその大きさに比例した電圧に変換する場合に、全ての接触抵抗に対して1:1の比率で抵抗を電圧に変換するR/V変換回路が必要となり、変換回路が大がかりなものとなり、小型・軽量化が難しいとともに製作コストも高くなる等々の問題点がある。
【0019】
また、特許文献1に記載のセンサシート201及び特許文献3に記載の触覚センサ410は、いずれも外部からの荷重の互いに異なる複数方向に対応した成分を正確に検出可能なように、それぞれコア部材240、接触子420を硬質材料で形成する必要があり、それぞれ感圧抵抗体212、222を有する荷重検出層、感圧素子440に簡易化し直接柔軟性物質を接触させて荷重を検出することができないという基本的な問題点がある。
【0020】
さらに、上記特許文献に記載等の従来の荷重センサは、いずれも耐熱性が一つの弱点となっている。例えば、一般的な歪ゲージを用いたロードセルなどのセンサは使用温度範囲の上限値が40℃から60℃程度であり、それよりも高い温度条件下での荷重測定が必要なケースが増えつつある。
【0021】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、簡潔な小形・軽量構造で設計の自由度を有し、荷重分解能が良く、高温環境を含む様々な環境下でも安定して接触荷重の大きさ及び方向を迅速に検出することができる柔軟接触型荷重測定センサを有する柔軟接触型荷重測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明の柔軟接触型荷重測定システムは、電気絶縁材料からなるスキン層を介して測定対象物と接触し荷重を受けるように配置された、柔軟で復元性がある柔軟弾性接触部と、前記柔軟弾性接触部が直接接触するように配置されて前記荷重を検出する荷重検出層とを備える柔軟接触型荷重センサを有する柔軟接触型荷重測定システムであって、前記荷重検出層は、電極が形成された一対の基板と、前記一対の基板の電極間に挟持され、電圧を印加した状態で荷重を負荷することにより電気抵抗値が変化する特性を備えた、カーボン系あるいは金属系を含む導電性複合材料からなる導電性部材と、を有し、前記一対の基板のうち、一方又は双方の基板は、前記導電性部材により電極を兼ねて一体的に形成された構成に置き換えが可能であることを特徴とする。
【0023】
また、前記導電性部材は、グラッシーカーボン(以下、GCという)を含む導電性複合材料からなることを特徴とする。
【0024】
また、前記一対の基板は、一方又は双方の基板上に形成された電極が、複数の均等に分割され配置されることを特徴とする。
【0025】
また、前記一対の基板のうち、一方又は双方の基板が、前記電極と一体的に構成されることを特徴とする。
【0026】
また、前記柔軟弾性接触部は、球状、半球状、柱体状、切頭錐体状のうちのいずれかの形状に形成されることを特徴とする。
【0027】
また、前記柔軟接触型荷重センサは、前記柔軟弾性接触部と荷重検出層とからなるセンサユニットが複数連設されてなることを特徴とする。
【0028】
さらに、前記柔軟接触型荷重センサに任意荷重Pが負荷されるときに、前記複数に分割された各電極ゾーンの電圧変化の検出値から前記任意荷重Pの水平成分であるせん断荷重Ptと垂直成分である垂直荷重Pnに分離して演算処理を行う演算処理システムの一部又は全体が、前記柔軟接触型荷重センサの構成の一部として柔軟接触型荷重センサの内部又は/及び外部に設けられることを特徴とする。
【0029】
本発明に係る柔軟接触型荷重センサは、例えばグラッシーカーボン(GC:Glass Like Carbon)又はグラッシーカーボン(GC)を含む例えば気相成長炭素繊維(VGCF:Vapor Grown Carbon Fiber)を添加したGC/VGCFなどの導電性複合材料からなる導電性部材が有する性質のうち、60℃さらには1000℃を超える環境下でも安定しているという耐熱性、及び電圧を印加しながら荷重を負荷すると電気抵抗値が変化するという性質を利用したものである。したがって、このような性質を有する物質であれば、どの物質であっても本発明の柔軟接触型荷重センサの導電性部材として使用することが可能である。
【0030】
また、本発明に係る柔軟接触型荷重センサに用いられる電極は、十分な導電性及び前記耐熱性を有している限り、材料に特に限定されない。
【0031】
本発明に係る柔軟接触型荷重センサに用いられる電極が形成された基板は、前記耐熱性を有し電極の固定が可能なものであれば、材料に特に限定されない。さらに、基板自体を金属あるいはGCを含む導電性複合材料などからなる導電性部材で作製し、前記電極と一体化させ電極を兼ねた導電性部材の構成に置き換える形態とすることもできる。
【0032】
本発明に係る柔軟接触型荷重センサにおいては、電極が形成された一対の基板のうちの一方又は双方の電極を例えば4等分などの複数に分割して、前記分割された電極をそれぞれゾーンα、β、γ、δ・・・などと定義して区別する。荷重センサに任意荷重Pが負荷されたときには、前記各ゾーンに荷重が分離されることで各ゾーンの電圧が変化する。これを利用して、各ゾーンの電圧変化の関係から前記柔軟接触型荷重センサに負荷される任意荷重Pを水平成分であるせん断荷重Ptと、垂直成分である垂直荷重Pnに分離して測定することが可能になる。また、前記電極の分割数を増やすことにより、各ゾーンの電圧変化の分解能を向上させ、これにより、詳細な荷重分布を正確に測定することが可能になる。
【0033】
さらに、せん断荷重Ptと、垂直荷重Pnの測定には、各ゾーンの電圧変化の検出値を用いての演算処理が必要となるため、この演算処理を行うための、演算処理手段乃至制御手段を有する演算処理システムの一部又は全体を前記柔軟接触型荷重センサの構成の一部として柔軟接触型荷重センサの内部又は/及び外部に設けても良い。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、電極が形成された一対の基板と、一対の基板の電極間に挟持されたグラッシーカーボンを含む導電性複合材料などの耐熱性及び電圧を印加しながら荷重を負荷すると電気抵抗値が変化するという特性を兼ね備えた導電性部材と、を有する簡潔な構成の柔軟接触型荷重センサにより、小形・軽量化が容易で設計の自由度を有し、例えば60℃さらには1000℃を超える高温環境を含む様々な環境下で安定して対象物に加わる荷重Pのうち、水平荷重Ptと垂直荷重Pnとをそれぞれに分離して荷重分解能が良く、接触荷重の大きさ及び方向を迅速に検出することが可能な柔軟接触型荷重測定システムを提供できる効果がある。
【0035】
さらに、本発明の構成によると、外部から加えられた荷重の互いに異なる複数方向に対応した成分が、柔軟弾性接触部と荷重検出層とからなるセンサユニットの複数のゾーンに対応した抵抗値の変化に基づいて検出されるので、各成分を検出するための演算システムが簡略化される効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る一実施形態(実施例1)の柔軟接触型荷重測定システムの概念を示す模式図である。
【図2】図1の柔軟接触型荷重センサの平面図であって、(a)はA−A線矢視図、(b)はB−B線矢視図である。
【図3】図1の柔軟接触型荷重センサの導電性部材における気相成長炭素繊維の配向(圧延)方向を説明するためのC−C線矢視平面図(模式図)であって、(a)は配向(圧延)方向θ=0°、(b)はθ=45°の場合の模式図である。
【図4】本発明に係る柔軟接触型荷重センサを複数のセンサユニットが連設されシート状に形成された実施形態の概念を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図5】図1の柔軟接触型荷重ゼンサに対し任意の荷重を負荷した状態を説明するための模式図である。
【図6】図1の柔軟接触型荷重ゼンサに対する任意の荷重をベクトル表記した模式図である。
【図7】図6の任意の荷重をベクトル解析して説明するための荷重ベクトル図である。
【図8】図1の柔軟接触型荷重測定システムの模式的な電気回路図である。
【図9】図1の柔軟接触型荷重ゼンサの中心に垂直荷重Pnを負荷したときの結果で、(a)は各ソーンの電圧変化量dVm(m=α、β、γ、δ)と垂直荷重Pnとの関係、(b)は垂直荷重Pnと電圧変化量dVmの総和Vとの関係を示すグラフである。
【図10】(a)は特許文献2記載の柔軟接触型荷重ゼンサの荷重分解能、(b)は図1の柔軟接触型荷重センサの荷重分解能を示すグラフである。
【図11】図1の柔軟接触型荷重センサの中心に垂直荷重Pnを負荷したときの電圧変化量の総和Vと垂直荷重Pnの関係を示すグラフで、(a)、(b)はそれぞれ再現性、ヒステリシスを示す。
【図12】図1の柔軟接触型荷重センサの中心からの距離を△xとしたとき、x方向へ△x移動させ(図6参照)、その位置で垂直荷重Pnを負荷したときの、垂直荷重Pnと電圧変化量の総和Vの関係を示すグラフである。
【図13】図1の柔軟接触型荷重センサに垂直荷重を7(N)負荷した状態で、せん断荷重Ptを負荷したときの結果で、(a)は各ソーンの電圧変化とせん断荷重Ptの関係、(b)は電圧変化△Vとせん断荷重Ptの関係を示すグラフである。
【図14】図1の柔軟接触型荷重センサに垂直荷重Pn=3〜7(N)を負荷した状態で、せん断荷重Ptを負荷したときの電圧変化△Vとせん断荷重Ptの関係を示すグラフである。
【図15】図14における垂直荷重Pnの変化による傾きKの関係を表したグラフである。
【図16】(a)〜(h)は、それぞれ本発明に係る柔軟接触型荷重センサの変形実施形態の柔軟弾性部を模式的に示す斜視図である。
【図17】(a)〜(g)は、それぞれ本発明に係る柔軟接触型荷重センサの変形実施形態の上部電極を模式的に示す平面図である。
【図18】(a)は本発明に係る別の実施形態(実施例2)の柔軟接触型荷重センサの垂直荷重測定の構成を概念的に説明するための模式図、(b)は(a)のD−D線矢視平面図である。
【図19】図18の柔軟接触型荷重センサの中心に垂直荷重Pnを負荷したときの結果で、(a)は各ソーンの電圧Vm(m=α、β、γ、δ)と垂直荷重Pnとの関係、(b)は各ソーンの電圧変化量dVmと垂直荷重Pnとの関係を示すグラフである。
【図20】図18の柔軟接触型荷重センサの中心に垂直荷重Pnを負荷したときの電圧変化量の総和Vと垂直荷重Pnの関係を示すグラフで、(a)、(b)はそれぞれ再現性、ヒステリシスを示す。
【図21】図18の柔軟接触型荷重センサの導電性部材としてPP/30wt%VGCFとPC/20wt%VGCFを用いたときにそれぞれ垂直荷重Pnを負荷した時の電圧変化量の総和Vと垂直荷重Pnの関係を示すグラフである。
【図22】本発明に係るさらに別の実施形態(実施例3)の柔軟接触型荷重センサの垂直荷重測定の構成を概念的に説明するための模式図である。
【図23】図22の柔軟接触型荷重センサの中心に垂直荷重Pnを負荷したときの電圧Vm変化と垂直荷重Pnの関係を示すグラフで、(a)、(b)はそれぞれヒステリシス、再現性を示す。
【図24】従来(特許文献1)のセンサシートの概略構成を示す模式図である。
【図25】(a)は従来(特許文献2)の柔軟接触型荷重測定センサのテスト時の概略構成を示す模式図、(b)は(a)の柔軟接触型荷重測定センサの基板に形成した模式的な電気回路図である。
【図26】(a)は従来(特許文献3)の触覚センサの一例を示す概略図、(b)は(a)の接触子に垂直荷重Fが加わった場合の接触子の変位を説明する概略図、(c)は(a)の接触子に水平荷重Fが加わった場合の接触子の変位を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の柔軟接触型荷重測定システムを実施するための形態の具体例を、添付図面を参照しながら説明する。これらの添付図中、実施例1乃至3における構成部材の一部形状が異なっていても同じ部材には同一の符号を付してある。
【実施例1】
【0038】
本発明に係る一実施形態による実施例1の柔軟接触型荷重測定システム1は、図1に概念的に示すように、電気絶縁材料のスキン層4を介して測定対象物例えば人体などと接触する柔軟で復元性がある柔軟弾性接触部2を備え、この柔軟弾性接触部2に作用する荷重Pを測定する柔軟接触型荷重センサ1を有する。
【0039】
実施例1の柔軟接触型荷重センサ1は、柔軟弾性接触部2と、荷重検出層3と、スキン層4とからなる。なお、以下においては、柔軟接触型荷重センサ1を例えば図示しないロボットアーム部の表面に取付けた場合をー例として説明する。
【0040】
荷重検出層3はロボットアーム部側、スキン層4は人体などの接触する測定対象物側にそれぞれ配置され、柔軟弾性接触部2は荷重検出層3とスキン層4との間に直接接触するように配置し挾持される構造になっている。
【0041】
柔軟弾性接触部2は、液体シリコンと硬化剤を9:1の質量比でシンナーも混合し、柔軟性があり弾性復帰力(復元性)を有している。シンナーを添加することで、柔軟弾性接触部2のヤング率を変えることができる。この実施例の柔軟弾性接触部2は、シンナーを質量比で40%添加しており、ヤング率は0.404MPa、 ポアソン比は0.492で、直径10mmの球体形状である。なお、柔軟弾性接触部2の材質は上記した材質に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアセタール(POM)等の高分子材料が適用可能である。
【0042】
荷重検出層3は、上部基板31と、下部基板32と、導電性部材33と、固定用フィルム34とからなり、上部基板31と下部基板32とにそれぞれ形成された電極の間に導電性部材33が挟持され、固定用フィルム34で固定し構成される。
【0043】
上部基板31には、ポリイミド製のフレキシブル基板を使用し、エッチング処理することにより、図2(b)に示すような90度毎四方に配置された4つの上部電極31α、31β、31γ、31δ(以上まとめて第1の電極部)が上部基板31下面上に設けられている。他方、下部基板32にはガラスエポキシ製のポジ感光基板を使用し、エッチング処理をすることにより下部基板32上面上には下部電極32A(第2の電極部)が設けられている。なお、上部基板31と下部基板32とを天地逆転させた変形形態、すなわち、図中上側に一面電極を有する下部基板32、下側には4つに分離された電極31α、31β、31γ、31δが配置された上部基板31としてもよい。
【0044】
導電性部材33には、PC(ポリカーボネート)に気相成長炭素繊維(昭和電工製の「VGCF」(登録商標))を例えば20wt%添加させた複合材料PC/20wt%VGCFを使用している。PC粉末と気相成長炭素繊維をペレット状にし、圧延することで気相成長炭素繊維が配向する。
【0045】
次いで、この気相成長炭素繊維の配向方向(圧延方向)について図3を参照して説明する。図3には、上部電極31α、31β、31γ、31δと、導電性部材33における気相成長炭素繊維の配向方向(図中の矢印方向)の関係が図示されており、図3(a)は配向方向θ=0°の状態、(b)は配向方向θ=45゜の状態を示している。同図(a)においては、上部電極31α、31γ下方における配向方向と、上部電極31β、31δ下方における配向方向が90度異なり、その結果、上部電極間において気相成長炭素繊維の量が異なってしまう。そこで、この実施例の柔軟接触型荷重センサ1においては、気相成長炭素繊維の量を一致させるために、同図(b)のように配向方向をθ=45°としている。
【0046】
また、この実施例においては、導電性部材33の四角形サイズは、12mmx12mmとしている。なお、柔軟弾性接触部2は何ら荷重が加わっていない状態においては、基準位置、すなわち4つの上部電極31α、31β、31γ、31δの延長線が交差する部分の上方すなわち荷重検出層3の中心上に中心軸を一致させ配置されている。
【0047】
また、導電性部材33の材質としては、上記に限定されず例えば下記表に示すものも適用可能である。
【表1】

なお、複合材料中に添加される形状としては、フレーク状、粉末状、繊維状などが適用可能である。
【0048】
さらに、導電性部材33として、グラッシーカーボン及びGCに気相成長炭素繊維を添加した複合材料GC/VGCF、例えば、GCに、VGCFを質量比で12wt%添加したGC/12wt%VGCFなどを用いることもできる。GC/VGCFは、グラッシーカーボンと同様、高温で使用可能な導電性部材として有効である。
【0049】
柔軟弾性接触部2とスキン層4及び荷重検出層3とは接着剤で接続されており、例えば、エポキシ系、シアノアクリレート系の接着剤等が適用可能である。
【0050】
柔軟接触型荷重センサ1に設置された柔軟弾性接触部2に任意荷重Pが負荷されたとき、各ゾーンに荷重が分離されることで各ゾーンの電圧Vm (m=α、β、γ、δ)が変化する。これにより、各ゾーンの電圧変化の関係から柔軟弾性接触部2に負荷される任意荷重Pを水平成分であるせん断荷重Ptと垂直成分である垂直荷重Pnに分離して測定することができる。
【0051】
せん断荷重Pt及び垂直荷重Pnの測定には、各ゾーンの電圧検出値を用いての演算処理が必要となるため、この実施例の柔軟接触型荷重測定システム10は、各ゾーンの電圧Vm (m=α、β、γ、δ)を検出する電圧検出手段120と、この電圧検出手段120からの電圧検出値を取込んで演算処理を行うための演算処理手段(又は制御手段)110と、上部電極31と下部基板50に形成された電極51への電圧を供給する安定化電源130とを有する演算処理システム100を備えている。演算処理システム100のこれら一部の手段又は全体は、柔軟接触型荷重センサ1の構成の一部として、柔軟接触型荷重センサ1の内部又は/及び外部に設けてもよい。
【0052】
以上、柔軟接触型荷重センサ1の柔軟弾性接触部2及び荷重検出層3がそれぞれ1つからなるセンサユニットについて説明したが、図4(a)、(b)に示すように、このセンサユニットを複数配置し連設してシート状に形成することにより、大面積の荷重を測定することも可能となる。
【0053】
(荷重測定の原理)
次に、上記のような構造の本発明に係る柔軟接触型荷重センサ1の荷重測定の原理について図5〜8を参照して説明する。なお、以下において荷重P及びPに下付き文宇が付加されたものは、ベクトル表記である。
【0054】
柔軟接触型荷重センサ1に負荷される任意の荷重Pは、図5に模式的に示すように、垂直方向の荷重Pnとせん断方向の荷重Ptに分離することができる。なお、図中、Z軸が荷重検出層3の中心軸であり、柔軟弾性接触部2の基準位置である。
【0055】
次に、荷重Pは大きさと方向を持つことから、図6及び7を参照して、柔軟接触型荷重センサ1に対する任意の荷重Pをベクトル表記により説明する。
【0056】
柔軟接触型荷重センサ1は、荷重Pを負荷することにより導電性部材33の抵抗値が変化することを利用し、その結果、上部電極31α、31β、31γ、31δと下部電極32Aとの間に電圧変化が生じ、この電圧変化を検出することにより接触荷重Pの大きさ及び方向を測定するものである。したがって、図6においては、この電圧変化が生ずる部分である、上部電極31αと下部電極32Aとの間、上部電極31βと下部電極32Aとの間、上部電極31γと下部電極32Aとの間及び上部電極31δと下部電極32Aとの間を、それぞれαゾーン、βゾーン、γゾーン及びδゾーンと表記する。また、図示の通り、各ゾーンの対角線上にx軸とy軸を定義し、荷重検出層3に対して垂直方向にその中心軸となるz軸を定義する。
【0057】
α〜δソーンでの任意の荷重ベクトルをそれぞれPα、Pβ、Pγ、Pδとすると、柔軟接触型荷重センサ1に負荷される任意の荷重ベクトルPは、下記式(1)のように表記することができる。
【数1】

【0058】
そこで、αゾーンを例にとると、荷重ベクトルPαはx方向、z方向の荷重ベクトルである。αゾーン荷重ベクトルPαが負荷され、αゾーンの電圧がdVα変化したとする。x、y、z方向の単位ベクトルをそれぞれi、j、kとすると荷重ベクトルPαは下記式(2)のように表わすことができる。すなわち、各ゾーンの電圧変化は、x、y、z方向を持った荷重による電圧変化であるため、電圧変化をx、y、zの座標点と考えるのである。
【数2】

【0059】
同様にβゾーン、γゾーン、δゾーンについても考えると、荷重ベクトルPβ、Pγ、Pδは下記[式3]のように表せる。
【数3】

【0060】
式(1)、(2)、(3)から、任意の荷重Pは式(4)のように表わせる。
【数4】

【0061】
これより、垂直方向の荷重ベクトルをPn、せん断方向の荷重ベクトルをPtとすると、それぞれ式(5)、(6)のように表わせる。
【数5】

【数6】

【0062】
したがって、垂直荷重Pnとせん断荷重Ptは、これらの関係を明らかにすることで求めることができ、その大きさはそれぞれ式(7)、(8)のように表わせる。
【数7】

【数8】

【0063】
柔軟接触型荷重センサ1は、抵抗値R=100Ωの固定抵抗を荷重検出層3の下部基板32の各ゾーンにそれぞれ接続し、図8に模式的に示すように、並列に構成した電気回路で表すことができる。また、導電性部材33は、いずれも荷重Pが負荷されると電気抵抗値が変化するため、可変抵抗Rα、Rβ、Rγ、Rδと考えることができ、図6の電気回路図のように表すことができる。各ゾーンの電圧をVα、Vβ、Vγ、Vδとした柔軟接触型荷重センサ1は安定化電源を用いて回路に初期電圧を流しているため、初期電圧をV0とし、各ソーンの電圧変化量dVm (m=α、β、γ、δ)を式(9)のように表わす。また、各ソーンの電圧変化量dVmの総和Vを式(10)のように表し、せん断荷重Ptを負荷したときの電圧変化△Vの関係を式(11)のように表わす。
【0064】
【数9】

【数10】

【数11】

【0065】
(垂直荷重の測定例)
次に、柔軟接触型荷重センサ1の中心に垂直荷重Pnを負荷し、垂直荷重Pnと各ゾーンの電圧変化の関係を調べた。
【0066】
卓上万能試験機((株)島津製作所EZ−L−500N)を用いて荷重負荷速度は0.5mm/min―定とした。電圧の供給には安定化電源を用いVo=9(V)一定に制御した。柔軟接触型荷重センサ1の中心に垂直荷重(Norma1 Load)Pnを負荷したときの各ゾーンの電圧変化量dVm (m=α、β、γ、δ)と垂直荷重Pnとの関係を図9(a)のグラフに、垂直荷重Pnと電圧変化量dVmの総和(Amount of voltage change)Vとの関係を図9(b)のグラフ示す。柔軟接触型荷重センサ1の中心に垂直荷重Pnを負荷しているため、各ゾーンで電圧変化量dVmが一致していることがわかる。
【0067】
また、このときの垂直荷重Pnと時間(Time)の関係である荷重分解能を図10(b)に示す。ここで比較のため、特許文献2の柔軟接触型荷重ゼンサの中心に垂直荷重Pnを負荷したときの荷重分解能を図10(a)に示す。
【0068】
特許文献2の柔軟接触型荷重ゼンサは、複数のマイクロスイッチをON−OFFすることで荷重を検出するため階段状のグラフになり、荷重分解能が劣っていることが明白である。
【0069】
―方、本発明の柔軟接触型荷重ゼンサ1は、スイッチをON−OFFすることで荷重を測定する構成ではなく、導電性部材33を使用し荷重Pnを加えた際の連続的な抵抗変化を検出することにより荷重測定を行なうことから、階段状にはならず滑らかに変化しているグラフとなっている。この結果から、本発明の柔軟接触型荷重ゼンサ1は、特許文献2の柔軟接触型荷重ゼンサに比して荷重分解能が良く、しかも、荷重分解能は市販のロードセルと略同じであることが分かる。また、アンプ(増幅器)を使用していないのでノイズも生じない。
【0070】
本発明の柔軟接触型荷重ゼンサ1の中心に垂直荷重Pnを負荷したときの電圧変化量dVmの総和Vと垂直荷重Pnの関係で、荷重Pnを徐々に増大させて負荷したときをloaded、その荷重Pnを徐々に減ずる復帰時をreleasedでそれぞれ表記したヒステリシスを図11(a)に示す。垂直荷重増加時と減少時とで差異はほとんどなくヒステリシスが小さいことがわかる。
【0071】
柔軟接触型荷重ゼンサ1の中心に垂直荷重Pnを4回(1th〜4th)繰り返し負荷する測定を行ったときの垂直荷重Pnと電圧変化量dVmの総和Vの関係の再現性を図11(b)のグラフに示す。同図から、4回の繰り返し荷重測定を行った結果、垂直荷重Pnの増加により電圧変化量dVmの総和Vは同様の変化をしていることから、再現性があることが確認できた。
【0072】
本発明の柔軟接触型荷重ゼンサ1の中心からの距離を△xとしたとき、x方向へ△x移動させた位置で垂直荷重Pnを負荷したときの、垂直荷重Pnと電圧変化量dVmの総和Vの関係を図12のグラフに示す。△xをそれぞれ0.0(荷重検出層3の中心)、0.5、1.0、1.5、2.0mmと変化させて電圧変化量dVmの総和Vの測定を行った。その結果、垂直荷重Pnの負荷される位置が変化しても電圧変化に違いは見られない。したがって、任意の荷重が負荷され、せん断荷重Ptにより柔軟弾性接触部2が荷重検出層3の中心から移動しても正確に垂直荷重Pnを測定できることがわかった。
【0073】
以上の本発明の柔軟接触型荷重センサ1の中心に垂直荷重Pnが負荷されたときの電圧変化量dVmの総和Vと垂直荷重Pnの関係を最小二乗法により式(12)を求めた。式(12)に各ソーンで得られた電圧変化量dVmの総和Vを代入することで垂直荷重Pnを測定できる。なお、本発明の柔軟接触型荷重センサ1の荷重分解能は0.05Nであり、市販のロードセルと同様の分解能であった。
【数12】

【0074】
(せん断荷重の測定例)
次いで、垂直荷重Pnをそれぞれ3〜7[N]負荷した状態で、せん断荷重Ptを負荷し、垂直荷重Pnがせん断荷重Ptに及ぼす影響について調べた。せん断荷重Ptはα方向からγ方向へ負荷した。せん断荷重負荷速度は30mm/min、せん断距離は2.0mmで負荷した。
【0075】
垂直荷重を7[N]負荷した状態で、せん断荷重Ptを負荷したときの結果を図13(a)、(b)に示し、同図(a)はせん断荷重(Shearing load)Ptを負荷させたときの各ソーンの電圧変化量dVm (m=α、β、γ、δ)とせん断荷重Ptの関係を示すグラフであり、(b)はせん断荷重Ptを負荷させたときの電圧変化△Vとせん断荷重Ptの開係を示すグラフである。このグラフから、せん断荷重Ptにより、各ソーンで電圧が変化していることが分かる。
【0076】
垂直荷重Pn=3〜7[N]を負荷し、せん断荷重Ptを負荷させたときの電圧変化△Vとせん断荷重Ptの関係を図14に示す。垂直荷重Pnの増加に従い、せん断荷重Ptと電圧変化△Vの関係は緩やかになる傾向を示している。電圧変化△Vは2次的に増加していることがわかり、この曲線の傾きをKとし、式(13)の関係を得た。また、垂直荷重Pnとせん断荷重Ptの間には一定の傾向が見られ、負荷する垂直荷重Pnが大きくなるほど変化が緩やかになる傾向を示す。
【数13】

【0077】
図14における垂直荷重Pnの変化による傾きK(Coefficient K)の関係を図15に示す。傾きKは、式(14)の関係があり、式(13)、(14)から式(15)を得た。図15中の実線は実験結果から得られた計算式である。以下の関係式に電圧変化量dVを代入することでせん断荷重Ptを求めることができる。
【数14】

【数15】

【0078】
以上をまとめると、本発明に係る一実施形態による実施例1の柔軟接触型荷重センサ1では、以下のような結果が得られた。
(1)ヒステリシスが小さい。
(2)負荷された荷重Pをベクトルとして検出でき、垂直荷重Pnベクトルと水平荷重Ptベクトルに分離することができた。また中心から離れて垂直荷重Pnが負荷されても、垂直荷重Pnと電圧変化量の総和Vの関係は変わらず、電圧変化量dVとせん断荷重Ptは2次的な関係にあった。
(3)荷重検出層3に例えばPC(ポリカーボネート)に気相成長炭素繊維(VGCF)を添加させた複合材料を使用し、ヤング率0.404MPa、直径10mmの柔軟弾性接触部2を用いることで、小型で柔軟な柔軟接触型荷重センサ1が実現でき、荷重分解能は市販されているロードセルと同じであった。なお、柔軟接触型荷重センサ1の柔軟弾性接触部2及び荷重検出層3がそれぞれ1つからなるセンサユニットを多数配置することにより、例えば、ロボットアーム、医療用ベッドなど大面積の荷重測定に使用できる。
【0079】
なお、上記実施例1においては、柔軟弾性接触部2は球状としたがこれに限定されるものではなく、例えば、図16(a)〜(h)に柔軟弾性接触部2の変形形態例の斜視図を示す(ただし、スキン層は省賂して図示している)ように、半球状、円往・四角柱などの柱体状、切頭円錐・切頭三角錐などの切頭鍾体状などで構成されてもよい。具体的には、図15(a)は柔軟弾性接触部2Aを半球状とした場合であり、底面21Aの中心がX、Y、Z軸の交点(原点)となるよう設置される。―方、この変形形態例として、図15(b)のように天地逆転して設置してもよい。
【0080】
同様に、図16(c)には切頭円錐体状の柔軟弾性接触部2Bを使用した場合が図示され、底面21Bを荷重検出層3上に設置させた場合である。これを天地逆転して設置した場合、すなわち天面22Bを荷重検出層3上に設置し底面21Bを天面とする変形形態を同図(d)に示している。
【0081】
図16(e)は、柔軟弾性接触部2Cを円柱状としている構成以外は上記と同様であり、同図(f)は柔軟弾性接触部2Dを四角柱状としている。
【0082】
図16(g)(h)も、柔軟弾性接触部2Eが切頭四角錘とする構成以外は同図(c)、(d)と同様である。
【0083】
また、上記実施例1においては、上部電極は、90度毎四方に配置された4つの上部電極31α、31β、31γ、31δとしたが、上部電極の形態はこれに限定されるものではなく、例えば、図17(a)〜(g)に示すような変形形態例が適用可能である。図7(a)〜(g)には、複数に分割された上部電極のバリエーションが平面図により図示されており、それぞれを構成する電極の形態は異なるが符号を変更して表記すると複雑化することから、使宜上同一符号(31A〜31G)を付している。
【0084】
図17(a)及び(b)は、上部電極を2つの電極31A、31Bから構成するパターンであり、この場合、原則的に荷重の方向はx方向のみ検知し得る実施形態である。実施形態によっては、x−yの2次元の方向を検知する必要はなく、x方向(あるいはy方向)のみの一次元の荷重方向のみを検知すれば足りる場合がある。そのような例として、例えば、x軸プラス方向に荷重が加わった場合には「ON」とし、x軸マイナス方向に荷重が加わった場合には「OFF」とする「スイッチ」として適用した場合には、このセンサは、ON−OFF動作だけでなく、「ON」あるいは「OFF」となったときの荷重の大きさまで測定することが可能となる。なお、図16(a)は、同図(b)に比べて電極31A、31Bの面積を広くした形態であり、電極の面積を広くした方が荷重の大きさの測定精度は向上する。
【0085】
図17(b)及び(c)は、3つの電極31A、31B、31Cから上部電極を構成した実施形態、同図(e)は4つの電極31A、31B、31C、31Dから上部電極を構成した変形実施形態、同図(f)及び(g)は8つの電極31A、31B、31C、31D、31E、31F、31G、31Hから上部電極を構成した揚合の実施形態である。2つの電極31A、31Bだけでは、一次元の荷重方向しか測定できないが、少なくとも3つの電極31A、31B、31Cを設ければ2次元の荷重方向の測定が可能となり、電極の数が増えれば増えるほど荷重方向の側定精度は向上する傾向にある。
【実施例2】
【0086】
本発明に係る別の実施形態による実施例2の柔軟接触型荷重センサ1Xは、図18(a)に概念的に示すように、柔軟弾性接触部2の形状が直径10mm×長さ5mmの円柱状に形成されている点と、荷重検出層3Xの導電性部材33Xに、PP(ポリプロピレン)に30wt%の気相成長炭素繊維(VGCF)を添加させた複合材料PP/30wt%VGCFを使用している点を除き、前記実施例1と同様の基本構成である。
【0087】
(垂直荷重の測定例)
次に、柔軟接触型荷重センサ1Xの中心に垂直荷重Pnを負荷し、垂直荷重Pnと各ゾーンの電圧Vm (m=α、β、γ、δ)変化の関係を調べた。卓上万能試験機((株)島津製作所EZ−L−500N)を用い荷重負荷速度は0.5mm/min―定とするなど前記実施例1と同じ条件として、電圧の供給には安定化電源を用いVo=9(V)一定に制御した。
【0088】
柔軟接触型荷重センサ1Xの中心に垂直荷重(Norma1 Load)Pnを負荷したときの各ゾーンの電圧Vm (m=α、β、γ、δ)変化と垂直荷重Pnとの関係を図19(a)のグラフに、電圧変化量dVm (m=α、β、γ、δ)と垂直荷重Pnとの関係を図19(b)のグラフに示す。柔軟接触型荷重センサ1Xの中心に垂直荷重Pnを負荷しているため、各ゾーンで電圧変化が一致していることがわかる。
【0089】
柔軟接触型荷重ゼンサ1Xの中心に垂直荷重Pnを5回(1th〜5th)繰り返し負荷する測定を行ったときの垂直荷重Pnと電圧変化量dVmの総和Vの関係の再現性を図20(a)のグラフに示す。同図から、5回の繰り返し荷重測定を行った結果、垂直荷重Pnの増加により電圧変化量dVmの総和Vは同様の変化をしていることから、再現性があることが確認できた。
【0090】
柔軟接触型荷重ゼンサ1Xの中心に垂直荷重Pnを負荷したときの電圧変化量dVmの総和Vと垂直荷重Pnの関係で、荷重Pnを徐々に増大させて負荷したときをloaded、その荷重Pnを徐々に減ずる復帰時をreleasedでそれぞれ表記したヒステリシスを図20(b)に示す。垂直荷重増加時と減少時とで差異はほとんどなくヒステリシスが小さいことがわかる。
【0091】
導電性部材33Xに実施例2の複合材料PP/30wt%VGCFを使用した場合と前記実施例1の複合材料PC/20wt%VGCFを使用した場合の柔軟接触型荷重ゼンサ1Xの中心に垂直荷重Pnを負荷したときの電圧変化量dVmの総和Vと垂直荷重Pnの関係を比較したグラフを図21に示す。
【0092】
図21から導電性部材33Xに複合材料PC/20wt%VGCFを使用した場合に比べてPP/30wt%VGCFを使用した場合の方が、特に低荷重域における感度が高いことがわかる。
【0093】
なお、ここでは、せん断荷重Ptは測定していないが、前記実施例1と同様に、荷重検出層3Xを分割することによるせん断荷重Ptの測定も十分に可能である。
【0094】
また、導電性部材として上記の他、例えば、エポキシ樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などにVGCFを添加する複合材料も適用できる。
【実施例3】
【0095】
本発明に係るまた別の実施形態による実施例3の柔軟接触型荷重センサ1Yは、図22に示すように、荷重検出層3Yの下部電極と導電性部材33Yを一体として構成した点を除き、前記実施例2と同様の基本構成である。この実施例では、下部電極を兼ねた導電性部材33YとしてGCを用いた。
【0096】
(垂直荷重の測定例)
このように下部電極と導電性部材33Yを一体として前記実施例1、2における下部基板32を省き構成を簡略化した実施例3の柔軟接触型荷重センサ1Yの作用を確認するため、前記実施例2と同様に、以下の通り垂直荷重Pnの測定を行った。卓上万能試験機((株)島津製作所EZ−L−500N)を用いて荷重負荷速度は0.5mm/min―定とした。電圧の供給には安定化電源を用いVo=5(V)一定に制御した
【0097】
柔軟接触型荷重センサ1Yの中心に垂直荷重Pnを負荷したときの電圧Vm変化と垂直荷重Pnの関係の一例で、荷重Pnを徐々に増大させて負荷したときをloaded、その荷重Pnを徐々に減ずる復帰時をreleasedでそれぞれ表記したヒステリシスを図23(a)に示す。垂直荷重Pn増加時と減少時とで差異はほとんどなく、ヒステリシスが小さいことがわかる。
【0098】
また、図23(a)から、垂直荷重Pnが増加すると、前記実施例1、2と同様に、電圧Vmが減少していることが認められる。
【0099】
柔軟接触型荷重ゼンサ1Yの中心に垂直荷重Pnを5回(1th〜5th)繰り返し負荷する測定を行ったときの垂直荷重Pnと電圧Vmの関係の再現性を図23(b)のグラフに示す。同図から、5回の繰り返し荷重測定を行った結果、垂直荷重Pnの増加に従い電圧Vmは同様の変化をしていることから、再現性があることが確認できた。
【0100】
したがって、この実施例の柔軟接触型荷重センサ1Yは、一方又は双方の電極と導電性部材33Yとを一体として構成された場合であっても、柔軟接触型荷重センサとして適用が可能であると認められる。
【0101】
なお、この実施例でも、せん断荷重Ptは測定していないが、前記実施例1と同様に、荷重検出層3Yを分割することによるせん断荷重Ptの測定も十分に可能である。
【0102】
こように、導電性部材33Yが電極の機能も兼ね備える構成により、構造が一層簡潔化され小形・軽量化された柔軟接触型荷重センサ1Yを提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に係る柔軟接触型荷重測定システムは、高い耐熱性を有していながら、高温環境を含む様々な環境下で安定して荷重分解能が良く、接触荷重の大きさ及び方向を迅速に検出することが可能な柔軟接触型荷重センサを有するため、あらゆる分野のロボット関係、機械装置用の感圧センサ、コンピュータの入力装置等を含む広範な産学会分野に利用することが可能である。また、本発明に係る柔軟接触型荷重センサは簡潔な構造で小型・軽量化、薄型化が容易なため設計の自由度を有し、例えば生体を扱う場合のような、繊細な作業が必要な様々な医療分野等にも、機器の精度を落とすことなく、好適に利用が可能である。
【符号の説明】
【0104】
1、1X、1Y;柔軟接触型荷重センサ
2、2A、2B、2C、2D、2E、2X;柔軟弾性接触部
3、3X、3Y;荷重検出層
4;スキン層
10;柔軟接触型荷重測定システム
31;上部基板
31α、31β、31γ、31δ;上部電極(纏めて、第1の電極部)
32;下部基板
32A;下部電極
33、33X、33Y;導電性部材
34;固定用フィルム
100;演算処理システム
110;演算処理(又は制御)手段
120;電圧検出手段
130;安定化電源
dVm;(m=α、β、γ、δ) (各ゾーンの)電圧変化量
GC;グラッシーカーボン
P;任意荷重
Pm; (m=α、β、γ、δ) 各ゾーンに負荷される荷重
Pn;垂直荷重
Pt;せん断荷重(水平荷重)
R;(電気)抵抗(抵抗値)
R1、R2、R3、R4;(各ゾーンの抵抗)可変抵抗
V;電圧変化量の総和
V0;初期電圧(電源電圧)
VGCF;気相成長炭素繊維
Vm;(m=α、β、γ、δ) 各ゾーンの(上部及び下部電極間の)電圧
Vm0;(m=1、2、3、4) 各ゾーンの初期電圧
ΔV;電圧変化
θ;(気相成長炭素繊維の)配向(圧延)方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁材料からなるスキン層を介して測定対象物と接触し荷重を受けるように配置された、柔軟で復元性がある柔軟弾性接触部と、前記柔軟弾性接触部が直接接触するように配置されて前記荷重を検出する荷重検出層とを備える柔軟接触型荷重センサを有する柔軟接触型荷重測定システムであって、
前記荷重検出層は、
電極が形成された一対の基板と、
前記一対の基板の電極間に挟持され、電圧を印加した状態で荷重を負荷することにより電気抵抗値が変化する特性を備えた、カーボン系あるいは金属系を含む導電性複合材料からなる導電性部材と、を有し、
前記一対の基板のうち、一方又は双方の基板は、前記導電性部材により電極を兼ねて一体的に形成された構成に置き換えが可能であることを特徴とする柔軟接触型荷重測定システム。
【請求項2】
前記導電性部材は、グラッシーカーボンを含む導電性複合材料からなることを特徴とする請求項1記載の柔軟接触型荷重測定システム。
【請求項3】
前記一対の基板は、一方又は双方の基板上に形成された電極が、複数の均等に分割され配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の柔軟接触型荷重測定システム。
【請求項4】
前記一対の基板のうち、一方又は双方の基板が、前記電極と一体的に構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の柔軟接触型荷重測定システム。
【請求項5】
前記柔軟弾性接触部は、球状、半球状、柱体状、切頭錐体状のうちのいずれかの形状に形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の柔軟接触型荷重測定システム。
【請求項6】
前記柔軟接触型荷重センサは、前記柔軟弾性接触部と荷重検出層とからなるセンサユニットが複数連設されてなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の柔軟接触型荷重測定システム。
【請求項7】
前記柔軟接触型荷重センサに任意荷重Pが負荷されるときに、前記複数に分割された各電極ゾーンの電圧変化の検出値から前記任意荷重Pの水平成分であるせん断荷重Ptと垂直成分である垂直荷重Pnに分離して演算処理を行う演算処理システムの一部又は全体が、前記柔軟接触型荷重センサの構成の一部として柔軟接触型荷重センサの内部又は/及び外部に設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の柔軟接触型荷重測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2013−61208(P2013−61208A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199109(P2011−199109)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(502034903)株式会社スズキプレシオン (13)