説明

柱梁接合部構造

【課題】 柱梁接合部に入力するせん断力を低減することにより、コストダウンを図ると共に部材断面積を増加させることがない柱梁接合部構造を提供する。
【解決手段】 柱部材20と梁部材10との接合部(柱梁接合部30)において、梁部材10の二段筋50又は柱部材20の二段筋70の少なくとも一方をX形状に折り曲げ加工して配筋する。また、X形状の配筋部分において、コンクリートに対する鉄筋の付着力を低減させることが好ましい。さらに、二段筋50,70のX形状折曲部は、当該二段筋50,70と交差する方向に位置する一段筋60,40の接合部中心側に位置させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RC造ラーメン構造等の柱梁接合部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の一般的な柱梁接合部構造を示す模式図である。図5に示すように、一般的なRC造の柱梁接合部30は、柱部材20では上下の軸鉄筋(100,110)が、梁部材10では左右の軸鉄筋(200,210)が柱梁接合部30内を貫通している。このような構造において、大地震の発生時等には柱梁接合部30を中心に上下左右の柱部材20及び梁部材10に対して逆対称方向のモーメント(M)及びせん断力(Q)が発生する。このとき、各部材の端部では、モーメント(M)に応じた引張力(T)と圧縮力(C)とが発生する。例えば、水平方向の梁の引張力(T)については、引張側の一段筋による引張力bT1及び二段筋による引張力bT2の合力(bT1+bT2)として、梁の圧縮力(C)については、圧縮側の一段筋による圧縮力bC1及び二段筋による圧縮力bC2、及び圧縮側のコンクリートの圧縮力bCcの合力(bC1+bC2+bCc)として、それぞれ柱梁接合部30に入力される。柱梁接合部30に入力される水平方向のせん断力(Th)は、下記式(1)で表すことができる。
【0003】
Th=(bT1+bT2)+(bC1+bC2+bC)−cQ ・・・ (1)
この水平方向の接合部入力せん断力(Th)に対して、柱梁接合部30のせん断強度がある程度余裕をもって上回るように設計しなければならない。この際、大きな水平力が作用する高層住宅の低層部では、部材の曲げ強度を確保するために、高強度の太径鉄筋を上下二段配筋で配置しようとすると、柱梁接合部入力せん断力を上回る柱梁接合部せん断強度を確保することが困難となる場合もある。そこで、柱梁接合部30の強度を上げるためには、柱部材20や梁部材10の断面積を大きくして、せん断強度に寄与できる面積を増加させるか、柱梁接合部30のコンクリート強度を上げるしか方策がない。
【0004】
従来、柱梁接合部内で発生する引張応力を減少させて、柱梁接合部におけるせん断耐力を高めるようにした柱梁接合部の補強構造が提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載された技術は、柱の柱梁接合部に対して両側から接合される上部梁主筋と下部梁主筋を備えた梁からなるコンクリート系構造物の柱梁接合部に適用する技術である。そして、双方の梁の端面から柱梁接合部内に延びる上部梁主筋が、他方の梁の端面に向かって斜め下方に延び、他方の梁の端面から水平に内部に向かって定着されている。さらに、双方の梁の端面から柱梁接合部内に延びる下部梁主筋が、他方の梁の端面に向かって斜め上方に延び、他方の梁の端面から水平に内部に向かって定着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−23603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、柱梁接合部の強度を上げるために柱部材や梁部材の断面積を大きくしたのでは、製造コストが上昇するという問題がある。さらに、意匠上の制約から、柱部材や梁部材の断面積を増加させることは困難である。また、外付けの耐震補強を行う場合には、既存部の外面に対して補強部の厚みが増加することなり、この場合にも意匠上の制約が伴うことが多い。
【0007】
また、コンクリート強度を上げることも、製造コストの上昇に繋がる。すなわち、下記式(2)に示すように、コンクリートが高強度になればなるほど、せん断強度の上昇割合が低下してくるため、高強度のコンクリートを用いる効果は小さくなる傾向になっていく。
せん断強度=定数×(コンクリート強度)1/2〜2/3 ・・・ (2)
【0008】
しかし、柱梁のみで構成されるラーメン構造の水平強度を確保するためには、構成部材である柱部材及び梁部材の曲げ強度を所定の強さだけ確保する必要があり、曲げ強度は、引張鉄筋が負担できる引張力(断面積×強度)にほぼ比例する。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、柱梁接合部に入力するせん断力を低減することにより、コストダウンを図ると共に部材断面積を増加させることがない柱梁接合部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の柱梁接合部構造は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の柱梁接合部構造は、柱部材と梁部材との接合部において、梁部材二段筋又は柱部材二段筋の少なくとも一方をX形状に折り曲げ加工して配筋したことを特徴とするものである。ここで、X形状に折り曲げる二段筋は、梁部材二段筋又は柱部材二段筋のいずれか一方、あるいは梁部材二段筋及び柱部材二段筋の双方である。例えば、梁部材の鉄筋量が多いため、柱梁接合部の水平方向のせん断設計が困難な場合に、右梁部材の上側二段筋を柱梁接合部内で折り曲げて貫通させ、左梁部材の下側二段筋となるようにX型配置する。さらに、鉛直方向のせん断設計が困難な場合には、柱部材に対しても、同様に二段筋をX形配筋すればよい。このような構造とすることにより、X形配筋とした二段筋に起因する柱梁接合部への入力せん断力を低減することができる。
【0011】
また、上述した構成に加えて、X形状の配筋部分において、コンクリートに対する鉄筋の付着力を低減させることが好ましい。このような構成からなる柱梁接合部構造では、X形配筋とした二段筋とコンクリートとの付着力に起因する柱梁接合部への入力せん断力をさらに一層低減することができる。例えば、X形状の配筋部分において、鉄筋の外周をビニール等の被覆材で被覆して、コンクリートに対する鉄筋の付着力をほぼ無くすことにより、柱梁接合部への入力せん断力もほぼ無くなることになる。
【0012】
さらに、上述した構成に加えて、二段筋のX形状折曲部は、当該二段筋と交差する方向に位置する一段筋の接合部中心側に位置させることが好ましい。例えば、梁部材の二段筋をX形配筋とした場合には、X形状折曲部を柱部材の一段筋の接合部中心側に位置させる。また、柱部材の二段筋をX形配筋とした場合には、X形状折曲部を梁部材の一段筋の接合部中心側に位置させる。このような構成からなる柱梁接合部構造では、柱部材又は梁部材が負担するせん断力を低減することができる。
【0013】
なお、上述した特許文献1に記載された技術は、鉄筋の引張力を、引張応力場内で圧縮力に変換することにより、間接的に引張力を低減しているのに対して、本発明は、引張力及び圧縮力が同時に作用する鉄筋どうしを同じ鉄筋とすることにより、水平方向の力が釣り合うようにするという点で、両者は相違する。また、柱の垂直方向の鉄筋についても同じ原理であり、両者は相違する。
【0014】
特許文献1の図面を参照して、特許文献1に記載された技術の原理を説明する。特許文献1に記載された技術は、特許文献1の図1に示すように、梁12内の上部梁主筋22に生じる引張力が、柱梁接合部11c内を斜めに横切り、梁13内で鉄筋の末端にプレート定着(先端部分22a)を設けることにより定着されるものである。このとき、プレート定着(先端部分22a)には、鉄筋に作用する引張力によるコンクリートとの圧縮力が発生する。しかし、このコンクリートの圧縮力が作用する位置が、下部梁主筋33の引張力による引張応力場内であるため、結果として下部梁主筋33による引張力を打ち打ち消し合うようになっている。したがって、下部梁主筋33による引張力に起因して柱梁接合部11c内に入力するせん断力が低減されることになる。特許文献1の図3にも同様の技術が示されている。
【0015】
また、特許文献1の図4では、プレート定着(先端部分22a)の代わりに直線定着とすることにより、コンクリートと鉄筋の付着力が下部梁主筋33の引張力と打ち消し合う方向となり、柱梁接合部内への入力せん断力を低減するようになっている。
これに対して、本発明は、特許文献1の図1において、左右の梁で同時に引張力が作用する梁主筋(上部梁主筋22,下部梁主筋33)どうしを、直接一本の鉄筋としている点に特徴がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の柱梁接合部構造によれば、梁部材二段筋又は柱部材二段筋の少なくとも一方をX形状に折り曲げ加工して配筋することにより、固定された梁部材又は柱部材の断面積や鉄筋量を保ったまま、すなわち、部材の曲げ強度を保ったまま、柱梁接合部に入力するせん断力を低減することができる。また、X形状の配筋部分において、コンクリートに対する鉄筋の付着力を低減させることにより、柱梁接合部に入力するせん断力をさらに一層低減することができる。さらに、二段筋のX形状折曲部を、当該二段筋と交差する方向に位置する一段筋の接合部中心側に位置させることにより、より一層確実に、柱部材又は梁部材に入力するせん断力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る柱梁接合部構造を示す模式図。
【図2】X形状の配筋部分に使用する鉄筋の断面模式図。
【図3】X形状の鉄筋の折曲部に発生する力と付着力の釣り合いを示す模式図。
【図4】X形状の鉄筋の折曲部に発生する支圧力及びせん断力を示す模式図。
【図5】従来の一般的な柱梁接合部構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る柱梁接合部構造の実施形態を説明する。本発明の実施形態に係る柱梁接合部構造は、RC造ラーメン構造又は壁式ラーメン構造の一般建築物で、特に高強度鉄筋を用いる高層住宅や、RC造もしくはSRC造のラーメン構造、壁式ラーメン構造の既存建物を建物外側から補強するために、新設のRC造ラーメン架構を貼り付けたり、構面を増設したりする場合に、好適に適用されるものである。
【0019】
また、通常、柱部材及び梁部材の軸鉄筋は、柱梁接合部内をすべて貫通する構造(十字形)、梁部材主筋が接合部内で定着される構造(ト形)、柱部材主筋が接合部内で定着される構造(T形)、柱部材主筋及び梁部材主筋の双方が定着される構造(L形)がある。本発明は、柱梁接合部内をすべて貫通する構造(十字形)でない場合には、主筋が貫通する部材についてのみ適用するものである。
【0020】
<梁部材の配筋>
本発明の実施形態に係る柱梁接合部構造は、図1に示すように、柱梁接合部30において、右梁部材11の二段筋50をそれぞれ柱梁接合部30内で折り曲げて貫通させ、左梁部材12の二段筋50となるようにX型配置している。すなわち、右梁部材11の上側の二段筋50を、柱梁接合部30内の右側で下側に折り曲げると共に、柱梁接合部30内の左側で一段筋40と平行となるように折り曲げて柱梁接合部30内を貫通させることにより、左梁部材12の下側の二段筋50とする。同様に、右梁部材11の下側の二段筋50を、柱梁接合部30内の右側で上側に折り曲げると共に、柱梁接合部30内の左側で一段筋40と平行となるように折り曲げて柱梁接合部30内を貫通させることにより、左梁部材12の上側の二段筋50とする。
【0021】
<柱部材の配筋>
同様に、柱梁接合部30において、上柱部材21の二段筋70をそれぞれ柱梁接合部30内で折り曲げて貫通させ、下柱部材22の二段筋70となるようにX形配置している。すなわち、上柱部材21の右側の二段筋70を、柱梁接合部30内の上側で左側に折り曲げると共に、柱梁接合部30内の下側で一段筋60と平行となるように折り曲げて柱梁接合部30内を貫通させることにより、下柱部材22の左側の二段筋70とする。同様に、上柱部材21の左側の二段筋70を、柱梁接合部30内の上側で右側に折り曲げると共に、柱梁接合部30内の下側で一段筋60と平行となるように折り曲げて柱梁接合部30内を貫通させることにより、下柱部材22の右側の二段筋70とする。なお、柱部材20の二段筋70をX形配筋とするのは、鉛直方向のせん断設計が困難な場合である。
【0022】
<X形配筋における力の作用>
このような構成からなる柱梁接合部構造では、X形状の配筋とした部分において、鉄筋の両端部で同方向の力が作用することになる。すなわち、梁部材10について考えると、図1に示すように、梁部材10に対して右回りのモーメント(bM1、bM2)が発生すると、右上側から左下側へ向かう梁部材二段筋50では、柱梁接合部30においてそれぞれ引張力(bT2、bT2)が作用する。一方、右下側から左上側へ向かう梁部材二段筋50では、柱梁接合部30においてそれぞれ圧縮力(bC2、bC2)が作用する。
【0023】
同様に、柱部材20について考えると、図1に示すように、柱部材20に対して左回りのモーメント(cM1、cM2)が発生すると、左上側から右下側へ向かう柱部材二段筋70では、柱梁接合部30においてそれぞれ圧縮力(cC2、cC2)が作用する。一方、右上側から左下側へ向かう柱部材二段筋70では、柱梁接合部30においてそれぞれ引張力(cT2、cT2)が作用する。
このとき、柱梁接合部30には、コンクリートとの付着によって伝達される力成分によって入力されるせん断力のみが作用するので、従来の柱梁接合部構造と比較して、入力されるせん断力を低減することができる。
【0024】
<X形状の配筋部分に使用する鉄筋>
本実施形態において、X形状の配筋部分に使用する鉄筋は、図2に示すように、外周がビニール等の被覆材(例えばシース管)で被覆されている。この被覆部分では、コンクリートに対する鉄筋の付着力が低減する(コンクリートとの付着力を無くす)ことができる。X形状の配筋部分に使用する鉄筋は、図2に示すものに限られず、鉄筋の外周面をブチレンゴム系のアンボンド材でコーティングする等、コンクリートに対する付着力を低減することができれば、どのような構成であってもよい。
【0025】
<X形状折曲部の位置>
本実施形態において、二段筋(50,70)のX形状折曲部は、図4に示すように、当該二段筋(50,70)と交差する方向に位置する一段筋(60,40)の接合部中心側に位置させている。すなわち、梁部材10の二段筋50をX形配筋とした場合には、二段筋50のX形状折曲部を柱部材20の一段筋60の接合部中心側に位置させる。また、柱部材20の二段筋70をX形配筋とした場合には、二段筋70のX形状折曲部を梁部材10の一段筋40の接合部中心側に位置させる。
【0026】
このように、鉄筋の折曲部を柱梁接合部30内へ引き込む構造とすることにより、梁部材10又は柱部材20に付加するせん断力を低減することができる。なお、低減されたせん断力は、柱梁接合部30内に入力されることになるが、二段筋(50,70)を折り曲げてX形配筋とすることにより、以下に説明する効果が生じる。
【0027】
例えば、図4に示すように、柱部材二段筋70の折曲部付近に発生する支圧力cσ2と、梁部材一段筋40とコンクリートとの付着力に起因して柱梁接合部30に入力するせん断力bτ1とが互いに打ち消し合う作用により、柱梁接合部30への入力せん断力の低減、及び柱部材20の部材せん断力の低減を図ることができる。同様に、梁部材二段筋50の折曲部付近に発生する支圧力bσ2と、柱部材一段筋60とコンクリートとの付着力に起因して柱梁接合部30に入力するせん断力cτ1とが互いに打ち消し合う作用により、柱梁接合部30への入力せん断力の低減、及び右梁部材11の部材せん断力の低減を図ることができる。
【0028】
したがって、二段筋(50,70)が負担している力を、梁部材10又は柱部材20と柱梁接合部30とに振り分けるように積極的な設計が可能となり、設計の自由度を増すことができる。
【0029】
<せん断力の低減>
次に、本実施形態の柱梁接合部構造によって、せん断力が低減する仕組みを説明する。
柱梁構造に対して図1に示すような逆対称モーメントが発生すると、柱梁接合部30において、図3に示すように、ストラット機構として、左上から右下へ向かうコンクリートの圧縮束(ストラット)が形成される。そして、柱梁接合部30では、ストラットと二段筋(50,70)の圧縮力(bC2,cC2)とが丁度重なっている。このため、二段筋(50,70)の圧縮力(bC2,cC2)が負担する分だけ、柱梁接合部30のコンクリートが負担するせん断力が低減される。さらに、X形状の配筋部分において、コンクリートに対する鉄筋の付着力を低減させる(付着力を切る)ことにより、X形状の二段筋(50,70)における負担力を増加させることができる。
【符号の説明】
【0030】
10 梁部材
11 右梁部材
12 左梁部材
20 柱部材
21 上柱部材
22 下柱部材
30 柱梁接合部
40 梁部材一段筋
50 梁部材二段筋
60 柱部材一段筋
70 柱部材二段筋
100 従来の柱部材の軸鉄筋(一段筋)
110 従来の柱部材の軸鉄筋(二段筋)
200 従来の梁部材の軸鉄筋(一段筋)
210 従来の梁部材の軸鉄筋(二段筋)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱部材と梁部材との接合部において、梁部材二段筋又は柱部材二段筋の少なくとも一方をX形状に折り曲げ加工して配筋したことを特徴とする柱梁接合部構造。
【請求項2】
前記X形状の配筋部分において、コンクリートに対する鉄筋の付着力を低減させることを特徴とする請求項1に記載の柱梁接合部構造。
【請求項3】
前記二段筋のX形状折曲部は、当該二段筋と交差する方向に位置する一段筋の接合部中心側に位置させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の柱梁接合部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−185231(P2010−185231A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30602(P2009−30602)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)