説明

柱構造および柱構造の構築方法

【課題】高い軸力が作用する柱部材に超高強度繊維補強コンクリートを適用するにあたり、耐火の問題を解決すると同時に、施工性に優れ、かつ耐火層が一体となった柱構造および柱構造の構築方法を提供すること。
【解決手段】超高強度繊維補強コンクリート製のコア部7の周囲に耐火層9を設け、コア部7と耐火層9との間に樹脂製の低剛性層13を設ける。また、コア部7の上方の支圧板5と耐火層9との接合部、コア部7の下方の支圧板5と耐火層9との接合部、耐火層9の中間部のうち少なくとも一箇所に、耐火層9に軸力を伝達しないためのスリット11を縁切り部として設ける。コア部7は、鋼繊維や炭素繊維、ガラス繊維等を含有する超高強度繊維補強コンクリート製とする。耐火層9は、ポリプロピレン繊維補強コンクリート製とする。低剛性層13は、例えば、潜熱作用を発現する樹脂とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱構造および柱構造の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、道路トンネルなどの地下構造物などでは、大深度である場合あるいは断面が扁平である場合、土圧に抵抗するために、中壁・中柱などによって断面が複数に分割される。中柱は、円形または矩形の柱であって、常時においては上載土圧に抵抗し、地震時においてはトンネルの変形にも追随できるような変形性能が要求される部材である。
【0003】
中柱には、鋼管やコンクリート充填鋼管(以下、CFTとする)などが用いられる。また、近年、国内外で各種開発された圧縮強度が150N/mm2を超えるような超高強度繊維補強コンクリート(以下、UFCとする)も適用されている。道路トンネルの車線合流部の中柱については、運転者の視認性を確保するためにも、できるだけ間隔を開けて配置し、柱の断面は小さい方が好ましい。超高強度繊維補強コンクリートを用いた中柱は、その強度を活かし、柱の配置間隔を大きくしたり、柱断面を小さくできる点で優れている。
【0004】
一方、道路トンネルにおいては、火災時の耐火性の確保も重要である。このため、従来、鋼管やCFTを用いた中柱に対しては、耐火パネル、耐火塗装、耐火モルタルなどが施されている。
【0005】
また、UFCのようなコンクリート系材料は、火災時においては、内部に含まれている水蒸気の膨張圧が高まり、また非定常熱応力が生じることにより、表面からウロコ状に剥離したり爆裂したりするなどの現象を起こしやすいことが明らかになっている(例えば、特許文献1参照)。したがって、UFCを利用した中柱においては、火災時に部材が剥離・爆裂し、これが進行することにより部材断面が縮小して断面耐力が低下し、崩壊することが懸念される。
【0006】
UFCを利用した中柱における耐火対策としては、耐火パネル、耐火塗料、耐火モルタルなどの他、柱部材の断面を、構造上必要となる大きさよりも火災時に爆裂など損傷する分だけ大きくしておく方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−300275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、耐火対策として用いられる耐火パネルは、平板状の製品においても一般に高価である。中柱に適用する場合には、半割あるいは複数に分割した円筒形の部材となるため、さらに高価となる傾向がある。また、継目の処理が重要となり、火災発生時に隣り合う耐火パネル間の隙間から火炎が侵入して十分な耐火性能が確保できなくなる懸念がある。
【0009】
耐火塗装に用いられる耐火塗料は、基層である構造部材表面に、火災の熱により20〜30倍に発泡して断熱層を形成するものである。耐火塗装は鋼材の耐火対策としては有効であるが、発泡層が剥離しやすいためコンクリートには不向きである。こうした課題を改善しようとする試みもされているが、仮に剥離の問題が解決されたとしても、耐火塗装における耐火性能を維持するための上塗材は経年劣化するため、耐火性能を長期に亘って維持するには、施工後に定期的な検査や適切な補修又は塗り増し等の対策が必要である。
【0010】
耐火モルタルは、耐火被覆材からなるモルタルを柱部材の表面に吹付けまたは型枠内へ充填注入し、モルタルが硬化して耐火層を形成することにより、部材表面に耐火被覆層を形成するものである。耐火モルタルは多くの空気泡を含んでおり、強度が低い材料であるため、柱部材にあらかじめ吹き付けておいて硬化した後に、この柱部材を吊り上げたり建て込んだりする施工方法、すなわち、工場等で耐火層と柱部材とを一体に形成した部材をトンネル内に搬入し据え付けるといった施工方法は不可能である。そのため、柱部材建込み後に吹付け等により施工する必要があり、現場での作業工程が長引く、吹付けプラントを狭いトンネル現場内に配置してセメントなどの吹付材料と供給水を搬入しなければならないといった欠点がある。さらに、吹付け施工時にはかなりの粉塵が発生し、落下した材料の清掃などに時間がかかるという難点がある。吹付け工法では、意匠性を出せないといった課題もある。
【0011】
耐火層を一体に形成した高強度コンクリート製の柱部材では、爆裂の防止策として、高強度コンクリートにポリプロピレン等の合成繊維を混入することが行われる。UFCにおいても、ポリプロピレン等の樹脂繊維を混入して耐火性を高めることは可能であるが、樹脂繊維を混入すると、圧縮強度が低下するという問題点がある。また、鋼繊維と有機繊維を均一に拡散するには、製造時の練混ぜに高度の管理が必要である。さらに、UFCにおける爆裂防止効果は、高強度コンクリートに比べ十分ではない。
【0012】
耐火層が柱部材と一体化している場合、耐火層にも高軸圧縮応力が発生する。耐火層は構造部材とはみなさないため、許容応力度を超えるような圧縮応力度が作用しても問題とはならないが、軸圧縮応力が生じた状態では、火災時に剥落したり爆裂しやすいといった問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、高い軸力が作用する柱部材に超高強度繊維補強コンクリートを適用するにあたり、耐火の問題を解決すると同時に、施工性に優れ、かつ耐火層が一体となった柱構造および柱構造の構築方法を提供することである。
【0014】
前述した目的を達成するために、第1の発明は、超高強度繊維補強コンクリート製のコア部と、前記コア部の周囲に設けられた耐火層と、を具備し、前記コア部の上方の支圧板と前記耐火層との接合部、前記コア部の下方の支圧板と前記耐火層との接合部、前記耐火層の中間部のうち少なくとも一箇所に、前記耐火層に軸力を伝達しないためのスリットまたは低剛性材からなる縁切り部が設けられることを特徴とする柱構造である。
【0015】
第1の発明では、コア部の上方の支圧板と耐火層との接合部、コア部の下方の支圧板と耐火層との接合部、耐火層の中間部(上下方向の中央部付近)のうち少なくとも一箇所に、スリットまたは低剛性材からなる縁切り部を設ける。これにより、コア部の上下の支圧板から耐火層に軸力が伝達されず、火災時における爆裂のリスクを低減できる。
【0016】
第1の発明では、前記コア部と前記耐火層との間に設けられた樹脂製の低剛性層をさらに設けてもよい。
低剛性層を設けることにより、コア部から耐火層への軸力の伝達をより確実に防ぐことができ、耐火層の中央付近における圧縮応力の発生を防止して、火災時における爆裂のリスクをさらに低減できる。
【0017】
低剛性層をさらに設ける場合、前記コア部に中空部分が設けられ、前記コア部は、前記中空部分と前記低剛性層とを連通する孔を有してもよい。また、前記耐火層が、前記低剛性層と前記耐火層の表面とを連通する孔を有してもよい。
中空部分と低剛性層とを連通する孔や、低剛性層と耐火層の表面とを連通する孔を設けることにより、加熱により低剛性層の材料が気化するときの圧力を、中空部分や外界に逃すことができる。
【0018】
前記耐火層には、例えば、有機繊維が埋設される。前記有機繊維は、立体繊維織物等である。
弾性係数の小さい樹脂を埋設することにより、耐火層の圧縮応力度を小さなものとし、火災時の爆裂を抑制することができる。また、立体繊維織物を用いることにより、火災時に有機繊維が溶融して水蒸気を逃す孔が形成され、コア部の剥落や爆裂を抑制することができる。
【0019】
第2の発明は、型枠の内面に有機繊維を用いた立体繊維織物を敷設する工程(a)と、前記型枠内に超高強度繊維補強コンクリートを投入し、遠心成形により、前記超高強度繊維補強コンクリートのペースト成分を前記立体繊維織物に浸透させた耐火層と、コア部とを一体的に形成する工程(b)と、を具備することを特徴とする柱構造の構築方法である。
【0020】
第2の発明では、有機繊維を用いた立体繊維織物を敷設した後、型枠内に超高強度繊維補強コンクリートを投入して遠心成形する。これにより、超高強度繊維補強コンクリートのペースト成分を立体繊維織物に浸透させた耐火層と、コア部とを一体的に形成できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い軸力が作用する柱部材に超高強度繊維補強コンクリートを適用するにあたり、耐火の問題を解決すると同時に、施工性に優れ、かつ耐火層が一体となった柱構造および柱構造の構築方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】柱構造1の概要を示す図
【図2】柱構造1aの断面図
【図3】柱構造1bの断面図
【図4】柱構造1cの断面図
【図5】柱構造1dの断面図
【図6】柱構造1eの断面図
【図7】柱構造1fの垂直断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。図1は、柱構造1の概要を示す図である。図1の(a)図は、柱構造1の立面図である。図1の(b)図は、柱構造1の断面図である。図1の(b)図は、図1の(a)図に示す矢印A−Aによる断面図である。
【0024】
図1に示すように、柱構造1は、台座部3、支圧板5、コア部7、耐火層9等からなる。台座部3は、コア部7の上下に設けられる。支圧板5は、台座部3とコア部7との接合部に設けられる。耐火層9は、コア部7の周囲に設けられる。
【0025】
コア部7は、超高強度繊維補強コンクリート製である。コア部7は、鋼繊維や炭素繊維、ガラス繊維等を含有し、圧縮強度が100〜250N/mm、曲げ引張強度が10〜40N/mmの性能を示すUFCを用いることが望ましい。
【0026】
耐火層9は、ポリプロピレン繊維補強コンクリート(以下、PPコンクリートとする)等を用いることが望ましい。一般に、爆裂防止を目的とした有機繊維としてポリプロピレンの短繊維を混入する場合は、長さ10 mm〜50mm 程度、径5〜500μm程度のものが用いられる。
【0027】
コア部7の上下の支圧板5と耐火層9との接合部のうち少なくとも一方には、耐火層9に軸力を伝達しないための縁切り部であるスリット11が設けられる。スリット11を設けることにより、耐火層9の上下端部に圧縮応力度が作用しなくなる。
【0028】
図1に示す柱構造1を構築する際には、コア部7と耐火層9とを、二次製品工場でプレキャスト部材として製作し、これらを現場に搬入して設置する方法が好ましい。耐火層9の製作にPPコンクリートを用いれば、製作性が高く、プレキャスト部材の運搬時に角欠けが生じる可能性が低い。
【0029】
このように、第1の実施の形態によれば、コア部7の上下の支圧板5と耐火層9との接合部にスリット11を設けることにより、耐火層9の上下端部に圧縮応力度が作用しなくなり、火災時に爆裂を抑制することができる。
【0030】
なお、柱構造1を構築する際、耐火層9とコア部7との一体性を確実にする必要はない。むしろ、耐火層9とコア部7との一体性が確実でなく、耐火層9に軸力が作用しない方が、火災時における爆裂のリスクを低減できる。
【0031】
次に、第2の実施の形態について説明する。図2は、柱構造1aの断面図である。柱構造1aの構造および材質は、第1の実施の形態の柱構造1とほぼ同様であるが、耐火層9とコア部7との間に樹脂製の低剛性層13を有する。
【0032】
耐火層9に用いるPPコンクリートやコア部7に用いるUFCの弾性係数はおよそ30〜45 kN/mmである。低剛性層13に用いる樹脂の弾性係数は、一般に、これよりも1桁以上小さい。耐火層9と支圧板との接合部にスリットを設けて耐火層9の上下端部に圧縮応力度が作用しないようにすると同時に、弾性係数の小さい材料を低剛性層13として耐火層9とコア部7との間に介在させることにより、柱の高さ方向の全域において、耐火層9の圧縮応力度を小さなものとできる。なお、低剛性層13は、耐火層9とコア部7とが滑るような構造としてもよい。
【0033】
低剛性層13には、潜熱作用を発現する材料(以下,潜熱材料と称す)を用いてもよい。この場合、潜熱材料の潜熱、すなわち融解熱・蒸発熱を利用して耐火性能を向上させることができる。
【0034】
潜熱材料の例としては、ショウノウ、ナフタリン、あるいは硫黄などのように、熱分解温度が450℃よりも低い高分子化合物が知られている。コア部7に用いるUFCは養生において蒸気養生を行うため、低剛性層13に用いる潜熱材料の融点は100℃以上であることが必要である。これを満たす材料としては、ポリエチレンあるいはポリプロピレンがある。
【0035】
上述した潜熱材料を、薄層の低剛性層13として耐火層9とコア部7との間に介在させることにより、火災時に時間に対する温度上昇速度を鈍化させることができる。柱構造1aが火害に晒されて、表面から内部に向かって温度が上昇していく過程において、耐火層9とコア部7との境界に配置された低剛性層13の潜熱材料は、加熱され溶融し、気化する。潜熱材料は、溶融および気化時に、状態変化に伴って吸熱し、コア部7のUFCの温度上昇速度を減速させる。また、潜熱材料の散逸により、耐火層9とコア部7の表面との間に空隙層を形成するため、コア部7内の水蒸気圧の上昇を抑制する作用も発揮する。こうした作用により、潜熱材料を用いれば、必要な耐火層9の厚さを薄くできる。
【0036】
柱構造1aは、遠心成形により、以下のように構築することができる。まず、遠心成形の型枠にPPコンクリート等を投入し、遠心成形し所定の厚さの耐火層9を形成する。これが硬化あるいは凝結した後、潜熱材料を投入して、あるいはシート状の材料を敷設して、低剛性層13を形成する。最後にUFCを投入して遠心成形してコア部7を形成する。型枠内面に凹凸を施すことで、意匠性を付与することもできる。
【0037】
柱構造1aを構築する際には、コア部7および耐火層9を二次製品工場でプレキャスト部材として製作してもよい。この場合、プレキャスト部材であるコア部7および耐火層9、低剛性層13を形成するシート材を現場に搬入して、柱構造1aを構築する。
【0038】
このように、第2の実施の形態では、耐火層9とコア部7との間に低剛性層13を設ける。軸圧縮力が支圧板5を介して柱部材1aに作用すると、コア部7には圧縮応力が発生する。耐火層9の上下端部にスリット11があるだけでは、端部近傍には圧縮応力は作用しないが、上下端から離れるに従って耐火層9にも圧縮応力が発生する。低剛性層13を設けることにより、コア部7に導入された軸圧縮応力度が外側の耐火層9に伝達されず、火災時における爆裂の抑制が可能である。
【0039】
次に、第3の実施の形態について説明する。図3は、柱構造1bの断面図である。柱構造1bの構造および材料は、第2の実施の形態の柱構造1aとほぼ同様であるが、コア部7に相当するコア部7bに、微細な孔17が設けられる。孔17は、コア部7bの中空部分15と低剛性層13とを連通する。孔17は、例えば、コア部7bの製作時に形成される。
【0040】
柱構造1bでは、第2の実施の形態の柱構造1aと同様に、火災時に、耐火層9とコア部7bとの境界に配置された低剛性層13の潜熱材料が加熱され、溶融し、気化する。孔17は、低剛性層13の潜熱材料が気化するときの圧力を逃すために設けられる。コア部7bの中空部分は、上下の取り付け部分を介して外界に連通させる構造とする。なお、柱構造1bでは、コア部7bの中空部分15に水を溜めておき、火災時にこれが蒸発する時の気化熱を潜熱として利用してもよい。水の気化により発生する圧力は、中空部分15から上下の取り付け部分を介して外界に逃す。
【0041】
柱構造1bを構築する際には、例えば、孔17を有するコア部7bおよび耐火層9を二次製品工場でプレキャスト部材として製作する。そして、プレキャスト部材であるコア部7bおよび耐火層9、低剛性層13を形成するシート材を現場に搬入して、柱構造1bを構築する。
【0042】
このように、第3の実施の形態では、コア部7bの中空部分15と低剛性層13とを連通する孔17が設けられる。これにより、火災時に、低剛性層13の潜熱材料が加熱されて気化するときの圧力を、孔17から確実に逃し、爆裂を抑制することができる。
【0043】
次に、第4の実施の形態について説明する。図4は、柱構造1cの断面図である。柱構造1cの構造および材質は、第2の実施の形態の柱構造1aとほぼ同様であるが、耐火層9に相当する耐火層9cに、微細な孔19が設けられる。孔19は、耐火層9cの表面と低剛性層13とを連通する。孔19は、例えば、耐火層9cの製作時に形成される。
【0044】
柱構造1cでは、第2の実施の形態の柱構造1aと同様に、火災時に、耐火層9cとコア部7との境界に配置された低剛性層13の潜熱材料が加熱され、溶融し、気化する。孔19は、低剛性層13の潜熱材料が気化するときの圧力を逃すために設けられる。なお、柱構造1cでは、コア部7の中空部分15に水を溜めておき、火災時にこれが蒸発する時の気化熱を潜熱として利用してもよい。水の気化により発生する圧力は、中空部分15から上下の取り付け部分を介して外界に逃す。
【0045】
柱構造1cを構築する際には、例えば、コア部7および孔19を有する耐火層9cを二次製品工場でプレキャスト部材として製作する。そして、プレキャスト部材であるコア部7および耐火層9c、低剛性層13を形成するシート材を現場に搬入して、柱構造1cを構築する。
【0046】
このように、第4の実施の形態では、耐火層9cの表面と低剛性層13とを連通する孔19が設けられる。これにより、火災時に、低剛性層13の潜熱材料が加熱されて気化するときの圧力を、孔19から確実に逃し、爆裂を抑制することができる。
【0047】
次に、第5の実施の形態について説明する。図5は、柱構造1dの断面図である。柱構造1dの構造は、第1の実施の形態の柱構造1とほぼ同様であるが、コア部7に相当するコア部7dと、耐火層9に相当する耐火層9dとが一体に形成される。コア部7dは、UFC製とする。耐火層9dは、径の小さな有機繊維等による立体繊維織物が埋設される。立体繊維織物は、例えば、植物のヘチマの乾燥繊維の様に立体網目形状に成型したものや、立体網目構造で繊維が螺旋状のループを巻いた製品等を使用する。
【0048】
柱構造1dでは、火災時に、耐火層9dに埋設された立体繊維織物が溶融して、コア部7dを爆裂させる水蒸気を逃す孔を形成する。立体繊維織物の材料としては、比較的溶融・蒸発温度の低い素材として、ポリプロピレン系、ポリビニルアルコール系、ビニリデン系などの有機材料が好ましい。例えば、ポリプロピレン、ポリビニルアルコールの重量残存率は15〜20%であり、好適である。ポリ塩化ビニル、アクリル繊維は、重量残存率が30%を超えるため、十分な耐爆裂性の効果は期待できない。
【0049】
立体繊維織物の材料は、水蒸気の抜け穴となるように減容するだけでなく、加熱によって受ける熱量が溶融等の変化のために使用され、その変化に使用された熱量分だけ耐火被覆材の温度上昇が抑えられるような材料であると、より好適である。こうした有機質材料としては、合成樹脂又はゴムの発泡物等が利用可能である。具体例としては、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレン−酢酸ビニル共重合物、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、天然ゴム、合成ゴム等がある。
【0050】
立体繊維織物の繊維直径は、5〜500μmが望ましい。直径が小さすぎると水蒸気の経路として好ましい大きさの空孔を形成し難い。径が大きすぎると、火災時のコア部7dの剥離・爆裂に対して十分な抵抗性が期待できない。
【0051】
繊維は、1本の繊維でなくともよく、細い繊維を束ねたものを立体織物状に加工したものでもよい。強固に束ねない繊維は、コア部7dのUFC打設後に、ペースト成分の流動や振動などによって適度にほぐれ、繊維が分散する。また、遠心成形時に立体繊維がつぶれないで所定の厚さを確保するために、金属製の立体繊維と一体となったものでもよい。
【0052】
柱構造1dを構築する際には、遠心成形用の型枠内面に筒状に加工した立体繊維織物を敷設し、UFCを投入して締め固める。これにより、立体繊維織物の空隙にペースト成分が浸透した耐火層9dとコア部7dとを一体的に形成する。または、遠心成形用の型枠内面に立体繊維織物を敷設し、UFCを投入して締め固め、立体繊維織物にペースト成分が浸透した耐火層9dが硬化した後、耐火層9dの内部に改めてUFCを投入して締め固め、コア部7dを形成してもよい。遠心成形用の型枠内面に凹凸を施すことで、意匠性を付与することもできる。
【0053】
このように、第5の実施の形態では、耐火層9dに、径の小さな有機繊維等による立体繊維織物が埋設される。これにより、火災時に立体繊維織物が溶融して、コア部7dを爆裂させる水蒸気を逃す孔が耐火層9dに形成され、剥落や爆裂を抑制することが可能となる。
【0054】
第5の実施の形態では、耐火層9dを形成する際に立体繊維織物を埋設することにより、有機短繊維を混入する方法に比べ、練混ぜ時の流動性が向上する。また、有機繊維が耐火層9dにだけ配置され、荷重を支持するコア部7dには含有されないので、有機繊維の含有により構造部材の圧縮強度が低下するといった従来の問題が解決する。立体繊維織物をポリプロピレンの繊維を熱溶着した構造とした場合、酸・アルカリに強く、化学的にも安定しているため、コア部7dのUFCを打設する際に有害物質を溶出することがない。
【0055】
次に、第6の実施の形態について説明する。図6は、柱構造1eの断面図である。柱構造1eの構造は、第5の実施の形態の柱構造1dとほぼ同様であるが、コア部7dと耐火層9dとの間に鋼繊維21が配置される。コア部7dは、鋼繊維を含有するUFC製とする。耐火層9dは、第5の実施の形態の柱構造1dと同様に、径の小さな有機繊維等による立体繊維織物が埋設される。
【0056】
柱構造1eを構築する際には、遠心成形用の型枠内面に筒状に加工した立体繊維織物を敷設し、鋼繊維を含むUFCを投入して締め固める。これにより、UFCのペースト分が立体繊維織物の空隙に浸透した耐火層9dとコア部7dとを一体的に形成する。このとき、鋼繊維21は、比重(7.85)がUFCのペーストの比重(3〜4)より重いので、立体繊維織物の空隙に浸入できず、立体繊維織物の内側面に沿って集中して配置される。通常の打設方法では鋼繊維が3次元方向にランダムに配向されるが、遠心成形の場合は、2次元内に配向される。遠心成形用の型枠内面に凹凸を施すことで、意匠性を付与することもできる。
【0057】
このように、第6の実施の形態では、鋼繊維21が、立体繊維織物の内側面に沿って集中して配置される。この結果、円筒状の製品としての曲げ引張強度が向上する、圧縮破壊するときの靭性が向上する、そして火災時の爆裂防止に効果的な配向方向となるなどのメリットがある。
【0058】
なお、耐火層9dにペースト成分だけが浸透することを考慮し、練混ぜ時の鋼繊維21の量を少なくすることも可能である。その場合は、練混ぜが容易になるといったメリットもある。
【0059】
次に、第7の実施の形態について説明する。図7は、柱構造1fの垂直断面図である。柱構造1fの構造は、第1の実施の形態の柱構造1とほぼ同様であるが、耐火層9に相当する耐火層9fの上下方向の中間付近にもスリット11が設けられる。柱が長い場合には、耐火層9fの柱中間部における圧縮応力度が上端部および下端部における圧縮応力度に比べて大きくなる。柱構造1fのように、耐火層9fの中間部にスリット11を設けることにより、耐火層9の中間部に圧縮応力度が作用しなくなる。
【0060】
図7に示す柱構造1fを構築する際には、コア部7と耐火層9fとを、二次製品工場でプレキャスト部材として製作し、これらを現場に搬入して設置する方法が好ましい。
【0061】
このように、第7の実施の形態によれば、コア部7の上下の支圧板5と耐火層9fとの接合部、および、耐火層9fの中間部にスリット11を設けることにより、耐火層9fの上下端部および中間部に圧縮応力度が作用しなくなり、火災時に爆裂を抑制することができる。
【0062】
なお、第1から第6の実施の形態では、耐火層の上端部および下端部に、第7の実施の形態では耐火層の上端部、下端部および中央部にスリット11を設けて縁切り部としたが、スリットは、上端部、下端部、中央部うち少なくとも一箇所に設ければよい。また、スリット11の部分に耐火性能を有する低剛性材を設置して縁切り部としてもよい。
【0063】
さらに、第3の実施の形態の柱構造1bではコア部7bに孔17を、第4の実施の形態の柱構造1cでは耐火層9cに孔19を設けたが、コア部と耐火層の双方に孔を設けて、低剛性層13の材料が気化することにより生じる圧力を逃してもよい。
【0064】
第1から第7の実施の形態では、柱構造の断面を中空の円形としたが、断面の形状はこれに限らない。プレキャスト部材として製作する場合は、矩形や、中空のない円形等でもよい。
【0065】
耐火層の厚さとしては、PPコンクリートを用いた場合には、一般に60〜100mm程度である。耐火層に立体繊維織物を埋設する方法と、耐火層とUFC製のコア部との間に低剛性層を設ける方法とは、併用することも可能である。低剛性層の厚さは、5〜10mm程度とするのが望ましい。この場合は、耐火層の厚さをさらに薄くすることができる。
【0066】
耐火層に立体繊維織物を埋設する方法と、耐火層とUFC製のコア部との間に低剛性層を設ける方法とを併用して柱構造を構築する際には、遠心成形用の型枠内面に筒状に加工した立体繊維織物を敷設し、UFCを投入して遠心成形し所定の厚さの耐火層を形成する。これが硬化あるいは凝結した後、潜熱材料を投入して、あるいはシート状の材料を敷設して、低剛性層を形成する。最後にUFCを投入して遠心成形してコア部を形成する。
【0067】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0068】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f………柱構造
3………台座部
5………支圧板
7、7b、7d………コア部
9、9c、9d、9f………耐火層
11………スリット
13………低剛性層
15………中空部分
17、19………孔
21………鋼繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高強度繊維補強コンクリート製のコア部と、
前記コア部の周囲に設けられた耐火層と、
を具備し、
前記コア部の上方の支圧板と前記耐火層との接合部、前記コア部の下方の支圧板と前記耐火層との接合部、前記耐火層の中間部のうち少なくとも一箇所に、前記耐火層に軸力を伝達しないためのスリットまたは低剛性材からなる縁切り部が設けられることを特徴とする柱構造。
【請求項2】
前記コア部と前記耐火層との間に設けられた樹脂製の低剛性層をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の柱構造。
【請求項3】
前記コア部に中空部分が設けられ、前記コア部は、前記中空部分と前記低剛性層とを連通する孔を有することを特徴とする請求項2記載の柱構造。
【請求項4】
前記耐火層が、前記低剛性層と前記耐火層の表面とを連通する孔を有することを特徴とする請求項2または請求項3記載の柱構造。
【請求項5】
前記耐火層に有機繊維が埋設されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の柱構造。
【請求項6】
前記有機繊維が立体繊維織物であることを特徴とする請求項5記載の柱構造。
【請求項7】
型枠の内面に有機繊維を用いた立体繊維織物を敷設する工程(a)と、
前記型枠内に超高強度繊維補強コンクリートを投入し、遠心成形により、前記超高強度繊維補強コンクリートのペースト成分を前記立体繊維織物に浸透させた耐火層と、コア部とを一体的に形成する工程(b)と、
を具備することを特徴とする柱構造の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−237162(P2012−237162A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107786(P2011−107786)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】