説明

柱状体の継手構造及び継手部の洗浄方法

【課題】継手部に異物が侵入し易いような施工環境であっても、柱状体同士の接合を確実に解除できる柱状体の継手構造及び継手部の洗浄方法を提供する。
【解決手段】一方の柱状体2に固着された筒状継手部20と、他方の柱状体1に固着された軸状継手部10と、軸状継手部10を筒状継手部20に挿入した状態で、長手方向Xにおける軸状継手部10と筒状継手部20との相対移動を拘束する移動拘束手段3と、を備え、移動拘束手段3は、軸状継手部10の外周部に設けられた第一係合部16と、筒状継手部20の内周部に設けられ、第一係合部16に係合したときに、軸状継手部10と筒状継手部20との少なくとも長手方向Xにおける相対移動を拘束する第二係合部26,32と、を備え、第一係合部16と第二係合部26,32との係合箇所に連通し、係合箇所に洗浄用媒体を供給する媒体供給孔40を、筒状継手部20の外周部に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの柱状体を長手方向に互いに抜き差し不能に接合する継手構造、及び、継手部の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二つの柱状体を長手方向に互いに抜き差し不能に接合する柱状体の継手構造として、例えば、特許文献1乃至3に記載のようなものがあった。
【0003】
特許文献1に記載の柱状体の継手構造は、二つの柱状体のうちの一方の柱状体の先端部に固着された筒状継手部(文献では「ボックス継手材」)と、二つの柱状体のうちの他方の柱状体の先端部に固着され、筒状継手部に挿入される軸状継手部(文献では「ピン継手材」)と、軸状継手部を筒状継手部に挿入した状態で、二つの柱状体の長手方向における軸状継手部と筒状継手部との相対移動を拘束する移動拘束手段と、を備えている。そして、移動拘束手段は、軸状継手部の外周部に設けられた第一係合部(文献では「外溝条」)と、第一係合部に係合可能なように筒状継手部の内周部に設けられ、第一係合部に係合したときに、軸状継手部と筒状継手部との少なくとも長手方向における相対移動を拘束する第二係合部(文献では「内溝条」及び「円弧キー」)と、を備えている。このような構成において、第一係合部に第二係合部を係合させる(キー部材を内側条と外側条とに跨って係合させる)と、軸状継手部と筒状継手部との長手方向における相対移動が拘束され、二つの柱状体は長手方向に互いに抜き差し不能に接合される。
【0004】
特許文献2に記載の柱状体の接合構造は、二つの柱状体のうちの一方の柱状体の先端部に固着された筒状継手部(文献では「雌螺管」)と、二つの柱状体のうちの他方の柱状体の先端部に固着され、筒状継手部に挿入される軸状継手部(文献では「雄螺管」)と、軸状継手部を筒状継手部に挿入した状態で、二つの柱状体の長手方向における軸状継手部と筒状継手部との相対移動を拘束する移動拘束手段と、を備えている。そして、移動拘束手段は、軸状継手部の外周部に設けられた第一係合部(文献では「螺糸」)と、第一係合部に係合可能なように筒状継手部の内周部に設けられ、第一係合部に係合したときに、軸状継手部と筒状継手部との少なくとも長手方向における相対移動を拘束する第二係合部(文献では「螺糸」)と、を備えている。このような構成において、第一係合部に第二係合部を係合(螺合)させると、軸状継手部と筒状継手部との長手方向における相対移動が拘束され、二つの柱状体は長手方向に互いに抜き差し不能に接合される。
【0005】
特許文献3に記載の柱状体の接合構造は、二つの柱状体のうちの一方の柱状体の先端部に固着された筒状継手部(文献では「雌接合部材」)と、二つの柱状体のうちの他方の柱状体の先端部に固着され、筒状継手部に挿入される軸状継手部(文献では「雄接合部材」)と、軸状継手部を筒状継手部に挿入した状態で、二つの柱状体の長手方向における軸状継手部と筒状継手部との相対移動を拘束する移動拘束手段と、を備えている。そして、移動拘束手段は、軸状継手部の外周部に設けられた第一係合部(文献では「環状凹部」)と、第一係合部に係合可能なように筒状継手部の内周部に設けられ、第一係合部に係合したときに、軸状継手部と筒状継手部との少なくとも長手方向における相対移動を拘束する第二係合部(文献では「環状凸部」)と、を備えている。このような構成において、第一係合部と第二係合部とを係合させると、軸状継手部と筒状継手部との長手方向における相対移動が拘束され、二つの柱状体は長手方向に互いに抜き差し不能に接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−234333号公報
【特許文献2】実開S61−84734号公報
【特許文献3】実開S57−60929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、これらの柱状体の継手構造は、例えば、基礎杭や矢板等に適用される。即ち、これらの継手構造によって複数本の柱状体を接合して接合柱状体を形成し、基礎杭等として施工地盤に打設する。この打設作業に際しては、高止まり等のために修正が必要となり、打設した接合柱状体を地盤から引き抜いて、各柱状体同士の接合を解除することがある。しかし、継手構造には多少の隙間があるため、特にベントナイト等の泥水やソイルセメントなどを併用する施工環境下では、第一係合部と第二係合部との間に泥や砂が侵入して詰まり得る。そして、詰り度合いがひどい場合には、第一係止部と第二係止部との係合を解除できず、柱状体同士の接合を解除できなくなるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、このような実情に鑑み、継手部に異物が侵入し易いような施工環境であっても、柱状体同士の接合を確実に解除できる柱状体の継手構造及び継手部の洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る柱状体の継手構造の特徴構成は、二つの柱状体のうちの一方の柱状体の先端部に固着された筒状継手部と、前記二つの柱状体のうちの他方の柱状体の先端部に固着され、前記筒状継手部に挿入される軸状継手部と、前記軸状継手部を前記筒状継手部に挿入した状態で、前記二つの柱状体の長手方向における前記軸状継手部と前記筒状継手部との相対移動を拘束する移動拘束手段と、を備えた柱状体の継手構造であって、前記移動拘束手段は、前記軸状継手部の外周部に設けられた第一係合部と、前記第一係合部に係合可能なように前記筒状継手部の内周部に設けられ、前記第一係合部に係合したときに、前記軸状継手部と前記筒状継手部との少なくとも前記長手方向における相対移動を拘束する第二係合部と、を備え、前記第一係合部と前記第二係合部との係合箇所に連通し、前記係合箇所に洗浄用媒体を供給する媒体供給孔を、前記筒状継手部の外周部に形成する点にある。
【0010】
本特徴構成であれば、係合箇所に連通する媒体供給孔を備えているので、洗浄用媒体を媒体供給孔から供給すれば、係合箇所に直接的に洗浄用媒体が供給される。そして、係合箇所に詰まった異物が洗い出され、継手構造の隙間等から排出される。この結果、第一係合部と第二係合部との係合を解除することができ、継手部に異物が侵入し易いような施工環境であっても、確実に柱状体同士の接合を確実に解除できる。
【0011】
本発明に係る柱状体の継手構造においては、前記第一係合部は、前記軸状継手部の外周部に周設された一以上の軸側キー溝であり、前記第二係合部は、前記筒状継手部の内周部に周設され、前記軸状継手部を前記筒状継手部に挿入したときに前記軸側キー溝と対応する一以上の筒側キー溝、及び、前記筒側キー溝と前記軸側キー溝とに跨って係合して、前記軸状継手部と前記筒状継手部との少なくとも前記二つの柱状体の長手方向における相対移動を拘束可能な一以上のキー部材であり、前記媒体供給孔は、前記キー溝に連通すると好適である。
【0012】
本特徴構成よると、媒体供給孔は筒側キー溝に連通している。即ち、媒体供給孔は、「筒側キー溝とそれに対応する軸側キー溝とにより形成される環状の空間」に連通している。洗浄用媒体を媒体供給孔から供給すれば、その環状の空間に詰まった異物が洗い出され、継手構造の隙間等から排出される。「筒側キー溝とキー部材との間の空間」は、その環状の空間の一部であるから、筒側キー溝とキー部材との間の空間に詰まった異物も洗い出され、継手構造の隙間等から排出される。また、各キー溝を複数組備えており、複数のキー溝に亘って複数箇所で目詰まりが生じているような場合でも、少なくとも一箇所の媒体供給孔を備えれば、洗浄用媒体は継手構造の隙間を伝って各キー溝に流れ込み、夫々の箇所における内圧の高まりにより、異物を流し出すことが可能である。
【0013】
本発明に係る柱状体の継手構造においては、前記第一係合部は、前記軸状継手部の外周部に一体的に形成されており、前記第二係合部は、前記第一係合部に係合可能なように前記筒状継手部の内周部に一体的に形成されていると好適である。
【0014】
本特徴構成のように、第一係合部が軸状継手部の外周部に一体的に形成され、第二係合部が第一係合部に係合可能なように前記筒状継手部の内周部に一体的に形成されていても、係合箇所に詰まった異物が洗い出すことができる。
【0015】
本発明に係る柱状体の継手構造においては、前記媒体供給孔は、前記筒側キー溝のうち、前記キー部材が収容された位置に連通すると好適である。
【0016】
本特徴構成であると、媒体供給孔から供給された洗浄用媒体は、キー部材周辺の異物を直接洗い出す。この結果、より確実に柱状体同士の接合を解除することができる。
【0017】
本発明に係る柱状体の継手構造においては、前記軸状継手部と前記筒状継手部との接合部を介して互いに連通する二以上の前記媒体供給孔を備えると好適である。
【0018】
例えば、異物を排出し得る隙間が狭いとか、その隙間までの距離が長いとか、洗い出された異物が大量であるとかいう場合は、排出効率が落ちたり、また、洗浄用媒体の供給圧を相当高めたりする必要がある。本特徴構成のように、軸状継手部と筒状継手部との接合部を介して互いに連通する二以上の媒体供給孔を備えていれば、少なくとも一つの媒体供給孔を異物の排出孔として使用できる。即ち、媒体供給孔を一つだけ備えて異物の排出を継手部の隙間だけに頼る場合と比較して、異物の排出が円滑になる。また、異物の度合いを確認しながら、洗浄用媒体を供給している媒体供給孔に対して好適な位置関係となる排出箇所を任意に選択することができる。この結果、洗浄用媒体の供給圧を不要に高める必要もなければ、排出効率を維持することもできる。
【0019】
本発明に係る柱状体の継手構造においては、前記媒体供給孔に設けた蓋取付部に係合して、前記媒体供給孔を閉塞可能な蓋部材を備え、前記蓋取付部は、前記洗浄用媒体を噴射する噴射機を前記媒体供給孔に接続する接続具を取り付ける取付部を兼ねていると好適である。
【0020】
本特徴構成のように蓋部材を備えると、媒体供給孔を使用しない通常の打設状態において、異物が媒体供給孔から侵入することを防止できる。
【0021】
また、供給圧を落とさずに効率的に洗浄用媒体を供給するためには、噴射機の媒体供給孔に対する接続方向をある程度維持すべきである。加えて、異物の詰り度合いが重い場合には、洗浄用媒体の供給圧を高める必要があるが、噴射機を人力で媒体供給孔に押さえつけるには限界がある。しかし、本特徴構成であれば、接続具を取り付ける取付部を兼ねる蓋取付部に接続具を取付けられるので、部品点数を増加させることなく、噴射機を媒体供給孔に対して固定でき、洗浄用媒体の安定供給が可能となる。
【0022】
本発明に係る継手部の洗浄方法の特徴構成は、二つの柱状体のうちの一方の柱状体の先端部に固着された筒状継手部と、前記二つの柱状体のうちの他方の柱状体の先端部に固着され、前記筒状継手部に挿入される軸状継手部と、前記軸状継手部を前記筒状継手部に挿入した状態で、前記二つの柱状体の長手方向における前記軸状継手部と前記筒状継手部との相対移動を拘束する移動拘束手段と、を備えた柱状体の継手構造であって、前記移動拘束手段が、前記軸状継手部の外周部に設けられた第一係合部と、前記第一係合部に係合可能なように前記筒状継手部の内周部に設けられ、前記第一係合部に係合したときに、前記軸状継手部と前記筒状継手部との少なくとも前記長手方向における相対移動を拘束する第二係合部と、を備え、前記第一係合部と前記第二係合部との係合箇所に連通し、前記係合箇所に洗浄用媒体を供給する媒体供給孔を、前記筒状継手部の外周部に形成してある柱状体の継手構造によって、前記二つの柱状体を前記長手方向に互いに抜き差し不能に接合した状態において、前記二つの柱状体を引き離して分離するのに先立って、前記媒体供給孔に前記洗浄用媒体を噴射する噴射機を接続し、前記媒体供給孔から前記洗浄用媒体を供給して、前記筒側キー溝及び前記軸側キー溝に介在する異物を前記洗浄用媒体によって洗い流す点にある。
【0023】
本特徴構成であれば、柱状体を引き離して分離するに先立って、媒体供給孔から洗浄用媒体を供給して、係合箇所に介在する異物を洗浄用媒体によって洗い流すので、第一係合部と第二係合部との係合を容易に解除できる。即ち、継手部に異物が侵入し易い施工環境であっても、確実に柱状体同士の接合を確実に解除できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る継手構造を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る継手構造の長手方向断面図である。
【図3】媒体供給孔付近の長手方向断面図であって、(a)はキャップを装着した状態を示し、(b)はキャップを取り外した状態を示し、(c)はコネクタを装着した状態を示す。
【図4】図2におけるIV−IV方向の断面図であって、洗浄時における継手構造の径方向断面図である。
【図5】第一別実施形態に係る継手構造を示す斜視図である。
【図6】第一別実施形態に係る継手構造における荷重伝達キーの取付要領を示す断面図である。(a)は、荷重伝達キーを挿入している状態を示し、(b)は荷重伝達キーに抜け止めを施した状態を示す。
【図7】第二別実施形態に係る継手構造の長手方向断面図である。
【図8】第二別実施形態に係る継手構造の洗浄時における長手方向拡大断面図である。
【図9】第三別実施形態に係る継手構造の長手方向断面図である。
【図10】第三別実施形態に係る継手構造の洗浄時における長手方向拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る柱状体の継手構造を、地中に埋設される鋼管杭(杭基礎)の機械式継手に適用した例を図面に基づいて説明する。
【0026】
〔鋼管杭の概要〕
鋼管杭は、複数の鋼管をほぼ同一の軸芯X上に位置させて、長手方向に互いに抜き差し不能に接合して構成する。鋼管杭の設計長さは、長いものであると数十メートルにも至るため、工場で接合してから施工現場に搬送するというのは不可能であり、通常は施工現場で打設を行いながら順次接合を行う。
【0027】
〔継手構造の概要〕
鋼管杭が何本の鋼管から構成されていようとも、各鋼管同士の接合は全ての箇所において同一である。したがって、図1に示すごとく、上下関係にある任意の上杭2と下杭1とに着目して、柱状体の継手構造を説明する。形式的に上杭2と下杭1とに呼び分けるが、これらは実質的には同じ鋼管である。即ち、上杭2及び下杭1が、本発明に係る「二つの柱状体」に相当する。上杭2のうち下杭1の側の先端部には、工場において、雌型のボックス継手20が溶接により固着されている。下杭1のうち上杭2の側の先端部には、工場において、ボックス継手20に挿入嵌合される雄形のピン継手10が溶接により固着されている。即ち、ボックス継手20が本発明に係る「筒状継手部」に相当し、ピン継手10が本発明に係る「軸状継手部」に相当する。なお、上杭2及び下杭1の軸芯X方向が、本発明に係る「長手方向」に相当する。
【0028】
また、柱状体の継手構造は、ピン継手10をボックス継手20に挿入した状態で、上杭2及び下杭1の長手方向におけるピン継手10とボックス継手20との相対移動を拘束する移動拘束手段3を備えている。移動拘束手段3によって、上杭2及び下杭1は軸芯X方向に互いに抜き差し不能に接合される。
【0029】
ピン継手10は、図1,図2に示すごとく、下杭1と同様に筒状に形成されている。ピン継手10は、下杭1に固着される軸側基部11と、軸側基部11から延設されると共に外径が軸側基部11よりも小さい嵌挿部12と、軸側基部11と嵌挿部12との段差部である軸側接合面13と、軸側接合面13に周設された軸側凹部14と、嵌挿部12の先端部に周設された軸側凸部15と、を備えている。
【0030】
軸側基部11は、下杭1の側では、下杭1と同じ内径・外径・肉厚であり、中途部分から、内径を小さくしつつ外径を大きくして肉厚を厚くしてある。嵌挿部12は、軸側基部11の内周面を同径のまま延長した内周面と、軸側基部11の外周面を段差的に縮径した外周面と、を有している。軸側凹部14は、軸側接合面13のうち内径側の部分を、軸芯X方向に沿って下杭1の側に環状に凹入して形成してある。軸側凸部15は、嵌挿部12の先端部のうち外径側の部分を、軸芯X方向に沿って先端側に環状に突出させて形成してある。
【0031】
ボックス継手20は、図1,図2に示すごとく、下杭1と同様に筒状に形成されている。ボックス継手20は、上杭2に固着される筒側基部21と、筒側基部21から延設されると共に内径が筒側基部21よりも大きく、嵌挿部12を受け入れる嵌受部22と、嵌受部22の先端部に設けられ、軸側接合面13と接する筒側接合面23と、筒側接合面23に周設され、軸側凹部14と係合する筒側凸部24と、筒側基部21と嵌受部22との段差部に周設され、軸側凸部15と係合する筒側凹部25と、を備えている。
【0032】
筒側基部21は、上杭2の側では、上杭2と同じ内径・外径・肉厚であり、中途部分から、内径を小さくしつつ外径を大きくして肉厚を厚くしてある。嵌受部22は、筒側基部21の内周面を段差的に拡径した内周面と、筒側基部21の外周面を同径のまま延長した外周面と、を有している。筒側凸部24は、筒側接合面23のうち内径側の部分を、軸芯X方向に沿って先端側に環状に突出させて形成してある。筒側凹部25は、筒側基部21と嵌受部22との段差部のうち外径側の部分を、軸芯X方向に沿って先端側に環状に凹入させて形成してある。
【0033】
嵌挿部12の外径寸法と嵌受部22の内径寸法とには、ピン継手10をボックス継手20に挿入できる程度の僅かな差を設けてある。図2に示すごとく、軸側凹部14の軸芯X方向の断面形状は、筒側凸部24と係合可能なように設定してある。筒側凹部25の軸芯X方向の断面形状は、軸側凸部15と係合可能なように設定してある。また、嵌挿部12の内径と筒側基部21の内径とは、接合箇所付近で嵌挿部12の内周面と筒側基部21の内周面とが面一となるように設定してある。
【0034】
図1,図2に示すごとく、嵌挿部12の外周部に、軸芯Xの周方向に沿って一つの軸側キー溝16を周設してある。同様に、嵌受部22の内周部に、ボックス継手20にピン継手10を挿入したときに軸側キー溝16と対応する一つの筒側キー溝26を周設してある。軸側キー溝16及び筒側キー溝26の軸芯X方向の断面形状は、軸芯X方向の長さが同じである長方形にしてある。ボックス継手20にピン継手10を挿入したとき、軸側キー溝16と筒側キー溝26とは対向し、協働して長方形断面の一つの溝を構成する。本実施形態においては、夫々三段ずつの軸側キー溝16及び筒側キー溝26を備えているが、一段以上であればこれらの数に制限はない。
【0035】
図1,図4に示すごとく、嵌受部22の外周部のうち筒側キー溝26が設けられた箇所に、筒側キー溝26に開口するキー孔30を、周方向に間隔を空けて複数穿孔してある。そして、キー孔30にセットボルト31を螺合させてある。セットボルト31はボックス継手20の外側からの締め込み操作によって、径方向内側に螺進可能である。筒側キー溝26には、「キー部材」としての荷重伝達キー32が収容されている。荷重伝達キー32にはセットボルト31の先端部が連結固定されており、セットボルト31の締め込み操作によって、荷重伝達キー32は、筒側キー溝26から軸側キー溝16に突出可能であると共に、軸側キー溝16から筒側キー溝26に引退可能である。
【0036】
筒側キー溝26の溝深さは、荷重伝達キー32の径方向の長さよりも大きくしてあり、かつ、軸側キー溝16の溝深さは、荷重伝達キー32の径方向の長さの約1/2程度にしてある。荷重伝達キー32の形状は、筒側キー溝26に最も引退された状態で筒側キー溝26にほぼ隙間なく収容される円弧状にしてある。よって、荷重伝達キー32を筒側キー溝26に最も引退させると、荷重伝達キー32が嵌受部22の内周面から突出しない。即ち、荷重伝達キー32を筒側キー溝26に最も引退させておけば、ピン継手10をボックス継手20に円滑に挿入できる。また、ピン継手10をボックス継手20に挿入したときに、荷重伝達キー32を筒側キー溝26から最も突出させると、荷重伝達キー32は筒側キー溝26と軸側キー溝16とにほぼ均等に跨って係止する。これにより、ピン継手10とボックス継手20との軸芯X方向の相対移動が拘束される。つまり、ピン継手10とボックス継手20とが挿入嵌合され、上杭2と下杭1とは、少なくとも軸芯X方向に互いに抜き差し不能に接合された状態となる。
【0037】
即ち、本実施形態においては、軸側キー溝16が本発明に係る「第一係合部」に相当し、筒側キー溝26及び荷重伝達キー32が本発明に係る「第二係合部」に相当する。また、軸側キー溝16と筒側キー溝26と荷重伝達キー32とによって、移動拘束手段3が構成されることとなる。
【0038】
図1に示すごとく、ピン継手10とボックス継手20との周方向の相対移動の拘束は、回転止めキー33によって行う。具体的には、軸側基部11の外周部のうち軸側接合面13付近を切り欠いて第一溝17を形成し、嵌受部22の外周部のうち筒側接合面23付近を切り欠いて第二溝27を形成する。第一溝17の周方向の長さと、第二溝27の周方向の長さとは一致させてある。また、第一溝17の軸芯X方向の長さと、第二溝27の軸芯X方向の長さとも一致させてある。ピン継手10をボックス継手20に挿入した状態において、第一溝17と第二溝27とを位置合わせし、第一溝17と第二溝27とに跨るように回転止めキー33を嵌め込んで、ボルトを第一溝17に設けたネジ41孔に締め込んで、回転止めキー33を固定する。これにより、ピン継手10とボックス継手20との周方向の相対移動が拘束される。
【0039】
なお、軸側凹部14と筒側凸部24との係合、軸側凸部15と筒側凹部25との係合によって、ピン継手10とボックス継手20との嵌合が強化され、特に曲げに対する剛性が高まる。荷重伝達キー32の数や回転止めキー33の数は、上杭2及び下杭1の菅径等によって適宜設定すれば良い。
【0040】
〔媒体供給孔について〕
図1,図2,図4に示すごとく、嵌受部22の外周部のうち筒側キー溝26が設けられた箇所に、筒側キー溝26に開口する円形状の媒体供給孔40を、周方向に間隔を空けて筒側キー溝26毎に複数穿孔してある。媒体供給孔40は、図2に示すごとく、軸芯Xに直交するように、かつ、図4に示すごとく、筒側キー溝26に対して直交するように穿孔してある。媒体供給孔40は、キー孔30とは別の孔であって、軸側キー溝16及び筒側キー溝26を洗浄する専用の孔である。本実施形態では、媒体供給孔40は、三段の筒側キー溝26の夫々において、隣合う荷重伝達キー32同士の間に対応する位置に設けてある。なお、本実施形態においては、一段の筒側キー溝26に対して、媒体供給孔40を4箇所設けてある。
【0041】
図3(a)に示すごとく、通常時は、媒体供給孔40にはキャップ43を取付けて、媒体供給孔40から継手部内部に異物が侵入するのを防止している。媒体供給孔40の内周面にはネジ41が形成してあり、また、キャップ43の外周面にもネジが形成してあり、キャップ43は螺合によって媒体供給孔40に取り付けられる。キャップ43は六角レンチ等によって簡単に回転させられるように構成してある。即ち、キャップ43が本発明に係る「蓋部材」に相当し、媒体供給孔40の内周面に形成したネジ41が本発明に係る「蓋取付部」に相当する。
【0042】
ネジ41は、洗浄用媒体を噴射する噴射機(例えば、高圧洗浄機)を接続するためのコネクタ(本発明に係る「接続具」に相当する)のネジ41に対応させてあって、螺合によってコネクタを媒体供給孔40に取付けられるようになっている。即ち、ネジ41は、コネクタを媒体供給孔40に取り付ける取付部を兼ねている。なお、図3に示すごとく、媒体供給孔40の内径を、筒側キー溝26の軸芯X方向の幅よりも大きく設定することにより、図3(c)に示すごとく、筒側キー溝26の上下に当たり面42を形成してある。したがって、コネクタを媒体供給孔40に螺合させた際には、コネクタの先端部の上下二箇所が上下の当たり面42に当接するので、コネクタに不測の振動や外力が作用したとしても、ネジ41同士の螺合のみの場合と比較して、コネクタが媒体供給孔40から外れにくい。
【0043】
また、噴射機を人力で媒体供給孔40に押さえつけるには限界があるが、噴射機を媒体供給孔40に対して固定できるので作業者に対する負担が軽減されると共に、洗浄用媒体の安定供給が可能である。さらに、ネジ41がコネクタを取り付ける取付部を兼ねているので、部品点数が増加することもない
【0044】
上述したように、媒体供給孔40はキー孔30とは別の孔であるので、媒体供給孔40の形状等の設定においてキー孔30の形状等に影響を受けることもなければ、反対に、媒体供給孔40の形状等がキー孔30の形状等の設定に影響を与えることもない。したがって、洗浄用媒体を供給し易いように、媒体供給孔40の形状等を設定できる。
【0045】
〔杭の接合の解除について〕
上杭2と下杭1との接合を解除するときは、セットボルト31を操作して全ての荷重伝達キー32を筒側キー溝26に引退させて、ボックス継手20からピン継手10を引き抜いて分離する。しかし、地盤に打設されている間に、継手部の隙間から泥や砂の異物が侵入し、筒側キー溝26と軸側キー溝16との間に目詰まりしていることが多い。特に、ベントナイト等の泥水やソイルセメントなどを併用する施工環境下において、この傾向が高い。この場合、少なくとも筒側キー溝26と荷重伝達キー32との間の異物を除去しなければ、荷重伝達キー32を筒側キー溝26に引退させられず、上杭2と下杭1との接合を解除できない。
【0046】
そこで、上杭2と下杭1を引き離して分離するのに先立って、以下の手順で、継手部を洗浄する。先ず、図3(b)に示すごとく、噴射機を接続する孔として少なくとも一箇所、洗浄用媒体と共に異物を排出する孔として少なくとも一箇所、キャップ43を媒体供給孔40から取り外す。続いて、図3(c),図4に示すごとく、コネクタを何れか一方の媒体供給孔40に螺合させて取付ける。
【0047】
そして、コネクタに噴射機を接続して、コネクタを介して媒体供給孔40から筒側キー溝26に洗浄用媒体を供給する。開放された媒体供給孔40は、筒側キー溝26及び軸側キー溝16(ピン継手10とボックス継手20との接合部の一例)を介して互いに連通しているので、図4に矢印で示すごとく、洗浄用媒体は、筒側キー溝26及び軸側キー溝16に介在する異物を流し出しながら、継手部を周回して、他方の媒体供給孔40から排出される。つまり、筒側キー溝26と荷重伝達キー32との間の異物も除去される。この作業を、三段全ての筒側キー溝26及び荷重伝達キー32に対して行う。このようにして、全ての荷重伝達キー32を筒側キー溝26に円滑に引退させることが可能となる。つまり、媒体供給孔40は、洗浄用媒体を供給する孔としても、洗浄用媒体を排出する孔としても使用できる。
【0048】
なお、噴射機を接続する媒体供給孔40と、媒体排出用として開放する媒体供給孔40とは、図4に示すごとく、軸芯Xを中心として対向する位置のものを選択すると、図4における時計回り側の媒体流通長さと反時計回り側の媒体流通長さとが均等になり、異物を排出する負担のバランスが取れ、排出効率が高まる。
【0049】
目詰りの度合いが重く、異物の排出ができない場合は、適宜、媒体排出用の孔として別の媒体供給孔40を開放することも可能である。また、噴射機を接続する媒体供給孔40を作業途中で変更して、別の媒体供給孔40から洗浄用媒体を供給することも、複数箇所の媒体供給孔40から同時に洗浄用媒体を供給することも可能である。複数の媒体供給孔40を設けると、異物の排出具合を確認しながら、適宜洗浄の仕方を選択できる。
【0050】
〔第一別実施形態〕
上述の実施形態においては、荷重伝達キー32は、筒側キー溝26に収容され、セットボルト31の操作によって軸側キー溝16に対して出退可能なように構成したが、これに限られるものではない。荷重伝達キーは、継手構造の外部から、軸側キー溝16及び筒側キー溝26に対して挿入する構成であっても良い。このような継手構造に本発明を適用した一例を、具体的に、図5,図6に基づいて説明する。なお、上述の実施形態と同じ構成については説明せず、また、上述の実施形態と同じ構成の箇所には同じ符号を付すこととする。
【0051】
本実施形態においては、図6に示すごとく、荷重伝達キー132は、複数のブロック状の分割キー132aから構成されている。複数の分割キー132aはワイヤWによって直列に繋がれているので、荷重伝達キー132は全体としてワイヤWと同様に屈曲自在である。また、図5及び図6(a)に示すごとく、ボックス継手20の外周部のうち、筒側キー溝26に対応する位置に、筒側キー溝26の溝幅と同じ幅であって、周方向に比較的長さの長いキー挿入口133を四箇所開口してある。
【0052】
ボックス継手20にピン継手10を挿入した状態で、図6(a)に示すごとく、先ずは、キー挿入口133からワイヤWを筒側キー溝26及び軸側キー溝16に挿入して、別のキー挿入口133から引き出す。そして、ワイヤWを別のキー挿入口133の側から手繰り寄せて、荷重伝達キー132をキー挿入口133から筒側キー溝26及び軸側キー溝16に挿入する。キー挿入口同士133,133の間の四箇所全てに荷重伝達キー132を挿入し、図6(a),(b)に示すごとく、キー挿入口133において隣合う荷重伝達キー132の端部同士の間に、抜け止めキー134を介在させ、最後にカバーキー135を抜け止めキー134にボルト固定し、キー挿入口133を塞ぐ。この結果、ピン継手10とボックス継手20とが挿入嵌合され、上杭2と下杭1とは、少なくとも軸芯X方向に互いに抜き差し不能に接合された状態となる。
【0053】
本実施形態においては、図6(a),(b)に示すごとく、媒体供給孔40は、筒側キー溝26のうち、荷重伝達キー132が挿入されて収容される位置に連通するように設けてある。カバーキー135と抜け止めキー134とを取り外せば、軸側キー溝16及び筒側キー溝26を洗浄することは可能であるが、カバーキー135と抜け止めキー134自体が異物の詰まりによって取り外せない場合がある。しかし、本構成によると、媒体供給孔40は、カバーキー135とは異なる位置、かつ、荷重伝達キー132が挿入されて収容される位置に連通するので、媒体供給孔40から供給された洗浄用媒体は、荷重伝達キー132の周辺の異物を直接洗い出し、次いでカバーキー135及び抜け止めキー134の周辺の異物も洗い出す。この結果、より確実に上杭2と下杭1との接合を解除することができる。
【0054】
なお、上述の実施形態においては、媒体供給孔40は、図4に示すごとく、筒側キー溝26のうち、隣合う荷重伝達キー32同士の間に対応する位置に連通するように設けたが、上述の実施形態においても、媒体供給孔40は、筒側キー溝26のうち、荷重伝達キー32が収容されている位置に直接連通するように設けても良い。
【0055】
〔第二別実施形態〕
上述の実施形態においては、移動拘束手段3が、ピン継手10に一体的に形成した軸側キー溝16と、ボックス継手20に一体的に形成された筒側キー溝26と、可動式の荷重伝達キー32と、を備え、荷重伝達キー32が軸側キー溝16と筒側キー溝26とに係合して、ピン継手10とボックス継手20との軸芯X方向における相対移動を拘束する例について説明した。つまり、上述の実施形態においては、ピン継手10及びボックス継手20とは別の部材によって、ピン継手10及びボックス継手20の抜け止め(嵌合)を行っていた。しかし、本発明を適用可能な継手構造は、ピン継手10とボックス継手20との抜け止めが可能な構成であれば、上述の実施形態のような継手構造には限られるものではない。例えば、ピン継手10及びボックス継手20の抜け止めを、ピン継手10に一体的に形成された第一係合部とボックス継手20一体的に形成された第二係合部との係合によって行う継手構造であっても良い。このような継手構造に本発明を適用した例を、具体的に、図7,図8に基づいて説明する。
【0056】
本実施形態においては、図7に示すごとく、嵌挿部12の外周面に、軸芯X回りの軸側螺旋溝116を一体的に形成すると共に、嵌受部22の内周部に、軸側螺旋溝116と螺合(係合)可能な筒側螺旋溝126を一体的に形成してある。つまり、軸側螺旋溝116と筒側螺旋溝126との螺合操作によって、ピン継手10とボックス継手20との軸芯X方向の相対移動が拘束される。この結果、ピン継手10とボックス継手20とが挿入嵌合され、上杭2と下杭1とは、少なくとも軸芯X方向に互いに抜き差し不能に接合された状態となる。なお、軸側螺旋溝116が本発明に係る「第一係合部」に相当し、筒側螺旋溝126が本発明に係る「第二係合部」に相当する。また、軸側螺旋溝116と筒側螺旋溝126とによって、移動拘束手段3が構成されることとなる。
【0057】
図7,図8に示すごとく、嵌受部22の外周部に、筒側螺旋溝126のうちの凹入部分に開口する円形状の媒体供給孔40を、螺旋方向に間隔を空けて複数穿孔してある。媒体供給孔40は、軸芯Xに直交するように、かつ、筒側螺旋溝126に対して直交するように穿孔してある。つまり、媒体供給孔40は、ピン継手10とボックス継手20とを挿入嵌合させた状態において、軸側螺旋溝116と筒側螺旋溝126との係合箇所Eに直接連通する。通常時は、媒体供給孔40にはキャップ43を取付けてある。
【0058】
そして、上杭2と下杭1を引き離して分離するのに先立って、図8に示すごとく、キャップ43を媒体供給孔40から取り外し、コネクタを媒体供給孔40に螺合させて取付ける。コネクタに噴射機を接続して、コネクタを介して媒体供給孔40から係合箇所Eに洗浄用媒体を供給する。洗浄用媒体は、係合箇所Eに介在する異物に直接噴射され、異物を流し出しながら、係合箇所Eを周回して、媒体排出用として開放された別の媒体供給孔40や、ピン継手10とボックス継手20との隙間から排出される。
【0059】
〔第三別実施形態〕
ピン継手10に一体的に形成された第一係合部とボックス継手20一体的に形成された第二係合部との係合によって、ピン継手10及びボックス継手20の抜け止めを行う継手構造の別の例を、具体的に、図9,図10に基づいて説明する。
【0060】
本実施形態においては、図9に示すごとく、嵌挿部12の外周面に、軸芯Xの周方向に沿って係合凸部216を周設すると共に、嵌受部22の内周部に、係合凸部216と係合可能な係合凹部226を周設してある。さらに、本実施形態においては、嵌挿部12に、軸芯X方向に沿ったスリットSを周方向に間隔を空けて複数設けて、軸状継手部のうちのスリットSで分断された部分が径内方向に弾性変形可能なように構成してある。つまり、ボックス継手20に対してピン継手10を完全に挿入することによって、係合凸部216が係合凹部226に係合し、ピン継手10とボックス継手20との軸芯X方向の相対移動が拘束される。つまり、ピン継手10とボックス継手20とが挿入嵌合され、上杭2と下杭1とは、少なくとも軸芯X方向に互いに抜き差し不能に接合された状態となる。なお、係合凸部216が本発明に係る「第一係合部」に相当し、係合凹部226が本発明に係る「第二係合部」に相当する。また、係合凸部216と係合凹部226とによって、移動拘束手段3が構成されることとなる。
【0061】
図9,図10に示すごとく、嵌受部22の外周部に、係合凸部216の立上り部分に開口する円形状の媒体供給孔40を、周方向に間隔を空けて複数穿孔してある。媒体供給孔40は、軸芯Xに直交するように、かつ、係合凸部216に対して直交するように穿孔してある。つまり、媒体供給孔40は、ピン継手10とボックス継手20とを挿入嵌合させた状態において、係合凸部216と係合凹部226との係合箇所Eに対して、半掛かりのような状態となって直接連通する。通常時は、媒体供給孔40にはキャップ43を取付けてある。
【0062】
そして、上杭2と下杭1を引き離して分離するのに先立って、図10に示すごとく、キャップ43を媒体供給孔40から取り外し、コネクタを媒体供給孔40に螺合させて取付ける。コネクタに噴射機を接続して、コネクタを介して媒体供給孔40から係合箇所Eに洗浄用媒体を供給する。洗浄用媒体は、係合箇所E(筒側螺旋溝126及び軸側螺旋溝116)に介在する異物に直接噴射され、異物を流し出しながら、嵌挿部12と嵌受部22との隙間を介して、媒体排出用として開放された別の媒体供給孔40や、ピン継手10とボックス継手20との隙間から排出される。
【0063】
〔その他の別実施形態〕
(1)上述の実施形態においては、媒体供給孔40は、軸芯Xに直交するように、かつ、筒側キー溝26,筒側螺旋溝126,係合凸部216に対して直交するように穿孔した例を示したが、これに限られるものではない。媒体供給孔40の向きは、作業性や係合箇所Eの形状等に応じて適宜決定すれば良い。特に図示はしないが、例えば、媒体供給孔40を、筒側キー溝26の接線方向に沿うように穿孔したり、筒側螺旋溝126の螺旋方向に沿うように穿孔したりしても良い。
【0064】
(2)上述の実施形態においては、媒体排出用の孔として開放した媒体供給孔40は外部に開放されるだけであったが、これに限られるものではない。特に図示はしないが、例えば、媒体排出用の孔として開放した媒体供給孔40に吸引機(例えば、バキュームポンプ)を接続しても良い。この構成であると、一つの媒体供給孔40から洗浄用媒体を噴射し、別の媒体供給孔40から洗浄用媒体を吸引するので、異物の塊の排出方向前後両側に排出力が作用し、その塊を切り崩す速度が速まって、異物の排出効率が高まる。
【0065】
(3)上述の実施形態においては、洗浄用媒体を供給するのと同じ段の筒側キー溝26において、媒体排出用の孔として任意の媒体供給孔40を開放する例を示したが、これに限られるものではない。特に図示はしないが、洗浄用媒体を供給するのとは別の段の筒側キー溝26において、媒体排出用の孔として媒体供給孔40を開放しても良い。この場合は、異物が継手構造の隙間を介して侵入するように、供給された洗浄用媒体は、その隙間を縫って、軸側接合面13と筒側接合面23との隙間から異物と共に排出される。当然、全ての媒体供給孔40を開放していない段(筒側キー溝26)があっても良い。同様に、上述の実施形態においては、三段の筒側キー溝26の夫々に、媒体供給孔40を4箇所ずつ設けた例を示したが、例えば、三段の筒側キー溝26の夫々に媒体供給孔40を1箇所ずつ設けて、ある段(筒側キー溝26)の媒体供給孔40から供給された洗浄用媒体が、別の段(筒側キー溝26)の媒体供給孔40から排出されるように構成しても良い。この場合も、全ての段(筒側キー溝26)に媒体供給孔40を設ける必要はなく、媒体供給孔40を設けていない段(筒側キー溝26)があっても良い。
【0066】
(4)上述の実施形態においては、媒体供給孔40を複数設けて、媒体排出用の孔として少なくとも一つの媒体供給孔40を開放する例を示したが、これに限られるものではない。特に図示はしないが、媒体排出用の孔として媒体供給孔40を開放させないことも、当初から媒体供給孔40を継手構造全体に対して一つだけしか設けないことも考えられる。この場合、供給された洗浄用媒体は、継手構造の隙間を縫って、軸側接合面13と筒側接合面23との隙間から異物と共に排出される。
【0067】
(5)上述の実施形態においては、筒側キー溝26に収容した荷重伝達キー32をボックス継手20の外周部からの操作で軸側キー溝16に対して出退させる例と、複数の分割キー132aからなる荷重伝達キー132を継手構造の外部(キー挿入口133)から軸側キー溝16及び筒側キー溝26に挿入する例とについて説明した。しかし、荷重伝達キー32,132の形態についてはこれらに限れられるものではない。例えば、図示はしないが、荷重伝達キーの形状を、長辺がキー溝の形状に湾曲したL字形状とし、荷重伝達キー132の例と同様に、キー挿入口133から軸側キー溝16及び筒側キー溝26に挿入するような構成としても良い。この場合も、抜け止めキー134や別の抜け止め手段で、荷重伝達キーの抜け止めを行うこととなる。
【0068】
(6)上述の実施形態においては、本発明を鋼管杭に適用した例を示したが、上杭2及び下杭1は、コンクリート杭であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る柱状体の継手構造は、鋼管杭だけでなく、鋼管矢板等、二つの鋼管を長手方向に互いに抜き差し自在に接合する継手構造に適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 下杭(二つの鋼管)
2 上杭(二つの鋼管)
3 移動拘束手段
10 ピン継手(軸状継手部)
16 軸側キー溝(第一係合部)
20 ボックス継手(筒状継手部)
26 筒側キー溝(第二係合部)
32 荷重伝達キー(第二係合部・キー部材)
40 媒体供給孔
41 ネジ(蓋取付部)
43 キャップ(蓋部材)
116 軸側螺旋溝(第一係合部)
126 筒側螺旋溝(第二係合部)
132 荷重伝達キー(第二係合部・キー部材)
216 係合凸部(第一係合部)
226 係合凹部(第二係合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの柱状体のうちの一方の柱状体の先端部に固着された筒状継手部と、前記二つの柱状体のうちの他方の柱状体の先端部に固着され、前記筒状継手部に挿入される軸状継手部と、前記軸状継手部を前記筒状継手部に挿入した状態で、前記二つの柱状体の長手方向における前記軸状継手部と前記筒状継手部との相対移動を拘束する移動拘束手段と、を備えた柱状体の継手構造であって、
前記移動拘束手段は、前記軸状継手部の外周部に設けられた第一係合部と、前記第一係合部に係合可能なように前記筒状継手部の内周部に設けられ、前記第一係合部に係合したときに、前記軸状継手部と前記筒状継手部との少なくとも前記長手方向における相対移動を拘束する第二係合部と、を備え、
前記第一係合部と前記第二係合部との係合箇所に連通し、前記係合箇所に洗浄用媒体を供給する媒体供給孔を、前記筒状継手部の外周部に形成してある柱状体の継手構造。
【請求項2】
前記第一係合部は、前記軸状継手部の外周部に周設された一以上の軸側キー溝であり、
前記第二係合部は、前記筒状継手部の内周部に周設され、前記軸状継手部を前記筒状継手部に挿入したときに前記軸側キー溝と対応する一以上の筒側キー溝、及び、前記筒側キー溝と前記軸側キー溝とに跨って係合して、前記軸状継手部と前記筒状継手部との少なくとも前記二つの柱状体の長手方向における相対移動を拘束可能な一以上のキー部材であり、
前記媒体供給孔は、前記キー溝に連通する請求項1に記載の柱状体の継手構造。
【請求項3】
前記第一係合部は、前記軸状継手部の外周部に一体的に形成されており、
前記第二係合部は、前記第一係合部に係合可能なように前記筒状継手部の内周部に一体的に形成されている請求項1に記載の柱状体の継手構造。
【請求項4】
前記媒体供給孔は、前記筒側キー溝のうち、前記キー部材が収容された位置に連通する請求項2に記載の柱状体の継手構造。
【請求項5】
前記軸状継手部と前記筒状継手部との接合部を介して互いに連通する二以上の前記媒体供給孔を備えた請求項1から4の何れか一項に記載の柱状体の継手構造。
【請求項6】
前記媒体供給孔に設けた蓋取付部に係合して、前記媒体供給孔を閉塞可能な蓋部材を備え、
前記蓋取付部は、前記洗浄用媒体を噴射する噴射機を前記媒体供給孔に接続する接続具を取り付ける取付部を兼ねている請求項1から5の何れか一項に記載の柱状体の継手構造。
【請求項7】
二つの柱状体のうちの一方の柱状体の先端部に固着された筒状継手部と、前記二つの柱状体のうちの他方の柱状体の先端部に固着され、前記筒状継手部に挿入される軸状継手部と、前記軸状継手部を前記筒状継手部に挿入した状態で、前記二つの柱状体の長手方向における前記軸状継手部と前記筒状継手部との相対移動を拘束する移動拘束手段と、を備えた柱状体の継手構造であって、前記移動拘束手段が、前記軸状継手部の外周部に設けられた第一係合部と、前記第一係合部に係合可能なように前記筒状継手部の内周部に設けられ、前記第一係合部に係合したときに、前記軸状継手部と前記筒状継手部との少なくとも前記長手方向における相対移動を拘束する第二係合部と、を備え、前記第一係合部と前記第二係合部との係合箇所に連通し、前記係合箇所に洗浄用媒体を供給する媒体供給孔を、前記筒状継手部の外周部に形成してある柱状体の継手構造によって、前記二つの柱状体を前記長手方向に互いに抜き差し不能に接合した状態において、
前記二つの柱状体を引き離して分離するのに先立って、前記媒体供給孔に前記洗浄用媒体を噴射する噴射機を接続し、前記媒体供給孔から前記洗浄用媒体を供給して、前記筒側キー溝及び前記軸側キー溝に介在する異物を前記洗浄用媒体によって洗い流す継手部の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−172338(P2012−172338A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33618(P2011−33618)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】