説明

柱状試料採取方法及び採取装置

【課題】水底の堆積物の柱状試料採取装置において、内部に取り込んだ堆積物試料の落下防止を簡便な仕組みで達成することができるようにする。
【解決手段】本体2aと該本体2aよりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす貫入用テーパー部2bと該貫入用テーパー部2bよりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす線状部材保持用テーパー部2cとが順に連なる円筒状の試料採取管2と、該試料採取管2の線状部材保持用テーパー部2c側の開口を取り囲むように線状部材保持用テーパー部2cを構成する傾斜面に形成された環状の線状部材保持用溝2dに着脱自在に嵌め込まれる切断部3a及び該切断部3aと連結するリード部3bを有する線状部材3と、貫入用テーパー部2bと本体2aの少なくとも一部とにかけて設けられ線状部材3の切断部3aとリード部3bとが通過可能な線状部材管路4と、試料採取管2の上端開口2fを塞ぐ閉塞部材5とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱状試料採取方法及び採取装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、水底の堆積物の柱状試料の採取に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水底の堆積物を柱状に採取する従来の柱状試料採取装置としては、例えば図7及び図8に示すように、堆積物試料を収容する採泥管102の下部先端に水平回転移動によって開閉自在のストッパー弁110と該ストッパー弁110をスプリングによって動作させる回転筒103とを取り付けると共に上部に重錘固定筒104を取り付けることにより採泥器本体101を構成し、採泥器本体101を吊下昇降させるためのワイヤー106を接続した可動枠105を重錘固定筒104に上下動自在に取り付け、可動枠105にはそれの上限位置において重錘固定筒104に当接すると共に着底後における可動枠105の自重降下によって連結器107に嵌合固定するストッパー108を取り付け、連結器107には回転筒103を作動させてストッパー弁110を開放させる止めピンを連結し、且つ、採泥器本体101にそれを支持する本体支持枠109を上下動自在に設けるようにしたものがある(特許文献1)。この柱状試料採取装置のストッパー弁110はそれぞれ中心棒112に連結されたアーム113に各々に設けられた穴を通して回転棒114に取り付けられた反三日月状の多数の弁111を有すると共に回転棒114はそれぞれの中心棒112を中心にして回転自在に取り付けられる。そして、多数の弁111を開いた状態(図8(A))で採泥器本体101を水底の堆積物に貫入させて採泥管102内に堆積物試料を取り込み、その後に多数の弁111を閉じて(同(B))堆積物試料を採泥管102内に閉じ込めてからワイヤー106によって可動枠105を上昇させて採泥器本体101を引き上げることによって堆積物試料を採取する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−79134号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の柱状試料採取装置では、採泥管102内に取り込んだ堆積物試料が採泥器本体101を引き上げる際に落下してしまうことを防止できるものの、ストッパー弁110を用いる落下防止の仕組みが複雑であり、動作不良が発生する虞があると共に装置のコストが高くなってしまうという問題がある。このため、汎用的であるとは言い難い。
【0005】
そこで、本発明は、内部に取り込んだ堆積物試料の落下防止を簡便な仕組みで達成することができる柱状試料採取方法及び採取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の柱状試料採取方法は、本体と該本体よりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす貫入用テーパー部と該貫入用テーパー部よりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす線状部材保持用テーパー部とが順に連なる円筒状の試料採取管と、該試料採取管の線状部材保持用テーパー部側の開口を取り囲むように線状部材保持用テーパー部を構成する傾斜面に形成された環状の線状部材保持用溝に着脱自在に嵌め込まれる切断部及び該切断部と連結するリード部を有する線状部材と、貫入用テーパー部と本体の少なくとも一部とにかけて設けられ線状部材の切断部とリード部とが通過可能な線状部材管路と、試料採取管の上端開口を塞ぐ閉塞部材とを備える柱状試料採取装置を堆積物に貫入する工程と、試料採取管内部に採取された堆積物の試料と外部の堆積物とを線状部材を引っ張って試料採取管の下端開口部において切断する工程と、試料採取管の上端開口を閉塞部材で塞ぐ工程と、線状部材管路を通じて環境水若しくは大気を流通させて試料採取管の下方空間が陰圧になることを防止しながら柱状試料採取装置を堆積物から引き抜く工程とを有するようにしている。
【0007】
また、請求項2記載の柱状試料採取装置は、本体と該本体よりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす貫入用テーパー部と該貫入用テーパー部よりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす線状部材保持用テーパー部とが順に連なる円筒状の試料採取管と、該試料採取管の線状部材保持用テーパー部側の開口を取り囲むように線状部材保持用テーパー部を構成する傾斜面に形成された環状の線状部材保持用溝に着脱自在に嵌め込まれる切断部及び該切断部と連結するリード部を有する線状部材と、貫入用テーパー部と本体の少なくとも一部とにかけて設けられ線状部材の切断部とリード部とが通過可能な線状部材管路と、試料採取管の上端開口を塞ぐ閉塞部材とを有するようにしている。
【0008】
したがって、これらの柱状試料採取方法及び採取装置によると、主に線状部材の働きによって試料採取管内部に採取された堆積物試料と外部の堆積物とが切断されると共に試料採取管上端開口が閉塞部材によって塞がれ且つ線状部材管路の働きによって試料採取管の下方空間が陰圧になることが防止されるので、試料採取管内部に採取された堆積物試料の、試料採取管の引き抜きの際の戻り、及び、引き抜き後の抜け落ちが防止される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の柱状試料採取方法及び採取装置によれば、簡便な仕組みによって、試料採取管内部に採取された堆積物試料の、試料採取管の引き抜きの際の戻り、及び、引き抜き後の抜け落ちを防止することができ、汎用性の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の柱状試料採取装置の実施形態の一例を示す縦断面図である。
【図2】実施形態の柱状試料採取装置の試料採取管の先端部を説明する拡大縦断面図である。
【図3】本発明の柱状試料採取方法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【図4】実施形態において柱状試料採取装置の内部に試料を採取した状態における線状部材の働きを説明する縦断面図である。
【図5】実施形態において柱状試料採取装置の内部の試料と外部の堆積物とを切断した後に閉塞部材が取り付けられた状態を説明する縦断面図である。
【図6】本発明の柱状試料採取装置を用いた柱状試料採取方法において水底の堆積物から装置を引き抜く際の状況を説明する縦断面図である。
【図7】従来の柱状試料採取装置の全体構成を示す縦断面図である。
【図8】従来の柱状試料採取装置のストッパー弁を説明する平面図である。(A)は弁を開いた状態の図である。(B)は弁を閉じた状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1及び図2に、本発明の柱状試料採取装置の実施形態の一例を示す。この柱状試料採取装置1は、本体2aと該本体2aよりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす貫入用テーパー部2bと該貫入用テーパー部2bよりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす線状部材保持用テーパー部2cとが順に連なる円筒状の試料採取管2と、該試料採取管2の線状部材保持用テーパー部2c側の開口を取り囲むように線状部材保持用テーパー部2cを構成する傾斜面に形成された環状の線状部材保持用溝2dに着脱自在に嵌め込まれる切断部3a及び該切断部3aと連結するリード部3bを有する線状部材3と、貫入用テーパー部2bと本体2aの少なくとも一部とにかけて設けられ線状部材3の切断部3aとリード部3bとが通過可能な線状部材管路4と、試料採取管2の上端開口2fを塞ぐ閉塞部材5とを備える。
【0013】
ここで、試料採取管2の円筒状の本体2aの軸心方向を以下の説明における軸心方向と定義する。また、柱状試料採取装置1を水底の堆積物に貫入させて当該堆積物の試料を採取する際の姿勢を基準に上下と横方向とを定義する。
【0014】
全体として円筒状をなす試料採取管2は上端側の本体2aとその下側の貫入用テーパー部2bと線状部材保持用テーパー部2cとを有する。そして、内側には周壁の滑らかな内周面で囲まれる円柱形状の中空部2eを有する。
【0015】
円筒状の本体2aの下端から連接して、上端の外周の径よりも下端の外周の径の方が小さくなる傾斜面として外周面が形成された貫入用テーパー部2bが形成される。
【0016】
さらに、貫入用テーパー部2bの下端から連接して、上端の外周の径よりも下端の外周の径の方が小さくなる傾斜面として外周面が形成された線状部材保持用テーパー部2cが形成される。
【0017】
線状部材保持用テーパー部2cの傾斜、言い換えると、試料採取管2の内周面と線状部材保持用テーパー部2cの傾斜面とがなす角度αは、45度より大きく90度より小さい角度に形成される(図2)。そして、角度αの大きさと線状部材保持用溝2dの深さとは(これらの組み合わせは)、線状部材3の切断部3aに線状部材保持用テーパー部2c内側向きの外力が一定の範囲のときは切断部3aが線状部材保持用溝2dに留まるものの一定以上の大きさのときは切断部3aが線状部材保持用溝2dから外れるように調整される。
【0018】
また、貫入用テーパー部2bの上端から下端に向けて次第に外周の径が小さくなる程度は、線状部材保持用テーパー部2cの上端から下端に向けて次第に外周の径が小さくなる程度よりも緩やかである。
【0019】
円筒状の試料採取管2にとっては周壁の下端面に該当する線状部材保持用テーパー部2cを構成する傾斜面には、環状の線状部材保持用溝2dが形成される。すなわち、線状部材保持用溝2dは試料採取管2の下端の開口を取り囲むように形成される。
【0020】
線状部材3は切断部3aと当該切断部3aと連結するリード部3bとを有する。本実施形態では、切断部3aは線状部材保持用溝2dに丁度嵌め合わされる大きさの環状に形成され、該環の一点においてリード部3bの下端が連結されている。なお、線状部材3は可撓性を有する部材であれば特定の材質のものに限定されるものではなく、例えばピアノ線やナイロン(登録商標)製の紐などが用いられることが考えられる。また、本実施形態では、線状部材3の操作をし易いようにリード部3bの上端にグリップ3cが取り付けられる。
【0021】
そして、線状部材保持用テーパー部2c及び線状部材保持用溝2d並びに線状部材3を上述のように構成することにより、柱状試料採取装置1を水底の堆積物に貫入させる際に堆積物に押し当てられることよって切断部3aに働く上向きの外力に対しては線状部材保持用溝2dが当該外力を受ける切断部3aを支持するものとして働くので切断部3aが線状部材保持用溝2dから外れてしまうことがなく、一方で、リード部3bを介して切断部3aを引っ張ることによって切断部3aに(切断部3aとリード部3bとの連結点以外の箇所において)働く線状部材保持用テーパー部2c内側向きの外力に対しては線状部材保持用溝2dは一定の範囲でのみ支持力を発揮し得るので外力が大きくなると当該外力を受ける切断部3aは線状部材保持用溝2dから外れる。
【0022】
また、貫入用テーパー部2bは、柱状試料採取装置1を水底の堆積物に貫入させる際に装置1周囲の堆積物を切断して当該堆積物の状態を乱すことなく試料採取管2の中空部2eに堆積物試料を採取する働きを奏する。
【0023】
なお、試料採取管2は、試料採取の条件を踏まえて必要とされる軸心方向の長さ及び径の大きさに形成される。あくまで例として挙げれば、例えば、軸心方向の長さ100〜200〔cm〕程度,直径5〜10〔cm〕程度に形成されることが考えられる。
【0024】
本実施形態では、線状部材管路4は、試料採取管2の本体2a及び貫入用テーパー部2bの外周面に軸心方向に取り付けられたパイプによって構成される。そして、本実施形態では、線状部材管路4は、下端開口が貫入用テーパー部2bの下端(即ち、線状部材保持用テーパー部2cの上端)位置に合わせられると共に上端開口が試料採取管2の上端よりも上方に位置するようにして設けられる。
【0025】
線状部材管路4は、線状部材3のリード部3bを通過させると共に、リード部3bを引っ張った場合に環の一点が引っ張られて折り畳まれた切断部3aを通過させることができる(言い換えると、線状部材3を二本同時に通過させることができる)大きさの内径を有するものとして形成される。
【0026】
なお、本実施形態では、線状部材管路4の下端開口位置から線状部材保持用溝2dへの最短経路に、線状部材3を嵌め込ませて通過させるための径方向の溝2fが形成される。
【0027】
上述の線状部材3及び線状部材管路4の構成により、線状部材3のグリップ3cが引き上げられることによってリード部3bが引っ張られ、これによってリード部3bとの連結点において切断部3aが横方向に引っ張られる。そして、横方向に引っ張られた切断部3aは線状部材保持用溝2dから外れ、折り畳まれるようにして環の大きさを徐々に小さくしながら線状部材管路4に次第に引き込まれる。
【0028】
閉塞部材5は、試料採取管2の上端開口(即ち本体2aの上端開口)2fを水密性を有する状態で塞ぐためのものであり、具体的には例えばゴム栓などが用いられる。
【0029】
続いて、図3から図6を用いて、本発明の柱状試料採取方法について説明する。
【0030】
この柱状試料採取方法は、図3に示すように、本体2aと該本体2aよりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす貫入用テーパー部2bと該貫入用テーパー部2bよりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす線状部材保持用テーパー部2cとが順に連なる円筒状の試料採取管2と、該試料採取管2の線状部材保持用テーパー部2c側の開口を取り囲むように線状部材保持用テーパー部2cを構成する傾斜面に形成された環状の線状部材保持用溝2dに着脱自在に嵌め込まれる切断部3a及び該切断部3aと連結するリード部3bを有する線状部材3と、貫入用テーパー部2bと本体2aの少なくとも一部とにかけて設けられ線状部材3の切断部3aとリード部3bとが通過可能な線状部材管路4と、試料採取管2の上端開口2fを塞ぐ閉塞部材5とを備える柱状試料採取装置1を堆積物10に貫入する工程(S1)と、試料採取管2内部に採取された堆積物10の試料10aと外部の堆積物10とを線状部材3を引っ張って試料採取管2の下端開口部において切断する工程(S2)と、試料採取管2の上端開口2fを閉塞部材5で塞ぐ工程(S3)と、線状部材管路4を通じて環境水11若しくは大気を流通させて試料採取管2の下方空間12が陰圧になることを防止しながら柱状試料採取装置1を堆積物10から引き抜く工程(S4)とを有するようにしている。
【0031】
具体的には、本発明の柱状試料採取方法の実行にあたっては、まず、柱状試料採取装置を水底の堆積物に貫入する(S1)。
【0032】
柱状試料採取装置1は、予め、閉塞部材5が外されて試料採取管2の上端開口2fが開放され、また、線状部材保持用溝2dに線状部材3の切断部3aが嵌め込まれていると共にリード部3bが線状部材管路4を貫通して収容されている状態に準備される。なお、線状部材管路4の上端開口から突出するリード部3bの上端には本実施形態ではグリップ3cが取り付けられている。
【0033】
なお、切断部3aが線状部材保持用溝2dから外れてしまう虞がある場合には、線状部材保持用溝2dに嵌め込んだ状態の切断部3aを、リード部3bを介して引っ張った際には外れる程度に例えば粘着テープでとめるようにしても良い。
【0034】
そして、上述の状態に準備された柱状試料採取装置1を堆積物10に貫入させる。この際、貫入用テーパー部2bの働きにより、装置1周囲の堆積物10が切断されて当該堆積物10の状態が乱されることなく試料採取管2の中空部2eに堆積物試料10aが採取される。なお、柱状試料採取装置1の水底の堆積物への貫入の深さは、試料採取の条件を踏まえて必要な深さに適宜設定される。
【0035】
次に、試料採取管内部に採取された堆積物試料と外部の堆積物とを線状部材を用いて試料採取管の下端開口部において切断する(S2)。
【0036】
具体的には、柱状試料採取装置1を堆積物10に所定の深さまで貫入させた後、線状部材3のグリップ3cを引き上げることによってリード部3bを引っ張り、これによってリード部3bとの連結点を作用点として切断部3aを横方向に引っ張る。そして、切断部3aを線状部材保持用溝2dから外して線状部材管路4に徐々に引き込む。
【0037】
これにより、切断部3aを線状部材管路4に徐々に引き込み切断部3aの環を線状部材管路4側に徐々に引き寄せると共に環の大きさを徐々に小さくしながら、試料採取管2の下端開口部(即ち、下端開口面)において、中空部2eに採取された堆積物試料10aと外部の堆積物10とを切断する(図4)。なお、線状部材3は線状部材管路4から完全に引き抜いておく。
【0038】
次に、試料採取管の上端開口を閉塞部材で塞ぐ(S3)。
【0039】
本発明では、堆積物10に一旦貫入させて試料採取管2の中空部2eに堆積物試料10aを取り込んだ柱状試料採取装置1を引き抜く際の試料10aの戻り、及び、引き抜き後の試料10aの抜け落ちを防止するために試料採取管2の上端開口2fを閉塞部材5で閉塞する。
【0040】
このとき、S2の処理の後の試料採取管2の中空部2eが堆積物試料10aによっては完全には埋め尽くされていない場合には、当該中空部2eの堆積物試料10aが入り込んでいない部分を堆積物10上方の水(言い換えると、柱状試料採取装置1周囲の水;以下、環境水と呼ぶ)で満たすようにする。
【0041】
なお、S1の処理において堆積物10に柱状試料採取装置1を貫入させた状態において、試料採取管2の上端開口2fが環境水11中に没している場合にはS2の処理の後の状態として中空部2eの堆積物試料10aの上方部分は環境水11で満たされていることになるので特別の処理をする必要はない。
【0042】
一方、S1の処理においては試料採取管2の上端開口2fが環境水11の水面から突出している場合にはS2の処理の後の状態として中空部2eの堆積物試料10aの上方部分は空洞になっているので、柱状試料採取装置1周囲の環境水11を汲んで中空部2eに注ぎ、中空部2eの堆積物試料10aの上方部分を環境水11で満たすようにする。
【0043】
そして、試料採取管2の中空部2eが堆積物試料10aと環境水11とで満たされた状態で、閉塞部材5を嵌め合わせて上端開口2fを水密性を有する状態で閉塞する(図5)。
【0044】
次に、柱状試料採取装置を堆積物から引き抜く(S4)。
【0045】
柱状試料採取装置1を堆積物10から引き抜こうとすると、S2の処理において切断部3aによる切断によって形成された堆積物試料10aの下面及び堆積物10の切断面と、貫入用テーパー部2bによる切断によって形成された装置1周囲の切断面とによって囲まれる空間(以下、試料採取管下方空間12)は陰圧になり得る。そして、試料採取管下方空間12が陰圧になると、試料採取管2の中空部2eに取り込まれた堆積物試料10aが、試料採取管の引き抜きの際に戻ったり、引き抜き後に抜け落ちたりしてしまう虞がある。
【0046】
本発明では、試料採取管下方空間12に対して下端開口が露出すると共に柱状試料採取装置1の上方空間に対して上端開口が露出している線状部材管路4によって試料採取管下方空間12と装置1の上方空間とが連通している。したがって、本発明では、柱状試料採取装置1を堆積物10から引き抜く際に、線状部材管路4の上端開口が環境水11中にある場合には試料採取管下方空間12に環境水11が流入し(図6)、線状部材管路4の上端開口が環境水11の水面から突出している場合には試料採取管下方空間12に大気が流入する。したがって、試料採取管下方空間12が陰圧になることがない。
【0047】
さらに、本発明では、試料採取管2の中空部2eは堆積物試料10a及び環境水11で満たされると共に上端開口2fを閉塞部材5で閉塞するようにしており、中空部2eが充填状態であると共に上端開口2fが開放されていないので、中空部2eの試料10aの落下が防止される。すなわち、本発明では、試料採取管2の上端開口2fを閉塞することによって(言い換えると、中空部2eにおける陰圧の発生を利用して)中空部2eの堆積物試料10aの落下を防止すると共に、試料採取管下方空間12における陰圧の発生を防ぐことによって中空部2eの堆積物試料10aの引き抜きの際の戻り、及び、引き抜き後の落下を防止するようにしており、簡便な構造によって二重の落下防止の仕組みが機能するようにしている。
【0048】
なお、本実施形態では線状部材管路4の上端開口が試料採取管2の上端から突出するように設けられているが、線状部材管路4は堆積物10内に形成される試料採取管下方空間12と堆積物10外部とを連通させる働きもするものであるところ、線状部材管路4はS1の処理において柱状試料採取装置1を堆積物10に所定の深さまで貫入させた状態で堆積物10から上端開口が突出する位置まで少なくとも設けられていれば良い。
【0049】
なお、柱状試料採取装置1が堆積物10から完全に引き抜かれて試料採取管2の下端(即ち、堆積物試料10aの下端)が堆積物10よりも上方に位置するようになった時に、堆積物試料10aが環境水11中に、また、柱状試料採取装置1を更に引き上げた際に試料10aが大気中にこぼれ落ちてしまわないように試料採取管2の下端面を覆う例えば樹脂製のキャップ(図示していない)を嵌めるようにしても良い。
【0050】
以上の処理によって試料採取管2の中空部2eに乱れのない堆積物試料10aが採取され、分析を行うまで当該試料10aの状態が保持される適切な保管を施し、当該地点における堆積物試料10aの採取の作業が完了する(END)。
【0051】
以上のように構成された本発明の柱状試料採取方法及び採取装置によれば、主に線状部材3の働きによって試料採取管2内部に採取された堆積物試料10aと外部の堆積物10とが切断されると共に試料採取管上端開口2fが閉塞部材5によって塞がれ且つ線状部材管路4の働きによって試料採取管下方空間12が陰圧になることが防止され、簡便な仕組みによって、試料採取管中空部2eに採取された堆積物試料10a引き抜きの際の戻り、及び、引き抜き後の抜け落ちを防止することが可能になる。
【0052】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、線状部材3は環状の切断部3aと当該切断部3aと連結するリード部3bとを有するものとして構成されているが、線状部材3の構成はこれに限られず、一本の線状部材を折り返し、折り返し部分を線状部材保持用溝2dに嵌め込むと共に折り返し部分の両側部分を線状部材管路4を貫通させるものとして構成するようにしても良い。
【0053】
また、本実施形態では、線状部材管路4は試料採取管2の外周面に軸心方向に取り付けられたパイプによって構成されているが、線状部材管路4の構成はこれに限られず、試料採取管2の本体2a及び貫入用テーパー部2bの周壁内部に形成された貫通孔として構成されるようにしても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 柱状試料採取装置
2 試料採取管
2a 本体
2b 貫入用テーパー部
2c 線状部材保持用テーパー部
2d 線状部材保持用溝
2f 上端開口
3 線状部材
3a 切断部
3b リード部
4 線状部材管路
5 閉塞部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と該本体よりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす貫入用テーパー部と該貫入用テーパー部よりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす線状部材保持用テーパー部とが順に連なる円筒状の試料採取管と、該試料採取管の前記線状部材保持用テーパー部側の開口を取り囲むように前記線状部材保持用テーパー部を構成する傾斜面に形成された環状の線状部材保持用溝に着脱自在に嵌め込まれる切断部及び該切断部と連結するリード部を有する線状部材と、前記貫入用テーパー部と前記本体の少なくとも一部とにかけて設けられ前記線状部材の切断部とリード部とが通過可能な線状部材管路と、前記試料採取管の上端開口を塞ぐ閉塞部材とを備える柱状試料採取装置を堆積物に貫入する工程と、前記試料採取管内部に採取された前記堆積物の試料と外部の堆積物とを前記線状部材を引っ張って前記試料採取管の下端開口部において切断する工程と、前記試料採取管の上端開口を前記閉塞部材で塞ぐ工程と、前記線状部材管路を通じて環境水若しくは大気を流通させて前記試料採取管の下方空間が陰圧になることを防止しながら前記柱状試料採取装置を前記堆積物から引き抜く工程とを有することを特徴とする柱状試料採取方法。
【請求項2】
本体と該本体よりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす貫入用テーパー部と該貫入用テーパー部よりも外径が次第に小さくなるように傾斜面をなす線状部材保持用テーパー部とが順に連なる円筒状の試料採取管と、該試料採取管の前記線状部材保持用テーパー部側の開口を取り囲むように前記線状部材保持用テーパー部を構成する傾斜面に形成された環状の線状部材保持用溝に着脱自在に嵌め込まれる切断部及び該切断部と連結するリード部を有する線状部材と、前記貫入用テーパー部と前記本体の少なくとも一部とにかけて設けられ前記線状部材の切断部とリード部とが通過可能な線状部材管路と、前記試料採取管の上端開口を塞ぐ閉塞部材とを有することを特徴とする柱状試料採取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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