説明

栄養剤として適用するためのクルミ抽出物

本発明は、リン脂質、特にホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、およびホスファチジルイノシトール(PI)が、自然に存在するクルミに見られるクルミ油と比べて富化されているクルミ油抽出物を記載する。PE/PCおよび/またはPIを組み合わせると相乗的な治療効果が存在することがわかった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、「栄養剤として適用するためのクルミ抽出物(Walnut extracts for nutraceutical applications)」と題する2009年7月20日出願の米国仮特許出願第61/226,780号にに基づく、35U.S.C.§119(e)にしたがう優先権の利益を主張し、その内容の全体は参照により本明細書に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に、リン脂質、特にホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)が、自然に存在するクルミに見られるクルミ油と比べて富化されている、クルミ核抽出物に関する。PE/PCおよび/またはPIを組み合わせると相乗的な治療効果が存在することがわかった。
【背景技術】
【0003】
クルミ核は、一般に約60%の油を含有するが、栽培品種、栽培立地、および潅漑速度(irrigation rate)に応じて、52〜70%で変動しうる。油の主な構成成分は、トリグリセリド、遊離脂肪酸、ジグリセリド、モノグリセリド、ステロール、およびステロールエステルである。ホスファチドなどの極性の構成成分は、軽微な量しか存在しない。クルミ油に見られる主な脂肪酸は、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、およびリノレン酸(18:3)である。これらの互いに対する比率は、この堅果の経済学的および栄養学的価値にとって重要である。リノール酸およびリノレン酸含有量が少ない方が保存可能期間が長くなり、健康上の利益をもたらす可能性を有しているため、一価不飽和脂肪酸はより望ましい。
【0004】
クルミおよびクルミ油は、健康全般、特に精神衛生に関して治療利益をもたらすと一般に考えられている。しかし、クルミ油のその(1種または複数の)有益な成分については、十分に理解されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、上で指摘した現在の欠点の1つまたは複数を克服する、(1種または複数の)活性物質のより深い理解が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルイノシトール(PI)などのリン脂質が、自然に存在するクルミに見られるクルミ油と比べて富化されている脂質組成物をもたらすクルミ抽出物を提供する。組成物は、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質をさらに含んでいてもよい。特定のPE対PCの比を利用することにより、認知機能の向上およびアルツハイマー病の治療等の、脳の健康への意外な利益を実現できることがわかった。
【0007】
いくつもの実施形態を開示するが、本発明のさらに他の実施形態は、当業者には以下の詳細な説明から明らかとなろう。明らかとなるように、本発明は、様々な明白な態様において、すべて本発明の真意および範囲から逸脱することなく、変更が可能である。したがって、詳細な説明は、例示的な性質のものとみなされ、限定するものでなない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の4種のリン脂質含有クルミ抽出物が線維形成に及ぼす阻害効果を示すグラフである。
【図2】本発明の2種のクルミリン脂質抽出物が線維形成に及ぼす阻害効果を、大豆由来のリン脂質と比較して示すグラフである。
【図3】大豆由来のリン脂質と本発明の4種のリン脂質含有クルミ抽出物の脱線維化効力を比較して表すグラフである。
【図4】本発明の4種のリン脂質含有クルミ抽出物によるアセチルコリンエステラーゼの阻害を示すグラフである。
【図5】大豆由来リン脂質によるアセチルコリンエステラーゼの阻害を、本発明の2種のリン脂質含有クルミ抽出物と比較して示すグラフである。
【図6】ES2010−2007のポジティブモードでの質量スペクトルを示すグラフである。大きいピークは、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンからなる。
【図7】ES2010−2008のポジティブモードでの質量スペクトルを示すグラフである。大きいピークは、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンからなる。
【図8】ES2010−2007のネガティブモードでの質量スペクトルを示すグラフである。ピークは主にPIおよびPEである。
【図9】ES2010−2008のネガティブモードでの質量スペクトルを示すグラフである。ピークは主にPIおよびPEである。
【図10】ES2010−007の質量スペクトルを示すグラフである。
【図11】ES2010−008の質量スペクトルを示すグラフである。
【図12】ES2010−007の質量スペクトルを示すグラフである。
【図13】ES2010−008の質量スペクトルを示すグラフである。
【図14】ES2010−007の質量スペクトル(ネガティブモード)を示すグラフである。
【図15】ES2010−008の質量スペクトル(ネガティブモード)を示すグラフである。
【図16】クルミ抽出物による線維形成の阻害を示すグラフである。
【図17】クルミ抽出物による脱線維化の百分率を示すグラフである。
【図18】本発明のクルミ抽出物によるアセチルコリンエステラーゼの阻害を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書および特許請求の範囲において、用語「含む(including)」および「含む(comprising)」は、非限定的な用語であり、「その限りでないが、・・・・を含めて」という意味に解釈すべきである。これらの用語は、より限定的な用語である「本質的に・・・・からなる(consisting essentially of)」および「からなる(consisting of)」を包含する。
【0010】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用するとき、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈からそうでないと明らかに規定されない限り、複数のものも含むことに留意しなければならない。なお、用語「a」(または「an」)、「1つまたは複数の(one or more)」、および「少なくとも1つの(at least one)」は、本明細書では互換的に使用されることがある。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「特徴とする(characterized by)」、および「有する(having)」が互換的に使用される場合があることにも留意されたい。
【0011】
別段定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書で特に言及する刊行物および特許はすべて、刊行物において報告されている、本発明と関連して使用されることもあるであろう化学物質、機器、統計分析、および方法を記載および開示することを含むすべての目的で、その全体が参照により援用される。本明細書で引用する参考文献はすべて、当業界における技量のレベルを示すものとして利用する。本明細書では、先行発明によって本発明にそうした開示に先立つ権利が与えられないと認めるものと解釈されることはない。
【0012】
本発明は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルイノシトール(PI)などのリン脂質が、自然に存在するクルミに見られるクルミ油と比べて富化されている脂質組成物をもたらすクルミ抽出物を提供する。
【0013】
全体を通して記載するクルミ抽出物およびその組成物は、クルミから単離、分離、または精製された抽出物を含むことを理解されたい。したがって、クルミ抽出物または組成物は、天然のものではなく、クルミの物理的/化学的構造内の構成成分のいくつかが増加するように処理されている。クルミの物理的/化学的構造の天然に存在する構成成分のいくつかは、単離、分離、または精製の過程によって除去され、または減少していてもよい。すなわち、抽出物は、有用な利点をもたらす所望の成分が、自然に存在するクルミより富化されている。そうした所望の成分として、たとえば、PE、PC、およびPIが挙げられる。
【0014】
本発明の抽出物および組成物は、クルミ油と異なる。クルミ油では一般に、冷圧して堅果を単純に砕き、得られる油および油中に浮遊したままである任意の構成成分を収集する。
【0015】
一態様では、本発明のリン脂質組成物は、PI/PCの重量比が約0.88より大きい、より格段には約1より大きい、さらに格段には約1.5より大きく、さらには約2よりも大きい。
【0016】
別の態様では、本発明のリン脂質組成物は、PI/PEの重量比が約0.40より大きい、より格段には約0.5より大きい、さらに格段には約1より大きく、さらには約1.5よりも大きい。
【0017】
さらに別の態様では、本発明の組成物では、PC:PE:PI:PSの比は、おおよそ30:20:40:10である。ホスファチジル脂質/スフィンゴシン脂質の重量比は、約70/30である。
【0018】
別の態様では、本発明のリン脂質組成物は、組成物の不飽和脂肪酸の百分率が約80%より高い。たとえば、不飽和脂肪酸は、14:1、16:1、18:1、18:2、18:3、および/または22:1の不飽和脂肪酸であることができる。飽和脂肪酸には、12:0、14:0、16:0、18:0、20:0、および/または22:0の飽和脂肪酸を含めることができる。通常、脂肪酸対不飽和脂肪酸の範囲は、不飽和脂肪酸の方が多く、重量で約15〜約20%/80〜約85%である。
【0019】
一態様では、本発明の抽出物中のリン脂質の総量は、約80〜約85重量%である。
【0020】
一実施形態では、本発明は、1種または複数のリン脂質と1種または複数のスフィンゴ脂質を含み、リン脂質にはPEおよびPCが含まれる組成物を提供する。そのような実施形態では、PE対PCの重量比が約1:1〜約2:1、特に約1.6:1〜約1.7:1である。組成物は、PIをさらに含むことができ、PE対PIの重量比は、約2:1〜約3:1、特に約2.3:1〜約2.7:1である。特定の実施形態では、PC:PI:PEの重量比は、約3:2:5である。例となる一実施形態では、組成物は、0.5重量%より多い、特に1.5重量%より多いリン脂質を含む。詳細には、組成物は、不飽和脂肪酸対飽和脂肪酸の重量比が約2:1〜約2.5:1であることができる。組成物は、約0.05重量%より多いスフィンゴ脂質をさらに含むことができる。
【0021】
特定の実施形態では、成分PC/PI/PEの比は、約3:(2〜4):(2〜5)である。また別の実施形態では、成分PC/PI/PE/PSの比は、約3:(2〜4):(2〜5):(0.1〜1)である。
【0022】
さらに別の実施形態では、約(20〜50):30:(20〜40)であるPE:PC:PIの比が、本発明の範囲内にある。
【0023】
本発明の脂質組成物は、認知に関する健康に有益である。アセチルコリンエステラーゼ(AChE)の阻害によって、脂質組成物がアルツハイマー病の治療または改善に役立つことが実証される。
【0024】
さらに、クルミ抽出物(リン脂質組成物)は、用途が多彩であるので、本発明によるクルミ抽出物によって、心臓病、がん、卒中、動脈硬化などを治療または改善することが可能である。
【0025】
本発明はさらに、イチョウ抽出物と上述の脂質組成物の組合せを提供する。この複合製品は、生物学的利用能の向上など、イチョウ抽出物の栄養レベルを向上させることができる。
【0026】
リポソーム製剤は、活性原材料を移送する媒質または担体として広く使用されている。独特な本発明のクルミ抽出物組成物は、担体として働くことができ、たとえば、リポソーム製剤として製剤されて、薬物などの活性物質を送達することができる。
【0027】
本明細書に記載の組成物は、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質をさらに含んでいてもよい。
【0028】
本発明の組成物は、食材にする、栄養剤にする、薬物と一緒にするなど、様々な形態で提供し、また様々な製品に組み入れることができる。
【0029】
本発明の組成物は、様々な食物、飲料、スナックなどに組み入れることができる。一態様では、組成物は、消費する前に食品に振りかけることができる。食品に振りかける場合、デンプン、スクロース、ラクトースなどの適切な担体を使用して、組成物の濃度の分配を助け、より食品に適用しやすくすることができる。
【0030】
本発明の組成物は、様々な調理加工食品中にサプリメントとして提供することもできる。この適用の目的では、調理加工食品とは、本発明の組成物が加えられている任意の自然食品、加工食品、ダイエット食品、または非ダイエット食品を意味する。本発明の組成物は、その限りでないが、ダイエット飲料、ダイエットバー、および調理済み冷凍食を含む多くの調理加工ダイエット食品にそのまま組み入れることができる。さらに、本発明の組成物は、その限りでないが、キャンディー、チップスなどのスナック製品、調理済み食肉製品、乳、チーズ、ヨーグルト、固形スポーツ食、スポーツ飲料、マヨネーズ、サラダドレッシング、パン、および他の任意の油脂含有食物を含む多くの調理加工非ダイエット製品に組み入れることもできる。本明細書では、用語「食品」とは、ヒトまたは動物による消費にかなった任意の物質を指す。
【0031】
本発明の組成物は、果汁、ミルクセーキ、乳などの様々な飲料に加えることができる。
【0032】
好ましい投与方法は、経口である。本発明の組成物は、デンプン、スクロース、ラクトースなどの適切な担体を用い、錠剤、カプセル剤、溶液、シロップ、および乳濁液に製剤することができる。本発明の錠剤またはカプセル剤は、約6.0〜7.0のpHで溶解する腸溶剤皮でコーティングすることができる。小腸で溶解するが胃では溶解しない適切な腸溶剤皮は、酢酸フタル酸セルロースである。
【0033】
本発明の組成物をソフトゲルカプセル剤にする製剤は、当業界で知られている多くの方法によって実現することができる。この製剤はしばしば、油または他の懸濁化剤もしくは乳化剤などの許容される担体を含む。
【0034】
取捨選択可能な適切な担体としては、その限りでないが、たとえば、脂肪酸、そのエステルおよび塩が挙げられ、これらは、天然または合成の油、脂、蝋、またはこれらの組合せを含めるが限定はしない、任意の供給源に由来するものであってよい。さらに、脂肪酸は、限定はしないが、非水素添加油、部分的水素添加油、完全水素添加油、またはこれらの組合せに由来するものであってよい。非限定的な脂肪酸(そのエステルおよび塩)の供給源として、種実油、魚油もしくは海産物油、カノーラ油、植物油、ベニバナ油、ヒマワリ油、ナスタチウム油、カラシ種子油、オリーブ油、ゴマ油、大豆油、トウモロコシ油、ラッカセイ油、綿実油、米ぬか油、ババスー油、パーム油、低エルカ酸菜種油、パーム核油、ルピナス油(lupin oil)、ヤシ油、亜麻仁油、オオマツヨイグサ油、ホホバ、小麦胚芽油、獣脂、牛脂、バター、鶏脂、豚脂、乳脂肪(dairy butterfat)、シアバター、またはこれらの組合せが挙げられる。
【0035】
非限定的な特定の魚油または海産物油供給源の例には、貝類の油、マグロ油、サバ油、サケ油、メンハーデン、カタクチイワシ、ニシン、マス、サーディン、またはこれらの組合せが含まれる。特に、脂肪酸の供給源は、魚油もしくは海産物油(DHAまたはEPA)、大豆油、または亜麻仁油である。別法として、または上で明らかにした担体の1つと組み合わせて、蜜蝋、ならびにシリカ(二酸化ケイ素)などの懸濁化剤を適切な担体として使用することができる。
【0036】
本発明の組成物は、機能性成分(nutraceutical)を含むことができる。用語「機能性成分」は当業界で認知されており、疾患を予防し、または望ましくない状態を改善することのできる、食物中に見出される特定の化学化合物について述べるものである。
【0037】
本発明の組成物は、本発明の有益な組成物の安定化、もしくはその成分の生物学的利用能の促進を助け、または個人の食生活への付加的な栄養素として役立つ、様々な原材料をさらに含むことができる。適切な添加剤には、ビタミンおよび生物学的に許容されるミネラルを含めることができる。ビタミンの非限定的な例として、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、および葉酸が挙げられる。ミネラルの非限定的な例として、鉄、カルシウム、マグネシウム、カリウム、銅、クロム、亜鉛、モリブデン、ヨウ素、ホウ素、セレン、マンガン、これらの誘導体、またはこれらの組合せが挙げられる。これらのビタミンおよびミネラルは、任意の供給源または供給源の組合せに由来するものでよく、限定はしない。非限定的なビタミンB群の例として、限定はしないが、チアミン、ナイアシンアミド、ピリドキシン、リボフラビン、シアノコバラミン、ビオチン、パントテン酸、またはこれらの組合せが挙げられる。
【0038】
様々な添加剤を本組成物に組み入れることができる。本組成物の取捨選択可能な添加剤には、限定はしないが、ヒアルロン酸、リン脂質、デンプン、糖、脂肪、抗酸化剤、アミノ酸、タンパク質、着香剤、着色剤、加水分解デンプン、およびこれらの誘導体またはこれらの組合せが挙げられる。
【0039】
本明細書では、用語「抗酸化剤」は、当業界で認知されており、化合物の酸化による劣化を防ぐまたは遅らせる合成または天然の物質を指す。例となる抗酸化剤には、トコフェロール、フラボノイド、カテキン、スーパーオキシドジスムターゼ、レシチン、γ−オリザノール;ビタミン類、たとえば、ビタミンA、C(アスコルビン酸)、およびE、β−カロチン;天然成分、たとえば、ローズマリーおよびサンザシ抽出物中に見られるカルノソール、カルノシン酸、およびロスマノール、ブドウ種子または松樹皮抽出物中に見られるものなどのプロアントシアニジン、ならびに緑茶抽出物が含まれる。
【0040】
本発明の組成物を含む組成物は、従来の混合、溶解、造粒、糖衣丸作製、磨砕(levigating)、乳化、カプセル化、閉じ込め、または凍結乾燥プロセスの方法によって製造することができる。組成物は、組成物が、使用することのできる製剤へと円滑に加工処理されるようにする、生理的に許容される1種または複数の担体、希釈剤、賦形剤、または補助剤を使用して、従来のようにして製剤することができる。
【0041】
本発明の組成物は、たとえば、経口、頬側、全身、注射、経皮、直腸、膣内などを含む、事実上任意の投与方式に適する形態、または吸入もしくは通気による投与に適する形態をとることができる。
【0042】
全身製剤には、注射、たとえば、皮下、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内、または腹腔内注射による投与向けに設計されたもの、ならびに経皮、経粘膜、経口、または経肺投与向けに設計されたものが含まれる。
【0043】
有用な注射用製剤としては、水性または油性媒体中の組成物の滅菌懸濁液、溶液、または乳濁液が挙げられる。組成物は、懸濁化剤、安定剤、および/または分散剤などの製剤用薬剤も含有してよい。注射用の製剤は、単位剤形、たとえばアンプル、または多用量容器の体裁にすることができ、追加の保存剤も含有してよい。
【0044】
あるいは、注射用製剤は、発熱物質を含まない滅菌水、緩衝液、デキストロース溶液などが含まれるがこの限りでない適切な媒体で使用前に再形成するための粉末形態にして提供することができる。このためには、組成物は、凍結乾燥などの当業界で知られている任意の技術によって乾燥させ、使用する前に再形成することができる。
【0045】
経粘膜投与では、透過させる障壁に相応しい浸透剤を製剤に使用する。そのような浸透剤は、当業界で知られている。
【0046】
経口投与では、本発明の組成物は、結合剤(たとえば、α化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、充填剤(たとえば、ラクトース、微結晶性セルロース、またはリン酸水素カルシウム)、滑沢剤(たとえば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ)、崩壊剤(たとえば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム)、湿潤剤(たとえば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容される賦形剤を用いて従来の手段によって調製される、たとえば、ロゼンジ、錠剤、またはカプセル剤の形をとることができる。錠剤は、当業界でよく知られている方法によって、たとえば、糖、フィルム、または腸溶剤皮でコーティングしてもよい。
【0047】
経口投与用の液体製剤は、たとえば、エリキシル、溶液、シロップ、または懸濁液の形をとることもでき、または水もしくは他の適切な媒体で使用前に構成するための乾燥製品の体裁にすることもできる。このような液体製剤は、懸濁化剤(たとえば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素添加された食用脂)、乳化剤(たとえば、レシチンまたはアカシア)、非水性媒体(たとえば、扁桃油、油性エステル、エチルアルコール、または分留された植物油)、保存剤(たとえば、p−ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピル、またはソルビン酸)などの薬学的に許容される添加剤を用い、従来の手段によって調製することができる。この製剤は、緩衝塩、保存剤、着香剤、着色剤、および甘味剤も適宜含有してよい。
【0048】
経口投与用の製剤は、よく知られているように、組成物の制御放出を実現するように適切に製剤することができる。
【0049】
頬側投与では、組成物は、従来のようにして製剤された錠剤またはロゼンジの形をとることができる。
【0050】
直腸および膣の投与経路では、組成物は、カカオ脂や他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を含有する(滞留浣腸用の)溶液、坐剤、または軟膏として製剤することができる。
【0051】
経鼻投与または吸入もしくは通気による投与では、組成物は、適切な噴射剤、たとえば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、フルオロカーボン、二酸化炭素、または他の適切な気体を使用し、加圧パックまたはネブライザーから、エアロゾルスプレーの形で好都合に送達することができる。加圧エアロゾルの場合では、計量された量を送達する弁を設けることにより、投与量単位を決定することができる。吸入器または注入器に入れて使用する、化合物とラクトースやデンプンなどの適切な粉末基剤からなる粉末混合物を含有するカプセルおよびカートリッジ(たとえば、ゼラチンからなるカプセルおよびカートリッジ)を製剤することができる。
【0052】
長期送達では、組成物は、埋め込みまたは筋肉内注射によって投与するためのデポー製剤として製剤することができる。この組成物は、(たとえば、許容される油中乳濁液として)適切な重合体材料または疎水性材料と共に、またはイオン交換樹脂と共に、または溶解性の弱い誘導体、たとえば、溶解性の弱い塩として製剤することができる。あるいは、組成物をゆっくりと放出して経皮的に吸収させる、粘着性の盤またはパッチとして製造された経皮送達系を使用することもできる。このためには、透過促進剤(permeation enhancer)を使用して、組成物の経皮的な浸入を促進することができる。適切な経皮パッチは、たとえば、米国特許第5,407,713号、米国特許第5,352,456号、米国特許第5,332,213号、米国特許第5,336,168号、米国特許第5,290,561号、米国特許第5,254,346号、米国特許第5,164,189号、米国特許第5,163,899号、米国特許第5,088,977号、米国特許第5,087,240号、米国特許第5,008,110号、および米国特許第4,921,475号に記載されている。
【0053】
あるいは、他の送達系を利用することもできる。リポソームおよび乳濁液は、本発明の組成物の送達に使用することのできる送達媒体のよく知られた例である。通常は毒性がより高いという犠牲を払うが、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの特定の有機溶媒を利用することもできる。
【0054】
組成物は、所望であれば、本発明の組成物を含有する1個または複数の単位剤形を収容することのできるパックまたはディスペンサー装置の体裁にすることができる。パックは、たとえば、ブリスターパックなど、金属またはプラスチックのホイルを含むものであることができる。パックまたはディスペンサー装置には、投与の説明書を添付することができる。
【0055】
1から30まで連続して列挙する以下の項は、本発明の様々な態様を示すものである。一実施形態では、最初のパラグラフ(1)において、本発明は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)とホスファチジルコリン(PC)とを含み、PE対PCの重量比が約0.43より大きいクルミ抽出物組成物を提供する。
【0056】
2.ホスファチジルイノシトール(PI)をさらに含む。パラグラフ1のクルミ抽出物組成物。
【0057】
3.ホスファチジルイノシトール(PI)とホスファチジルコリン(PC)とを含み、PI対PCの重量比が約0.88より大きいクルミ抽出物組成物。
【0058】
4.ホスファチジルエタノールアミン(PE)をさらに含む、パラグラフ3のクルミ抽出物組成物。
【0059】
5.ホスファチジルイノシトール(PI)とホスファチジルエタノールアミン(PE)とを含み、PI対PEの重量比が約0.4より大きいクルミ抽出物組成物。
【0060】
6.ホスファチジルコリン(PC)をさらに含む、パラグラフ5のクルミ抽出物組成物。
【0061】
7.スフィンゴ脂質をさらに含む、パラグラフ1から6のいずれかのクルミ抽出物組成物脂質組成物。
【0062】
8.スフィンゴ脂質がスフィンゴミエリンである、パラグラフ7のクルミ抽出物。
【0063】
9.リン脂質/スフィンゴ脂質の重量比が5:1を上回る、パラグラフ7のクルミ抽出物。
【0064】
10.不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸の重量比が約1:1より大きい、前述のパラグラフのいずれかによるクルミ抽出物。
【0065】
11.少なくとも約10重量%のリン脂質を含む、クルミ抽出物由来の脂質組成物。
【0066】
12.クルミ抽出物のリン脂質の重量百分率が少なくとも約20%以上である、パラグラフ11の脂質組成物。
【0067】
13.リン脂質が(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、およびホスファチジルイノシトール(PI)である、パラグラフ12の脂質組成物。
【0068】
14.PE対PCの重量比が約0.43より大きい、パラグラフ13の脂質組成物。
【0069】
15.PI対PCの重量比が約0.88より大きい、パラグラフ13の脂質組成物。
【0070】
16.PI対PEの重量比が約0.4より大きい、パラグラフ13の脂質組成物。
【0071】
17.イチョウ抽出物をさらに含む、パラグラフ1から16のいずれかのクルミ抽出物。
【0072】
18.前述のパラグラフのいずれかによるクルミ抽出物を食品と組み合わせて含む組成物。
【0073】
19.前述のパラグラフ1から17のいずれかによるクルミ抽出物を飲料と組み合わせて含む組成物。
【0074】
20.前述のパラグラフ1から17のいずれかによるクルミ抽出物を機能性成分と組み合わせて含む組成物。
【0075】
21.前述のパラグラフ1から17のいずれかによるクルミ抽出物を薬物と組み合わせて含む組成物。
【0076】
22.パラグラフ1から21のいずれかのクルミ抽出物または組成物を提供することを含む、β−アミロイドの凝集に関連する疾患または状態の治療方法。
【0077】
23.パラグラフ1から21のいずれかのクルミ抽出物または組成物を提供することを含む、アルツハイマー病に関連する疾患または状態の治療方法。
【0078】
24.パラグラフ1から21のいずれかのクルミ抽出物または組成物を提供することを含む、卒中に関連する疾患または状態の治療方法。
【0079】
25.パラグラフ1から21のいずれかのクルミ抽出物または組成物を提供することを含む、血液脳関門機能を改善する方法。
【0080】
26.パラグラフ1から21のいずれかのクルミ抽出物または組成物を提供することを含む、血液脳関門を介した活性物質の血液脳関門輸送を改善する方法。
【0081】
27.パラグラフ1から21のいずれかのクルミ抽出物または組成物を提供することを含む、認知の健康を改善または維持する方法。
【0082】
28.パラグラフ1から21のいずれかのクルミ抽出物または組成物を提供することを含む、神経保護をもたらす方法。
【0083】
29.パラグラフ1から21のいずれかのクルミ抽出物または組成物を提供することを含む、神経の発達を促進する方法。
【0084】
30.パラグラフ1から21のいずれかのクルミ抽出物または組成物を提供することを含む、脳における代謝を促進する方法。
【0085】
本発明について、以下の非限定的な実施例に即してさらに説明する。当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、記載する実施形態に多くの変更を加えてよいことがわかるであろう。したがって、本発明の範囲は、本出願に記載の実施形態に限定されず、特許請求の範囲の言葉によって述べられる実施形態およびそれら実施形態の同等物によってのみ限定されるべきである。別段指摘しない限り、百分率はすべて重量である。
【実施例1】
【0086】
1000gの新鮮なクルミ核(モルドヴァ産)を砕き、次いで、ソックスレー抽出器において、3000mLのクロロホルム/エタノール(90:10v/v)と混合して、45℃で3時間抽出した。反応生成物を濾過し、ケーキを、たとえば抽出の体積を2〜10倍として同じ抽出溶媒で2回抽出した。3回の抽出からの濾液を合わせ、50℃未満で真空乾燥させて溶媒を除去し、脂質を得た。全脂質の酸価を決定した。酸化を避けるために全脂質を1%のビタミンEと混合した。
【0087】
脂質を2Lのアセトンと混合し、1O℃で60分間撹拌した後、濾過した。得られたケーキを、10℃に冷やした約5gのアセトンで洗浄した。残渣を真空乾燥させて、極性の脂質固体を得た。このサンプルをES2008−021と称した。
【0088】
上記手順に従い、5種の別の脂質サンプルを調製した。違いは、抽出溶媒の比率が様々であることに基づく。すべてのサンプルを種々の溶媒比率と共に以下のとおり一覧にする。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
不飽和:飽和の比=85:15%(約6:1)
【0093】
ホスファチジル脂質重量測定:
ES2008−021 総脂質画分の3.5%
ES2008−022 総脂質画分の1.5%
【0094】
PC:PI:PEの比=30%:20%:50%
【0095】
スフィンゴ脂質重量測定:
ES2008−021 総脂質画分の5.2%
ES2008−022 総脂質画分の3.6%
【0096】
HPLC/ELSD質量分析によるリン脂質
ES2008−021 ホスファチジルコリン(PC)22.2%(m/m)
PCと表される他のホスファチジル脂質13.9%(m/m)
ES2008−022 ホスファチジルコリン(PC)5.4%(m/m)
PCと表される他のホスファチジル脂質15.2%(m/m)
【0097】
HPLC/ELSDによるホスファチジルセリン含有量
ES2008−021 1.3%(m/m)
ES2008−022 0.5%(m/m)
【実施例2】
【0098】
以下には、本発明のクルミ抽出物によるアミロイドβ凝集の阻害についての試験を記載する。4種のサンプルは、アミロイドβ凝集を阻害する同様の能力を有する。
【0099】
サンプル調製:
クルミ抽出物、ならびに大豆由来のPCおよびPSをエタノールに溶解させ、アッセイ緩衝液で希釈して、最終試験アッセイ濃度とした。
【0100】
サンプルインキュベーション:
100μgのアミロイド[A]β1−40(Sigma−Aldrich、A1075)を25μlのTris緩衝液に溶解させた。サンプルを絶えず振盪しながら37℃で3日間インキュベートした。
活性サンプル:アミロイドβ溶液10μl+阻害剤(TRIS緩衝液に溶解させることが好ましい)を含むTRIS緩衝液40μl
空試薬サンプル:阻害剤(TRIS緩衝液に溶解させることが好ましい)を含むTRIS緩衝液50μl
対照サンプル:アミロイドβ溶液10μl+TRIS緩衝液40μl
【0101】
各活性サンプルについて、対応する空試薬サンプルを用意した。
【0102】
試験アッセイ:
3日後、各サンプルを2μM(636.8μg)のチオフラビンTおよび950μlのグリシン/NaOH緩衝液(50mMのグリシン、pH=9.0)と混合した。蛍光を励起435nm/発光485nmで測定した。
【0103】
データ評価:
各「活性サンプル」から対応する「空試薬サンプル」の蛍光強度を差し引く。得られる蛍光強度を、対照サンプルについて測定した蛍光強度と比較した。対照からみた蛍光強度の減少を%として示すことにより、凝集の阻害%を算出した。
【0104】
アルツハイマー病患者に見られる斑の徴候であるアミロイドβ凝集を、in vitro試験アッセイ系において引き起こした。クルミ抽出物、または大豆由来の純粋なPSおよびPCと共にインキュベートすることにより、アミロイドβ凝集の阻害を誘発した。
【0105】
サンプル濃度を等しい量のPCを含有するように調節したとき、すべてのクルミ抽出物が、同様の阻害特性を示した。
【0106】
HPLC/MSによって決定したPCの含有量に基づき、以下の希釈度の4種のサンプルを選択して、PC15mg/mlの保存液を得た。試験アッセイ緩衝液を使用して、PC1mg/mlまでのさらなる希釈物を調製した。
【0107】
【表4】

【0108】
図1に、抽出物のPC濃度に基づく、本発明のクルミ抽出物による線維形成阻害の効率を示す。
【実施例3】
【0109】
図2に、大豆由来のPCおよびPS(x軸に示す濃度に希釈した純粋な化合物)によるアミロイド凝集の阻害についてのデータを示す。
【0110】
図2から確認できるように、試験結果は、アミロイド凝集の阻害において、クルミ抽出物サンプルが、比較可能な条件下で、大豆由来のPSまたはPCよりかなり強力であることを示している。
【実施例4】
【0111】
この実施例では、すでに生成しているアミロイドβ凝集物を後退させる能力について、最高濃度のクルミ抽出物(クルミ抽出物についてはPC 12mg/mlの試験アッセイ、大豆PCまたは大豆PS 12mg/ml)を評価した。
【0112】
脱線維化(defibrillization)効力は、アルツハイマー病の治療を示唆するものである。
【0113】
図3に見られるように、大豆由来PSまたはPCは、クルミ抽出物サンプルと比べて、脱線維化が強力でない。
【実施例5】
【0114】
この実施例は、クルミ抽出物サンプルの一般組成についてである。
【0115】
【表5】

【0116】
結果の考察
乾燥質量、強熱残分、およびHPLC/ELSDによって決定した含有量は、一貫している。
【0117】
N含有リン脂質の指標である窒素含有量は、サンプル間で異なっている。これは、N含有リン脂質の含有量が異なる、またはサンプルES2009−023およびES2009−025において、一部のタンパク質が共に抽出されたこと(この可能性の方が高いと思われる)を意味する可能性がある。
【実施例6】
【0118】
【表6】

【0119】
HPLC条件
粒径3μmの150×3.2mm Prevailシリカカラム(Alltech Associates,Inc.)を使用した。充填物および内径が同じ予備カラムを使用した。溶離プログラムは、t=0分で87.5:12:0.5(v/v/v)のクロロホルム:メタノール:トリエチルアミン緩衝液(pH3、1Mギ酸)からt=20分で28:60:12(v/v/v)の線形勾配とした。移動相は、t=21分で初期条件に戻し、t=30分の次の注入までカラムが平衡に達するようにした。流量は0.5mL/分で維持し、これによって背圧が55〜90バールとなった。注入体積は25μLとした。サンプルおよびカラムを40℃で平衡化した。
【0120】
検出:
PLクラスの定量分析のためのELSD(N2 1.5L/分、噴霧温度85℃)
PL構造の定性分析およびPLクラスの確認のためのESI−MS(ポジティブモード、m/z 100〜1200、GAIN 2、停止時間 100ミリ秒、フラグメンター 可変、乾燥ガス 12LのN2/分、ネブライザー圧力 50psi、温度は300℃、毛管圧力 3500V)
【0121】
サンプル調製:
サンプルをクロロホルム/メタノール=2:1(v/v)に溶解/懸濁させた。サンプルを希釈して校正範囲(サンプル1〜10mg/溶媒ml)にした。
【0122】
較正:
利用可能な基準化合物(Sigma−Aldrich)をクロロホルム/メタノール=2:l(v/v)に20〜200μg/mlの濃度で溶解させた。ELSDでは、主なPLクラスの反応は幾分似ているので、基準化合物がない場合、L−ホスファチジルコリン(P3841)が外部標準物質として役立つ。その場合、結果は、「ホスファチジルコリンとしてのリン脂質」と表示する。L−ホスファチジルコリン(P3841)は、ほぼ完全に、同時に溶出される2種の化合物からしか構成されないので、最も信頼できる較正手順であるとみなされる。
【0123】
他の基準化合物からも直線性を得ることができるが、他の大部分の標準物質は、HPLC系に注入されると、少なくとも2つのピークに分裂する。
【0124】
P3841−25MG:Sigma L−α−ホスファチジルコリン約99%、ウシ脳由来、凍結乾燥粉末
【0125】
【表7】

スフィンゴミエリンは、全リン脂質の2〜10%の間である。
PSは、総リン脂質の1〜10%の間である。
【実施例7】
【0126】
サンプルES2010−007およびES2010−008を、それぞれ上記サンプルES2008−021およびES2009−025のように調製した。図6から15を参照されたい。
【0127】
【表8】

図6から9を参照されたい。
【0128】
【表9】

【0129】
[実施例7]
この実施例では、クルミ抽出物サンプルによるヒト血中(アセチル)コリンエステラーゼの阻害(エルマン法:5,5’−ジチオビス−2−ニトロ安息香酸(DTNB、エルマン試薬)を色原体として使用し、コリンエステラーゼ活性のレベルを412nmでの吸光度の増大として記録)を実証する。
【0130】
潜在的に阻害性である化合物の存在下/非存在下で、アセチルコリンエステラーゼ活性の分光学的評価を明らかにした。試験では、酵素アッセイの間に遊離したコリンがエルマン試薬と結合して、着色された化合物が生成する。412nmでの吸光度の増大を経時的に測定して、酵素の活性を推定する(すなわち、吸光度が高く、急勾配である程、酵素の活性が強い)。
【0131】
サンプルをエタノールに溶解させた。エタノール/水性緩衝液=1:1(v/v)を用いて、最終試験濃度を実現する希釈物を調製した。酵素と共にインキュベートする間、412nmで吸光度を継続的に測定した。
【0132】
サンプルの濃度を、HPLC/MSによって測定したとき試験溶液1mlあたりホスファチジルコリン1mgに調整した。以下の希釈物を同じようにして調製した。
【0133】
【表10】

これをMS分析で確認した。
【0134】
図4で認められるように、クルミ抽出物サンプルによって実現した阻害は、試験したすべてのサンプルでほとんど同等である。
【実施例8】
【0135】
この実施例では、クルミ抽出物(E2009−023およびES2009−024)を大豆由来のホスファチジルコリン(PC)およびホスファチジルセリン(PS)と比較する。
【0136】
2種のサンプルの濃度は、1mg/試験溶液mlとした。
【0137】
以下の表に、5分間のインキュベーションで残存する活性を示す。
【0138】
【表11】

【0139】
したがって、大豆由来のPSおよびPCは、アセチルコリンエステラーゼの阻害においてほとんど不活性であったことがわかる。同等の濃度で、クルミ抽出物サンプル中のPCは、大豆PCに優る有意な阻害効果を示した。
【実施例9】
【0140】
ES2008−021およびES2008−022によるアミロイドAβ凝集の阻害−線維形成アッセイ
アルツハイマー病患者に見られる斑の徴候であるアミロイドβ凝集を、in vitro試験アッセイ系において引き起こした。
【0141】
クルミ抽出物と共にインキュベートすることにより、線維形成の阻害を誘発した。クルミ抽出物の各濃度(0.625、1.25、2.5、5.0もしくは7.5μlのES2008−022、または125mg/mlのES2008−021を含有する保存液から0.625、1.25、2.5、5.0もしくは7.5μl)で、3つのサンプルをインキュベートし、評価した。
【0142】
図16で認められるように、2.5μlのES2008−022(液体形態)または2.5μlのES2008−021溶液(312μgの試験物品に相当する)によって、凝集をおよそ90%阻害することができる。
【0143】
実験−線維形成アッセイ
クルミ抽出物:
得られたサンプルは、濾過後(シリンジフィルター0.45μm)直接試験に導入し(ES2008−022)、または可溶化後に導入した(125mgのES2008−021/ml)。抽出物を以下の実験に使用した。
【0144】
サンプルインキュベーション:
100μgのアミロイド[A]β1-40(Sigma−Aldrich、A1075)を25μlのTris緩衝液に溶解させる。
【0145】
以下のサンプルを絶えず振盪しながら37℃で3日間インキュベートする。
活性サンプル:アミロイドβ溶液10μl+阻害剤(TRIS緩衝液に溶解させることが好ましい)を含むTRIS緩衝液40μl
空試薬サンプル:阻害剤(TRIS緩衝液に溶解させることが好ましい)を含むTRIS緩衝液50μl
対照サンプル:アミロイドβ溶液10μl+TRIS緩衝液40μl
【0146】
上述のサンプルを2.5、5.0および7.5μlの体積で導入した。各活性サンプルについて、対応する空試薬サンプルを導入した。
【0147】
試験アッセイ:
3日後、各サンプルを2μM(636.8μg)のチオフラビンTおよび950μlのグリシン/NaOH緩衝液(50mMグリシン、pH=9.0)と混合する。励起435nm/発光485nmで蛍光を測定する。
【0148】
データ評価:
各「活性サンプル」から対応する「空試薬サンプル」の蛍光強度を差し引く。得られる蛍光強度を対照サンプルについて測定した蛍光強度と比較する。対照からみた蛍光強度の減少を%として示すことにより、凝集の阻害%を算出した。
【0149】
ES2008−021およびES2008−022によるアミロイドAβ凝集の分解−脱線維化アッセイ
試験系をさらに拡大して、すでに生成しているアミロイドβ凝集を後退させる能力について、上記サンプルを評価した。脱線維化効力は、アルツハイマー病の治癒を示唆するものである。
【0150】
クルミ抽出物と共にインキュベートすることにより、アミロイドAβ凝集の分解を誘発した。クルミ抽出物の各濃度(0.625、1.25、2.5、5.0もしくは7.5μlのES2008−022、または125mg/mlのES2008−021を含有する保存液から0.625、1.25、2.5、5.0もしくは7.5μl)で、3つのサンプルをインキュベートし、評価した。
【0151】
図17で認められるように、1.25μlのES2008−022(液体形態)または1.25μlのES2008−021溶液(156μgの試験物品に相当する)によって、凝集物をほぼ90%分解することができる。
【0152】
実験−脱線維化アッセイ
クルミ抽出物:
得られたサンプルは、濾過後(シリンジフィルター0.45μm)直接試験に導入し(ES2008−022)、または可溶化後に導入した(125mgのES2008−021/ml)。抽出物を以下の実験に使用した。
【0153】
サンプルインキュベーション:
100μgのアミロイド[A]β1-40(Sigma−Aldrich、A1075)を25μlのTris緩衝液に溶解させる。
【0154】
サンプルを絶えず振盪しながら24時間37℃に保って、凝集を生じさせる。
【0155】
以下のサンプルを絶えず振盪しながら37℃で3日間インキュベートする。
活性サンプル:アミロイドβ溶液10μl+阻害剤(TRIS緩衝液に溶解させることが好ましい)を含むTRIS緩衝液40μl
空試薬サンプル:阻害剤(TRIS緩衝液に溶解させることが好ましい)を含むTRIS緩衝液50μl
対照サンプル:アミロイドβ溶液10μl+TRIS緩衝液40μl
【0156】
上述のものを2.5、5.0および7.5μlの体積で導入した。各活性サンプルについて、対応する空試薬サンプルを導入した。
【0157】
試験アッセイ:
3日後、各サンプルを2μM(636.8μg)のチオフラビンTおよび950μlのグリシン/NaOH緩衝液(50mMグリシン、pH=9.0)と混合する。励起435nm/発光485nmで蛍光を測定する。
【0158】
データ評価:
各「活性サンプル」から対応する「空試薬サンプル」の蛍光強度を差し引く。得られる蛍光強度を対照サンプルについて測定した蛍光強度と比較する。
【0159】
対照からみた蛍光強度の減少を%として示すことにより、凝集(脱線維化)の分解%を算出した。
【0160】
ES2008−021およびES2008−022によるヒト血中(アセチル)コリンエステラーゼの阻害−エルマンアッセイ
潜在的に阻害性である化合物の存在下/非存在下でのアセチルコリンエステラーゼ活性の分光学的評価。試験の原理は、酵素アッセイの間に遊離したコリンがエルマン試薬と結合することである。
【0161】
ES2008−021およびES2008−022をメタノールで希釈/溶解させた。濃度は、サンプル10mg/メタノールmlとした。インキュベーションアッセイに加える量は、各サンプルについて30μlとした。
【0162】
412nmでの吸光度の増大を経時的に測定した。図18で認められるように、ES2008−021およびES2008−022によって実現される阻害は異なっていた。
【0163】
ほぼ等しい濃度で、ES2008−021(300μgの試験物品に対応する)ではヒトアセチルコリンエステラーゼが70%阻害されたが、ES2008−022では13%しか阻害されなかった。
【0164】
実験−コリンエステラーゼアッセイ
阻害剤溶液:
対応するサンプル(ES2008−021、ES2008−22)10mgを秤量し、1mlのメタノールを加える。
【0165】
色原体溶液:
0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH=8、NaOH)を溶液Aと30:1の比で混合する。
【0166】
溶液A:
5,5’−ジチオ−ビス[2−ニトロ安息香酸]39.6mgおよびNaHCO3 15.0mgを10mlのフラスコに量り入れ、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7、NaOH)でメスアップする。
【0167】
酵素溶液:
70IU/H2Omlの酵素活性を含むヒトアセチルコリンエステラーゼの溶液を調製する。
【0168】
基質溶液:ヨウ化アセチルチオコリン115.7mgを10mlのフラスコに量り入れ、H2Oでメスアップする。
【0169】
10μlの阻害剤溶液を185μlの色原体溶液および10μlの酵素溶液と混合する。振盪しながら室温で10分間インキュベートする。5μlの基質溶液を加え、412nmでの吸収の増加を、それ以上の増加が認められなくなるまで(3〜5分)記録する。
【0170】
本発明について、好ましい実施形態に即して述べてきたが、当業者なら、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形態および細部を変更してもよいことがわかるであろう。背景にある参考文献を含めて、本明細書全体で引用したすべての参考文献は、その全体が本明細書に援用される。当業者なら、せいぜい常法どおりの実験を使用すれば、本明細書で詳細に記載した本発明の特定の実施形態の多くの同等物を認知するであろうし、またはつきとめることができる。そのような同等物も、以下の特許請求の範囲の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルエタノールアミン(PE)とホスファチジルコリン(PC)とを含み、PE対PCの重量比が約0.43より大きいクルミ抽出物組成物。
【請求項2】
ホスファチジルイノシトール(PI)をさらに含む、請求項1に記載のクルミ抽出物組成物。
【請求項3】
スフィンゴ脂質をさらに含む、請求項2に記載のクルミ抽出物組成物。
【請求項4】
スフィンゴ脂質がスフィンゴミエリンである、請求項3に記載のクルミ抽出物。
【請求項5】
リン脂質/スフィンゴ脂質の重量比が5:1を上回る、請求項3に記載のクルミ抽出物。
【請求項6】
不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸の重量比が約1:1より大きい、請求項1に記載のクルミ抽出物。
【請求項7】
ホスファチジルイノシトール(PI)とホスファチジルコリン(PC)とを含み、PI対PCの重量比が約0.88より大きいクルミ抽出物組成物。
【請求項8】
ホスファチジルエタノールアミン(PE)をさらに含む、請求項7に記載のクルミ抽出物組成物。
【請求項9】
スフィンゴ脂質をさらに含む、請求項8に記載のクルミ抽出物組成物。
【請求項10】
スフィンゴ脂質がスフィンゴミエリンである、請求項9に記載のクルミ抽出物。
【請求項11】
リン脂質/スフィンゴ脂質の重量比が5:1を上回る、請求項9に記載のクルミ抽出物。
【請求項12】
不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸の重量比が約1:1より大きい、請求項7に記載のクルミ抽出物。
【請求項13】
ホスファチジルイノシトール(PI)とホスファチジルエタノールアミン(PE)とを含み、PI対PEの重量比が約0.4より大きいクルミ抽出物組成物。
【請求項14】
ホスファチジルコリン(PC)をさらに含む、請求項13に記載のクルミ抽出物組成物。
【請求項15】
スフィンゴ脂質をさらに含む、請求項14に記載のクルミ抽出物組成物。
【請求項16】
スフィンゴ脂質がスフィンゴミエリンである、請求項15に記載のクルミ抽出物。
【請求項17】
リン脂質/スフィンゴ脂質の重量比が5:1を上回る、請求項15に記載のクルミ抽出物。
【請求項18】
不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸の重量比が約1:1より大きい、請求項13に記載のクルミ抽出物。
【請求項19】
少なくとも約10重量%のリン脂質を含む、クルミ抽出物由来の脂質組成物。
【請求項20】
クルミ抽出物のリン脂質の重量百分率が少なくとも約20%以上である、請求項19に記載の脂質組成物。
【請求項21】
リン脂質が(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、およびホスファチジルイノシトール(PI)である、請求項20に記載の脂質組成物。
【請求項22】
PE対PCの重量比が約0.43より大きい、請求項21に記載の脂質組成物。
【請求項23】
PI対PCの重量比が約0.88より大きい、請求項21に記載の脂質組成物。
【請求項24】
PI対PEの重量比が約0.4より大きい、請求項21に記載の脂質組成物。
【請求項25】
βアミロイドの凝集、アルツハイマー病、卒中に関連する疾患もしくは状態を治療し、血液脳関門機能を改善し、血液脳関門を介した活性物質の血液脳関門輸送を改善し、認知の健康を改善もしくは維持し、神経保護をもたらし、神経の発達を促進し、かつ/または脳における代謝を促進する方法であって、状態の1つまたは複数を治療、改善、または促進するように、有効量の請求項1に記載のクルミ抽出物を個体に提供することを含む方法。
【請求項26】
βアミロイドの凝集、アルツハイマー病、卒中に関連する疾患もしくは状態を治療し、血液脳関門機能を改善し、血液脳関門を介した活性物質の血液脳関門輸送を改善し、認知の健康を改善もしくは維持し、神経保護をもたらし、神経の発達を促進し、かつ/または脳における代謝を促進する方法であって、状態の1つまたは複数を治療、改善、または促進するように、有効量の請求項7に記載のクルミ抽出物を個体に提供することを含む方法。
【請求項27】
βアミロイドの凝集、アルツハイマー病、卒中に関連する疾患もしくは状態を治療し、血液脳関門機能を改善し、血液脳関門を介した活性物質の血液脳関門輸送を改善し、認知の健康を改善もしくは維持し、神経保護をもたらし、神経の発達を促進し、かつ/または脳における代謝を促進する方法であって、状態の1つまたは複数を治療、改善、または促進するように、有効量の請求項13に記載のクルミ抽出物を個体に提供することを含む方法。
【請求項28】
βアミロイドの凝集、アルツハイマー病、卒中に関連する疾患もしくは状態を治療し、血液脳関門機能を改善し、血液脳関門を介した活性物質の血液脳関門輸送を改善し、認知の健康を改善もしくは維持し、神経保護をもたらし、神経の発達を促進し、かつ/または脳における代謝を促進する方法であって、状態の1つまたは複数を治療、改善、または促進するように、有効量の請求項19に記載のクルミ抽出物を個体に提供することを含む方法。
【請求項29】
ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、およびホスファチジルイノシトール(PI)を含む組成物。
【請求項30】
PC:PI:PEの重量比が約3:2:5である、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
不飽和脂肪酸対飽和脂肪酸の重量比が約2:1〜約2.5:1である、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
βアミロイドの凝集、アルツハイマー病、卒中に関連する疾患もしくは状態を治療し、血液脳関門機能を改善し、血液脳関門を介した活性物質の血液脳関門輸送を改善し、認知の健康を改善もしくは維持し、神経保護をもたらし、神経の発達を促進し、かつ/または脳における代謝を促進する方法であって、状態の1つまたは複数を治療、改善、または促進するように、有効量の請求項29に記載のクルミ抽出物を個体に提供することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2012−533597(P2012−533597A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521015(P2012−521015)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060468
【国際公開番号】WO2011/009851
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(507128344)オムニカ ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】