説明

栄養手帳

【課題】医療側と患者又はその家族との間で、食事に関して円滑なコミュニケーションが図れるような手段の開発、特に患者が施設あるいは在宅への移動があったとしても、栄養指導の履歴を確認できるような手段を提供する。
【解決手段】医療従事者と患者あるいはその家族との間で連携をとるための栄養手帳において、患者の背景、栄養基本情報、食事計画及び物理的データの経過観察を記入する各頁を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
食事に関して、医療側と患者又はその家族との間で、円滑なコミュニケーションが図れるように、また患者が施設あるいは在宅への移動があったとしても、栄養指導の履歴を確認できるような簡便な手段の開発に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、要介護者が急増するにつれて、要介護者側と医療側との連携が重要であることが叫ばれており、喫緊の課題となっている。しかしながら、具体的にその解決手法が見出されないまま、年月を経ているのが現状である。
【0003】
医療との連携が必要な要介護者への対応を強化する観点から、栄養ケア・マネジメントにおける主治医等との連携や在宅サービス提供体制の整備を進めることが重要になる。入院中に栄養療法が必要であると認められた在宅療養者に対して栄養食事管理指導を家族に行ったとしても一方通行の指導になることが多い。
【0004】
また、栄養ケア・マネジメントに関する職種が多くある中、必要であってもどこへ依頼してよいかあまり知られていないのが現状である。このようなことからも入院から在宅療養への円滑な移行のために、地域での在宅サービス提供体制を早急に整えていかなければならない。
【0005】
栄養療法は、在院日数の短い急性期病院で完結することは難しく、短期間でモニタリングを実施してもその成果が顕著に現れないケースも少なくない。術後の経過が良好の場合や病状が改善すると、栄養状態が悪く栄養療法の継続が必要な場合でも退院となるケースがある。たとえば、肺炎で入院したケースでは、肺炎の治療が終了してしまえば、栄養状態が改善されないまま退院となってしまう傾向にある。入院期間の短縮により、退院後の栄養管理をどのように行うかが重要な課題である。
【0006】
在宅では、栄養状態の良否が患者の状態や治療の効果をあげる重要なポイントとなる。退院後の栄養管理がうまくいかず、入退院を繰り返すケースが多く見られる。
【0007】
特許公報をみると、アイデアとしては「栄養管理システム」なるものが提案され、コンピューターを使用して、個人の栄養管理を行うことを特徴としたものがある(特許文献1)。
【0008】
しかし、この提案は各人の栄養管理を個人毎に的確かつ簡便に行うことを意図したもので、医療側との連携については全く考慮されていないし、またコンピューターを使用することから、簡便とは言い難い。
【0009】
医療側との連携については、「在宅介護連絡ノート」なるものが提案されている(特許文献2)。しかしながら、この提案は単に医療側と在宅患者との連絡ノートに過ぎず、網羅的に各種項目を列挙したもので、患者側への負担が大きい割には、ポイントが絞られていない為にその効果はあまり期待できない。
【0010】
現状では、患者が施設を移動したり、あるいは在宅に切り替わった際、栄養に関して過去の状況がどうであったかということがあいまい又は全く分からなくなることがあり、要介護者側も医療側もその度に新たにテストを行わなければならないという手間がかかるばかりではなく、間違った処方をする危険性を孕んでいる。
【0011】
従って、医療側と患者又はその家族との間で、円滑なコミュニケーションが図れるように、また患者の施設あるいは在宅への移動があったとしても、栄養指導の履歴を確認できるような簡便な手段の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−91584号公報
【特許文献2】特許第3245593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、医療側と患者又はその家族との間で、食事に関して円滑なコミュニケーションが図れるような手段の開発、特に患者の施設あるいは在宅への移動があったとしても、栄養指導の履歴を確認できるような手段の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意努力をした結果、特別の栄養手帳を作成することにより解決できることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は
(1)医療従事者と患者あるいはその家族との間で連携をとるための手帳において、患者の背景、栄養基本情報、食事計画及び物理的データの経過観察を記入することができることを特徴とする栄養手帳、
(2)患者の背景が、氏名、生年月日、住所、電話番号、かかりつけの医療機関又は介護施設及び利用中のサービスの項目を含むことを特徴とする(1)記載の栄養手帳、
(3)栄養基本情報が、栄養と関わりの深い疾患の有無、使用していた栄養剤又は補助食品、栄養の投与経路及び飲水の量の項目を含むことを特徴とする(1)又は(2)記載の栄養手帳、
(4)食事計画が、主食、主菜、野菜、牛乳、果実、油、砂糖、みそ、塩の項目を含み、それぞれについて朝、昼、間、夕に分けて記入できることを特徴とする(1)、(2)又は(3)記載の栄養手帳、
(5)物理的データが、体重、血圧、血清アルブミンの項目を含むことを特徴とする(1)、(2)、(3)又は(4)記載の栄養手帳
に関する。
【0016】
高齢者は在宅での食事の管理が不十分になることが多く、低栄養状態などによる入退院を繰り返すことが多い。その理由は、高齢者が低栄養状態に陥ると疾病が重症化したり、免疫力が低下し感染症等のリスクが高くなることによる。入退院を繰り返さないようにするためには、このような患者に対して栄養管理実施計画に基づいた在宅で栄養・食事の管理についての指導及び情報の提供を行うことが重要である。しかし、日常生活とは異なる入院中の食事内容を指導するだけでは円滑な食教育にはならず、患者の退院後の日常での食生活を加味した指導を行うことが大切である。
【0017】
このように退院後の食教育の面からも、医療従事者と患者あるいはその家族との間で連携をとることが肝要であり、病院の管理栄養士のみならず、介護者や患者の家族が患者の栄養状況を理解できるような手段が必要である。この手段として本発明の「栄養手帳」が有効である。
【0018】
本発明の栄養手帳は、患者の病態と食事形態の変遷が即刻分かるように工夫されたもので、患者が常に携帯することにより、施設を移動したり在宅へ移動したり、あるいは指導者が変更したりしても、過去の栄養指導の履歴を書面により確認できることを特徴としている。また、全ての栄養スタッフが共通の概念を持ち、情報を共有することが、患者だけではなく、介護者の負担を軽減することに繋がる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の栄養手帳を利用することにより、患者又は家族の食事に対する意識が向上し、誰が訪問しても同じような指導ができ、患者又は家族とのコミュニケーションがとれ、スタッフ間の情報共有に役立つ等、医療側と患者又はその家族との間で、食事に関して円滑なコミュニケーションが図れるという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の栄養手帳の表紙を示す図。
【図2】本発明の栄養手帳の患者の背景を記入する頁の図。
【図3】本発明の栄養手帳の栄養基本情報を記入する頁の図。
【図4】本発明の栄養手帳の食事計画を記入する頁の図。
【図5】本発明の栄養手帳の血圧等の経過を観察し、その結果を記入する頁の図。
【図6】本発明の栄養手帳の連絡欄を示す図。
【図7】本発明の栄養手帳の使用状況調査の結果を示す図。
【図8】本発明の栄養手帳を利用した職種の割合を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明をより詳細に説明するために、実施例を示すがこれに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0022】
[実施例1]
本発明の栄養手帳の一例を示す。
図1は、栄養手帳の表紙で、病院、クリニック、介護施設、在宅が一つになってお互いのコミュニケーションにより患者を守ることを図示している。
【0023】
図2は、患者の背景を記入する頁で、氏名、男女、生年月日、住所、電話、かかりつけの医療機関・介護施設、利用中のサービス(ディサービス、ホームヘルプなど)等を患者側が記入する。この他に、ケアマネージャーの連絡先、担当者氏名、食事の際に障害となるものを記入することも有益である。
【0024】
図3は、栄養基本情報を記入する頁で、栄養と関わりの深い疾患の有無、使用していた栄養剤または補助食品、栄養の投与経路及び1日当たりの飲水量等について記入する。同時に標準体重、ここ半年間の体重の変動、BMI、必要カロリー、身長、体重、血圧、アルブミン等を記入する。この他に、食事の自立度、療養食の支持内容、補助食品の利用状況の確認等の記入も望まれる。
【0025】
図4は、食事計画を記入する頁で、主食、主菜、野菜、牛乳、果実、油、砂糖、みそ、塩について、1日の量、朝、昼、間、夕の摂取量を記入し、患者の目標を医療側が記入する。その他、食事の内容について物性を記入する項目もあったほうが良い。また、嗜好を
記入することも有益である。
【0026】
図5は、血圧等の経過を観察し、その結果を記入する頁であり、代表的には体重、血圧、血清アルブミン値の変化を記入する。
【0027】
図6は、連絡欄であり、連絡あるいは質問等を適時記入し、またそれに対する回答を記入する頁である。
【0028】
[実施例2]
実施例1で示した栄養手帳を使用した結果の調査を行った。
12施設において、マル秘扱いで本発明の栄養手帳を使用してもらい、そのアンケート結果を図7に示す。この結果を見ると、一番効果的であったのは、「患者又は家族の食事に対する意識が向上」したこと、次いで「誰が訪問しても同じような指導が出来た」こと、また「患者又は家族とのコミュニケーション」がとれたこと、「スタッフ間の情報共有に役立った」ことが分かる。また、初回を除いて「今までより指導時間が短縮できた」という効果も認められた。
【0029】
一方、本発明の栄養手帳を利用した職種としては、図8に示すように、訪問栄養士が最も多く、過半数の55.7%であった。次いで、ヘルパーの29.5%、退院した病院の8.2%であった。すなわち、訪問栄養士にとって本発明の栄養手帳は極めて有効であったと言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療従事者と患者あるいはその家族との間で連携をとるための手帳において、患者の背景、栄養基本情報、食事計画及び物理的データの経過観察を記入することができることを特徴とする栄養手帳。
【請求項2】
患者の背景が、氏名、生年月日、住所、電話番号、かかりつけの医療機関又は介護施設及び利用中のサービスの項目を含むことを特徴とする請求項1記載の栄養手帳。
【請求項3】
栄養基本情報が、栄養と関わりの深い疾患の有無、使用していた栄養剤又は補助食品、栄養の投与経路及び飲水の量の項目を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の栄養手帳。
【請求項4】
食事計画が、主食、主菜、野菜、牛乳、果実、油、砂糖、みそ、塩の項目を含み、それぞれについて朝、昼、間、夕に分けて記入できることを特徴とする請求項1、2又は3記載の栄養手帳。
【請求項5】
物理的データが、体重、血圧、血清アルブミンの項目を含むことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の栄養手帳。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−251498(P2011−251498A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128117(P2010−128117)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(506105504)