説明

栄養飢餓耐性制御を指標とした医薬組成物

【課題】癌細胞の栄養飢餓耐性を阻害する、新規抗癌剤の提供。
【解決手段】式(I)〜(III)で表される化合物の少なくとも一種を有効成分として含有する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物に関するものであり、特に癌細胞増殖阻害活性を有する抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在使用されている抗癌剤の多くは、癌の旺盛な増殖能を標的としており、癌細胞殺傷性を主な指標として開発されていることから、必然的に副作用が強く長期使用が困難である。最近、血管新生促進物質(VEGF)を標的とした薬剤(ベバシズマブ(bevacizumab)等)が上市され、癌組織に特異的に作用することが期待されているが、膵臓癌などの血管新生が不十分な癌組織では効果が必ずしも十分ではない。
【0003】
膵臓癌などの血管新生能の乏しい癌組織では、血管から本来供与されるべきグルコース等の栄養物や成長因子、すなわち代謝に必要な物質の供給が不十分であると考えられる。つまり、癌細胞が慢性的な栄養飢餓状態にさらされている状態である。それにもかかわらず、癌細胞が増殖を持続するという事実は、癌細胞が栄養飢餓状態で特殊なエネルギー代謝を成り立たせ、栄養飢餓に対して耐性を獲得しているためであると予測される。したがって、癌細胞の栄養飢餓耐性能を阻害する化合物は、血管新生の乏しい癌組織中においても癌細胞の増殖を阻害し、新規抗癌剤となりうることが期待される。
【0004】
栄養飢餓状態の細胞に対して選択的に毒性を示す化合物として、キガマイシン(kigamicin)(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)、エンジェルマリン(angelmarin)(例えば、非特許文献2参照)やアクチゲニン(arctigenin)(例えば、非特許文献3参照)、さらに、パモ酸ピルビニウム(pyrvinium pamoate)(例えば、非特許文献4参照)やPanduratins D-I(例えば、非特許文献5参照)が知られている。このうち、キガマイシン、アクチゲニン、パモ酸ピルビニウムには抗腫瘍効果が認められている(例えば、非特許文献1、非特許文献3、非特許文献4参照)。
【0005】
また、従来、下記式(A)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Rは、アルキル基、フェニル基等を表す)
で表される化合物が、線虫駆除剤として知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、下記式(B)
【0009】
【化2】

【0010】
で表される化合物が、赤外線吸収剤として知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0011】
また、下記式(C)
【0012】
【化3】

【0013】
で表される化合物が、熱現像感光材料の発色剤として知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0014】
さらに、下記式(D)
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、Rは、アルキル基、アリール基を、R〜Rは、水素原子、ニトロ基、カルバモイル基、スルファモイル基等を表す)
で表される化合物において、Yが水素原子である化合物(例えば、特許文献5参照)及びハロメチル基である化合物(例えば、特許文献6参照)が、写真感光材料中間体及び除草剤、鎮痛剤等の生理活性物質として有用であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2004−137175号公報
【特許文献2】米国特許第3,281,315号公報
【特許文献3】特開昭61−57674号公報
【特許文献4】特開昭57−101835号公報(第4頁、化合物(20))
【特許文献5】特開昭63−192761号公報
【特許文献6】特開昭63−192762号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Cancer Science, 2004, 95, 547-552.
【非特許文献2】Bioorg. Med. Chem. Lett., 2006, 16, 581-583.
【非特許文献3】Cancer Res., 2006, 66, 1751-1757.
【非特許文献4】Cancer Sci., 2004, 95, 685-690.
【非特許文献5】Chem. Pharm. Bull., 2008, 56, 491-496.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、ある種のニッケルジチオカーバメイト化合物類、アセチルアミノ置換フェノール化合物類及びN−フェニルイソキサゾリン化合物類等を含有する医薬組成物、特に癌細胞増殖阻害活性を有する抗癌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、癌細胞が獲得している栄養飢餓耐性が特殊なエネルギー代謝で成り立っているならば、これを解除することにより新規抗癌剤の開発に繋がるものと考えた。具体的には、栄養飢餓培地でも簡単には死なない膵臓癌由来株化細胞を用い、富栄養培地では無く栄養欠乏培地で細胞毒性を示す、つまり栄養飢餓細胞に対して選択的に細胞毒性を示す化合物のスクリーニング(特開2007−37547号公報)を行った。その結果、本発明者らは、ある種のニッケルジチオカーバメイト化合物類、アセチルアミノ置換フェノール化合物類及びN−フェニルイソキサゾリン化合物類等が、癌細胞増殖阻害活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち本発明は、
(1) 式(I)
【化5】

[式中、
A環及びB環は、同一又は異なって、式(IV)
【化6】

(式中、R11は、アルキル基、置換若しくは非置換のアリール基又はニトリル基を表す)
で表される基、又は、式(V)
【化7】

(式中、R12及びR13は、同一又は異なって、アルキル基、置換若しくは非置換のアリール基又はニトリル基を表す)
で表される基を表し、
は、有機アンモニウム基又は有機ホスホニウム基を表す]、
で表される化合物、
式(II)
【化8】

(式中、
21は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子を表し、
22は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又はニトロ基を表し、
23は、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、置換若しくは非置換のアルカノイルアミノ基又は置換若しくは非置換の複素環基を表し、
24は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又はニトロ基を表し、
25は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子を表し、
26は、水素原子又はアルキル基を表し、
27は、水素原子又はアルキル基を表し、
28は、アルキル基又はハロゲン原子を表し、
mは、0〜5の整数を表す)、
で表される化合物、又は、
式(III)
【化9】

(式中、
Qは、CO又はSOを表し、
31は、水素原子、アルキル基又はハロゲン原子を表し、
32は、水素原子、アルキル基又はハロゲン原子を表し、
33は、水素原子、アルキル基又はハロゲン原子を表し、
34は、水素原子又はアルキル基を表し、
35は、アルキル鎖の途中に異項原子が挿入されていてもよい置換若しくは非置換のアルキル基を表し、
36は、水素原子又はアルキル基を表し、
Xは、水素原子、ヒドロキシメチル基又は置換若しくは非置換アリールオキシ基を表す)
で表される化合物又はその薬理的に許容される塩の少なくとも一種を有効成分として含有する医薬組成物や、
(2) 医薬組成物が、癌細胞増殖阻害剤であることを特徴とする上記(1)記載の医薬組成物や、
(3) 癌細胞増殖阻害剤が抗癌剤であることを特徴とする上記(1)又は(2)のいずれか記載の医薬組成物や、
(4) 抗癌剤が、血管新生能が乏しく栄養飢餓耐性能を取得している癌に対する抗癌剤であることを特徴とする上記(3)記載の医薬組成物や、
(5) 血管新生能が乏しく栄養飢餓耐性能を取得している癌が、膵臓癌であることを特徴とする上記(4)記載の医薬組成物に関する。
また、本発明は、
(6) 上記(1)〜(5)のいずれか記載の医薬組成物と血管新生能が乏しく栄養飢餓耐性能を取得している癌に対して効果を示さない抗癌剤とを有効成分として組合せて含有する抗癌剤に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明で使用されるある種のニッケルジチオカーバメイト化合物類、アセチルアミノ置換フェノール化合物類及びN−フェニルイソキサゾリン化合物類又はそれらの薬理学的に許容される塩は、これまで知られていなかった優れた抗癌活性を有し、特に、血管新生能が乏しく栄養飢餓耐性能を取得している、例えば、膵臓癌等の種々の腫瘍の予防、治療剤として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明で使用される化合物(I)〜(III)における各基の定義の具体例を示すが、これらは本発明の好ましい例を示すものであって、勿論これらによって限定されるものではない。
【0024】
アルキル基は、例えば、直鎖または分岐状の炭素数1〜20のアルキル、具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル等が挙げられる。
【0025】
アルキル鎖の途中に異項原子が挿入されていてもよい置換若しくは非置換のアルキル基のアルキル部分は、前記アルキル基と同義の炭素数1〜20のアルキル基を表し、異項原子は、O、S又はN(R)(式中、Rは、水素原子又は前記と同義の炭素数1〜20のアルキル基を表す)等の異項原子を表し、同一又は異なって、1〜3個の異項原子がアルキル鎖の任意の位置に挿入されていてもよい。また、置換アルキル基の置換基は、同一又は異なって、置換数1〜5の、置換若しくは非置換のアリール基又はアリールオキシ基を表す。ここで、アリール基及びアリールオキシ基のアリール部分は、後記アリール基の定義と同じである。置換アリール基及びアリールオキシ基の置換基は、同一又は異なって、置換数1〜3の、前記と同義のアルキル基を表す。
【0026】
置換若しくは非置換のアリール基及びアリールオキシ基のアリール部分は、例えば、炭素数6〜14のアリール、具体的には、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル等を挙げることができる。また、置換アリール基及びアリールオキシ基の置換基は、同一又は異なって、置換数1〜5の、アルキル基、アミノ基、アルカノイルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、スルファモイル基等を表し、ここで、アルキル基及びアルキルスルホニルアミノ基のアルキル部分は、前記アルキル基と同義であり、アルカノイルアミノ基は、後記アルカノイルアミノ基の定義と同じである。
【0027】
ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の各原子を意味する。
【0028】
置換若しくは非置換の複素環基としては、脂環式複素環基及び芳香族複素環基が挙げられる。
【0029】
脂環式複素環基は、同一または異なって、少なくとも1以上の異項原子、例えば、窒素、酸素、硫黄等を含み、飽和または一部不飽和結合が存在してもよい3〜8員の脂環式複素環基であり、単環性あるいは該単環性の複素環基が複数またはアリール基もしくは芳香族複素環基と縮合した多環性の縮合脂環式複素環基であってもよい。単環性の脂環式複素環基として、具体的には、アジリジニル、ピロリジニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ジヒドロチアゾリル、テトラヒドロフラニル、1,3−ジオキソラニル、チオラニル、オキサゾリジル、チアゾリジニル、ピペリジノ、ピペリジル、ピペラジニル、ホモピペリジニル、モルホリノ、モルホリニル、チオモルホリニル、ピラニル、オキサチアニル、オキサジアジニル、チアジアジニル、ジチアジニル、アゼピニル、ジヒドロアゾシニル等が例示され、多環性の縮合脂環式複素環基として、具体的には、インドリニル、イソインドリニル、クロマニル、イソクロマニル、キヌクリジニル等を挙げることができる。
【0030】
また、芳香族複素環基は、同一または異なって、少なくとも1以上の異項原子、例えば、窒素、酸素、硫黄等を含む5員または6員の芳香族複素環基からなり、該複素環基は、単環性または該単環性複素環基が複数またはアリール基と縮合した多環性の縮合芳香族複素環基、例えば、二環性もしくは三環性複素環基であってもよい。単環性の芳香族複素環基の具体例としては、フリル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアジニル等が挙げられ、多環性の縮合芳香族複素環基としては、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、カルバゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、キナゾリニル、フタラジニル、キノキサリニル、シンノリニル、ナフチリジニル、ピリドピリミジニル、ピリミドピリミジニル、プテリジニル、アクリジニル、チアントレニル、フェノキサチニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル等を挙げることができる。
ここで、置換複素環基の置換基としては、オキソ基、及び前記と同義のアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、複素環基等が挙げられる。
【0031】
置換若しくは非置換のアルカノイルアミノ基の定義におけるアルカノイル部分は、炭素数1〜6の、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル等を挙げることができる。また、置換アルカノイルアミノ基の窒素原子上の置換基は前記と同義のアルキル基が挙げられ、アルカノイル基のアルキル部分の置換基は、同一又は異なって、置換数1〜10の前記と同義のハロゲン原子が挙げられる。
有機アンモニウムは、式(VI)
【0032】
【化10】

【0033】
(式中、R〜Rは、同一または異なって、水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R〜Rの少なくとも一つは水素原子以外の基を表す)
で表される化合物であり、アルキル基及びアリール基は、前記と同義である。
有機ホスホニウムは、式(VII)
【0034】
【化11】

【0035】
(式中、R〜Rは、同一または異なって、水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R〜Rの少なくとも一つは水素原子以外の基を表す)
で表される化合物であり、アルキル基及びアリール基は、前記と同義である。
【0036】
本発明の医薬組成物として使用される式(I)〜(III)で表される化合物(以下、化合物(I)〜(III)という場合がある。他の式番号の化合物についても同様である)は、とりわけ癌細胞増殖阻害活性を有しており、抗癌剤として有用であり、抗癌剤として使用できる化合物(I)〜(III)としては、化合物(I)〜(III)であれば特に制限されないが、例えば、化合物(I)において、下記式(Ia)
【0037】
【化12】

【0038】
(式中、R11aは、置換若しくは非置換のアリール基又はニトリル基を表し、Mは、前記と同義である)
で表される化合物や、式(Ib)
【0039】
【化13】

【0040】
(式中、Mは、前記と同義である)
等で表される化合物が、好ましく使用される。
また、化合物(II)において、下記式(IIa)
【0041】
【化14】

【0042】
(式中、R22aは、水素原子又はハロゲン原子を表し、R23aは、水素原子又はアルキル基を表し、R24aは、ハロゲン原子又はニトロ基を表し、R28aは、アルキル基を表し、R28bは、アルキル基又はハロゲン原子を表し、R27は、前記と同義である)
で表される化合物や、式(IIb)
【0043】
【化15】

【0044】
(式中、R23bは、置換若しくは非置換のアルカノイルアミノ基又は置換若しくは非置換の複素環基を表し、R24bは、水素原子又はヒドロキシ基を表し、R28cは、アルキル基を表し、R27及びR28aは、前記と同義である)
等で表される化合物が、好ましく使用される。
さらに、化合物(III)において、下記式(IIIa)
【0045】
【化16】

【0046】
(式中、R36aは、アルキル基を表し、R37a〜R37cは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アミノ基、アルカノイルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はスルファモイル基を表し、R34及びR35は、前記と同義である)
で表される化合物や、式(IIIb)
【0047】
【化17】

【0048】
(式中、R34、R35、R36a及びXは、前記と同義である)
等で表される化合物が、好ましく使用される。
【0049】
化合物(I)〜(III)の薬理学的に許容される塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。薬理学的に許容される酸付加塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の各無機酸塩、および、有機酸としてのギ酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸等のカルボン酸類、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸等のスルホン酸類、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸類が挙げられる。薬理学的に許容される金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩が、薬理学的に許容されるアンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の各塩が、薬理学的に許容される有機アミン塩としては、トリエチルアミン、ピペリジン、モルホリン、トルイジン等の各塩が、薬理学的に許容されるアミノ酸付加塩としては、リジン、グリシン、フェニルアラニン等の付加塩が挙げられる。
【0050】
本発明の医薬組成物は、優れた癌細胞増殖阻害活性を有し、抗癌剤として使用することができる。特に、抗癌剤としては、血管新生能が乏しく栄養飢餓耐性能を取得している癌、例えば、膵臓癌等に対して有効に使用することができる。また、本発明の抗癌剤は、血管新生能が乏しく栄養飢餓耐性能を取得している癌に対して効果を示さない抗癌剤との併用或いは合剤等として、二剤以上の抗癌剤を組み合わせて使用することも可能である。ここで、該組み合わせて使用することのできる抗癌剤としては、マイトマイシンCやブレオマイシン等の抗腫瘍性抗生物質、シクロホスファミド等のナイトロジェンマスタード、シスプラチンやカルボプラチン等の白金製剤、ダカルバシン等のニトロソウレア等、に代表されるDNAアルキル化剤や、ビンブラスチンやビンクリスチン等に代表される微小管重合阻害剤や、パクリタキセルやドセタキセル等に代表される微小管脱重合阻害薬や、イリノテカンやドキソルビシン等に代表されるトポイソメラーゼ阻害薬や、トラスツズマブ、リツキシマブ、イマチニブ、ゲフィチニブ、ボルテゾミブ、エルロチニブなどに代表される分子標的薬等が例示されるが、これらの抗癌剤に限定されない。
【0051】
本発明で使用される化合物(I)〜(III)は、試薬として、或いは、常法により製造し、入手することが可能であるが、例えば、化合物(I)は、前記特許文献2又は3記載の方法或いはそれに準じ、また、化合物(III)は、特許文献5又は6記載の方法或いはそれに準じて製造することができる。また、下記化合物は、試薬として入手可能である。
・N−(3,5−ジクロロ−2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−2−(2,4−ジ−tert−ペンチルフェノキシ)アセトアミド(化合物II−2)(Aldrich社)
・N−(3,5−ジクロロ−2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−2−(2,4−ジ−tert−ペンチルフェノキシ)ブタンアミド(化合物II−3)(Aldrich社)
・2−(2,4−ジ−tert−ペンチルフェノキシ)−N−[4−(2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブタンアミド)−3−ヒドロキシフェニル]ヘキサンアミド(化合物II−5)(和光純薬工業社)
・2−(2,4−ジ−tert−ペンチルフェノキシ)−N−[4−(3−モルホリノ−5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル]アセトアミド(II−6)(Aldrich社)
・2−(2,4−ジ−tert−ペンチルフェノキシ)−N−[4−(3−モルホリノ−5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル]ブタンアミド(II−7)(Aldrich社)
【0052】
次に、化合物(I)〜(III)の具体例を示す。
【0053】
【化18】

【0054】
【化19】

【0055】
【化20】

【0056】
【化21】

【0057】
【化22】

【0058】
【化23】

【0059】
本発明の医薬組成物は、そのまま単独で投与することも可能であるが、通常各種の医薬製剤とすることが望ましく、該医薬製剤は、活性成分を薬理学的に許容される一種もしくは二種以上の担体と混合し、製剤学の常法により製造することができる。
【0060】
投与経路としては、経口投与又は吸入投与、静脈内投与などの非経口投与が挙げられる。
【0061】
投与形態としては、錠剤、注射剤などが挙げられ、錠剤は、例えば乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、界面活性剤、グリセリン等の、各種添加剤を混合し、常法に従い製造すればよく、吸入剤は、例えば乳糖等を添加し、常法に従い製造すればよい。注射剤は、水、生理食塩水、植物油、可溶化剤、保存剤等を添加し、常法に従い製造すればよい。
【0062】
本発明の医薬組成物の有効量及び投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、症状等により異なるが、通常成人一人当たり、0.001mg〜5g、好ましくは0.1mg〜1g、より好ましくは1mg〜500mgを、一日一回ないし数回に分けて投与する。
【0063】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
化合物の評価は、特開2007−37547号公報に記載の方法に準じて、下記の方法により実施した。
【0065】
(1)基本培地の調製
グルコース(4500mg/L)とL−グルタミンが含まれるDMEM(インビトロジェン社製)培地500mLに、牛血清(ハイクローン社製)50mLとペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液(インビトロジェン社製)5mLを混合し、基本培地とした。
【0066】
(2)栄養欠乏培地の調製
グルコースとL−グルタミンを含まないDMEM(インビトロジェン社製)培地500mLに、透析処理を行った牛血清(ハイクローン社製)50mLとペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液(インビトロジェン社製)5mL、L−グルタミン(インビトロジェン社製)5mL、さらに非必須アミノ酸溶液(インビトロジェン社製)5mLとを混合し、栄養欠乏培地とした。
【0067】
(3)細胞の培養と維持
ヒト膵臓がん由来株化細胞であるPANC−1細胞、BxPC3細胞、AsPC1細胞、さらに、ヒト大腸がん由来株化細胞であるDLD1細胞、HCT116細胞、SW480細胞はすべてAmerican Type Culture Collectionより入手した。これら細胞は、基本培地を用い37℃、5%CO存在下で、フラスコ底面に単層培養し、その発育が飽和に達した際、細胞の継代を次の方法で行った。すなわち、各細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄後、0.2%トリプシンおよび0.05%EDTAを添加し、37℃で約5分反応させ細胞を剥離した後、基本培地で再懸濁し、遠心分離により回収した20%量の細胞を新しいフラスコに植え継いだ。
【0068】
(4)PANC−1細胞に対する細胞増殖阻害活性
基本培地で懸濁させたPANC−1細胞は、1ウェル当たり1×10個の細胞密度になるよう96穴マイクロタイタープレートに播種し、37℃、5%COの条件下で一晩培養し接着させた。その後、細胞はPBS100μLで洗浄し、各種濃度の化合物を含む栄養欠乏培地または基本培地100μLでそれぞれ並列に置換し、24時間培養した。この時の生存細胞数は、セルカウンティングキット8(同仁化学研究所)を用い、添付のプロトコールに準じて計測した。すなわち、細胞はPBS100μLで洗浄し、10%のセルカウンティングキット8溶液を含む基本培地100μLを加え、37℃、5%COの条件下で1〜4時間呈色反応を行った。その後、マイクロプレートリーダーを用い450nmの吸光度を測定した。
試験結果は、細胞増殖を50%阻害する濃度(IC50)で表わした。
結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
(5)BxPC3細胞、AsPC1細胞、DLD1細胞、HCT116細胞、SW480細胞に対する細胞増殖阻害活性
上記5種の癌細胞は、各々1ウェル当たり1×10個の細胞密度になるよう96穴プレートに播種し、37℃、5%COの条件下で一晩培養し接着させた。各種濃度の化合物を栄養欠乏培地(A)または基本培地(B)でそれぞれ並列に終濃度3μMで24時間暴露し、セルカウンティングキット8を用いて同様に細胞増殖活性を測定した。
試験結果は、3μMにおける細胞増殖阻害率(%)で表した。
結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【実施例2】
【0072】
化合物(II−1)10mg、乳糖70mg、デンプン15mg、ポリビニルアルコール4mgおよびステアリン酸マグネシウム1mg(計100mg)からなる組成を用い、常法により、錠剤を調製する。
【実施例3】
【0073】
常法により、化合物(I−1)70mg、精製大豆油50mg、卵黄レシチン10mgおよびグリセリン25mgからなる組成に、全容量100mLとなるよう注射用蒸留水を添加し、バイアルに充填後、加熱滅菌して注射剤を調製する。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明で使用されるある種のニッケルジチオカーバメイト化合物類、アセチルアミノ置換フェノール化合物類及びN−フェニルイソキサゾリン化合物類又はそれらの薬理学的に許容される塩は、血管新生能が乏しく栄養飢餓耐性能を取得している、例えば、膵臓癌等に対し有効に使用することができ、また、血管新生能が乏しく栄養飢餓耐性能を取得している癌に対して効果を示さない抗癌剤との併用等により、優れた効果が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

[式中、
A環及びB環は、同一又は異なって、式(IV)
【化2】

(式中、R11は、アルキル基、置換若しくは非置換のアリール基又はニトリル基を表す)
で表される基、又は、式(V)
【化3】

(式中、R12及びR13は、同一又は異なって、アルキル基、置換若しくは非置換のアリール基又はニトリル基を表す)
で表される基を表し、
は、有機アンモニウム基又は有機ホスホニウム基を表す]、
で表される化合物、
式(II)
【化4】

(式中、
21は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子を表し、
22は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又はニトロ基を表し、
23は、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、置換若しくは非置換のアルカノイルアミノ基又は置換若しくは非置換の複素環基を表し、
24は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又はニトロ基を表し、
25は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子を表し、
26は、水素原子又はアルキル基を表し、
27は、水素原子又はアルキル基を表し、
28は、アルキル基又はハロゲン原子を表し、
mは、0〜5の整数を表す)、
で表される化合物、又は、
式(III)
【化5】

(式中、
Qは、CO又はSOを表し、
31は、水素原子、アルキル基又はハロゲン原子を表し、
32は、水素原子、アルキル基又はハロゲン原子を表し、
33は、水素原子、アルキル基又はハロゲン原子を表し、
34は、水素原子又はアルキル基を表し、
35は、アルキル鎖の途中に異項原子が挿入されていてもよい置換若しくは非置換のアルキル基を表し、
36は、水素原子又はアルキル基を表し、
Xは、水素原子、ヒドロキシメチル基又は置換若しくは非置換アリールオキシ基を表す)
で表される化合物又はその薬理的に許容される塩の少なくとも一種を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項2】
医薬組成物が、癌細胞増殖阻害剤であることを特徴とする請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
癌細胞増殖阻害剤が抗癌剤であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗癌剤が、血管新生能が乏しく栄養飢餓耐性能を取得している癌に対する抗癌剤であることを特徴とする請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
血管新生能が乏しく栄養飢餓耐性能を取得している癌が、膵臓癌であることを特徴とする請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の医薬組成物と血管新生能が乏しく栄養飢餓耐性能を取得している癌に対して効果を示さない抗癌剤とを有効成分として組合せて含有する抗癌剤。

【公開番号】特開2011−20969(P2011−20969A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168682(P2009−168682)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(510097747)独立行政法人国立がん研究センター (35)
【出願人】(506374708)一般社団法人ファルマIP (9)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
【Fターム(参考)】