説明

栗の矮化と側枝更新化方法

【課題】有機質土壌に苗木を植付し、前記苗木の主幹に太陽光と有機質土壌の土壌養水分を十分に吸収させて複数本の枝を生長させ、主幹を勢よく生長させながら夫々の枝の根本にコブを形成してすべてのコブから発育枝や結果母枝を得て大果で高品質の栗を発生させる栗の矮化と側枝更新化方法を提供する。
【解決手段】苗木1に発育枝3を生長させながら、発育枝3を基部側から2枝を残して切り返し、すべての枝の基端にコブ7を発生させ、勢のある結果母枝4や発育枝3を発生させて毬果を養毬させて高品質で大果の栗を生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の芽を有する苗木に太陽光や有機質土壌からの土壌養水分を十分に吸収させることにより炭疽病の発生がなく、樹勢旺盛で大果で高品質で味もよく、有機質堆肥や化学肥料を用いて安全で歩留のよい栗を作ることができる栗の矮化と側枝更新化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
栗の栽培方法としては従来より確一的の方法が採用されている。この方法では栗の木は巨木となり太陽光からの照射度も悪く、果実も小玉で炭疽病の発生等の多くの問題点があった。
【0003】
従来の問題点を改良する方法として本発明と同一の出願人は「特許文献1」や「特許文献2」を開発し、権利化を図っているが、本発明は前記の「特許文献1」や「特許文献2」における栗の栽培方法を更に進歩させたものであり、従来に存在しない活気的な発生である。
なお、権利化されていないが、「非特許文献1」の如きものが存在しているがこの方法と本発明とは全く相違するものであり、この「非特許文献1」は従来における問題点を一部のみ解消するものに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−183187(図1)
【特許文献2】特願2011−87834(図1)
【0005】
「非特許文献1」 「兵庫県農業,総合センタの荒木 斉氏開発の「クリの低収高木園における一挙更新せん定技術の体系化」(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のように、従来における栗の整枝方法としては栗樹を土壌に栽植し、変則主幹形成等の剪定を基本として栗樹の生長にまかせて自然に整枝させる方法がとられている。この従来の整枝方法では栗樹は巨木となるため栽植後数年は剪定して巨木にならないようにする剪定作業が行われている。しかしその後は巨木となっているため放置されて自然に栗を生産する方法が一般的に行われている。この従来の方法では比較的小玉の栗しか生産されず、その大きさもまちまちである。特に大きな問題としては炭疽病にかかるものが多量に発生する問題点がある。炭疽病は古い枝に寄生するものであり、雨水等により毬果内に浸入する。また、前記のように巨木になるため広い栽培面積が必要になり、生産性において劣ると共に収穫作業においても能率的でない問題点がある。
栗の栽培方法としては、有機質堆肥や化学肥料を用いて樹勢が常に旺盛に保つことが出来、発育枝の発生度合がよく、葉も大きく養分の吸収もよく、炭疽病の発生もなく、生産性の向上が図られ、太陽光の自然の恵みと土壌からの養水分の吸収もよく、収穫作業も老若男女で容易に出来、土壌面積も小さくて済む方法が期待されている。前記の「特許文献1」や「特許文献2」は前記のように従来の問題点を改善したものであるが、更にその内容を大巾に改良,改善したものが本発明である。
なお、「非特許文献1」は前記のように従来の問題点を一部改善したものであるが、剪定作業が複雑であり、安全で高品質の栗が安定的に栽培されるものではなく、かつ各種の化学薬品を使用する問題点を有するものである。
【0007】
本発明は前記の先行技術を更に大巾に改良,改善させて従来の栗の栽培方法におけるすべての問題点を解消した全く新しい栗の矮化と側枝更新化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以上の目的を達成するために、請求項1の発明は、有機質堆肥や化学肥料を用いた有機質土壌にその年(1年目)の秋期から春先にかけて数個の芽を有する細長な苗木を植付けて太陽光と前記有機質土壌からの土壌養水分を前記苗木の主幹に吸収させて前記芽から発育枝を生長させると共に前記主幹の頂部側に複数の車枝の発育枝を形成する第1ステージと、次の年(2年目)の冬期剪定で前記の芽から発育したすべての前記発育枝を前記主幹側の基部から2芽を残して切り返す剪定と、前記車枝の発育枝の内の主幹と同一線上に生長した前記車枝を前記主幹の延長枝として約20cm残して切り返すと共に他の前記車枝を切除する剪定を行い、2芽を残した芽から旺盛な2本の発育枝を生長させる第2ステージと、3年目の冬期剪定として前記2本の発育枝の内の1本を結果母枝として生長させ他の1本の前記発育枝は芽を残した状態で切り返しを行い、前記結果母枝に毬果を着毬させると共に前記切り返しを行った前記発育枝の前記芽から旺盛な発育枝を生長させる第3ステージと、4年目の冬期剪定として前記毬果を着毬させた結果母枝から毬果をもぎ取り芽を残した状態で切り返す剪定を行うと共に前記芽を残した状態で切り返しされた前記芽から結果母枝を生長させ、切り返し剪定を行った前記芽から旺盛な発育枝を生長させ前記結果母枝に毬果を着毬させてこれをもぎ取る側枝更新を行い、前記2芽の部分に陰芽を生長させているコブを生長させ、前記主幹の最下端のコブを前記有機質土壌の表面から40cm乃至50cm離れた位置とし夫々の前記コブ間の間隔を15cmとする側枝更新を行う第4ステージと、前記コブからやその陰芽から生長させた発育枝に毬果させると共に発育枝の芽の一部を残した状態で切り返しを行いこの芽から新しい発育枝を生長させる第5ステージとを順次行い、以後前記第3ステージ以降の各ステージを繰返し行うことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2の発明は、生長した最終形態において、主幹の高さが170cm以下に保持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1の栗の矮化と側枝更新化方法によれば、第1ステージから第5ステージにかけて枝の切り返し,切除,樹形形成,結実や摘果が順次整然と行われ、主幹は太陽光の直接照射と土壌からの養水分の吸収が十分に出来、炭疽病等の発生もなく、コブ化し、発育枝や陰芽の形成により毬果が確実に安定的に出来、高品質の多量の栗生産が安定的にでき、毬果の摘果も容易に出来る効果を上げることが出来る。
【0011】
また、本発明の請求項2の栗の矮化と側枝更新化方法によれば、主幹の高さが170cmであり、栗の摘果が誰でもが容易に出来る効果を上げることができ、老若男女でも摘果作業が容易に出来る効果を上げることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明における第1ステージを説明するための模式図(a),(b)。
【図2】本発明における第2ステージを説明するための模式図(a),(b)。
【図3】本発明における第3ステージを説明するための模式図(a),(b)。
【図4】本発明における第4ステージを説明するための模式図(a),(b),(c),(d)。
【図5】本発明における第5ステージを説明するための模式図(a),(b)。
【図6】本発明の方法を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の栗の矮化と側枝更新化方法の実施の形態を図面を参照して詳述する。なお、この方法は第1ステージから第5ステージにより行われる。
【実施例】
【0014】
第1(a),(b)は1年目の第1ステージを説明するためのものである。
まず、図1(a)に示すように約80cm乃至100cmの細長な主幹2の苗木1を有機質土壌8に立植する。この有機質土壌8は有機質堆肥や化学肥料を用いたものである。また、主幹2にはその左右に複数本の芽10が形成されている。
【0015】
図1(a)に示した主幹2は太陽光11の照射を十分に受けると共に有機質土壌8からの有機養水分12とを受けて生長し、図1(b)に示すように芽10からは樹勢のある発育枝3が生長すると共に主幹2の頂部には車枝状の発育枝3が生長する。なお、この発育枝3は本実施例では左右に夫々1本と主幹2の頂部から伸延する1本の車枝状のものからなるが、勿論これに限定するものではない。
【0016】
図2(a),(b)は次の年(2年目)の冬期に行う第2ステージを示すものである。
図2(a)に示すように、主幹2の左右に形成されている複数の芽10(図1)から発育した発育枝3は主幹2側に形成されている2芽を残してすべて切り返し6を行うと共に頂部側に形成されている発育枝3の主幹2の延長線上に伸びている発育枝3はその頂点に切り返し6を行って切断し、左右に伸長している発育枝3は完全に切除5を行う。なお、切り返し6と切除された発育枝3との間隔を約20cmとする。これにより、主幹2の頂部の切り返し6までの高さは約110cm位となる。
【0017】
次に、図2(b)に示すように2芽の部分の先端側から発育枝3を生長させると共に2芽の主幹2側の部分からも発育枝3を生長させる。また、切除5の部位と切り返し6を行った頂部の部位からも発育枝3が夫々伸長して形成される。この状態で主幹2の全高は約125cm位の高さとなる。
【0018】
図3(a),(b)は3年目の第3ステージの状態を示すもので樹形の形成時期に相当する。高さ約125cmの主幹2の左右の2芽の部分から生長した発育枝3は結果母枝4となり、2芽の主幹2側で生長した発育枝3はその基から切り返し6を行う。また、切除5や頂部の切り返し6から生長した発育枝3は切除5及び切り返し6を行う。
次に、図3(b)に示すように図3(a)における結果母枝4には毬果9が着毬され、2芽の主幹2側の切り返し6の部位からは新しい発育枝3が伸長する。ここで主幹2の頂部側の切除5と頂部の切り返し6の部位には再び発育枝3が形成され、主幹2の全高はこの状態で145cm位に生長する。
【0019】
図4(a),(b),(c),(d)は4年目の第4ステージを示すものである。
まず、図4(a)に示すように図3(b)の状態にあった毬果9を着毬した結果母枝4はすべて切り返し6を行うと共に2芽の主幹2側から生長した発育枝3は結果母枝4となる。また、頂部の切除5や頂部の切り返し6から伸長した発育枝はすべて切り返す。
【0020】
次に、図4(b)に示すように、主幹2は約165cm位まで生長し、この状態では切り返し6を行った主幹2の2芽の先端の切り返し6からは発育枝3が生長し、2芽の主幹2側から生長した発育枝3は結果母枝4となり毬果9が形成される。また、頂部の切除5や切り返し6の部位には再び発育枝が生長する。この状態で主幹2の全高は約165cm位となる。
【0021】
図4(c)に示すように、図4(b)の状態にあった2芽の部分は切り返し6を行い、毬果9の着毬した結果母枝4はすべて基から切り返し6を行う。
【0022】
図4(c)に示した前記の状態において図4(d)に示すように2芽の部分は肥大したコブ7となる。この状態では2芽の部分のコブ7の内、最下端のコブ7は有機質土壌8の表面から40cm乃至50cmの高さになるようにし、夫々のコブ7,7間の間隔を15cm位としコブ7の数や位置を調整する。なお、コブ7の先端から発育枝3が生長する。
【0023】
図5(a),(b)は5年目の最終段階の第5ステージを示すものであり、コブ7から生長した発育枝3は結果母枝4となる。また、最終的に図5(b)に示すように結果母枝4の部分には毬果9が養毬され、コブ7からは発育枝3が伸長する。なお、コブ7の内部の陰芽からも発育枝3が伸長する。但し、発育枝3の数が多くなると毬果の養毬品質に影響を及ぼす恐れがあるためコブ7からの発育枝3は1本にするのが望ましい。なお、第5ステージでは主幹2の全高は約170cm位になる。
【0024】
図5(a),(b)に示した第5ステージは図3(b)に示した状態とほぼ同一のものであり、図5(b)の状態からは第3ステージや第4のステージの栗栽培法が繰返し行われることになる。
【0025】
図6は以上の第1ステージから第5ステージまでの栽培をフローチャートとしてまとめたものである。図示のように本発明の栗の矮化と側枝更新化方法はこのフローチャートの順序に従って進められて毬果9と着毬するものである。
【0026】
以上のように、本発明の栗の矮化と側枝更新化方法によれば、主幹2は太陽光等を受け勢よく生長し、すべての枝にはコブ7が出来、結果母枝4や発育枝3がすべて発生し、生長して毬果を摘果することが出来る。
また、主幹2の高さは最高で170cm位であり、誰でもが容易に摘果出来る。また、従来のような巨木に生長することがなく、炭疽病の発生もなく、太陽光を十分に受けながら生長する。また、植付面積も小さくて済む。
以上のことから、この本発明の栗の矮化と側枝更新化方法によればすべての栗生産の場所に適用されることができ、高品質で大果で無害な栗を多数個栽培することができ、栗の用途の一層の開発が可能となる。
【0027】
本発明は、以上の説明の内容からなるが、本発明は以上の内容に限定されるものではない。同一技術的範疇のものが適用されることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、すべての栗の生産に適用されるものであり、日本国内に限らず外国にでも適用され、その利用範囲は極めて広い。
【符号の説明】
【0029】
1 苗木
2 主幹
3 発育枝
4 結果母枝
5 切除
6 切り返し
7 コブ
8 有機質土壌
9 毬果
10 芽
11 太陽光
12 土壌養水分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機質堆肥や化学肥料を用いた有機質土壌にその年(1年目)の秋期から春先にかけて数個の芽を有する細長な苗木を植付けて太陽光と前記有機質土壌からの土壌養水分を前記苗木の主幹に吸収させて前記芽から発育枝を生長させると共に前記主幹の頂部側に複数の車枝の発育枝を形成する第1ステージと、次の年(2年目)の冬期剪定で前記の芽から発育したすべての前記発育枝を前記主幹側の基部から2芽を残して切り返す剪定と、前記車枝の発育枝の内の主幹と同一線上に生長した前記車枝を前記主幹の延長枝として約20cm残して切り返すと共に他の前記車枝を切除する剪定を行い、2芽を残した芽から旺盛な2本の発育枝を生長させる第2ステージと、3年目の冬期剪定として前記2本の発育枝の内の1本を結果母枝として生長させ他の1本の前記発育枝は芽を残した状態で切り返しを行い、前記結果母枝に毬果を着毬させると共に前記切り返しを行った前記発育枝の前記芽から旺盛な発育枝を生長させる第3ステージと、4年目の冬期剪定として前記毬果を着毬させた結果母枝から毬果をもぎ取り芽を残した状態で切り返す剪定を行うと共に前記芽を残した状態で切り返しされた前記芽から結果母枝を生長させ、切り返し剪定を行った前記芽から旺盛な発育枝を生長させ前記結果母枝に毬果を着毬させてこれをもぎ取る側枝更新を行い、前記2芽の部分に陰芽を生長させているコブを生長させ、前記主幹の最下端のコブを前記有機質土壌の表面から40cm乃至50cm離れた位置とし夫々の前記コブ間の間隔を15cmとする側枝更新を行う第4ステージと、前記コブからやその陰芽から生長させた発育枝に毬果させると共に発育枝の芽の一部を残した状態で切り返しを行いこの芽から新しい発育枝を生長させる第5ステージとを順次行い、以後前記第3ステージ以降の各ステージを繰返し行うことを特徴とする栗の矮化と側枝更新化方法。
【請求項2】
生長した最終形態において、主幹の高さが170cm以下に保持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の栗の矮化と側枝更新化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−63029(P2013−63029A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202669(P2011−202669)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【特許番号】特許第4953110号(P4953110)
【特許公報発行日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【出願人】(592078081)稲本マシンツール工業株式会社 (3)