説明

校正ガスの製造方法、容器入り校正ガス、検出器の校正方法

【課題】ガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、この検出器の校正に用いる校正ガスを簡便な方法によって安価に製造する。
【解決手段】ガス供給源からガス供給弁を介して供給される圧縮ガスを耐圧容器に充填するガス充填設備において、ガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、この検出器の校正に用いる校正ガスの製造方法であって、シール材に使用されるフッ素樹脂又はフッ素樹脂からなるシール材を乾燥した雰囲気中で熱分解ないし酸素と反応させることによって、少なくともフッ化カルボニルを含み且つフッ化水素を実質的に含まない校正ガスを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス供給源からガス供給弁を介して圧縮ガスを供給する圧縮ガス供給設備において、ガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、この検出器の校正に用いる校正ガスの製造方法、容器入り校正ガス、並びにこれらの校正ガスを用いた検出器の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、圧縮ガスを耐圧容器に充填するガス充填設備は、ガス供給源と複数の耐圧容器との間を充填用の配管で接続し、この配管に設けられたガス供給弁を開閉することによって、ガス供給源から供給された圧縮ガスを各耐圧容器内に高圧で充填するようになっている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
また、このようなガス供給源からガス供給弁を介して圧縮ガスを供給する圧縮ガス供給設備では、ガス供給弁に設けられたシール材によって閉弁時にガス供給弁から圧縮ガスが漏洩することを防止している。このため、ガス供給弁に使用されるシール材には、頻繁なバルブ開閉に伴う変形や熱変動が加わる過酷な条件下においても、圧縮ガスの漏洩を防止することが求められている。
【0004】
しかしながら、このようなシール材に劣化や損傷などが生じた場合には、ガス供給弁から圧縮ガスが漏洩することになる。また、漏洩した圧縮ガスが高純度酸素(99.999%)といった助燃ガスの場合には、発火事故を起こす可能性も考慮しなければならない。また、シール材が損傷した場合、圧縮ガス中にシール材の一部が混入して、気付かぬうちに製品ガスが汚染される可能性も考慮する必要がある。
【0005】
ガス漏れに関しては、従来より各種の検出器を用いてガス漏れを検知する方法が提案されている。しかしながら、シール材の劣化や損傷などに起因する配管内部でのガス漏れや、製品ガスの汚染の兆候を発見するには、未だ人間の五感に頼る部分が大きく、確実で効果的な検知方法がないのが現状である。このため、シール材の劣化や損傷などに起因するガス漏れ事故を未然に防止するためには、ガス供給弁の定期的な分解点検或いは気密試験を行い、シール材の劣化や損傷の有無などを確認する必要がある。
【0006】
しかしながら、分解点検時に点検者がシール材の損傷の有無を目視で確認したり、シール材の交換時期を判断したりすることは、確実性に欠けるといった欠点がある。また、ガス供給弁を急速に開閉する操作を繰り返すことによるシール材の安全確認試験においても、シール材の損傷等を即座に捉えることは困難である。一方、点検毎にシール材を交換するという方法では、安全性を確保する上で有効であるものの、安全性と経済性とを考慮したシール材の交換時期を設定することは困難である。したがって、シール材の不具合によるガス漏れや製品ガスの汚染などの兆候を検知し、なお且つシール材の適切な交換時期を知る方法が望まれる。
【0007】
そこで、本出願人は、ガス供給弁のシール材が劣化したり、損傷したりしたことを確実に捉えることができ、シール材から発生するガス成分が外部に漏洩したり、圧縮ガスに混入して圧縮ガスを汚染することを防止することによって、安全性の向上、製品ガスの汚染防止、シール材交換時期の適正化等を図ることができる圧縮ガス供給設備及び方法を下記特許文献2において提案した。
【0008】
具体的に、ガス供給弁に用いられるシール材には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などのフッ素樹脂が広く用いられている。これまでの研究により、シール材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のシール材を使用した場合、このシール材が高温に加熱されたり、酸素と反応したりすると、四フッ化メタン(CF)、フッ化カルボニル(COF)といったハロゲン系ガスや、メタン(CH)、二酸化炭素(CO)などが発生することがわかっている。したがって、これらのガスの少なくとも一種を検知できれば、シール材が分解したり、酸素と反応したりしたことを知ることが可能である。
【0009】
例えば、フッ化カルボニルを検知する方法としては、フッ化カルボニルを加水分解によりフッ化水素(HF)に変換して検知する方法がある。しかしながら、バブリングによる加水分解法では、検出感度が低いなどの問題がある。一方、呈色指示薬と保湿剤とを担体に展開したフッ化カルボニル検知材も提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0010】
しかしながら、これまでフッ化カルボニル用の検知器は、作業環境における許容濃度を超えないように、ガス濃度の検知やガス漏洩の検知など、作業員の安全確保のため、通常はある程度の湿度がある大気雰囲気中で使用される。一方、このような検知器を上述した圧縮ガスのガス充填設備におけるフッ化カルボニルの検出に用いる場合には、乾燥雰囲気中での検出となるため、この乾燥雰囲気中においても検出器がフッ化カルボニルを適切に検出できるかどうか、予めフッ化カルボニルを含む校正ガスを用いて確認する必要がある。
【0011】
ここで、フッ化カルボニルを含む校正ガスを上記検知器の校正に用いる場合には、この校正ガス中にフッ化水素が含まれていると、フッ化カルボニルの加水分解により生じたフッ化水素を検出しているのか、校正ガスに元から含まれる微量のフッ化水素を検出しているのか、判別が不可能となる。したがって、フッ化カルボニルを校正ガスに用いる場合には、この校正ガスがフッ化水素を含まないことが必要である。
【0012】
フッ化カルボニルを製造する方法としては、ホスゲンをフッ素化する方法や、一酸化炭素をフッ素化する方法などがある。しかしながら、これらフッ化カルボニルの製造方法では、必要以上に高濃度(50%超)のフッ化カルボニルが得られてしまう上に、原料ガス自体も人体に害を及ぼす物質のため、取り扱いに注意が必要である。また、副生成物としてフッ化水素を含むことも多い。
【0013】
一方、フッ化カルボニルからフッ化水素を除去する方法としては、フッ化ナトリウムやフッ化カリウムなどのアルカリ金属フッ化物からなる脱酸剤にフッ化水素を吸着させる方法や、特殊な金属フッ化物脱酸剤を使用する方法などがある。しかしながら、始めからフッ化水素を含まず、低濃度のカルボニルフッ化を含む校正ガスをより簡便な方法によって安価に製造することが望まれる。
【特許文献1】特開2002−106792号公報
【特許文献2】特開2005−69803号公報
【特許文献3】特開2007−231997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、ガス供給源からガス供給弁を介して圧縮ガスを供給する圧縮ガス供給設備において、ガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、この検出器の校正に用いる校正ガスを簡便な方法によって安価に製造することができる校正ガスの製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、上記製造方法により得られた校正ガスを耐圧容器に充填することによって、取り扱いが容易な容器入り校正ガスを安価に提供することを目的とする。
【0016】
さらに、本発明は、上記製造方法により得られた校正ガス又は上記容器入り校正ガスを用いることによって、検出器の校正を適切に行うことができる検出器の校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
すなわち、請求項1に係る発明は、ガス供給源からガス供給弁を介して供給される圧縮ガスを耐圧容器に充填するガス充填設備において、ガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、この検出器の校正に用いる校正ガスの製造方法であって、シール材に使用されるフッ素樹脂又はフッ素樹脂からなるシール材を乾燥した雰囲気中で熱分解ないし酸素と反応させることによって、少なくともフッ化カルボニルを含み且つフッ化水素を実質的に含まない校正ガスを得ることを特徴とする校正ガスの製造方法である。
また、請求項2に係る発明は、フッ素樹脂又はシール材を入れた反応器に酸素を含むガスを導入し、このガスを反応器内で断熱圧縮することによって、前記フッ素樹脂又はシール材を燃焼させることを特徴とする請求項1に記載の校正ガスの製造方法である。
また、請求項3に係る発明は、反応器内に酸素を含むガスを5MPa以上の圧力で導入することを特徴とする請求項1又は2に記載の校正ガスの製造方法である。
また、請求項4に係る発明は、フッ素樹脂又はシール材を入れた反応器に酸素を含むガスを導入し、この反応器を加熱することによって、フッ素樹脂又はシール材を燃焼させることを特徴とする請求項1に記載の校正ガスの製造方法である。
また、請求項5に係る発明は、フッ素樹脂又はシール材を予め乾燥しておくことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の校正ガスの製造方法である。
また、請求項6に係る発明は、得られた校正ガスをフッ化カルボニルの濃度が5〜500ppmとなるまで酸素で希釈することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の校正ガスの製造方法である。
また、請求項7に係る発明は、ガス供給源からガス供給弁を介して供給される圧縮ガスを充填容器に充填するガス充填設備において、ガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、この検出器の校正に用いる容器入り校正ガスであって、請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法によって得られた校正ガスが耐圧容器に充填されてなることを特徴とする容器入り校正ガスである。
また、請求項8に係る発明は、ガス供給源からガス供給弁を介して供給される圧縮ガスを充填容器に充填するガス充填設備において、ガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法により得られた校正ガス又は請求項7に記載の容器入り校正ガスを用いて、検出器の校正を行うことを特徴とする検出器の校正方法である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明に係る校正ガスの製造方法では、少なくともフッ化カルボニルを含み且つフッ化水素を実質的に含まない校正ガスを簡便な方法によって安価に製造することが可能である。更に、この校正ガスを酸素で希釈することによって、検出器を校正するのに必要な既定濃度の校正ガスを容易に調製することが可能である。
【0019】
なお、本発明において「フッ化水素を実質的に含まない」とは、フッ化水素を含まないこと、仮にフッ化水素を含む場合であっても検出器の校正に影響を与えないほど極微量であることを意味する。なお、校正ガスに含まれるフッ化水素の濃度は、検出限界である0.2ppm以下であれば、検出器の校正に特に影響を与えることはない。
【0020】
また、本発明では、上記製造方法により得られた校正ガスを耐圧容器に充填することによって、取り扱いが簡便な容器入り校正ガスを安価に提供することが可能である。
【0021】
さらに、本発明に係る検出器の校正方法では、上記製造方法により得られた校正ガス又は上記容器入り校正ガスを用いることによって、検出器の校正を適切に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を適用した校正ガスの製造方法、容器入り校正ガス、検出器の校正方法について、図面を参照して詳細に説明する。
(校正ガスの製造方法)
本発明を適用した校正ガスの製造方法は、ガス供給源からガス供給弁を介して圧縮ガスを供給する圧縮ガス供給設備において、ガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、この検出器の校正に用いる校正ガスを製造する方法であり、シール材に使用されるフッ素樹脂又はフッ素樹脂からなるシール材を乾燥した雰囲気中で熱分解ないし酸素と反応させることによって、少なくともフッ化カルボニルを含み且つフッ化水素を実質的に含まない校正ガスを得ることを特徴とするものである。
【0023】
具体的に、本発明を適用した校正ガスの製造方法で用いられる製造装置の一例を図1に示す。
この製造装置は、図1に示すように、ガス供給源1に配管2を介してガス供給弁3の一端を接続し、このガス供給弁3の他端に配管4を介して反応器5を接続した構成を有している。このうち、ガス供給源1は、例えば15MPa〜30MPaの圧力で高純度酸素(99.999%)が充填されたボンベ(耐圧容器)からなる。
【0024】
一方、反応器5は、図2に拡大して示すように、一端が配管4に接続された筒状容器6の他端をプラグ7によって封止したものからなる。筒状容器6は、耐圧性があり、また、後述する原料Sの燃焼時に熱を外に逃がして容器自体が燃焼しないように真鍮などの熱伝導性の良い金属を用いて、略円筒状に形成されている。筒状容器6の一端は、高圧での使用に耐えうる接続方法によって配管4と接続されている。具体的には、筒状容器6と配管4とを溶接により接続する方法や、筒状容器6の内面にテーパー状のねじ山を形成し、コネクタなどによって配管4と接続する方法などを用いることができる。筒状容器6の他端は、その内周面に形成されたテーパー状のねじ山(雌ねじ)と、プラグ7の外周面に形成されたテーパー状のねじ山(雄ねじ)との螺合によって、プラグ7を着脱自在に接続することが可能となっている。
【0025】
また、この製造装置は、ガス供給弁3と反応器5との間で分岐された配管4の先端にバルブ8を介して捕集容器(耐圧容器)9の一端が接続され、更にこの捕集容器9の他端にバルブ10を介して真空ポンプ11が接続された構造を有している。
【0026】
以上のような構造を有する製造装置を用いて本発明の校正ガスを製造する際は、先ず、原料Sを筒状容器6の他端側から内部に入れた後に、この筒状容器6の他端をプラグ7で封止する。これにより、原料Sを入れた反応器5が密閉された状態となる。
【0027】
原料Sは、上述したガス供給設備のガス供給弁に用いられるシール材である。このシール材には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などのフッ素樹脂が用いられている。なお、本発明の製造方法では、上述したフッ素樹脂からなるシール材に限らず、このようなシール材に使用されるフッ素樹脂そのものを上記原料Sとして用いてもよい。本発明の製造方法では、このような取り扱いが容易なフッ素樹脂又はシール材を原料Sとして用いることができる。
【0028】
また、原料Sは、予め密閉された反応器5内で、真空ポンプ11による真空引きと窒素ガス置換とを繰り返すことによって、十分に脱水したものを用いることが好ましい。これは、原料Sに付着した水分(HO)によって後述するフッ化カルボニルが加水分解しフッ化水素が生成されるのを未然に防ぐためである。
【0029】
次に、ガス供給源1から反応器5及び捕集容器9に至る全ての配管2,4内と、反応器5及び捕集容器9内を真空ポンプ11により真空引きした後、バルブ10を閉じた状態で、ガス供給源1から酸素を導入し、反応器5及び捕集容器9内を大気圧程度の酸素で満たした状態とする。その後、ガス供給弁3及びバルブ8を閉じることによって、配管2内を高圧(ゲージ圧で5MPa以上)の酸素で満たした状態とする。これにより、反応器5内を水分の存在しない乾燥した酸素雰囲気下とすることができる。
【0030】
次に、ガス供給弁3を急速に開くことによって、配管2内の酸素を配管4を介して反応器5に導入する。このとき、配管4及び反応器5内で断熱圧縮された高温高圧の酸素によって、反応器5内の原料Sが燃焼することになる。また、原料Sが燃焼することによってガスが発生する。例えば、原料Sがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のシール材の場合には、このシール材の燃焼によって、四フッ化メタン(CF)、フッ化カルボニル(COF)といったハロゲン系ガスや、メタン(CH)、二酸化炭素(CO)などのガスが発生する。したがって、このような原料Sの燃焼成分(未燃焼成分を含む場合もある。)と酸素を含むガス(以下、燃焼ガスという。)が反応器5及び捕集容器9内を満たした状態となる。
【0031】
ここで、反応器5内の雰囲気は、原料Sの燃焼前は水分の存在しない乾燥した酸素存在下であり、原料Sの燃焼後も水(HO)が生成されることがないため、乾燥状態が維持されている。この場合、燃焼ガス中のフッ化カルボニル(COF)が加水分解することによるフッ化水素(HF)の発生を防ぐことができる。
【0032】
次に、ガス供給弁3を閉じた後、バルブ8を開くことによって、反応器5及び捕集容器9内の燃焼ガスが捕集容器9へと導入される。その後、バルブ8を閉じることによって、捕集容器9内に燃焼ガスを封入することができる。
【0033】
また、本発明の製造方法では、捕集容器9内の燃焼ガスをガス供給源1から供給される酸素で希釈することによって、上記検出器の校正に用いる校正ガスを得ることができる。すなわち、本発明の製造方法では、上述したように、燃焼ガス中に含まれるフッ化カルボニルが加水分解されることがないため、フッ化水素を実質的に含まないフッ化カルボニル検出用の校正ガスを得ることが可能である。
【0034】
得られた校正ガスは、フッ化カルボニルを検出する検知器の校正に用いる場合、フッ化カルボニルの濃度が5〜500ppmとなるまで酸素で希釈することが好ましい。なお、フッ化カルボニルの濃度は、フーリエ変換赤外分光高度計(FT−IR)によって測定することができる。
【0035】
以上のようにして、本発明の製造方法では、少なくともフッ化カルボニルを含み且つフッ化水素を実質的に含まない校正ガスを上述した簡便な方法によって安価に製造することが可能である。更に、この校正ガスを酸素で希釈することによって、検出器を校正するのに必要な既定濃度の校正ガスを容易に調製することが可能である。
【0036】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
具体的に、本発明は、上述した断熱圧縮によって原料Sを燃焼させる場合に限らず、原料Sを乾燥した雰囲気中で熱分解ないし酸素と反応させることによって上記校正ガスを得ることができる。
【0037】
例えば、本発明を適用した校正ガスの製造方法で用いられる別の製造装置を図3に示す。
この製造装置は、図3に示すように、配管4をガス供給弁3と反応器5との間で分岐させることなく、この配管4に一端が接続された反応器5の他端にバルブ8を介して捕集容器(耐圧容器)9を接続した以外は、図1に示す製造装置とほぼ同様の構成を有している。
【0038】
反応器5には、ある程度の耐圧性があればよく、上記筒状容器6よりも耐圧性が低い筒状容器6Aを用いることができる。この筒状容器6Aは、加熱可能とされており、真鍮などの熱伝導性の良い金属を用いて略円筒状に形成されている。なお、筒状容器6Aを加熱する方法については、反応器5内の原料Sが燃焼する温度まで加熱できる方法であれば、特に限定されるものではなく、例えばリボンヒータなどを筒状容器6Aに巻いて通電する方法などを用いることができる。また、この筒状容器6Aの他端は、原料Sを入れる必要があることから、この筒状容器6Aの内面にテーパー状のねじ山を形成し、コネクタなどによってバルブ8側の配管と着脱自在に接続することが可能となっている。
【0039】
以上のような構造を有する製造装置を用いて本発明の校正ガスを製造する際は、先ず、原料Sを筒状容器6Aの他端側から内部に入れた後に、この筒状容器6Aの他端にバルブ8側の配管を接続する。なお、原料Sは、予め密閉された反応器5内で、真空ポンプ11による真空引きと窒素ガス置換とを繰り返すことによって、十分に脱水したものを用いることが好ましい。
【0040】
次に、ガス供給源1から反応器5及び捕集容器9に至る全ての配管2,4内と、反応器5及び捕集容器9内を真空ポンプ11により真空引きした後、バルブ10を閉じた状態で、ガス供給源1から酸素を導入し、反応器5及び捕集容器9内を大気圧程度の酸素で満たした状態とする。これにより、反応器5内を水分の存在しない乾燥した酸素雰囲気下とすることができる。
【0041】
次に、ガス供給源1から酸素ガスを連続的に流通させながら、筒状容器6Aを加熱することによって、反応器5内の原料Sを燃焼させる。そして、原料Sの燃焼ガスは、捕集容器9へと導入される。その後、バルブ8を閉じることによって、捕集容器9内に燃焼ガスを封入することができる。
【0042】
そして、この製造方法では、捕集容器9内の燃焼ガスをフッ化カルボニルの濃度が5〜500ppmとなるまで酸素で希釈することによって、上記検出器の校正に用いる校正ガスを得ることができる。
【0043】
この製造方法の場合も、少なくともフッ化カルボニルを含み且つフッ化水素を実質的に含まない校正ガスを上述した簡便な方法によって安価に製造することが可能である。更に、この校正ガスを酸素で希釈することによって、検出器を校正するのに必要な既定濃度の校正ガスを容易に調製することが可能である。
【0044】
(容器入り校正ガス)
本発明では、上記製造方法により得られた校正ガスを上記捕集容器9に充填することによって、取り扱いが簡便な容器入り校正ガスを安価に提供することが可能である。耐圧容器としては、従来から高圧ガスの貯蔵・運搬に用いられる高圧ガス貯蔵容器(ボンベ)などを用いることができる。また、1MPa未満の低圧で良ければ、内容積が10リットル程度の流通式サンプラーを用いてもよい。
【0045】
なお、校正ガスは、フッ化水素、二酸化硫黄、オゾン、酢酸、硝酸、塩素、塩化水素、フッ素、臭化水素、ヨウ素といった不純物を含む場合、これらが検出器に反応して間違った測定値を与えてしまう虞がある。したがって、校正ガスが充填された耐圧容器には、このような不純物が混入しないようにする必要がある。
【0046】
(ガス検出器の校正方法)
本発明を適用した検出器の校正方法は、上記本発明の製造方法により得られた校正ガス又は上記容器入り校正ガスを用いて、検出器の校正を行うことを特徴とするものである。
【0047】
具体的に、上記容易器入り校正ガスを用いて、図4に示すフッ化カルボニルを検知するガス検知器20の校正を行う場合を例に挙げて説明する。
このガス検知器20には、捕集容器9からバルブ21を介して校正ガスが導入されると共に、校正用の酸素ガスがボンベ22からバルブ23を介して導入される仕組みとなっている。そして、このガス検知器20では、ゼロ校正にボンベ22から供給される酸素ガスを用い、その校正に捕集容器9から供給される校正ガスを用いることによって、フッ化カルボニルを検知するための校正を適切に行うことが可能である。
【0048】
なお、本発明を適用した検出器の校正方法は、上記フッ化カルボニルを検知するガス検知器20の校正に限らず、ガス測定器や、ガス計測器、ガス分析器などのフッ化カルボニルが検出可能な検出器において、その校正を適切に行うことが可能である。
また、ガス供給源からガス供給弁を介して圧縮ガスを供給する圧縮ガス供給設備としては、例えば特許文献2に示すような酸素などの圧縮ガスを複数の耐圧容器に充填するガス充填設備などを挙げることができる。そして、本発明は、このような設備のガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、本発明の校正ガスを用いることによって、検出器の校正を適切に行うことが可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0050】
(実施例1)
実施例1では、上記図1に示す製造装置を用いて、配管2に5〜25MPaの圧力(ゲージ圧)で酸素ガスを導入し、原料Sとして、成分及び形状の異なる3種類のフッ素樹脂からなる試料A,B,Cを用いて、それぞれ25回の燃焼試験を行い、酸素の圧力とシール材の発火頻度との関係について調べた。その測定結果を図5に示す。
【0051】
図5に示すように、本発明の校正ガスを得るためには、供給する酸素の圧力をゲージ圧力で5MPa以上にすることが好ましいことがわかった。
【0052】
(実施例2)
実施例2では、上記図1に示す製造装置を用いて、原料SであるPTFE製のシール材を断熱圧縮により燃焼させた場合の燃焼ガスの成分について測定した。具体的に、実施例2では、原料Sを入れた反応器5を密閉した後、真空ポンプ11による真空引きと窒素ガス置換とを繰り返して原料Sを十分脱水した。また、99.999%の高純度素酸素を用い、大気圧の状態でガス供給弁3を閉じた後、配管2内の圧力を20MPa(ゲージ圧)とし、ガス供給弁3を急速に開くことによって、断熱圧縮による原料Sの燃焼を行った。
【0053】
そして、実施例2で得られた燃焼ガスをFT−IRで測定したところ、フッ化カルボニルが300ppm、メタンが200ppm、四フッ化炭素が2000ppm、二酸化炭素が20000ppmという結果が得られた。また、フッ化水素は検出限界(0.2ppm)以下であり、測定されなかった。
【0054】
また、実施例2で得られた燃焼ガスを酸素で約50倍に希釈して校正ガスとし、この校正ガスを上記図4に示すガス検知器20に導入したところ、ガス検知器20の出力値が約5.5ppmを示し、このガス検知器20はレンジオーバーの警報を出力した。
【0055】
(比較例1)
比較例1では、原料Sとして、脱水を行わず、大気中に24時間以上放置したPTFE製のシール材を用いた以外は、上記実施例2と同様の方法によって、このシール材を断熱圧縮により燃焼させた場合の燃焼ガスの成分について測定した。
【0056】
そして、比較例1で得られた燃焼ガスをFT−IRで測定したところ、実施例2と同様に、フッ化カルボニルが300ppm、メタンが200ppm、四フッ化炭素が2000ppm、二酸化炭素が20000ppmという結果が得られたものの、フッ化水素が100ppm測定される結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明を適用した校正ガスの製造方法で用いられる製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す製造装置の反応器を拡大して示す断面図である。
【図3】図3は、本発明を適用した校正ガスの製造方法で用いられる製造装置の他例を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明を適用した検出器の校正方法を説明するための模式図である。
【図5】図5は、酸素の圧力とシール材の発火頻度との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0058】
1…ガス供給源 2…配管 3…ガス供給弁、4…配管、5…反応器、6,6A…筒状容器 7…プラグ 8…バルブ 9…捕集容器(耐圧容器) 10…バルブ 11…真空ポンプ 20…ガス検知器 21…バルブ 22…ボンベ 23…バルブ S…原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給源からガス供給弁を介して圧縮ガスを供給する圧縮ガス供給設備において、前記ガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、この検出器の校正に用いる校正ガスの製造方法であって、
前記シール材に使用されるフッ素樹脂又はフッ素樹脂からなるシール材を乾燥した雰囲気中で熱分解ないし酸素と反応させることによって、少なくともフッ化カルボニルを含み且つフッ化水素を実質的に含まない校正ガスを得ることを特徴とする校正ガスの製造方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂又はシール材を入れた反応器に酸素を含むガスを導入し、このガスを反応器内で断熱圧縮することによって、前記フッ素樹脂又はシール材を燃焼させることを特徴とする請求項1に記載の校正ガスの製造方法。
【請求項3】
前記反応器内に酸素を含むガスを5MPa以上の圧力で導入することを特徴とする請求項1又は2に記載の校正ガスの製造方法。
【請求項4】
前記フッ素樹脂又はシール材を入れた反応器に酸素を含むガスを導入し、この反応器を加熱することによって、前記フッ素樹脂又はシール材を燃焼させることを特徴とする請求項1に記載の校正ガスの製造方法。
【請求項5】
前記フッ素樹脂又はシール材を予め乾燥しておくことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の校正ガスの製造方法。
【請求項6】
前記得られた校正ガスを前記フッ化カルボニルの濃度が5〜500ppmとなるまで酸素で希釈することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の校正ガスの製造方法。
【請求項7】
ガス供給源からガス供給弁を介して圧縮ガスを供給する圧縮ガス供給設備において、前記ガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、この検出器の校正に用いる容器入り校正ガスであって、
前記請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法によって得られた校正ガスが耐圧容器に充填されてなることを特徴とする容器入り校正ガス。
【請求項8】
ガス供給源からガス供給弁を介して圧縮ガスを供給する圧縮ガス供給設備において、前記ガス供給弁のシール材から発生するガス成分を検出器で検出する際に、
前記請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法により得られた校正ガス又は前記請求項7に記載の容器入り校正ガスを用いて、前記検出器の校正を行うことを特徴とする検出器の校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−109226(P2009−109226A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279152(P2007−279152)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】