説明

校正機能を有する赤外顕微鏡及び赤外顕微鏡の校正方法

【課題】 信頼性の高い校正を実現可能にした校正機能を有する赤外顕微鏡及び赤外顕微鏡の校正方法を提供する。
【解決手段】 シリコン部材を透過して観察を行なう赤外光を照明光として用いる赤外顕微鏡であって、赤外光がシリコン部材を透過する際に発生する収差をあらかじめ補正した対物レンズ12と、この対物レンズ12の光軸上に配置される校正用基準サンプル11と、シリコン部材と等価な特性を有するシリコンチップ9と、このシリコンチップを対物レンズ12と校正用基準サンプル11との間の光路上で保持するシリコン保持具8とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン等の半導体基板を透過する赤外光を照明光として用いる校正機能を有する赤外顕微鏡及び赤外顕微鏡の校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、赤外顕微鏡として、特許文献1に開示されるように半導体チップの位置決めを行うものが知られている。図13は、かかる赤外顕微鏡の概略構成を示すもので、試料として半導体チップ101を搭載する試料台102の下方に透過照明光源としての赤外光源103を配置するとともに、試料台102の上方にCCDカメラ104を有する赤外顕微鏡部105を配置し、赤外光源103から半導体チップ101を透過した赤外光を赤外顕微鏡部105を介してCCDカメラ104で撮像し、画像情報としてモニタ106に表示するようにしている。
【0003】
この場合、モニタ106に表示される半導体チップ101の画像は、半導体チップ101の赤外光を透過しない例えばパターン部分が影となって表示されており、この画像情報を用いて半導体チップの位置決めが行われる。
【0004】
一方、赤外光源103を落射照明光源として用いたものでは、半導体チップ101の赤外光を透過しないパターン部分で反射された赤外光をCCDカメラ104で撮像し、この画像情報を用いるようにしている。
【0005】
さらに、このような赤外顕微鏡において、例えば半導体チップの裏面からの位置決め用途やチップの接合後の内部観察等に用いられるものとして、特許文献2や特許文献3に開示されるものも知られている。
【0006】
ところで、これら特許文献1〜3に開示されるものは、半導体チップ101のようなシリコン基板を有するものが観察対象となっており、このためシリコン基板を透過する赤外光を観察する場合、対物レンズの開口数NAが大きく、またシリコンの厚さ寸法が大きくなると、球面収差が発生することがある。
【0007】
このため、従来、特許文献4に開示されるように、球面収差を補正、もしくは調整可能に設計された対物レンズを使用したものが提案されている。
【特許文献1】特開平8-247744号公報
【特許文献2】特開平5−152401号公報
【特許文献3】特開2000−276233号公報
【特許文献4】特開2005-049363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、球面収差を補正、もしくは調整可能に設計された対物レンズは、シリコンを介さず観察すると、十分なレンズ性能を発揮できないという問題がある。また、このような赤外顕微鏡は、特に工業分野の測定用途等で用いられる場合、定期的な校正を行う必要がある。この場合も、対物レンズは、シリコン等の試料に合わせて球面収差補正もしくは調整可能とされているため、校正用基準サンプルをシリコンを介さず観察すると校正に必要な良好な画像を得ることができない。このため、シリコン基板上にパターンを形成して、校正用基準サンプルとして用いることが考えられるが、この場合、新規に校正用基準サンプルを製作する必要があり、さらに、トレーサビリティーを確保することが難しいという問題もある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、信頼性の高い校正を実現可能にした校正機能を有する赤外顕微鏡及び赤外顕微鏡の校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、シリコン部材を透過して観察を行なう、赤外光を照明光として用いる赤外顕微鏡において、前記赤外光が前記シリコン部材を透過する際に発生する収差を補正した対物レンズと、前記対物レンズの光軸上に配置される校正用基準サンプルと、前記シリコン部材と等価な特性を有する光透過部材と、前記光透過部材を前記対物レンズと前記校正用基準サンプルとの間の光路上で保持する保持手段とを具備したことを特徴としている。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記対物レンズは、前記シリコン部材を透過した際に発生する収差の補正量を調整可能にしたものであることを特徴としている。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記光透過部材は、前記対物レンズの設計時に想定された厚さ寸法のシリコンチップ又は前記収差に対して同等な影響を有するとともに、屈折率に応じて厚さを調整された光学部材からなることを特徴としている。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記シリコンチップ又は前記光学部材は、少なくとも一方の面に前記赤外光の反射防止処理が施されることを特徴としている。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記シリコン又は前記光学部材は、前記保持手段に固定されることを特徴としている。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記光透過部材は、前記保持手段に対して着脱可能であることを特徴としている。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記保持手段は、前記対物レンズもしくは前記校正用基準サンプルもしくは前記校正用基準サンプルを載置する手段に設けられることを特徴としている。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明において、前記赤外顕微鏡は、赤外共焦点顕微鏡であることを特徴としている。
【0018】
請求項9記載の発明は、シリコン部材を透過した観察を行なう、赤外光を照明光として用いる赤外顕微鏡の校正方法であって、前記赤外光が前記シリコン部材を透過する際に発生する収差をあらかじめ補正した対物レンズの光軸上に、前記シリコン部材と等価な光透過特性を有する光透過部材を保持した保持手段により前記光透過部材を配置させるステップと、前記光透過部材を介した光路上に校正用基準サンプルを配置するステップと、前記光透過部材を透過し前記対物レンズを介して取得される前記校正用基準サンプルの観察像に基づいて前記赤外顕微鏡の校正情報を得るステップとを具備したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特別な校正用基準サンプルを用意することなく、信頼性の高い校正を実現可能にした校正機能を有する赤外顕微鏡及び赤外顕微鏡の校正方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に従い説明する。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態が適用される反射タイプの赤外顕微鏡の概略構成を示している。図1において、1は赤外顕微鏡部で、この赤外顕微鏡部1は、対物レンズ2を有している。対物レンズ2先端に対応させて試料台3が配置されている。この試料台3は、例えば半導体チップのようなシリコン基板を有する試料4(又は校正用基準サンプル11)が載置されるもので、図示上下方向、つまりZ軸方向に移動可能になっている。
【0022】
赤外顕微鏡部1には、落射照明光源としての赤外光源5とCCDカメラ6が設けられている。赤外光源5は、所定波長域の赤外光を発するもので、この赤外光は、対物レンズ2を介して試料4(又は校正用基準サンプル11)に集光される。CCDカメラ6は、試料4(又は校正用基準サンプル11)から反射した赤外光を対物レンズ2及び赤外顕微鏡部1を介して撮像するものである。CCDカメラ6には、制御部7が接続されている。
【0023】
制御部7は、CCDカメラ6で撮像された画像から2次元情報を取得しモニタ71に表示させる。また、制御部7は、校正用基準サンプル11より取得される2次元情報について解析ソフト等を用いて予め用意された基準値(基準サンプルの公称値)と比較し、これらの比較結果から校正情報を求め、これを不図示の記憶手段に記憶する。この校正情報は、その後、試料4の撮像画像から取得される2次元情報を補正する際に用いられる。
【0024】
図2は、対物レンズ2について、さらに説明するためのものである。この場合、対物レンズ2は、試料4内のシリコンを透過した際に発生する収差(特に球面収差)を補正可能にしたもので、シリコンを透過可能な赤外波長に合わせて設計され、また、シリコンを透過した際に、レンズ性能が最も発揮されるようなシリコン厚補正が施されている。このとき、設計に用いられるシリコン(Si)の屈折率は、赤外光の波長が1300nmの場合、3.5程度となっている。また、一般的な半導体チップなどに用いられるシリコン基板の厚さは、100〜700μm程度であることから、この範囲の中心の値である、例えば400μm程度の厚さを設計の基準厚としている。ただし、用途に応じて、100μmや700μmを設計の基準厚としても構わない。また、対物レンズ2は、特にNAが大きなものでは、シリコン厚により球面収差量が大きくなることから、例えば、赤外共焦点顕微鏡のように、より高精度な性能が要求されるものでは、設計厚に対して±100μm程度に使用可能な範囲が限定される場合がある。
【0025】
このような対物レンズ2は、先端部に保持手段としてのシリコン保持具8が設けられる。このシリコン保持具8は、底部8bを有する円筒状本体8aからなり、さらに底部8bの中心部に透孔8cが形成されている。そして、このようなシリコン保持具8は、円筒状本体8aの中空部に対物レンズ2の先端部を嵌合した状態で、底部8bの面が対物レンズ2の光軸aに垂直な面に沿った方向にあって、さらに透孔8cに対物レンズ2の光軸aが通過するように配置される。
【0026】
シリコン保持具8内の底部8bの面上には、光透過部材として、前記試料4の有するシリコン基板と等価な特性を有するシリコンチップ9が載置されている。この場合、シリコンチップ9が載置される底部8b面は、シリコンチップ9が歪まないように平滑に加工されており、この平滑加工された面上にシリコンチップ9が着脱可能に載置される。また、シリコンチップ9は、両面研磨されるとともに、対物レンズ2の設計時に想定された厚さ寸法でダイシングされたものが用いられる。さらに、シリコンチップ9は、図3に示すように、両面に、赤外光の波長域に合わせて反射防止処理として反射防止コート9aが施されている。この反射防止コート9aは、一方の面のみでもよい。こうすることで、研磨されたシリコンチップ9の表面及び裏面での赤外光の反射による、光量ロスや干渉等を防止する。
【0027】
次に、対物レンズ2先端部へのシリコン保持具8の具体的な固定方法を説明する。
【0028】
図4では、シリコン保持具8の円筒状本体8aの底部8bに、透孔8cに連通した大径の透孔8dをさらに形成し、この透孔8dの開口周縁部に当て付け部8eを形成している。この当て付け部8eは、円筒状本体8aの中空部に対物レンズ2の先端部を嵌合した状態で、対物レンズ2の先端部端面2aが当接されるもので、この状態で、シリコン保持具8の取り付け位置決めを行なう。この場合、シリコンチップ9は、透孔8cと8dとの間に形成される段部8fに載置される。
【0029】
このようにすれば、対物レンズ2をシリコン保持具8の中空部に挿入し、先端部端面2aを円筒状本体8aの底部8bに形成された当て付け部8eに当接させることにより、シリコン保持具8の位置決めを行なうことができるので、シリコン保持具8を対物レンズ2に取付る際の傾きなどを防止し、安定した状態で固定することができる。
【0030】
図5は、シリコン保持具8の対物レンズ2への他の固定方法を示すもので、この場合、シリコン保持具8は、円筒状本体8aの側面にネジ穴8gが形成されている。ネジ穴8gには、固定ネジ10が設けられている。この固定ネジ10は、ネジ穴8gに螺装されるネジ本体10aと、このネジ本体10aの基端部に設けられたツマミ10bを有するもので、ツマミ10bを回し、ネジ本体10aのネジ穴8gへのねじ込み量を調整してネジ本体10a先端により対物レンズ2側面を押圧することによりシリコン保持具8を対物レンズ2に固定可能にしている。
【0031】
この場合、ネジ本体10aは、対物レンズ2側面に傷を付けないように、例えば樹脂などの比較的柔らかな部材により形成するようにしてもよい。
【0032】
このようにすれば、対物レンズ2の先端部をシリコン保持具8の中空部に挿入し、固定ネジ10のツマミ10bを回し、ネジ本体10aをネジ穴8gにねじ込むとともに、ネジ本体10a先端で対物レンズ2側面を押圧することによりシリコン保持具8を対物レンズ2に固定することができる。この場合、ツマミ10bを上述と反対方向に回し、ネジ本体10aのねじ込みを緩めることで、シリコン保持具8を対物レンズ2から簡単に取外すこともできる。
【0033】
図6は、シリコン保持具8の対物レンズ2へのさらに異なる固定方法を示すもので、この場合、対物レンズ2は、先端部周面にネジ部2bが形成されている。また、シリコン保持具8の円筒状本体8aの開口部内周面には、対物レンズ2側のネジ部2bに対応するネジ部8hが形成され、このネジ部8hを対物レンズ2側のネジ部2bにねじ込むことにより、シリコン保持具8を対物レンズ2先端部に固定可能にしている。
【0034】
このようにすれば、シリコン保持具8の円筒状本体8aの開口部内周面のネジ部8hを対物レンズ2の先端部周面にネジ部2bにねじ込むことにより対物レンズ2の先端部をシリコン保持具8の中空部に挿入した状態で固定することができる。この場合も、シリコン保持具8のねじ込みを緩めることで、シリコン保持具8を対物レンズ2から簡単に取外すこともできる。
なお、シリコン保持具8の対物レンズ2への固定は、上述した固定方法以外でもクリックを用いたり、保持具にすり割りを設け、締ヤトイ構造により固定する等の方法も可能である。
【0035】
次に、このように構成した対物レンズ2を用いて、実際の校正作業の手順を図7に示すフローチャートにしたがい説明する。
【0036】
まず、ステップ701で、シリコン保持具8の円筒状本体8aの底部8bにシリコンチップ9を搭載し、このようなシリコン保持具8を対物レンズ2に固定する。この場合、シリコン保持具8の固定方法は、上述した各種の方法がある。
【0037】
次に、ステップ702で、試料台3上に校正用基準サンプル11を載置する。この場合、校正用基準サンプル11は、校正用基準サンプル11の表面に例えば線状のCrパターン等が形成されたものが用いられる。また、校正用基準サンプル11は、赤外光を反射するものであれば、特に赤外顕微鏡用として用意したものでなく、一般の顕微鏡などの校正用基準サンプルも使用可能である。
【0038】
この場合、ステップ701とステップ702の順序は逆になっても問題ない。
【0039】
次に、ステップ703で、試料台3をZ軸方向に移動して校正用基準サンプル11の表面に焦点を合わせる。そして、ステップ704に進み、校正する項目に合わせる。例えば、倍率を校正する場合は、校正用基準サンプル11の2次元情報を取得する。この場合、赤外光源5からの赤外光が、赤外顕微鏡部1より対物レンズ2及びシリコンチップ9を透過して校正用基準サンプル11上に照射する。また、校正用基準サンプル11で反射した赤外光を、対物レンズ2及び赤外顕微鏡部1を介してCCDカメラ6により撮像する。
【0040】
この場合、対物レンズ2を透過した赤外光は、シリコンチップ9を透過して校正用基準サンプル11上に照射されるが、この状態で、対物レンズ2は、球面収差が設計上最も小さい値になっているので、CCDカメラ6より収差のない校正に必要な良好な画像を取得できる。
【0041】
次に、ステップ705で、制御部7によりCCDカメラ6で撮像された画像から校正用基準サンプル11上の線状パターンの線幅などの2次元情報を取得する。制御部7は、取得された2次元情報について解析ソフト等を用いて予め用意された基準値(基準サンプルの公称値)と比較し、これらの比較結果から赤外顕微鏡の校正情報を求め、この校正情報を不図示の記憶手段に記憶する。
【0042】
したがって、このようにすれば、シリコンを透過した際に発生する収差(球面収差)を補正するように設計された対物レンズ2に対し、シリコンチップ9を保持したシリコン保持具8を取付け、対物レンズ2よりシリコンチップ9を介して校正用基準サンプル11に赤外光を照射し、その反射光をCCDカメラ6により撮像するようにしたので、CCDカメラ6より収差のない校正に必要な良好な画像を取得でき、この画像に基づいた2次元情報から信頼性の高い校正情報を得ることができる。この場合、シリコンチップ9を保持したシリコン保持具8は、対物レンズ2に対して着脱可能とし、この着脱を容易にできるので、校正作業を簡単に行なうこともできる。また、校正作業に使用される校正用基準サンプル11として、特別なものを用意する必要がなく、一般に顕微鏡などの校正用基準サンプルを使用できるので、経済的にも有利にできる。さらに、シリコンチップ9は、少なくとも一方の面に反射防止コート9aが施されているので、シリコンチップ9面での反射による光量ロス、干渉を低減することができ、より精度の高い校正を実現可能となる。
【0043】
(変形例1)
上述した実施の形態では、倍率を校正する場合を述べたが、例えば、高さ測定値の校正をする場合にも適用できる。この場合、校正を行なう赤外顕微鏡として、赤外共焦点顕微鏡が対象となる。また、校正用基準サンプルとしは、3次元情報を取得するため図8に示すように表面に凹凸部19aを形成した基準段差サンプル19が使用される。この基準段差サンプル19には、例えばブロックゲージ段差サンプル等が用いられる。また、この基準段差サンプル19は、赤外光を反射するものであれば、特に赤外顕微鏡用に用意したものはなく、一般の顕微鏡用等の校正用基準サンプルが使用可能である。
【0044】
(変形例2)
上述した実施の形態では、シリコン保持具8内の底部8bの面上にシリコンチップ9を載せただけの構成としたが、例えば、図9に示すようにシリコン保持具8内の底部8bの面上にシリコンチップ9を接着時の応力変化が非常に小さいシリコン系接着剤20により固定することも可能である。このようにすると、シリコンチップ9がシリコン保持具8内に安定して保持されるので、シリコン保持具8の取り扱いがより容易となる。特に、シリコンチップ9が厚さが極めて薄いような場合に有効である。
【0045】
(変形例3)
上述した実施の形態では、シリコン保持具8を対物レンズ2の先端部に取付けるようにしたが、例えば、図10に示すようにシリコンチップ9を載置したシリコン保持具21を校正用基準サンプル11に固定できるようにしてもよい。この場合、シリコン保持具21は、開口部21aを有するシリコンチップ載置面21bの周縁に沿って突壁21cを有し、この突壁21c内に校正用基準サンプル11を固定し、対物レンズ2より照射される赤外光をシリコンチップ9及び開口部21aを介して校正用基準サンプル11に集光し、その反射光を開口部21a、シリコンチップ9を介して対物レンズ2に入射させるようにしている。
【0046】
また、例えば、図11に示すようにシリコンチップ9を載置したシリコン保持具22を校正用基準サンプル11を載置する試料台3上に配置するようにしてもよい。この場合、シリコン保持具22は、開口部22aを有するシリコンチップ載置面22bの周縁に沿って突壁22cを有し、この突壁22cの先端部を試料台3上に載置するとともに、突壁22c内に校正用基準サンプル11を配置させ、対物レンズ2より照射される赤外光をシリコンチップ9及び開口部22aを介して校正用基準サンプル11に集光し、その反射光を開口部22a、シリコンチップ9を介して対物レンズ2に入射させるようにしている。
【0047】
これらの構成とすれば、校正用基準サンプル11の装着が更に簡単にできるので、特に複数の対物レンズに対する校正を行うような場合に、作業が容易となる。
【0048】
(変形例4)
上述した実施の形態では、シリコンチップ9を使用したが、これに代わってガラス等の光学部材を用いてもよい。この時、ガラスの厚さは、単に屈折率の比率で簡易的に設定することも可能であるが、正確には、光学シミュレーション等により精密に設計される。このようなガラス等の光学部材を用いると、加工が容易なため、特に高精度な平面度などが必要な場合に有利であり、また、入手性にも優れている。
【0049】
なお、このようなガラス等の光学部材についても、シリコンチップ9と同様に赤外光の反射防止処理を施したり、シリコン保持具22に相当する保持具に接着固定したりすることができる。
【0050】
(変形例5)
上述した実施の形態では、予め球面収差の補正した対物レンズ2を使用した例を述べたが、例えば図12で示すように球面収差の補正量を調整可能とした対物レンズ23を使用することも可能である。この対物レンズ23は、補正環24を有していて、この補正環24を回すことにより対物レンズ23内部の不図示のレンズ群の間隔を調整し、球面収差の補正量を調整可能としたものである。この時、調整可能な範囲は、少なくともシリコン基板厚100〜700μmをカバーするように設計されており、調整量は対物レンズ23及び補正環24に付された目盛(不図示)にしたがって操作することで適正な位置に設定可能となっている。また、対物レンズ23は、特にNAが大きいものでは、シリコン厚により球面収差量が大きくなることから、例えば、前記赤外共焦点顕微鏡のように、より高精度な性能が要求されるものでは、設計厚に対して±100μm程度に使用可能な範囲が制限される場合がある。
【0051】
(変形例6)
上述した実施の形態では、赤外顕微鏡として、落射照明用の赤外光源5を使用した反射タイプのものを説明したが、透過照明用の赤外光源を使用した透過タイプのものであっても構わない。その場合、透過照明用の赤外光源からシリコンチップ9を透過して対物レンズ2に入射される赤外光の経路は片道となるため、対物レンズ2の設計及びシリコンチップ9の厚さなどを透過観察用に設計したものを使用する必要がある。また、校正用基準サンプル11は、透過観察に適したものが使用される。
【0052】
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、実施段階では、その要旨を変更しない範囲で種々変形することが可能である。
【0053】
さらに、上記実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示されている複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出できる。例えば、実施の形態に示されている全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題を解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施の形態が適用される赤外顕微鏡の概略構成を示す図。
【図2】第1の実施の形態に用いられる対物レンズの概略構成を示す図。
【図3】第1の実施の形態に用いられるシリコンチップの概略構成を示す図。
【図4】第1の実施の形態に用いられるシリコン保持具の概略構成を示す図。
【図5】第1の実施の形態に用いられる異なるシリコン保持具の概略構成を示す図。
【図6】第1の実施の形態に用いられるさらに異なるシリコン保持具の概略構成を示す図。
【図7】第1の実施の形態の動作を説明するためのフローチャート。
【図8】第1の実施の形態の変形例1に用いられる基準段差サンプルの概略構成を示す図。
【図9】第1の実施の形態の変形例2の概略構成を示す図。
【図10】第1の実施の形態の変形例3の概略構成を示す図。
【図11】第1の実施の形態の変形例3の概略構成を示す図。
【図12】第1の実施の形態の変形例5の概略構成を示す図。
【図13】従来の赤外顕微鏡の一例の概略構成を示す図。
【符号の説明】
【0055】
1…赤外顕微鏡部、2…対物レンズ
2a…先端部端面、2b…ネジ部
3…試料台、4…試料、5…赤外光源
6…CCDカメラ、7…制御部
71…モニタ、8…シリコン保持具
8a…円筒状本体、8b…底部
8c、8d…透孔、8f…段部、8g…ネジ穴
8h…ネジ部、9…シリコンチップ
9a…反射防止コート、10…固定ネジ
10a…ネジ本体、10b…ツマミ
11…校正用基準サンプル、11a…ガラス基板
19…基準段差サンプル、19a…凹凸部
20…シリコン系接着剤、21…シリコン保持具
21a…開口部、21b…シリコンチップ載置面
21c…突壁、22…シリコン保持具
22a…開口部、22b…シリコンチップ載置面
22c…突壁、23…対物レンズ、24…補正環

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン部材を透過して観察を行なう、赤外光を照明光として用いる赤外顕微鏡において、
前記赤外光が前記シリコン部材を透過する際に発生する収差を補正した対物レンズと、
前記対物レンズの光軸上に配置される校正用基準サンプルと、
前記シリコン部材と等価な特性を有する光透過部材と、
前記光透過部材を前記対物レンズと前記校正用基準サンプルとの間の光路上で保持する保持手段と
を具備したことを特徴とする校正機能を有する赤外顕微鏡。
【請求項2】
前記対物レンズは、前記シリコン部材を透過した際に発生する収差の補正量を調整可能にしたものであることを特徴とする請求項1記載の校正機能を有する赤外顕微鏡。
【請求項3】
前記光透過部材は、前記対物レンズの設計時に想定された厚さ寸法のシリコンチップ又は前記収差に対して同等な影響を有するとともに、屈折率に応じて厚さを調整された光学部材からなることを特徴とする請求項1記載の校正機能を有する赤外顕微鏡。
【請求項4】
前記シリコンチップ又は前記光学部材は、少なくとも一方の面に前記赤外光の反射防止処理が施されることを特徴とする請求項3記載の校正機能を有する赤外顕微鏡。
【請求項5】
前記シリコン又は前記光学部材は、前記保持手段に固定されることを特徴とする請求項3記載の校正機能を有する赤外顕微鏡。
【請求項6】
前記光透過部材は、前記保持手段に対して着脱可能であることを特徴とする請求項1記載の校正機能を有する赤外顕微鏡。
【請求項7】
前記保持手段は、前記対物レンズもしくは前記校正用基準サンプルもしくは前記校正用基準サンプルを載置する手段に設けられることを特徴とする請求項1に記載の校正機能を有する赤外顕微鏡。
【請求項8】
前記赤外顕微鏡は、赤外共焦点顕微鏡であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の校正機能を有する赤外顕微鏡。
【請求項9】
シリコン部材を透過した観察を行なう、赤外光を照明光として用いる赤外顕微鏡の校正方法であって、
前記赤外光が前記シリコン部材を透過する際に発生する収差を補正した対物レンズの光軸上に、前記シリコン部材と等価な特性を有する光透過部材を保持した保持手段により前記光透過部材を配置させるステップと、
前記光透過部材を介した光路上に校正用基準サンプルを配置するステップと、
前記光透過部材を透過し前記対物レンズを介して取得される前記校正用基準サンプルの観察像に基づいて前記赤外顕微鏡の校正情報を得るステップと
を具備したことを特徴とする赤外顕微鏡の校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−132743(P2007−132743A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324948(P2005−324948)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】