説明

核分裂生成物の分離材及びその製造方法、並びに該分離材を用いた核分裂生成物の分離方法

【課題】塩化物系電解質物質から核分裂生成物を確実に分離することが可能な分離材及びその製造方法、並びに該分離材を用いた核分裂生成物の分離方法を提供する。
【解決手段】使用済み核燃料の乾式再処理工程で生じる塩化物系電解質物質から核分裂生成物を分離させる分離材を、少なくともFe23およびP25を含み、且つFe2+/(Fe2++Fe3+)比が0.05〜0.45の範囲に調整された無機材料によって構成していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済み核燃料の乾式再処理工程で生じる塩化物系電解質物質から核分裂生成物を分離させる分離材及びその製造方法、並びに該分離材を用いた核分裂生成物の分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用済み核燃料の乾式再処理工程は、溶媒中である塩化物系の高温溶媒塩に使用済み核燃料を溶解し、電解処理することにより陰極に析出する電解析出物であるウランや超ウラン元素(TRU)を回収し、再処理製品としている。
【0003】
そして、上記工程においてウラン及びTRUが回収された使用済みの塩化物系電解質物質は、アクチノイド物質や核分裂生成物(FP)を含有しているために、高レベル放射性廃棄物(HLW)として廃棄される。
【0004】
このHLWは、液体状態でキャニスタに保管すると上記核分裂生成物が拡散する恐れがあるため、HLWとガラス原料(例えば、フツリン酸塩ガラス、鉄−鉛リン酸塩ガラス、鉄リン酸塩ガラス)とを混合して高温溶融することによりガラス固化体にしてキャニスタに保管されている。そして、このガラス固化体は、化学的に安定しているので、放射性物質を拡散することなく、HLWを長期間安定に閉じ込めておくことが可能である。なお、ガラス原料としては、フツリン酸塩ガラスおよび鉄−鉛リン酸塩ガラスは、環境基準上の有害物質であるフッ素や鉛を含有しているため、鉄リン酸塩ガラスがより好ましい。
【0005】
ところで、近年、廃棄物量の低減化や経済性の観点から、上記塩化物系電解質物質を再生利用するという取組みが成されている。
【0006】
そして、このような使用済みの塩化物系電解質物質の再生処理工程として、非特許文献1に記載のように、上記塩化物系電解質物質に残留するアクチノイド物質を還元・除去し、該塩化物系電解質物質をゼオライト(吸着材)を充填したカラムに通過させることにより、核分裂生成物を吸着・除去するものが検討されている。
【0007】
しかしながら、この再生処理工程では、核分裂生成物を吸着したゼオライトを安定化させるためにソーダライト固化体に転換する際、ゼオライト中の核分裂生成物が脱離する。これにより、この脱離した核分裂生成物を再度ゼオライトに吸着させて安定化させる必要があるため、最終的に核分裂生成物を安定化させたソーダライト固化体が大量に発生する。そのため、環境面や経済面に負荷を掛かるという問題点があった。
【0008】
そこで、上記問題を解決するために、本願発明者は、特許文献1に記載のように、上記塩化物系電解質物質中の核分裂生成物をリン酸塩に転換し沈殿させることにより、上記塩化物系電解質物質と核分裂生成物とを分離させる塩化物系電解質物質の再生処理方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−303934号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】乾式再処理技術開発における要素技術開発の現状No.24別冊(2004)、P166 サイクル機構 明珍宗孝 青瀬晋一
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の発明においては、ランタノイド系の塩(例えば、塩化ランタン等)はリン酸塩に転換することにより沈殿物として塩化物系電解質物質から分離するものの、リチウムを除くアルカリ金属或いはアルカリ土類金属系の塩(例えば、塩化セシウム、塩化ストロンチウム等)はリン酸塩に転換しても溶融塩として塩化物系電解質物質に残留するため、沈殿分離後に再度、該溶融塩を含有する塩化物系電解質物質を処理する必要があった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、塩化物系電解質物質から核分裂生成物を主成分とする塩を確実に分離することが可能な分離材及びその製造方法、並びに該分離材を用いた核分裂生成物の分離方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の分離材は、使用済み核燃料の乾式再処理工程で生じる塩化物系電解質物質から核分裂生成物を分離させる分離材であって、少なくともFe23およびP25を含み、且つFe2+/(Fe2++Fe3+)比が0.05〜0.45の範囲に調整された無機材料からなることを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項2に記載の分離材は、請求項1に記載の分離材において、上記無機材料がガラスであることを特徴とするものである。
【0015】
さらに、請求項3に記載の分離材の製造方法は、請求項1または請求項2に記載の分離材の製造方法であって、Fe23を含む原料とP25を含む原料とを混合して溶融し、且つ当該溶融時に、上記Fe23とP25との混合割合、溶融温度、溶融時間のいずれか1つ以上の条件を変化させて、上記Fe2+/(Fe2++Fe3+)比を0.05〜0.45の範囲に調整することにより上記Fe23およびP25を含む無機材料を得ることを特徴とするものである。
【0016】
そして、請求項4に記載の核分裂生成物の分離方法は、請求項1または請求項2に記載の分離材を用いた上記塩化物系電解質物質からの核分裂生成物の分離方法であって、上記塩化物系電解質物質にリン酸塩転換材を加えて溶融させた後に、該塩化物系電解質物質を上記分離材に接触させて、上記核分裂生成物を上記分離材に収着させることを特徴とするものである。
【0017】
そして、請求項5に記載の核分裂生成物の分離方法は、請求項4に記載の核分裂生成物の分離方法において、上記塩化物系電解質物質を接触させる際の上記分離材の温度を、その軟化点以下に保持することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の分離材によれば、少なくともFe23およびP25を含む無機材料は、作製時に高温に晒されて、Feの価数がFe3+からFe2+に還元されることにより、結合状態に変化が生じて他の元素を収着することが可能となる。
また、原子間の結合を担っている電子が外部からエネルギーを受け取り高い状態へ移り、結合の孔である正孔が生じることにより他の元素を収着することが可能となる。
さらに、網目修飾酸化物(例えばアルカリ金属系或いはアルカリ土類金属系の酸化物)を用いることにより、核分裂生成物とイオン交換が生じる。
これらにより、核分裂生成物を収着することが可能となり、この結果、塩化物系電解質物質から核分裂生成物を分離することが可能となる。
【0019】
さらに、上記無機材料は、Fe2+/(Fe2++Fe3+)比を0.05〜0.45の範囲に調整しているために、Fe2+/(Fe2++Fe3+)比に応じて、核分裂生成物の収着量を制御することが可能となる。この結果、複数の核分裂生成物の中で分離させたい核分裂生成物を適宜選択して収着させることが可能となる。なお、上記無機材料は、Fe2+/(Fe2++Fe3+)比が0.05未満になると十分な収着効果が得られなくなるとともに、0.45を超えるとガラス等の無機材料の作製が困難となるため、Fe2+/(Fe2++Fe3+)比を0.05〜0.45の範囲にすることが好ましい。
【0020】
そして、請求項2に記載の分離材によれば、少なくともFe23およびP25を含むガラス(無機材料)は、ガラス固化体に用いられるガラス原料であるため、核分裂生成物を収着させた後に、再溶解することによりガラス固化体にすることが可能となる。この結果、容易に上記核分裂生成物を長期間安定に保管可能なガラス固化体を作製することが可能となる。
【0021】
さらに、少なくともFe23およびP25を含むガラスは、核分裂生成物との反応によって結晶化が生じることにより、核分裂生成物を結晶へと取り込むことが可能となる。この結果、塩化物系電解質物質から核分裂生成物をより一層分離することが可能となっている。
【0022】
そして、請求項3に記載の分離材の製造方法によれば、Fe23を含む原料とP25を含む原料とを混合して溶融する際に、上記Fe23とP25との混合割合、溶融温度、溶融時間のいずれか1つ以上の条件を変化させて、上記Fe2+/(Fe2++Fe3+)比を0.05〜0.45の範囲に調整しているために、確実に核分裂生成物の収着量を制御することが可能であると共に、充分な収着効果を備え得た分離材を製造することが可能である。
【0023】
また、請求項4に記載の核分裂生成物の分離方法によれば、塩化物系電解質物質にリン酸塩転換材を加えて溶融させると、下記式1の反応が生じ、ランタノイド系の塩、リチウムを除くアルカリ金属系の塩及びアルカリ土類金属系の塩がリン酸塩となる。そして、ランタノイド系のリン酸塩は、沈殿物となって分離するために、核分裂生成物であるランタンを塩化物系電解質物質から分離することが可能である。
【0024】
(数1)
FPClZ+(z/3)Li3PO4→FP(PO4(z/3)+zLiCl
(FP:核分裂生成物、Li3PO4:リン酸塩転換材)
【0025】
一方、塩化物系電解質物質に溶融塩として溶解しているリチウムを除くアルカリ金属系及びアルカリ土類金属系のリン酸塩は、少なくともFe23およびP25を含む無機材料からなる分離材に接触することにより収着されるために、核分裂生成物であるストロンチウム及びセシウムを塩化物系電解質物質から分離することが可能である。この結果、効率的に塩化物系電解質物質から核分裂生成物を分離することが可能となるため、環境面及び経済面の負荷を低減することが可能となる。
【0026】
さらに、請求項5に記載の核分裂生成物の分離方法は、上記塩化物系電解質物質を接触させる際の上記分離材を、その軟化点以下に保持しているために、軟化により上記無機材料の結合状態が不安定となることがない。この結果、上記無機材料に核分裂生成物であるストロンチウム及びセシウムを確実に収着させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1における本発明に係る分離材のX線回析パターンの結果を示すグラフである。
【図2】実施例2における本発明に係る分離材のFeイオンのXANESスペクトルの結果を示すグラフである。
【図3】(a)は実施例3における本発明に係る分離材の57Feメスバウアースペクトルを示すグラフであり、(b)は実施例3における本発明に係る分離材の全鉄に対する2価鉄の比を示すグラフである。
【図4】本発明に係る分離材を用いた核分裂生成物の分離工程を示す説明図である。
【図5】実施例4における本発明に係る分離材のセシウムの収着率を示すグラフである。
【図6】実施例4における本発明に係る分離材のストロンチウムの収着率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る分離材は、Fe23およびP25を含む無機材料である鉄リン酸塩ガラスによって構成されているとともに、粒体状若しくは多孔質体状又は繊維体状に形成されている。
【0029】
そして、上記鉄リン酸塩ガラスは、Fe2+/(Fe2++Fe3+)比が0.05〜0.45の範囲に調整されている。
【0030】
以上の構成から成る分離材によれば、上記鉄リン酸塩ガラスは、作製時に高温に晒されて、Feの価数がFe3+からFe2+に還元されることにより、結合状態に変化が生じて他の元素を収着することが可能となる。
また、原子間の結合を担っている電子が外部からエネルギーを受け取り高い状態へ移り、結合の孔である正孔が生じることにより他の元素を収着することが可能となる。
さらに、網目修飾酸化物(例えばアルカリ金属系或いはアルカリ土類金属系の酸化物)を用いることにより、核分裂生成物とイオン交換が生じる。
これらにより、核分裂生成物を収着することが可能となり、この結果、塩化物系電解質物質から核分裂生成物を分離することが可能となる。
【0031】
さらに、上記鉄リン酸ガラスは、Fe2+/(Fe2++Fe3+)比を0.05〜0.45の範囲に調整しているため、Fe2+/(Fe2++Fe3+)比に応じて、核分裂生成物の収着量を制御することが可能となる。この結果、複数の核分裂生成物の中でも分離させたい核分裂生成物を適宜選択して収着させることが可能となる。
【0032】
また、鉄リン酸塩ガラスは、ガラス固化体に用いられるガラス原料であるために、核分裂生成物を収着させた後に、再溶解することにより
ガラス固化体にすることが可能となる。この結果、核分裂生成物を長期間安定に保管可能なガラス固化体を容易に作製することが可能となる。
【0033】
さらに、鉄リン酸塩ガラスは、核分裂生成物との化学反応によって結晶化が生じることにより、核分裂生成物を結晶へと取り込むことが可能となる。この結果、塩化物系電解質物質から核分裂生成物をより一層分離することが可能となる。
【0034】
なお、鉄リン酸塩を主成分とするセラミックスであっても核分裂生成物を収着することは可能である。ただし、鉄リン酸塩ガラスは、容易にガラス固化体にすることが可能であると共に、結晶化により一層核分裂生成物を分離することが可能であるため、より好適である。
【0035】
次に本発明に係る分離材の製造方法について説明する。
Fe23を含む酸化鉄とP25を含む正リン酸とを混合して溶融し、且つ当該溶融時に、上記Fe23とP35との混合割合、溶融温度、溶融時間のいずれか1つ以上の条件を変化させて、上記Fe2+/(Fe2++Fe3+)比を0.05〜0.45の範囲に調整することにより上記鉄リン酸塩ガラスを作製している。
【0036】
以上の構成から成る分離材の製造方法によれば、酸化鉄と正リン酸とを混合して溶融し、且つ当該溶融時に、上記Fe23とP35との混合割合、溶融温度、溶融時間のいずれか1つ以上の条件を変化させて、上記Fe2+/(Fe2++Fe3+)比を0.05〜0.45の範囲に調整することにより鉄リン酸塩ガラスを生成しているために、確実に核分裂生成物の収着量を制御することが可能であると共に、充分な収着効果を備えた分離材を製造することが可能となっている。
【0037】
次に本発明に係る分離材を用いた核分裂生成物の分離方法について説明する。
上記塩化物系電解質物質にリン酸塩転換材を加えて溶融させた後に、分離材を充填したカラムに該塩化物系電解質物質を通過させて、上記核分裂生成物を上記分離材に濾過・収着させる。この際、上記分離材の温度を、その軟化点以下に保持した。
【0038】
以上の構成から成る核分裂生成物の分離方法によれば、塩化物系電解質物質にリン酸塩転換材を加えて溶融させると、塩化物系電解質物質にリン酸塩転換材を加えて溶融させると、核分裂生成物のランタノイド系の塩、リチウムを除くアルカリ金属系の塩及びアルカリ土類金属系の塩がリン酸塩となる。そして、ランタノイド系のリン酸塩は沈殿物となり、上記分離材を充填したカラムに通過させることにより濾過される。この結果、核分裂生成物であるランタンを塩化物系電解質物質から分離することが可能である。
【0039】
一方、塩化物系電解質物質に溶融塩として溶解しているリチウムを除くアルカリ金属系及びアルカリ土類金属系のリン酸塩は、上記塩化物系電解質物質を上記分離材に通過させる際、上記分離材である鉄リン酸塩ガラスに接触することにより収着されるため、核分裂生成物であるストロンチウム及びセシウムを塩化物系電解質物質から分離することが可能である。この結果、効率的に塩化物系電解質物質から核分裂生成物を分離することが可能となるため、環境面及び経済面の負荷を低減することが可能となる。
【0040】
また、上記塩化物系電解質物質を接触させる際の上記分離材の温度を、その軟化点以下に保持したために、軟化により鉄リン酸塩ガラスの結合状態が不安定となることがない。この結果、鉄リン酸ガラスに核分裂生成物であるストロンチウム及びセシウムを確実に収着させることが可能となる。
【実施例1】
【0041】
実施例1においては、酸化鉄(III)(関東化学 試薬特級(純度99.0%以上))と正リン酸(キシダ化学 純度85%)とを白金ルツボに投入し、1373K、1473K、1573Kで各々1時間加熱溶解することにより鉄リン酸塩ガラスを作製し、その後、該鉄リン酸塩ガラスを粉砕・分級することにより、250μm〜425μmの粒体状の分離材を作製した。そして、鉄リン酸塩ガラスからなる上記分離材のX線回析パターンをX線回析装置を用いて測定した。
【0042】
図1は、各温度で加熱溶解して作製した鉄リン酸塩ガラスからなる分離材のX線回析パターンの結果を示すグラフである。そして、各温度で溶融した上記分離材の回析パターンを確認すると、回析ピークが全ての分離材において消失している。即ち、これは、非晶質特有のパターンを示しており、上記分離材は全てガラス化していることを示している。
【0043】
これにより、上記条件において酸化鉄(III)と正リン酸を混合し、溶解することにより鉄リン酸塩ガラスが生成されていることが実証された。
【実施例2】
【0044】
実施例2においては、実施例1で作製した鉄リン酸ガラスからなる分離材のXANESスペクトルをX線吸収分光装置(XAS)((株)チガク製)を用いて測定した。
【0045】
図2は、各温度で加熱溶融して作製した鉄リン酸ガラスからなる分離材のXANES(X−ray Abusorption Near Edge Structure)スペクトルの結果を示すグラフであり、XANESスペクトルは、価数が既知である標準試薬を一緒に測定し、そのスペクトルと比較することにより元素の価数を確認することができるものである。そして、各温度で溶融した上記分離材のXANESスペクトルを確認すると、全ての上記分離材のスペクトルのピークが、Feの価数が2価であるFeOのスペクトルと近似していることが確認できる。
【0046】
これにより、鉄リン酸塩ガラスは、作成時に、高温で溶融することにより、Feの価数がFe3+からFe2+へと変化していくことが実証された。
【実施例3】
【0047】
実施例3においては、実施例1で作製した鉄リン酸ガラスからなる分離材の57Feメスバウアースペクトルをメスバウアー分光器(ラボラトリーイクイップメントコーポレーション製)を用いて測定し、57Feメスバウアースペクトルの結果から全鉄に対する2価鉄の存在比を算出した。
【0048】
図3(a)は、各温度で加熱溶融して作製した鉄リン酸塩ガラスからなる分離材の57Feメスバウアースペクトルの結果を示すグラフである。そして、この得られたスペクトルに対し、ローレンツ関数による吸収線のカーブフィッティングを行ない、メスバウアーパラメータである異性体シフト異性体シフト及び四極分裂の値から価数、それぞれの吸収面積強度比から全鉄に対する2価鉄の存在比(Fe2+/(Fe2++Fe3+)比)を算出した。
【0049】
図3(b)は、上記57Feメスバウアースペクトルにより求められた全鉄に対する二価鉄の存在比(Fe2+/(Fe2++Fe3+)比)を示すグラフであり、1373Kの溶融温度で作製された鉄リン酸塩ガラスはFe2+/(Fe2++Fe3+)比が0.06、1473Kの溶融温度で作製された鉄リン酸塩ガラスはFe2+/(Fe2++Fe3+)比が0.12、1573Kの溶融温度で作製された鉄リン酸塩ガラスはFe2+/(Fe2++Fe3+)比が0.25となっていることが確認できる。
【0050】
これにより、上記鉄リン酸塩ガラスを作製する際、溶融温度を高くするほど、鉄リン酸ガラスのFe2+の存在比が大きくなることが実証された。
【実施例4】
【0051】
実施例4においては、図4に示す使用済みの塩化物系電解質物質の再生工程を想定して試験を行なった。先ず、使用済みの塩化物系電解質物質として、アルゴンガス雰囲気中で、LiCl−KCl共晶塩(Aldorich−APL製、純度99.99%)5gに0.003mol−Clとなるように模擬核分裂生成物(模擬FP)の塩化物である塩化セシウム(CsCl、高純度化学研究所製、純度99.9%)、塩化ストロンチウム(SrCl2、高純度化学研究所製、純度99%)及び塩化ランタン(LaCl3、高純度化学研究所製、純度99.9%以上)を添加して、模擬使用済み塩化物系電解質物質(LiCl−KCl−FPClZ)を準備した。
【0052】
次いで、使用済みの塩化物系電解質物質にリン酸塩転換材を加える工程においては、この模擬使用済み塩化物系電解質物質に化学量論量の3倍のリン酸塩転換材(Li3PO4)を加え、溶融温度を873Kに設定し、24時間溶融した。
【0053】
次いで、725K〜823Kの範囲内の任意の温度で、鉄リン酸塩ガラスの粒体を充填した濾過・収着筒を通過させる工程においては、上記模擬使用済み塩化物系電解質物質に、実施例1で作製した鉄リン酸塩ガラスからなる粒体状の分離材を0.5g投入し、723K、753K、773K、793K、813Kの処理温度で24時間溶融させて、塩化物系電解質物質に溶解している模擬FPであるセシウム、ストロンチウム及びランタンと鉄リン酸塩ガラスからなる分離材とを接触させた。
【0054】
この際、1373Kの溶融温度で作製された分離材の軟化点は858Kであり、1473Kの溶融温度で作製された分離材の軟化点は848Kであり、1573Kの溶融温度で作製された分離材の軟化点は846Kであった。この軟化点は、熱分析装置TG−DTA(リガク(株)製)を用いて測定した。そして、各々鉄リン酸塩ガラスのガラス組成は、Fe23成分が40mol%、P25成分が60mol%であった。
【0055】
その後、上記分離材を冷却固化して、6Lの水で洗浄し、分離材から模擬FPを主成分とするリン酸塩を除去した。そして、ICP発光分析装置ULTIMA2(Horiba Jobin Yvon製)を用いて、回収した洗浄液中のセシウム、ストロンチウム及びランタンの残留量を測定し、その残留量から分離材へのセシウム、ストロンチウム及びランタンの濾過・収着率を測定した。
【0056】
この結果、ランタンは、各溶融温度で作製した分離材を各処理温度で塩化物系電解質物質に24時間溶融させて模擬FPと上記分離材を接触させても、全てにおいて99.9%以上の濾過・収着率を得ることが確認された。これは、ランタンが、塩化物系電解質物質にリン酸塩転換材を導入した際に、略沈殿物として分離されることに起因している。
【0057】
一方、図5は、各溶融温度で作製した分離材を各処理温度で塩化物系電解質物質に24時間溶融させて模擬FPと上記分離材を接触させた際の分離材のセシウムの収着率を示すグラフである。
【0058】
これにより、セシウムの収着率は、20%〜40%と確実に分離材によってセシウムが収着されることが実証された。また、単独としては、813Kの処理温度で1373Kの溶融温度で作製した分離材を模擬FPに接触させた場合が最もセシウムを収着することが実証され、且つ全体的な傾向としては、1473Kの溶融温度で作製した分離材がより効果的にセシウムを収着することが可能となることが実証された。
【0059】
他方、図6は、各溶融温度で作製した分離材を各処理温度で塩化物系電解質物質に24時間溶融させて模擬FPと上記分離材を接触させた際の分離材ストロンチウムの収着率を示すグラフである。
【0060】
これにより、ストロンチウムの収着率は、20%〜40%と確実に分離材によってストロンリウムが収着されることが実証された。また、単独としては、723Kの処理温度で1373Kの溶融温度で作製した分離材を模擬FPに接触させた場合が最もストロンチウムを収着することが実証され、且つ全体的な傾向として、1473Kの溶融温度で作製した分離材の方がより効果的にストロンリウムを収着することが可能となることが実証された。
【0061】
以上のことから、鉄リン酸塩ガラスが模擬FPを濾過・収着し、模擬FPであるセシウム及びストロンチウムが鉄リン酸塩ガラスに収着することが可能であることを実証することができるとともに、濾過・収着筒を通過させる工程で、処理温度を変化させることにより、濾過・収着率を調整することが可能であることが実証された。
【0062】
さらに、分離材の作製時の溶融温度や処理温度を調整することにより、複数の核分裂生成物の中で分離させたい核分裂生成物を適宜選択して収着させることが可能であることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済み核燃料の乾式再処理工程で生じる塩化物系電解質物質から核分裂生成物を分離させる分離材であって、
少なくともFe23およびP25を含み、且つFe2+/(Fe2++Fe3+)比が0.05〜0.45の範囲に調整された無機材料からなることを特徴とする分離材。
【請求項2】
上記無機材料は、ガラスであることを特徴とする請求項1に記載の分離材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の分離材の製造方法であって、
Fe23を含む原料とP25を含む原料とを混合して溶融し、且つ当該溶融時に、上記Fe23とP25との混合割合、溶融温度、溶融時間のいずれか1つ以上の条件を変化させて、上記Fe2+/(Fe2++Fe3+)比を0.05〜0.45の範囲に調整することにより上記Fe23およびP25を含む無機材料を得ることを特徴とする分離材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の分離材を用いた上記塩化物系電解質物質からの核分裂生成物の分離方法であって、
上記塩化物系電解質物質にリン酸塩転換材を加えて溶融させた後に、該塩化物系電解質物質を上記分離材に接触させて、上記核分裂生成物を上記分離材に収着させることを特徴とする核分裂生成物の分離方法。
【請求項5】
上記塩化物系電解質物質を接触させる際の上記分離材の温度を、その軟化点以下に保持することを特徴とする請求項4に記載の核分裂生成物の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−13441(P2012−13441A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147692(P2010−147692)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月9日 社団法人日本原子力学会発行の「日本原子力学会 2010年 春の年会 予稿集」に発表
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)