核酸を標識するための方法および組成物
【課題】核酸を標識するための方法および組成物の提供。
【解決手段】本発明は、インビトロおよびインビボにおける核酸ポリマーの標識のための方法に関する。核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識に結合された試薬との間の[3+2]環化付加を含む特定の方法が提供される。核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識に結合された置換トリアリールホスフィンを含む試薬との間のシュタウディンガー・ライゲーション(Staudinger ligation)を含む他の方法が提供される。このような方法は、固定および変性は必要とせず、従って、生きている細胞におけるおよび生物体における、核酸ポリマーの標識に適用され得る。
【解決手段】本発明は、インビトロおよびインビボにおける核酸ポリマーの標識のための方法に関する。核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識に結合された試薬との間の[3+2]環化付加を含む特定の方法が提供される。核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識に結合された置換トリアリールホスフィンを含む試薬との間のシュタウディンガー・ライゲーション(Staudinger ligation)を含む他の方法が提供される。このような方法は、固定および変性は必要とせず、従って、生きている細胞におけるおよび生物体における、核酸ポリマーの標識に適用され得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本発明は、仮特許出願第60/730,745号(2005年10月27日出願、発明の名称「Mathods and Compositions for Labeling Nucleic Acids」)に対する優先権を主張する。この仮特許出願は、本明細書中でその全体が参考として援用される。
【0002】
(政府支援)
本明細書中に記載される研究の一部は、the National Institutes of Health(助成金番号GM029565)による資金援助を受けた。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
細胞分裂および細胞死は、多細胞生物体の適切な発達において、および組織の恒常性維持において中心的な役割を果たす。なかでも細胞増殖能力の損失または低下、および細胞死の調節不全は、加齢のプロセスを特徴付ける最も重要な現象である。(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。細胞増殖および細胞死の正常な制御の破壊はまた、以下を包含する多くの病理的な状態の背景である:ガン;感染性疾患、例えば、後天性免疫不全症候群(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7);血管障害、例えば、アテローム性動脈硬化症および高血圧(非特許文献8;非特許文献9);ならびに神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病(非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12)。
【0004】
細胞分裂の最も特徴的な生化学的な特徴は、細胞周期のS期の間にのみ本質的に生じるDNA合成である(非特許文献13)。従って、細胞周期、DNA合成および細胞増殖の研究のために最も一般に用いられる方法は、増殖している細胞の新規に合成されたDNAへの標識された生合成前駆体の組み込みに依存する(非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16)。これらの方法では、標識されたDNA前駆体(例えば、[3H]−チミジンまたは5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU))を複製の間に細胞に添加して、ゲノムDNAへのそれらの組み込みを、インキュベーションおよびサンプル調製後に定量する。組み込まれた[3H]−チミジンは一般に、オートラジオグラフィーによって検出される。組み込まれたBrdUの検出は、モノクローナル抗体のアクセスを可能にするサンプル変性後に免疫学的に行なわれ、次いで、得られたBrdU標識細胞をフローサイトメトリーまたは顕微鏡によって分析する。特定の組織の細胞増殖を研究するために、動物に標識したDNA前駆体を投与(例えば、注射)して、屠殺して、その組織を取り出して、顕微鏡分析のために固定する。
【0005】
[3H]−チミジンおよびBrdU組み込み標識方法は、細胞周期の動態学、DNA合成および姉妹染色分体交換を研究するために、ならびに種々の条件下での正常または病理的な細胞または組織の細胞増殖を評価するために有用であることが証明されているが、これらの方法はいくつかの限界を示している。[3H]−チミジン取り込みの最も注目すべき不利な点は、放射性活性を用いる合併症およびリスクから生じる。さらに、オートラジオグラフィーは労働集約的であって、時間浪費的である。さらに、両方の方法ともサンプル破壊的であるので、定量は所定の1時点でしか行うことができず、単一のサンプルを連続してモニタリングすることは不可能である。さらに、[3H]−チミジンオートラジオグラフィーとは対照的に、BrdU免疫組織化学は、化学量論的ではない(非特許文献17;非特許文献18)。従って、標識の強度または程度は、検出のために用いられる条件に高度に依存し、そしてDNA複製の大きさを反映する必要は無い。この理由のために、BrdU標識は、細胞分裂の指標として特に脆弱であり誤訳を行う(非特許文献19)。
【0006】
さらに最近では、[3H]−チミジンおよびBrdU取り込み方法に関連するいくつかの問題を解決する、安定な同位体質量分光測定技術が開発されている(非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25;非特許文献26)。この技術では、DNA複製におけるヌクレオチドのデオキシリボース部分は、安定な同位体2H−または13C−標識グルコースを用いることによるデノボ(新生)ヌクレオチド合成経路を通じて、内因的に標識される。次いで、DNAの同位体富化は、ゲノムDNAの単離、変性および加水分解、ならびに得られたデオキシリボヌクレオシドのTMS(トリメチルシリル)誘導体化後にガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)によって検出されかつ定量される。この方法は、ヒトでの使用に安全であることを含むいくつかの利点を有するが、これは、検出前のサンプルの長期かつ破壊的な処理に関与することを含む不利な点を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D.Montiら、Am.J.Clin.Nutr.,1992,55(補遺6):1208S〜1214S
【非特許文献2】H.R.Warnerら、J.Am.Geriatr.Soc,1997,45:1140〜1146
【非特許文献3】L.Ginaldiら、Immunol.Res.,2000,21:31〜38
【非特許文献4】J.C.Bentinら、J.Clin.Immunol.,1989,9:159〜168
【非特許文献5】R.A.Grutersら、Eur.J.Immunol.,1990,20:1039〜1044
【非特許文献6】L.Meyaardら、Science,1992,257:217〜119
【非特許文献7】A.Cayotaら、Clin.Exp.Immunol.,1992,88:478〜483
【非特許文献8】S.M.Schwartzら、Circ.Res.,1986,58:427〜444
【非特許文献9】A.RivardおよびV.Andres,Histol.Histopathol.,2000,15:557〜571
【非特許文献10】Z.Nagy,J.Neural Transm.補遺,1999,57:233〜245
【非特許文献11】A.K.Rainaら、Prog.Cell Cycle Res.,2000,4:235〜242
【非特許文献12】I.Vincentら、Prog.Cell Cycle Res.,2003,5:31〜41
【非特許文献13】S.Sawadaら、Mutat.Res.,1995,344:109〜116
【非特許文献14】M.BickおよびR.L.Davidson,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1974,71:2082〜2086
【非特許文献15】H.G.Gratzner,Science,1982,218:474〜475
【非特許文献16】F.M.Waldmanら、Mod.Pathol,1991,4:718〜722
【非特許文献17】R.S.Nowakowskiら、J.Neurocytol.,1989,18:311〜318
【非特許文献18】R.S.NowakowskiおよびN.L.Hayes,Science,2000,288:771
【非特許文献19】P.Rakic,Nature Rev.Neurosci,2002,3:56〜71
【非特許文献20】D.C.Macallanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1998,95:708〜713
【非特許文献21】M.K.Hellerstein,Immunol.Today,1999,20:438〜441
【非特許文献22】M.Hellersteinら、Nature Med.,1999,5:83〜89
【非特許文献23】J.M.McCuneら、J.Clin.Invest.,2000,105:R1−8
【非特許文献24】H.Mohriら、J.Exp.Med.,2001,94:1277〜1288
【非特許文献25】R.M.Ribeiroら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2002,99:15572〜15577
【非特許文献26】R.M.Ribeiroら、Bull.Math.Biol,2002,64:385〜405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
明らかに、細胞周期の動態、DNA合成および細胞増殖のインビトロおよびインビボにおける研究には、改良された核酸標識技術が依然として必要である。詳細には、簡易、迅速かつ鋭敏であり、過剰なサンプル調製を必要とせず、そして/またはサンプルの破壊を生じない技術の開発がやはり極めて望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、細胞分裂を研究するための改良されたシステムおよびストラテジーに関する。さらに詳細には、本発明は、核酸分子を標識するために、そして細胞増殖を測定するためにインビトロおよびインビボで有用な方法および組成物を提供する。詳細には、本発明の方法は、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと、標識を含む試薬との間の化学反応を包含し、このヌクレオチドアナログが第一の反応性基を含み、そしてこの試薬が第二の反応性基を含み、この第一の反応性基と第二の反応性基との間のこのような反応が核酸ポリマーの標識を生じる。このような方法は、標識されたサンプルの過剰な処理を必要としない。詳細には、多くの発明方法はサンプルの変性を必要としない。詳細には、本発明は、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識を含む試薬との間の[3+2]環化付加を含む核酸ポリマーを標識する方法、および核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識を含む試薬との間のシュタウディンガー・ライゲーション(Staudinger ligation)反応を包含する、核酸ポリマーを標識する方法を提供する。
【0010】
より詳細には、1局面では、本発明は、核酸ポリマーを標識する方法を提供し、この方法は、以下の工程:第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する工程と;核酸ポリマーと、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果、第一の不飽和基と第二の不飽和基との間で[3+2]環化付加が生じる工程と;を包含する。
【0011】
特定の実施形態では、上記第一の反応性不飽和基が1,3−双極子(dipole)を含み、かつ第二の反応性不飽和基が、親双極子(ダイポーラロフィル)(dipolarophile)を含む。他の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、親双極子を含み、かつこの第二の反応性不飽和基が、1,3−双極子を含む。ある実施形態では、この1,3−双極子はアジド基を含んでもよく、そしてこの親双極子はエチニル基を含んでもよい。
【0012】
特定の実施形態では、この標識は直接検出可能である。例えば、この標識は、蛍光剤を含む。他の実施形態では、この標識は間接的に検出可能である。例えば、この標識はハプテンを含む。
【0013】
標識されるべき核酸ポリマーは、細胞の内側にあっても、組織または生物体の中にあってもよい。
【0014】
特定の実施形態では、上記少なくとも1つのヌクレオチドアナログが、DNA複製またはDNA転写の間に核酸ポリマーに組み込まれる。
【0015】
特定の実施形態では、核酸ポリマーと試薬との接触の工程は、水性条件下で行われる。この接触は、Cu(I)の存在下で行われてもよい。あるいは、この接触は、Cu(I)の非存在下でCuキレート部分をさらに含む試薬と行われてもよい。
【0016】
別の局面では、本発明は、核酸ポリマーを二重に標識するための方法を提供する。本発明の方法は、以下の工程:第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログと、第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログとを含む核酸ポリマーを提供する工程と;核酸ポリマーと、第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬とを接触させて、その結果、この第一の不飽和基と第三の不飽和基との間で[3+2]環化付加が生じる工程と;この核酸ポリマーと、第二の標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第二および第四の不飽和基の間で生じる工程と;を包含する。
【0017】
特定の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、第一の1,3−双極子を含み、かつ第三の反応性不飽和基が、第一の親双極子を含む;この第二の反応性不飽和基は、第二の親双極子を含み、かつこの第四の反応性不飽和基が、第二の1,3−双極子を含む。
【0018】
他の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、第一の親双極子を含み、かつこの第三の反応性不飽和基は、第一の1,3−双極子を含む;この第二の反応性不飽和基は、第二の1,3−双極子を含み、かつ第四の反応性不飽和基が、第二の親双極子を含む。上記のとおり、1,3−双極子はアジド基を含んでもよく、そして親双極子はエチニル基を含んでもよい。
【0019】
特定の実施形態では、この第一の標識および第二の標識は直接検出可能である。いくつかのこのような実施形態では、この第一の標識は、第一の蛍光剤を含み、この第二の標識は、第二の蛍光剤を含み、そしてこの第一の蛍光剤および第二の蛍光剤は、励起の際に二重の色の蛍光を生じる。
【0020】
他の実施形態では、この第一の標識および第二の標識は間接的に検出可能である。例えば、この第一の標識は第一のハプテンを含み、そしてこの第二の標識は第二のハプテンを含む。
【0021】
上述されるとおり、二重に標識されるべき核酸ポリマーは、細胞の内側にあっても、組織または生物体の中にあってもよい;そしてこの第一のヌクレオチドアナログおよび第二のヌクレオチドアナログは、DNA複製またはDNA転写の間に核酸ポリマーに組み込まれてもよい。
【0022】
これらの発明の方法では、接触工程は、同時に行われてもまたは連続して行われてもよい。好ましくはこの接触工程は、水性条件下で行われる。
【0023】
別の局面では、本発明は、核酸ポリマーを示差的に標識するための方法を提供する。これらの発明の方法は、以下の工程:第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログを含む第一の核酸ポリマーを提供する工程と;第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二ヌクレオチドアナログを含む第二の核酸ポリマーを提供する工程と;この第一の核酸ポリマーと、第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬とを接触させて、その結果、この第一の不飽和基と第三の不飽和基との間で[3+2]環化付加が生じる工程と;この第二の核酸ポリマーと、第二の標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第二および第四の不飽和基の間で生じる工程と;を包含する。
【0024】
この第一の反応性の不飽和基および第二の反応性の不飽和基ならびに第一の標識および第二の標識は上記されるとおりであり得る。上記のとおり、接触の工程は同時であってもよいし、または連続であってもよい。
【0025】
特定の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは第一の細胞の内側にあり、そしてこの第二のポリマーは第二の細胞の内側にある。他の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは、第一の組織の内側にあり、そしてこの第二の核酸ポリマーは第二の組織の内側にある。さらに他の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは、第一の生物体の内側にあり、そしてこの第二のポリマーは第二の生物体の内側にある。
【0026】
別の局面では、本発明は、標識に結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する。好ましくは、この核酸ポリマーは、本明細書に開示される標識方法の1つによって調製される。
【0027】
特定の実施形態では、本発明の核酸ポリマーに組み込まれるヌクレオチドアナログは、環付加物、例えば、エチニル基とアジド基との間の[3+2]環化付加から生じる環付加物を含む。
【0028】
特定の実施形態では、この標識は、ヌクレオチドアナログに共有結合される。
【0029】
特定の実施形態では、この標識は直接検出可能である。例えば、この標識は、蛍光剤である。他の実施形態では、この標識は間接的に検出される。例えば、この標識はハプテンを含む。
【0030】
本発明はまた、二重に標識された核酸ポリマーを提供する。より詳細には、本発明は、第一の標識に対して結合された少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログおよび第二の標識に対して結合された少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する。好ましくは、このような核酸ポリマーは、本明細書に記載の二重標識方法によって調製される。
【0031】
特定の実施形態では、少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログは、第一のエチニル基と第一アジド基との間の[3+2]環化付加から生じる第一の環付加物を含み、そして少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログは、第二のエチニル基と第二のアジド基との間の[3+2]環化付加から生じる第二の環付加物を含む。
【0032】
特定の実施形態では、この第一の標識は、第一の蛍光剤を含み、この第二の標識は、第二の蛍光剤を含み、そしてこの第一の蛍光剤および第二の蛍光剤が、励起の際に二重蛍光を生じる。
【0033】
別の局面では、本発明は、1つ以上の本発明の標識されるかまたは二重標識される核酸ポリマーを含む細胞を提供する。
【0034】
さらに別の局面では、本発明は、以下を備える核酸ポリマーを標識するためのキットを提供する:第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つのヌクレオシドアナログ;および標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬。
【0035】
特定の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、1,3−双極子を含み、第二の反応性不飽和基は、親双極子を含み、そしてこの第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る。他の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、親双極子を含み、この第二の反応性不飽和基は、1,3−双極子を含み、そしてこの第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る。
【0036】
本発明はまた、核酸ポリマーを二重に標識するためのキットを提供し、このキットは以下を備える:第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオシドアナログ;第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオシドアナログ;第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬;および第二の試薬に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬。
【0037】
特定の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、第一の1,3−双極子を含み、この第三の反応性不飽和基は、第一の親双極子を含み、そしてこの第一の反応性不飽和基および第三の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る;第二の反応性不飽和基は、親双極子を含み、この第四の反応性不飽和基は、第二の1,3−双極子を含み、そしてこの第二および第四の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る。
【0038】
他の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、第一の親双極子を含み、この第三の反応性不飽和基は、第一の1,3−双極子を含み、そしてこの第一の反応性不飽和基および第三の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る;この第二の反応性不飽和基は、親双極子を含み、この第四の反応性不飽和基は、第二の1,3−双極子を含み、そしてこの第二および第四の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る。本発明のキットはさらに、水性媒体および/またはCu(I)を含んでもよい。
【0039】
さらに別の局面では、本発明は、細胞において、または生物体において、細胞増殖を測定するための方法を提供する。
【0040】
特定の本発明の方法は、以下の工程:細胞と、第一の反応性不飽和基を含むヌクレオシドアナログの有効量とを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログがこの細胞のDNAに組み込まれる工程と;この細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;このDNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程と;を包含する。この細胞は、マルチウェル・アッセイ・プレート中にあってもよい。
【0041】
本発明の他の方法は、以下の工程:生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与する工程であって、その結果このヌクレオシドアナログがこの生物体の細胞のDNAに組み込まれる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;このDNAに組み込まれた標識の量を決定して、この生物体における細胞増殖を測定する工程と;を包含する。
【0042】
この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基;これらの方法における標識および接触工程は上記のとおりであり得る。
【0043】
さらに別の局面では、本発明は、細胞において、または生物体において細胞増殖を混乱させる(perturb)因子を特定するための方法を提供する。
【0044】
本発明の特定の方法は、以下の工程:(a)細胞と試験因子とを接触させる工程と;(b)この細胞と、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログをこの細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;(d)このDNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が、細胞増殖の程度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、細胞が試験因子に接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子を細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含する。工程(b)は工程(a)の前に行われてもよい。
【0045】
本発明の他の方法は以下の工程:(a)生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;(b)この生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果このヌクレオシドアナログをこの生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基と第二の反応性不飽和基との間で生じる工程と;(d)DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、生物体が試験因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子をこの生物体における細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含する。工程(b)は工程(a)の前に行われてもよい。この接触工程はインビボで行われても、またはエキソビボで行われてもよい。
【0046】
細胞増殖を混乱させる因子を特定するための本発明の方法はさらに以下の工程:工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも多い場合、この試験因子を、細胞増殖を混乱させる因子として特定する工程;および/または工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも少ない場合、この試験因子を、細胞増殖を阻害する因子として特定する工程を包含してもよい。
【0047】
さらに、別の局面では、本発明は、核酸ポリマーを標識するための方法を提供し、この方法は、以下の工程:アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する工程と;核酸ポリマーと、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;を包含する。
【0048】
特定の実施形態では、トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つは、求電子性トラップとして作用する官能基、例えば、アルキルエステル(例えば、メチルエステル)で置換される。好ましくは、トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つは、リン原子に対してオルトであるアルキルエステルで誘導体化される。
【0049】
特定の実施形態では、この標識は直接検出可能である。例えば、この標識は、蛍光剤を含む。他の実施形態では、この標識は間接的に検出可能である。例えば、この標識はハプテンを含む。
【0050】
標識されるべき核酸ポリマーは、単離された核酸ポリマーであってもよいし、または細胞の内側にあっても、組織または生物体の中にあってもよい。
【0051】
特定の実施形態では(例えば、核酸ポリマーが細胞の内側にあるか、または生物体の中にある場合)、この少なくとも1つのヌクレオチドアナログは、DNA複製またはDNA転写の間に核酸ポリマーに組み込まれる。
【0052】
別の局面では、本発明は、核酸ポリマーを示差的に標識するための方法を提供する。これらの本発明の方法は以下の工程:第一のアジド基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログを含む第一の核酸ポリマーを提供する工程と;第二のアジド基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む第二の核酸ポリマーを提供する工程と;この第一の核酸ポリマーと、第一の置換トリアリールホスフィンに結合された第一の標識を含む第一の試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがこの第一のアジドと第一の置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;この第二の核酸ポリマーと、第二の置換トリアリールホスフィンに結合された第二の標識を含む第二の試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがこの第二のアジドと第二の置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;を包含する。
【0053】
特定の実施形態では、第一のトリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つおよび第二のトリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つは各々、求電子性トラップとして作用する官能基、例えば、アルキルエステル(例えば、メチルエステル)で置換される。好ましくは、第一のトリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つおよび第二のトリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つは各々、リン原子に対してオルトであるアルキルエステルで誘導体化される。
【0054】
特定の実施形態では、この第一の標識および第二の標識は直接検出可能である。このようないくつかの実施形態では、この第一の標識は、第一の蛍光剤を含み、この第二の標識は、第二の蛍光剤を含み、そしてこの第一の蛍光剤および第二の蛍光剤は、励起の際に二重蛍光を生じる。
【0055】
他の実施形態では、この第一の標識および第二の標識は間接的に検出可能である。例えば、この第一の標識は第一のハプテンを含み、そしてこの第二の標識は第二のハプテンを含む。
【0056】
これらの方法では、この接触工程は好ましくは、連続して行われる。
【0057】
特定の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは、第一の細胞の内側にあり、そしてこの第二の核酸ポリマーは、第二の細胞の内側にある。他の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは、第一の組織中にあり、そしてこの第二の核酸ポリマーは、第二の組織中にある。さらに他の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは、第一の生物体中にあり、そしてこの第二のポリマーは第二の生物体中にある。
【0058】
別の局面では、本発明は、標識に結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する。好ましくは、本発明の核酸ポリマーは、シュタウディンガー・ライゲーションを含む本明細書に開示される標識方法のうちの1つによって調製される。
【0059】
特定の実施形態では、この核酸ポリマーは、シュタウディンガー・ライゲーション反応から生じる、アミドおよびトリアリールホスフィンオキシドを通じて標識に結合されたヌクレオチドアナログを含む。
【0060】
特定の実施形態では、この標識は直接検出可能である。例えば、この標識は、蛍光剤を含む。他の実施形態では、この標識は間接的に検出可能である。例えば、この標識はハプテンを含む。
【0061】
さらに別の局面では、本発明は、核酸ポリマーを標識するためのキットを提供し、このキットは以下:アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオシドアナログと、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを備える。
【0062】
特定の実施形態では、このトリアリールホスフィンのアリール基の1つは、求電子性トラップとして作用する官能基、例えば、アルキルエステルで置換される。好ましくは、このアリール基のうちの1つは、リン原子に対してオルトであるアルキルエステルで誘導体化される。この標識は、直接検出可能であってもよいし(例えば、この標識が、蛍光剤を含む)、または間接的に検出可能であってもよい(例えば、この標識がハプテンを含む)。
【0063】
さらに別の局面では、本発明は、細胞において、または生物体において、細胞増殖を測定するための方法を提供する。
【0064】
特定の本発明の方法は、以下の工程:細胞と、アジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログをこの細胞のDNAに組み込ませる工程と;この細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果、このアジドとトリアリールホスフィンとの間でシュタウディンガー・ライゲーションが生じる工程と;DNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程とを包含する。この細胞は、マルチ−ウェルアッセイプレート中にあってもよい。
【0065】
他の本発明の方法は、以下の工程:生物体に対して、アジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果このヌクレオシドアナログをこの生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果このアジドとトリアリールホスフィンとの間でシュタウディンガー・ライゲーションを生じる工程と;このDNAに組み込まれた標識の量を決定して、この生物体における細胞増殖を測定する工程とを包含する。この接触工程は、インビボで行われてもまたはエキソビボで行われてもよい。
【0066】
これらの方法の特定の実施形態では、トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つが、求電子性トラップとして作用する官能基、例えば、アルキルエステルで置換される。好ましくは、このアリール基のうちの1つは、リン原子に対してオルトであるアルキルエステルで誘導体化される。この標識は、直接検出可能であってもよいし(例えば、この標識が、蛍光剤を含む)、または間接的に検出可能であってもよい(例えば、この標識がハプテンを含む)。
【0067】
さらに別の局面では、本発明は、細胞において、または生物体において、細胞増殖を混乱させる因子を特定するための方法を提供する。
【0068】
特定の本発明の方法は、以下の工程:(a)細胞と試験因子とを接触させる工程と;(b)この細胞と、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログをこの細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがアジドとトリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;(d)DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、細胞が試験因子と接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子を細胞増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含する。特定の実施形態では、工程(b)は工程(a)の前に行われる。
【0069】
他の本発明の方法は以下の工程:(a)ある生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;(b)この生物体に対して、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果このヌクレオシドアナログをこの生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この生物体の少なくとも1つの細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがこのアジドとトリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;(d)このDNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、生物体が試験因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子をこの生物体において細胞増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含する。本発明の特定の実施形態では、工程(b)は工程(a)の前に行われる。この接触工程はインビボで行われてもまたはエキソビボで行われてもよい。
【0070】
細胞増殖を混乱させる試験因子を特定するための本発明の方法はさらに、工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも多い場合、この試験因子を、細胞増殖を誘導させる因子として特定する工程;および/または工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも少ない場合、この試験因子を、細胞増殖を阻害させる因子として特定する工程を包含し得る。
【0071】
本発明のこれらのおよび他の目的、利点および特徴は、以下の詳細な説明を読めば当業者に理解される。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
核酸ポリマーを標識する方法であって、以下の工程:
第一の反応性基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する工程と;
該核酸ポリマーと、標識および第二の反応性基を含む試薬とを接触させて、その結果反応が該第一の反応性基と該第二の反応性基との間で生じて、該核酸ポリマーの標識が生じる工程と;
を包含する、方法。
(項目2)
核酸ポリマーを標識する方法であって、以下の工程:
アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する工程と;
該核酸ポリマーと、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該アジドと該置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
を包含する、方法。
(項目3)
前記トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つがアルキルエステルで置換される、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記アルキルエステルが、前記トリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つがメチルエステルで置換される、項目3に記載の方法。
(項目6)
前記標識が直接検出可能である、項目3に記載の方法。
(項目7)
前記標識が蛍光剤である、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記標識が間接的に検出可能である、項目3に記載の方法。
(項目9)
前記標識がハプテンを含む、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記核酸ポリマーが細胞の内側にあるか、または生物体の中にある、項目3に記載の方法。
(項目11)
前記少なくとも1つのヌクレオチドアナログが、DNA複製の間に前記核酸ポリマーに組み込まれる、項目10に記載の方法。
(項目12)
核酸ポリマーを示差的に標識する方法であって、以下の工程:
第一のアジド基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログを含む第一の核酸ポリマーを提供する工程と;
第二のアジド基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む第二の核酸ポリマーを提供する工程と;
該第一の核酸ポリマーと、第一の置換されたトリアリールホスフィンに結合された第一の標識を含む第一の試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該第一のアジドと該第一の置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
該第二の核酸ポリマーと、第二の置換されたトリアリールホスフィンに結合された第二の標識を含む第二の試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該第二のアジドと該第二の置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
を包含する、方法。
(項目13)
前記第一のトリアリールホスフィンのアリール基の1つが、アルキルエステルで置換され、そして前記第二のトリアリールホスフィンのアリール基の1つがアルキルエステルで置換される、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記第一のトリアリールホスフィン上の前記アルキルエステルが、前記第一のトリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトであり、かつ前記第二のトリアリールホスフィン上の前記アルキルエステルが、前記第二のトリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記第一の標識および前記第二の標識が直接検出可能である、項目12に記載の方法。
(項目16)
前記第一の標識が、第一の蛍光剤を含み、前記第二の標識が第二の蛍光剤を含み、かつ該第一の蛍光剤および該第二の蛍光剤が励起の際に二重色蛍光を生じる、項目13に記載の方法。
(項目17)
前記第一の標識および前記第二の標識が間接的に検出可能である、項目12に記載の方法。
(項目18)
前記第一の標識が第一のハプテンを含み、かつ前記第二の標識が第二のハプテンを含む、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記第一の核酸ポリマーが第一の細胞の内側にあり、かつ前記第二の核酸ポリマーが第二の細胞の内側にある、項目12に記載の方法。
(項目20)
前記第一の核酸ポリマーが第一の生物体の内側にあり、かつ前記第二の核酸ポリマーが第二の生物体の内側にある、項目12に記載の方法。
(項目21)
前記少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログが、DNA複製の間に前記第一の核酸ポリマーに組み込まれ、かつ前記少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログが、DNA複製の間に前記第二の核酸ポリマーに組み込まれる、項目19または20に記載の方法。
(項目22)
標識に結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーであって、該核酸ポリマーが項目2に記載の方法によって調製される、核酸ポリマー。
(項目23)
項目22に記載の核酸ポリマーを含む細胞。
(項目24)
核酸ポリマーを標識するためのキットであって:
アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオシドアナログと;
第一の置換されたトリアリールホスフィンに結合された第一の標識を含む第一の試薬と、を備える、キット。
(項目25)
前記第一のトリアリールホスフィンのアリール基の1つがアルキルエステルで置換される、項目24に記載のキット。
(項目26)
前記アルキルエステルが、前記第一のトリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目25に記載のキット。
(項目27)
前記第一の標識が直接検出可能である、項目24に記載のキット。
(項目28)
前記第一の標識が蛍光剤である、項目27に記載のキット。
(項目29)
前記第一の標識が間接的に検出可能である、項目24に記載のキット。
(項目30)
前記第一の標識がハプテンを含む、項目29に記載のキット。
(項目31)
第二の置換されたトリアリールホスフィンに結合された第二の標識を含む第二の試薬をさらに含む、項目24に記載のキット。
(項目32)
前記第二のトリアリールホスフィンのアリール基の1つがアルキルエステルで置換される、項目31に記載のキット。
(項目33)
前記アルキルエステルが、前記第二のトリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目32に記載のキット。
(項目34)
前記第一の標識および前記第二の標識が直接検出可能である、項目31に記載のキット。
(項目35)
前記第一の標識が、第一の蛍光剤を含み、前記第二の標識が第二の蛍光剤を含み、かつ該第一の蛍光剤および該第二の蛍光剤が励起の際に二重色蛍光を生じる、項目34に記載のキット。
(項目36)
前記第一の標識および前記第二の標識が間接的に検出可能である、項目31に記載のキット。
(項目37)
前記第一の標識が第一のハプテンを含み、かつ前記第二の標識が第二のハプテンを含む、項目36に記載のキット。
(項目38)
細胞増殖を測定する方法であって、以下の工程:
細胞と第一のアジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果該ヌクレオシドアナログが該細胞のDNAに組み込まれる工程と;
該細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該アジドと該置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
該DNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程と;
を包含する、方法。
(項目39)
細胞増殖を測定する方法であって、以下の工程:
生物体に対して、アジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果該ヌクレオシドアナログが該生物体の細胞のDNAに組み込まれる工程と;
該生物体の少なくとも1つの細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該アジドと該置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
該少なくとも1つの細胞のDNAに組み込まれた標識の量を決定して、該生物体における細胞増殖を測定する工程と;
を包含する、方法。
(項目40)
前記トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つがアルキルエステルで置換される、項目38または39に記載の方法。
(項目41)
前記アルキルエステルが、前記トリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記標識が直接検出可能である、項目38または39に記載の方法。
(項目43)
前記標識が蛍光剤を含む、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記標識が間接的に検出可能である、項目38または39に記載の方法。
(項目45)
前記標識がハプテンを含む、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記細胞が、マルチ−ウェルプレート中にある、項目38に記載の方法。
(項目47)
細胞増殖を混乱させる因子を特定するための方法であって、以下の工程:
(a)細胞と試験因子とを接触させる工程と;
(b)該細胞と、アジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果該ヌクレオシドアナログを該細胞のDNAに組み込ませる工程と;
(c)該細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該アジドと該置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
(d)該DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、該標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;
(e)工程(d)で測定される標識の量が、該細胞が該試験因子と接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、該試験因子を細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;
を包含する、方法。
(項目48)
前記工程(b)が工程(a)の前に行われる、項目47に記載の方法。
(項目49)
項目47に記載の方法であって、工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも大きい場合、該試験因子を細胞増殖を誘導する因子として特定する工程をさらに包含する、方法。
(項目50)
項目47に記載の方法であって、工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも小さい場合、該試験因子を細胞増殖を阻害する因子として特定する工程をさらに包含する、方法。
(項目51)
前記トリアリールホスフィンのアリール基の1つがアルキルエステルで置換される、項目47に記載の方法。
(項目52)
前記アルキルエステルが、前記トリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記標識が直接検出可能である、項目47に記載の方法。
(項目54)
前記標識が蛍光剤を含む、項目53に記載の方法。
(項目55)
前記標識が間接的に検出可能である、項目47に記載の方法。
(項目56)
前記標識がハプテンを含む、項目55に記載の方法。
(項目57)
前記細胞が、マルチ−ウェルプレート中にある、項目47に記載の方法。
(項目58)
生物体中で細胞増殖を混乱させる因子を特定するための方法であって、以下の工程:
(a)生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;
(b)該生物体に対して、アジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果該ヌクレオシドアナログを該生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;
(c)該生物体の少なくとも1つの細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該アジドと該置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
(d)該DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、該標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;
(e)前記工程(d)で測定される標識の量が、該生物体が候補因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、前記試験因子を前記生物体における細胞増殖を混乱させる因子として特定する工程と;
を包含する、方法。
(項目59)
前記工程(b)が工程(a)の前に行われる、項目58に記載の方法。
(項目60)
項目58に記載の方法であって、前記工程(d)で測定される標識の量が、前記コントロールの適用において測定される標識の量よりも大きい場合、前記試験因子を生物体中において細胞増殖を誘導する因子として特定する工程をさらに包含する、方法。
(項目61)
項目58に記載の方法であって、前記工程(d)で測定される標識の量が、前記コントロールの適用において測定される標識の量よりも小さい場合、前記試験因子を前記生物体における細胞増殖を阻害する因子として特定する工程をさらに包含する、方法。
(項目62)
前記トリアリールホスフィンのアリール基がアルキルエステルで置換される、項目58に記載の方法。
(項目63)
前記アルキルエステルが、前記トリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目62に記載の方法。
(項目64)
前記標識が直接検出可能である、項目58に記載の方法。
(項目65)
前記標識が蛍光剤を含む、項目64に記載の方法。
(項目66)
前記標識が間接的に検出可能である、項目58に記載の方法。
(項目67)
前記標識がハプテンを含む、項目66に記載の方法。
(項目68)
試薬と接触する前記工程が、インビトロまたはエキソビボで行なわれる、項目58に記載の方法。
(項目69)
核酸ポリマーを標識する方法であって、以下の工程:
第一の反応性の不飽和基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する工程と;
該核酸ポリマーと標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の不飽和基および該第二の不飽和基の間で生じる工程と;
を包含する、方法。
(項目70)
前記第一の反応性不飽和基が1,3−双極子を含み、かつ前記第二の反応性不飽和基が、親双極子を含むか、または該第一の反応性不飽和基が親双極子を含み、かつ該第二の反応性不飽和基が、1,3−双極子を含む、項目69に記載の方法。
(項目71)
前記1,3−双極子がアジド基を含み、かつ前記親双極子がエチニル結合を含む、項目70に記載の方法。
(項目72)
前記標識が直接検出可能である、項目69に記載の方法。
(項目73)
前記標識が蛍光剤を含む、項目72に記載の方法。
(項目74)
前記標識が間接的に検出可能である、項目69に記載の方法。
(項目75)
前記標識がハプテンを含む、項目74に記載の方法。
(項目76)
前記核酸ポリマーが細胞の内側にあるか、または生物体の内側にある、項目69に記載の方法。
(項目77)
前記少なくとも1つのヌクレオチドアナログが、DNA複製の間に前記核酸ポリマーに組み込まれる、項目76に記載の方法。
(項目78)
前記接触工程が、Cu(I)の存在下における水性条件下で行われる、項目69に記載の方法。
(項目79)
前記接触工程が、Cu(I)の非存在下における水性条件下で行われ、かつ前記試薬がCuキレート部分をさらに含む、項目77に記載の方法。
(項目80)
核酸ポリマーを標識する方法であって、以下の工程:
第一の反応性の不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログを含む第一の核酸ポリマーを提供する工程と;
第二の反応性の不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む第二の核酸ポリマーを提供する工程と;
該第一の核酸ポリマーと、第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の不飽和基および第三の不飽和基の間で生じる工程と;
該第二の核酸ポリマーと第二の標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第二および第四の不飽和基の間で生じる工程と;
を包含する、方法。
(項目81)
前記第一の核酸ポリマーおよび前記第二の核酸ポリマーが同じ分子であり、かつ該第一の標識が、第一の蛍光剤を含み、該第二の標識が、第二の蛍光剤を含み、かつ該第一の蛍光剤および該第二の蛍光剤が、励起の際に二重色蛍光を生じる、項目80に記載の方法。
(項目82)
標識に対して結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーであって、該核酸ポリマーが項目69に記載の方法によって調製される、核酸ポリマー。
(項目83)
第一の標識に対して結合された少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログと、第二の標識に対して結合された少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログとを含む核酸ポリマーであって、該核酸ポリマーが項目81に記載の方法によって調製される、核酸ポリマー。
(項目84)
項目82または83に記載の核酸ポリマーを含む細胞。
(項目85)
核酸ポリマーを標識するためのキットであって:
第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオシドアナログと;
標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一試薬であって、その結果該第一の反応性不飽和基および該第二の反応性不飽和基が[3+2]環化付加を介して反応し得る、少なくとも1つの第一試薬と;
をさらに備える、キット。
(項目86)
項目84に記載のキットであって:
第三の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオシドアナログと;
標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二試薬であって、その結果該第三および第四の反応性不飽和基が[3+2]環化付加を介して反応し得る、少なくとも1つの第二試薬と;
を備える、キット。
(項目87)
細胞増殖を測定する方法であって、以下の工程:
細胞と第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果該ヌクレオシドアナログが該細胞のDNAに組み込まれる工程と;
該細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の反応性不飽和基および該第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;
該DNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程と;
を包含する、方法。
(項目88)
生物体中の細胞増殖を測定する方法であって、以下の工程:
生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与する工程であって、その結果該ヌクレオシドアナログが該生物体の細胞のDNAに組み込まれる工程と;
該生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の反応性不飽和基および該第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;
該DNAに組み込まれた標識の量を決定して、該生物体における細胞増殖を測定する工程と;
を包含する、方法。
(項目89)
細胞増殖を混乱させる因子を特定するための方法であって、以下の工程:
(a)細胞と試験因子とを接触させる工程と;
(b)該細胞と、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果該ヌクレオシドアナログを該細胞のDNAに組み込ませる工程と;
(c)該細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の反応性不飽和基と該第二の反応性不飽和基との間で生じる工程と;
(d)該DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、該標識量が、細胞増殖の程度を示す工程と;
(e)工程(d)で測定される標識の量が、該細胞が該試験因子に接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、該試験因子を細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;
を包含する、方法。
(項目90)
生物体中で細胞増殖を混乱させる因子を特定するための方法であって、以下の工程:
(a)生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;
(b)該生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果該ヌクレオシドアナログを該生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;
(c)該生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の反応性不飽和基と該第二の反応性不飽和基との間で生じる工程と;
(d)該DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、該標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;
(e)該工程(d)で測定される標識の量が、該生物体が候補因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、該試験因子を該生物体における細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;
を包含する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、(A)当該分野で公知のBrdUを用いるDNA標識、および(B)本発明の方法を用いるDNA標識であって、DNA複製によるヌクレオシドアナログEdU(すなわち、エチニル−dU)のDNAへの組み込み、続いてCu(I)の存在下におけるエチニル基とアジド試薬との間の[3+2]環化付加を含むDNA標識を示す2つのスキームを示している。
【図2】図2は、本発明に従う2色DNA標識の例を示すスキームを示す。
【図3】図3は、本発明に従うDABフォトコンバージョン(photoconversion)の例を示すスキームを示す。
【図4】図4は、未反応染色試薬(すなわち、発蛍光団−アジド(fluorophore−azide))からの非特異的な(すなわち、バックグラウンドの)シグナルをクエンチするための本発明の方法を例示するスキームを示す。
【図5】図5は、実施例2に記載のとおり、(A)XRhodamine−アジドで染色したEdU未標識HeLa細胞、および(B)XRhodamine−アジドで染色したEdU標識細胞、の蛍光顕微鏡によって得られた2つの画像を示す。
【図6】図6は、経時的蛍光顕微鏡画像のセットを示しており、これは生きた細胞上の染色反応を時間の関数として示す。EdU標識された細胞の染色は、実施例3に記載されるように、細胞透過性TMR−アジドを用いて行った。画像上の時間の表示は分:秒で示す。
【図7】図7は、図6に示される画像で測定されたとおり経時的にプロットされたDNA染色強度を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例4に記載されるとおり標識されたマウスの腸を通る切片の蛍光顕微鏡画像(高倍率)を示す。赤い核を有する細胞は、EdUを組み込む細胞およびそれらの子孫である。DNAは青でみられる(Hoechst)。
【図9】図9は、実施例4に記載されるように標識されたマウス腸を通る切片の蛍光顕微鏡画像(低倍率)を示す。DNAは緑でみられる。赤は、EdUを組み込む細胞およびそれらの子孫を示す。この図で示される対象物は、腸を通る全体的な斜め断面−約5ミリメートル長である。
【図10】図10は、実施例4に記載されるように標識されたマウス脳を通る切片の蛍光顕微鏡画像を示す。単独のEdU標識細胞が、この脳切片で容易に同定され得る(脳の細胞は、極めて増殖性である腸の細胞とは異なりほとんど決して分裂しない)。
【図11】EdUで標識された2つの細胞の高解像画像の2セットを示す。左側の画像(A)および(B)は、全ての細胞性DNAを染色する色素であるOliGreenで染色されたEdU標識細胞を示す。右側の画像(C)および(D)は、Xrhodamine−アジドで染色されたEdU標識細胞を示す。上の画像は静止期の細胞を示すが、下の画像は分裂後期の細胞を示す。
【図12】図12は、染色体を形成する2つのDNA分子のうちの1つのDNA分子のみを標識するのに従った手順を示しているスキームである。
【図13】図13は、実施例5に記載されるようにAlexa568−アジドで染色されたEdU標識細胞のDNAの画像のセットである。画像の第一列は、最初の有糸分裂後のDNA、アジド染色および2つのオーバーレイ(overlay)を示す。画像の第二列は、第二の有糸分裂後のDNA、アジド染色および2つのオーバーレイを示す。
【図14】図14は、EU(エチニル−ウリジン)の細胞RNAのための標識としての使用を実証する3つの画像のセットである。HeLa細胞を、10μMのEUで一晩標識して、固定して、Xrhodamine−アジドで染色した。左側の画像は、EUで標識されていない、Xrhodamine−アジドで染色された細胞を示す(陰性コントロール)。中央および右側の画像は、Xrhodamine−アジドで染色されたEU標識細胞の画像である。
【図15】図15は、本発明による[3+2]環化付加を用いるリボソーム提示を示すスキームである。
【図16】図16は、AdUで標識され、かつAlexa568−アルキンで染色されたHeLa細胞の視野の2つの画像のセットである(詳細については実施例7を参照のこと)。AdUは、(A)標識された静止期細胞の核において、そして(B)有糸分裂細胞の凝縮した染色体において、明確に検出される。
【図17】図17は、細胞核から蛍光シグナルを効果的に除去するための本明細書に記載のストラテジーを図示する4つの画像のセットである。HeLa細胞は、未染色のまま(第一列、左側)か;EdUで標識され、かつAlexa568−アジドで染色される(第一列、右側)か;EdUで標識され、かつAlexa568−アジドで染色され、かつ20mMのDTT(第二列、左側)か、または100mMのDTT(第二列、右側)で処理される(詳細は実施例8を参照のこと)。
【図18】図18は、(A)当該分野で公知のとおりBrdUを用いるDNA標識、および(B)本発明の方法を用いるDNA標識であって、DNA複製によるヌクレオシドアナログAdU(すなわち、アジド−dU)のDNAへの組み込み、続いてアジド基と標識試薬のトリアリールホスフィンとの間のシュタウディンガー・ライゲーションを含むDNA標識、を示す2つのスキームを示している。
【発明を実施するための形態】
【0073】
(定義)
簡便の目的のために、本明細書全体にわたって用いられる種々の用語の定義を以下に示す。
【0074】
「核酸ポリマー(nucleic acid polymer)」という用語は、一本鎖型または二本鎖型のいずれかのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーをいい、これは、DNAおよびRNAを含み、そして他に言及しない限り、合成骨格を有する核酸様構造および増幅生成物を包含する。本発明の状況では、核酸ポリマーは、単離された分子であってもよいし、あるいは核酸ポリマーは、細胞の内側または生物体の中に位置してもよい。
【0075】
「単離された、単離される(isolated)」という用語は、核酸ポリマーに関して本明細書において用いられる場合、核酸ポリマーであってその起源または操作のおかげで、それが天然に会合しているか、またはそれが最初に得られるときに会合している成分のうちの少なくともいくつかから分離されている核酸ポリマーを意味する。「単離された、単離される(isolated)」とは代替的にまたはさらに、目的の核酸ポリマーが人の手によって生成されるかまたは合成されるということを、意味する。
【0076】
本明細書において用いる場合、「ヌクレオチドアナログ(nucleotide analogue)」という用語は、天然のヌクレオチドと構造的に類似であり、そして天然に存在するヌクレオチドと同じ方式で機能し得る分子(例えば、天然に存在する塩基のうちの1つと塩基対合する同様の能力を示す)をいう。本明細書において用いる場合、「ヌクレオシドアナログ(nucleoside analogue)」という用語は、天然のヌクレオシドと構造的に類似であり、天然に存在するヌクレオシドと同様の方式で機能し得る分子(例えば、DNA複製によってDNAに組み込まれる同様の能力を示す)をいう。「ヌクレオチド(nucleotide)」という用語は、糖部分(ペントース)、リン酸塩および窒素性複素環塩基を含むDNAまたはRNAのモノマー単位をいう。この塩基は、グリコシドの炭素(すなわち、五炭糖の1’炭素)を介して糖部分に連結され、そして塩基および糖のその組み合わせが「ヌクレオシド(nucleoside)」と呼ばれる。この塩基は、アデニン(すなわちA)、グアニン(G)、シトシン(C)およびチミン(T)であるDNAの4つの塩基、ならびにアデニン、グアニン、シトシンおよびウラシル(U)であるRNAの4つの塩基でヌクレオチド(またはヌクレオシド)を特徴づける。本発明の特定の実施形態では、ヌクレオチドアナログ(またはヌクレオシドアナログ)は、反応性不飽和基を含む。
【0077】
本明細書において用いる場合、「反応性不飽和基(reactive unsaturated group)」という用語は、2つ以上の原子価結合を共有している原子を含む官能基であって、そしてさらなる反応、詳細には環化付加を受け得る官能基をいう。反応性の不飽和基は代表的には、少なくとも1つの二重または三重結合を保有する。
【0078】
「1,3−双極子(dipole)」という用語は、本明細書において、当該分野で理解される意味を有し、そしてアリルアニオンと等電性であり、かつ4つの電子を1,3−双極子を含むπ系に有する分子または官能基をいう。1,3−双極子は一般に、特徴的な1,3−双極子を示す1つ以上の共鳴構造を有する。1,3−双極子の例としては、ニトリルオキシド、アジド、ジアゾメタン、ニトロンおよびニトリルイミンが挙げられる。
【0079】
本明細書において用いる場合、「親双極子(ダイポーラロフィル)(dipolarophile)」という用語は、当該分野で理解される意味を有し、そしてπ結合を含み、1,3−双極子に対する反応性を示す分子または官能基をいう。親双極子の反応性は、π結合に存在する置換基に、そしてこの反応に関与する1,3−双極子の性質にその両方に依存する。親双極子は代表的には、アルケンまたはアルキンである。
【0080】
本明細書において用いる場合、「環化付加(cycloaddition)」という用語は、化学反応であって、ここでは2つ以上のπ電子系(例えば、不飽和分子または同じ分子の不飽和部分)が合わさって環状生成物を形成し、ここで結合多重度の正味の減少が存在する化学反応をいう。環化付加では、π電子を用いて新規なσ結合が形成される。環化付加の生成物は、「付加物(adduct)」または「環付加物(cycloadduct)」と呼ばれる。異なるタイプの環化付加が当該分野で公知であって、これには、限定はしないが、[3+2]環化付加およびDiels−Alder(ディールス−アルダー)反応が挙げられる。[3+2]環化付加はまた、1,3−双極子性環化付加とも呼ばれ、1,3−双極子と親双極子との間で生じ、そして代表的には、5員の複素環の構築に用いられる。「[3+2]環化付加(cycloaddition)」という用語はまた、Bertozziら,J.Am.Chem.Soc,2004,126:15046〜15047によって記載される、アジドとシクロオクチンとジフルオロシクロオクチンとの間の「銅なし(copperless)」[3+2]環化付加を包含する。
【0081】
本明細書において用いる場合、「シュタウディンガー・ライゲーション(Staudinger ligation)」という用語は、古典的なシュタウディンガー反応の改変であるSaxonおよびBertozzi(E.SaxonおよびC.Bertozzi,Science,2000,287:2007〜2010)によって開発された化学反応をいう。この古典的なシュタウディンガー反応は、アジドとホスフィンまたは亜リン酸塩との組み合わせがアザ−イリド中間体を生じ、加水分解の際にホスフィン・オキシドおよびアミンを生じる化学反応である。シュタウディンガー反応は、アジドをアミンに還元する温和な方法であり;そしてトリフェニルホスフィンは一般には還元剤として用いられる。シュタウディンガー・ライゲーションでは、求電子性トラップ(通常はアルキルエステル)が適切にトリアリールホスフィンに置かれ(通常は、リン原子に対してオルトに)、そしてアジドと反応されて、アザ−イリド中間体が生じ、これが水性媒体中に再配置されて、アミド基およびホスフィン・オキシド官能基との化合物を生じる。シュタウディンガー・ライゲーションは、それが2つの出発分子を一緒に連結する(結合/共有結合する)のでそのように命名されるが、古典的なシュタウディンガー反応では、2つの生成物は加水分解の後に共有結合されない。「シュタウディンガー・ライゲーション」という用語はまた、Rainesら、J.Am.Chem.Soc.,2006,128:8820〜8828に記載されるとおり、ジアリールホスフィオエステルまたはジアリールホスフィノチオエステルが用いられる、「トレースレス(traceless)」シュタウディンガー・ライゲーション反応を包含する。
【0082】
「標識された(labeled)」、「検出因子(検出可能剤)で標識された(labeled with a detectable agent)」、および「検出可能部分で標識された(labeled with a detectable moiety)」という用語は本明細書において、交換可能に用いられる。核酸ポリマーに関して用いられる場合、これらの用語は、この核酸ポリマーが検出可能であるかまたは可視であるということを特定する。好ましくは、標識は、測定可能なシグナルであって、その強度が標識された核酸ポリマーの量(例えばサンプル中)に関係するシグナルを生成するように、選択される。本発明のアレイベースの検出方法では、この標識は望ましくは、それが局所シグナルを生成して、それによってアレイ上の各々のスポットからシグナルの空間的な分解が可能になるように選択され得る。標識は直接検出可能であってもよいし(すなわち、検出可能になるために、なんらさらなる反応も操作も必要とせず、例えば、発蛍光団が直接検出可能である)、または間接的に検出可能であってもよい(すなわち、検出可能である別の部分との反応または結合を通じて検出可能になる、例えば、ハプテンは、発蛍光団のようなレポーターを含む適切な抗体との反応後に免疫染色によって検出可能である)。本発明における使用に適切な標識は、任意の種々の手段によって検出可能であり得、これには限定はしないが、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的な手段が挙げられる。適切な標識としては限定はしないが、種々のリガンド、放射性核種、蛍光色素、化学発光剤、微小粒子、酵素、比色標識、磁気標識およびハプテンが挙げられる。
【0083】
「発蛍光団、フルオロフォア(fluorophore)」、「蛍光部分(fluorescent moiety)」および「蛍光色素(fluorescent dye)」という用語は、本明細書において交換可能に用いられる。それらは、分子であって、溶液中でおよび適切な波長の光での励起の際に、一般にはより長い波長で発光し返す分子をいう。広範な種々の構造および特徴の多くの蛍光色素が本発明の実施における使用に適切である。発蛍光団を選択するには、分子が光を吸収して高い効率で蛍光を発し(すなわち、蛍光分子は、それぞれ、励起波長で高モル消衰係数および高蛍光量子収量を有する)、そして光安定性である(すなわち、蛍光分子は、検出を行うのに必要な時間内の光励起の際に有意な分解を受けない)ことがしばしば所望される。
【0084】
本明細書において用いる場合、「二重標識(する)(dual labeling)」という用語は、標識プロセスであって、核酸ポリマーが、識別可能なシグナルを生じる2つの検出可能な因子で標識される標識プロセスをいう。このような標識プロセスから生じる核酸ポリマーとは、二重に標識されるといわれる。本明細書において用いる場合、「示差的標識(differential labeling)」とは、標識プロセスであって、2つの核酸ポリマーが、識別可能なシグナルを生じる2つの検出可能因子で標識される標識プロセス(すなわち、第一の核酸ポリマーが、第一の検出可能因子で標識され、第二の核酸ポリマーが第二の検出可能因子で標識され、そしてこの第一の検出可能因子および第二の検出可能因子が識別可能なシグナルを生じる)をいう。この検出可能因子は、同じタイプのもの(例えば、励起の際に二重色蛍光を生じる2つの蛍光色素)であっても、または異なるタイプのもの(例えば、蛍光色素およびハプテン)であってもよい。
【0085】
「細胞増殖(cell proliferation)」および「細胞性(の)増殖(cellular proliferation)」という用語は、本明細書において交換可能に用いられて、単一の細胞の娘細胞への分裂による細胞の集団の増殖、または単一の細胞の娘細胞への分裂をいう
本明細書において用いる場合、「有効な量(effective amount)」という用語は、細胞、組織または生物体における関連の応答を惹起する物質、化合物、分子、因子または組成物の量をいう。例えば、生物体に投与されるヌクレオシドの場合、有効量のヌクレオシドとは、生物体の細胞のDNAに組み込まれるヌクレオシドの量である。
【0086】
本明細書において用いる場合、「生物体(organism)」という用語は、独立して作用するかもしくは機能する能力を有するかまたは発達させ得る、生きている系をいう。生物体は、単細胞であってもまたは多細胞であってもよい。生物体としては、ヒト、動物、植物、細菌、原生動物および真菌が挙げられる。
【0087】
「細胞増殖の混乱(perturbation of cellular proliferation)」という用語は、本明細書において用いる場合、ある因子が、その因子の非存在下で観察される細胞増殖に比較して、細胞増殖を誘導(すなわち、増大、増強そうでなければ悪化する)か、または阻害する(すなわち、減少させ、遅らせそうでなければ抑制させる)能力をいう。
【0088】
(特定の好ましい実施形態の詳細な説明)
上記で言及されるとおり、本発明は、インビトロおよびインビボの両方で、核酸ポリマーを標識するため、そして細胞増殖を測定するための方法および組成物を提供する。本発明の方法は一般に、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識を含む試薬との間の化学的反応を包含し、このヌクレオチドアナログは、第一の反応性基を含み、そしてこの試薬は第二の反応性基を含み、その結果この第一の反応性基と第二の反応性基との間の反応が核酸ポリマーの標識を生じる。ヌクレオチドアナログに対して標識を共有結合させる任意のタイプの反応を、本発明の実施において用いてもよい。好ましい反応は生体分子(例えば、天然の細胞成分)に対して化学的に不活性であり、生化学的に関連する状態(例えば、細胞培養条件)のもとで効率的に生じ得、そして天然に存在する生体分子にまれに見出される反性応基を包含する。
【0089】
詳細には、本発明は、[3+2]環化付加、または核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識を含む試薬との間のシュタウディンガー・ライゲーションを包含する核酸ポリマーを標識する方法を提供する。
【0090】
(I.[3+2]環化付加を介する核酸ポリマーの標識)
本発明のいくつかの標識方法は一般には、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチド上の第一の反応性不飽和基と、標識に結合された第二の反応性不飽和基との間の[3+2]環化付加を包含する。このような標識方法の例は図1に模式的に提示され、そして従来のBrdU標識方法と比較される。
【0091】
(1.ヌクレオシドおよびヌクレオチドのアナログ)
本発明の方法の実施における使用に適切なヌクレオシドアナログ(またはヌクレオチドアナログ)としては、[3+2]環化付加(cyclo−addition)を受け得る反応性不飽和基を含む、本明細書に規定されるような、任意のヌクレオシドアナログ(またはヌクレオチドアナログ)が挙げられる。いくつかの実施形態では、反応性不飽和基は、ヌクレオシド(またはヌクレオチド)の塩基によって担持される。反応性不飽和基を担っている塩基は、プリン(例えば、アデニンまたはグアニン)であっても、またはピリミジン(例えば、シトシン、ウラシルまたはチミン)であってもよい。特定の実施形態では、この塩基はウラシルであり;このようないくつかの実施形態では、ウラシルは、5位置に反応性不飽和基を担持する。この不飽和基は、この塩基に対して直接結合されても、または間接的に結合されてもよい。好ましくは、この不飽和基はこの塩基に直接共有結合される。
【0092】
この反応性不飽和基は、1,3−双極子、例えば、ニトリルオキシド、アジド、ジアゾメタン、ニトロンまたはニトリルイミンであってもよい。特定の実施形態では、1,3−双極子はアジドである。あるいは、この反応性不飽和基は、親双極子、例えば、アルケン(例えば、ビニル、プロピルエニルなど)またはアルキン(例えば、エチニル、プロピニルなど)であってもよい。特定の実施形態では、この親双極子はアルキン、例えば、エチニル基などである。
【0093】
ヌクレオシドアナログおよびヌクレオシド三リン酸塩アナログの調製のための方法は当該分野で公知である。例えば、ヌクレオシドおよびヌクレオシド三リン酸塩における5置換塩基の調製のための手順は、開発されておりかつ報告されている(例えば、A.S.Jonesら、Nucleic Acids Res.,1974,1:105〜107;R.C.Bleackleyら、Nucleic Acids Res.,1975,2:683〜690;D.E.BergstromおよびJ.L.Ruth,J.Am.Chem.Soc,1976,98:1587〜1589;Y.F.Shealyら、J.Med.Chem.,1983,26:156〜161;K.Heら、Nucleic Acids Res.,1999,8:1788〜1798;H.A.HeldおよびS.A.Benner,Nucleic Acids Res.,2002,30:3857〜3869を参照のこと)。
【0094】
本発明の実施において用いられ得る例示的なヌクレオシドのアナログとしては、5−エチニル−2’デオキシウラシル(本明細書においてはエチニルウラシルまたはEdUとも呼ばれる)および5−アジド−2’−デオキシウラシル(本明細書においては、アジドウラシルまたはAdUとも呼ばれる)ならびにそれらの三リン酸塩およびホスホラミダイト型が挙げられる。本出願では、C−S.YuおよびF.Oberdorfer,Synlett,2000,1:86〜88に本質的に記載されるとおりEdUを合成し;そしてアジド−dUMPを合成するためにP.Sunthankarら、Anal.Biochem.,1998,258:195〜201に記載されるものと同様の方法を用いてAdUを調製した。EdUはまた、Berry and Associates,Inc.(Dexter,MI)から市販されている。
【0095】
(2.核酸ポリマー)
本発明の方法に従って生成されるか、または本発明の方法で利用される核酸ポリマーは、一本鎖または二本鎖のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーである。当業者によって理解されるとおり、核酸ポリマーは、少なくとも約8ヌクレオチドを含む短いオリゴヌクレオチドを含む任意の広範なサイズのポリヌクレオチドおよび全長ゲノムDNA分子であってもよい。
【0096】
少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーは、合成および酵素方法を含む当該分野で周知の任意の種々の方法によって調製されてもよい(J.Sambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,1989,第2版,Cold Spring Harbour Laboratory Press:New York,NY;「PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications」,1990,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,NY;P.Tijssen「Hybridization with Nucleic Acid Probes−Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology(パートIおよびII)」,1993,Elsevier Science;「PCR Strategies」,1995,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,NY;ならびに「Short Protocols in Molecular Biology」,2002,F.M.Ausubel(編),第5版.,John Wiley & Sons:Secaucus,NJ)。
【0097】
例えば、本発明の核酸ポリマーは、ホスホラミダイトのアプローチに基づく、自動的な固相手順を用いて調製され得る。このような方法では、各々のヌクレオチド(ヌクレオチドアナログを含む)が、成長しているポリヌクレオチド鎖の5’末端に個々に付加され、これが固体支持体に対して3’末端に結合される。この付加されたヌクレオチドは、5’位置でジメトキシトリル(すなわちDMT)基によって重合化から保護される三価の3’ホスホラミダイトの形態である。塩基誘導性のホスホラミダイトカップリングの後、温和な酸化によって、五価のホスホトリエステル中間体が得られ、DMT除去によって、ポリヌクレオチド伸長の新規な部位が得られる。次いで、この核酸ポリマーは、固体支持体から切断されて、ホスホジエステルおよび環外のアミノ基が水酸化アンモニウムで脱保護される。これらの合成は、Perkin Elmer/Applied Biosystems,Inc(Foster City,CA)、DuPont(Wilmington,DE)またはMilligen(Bedford,MA)から購入可能なオリゴシンセサイザーで行われてもよい。
【0098】
本発明の核酸ポリマーはあるいは、例えば、インビトロの伸長および/または増幅方法を用いて調製され得る。標準的な核酸増幅方法としては以下が挙げられる:ポリメラーゼ連鎖反応すなわちPCR(「PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications」,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,1990;および「PCR Strategies」,M.A.Innis(Ed.),Academic Press:New York,1995);リガーゼ連鎖反応(ligase chain reaction)すなわちLCR(U.Landegrenら、Science,1988,241:1077〜1080;およびD.L.Barringerら、Gene,1990,89:117〜122);転写増幅(D.Y.Kwohら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989,86:1173〜1177);自己維持性配列複製(self−sustained sequence replication)(J.C.Guatelliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1990,87:1874〜1848);Q−βレプリカーゼ増幅(J.H.Smithら、J.Clin.Microbiol.1997,35:1477〜1491);自動化Q−βレプリカーゼ増幅アッセイ(J.L.Burgら、Mol.Cell.Probes,1996,10:257−271)および他のRNAポリメラーゼ媒介性技術、例えば、核酸配列ベースの増幅(nucleic acid sequence based amplification)すなわちNASBAなど(A.E.Greijerら、J.Virol.Methods,2001,96:133−147)。
【0099】
当業者によって理解されるとおり、本発明の核酸ポリマーは、事前合成改変方法(すなわち、核酸分子への核酸アナログの組み込み)、または合成後改変方法(すなわち、核酸分子における天然に存在するヌクレオチドからヌクレオチドアナログへの改変)によって、調製され得る。
【0100】
あるいは、ヌクレオチドアナログは、下に記載されるように、DNA複製によって細胞のDNAもしくは生きている系へ組み込まれても、または反応によってRNAへ組み込まれてもよい。
【0101】
本発明の核酸ポリマーの単離または精製は必要な場合、当該分野で周知の任意の種々の方法によって行われ得る。核酸ポリマーの精製は代表的には、天然のアクリルアミドゲル電気泳動によって、例えば、J.D.PearsonおよびF.E.Regnier(J.Chrom.,1983,255:137−149)によって記載されるような陰イオン交換HPLC、または逆相HPLC(G.D.McFarlandおよびP.N.Borer,Nucleic Acids Res.,1979,7:1067〜1080)のいずれかによって、行われる。
【0102】
所望の場合、合成核酸ポリマーの配列は、限定はしないが、化学的変性(A.M.MaxamおよびW.Gilbert,Methods of Enzymology,1980,65:499〜560)、マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間(matrix−assisted laser desorption ionization
time−of−flight)(MALDI−TOF)質量分析法(U.Pielesら、Nucleic Acids Res.,1993,21:3191〜3196)、アルカリホスファターゼおよびエキソヌクレアーゼ消化後の質量分析法(H.WuおよびH.Aboleneen,Anal.Biochem.,2001,290:347〜352)、などを含む任意の適切な配列決定方法を用いて改変され得る。
【0103】
(3.[3+2]環化付加)
本明細書において提供される方法は一般には、[3+2]環化付加を包含する。これらの方法では、[3+2]環化付加は、核酸ポリマーへ組み込まれたヌクレオチドアナログ上の第一の反応性不飽和基と、標識を含む試薬(本明細書では染色試薬とも呼ばれる)上の第二の反応性不飽和基との間で生じる。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態では、染色試薬は、第二の反応性不飽和基が[3+2]環化付加を介してヌクレオチドアナログ上の第一の反応性不飽和基と反応し得るように選択される。より詳細には、第一の不飽和基が1,3−双極子である場合、この第二の不飽和基は、1,3−双極子と反応し得る親双極子である。あるいは、この第一の不飽和基は、親双極子であり、この第二の不飽和基は、親双極子と反応し得る1,3−双極子である。
【0105】
[3+2]環化付加反応条件の最適化は当該分野の技術の範囲内である。特定の好ましい実施形態では、この[3+2]環化付加は水性条件下で行われる。
【0106】
1,3−双極子がアジドであり、かつ親双極子がアルキン(例えば、エチニル基)である実施形態では、[3+2]環化付加は、Sharplessおよび共同研究者によって記載されるように(V.V.Rostovtsevら,Angew Chem.,Int.Ed.Engl.,2002,41:1596〜1599;W.G.Lewisら、Angew Chem.Int.Ed.Engl.,2002,41:1053〜1057;Q.Wangら、J.Am.Chem.Soc,2003,125:3192〜3193)、生理学的な温度で、水性条件下で、そして環化付加を触媒する銅(I)(すなわちCu(I))の存在下で行われてもよい。[3+2]環化付加の触媒されたバージョンは、「クリック(click)」化学と名付けられる。
【0107】
他の実施形態では、例えば、内因性のCu(I)の存在が所望されない場合(例えば、Cu(I)が生きている系に毒性である場合)、アジドとアルキンとの間の[3+2]環化付加は、Cu(I)の存在についてを除いて、Sharplessおよび共同研究者によって記載されるとおり行われ得る。これらの状況では、環化付加で用いられる染色試薬は、反応性不飽和基および標識に加えて、Cuキレート化部分を含む。本明細書において用いる場合、「Cuキレート部分(Cu chelating moiety)」という用語は、銅(I)イオンとの複合体(2つ以上の配位結合を含む)の形成に関与し得る2つ以上の極性基の存在によって特徴づけられる任意の物体をいう。Cuキレート部分は、[3+2]環化付加の近傍で生物系(例えば、細胞)に天然に存在する銅(I)イオンを動員し得る。特定のCu(I)キレーターは当該分野で公知であり、そしてこれには限定はしないが、ネオクプロイン(neocuproine)(H.H.Al−Sa’doniら、Br.J.Pharmacol.,1997,121:1047〜1050;J.G.De Manら、Eur.J.Pharmacol.,1999,381:151〜159;C.Gocmenら、Eur.J.Pharmacol,2000,406:293〜300)およびバトクプロイン・ジスルホネート(bathocuproine disulphonate)(M.Bagnatiら、Biochem.Biophys.Res.Commun.,1998,253:235〜240)が挙げられる。
【0108】
(4.標識された核酸ポリマーの標識および検出)
本発明の方法は、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログ上の第一の反応性不飽和基と標識に結合された第二の反応性不飽和基との間の[3+2]環化付加を包含する。この[3+2]環化付加反応は、核酸ポリマーの標識を生じる。
【0109】
(A.標識)
既に上述されているとおり、標識の役割は、標識後に、核酸ポリマー、例えば細胞中のDNAの可視化または検出を可能にすることである。好ましくは、標識(または検出可能な因子または部分)は、測定可能なシグナルであって、その強度が、例えば分析されているサンプル中にある、標識された核酸ポリマーの量に関係する(例えば、比例的である)シグナルを生成するように選択される。本発明のアレイベースの検出方法(下を参照のこと)では、この検出可能因子は好ましくは、それが局所シグナルを生成して、それによってアレイ上の各々のスポットについてシグナルの空間的な分解を可能にするように選択される。
【0110】
標識と第二の反応性不飽和基を含む染色試薬との間の会合は好ましくは共有結合である。標識は染色試薬上の不飽和基に直接結合されてもよいし、またはリンカーを通じて間接的に結合されてもよい。
【0111】
化学的分子に対して検出可能な部分を結合させるための方法は、当該分野で周知である。特定の実施形態では、この標識および不飽和基はお互いに直接共有結合される。この直接の共有結合は、アミド結合、エステル結合、炭素間結合、ジスルフィド結合、カルバメート結合、エーテル結合、チオエーテル結合、尿素結合、アミン結合またはカーボネート結合を通じてであってもよい。共有結合は、不飽和基および検出可能部分の上に存在する官能基を利用することによって達成され得る。2つの化学物質を一緒に結合させるために用いられ得る適切な官能基としては、限定はしないが、アミン、無水物、ヒドロキシ基、カルボキシ基およびチオールが挙げられる。直接結合はまた、カルボジイミドのような活性化剤を用いて形成され得る。広範な活性化剤が当該分野で公知であり、そして標識および不飽和基を結合するために適切である。
【0112】
他の実施形態では、染色試薬の不飽和基および標識を、リンカー基を介してお互いに間接的に共有結合させる。これは、同種機能(homofunctional)リンカーおよび異種機能(heterofunctional)リンカーを含む、当該分野で周知の多数の安定な二機能性の因子を用いることによって達成され得る(例えば、Pierce
Catalog and Handbookを参照のこと)。二機能性のリンカーの使用は、活性化因子の使用とは、前者が連結部分を生じこれが反応生成物に存在しているが、後者が反応に関与する2つの部分の間の直接カップリングを生じるという点で異なる。二機能性リンカーの役割は、2つのそうでなければ不活性な部分の間の反応を可能にすることであり得る。あるいは、またはさらに、二機能的なリンカーは、反応生成物の一部となり、この反応生成物に対してある程度の構造的な可塑性を、または他の有用なもしくは所望される特性を付与するように選択され得る。特定の実施形態では、このリンカーは切断可能である(例えば、化学的に切断可能または光化学的に切断可能)。標識とヌクレオチドアナログとの間の切断可能なリンカーの存在によって、核酸ポリマーの一時的な標識が可能になる。このようなシステムを考えれば、所望されればいつでも(例えば、核酸ポリマーの検出後)、この標識は、それが結合されているヌクレオチドアナログを切り落とされてもよい。切断可能なリンカーは当該分野で公知である。例えば、リンカーは、シスタミンリンカーであってもよく、そのジスルフィド結合は、ジチオスレイトール(DTT)を用いて還元され得る(実施例8を参照のこと)。
【0113】
任意の広範な種々の標識/検出可能因子が本発明の実施で用いられ得る。適切な検出可能因子としては、限定はしないが、種々のリガンド、放射性核種(例えば、32P、35S、3H、14C、125I、131Iなど);蛍光色素(特定の例示的蛍光色素については、以下を参照のこと);化学発光剤(例えば、アクリジニウムエステル、安定化ジオキセタンなど);空間的に分解可能な無機蛍光半導体ナノ結晶(すなわち、量子ドット)、金属ナノ粒子(例えば、金、銀、銅およびプラチナ)またはナノクラスター;酵素(例えば、ELISAで用いられるもの、すなわち、西洋ワサビペルオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ);比色標識(例えば、色素、コロイド金など);磁気標識(例えば、DynabeadsTM);ならびにビオチン、ジオキシゲニン、ハプテン、および抗血清またはモノクローナル抗体に利用可能であるタンパク質が挙げられる。
【0114】
特定の実施形態では、この標識は蛍光部分を含む。広範な種々の化学的構造および物理的特徴の多数の公知の蛍光標識部分が本発明の実施において使用に適切である。適切な蛍光色素としては限定はしないが、フルオレセインおよびフルオレセイン色素(例えば、フルオレセインイソチオシアニンまたはFITC、ナフトフルオレセイン、4’,5’−ジクロロ−2’,7’−ジメトキシ−フルオレセイン、6−カルボキシフルオレセインまたはFAM)、カルボシアニン、メロシアニン、スチリル色素、オキソノール色素、フィコエリトリン、エリトロシン、エオシン、ローダミン色素(例えば、カルボキシテトラメチルローダミンまたはTAMRA、カルボキシローダミン6G、カルボキシ−X−ローダミン(ROX)、リサミンローダミンB、ローダミン6G、ローダミン・グリーン、ローダミン・レッド、テトラメチルローダミンすなわちTMR)、クマリンおよびクマリン色素(例えば、メトキシクマリン、ジアルキルアミノクマリン、ヒドロキシクマリンおよびアミノメチルクマリンまたはAMCA)、オレゴン・グリーン色素(Oregon Green Dyes)(例えば、オレゴン・グリーン488、オレゴン・グリーン500、オレゴン・グリーン514)、テキサス・レッド(Texas Red)、テキサス・レッド−X、Spectrum RedTM、Spectrum GreenTM、シアニン色素(例えば、Cy−3TM、Cy−5TM、Cy−3.5TM、Cy−5.5TM)、Alexa Fluor色素(例えば、Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 660およびAlexa Fluor 680)、BODIPY色素(例えば、BODIPY FL、BODIPY R6G、BODIPY TMR、BODIPY TR、BODIPY 530/550、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665)、IRDyes(例えば、IRD40,IRD 700,IRD 800)などが挙げられる。適切な蛍光色素および他の化学物質へ蛍光色素をカップリングするための方法のさらなる例については、例えば、「The Handbook of Fluorescent Probes and Research Products」,第9版、Molecular Probes,Inc.,Eugene,ORを参照のこと。
【0115】
本発明の実施に用いられるべき蛍光標識剤の有利な特性としては、高モル吸収係数、高蛍光量子収量、および光安定性が挙げられる。特定の実施形態では、標識発蛍光団は望ましくは、紫外範囲のスペクトル(すなわち400nmより下)ではなく可視の吸収および発光波長(すなわち、400〜750nm)を示す。蛍光部分の他の所望の特性としては例えば、核酸ポリマーの標識が細胞または生物体(例えば、生きた動物)で行われるべき場合、細胞透過性および低い毒性を挙げてもよい。
【0116】
実施例に報告されるとおり、種々の蛍光染色試薬が、本出願によって用いられており、これには、細胞非透過性である、XRhodamine−アジドおよびAlexa568−アジド、ならびに細胞透過性であるテトラメチルローダミン(TMR)−アジドが挙げられる。
【0117】
本発明はまた、核酸ポリマーの二色標識を提供する(図2を参照のこと)。例えば、本発明によれば、2つ以上の異なる標識が単一の核酸ポリマーに組み込まれてもよい。ある実施形態では、このような組み込みは、2つの[3+2]環化付加反応を介して達成される:第一の環化付加は、第一の核酸ポリマーに組み込まれるヌクレオチドアナログ上の第一の反応性不飽和基と、第一の標識に結合された第一の試薬上の第二の反応性不飽和基との間で生じ;第二の環化付加は、第二の核酸ポリマーに組み込まれるヌクレオチドアナログ上の第三の反応性不飽和基と、第二の標識に結合された第二の試薬上の第四の反応性不飽和基との間で生じる。この第一の核酸ポリマーおよび第二の核酸ポリマーは、同じ分子(例えば、細胞中のDNAの二重標識)であってもよいし、または異なる/個々の分子(例えば、2つの異なる細胞、細胞集団または細胞サンプル由来のDNAの示差的な標識)であってもよい。この第一のおよび第二の標識は好ましくは、それらが識別可能な検出可能なシグナルを生成するように選択される。
【0118】
特定の2つの標識の実施形態では、この第一のおよび第二の検出可能な因子または標識は蛍光色素である。2色の検出を可能にするために、この第一の蛍光標識および第二の蛍光標識は、望ましくは、用いられるべき検出システムと適合するマッチした対を構成し得る。蛍光標識色素のマッチした対は代表的には、空間的に識別可能なシグナルを生成する。例えば、いくつかの実施形態では、マッチした対における蛍光色素は、同じスペクトル範囲の光を有意に吸収しない(すなわち、それらは、異なる吸収最大波長を示す)、そして2つの異なる波長を用いて励起され得る(例えば、連続的に)。あるいは、蛍光色素はマッチした対で、異なるスペクトルの範囲で光を放射し得る(すなわち、それらは、励起の際に二色蛍光を生じる)。
【0119】
蛍光標識の対は当該分野で公知である(例えば、R.P.Haugland,「Molecular Probes:Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals 1992−1994」,第5版,1994,Molecular Probes,Inc.を参照のこと)。蛍光色素の例示的な対としては、限定はしないが、ローダミンおよびフルオレセイン(例えば、J.DeRisiら、Nature Gen.,1996,14:458〜460を参照のこと);Spectrum RedTMおよびSpectrum GreenTM(Vysis,Inc.,Downers Grove,ILから市販されている);およびCy−3TMおよびCy−5T(Amersham Life Sciences,Arlington Heights,ILから市販されている)が挙げられる。
【0120】
特定の標識(または標識のセット)の選択は、行われる標識化の目的に依存し、そしていくつかの要因、例えば、標識方法の容易さおよび費用、望まれるサンプル標識の質、細胞または組織に対する検出可能部分の影響、検出システムの性質、検出可能部分によって生じるシグナルの性質および強度などによって、支配される。
【0121】
(B.標識された核酸ポリマーの検出)
当業者によって理解されるとおり、本明細書に開示される方法に従って標識される核酸ポリマーの検出は、任意の広範な種々の方法によって、および任意の広範な種々の技術を用いて行われ得る。標識の性質に基づく適切な検出方法および/または検出技術の選択(例えば、放射性核種、発蛍光団、化学発光因子、量子ドット、酵素、磁気標識、ハプテンなど)は当該分野の技術の範囲内である。
【0122】
例えば、蛍光標識された核酸ポリマーは、限定はしないが、フローサイトメトリーおよび蛍光顕微鏡を含む蛍光検出技術を用いて検出され得る。特定の蛍光検出技術の選択は、標識実験の目的(例えば、染色体超構造の研究、細胞増殖決定または毒性アッセイ)、ならびに検出されるべき標識された核酸ポリマーの位置(すなわち、生きている細胞の内側または組織の内側など)を含む多くの要因によって支配される。
【0123】
フローサイトメトリーは、粒子の光学特徴に基づいて液体培地中の粒子(例えば、細胞)を分析する、鋭敏かつ定量的な技術である(H.M.Shapiro,「Practical Flow Cytometry」,第3版、1995,Alan R.Liss,Inc.;ならびに「Flow Cytometry and Sorting,Second Edition」,Melamedら、(編),1990,Wiley−Liss:New York)。フローサイトメトリーは水力学的に、1つ以上の発蛍光団を含む粒子の液体懸濁物を細いストリームに収束させて、その結果その粒子が実質的に単一のファイルでストリームを流下して、検査または分析のゾーンを通過する。収束した光ビーム、例えば、レーザービームは、それらが検査ゾーンを通じて流れるにつれて粒子を照射し、そして光学検出器が光の特定の特徴を、それが粒子と相互作用する場合に測定する(例えば、1つ以上の波長での光散乱および粒子蛍光)。
【0124】
あるいは、またはさらに、細胞、組織または器官中の蛍光標識された核酸ポリマーは、種々の画像化技術を用いて蛍光顕微鏡によって可視化および検出され得る。従来の蛍光顕微鏡に加えて、蛍光標識された核酸ポリマーは、例えば、経時的蛍光顕微鏡検査法、共焦点蛍光顕微鏡、または二光子蛍光顕微鏡によって分析され得る。経時的顕微鏡技術(D.J.StephensおよびV.J.Allan,Science,2003,300:82〜86)は、経時的に三次元で生じる複雑な細胞プロセスの完全な写真を提供し得る。これらの方法によって獲得される情報によって、細胞増殖、細胞の動きおよび細胞核分裂のような動的な現象をモニターして定量的に分析することが可能になる。共焦点顕微鏡(L.Harvath,Methods Mol.Biol.,1999,115:149〜158;Z.Foldes−Pappら、Int.Immunopharmacol.,2003,3:1715〜1729)は、制御可能な視野深度、画像の劣化する焦点外の情報の排除、および厚い標本(例えば、組織または動物)から連続的な光学的切片を収集する能力を含む、従来の光学顕微鏡を超えるいくつかの利点をもたらす。顕微鏡の焦点での発蛍光団による2つの光子の同時の吸収を含む、二光子蛍光顕微鏡(P.T.Soら、Annu.Rev.Biomed.Eng.,2000,2;399〜429)によって、光退色および光損傷が最小である、高度に局在的な容積での(例えば、細胞の核での)三次元画像化が可能になる。
【0125】
マイクロアレイに結合されるかまたはマルチウェルのプレートにおける細胞の内側に位置する蛍光標識された核酸ポリマーからのシグナルを、蛍光マルチ−ウェル・プレート・リーダー、蛍光標示式細胞分取器(fluorescence activated cell sorters)(FACS)およびシグナルの空間的解像をもたらす自動化細胞ベース画像化システムを含む任意の種々の自動化および/または高出力の装置システムによって検出および定量してもよい。複数の蛍光標識の同時の検出および複合蛍光画像の作成のための方法は当該分野で周知であって、これには、「アレイ読み取り(array
reading)」または「スキャニング、走査(scanning)」システムの使用、例えば、電荷結合素子(charge−coupled devices)(すなわち、CCD)(例えば、Y.Hiraokaら、Science,1987,238:36〜41;R.S.Aikensら、Meth.Cell Biol.1989,29:291〜313;A.Divaneら、Prenat.Diagn.1994,14:1061〜1069;S.M.Jalalら、Mayo Clin.Proc.1998,73:132〜137;V.G.Cheungら、Nature Genet.1999,21:15〜19を参照のこと;また。例えば、米国特許第5,539,517号;同第5,790,727号;同第5,846,708号;同第5,880,473号;同第5,922,617号;同第5,943,129号;同第6,049,380号;同第6,054,279号;同第6,055,325号;同第6,066,459号;同第6,140,044号;同第6,143,495号;同第6,191,425号;同第6,252,664号;同第6,261,776号;同第および同第6,294,331号も参照のこと)が挙げられる。種々の装置システムがこのような分析を自動化するために開発されており、これには、Cellomics,Inc.(Pittsburg,PA)、Amersham Biosciences(Piscataway,NJ)、TTP LabTech Ltd(Royston,UK)、Quantitative 3 Dimensional Microscopy(Q3DM)(San Diego,CA)、Evotec AG(Hamburg,Germany)、Molecular Devices Corp.(Sunnyvale,CA)およびCarl Zeiss AG(Oberkochen,Germany)によって開発された自動蛍光画像化および自動顕微鏡システムが挙げられる。
【0126】
細胞または組織内の標識された核酸ポリマー由来の蛍光シグナルがまた、DAB(ジアミノベンジジン)フォトコンバージョン(図3に示されるとおり)後に可視化され得る。フォトコンバージョン(photoconversion)は、蛍光プローブ(例えば、細胞内)が電子密度プローブに変換されるプロセスであって、光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルでの研究のために目的の領域または構造を標識する。不溶性の光および電子密度ジアミノベンジジン(DAB)反応性生物へ蛍光色素をフォトコンバーティング(photoconverting)する原理は、最初にA.R.Maranto(Science,1982,217:953〜955)によって実証された。DABフォトコンバージョンは一般に、細胞または組織を発蛍光団を最大励起する周波数の光に曝露しながら、蛍光標識された細胞をDAB溶液中で蛍光標識された組織とともにインキュベートすることまたは浸すことによって達成される。
【0127】
ジアミノベンジジン染色はそのより大きい安定性およびより大きい密度に起因して、蛍光染色よりもいくつかの利点を有し得る。ジアミノベンジジン染色はまた、DAB処理後に、四酸化オスミウムおよびフェロシアン化カリウムを使用することによって強化され得る(H.C.Mutasa,Biotech.Histochem.,1995,70:194〜201)。効率的なDABコンバージョンを受けることが報告されている発蛍光団の例としては、限定はしないが、4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、ファスト・ブルー(Fast Blue)、ルシファー・イエロー(Lucifer Yellow)、ジアミジノ・イエロー(Diamidino Yellow)、エバンス・ブルー(Evans Blue)、アクリジン・オレンジ(acridine
orange)、臭化エチジウム、5,7−ジヒドロキシトリプタミン、1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチル−インドールカルボシアニンパーコレート、3,3’−ジオクタデシルインドカルボシアニン(DiI)、ローダミン−123およびヨウ化プロピジウムが挙げられる。
【0128】
DABフォトコンバージョンの前に、細胞または組織中の蛍光標識された核酸ポリマーは、蛍光顕微鏡によって検出され、そして局在化され得る。DABコンバージョン後、この核酸ポリマーは、透過電子顕微鏡によって可視化され得る。
【0129】
(C.シグナル対ノイズ比の改善)
別の局面では、本発明は、本明細書に開示される標識プロセスを用いて蛍光部分で標識された核酸ポリマーの検出におけるシグナル対ノイズ比を改善するためのシステムを提供する。
【0130】
[3+2]環化付加標識反応によって消費されない染色試薬の任意の分子がバックグラウンド(すなわち、非特異的な)シグナルに寄与し得る。本発明は、このバックグラウンドシグナルを軽減または排除するためのストラテジーを提供し、このストラテジーは、クエンチャー部分を含む分子との反応による未反応の染色試薬上の標識の蛍光シグナルをクエンチする工程を包含する。例えば、ある実施形態では、この試薬とクエンチャー部分を含む分子との間の反応は[3+2]環化付加である(図4に示されるとおり)。
【0131】
従って、本明細書に記載されるように調製される蛍光標識された核酸ポリマーの検出におけるシグナル対ノイズ比を改善する特定の本発明の方法は、第二の反応性不飽和基および蛍光標識(および必要に応じてCuキレート化部分)を含む未反応試薬と、クエンチング部分に結合された反応性不飽和基を含むクエンチング分子とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、染色試薬の反応性不飽和基とクエンチング分子との間で生じる工程と包含する。反応後、この蛍光標識とクエンチング部分との間の物理的な近接によって、蛍光標識からの蛍光シグナルの検出が妨げられる。
【0132】
クエンチング部分の例としては限定はしないが、DABCYL(すなわち、4−(4’−ジメチルアミノフェニルアゾ)−安息香酸)スクシンイミジルエステル、ジアリールローダミンカルボン酸、スクシンイミジルエステル(またはQSY−7)、および4’5’−ジニトロフルオレセインカルボン酸、スクシンイミジルエステル(またはQSY−33)(全て、例えばMolecular Probesから入手可能)、クエンチャー1(quencher 1)(Q1;Epoch Biosciences,Bothell,WAから入手可能)、または「ブラックホール・クエンチャー(Black hole
quenchers)」BHQ−1、BHQ−2およびBHQ−3(BioSearch Technologies,Inc.,Novato,CAから入手可能)が挙げられる。
【0133】
(5.細胞中の核酸ポリマーの標識)
本発明はまた、細胞中で核酸ポリマーを標識するための方法を提供する。このような方法は以下を包含する:細胞と、第一の反応性不飽和基を含む有効な量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果ヌクレオシドアナログが細胞のDNAに組み込まれる工程と;細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が第一の反応性不飽和基と第二の反応性不飽和基との間で生じる工程。
【0134】
他に言及しない限り、これらの方法で用いられる染色試薬および[3+2]環化付加の条件は、核酸ポリマーを標識する方法について上記されるものと同様である。既に上記されているとおり、本発明の標識方法は、生きている細胞において核酸ポリマーを染色する能力を含む現在利用される標識プロトコールを上回るいくつかの利点を示す。「生きている細胞(living cell)」および「生細胞(live cell)」という用語は本明細書において交換可能に用いられ、そしてその特定のタイプの細胞についての標準的な基準、例えば、正常な膜電位の維持、エネルギー代謝または増殖能力に従って、生きているとみなされる細胞を指す。詳細には、本発明の方法は、細胞の固定および/または変性を必要としない。
【0135】
(A.細胞)
いくつかの実施形態では、本発明は、培養物中の細胞における核酸ポリマーへの標識の組み込みに関する。特定の実施形態では、この細胞は標準的な組織培養プラスチック製品中で増殖される。このような細胞としては、正常細胞および誘導された形質転換細胞が挙げられる。特定の実施形態では、細胞は哺乳動物(ヒトまたは動物、例えば、げっ歯類またはサル)由来の細胞である。哺乳動物細胞は、任意の液体、器官または組織由来のもの(例えば、血液、脳、肝臓、肺、心臓、骨など)および任意の細胞タイプのもの(例えば、基底細胞、上皮細胞、血小板、リンパ球、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、腫瘍細胞など)であってもよい。
【0136】
本発明の方法における使用に適切な細胞は、初代細胞、二次細胞または不死化細胞(すなわち樹立された細胞株)であってもよい。それらは当該分野で周知の技術によって調製されていてもよく(例えば、細胞は、患者または健常なドナーから血液を採取することによって得ることができる)、または免疫学的なおよび微生物学的な市販の供給源から(例えば、American Type Culture Collection,Manassas,VAから)購入されてもよい。あるいは、またはさらに、細胞は、例えば、増殖因子またはレセプターを発現する遺伝子のような目的の遺伝子を含むように遺伝子操作されてもよい。
【0137】
本発明の方法で用いられるべき細胞は、標準的な培養技術に従って培養され得る。例えば、細胞はしばしば、加湿された95%空気−5%CO2の雰囲気を含むインキュベーター中で37℃で滅菌環境において適切な容器中で増殖される。容器は、撹拌培養または静止培養物を含んでもよい。ウシ胎仔血清のような未規定の生物学的液体を含有する培地を含む、種々の細胞培養培地が用いられてもよい。細胞培養技術は当該分野で周知であり、そして確立されたプロトコールは多様な細胞タイプの培養に利用可能である(例えば、R.I.Freshney,「Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique」,第2版,1987,Alan R.Liss,Inc.を参照のこと)。
【0138】
(B.DNA複製によるヌクレオシドアナログの組み込み)
DNA複製によるDNAへのヌクレオシドアナログの組み込みは、当該分野で周知のプロセスである。一般には、ヌクレオシドアナログは、ヌクレオシド・トランスポーターによって細胞膜を横切って輸送されて、キナーゼによって細胞中でそれらの三リン酸エステル型にリン酸化される。次いでこのヌクレオシドアナログ三リン酸エステルは、細胞DNAポリメラーゼの基質として、天然に存在するデオキシリボヌクレオチドと競合する。このようなプロセスは、標識目的のための3H−チミジンおよび5’−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)のDNAへの組み込みのために、そしてガンの治療において(D.Kufeら、Blood,1984,64:54〜58;E.Beutler,Lancet,1992,340:952〜956;Y.F.HuiおよびJ.Reitz,Am.J.Health−Syst.Pharm.,1997,54:162〜170;H.Iwasakiら、Blood,1997,90:270〜278)そして、ヒト免疫不全ウイルス感染の処置において(J.Balzarini,Pharm.World
Sci.,1994,16:113〜126)用いられる。
【0139】
ヌクレオシドアナログが細胞のDNAに組み込まれるような、インビトロでの細胞と有効量のヌクレオシドアナログとの接触は、任意の適切なプロトコールを用いて行われ得る。特定の好ましい実施形態では、このヌクレオシドアナログは、指数関数的に増殖する細胞または細胞周期のS期(すなわち、合成期)にある細胞を用いてDNAに組み込まれる。所望の場合、細胞は、標識(ラベリング)−パルス(labeling−pulse)手順の前に血清枯渇によって早期S期で同調され得る。
【0140】
細胞と有効量のヌクレオシドアナログとを接触させる工程は、例えば、適切なインキュベーション条件下で(例えば、実施例1で記載されるような37℃での培養培地中)細胞とヌクレオシドアナログとをインキュベートすることによって行われてもよい。特定の状況では、細胞の正常な細胞周期パターンを混乱し得る、細胞を混乱させることを何としても回避することが所望され得る(例えば、遠心分離工程または温度変化による)。このインキュベーション時間は、細胞周期の入力および進行の細胞集団の率に依存する。インキュベーション時間および条件の最適化は当業者の技術の範囲内である。
【0141】
(C.細胞における[3+2]環化付加)
インビトロの細胞のDNAへのヌクレオチドアナログの組み込み後、この細胞と、第二の反応性不飽和基および標識を含む染色試薬とを接触させる工程を任意の適切な方法によって行ってもよい。ある実施形態では、この細胞を適切なインキュベーション培地(例えば、培養培地)中で染色試薬の存在下において、37℃でかつこの試薬が細胞に浸透するのに十分な時間の間インキュベートして、細胞のDNAに組み込まれる任意のヌクレオチドアナログと反応させる。染色試薬の濃度、環化付加反応時間および条件の最適化は当該分野の技術の範囲内である。
【0142】
既に上述されているとおり、外因性Cu(I)の存在が所望されない実施形態では、第二の反応性不飽和基、標識およびCu(I)キレート部分を含む染色試薬を用いて、[3+2]環化付加を行ってもよい。
【0143】
染色試薬が高い細胞透過性を示さない実施形態では、透過は、細胞の細胞質、または細胞内成分もしくは細胞の構造への染色試薬のアクセスを容易にするように行われてもよい。詳細には、透過化処理は、試薬が細胞に進入することを可能にし、このような透過処理の非存在下で細胞へ正常に浸透する濃度よりも大きい細胞内濃度に達することを可能にし得る。
【0144】
細胞の透過化処理は任意の適切な方法によって行われてもよい(例えば、CA.Goncalvesら、Neurochem.Res.2000,25:885〜894を参照のこと)。このような方法としては限定はしないが、界面活性剤(detergent)(例えば、CHAPS、コール酸、デオキシコール酸、ジギトニン、n−ドデシル−β−D−マルトシド、ラウリル硫酸、グリコデオキシコール酸、n−ラウロイルサルコシン、サポニン、およびtriton X−100)に対する、または有機アルコール(例えば、メタノールおよびエタノール)に対する曝露が挙げられる。他の透過化方法は、膜透過能を付与する特定のペプチドまたは毒素の使用を包含する(例えば、O.Aguileraら、FEBS Lett.1999,462:273〜277;A.Bussingら、Cytometry,1999,37:133〜139)。適切な透過化剤の選択ならびにインキュベーションの条件および時間の最適化は、当業者によって容易に行われ得る。
【0145】
実施例2に記載のとおり、本出願人は、HeLa細胞をEdUの有無においてインキュベートして、この細胞を透過化して、それをXrhodamine−アジドで染色した。2つの細胞集団の蛍光画像は図5に示す。この図は、インビトロにおける本発明の標識方法の有効性を図示する。さらに、このような方法を用いる生きた細胞での標識DNAの検出は、数分内に完了することが見出された(図6および図7を参照のこと)。出願人らはまた、AdUの存在下でHeLa細胞をインキュベートして、Alexa568−アルキンで染色している(実施例7を参照のこと)。このように処置した細胞集団の蛍光画像は図16上に示される。
【0146】
(6.組織または器官における核酸ポリマーの標識)
本発明はまた、生物体(すなわち、生きている生物学的な系)において核酸ポリマーを標識するための方法を提供する。このような方法は、以下の工程を包含する:第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログをある生物体に投与して、その結果このヌクレオシドアナログがこの生物体の細胞におけるDNA中に組み込まれる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加がこの第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程。
【0147】
他に言及しない限り、これらの方法で用いられる染色試薬および[3+2]環化付加条件は、細胞の核酸ポリマーを標識する方法について上記されたものと同様であって、そして当業者によって容易に決定/最適化され得る。
【0148】
(A.生物体)
本発明の標識方法は、独立して作用するかまたは機能する能力を有するかまたは発達し得る任意の生物系を用いて行われてもよい。従って、本発明の標識方法は、単細胞系でまたは多細胞系で用いられてもよく、このような系としては、ヒト、動物、植物、細菌、原生動物および真菌が挙げられる。特定の好ましい実施形態では、本発明の標識方法は、ヒトまたは別の動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマまたは霊長類)で行われる。
【0149】
(B.生物系におけるDNA複製によるヌクレオシドアナログの組み込み)
生物体に対するヌクレオシドアナログの投与は、生物体の細胞のDNAへのヌクレオシドアナログの組み込みを生じる任意の適切な方法を用いて達成され得る。
【0150】
例えば、ヌクレオシドアナログは、生理学的にかつ臨床的に受容可能な溶液を用いて、当該分野における従来の方法に従って処方され得る。適切な溶液は、選択される投与経路に依存する。投与の適切な経路としては例えば、経口、直腸、経粘膜、経皮的、または腸内投与;非経口送達であって筋肉内、皮下、髄内の注射、ならびにくも膜下腔内、直接脳室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内または眼内の注射を含む非経口送達を挙げることができる。あるいは、このヌクレオシドアナログ調製は、全身的な方式ではなく局所に、例えば、特定の組織への注射を介して、しばしばデポ処方物または徐放性処方物において投与されてもよい。
【0151】
(C.[3+2]環化付加)
生物体の細胞のDNAへのヌクレオチドアナログの組み込み後、生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させる工程は、[3+2]環化付加が生じることを可能にする任意の適切な方法によって行われ得る。
【0152】
特定の実施形態では、細胞は、(例えば、生物体から血液を採取することによって)収集されるか、生検によって得られた組織から単離されるか(例えば、針生検、レーザー・キャプチャー・マイクロダイセクションまたは切開生検)、または生物体からもしくは生物体の一部から単離される(例えば、剖検で回収される)。次いで、細胞は、上記のような[3+2]環化付加染色に供されてもよい。
【0153】
1実施形態では、生検によって得られた組織、または剖検で回収された器官もしくは器官の一部は、当該分野で公知のように染色のために調製されて(例えば、パラフィン中で固定または、包埋され、そして切片にされる)、そして[3+2]環化付加試薬の存在下でインキュベートされてもよい(例えば、脱ろう後)。
【0154】
実施例4は、本発明の出願人によって行われる実験を記載しており、ここではマウスに、EdUを腹腔内に注射し、そしてその器官を注射の3日後に回収し、染色のために調製して、Xrhodamine−アジドを用いて、およびHoechst(DNA染色に特異的な蛍光色素)を用いて染色した。これらのマウスの腸の蛍光画像および脳の蛍光画像は、それぞれ図8および9、ならびに図10に示される。
【0155】
(7.単離された標識された核酸ポリマー)
別の局面では、本発明は、例えば、本明細書に記載される方法の1つによって調製される、単離された検出可能な核酸ポリマーを提供する。より詳細には、本発明は、[3+2]環化付加反応後に検出可能である核酸ポリマー、および[3+2]環化付加を介して組み込まれている少なくとも1つの検出可能部分を含む単離された核酸ポリマーを提供する。
【0156】
特定の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、反応性不飽和基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む。好ましくは、この反応性不飽和基は、標識に結合された異なる反応性不飽和基を含む試薬の存在下で[3+2]環化付加を受け得る。
【0157】
他の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、標識に結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む。例えば、ヌクレオチドアナログは、[3+2]環化付加から生じる環付加物を含んでもよい。
【0158】
さらに他の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、第一の不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログおよび第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む。この第一の反応性不飽和基は一般に、第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬の存在下で[3+2]環化付加を受け得、そしてこの第二の反応性不飽和基は一般に、第二の標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬の存在下で[3+2]環化付加を受け得る。
【0159】
さらに他の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、第一の標識に結合された少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログ、および第二の標識に結合された少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む。好ましくは、この第一のヌクレオチドアナログは、第一の[3+2]環化付加から生じる環化付加物を含み、そしてこの第二のヌクレオチドアナログは、第二の[3+2]環化付加から生じる環付加物を含む。
【0160】
本発明の検出可能な核酸ポリマーは、合成方法および酵素的な方法(例えば、総RNAの逆転写による)を含む、本明細書に記載されるような、任意の適切な方法によって調製され得る。
【0161】
当業者によって理解されるとおり、本発明の単離された検出可能な核酸ポリマーは、広範な種々の適用で用いられ得る。
【0162】
例えば、それらは、マイクロアレイに基づくハイブリダイゼーションアッセイを含む、ハイブリダイゼーションアッセイで検出プローブとして用いられ得る。このような適用では、検出可能な核酸ポリマーは好ましくはオリゴヌクレオチド(すなわち、核酸配列の短いストレッチ)である。ハイブリダイゼーションアッセイで用いられるオリゴヌクレオチドは一般に、約5〜約150ヌクレオチド、例えば、約15〜約100ヌクレオチド、または約15〜約50ヌクレオチドを含む。本発明によって提供されるこの検出可能な核酸ポリマーは、ハイブリダイゼーションアッセイ中のアレイまたはマイクロアレイに接触するように用いられ得る。このような実施形態では、この検出可能な核酸プローブは、適切な染色試薬とともに提供され得る。あるいは、検出可能な核酸ポリマーは、ハイブリダイゼーションアッセイのためにアレイまたはマイクロアレイに対して結合される。
【0163】
本発明によるアレイは、基板表面上の分散したスポットに固定された複数の検出可能な核酸ポリマーを含む。基板表面は、基板表面に対して検出可能な核酸ポリマーの直接的または間接的な結合(すなわち、固定)を可能にする、任意の剛直な、半剛体のまたは可塑性の物質を形成し得る。適切な物質としては、限定はしないが、セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ガラス、クオーツ以外の結晶基板、例えば、シリコーン、および種々のプラスチックおよびプラスチックコポリマーが挙げられる。蛍光が検出されるべき場合、シクロオレフィンポリマーを含むアレイが好ましくは用いられ得る。
【0164】
物質上の反応性の官能化学基の存在は、基板表面に対して検出可能な核酸ポリマーを直接または間接的に結合するように開発され得る。アレイを形成するために基板表面へオリゴヌクレオチドを固定する方法は当該分野で周知である。
【0165】
(8.検出可能な核酸ポリマーを含む細胞)
別の局面では、本発明は、例えば、本明細書に記載される1つ以上の方法によって調製される、検出可能な核酸ポリマーを含む細胞を提供する。より詳細には、本発明は、[3+2]環化付加反応後に検出可能である核酸ポリマーを含む細胞、ならびに[3+2]環化付加を介して組み込まれている少なくとも1つの検出可能部分を含む核酸ポリマーを含む細胞を提供する。当業者によって理解されるとおり、本発明の細胞は、本明細書に記載される任意の検出可能な核酸ポリマーを含んでもよい。
【0166】
(II.シュタウディンガー・ライゲーションを介する核酸ポリマーの標識)
本発明のいくつかの標識方法は一般に、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチド上のアジド基と標識に結合された置換トリアリールホスフィンとの間のシュタウディンガー・ライゲーションを包含する。このような標識方法の例は図18に概要的に示されており、かつ従来のBrdU標識方法と比較される。
【0167】
(1.ヌクレオシドおよびヌクレオチドアナログ)
これらの方法の実施における使用に適切なヌクレオシドアナログ(またはヌクレオチドアナログ)としては、アジド基を含む、本明細書に規定されるような任意のヌクレオシドアナログ(またはヌクレオチドアナログ)が挙げられる。ある実施形態では、このアジド基は、ヌクレオシド(またはヌクレオチド)の塩基によって担持される。アジド基を担持する塩基は、プリン(例えば、アデニンまたはグアニン)であっても、またはピリミジン(例えば、シトシン、ウラシルまたはチミン)であってもよい。特定の実施形態では、この塩基はウラシルである;このようないくつかの実施形態では、ウラシルは、5位置にアジド基を担持し得る。アジド基はこの塩基に直接または間接的に共有結合されてもよい。好ましくは、アジド基はこの塩基に直接共有結合される。
【0168】
本発明の実施において用いられ得る例示的なヌクレオシドアナログとしては、5−アジド−2’−デオキシウラシル(本明細書においてはまたアジドウラシルとも呼ばれる)、ならびにその三リン酸塩およびホスホラミダイト型が挙げられる。本出願人は、アジド−dUMPを合成するためのP.Sunthankarら、Anal.Biochem.,1998,258:195〜201に記載の方法と類似の方法を用いて5−アジド−2’−デオキシウリジン(AdU)を調製した。
【0169】
これらの方法によって生成され、かつこれらの方法で利用される核酸ポリマーは、上記のように調製、精製および/または配列決定され得る、任意の広範なサイズの一本鎖または二本鎖の核酸ポリマーであってもよい。
【0170】
(2.シュタウディンガー・ライゲーション)
既に上述されているとおり、本明細書に提供される方法のいくつかは一般には、シュタウディンガー・ライゲーション反応を包含する。これらの方法では、シュタウディンガー・ライゲーションは、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログ上のアジド基と、標識に結合された置換されたトリアリールホスフィンを含む染色試薬との間で生じる。
【0171】
シュタウディンガーについての反応条件の最適化は、当該分野の技術の範囲内である。特定の好ましい実施形態では、このシュタウディンガー・ライゲーションは、水性条件下で行われる。反応条件の例は、例えば、E.Saxonら、Science,2000,287:2007〜2010;E.Saxonら、Org.Lett.2000,2:2141〜2143;K.L.Kiickら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2002,99:19〜24;G.A.Lemieuxら、J.Am.Chem.Soc,,2003,125:4708〜4709;J.A.Prescherら、Nature,2004,430:873〜877に記載されている。
【0172】
(3.標識された核酸ポリマーの標識および検出)
本発明の方法のいくつかでは、このシュタウディンガー・ライゲーション反応は、核酸ポリマーの標識を生じる。
【0173】
(A.染色試薬)
これらの方法では、標識は、置換されたトリアリールホスフィンに結合される。特定の好ましい実施形態では、トリアリールホスフィンのアリール基の1つは、求電子性トラップ(例えば、アルキルエステル基)で置換される。好ましくは、この求電子トラップは、リン原子に対してオルトに位置する。標識と置換トリアリールホスフィンとの間の結合は好ましくは共有結合である。標識は置換トリアリールホスフィンに対して直接結合されても、またはリンカーを通じて間接的に結合されてもよい。
【0174】
化学分子に対して検出可能な部分を結合するための方法は当該分野で周知である。特定の実施形態では、この標識および置換トリアリールホスフィンは、お互いに直接共有結合される。直接の共有結合は、アミド結合、エステル結合、炭素間結合、ジスルフィド結合、カルバメート結合、エーテル結合、チオエーテル結合、尿素結合、アミン結合またはカルボネート結合を通じてであってもよい。この共有結合は、置換トリアリールホスフィンおよび検出可能部分に存在する官能基を利用することによって達成され得る。2つの化学部分を一緒に結合するために用いられ得る適切な官能基としては、限定はしないが、アミン、無水物、ヒドロキシ基、カルボキシ基およびチオールが挙げられる。直接結合はまた、活性化剤、例えば、カルボジイミドを用いて形成されてもよい。広範な活性化剤が当該分野で公知であり、そして標識および置換トリアリールホスフィンを連結するために適切である。
【0175】
他の実施形態では、この標識および置換されたトリアリールホスフィンはリンカー基を介してお互いに対して間接的に共有結合される。これは、上記のように、同種官能性および異種官能性のリンカーを含む(例えば、Pierce Catalog and Handbookを参照のこと)、当該分野で周知の多数の安定な二官能性物質を用いることによって達成され得る。上記のとおり、リンカーを切断して、核酸ポリマーの一時的な標識を可能にしてもよい。
【0176】
本発明のシュタウディンガー・ライゲーションベースの方法の実施で用いられ得る検出可能な因子は、上記の[3+2]環化付加方法の実施で用いられ得る因子と同じである。
【0177】
本発明はまた、核酸ポリマーの2色(またはそれ以上)の色の標識を提供する。例えば、本発明によれば、2つの異なる標識が2つの異なる核酸ポリマーに組み込まれてもよい。ある実施形態では、このような組み込みは、2つのシュタウディンガー・ライゲーションを介して達成される:第一のシュタウディンガー・ライゲーションは、第一の核酸ポリマーに組み込まれた第一のヌクレオチドアナログ上の第一のアジド基と、第一の置換トリアリールホスフィンに結合された第一の標識を含む第一の染色試薬との間で生じ;そして第二のシュタウディンガー・ライゲーションは、第二の核酸ポリマーに組み込まれた第二のヌクレオチドアナログ上の第二のアジド基と、第二の置換トリアリールホスフィンに結合された第二の標識を含む第二の染色試薬との間で生じる。例えば、この第一の核酸ポリマーおよび第二の核酸ポリマーは、2つの異なる細胞、細胞集団、細胞サンプルまたは組織由来であってもよい。この第一の標識および第二の標識は好ましくは、それらが識別可能な検出可能シグナルを生じるように選択される。適切な蛍光の第一の標識および第二の標識の例は上記されている。
【0178】
(B.標識された核酸ポリマーの検出)
シュタウディンガー・ライゲーションを介して標識された核酸ポリマーの検出は、[3+2]環化付加を介して標識された核酸ポリマーの検出について上記されたのと同じ方法で、かつ同じ技術を用いて行われてもよい。
【0179】
(C.シグナル対ノイズ比の改善)
別の局面では、本発明は、本明細書に開示される標識プロセスを用いて蛍光部分で標識された核酸ポリマーの検出においてシグナル対ノイズ比を改善するためのシステムを提供する。シュタウディンガー・ライゲーション標識反応によって消費されていない任意の分子の染色試薬が、バックグラウンド(すなわち、非特異的な)シグナルに寄与し得る。本発明は、クエンチング部分を含む分子との反応により試薬上の標識の蛍光シグナルをクエンチすることによってこのバックグラクンドシグナルを軽減または排除するためのストラテジーを提供する。例えば、ある実施形態では、未消費の試薬とクエンチャー部分を含む分子との間の反応は、シュタウディンガー・ライゲーションである(例えば、クエンチャー部分は、未反応の染色試薬のトリアリールホスフィンと反応するアジド基に結合される)。
【0180】
従って、本明細書に記載のように調製された蛍光標識された核酸ポリマーの検出におけるシグナル対ノイズ比を改善するための特定の本発明の方法は、置換されたトリアリールホスフィンに結合された蛍光標識を含む未反応試薬と、アジド基に結合されたクエンチング部分を含む分子とを接触させる工程であって、その結果このアジド基と置換されたトリアリールホスフィンとの間でシュタウディンガー・ライゲーションが生じる工程を包含する。反応後、蛍光標識とクエンチング部分との間の物理的な近接が、蛍光標識からの蛍光シグナルの検出を妨げる。クエンチング部分の例は上記されている。
【0181】
(4.細胞における核酸ポリマーの標識)
本発明はまた、シュタウディンガー・ライゲーションを用いて細胞中で核酸ポリマーを標識するための方法を提供する。このような方法は以下を包含する:細胞と、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、結果としてこのヌクレオシドアナログが細胞のDNAに組み込まれる工程と;この細胞と、置換されたトリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させて、結果としてシュタウディンガー・ライゲーションがアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程。
【0182】
他に言及しない限り、これらの方法で用いるのに適切な染色試薬およびシュタウディンガー・ライゲーション条件は、核酸ポリマーを標識する方法について上記された条件と類似である。同様に、細胞、細胞増殖条件および本発明の方法に適切であるDNA複製によるヌクレオシドアナログの組み込みのための条件は、[3+2]環化付加に基づく方法について上記された条件と同一である。
【0183】
インビトロ細胞のDNAへのヌクレオチドアナログの組み込み後、この細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させる工程は、任意の適切な方法によって行われ得る。ある実施形態では、この細胞は、適切なインキュベーション培地(例えば、培養培地)中で染色試薬の存在下で37℃で、かつ細胞へのこの試薬が浸透して、この細胞のDNA中に組み込まれた任意のヌクレオチドアナログと反応するのに十分な時間インキュベートされる。染色試薬の濃度、シュタウディンガー・ライゲーション反応時間および条件の最適化は、当該分野の技術の範囲内である。
【0184】
(5.組織または器官における核酸ポリマーの標識)
本発明はまた、シュタウディンガー・ライゲーション反応を用いて生物体(すなわち、生きている生物学的な系)において核酸ポリマーを標識するための方法を提供する。このような方法は以下を包含する:ある生物体に対して、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、結果としてこのヌクレオシドアナログがこの生物体の細胞におけるDNAに組み込まれる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞を、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させ、結果としてシュタウディンガー・ライゲーションがこのアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程。
【0185】
他に言及しない限り、これらの方法で用いられる染色試薬およびシュタウディンガー・ライゲーション条件は、細胞における核酸ポリマーを標識する方法について上記されるものと同様である。同様に、本発明の方法に適切である生物系におけるDNA複製によるヌクレオシドアナログの組み込みのための生物体および条件は、[3+2]環化付加ベースの方法について上記されるものと同一である。
【0186】
生物体の細胞のDNAへのヌクレオチドアナログの組み込み後、生物体の少なくとも1つの細胞と、置換されたトリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色剤とを接触させる工程は、シュタウディンガー・ライゲーションが生じることを可能にする任意の適切な方法によって行われ得る。
【0187】
(6.単離された標識核酸ポリマー)
別の局面では、本発明は、例えば、本明細書に記載の方法の1つによって調製された、単離された検出可能な核酸ポリマーを提供する。より詳細には、本発明は、シュタウディンガー・ライゲーション反応後に検出可能である核酸ポリマー、およびシュタウディンガー・ライゲーションを介して組み込まれている少なくとも1つの検出可能な部分を含む単離された核酸ポリマーを提供する。
【0188】
特定の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオチドを含む。他の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、標識に結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む。好ましくはこの標識は、シュタウディンガー・ライゲーションを通じて結合されており、そしてアミド基およびホスフィン・オキシド官能基を含む。
【0189】
本発明の検出可能な核酸ポリマーは、合成方法および酵素的な方法(例えば、総RNAの逆転写による)を含む、本明細書に記載されるような任意の適切な方法によって調製され得る。このような標識された核酸ポリマーは、上記されるような広範な種々の適用で用いられ得る。
【0190】
(7.検出可能な核酸ポリマーを含む細胞)
別の局面では、本発明は、例えば、本明細書に記載される方法の1つ以上によって調製される、検出可能な核酸ポリマーを含む細胞を提供する。より詳細には、本発明は、シュタウディンガー・ライゲーション後に検出可能である核酸ポリマーを含む細胞、およびシュタウディンガー・ライゲーションを介して組み込まれている少なくとも1つの検出可能部分を含む核酸ポリマーを含む細胞を提供する。
【0191】
(III.DNA複製/細胞増殖の決定)
別の局面では、本発明は、細胞または生物体において細胞増殖および/または細胞増殖速度を測定するための方法を提供する。
【0192】
このような方法は、以下の工程を包含し得る:細胞と、第一の反応性不飽和基を含むヌクレオシドアナログの有効な量とを接触させて、結果としてこのヌクレオシドアナログが細胞のDNAに組み込まれる工程と;この細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、結果として[3+2]環化付加が、第一の反応性不飽和基と第二の反応性不飽和基との間で生じる工程と;このDNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程。特定の実施形態では、標識の量によって、細胞増殖の程度についての情報が得られる。他の実施形態では、標識の量によって、細胞増殖の速度についての情報が得られる。
【0193】
他の方法は、以下の工程を包含し得る:細胞と、アジドを含むヌクレオシドアナログの有効量とを接触させ、結果としてこのヌクレオシドアナログが細胞のDNAに組み込まれる工程と;この細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させ、結果としてシュタウディンガー・ライゲーションがこのアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;DNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程。ある実施形態では、標識の量によって、細胞における細胞増殖の程度についての情報が得られる。ある実施形態では、標識の量によって細胞増殖の速度についての情報が得られる。
【0194】
さらに他の方法は、以下の工程を包含する:生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含むヌクレオシドアナログの有効量を投与して、結果としてこのヌクレオシドアナログがこの生物体の細胞のDNAに組み込まれる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させ、結果として[3+2]環化付加が第一の反応性不飽和基と第二の反応性不飽和基との間で生じる工程と;DNAに組み込まれた標識の量を決定して、この生物体における細胞増殖を測定する工程。特定の実施形態では、標識の量によって、生物体における細胞増殖の程度についての情報が得られる。他の実施形態では、標識の量によって、生物体における細胞増殖の速度についての情報が得られる。
【0195】
さらに他の方法は、以下の工程を包含する:生物体に対して、アジドを含むヌクレオシドアナログの有効量を投与して、結果としてこのヌクレオシドアナログがこの生物体の細胞のDNAに組み込まれる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞と、置換されたトリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させ、結果としてシュタウディンガー・ライゲーションがこのアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;DNAに組み込まれた標識の量を決定して、生物体における細胞増殖を測定する工程。特定の実施形態では、標識の量によって、生物体における細胞増殖の程度についての情報が得られる。他の実施形態では、標識の量によって生物体における細胞増殖の速度についての情報が得られる。
【0196】
これらの方法は、細胞および生物体において核酸ポリマーを標識する方法について、本明細書に記載されるような技術および手順を用いて行われ得る。このような方法では、接触工程および/または投与工程を行う方式、染色試薬のタイプ、標識のタイプおよびこのような標識の検出のための技術は、細胞または生物体において核酸ポリマーを標識する工程に関する、本発明の他の方法について記載されたものと同様である。
【0197】
本発明に従って、細胞増殖または細胞増殖速度を測定するための方法は、広範な種々の適用で用いられ得、この適用としては、限定はしないが、細胞株の特徴づけ、細胞培養条件の最適化、細胞増殖の正常な特徴づけ、疾患および損傷した組織、ならびに細胞増殖が関与する種々の疾患および障害の診断が挙げられる。
【0198】
多数の疾患および障害は、変更された細胞増殖速度によって特徴付けられることが公知であり、従って、本発明の方法によって言及され得る。このような疾患および障害としては限定はしないが、任意のタイプの悪性腫瘍(例えば、乳房、肺、結腸、皮膚、リンパ腫、白血病など);前ガン状態(例えば、腺腫、ポリープ、前立腺肥大、潰瘍性大腸炎など);免疫障害、例えば、AIDS、自己免疫障害および原発性免疫不全;血液学的状態、例えば、白血球欠乏(例えば、顆粒球減少症)、任意のタイプの貧血、骨髄増殖症候群、リンパ増殖症候群など;器官不全、例えば、アルコール性肝炎およびウイルス性肝炎、糖尿病性腎症、筋栄養状態、早発性腺機能不全など;骨および筋に影響する状態、例えば、骨粗鬆症;内分泌状態、例えば、糖尿病、甲状腺機能低下症および甲状腺機能亢進症、多嚢胞性卵巣など;感染性疾患、例えば、結核、細菌感染、膿瘍および他の局在する組織感染、ウイルス感染など;ならびに血管障害、例えば、アテローム発生、心筋症などが挙げられる。
【0199】
(IV.使用の方法)
本明細書に開示されるような、核酸ポリマーを標識するため、および細胞増殖または細胞増殖速度を測定するための方法は、下にいくつか記載される広範な種々の適用で用いられ得る。
【0200】
(1.スクリーニングアッセイ)
別の局面では、本発明は、細胞増殖を混乱させる因子の特定のための方法を提供する。これらの方法は、因子が細胞増殖を誘導(すなわち、増大、増強そうでなければ増悪)するか、または阻害(すなわち、減少、遅らせるかそうでなければ抑制)する能力についてスクリーニングするために用いられ得る。
【0201】
例えば、このような方法は、以下の工程:(a)細胞と試験因子とを接触させる工程;(b)この細胞と、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログをこの細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;(d)このDNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が、細胞増殖の程度または速度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、細胞が試験因子に接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子を細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含し得る。
【0202】
他の方法は以下の工程:(a)細胞と試験因子とを接触させる工程と;(b)この細胞と、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログをこの細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;(d)DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度または速度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、細胞が試験因子と接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子を細胞増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含し得る。
【0203】
これらの方法の特定の実施形態では、細胞は、その細胞がヌクレオシドアナログと接触させられた後に、試験因子と接触させられる(すなわち、工程(b)は工程(a)の前に行われる)。
【0204】
細胞を接触させる工程を行う方式;染色試薬;標識タイプ;および標識された核酸ポリマーを検出する方法は、細胞増殖および細胞増殖速度を細胞中でインビトロにおいて測定することに関する本発明の他の方法について記載されるものと同様である。
【0205】
当業者によって理解されるとおり、本発明のスクリーニング方法はまた、細胞集団を調節する化合物または因子(すなわち、過剰増殖性の細胞の増殖を低減、減速もしくは抑制し得るか、または過少増殖性の細胞の増殖を増大、増強もしくは増幅し得る化合物もしくは因子)を特定するために用いられ得る。
【0206】
(A.スクリーニングアッセイのための細胞)
本発明のスクリーニングアッセイは、標準的な組織培養プラスチック製品中で増殖され得る、任意の正常なまたは形質転換細胞を用いて行われてもよい。細胞は、初代細胞、二次細胞または固定された細胞であってもよい。好ましくは、本発明のスクリーニング方法で用いられるべき細胞は、哺乳動物(ヒトまたは動物)由来の細胞である。細胞は、上記のように、任意の器官または組織由来、そして任意の細胞タイプの細胞であってもよい。
【0207】
本発明によるスクリーニングアッセイを行うための特定の細胞タイプおよび/または細胞株の選択は、試験されるべき因子の性質、およびアッセイの意図される目的のようないくつかの要因によって管理される。例えば、一次薬物スクリーニング(すなわち、初回のスクリーニング)のために開発された毒性アッセイは好ましくは、市販されており、かつ増殖することが通常比較的容易である樹立された細胞株を用いておこなわれてもよいが、薬物開発プロセスで後に用いられるべき毒性アッセイは好ましくは、不死化細胞よりも入手、維持および/または増殖がしばしば困難であるが、インビトロの状況ではより優れた実験モデルを示す、初代または二次細胞を用いて行われてもよい。
【0208】
特定の実施形態では、このスクリーニング方法は、マルチウェル・アッセイ・プレートの複数のウェルに含まれる細胞を用いて行われる。このようなアッセイプレートは例えば、Strategene Corp.(La Jolla,CA)およびCorning
Inc.(Acton,MA)から市販されており、そしてこれには、例えば、48−ウェル、96−ウェル、384−ウェルおよび1536−ウェルのプレートが挙げられる。
【0209】
(B.試験因子)
当業者によって理解されるとおり、任意の種類の化合物または因子が、本発明の方法を用いて試験され得る。試験化合物は、合成化合物であっても天然化合物であってもよい;これは、単一の分子であっても、異なる分子の混合物であっても、または異なる分子の複合体であってもよい。特定の実施形態では、本発明の方法は、1つ以上の化合物を試験するために用いられる。他の実施形態では、本発明の方法は、化合物のコレクションまたはライブラリーをスクリーニングするために用いられる。
【0210】
細胞増殖を混乱(すなわち、誘導または阻害する)かまたは調節する可能性または能力について試験され得る化合物は、任意の種々のクラスの分子に属してもよく、これには限定はしないが、低分子、ペプチド、糖類、ステロイド、抗体(そのフラグメントまたは改変体を含む)、融合タンパク質、アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、低分子干渉RNA、ペプチド模倣物などが挙げられる。
【0211】
本発明の方法に従って試験されるべき化合物または因子は、細胞増殖を混乱または調節することが公知であるかまたは疑われ得る。あるいは、このアッセイは、細胞増殖に対する影響が未知である化合物または因子を用いて行われてもよい。
【0212】
細胞増殖に影響し得る、そして本発明の方法によって試験され得る化合物の例としては、限定はしないが、発癌性物質;毒性因子;化合物、例えば、溶媒;突然変異誘発物質;薬物;煙(タバコ、葉巻および産業プロセスからの煙を含む)のなかの微粒子、ガスおよび有害化合物;食品添加物;生化学的物質;ホルモン;殺虫剤;地下水の毒素;および環境汚染物質が挙げられる。細胞増殖に影響し得る、そして本発明の方法によって試験され得る因子の例としては、限定はしないが、マイクロ波放射、電磁放射、放射線照射、電離放射線、熱、および、産業環境または職業環境によって生じるかまたはそこに存在する他の危険な状態が挙げられる。
【0213】
(C.細胞増殖を誘導または阻害する因子の特定)
本発明のスクリーニング方法に従って、試験因子が細胞増殖を混乱または調節する能力の決定は、試験因子と接触されている細胞のDNAに組み込まれた標識の量と、試験因子と接触されていない細胞のDNAに組み込まれた標識の量との比較を包含する。
【0214】
試験因子は、試験因子と接触させられている細胞のDNAに組み込まれた標識の量が、コントロール細胞で測定される標識の量よりも小さいかまたは大きい場合に、細胞増殖を混乱させる因子として特定される。より詳細には、試験因子と接触させられている細胞のDNAに組み込まれた標識の量が、コントロール細胞で測定される標識の量よりも小さい場合に、この試験因子は、細胞増殖を阻害する因子として特定される。試験因子と接触させられている細胞のDNAに組み込まれた標識の量が、コントロール細胞で測定される標識の量よりも大きい場合に、この試験因子は、細胞増殖を誘導する因子として特定される。
【0215】
結果の再現性は、同じ濃度の試験因子を用いて2回以上分析を行うことによって(例えば、アッセイプレートの2ウェル以上で細胞をインキュベートすることによって)試験され得る。さらに、試験因子は、因子の性質およびその作用機序の性質に依存して種々の濃度で有効であり得るので、種々の濃度の試験因子が、試験され得る(例えば、細胞を含む異なるウェルに添加される)。一般には、1fM〜約10mMの試験因子濃度を、スクリーニングに用いる。好ましいスクリーニング濃度は、約10pM〜約100μMである。
【0216】
特定の実施形態では、本発明の方法はさらに、1つ以上の陰性または陽性のコントロール化合物の使用を包含する。陽性のコントロール化合物とは、細胞増殖を混乱する(すなわち、誘導または阻害する)かまたは調節することが公知である任意の分子または因子であり得る。陰性のコントロール化合物とは、細胞増殖に対して検出可能な影響を有さないことが公知である任意の分子または因子であってもよい。これらの実施形態では、本発明の方法はさらに、この因子の影響を、陽性または陰性コントロール化合物の影響(またはその非存在)に比較する工程を包含する。
【0217】
当業者によって理解されるとおり一般には、細胞増殖を混乱させる因子か、または調節する因子として本発明のスクリーニング方法によって特定される因子を、さらに特徴付けることが望ましい。例えば、試験化合物が、所定の細胞系(例えば、樹立された細胞株)を用いて細胞増殖を混乱する(または調節する)因子として特定されている場合、種々の細胞培養系(例えば、初代細胞または二次細胞)においてこの能力を試験することが所望され得る。
【0218】
本発明のスクリーニング方法によって特定される試験因子はまた、インビボで因子の特性の決定を可能にするアッセイでさらに試験されてもよい。
【0219】
従って、本発明は、細胞増殖または細胞増殖速度をインビボで混乱させる因子を特定するための方法を提供する。このような方法は以下の工程を包含する:(a)生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;(b)この生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果このヌクレオシドアナログをこの生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;(d)DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度または細胞増殖の速度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、生物体が試験因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子をこの生物体における細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程。
【0220】
本発明はまた、細胞増殖また細胞増殖速度をインビボで混乱させる因子を特定するための方法を提供する。このような方法は、以下の工程を包含する:(a)生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;(b)この生物体に対して、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果このヌクレオシドアナログをこの生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この生物体の少なくとも1つの細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが、このアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;(d)このDNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度または細胞増殖の速度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、生物体が試験因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子をこの生物体における細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程。
【0221】
特定の実施形態では、この試験因子は、この生物体がヌクレオシドアナログと接触させられた後に、投与される(すなわち、工程(b)は工程(a)の前に行われる)。
【0222】
当業者によって理解されるとおり、これらの方法は、インビボで細胞増殖を調節する因子を特定するために用いられ得る。
【0223】
投与の方式、染色試薬、標識のタイプ、および標識された核酸ポリマーの検出方法は、生きている系において細胞増殖を測定することに関する本発明の他の方法について本明細書において記載される方法と類似である。
【0224】
(2.細胞周期の研究)
本発明の標識方法は、固定および変性を必要とせず、従って生きている細胞における適用に適切であって、細胞周期の複雑な時空間的機構の研究に用いられ得る。種々の混乱の有無における細胞周期の機構の明確な理解によって、ガンのようなヒト疾患を制御または処置するための新規な治療的アプローチの開発への道が開かれ得る。最近まで、核の構造のほとんどの研究は、固定された細胞で行なわれた(A.I.LamondおよびW.C.Earnshaw,Science,1998,280:457〜553)。しかし、経時的蛍光顕微鏡画像化法はこれまで、生きた細胞核が観察され、かつ動的な方式で研究されること、そして従来の固定された細胞顕微鏡技術よりもかなり豊富な情報内容を与えることを可能にすることが実証されている(Y.HiraokaおよびT.Haraguchi,Chromosome Res.,1996,4:173〜176;T.Kandaら、Curr.Biol.,1998,8:377〜385)。
【0225】
図11に示されるとおり、本発明の方法によって、複製を受けているDNAの特異的な標識、および細胞の特徴づけが、有糸分裂(例えば、分裂後期)または静止期として可能になる。従って、本明細書に開示される標識方法および画像化技術、例えば、経時的蛍光顕微鏡画像化法またはフローサイトメトリーは、種々の混乱条件下で種々の細胞タイプの細胞周期について基礎的な知識を獲得することを補助し、かつ細胞周期に影響する新規な薬物の開発を可能にし得る。
【0226】
従って、本発明の方法は、広範な種々の病的条件の研究に適用され得る。例えば、ガンは次第に細胞周期疾患としてとらえられている。この観点は、大部分の腫瘍が、細胞増殖の増大をもたらす細胞周期機構を狂わせる欠陥を被っているという証拠を反映する。このような欠陥は、細胞周期自体の成分、または細胞周期事象を誘発するように最終的に集る上流のシグナル伝達カスケードの要素のいずれかを標的とし得る。ガンは細胞周期調節不全に関連すると考えられる唯一の臨床状態ではない(M.D.Garrett,Curr.Sci.2001,81:515〜522)。例えば、ニューロンがヒト神経変性疾患で死ぬ機構は、今日まで謎のままである(I.Vincentら、Prog.Cell Cycle Res.,2003,5:31〜41)。正常な脳の最終的に分化したニューロンは、細胞分裂できない。しかし、蓄積している証拠によって、特定の神経変性疾患における細胞周期の異常な活性化はそれらの死滅をもたらすということが示唆されている。この細胞周期媒介性の変性カスケードの詳細を解明することによって、特定の神経変性性疾患の発現および進行を抑制するための新規なストラテジーがもたらされ得る。同様に、細胞分裂の操作は、心血管系の機能に対して有益または病理的な結果を有し得るということが公知である(M.BoehmおよびE.G.Nabel,Prog.Cell Cycle Res.,2003,5:19〜30)。損傷後の心筋細胞が増殖して再生できないことによって、身体的障害に関連する心機能の障害が生じ、そして死亡がもたらされ得る。心筋細胞が増殖および再生できないことにつながる、心筋細胞における遺伝子プログラムは理解されていないが、同定されれば、このプログラムは、細胞周期を再開始することおよび心筋細胞の増殖を目的とする治療につながり得る。
【0227】
(3.染色体構造)
本発明の標識方法はまた、染色体の超構造の研究のために用いられ得る。
【0228】
例えば、本発明の標識方法は、姉妹染色分体交換(sister chromatic
exchange)(SCE)を研究するために用いられ得る。SCEは、天然のプロセスであって、2つの姉妹染色分体が壊れて、染色体上の1つの別の物理的に切り換わる位置で再結合する(S.Wolf,Annu.Rev.Genet.,1977,11:183〜201;S.A.Latt,Annu.Rev.Genet.,1981,15:11〜53)。このような交換は、細胞複製の間に生じ、ここでは約10のSCEが、正常に周期しているヒト細胞で自然に生じる(P.E Crossenら、Hum.Genet,1977,35:345〜352;S.M.GallowayおよびH.J.Evans,1975,15:17〜29)。SCEはまた、種々の遺伝子毒性処理によって誘導され得(L.Hagmarら、Cancer Res.,1998,58:4117〜4121)、このことは、SCEがDNA修復プロセスを反映することを示唆している。SCEの検出は、姉妹染色分体を示差的に標識するといういくつかの手段を要し、そしてこれは2つの完全な細胞周期の継続期間のためにBrdUを含有する培地中で細胞を培養することによって伝統的に行われている。本発明の標識方法は、BrdUの代わりに用いられ得る(図12を参照のこと)。図13に示されるとおり、本明細書に開示される標識方法によって、染色体を形成する2つのDNA分子のうちの1つだけを染色することが可能になる。
【0229】
本発明の標識方法はまた、動原体−微小管相互作用および動原体性の粘着を研究するための新規なツールとして用いられ得る。細胞分裂の間の染色体の適切な分離は、遺伝子の安定性の維持に必須である。このプロセスの間、染色体は、動原体性の異質クロマチンの表面上に位置する特定のタンパク質構造である動原体を通じて微小管との安定な機能的な相互作用を確立しなければならない。多数の微小管に対する動原体の安定な結合は、染色体の動きを媒介する動原体線維の形成を生じる。染色体分離の忠実度は、動原体と微小管との間の正確な相互作用に依存するが、この相互作用が媒介され、そして調節される方法は依然として明らかではない(M.B.Gordonら、J.Cell Biol.,2001,152:425〜434;A.A.Van HooserおよびR.Heald,Curr.Biol.,2001,11:R855〜857;S.BigginsおよびC.E.Walczak,Curr.Biol,2003,13:R449〜460;H.Maiatoら、J.Cell Sci.,2004,117:5461〜5477;H.MaiatoおよびC.E.Sunkel,Chromosome Res.,2004,12:585〜597)。動原体は、細胞分裂の間の染色体の適切な分離に必須である染色体の特定の領域である。これは動原体がアセンブルされる部位である。有糸分裂の間、複製された姉妹染色体は、紡錘体に結合するように粘着を維持しなければならない。分裂後期には、粘着は染色体全体にそって同時に失われ、姉妹は互いに離れて、これらが反対の極に分離することが可能になる。有糸分裂の間の染色体の粘着を担う分子機構は、不明瞭なままである(K.J.DejおよびT.L.Orr−Weaver,Trends Cell Biol,2000,10:392〜399;T.Fukagawa,Chromosome Res.,2004,12:557〜567;S.Salicら、Cell,2004,118:567〜578)。
【0230】
(4.RNAの標識およびRNA局在化の研究)
本発明の標識方法は、RNAを標識するために用いられ得る。
【0231】
本発明の特定の方法は、リボヌクレオチドポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログ上の第一の反応性の不飽和基と、標識に結合された第二の反応性不飽和基との間の[3+2]環化付加を包含する。この[3+2]環化付加反応によって、リボヌクレオチドポリマーの標識が生じる。
【0232】
本発明の他の方法は、リボヌクレオチドポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログ上のアジド基と、標識に結合された置換トリアリールホスフィンとの間のシュタウディンガー・ライゲーションを包含する。このシュタウディンガー・ライゲーションによって、リボヌクレオチドポリマーの標識が生じる。
【0233】
このような方法では、ヌクレオチドアナログを含むリボヌクレオチドポリマーは、当該分野で公知の任意の適切な方法によって調製され得る。例えば、このリボヌクレオチドポリマーは、基質としてヌクレオチド三リン酸(ヌクレオチドアナログ三リン酸を含む)の存在下でT3、T7またはSP6ポリメラーゼプロモーターの下流でクローニングされた、DNAのインビトロ転写によって合成されてもよい。あるいは、リボヌクレオチドポリマーは、増幅方法を用いて調製されてもよい。
【0234】
本発明の標識方法は、多くの遺伝子のmRNA転写物レベルを平行して測定するマイクロアレイ・ハイブリダイゼーション・アッセイで用いられてもよい。
【0235】
本発明の標識方法はまた、タンパク質およびペプチドのインビトロ選択のための無細胞系である、リボソームディスプレイに適用を見出し得る(C.TuerkおよびL.Gold,Science 1990,249:505〜510;G.F.Joyce,Gene 1989,82:83〜87;J.W.Szostak,Trends Biochem.Sci.1992,17:89〜93;D.E.Tsaiら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1992,89:8864〜8868;J.A.Doudnaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1995,92:2355〜2359;C.Shaffitzelら、J.Immunol.Methods,1999,231:119〜135;D.LipovselおよびA.Pluckthun,J.Immunol.Methods,2001,290:51〜67;A.M.Jacksonら、Brief Funct.Genomic Protreomic,2004,2:308〜319)。これらの選択アッセイは一般に、目的のタンパク質または分子へRNAライブラリーを加える工程、未結合のRNAを洗い去る工程、およびタンパク質に結合したRNAを特異的に溶出させる工程を包含する。次いで、RNAを逆転写して、PCRによって増幅する。次いで、得られたcDNAを検出目的のためにヌクレオチドアナログの存在下で転写する。タンパク質または目的の他の分子に結合することが見出されるこれらの分子を、クローニングして、配列決定して、共通の配列を探す。次いで、この共通の配列を用いて、治療用オリゴヌクレオチドを開発する。
【0236】
本発明のRNA標識方法はまた、生きている細胞においてmRNAの動き(輸送および局在化)を可視化するために用いられ得る。mRNAの局在化は、タンパク質をその作用部位に標的する遺伝子発現の転写後調節の一般的な方式である(I.M.PalaciosおよびD.St Johnston,Annu.Rev.Cell Dev.Biol.,2001,17:569〜614;R.P.Jansen,Nature Rev.Mol.Cell Biol.,2001,2:247〜256;M.Klocら、Cell,2002,108:533〜544)。最も特徴付けられた局在するmRNAの多くは卵母細胞および早期の胚で見出され、ここでそれらは、軸の形成および生殖系列の発達を制御する局在性決定要因として機能する。mRNAの局在化はまた、ニューロンのような体細胞において重要な役割を果たし、ここでは学習および記憶に関与し得ることが示されている。種々のmRNAの可視化方法が、mRNA輸送および局在化に関与する機構および機序を特定するために開発されており、これは、RNAへのアミノアライ(aminoally)−ウリジン三リン酸組み込み、続いてフルオレセインまたはローダミンカップリングおよびRNAへのAlexa−Fluor−ウリジン三リン酸の直接組み込みを包含する(V.Van de BorおよびI.Davis,Curr.Opin.Cell Biol,2004,16:300〜307)。本発明に従ってインビトロで蛍光標識されるmRNA分子は、生きている細胞に導入されて、それらの動きがリアルタイムでモニターされ得る。
【0237】
(V.キット)
別の局面では、本発明は、本発明の方法の1つ以上を行うために有用な物質を含むキットを提供する。本発明のキットは、診断検査室、臨床研究室、実験室または施術者によって用いられ得る。本発明は、これらの種々の設定で用いられ得るキットを提供する。
【0238】
本発明に従う核酸ポリマーを標識するための基礎的な物質および試薬は、キット中に一緒にまとめられてもよい。核酸ポリマーを標識するための本発明のキットは、第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つのヌクレオシドアナログ;および標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬を備えてもよい。核酸ポリマーの二重標識のための本発明のキットは、第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオシドアナログ;第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオシドアナログ;第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬;および第二の標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬を備える。あるいは、またはさらに、核酸ポリマーを標識するための本発明のキットは、アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオシドアナログと;置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを備えてもよい。2つの核酸ポリマーの示差的な標識のための本発明のキットは、アジド基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオシドアナログと;アジド基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオシドアナログと;置換トリアリールホスフィンに結合された第一の標識を含む第一の染色試薬と、置換トリアリールホスフィンに結合された第二の標識を含む第二の染色試薬と、を備えてもよい。
【0239】
各々のキットは好ましくは、特異的な手順を付与する試薬を備える。従って、検出可能な因子がハプテンである場合、このキットは好ましくは、対応する適切な抗体を含む。同様に、生きている生物体において核酸ポリマーを標識するために用いることを意図するキットは、生きている生物体に投与できるように処方されたヌクレオシドを含む。細胞増殖を誘導または阻害する能力について化合物をスクリーニングするために用いられることを意図するキットは、本発明の標識された核酸ポリマーを含む細胞を備えてもよい。
【0240】
特定の本発明のキットはさらに、[3+2]環化付加反応を行うために有用な緩衝液および/または試薬、例えば、水性媒体およびcu(I)を含んでもよい。他の本発明のキットはさらに、シュタウディンガー・ライゲーション反応を行うために有用な緩衝液および/または試薬を含んでもよい。
【0241】
本発明のキットはさらに、以下の1つ以上を含んでもよい:洗浄緩衝液および/または試薬、細胞固定緩衝液および/または試薬、免疫組織化学緩衝液および/または試薬、DABフォトコンバージョン緩衝液および/または試薬、ならびに検出手段。この緩衝液および/または試薬は好ましくは、キットが意図する特定の標識/検出技術について最適化される。この手順の種々の段階を行うためにこれらの緩衝液および試薬を用いるためのプロトコールも、このキットに包含されてもよい。
【0242】
キットはまた、生物体からの細胞の単離のための装置(例えば、針生検シリンジ)および/または試薬を備えてもよい。
【0243】
この試薬は、固体(例えば、凍結乾燥)または液体型で供給されてもよい。本発明のキットは必要に応じて、各々の個々の緩衝液および/または試薬について異なる容器(例えば、バイアル、アンプル、試験管、フラスコまたはボトル)を備える。各々の成分は一般に、そのそれぞれの容器中でアリコートとして適切であるか、または濃縮型で提供される。標識/検出アッセイの特定の段階を行うために適切な他の容器もまた提供され得る。このキットの個々の容器は好ましくは、商業的用途のために厳重に封じ込めて維持される。
【0244】
本発明の1つ以上の方法に従うキットを用いるための説明書は、核酸ポリマーを標識するための説明、細胞増殖を測定するための説明、得られた結果を解釈するための説明、および医薬品または生物製剤の製造、使用または販売を規制する政府機関(例えば、FDA)の規定する形態の注意書きを備えてもよい。
【実施例】
【0245】
以下の実施例は、本発明を作成および実施する好ましい態様のいくつかを記載する。しかし、これらの例は、例示的な目的でしかなく、本発明の範囲を限定することは意味しないことが理解されるべきである。さらに、実施例の記載が過去形で示されない限り、本文章は、本明細書の残りと同様に、実験が現実に行なわれたか、またはデータが実際に得られたということを示唆することは意図しない。
【0246】
(実施例1:エチニル−dUを用いる細胞の標識のための一般的プロトコール)
エチニル−dU(EdU)を、標識パルスの長さに依存して10nM〜1μMの範囲におよぶ組織培養培地(ペニシリン、ストレプトマイシンおよびウシ胎仔血清(FCS)を補充したDMEM)中で用いた。例えば、標識される細胞が、S期で同調された場合、100nM〜1μMのEdUを1〜2時間用いた。標識後、この細胞をPBSを用いて3または4回洗浄し、次いで、組織培養培地を添加した。
【0247】
(生きている細胞の染色:)
染色溶液:100mMのTris、pH8.5(水に含まれる2Mのストックより)、0.5〜1mMのCuSO4(水に含まれる1Mのストックより)、0.5〜1μMのTMR−プロピル−アジド(DMF中に含まれる約100mMのストックより)、および水(必要に応じて)を、一緒に混合した。次いで、アスコルビン酸(水中に含まれる0.5mMのストックより)をこの溶液に、最終濃度50mMまで添加して、得られた染色溶液を徹底的に混合する。
【0248】
透過化処理(例えば、染色試薬が、細胞透過性であるTMR−プロピル−アジドである場合)なしに、生きた細胞を染色するために、組織培養培地を取り出して、上記の染色溶液で置き換えた。細胞を染色溶液の存在下で少なくとも30分間インキュベートしたが、染色は一般には、インキュベーションの10分後に完了する。染色後、未反応のTMR−プロピル−アジドを、0.5%のTriton−X100(または類似の界面活性剤)を含有する緩衝液(例えば、PBSまたはTBS)で洗浄することによって取り除いた。バックグラウンドを低くするために、メタノールまたはエタノールでの洗浄を行ってもよい。
【0249】
所望の場合、細胞固定は、洗浄緩衝液に3%のホルムアルデヒド(またはグルタルアルデヒド)を添加することによって同時におこなわれてもよい。この場合、細胞を、室温で少なくとも10分間洗浄緩衝液中でインキュベートした。
【0250】
(固定された細胞の染色:)
染色溶液:100mMのTris、pH8.5(水の中に含まれる、2Mのストックから)、0.5〜1mMのCuSO4(水の中に含まれる1Mのストックから)、0.5〜1μMの発蛍光団−アジド(DMSO中に含まれる約10〜100mMのストックから)、および水(必要に応じて)を一緒に混合した。次いで、アスコルビン酸(水の中に含まれる0.5mMのストックから)を、この溶液に、最終濃度50〜100mMまで添加し、得られた染色溶液をボルテックスを用いて徹底的に混合する。
【0251】
細胞を、任意の適切な方法によって固定してもよく、例えば、細胞は、透過化処理の有無で、アルデヒド(ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒド)固定によって固定してもよい。固定後に、この細胞を、非イオン性界面活性剤(0.2〜0.5%のTriton X100)の有無において緩衝液中で洗浄した。染色前に、細胞を、界面活性剤(PBSまたはTBS)なしで緩衝液を用いてリンスした。次いで、この細胞を、少なくとも30分間染色溶液の存在下でインキュベートした。一晩の染色は好ましくは低温室で行う。
【0252】
染色後、細胞を0.5%の界面活性剤を含有する緩衝液を用いて数回洗浄した。必要に応じてバックグラウンドを有意に減少させるためにメタノールおよびエタノールを用いた洗浄を行ってもよい。
【0253】
(染色された細胞の画像化:)
次いで、染色された細胞を標準的なプロトコールを用いて免疫染色してもよい。次いで、細胞を標準的なマウンティング培地でマウントして、画像化した。マウントしてもしなくても、この染色は、4℃で永続的に極めて安定であることが見出された。
【0254】
(実施例2:エチニル−dUを用いるHeLa細胞の染色)
HeLa細胞は、実施例1に記載されるような1μMのEdUで標識するか、またはしなかった。次いで、それらを、固定/透過化処理して、Xrhodamine−アジド試薬(これは細胞透過性でなく、従ってクリック化学を行うために透過化処理を要する)で染色した。
【0255】
細胞の両方の集団(すなわち、EdUで標識されるかまたはされない)の画像を図5に示す。これらの細胞のより高い解像度を、図11(右側)に示しており、これには、OliGreenで染色したEdU−標識HeLa細胞から得た画像を添えている(図11、左側)。分裂後期を受けている底の細胞におけるEdU染色のまだらな出現に注意のこと。このまだらは、EdUの標識パルスが細胞のDNAを複製するために細胞に必要な時間より短いという事実に起因する;従って、このパルスの間に複製するDNAのみが標識された。
【0256】
(実施例3:標識された生きている細胞の経時的蛍光画像化)
できるだけ天然の状態に近い条件下でDNAを染色するために、細胞透過性のTMR−アジド試薬を開発した。TMR−プロピル−アジドは、ブロモ−プロピル−TMRを形成するためにTMR−カルボキシ−NHSエステルと3−ブロモ−プロピルアミンとを最初に反応させることによって合成された。次いで、この後者の化合物を、アジ化ナトリウムと反応させて、細胞透過性であることが見出されており、従って、透過化処理および/または固定の必要なしに細胞を標識するために適切である、TMR−プロピル−アジドを形成した。
【0257】
TMR−プロピル−アジドを用いて細胞の染色を実証するために、HeLa細胞を最初にEdUで標識した。生きた顕微鏡画像化を容易にするために、EdU−標識された細胞を、カバースリップチャンバ中において、これを、広視野の蛍光顕微鏡およびスピニングディスク共焦点蛍光顕微鏡(Perkin−ElmerのYokogamaスピニングディスク共焦点ヘッド)のために装備された倒立Nikon TE200)U顕微鏡の加熱ステージ(37℃)にマウントした。細胞を覆っている培地を取り除いて、生理学的な生理食塩水緩衝液に溶解された200nMのTMR−プロピル−アジド、25mMのアスコルビン酸塩および1mMの硫酸銅(II)を含有する染色溶液で置き換えた。この細胞を、経時的蛍光顕微鏡(15秒ごとに1フレーム)によって、画像化して、EdU標識細胞の核に蓄積しているTMRシグナルを検出した。
【0258】
図6上に示される(経時的蛍光顕微鏡によって得られる画像を示す)とおり、クリック反応は、この細胞透過性試薬を用いて生きた細胞上で極めてよく機能することが見出された。図7に示されるとおり、EdU検出は数分内で終了した。
【0259】
(実施例4:インビボ標識)
BLAB/Cマウスに、腹腔内に200μgのEdUを注射した。3日後、器官を回収して、固定して、パラフィンに包埋して、切片にした。次いで、その切片を脱ろうして、Xrhadomine−アジドを用いて5分間染色し、Hoechstで染色し、洗浄し次いでマウントした。
【0260】
図8は、腸を通る高倍率(440×)の切片を示す。核の赤い細胞は、EdUを組み込んでいる細胞およびそれらの子孫である。DNAは青で現われる。図9は、マウスの腸切片の大きい断片の画像を形成するために一緒にとじられた多くの400×画像という画像の複合物である(DNAは緑で現われる)。この対象物は、腸を通じた全体的な傾斜切片である(約5ミリメートルの長さ)。
【0261】
図10は、細胞がほぼ決して分裂しない器官である(極めて増殖性である腸とは異なる)マウス脳を通じた切片である。単一のEdU標識細胞が、この脳切片上で容易に特定され得る。
【0262】
(実施例5:動原体での単一の姉妹染色分体のトレース)
本明細書に報告される実験の目的は、染色体を形成する2つのDNA分子のうちの1つのみを標識することであった。それは、図12に示されるように、DNA合成の間にEdUを用いてHeLa細胞をパルスすること、続いて持続する2つの細胞周期追跡によって達成された。
【0263】
標識後の最初の有糸分裂では、両方のDNA分子を標識したが、第二の有糸分裂では、DNA分子の1つのみを標識した。EdUによって、図13に示されるような細胞における染色体の極めて優れた解像画像が可能になった。これらの実験では、Alexa568−アジドを、透過化処理に関与する染色および染色プロセスのために用いた。
【0264】
(実施例6.細胞でのRNAの標識)
EU(エチニル−ウリジン)を細胞RNAの標識として合成した。HeLa細胞を、10μMのEUを用いて一晩標識して、固定して、Xrhodamine−アジドで染色した。図14に示されるとおり、EUで標識されていない、Xrhodamine−アジドで染色した細胞(陰性コントロール)は、予想どおり、極めてわずかな染色しか示さなかった。Xrhodamine−アジドで染色された、EU標識された細胞は、細胞RNAに組み込まれているEUの指標である強力な細胞質染色を示した。
【0265】
(実施例7:HeLa細胞を染色するためにアジド−dU(AdU)を用いる)
2’−デオキシウリジン(AdU)およびウリジン(AU)の両方の5−アジド誘導体を合成した。
【0266】
AdUは、2つの異なる色でDNAを染色するためにEdUと一緒に用いられ得るデオキシヌクレオシドアナログである(EdUおよびAdUが、2つの別々のパルスとして細胞に投与されるならば、検出はそれぞれ、発蛍光団1−アジドおよび発蛍光団2−末端アルキンを用いて行われる)。
【0267】
同様に、AUは、細胞RNAを標識するために用いられ得る。細胞RNAは、それぞれ、エチニル−ウリジンおよびアジド−ウリジンを用いて2つの異なる色で標識され得る。
【0268】
ここでHeLa細胞を10μMのAdU中で一晩標識し、次いでEdUで標識された細胞を染色するために本明細書で記載された条件を用いて、10μMのAlexa568−アルキンで染色した。図16は、染色されたHeLa細胞の視野の2つの写真を示す。図16に示されるとおり、AdUは標識された静止期細胞の核で、そして有糸分裂細胞の凝縮した染色体で明確に検出される。
【0269】
(実施例8:穏やかな条件下でDNA染色を消去)
ある場合には、EdU標識DNAの蛍光染色を消去することが望ましい。その目的を達成するためのストラテジーは本明細書に記載される。
【0270】
HeLa細胞を、1μMのEdUで一晩標識して、翌日固定した。染色は、シスタミンリンカー(H2N−CH2−CH2−S−S−CH2−CH2−NH2)を介して発蛍光団にアジド基が結合された、本出願人らによって合成された、10μMのAlexa568−アジド(Alexa568−SS−アジドの省略)を用いて行った。リンカー中のジスルフィド結合は、DTT(ジチオスレイトール)のような還元剤を用いて容易に還元され得、これによってDNA鎖からの発蛍光団の解離が生じる。
【0271】
図17の第二列は、HeLa細胞の写真を示しており、この細胞は、上記のように、Alexa568−SS−アジド染色後に、20mM(左側)および100mM(右側)のDTTとともにインキュベートされた。DTTインキュベーションは、37℃で30分間行った。図17の最初の1列は、上記のようにインキュベートされた(すなわち、引き続くDTTインキュベーションなし)HeLa細胞(右パネル)、ならびにEdUおよびAlexa568−アジドの存在下でインキュベートされなかったHeLa細胞(左パネル)の写真を示す。図17の写真によって示されるとおり、DTTインキュベーションは細胞核から蛍光シグナルを効率的に取り除く。
【0272】
(実施例9:シュタウディンガー・ライゲーションを介するアジド−dUでの細胞の標識のための一般的プロトコール)
アジド−dU(AdU)は、標識パルスの長さに依存して10nM〜1μMの範囲におよぶ組織培養培地(ペニシリン、ストレプトマイシンおよびウシ胎仔血清(FCS)を補充したDMEM)中で用いた。例えば、標識される細胞が、S期で同調された場合、100nM〜1μMのAdUを1〜2時間用いた。標識後、この細胞をPBSを用いて3または4回洗浄し、次いで組織培養培地を添加する。
【0273】
(生きている細胞の染色:)
染色溶液:100mMのTris、pH8.5(水のなかで2Mのストック)、0.5〜1μMのシュタウディンガー・ライゲーション試薬(すなわち、置換トリアリールホスフィンに結合された蛍光部分を含む分子)(DMF中に含まれる約100mMのストックより)、および水(必要に応じて)を、一緒に混合する。
【0274】
透過化処理なしに生きた細胞を染色するために、組織培養培地を取り出して、上記の染色溶液で置き換える。細胞を染色溶液の存在下で少なくとも30分間インキュベートするが、染色は一般には、インキュベーションの10分後に完了する。染色後、未反応の染色試薬を、0.5%のTriton−X100(または類似の界面活性剤)を含有する緩衝液(例えば、PBSまたはTBS)で洗浄することによって取り除く。バックグラウンドを低くするために、メタノールまたはエタノールでの洗浄を行ってもよい。
【0275】
所望の場合、細胞固定は、洗浄緩衝液に3%のホルムアルデヒド(またはグルタルアルデヒド)を添加することによって同時におこなわれてもよい。この場合、細胞を、室温で少なくとも10分間洗浄緩衝液中でインキュベートする。
【0276】
(固定された細胞の染色:)
細胞を、任意の適切な方法によって固定してもよく、例えば、細胞は、透過化処理の有無で、アルデヒド(ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒド)固定によって固定してもよい。
【0277】
固定後に、この細胞を、非イオン性界面活性剤(0.2〜0.5%のTriton X100)の有無において緩衝液中で洗浄する。染色前に、細胞を、界面活性剤(PBSまたはTBS)なしで緩衝液を用いてリンスする。次いで、この細胞を、少なくとも30分間染色溶液の存在下でインキュベートする。一晩の染色は好ましくは冷蔵室で行う。
【0278】
染色後、細胞を0.5%の界面活性剤を含有する緩衝液を用いて数回洗浄した。必要に応じてバックグラウンドを有意に減少させるためにメタノールおよびエタノールを用いた洗浄を行ってもよい。
【0279】
(染色された細胞の画像化:)
次いで、染色された細胞を標準的なプロトコールを用いて免疫染色してもよい。次いで、細胞を標準的なマウンティング培地中でマウントして、画像化する。
【0280】
(実施例10:インビボ標識)
BALB/Cマウスに、腹腔内に200μgのAdUを注射した。3日後、器官を回収して、固定して、パラフィンに包埋して、切片にする。次いで、その切片を脱ろうして、シュタウディンガー・ライゲーション染色試薬(すなわち、置換トリアリールホスフィンに結合された蛍光部分を含む分子)を用いて5分間染色し、Hoechstで染色し、洗浄し、次いでマウントした。
【0281】
(実施例11:細胞におけるRNAの標識)
AU(エチニル−ウリジン)を細胞RNAの標識として合成した。RNA染色実験では、HeLa細胞は、10μMのAUで一晩標識して、固定し、そしてシュタウディンガー・ライゲーション−染色試薬(すなわち、置換トリアリールホスフィンに結合された蛍光部分を含む分子)で染色した。
【0282】
(他の実施形態)
本発明の他の実施形態は、本明細書の考慮または本明細書に開示される本発明の実施から当業者に明白である。本明細書および実施例は例示目的としてだけみなされ、本発明の真の範囲は、以下の特許請求の範囲によって示されているということを意図する。
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本発明は、仮特許出願第60/730,745号(2005年10月27日出願、発明の名称「Mathods and Compositions for Labeling Nucleic Acids」)に対する優先権を主張する。この仮特許出願は、本明細書中でその全体が参考として援用される。
【0002】
(政府支援)
本明細書中に記載される研究の一部は、the National Institutes of Health(助成金番号GM029565)による資金援助を受けた。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
細胞分裂および細胞死は、多細胞生物体の適切な発達において、および組織の恒常性維持において中心的な役割を果たす。なかでも細胞増殖能力の損失または低下、および細胞死の調節不全は、加齢のプロセスを特徴付ける最も重要な現象である。(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。細胞増殖および細胞死の正常な制御の破壊はまた、以下を包含する多くの病理的な状態の背景である:ガン;感染性疾患、例えば、後天性免疫不全症候群(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7);血管障害、例えば、アテローム性動脈硬化症および高血圧(非特許文献8;非特許文献9);ならびに神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病(非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12)。
【0004】
細胞分裂の最も特徴的な生化学的な特徴は、細胞周期のS期の間にのみ本質的に生じるDNA合成である(非特許文献13)。従って、細胞周期、DNA合成および細胞増殖の研究のために最も一般に用いられる方法は、増殖している細胞の新規に合成されたDNAへの標識された生合成前駆体の組み込みに依存する(非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16)。これらの方法では、標識されたDNA前駆体(例えば、[3H]−チミジンまたは5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU))を複製の間に細胞に添加して、ゲノムDNAへのそれらの組み込みを、インキュベーションおよびサンプル調製後に定量する。組み込まれた[3H]−チミジンは一般に、オートラジオグラフィーによって検出される。組み込まれたBrdUの検出は、モノクローナル抗体のアクセスを可能にするサンプル変性後に免疫学的に行なわれ、次いで、得られたBrdU標識細胞をフローサイトメトリーまたは顕微鏡によって分析する。特定の組織の細胞増殖を研究するために、動物に標識したDNA前駆体を投与(例えば、注射)して、屠殺して、その組織を取り出して、顕微鏡分析のために固定する。
【0005】
[3H]−チミジンおよびBrdU組み込み標識方法は、細胞周期の動態学、DNA合成および姉妹染色分体交換を研究するために、ならびに種々の条件下での正常または病理的な細胞または組織の細胞増殖を評価するために有用であることが証明されているが、これらの方法はいくつかの限界を示している。[3H]−チミジン取り込みの最も注目すべき不利な点は、放射性活性を用いる合併症およびリスクから生じる。さらに、オートラジオグラフィーは労働集約的であって、時間浪費的である。さらに、両方の方法ともサンプル破壊的であるので、定量は所定の1時点でしか行うことができず、単一のサンプルを連続してモニタリングすることは不可能である。さらに、[3H]−チミジンオートラジオグラフィーとは対照的に、BrdU免疫組織化学は、化学量論的ではない(非特許文献17;非特許文献18)。従って、標識の強度または程度は、検出のために用いられる条件に高度に依存し、そしてDNA複製の大きさを反映する必要は無い。この理由のために、BrdU標識は、細胞分裂の指標として特に脆弱であり誤訳を行う(非特許文献19)。
【0006】
さらに最近では、[3H]−チミジンおよびBrdU取り込み方法に関連するいくつかの問題を解決する、安定な同位体質量分光測定技術が開発されている(非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25;非特許文献26)。この技術では、DNA複製におけるヌクレオチドのデオキシリボース部分は、安定な同位体2H−または13C−標識グルコースを用いることによるデノボ(新生)ヌクレオチド合成経路を通じて、内因的に標識される。次いで、DNAの同位体富化は、ゲノムDNAの単離、変性および加水分解、ならびに得られたデオキシリボヌクレオシドのTMS(トリメチルシリル)誘導体化後にガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)によって検出されかつ定量される。この方法は、ヒトでの使用に安全であることを含むいくつかの利点を有するが、これは、検出前のサンプルの長期かつ破壊的な処理に関与することを含む不利な点を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D.Montiら、Am.J.Clin.Nutr.,1992,55(補遺6):1208S〜1214S
【非特許文献2】H.R.Warnerら、J.Am.Geriatr.Soc,1997,45:1140〜1146
【非特許文献3】L.Ginaldiら、Immunol.Res.,2000,21:31〜38
【非特許文献4】J.C.Bentinら、J.Clin.Immunol.,1989,9:159〜168
【非特許文献5】R.A.Grutersら、Eur.J.Immunol.,1990,20:1039〜1044
【非特許文献6】L.Meyaardら、Science,1992,257:217〜119
【非特許文献7】A.Cayotaら、Clin.Exp.Immunol.,1992,88:478〜483
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【非特許文献9】A.RivardおよびV.Andres,Histol.Histopathol.,2000,15:557〜571
【非特許文献10】Z.Nagy,J.Neural Transm.補遺,1999,57:233〜245
【非特許文献11】A.K.Rainaら、Prog.Cell Cycle Res.,2000,4:235〜242
【非特許文献12】I.Vincentら、Prog.Cell Cycle Res.,2003,5:31〜41
【非特許文献13】S.Sawadaら、Mutat.Res.,1995,344:109〜116
【非特許文献14】M.BickおよびR.L.Davidson,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1974,71:2082〜2086
【非特許文献15】H.G.Gratzner,Science,1982,218:474〜475
【非特許文献16】F.M.Waldmanら、Mod.Pathol,1991,4:718〜722
【非特許文献17】R.S.Nowakowskiら、J.Neurocytol.,1989,18:311〜318
【非特許文献18】R.S.NowakowskiおよびN.L.Hayes,Science,2000,288:771
【非特許文献19】P.Rakic,Nature Rev.Neurosci,2002,3:56〜71
【非特許文献20】D.C.Macallanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1998,95:708〜713
【非特許文献21】M.K.Hellerstein,Immunol.Today,1999,20:438〜441
【非特許文献22】M.Hellersteinら、Nature Med.,1999,5:83〜89
【非特許文献23】J.M.McCuneら、J.Clin.Invest.,2000,105:R1−8
【非特許文献24】H.Mohriら、J.Exp.Med.,2001,94:1277〜1288
【非特許文献25】R.M.Ribeiroら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2002,99:15572〜15577
【非特許文献26】R.M.Ribeiroら、Bull.Math.Biol,2002,64:385〜405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
明らかに、細胞周期の動態、DNA合成および細胞増殖のインビトロおよびインビボにおける研究には、改良された核酸標識技術が依然として必要である。詳細には、簡易、迅速かつ鋭敏であり、過剰なサンプル調製を必要とせず、そして/またはサンプルの破壊を生じない技術の開発がやはり極めて望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、細胞分裂を研究するための改良されたシステムおよびストラテジーに関する。さらに詳細には、本発明は、核酸分子を標識するために、そして細胞増殖を測定するためにインビトロおよびインビボで有用な方法および組成物を提供する。詳細には、本発明の方法は、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと、標識を含む試薬との間の化学反応を包含し、このヌクレオチドアナログが第一の反応性基を含み、そしてこの試薬が第二の反応性基を含み、この第一の反応性基と第二の反応性基との間のこのような反応が核酸ポリマーの標識を生じる。このような方法は、標識されたサンプルの過剰な処理を必要としない。詳細には、多くの発明方法はサンプルの変性を必要としない。詳細には、本発明は、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識を含む試薬との間の[3+2]環化付加を含む核酸ポリマーを標識する方法、および核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識を含む試薬との間のシュタウディンガー・ライゲーション(Staudinger ligation)反応を包含する、核酸ポリマーを標識する方法を提供する。
【0010】
より詳細には、1局面では、本発明は、核酸ポリマーを標識する方法を提供し、この方法は、以下の工程:第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する工程と;核酸ポリマーと、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果、第一の不飽和基と第二の不飽和基との間で[3+2]環化付加が生じる工程と;を包含する。
【0011】
特定の実施形態では、上記第一の反応性不飽和基が1,3−双極子(dipole)を含み、かつ第二の反応性不飽和基が、親双極子(ダイポーラロフィル)(dipolarophile)を含む。他の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、親双極子を含み、かつこの第二の反応性不飽和基が、1,3−双極子を含む。ある実施形態では、この1,3−双極子はアジド基を含んでもよく、そしてこの親双極子はエチニル基を含んでもよい。
【0012】
特定の実施形態では、この標識は直接検出可能である。例えば、この標識は、蛍光剤を含む。他の実施形態では、この標識は間接的に検出可能である。例えば、この標識はハプテンを含む。
【0013】
標識されるべき核酸ポリマーは、細胞の内側にあっても、組織または生物体の中にあってもよい。
【0014】
特定の実施形態では、上記少なくとも1つのヌクレオチドアナログが、DNA複製またはDNA転写の間に核酸ポリマーに組み込まれる。
【0015】
特定の実施形態では、核酸ポリマーと試薬との接触の工程は、水性条件下で行われる。この接触は、Cu(I)の存在下で行われてもよい。あるいは、この接触は、Cu(I)の非存在下でCuキレート部分をさらに含む試薬と行われてもよい。
【0016】
別の局面では、本発明は、核酸ポリマーを二重に標識するための方法を提供する。本発明の方法は、以下の工程:第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログと、第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログとを含む核酸ポリマーを提供する工程と;核酸ポリマーと、第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬とを接触させて、その結果、この第一の不飽和基と第三の不飽和基との間で[3+2]環化付加が生じる工程と;この核酸ポリマーと、第二の標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第二および第四の不飽和基の間で生じる工程と;を包含する。
【0017】
特定の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、第一の1,3−双極子を含み、かつ第三の反応性不飽和基が、第一の親双極子を含む;この第二の反応性不飽和基は、第二の親双極子を含み、かつこの第四の反応性不飽和基が、第二の1,3−双極子を含む。
【0018】
他の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、第一の親双極子を含み、かつこの第三の反応性不飽和基は、第一の1,3−双極子を含む;この第二の反応性不飽和基は、第二の1,3−双極子を含み、かつ第四の反応性不飽和基が、第二の親双極子を含む。上記のとおり、1,3−双極子はアジド基を含んでもよく、そして親双極子はエチニル基を含んでもよい。
【0019】
特定の実施形態では、この第一の標識および第二の標識は直接検出可能である。いくつかのこのような実施形態では、この第一の標識は、第一の蛍光剤を含み、この第二の標識は、第二の蛍光剤を含み、そしてこの第一の蛍光剤および第二の蛍光剤は、励起の際に二重の色の蛍光を生じる。
【0020】
他の実施形態では、この第一の標識および第二の標識は間接的に検出可能である。例えば、この第一の標識は第一のハプテンを含み、そしてこの第二の標識は第二のハプテンを含む。
【0021】
上述されるとおり、二重に標識されるべき核酸ポリマーは、細胞の内側にあっても、組織または生物体の中にあってもよい;そしてこの第一のヌクレオチドアナログおよび第二のヌクレオチドアナログは、DNA複製またはDNA転写の間に核酸ポリマーに組み込まれてもよい。
【0022】
これらの発明の方法では、接触工程は、同時に行われてもまたは連続して行われてもよい。好ましくはこの接触工程は、水性条件下で行われる。
【0023】
別の局面では、本発明は、核酸ポリマーを示差的に標識するための方法を提供する。これらの発明の方法は、以下の工程:第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログを含む第一の核酸ポリマーを提供する工程と;第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二ヌクレオチドアナログを含む第二の核酸ポリマーを提供する工程と;この第一の核酸ポリマーと、第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬とを接触させて、その結果、この第一の不飽和基と第三の不飽和基との間で[3+2]環化付加が生じる工程と;この第二の核酸ポリマーと、第二の標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第二および第四の不飽和基の間で生じる工程と;を包含する。
【0024】
この第一の反応性の不飽和基および第二の反応性の不飽和基ならびに第一の標識および第二の標識は上記されるとおりであり得る。上記のとおり、接触の工程は同時であってもよいし、または連続であってもよい。
【0025】
特定の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは第一の細胞の内側にあり、そしてこの第二のポリマーは第二の細胞の内側にある。他の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは、第一の組織の内側にあり、そしてこの第二の核酸ポリマーは第二の組織の内側にある。さらに他の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは、第一の生物体の内側にあり、そしてこの第二のポリマーは第二の生物体の内側にある。
【0026】
別の局面では、本発明は、標識に結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する。好ましくは、この核酸ポリマーは、本明細書に開示される標識方法の1つによって調製される。
【0027】
特定の実施形態では、本発明の核酸ポリマーに組み込まれるヌクレオチドアナログは、環付加物、例えば、エチニル基とアジド基との間の[3+2]環化付加から生じる環付加物を含む。
【0028】
特定の実施形態では、この標識は、ヌクレオチドアナログに共有結合される。
【0029】
特定の実施形態では、この標識は直接検出可能である。例えば、この標識は、蛍光剤である。他の実施形態では、この標識は間接的に検出される。例えば、この標識はハプテンを含む。
【0030】
本発明はまた、二重に標識された核酸ポリマーを提供する。より詳細には、本発明は、第一の標識に対して結合された少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログおよび第二の標識に対して結合された少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する。好ましくは、このような核酸ポリマーは、本明細書に記載の二重標識方法によって調製される。
【0031】
特定の実施形態では、少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログは、第一のエチニル基と第一アジド基との間の[3+2]環化付加から生じる第一の環付加物を含み、そして少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログは、第二のエチニル基と第二のアジド基との間の[3+2]環化付加から生じる第二の環付加物を含む。
【0032】
特定の実施形態では、この第一の標識は、第一の蛍光剤を含み、この第二の標識は、第二の蛍光剤を含み、そしてこの第一の蛍光剤および第二の蛍光剤が、励起の際に二重蛍光を生じる。
【0033】
別の局面では、本発明は、1つ以上の本発明の標識されるかまたは二重標識される核酸ポリマーを含む細胞を提供する。
【0034】
さらに別の局面では、本発明は、以下を備える核酸ポリマーを標識するためのキットを提供する:第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つのヌクレオシドアナログ;および標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬。
【0035】
特定の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、1,3−双極子を含み、第二の反応性不飽和基は、親双極子を含み、そしてこの第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る。他の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、親双極子を含み、この第二の反応性不飽和基は、1,3−双極子を含み、そしてこの第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る。
【0036】
本発明はまた、核酸ポリマーを二重に標識するためのキットを提供し、このキットは以下を備える:第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオシドアナログ;第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオシドアナログ;第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬;および第二の試薬に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬。
【0037】
特定の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、第一の1,3−双極子を含み、この第三の反応性不飽和基は、第一の親双極子を含み、そしてこの第一の反応性不飽和基および第三の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る;第二の反応性不飽和基は、親双極子を含み、この第四の反応性不飽和基は、第二の1,3−双極子を含み、そしてこの第二および第四の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る。
【0038】
他の実施形態では、この第一の反応性不飽和基は、第一の親双極子を含み、この第三の反応性不飽和基は、第一の1,3−双極子を含み、そしてこの第一の反応性不飽和基および第三の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る;この第二の反応性不飽和基は、親双極子を含み、この第四の反応性不飽和基は、第二の1,3−双極子を含み、そしてこの第二および第四の反応性不飽和基は、[3+2]環化付加を介して反応し得る。本発明のキットはさらに、水性媒体および/またはCu(I)を含んでもよい。
【0039】
さらに別の局面では、本発明は、細胞において、または生物体において、細胞増殖を測定するための方法を提供する。
【0040】
特定の本発明の方法は、以下の工程:細胞と、第一の反応性不飽和基を含むヌクレオシドアナログの有効量とを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログがこの細胞のDNAに組み込まれる工程と;この細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;このDNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程と;を包含する。この細胞は、マルチウェル・アッセイ・プレート中にあってもよい。
【0041】
本発明の他の方法は、以下の工程:生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与する工程であって、その結果このヌクレオシドアナログがこの生物体の細胞のDNAに組み込まれる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;このDNAに組み込まれた標識の量を決定して、この生物体における細胞増殖を測定する工程と;を包含する。
【0042】
この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基;これらの方法における標識および接触工程は上記のとおりであり得る。
【0043】
さらに別の局面では、本発明は、細胞において、または生物体において細胞増殖を混乱させる(perturb)因子を特定するための方法を提供する。
【0044】
本発明の特定の方法は、以下の工程:(a)細胞と試験因子とを接触させる工程と;(b)この細胞と、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログをこの細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;(d)このDNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が、細胞増殖の程度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、細胞が試験因子に接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子を細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含する。工程(b)は工程(a)の前に行われてもよい。
【0045】
本発明の他の方法は以下の工程:(a)生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;(b)この生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果このヌクレオシドアナログをこの生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基と第二の反応性不飽和基との間で生じる工程と;(d)DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、生物体が試験因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子をこの生物体における細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含する。工程(b)は工程(a)の前に行われてもよい。この接触工程はインビボで行われても、またはエキソビボで行われてもよい。
【0046】
細胞増殖を混乱させる因子を特定するための本発明の方法はさらに以下の工程:工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも多い場合、この試験因子を、細胞増殖を混乱させる因子として特定する工程;および/または工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも少ない場合、この試験因子を、細胞増殖を阻害する因子として特定する工程を包含してもよい。
【0047】
さらに、別の局面では、本発明は、核酸ポリマーを標識するための方法を提供し、この方法は、以下の工程:アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する工程と;核酸ポリマーと、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;を包含する。
【0048】
特定の実施形態では、トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つは、求電子性トラップとして作用する官能基、例えば、アルキルエステル(例えば、メチルエステル)で置換される。好ましくは、トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つは、リン原子に対してオルトであるアルキルエステルで誘導体化される。
【0049】
特定の実施形態では、この標識は直接検出可能である。例えば、この標識は、蛍光剤を含む。他の実施形態では、この標識は間接的に検出可能である。例えば、この標識はハプテンを含む。
【0050】
標識されるべき核酸ポリマーは、単離された核酸ポリマーであってもよいし、または細胞の内側にあっても、組織または生物体の中にあってもよい。
【0051】
特定の実施形態では(例えば、核酸ポリマーが細胞の内側にあるか、または生物体の中にある場合)、この少なくとも1つのヌクレオチドアナログは、DNA複製またはDNA転写の間に核酸ポリマーに組み込まれる。
【0052】
別の局面では、本発明は、核酸ポリマーを示差的に標識するための方法を提供する。これらの本発明の方法は以下の工程:第一のアジド基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログを含む第一の核酸ポリマーを提供する工程と;第二のアジド基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む第二の核酸ポリマーを提供する工程と;この第一の核酸ポリマーと、第一の置換トリアリールホスフィンに結合された第一の標識を含む第一の試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがこの第一のアジドと第一の置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;この第二の核酸ポリマーと、第二の置換トリアリールホスフィンに結合された第二の標識を含む第二の試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがこの第二のアジドと第二の置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;を包含する。
【0053】
特定の実施形態では、第一のトリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つおよび第二のトリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つは各々、求電子性トラップとして作用する官能基、例えば、アルキルエステル(例えば、メチルエステル)で置換される。好ましくは、第一のトリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つおよび第二のトリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つは各々、リン原子に対してオルトであるアルキルエステルで誘導体化される。
【0054】
特定の実施形態では、この第一の標識および第二の標識は直接検出可能である。このようないくつかの実施形態では、この第一の標識は、第一の蛍光剤を含み、この第二の標識は、第二の蛍光剤を含み、そしてこの第一の蛍光剤および第二の蛍光剤は、励起の際に二重蛍光を生じる。
【0055】
他の実施形態では、この第一の標識および第二の標識は間接的に検出可能である。例えば、この第一の標識は第一のハプテンを含み、そしてこの第二の標識は第二のハプテンを含む。
【0056】
これらの方法では、この接触工程は好ましくは、連続して行われる。
【0057】
特定の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは、第一の細胞の内側にあり、そしてこの第二の核酸ポリマーは、第二の細胞の内側にある。他の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは、第一の組織中にあり、そしてこの第二の核酸ポリマーは、第二の組織中にある。さらに他の実施形態では、この第一の核酸ポリマーは、第一の生物体中にあり、そしてこの第二のポリマーは第二の生物体中にある。
【0058】
別の局面では、本発明は、標識に結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する。好ましくは、本発明の核酸ポリマーは、シュタウディンガー・ライゲーションを含む本明細書に開示される標識方法のうちの1つによって調製される。
【0059】
特定の実施形態では、この核酸ポリマーは、シュタウディンガー・ライゲーション反応から生じる、アミドおよびトリアリールホスフィンオキシドを通じて標識に結合されたヌクレオチドアナログを含む。
【0060】
特定の実施形態では、この標識は直接検出可能である。例えば、この標識は、蛍光剤を含む。他の実施形態では、この標識は間接的に検出可能である。例えば、この標識はハプテンを含む。
【0061】
さらに別の局面では、本発明は、核酸ポリマーを標識するためのキットを提供し、このキットは以下:アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオシドアナログと、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを備える。
【0062】
特定の実施形態では、このトリアリールホスフィンのアリール基の1つは、求電子性トラップとして作用する官能基、例えば、アルキルエステルで置換される。好ましくは、このアリール基のうちの1つは、リン原子に対してオルトであるアルキルエステルで誘導体化される。この標識は、直接検出可能であってもよいし(例えば、この標識が、蛍光剤を含む)、または間接的に検出可能であってもよい(例えば、この標識がハプテンを含む)。
【0063】
さらに別の局面では、本発明は、細胞において、または生物体において、細胞増殖を測定するための方法を提供する。
【0064】
特定の本発明の方法は、以下の工程:細胞と、アジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログをこの細胞のDNAに組み込ませる工程と;この細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果、このアジドとトリアリールホスフィンとの間でシュタウディンガー・ライゲーションが生じる工程と;DNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程とを包含する。この細胞は、マルチ−ウェルアッセイプレート中にあってもよい。
【0065】
他の本発明の方法は、以下の工程:生物体に対して、アジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果このヌクレオシドアナログをこの生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果このアジドとトリアリールホスフィンとの間でシュタウディンガー・ライゲーションを生じる工程と;このDNAに組み込まれた標識の量を決定して、この生物体における細胞増殖を測定する工程とを包含する。この接触工程は、インビボで行われてもまたはエキソビボで行われてもよい。
【0066】
これらの方法の特定の実施形態では、トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つが、求電子性トラップとして作用する官能基、例えば、アルキルエステルで置換される。好ましくは、このアリール基のうちの1つは、リン原子に対してオルトであるアルキルエステルで誘導体化される。この標識は、直接検出可能であってもよいし(例えば、この標識が、蛍光剤を含む)、または間接的に検出可能であってもよい(例えば、この標識がハプテンを含む)。
【0067】
さらに別の局面では、本発明は、細胞において、または生物体において、細胞増殖を混乱させる因子を特定するための方法を提供する。
【0068】
特定の本発明の方法は、以下の工程:(a)細胞と試験因子とを接触させる工程と;(b)この細胞と、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログをこの細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがアジドとトリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;(d)DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、細胞が試験因子と接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子を細胞増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含する。特定の実施形態では、工程(b)は工程(a)の前に行われる。
【0069】
他の本発明の方法は以下の工程:(a)ある生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;(b)この生物体に対して、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果このヌクレオシドアナログをこの生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この生物体の少なくとも1つの細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがこのアジドとトリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;(d)このDNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、生物体が試験因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子をこの生物体において細胞増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含する。本発明の特定の実施形態では、工程(b)は工程(a)の前に行われる。この接触工程はインビボで行われてもまたはエキソビボで行われてもよい。
【0070】
細胞増殖を混乱させる試験因子を特定するための本発明の方法はさらに、工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも多い場合、この試験因子を、細胞増殖を誘導させる因子として特定する工程;および/または工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも少ない場合、この試験因子を、細胞増殖を阻害させる因子として特定する工程を包含し得る。
【0071】
本発明のこれらのおよび他の目的、利点および特徴は、以下の詳細な説明を読めば当業者に理解される。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
核酸ポリマーを標識する方法であって、以下の工程:
第一の反応性基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する工程と;
該核酸ポリマーと、標識および第二の反応性基を含む試薬とを接触させて、その結果反応が該第一の反応性基と該第二の反応性基との間で生じて、該核酸ポリマーの標識が生じる工程と;
を包含する、方法。
(項目2)
核酸ポリマーを標識する方法であって、以下の工程:
アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する工程と;
該核酸ポリマーと、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該アジドと該置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
を包含する、方法。
(項目3)
前記トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つがアルキルエステルで置換される、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記アルキルエステルが、前記トリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つがメチルエステルで置換される、項目3に記載の方法。
(項目6)
前記標識が直接検出可能である、項目3に記載の方法。
(項目7)
前記標識が蛍光剤である、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記標識が間接的に検出可能である、項目3に記載の方法。
(項目9)
前記標識がハプテンを含む、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記核酸ポリマーが細胞の内側にあるか、または生物体の中にある、項目3に記載の方法。
(項目11)
前記少なくとも1つのヌクレオチドアナログが、DNA複製の間に前記核酸ポリマーに組み込まれる、項目10に記載の方法。
(項目12)
核酸ポリマーを示差的に標識する方法であって、以下の工程:
第一のアジド基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログを含む第一の核酸ポリマーを提供する工程と;
第二のアジド基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む第二の核酸ポリマーを提供する工程と;
該第一の核酸ポリマーと、第一の置換されたトリアリールホスフィンに結合された第一の標識を含む第一の試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該第一のアジドと該第一の置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
該第二の核酸ポリマーと、第二の置換されたトリアリールホスフィンに結合された第二の標識を含む第二の試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該第二のアジドと該第二の置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
を包含する、方法。
(項目13)
前記第一のトリアリールホスフィンのアリール基の1つが、アルキルエステルで置換され、そして前記第二のトリアリールホスフィンのアリール基の1つがアルキルエステルで置換される、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記第一のトリアリールホスフィン上の前記アルキルエステルが、前記第一のトリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトであり、かつ前記第二のトリアリールホスフィン上の前記アルキルエステルが、前記第二のトリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記第一の標識および前記第二の標識が直接検出可能である、項目12に記載の方法。
(項目16)
前記第一の標識が、第一の蛍光剤を含み、前記第二の標識が第二の蛍光剤を含み、かつ該第一の蛍光剤および該第二の蛍光剤が励起の際に二重色蛍光を生じる、項目13に記載の方法。
(項目17)
前記第一の標識および前記第二の標識が間接的に検出可能である、項目12に記載の方法。
(項目18)
前記第一の標識が第一のハプテンを含み、かつ前記第二の標識が第二のハプテンを含む、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記第一の核酸ポリマーが第一の細胞の内側にあり、かつ前記第二の核酸ポリマーが第二の細胞の内側にある、項目12に記載の方法。
(項目20)
前記第一の核酸ポリマーが第一の生物体の内側にあり、かつ前記第二の核酸ポリマーが第二の生物体の内側にある、項目12に記載の方法。
(項目21)
前記少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログが、DNA複製の間に前記第一の核酸ポリマーに組み込まれ、かつ前記少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログが、DNA複製の間に前記第二の核酸ポリマーに組み込まれる、項目19または20に記載の方法。
(項目22)
標識に結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーであって、該核酸ポリマーが項目2に記載の方法によって調製される、核酸ポリマー。
(項目23)
項目22に記載の核酸ポリマーを含む細胞。
(項目24)
核酸ポリマーを標識するためのキットであって:
アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオシドアナログと;
第一の置換されたトリアリールホスフィンに結合された第一の標識を含む第一の試薬と、を備える、キット。
(項目25)
前記第一のトリアリールホスフィンのアリール基の1つがアルキルエステルで置換される、項目24に記載のキット。
(項目26)
前記アルキルエステルが、前記第一のトリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目25に記載のキット。
(項目27)
前記第一の標識が直接検出可能である、項目24に記載のキット。
(項目28)
前記第一の標識が蛍光剤である、項目27に記載のキット。
(項目29)
前記第一の標識が間接的に検出可能である、項目24に記載のキット。
(項目30)
前記第一の標識がハプテンを含む、項目29に記載のキット。
(項目31)
第二の置換されたトリアリールホスフィンに結合された第二の標識を含む第二の試薬をさらに含む、項目24に記載のキット。
(項目32)
前記第二のトリアリールホスフィンのアリール基の1つがアルキルエステルで置換される、項目31に記載のキット。
(項目33)
前記アルキルエステルが、前記第二のトリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目32に記載のキット。
(項目34)
前記第一の標識および前記第二の標識が直接検出可能である、項目31に記載のキット。
(項目35)
前記第一の標識が、第一の蛍光剤を含み、前記第二の標識が第二の蛍光剤を含み、かつ該第一の蛍光剤および該第二の蛍光剤が励起の際に二重色蛍光を生じる、項目34に記載のキット。
(項目36)
前記第一の標識および前記第二の標識が間接的に検出可能である、項目31に記載のキット。
(項目37)
前記第一の標識が第一のハプテンを含み、かつ前記第二の標識が第二のハプテンを含む、項目36に記載のキット。
(項目38)
細胞増殖を測定する方法であって、以下の工程:
細胞と第一のアジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果該ヌクレオシドアナログが該細胞のDNAに組み込まれる工程と;
該細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該アジドと該置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
該DNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程と;
を包含する、方法。
(項目39)
細胞増殖を測定する方法であって、以下の工程:
生物体に対して、アジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果該ヌクレオシドアナログが該生物体の細胞のDNAに組み込まれる工程と;
該生物体の少なくとも1つの細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該アジドと該置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
該少なくとも1つの細胞のDNAに組み込まれた標識の量を決定して、該生物体における細胞増殖を測定する工程と;
を包含する、方法。
(項目40)
前記トリアリールホスフィンのアリール基のうちの1つがアルキルエステルで置換される、項目38または39に記載の方法。
(項目41)
前記アルキルエステルが、前記トリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記標識が直接検出可能である、項目38または39に記載の方法。
(項目43)
前記標識が蛍光剤を含む、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記標識が間接的に検出可能である、項目38または39に記載の方法。
(項目45)
前記標識がハプテンを含む、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記細胞が、マルチ−ウェルプレート中にある、項目38に記載の方法。
(項目47)
細胞増殖を混乱させる因子を特定するための方法であって、以下の工程:
(a)細胞と試験因子とを接触させる工程と;
(b)該細胞と、アジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果該ヌクレオシドアナログを該細胞のDNAに組み込ませる工程と;
(c)該細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該アジドと該置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
(d)該DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、該標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;
(e)工程(d)で測定される標識の量が、該細胞が該試験因子と接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、該試験因子を細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;
を包含する、方法。
(項目48)
前記工程(b)が工程(a)の前に行われる、項目47に記載の方法。
(項目49)
項目47に記載の方法であって、工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも大きい場合、該試験因子を細胞増殖を誘導する因子として特定する工程をさらに包含する、方法。
(項目50)
項目47に記載の方法であって、工程(d)で測定される標識の量が、コントロールの適用において測定される標識の量よりも小さい場合、該試験因子を細胞増殖を阻害する因子として特定する工程をさらに包含する、方法。
(項目51)
前記トリアリールホスフィンのアリール基の1つがアルキルエステルで置換される、項目47に記載の方法。
(項目52)
前記アルキルエステルが、前記トリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記標識が直接検出可能である、項目47に記載の方法。
(項目54)
前記標識が蛍光剤を含む、項目53に記載の方法。
(項目55)
前記標識が間接的に検出可能である、項目47に記載の方法。
(項目56)
前記標識がハプテンを含む、項目55に記載の方法。
(項目57)
前記細胞が、マルチ−ウェルプレート中にある、項目47に記載の方法。
(項目58)
生物体中で細胞増殖を混乱させる因子を特定するための方法であって、以下の工程:
(a)生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;
(b)該生物体に対して、アジド基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果該ヌクレオシドアナログを該生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;
(c)該生物体の少なくとも1つの細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが該アジドと該置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;
(d)該DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、該標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;
(e)前記工程(d)で測定される標識の量が、該生物体が候補因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、前記試験因子を前記生物体における細胞増殖を混乱させる因子として特定する工程と;
を包含する、方法。
(項目59)
前記工程(b)が工程(a)の前に行われる、項目58に記載の方法。
(項目60)
項目58に記載の方法であって、前記工程(d)で測定される標識の量が、前記コントロールの適用において測定される標識の量よりも大きい場合、前記試験因子を生物体中において細胞増殖を誘導する因子として特定する工程をさらに包含する、方法。
(項目61)
項目58に記載の方法であって、前記工程(d)で測定される標識の量が、前記コントロールの適用において測定される標識の量よりも小さい場合、前記試験因子を前記生物体における細胞増殖を阻害する因子として特定する工程をさらに包含する、方法。
(項目62)
前記トリアリールホスフィンのアリール基がアルキルエステルで置換される、項目58に記載の方法。
(項目63)
前記アルキルエステルが、前記トリアリールホスフィンのリン原子に対してオルトである、項目62に記載の方法。
(項目64)
前記標識が直接検出可能である、項目58に記載の方法。
(項目65)
前記標識が蛍光剤を含む、項目64に記載の方法。
(項目66)
前記標識が間接的に検出可能である、項目58に記載の方法。
(項目67)
前記標識がハプテンを含む、項目66に記載の方法。
(項目68)
試薬と接触する前記工程が、インビトロまたはエキソビボで行なわれる、項目58に記載の方法。
(項目69)
核酸ポリマーを標識する方法であって、以下の工程:
第一の反応性の不飽和基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーを提供する工程と;
該核酸ポリマーと標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の不飽和基および該第二の不飽和基の間で生じる工程と;
を包含する、方法。
(項目70)
前記第一の反応性不飽和基が1,3−双極子を含み、かつ前記第二の反応性不飽和基が、親双極子を含むか、または該第一の反応性不飽和基が親双極子を含み、かつ該第二の反応性不飽和基が、1,3−双極子を含む、項目69に記載の方法。
(項目71)
前記1,3−双極子がアジド基を含み、かつ前記親双極子がエチニル結合を含む、項目70に記載の方法。
(項目72)
前記標識が直接検出可能である、項目69に記載の方法。
(項目73)
前記標識が蛍光剤を含む、項目72に記載の方法。
(項目74)
前記標識が間接的に検出可能である、項目69に記載の方法。
(項目75)
前記標識がハプテンを含む、項目74に記載の方法。
(項目76)
前記核酸ポリマーが細胞の内側にあるか、または生物体の内側にある、項目69に記載の方法。
(項目77)
前記少なくとも1つのヌクレオチドアナログが、DNA複製の間に前記核酸ポリマーに組み込まれる、項目76に記載の方法。
(項目78)
前記接触工程が、Cu(I)の存在下における水性条件下で行われる、項目69に記載の方法。
(項目79)
前記接触工程が、Cu(I)の非存在下における水性条件下で行われ、かつ前記試薬がCuキレート部分をさらに含む、項目77に記載の方法。
(項目80)
核酸ポリマーを標識する方法であって、以下の工程:
第一の反応性の不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログを含む第一の核酸ポリマーを提供する工程と;
第二の反応性の不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む第二の核酸ポリマーを提供する工程と;
該第一の核酸ポリマーと、第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の不飽和基および第三の不飽和基の間で生じる工程と;
該第二の核酸ポリマーと第二の標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第二および第四の不飽和基の間で生じる工程と;
を包含する、方法。
(項目81)
前記第一の核酸ポリマーおよび前記第二の核酸ポリマーが同じ分子であり、かつ該第一の標識が、第一の蛍光剤を含み、該第二の標識が、第二の蛍光剤を含み、かつ該第一の蛍光剤および該第二の蛍光剤が、励起の際に二重色蛍光を生じる、項目80に記載の方法。
(項目82)
標識に対して結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーであって、該核酸ポリマーが項目69に記載の方法によって調製される、核酸ポリマー。
(項目83)
第一の標識に対して結合された少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログと、第二の標識に対して結合された少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログとを含む核酸ポリマーであって、該核酸ポリマーが項目81に記載の方法によって調製される、核酸ポリマー。
(項目84)
項目82または83に記載の核酸ポリマーを含む細胞。
(項目85)
核酸ポリマーを標識するためのキットであって:
第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオシドアナログと;
標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一試薬であって、その結果該第一の反応性不飽和基および該第二の反応性不飽和基が[3+2]環化付加を介して反応し得る、少なくとも1つの第一試薬と;
をさらに備える、キット。
(項目86)
項目84に記載のキットであって:
第三の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオシドアナログと;
標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二試薬であって、その結果該第三および第四の反応性不飽和基が[3+2]環化付加を介して反応し得る、少なくとも1つの第二試薬と;
を備える、キット。
(項目87)
細胞増殖を測定する方法であって、以下の工程:
細胞と第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果該ヌクレオシドアナログが該細胞のDNAに組み込まれる工程と;
該細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の反応性不飽和基および該第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;
該DNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程と;
を包含する、方法。
(項目88)
生物体中の細胞増殖を測定する方法であって、以下の工程:
生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与する工程であって、その結果該ヌクレオシドアナログが該生物体の細胞のDNAに組み込まれる工程と;
該生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の反応性不飽和基および該第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;
該DNAに組み込まれた標識の量を決定して、該生物体における細胞増殖を測定する工程と;
を包含する、方法。
(項目89)
細胞増殖を混乱させる因子を特定するための方法であって、以下の工程:
(a)細胞と試験因子とを接触させる工程と;
(b)該細胞と、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果該ヌクレオシドアナログを該細胞のDNAに組み込ませる工程と;
(c)該細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の反応性不飽和基と該第二の反応性不飽和基との間で生じる工程と;
(d)該DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、該標識量が、細胞増殖の程度を示す工程と;
(e)工程(d)で測定される標識の量が、該細胞が該試験因子に接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、該試験因子を細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;
を包含する、方法。
(項目90)
生物体中で細胞増殖を混乱させる因子を特定するための方法であって、以下の工程:
(a)生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;
(b)該生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果該ヌクレオシドアナログを該生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;
(c)該生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、該第一の反応性不飽和基と該第二の反応性不飽和基との間で生じる工程と;
(d)該DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、該標識量が細胞増殖の程度を示す工程と;
(e)該工程(d)で測定される標識の量が、該生物体が候補因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、該試験因子を該生物体における細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;
を包含する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、(A)当該分野で公知のBrdUを用いるDNA標識、および(B)本発明の方法を用いるDNA標識であって、DNA複製によるヌクレオシドアナログEdU(すなわち、エチニル−dU)のDNAへの組み込み、続いてCu(I)の存在下におけるエチニル基とアジド試薬との間の[3+2]環化付加を含むDNA標識を示す2つのスキームを示している。
【図2】図2は、本発明に従う2色DNA標識の例を示すスキームを示す。
【図3】図3は、本発明に従うDABフォトコンバージョン(photoconversion)の例を示すスキームを示す。
【図4】図4は、未反応染色試薬(すなわち、発蛍光団−アジド(fluorophore−azide))からの非特異的な(すなわち、バックグラウンドの)シグナルをクエンチするための本発明の方法を例示するスキームを示す。
【図5】図5は、実施例2に記載のとおり、(A)XRhodamine−アジドで染色したEdU未標識HeLa細胞、および(B)XRhodamine−アジドで染色したEdU標識細胞、の蛍光顕微鏡によって得られた2つの画像を示す。
【図6】図6は、経時的蛍光顕微鏡画像のセットを示しており、これは生きた細胞上の染色反応を時間の関数として示す。EdU標識された細胞の染色は、実施例3に記載されるように、細胞透過性TMR−アジドを用いて行った。画像上の時間の表示は分:秒で示す。
【図7】図7は、図6に示される画像で測定されたとおり経時的にプロットされたDNA染色強度を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例4に記載されるとおり標識されたマウスの腸を通る切片の蛍光顕微鏡画像(高倍率)を示す。赤い核を有する細胞は、EdUを組み込む細胞およびそれらの子孫である。DNAは青でみられる(Hoechst)。
【図9】図9は、実施例4に記載されるように標識されたマウス腸を通る切片の蛍光顕微鏡画像(低倍率)を示す。DNAは緑でみられる。赤は、EdUを組み込む細胞およびそれらの子孫を示す。この図で示される対象物は、腸を通る全体的な斜め断面−約5ミリメートル長である。
【図10】図10は、実施例4に記載されるように標識されたマウス脳を通る切片の蛍光顕微鏡画像を示す。単独のEdU標識細胞が、この脳切片で容易に同定され得る(脳の細胞は、極めて増殖性である腸の細胞とは異なりほとんど決して分裂しない)。
【図11】EdUで標識された2つの細胞の高解像画像の2セットを示す。左側の画像(A)および(B)は、全ての細胞性DNAを染色する色素であるOliGreenで染色されたEdU標識細胞を示す。右側の画像(C)および(D)は、Xrhodamine−アジドで染色されたEdU標識細胞を示す。上の画像は静止期の細胞を示すが、下の画像は分裂後期の細胞を示す。
【図12】図12は、染色体を形成する2つのDNA分子のうちの1つのDNA分子のみを標識するのに従った手順を示しているスキームである。
【図13】図13は、実施例5に記載されるようにAlexa568−アジドで染色されたEdU標識細胞のDNAの画像のセットである。画像の第一列は、最初の有糸分裂後のDNA、アジド染色および2つのオーバーレイ(overlay)を示す。画像の第二列は、第二の有糸分裂後のDNA、アジド染色および2つのオーバーレイを示す。
【図14】図14は、EU(エチニル−ウリジン)の細胞RNAのための標識としての使用を実証する3つの画像のセットである。HeLa細胞を、10μMのEUで一晩標識して、固定して、Xrhodamine−アジドで染色した。左側の画像は、EUで標識されていない、Xrhodamine−アジドで染色された細胞を示す(陰性コントロール)。中央および右側の画像は、Xrhodamine−アジドで染色されたEU標識細胞の画像である。
【図15】図15は、本発明による[3+2]環化付加を用いるリボソーム提示を示すスキームである。
【図16】図16は、AdUで標識され、かつAlexa568−アルキンで染色されたHeLa細胞の視野の2つの画像のセットである(詳細については実施例7を参照のこと)。AdUは、(A)標識された静止期細胞の核において、そして(B)有糸分裂細胞の凝縮した染色体において、明確に検出される。
【図17】図17は、細胞核から蛍光シグナルを効果的に除去するための本明細書に記載のストラテジーを図示する4つの画像のセットである。HeLa細胞は、未染色のまま(第一列、左側)か;EdUで標識され、かつAlexa568−アジドで染色される(第一列、右側)か;EdUで標識され、かつAlexa568−アジドで染色され、かつ20mMのDTT(第二列、左側)か、または100mMのDTT(第二列、右側)で処理される(詳細は実施例8を参照のこと)。
【図18】図18は、(A)当該分野で公知のとおりBrdUを用いるDNA標識、および(B)本発明の方法を用いるDNA標識であって、DNA複製によるヌクレオシドアナログAdU(すなわち、アジド−dU)のDNAへの組み込み、続いてアジド基と標識試薬のトリアリールホスフィンとの間のシュタウディンガー・ライゲーションを含むDNA標識、を示す2つのスキームを示している。
【発明を実施するための形態】
【0073】
(定義)
簡便の目的のために、本明細書全体にわたって用いられる種々の用語の定義を以下に示す。
【0074】
「核酸ポリマー(nucleic acid polymer)」という用語は、一本鎖型または二本鎖型のいずれかのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーをいい、これは、DNAおよびRNAを含み、そして他に言及しない限り、合成骨格を有する核酸様構造および増幅生成物を包含する。本発明の状況では、核酸ポリマーは、単離された分子であってもよいし、あるいは核酸ポリマーは、細胞の内側または生物体の中に位置してもよい。
【0075】
「単離された、単離される(isolated)」という用語は、核酸ポリマーに関して本明細書において用いられる場合、核酸ポリマーであってその起源または操作のおかげで、それが天然に会合しているか、またはそれが最初に得られるときに会合している成分のうちの少なくともいくつかから分離されている核酸ポリマーを意味する。「単離された、単離される(isolated)」とは代替的にまたはさらに、目的の核酸ポリマーが人の手によって生成されるかまたは合成されるということを、意味する。
【0076】
本明細書において用いる場合、「ヌクレオチドアナログ(nucleotide analogue)」という用語は、天然のヌクレオチドと構造的に類似であり、そして天然に存在するヌクレオチドと同じ方式で機能し得る分子(例えば、天然に存在する塩基のうちの1つと塩基対合する同様の能力を示す)をいう。本明細書において用いる場合、「ヌクレオシドアナログ(nucleoside analogue)」という用語は、天然のヌクレオシドと構造的に類似であり、天然に存在するヌクレオシドと同様の方式で機能し得る分子(例えば、DNA複製によってDNAに組み込まれる同様の能力を示す)をいう。「ヌクレオチド(nucleotide)」という用語は、糖部分(ペントース)、リン酸塩および窒素性複素環塩基を含むDNAまたはRNAのモノマー単位をいう。この塩基は、グリコシドの炭素(すなわち、五炭糖の1’炭素)を介して糖部分に連結され、そして塩基および糖のその組み合わせが「ヌクレオシド(nucleoside)」と呼ばれる。この塩基は、アデニン(すなわちA)、グアニン(G)、シトシン(C)およびチミン(T)であるDNAの4つの塩基、ならびにアデニン、グアニン、シトシンおよびウラシル(U)であるRNAの4つの塩基でヌクレオチド(またはヌクレオシド)を特徴づける。本発明の特定の実施形態では、ヌクレオチドアナログ(またはヌクレオシドアナログ)は、反応性不飽和基を含む。
【0077】
本明細書において用いる場合、「反応性不飽和基(reactive unsaturated group)」という用語は、2つ以上の原子価結合を共有している原子を含む官能基であって、そしてさらなる反応、詳細には環化付加を受け得る官能基をいう。反応性の不飽和基は代表的には、少なくとも1つの二重または三重結合を保有する。
【0078】
「1,3−双極子(dipole)」という用語は、本明細書において、当該分野で理解される意味を有し、そしてアリルアニオンと等電性であり、かつ4つの電子を1,3−双極子を含むπ系に有する分子または官能基をいう。1,3−双極子は一般に、特徴的な1,3−双極子を示す1つ以上の共鳴構造を有する。1,3−双極子の例としては、ニトリルオキシド、アジド、ジアゾメタン、ニトロンおよびニトリルイミンが挙げられる。
【0079】
本明細書において用いる場合、「親双極子(ダイポーラロフィル)(dipolarophile)」という用語は、当該分野で理解される意味を有し、そしてπ結合を含み、1,3−双極子に対する反応性を示す分子または官能基をいう。親双極子の反応性は、π結合に存在する置換基に、そしてこの反応に関与する1,3−双極子の性質にその両方に依存する。親双極子は代表的には、アルケンまたはアルキンである。
【0080】
本明細書において用いる場合、「環化付加(cycloaddition)」という用語は、化学反応であって、ここでは2つ以上のπ電子系(例えば、不飽和分子または同じ分子の不飽和部分)が合わさって環状生成物を形成し、ここで結合多重度の正味の減少が存在する化学反応をいう。環化付加では、π電子を用いて新規なσ結合が形成される。環化付加の生成物は、「付加物(adduct)」または「環付加物(cycloadduct)」と呼ばれる。異なるタイプの環化付加が当該分野で公知であって、これには、限定はしないが、[3+2]環化付加およびDiels−Alder(ディールス−アルダー)反応が挙げられる。[3+2]環化付加はまた、1,3−双極子性環化付加とも呼ばれ、1,3−双極子と親双極子との間で生じ、そして代表的には、5員の複素環の構築に用いられる。「[3+2]環化付加(cycloaddition)」という用語はまた、Bertozziら,J.Am.Chem.Soc,2004,126:15046〜15047によって記載される、アジドとシクロオクチンとジフルオロシクロオクチンとの間の「銅なし(copperless)」[3+2]環化付加を包含する。
【0081】
本明細書において用いる場合、「シュタウディンガー・ライゲーション(Staudinger ligation)」という用語は、古典的なシュタウディンガー反応の改変であるSaxonおよびBertozzi(E.SaxonおよびC.Bertozzi,Science,2000,287:2007〜2010)によって開発された化学反応をいう。この古典的なシュタウディンガー反応は、アジドとホスフィンまたは亜リン酸塩との組み合わせがアザ−イリド中間体を生じ、加水分解の際にホスフィン・オキシドおよびアミンを生じる化学反応である。シュタウディンガー反応は、アジドをアミンに還元する温和な方法であり;そしてトリフェニルホスフィンは一般には還元剤として用いられる。シュタウディンガー・ライゲーションでは、求電子性トラップ(通常はアルキルエステル)が適切にトリアリールホスフィンに置かれ(通常は、リン原子に対してオルトに)、そしてアジドと反応されて、アザ−イリド中間体が生じ、これが水性媒体中に再配置されて、アミド基およびホスフィン・オキシド官能基との化合物を生じる。シュタウディンガー・ライゲーションは、それが2つの出発分子を一緒に連結する(結合/共有結合する)のでそのように命名されるが、古典的なシュタウディンガー反応では、2つの生成物は加水分解の後に共有結合されない。「シュタウディンガー・ライゲーション」という用語はまた、Rainesら、J.Am.Chem.Soc.,2006,128:8820〜8828に記載されるとおり、ジアリールホスフィオエステルまたはジアリールホスフィノチオエステルが用いられる、「トレースレス(traceless)」シュタウディンガー・ライゲーション反応を包含する。
【0082】
「標識された(labeled)」、「検出因子(検出可能剤)で標識された(labeled with a detectable agent)」、および「検出可能部分で標識された(labeled with a detectable moiety)」という用語は本明細書において、交換可能に用いられる。核酸ポリマーに関して用いられる場合、これらの用語は、この核酸ポリマーが検出可能であるかまたは可視であるということを特定する。好ましくは、標識は、測定可能なシグナルであって、その強度が標識された核酸ポリマーの量(例えばサンプル中)に関係するシグナルを生成するように、選択される。本発明のアレイベースの検出方法では、この標識は望ましくは、それが局所シグナルを生成して、それによってアレイ上の各々のスポットからシグナルの空間的な分解が可能になるように選択され得る。標識は直接検出可能であってもよいし(すなわち、検出可能になるために、なんらさらなる反応も操作も必要とせず、例えば、発蛍光団が直接検出可能である)、または間接的に検出可能であってもよい(すなわち、検出可能である別の部分との反応または結合を通じて検出可能になる、例えば、ハプテンは、発蛍光団のようなレポーターを含む適切な抗体との反応後に免疫染色によって検出可能である)。本発明における使用に適切な標識は、任意の種々の手段によって検出可能であり得、これには限定はしないが、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的な手段が挙げられる。適切な標識としては限定はしないが、種々のリガンド、放射性核種、蛍光色素、化学発光剤、微小粒子、酵素、比色標識、磁気標識およびハプテンが挙げられる。
【0083】
「発蛍光団、フルオロフォア(fluorophore)」、「蛍光部分(fluorescent moiety)」および「蛍光色素(fluorescent dye)」という用語は、本明細書において交換可能に用いられる。それらは、分子であって、溶液中でおよび適切な波長の光での励起の際に、一般にはより長い波長で発光し返す分子をいう。広範な種々の構造および特徴の多くの蛍光色素が本発明の実施における使用に適切である。発蛍光団を選択するには、分子が光を吸収して高い効率で蛍光を発し(すなわち、蛍光分子は、それぞれ、励起波長で高モル消衰係数および高蛍光量子収量を有する)、そして光安定性である(すなわち、蛍光分子は、検出を行うのに必要な時間内の光励起の際に有意な分解を受けない)ことがしばしば所望される。
【0084】
本明細書において用いる場合、「二重標識(する)(dual labeling)」という用語は、標識プロセスであって、核酸ポリマーが、識別可能なシグナルを生じる2つの検出可能な因子で標識される標識プロセスをいう。このような標識プロセスから生じる核酸ポリマーとは、二重に標識されるといわれる。本明細書において用いる場合、「示差的標識(differential labeling)」とは、標識プロセスであって、2つの核酸ポリマーが、識別可能なシグナルを生じる2つの検出可能因子で標識される標識プロセス(すなわち、第一の核酸ポリマーが、第一の検出可能因子で標識され、第二の核酸ポリマーが第二の検出可能因子で標識され、そしてこの第一の検出可能因子および第二の検出可能因子が識別可能なシグナルを生じる)をいう。この検出可能因子は、同じタイプのもの(例えば、励起の際に二重色蛍光を生じる2つの蛍光色素)であっても、または異なるタイプのもの(例えば、蛍光色素およびハプテン)であってもよい。
【0085】
「細胞増殖(cell proliferation)」および「細胞性(の)増殖(cellular proliferation)」という用語は、本明細書において交換可能に用いられて、単一の細胞の娘細胞への分裂による細胞の集団の増殖、または単一の細胞の娘細胞への分裂をいう
本明細書において用いる場合、「有効な量(effective amount)」という用語は、細胞、組織または生物体における関連の応答を惹起する物質、化合物、分子、因子または組成物の量をいう。例えば、生物体に投与されるヌクレオシドの場合、有効量のヌクレオシドとは、生物体の細胞のDNAに組み込まれるヌクレオシドの量である。
【0086】
本明細書において用いる場合、「生物体(organism)」という用語は、独立して作用するかもしくは機能する能力を有するかまたは発達させ得る、生きている系をいう。生物体は、単細胞であってもまたは多細胞であってもよい。生物体としては、ヒト、動物、植物、細菌、原生動物および真菌が挙げられる。
【0087】
「細胞増殖の混乱(perturbation of cellular proliferation)」という用語は、本明細書において用いる場合、ある因子が、その因子の非存在下で観察される細胞増殖に比較して、細胞増殖を誘導(すなわち、増大、増強そうでなければ悪化する)か、または阻害する(すなわち、減少させ、遅らせそうでなければ抑制させる)能力をいう。
【0088】
(特定の好ましい実施形態の詳細な説明)
上記で言及されるとおり、本発明は、インビトロおよびインビボの両方で、核酸ポリマーを標識するため、そして細胞増殖を測定するための方法および組成物を提供する。本発明の方法は一般に、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識を含む試薬との間の化学的反応を包含し、このヌクレオチドアナログは、第一の反応性基を含み、そしてこの試薬は第二の反応性基を含み、その結果この第一の反応性基と第二の反応性基との間の反応が核酸ポリマーの標識を生じる。ヌクレオチドアナログに対して標識を共有結合させる任意のタイプの反応を、本発明の実施において用いてもよい。好ましい反応は生体分子(例えば、天然の細胞成分)に対して化学的に不活性であり、生化学的に関連する状態(例えば、細胞培養条件)のもとで効率的に生じ得、そして天然に存在する生体分子にまれに見出される反性応基を包含する。
【0089】
詳細には、本発明は、[3+2]環化付加、または核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログと標識を含む試薬との間のシュタウディンガー・ライゲーションを包含する核酸ポリマーを標識する方法を提供する。
【0090】
(I.[3+2]環化付加を介する核酸ポリマーの標識)
本発明のいくつかの標識方法は一般には、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチド上の第一の反応性不飽和基と、標識に結合された第二の反応性不飽和基との間の[3+2]環化付加を包含する。このような標識方法の例は図1に模式的に提示され、そして従来のBrdU標識方法と比較される。
【0091】
(1.ヌクレオシドおよびヌクレオチドのアナログ)
本発明の方法の実施における使用に適切なヌクレオシドアナログ(またはヌクレオチドアナログ)としては、[3+2]環化付加(cyclo−addition)を受け得る反応性不飽和基を含む、本明細書に規定されるような、任意のヌクレオシドアナログ(またはヌクレオチドアナログ)が挙げられる。いくつかの実施形態では、反応性不飽和基は、ヌクレオシド(またはヌクレオチド)の塩基によって担持される。反応性不飽和基を担っている塩基は、プリン(例えば、アデニンまたはグアニン)であっても、またはピリミジン(例えば、シトシン、ウラシルまたはチミン)であってもよい。特定の実施形態では、この塩基はウラシルであり;このようないくつかの実施形態では、ウラシルは、5位置に反応性不飽和基を担持する。この不飽和基は、この塩基に対して直接結合されても、または間接的に結合されてもよい。好ましくは、この不飽和基はこの塩基に直接共有結合される。
【0092】
この反応性不飽和基は、1,3−双極子、例えば、ニトリルオキシド、アジド、ジアゾメタン、ニトロンまたはニトリルイミンであってもよい。特定の実施形態では、1,3−双極子はアジドである。あるいは、この反応性不飽和基は、親双極子、例えば、アルケン(例えば、ビニル、プロピルエニルなど)またはアルキン(例えば、エチニル、プロピニルなど)であってもよい。特定の実施形態では、この親双極子はアルキン、例えば、エチニル基などである。
【0093】
ヌクレオシドアナログおよびヌクレオシド三リン酸塩アナログの調製のための方法は当該分野で公知である。例えば、ヌクレオシドおよびヌクレオシド三リン酸塩における5置換塩基の調製のための手順は、開発されておりかつ報告されている(例えば、A.S.Jonesら、Nucleic Acids Res.,1974,1:105〜107;R.C.Bleackleyら、Nucleic Acids Res.,1975,2:683〜690;D.E.BergstromおよびJ.L.Ruth,J.Am.Chem.Soc,1976,98:1587〜1589;Y.F.Shealyら、J.Med.Chem.,1983,26:156〜161;K.Heら、Nucleic Acids Res.,1999,8:1788〜1798;H.A.HeldおよびS.A.Benner,Nucleic Acids Res.,2002,30:3857〜3869を参照のこと)。
【0094】
本発明の実施において用いられ得る例示的なヌクレオシドのアナログとしては、5−エチニル−2’デオキシウラシル(本明細書においてはエチニルウラシルまたはEdUとも呼ばれる)および5−アジド−2’−デオキシウラシル(本明細書においては、アジドウラシルまたはAdUとも呼ばれる)ならびにそれらの三リン酸塩およびホスホラミダイト型が挙げられる。本出願では、C−S.YuおよびF.Oberdorfer,Synlett,2000,1:86〜88に本質的に記載されるとおりEdUを合成し;そしてアジド−dUMPを合成するためにP.Sunthankarら、Anal.Biochem.,1998,258:195〜201に記載されるものと同様の方法を用いてAdUを調製した。EdUはまた、Berry and Associates,Inc.(Dexter,MI)から市販されている。
【0095】
(2.核酸ポリマー)
本発明の方法に従って生成されるか、または本発明の方法で利用される核酸ポリマーは、一本鎖または二本鎖のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーである。当業者によって理解されるとおり、核酸ポリマーは、少なくとも約8ヌクレオチドを含む短いオリゴヌクレオチドを含む任意の広範なサイズのポリヌクレオチドおよび全長ゲノムDNA分子であってもよい。
【0096】
少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む核酸ポリマーは、合成および酵素方法を含む当該分野で周知の任意の種々の方法によって調製されてもよい(J.Sambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,1989,第2版,Cold Spring Harbour Laboratory Press:New York,NY;「PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications」,1990,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,NY;P.Tijssen「Hybridization with Nucleic Acid Probes−Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology(パートIおよびII)」,1993,Elsevier Science;「PCR Strategies」,1995,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,NY;ならびに「Short Protocols in Molecular Biology」,2002,F.M.Ausubel(編),第5版.,John Wiley & Sons:Secaucus,NJ)。
【0097】
例えば、本発明の核酸ポリマーは、ホスホラミダイトのアプローチに基づく、自動的な固相手順を用いて調製され得る。このような方法では、各々のヌクレオチド(ヌクレオチドアナログを含む)が、成長しているポリヌクレオチド鎖の5’末端に個々に付加され、これが固体支持体に対して3’末端に結合される。この付加されたヌクレオチドは、5’位置でジメトキシトリル(すなわちDMT)基によって重合化から保護される三価の3’ホスホラミダイトの形態である。塩基誘導性のホスホラミダイトカップリングの後、温和な酸化によって、五価のホスホトリエステル中間体が得られ、DMT除去によって、ポリヌクレオチド伸長の新規な部位が得られる。次いで、この核酸ポリマーは、固体支持体から切断されて、ホスホジエステルおよび環外のアミノ基が水酸化アンモニウムで脱保護される。これらの合成は、Perkin Elmer/Applied Biosystems,Inc(Foster City,CA)、DuPont(Wilmington,DE)またはMilligen(Bedford,MA)から購入可能なオリゴシンセサイザーで行われてもよい。
【0098】
本発明の核酸ポリマーはあるいは、例えば、インビトロの伸長および/または増幅方法を用いて調製され得る。標準的な核酸増幅方法としては以下が挙げられる:ポリメラーゼ連鎖反応すなわちPCR(「PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications」,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,1990;および「PCR Strategies」,M.A.Innis(Ed.),Academic Press:New York,1995);リガーゼ連鎖反応(ligase chain reaction)すなわちLCR(U.Landegrenら、Science,1988,241:1077〜1080;およびD.L.Barringerら、Gene,1990,89:117〜122);転写増幅(D.Y.Kwohら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989,86:1173〜1177);自己維持性配列複製(self−sustained sequence replication)(J.C.Guatelliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1990,87:1874〜1848);Q−βレプリカーゼ増幅(J.H.Smithら、J.Clin.Microbiol.1997,35:1477〜1491);自動化Q−βレプリカーゼ増幅アッセイ(J.L.Burgら、Mol.Cell.Probes,1996,10:257−271)および他のRNAポリメラーゼ媒介性技術、例えば、核酸配列ベースの増幅(nucleic acid sequence based amplification)すなわちNASBAなど(A.E.Greijerら、J.Virol.Methods,2001,96:133−147)。
【0099】
当業者によって理解されるとおり、本発明の核酸ポリマーは、事前合成改変方法(すなわち、核酸分子への核酸アナログの組み込み)、または合成後改変方法(すなわち、核酸分子における天然に存在するヌクレオチドからヌクレオチドアナログへの改変)によって、調製され得る。
【0100】
あるいは、ヌクレオチドアナログは、下に記載されるように、DNA複製によって細胞のDNAもしくは生きている系へ組み込まれても、または反応によってRNAへ組み込まれてもよい。
【0101】
本発明の核酸ポリマーの単離または精製は必要な場合、当該分野で周知の任意の種々の方法によって行われ得る。核酸ポリマーの精製は代表的には、天然のアクリルアミドゲル電気泳動によって、例えば、J.D.PearsonおよびF.E.Regnier(J.Chrom.,1983,255:137−149)によって記載されるような陰イオン交換HPLC、または逆相HPLC(G.D.McFarlandおよびP.N.Borer,Nucleic Acids Res.,1979,7:1067〜1080)のいずれかによって、行われる。
【0102】
所望の場合、合成核酸ポリマーの配列は、限定はしないが、化学的変性(A.M.MaxamおよびW.Gilbert,Methods of Enzymology,1980,65:499〜560)、マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間(matrix−assisted laser desorption ionization
time−of−flight)(MALDI−TOF)質量分析法(U.Pielesら、Nucleic Acids Res.,1993,21:3191〜3196)、アルカリホスファターゼおよびエキソヌクレアーゼ消化後の質量分析法(H.WuおよびH.Aboleneen,Anal.Biochem.,2001,290:347〜352)、などを含む任意の適切な配列決定方法を用いて改変され得る。
【0103】
(3.[3+2]環化付加)
本明細書において提供される方法は一般には、[3+2]環化付加を包含する。これらの方法では、[3+2]環化付加は、核酸ポリマーへ組み込まれたヌクレオチドアナログ上の第一の反応性不飽和基と、標識を含む試薬(本明細書では染色試薬とも呼ばれる)上の第二の反応性不飽和基との間で生じる。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態では、染色試薬は、第二の反応性不飽和基が[3+2]環化付加を介してヌクレオチドアナログ上の第一の反応性不飽和基と反応し得るように選択される。より詳細には、第一の不飽和基が1,3−双極子である場合、この第二の不飽和基は、1,3−双極子と反応し得る親双極子である。あるいは、この第一の不飽和基は、親双極子であり、この第二の不飽和基は、親双極子と反応し得る1,3−双極子である。
【0105】
[3+2]環化付加反応条件の最適化は当該分野の技術の範囲内である。特定の好ましい実施形態では、この[3+2]環化付加は水性条件下で行われる。
【0106】
1,3−双極子がアジドであり、かつ親双極子がアルキン(例えば、エチニル基)である実施形態では、[3+2]環化付加は、Sharplessおよび共同研究者によって記載されるように(V.V.Rostovtsevら,Angew Chem.,Int.Ed.Engl.,2002,41:1596〜1599;W.G.Lewisら、Angew Chem.Int.Ed.Engl.,2002,41:1053〜1057;Q.Wangら、J.Am.Chem.Soc,2003,125:3192〜3193)、生理学的な温度で、水性条件下で、そして環化付加を触媒する銅(I)(すなわちCu(I))の存在下で行われてもよい。[3+2]環化付加の触媒されたバージョンは、「クリック(click)」化学と名付けられる。
【0107】
他の実施形態では、例えば、内因性のCu(I)の存在が所望されない場合(例えば、Cu(I)が生きている系に毒性である場合)、アジドとアルキンとの間の[3+2]環化付加は、Cu(I)の存在についてを除いて、Sharplessおよび共同研究者によって記載されるとおり行われ得る。これらの状況では、環化付加で用いられる染色試薬は、反応性不飽和基および標識に加えて、Cuキレート化部分を含む。本明細書において用いる場合、「Cuキレート部分(Cu chelating moiety)」という用語は、銅(I)イオンとの複合体(2つ以上の配位結合を含む)の形成に関与し得る2つ以上の極性基の存在によって特徴づけられる任意の物体をいう。Cuキレート部分は、[3+2]環化付加の近傍で生物系(例えば、細胞)に天然に存在する銅(I)イオンを動員し得る。特定のCu(I)キレーターは当該分野で公知であり、そしてこれには限定はしないが、ネオクプロイン(neocuproine)(H.H.Al−Sa’doniら、Br.J.Pharmacol.,1997,121:1047〜1050;J.G.De Manら、Eur.J.Pharmacol.,1999,381:151〜159;C.Gocmenら、Eur.J.Pharmacol,2000,406:293〜300)およびバトクプロイン・ジスルホネート(bathocuproine disulphonate)(M.Bagnatiら、Biochem.Biophys.Res.Commun.,1998,253:235〜240)が挙げられる。
【0108】
(4.標識された核酸ポリマーの標識および検出)
本発明の方法は、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログ上の第一の反応性不飽和基と標識に結合された第二の反応性不飽和基との間の[3+2]環化付加を包含する。この[3+2]環化付加反応は、核酸ポリマーの標識を生じる。
【0109】
(A.標識)
既に上述されているとおり、標識の役割は、標識後に、核酸ポリマー、例えば細胞中のDNAの可視化または検出を可能にすることである。好ましくは、標識(または検出可能な因子または部分)は、測定可能なシグナルであって、その強度が、例えば分析されているサンプル中にある、標識された核酸ポリマーの量に関係する(例えば、比例的である)シグナルを生成するように選択される。本発明のアレイベースの検出方法(下を参照のこと)では、この検出可能因子は好ましくは、それが局所シグナルを生成して、それによってアレイ上の各々のスポットについてシグナルの空間的な分解を可能にするように選択される。
【0110】
標識と第二の反応性不飽和基を含む染色試薬との間の会合は好ましくは共有結合である。標識は染色試薬上の不飽和基に直接結合されてもよいし、またはリンカーを通じて間接的に結合されてもよい。
【0111】
化学的分子に対して検出可能な部分を結合させるための方法は、当該分野で周知である。特定の実施形態では、この標識および不飽和基はお互いに直接共有結合される。この直接の共有結合は、アミド結合、エステル結合、炭素間結合、ジスルフィド結合、カルバメート結合、エーテル結合、チオエーテル結合、尿素結合、アミン結合またはカーボネート結合を通じてであってもよい。共有結合は、不飽和基および検出可能部分の上に存在する官能基を利用することによって達成され得る。2つの化学物質を一緒に結合させるために用いられ得る適切な官能基としては、限定はしないが、アミン、無水物、ヒドロキシ基、カルボキシ基およびチオールが挙げられる。直接結合はまた、カルボジイミドのような活性化剤を用いて形成され得る。広範な活性化剤が当該分野で公知であり、そして標識および不飽和基を結合するために適切である。
【0112】
他の実施形態では、染色試薬の不飽和基および標識を、リンカー基を介してお互いに間接的に共有結合させる。これは、同種機能(homofunctional)リンカーおよび異種機能(heterofunctional)リンカーを含む、当該分野で周知の多数の安定な二機能性の因子を用いることによって達成され得る(例えば、Pierce
Catalog and Handbookを参照のこと)。二機能性のリンカーの使用は、活性化因子の使用とは、前者が連結部分を生じこれが反応生成物に存在しているが、後者が反応に関与する2つの部分の間の直接カップリングを生じるという点で異なる。二機能性リンカーの役割は、2つのそうでなければ不活性な部分の間の反応を可能にすることであり得る。あるいは、またはさらに、二機能的なリンカーは、反応生成物の一部となり、この反応生成物に対してある程度の構造的な可塑性を、または他の有用なもしくは所望される特性を付与するように選択され得る。特定の実施形態では、このリンカーは切断可能である(例えば、化学的に切断可能または光化学的に切断可能)。標識とヌクレオチドアナログとの間の切断可能なリンカーの存在によって、核酸ポリマーの一時的な標識が可能になる。このようなシステムを考えれば、所望されればいつでも(例えば、核酸ポリマーの検出後)、この標識は、それが結合されているヌクレオチドアナログを切り落とされてもよい。切断可能なリンカーは当該分野で公知である。例えば、リンカーは、シスタミンリンカーであってもよく、そのジスルフィド結合は、ジチオスレイトール(DTT)を用いて還元され得る(実施例8を参照のこと)。
【0113】
任意の広範な種々の標識/検出可能因子が本発明の実施で用いられ得る。適切な検出可能因子としては、限定はしないが、種々のリガンド、放射性核種(例えば、32P、35S、3H、14C、125I、131Iなど);蛍光色素(特定の例示的蛍光色素については、以下を参照のこと);化学発光剤(例えば、アクリジニウムエステル、安定化ジオキセタンなど);空間的に分解可能な無機蛍光半導体ナノ結晶(すなわち、量子ドット)、金属ナノ粒子(例えば、金、銀、銅およびプラチナ)またはナノクラスター;酵素(例えば、ELISAで用いられるもの、すなわち、西洋ワサビペルオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ);比色標識(例えば、色素、コロイド金など);磁気標識(例えば、DynabeadsTM);ならびにビオチン、ジオキシゲニン、ハプテン、および抗血清またはモノクローナル抗体に利用可能であるタンパク質が挙げられる。
【0114】
特定の実施形態では、この標識は蛍光部分を含む。広範な種々の化学的構造および物理的特徴の多数の公知の蛍光標識部分が本発明の実施において使用に適切である。適切な蛍光色素としては限定はしないが、フルオレセインおよびフルオレセイン色素(例えば、フルオレセインイソチオシアニンまたはFITC、ナフトフルオレセイン、4’,5’−ジクロロ−2’,7’−ジメトキシ−フルオレセイン、6−カルボキシフルオレセインまたはFAM)、カルボシアニン、メロシアニン、スチリル色素、オキソノール色素、フィコエリトリン、エリトロシン、エオシン、ローダミン色素(例えば、カルボキシテトラメチルローダミンまたはTAMRA、カルボキシローダミン6G、カルボキシ−X−ローダミン(ROX)、リサミンローダミンB、ローダミン6G、ローダミン・グリーン、ローダミン・レッド、テトラメチルローダミンすなわちTMR)、クマリンおよびクマリン色素(例えば、メトキシクマリン、ジアルキルアミノクマリン、ヒドロキシクマリンおよびアミノメチルクマリンまたはAMCA)、オレゴン・グリーン色素(Oregon Green Dyes)(例えば、オレゴン・グリーン488、オレゴン・グリーン500、オレゴン・グリーン514)、テキサス・レッド(Texas Red)、テキサス・レッド−X、Spectrum RedTM、Spectrum GreenTM、シアニン色素(例えば、Cy−3TM、Cy−5TM、Cy−3.5TM、Cy−5.5TM)、Alexa Fluor色素(例えば、Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 660およびAlexa Fluor 680)、BODIPY色素(例えば、BODIPY FL、BODIPY R6G、BODIPY TMR、BODIPY TR、BODIPY 530/550、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665)、IRDyes(例えば、IRD40,IRD 700,IRD 800)などが挙げられる。適切な蛍光色素および他の化学物質へ蛍光色素をカップリングするための方法のさらなる例については、例えば、「The Handbook of Fluorescent Probes and Research Products」,第9版、Molecular Probes,Inc.,Eugene,ORを参照のこと。
【0115】
本発明の実施に用いられるべき蛍光標識剤の有利な特性としては、高モル吸収係数、高蛍光量子収量、および光安定性が挙げられる。特定の実施形態では、標識発蛍光団は望ましくは、紫外範囲のスペクトル(すなわち400nmより下)ではなく可視の吸収および発光波長(すなわち、400〜750nm)を示す。蛍光部分の他の所望の特性としては例えば、核酸ポリマーの標識が細胞または生物体(例えば、生きた動物)で行われるべき場合、細胞透過性および低い毒性を挙げてもよい。
【0116】
実施例に報告されるとおり、種々の蛍光染色試薬が、本出願によって用いられており、これには、細胞非透過性である、XRhodamine−アジドおよびAlexa568−アジド、ならびに細胞透過性であるテトラメチルローダミン(TMR)−アジドが挙げられる。
【0117】
本発明はまた、核酸ポリマーの二色標識を提供する(図2を参照のこと)。例えば、本発明によれば、2つ以上の異なる標識が単一の核酸ポリマーに組み込まれてもよい。ある実施形態では、このような組み込みは、2つの[3+2]環化付加反応を介して達成される:第一の環化付加は、第一の核酸ポリマーに組み込まれるヌクレオチドアナログ上の第一の反応性不飽和基と、第一の標識に結合された第一の試薬上の第二の反応性不飽和基との間で生じ;第二の環化付加は、第二の核酸ポリマーに組み込まれるヌクレオチドアナログ上の第三の反応性不飽和基と、第二の標識に結合された第二の試薬上の第四の反応性不飽和基との間で生じる。この第一の核酸ポリマーおよび第二の核酸ポリマーは、同じ分子(例えば、細胞中のDNAの二重標識)であってもよいし、または異なる/個々の分子(例えば、2つの異なる細胞、細胞集団または細胞サンプル由来のDNAの示差的な標識)であってもよい。この第一のおよび第二の標識は好ましくは、それらが識別可能な検出可能なシグナルを生成するように選択される。
【0118】
特定の2つの標識の実施形態では、この第一のおよび第二の検出可能な因子または標識は蛍光色素である。2色の検出を可能にするために、この第一の蛍光標識および第二の蛍光標識は、望ましくは、用いられるべき検出システムと適合するマッチした対を構成し得る。蛍光標識色素のマッチした対は代表的には、空間的に識別可能なシグナルを生成する。例えば、いくつかの実施形態では、マッチした対における蛍光色素は、同じスペクトル範囲の光を有意に吸収しない(すなわち、それらは、異なる吸収最大波長を示す)、そして2つの異なる波長を用いて励起され得る(例えば、連続的に)。あるいは、蛍光色素はマッチした対で、異なるスペクトルの範囲で光を放射し得る(すなわち、それらは、励起の際に二色蛍光を生じる)。
【0119】
蛍光標識の対は当該分野で公知である(例えば、R.P.Haugland,「Molecular Probes:Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals 1992−1994」,第5版,1994,Molecular Probes,Inc.を参照のこと)。蛍光色素の例示的な対としては、限定はしないが、ローダミンおよびフルオレセイン(例えば、J.DeRisiら、Nature Gen.,1996,14:458〜460を参照のこと);Spectrum RedTMおよびSpectrum GreenTM(Vysis,Inc.,Downers Grove,ILから市販されている);およびCy−3TMおよびCy−5T(Amersham Life Sciences,Arlington Heights,ILから市販されている)が挙げられる。
【0120】
特定の標識(または標識のセット)の選択は、行われる標識化の目的に依存し、そしていくつかの要因、例えば、標識方法の容易さおよび費用、望まれるサンプル標識の質、細胞または組織に対する検出可能部分の影響、検出システムの性質、検出可能部分によって生じるシグナルの性質および強度などによって、支配される。
【0121】
(B.標識された核酸ポリマーの検出)
当業者によって理解されるとおり、本明細書に開示される方法に従って標識される核酸ポリマーの検出は、任意の広範な種々の方法によって、および任意の広範な種々の技術を用いて行われ得る。標識の性質に基づく適切な検出方法および/または検出技術の選択(例えば、放射性核種、発蛍光団、化学発光因子、量子ドット、酵素、磁気標識、ハプテンなど)は当該分野の技術の範囲内である。
【0122】
例えば、蛍光標識された核酸ポリマーは、限定はしないが、フローサイトメトリーおよび蛍光顕微鏡を含む蛍光検出技術を用いて検出され得る。特定の蛍光検出技術の選択は、標識実験の目的(例えば、染色体超構造の研究、細胞増殖決定または毒性アッセイ)、ならびに検出されるべき標識された核酸ポリマーの位置(すなわち、生きている細胞の内側または組織の内側など)を含む多くの要因によって支配される。
【0123】
フローサイトメトリーは、粒子の光学特徴に基づいて液体培地中の粒子(例えば、細胞)を分析する、鋭敏かつ定量的な技術である(H.M.Shapiro,「Practical Flow Cytometry」,第3版、1995,Alan R.Liss,Inc.;ならびに「Flow Cytometry and Sorting,Second Edition」,Melamedら、(編),1990,Wiley−Liss:New York)。フローサイトメトリーは水力学的に、1つ以上の発蛍光団を含む粒子の液体懸濁物を細いストリームに収束させて、その結果その粒子が実質的に単一のファイルでストリームを流下して、検査または分析のゾーンを通過する。収束した光ビーム、例えば、レーザービームは、それらが検査ゾーンを通じて流れるにつれて粒子を照射し、そして光学検出器が光の特定の特徴を、それが粒子と相互作用する場合に測定する(例えば、1つ以上の波長での光散乱および粒子蛍光)。
【0124】
あるいは、またはさらに、細胞、組織または器官中の蛍光標識された核酸ポリマーは、種々の画像化技術を用いて蛍光顕微鏡によって可視化および検出され得る。従来の蛍光顕微鏡に加えて、蛍光標識された核酸ポリマーは、例えば、経時的蛍光顕微鏡検査法、共焦点蛍光顕微鏡、または二光子蛍光顕微鏡によって分析され得る。経時的顕微鏡技術(D.J.StephensおよびV.J.Allan,Science,2003,300:82〜86)は、経時的に三次元で生じる複雑な細胞プロセスの完全な写真を提供し得る。これらの方法によって獲得される情報によって、細胞増殖、細胞の動きおよび細胞核分裂のような動的な現象をモニターして定量的に分析することが可能になる。共焦点顕微鏡(L.Harvath,Methods Mol.Biol.,1999,115:149〜158;Z.Foldes−Pappら、Int.Immunopharmacol.,2003,3:1715〜1729)は、制御可能な視野深度、画像の劣化する焦点外の情報の排除、および厚い標本(例えば、組織または動物)から連続的な光学的切片を収集する能力を含む、従来の光学顕微鏡を超えるいくつかの利点をもたらす。顕微鏡の焦点での発蛍光団による2つの光子の同時の吸収を含む、二光子蛍光顕微鏡(P.T.Soら、Annu.Rev.Biomed.Eng.,2000,2;399〜429)によって、光退色および光損傷が最小である、高度に局在的な容積での(例えば、細胞の核での)三次元画像化が可能になる。
【0125】
マイクロアレイに結合されるかまたはマルチウェルのプレートにおける細胞の内側に位置する蛍光標識された核酸ポリマーからのシグナルを、蛍光マルチ−ウェル・プレート・リーダー、蛍光標示式細胞分取器(fluorescence activated cell sorters)(FACS)およびシグナルの空間的解像をもたらす自動化細胞ベース画像化システムを含む任意の種々の自動化および/または高出力の装置システムによって検出および定量してもよい。複数の蛍光標識の同時の検出および複合蛍光画像の作成のための方法は当該分野で周知であって、これには、「アレイ読み取り(array
reading)」または「スキャニング、走査(scanning)」システムの使用、例えば、電荷結合素子(charge−coupled devices)(すなわち、CCD)(例えば、Y.Hiraokaら、Science,1987,238:36〜41;R.S.Aikensら、Meth.Cell Biol.1989,29:291〜313;A.Divaneら、Prenat.Diagn.1994,14:1061〜1069;S.M.Jalalら、Mayo Clin.Proc.1998,73:132〜137;V.G.Cheungら、Nature Genet.1999,21:15〜19を参照のこと;また。例えば、米国特許第5,539,517号;同第5,790,727号;同第5,846,708号;同第5,880,473号;同第5,922,617号;同第5,943,129号;同第6,049,380号;同第6,054,279号;同第6,055,325号;同第6,066,459号;同第6,140,044号;同第6,143,495号;同第6,191,425号;同第6,252,664号;同第6,261,776号;同第および同第6,294,331号も参照のこと)が挙げられる。種々の装置システムがこのような分析を自動化するために開発されており、これには、Cellomics,Inc.(Pittsburg,PA)、Amersham Biosciences(Piscataway,NJ)、TTP LabTech Ltd(Royston,UK)、Quantitative 3 Dimensional Microscopy(Q3DM)(San Diego,CA)、Evotec AG(Hamburg,Germany)、Molecular Devices Corp.(Sunnyvale,CA)およびCarl Zeiss AG(Oberkochen,Germany)によって開発された自動蛍光画像化および自動顕微鏡システムが挙げられる。
【0126】
細胞または組織内の標識された核酸ポリマー由来の蛍光シグナルがまた、DAB(ジアミノベンジジン)フォトコンバージョン(図3に示されるとおり)後に可視化され得る。フォトコンバージョン(photoconversion)は、蛍光プローブ(例えば、細胞内)が電子密度プローブに変換されるプロセスであって、光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルでの研究のために目的の領域または構造を標識する。不溶性の光および電子密度ジアミノベンジジン(DAB)反応性生物へ蛍光色素をフォトコンバーティング(photoconverting)する原理は、最初にA.R.Maranto(Science,1982,217:953〜955)によって実証された。DABフォトコンバージョンは一般に、細胞または組織を発蛍光団を最大励起する周波数の光に曝露しながら、蛍光標識された細胞をDAB溶液中で蛍光標識された組織とともにインキュベートすることまたは浸すことによって達成される。
【0127】
ジアミノベンジジン染色はそのより大きい安定性およびより大きい密度に起因して、蛍光染色よりもいくつかの利点を有し得る。ジアミノベンジジン染色はまた、DAB処理後に、四酸化オスミウムおよびフェロシアン化カリウムを使用することによって強化され得る(H.C.Mutasa,Biotech.Histochem.,1995,70:194〜201)。効率的なDABコンバージョンを受けることが報告されている発蛍光団の例としては、限定はしないが、4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、ファスト・ブルー(Fast Blue)、ルシファー・イエロー(Lucifer Yellow)、ジアミジノ・イエロー(Diamidino Yellow)、エバンス・ブルー(Evans Blue)、アクリジン・オレンジ(acridine
orange)、臭化エチジウム、5,7−ジヒドロキシトリプタミン、1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチル−インドールカルボシアニンパーコレート、3,3’−ジオクタデシルインドカルボシアニン(DiI)、ローダミン−123およびヨウ化プロピジウムが挙げられる。
【0128】
DABフォトコンバージョンの前に、細胞または組織中の蛍光標識された核酸ポリマーは、蛍光顕微鏡によって検出され、そして局在化され得る。DABコンバージョン後、この核酸ポリマーは、透過電子顕微鏡によって可視化され得る。
【0129】
(C.シグナル対ノイズ比の改善)
別の局面では、本発明は、本明細書に開示される標識プロセスを用いて蛍光部分で標識された核酸ポリマーの検出におけるシグナル対ノイズ比を改善するためのシステムを提供する。
【0130】
[3+2]環化付加標識反応によって消費されない染色試薬の任意の分子がバックグラウンド(すなわち、非特異的な)シグナルに寄与し得る。本発明は、このバックグラウンドシグナルを軽減または排除するためのストラテジーを提供し、このストラテジーは、クエンチャー部分を含む分子との反応による未反応の染色試薬上の標識の蛍光シグナルをクエンチする工程を包含する。例えば、ある実施形態では、この試薬とクエンチャー部分を含む分子との間の反応は[3+2]環化付加である(図4に示されるとおり)。
【0131】
従って、本明細書に記載されるように調製される蛍光標識された核酸ポリマーの検出におけるシグナル対ノイズ比を改善する特定の本発明の方法は、第二の反応性不飽和基および蛍光標識(および必要に応じてCuキレート化部分)を含む未反応試薬と、クエンチング部分に結合された反応性不飽和基を含むクエンチング分子とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、染色試薬の反応性不飽和基とクエンチング分子との間で生じる工程と包含する。反応後、この蛍光標識とクエンチング部分との間の物理的な近接によって、蛍光標識からの蛍光シグナルの検出が妨げられる。
【0132】
クエンチング部分の例としては限定はしないが、DABCYL(すなわち、4−(4’−ジメチルアミノフェニルアゾ)−安息香酸)スクシンイミジルエステル、ジアリールローダミンカルボン酸、スクシンイミジルエステル(またはQSY−7)、および4’5’−ジニトロフルオレセインカルボン酸、スクシンイミジルエステル(またはQSY−33)(全て、例えばMolecular Probesから入手可能)、クエンチャー1(quencher 1)(Q1;Epoch Biosciences,Bothell,WAから入手可能)、または「ブラックホール・クエンチャー(Black hole
quenchers)」BHQ−1、BHQ−2およびBHQ−3(BioSearch Technologies,Inc.,Novato,CAから入手可能)が挙げられる。
【0133】
(5.細胞中の核酸ポリマーの標識)
本発明はまた、細胞中で核酸ポリマーを標識するための方法を提供する。このような方法は以下を包含する:細胞と、第一の反応性不飽和基を含む有効な量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果ヌクレオシドアナログが細胞のDNAに組み込まれる工程と;細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が第一の反応性不飽和基と第二の反応性不飽和基との間で生じる工程。
【0134】
他に言及しない限り、これらの方法で用いられる染色試薬および[3+2]環化付加の条件は、核酸ポリマーを標識する方法について上記されるものと同様である。既に上記されているとおり、本発明の標識方法は、生きている細胞において核酸ポリマーを染色する能力を含む現在利用される標識プロトコールを上回るいくつかの利点を示す。「生きている細胞(living cell)」および「生細胞(live cell)」という用語は本明細書において交換可能に用いられ、そしてその特定のタイプの細胞についての標準的な基準、例えば、正常な膜電位の維持、エネルギー代謝または増殖能力に従って、生きているとみなされる細胞を指す。詳細には、本発明の方法は、細胞の固定および/または変性を必要としない。
【0135】
(A.細胞)
いくつかの実施形態では、本発明は、培養物中の細胞における核酸ポリマーへの標識の組み込みに関する。特定の実施形態では、この細胞は標準的な組織培養プラスチック製品中で増殖される。このような細胞としては、正常細胞および誘導された形質転換細胞が挙げられる。特定の実施形態では、細胞は哺乳動物(ヒトまたは動物、例えば、げっ歯類またはサル)由来の細胞である。哺乳動物細胞は、任意の液体、器官または組織由来のもの(例えば、血液、脳、肝臓、肺、心臓、骨など)および任意の細胞タイプのもの(例えば、基底細胞、上皮細胞、血小板、リンパ球、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、腫瘍細胞など)であってもよい。
【0136】
本発明の方法における使用に適切な細胞は、初代細胞、二次細胞または不死化細胞(すなわち樹立された細胞株)であってもよい。それらは当該分野で周知の技術によって調製されていてもよく(例えば、細胞は、患者または健常なドナーから血液を採取することによって得ることができる)、または免疫学的なおよび微生物学的な市販の供給源から(例えば、American Type Culture Collection,Manassas,VAから)購入されてもよい。あるいは、またはさらに、細胞は、例えば、増殖因子またはレセプターを発現する遺伝子のような目的の遺伝子を含むように遺伝子操作されてもよい。
【0137】
本発明の方法で用いられるべき細胞は、標準的な培養技術に従って培養され得る。例えば、細胞はしばしば、加湿された95%空気−5%CO2の雰囲気を含むインキュベーター中で37℃で滅菌環境において適切な容器中で増殖される。容器は、撹拌培養または静止培養物を含んでもよい。ウシ胎仔血清のような未規定の生物学的液体を含有する培地を含む、種々の細胞培養培地が用いられてもよい。細胞培養技術は当該分野で周知であり、そして確立されたプロトコールは多様な細胞タイプの培養に利用可能である(例えば、R.I.Freshney,「Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique」,第2版,1987,Alan R.Liss,Inc.を参照のこと)。
【0138】
(B.DNA複製によるヌクレオシドアナログの組み込み)
DNA複製によるDNAへのヌクレオシドアナログの組み込みは、当該分野で周知のプロセスである。一般には、ヌクレオシドアナログは、ヌクレオシド・トランスポーターによって細胞膜を横切って輸送されて、キナーゼによって細胞中でそれらの三リン酸エステル型にリン酸化される。次いでこのヌクレオシドアナログ三リン酸エステルは、細胞DNAポリメラーゼの基質として、天然に存在するデオキシリボヌクレオチドと競合する。このようなプロセスは、標識目的のための3H−チミジンおよび5’−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)のDNAへの組み込みのために、そしてガンの治療において(D.Kufeら、Blood,1984,64:54〜58;E.Beutler,Lancet,1992,340:952〜956;Y.F.HuiおよびJ.Reitz,Am.J.Health−Syst.Pharm.,1997,54:162〜170;H.Iwasakiら、Blood,1997,90:270〜278)そして、ヒト免疫不全ウイルス感染の処置において(J.Balzarini,Pharm.World
Sci.,1994,16:113〜126)用いられる。
【0139】
ヌクレオシドアナログが細胞のDNAに組み込まれるような、インビトロでの細胞と有効量のヌクレオシドアナログとの接触は、任意の適切なプロトコールを用いて行われ得る。特定の好ましい実施形態では、このヌクレオシドアナログは、指数関数的に増殖する細胞または細胞周期のS期(すなわち、合成期)にある細胞を用いてDNAに組み込まれる。所望の場合、細胞は、標識(ラベリング)−パルス(labeling−pulse)手順の前に血清枯渇によって早期S期で同調され得る。
【0140】
細胞と有効量のヌクレオシドアナログとを接触させる工程は、例えば、適切なインキュベーション条件下で(例えば、実施例1で記載されるような37℃での培養培地中)細胞とヌクレオシドアナログとをインキュベートすることによって行われてもよい。特定の状況では、細胞の正常な細胞周期パターンを混乱し得る、細胞を混乱させることを何としても回避することが所望され得る(例えば、遠心分離工程または温度変化による)。このインキュベーション時間は、細胞周期の入力および進行の細胞集団の率に依存する。インキュベーション時間および条件の最適化は当業者の技術の範囲内である。
【0141】
(C.細胞における[3+2]環化付加)
インビトロの細胞のDNAへのヌクレオチドアナログの組み込み後、この細胞と、第二の反応性不飽和基および標識を含む染色試薬とを接触させる工程を任意の適切な方法によって行ってもよい。ある実施形態では、この細胞を適切なインキュベーション培地(例えば、培養培地)中で染色試薬の存在下において、37℃でかつこの試薬が細胞に浸透するのに十分な時間の間インキュベートして、細胞のDNAに組み込まれる任意のヌクレオチドアナログと反応させる。染色試薬の濃度、環化付加反応時間および条件の最適化は当該分野の技術の範囲内である。
【0142】
既に上述されているとおり、外因性Cu(I)の存在が所望されない実施形態では、第二の反応性不飽和基、標識およびCu(I)キレート部分を含む染色試薬を用いて、[3+2]環化付加を行ってもよい。
【0143】
染色試薬が高い細胞透過性を示さない実施形態では、透過は、細胞の細胞質、または細胞内成分もしくは細胞の構造への染色試薬のアクセスを容易にするように行われてもよい。詳細には、透過化処理は、試薬が細胞に進入することを可能にし、このような透過処理の非存在下で細胞へ正常に浸透する濃度よりも大きい細胞内濃度に達することを可能にし得る。
【0144】
細胞の透過化処理は任意の適切な方法によって行われてもよい(例えば、CA.Goncalvesら、Neurochem.Res.2000,25:885〜894を参照のこと)。このような方法としては限定はしないが、界面活性剤(detergent)(例えば、CHAPS、コール酸、デオキシコール酸、ジギトニン、n−ドデシル−β−D−マルトシド、ラウリル硫酸、グリコデオキシコール酸、n−ラウロイルサルコシン、サポニン、およびtriton X−100)に対する、または有機アルコール(例えば、メタノールおよびエタノール)に対する曝露が挙げられる。他の透過化方法は、膜透過能を付与する特定のペプチドまたは毒素の使用を包含する(例えば、O.Aguileraら、FEBS Lett.1999,462:273〜277;A.Bussingら、Cytometry,1999,37:133〜139)。適切な透過化剤の選択ならびにインキュベーションの条件および時間の最適化は、当業者によって容易に行われ得る。
【0145】
実施例2に記載のとおり、本出願人は、HeLa細胞をEdUの有無においてインキュベートして、この細胞を透過化して、それをXrhodamine−アジドで染色した。2つの細胞集団の蛍光画像は図5に示す。この図は、インビトロにおける本発明の標識方法の有効性を図示する。さらに、このような方法を用いる生きた細胞での標識DNAの検出は、数分内に完了することが見出された(図6および図7を参照のこと)。出願人らはまた、AdUの存在下でHeLa細胞をインキュベートして、Alexa568−アルキンで染色している(実施例7を参照のこと)。このように処置した細胞集団の蛍光画像は図16上に示される。
【0146】
(6.組織または器官における核酸ポリマーの標識)
本発明はまた、生物体(すなわち、生きている生物学的な系)において核酸ポリマーを標識するための方法を提供する。このような方法は、以下の工程を包含する:第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログをある生物体に投与して、その結果このヌクレオシドアナログがこの生物体の細胞におけるDNA中に組み込まれる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加がこの第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程。
【0147】
他に言及しない限り、これらの方法で用いられる染色試薬および[3+2]環化付加条件は、細胞の核酸ポリマーを標識する方法について上記されたものと同様であって、そして当業者によって容易に決定/最適化され得る。
【0148】
(A.生物体)
本発明の標識方法は、独立して作用するかまたは機能する能力を有するかまたは発達し得る任意の生物系を用いて行われてもよい。従って、本発明の標識方法は、単細胞系でまたは多細胞系で用いられてもよく、このような系としては、ヒト、動物、植物、細菌、原生動物および真菌が挙げられる。特定の好ましい実施形態では、本発明の標識方法は、ヒトまたは別の動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマまたは霊長類)で行われる。
【0149】
(B.生物系におけるDNA複製によるヌクレオシドアナログの組み込み)
生物体に対するヌクレオシドアナログの投与は、生物体の細胞のDNAへのヌクレオシドアナログの組み込みを生じる任意の適切な方法を用いて達成され得る。
【0150】
例えば、ヌクレオシドアナログは、生理学的にかつ臨床的に受容可能な溶液を用いて、当該分野における従来の方法に従って処方され得る。適切な溶液は、選択される投与経路に依存する。投与の適切な経路としては例えば、経口、直腸、経粘膜、経皮的、または腸内投与;非経口送達であって筋肉内、皮下、髄内の注射、ならびにくも膜下腔内、直接脳室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内または眼内の注射を含む非経口送達を挙げることができる。あるいは、このヌクレオシドアナログ調製は、全身的な方式ではなく局所に、例えば、特定の組織への注射を介して、しばしばデポ処方物または徐放性処方物において投与されてもよい。
【0151】
(C.[3+2]環化付加)
生物体の細胞のDNAへのヌクレオチドアナログの組み込み後、生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させる工程は、[3+2]環化付加が生じることを可能にする任意の適切な方法によって行われ得る。
【0152】
特定の実施形態では、細胞は、(例えば、生物体から血液を採取することによって)収集されるか、生検によって得られた組織から単離されるか(例えば、針生検、レーザー・キャプチャー・マイクロダイセクションまたは切開生検)、または生物体からもしくは生物体の一部から単離される(例えば、剖検で回収される)。次いで、細胞は、上記のような[3+2]環化付加染色に供されてもよい。
【0153】
1実施形態では、生検によって得られた組織、または剖検で回収された器官もしくは器官の一部は、当該分野で公知のように染色のために調製されて(例えば、パラフィン中で固定または、包埋され、そして切片にされる)、そして[3+2]環化付加試薬の存在下でインキュベートされてもよい(例えば、脱ろう後)。
【0154】
実施例4は、本発明の出願人によって行われる実験を記載しており、ここではマウスに、EdUを腹腔内に注射し、そしてその器官を注射の3日後に回収し、染色のために調製して、Xrhodamine−アジドを用いて、およびHoechst(DNA染色に特異的な蛍光色素)を用いて染色した。これらのマウスの腸の蛍光画像および脳の蛍光画像は、それぞれ図8および9、ならびに図10に示される。
【0155】
(7.単離された標識された核酸ポリマー)
別の局面では、本発明は、例えば、本明細書に記載される方法の1つによって調製される、単離された検出可能な核酸ポリマーを提供する。より詳細には、本発明は、[3+2]環化付加反応後に検出可能である核酸ポリマー、および[3+2]環化付加を介して組み込まれている少なくとも1つの検出可能部分を含む単離された核酸ポリマーを提供する。
【0156】
特定の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、反応性不飽和基を含む少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む。好ましくは、この反応性不飽和基は、標識に結合された異なる反応性不飽和基を含む試薬の存在下で[3+2]環化付加を受け得る。
【0157】
他の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、標識に結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む。例えば、ヌクレオチドアナログは、[3+2]環化付加から生じる環付加物を含んでもよい。
【0158】
さらに他の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、第一の不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログおよび第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む。この第一の反応性不飽和基は一般に、第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬の存在下で[3+2]環化付加を受け得、そしてこの第二の反応性不飽和基は一般に、第二の標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬の存在下で[3+2]環化付加を受け得る。
【0159】
さらに他の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、第一の標識に結合された少なくとも1つの第一のヌクレオチドアナログ、および第二の標識に結合された少なくとも1つの第二のヌクレオチドアナログを含む。好ましくは、この第一のヌクレオチドアナログは、第一の[3+2]環化付加から生じる環化付加物を含み、そしてこの第二のヌクレオチドアナログは、第二の[3+2]環化付加から生じる環付加物を含む。
【0160】
本発明の検出可能な核酸ポリマーは、合成方法および酵素的な方法(例えば、総RNAの逆転写による)を含む、本明細書に記載されるような、任意の適切な方法によって調製され得る。
【0161】
当業者によって理解されるとおり、本発明の単離された検出可能な核酸ポリマーは、広範な種々の適用で用いられ得る。
【0162】
例えば、それらは、マイクロアレイに基づくハイブリダイゼーションアッセイを含む、ハイブリダイゼーションアッセイで検出プローブとして用いられ得る。このような適用では、検出可能な核酸ポリマーは好ましくはオリゴヌクレオチド(すなわち、核酸配列の短いストレッチ)である。ハイブリダイゼーションアッセイで用いられるオリゴヌクレオチドは一般に、約5〜約150ヌクレオチド、例えば、約15〜約100ヌクレオチド、または約15〜約50ヌクレオチドを含む。本発明によって提供されるこの検出可能な核酸ポリマーは、ハイブリダイゼーションアッセイ中のアレイまたはマイクロアレイに接触するように用いられ得る。このような実施形態では、この検出可能な核酸プローブは、適切な染色試薬とともに提供され得る。あるいは、検出可能な核酸ポリマーは、ハイブリダイゼーションアッセイのためにアレイまたはマイクロアレイに対して結合される。
【0163】
本発明によるアレイは、基板表面上の分散したスポットに固定された複数の検出可能な核酸ポリマーを含む。基板表面は、基板表面に対して検出可能な核酸ポリマーの直接的または間接的な結合(すなわち、固定)を可能にする、任意の剛直な、半剛体のまたは可塑性の物質を形成し得る。適切な物質としては、限定はしないが、セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ガラス、クオーツ以外の結晶基板、例えば、シリコーン、および種々のプラスチックおよびプラスチックコポリマーが挙げられる。蛍光が検出されるべき場合、シクロオレフィンポリマーを含むアレイが好ましくは用いられ得る。
【0164】
物質上の反応性の官能化学基の存在は、基板表面に対して検出可能な核酸ポリマーを直接または間接的に結合するように開発され得る。アレイを形成するために基板表面へオリゴヌクレオチドを固定する方法は当該分野で周知である。
【0165】
(8.検出可能な核酸ポリマーを含む細胞)
別の局面では、本発明は、例えば、本明細書に記載される1つ以上の方法によって調製される、検出可能な核酸ポリマーを含む細胞を提供する。より詳細には、本発明は、[3+2]環化付加反応後に検出可能である核酸ポリマーを含む細胞、ならびに[3+2]環化付加を介して組み込まれている少なくとも1つの検出可能部分を含む核酸ポリマーを含む細胞を提供する。当業者によって理解されるとおり、本発明の細胞は、本明細書に記載される任意の検出可能な核酸ポリマーを含んでもよい。
【0166】
(II.シュタウディンガー・ライゲーションを介する核酸ポリマーの標識)
本発明のいくつかの標識方法は一般に、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチド上のアジド基と標識に結合された置換トリアリールホスフィンとの間のシュタウディンガー・ライゲーションを包含する。このような標識方法の例は図18に概要的に示されており、かつ従来のBrdU標識方法と比較される。
【0167】
(1.ヌクレオシドおよびヌクレオチドアナログ)
これらの方法の実施における使用に適切なヌクレオシドアナログ(またはヌクレオチドアナログ)としては、アジド基を含む、本明細書に規定されるような任意のヌクレオシドアナログ(またはヌクレオチドアナログ)が挙げられる。ある実施形態では、このアジド基は、ヌクレオシド(またはヌクレオチド)の塩基によって担持される。アジド基を担持する塩基は、プリン(例えば、アデニンまたはグアニン)であっても、またはピリミジン(例えば、シトシン、ウラシルまたはチミン)であってもよい。特定の実施形態では、この塩基はウラシルである;このようないくつかの実施形態では、ウラシルは、5位置にアジド基を担持し得る。アジド基はこの塩基に直接または間接的に共有結合されてもよい。好ましくは、アジド基はこの塩基に直接共有結合される。
【0168】
本発明の実施において用いられ得る例示的なヌクレオシドアナログとしては、5−アジド−2’−デオキシウラシル(本明細書においてはまたアジドウラシルとも呼ばれる)、ならびにその三リン酸塩およびホスホラミダイト型が挙げられる。本出願人は、アジド−dUMPを合成するためのP.Sunthankarら、Anal.Biochem.,1998,258:195〜201に記載の方法と類似の方法を用いて5−アジド−2’−デオキシウリジン(AdU)を調製した。
【0169】
これらの方法によって生成され、かつこれらの方法で利用される核酸ポリマーは、上記のように調製、精製および/または配列決定され得る、任意の広範なサイズの一本鎖または二本鎖の核酸ポリマーであってもよい。
【0170】
(2.シュタウディンガー・ライゲーション)
既に上述されているとおり、本明細書に提供される方法のいくつかは一般には、シュタウディンガー・ライゲーション反応を包含する。これらの方法では、シュタウディンガー・ライゲーションは、核酸ポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログ上のアジド基と、標識に結合された置換されたトリアリールホスフィンを含む染色試薬との間で生じる。
【0171】
シュタウディンガーについての反応条件の最適化は、当該分野の技術の範囲内である。特定の好ましい実施形態では、このシュタウディンガー・ライゲーションは、水性条件下で行われる。反応条件の例は、例えば、E.Saxonら、Science,2000,287:2007〜2010;E.Saxonら、Org.Lett.2000,2:2141〜2143;K.L.Kiickら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2002,99:19〜24;G.A.Lemieuxら、J.Am.Chem.Soc,,2003,125:4708〜4709;J.A.Prescherら、Nature,2004,430:873〜877に記載されている。
【0172】
(3.標識された核酸ポリマーの標識および検出)
本発明の方法のいくつかでは、このシュタウディンガー・ライゲーション反応は、核酸ポリマーの標識を生じる。
【0173】
(A.染色試薬)
これらの方法では、標識は、置換されたトリアリールホスフィンに結合される。特定の好ましい実施形態では、トリアリールホスフィンのアリール基の1つは、求電子性トラップ(例えば、アルキルエステル基)で置換される。好ましくは、この求電子トラップは、リン原子に対してオルトに位置する。標識と置換トリアリールホスフィンとの間の結合は好ましくは共有結合である。標識は置換トリアリールホスフィンに対して直接結合されても、またはリンカーを通じて間接的に結合されてもよい。
【0174】
化学分子に対して検出可能な部分を結合するための方法は当該分野で周知である。特定の実施形態では、この標識および置換トリアリールホスフィンは、お互いに直接共有結合される。直接の共有結合は、アミド結合、エステル結合、炭素間結合、ジスルフィド結合、カルバメート結合、エーテル結合、チオエーテル結合、尿素結合、アミン結合またはカルボネート結合を通じてであってもよい。この共有結合は、置換トリアリールホスフィンおよび検出可能部分に存在する官能基を利用することによって達成され得る。2つの化学部分を一緒に結合するために用いられ得る適切な官能基としては、限定はしないが、アミン、無水物、ヒドロキシ基、カルボキシ基およびチオールが挙げられる。直接結合はまた、活性化剤、例えば、カルボジイミドを用いて形成されてもよい。広範な活性化剤が当該分野で公知であり、そして標識および置換トリアリールホスフィンを連結するために適切である。
【0175】
他の実施形態では、この標識および置換されたトリアリールホスフィンはリンカー基を介してお互いに対して間接的に共有結合される。これは、上記のように、同種官能性および異種官能性のリンカーを含む(例えば、Pierce Catalog and Handbookを参照のこと)、当該分野で周知の多数の安定な二官能性物質を用いることによって達成され得る。上記のとおり、リンカーを切断して、核酸ポリマーの一時的な標識を可能にしてもよい。
【0176】
本発明のシュタウディンガー・ライゲーションベースの方法の実施で用いられ得る検出可能な因子は、上記の[3+2]環化付加方法の実施で用いられ得る因子と同じである。
【0177】
本発明はまた、核酸ポリマーの2色(またはそれ以上)の色の標識を提供する。例えば、本発明によれば、2つの異なる標識が2つの異なる核酸ポリマーに組み込まれてもよい。ある実施形態では、このような組み込みは、2つのシュタウディンガー・ライゲーションを介して達成される:第一のシュタウディンガー・ライゲーションは、第一の核酸ポリマーに組み込まれた第一のヌクレオチドアナログ上の第一のアジド基と、第一の置換トリアリールホスフィンに結合された第一の標識を含む第一の染色試薬との間で生じ;そして第二のシュタウディンガー・ライゲーションは、第二の核酸ポリマーに組み込まれた第二のヌクレオチドアナログ上の第二のアジド基と、第二の置換トリアリールホスフィンに結合された第二の標識を含む第二の染色試薬との間で生じる。例えば、この第一の核酸ポリマーおよび第二の核酸ポリマーは、2つの異なる細胞、細胞集団、細胞サンプルまたは組織由来であってもよい。この第一の標識および第二の標識は好ましくは、それらが識別可能な検出可能シグナルを生じるように選択される。適切な蛍光の第一の標識および第二の標識の例は上記されている。
【0178】
(B.標識された核酸ポリマーの検出)
シュタウディンガー・ライゲーションを介して標識された核酸ポリマーの検出は、[3+2]環化付加を介して標識された核酸ポリマーの検出について上記されたのと同じ方法で、かつ同じ技術を用いて行われてもよい。
【0179】
(C.シグナル対ノイズ比の改善)
別の局面では、本発明は、本明細書に開示される標識プロセスを用いて蛍光部分で標識された核酸ポリマーの検出においてシグナル対ノイズ比を改善するためのシステムを提供する。シュタウディンガー・ライゲーション標識反応によって消費されていない任意の分子の染色試薬が、バックグラウンド(すなわち、非特異的な)シグナルに寄与し得る。本発明は、クエンチング部分を含む分子との反応により試薬上の標識の蛍光シグナルをクエンチすることによってこのバックグラクンドシグナルを軽減または排除するためのストラテジーを提供する。例えば、ある実施形態では、未消費の試薬とクエンチャー部分を含む分子との間の反応は、シュタウディンガー・ライゲーションである(例えば、クエンチャー部分は、未反応の染色試薬のトリアリールホスフィンと反応するアジド基に結合される)。
【0180】
従って、本明細書に記載のように調製された蛍光標識された核酸ポリマーの検出におけるシグナル対ノイズ比を改善するための特定の本発明の方法は、置換されたトリアリールホスフィンに結合された蛍光標識を含む未反応試薬と、アジド基に結合されたクエンチング部分を含む分子とを接触させる工程であって、その結果このアジド基と置換されたトリアリールホスフィンとの間でシュタウディンガー・ライゲーションが生じる工程を包含する。反応後、蛍光標識とクエンチング部分との間の物理的な近接が、蛍光標識からの蛍光シグナルの検出を妨げる。クエンチング部分の例は上記されている。
【0181】
(4.細胞における核酸ポリマーの標識)
本発明はまた、シュタウディンガー・ライゲーションを用いて細胞中で核酸ポリマーを標識するための方法を提供する。このような方法は以下を包含する:細胞と、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、結果としてこのヌクレオシドアナログが細胞のDNAに組み込まれる工程と;この細胞と、置換されたトリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させて、結果としてシュタウディンガー・ライゲーションがアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程。
【0182】
他に言及しない限り、これらの方法で用いるのに適切な染色試薬およびシュタウディンガー・ライゲーション条件は、核酸ポリマーを標識する方法について上記された条件と類似である。同様に、細胞、細胞増殖条件および本発明の方法に適切であるDNA複製によるヌクレオシドアナログの組み込みのための条件は、[3+2]環化付加に基づく方法について上記された条件と同一である。
【0183】
インビトロ細胞のDNAへのヌクレオチドアナログの組み込み後、この細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させる工程は、任意の適切な方法によって行われ得る。ある実施形態では、この細胞は、適切なインキュベーション培地(例えば、培養培地)中で染色試薬の存在下で37℃で、かつ細胞へのこの試薬が浸透して、この細胞のDNA中に組み込まれた任意のヌクレオチドアナログと反応するのに十分な時間インキュベートされる。染色試薬の濃度、シュタウディンガー・ライゲーション反応時間および条件の最適化は、当該分野の技術の範囲内である。
【0184】
(5.組織または器官における核酸ポリマーの標識)
本発明はまた、シュタウディンガー・ライゲーション反応を用いて生物体(すなわち、生きている生物学的な系)において核酸ポリマーを標識するための方法を提供する。このような方法は以下を包含する:ある生物体に対して、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、結果としてこのヌクレオシドアナログがこの生物体の細胞におけるDNAに組み込まれる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞を、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させ、結果としてシュタウディンガー・ライゲーションがこのアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程。
【0185】
他に言及しない限り、これらの方法で用いられる染色試薬およびシュタウディンガー・ライゲーション条件は、細胞における核酸ポリマーを標識する方法について上記されるものと同様である。同様に、本発明の方法に適切である生物系におけるDNA複製によるヌクレオシドアナログの組み込みのための生物体および条件は、[3+2]環化付加ベースの方法について上記されるものと同一である。
【0186】
生物体の細胞のDNAへのヌクレオチドアナログの組み込み後、生物体の少なくとも1つの細胞と、置換されたトリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色剤とを接触させる工程は、シュタウディンガー・ライゲーションが生じることを可能にする任意の適切な方法によって行われ得る。
【0187】
(6.単離された標識核酸ポリマー)
別の局面では、本発明は、例えば、本明細書に記載の方法の1つによって調製された、単離された検出可能な核酸ポリマーを提供する。より詳細には、本発明は、シュタウディンガー・ライゲーション反応後に検出可能である核酸ポリマー、およびシュタウディンガー・ライゲーションを介して組み込まれている少なくとも1つの検出可能な部分を含む単離された核酸ポリマーを提供する。
【0188】
特定の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオチドを含む。他の実施形態では、本発明の核酸ポリマーは、標識に結合された少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む。好ましくはこの標識は、シュタウディンガー・ライゲーションを通じて結合されており、そしてアミド基およびホスフィン・オキシド官能基を含む。
【0189】
本発明の検出可能な核酸ポリマーは、合成方法および酵素的な方法(例えば、総RNAの逆転写による)を含む、本明細書に記載されるような任意の適切な方法によって調製され得る。このような標識された核酸ポリマーは、上記されるような広範な種々の適用で用いられ得る。
【0190】
(7.検出可能な核酸ポリマーを含む細胞)
別の局面では、本発明は、例えば、本明細書に記載される方法の1つ以上によって調製される、検出可能な核酸ポリマーを含む細胞を提供する。より詳細には、本発明は、シュタウディンガー・ライゲーション後に検出可能である核酸ポリマーを含む細胞、およびシュタウディンガー・ライゲーションを介して組み込まれている少なくとも1つの検出可能部分を含む核酸ポリマーを含む細胞を提供する。
【0191】
(III.DNA複製/細胞増殖の決定)
別の局面では、本発明は、細胞または生物体において細胞増殖および/または細胞増殖速度を測定するための方法を提供する。
【0192】
このような方法は、以下の工程を包含し得る:細胞と、第一の反応性不飽和基を含むヌクレオシドアナログの有効な量とを接触させて、結果としてこのヌクレオシドアナログが細胞のDNAに組み込まれる工程と;この細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、結果として[3+2]環化付加が、第一の反応性不飽和基と第二の反応性不飽和基との間で生じる工程と;このDNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程。特定の実施形態では、標識の量によって、細胞増殖の程度についての情報が得られる。他の実施形態では、標識の量によって、細胞増殖の速度についての情報が得られる。
【0193】
他の方法は、以下の工程を包含し得る:細胞と、アジドを含むヌクレオシドアナログの有効量とを接触させ、結果としてこのヌクレオシドアナログが細胞のDNAに組み込まれる工程と;この細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させ、結果としてシュタウディンガー・ライゲーションがこのアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;DNAに組み込まれた標識の量を決定して、細胞増殖を測定する工程。ある実施形態では、標識の量によって、細胞における細胞増殖の程度についての情報が得られる。ある実施形態では、標識の量によって細胞増殖の速度についての情報が得られる。
【0194】
さらに他の方法は、以下の工程を包含する:生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含むヌクレオシドアナログの有効量を投与して、結果としてこのヌクレオシドアナログがこの生物体の細胞のDNAに組み込まれる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させ、結果として[3+2]環化付加が第一の反応性不飽和基と第二の反応性不飽和基との間で生じる工程と;DNAに組み込まれた標識の量を決定して、この生物体における細胞増殖を測定する工程。特定の実施形態では、標識の量によって、生物体における細胞増殖の程度についての情報が得られる。他の実施形態では、標識の量によって、生物体における細胞増殖の速度についての情報が得られる。
【0195】
さらに他の方法は、以下の工程を包含する:生物体に対して、アジドを含むヌクレオシドアナログの有効量を投与して、結果としてこのヌクレオシドアナログがこの生物体の細胞のDNAに組み込まれる工程と;この生物体の少なくとも1つの細胞と、置換されたトリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させ、結果としてシュタウディンガー・ライゲーションがこのアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;DNAに組み込まれた標識の量を決定して、生物体における細胞増殖を測定する工程。特定の実施形態では、標識の量によって、生物体における細胞増殖の程度についての情報が得られる。他の実施形態では、標識の量によって生物体における細胞増殖の速度についての情報が得られる。
【0196】
これらの方法は、細胞および生物体において核酸ポリマーを標識する方法について、本明細書に記載されるような技術および手順を用いて行われ得る。このような方法では、接触工程および/または投与工程を行う方式、染色試薬のタイプ、標識のタイプおよびこのような標識の検出のための技術は、細胞または生物体において核酸ポリマーを標識する工程に関する、本発明の他の方法について記載されたものと同様である。
【0197】
本発明に従って、細胞増殖または細胞増殖速度を測定するための方法は、広範な種々の適用で用いられ得、この適用としては、限定はしないが、細胞株の特徴づけ、細胞培養条件の最適化、細胞増殖の正常な特徴づけ、疾患および損傷した組織、ならびに細胞増殖が関与する種々の疾患および障害の診断が挙げられる。
【0198】
多数の疾患および障害は、変更された細胞増殖速度によって特徴付けられることが公知であり、従って、本発明の方法によって言及され得る。このような疾患および障害としては限定はしないが、任意のタイプの悪性腫瘍(例えば、乳房、肺、結腸、皮膚、リンパ腫、白血病など);前ガン状態(例えば、腺腫、ポリープ、前立腺肥大、潰瘍性大腸炎など);免疫障害、例えば、AIDS、自己免疫障害および原発性免疫不全;血液学的状態、例えば、白血球欠乏(例えば、顆粒球減少症)、任意のタイプの貧血、骨髄増殖症候群、リンパ増殖症候群など;器官不全、例えば、アルコール性肝炎およびウイルス性肝炎、糖尿病性腎症、筋栄養状態、早発性腺機能不全など;骨および筋に影響する状態、例えば、骨粗鬆症;内分泌状態、例えば、糖尿病、甲状腺機能低下症および甲状腺機能亢進症、多嚢胞性卵巣など;感染性疾患、例えば、結核、細菌感染、膿瘍および他の局在する組織感染、ウイルス感染など;ならびに血管障害、例えば、アテローム発生、心筋症などが挙げられる。
【0199】
(IV.使用の方法)
本明細書に開示されるような、核酸ポリマーを標識するため、および細胞増殖または細胞増殖速度を測定するための方法は、下にいくつか記載される広範な種々の適用で用いられ得る。
【0200】
(1.スクリーニングアッセイ)
別の局面では、本発明は、細胞増殖を混乱させる因子の特定のための方法を提供する。これらの方法は、因子が細胞増殖を誘導(すなわち、増大、増強そうでなければ増悪)するか、または阻害(すなわち、減少、遅らせるかそうでなければ抑制)する能力についてスクリーニングするために用いられ得る。
【0201】
例えば、このような方法は、以下の工程:(a)細胞と試験因子とを接触させる工程;(b)この細胞と、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログをこの細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;(d)このDNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が、細胞増殖の程度または速度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、細胞が試験因子に接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子を細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含し得る。
【0202】
他の方法は以下の工程:(a)細胞と試験因子とを接触させる工程と;(b)この細胞と、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログとを接触させて、その結果このヌクレオシドアナログをこの細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションがアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;(d)DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度または速度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、細胞が試験因子と接触されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子を細胞増殖を混乱させる因子として特定する工程と;を包含し得る。
【0203】
これらの方法の特定の実施形態では、細胞は、その細胞がヌクレオシドアナログと接触させられた後に、試験因子と接触させられる(すなわち、工程(b)は工程(a)の前に行われる)。
【0204】
細胞を接触させる工程を行う方式;染色試薬;標識タイプ;および標識された核酸ポリマーを検出する方法は、細胞増殖および細胞増殖速度を細胞中でインビトロにおいて測定することに関する本発明の他の方法について記載されるものと同様である。
【0205】
当業者によって理解されるとおり、本発明のスクリーニング方法はまた、細胞集団を調節する化合物または因子(すなわち、過剰増殖性の細胞の増殖を低減、減速もしくは抑制し得るか、または過少増殖性の細胞の増殖を増大、増強もしくは増幅し得る化合物もしくは因子)を特定するために用いられ得る。
【0206】
(A.スクリーニングアッセイのための細胞)
本発明のスクリーニングアッセイは、標準的な組織培養プラスチック製品中で増殖され得る、任意の正常なまたは形質転換細胞を用いて行われてもよい。細胞は、初代細胞、二次細胞または固定された細胞であってもよい。好ましくは、本発明のスクリーニング方法で用いられるべき細胞は、哺乳動物(ヒトまたは動物)由来の細胞である。細胞は、上記のように、任意の器官または組織由来、そして任意の細胞タイプの細胞であってもよい。
【0207】
本発明によるスクリーニングアッセイを行うための特定の細胞タイプおよび/または細胞株の選択は、試験されるべき因子の性質、およびアッセイの意図される目的のようないくつかの要因によって管理される。例えば、一次薬物スクリーニング(すなわち、初回のスクリーニング)のために開発された毒性アッセイは好ましくは、市販されており、かつ増殖することが通常比較的容易である樹立された細胞株を用いておこなわれてもよいが、薬物開発プロセスで後に用いられるべき毒性アッセイは好ましくは、不死化細胞よりも入手、維持および/または増殖がしばしば困難であるが、インビトロの状況ではより優れた実験モデルを示す、初代または二次細胞を用いて行われてもよい。
【0208】
特定の実施形態では、このスクリーニング方法は、マルチウェル・アッセイ・プレートの複数のウェルに含まれる細胞を用いて行われる。このようなアッセイプレートは例えば、Strategene Corp.(La Jolla,CA)およびCorning
Inc.(Acton,MA)から市販されており、そしてこれには、例えば、48−ウェル、96−ウェル、384−ウェルおよび1536−ウェルのプレートが挙げられる。
【0209】
(B.試験因子)
当業者によって理解されるとおり、任意の種類の化合物または因子が、本発明の方法を用いて試験され得る。試験化合物は、合成化合物であっても天然化合物であってもよい;これは、単一の分子であっても、異なる分子の混合物であっても、または異なる分子の複合体であってもよい。特定の実施形態では、本発明の方法は、1つ以上の化合物を試験するために用いられる。他の実施形態では、本発明の方法は、化合物のコレクションまたはライブラリーをスクリーニングするために用いられる。
【0210】
細胞増殖を混乱(すなわち、誘導または阻害する)かまたは調節する可能性または能力について試験され得る化合物は、任意の種々のクラスの分子に属してもよく、これには限定はしないが、低分子、ペプチド、糖類、ステロイド、抗体(そのフラグメントまたは改変体を含む)、融合タンパク質、アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、低分子干渉RNA、ペプチド模倣物などが挙げられる。
【0211】
本発明の方法に従って試験されるべき化合物または因子は、細胞増殖を混乱または調節することが公知であるかまたは疑われ得る。あるいは、このアッセイは、細胞増殖に対する影響が未知である化合物または因子を用いて行われてもよい。
【0212】
細胞増殖に影響し得る、そして本発明の方法によって試験され得る化合物の例としては、限定はしないが、発癌性物質;毒性因子;化合物、例えば、溶媒;突然変異誘発物質;薬物;煙(タバコ、葉巻および産業プロセスからの煙を含む)のなかの微粒子、ガスおよび有害化合物;食品添加物;生化学的物質;ホルモン;殺虫剤;地下水の毒素;および環境汚染物質が挙げられる。細胞増殖に影響し得る、そして本発明の方法によって試験され得る因子の例としては、限定はしないが、マイクロ波放射、電磁放射、放射線照射、電離放射線、熱、および、産業環境または職業環境によって生じるかまたはそこに存在する他の危険な状態が挙げられる。
【0213】
(C.細胞増殖を誘導または阻害する因子の特定)
本発明のスクリーニング方法に従って、試験因子が細胞増殖を混乱または調節する能力の決定は、試験因子と接触されている細胞のDNAに組み込まれた標識の量と、試験因子と接触されていない細胞のDNAに組み込まれた標識の量との比較を包含する。
【0214】
試験因子は、試験因子と接触させられている細胞のDNAに組み込まれた標識の量が、コントロール細胞で測定される標識の量よりも小さいかまたは大きい場合に、細胞増殖を混乱させる因子として特定される。より詳細には、試験因子と接触させられている細胞のDNAに組み込まれた標識の量が、コントロール細胞で測定される標識の量よりも小さい場合に、この試験因子は、細胞増殖を阻害する因子として特定される。試験因子と接触させられている細胞のDNAに組み込まれた標識の量が、コントロール細胞で測定される標識の量よりも大きい場合に、この試験因子は、細胞増殖を誘導する因子として特定される。
【0215】
結果の再現性は、同じ濃度の試験因子を用いて2回以上分析を行うことによって(例えば、アッセイプレートの2ウェル以上で細胞をインキュベートすることによって)試験され得る。さらに、試験因子は、因子の性質およびその作用機序の性質に依存して種々の濃度で有効であり得るので、種々の濃度の試験因子が、試験され得る(例えば、細胞を含む異なるウェルに添加される)。一般には、1fM〜約10mMの試験因子濃度を、スクリーニングに用いる。好ましいスクリーニング濃度は、約10pM〜約100μMである。
【0216】
特定の実施形態では、本発明の方法はさらに、1つ以上の陰性または陽性のコントロール化合物の使用を包含する。陽性のコントロール化合物とは、細胞増殖を混乱する(すなわち、誘導または阻害する)かまたは調節することが公知である任意の分子または因子であり得る。陰性のコントロール化合物とは、細胞増殖に対して検出可能な影響を有さないことが公知である任意の分子または因子であってもよい。これらの実施形態では、本発明の方法はさらに、この因子の影響を、陽性または陰性コントロール化合物の影響(またはその非存在)に比較する工程を包含する。
【0217】
当業者によって理解されるとおり一般には、細胞増殖を混乱させる因子か、または調節する因子として本発明のスクリーニング方法によって特定される因子を、さらに特徴付けることが望ましい。例えば、試験化合物が、所定の細胞系(例えば、樹立された細胞株)を用いて細胞増殖を混乱する(または調節する)因子として特定されている場合、種々の細胞培養系(例えば、初代細胞または二次細胞)においてこの能力を試験することが所望され得る。
【0218】
本発明のスクリーニング方法によって特定される試験因子はまた、インビボで因子の特性の決定を可能にするアッセイでさらに試験されてもよい。
【0219】
従って、本発明は、細胞増殖または細胞増殖速度をインビボで混乱させる因子を特定するための方法を提供する。このような方法は以下の工程を包含する:(a)生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;(b)この生物体に対して、第一の反応性不飽和基を含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果このヌクレオシドアナログをこの生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この生物体の少なくとも1つの細胞と、標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬とを接触させて、その結果[3+2]環化付加が、この第一の反応性不飽和基および第二の反応性不飽和基の間で生じる工程と;(d)DNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度または細胞増殖の速度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、生物体が試験因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子をこの生物体における細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程。
【0220】
本発明はまた、細胞増殖また細胞増殖速度をインビボで混乱させる因子を特定するための方法を提供する。このような方法は、以下の工程を包含する:(a)生物体を試験因子に対して曝露させる工程と;(b)この生物体に対して、アジドを含む有効量のヌクレオシドアナログを投与して、その結果このヌクレオシドアナログをこの生物体の細胞のDNAに組み込ませる工程と;(c)この生物体の少なくとも1つの細胞と、置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む染色試薬とを接触させて、その結果シュタウディンガー・ライゲーションが、このアジドと置換トリアリールホスフィンとの間で生じる工程と;(d)このDNAに組み込まれた標識の量を決定する工程であって、この標識量が細胞増殖の程度または細胞増殖の速度を示す工程と;(e)工程(d)で測定される標識の量が、生物体が試験因子に曝露されないコントロールの適用において測定される標識の量よりも少ないかまたは多い場合、この試験因子をこの生物体における細胞の増殖を混乱させる因子として特定する工程。
【0221】
特定の実施形態では、この試験因子は、この生物体がヌクレオシドアナログと接触させられた後に、投与される(すなわち、工程(b)は工程(a)の前に行われる)。
【0222】
当業者によって理解されるとおり、これらの方法は、インビボで細胞増殖を調節する因子を特定するために用いられ得る。
【0223】
投与の方式、染色試薬、標識のタイプ、および標識された核酸ポリマーの検出方法は、生きている系において細胞増殖を測定することに関する本発明の他の方法について本明細書において記載される方法と類似である。
【0224】
(2.細胞周期の研究)
本発明の標識方法は、固定および変性を必要とせず、従って生きている細胞における適用に適切であって、細胞周期の複雑な時空間的機構の研究に用いられ得る。種々の混乱の有無における細胞周期の機構の明確な理解によって、ガンのようなヒト疾患を制御または処置するための新規な治療的アプローチの開発への道が開かれ得る。最近まで、核の構造のほとんどの研究は、固定された細胞で行なわれた(A.I.LamondおよびW.C.Earnshaw,Science,1998,280:457〜553)。しかし、経時的蛍光顕微鏡画像化法はこれまで、生きた細胞核が観察され、かつ動的な方式で研究されること、そして従来の固定された細胞顕微鏡技術よりもかなり豊富な情報内容を与えることを可能にすることが実証されている(Y.HiraokaおよびT.Haraguchi,Chromosome Res.,1996,4:173〜176;T.Kandaら、Curr.Biol.,1998,8:377〜385)。
【0225】
図11に示されるとおり、本発明の方法によって、複製を受けているDNAの特異的な標識、および細胞の特徴づけが、有糸分裂(例えば、分裂後期)または静止期として可能になる。従って、本明細書に開示される標識方法および画像化技術、例えば、経時的蛍光顕微鏡画像化法またはフローサイトメトリーは、種々の混乱条件下で種々の細胞タイプの細胞周期について基礎的な知識を獲得することを補助し、かつ細胞周期に影響する新規な薬物の開発を可能にし得る。
【0226】
従って、本発明の方法は、広範な種々の病的条件の研究に適用され得る。例えば、ガンは次第に細胞周期疾患としてとらえられている。この観点は、大部分の腫瘍が、細胞増殖の増大をもたらす細胞周期機構を狂わせる欠陥を被っているという証拠を反映する。このような欠陥は、細胞周期自体の成分、または細胞周期事象を誘発するように最終的に集る上流のシグナル伝達カスケードの要素のいずれかを標的とし得る。ガンは細胞周期調節不全に関連すると考えられる唯一の臨床状態ではない(M.D.Garrett,Curr.Sci.2001,81:515〜522)。例えば、ニューロンがヒト神経変性疾患で死ぬ機構は、今日まで謎のままである(I.Vincentら、Prog.Cell Cycle Res.,2003,5:31〜41)。正常な脳の最終的に分化したニューロンは、細胞分裂できない。しかし、蓄積している証拠によって、特定の神経変性疾患における細胞周期の異常な活性化はそれらの死滅をもたらすということが示唆されている。この細胞周期媒介性の変性カスケードの詳細を解明することによって、特定の神経変性性疾患の発現および進行を抑制するための新規なストラテジーがもたらされ得る。同様に、細胞分裂の操作は、心血管系の機能に対して有益または病理的な結果を有し得るということが公知である(M.BoehmおよびE.G.Nabel,Prog.Cell Cycle Res.,2003,5:19〜30)。損傷後の心筋細胞が増殖して再生できないことによって、身体的障害に関連する心機能の障害が生じ、そして死亡がもたらされ得る。心筋細胞が増殖および再生できないことにつながる、心筋細胞における遺伝子プログラムは理解されていないが、同定されれば、このプログラムは、細胞周期を再開始することおよび心筋細胞の増殖を目的とする治療につながり得る。
【0227】
(3.染色体構造)
本発明の標識方法はまた、染色体の超構造の研究のために用いられ得る。
【0228】
例えば、本発明の標識方法は、姉妹染色分体交換(sister chromatic
exchange)(SCE)を研究するために用いられ得る。SCEは、天然のプロセスであって、2つの姉妹染色分体が壊れて、染色体上の1つの別の物理的に切り換わる位置で再結合する(S.Wolf,Annu.Rev.Genet.,1977,11:183〜201;S.A.Latt,Annu.Rev.Genet.,1981,15:11〜53)。このような交換は、細胞複製の間に生じ、ここでは約10のSCEが、正常に周期しているヒト細胞で自然に生じる(P.E Crossenら、Hum.Genet,1977,35:345〜352;S.M.GallowayおよびH.J.Evans,1975,15:17〜29)。SCEはまた、種々の遺伝子毒性処理によって誘導され得(L.Hagmarら、Cancer Res.,1998,58:4117〜4121)、このことは、SCEがDNA修復プロセスを反映することを示唆している。SCEの検出は、姉妹染色分体を示差的に標識するといういくつかの手段を要し、そしてこれは2つの完全な細胞周期の継続期間のためにBrdUを含有する培地中で細胞を培養することによって伝統的に行われている。本発明の標識方法は、BrdUの代わりに用いられ得る(図12を参照のこと)。図13に示されるとおり、本明細書に開示される標識方法によって、染色体を形成する2つのDNA分子のうちの1つだけを染色することが可能になる。
【0229】
本発明の標識方法はまた、動原体−微小管相互作用および動原体性の粘着を研究するための新規なツールとして用いられ得る。細胞分裂の間の染色体の適切な分離は、遺伝子の安定性の維持に必須である。このプロセスの間、染色体は、動原体性の異質クロマチンの表面上に位置する特定のタンパク質構造である動原体を通じて微小管との安定な機能的な相互作用を確立しなければならない。多数の微小管に対する動原体の安定な結合は、染色体の動きを媒介する動原体線維の形成を生じる。染色体分離の忠実度は、動原体と微小管との間の正確な相互作用に依存するが、この相互作用が媒介され、そして調節される方法は依然として明らかではない(M.B.Gordonら、J.Cell Biol.,2001,152:425〜434;A.A.Van HooserおよびR.Heald,Curr.Biol.,2001,11:R855〜857;S.BigginsおよびC.E.Walczak,Curr.Biol,2003,13:R449〜460;H.Maiatoら、J.Cell Sci.,2004,117:5461〜5477;H.MaiatoおよびC.E.Sunkel,Chromosome Res.,2004,12:585〜597)。動原体は、細胞分裂の間の染色体の適切な分離に必須である染色体の特定の領域である。これは動原体がアセンブルされる部位である。有糸分裂の間、複製された姉妹染色体は、紡錘体に結合するように粘着を維持しなければならない。分裂後期には、粘着は染色体全体にそって同時に失われ、姉妹は互いに離れて、これらが反対の極に分離することが可能になる。有糸分裂の間の染色体の粘着を担う分子機構は、不明瞭なままである(K.J.DejおよびT.L.Orr−Weaver,Trends Cell Biol,2000,10:392〜399;T.Fukagawa,Chromosome Res.,2004,12:557〜567;S.Salicら、Cell,2004,118:567〜578)。
【0230】
(4.RNAの標識およびRNA局在化の研究)
本発明の標識方法は、RNAを標識するために用いられ得る。
【0231】
本発明の特定の方法は、リボヌクレオチドポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログ上の第一の反応性の不飽和基と、標識に結合された第二の反応性不飽和基との間の[3+2]環化付加を包含する。この[3+2]環化付加反応によって、リボヌクレオチドポリマーの標識が生じる。
【0232】
本発明の他の方法は、リボヌクレオチドポリマーに組み込まれたヌクレオチドアナログ上のアジド基と、標識に結合された置換トリアリールホスフィンとの間のシュタウディンガー・ライゲーションを包含する。このシュタウディンガー・ライゲーションによって、リボヌクレオチドポリマーの標識が生じる。
【0233】
このような方法では、ヌクレオチドアナログを含むリボヌクレオチドポリマーは、当該分野で公知の任意の適切な方法によって調製され得る。例えば、このリボヌクレオチドポリマーは、基質としてヌクレオチド三リン酸(ヌクレオチドアナログ三リン酸を含む)の存在下でT3、T7またはSP6ポリメラーゼプロモーターの下流でクローニングされた、DNAのインビトロ転写によって合成されてもよい。あるいは、リボヌクレオチドポリマーは、増幅方法を用いて調製されてもよい。
【0234】
本発明の標識方法は、多くの遺伝子のmRNA転写物レベルを平行して測定するマイクロアレイ・ハイブリダイゼーション・アッセイで用いられてもよい。
【0235】
本発明の標識方法はまた、タンパク質およびペプチドのインビトロ選択のための無細胞系である、リボソームディスプレイに適用を見出し得る(C.TuerkおよびL.Gold,Science 1990,249:505〜510;G.F.Joyce,Gene 1989,82:83〜87;J.W.Szostak,Trends Biochem.Sci.1992,17:89〜93;D.E.Tsaiら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1992,89:8864〜8868;J.A.Doudnaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1995,92:2355〜2359;C.Shaffitzelら、J.Immunol.Methods,1999,231:119〜135;D.LipovselおよびA.Pluckthun,J.Immunol.Methods,2001,290:51〜67;A.M.Jacksonら、Brief Funct.Genomic Protreomic,2004,2:308〜319)。これらの選択アッセイは一般に、目的のタンパク質または分子へRNAライブラリーを加える工程、未結合のRNAを洗い去る工程、およびタンパク質に結合したRNAを特異的に溶出させる工程を包含する。次いで、RNAを逆転写して、PCRによって増幅する。次いで、得られたcDNAを検出目的のためにヌクレオチドアナログの存在下で転写する。タンパク質または目的の他の分子に結合することが見出されるこれらの分子を、クローニングして、配列決定して、共通の配列を探す。次いで、この共通の配列を用いて、治療用オリゴヌクレオチドを開発する。
【0236】
本発明のRNA標識方法はまた、生きている細胞においてmRNAの動き(輸送および局在化)を可視化するために用いられ得る。mRNAの局在化は、タンパク質をその作用部位に標的する遺伝子発現の転写後調節の一般的な方式である(I.M.PalaciosおよびD.St Johnston,Annu.Rev.Cell Dev.Biol.,2001,17:569〜614;R.P.Jansen,Nature Rev.Mol.Cell Biol.,2001,2:247〜256;M.Klocら、Cell,2002,108:533〜544)。最も特徴付けられた局在するmRNAの多くは卵母細胞および早期の胚で見出され、ここでそれらは、軸の形成および生殖系列の発達を制御する局在性決定要因として機能する。mRNAの局在化はまた、ニューロンのような体細胞において重要な役割を果たし、ここでは学習および記憶に関与し得ることが示されている。種々のmRNAの可視化方法が、mRNA輸送および局在化に関与する機構および機序を特定するために開発されており、これは、RNAへのアミノアライ(aminoally)−ウリジン三リン酸組み込み、続いてフルオレセインまたはローダミンカップリングおよびRNAへのAlexa−Fluor−ウリジン三リン酸の直接組み込みを包含する(V.Van de BorおよびI.Davis,Curr.Opin.Cell Biol,2004,16:300〜307)。本発明に従ってインビトロで蛍光標識されるmRNA分子は、生きている細胞に導入されて、それらの動きがリアルタイムでモニターされ得る。
【0237】
(V.キット)
別の局面では、本発明は、本発明の方法の1つ以上を行うために有用な物質を含むキットを提供する。本発明のキットは、診断検査室、臨床研究室、実験室または施術者によって用いられ得る。本発明は、これらの種々の設定で用いられ得るキットを提供する。
【0238】
本発明に従う核酸ポリマーを標識するための基礎的な物質および試薬は、キット中に一緒にまとめられてもよい。核酸ポリマーを標識するための本発明のキットは、第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つのヌクレオシドアナログ;および標識に結合された第二の反応性不飽和基を含む試薬を備えてもよい。核酸ポリマーの二重標識のための本発明のキットは、第一の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオシドアナログ;第二の反応性不飽和基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオシドアナログ;第一の標識に結合された第三の反応性不飽和基を含む第一の試薬;および第二の標識に結合された第四の反応性不飽和基を含む第二の試薬を備える。あるいは、またはさらに、核酸ポリマーを標識するための本発明のキットは、アジド基を含む少なくとも1つのヌクレオシドアナログと;置換トリアリールホスフィンに結合された標識を含む試薬とを備えてもよい。2つの核酸ポリマーの示差的な標識のための本発明のキットは、アジド基を含む少なくとも1つの第一のヌクレオシドアナログと;アジド基を含む少なくとも1つの第二のヌクレオシドアナログと;置換トリアリールホスフィンに結合された第一の標識を含む第一の染色試薬と、置換トリアリールホスフィンに結合された第二の標識を含む第二の染色試薬と、を備えてもよい。
【0239】
各々のキットは好ましくは、特異的な手順を付与する試薬を備える。従って、検出可能な因子がハプテンである場合、このキットは好ましくは、対応する適切な抗体を含む。同様に、生きている生物体において核酸ポリマーを標識するために用いることを意図するキットは、生きている生物体に投与できるように処方されたヌクレオシドを含む。細胞増殖を誘導または阻害する能力について化合物をスクリーニングするために用いられることを意図するキットは、本発明の標識された核酸ポリマーを含む細胞を備えてもよい。
【0240】
特定の本発明のキットはさらに、[3+2]環化付加反応を行うために有用な緩衝液および/または試薬、例えば、水性媒体およびcu(I)を含んでもよい。他の本発明のキットはさらに、シュタウディンガー・ライゲーション反応を行うために有用な緩衝液および/または試薬を含んでもよい。
【0241】
本発明のキットはさらに、以下の1つ以上を含んでもよい:洗浄緩衝液および/または試薬、細胞固定緩衝液および/または試薬、免疫組織化学緩衝液および/または試薬、DABフォトコンバージョン緩衝液および/または試薬、ならびに検出手段。この緩衝液および/または試薬は好ましくは、キットが意図する特定の標識/検出技術について最適化される。この手順の種々の段階を行うためにこれらの緩衝液および試薬を用いるためのプロトコールも、このキットに包含されてもよい。
【0242】
キットはまた、生物体からの細胞の単離のための装置(例えば、針生検シリンジ)および/または試薬を備えてもよい。
【0243】
この試薬は、固体(例えば、凍結乾燥)または液体型で供給されてもよい。本発明のキットは必要に応じて、各々の個々の緩衝液および/または試薬について異なる容器(例えば、バイアル、アンプル、試験管、フラスコまたはボトル)を備える。各々の成分は一般に、そのそれぞれの容器中でアリコートとして適切であるか、または濃縮型で提供される。標識/検出アッセイの特定の段階を行うために適切な他の容器もまた提供され得る。このキットの個々の容器は好ましくは、商業的用途のために厳重に封じ込めて維持される。
【0244】
本発明の1つ以上の方法に従うキットを用いるための説明書は、核酸ポリマーを標識するための説明、細胞増殖を測定するための説明、得られた結果を解釈するための説明、および医薬品または生物製剤の製造、使用または販売を規制する政府機関(例えば、FDA)の規定する形態の注意書きを備えてもよい。
【実施例】
【0245】
以下の実施例は、本発明を作成および実施する好ましい態様のいくつかを記載する。しかし、これらの例は、例示的な目的でしかなく、本発明の範囲を限定することは意味しないことが理解されるべきである。さらに、実施例の記載が過去形で示されない限り、本文章は、本明細書の残りと同様に、実験が現実に行なわれたか、またはデータが実際に得られたということを示唆することは意図しない。
【0246】
(実施例1:エチニル−dUを用いる細胞の標識のための一般的プロトコール)
エチニル−dU(EdU)を、標識パルスの長さに依存して10nM〜1μMの範囲におよぶ組織培養培地(ペニシリン、ストレプトマイシンおよびウシ胎仔血清(FCS)を補充したDMEM)中で用いた。例えば、標識される細胞が、S期で同調された場合、100nM〜1μMのEdUを1〜2時間用いた。標識後、この細胞をPBSを用いて3または4回洗浄し、次いで、組織培養培地を添加した。
【0247】
(生きている細胞の染色:)
染色溶液:100mMのTris、pH8.5(水に含まれる2Mのストックより)、0.5〜1mMのCuSO4(水に含まれる1Mのストックより)、0.5〜1μMのTMR−プロピル−アジド(DMF中に含まれる約100mMのストックより)、および水(必要に応じて)を、一緒に混合した。次いで、アスコルビン酸(水中に含まれる0.5mMのストックより)をこの溶液に、最終濃度50mMまで添加して、得られた染色溶液を徹底的に混合する。
【0248】
透過化処理(例えば、染色試薬が、細胞透過性であるTMR−プロピル−アジドである場合)なしに、生きた細胞を染色するために、組織培養培地を取り出して、上記の染色溶液で置き換えた。細胞を染色溶液の存在下で少なくとも30分間インキュベートしたが、染色は一般には、インキュベーションの10分後に完了する。染色後、未反応のTMR−プロピル−アジドを、0.5%のTriton−X100(または類似の界面活性剤)を含有する緩衝液(例えば、PBSまたはTBS)で洗浄することによって取り除いた。バックグラウンドを低くするために、メタノールまたはエタノールでの洗浄を行ってもよい。
【0249】
所望の場合、細胞固定は、洗浄緩衝液に3%のホルムアルデヒド(またはグルタルアルデヒド)を添加することによって同時におこなわれてもよい。この場合、細胞を、室温で少なくとも10分間洗浄緩衝液中でインキュベートした。
【0250】
(固定された細胞の染色:)
染色溶液:100mMのTris、pH8.5(水の中に含まれる、2Mのストックから)、0.5〜1mMのCuSO4(水の中に含まれる1Mのストックから)、0.5〜1μMの発蛍光団−アジド(DMSO中に含まれる約10〜100mMのストックから)、および水(必要に応じて)を一緒に混合した。次いで、アスコルビン酸(水の中に含まれる0.5mMのストックから)を、この溶液に、最終濃度50〜100mMまで添加し、得られた染色溶液をボルテックスを用いて徹底的に混合する。
【0251】
細胞を、任意の適切な方法によって固定してもよく、例えば、細胞は、透過化処理の有無で、アルデヒド(ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒド)固定によって固定してもよい。固定後に、この細胞を、非イオン性界面活性剤(0.2〜0.5%のTriton X100)の有無において緩衝液中で洗浄した。染色前に、細胞を、界面活性剤(PBSまたはTBS)なしで緩衝液を用いてリンスした。次いで、この細胞を、少なくとも30分間染色溶液の存在下でインキュベートした。一晩の染色は好ましくは低温室で行う。
【0252】
染色後、細胞を0.5%の界面活性剤を含有する緩衝液を用いて数回洗浄した。必要に応じてバックグラウンドを有意に減少させるためにメタノールおよびエタノールを用いた洗浄を行ってもよい。
【0253】
(染色された細胞の画像化:)
次いで、染色された細胞を標準的なプロトコールを用いて免疫染色してもよい。次いで、細胞を標準的なマウンティング培地でマウントして、画像化した。マウントしてもしなくても、この染色は、4℃で永続的に極めて安定であることが見出された。
【0254】
(実施例2:エチニル−dUを用いるHeLa細胞の染色)
HeLa細胞は、実施例1に記載されるような1μMのEdUで標識するか、またはしなかった。次いで、それらを、固定/透過化処理して、Xrhodamine−アジド試薬(これは細胞透過性でなく、従ってクリック化学を行うために透過化処理を要する)で染色した。
【0255】
細胞の両方の集団(すなわち、EdUで標識されるかまたはされない)の画像を図5に示す。これらの細胞のより高い解像度を、図11(右側)に示しており、これには、OliGreenで染色したEdU−標識HeLa細胞から得た画像を添えている(図11、左側)。分裂後期を受けている底の細胞におけるEdU染色のまだらな出現に注意のこと。このまだらは、EdUの標識パルスが細胞のDNAを複製するために細胞に必要な時間より短いという事実に起因する;従って、このパルスの間に複製するDNAのみが標識された。
【0256】
(実施例3:標識された生きている細胞の経時的蛍光画像化)
できるだけ天然の状態に近い条件下でDNAを染色するために、細胞透過性のTMR−アジド試薬を開発した。TMR−プロピル−アジドは、ブロモ−プロピル−TMRを形成するためにTMR−カルボキシ−NHSエステルと3−ブロモ−プロピルアミンとを最初に反応させることによって合成された。次いで、この後者の化合物を、アジ化ナトリウムと反応させて、細胞透過性であることが見出されており、従って、透過化処理および/または固定の必要なしに細胞を標識するために適切である、TMR−プロピル−アジドを形成した。
【0257】
TMR−プロピル−アジドを用いて細胞の染色を実証するために、HeLa細胞を最初にEdUで標識した。生きた顕微鏡画像化を容易にするために、EdU−標識された細胞を、カバースリップチャンバ中において、これを、広視野の蛍光顕微鏡およびスピニングディスク共焦点蛍光顕微鏡(Perkin−ElmerのYokogamaスピニングディスク共焦点ヘッド)のために装備された倒立Nikon TE200)U顕微鏡の加熱ステージ(37℃)にマウントした。細胞を覆っている培地を取り除いて、生理学的な生理食塩水緩衝液に溶解された200nMのTMR−プロピル−アジド、25mMのアスコルビン酸塩および1mMの硫酸銅(II)を含有する染色溶液で置き換えた。この細胞を、経時的蛍光顕微鏡(15秒ごとに1フレーム)によって、画像化して、EdU標識細胞の核に蓄積しているTMRシグナルを検出した。
【0258】
図6上に示される(経時的蛍光顕微鏡によって得られる画像を示す)とおり、クリック反応は、この細胞透過性試薬を用いて生きた細胞上で極めてよく機能することが見出された。図7に示されるとおり、EdU検出は数分内で終了した。
【0259】
(実施例4:インビボ標識)
BLAB/Cマウスに、腹腔内に200μgのEdUを注射した。3日後、器官を回収して、固定して、パラフィンに包埋して、切片にした。次いで、その切片を脱ろうして、Xrhadomine−アジドを用いて5分間染色し、Hoechstで染色し、洗浄し次いでマウントした。
【0260】
図8は、腸を通る高倍率(440×)の切片を示す。核の赤い細胞は、EdUを組み込んでいる細胞およびそれらの子孫である。DNAは青で現われる。図9は、マウスの腸切片の大きい断片の画像を形成するために一緒にとじられた多くの400×画像という画像の複合物である(DNAは緑で現われる)。この対象物は、腸を通じた全体的な傾斜切片である(約5ミリメートルの長さ)。
【0261】
図10は、細胞がほぼ決して分裂しない器官である(極めて増殖性である腸とは異なる)マウス脳を通じた切片である。単一のEdU標識細胞が、この脳切片上で容易に特定され得る。
【0262】
(実施例5:動原体での単一の姉妹染色分体のトレース)
本明細書に報告される実験の目的は、染色体を形成する2つのDNA分子のうちの1つのみを標識することであった。それは、図12に示されるように、DNA合成の間にEdUを用いてHeLa細胞をパルスすること、続いて持続する2つの細胞周期追跡によって達成された。
【0263】
標識後の最初の有糸分裂では、両方のDNA分子を標識したが、第二の有糸分裂では、DNA分子の1つのみを標識した。EdUによって、図13に示されるような細胞における染色体の極めて優れた解像画像が可能になった。これらの実験では、Alexa568−アジドを、透過化処理に関与する染色および染色プロセスのために用いた。
【0264】
(実施例6.細胞でのRNAの標識)
EU(エチニル−ウリジン)を細胞RNAの標識として合成した。HeLa細胞を、10μMのEUを用いて一晩標識して、固定して、Xrhodamine−アジドで染色した。図14に示されるとおり、EUで標識されていない、Xrhodamine−アジドで染色した細胞(陰性コントロール)は、予想どおり、極めてわずかな染色しか示さなかった。Xrhodamine−アジドで染色された、EU標識された細胞は、細胞RNAに組み込まれているEUの指標である強力な細胞質染色を示した。
【0265】
(実施例7:HeLa細胞を染色するためにアジド−dU(AdU)を用いる)
2’−デオキシウリジン(AdU)およびウリジン(AU)の両方の5−アジド誘導体を合成した。
【0266】
AdUは、2つの異なる色でDNAを染色するためにEdUと一緒に用いられ得るデオキシヌクレオシドアナログである(EdUおよびAdUが、2つの別々のパルスとして細胞に投与されるならば、検出はそれぞれ、発蛍光団1−アジドおよび発蛍光団2−末端アルキンを用いて行われる)。
【0267】
同様に、AUは、細胞RNAを標識するために用いられ得る。細胞RNAは、それぞれ、エチニル−ウリジンおよびアジド−ウリジンを用いて2つの異なる色で標識され得る。
【0268】
ここでHeLa細胞を10μMのAdU中で一晩標識し、次いでEdUで標識された細胞を染色するために本明細書で記載された条件を用いて、10μMのAlexa568−アルキンで染色した。図16は、染色されたHeLa細胞の視野の2つの写真を示す。図16に示されるとおり、AdUは標識された静止期細胞の核で、そして有糸分裂細胞の凝縮した染色体で明確に検出される。
【0269】
(実施例8:穏やかな条件下でDNA染色を消去)
ある場合には、EdU標識DNAの蛍光染色を消去することが望ましい。その目的を達成するためのストラテジーは本明細書に記載される。
【0270】
HeLa細胞を、1μMのEdUで一晩標識して、翌日固定した。染色は、シスタミンリンカー(H2N−CH2−CH2−S−S−CH2−CH2−NH2)を介して発蛍光団にアジド基が結合された、本出願人らによって合成された、10μMのAlexa568−アジド(Alexa568−SS−アジドの省略)を用いて行った。リンカー中のジスルフィド結合は、DTT(ジチオスレイトール)のような還元剤を用いて容易に還元され得、これによってDNA鎖からの発蛍光団の解離が生じる。
【0271】
図17の第二列は、HeLa細胞の写真を示しており、この細胞は、上記のように、Alexa568−SS−アジド染色後に、20mM(左側)および100mM(右側)のDTTとともにインキュベートされた。DTTインキュベーションは、37℃で30分間行った。図17の最初の1列は、上記のようにインキュベートされた(すなわち、引き続くDTTインキュベーションなし)HeLa細胞(右パネル)、ならびにEdUおよびAlexa568−アジドの存在下でインキュベートされなかったHeLa細胞(左パネル)の写真を示す。図17の写真によって示されるとおり、DTTインキュベーションは細胞核から蛍光シグナルを効率的に取り除く。
【0272】
(実施例9:シュタウディンガー・ライゲーションを介するアジド−dUでの細胞の標識のための一般的プロトコール)
アジド−dU(AdU)は、標識パルスの長さに依存して10nM〜1μMの範囲におよぶ組織培養培地(ペニシリン、ストレプトマイシンおよびウシ胎仔血清(FCS)を補充したDMEM)中で用いた。例えば、標識される細胞が、S期で同調された場合、100nM〜1μMのAdUを1〜2時間用いた。標識後、この細胞をPBSを用いて3または4回洗浄し、次いで組織培養培地を添加する。
【0273】
(生きている細胞の染色:)
染色溶液:100mMのTris、pH8.5(水のなかで2Mのストック)、0.5〜1μMのシュタウディンガー・ライゲーション試薬(すなわち、置換トリアリールホスフィンに結合された蛍光部分を含む分子)(DMF中に含まれる約100mMのストックより)、および水(必要に応じて)を、一緒に混合する。
【0274】
透過化処理なしに生きた細胞を染色するために、組織培養培地を取り出して、上記の染色溶液で置き換える。細胞を染色溶液の存在下で少なくとも30分間インキュベートするが、染色は一般には、インキュベーションの10分後に完了する。染色後、未反応の染色試薬を、0.5%のTriton−X100(または類似の界面活性剤)を含有する緩衝液(例えば、PBSまたはTBS)で洗浄することによって取り除く。バックグラウンドを低くするために、メタノールまたはエタノールでの洗浄を行ってもよい。
【0275】
所望の場合、細胞固定は、洗浄緩衝液に3%のホルムアルデヒド(またはグルタルアルデヒド)を添加することによって同時におこなわれてもよい。この場合、細胞を、室温で少なくとも10分間洗浄緩衝液中でインキュベートする。
【0276】
(固定された細胞の染色:)
細胞を、任意の適切な方法によって固定してもよく、例えば、細胞は、透過化処理の有無で、アルデヒド(ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒド)固定によって固定してもよい。
【0277】
固定後に、この細胞を、非イオン性界面活性剤(0.2〜0.5%のTriton X100)の有無において緩衝液中で洗浄する。染色前に、細胞を、界面活性剤(PBSまたはTBS)なしで緩衝液を用いてリンスする。次いで、この細胞を、少なくとも30分間染色溶液の存在下でインキュベートする。一晩の染色は好ましくは冷蔵室で行う。
【0278】
染色後、細胞を0.5%の界面活性剤を含有する緩衝液を用いて数回洗浄した。必要に応じてバックグラウンドを有意に減少させるためにメタノールおよびエタノールを用いた洗浄を行ってもよい。
【0279】
(染色された細胞の画像化:)
次いで、染色された細胞を標準的なプロトコールを用いて免疫染色してもよい。次いで、細胞を標準的なマウンティング培地中でマウントして、画像化する。
【0280】
(実施例10:インビボ標識)
BALB/Cマウスに、腹腔内に200μgのAdUを注射した。3日後、器官を回収して、固定して、パラフィンに包埋して、切片にする。次いで、その切片を脱ろうして、シュタウディンガー・ライゲーション染色試薬(すなわち、置換トリアリールホスフィンに結合された蛍光部分を含む分子)を用いて5分間染色し、Hoechstで染色し、洗浄し、次いでマウントした。
【0281】
(実施例11:細胞におけるRNAの標識)
AU(エチニル−ウリジン)を細胞RNAの標識として合成した。RNA染色実験では、HeLa細胞は、10μMのAUで一晩標識して、固定し、そしてシュタウディンガー・ライゲーション−染色試薬(すなわち、置換トリアリールホスフィンに結合された蛍光部分を含む分子)で染色した。
【0282】
(他の実施形態)
本発明の他の実施形態は、本明細書の考慮または本明細書に開示される本発明の実施から当業者に明白である。本明細書および実施例は例示目的としてだけみなされ、本発明の真の範囲は、以下の特許請求の範囲によって示されているということを意図する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図16】
【公開番号】特開2013−27406(P2013−27406A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−239876(P2012−239876)
【出願日】平成24年10月31日(2012.10.31)
【分割の表示】特願2008−537959(P2008−537959)の分割
【原出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【出願人】(502221282)ライフ テクノロジーズ コーポレーション (113)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−239876(P2012−239876)
【出願日】平成24年10月31日(2012.10.31)
【分割の表示】特願2008−537959(P2008−537959)の分割
【原出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【出願人】(502221282)ライフ テクノロジーズ コーポレーション (113)
【Fターム(参考)】
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