説明

核酸リガンドのスクリーニング方法

【課題】標的物質に対して結合能を有し且つ分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドをスクリーニングする方法を提供すること。
【解決手段】(1)下記(a)〜(c)の領域を有する核酸リガンド候補混合物を標的物質と接触させ;(a)任意の第一の固定核酸配列を含む3’末端固定配列領域(b)第一の固定核酸配列と相補的な第二の固定核酸配列を含む5’末端固定配列領域(c)(a)及び(b)に挟まれたランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域(2)前記工程(1)の後、標的物質存在下で、5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部が分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドの、分子内二重鎖構造に作用して核酸リガンドの電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させる化学的作用因子を添加し;(3)前記工程(2)において移動度が変化した核酸リガンドをその他の候補混合物から分離・回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸リガンドのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA及びRNAは、分子内で形成される相補的塩基対に基づく多様な二次構造及び三次構造によって、種々の標的物質と特異的に結合する核酸リガンドとなりうることが知られている。そのような核酸リガンドはアプタマーとも呼ばれ、1990年に、Goldらによって初めてその基本概念が提示された。
核酸リガンドの取得方法としては、核酸分子のライブラリーからSELEX(the Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法と呼ばれる手法を用いて標的物質と特異的に結合する核酸リガンドを取得する方法が報告され、一般的に利用されている(非特許文献1)。
SELEX法は、以下の1.〜3.のスクリーニングサイクル(1.標的物質と核酸分子のライブラリーとの結合反応、2.標的物質に結合する核酸リガンドの回収、3.回収した核酸リガンドのPCRまたはRT−PCRによる増幅反応)を繰り返し行って、標的物質と結合するアプタマーをライブラリーからスクリーニングする手法である。
現在までにアプタマーの標的物質として、多岐にわたる分子が開示されており、例えば、各種タンパク質、酵素、ペプチド、抗体、レセプター、ホルモン、アミノ酸、抗生物質、その他の種々の化合物等が報告されている。アプタマーは、化学的に短時間で試験管内合成が可能であり、安定性も高く固定も容易であり、免疫原性も低いという、抗体にはない利点があり、抗体に代わる分子認識が可能な生体物質として、生物工学的応用、薬剤への応用が検討されている。
【0003】
標的物質との親和性、選択性の改良や、効率的にアプタマーを取得するために上述のSELEX法の改良がしばしば行われている。
例えば、COUNTER SELEXと呼ばれる手法では、標的物質と類似した構造を持つ物質を担体に固定化し、SELEXと同様のプロセスを行うことで、類似した構造をもつ化合物に結合する交差反応性の高い核酸分子を除去する。この手法により、高選択性のアプタマーを取得する方法が報告され、この手法を用いてメチル基の有無のみしか構造が変わらないテオフィリンとカフェインを識別するアプタマーが取得できることが示されている。
また、標的物質とのより多様な相互作用を可能とする非天然の人工核酸の利用や、光架橋基をもつ人工核酸を用いて、光の照射によって標的物質と共有結合することで親和性を高める工夫もなされている。
【0004】
また、核酸リガンドの回収工程において、標的物質と結合した核酸分子と結合していない核酸分子とをキャピラリー電気泳動を用いて分離する方法が開示されている(特許文献1)。従来のSELEX法では、標的物質と結合するアプタマーの取得には一般的に10−15回のスクリーニングサイクルを実施する必要があるのに対し、この方法ではわずか4サイクルで標的物質に結合できるアプタマーが取得可能であることが示されている(非特許文献2)。
【0005】
また、標的物質の結合によって構造変化するアプタマーを利用して、バイオセンサやケミカルセンサへの応用する試みがなされている。非特許文献3には構造スイッチングシグナリングアプタマーのin vitro selection法が報告されている。
標的物質との結合により構造変化するアプタマーを用いたセンサとして、例えば、蛍光レポーターを用いる方法が特に有用であることがわかっている(非特許文献3)。蛍光レポーターを用いる方法には、種々のものが開発されており、例えばモノクロモフォア型アプローチ、アプタマービーコン(ビクロモフォア型アプローチ)、antitode(二本鎖複合体構造スイッチアプローチ;QDNA)、in situ標識型アプローチ、キメラアプタマーアプローチや色素染色アプローチなどが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO03/102212号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tuerk, C. and Gold L.,Systematic evolution of ligands by exponential enrichment: RNA ligands tobacteriophage T4 DNA polymerase, Science, 249, 505‐510 (1990)
【非特許文献2】Mendonsa S. and Bowser M. J. Am. Chem. Soc., 126 (1), 20-21(2004)
【非特許文献3】Nucleic Acids Research, 2000, vol.28, No.9, 1963-1968
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のSELEX法及びその改良法においては、標的物質を担体に固定化してこれと結合するリガンドを回収する手法が一般的に用いられている。
しかしながら、標的物質が低分子化合物である場合、タンパク質や核酸、ペプチド等の高分子化合物と比較すると、担体に固定化するために利用できる官能基の種類及びその数が限定されており、標的物質によっては固定化のために官能基を付加しなければならない場合もある。
そのため、標的物質の担体への固定化は汎用的な手法とはいえず、コストや作業効率の面で不利である。また、標的物質が固定化に利用できる官能基を有していたとしても、担体への固定化のためにその官能基を利用することで、核酸リガンドと相互作用しうる部位が減少する。低分子化合物では核酸リガンドと相互作用できる部位は極めて限定的であり、且つこれらの官能基は化学反応性が高いものが多い。従って、固定化による官能基のロスによって、標的物質へ高選択性、高親和性をもつ核酸リガンドの取得可能性が大幅に損なわれる恐れがある。
また、標的物質が低分子化合物である場合、固定化担体と標的物質との空間が極めて近接することによって、核酸リガンドの標的物質への接近が制限される可能性もあり、これによっても核酸リガンドの取得可能性が損なわれうる。
特許文献1では、標的物質と被検体を反応液中で混合させ、標的物質との結合により生じる核酸分子/標的物質複合体と、結合していない核酸分子を、荷電・大きさ・形の違いを利用してキャピラリー電気泳動によって分離する手法(CE−SELEX法)が開示されている。この手法によれば、上述のSELEX法における標的物質の固定化が不要となる。
また、この手法によれば、担体または標的物質と非特異的に結合する核酸分子を除去する洗浄操作が不要であり、SELEX法と比較して効率的且つ高親和性の核酸リガンドが取得できることが示されている。しかしながら、CE−SELEX法においても、標的物質が低分子化合物である場合、核酸リガンド/標的物質複合体と、標的物質と結合していない核酸リガンドとの間の物性の差違が乏しく、両者を高分解能で分離することは現実的には不可能であるという技術的課題がある。
さらに、センサ素子や分子スイッチ等の応用のために標的物質と結合によって構造変化する核酸リガンドの取得を目的とする場合には、上述の手法によってスクリーニングして核酸リガンドを得た後に、標的物質との結合によって核酸リガンドの構造が変化するか詳細に解析する必要がある。そのため、非常にコスト・作業効率が悪い。また、SELEX法は標的物質との結合能のみを指標としたスクリーニングであるため、SELEXにおける選択圧(標的物質との結合反応条件及び回収条件)によっては目的の核酸リガンドをスクリーニング中に失ってしまう可能性すらある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態の一態様によれば、
核酸リガンド候補混合物から、標的物質と結合し且つ5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部が分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドをスクリーニングする方法であって、
(1) 下記(a)〜(c)の領域を有する複数の核酸リガンド候補を含む核酸リガンド候補混合物を標的物質と接触させる工程と;
(a)任意の第一の固定核酸配列を含む3’末端固定配列領域
(b)前記第一の固定核酸配列と相補的な第二の固定核酸配列を含む5’末端固定配列領域
(c)(a)及び(b)に挟まれたランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域
(2)前記工程(1)の後、前記標的物質存在下で、前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列を含む前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドの、前記分子内二重鎖構造に作用して前記核酸リガンドの電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させる化学的作用因子を添加する工程と;
(3)前記工程(2)において前記電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度が変化した核酸リガンドをその他の候補混合物から分離・回収する工程を含む核酸リガンド候補混合物から、標的物質と結合し且つ5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部が分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドをスクリーニングする方法を提供する。
【0010】
また、本実施形態の他の態様によれば
(4)工程(2)または工程(3)の後に、核酸リガンドを含む溶液から標的物質を除去する工程;
を含むスクリーニング方法を提供できる。
【0011】
また、本発明は、
(5)工程(2)及び/または工程(3)及び/または工程(4)の後で得られる核酸リガンドを増幅する工程;
を含むスクリーニング方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、
(6)工程(5)の前または後に、前記工程2によって前記核酸リガンドの前記変化した電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化前の移動度に回復させる工程を含むスクリーニング方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、
工程(1)の前及び/または工程(4)の後に、
(7)標的物質の非存在下で前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列を含む前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドの前記分子内二重鎖構造に作用して、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させる化学的作用因子を添加し、前記電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度が変化しない核酸リガンドを分離・回収する工程;
を含むスクリーニング方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、
望ましい量の増加した核酸リガンドを生産するために、前記工程(1)〜(7)を各々必要な回数だけ繰り返すことを含むスクリーニング方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、標的物質と結合し且つ5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部が分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドの配列を同定する方法を含むスクリーニング方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、前記工程(2)において、前記第一の固定核酸配列が前記3’末端固定配列領域の3’末端にあることを特徴とし、前記標的物質の存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドを、前記第一の核酸配列の3’末端を起点に、前記5’末端固定配列領域を鋳型としてDNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼで分子内伸長させることによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする、スクリーニング方法を提供する
【0017】
また、本発明は、前記工程(2)において、分子内二重鎖構造内に前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列からなる固定配列として任意のエンドヌクレアーゼ又はエンドリボヌクレアーゼに特異的に認識される配列を有することを特徴とし、前記標的物質の存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドを前記エンドヌクレアーゼ又はエンドリボヌクレアーゼで切断することによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする、スクリーニング方法を提供する。
【0018】
また、本発明は
前記工程(2)において、分子内二重鎖構造内に前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列からなる固定配列として任意の三重鎖形成配列を有することを特徴とし、前記標的物質の存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドに、前記二重鎖構造を形成した領域の少なくとも一部と結合し三重鎖を形成するオリゴヌクレオチドプローブを添加することによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする、スクリーニング方法を提供する。
【0019】
また、本発明は
前記工程(7)において、前記第一の固定核酸配列が前記3’末端固定配列領域の3’末端にあることを特徴とし、前記標的物質の非存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドを、前記第一の核酸配列の3’末端を起点に、前記5’末端固定配列領域を鋳型としてDNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼで分子内伸長させることによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする、スクリーニング方法を提供する。
【0020】
また、本発明は前記工程(7)において、前記分子内二重鎖構造内に第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列からなる固定配列として任意のエンドヌクレアーゼ又はエンドリボヌクレアーゼに特異的に認識される配列を有することを特徴とし、前記標的物質の非存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドを前記エンドヌクレアーゼ又はエンドリボヌクレアーゼで切断することによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする、スクリーニング方法を提供する。
【0021】
また、本発明は
前記工程(7)において、前記分子内二重鎖構造内に前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列からなる固定配列として任意の三重鎖形成配列を有することを特徴とし、
前記標的物質の非存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドに、前記二重鎖構造を形成した領域の少なくとも一部と結合し三重鎖を形成するオリゴヌクレオチドプローブを添加することによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする、スクリーニング方法を提供する。
【0022】
また、本発明は、
前記標的物質の分子量は10〜10000であることを特徴とする、スクリーニング方法を提供する。
【0023】
また、本発明は、
(1’) 下記(a)〜(c)の領域を有する核酸リガンド候補混合物を標的物質と接触させる結合反応手段と;
(a)任意の第一の固定核酸配列を含む3’末端固定配列領域
(b)前記第一の固定核酸配列と相補的な第二の固定核酸配列を含む5’末端固定配列領域
(c)(a)及び(b)に挟まれたランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域
(2’)前記標的物質存在下で5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部で分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドの、前記分子内二重鎖構造に作用して前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させる化学的作用因子を添加する化学的作用因子反応手段と、
(3’)前記電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度が変化した核酸リガンドをその他の候補混合物から分離・回収するための手段と、
(4’)(1’)〜(3’)の各手段の結果物を別の各手段へ移送するための移送手段と
を含むことを特徴とする、標的物質と結合し且つ5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部が分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドをスクリーニングする装置を提供する。
【0024】
また、本発明は、
下記(a)〜(c)の領域を有する複数の核酸リガンド候補を含む核酸リガンド候補混合物
(a)任意の第一の固定核酸配列を含む3’末端固定配列領域
(b)前記第一の固定核酸配列と相補的な第二の固定核酸配列を含む5’末端固定配列領域
(c)(a)及び(b)に挟まれたランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域
を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、標的物質と結合し且つ5’末端領域と3’末端領域との少なくとも一部同士が分子内二重鎖構造を形成するする核酸リガンドをスクリーニングする新規な方法を提供することができる。また、標的物質との結合によって核酸リガンドが分子内二重鎖構造を形成する構造変化を利用する方法であり、標的物質との結合によって構造変化するアプタマーの回収についても有効なスクリーニング方法である。
また、本発明の方法により回収した核酸リガンドは、種々のバイオセンサや分子スイッチ、診断薬など標的物質と結合する核酸リガンドを利用する種々の分野への適用に寄与するものである。特に、蛍光発光などをするレポーター分子を標識したセンサ用の分子認識材料として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る核酸リガンドのスクリーニング方法の一例である。
【図2】本発明に係る核酸リガンドのスクリーニング方法の別の一例である。
【図3】本発明に係る核酸リガンドのスクリーニング方法のさらに別の一例である。
【図4】本発明に係る核酸リガンドのスクリーニング装置の一例である。
【図5】実施例1における、配列番号3及び4の予測された安定な二次構造である。
【図6】実施例2において、配列番号3及び4の伸張反応が起きていることを示すDNA電気泳動結果である。
【図7】実施例4において、標的物質の存在下でも配列番号3及び4の伸張反応が起きていることを示すDNA電気泳動結果である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施の形態を図、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、実施例等及び説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施し得る他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0028】
以下は本発明に用いられる核酸リガンド等に関する説明であり、特に説明がない限り、全ての実施形態に適用される。
【0029】
(核酸リガンド、核酸リガンド候補混合物)
本実施形態に係る核酸リガンドは、所望される作用を有する、非天然に存在する核酸である。核酸リガンドはしばしば「アプタマー」と呼ばれるが、「アプタマー」という用語は本出願を通して「核酸リガンド」と同義として使用される。所望される作用は限定をしないが、標的物質に結合すること、標的物質を触媒的に変化させること、標的物質の作用を抑制すること、標的物質と他の分子との反応を促進することなどが含まれる。好ましい態様では、この作用は標的物質に対する特異的な親和性により発現し、そのような標的物質は、ワトソン/クリック塩基対合や三重らせん結合に主に依存する機序を介して核酸リガンドに結合する核酸以外の化合物である。つまり、本願発明において、核酸-核酸のハイブリダイゼーションのようなものを含むものではない。
本明細書で使用される「核酸リガンド候補混合物」は、所望の核酸リガンドが含まれる、様々な配列をもった核酸(核酸リガンド候補)の混合物である。核酸リガンド候補混合物は、天然に存在する核酸またはその断片、化学合成した核酸、酵素的に合成した核酸、または上記技術の組み合わせにより作られる核酸に由来し得る。
【0030】
本発明における「核酸リガンド候補混合物」は、複数の核酸配列領域を含んでなる、一本鎖または二本鎖のDNA、RNAのいずれか及びその化学修飾体である。核酸リガンド候補は、核酸配列が固定された領域(すなわち候補混合物の各メンバーは同一位置に同一配列を含有する)である3’末端固定配列領域及び5’末端固定配列領域と、ランダム化配列領域とを有することを特徴とする。3’末端固定配列領域及び5’末端固定配列領域の配列及び配列長は、本発明の効果を有するものであればよく、3’末端固定配列領域の内部核酸配列と、5’末端固定配列領域の内部核酸配列との間で、互いに相補的であり且つ分子内2重鎖を形成しうる少なくとも一組の核酸配列を有しているものであれば特に制限はない。また、本スクリーニング方法を実施時の標的物質と接触させる条件下で分子内二重鎖の形成が阻害されない限り、上記の分子内二重鎖は、完全な相補鎖である必要はなく、例えばG−G,G−T,G−A,A−A,A−C,C−C,C−T,T−Tのようなミスマッチ塩基対を含んでいても良い。前記分子内二重鎖を形成する相補的な核酸配列の長さは限定しないが、標的物質が存在しない状態において優先的に分子内二本鎖を形成しない長さであれば良いが、5bp以上20bp以下であることが好ましい。上記長さは、スクリーニングの温度、塩濃度、pHや配列のTm値などにより適宜変更可能であり、例えば、核酸の二次構造予測ソフト(例えばmfold)などにより、ある特定の核酸リガンドついては設定した固定配列領域において二次構造を形成し易いかどうかある程度予測可能である。
また、実際の標的物質結合時の核酸リガンドにおいて固定核酸配列領域における分子内二重鎖を形成している核酸配列長や部位はNMRなどの構造解析により解析可能である。
ランダム化配列領域は決まった配列やヌクレオチド、または該固定配列で分断されていても良い。核酸リガンド候補混合物のライブラリー数と実際のスクリーニング系の容量、濃度などよりランダム化配列領域の長さを決定できる。ランダム化配列領域は、前記5’末端及び3’末端固定配列領によって挟み込むように配置される。
【0031】
本発明における「核酸」とは、デオキシリボ核酸及びリボ核酸の両方またはこれらの化学修飾物を意味する。修飾には、限定しないが、キャッピングのような3’及び5’修飾も含まれる。修飾としては、例えば、リン酸化、アミノ化、ビオチン化、チオール化や蛍光標識などが挙げられる。核酸に本願スクリーニング方法で得られたアプタマーの利用方法に適した修飾をあらかじめしていても良い。特に、このような修飾には、追加の電荷、分極率、水素結合、静電相互作用、及び流動性を核酸リガンドの塩基または核酸リガンド全体に取込む他の化学基を提供するものが含まれる。これらの修飾により、標的物質との親和性能のバリエーションや結合力を拡大させることができる。そのような修飾には、限定しないが、2’位の糖修飾、5位のピリミジン修飾、8位のプリン修飾、環外アミンにおける修飾、4−チオウリジンの置換、5−ブロモまたは5−ヨード−ウラシルの置換;骨格修飾、メチル化、イソ塩基のイソシチジン及びイソグアニジンのような、稀な塩基対合の組み合わせ、等が含まれる。本願で記載する増幅工程を行う場合は、増幅可能である修飾方法を選ぶことができる。
【0032】
(標的物質)
本明細書における「標的物質」は、所望される、関心対象の化合物または分子を意味する。標的物質には、タンパク質に代表される生体高分子から代謝産物のような低分子化合物まで広くが含まれ得る。具体的には、タンパク質、ペプチド、炭水化物、糖類、糖タンパク質、ホルモン、抗体、代謝産物、遷移状態類似体、補因子、阻害剤、薬物、栄養素等であり得て、特に制限がない。つまり、核酸リガンドと結合でき、相互作用を生成させることができるものである限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができる。これらのうち、特に標的物質が低分子化合物である場合に本発明の効果は特に発揮される。
本発明における低分子化合物としては、天然に存在する、または通常の化学合成の方法で合成することができる任意の有機化合物、無機化合物、あるいはこれらのハイブリッドである有機‐無機ハイブリッド化合物が挙げられる。低分子化合物の分子量は、好ましくは10〜10000、より好ましくは10〜5000、さらに好ましくは10〜1000である。特に標的物質が低分子化合物である場合に、本発明によって、コスト・作業効率での大幅な改善が期待できる。
【0033】
(化学的作用因子)
本実施形態における「化学的作用因子」は、核酸リガンドの5’末端及び3’末端固定配列領域内部に設計された互いに相補的な配列による分子内二重鎖構造に作用し、核酸リガンドの電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させるものである。
具体的な例として、分子内二重鎖構造の形成により、核酸リガンドの3’末端を起点として分子内伸長反応を触媒するDNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ及びこれらの変異体、または分子内二重鎖構造中の核酸配列を認識・切断する制限酵素、または前記二重鎖構造と相互作用して3重鎖構造を形成するオリゴヌクレオチドプローブが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらの化学的作用因子は、核酸リガンド混合物と作用させた後は次の核酸リガンドの分離・回収工程が阻害されない限り除去しなくてもよいが、市販の核酸精製用のカラムや公知の核酸の精製方法を用いて除去することができる。具体的な化学的作用因子を用いる好ましいスクリーニング例については後述する。
【0034】
(反応条件)
本願スクリーニング方法における工程の条件は実際に核酸リガンドを使用する条件(例えば温度、pH、塩濃度、添加剤等の溶液条件など)と同じに設定することが望ましい。特に好ましくは、標的物質との接触工程や核酸リガンドの物理化学的性質を変化させる化学的作用因子を添加する工程を実際に核酸リガンドを使用する条件と同条件で行う。
また、化学的作用因子を作用する条件は、核酸リガンドと標的物質との結合が阻害されない限り、スクリーニング条件と異なっていても良く、後述のとおり化学的作用因子毎に条件を最適化することができる。
【0035】
(第一の固定核酸配列、第二の固定核酸配列)
本実施形態における「第一の固定核酸配列」は、前記3’末端固定配列領域に含まれる任意の固定された核酸配列である。
第一の固定核酸配列は、上記化学的作用因子によって分子内伸長反応を起こす場合には3’末端固定配列領域の3’末端に位置する必要があるが、それ以外の場合は3’末端固定配列領域内部に存在すれば特に制限はない。
また、本発明における「第二の固定核酸配列」は、5’末端固定配列領域内部に存在し、前記第一の固定核酸配列と相補的な固定核酸配列であり、第一の固定核酸配列と第二の固定核酸配列とで、前記分子内二重鎖の一部を形成するものである。
第一の固定核酸配列と第二の固定核酸配列とは完全に完全な相補的である必要はなく、ミスマッチ塩基対を含んでいても良い。ただし、上記化学的作用因子として制限酵素を用いる場合、第一の固定核酸配列と第二の固定核酸配列とで形成される制限酵素認識配列は完全に相補であることが好ましい。
また、上記化学的作用因子によって分子内伸長反応を行う場合、第一の固定核酸配列の3’末端と第二の固定核酸配列の5’末端は相補的であることが好ましい。各々の配列の長さは特に限定されないが、5bp以上20bp以下であることが好ましい。
【0036】
(アプタマーセンサやその他利用)
本実施形態に係る回収される核酸リガンドは、たとえば、特定の代謝系に関与する代謝物に特異的に相互作用し得る核酸リガンドを同定することにより、多機能薬品の高精度ドラッグデリバリーを行う物質となることが考えられる。
さらに、反応中間体をミミックした分子に特異的に相互作用し得る核酸リガンドを同定することにより、不安定な反応中間体を経由する多段階反応を効率よく進めることができると考えられる。
また核酸リガンドを水晶発振子、表面プラズモン共鳴、電極または表面弾性波素子に付着結合させていわゆるバイオセンサとして適用可能である。特に好ましくは、本出願の特徴である標的物質との結合による構造変化を利用したバイオセンサや分子スイッチ、信号伝達分子などへの適用が挙げられる。
【0037】
本発明の核酸リガンドのスクリーニング方法は、下記工程(1)乃至工程(3)を含む、核酸リガンド候補混合物から標的物質と結合することにより、前記核酸リガンドの固定核酸配列で分子内二重鎖を形成する核酸リガンドをスクリーニングする方法である。つまり、
(1) 下記(a)〜(c)の領域を有する複数の核酸リガンド候補を含む核酸リガンド候補混合物を標的物質と接触させる工程と;
(a)任意の第一の固定核酸配列を含む3’末端固定配列領域
(b)前記第一の固定核酸配列と相補的な第二の固定核酸配列を含む5’末端固定配列領域
(c)(a)及び(b)に挟まれたランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域
(2)前記工程(1)の後、前記標的物質存在下で前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列を含む前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドの、前記分子内二重鎖構造に作用して前記核酸リガンドの電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させる化学的作用因子を添加する工程と;
(3)前記工程(2)において前記移動度が変化した核酸リガンドをその他の候補混合物から分離・回収する工程を含むことを特徴とする。
【0038】
アプタマーは、標的物質との結合によって、分子内二本鎖結合パターンやその空間配置、すなわち二次構造や三次構造が変化することが知られており、このような特性を利用して分子認識センサとして利用できることが示されている。本発明は、上述の標的物質の結合による構造変化を利用したスクリーニング方法である。
すなわち、本実施形態は、核酸リガンド内に予め設計された相補的な固定核酸配列である第一の核酸配列と第二の核酸配列との間での分子内二本鎖の形成という構造変化が、標的物質との結合によっておこるような核酸リガンドをスクリーニングする方法である。
【0039】
更に本発明のスクリーニング方法は、工程(1)〜(3)に加え核酸リガンドを含む溶液から標的物質を除去する工程(工程(4))を含む場合もある。例えばエタノール沈殿やイソプロパノール沈殿、フェノール・クロロホルム沈殿、ゲルろ過、イオン交換、選択吸着、またはアフィニティー結合クロマトグラフィーといった公知の核酸の精製技術を用いることで、標的物質を除去することができる。標的物質の性質に応じて適宜最適な方法を利用することができる。工程(4)は、工程(2)の後及び/または工程(3)の後に実施することができ、工程(3)の核酸リガンドの分離・回収工程において標的物質が同時に除去されるならば必ずしも必要ではない。
【0040】
さらに本発明のスクリーニング方法は、工程(1)〜(4)に加えて、工程(2)及び/または工程(3)及び/または工程(4)の後で得られる核酸リガンドの増幅工程(工程5)を含む場合もある。
本実施形態における増幅工程には、従来既知の方法が利用可能であり、例えばPCR法などにより達成できる。PCR法により増幅した核酸候補混合物は、例えばビオチン化プライマーを用いてPCRすることにより、増幅後の二本鎖の内、核酸リガンド配列の逆鎖(相補鎖)をストレプトアビジンカラムなどにより分離除去することが可能である。
または、核酸リガンドの逆鎖を増幅するためのプライマーの5’末端をリン酸化修飾したプライマーを核酸リガンドの逆鎖を増幅するためのプライマーとしてPCRを行い、PCR産物をラムダエキソヌクレアーゼで処理することで5’末端がリン酸化された核酸リガンドの逆鎖を分解・除去することができる。増幅工程、その後の逆鎖の除去工程は上記記載の方法に限定するものではない。
増幅工程を行う場合は、核酸リガンド候補混合物の配列として、ランダム化配列領域、固定核酸配列領域である5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域に加え、更に固定配列である増幅用プライマー配列領域を含んでいてもよい。
また、増幅用プライマー配列領域の核酸リガンド構造への寄与を低減させるために、増幅用プライマー配列は、前記5’末端固定配列領域及び3’末端固定配列領域の1部または全配列を利用してもよい。プライマー配列領域は特に限定されないが、分子内二重鎖を形成する固定核酸配列と二次構造を形成しにくい配列を選択することが好ましい。
そのような配列の一つの決定方法として核酸の二次構造予測ソフト(例えばmfoldソフト)が適用可能である。様々な配列領域の部分をいくつかモデル配列とし、固定配列領域と増幅プライマー配列領域を設定し、分子内二重鎖を形成する固定核酸配列領域と増幅プライマー配列領域との間の相補性及び二次構造が形成されやすいかを評価し、選択することが可能である。各配列領域間にリンカー部分として核酸配列を導入しても良い。
【0041】
さらに本発明のスクリーニング方法は工程(1)〜(5)に加えて、工程(5)の前または後に、前記工程(2)によって前記核酸リガンドが変化した電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化前の移動度に回復させる工程(6)を含む場合もある。工程(2)によって配列の一部が伸張する場合は伸張した部位を増幅しないプライマーセットを用いることで、または工程(2)によって配列の一部が欠損する場合は欠損した配列を含むプライマーを用いで増幅工程(5)を行うことで本工程(6)の目的を達してもよい。
【0042】
さらに本発明のスクリーニング方法は、工程(1)〜(6)に加えて、工程(1)の前及び/または工程(4)の後に、標的物質の非存在下で前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列を含む前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドの前記分子内二重鎖構造に作用して、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させる化学的作用因子を添加し、前記移動度が変化しない核酸リガンドを分離・回収する工程(7)を含む場合もある。
この工程によって、前記二重鎖構造を形成しているが、標的物質に対して結合しない核酸リガンド、及び標的物質に対して結合能を有するが、標的物質の有無に関わらず前記分子内二重鎖構造を形成している核酸リガンドが除去することができ、スクリーニングの目的に応じて実施することができる。
【0043】
さらに本実施形態に係るスクリーニング方法は、望ましい量の増加した核酸リガンドを生産するために、前記工程(1)〜(7)を各々必要な回数だけ繰り返すことができ、その回数は限定されない。例えば、非目的の候補混合物の分子数に対する目的の核酸リガンド候補群の分子数比が確保できる、あるいは目的のリガンドを同定できる分子数比が確保できれば回数は限定されない。なお、(1)〜(7)の工程のすべてを繰り返す必要はなく、目的に応じて、例えば、工程(1)から(3)まで、工程(1)から(4)まで、工程(1)から(5)まで、工程(1)から(6)まで、又は工程(1)から(7)まで、のいずれかの工程を繰り返すことができる。
【0044】
さらに本発明のスクリーニング方法は、上述のスクリーニング方法によって得られる、標的物質と結合し且つ5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部が分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドの配列を同定する方法を含む場合もある。
配列の同定は従来公知の手法によって行うことができる。例えば、スクリーニング実施後に得られる核酸リガンドを市販のクローニング用のプラスミドベクターに挿入し、大腸菌をこのプラスミドで形質転換させる。大腸菌で増幅したプラスミドを回収し、ダイターミネーター法など用いてDNAシーケンサーによって得られた核酸リガンドの配列を同定することができる。
核酸リガンドがRNAである場合は、逆転写酵素を用いてcDNAに変換後同様の操作によって配列を同定することができる。
【0045】
本発明におけるスクリーニング方法の1例について詳細を下記に示す。
図1に示すように工程(1)で核酸リガンドの候補混合物を標的物質と接触させる。核酸リガンド候補混合物は、図1に示すように3’末端固定配列領域101、5’末端固定配列領域102及びランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域103を含む。3’末端固定配列領域101は、3’末端側に第一の固定核酸配列104を含む。5’末端固定配列領域102は、第一の固定核酸配列102と相補的で且つ分子内二本鎖構造を形成するための第二の固定核酸配列105と、第二の固定核酸配列の5’末端側に位置する延長配列106を含む。
延長配列106の長さは限定しないが、標的物質と結合する核酸リガンドとそれ以外の核酸リガンドを高分解能で分離するために5bp以上あると好ましい。
ランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域103は、3’末端固定配列領域101及び5’末端固定配列領域102に挟まれるように配置される。核酸リガンド候補混合物は、当該業者において容易に設計・合成することが可能である。
【0046】
上述のように設計した核酸リガンドの候補混合物を標的物質と接触させる工程によって、標的物質との結合を駆動力として図1の工程(2)に示すような第一及び第二の固定核酸配列の相補性によって分子内二重鎖が形成されるような構造変化を起こした候補混合物中の核酸リガンドは、第一の核酸配列104の3’末端を起点として、前記延長配列106を鋳型としてDNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼで分子内伸長させることができる。
101及び102の3’末端の塩基は、完全に相補的であることが望ましい。これらの塩基が完全に相補的であることは必須ではないが、効率的な分子内伸長の重要な条件である。分子内伸長反応によって、延長配列106の核酸配列に相補的な核酸配列がもともとの核酸リガンドに付加される。
延長配列106の長さに比例して、分子量や電荷等が増大するため、電気泳動またはクロマトグラフィーによって非目的の候補混合物から容易に且つ効率的に分離することができる。
また、目的の核酸リガンドの分離・回収後に、伸長した核酸配列部分を最終的に除去する必要がある場合、種々の方法が可能である。
例えば、核酸リガンドがDNAからなる場合、核酸の基質にRNAを用いて伸長反応することで、RNAのみで構成された伸長鎖を付加することができる。伸長したRNA鎖部分は、リボヌクレアーゼを用いることで、伸長したRNA鎖部分のみを選択的に除去することが可能である。
DNAポリメラーゼとしては特に限定はなく、T4 DNAポリメラーゼ、クレノーフラグメント、Taq等の市販されている一般的なDNAポリメラーゼを用いても良いが、RNAを基質として取り込みやすいDNAポリメラーゼの変異体、例えばProc. Natl. Acad. Sci. USA 1998, 3402-3407に記載されているような変異体を利用すると伸長反応を高効率で行うことができるため好ましい。
また、伸長反応の反応条件としては、スクリーニングにおける標的物質と接触させる反応条件と同じか、近いことが好ましい。このとき、例えばポリメラーゼ活性が下がることが予想されるが、反応時間または添加するポリメラーゼ濃度を調節することで所望の反応を起こすことができる。後述の電気泳動や、または伸長反応後に回収した核酸リガンドの配列を同定することで所望の反応が起こっていることが確認できる。
【0047】
上述の工程によって、図1の工程(2)に示すように、所望の核酸リガンドは延長配列106と相補的な核酸配列107の長さに相当する分その他の候補混合物とは電気泳動またはクロマトグラフィーによる移動度が変化する。そのため、当業者に公知の技術を用いることで、両者を容易に分離し、目的の核酸リガンドを回収するこができる。
分離回収には、例えば、アガロースゲル電気泳動、変性及び非変性のポリアクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動といった公知の電気泳動を用いることができる。電気泳動条件は、特に限定されないが、例えばTBEバッファーで作製した4%アガロースゲルを用い、0.5xTBEバッファー中で100V、100分行う。電気泳動バンドの検出はエチジウム染色により行うが、標識物質を用いた場合はその標識に応じて、例えば蛍光色素を付加したプライマーを用いた場合は、蛍光発色を指標として行ってもよい。
また、クロマトグラフィーを用いる場合は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーといった公知の各種クロマトグラフィーによって分離・回収することができる。
所望の長さの伸長反応が起きていることを確認できること、非特異的な伸長反応がおこった候補混合物の除去が可能であること、及び効率や簡便性の観点から、電気泳動による分離・回収を行うことが好ましい。
また、伸張反応によって、標的物質が解離していても、結合が維持されていてもよい。伸張反応後に標的物質を除去してもよく、核酸を精製するために上述の種々の公知技術を利用することができる。
【0048】
本実施形態に係るスクリーニング方法の別の好ましい一例を以下に示す。
核酸リガンド候補混合物は、図2に示すように、3’末端固定配列領域201、5’末端固定配列領域202及びランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域203を含むように設計される。
3’末端固定配列領域201は、第一の固定核酸配列204を含む。第一の固定核酸配列204は、3’末端固定配列領域201内部に位置すれば位置に制限はないが、核酸リガンドの5’末端側に近い位置に位置することが好ましい。
5’末端固定配列領域202は、第一の固定核酸配列204と相補的で且つ分子内二重鎖構造を形成するための第二の固定核酸配列205を含む。第二の固定核酸配列205は、5’末端固定配列領域202内部に位置すれば位置に制限はないが、核酸リガンドの3’末端側に近い位置に位置することが好ましい。
なお、第一の固定核酸配列204と第二の固定核酸配列205とで形成される分子内二重鎖構造内には、互いに相補的で且つ制限酵素で認識・切断される制限酵素認識領域206を含む。
制限酵素認識領域206は、完全相補鎖であることが好ましい。ランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域203は、3’末端固定配列領域201及び5’末端固定配列領域202に挟まれるように配置される。
【0049】
上述のように設計した核酸リガンドの候補混合物を標的物質と接触させる工程によって、標的物質との結合を駆動力として図2の工程(1)に示すような第一及び第二の固定核酸配列の相補性によって分子内二重鎖が形成されるような構造変化を起こした候補混合物中の核酸リガンドは、制限酵素認識領域206を分子内二重鎖構造内に含む。
標的物質存在下で、制限酵素認識領域206の核酸配列を認識する制限酵素を作用させることで、図2の工程(2)のように核酸リガンドの配列の一部を欠損させることができる。制限酵素の種類は特に限定はないが、配列特異性が高い酵素が好ましく、ランダム化領域内の核酸配列を認識して非目的の切断を抑制することができる。
例えば8塩基配列を認識する制限酵素であるNot1を用いることができる。あるいは、制限酵素認識領域108’の核酸をメチル化し、メチル化DNAを認識・切断する制限酵素を利用することによって特異性を高めることができ、このような制限酵素としてDpn1、LpnPI等を用いることができる。また、制限酵素以外のエンドヌクレアーゼまたはエンドリボヌクレアーゼであってもよく、第一の固定核酸配列と第二の固定核酸配列とで形成される分子内二重鎖構造の一部を特異的に切断できるものであればよい。
配列の一部が切断された核酸リガンドは、伸長反応による方法と同様、切断される核酸配列の長さに応じて分子量や電荷が低下し、電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度が大きく変化する。そのため、上述と同様の手法による分離・回収工程によって、それ以外の候補混合物から目的の核酸リガンドを容易に且つ効率的に分離・回収することができる。
目的の核酸リガンドの分離・回収後に、切断した核酸配列の回復が必要なとき、種々の方法を用いることができる。例えば、切断した核酸配列を一部として含むプライマーを用いて、PCRによって切断前の状態の核酸リガンドを得ることができる。あるいは、切断した核酸配列を合成し、例えばT4リガーゼ等のリガーゼを用いることによって切断した核酸配列を連結することも可能である。また、切断反応によって、標的物質が解離していても、結合が維持されていてもよい。切断反応後に標的物質を除去してもよく、核酸を精製するために種々の公知技術を利用することができる。
【0050】
本発明におけるスクリーニング方法の別の好ましい一例の詳細を下記に示す。
核酸リガンド候補混合物は、図3に示すように3’末端固定配列領域301、5’末端固定配列領域302及びランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域303を含む。3’末端固定配列領域301は、第一の固定核酸配列304を含む。第一の固定核酸配列304は、3’末端固定配列領域301内部に位置すれば位置に制限はない。5’末端固定配列領域302は、第一の固定核酸配列304と相補的で且つ分子内二重鎖構造を形成するための第二の固定核酸配列305を含む。第二の固定核酸配列305は、5’末端固定配列領域302内部に位置すれば位置に制限はない。ランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域303は、3’末端固定配列領域301及び5’末端固定配列領域302に挟まれるように配置される。
【0051】
上述のように設計した核酸リガンドの候補混合物を標的物質と接触させる工程によって、標的物質との結合を駆動力として図3の工程(1)に示すような第一及び第二の固定核酸配列の相補性によって分子内二重鎖が形成されるような構造変化を起こした候補混合物中の核酸リガンドは、三重鎖構造形成領域306を分子内二重鎖構造内に含む。分子内二重鎖構造内の三重鎖構造形成領域306の一方の鎖の固定核酸配列はアデニン(A)またはグアニン(G)のプリン塩基及びその修飾体のみから成り、もう一方の鎖の固定核酸配列がチミン(T)、シトシン(C)またはウラシル(U)のピリミジン塩基またはその修飾体のみからなることが本スクリーニングにおいて必要な条件となる。一般に、片方の鎖におけるヌクレオチド配列がAまたはGのプリン塩基のみから成り、反対の鎖のヌクレオチド配列がT、CまたはUのピリミジン塩基のみから成る二重鎖核酸上の特定部位のヌクレオチド配列に、T、CまたはUのピリミジン塩基のみから成る一本鎖核酸が結合する時に、三重鎖核酸が形成されることは既知である。本発明において、このように三重鎖核酸を形成することができる配列を、三重鎖形成配列とする。
【0052】
次いで、二重鎖構造領域に作用して三重鎖構造を形成するオリゴヌクレオチドプローブ307を加えることによって図3の工程(2)に示すような三重鎖構造が形成される。三重鎖構造が形成されることは、従来公知の方法、例えば融解温度やCDスペクトルの測定を行うことにより確認することができる。
オリゴヌクレオチドプローブは三重鎖構造を形成するものであれば制限はないが、標的物質との接触工程と同じ条件(pH、温度、塩濃度など)下で安定であることが好ましい。一般に天然の核酸のみで形成される三本鎖構造は、生理的条件下(pH6〜8)、特定のカチオンの存在下で非常に形成されにくく、また、形成されたとしても極めて不安定であることが知られている。そのため、オリゴヌクレオチドプローブは、非天然の人工核酸を含んでいることが好ましい。例えば、生体と同等の中性条件下でシトシン(C)よりもプロトン化しやすい5−メチルシトシンを利用することができる。
三重鎖形成した核酸リガンドは分子量や電荷等が増大し、電気泳動またはクロマトグラフィーの移動度が大きく変化するため、上述と同様の手法による分離・回収工程によって、それ以外の候補混合物から目的の核酸リガンドを容易に効率的に分離・回収することができる。また、分離・回収した核酸リガンドからオリゴヌクレオチドプローブを除去する必要がある場合、種々の方法が可能である。例えば、加熱、ジメチルスルホキシドへの溶解、水酸化ナトリウム水溶液への溶解等の方法があるがこれらに限定されるものではない。
三重鎖構造が維持されるならば、オリゴヌクレオチドプローブによる三重鎖構造形成反応の後に標的物質を除去してもよく、核酸を精製するための種々の公知技術を利用することができる。
【0053】
上述の工程によって、核酸の候補混合物中から、標的物質と結合することにより、前記核酸リガンドの固定核酸配列で分子内二本鎖を形成する核酸リガンドを濃縮することができ、効率的なスクリーニングが可能となる。
【0054】
(核酸リガンドのスクリーニング装置)
本発明の「核酸リガンドのスクリーニング装置」は、後述の各手段を一つのシステムとして一体化し、標的物質と結合し且つ5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部が分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドをスクリーニングするための一連の工程を、パソコンなどの装置によって自動で制御された装置を提供するものであり、目的の核酸リガンドを再現性良く、容易にスクリーニングすることを可能とするものである。
【0055】
本発明に係る核酸リガンドのスクリーニング方法に用いられるアプタマースクリーニング装置は、以下の(1’)〜(4’)の各手段から構成される。
(1’)核酸リガンド候補混合物を標的物質と接触させる結合反応手段
(2’)前記標的物質存在下で5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部で分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドの、前記分子内二重鎖構造に作用して前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させる化学的作用因子を添加する化学的作用因子反応手段
(3’)前記電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度が変化した核酸リガンドをその他の候補混合物から分離・回収する分離・回収手段
(4’)(1’)〜(3’)の各手段の結果物を別の各手段へ移送するための移送手段
結合反応手段及び化学的作用因子反応手段としては、各々の反応液を保持できる反応槽を有していればいかなるものでもよい。例えば、マイクロチューブを用いることができ、0.1ml、0.2ml、0.5ml、1.5ml、2.0ml等の容量の異なるマイクロチューブを用いることができる。あるいは、マルチウェルプレートを用いることができ、6ウェル、12ウェル、24ウェル、96ウェル等のウェル数の異なるマルチウェルプレートが所定の目的に応じて任意に選択され使用される。また、反応槽を一定の温度に保持するための手段を有していても良く、例えばペルチェ温調素子等を用いることができる。また、結合反応手段及び化学的作用因子反応手段は、同一の反応槽を共有していてもよい。例えば、核酸リガンド候補混合物を標的物質と接触させた結合反応槽に、化学的作用因子を所定の濃度となるように添加する手段を設けることで化学的作用因子反応を行ってもよい。結合反応手段を行う結合反応槽には予め標的物質が含まれていてもよく、反応槽内で標的物質が固定されていてもよい。あるいは、結合反応槽には予め標的物質が含まれていなくてもよく、標的物質を含む貯槽が別途存在し、移送手段によって必要時に結合反応槽に標的物質が必要量供給されるようになっていてもよい。化学的作用因子も同様に、予め化学的作用因子反応槽に予め含まれていても含まれていなくてもよい。
【0056】
分離・回収手段は、核酸リガンドの分子量や電荷の変化によって核酸リガンドを分離できるものであれば何でもよく、上述のような電気泳動を行う、例えばキャピラリー電気泳動装置等の電気泳動装置、または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー若しくはイオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフを用いることができる。更に、分離、回収操作中に成分中の核酸を検出可能な装置を有していることが望ましく、例えば紫外・可視吸収スペクトルを検出できる分光光度計を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0057】
(1’)〜(3’)の各手段の結果物を別の各手段へ移送するための移送手段(4’)によって、各反応部からの結果物を次の工程に送ることができる。移送手段(4’)は複数有していてもよく、例えば自動分注機などを用いることができる。あるいは、各手段の間を連結する連結管とバルブを用いることで必要な時に次の手段へ移送してもよい。
【0058】
さらに本発明におけるスクリーニング装置は、核酸リガンドの増幅手段(5’)を含んでいてもよい。前述の移送手段(4’)によって、前記各手段の結果物を、PCRを行うためのサーマルサイクラー上の増幅反応槽へ送ることによって増幅反応を行うことができる。プライマー、溶媒、酵素、反応液などのPCR反応に必要な試薬を保有するための貯槽を個別に別途含み、必要に応じて増幅手段へと移送装置によって送られるようになっていてもよい。増幅産物を精製・回収する手段及び増幅後の二本鎖核酸を一本鎖に変換する必要がある場合、上述のような増幅後の二本鎖の内、核酸リガンド配列の逆鎖を除去する手段を有していてもよい。
【0059】
さらに本発明のスクリーニング装置は手段(1’)〜(5’)に加えて、前記手段(3’)で回収した核酸リガンドの変化した電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化前の移動度に回復させる手段(6’)を含んでいてもよい。回復手段(6’)を用いる場合、前述の増幅反応手段(5’)の反応槽を用いて回復反応を行ってもよく、あるいは別途回復反応を行うための反応槽及び必要な試薬を含む貯槽をもっていてもよい。
【0060】
さらに本発明のスクリーニング装置は上述の各手段の結果物を精製する手段(7’)を含んでいてもよい。例えば、HPLCカラムや核酸を選択的に吸着することができるアフィニティーカラム等を用いて精製してもよいし、結果物の反応溶液を別の組成の反応溶液に置換したい場合は透析装置などを組み込むことができる。
【0061】
さらに、本発明におけるスクリーニング装置は、スクリーニングを行うために必要となる核酸リガンドの候補混合物、洗浄液、溶媒、反応液、化学的作用因子等の各々の物質を有する個別の貯槽、各貯槽から任意の反応部への液移送手段及び各貯槽を一定の温度に維持するための温調を有していてもよい。
【0062】
また、望ましい量の増加した核酸リガンドを生産するために、前記手段(1’)〜(7’)を各々必要な回数だけ自動で繰り返すことができ、その回数は限定されない。そのために前記各手段を実施するための反応槽及び装置を複数備えていてもよい。なお、(1’)〜(7’)の工程のすべてを繰り返す必要はなく、目的に応じて、例えば、工程(1’)から(3’)まで、工程(1’)から(4’)まで、工程(1’)から(5’)まで、工程(1’)から(6’)まで、又は工程(1’)から(7’)まで、のいずれかの工程を繰り返すことができる。
さらに、本発明のスクリーニング装置は、上述の手段に含まれる反応槽や装置、及びそれらに含まれる配管やバルブ内を洗浄する手段が含まれていてもよい。
【0063】
本発明の核酸リガンドのスクリーニング装置の一例を図4に示す。しかしながら、本発明にかかるスクリーニング装置は、これら以外の態様であっても、本発明における前記目的が達成されるものであれば特に限られるものではない。
【0064】
アプタマースクリーニング装置401の核酸リガンド混合物の貯槽402に核酸リガンド候補混合物を含む溶液を投入する。移送装置である自動分注機403によって、核酸リガンド候補混合物は、標的物質を含み核酸リガンド候補混合物と標的物質と接触させる結合反応槽404に送られる。結合反応槽は温調ユニット405を含み、均一な温度条件で結合反応を起こすことができる。自動分注機403には溶液回収部を洗浄するための洗浄液及び水の各々を有する貯槽を有する洗浄槽406を含み、分注操作毎に分注機を洗浄することができる。所望の時間だけ結合反応槽で結合反応させた後、自動分注機403によって反応物が回収され、前記化学的作用因子を含む化学的作用因子反応槽407に送られる。このとき、結合反応槽404と化学的作用因子反応槽407の反応溶液の組成が異なる場合、407に送る前に精製装置408へと送るように設定することで、反応溶液を精製、反応溶液を置換することができる。精製装置408は、精製カラム409と回収槽410とを含む。化学的作用因子反応槽407での反応後、必要であれば再度精製装置で精製し、次いで、分離・回収装置であるキャピラリー電気泳動装置411を用いて、電気泳動における移動度が変化した核酸リガンドをその他の候補混合物から分離・回収することができる。キャピラリー電気泳動装置411には、分離キャピラリー412、核酸の検出部位413、高電圧電源414、電極415、試料注入部416、廃液槽417、回収槽418及びバルブ419を含む。分注機により、試料注入部416に前記化学的作用因子反応槽407からの結果物を移送させ、電圧をかけて分離を開始する。検出部位413で泳動・分離される核酸を検出することにより目的の移動度を有する核酸リガンドを回収槽に回収する。目的以外の核酸リガンドは廃液槽417に回収するようにバルブ419の位置を設定することができる。回収した核酸リガンドを自動分注機403によってPCRサーマルサイクラー420に移送し、核酸リガンドを増幅することができる。核酸リガンド候補混合物が一本鎖核酸の場合、上述のように非目的の鎖を増幅するためのプライマーの5’末端をリン酸化したプライマーを用いることで、PCR反応を行う。PCR産物を自動分注機403で回収し、一本鎖核酸生成反応槽421に送る。一本鎖核酸生成反応槽421はλエキソヌクレアーゼ及び反応バッファーを含む。反応槽421を温調ユニットによってλエキソヌクレアーゼ活性の至的温度にすることで、増幅した二本鎖核酸の非目的鎖を分解することができる。次いで、反応槽421の反応液を回収し、精製装置408に送ることで目的の核酸リガンドが濃縮される回収物を得ることができる。一連の工程に必要な試薬類は貯槽422に保有し、必要な時に利用することができる。スクリーニング装置の各装置は制御装置423によって制御される。
上述の工程を複数回繰り返すことで濃縮率が高まり、目的となる核酸リガンドが高純度に得られる。
【実施例】
【0065】
予め設計した5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域とが分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドで図1に示すような分子内伸長が起こることを実証するために、以下の実験を行った。
【0066】
[実施例1]
非特許文献3に記載のコール酸に対して結合能を有するch1−47 aptamer配列(配列番号:1)及びch2−40 aptamer配列(配列番号2)の5’末端に配列を付加し、標準のアプタマー配列(配列番号:3及び4)とした。上記配列番号3及び4の二次構造について、核酸二次構造予測ソフト(mfold)を用い、25℃、Mg2+ 5mM、Na+ 300mMの条件のもと構造予測を行った。その結果をそれぞれ図5(a)及び図5(b)に示す。標準アプタマーの安定な二次構造では、付加した5’末端領域はアプタマー領域とは塩基対を形成せず、上記既報に開示されるものと同様に3way junction構造であった。上記既報によると、コール酸の結合領域は3way junction部位であることが予想される。
【0067】
[実施例2]
実施例1で設計した配列番号3及び4のDNAをシグマジェノシス株式会社にて合成し、コール酸アプタマー用のバッファー(NaCl 5mM、 KCl 30mM、MgCl 5mM、pH7.4(25℃))に1μMとなるように溶解した。このDNA溶液10μlと、ミリQ水6.5μl、10xNEBuffer 2(New England Biolabs inc.)を2.5μl、10xアプタマー用のバッファー2.5μlを加え、95℃で10分間加熱した。30分間室温で静置後、このDNA溶液に、伸張用の塩基として2.5mM dNTPを2.5μl、DNAポリメラーゼとしてKlenow Fragment (3’−5’ exo−)(New England Biolabs inc.)を1μl添加し、25℃で12時間静置した。伸張反応後の溶液をエタノール沈殿によって精製し、DNA電気泳動により、所望の伸長反応が起こっているか確認した。図6にその結果を示す。いずれの核酸配列においても、伸長反応前のDNAと比較して、伸長反応後のDNAには伸長されたDNAが存在することが確認できた。
【0068】
[実施例3]
実施例2の電気泳動後に得られる伸長DNAが所望のDNAであることを確かめるため、配列の確認を以下のようにして行った。電気泳動で伸長したDNAをゲルから切り出し、MinElute Gel Extraction Kit (キアゲン)を用いて精製・回収した。配列番号3に対しては配列番号5及び6の配列からなるプライマーを、配列番号4に対しては配列番号5及び7の配列からなるプライマーをそれぞれ用いて、回収後のDNAをPCRによって増幅した。pGEM−T easy (promega社)にTAクローニングし、大腸菌JM109(タカラバイオ社)に形質転換した後培養してWizard plus SV minipreps Kitによりプラスミドを調製した(プロトコール準拠)。クローンを単離し、プラスミドを抽出し、核酸配列をDNAシークエンサーCEQ8000(ベックマンコールター社)により同定した。得られた配列が所望の配列であることが確認できた。
【0069】
[実施例4]
標的物質存在下においても、上述の伸長反応が起こることを確認するために以下の実験を行った。
実施例2と同様にして、配列番号3及び4の核酸配列をコール酸アプタマー用のバッファーに1μMとなるように溶解した。このDNA溶液10μlと、ミリQ水6.5μl、10xNEBuffer 2を2.5μl、10xアプタマー用のバッファー2.5μlを加え、95℃で10分間加熱した。30分間室温で静置後、このDNA溶液に、コール酸を0.5mMとなるように添加し、室温でさらに30分間静置した。その後、2.5mM dNTPを2.5μl、Klenow Fragment (3’−5’ exo−)(New England Biolabs inc.)を1μl添加し、25℃で12時間静置した。反応後の溶液をエタノール沈殿によって精製し、DNA電気泳動により、所望の伸長反応が起こっているか確認した。図7にその結果を示す。いずれの核酸配列においても、標的物質存在下においても伸長反応前のDNAと比較して、伸長反応後のDNAには伸長されたDNAが存在することが確認できた。また、コール酸存在下において、伸長されたDNA量がコール酸非存在下と比較して増加していることが電気泳動の結果から確認され、コール酸との結合による図5に示した両末端で分子内ステムを形成するような構造が安定化したためと考えられる。つまり、標的物質と結合し且つ5’末端領域と3’末端領域の両末端が分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドを効率よく回収することができることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本スクリーニング方法によって得られる種々の標的物質に結合する核酸リガンドは、標的物質認識分子、分子スイッチ、または診断薬として有用である。また、本スクリーニング方法により得られた核酸リガンドは、標的物質との結合によって構造変化することが可能であり、特にこの構造変化を利用した化学センサやバイオセンサや分子スイッチ、信号伝達分子等に適用することができる。例えば、核酸リガンドの特定の部位に蛍光レポーター分子を導入することで、安定した信号を回収することが可能になる。また、蛍光レポーター分子の導入部位は本方法により回収した核酸リガンドと標的物質の複合体の構造解析を行い更に精緻な導入デザインも可能である。更に、本発明のスクリーニング方法は、標的物質が異なっても同様に利用可能であるので体系的な核酸リガンドのスクリーニング方法であり、センサのアレイ化やバルク系での複数種類の検出などマルチ化する上で非常に効果的である。また、本発明のスクリーニング方法は、標的物質との結合能と構造変化能との両方を指標としてリガンドを回収するため、従来、構造変化能付与のための再設計による標的物質結合能の失活懸念が解消される。
【符号の説明】
【0071】
101 3’末端固定配列領域
102 5’末端固定配列領域
103 ランダム化配列領域
104 第一の固定核酸配列
105 第二の固定核酸配列
106 延長配列
107 延長配列(延長配列106と相補な配列)
201 3’末端固定配列領域
202 5’末端固定配列領域
203 ランダム化配列領域
204 第一の固定核酸配列
205 第二の固定核酸配列
206 制限酵素認識領域
301 3’末端固定配列領域
302 5’末端固定配列領域
303 ランダム化配列領域
304 第一の固定核酸配列
305 第二の固定核酸配列
306 三重鎖構造形成領域
307 オリゴヌクレオチドプローブ
401 アプタマースクリーニング装置
402 核酸リガンド混合物の貯槽
403 自動分注機
404 結合反応槽
405 温調ユニット
406 洗浄槽
407 化学的作用因子反応槽
408 精製装置
409 精製カラム
410 回収槽
411 キャピラリー電気泳動装置
412 分離キャピラリー
413 核酸の検出部位
414 高電圧電源
415 電極
416 試料注入部
417 廃液槽
418 回収槽
419 バルブ
420 PCRサーマルサイクラー
421 一本鎖核酸生成反応槽
422 貯槽
423 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸リガンド候補混合物から、標的物質と結合し且つ5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部が分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドをスクリーニングするスクリーニング方法であって、
(1) 下記(a)〜(c)の領域を有する複数の核酸リガンド候補を含む核酸リガンド候補混合物を標的物質と接触させる工程と;
(a)任意の第一の固定核酸配列を含む3’末端固定配列領域
(b)前記第一の固定核酸配列と相補的な第二の固定核酸配列を含む5’末端固定配列領域
(c)(a)及び(b)に挟まれたランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域
(2)前記工程(1)の後、前記標的物質存在下で、前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列を含む前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドの、前記分子内二重鎖構造に作用して前記核酸リガンドの電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させる化学的作用因子を添加する工程と;
(3)前記工程(2)において前記電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度が変化した核酸リガンドをその他の候補混合物から分離・回収する工程と
を含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項2】
(4)工程(2)または工程(3)の後に、核酸リガンドを含む溶液から標的物質を除去する工程;
を含むことを特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
(5)工程(2)及び/または工程(3)及び/または工程(4)の後で得られる核酸リガンドを増幅する工程;
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
(6)工程(5)の前または後に、前記工程(2)によって前記核酸リガンドの前記変化した電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化前の移動度に回復させる工程
を含むことを特徴とする請求項3に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
工程(1)の前及び/または工程(4)の後に、
(7)標的物質の非存在下で前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列を含む前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドの前記分子内二重鎖構造に作用して、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させる化学的作用因子を添加し、前記電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度が変化しない核酸リガンドを分離・回収する工程;
を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記工程(1)乃至(7)を各々複数回繰り返すことを特徴とする請求項5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のスクリーニング方法により得られる、標的物質と結合し且つ5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部が分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドの配列を同定する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記工程(2)において、
前記第一の固定核酸配列は前記3’末端固定配列領域の3’末端に有し、
前記標的物質の存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドを、前記第一の核酸配列の3’末端を起点に、前記5’末端固定配列領域を鋳型としてDNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼで分子内伸長させることによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記工程(2)において、分子内二重鎖構造内に前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列からなる固定配列として任意のエンドヌクレアーゼ又はエンドリボヌクレアーゼに特異的に認識される配列を有し、
前記標的物質の存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドを前記エンドヌクレアーゼ又はエンドリボヌクレアーゼで切断することによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記工程(2)において、分子内二重鎖構造内に前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列からなる固定配列として任意の三重鎖形成配列を有し、
前記標的物質の存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドに、前記二重鎖構造を形成した領域の少なくとも一部と結合し三重鎖を形成するオリゴヌクレオチドプローブを添加することによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
前記工程(7)において、前記第一の固定核酸配列は前記3’末端固定配列領域の3’末端に有し、
前記標的物質の非存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドを、前記第一の核酸配列の3’末端を起点に、前記5’末端固定配列領域を鋳型としてDNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼで分子内伸長させることによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする、請求項5または6に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
前記工程(7)において、前記分子内二重鎖構造内に第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列からなる固定配列として任意のエンドヌクレアーゼ又はエンドリボヌクレアーゼに特異的に認識される配列を有し、
前記標的物質の非存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドを前記エンドヌクレアーゼ又はエンドリボヌクレアーゼで切断することによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする、請求項5または6に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
前記工程(7)において、
前記分子内二重鎖構造内に前記第一の固定核酸配列及び第二の固定核酸配列からなる固定配列として任意の三重鎖形成配列を有し、
前記標的物質の非存在下で前記分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドに、前記二重鎖構造を形成した領域の少なくとも一部と結合し三重鎖を形成するオリゴヌクレオチドプローブを添加することによって、前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させることを特徴とする請求項5または6に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記標的物質の分子量は10〜10000であることを特徴とする、請求項1乃至13のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
(1’)下記(a)〜(c)の領域を有する核酸リガンド候補混合物を標的物質と接触させる結合反応手段と;
(a)任意の第一の固定核酸配列を含む3’末端固定配列領域
(b)前記第一の固定核酸配列と相補的な第二の固定核酸配列を含む5’末端固定配列領域
(c)(a)及び(b)に挟まれたランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域
(2’)前記標的物質存在下で5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部で分子内二重鎖構造を形成した核酸リガンドの、前記分子内二重鎖構造に作用して前記核酸リガンドの電気泳動またはクロマトグラフィーにおける移動度を変化させる化学的作用因子を添加する化学的作用因子反応手段と、
(3’)前記電気泳動及び/またはクロマトグラフィーにおける移動度が変化した核酸リガンドをその他の候補混合物から分離・回収するための手段と、
(4’)(1’)〜(3’)の各手段の結果物を別の各手段へ移送するための移送手段と
を含むことを特徴とする、標的物質と結合し且つ5’末端固定配列領域と3’末端固定配列領域の少なくとも一部が分子内二重鎖構造を形成する核酸リガンドをスクリーニングする装置。
【請求項16】
下記(a)〜(c)の領域を有する複数の核酸リガンド候補を含む核酸リガンド候補混合物。
(a)任意の第一の固定核酸配列を含む3’末端固定配列領域
(b)前記第一の固定核酸配列と相補的な第二の固定核酸配列を含む5’末端固定配列領域
(c)(a)及び(b)に挟まれたランダムな核酸配列からなるランダム化配列領域

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−90590(P2013−90590A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234098(P2011−234098)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】