説明

核酸分子スクリーニング方法及びタンパク質検出・定量方法

【課題】標的物質を安定的に用いて核酸試料液中の核酸分子から所望の核酸分子を効率よく得る。
【解決手段】選択されたペプチド分子を包含するタンパク質を、例えば酵素処理することにより得られた断片ペプチドを、支持体に固定化し、固定化された断片ペプチドと核酸試料液中の核酸分子と接触させ、支持体表面における近接場光を利用した分析を行って前記固定化断片ペプチドと前記核酸分子との相互作用量を得ながら、得られた前記相互作用量に基づいて、前記核酸試料液中の核酸分子から前記目的核酸分子を選別する工程を含む核酸分子スクリーニング方法により、目的核酸分子を選別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸分子スクリーニング方法及び核酸分子スクリーニング装置に関し、特に、核酸試料液中の核酸分子から、選択されたペプチド分子に特異的に相互作用する核酸又は核酸誘導体である目的核酸分子をスクリーニングする核酸分子スクリーニング方法及び、これにより得られた核酸分子を用いたタンパク質検出・定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定のタンパク質、ペプチドに結合する核酸及び/又はその誘導体を、その多種の候補の中から選択することは1990年以来行われており、その結合性の核酸及び/又はその誘導体はアプタマーと一般的に呼ばれている。アプタマーは、抗体と同様に目的とする特定物質に結合できるだけでなく、高い親和性を有しており、かつ抗体に比べて作製が容易であることから、特定の生理活性部位に特定的なアプタマーを医療分野等に利用することが期待されている。このようなアプタマーを得るための方法としては、アフィニティカラムによる分離や、PCRによる増幅などの手法が利用されている(例えば特許文献1及び特許文献2)。
アプタマーと特定タンパク質、ペプチドの結合性を評価する方法としては、標識が不要であることと感度の高さから近接場光、例えば表面プラズモン共鳴を利用する方法が挙げられる(例えば、非特許文献1)。また、表面以外の影響を受けずにバックグラウンドノイズを抑制できる点からも近接場光、例えば近接場光蛍光を利用する方法が挙げられる。(例えば非特許文献2)特にスクリーニングの操作中に結合性の評価を行い、その評価に基づいて任意の結合能を持つアプタマーだけを回収することができるため、スクリーニング効率が高いという利点を有している。(例えば非特許文献3)
【特許文献1】特開2001−61475号公報
【特許文献2】特開2005−245254号公報
【非特許文献1】Journal of Biological Chemistry (2001) Vol.276, pp.21476-21481
【非特許文献2】Analytical Chemistry, (1998) Vol.70, pp.3419-3425
【非特許文献3】Analytical Biochemistry, (2005) Vol.342, pp.312-317
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、タンパク質そのものやその特異的な部分配列のみを取り出し、その結合性のアプタマーをスクリーニングする方法は、対象となるタンパク質やペプチドの不安定性などの性質によって、所望のアプタマーが得られない場合がある。また、近接場光を利用した分析(以後、近接場光分析と呼ぶ)を行う場合には、目的とするタンパク質を測定面の最表面に固定化する必要があるが、目的タンパク質によっては、固定化操作で壊れる、不溶性のために固定化ができない、といった問題が生じる。
【0004】
従って、本発明は、標的物質を安定的に用いて核酸試料液中の核酸分子から所望の核酸分子を効率よく得ることができる核酸分子スクリーニング方法及びタンパク質検出・定量方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の核酸分子スクリーニング方法は、核酸試料液中の核酸分子から、選択されたペプチド分子に特異的に相互作用する核酸又は核酸誘導体である目的核酸分子をスクリーニングする核酸分子スクリーニング方法であって、前記ペプチド分子を包含するタンパク質を分解処理して、断片ペプチドを得る分解処理工程と、前記断片ペプチドを支持体に固定化して、固定化断片ペプチドを得る固定化工程と、前記核酸試料液中の核酸分子と前記固定化断片ペプチドとを接触させる接触工程と、前記支持体表面における近接場光を利用した分析を行って前記固定化断片ペプチドと前記核酸分子との相互作用量を得ながら、得られた相互作用量に基づいて、前記核酸試料液中の核酸分子から前記目的核酸分子を選別する選別工程と、を含むものである。
【0006】
ここで、前記分解処理工程は、酵素を用いてタンパク質を分解することであることが好ましい。
また、上記核酸分子スクリーニング方法では、前記選別工程によって選別された目的核酸分子を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって増幅する増幅工程、を更に含むことが好ましい。
増幅工程を設けた場合には、前記増幅工程によって得られた増幅目的核酸分子を回収して、少なくとも前記接触工程及び選別工程、好ましくは前記接触工程、選別工程及び増幅工程を、少なくとも1回繰り返すことが好ましい。
【0007】
上記核酸分子スクリーニング方法では、前記固定化断片ペプチドが、同一タンパク質から得られる2種以上の断片ペプチドで構成されていてもよく、また、前記目的核酸分子は、DNA、RNA及びこれらの誘導体からなる群より選択されたものであってもよい。
また上記核酸分子スクリーニング方法では、前記近接場光分析が、表面プラズモン共鳴(SPR)分析であることが好ましい。
また、上記接触工程を行う前に、核酸試料液の接触する部材を、DEPC(ジエチルピロカーボネート)又は過酸化水素を含む溶液に浸すことがより好ましい。
【0008】
本発明のタンパク質検出・定量方法は、上記核酸分子スクリーニング方法で得られた目的核酸分子を用いて、該目的核酸分子と相互作用するペプチドの検出又は定量を行うことによって、該ペプチドを含有するタンパク質の検出又は定量を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、目的核酸分子を得るために断片ペプチドを用いているので、標的物質を安定的に用いて核酸試料液中の核酸分子から所望の核酸分子を効率よく得ることができる核酸分子スクリーニング方法及びタンパク質検出・定量方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の核酸分子スクリーニング方法は、核酸試料液中の核酸分子から、選択されたペプチド分子に特異的に相互作用する核酸又は核酸誘導体である目的核酸分子をスクリーニングする核酸分子スクリーニング方法であって、前記ペプチド分子を包含するタンパク質を分解処理して、断片ペプチドを得る分解処理工程と、前記断片ペプチドを支持体に固定化して、固定化断片ペプチドを得る固定化工程と、前記核酸試料液中の核酸分子と前記固定化断片ペプチドとを接触させる接触工程と、前記支持体表面における近接場光を利用した分析を行って前記固定化断片ペプチドと前記核酸分子との相互作用量を得ながら、得られた相互作用量に基づいて、前記核酸試料液中の核酸分子から前記目的核酸分子を選別する選別工程と、を含むものである。
【0011】
本方法では、核酸試料液中の核酸分子から、選択された特定のペプチド分子に特異的に相互作用する目的核酸分子を、タンパク質を分解処理して得られた断片ペプチドを用いて選別する。
このような断片ペプチドは、断片ペプチド分子を包含したタンパク質そのものよりも、構造上の安定性が高く、支持体上への固定化操作で破壊されることが少ない。また、タンパク質そのものの場合には立体構造や親疎水性の関係から不溶性の性質を示すものであっても、断片ペプチドであれば溶液に溶けやすく、核酸試料液を用いたスクリーニングが容易になる。更には、安定状態では内側となる部位のペプチド分子であっても、断片ペプチドとすることにより、タンパク質の変性処理などを行うことなくこの部位に相互作用可能なアプタマーをスクリーニングしやすくすることができる。この結果、安定した標的物質、即ち断片ペプチドによって所望の核酸分子を効率よくまた再現性よく得ることができる。
なお、本発明における目的核酸分子と断片ペプチドとの相互作用とは、物理的、化学的、もしくは生化学的な結合・会合反応をいう。
【0012】
本発明における核酸分子としては、核酸又は誘導体を挙げることができ、DNA、RNAの他に、これらの誘導体、即ち、天然に存在するDNA、RNAの一部を改変したものを含む。核酸誘導体としては、例えば、DNAと類似した構造を有し、ペプチド結合により骨格を形成する化合物であるPNA(ペプチド核酸)を挙げることができる。このような核酸分子のうち、本発明における目的核酸分子は、選択された特定のペプチド分子と特異的に相互作用する性質を有し、一般にアプタマーと呼ばれているものである。
【0013】
核酸試料液を構成する溶液としては、核酸分子を安定して保持することができるものであればよく、一般にバッファー液として用いられているもの、例えば公知の緩衝溶液(化学便覧応用編改訂2版、1312頁〜1320頁)を基本に、食塩、金属イオン(マグネシウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなど)、安定化剤(DTTなど)などを添加したものを用いることができる。特に、PBSバッファー(リン酸バッファー生理食塩水)、Trisバッファー、HEPESバッファーなどが好ましく用いられる。
なお、上記アプタマーが相互作用可能なペプチド分子を包含するタンパク質としては、特に限定されない。
【0014】
本スクリーニング方法における分解処理工程では、支持体上に固定化するためのペプチド分子としての断片ペプチドを得るために、タンパク質分子を分解処理する。
この分解処理としては、タンパク質を所定の長さのペプチドに分解可能な処理であればよいが、タンパク質を比較的穏やかな条件で分解可能な化学的処理、特に酵素を用いた分解処理であることが好ましい。また、酵素による分解処理では1つのタンパク質から複数の断片ペプチドを容易に得ることができるため、目的とするペプチド分子を合成してスクリーニングするよりも多種のアプタマーを簡便に得ることができる。更に、酵素による分解処理では、タンパク質中における切断個所を制御することが可能であるため、得られる断片ペプチドの再現性の点からもより好ましい。
【0015】
分解処理に用いられる酵素としては、各種プロテアーゼを好ましく用いることができる。このようなプロテアーゼとしては、ペプチドの加水分解に用いられるものであればよく、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、サブチリシン、ジスパーゼなどを挙げることができる。これらの酵素は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。用いられるタンパク質(ペプチド分子)の種類及び所望するアプタマーの種類、スクリーニングの目的によって、適宜選択することができる。
【0016】
分解処理工程によって得られた断片ペプチドは、固定化工程において、支持体に固定化される。固定化断片ペプチドは、支持体上に単一又は複数種固定化することができるが、同一のタンパク質に由来する断片ペプチドである場合には、スクリーニングの効率を上げるために複数種存在していることが好ましい。
【0017】
断片ペプチドを固定化するための支持体としては、近接場光分析の適性に対応して透明基板で構成されていてもよく、不透明基板で構成されていてもよい。また、近接場光分析の適性に対応して基板の断片ペプチド固定側に、金属部と、この金属部上または基板上に直接配置されると共に断片ペプチドを固定化できる官能基を有する固定化膜を備えたものを挙げることができる。
透明基板としては、一般的にはBK7等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
【0018】
金属部を構成する金属としては、例えば、プラズモン共鳴が生じ得るようなものを挙げることができる。好ましくは、金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、金が特に好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記基板への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。
金属部の形状は任意であるが、例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、膜状で膜厚が0.1nm以上500nm以下であるのが好ましく、特に1nm以上200nm以下であるのが好ましい。500nmを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、0.1nm以上10nm以下であるのが好ましい。
【0019】
金属部は、好ましくは基板上に配置されている。ここで、「基板上に配置される」とは、金属部が基板上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属部が基板に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む意味である。
金属部の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
【0020】
固定化膜としては、例えばアガロース、デキストラン、カラゲナン、アルギン酸、デンプン、セルロースなどのヒドロゲル、又はこれらの誘導体、例えばカルボキシメチル誘導体、又は水膨潤性有機ポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコールなどを使用することができる。特に、ポリエチレングリコール誘導体、デキストラン誘導体は、生理活性維持の観点から好ましく用いられる。
固定化膜の膜厚は任意であるが、例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、0.1nm以上500nm以下であるのが好ましく、特に1nm以上300nm以下であるのが好ましい。
【0021】
固定化方法としては、支持体表面に断片ペプチドを固定化できればいずれの方法であってもよいが、支持体表面のカルボキシル基と断片ペプチドのアミノ基とを共有結合により固定化するアミノカップリング法が、簡便性及び安定性の観点から好ましい。この目的で用いられるアミノカップリング法は、常法に従って行えばよく、例えば、N−エチル−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)とN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)とを用いる方法を挙げることができる。
【0022】
接触工程では、固定化工程によって得られた固定化断片ペプチドに、試料液中の核酸分子を接触させる。この接触により、核酸試料溶液中に存在する核酸分子の多くが、固定化断片ペプチドと特異的に又は非特異的に相互作用する。
【0023】
選別工程では、前記支持体表面における近接場光を利用した分析を行って前記固定化断片ペプチドと前記核酸分子との相互作用量を得ながら、得られた相互作用量に基づいて、前記核酸試料液中の核酸分子から前記目的核酸分子を選別する。
接触工程での接触直後では、特異的に固定化断片ペプチドと相互作用するアプタマー以外にも、低い親和性で非特異的に固定化断片ペプチドに相互作用する核酸分子や本来は相互作用しないが物理的、静電的に弱い結合・会合状態にある核酸分子(以下、「非特異的核酸分子」という)が固定化断片ペプチドに相互作用している。その後、このような非特異的核酸分子は固定化断片ペプチドから解離することにより、固定化断片ペプチドと相互作用する核酸分子群より排除され、固定化断片ペプチドに相互作用している核酸分子としてアプタマーを選別することができる。
【0024】
本スクリーニング方法に適用可能な近接場光分析方法としては、表面プラズモン共鳴(SPR)分析、ローカル・プラズモン・共鳴分析、グレーティング・カップルド・レゾナンス分析、二面偏波式干渉分析、近接場蛍光測定、表面増強ラマン散乱測定などを挙げることができる。このうちでも、簡便かつ高感度に経時的な相互作用量を監視することが可能なSPR分析であることが好ましい。
【0025】
SPR分析は、ガラス等の光学的に透明な物質と金属薄膜層との境界から反射された単色光の強度が、金属の反射面の逆側にある試料の屈折率に依存することによるものであり、従って、反射された単色光の強度を測定することにより、試料中の分子を分析することができる。上記の系を用いる表面プラズモン測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料液などの被測定物質に接触させられる金属膜と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態、つまり全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである(例えば特開平6−167443号公報参照)。
この装置を用いることによって、検出された全反射減衰の状態から、支持体上の固定化断片ペプチドと核酸分子との相互作用量を得ることができる。この相互作用量は、固定化断片ペプチドに相互作用する核酸分子の量に応じて変化する。即ち、固定化断片ペプチドと核酸分子とを接触させると、相互作用量は飽和量まで上昇し、それに続く洗浄工程によって非特異的に相互作用する核酸分子が固定化断片ペプチドから解離することによって、相互作用量は低下する。
【0026】
上述したように、相互作用量は、非特異的核酸分子が固定化断片ペプチドから解離することによって低下するため、核酸分子の選別は、相互作用量の変化量として容易に評価することができる。
選別工程を終了すべき程度まで選別が行われたか否かの評価は、しきい値となる特定の相互作用量を予め設定して行ってもよく、また接触工程直後の最大相互作用量からの変化率を用いた場合のしきい値となる特定の変化率を用いて行ってもよい。また、後述するように繰り返し選別工程を行う場合には、前回の選別工程で得られた変化率との比較として評価してもよい。
【0027】
これらの評価に用いられる値の設定は、選別工程終了時で得られる目的核酸分子の所望量に応じて適宜設定することができる。例えば、後述するように選別工程を繰り返し行うことによって効率よく目的核酸分子を選別することができるため、1回の選別工程で非特異的核酸分子の含有率を極端に下げる必要はない。このため、繰り返し選別工程を行う場合には、含有する非特異的核酸分子の量が多くなる値を設定しても、効率よく目的核酸分子を選別することができる。
【0028】
選別工程において効率よく選別を行うために、バッファー液等を流して、弱く相互作用する核酸分子を積極的に解離させてもよい。このようなバッファー液の供給は、所望されるスクリーニングの精度に応じて、選別の時間や流速等を調製することができ、これにより、固定化断片ペプチドと相互作用している核酸分子の量を調整することができる。
【0029】
選別工程によって固定化断片ペプチドと相互作用することによって選別された核酸分子は、その後、固定化断片ペプチドから強制的に分離させることによって回収することができる。相互作用している核酸分子を分離するには、両者の相互作用を解消するための分離手段を用いることができる。このような分離手段としては、アプタマー及び断片ペプチドに対して影響が少ない分離溶液を選択することが好ましく、このような分離溶液としては、7M尿素溶液などのカオトロピック試薬や1M塩化ナトリウム溶液などの高塩濃度溶液を挙げることができる。
【0030】
本発明のスクリーニング方法では、選別工程において選別されたアプタマーを、PCR法によって増幅する増幅工程を行うことが好ましい。これにより、断片ペプチドに相互作用するアプタマーの量を増やすことができる。増幅工程で用いられるPCRは、アプタマーの種類に応じたポリメラーゼ及びヌクレオチドと、アプタマーに応じて作成されたプライマーとを用いたポリメラーゼ連鎖反応によってアプタマーを合成し増幅可能ないずれの方法によって行ってもよい。
【0031】
増幅工程を行う際には、核酸分子の種類によっては、PCR処理を効率よく実施するために好適な種類の核酸に変換するための変換工程を設けてもよい。このような変換工程としては、例えば、回収されたアプタマーがRNAである場合には逆転写酵素を用いたDNAへの逆転写工程を挙げることができる。
【0032】
また本発明のスクリーニング方法では、選別工程において選別されたアプタマーを回収して、再度、接触工程及び選別工程(以下、この2工程をまとめて「スクリーニング工程」という)、場合によっては、これら2工程に加えて更に増幅工程を含めた3工程を、少なくとも1回、場合によって複数回、繰り返すことが好ましい。
図1には、増幅工程を含むスクリーニング工程を繰り返し行う場合の概念図が示されている。図1に示されるように、最初の接触工程では、核酸試料液中には多種の核酸分子が混在しているが、選別工程を経ることにより、断片ペプチドに特異的に相互作用するアプタマーが選別される。このとき、最初の選別工程で回収された核酸分子中にアプタマーと共に非特異的核酸分子が存在していたとしても、2回目のスクリーニング工程で再度選別され、排除される結果、2回目のスクリーニング工程後の核酸分子中のアプタマーの比率は、1回目のスクリーニング工程後の核酸分子中での比率よりも高くなる。
従って、これを繰り返すことにより、目的とするアプタマーをより一層効率よく且つ大量に得ることができる。
また、スクリーニング工程を繰り返し行うことにより一層効率よくアプタマーの選別を行うことができるので、選別工程における非特異的核酸分子の除去を長時間かけて行う必要がなく、さらに短時間で効率よくアプタマーを得ることができる。
【0033】
スクリーニング工程の繰り返し回数は、断片ペプチドやアプタマーの種類等によって適宜変更することができるが、得られたアプタマーの量や、スクリーニング工程後の核酸試料液中に存在する非特異的核酸分子の量に基づいて判断することができる。
【0034】
なお、本スクリーニング方法で用いられる装置、流路、支持体表面など、核酸分子と接触する部材及び部位に対しては、核酸分子の分解を排除するための処理を接触工程の前に予め行っておくことが好ましい。このような処理としては、ヌクレアーゼ除去処理を挙げることができる。ヌクレアーゼ除去処理では、ジエチルプロカーボネート(DEPC)、過酸化水素などの溶液を、核酸分子と接触する部材及び部位に接触させればよい。更に、核酸試料液の接触しうる部材、好ましくは少なくとも流路部材を、DEPC(ジエチルピロカーボネート)又は過酸化水素を含む溶液に浸すことがより好ましい。また、この場合ヌクレアーゼ除去処理後に該部材を高温に加熱することで、該ヌクレアーゼ除去処理に用いた処理液を揮発させて除いてもよい。
【0035】
本スクリーニング方法には、市販のSPR装置及びPCR装置をそのまま適用することができる。また、SPRとPCRとを共に備えたスクリーニング装置を用いることによって、より効率よく目的とするアプタマーを得ることができる。図2には、本発明のスクリーニング方法を適用可能なスクリーニング装置100が示されている。スクリーニング装置100は、SPR部102及びPCR部104とで構成された動作部106と、これらの駆動を制御する制御部60とを備えている。また、図示しない搬送部及び回収部を備えることによってスクリーニング方法を連続して実行可能とすることができる。
このようなSPR部104の一例を、以下に図面を参照しながら説明する。
【0036】
図3には、上述したスクリーニング装置中のSPR部として好適なバイオセンサー10が示されている。
バイオセンサー10は、金属膜の表面に発生する表面プラズモンを利用して、断片ペプチドPと核酸分子との相互作用を測定する、いわゆる表面プラズモンセンサーである。
図3に示すように、バイオセンサー10は、トレイ保持部12、搬送部14、容器載置台16、液体吸排部20、光学測定部54及び制御部60を備えている。
トレイ保持部12は、載置台12A及びベルト12Bを含んで構成されている。載置台12Aは、矢印Y方向に架け渡されたベルト12Bに取り付けられており、ベルト12Bの回転により矢印Y方向に移動可能とされている。載置台12A上には、2枚のトレイTが位置決めして載置される。トレイTには、センサースティック40が8本収納されている。センサースティック40は、断片ペプチドPが固定されるチップであり、詳細については後述する。載置台12Aの下には、センサースティック40を後述するスティック保持部材14Cの位置まで押し上げるための図示しない押上機構が配置されている。
【0037】
センサースティック40は、図4及び図5に示すように、誘電体ブロック42、流路部材44、保持部材46、接着部材48及び蒸発防止部材49で構成されている。
【0038】
誘電体ブロック42は、光ビームに対して透明な透明樹脂等で構成されており、断面が台形の棒状とされたプリズム部42Aと、プリズム部42Aの両端部にプリズム部42Aに対して一体的に形成された被保持部42Bとを備えている。プリズム部42Aの互いに平行な2面の内の広い側の上面には、図6にも示すように金属膜50が形成されている。誘電体ブロック42は、いわゆるプリズムとして機能し、バイオセンサー10での測定の際には、プリズム部42Aの対向する互いに平行でない2つの側面の内の一方から光ビームが入射され、他方から金属膜50との界面で全反射された光ビームが出射される。
【0039】
金属膜50の表面には、図6に示すように、固定化膜50Aが形成されている。固定化膜50Aは、断片ペプチドPを金属膜50上に固定化するためのものである。固定化膜50Aは、固定する断片ペプチドPの種類に応じて選択される。
【0040】
固定化膜50A上には、断片ペプチドPが固定された測定領域E1と、断片ペプチドPが固定されず、測定領域E1の信号測定に際しての参照信号を得るための参照領域E2とが形成される。即ち、参照領域E2は、断片ペプチドPが固定された測定領域E1から得られるデータを補正するために設けられた領域である。この参照領域E2は、上述した固定化膜50Aを製膜する際に形成される。形成方法としては、例えば、固定化膜50Aに対して表面処理を施して、断片ペプチドPと結合する結合基を失活させる。これにより、固定化膜50Aの一部が測定領域E1となり、残りの部分が参照領域E2となる。
図7にも示すように、参照領域E2と、参照領域E2よりも上流側に位置する測定領域E1とには、各々光ビームL2、L1が入射される。
【0041】
プリズム部42Aの両側面には、上側の端辺に沿って保持部材46と係合される係合凸部42Cが、下側の端辺に沿ってプリズム部42Aの上面と垂直な仮想面の延長上に構成される垂直凸部42Dが、各々7箇所に形成されている。また、誘電体ブロック42の下面の長手方向に沿った中央部には、係合溝42Eが形成されている。
【0042】
流路部材44は、誘電体ブロック42よりもわずかに狭幅の直方体状とされ、図5に示すように、誘電体ブロック42の金属膜50上に6個並べて配置されている。各々の流路部材44の下面には流路溝44Aが形成されており、上面に形成された供給口45A及び排出口45Bと連通されて、金属膜50との間に、液体流路45が構成される。したがって、1本のセンサースティック40には、独立した6個の液体流路45が構成される。流路部材44の側壁には、保持部材46の内側の図示しない凹部に圧入されて保持部材46との密着性を確保するための凸部44Bが形成されている。
【0043】
保持部材46は、長尺とされ、上面板46A及び2枚の側面板46Bで構成されている。側面板46Bには、誘電体ブロック42の係合凸部42Cと係合される係合孔46Cが形成されている。保持部材46は、6個の流路部材44を間に挟んで係合孔46Cと係合凸部42Cとが係合されて、誘電体ブロック42に取り付けられる。これにより、流路部材44は、誘電体ブロック42に取り付けられる。上面板46Aには、流路部材44の供給口45A及び排出口45Bと対向する位置に、流路部材44に向けて狭くなるテーパー状のピペット挿入孔46Dが形成されている。また、隣り合うピペット挿入孔46Dとピペット挿入孔46Dとの間には、位置決め用のボス46Eが形成されている。
【0044】
保持部材46の上面には、蒸発防止部材49が接着部材48を介して接着されている。接着部材48のピペット挿入孔46Dと対向する位置にはピペット挿入用の孔48Dが形成され、ボス46Eと対向する位置には位置決め用の孔48Eが形成されている。また、蒸発防止部材49のピペット挿入孔46Dと対向する位置には十字状の切り込みであるスリット49Dが形成され、ボス46Eと対向する位置には位置決め用の孔49Eが形成されている。ボス46Eを孔48E及び49Eに挿通させて、蒸発防止部材49を保持部材52の上面に接着することにより、蒸発防止部材49のスリット49Dと流路部材44の供給口45A及び排出口45Bとが対向するように構成される。ピペットチップCPの非挿入時には、スリット49D部分が供給口45Bを覆い、液体流路45に供給されている液体の蒸発が防止される。
【0045】
図3に示すように、バイオセンサー10の搬送部14は、上部ガイドレール14A、下部ガイドレール14B及びスティック保持部材14C、を含んで構成されている。上部ガイドレール14A及び下部ガイドレール14Bは、トレイ保持部12及び光学測定部54の上部で、矢印Y方向と直交する矢印X方向に水平に配置されている。上部ガイドレール14Aには、スティック保持部材14Cが取り付けられている。スティック保持部材14Cは、センサースティック40の両端部の被保持部42Bを保持可能とされていると共に、上部ガイドレール14Aに沿って移動可能とされている。スティック保持部材14Cに保持されたセンサースティック40の係合溝42Eと下部ガイドレール14Bとが係合され、スティック保持部材14Cが矢印X方向に移動することにより、センサースティック40が光学測定部54上の測定部56に搬送される。
【0046】
容器載置台16には、化合物溶液プレート17、バッファー液ストック容器18、廃棄液容器19及び図示しない分離液容器が載置されている。化合物溶液プレート17は、96に区画されており、核酸試料液をストック可能とされている。バッファー液ストック容器18は、容器18A〜18Eで構成されており、容器18A〜18Eには、後述するピペットチップCPを挿入可能な開口Kが形成されている。
廃棄液容器19は、複数の容器19A〜19Eで構成されており、容器18A〜18Eと同様にピペットチップCPを挿入可能な開口Kが形成されている。
【0047】
液体吸排部20は、上部ガイドレール14Aと、ガイドレール16Bよりも上方で、矢印Y方向に架け渡された横断レール22と、ヘッド24とを含んで構成されている。横断レール22は、図示しない駆動機構により、矢印X方向へ移動可能とされている。また、ヘッド24は、横断レール22に取り付けられ、矢印Y方向に移動可能とされている。また、ヘッド24は、図示しない駆動機構により、鉛直方向(矢印Z方向)にも移動可能とされている。ヘッド24は、図8に示すように、2本のピペット部24A、24Bを備えている。ピペット部24A、24Bには、先端部にピペットチップCPが取り付けられ、個々にZ方向の長さを調整可能とされている(図8(A)〜(B)参照)。ピペットチップCPは、図示しないピペットチップストッカーに多数ストックされており、必要に応じて交換可能とされている。
【0048】
なお、本バイオセンサー10においてはセンサースティック40への液体供給はピペットチップCPにより行われるが、ピペットチップの代わりに、一端が上記各溶液プレートに接続され、他端がセンサースティック40に接続可能とされたインジェクションチューブを設け、送液ポンプにより液体の供給を行ってもよい。
【0049】
光学測定部54は、図9に示すように、光源54A、第1光学系54B、第2光学系54C、受光部54D、信号処理部54Eを含んで構成されている。光源54Aからは、発散状態の光ビームLが出射される。光ビームLは、第1光学系54Bを介して、2本の光ビームL1、L2となり、測定部56に配置された誘電体ブロック42の測定領域E1と参照領域E2に入射される。測定領域E1及び参照領域E2において、光ビームL1、L2は、金属膜50と誘電体ブロック42との界面に対して種々の入射角成分を含み、かつ全反射角以上の角度で入射される。光ビームL1、L2は、誘電体ブロック42と金属膜50との界面で全反射される。全反射された光ビームL1、L2も、種々の反射角成分をもって反射される。この全反射された光ビームL1、L2は、第2光学系54Cを経て受光部54Dで受光されて、各々光電変換され、光検出信号が信号処理部54Eへ出力される。信号処理部54Eでは、入力された光検出信号に基づいて所定の処理が行なわれ、測定領域E1の測定データG1と参照領域E2の参照データG2とが求められる。この測定データG1、参照データG2が制御部60へ出力される。
【0050】
制御部60は、PCR部104と共に、SPR部102であるバイオセンサー10の全体を制御する機能を有し、図9に示すように、光源54A、信号処理部54E及びバイオセンサー10の図示しない駆動系と接続されている。制御部60には、図2に示されるように、各種の情報を表示する表示部62と、各種の指示、情報を入力するための入力部64と接続されている。
【0051】
制御部60には図示しないメモリが備えられており、バイオセンサー10を制御するための各種プログラムや、各種データ及び、スクリーニングプログラムが記憶されている。
制御部60に記憶される参照データG2は、断片ペプチドPが固定化されていない固定化膜50A上にランニングバッファーを供給した際に求められる基準点と、核酸分子Aを供給した際に求められる信号との変化量RU(Resonance Unit、およそ1RU=1pg/mm2に相当)で示されている。
【0052】
このように、本バイオセンサー10では、センサースティック40が測定部56へ搬送され、入力部64から測定開始の指示が入力されると、制御部60では、測定処理が実行される。この相互作用量測定処理では、核酸試料液を液体流路45へ供給し、光源54A、信号処理部54E及び図示しない駆動系を駆動して、測定領域E1から測定データG1を取得し、参照領域E2から参照データG2を取得する。次いで、測定データG1を参照データG2で補正して、相互作用量データG3を算出する。核酸試料液の供給が終了するとバッファー液の供給を開始する。その間、相互作用量データG3の算出を継続し、得られた相互作用量データG3が経時的に記憶される。ここでは、バッファー液の供給によって非特異的核酸分子の排除が行われて選別が進むため、相互作用量データG3は時間と共に小さい値になる。
【0053】
制御部60では、得られた相互作用量データG3が、所定の測定終了値になった場合又は外部から停止の信号が入力された場合に測定処理を終了し、バッファー液に代えて分離溶液を液体流路45へ供給すると共に、測定領域E1から分離した核酸分子を回収する。所定時間の回収が完了すると、バイオセンサー10での処理を完了し、PCR部104でのPCR処理への切り替えを指示する。
なお、測定処理の終了を指示するために用いられる所定の測定終了値は、経時的に算出される相互作用量データG3に対するしきい値としてもよく、相互作用量データG3の変化率に対するしきい値としてもよい。
【0054】
SPR部102としてのバイオセンサー10と、PCR部104とを備えたスクリーニング装置100を用いることによって、核酸溶液中の核酸分子から目的とするアプタマーを効率よくスクリーニングすることができる。
【0055】
上記スクリーニング方法によって得られたアプタマーは、目的とするタンパク質の断片ペプチドに相互作用するものであるため、目的とするタンパク質の検出ないしは定量に好ましく用いられる。
即ち、本発明のタンパク質の検出・定量方法は、上記スクリーニング方法によって得られたアプタマーを用いて、目的核酸分子を相互作用するペプチドの検出又は定量を行うことによって、該ペプチドを含有するタンパク質の検出・定量を行うものである。
タンパク質の検出ないしは定量は、本スクリーニング方法で得られたアプタマーを標識化することにより、標識に基づいて近接場光分析を用いないで検出・定量してもよいが、アプタマーを、本スクリーニング方法での断片ペプチドと同様に、支持体上に固定化して近接場光分析に基づいて検出・定量することが好ましい。近接場光分析を用いることによって、相互作用量に基づいて高感度且つ安定且つ簡便に、目的のタンパク質を検出ないしは定量を行うことができる。
【0056】
本検出・定量方法に用いられるタンパク質は、化学的処理により断片化して得られた断片ペプチドであることが好ましい。断片ペプチドとすることにより、前述したように、不安定なタンパク質や水に不溶性のタンパク質でも、簡便に且つ再現良くタンパク質の検出ないしは定量を行うことができる。
なお、本発明において「検出ないしは定量」とは、タンパク質の検出及び定量の双方であってもよく、これらのいずれかであってもよいことを意味し、相互作用量データを用いることにより、検出と定量の双方を同時に行うことができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これにより本発明は限定されるものではない。
本実施例では、近接場光分析としてSPRを用いた場合を例に説明する。
【0058】
[実施例1]
各種溶液の調製及び断片ペプチドの固定化
(1)ランダムRNA混合溶液の調製
スクリーニング対象となる核酸溶液は、以下のようにして、ランダムRNA溶液として調製する。
まず、ランダムRNAを得るための任意配列を有する114bpのオリゴDNAを化学合成によって得る。本DNAは、5’末端から40bpに下記に示す5’プライマー結合配列を有し、3’末端から24bpに下記の3’プライマー結合配列を有し、内部の50bpはランダム配列を有している。
【0059】
【表1】

【0060】
次いで、Taqポリメラーゼ(タカラバイオ社製)、primer(5’プライマー:上記結合配列、3’プライマー:上記結合配列の相補鎖),dNTP混合液を加え、60℃(50秒)、72℃(70秒)、95℃(70秒)のPCR反応を15Cycle行う。PCR反応の詳細はタカラバイオ社推奨条件に従う。
PCR反応終了後、イソプロパノール沈殿を行って抽出し、PCR産物を抽出し、T7RNAポリメラーゼ(Promega社製)を用いてインヴィトロ転写反応を37℃で3時間行う。インヴィトロ転写反応の詳細はPromega社推奨条件に従う。反応後、フェノール・クロロホルム処理、イソプロパノール沈殿を行って転写産物のランダムRNA混合溶液を得る。
【0061】
(2)断片ペプチドの調製
カルモジュリンを、トリプシン(Worthington Biochemical Corp.製)を用いて、37℃30分反応させる。反応後の液を限外ろ過カラム(MilliPore社、Ultrafree−MC 10,000NMWL Filter Unit)に注入し、14,000g 5分間遠心する。得られたろ液を断片ペプチド溶液とし、280nmの吸光度を指標としてペプチド濃度を見積もる。
【0062】
(3)断片ペプチドの固定化
上述、バイオセンサー10におけるセンサースティック40に備えられた流路部材44、保持部材46を、1mg/mlDEPC(ジエチルピロカーボネート)に37℃で2時間浸し、滅菌水で数回ゆすいだ後、100℃で15分間加熱する。
固定化膜50Aとして、CMD(カルボキシメチルデキストラン)被覆処理を施したセンサースティックに測定領域E1と参照領域E2を空間的に分断するウェルを形成する敷居をセットする。HBS−Pバッファー(Biacore社製)でウェルを満たす。バッファーを除き、活性化液(0.2MのEDCと0.05MのNHSの等量混合液)100μlをウェルに1秒間で注入し、30分放置する。続けて、活性化液を除き、HBS−Pバッファー100μlをウェルに1秒間で注入し、そのあと速やかにバッファーを除いて測定領域E1には断片ペプチド溶液(0.1mg/ml、AcetateバッファーpH6.0希釈)100μlを、参照領域E2にはHBS−Pをウェルに1秒間で注入し、30分放置する。続けて、ペプチド溶液を除き、HBS−Pバッファー100μlをウェルに1秒間で注入し、そのあと、バッファーを除き、ブロッキング液(1M エタノールアミン・HCl pH8.5)100μlをウェルに1秒間で注入し、30分放置する。続けて、ブロッキング液を除き、HBS−Pバッファー100μlをウェルに1秒間で注入し、続けて、10mM NaOH溶液100μlとHBS−Pでウェルを順に洗浄する。本操作によりペプチド固定化膜を得る。
【0063】
[実施例2]
スクリーニング
ペプチドを固定化したセンサースティックからウェルを形成する敷居を取り外し、バイオセンサー10にセットする。流路をHBS−Pバッファーで満たし、その状態で、実施例1で作製したランダムRNA混合溶液100μlを流路に1秒間で注入し断片ペプチド固定化膜に接触させ、5分放置する。このとき、固定化断片ペプチドと核酸分子とが相互作用を開始するため、相互作用量は上昇する。次いで、HBS−Pバッファー100μlを流路に1秒間で注入し、その後、HBS−Pバッファーを30μlずつゆっくり注入していく。この時、SPR信号により相互作用の測定を行う。SPR信号がベースラインと解離開始の信号の中間の値になるまで非特異的核酸分子が解離したら、7M 尿素を含むHEPESバッファー100μlを供給し、上記断片ペプチドに結合したRNA分子(アプタマー)を溶出し、回収する。
これにより、カルモジュリンの断片ペプチドに特異的に相互作用するアプタマーを得ることができる。
【0064】
次いで、回収された核酸分子のアプタマーを増幅するためにPCRを行う。
まず、回収された核酸分子溶液にイソプロパノール沈殿を行い、核酸分子溶液を濃縮する。濃縮された核酸分子(RNA)に対して、逆転写酵素(Improm-IITM Reverse Transcriptase、Promega社製)を添加し、30分間反応させて、DNAに変換する。逆転写反応の詳細はPromega社推奨条件下で行う。得られたDNAを含む溶液に、実施例1と同じ条件でPCR15Cycleを行う。実施例のPCRと同じ条件で。PCR反応終了後、イソプロパノール沈殿を行って抽出し、PCR産物を抽出する。これにより、最初のスクリーニングによって得られたアプタマーを大量に得ることができる。
【0065】
上記PCRで得られた増幅アプタマーを含むDNA混合溶液に対して、転写工程、接触工程、回収工程、逆転写工程及びPCR工程の上述した一連の操作を3回繰り返す。これにより、カルモジュリンの断片ペプチドに対して相互作用するアプタマーを効率よく増幅しながらスクリーニングすることができ、目的とするアプタマーを効率よく得ることができる。
【0066】
[実施例3]
アプタマーによるタンパク質の検出・定量
実施例1と同様に、固定化膜50Aとして、CMD被覆処理を施したセンサースティックにアプタマーを固定化する。固定化方法は実施例1のペプチド固定化方法に従う。ただし、断片ペプチド溶液の代わりに、実施例2で回収されたRNA混合溶液(0.1mg/ml HBS−P)100μlを測定領域E1に反応させる。本操作によりアプタマー固定化膜を得る。次いでカルモジュリンを、実施例1と同じ手法により断片化し、断片ペプチド溶液を得る。
【0067】
SPR信号により相互作用量を測定しながら、得られた断片ペプチド溶液を、流路を介して供給し、アプタマー固定化膜に接触させる。カルモジュリンの断片ペプチドのうち、固定化アプタマーに対して結合能を有する断片ペプチドが存在する場合には、センサー表面膜上のアプタマーに結合し、SPR信号が上昇する。この結果、アプタマー固定化膜の測定領域E1において、参照領域E2と比べ、15RUのSPR信号が得られた。従って、断片ペプチド溶液中には、固定化アプタマーに対して親和性があるペプチド分子が、15RUの量で含まれていることがわかる。
【0068】
[比較例1]
実施例1〜3の操作をカルモジュリンの断片化を行わず、ホールタンパク質として同様の操作を行う。結果、本比較例で得られたアプタマー固定化膜の測定領域E1においては、参照領域E2と比べ0〜3RU程度しか信号の差が得られず、バックグラウンドノイズに隠れてしまった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明のスクリーニング方法を説明する概念図である。
【図2】本発明に適用可能なスクリーニング装置の概略ブロック図である。
【図3】本発明において使用可能なSPR部の全体斜視図である。
【図4】本発明において使用可能なセンサースティックの斜視図である。
【図5】本発明において使用可能なセンサースティックの分解斜視図である。
【図6】本発明において使用可能なセンサースティックの1の液体流路部分の断面図である。
【図7】本発明において使用可能なセンサースティックの測定領域、参照領域へ光ビームが入射している状態を示す図である。
【図8】(A)〜(C)は本発明において使用可能な液体供給部を構成するピペット部の側面図である。
【図9】本発明において使用可能なSPR部の光学測定部付近の概略図である。
【符号の説明】
【0070】
10 バイオセンサー
40 センサースティック
50 金属膜
50A 固定化膜
54 光学測定部
60D メモリ
60 制御部
62 表示部
64 入力部
P 断片ペプチド
E1 測定領域
E2 参照領域
100 スクリーニング装置
102 SPR部
104 PCR部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸試料液中の核酸分子から、選択されたペプチド分子に特異的に相互作用する核酸又は核酸誘導体である目的核酸分子をスクリーニングする核酸分子スクリーニング方法であって、
前記ペプチド分子を包含するタンパク質を分解処理して、断片ペプチドを得る分解処理工程と、
前記断片ペプチドを支持体に固定化して、固定化断片ペプチドを得る固定化工程と、
前記核酸試料液中の核酸分子と前記固定化断片ペプチドとを接触させる接触工程と、
前記支持体表面における近接場光を利用した分析を行って前記固定化断片ペプチドと前記核酸分子との相互作用量を得ながら、得られた相互作用量に基づいて、前記核酸試料液中の核酸分子から前記目的核酸分子を選別する選別工程と、
を含む核酸分子スクリーニング方法。
【請求項2】
前記分解処理工程が、酵素を用いてタンパク質を分解することである請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記選別工程によって選別された目的核酸分子を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって増幅する増幅工程、を更に含む請求項1又は2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記増幅工程によって得られた増幅目的核酸分子を回収して、前記接触工程及び選別工程を少なくとも1回繰り返す請求項3記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記固定化断片ペプチドが、同一タンパク質から得られる2種以上の断片ペプチドで構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記目的核酸分子が、DNA、RNA及びこれらの誘導体からなる群より選択されたものである請求項1〜5のいずれか1項記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記近接場光を利用した分析が、表面プラズモン共鳴(SPR)分析である請求項1〜6項のいずれか1項記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記接触工程の前に、核酸試料液の接触しうる部材を、DEPC(ジエチルピロカーボネート)又は過酸化水素を含む溶液に浸すことを特徴とした、請求項1〜3項のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項1〜7項のいずれかに記載のスクリーニング方法で得られた目的核酸分子を用いて、該目的核酸分子と相互作用するペプチドの検出又は定量を行うことによって該ペプチドを含有するタンパク質の検出又は定量を行う、タンパク質の検出・定量方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−240282(P2007−240282A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61859(P2006−61859)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】