説明

核酸分析デバイス及びそれを用いた核酸分析システム

【課題】一分子単位で塩基伸長反応を行う反応基板の寸法を、対物レンズ寸法の影響を受けることなく最小化でき、しかも対物レンズを、反応基板に極力接近配置して、一分子単位の塩基伸長反応を蛍光観察する場合に観察精度を高める核酸分析デバイスを提供する。
【解決手段】
スラブ型導波路を形成する反応基板101の反応スポット110領域側の面にエンクロージャ(試薬室)102を配置し、その反対側の面に対物レンズ120を対向配置する。スラブ型導波路(反応基板)101には、エンクロージャ102の壁面102b或いはこれと光結合するプリズムを介して、エンクロージャ102と反応基板102間の光結合面(接合面)105における試薬室に接近した位置を経由して、入射光線103を反応基板101に導く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子診断/解析装置などに用いる核酸分析デバイス及び核酸分析システムに関する。特にDNAチップ、マイクロアレイ等の反応基板を用いた核酸分析デバイス及び核酸分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸分析装置において、ガラス基板等の透明基板で作製された反応基板に多数のDNAプローブ(例えば鋳型DNAやその相補鎖)又はポリメラーゼを固定し、反応基板上でポリメラーゼを介して、DNAプローブに試薬中の蛍光標識付き単一核酸分子(ヌクレオチド)を一分子ごとに取り込むいわゆる塩基伸長反応を行うことで、塩基配列を決定する方法が提案されている。この塩基伸長反応を行う箇所を、以下「反応スポット」と称する。
【0003】
一分子ごとに塩基伸長反応を行う場合には、全反射エバネッセント照射検出方式により反応基板上の反応スポット領域にエバネッセント場を形成して、捕捉された単一核酸分子に修飾された蛍光標識(蛍光色素)を励起、蛍光させることで、単一分子毎に塩基配列を解読できる利点を有し、ゲノム解析や遺伝子診断の迅速化が期待できる。
【0004】
具体的には、例えば、励起光として波長532nm及び635nmのレーザを、それぞれ蛍光体Cy3及び蛍光体Cy5の蛍光励起のために用いる。全反射エバネッセント照射では、スライドガラスと反応スポットの境界面で全反射を起こす角度で励起光を入射させ、この境界面にエバネッセント場を形成する。これにより反応室(試薬室)側の厚さ数百ナノメートルが照明される。従って、この厚みの範囲でのみ励起光が当たった試料からの蛍光が発生する。この方式により、背景に光ノイズの少ない非常に暗い状態で、境界面近傍の蛍光物質のみを励起することができる。この特徴から、光学顕微鏡の解像度をはるかに超えた、蛍光分子一個の挙動を観察することも可能である。
【0005】
さらに最近では、DNAプローブに蛍光標識付き単一核酸分子(ヌクレオチド)を捕捉して塩基伸長させる核酸分析用の反応基板を製造する場合に、特許文献1(特開2009-45057号公報)に示すように、半導体製造と同様のプロセスが利用されつつある。反応基板の製造では、まず円形のウエハ状石英基板に、金属蒸着、エッチング、スパッタリング、ミリング等の半導体製造と同様のプロセス処理により各反応スポットの基礎となる金ナノ微粒子である金属構造体(例えば金属、絶縁層、金属)を形成し、その金属構造体にDNAプローブを固定することで反応スポットが形成される。このようにして、多数配列された反応スポットを形成後、ウエハ状石英基板を反応・観察装置で使用するのに適した大きさへダイシング(裁断)する。ダイシングする寸法は、理想的には観察すべき反応スポットが配置された領域と同等の寸法であれば無駄がない。この特許文献1では、反応スポット領域にプリズムを介してレーザ光を臨界角以上で照射し、レーザ光のプリズム界面における全反射により発生する反応基板上のエバネッセント波により、反応スポット領域における局在型表面プラズモンを励起する。この局在型表面プラズモンによりDNAプローブにより捕捉された標的物質の蛍光体は蛍光増強場内に存在することになり、蛍光体はプラズモンにより蛍光増強を伴って励起され、その増強された蛍光の一部が検出窓を介して出射し、その出射光が対物レンズにより平行光束とされ、光学フィルタ及び結像レンズを介してイメージセンサ(2次元CCDカメラ)上に結像されるようにしている。
【0006】
なお、上記デバイスは、半導体製造プロセスと同様に形成した核酸伸長用の金属構造体(反応スポット)の領域を有する反応基板、全反射エバネッセント照射方式及び表面プラズモンを用いて単一分子毎の核酸伸長を観察するデバイスであるが、この種デバイス以外でも、エバネッセント波を用いた蛍光観察法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献2(特開2007−85915号)に示す全反射蛍光(Total Internal Reflection Fluorescence: TIRF)顕微鏡のような技術分野では、蛍光染色した試料とスライドガラスとの界面でエバネッセント波を発生させて、試料を蛍光観察するようにしており、そのために次のような光学系の配置を提案している。すなわち、スライドガラスの上面に蛍光染色した試料を載せ、スライドガラス下方に蛍光観察用の対物レンズ、入射プリズム及び放射プリズムを配置し、レーザ光が入射プリズムを経てスライドガラスに入って多重全反射により導波し(スラブ型導波路)、放射プリズムを介して外部に放射される構成とし、スライドガラスを導波するレーザ光によりスライドガラスの上面にエバネッセント波を発生させている。
【0008】
特許文献2では、スライドガラス上に細胞培養用スライドガラスチェンバー(以下、「ガラスチェンバー」と称する)を形成する。この種のガラスチェンバーは、ガラス、シリコン、ポリジメチルシロキサン(以下「PDMS」と称する)、あるいは透明プラスチックなど屈折率が反応基板と近い材質で形成することが多い。スライドガラスを経由した光線がガラスチェンバーと接する面に入射した場合、ガラスチェンバーを形成する材質がスライドガラスより屈折率が大きいか、または臨界角以下での入射であった場合にはガラスチェンバーを形成する材質に光線が突き抜ける。このような事象が生じると、目標とする観察位置まで光線を導波させることができない。
【0009】
これを回避するため、特許文献2では、スライドガラスの下方に光線(例えばレーザ光)を入射させるプリズムを設置し、その光線入射位置は、入射光線がガラスチェンバーとの境界面にかからない位置であって、境界面よりもガラスチェンバーの中心に近い位置に設定してある。このような位置的制約を設定するのは、仮に入射光線がガラスチェンバーとの界面にかかると入射光線がガラスチェンバーの材質中に進んでしまいスライドガラスのスラブ型導波路を形成することができないためである。上記の入射光線の位置的制約により、入射プリズムを介してスライドガラスに入射する光線は、スライドガラス内に入って多重全反射により導波され、ガラスチェンバーにおける細胞培養用溶液とスライドガラスとが接する界面(観察領域)でエバネッセント場を形成し、スライドガラスの観察領域を導波した後の光線は、放射プリズムを介してスライドガラス外に放射できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−45057号公報
【特許文献2】特開2007−85915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
DNAプローブに蛍光標識付き単一核酸分子(ヌクレオチド)を捕捉して塩基伸長させ、全反射エバネッセント照射検出方式でその塩基配列を蛍光計測する核酸分析デバイスにおいて、その塩基伸長反応用及び蛍光計測用の反応基板を製造するには、前述の特許文献1に示すように、半導体製造と同様のプロセスが利用されつつある。この場合、円形のウエハ状石英基板に、半導体製造と同様のプロセス処理により多数の反応スポットを配列した領域を形成した後に、ウエハ状石英基板を反応・観察装置で使用するのに適した大きさへダイシング(裁断)する。ダイシングする寸法は、理想的には観察すべき反応スポットが配置された領域と同等の寸法であれば無駄がない。また、半導体製造と同様のプロセスである場合には、微細な反応スポットが形成可能であるので、反応基板のダイシング寸法をできるだけ小さくして反応基板の切り出し数を増やすことが、コスト低減のために望まれる。
【0012】
特許文献1では、特に反応基板の寸法をできるだけ小さくすることについては考察しておらず、一例として、25mm×75mmのスライドガラスに、1マイクロメートル間隔で格子状に金属構造体を配置した領域を複数形成するものを開示している。また、反応基板の表(上面)側に反応チャンバーを形成し、その上に検出窓を介して対物レンズを配置し、反応基板の裏(下面)側にレーザ光入射用のプリズムを配置し、このプリズムを介してスライドガラスにレーザ光を臨界角以上で入射させている。
【0013】
上記のような半導体製造と同様のプロセスで形成した反応スポットを利用して、一分子単位の塩基伸長反応を観察する場合の観察精度を高めるためには、対物レンズをできるだけ反応基板に接近させることが好ましい。本発明者らは、以上の見地から、反応基板にスラブ型導波路を採用して、反応基板中に入射される光線を導波させて反応スポット領域付近にエバネッセント場を形成し、反応基板に対物レンズを極力接近させる構造について検討した。
【0014】
スラブ型導波路については、特許文献2などに開示されているが、そこに開示されている全反射試料照明装置は、スライドガラス(スラブ型導波路)の下方に対物レンズのほかに、光線(例えばレーザ光)をスライドガラスに入射させるプリズムを設置するため、対物レンズの外形に入射プリズムが物理的干渉しない配置とする必要がある。かような配慮と、既述した入射光線の位置的制約を考慮すると、ガラスチェンバーの大きさ(縦横の寸法)は、対物レンズの外形寸法以上にしなければならず、且つ観察しようとする視野領域が複数ある場合には、それらへの移動のための寸法を加えた寸法としなければならない。さらにスライドガラスの寸法は、前述のガラスチェンバーの寸法を合計した以上の寸法が必要である。実際の対物レンズの直径は、一般的な顕微鏡用対物レンズで直径20〜30mm程度である。この場合に、ガラスチェンバーの壁厚は5mm程度確保することを仮定すると、対物レンズ先端がコーン形状に尖っていることを考慮しても、スライドガラスおよびガラスチェンバーの寸法は、観察対象領域の寸法に加え、プリズムが配置された方向に40mm程度加味した寸法が必要となる。
【0015】
したがって、特許文献2に示すような全反射試料照明装置の構造を、仮に半導体製造と同様のプロセスで製作する反応基板(一分子単位の塩基伸長反応)を用いる分析デバイスに採用する場合には、円形ウエハから反応基板を切り出す際のダイシング寸法を大きくする必要がある。これは、1枚のウエハから取得できる反応基板の数を減少させ、反応基板の製造コストを高くする要因となる。
【0016】
仮に特許文献2の構成において、半導体製造と同様プロセス反応基板に適用することを想定すると、反応基板の切り出し寸法をより小さくするためには、入射プリズムをより小型のものに換えることも考えられる。しかし入射プリズムを小型化すると、プリズムの製造や基板への取り付けが困難となり、また入射するレーザ光の径をより細く絞らなければならず、照明する範囲が限定される。照明する範囲が限定された場合、観察対象の反応スポットを、より多くの回数で観察しなければならず、計測スループットが低下する。
【0017】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、一分子単位で塩基伸長反応を行う反応基板の寸法を、対物レンズ寸法の影響を受けることなく最小化でき、しかも対物レンズを、反応基板に極力接近配置して、全反射エバネッセント照射検出方式により一分子単位の塩基伸長反応を蛍光観察する場合に観察精度を高めることができる核酸分析デバイス及びそれを用いた核酸分析システムを提供することにある。
【0018】
さらに、副次的には、反応基板上にエバネッセント場を形成する場合に、全反射プリズムあるいは光線入射用プリズムを用いることなく実現できる核酸分析デバイス及びそれを用いた核酸分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するために、基本的には、次のように構成される。
【0020】
すなわち、塩基伸長反応により取り込まれる単一核酸分子を蛍光計測により検出するための核酸分析デバイスにおいて、
光透過性を有する板状材質により形成され、一方の面に塩基伸長反応のための反応スポットが形成される反応基板で、スラブ型導波路を有し、入射光が反射基板両面の内側で反射しながら前記スラブ型導波路を進行すると前記反応スポットの領域にエバネッセント場が形成される反応基板と、
前記反応基板における前記反応スポットが形成されている領域を囲って塩基伸長反応及び蛍光計測するための試薬を導入する試薬室を形成するエンクロージャで、前記反応基板の材質と光学屈折率が同一或いは近い材質で且つ前記反応基板と光結合する面を有する試薬室形成用の前記エンクロージャと、
前記反応スポットの領域で生じる蛍光を検出するための対物レンズと、を備え、
前記対物レンズは、前記反応基板を基準にして前記エンクロージャが設けられている側と反対側に配置され、
前記エンクロージャの側壁外面には、前記入射光を前記エンクロージャの側壁から前記光結合面を経由して前記反応基板の前記スラブ型導波路に導く入射光路における光入射面が形成或いは光結合されていることを特徴とする。
【0021】
例えば、前記光入射面は、前記エンクロージャの側壁外面により形成され、前記反応基板の法線に対して傾きをなす斜面である。
【0022】
また、前記エンクロージャの側壁外面に、前記反応基板の法線に対して傾きをなす斜面を形成するのに加えて、この斜面に前記エンクロージャと材質が同一或いは異なる光透過性の平板或いは膜を貼り付け、この平板或いは膜の一面により前記光入射面を構成してもよい。
【0023】
あるいは、前記光入射面は、前記エンクロージャと別部材のプリズムの一面であって、該光入射面を有するプリズムが前記エンクロージャと光結合するようにしてもよい。
【0024】
さらに好ましい一例として、エンクロージャにおける光入射面が形成或いは光結合されている側の側壁と反対側の側壁の外面に、前記反応基板の両面を反射しながら前記スラブ型導波路を進行する前記入射光を前記エンクロージャの外部に出射させる光出射面を形成したものを提案する。
【0025】
光透過性の反応基板は、たとえばスライドグラスのような、互いの面が平行なガラス板が望ましい。またエンクロージャは、該反応基板上に光結合した状態で設置または接着された断面が台形状、逆V字、あるいは逆凹字形状の断面を有した構造体が望ましい。このエンクロージャの材質は、たとえばガラス、PDMSなどが好適である。また、エンクロージャは側面に光入射面を持つが、この面の法線の角度は、入射する光線の光軸と並行であることが望ましい。入射する光線の角度は、該反応基板内の反応スポット観察位置にエバネッセント場を発生させるのに最適な角度で入射することが望ましい。
【0026】
反応スポット近傍にエバネッセント場を生成するためには、反応スポット近傍の反応基板の両面内側で光線を全反射させ、スラブ状の導波路を形成する必要がある。全反射をおこすための臨界角θm、臨界角θm(反応基板の法線に対する角度θm)を入射させるに好ましいエンクロージャ側壁の傾斜角度(反応基板に対する傾斜角度)、スラブ型導波路におけるエバネッセント光の染み出し深さについては、実施の態様の項で詳述する。
【0027】
上記構成の本発明によれば、エンクロージャに入射した光線が或いはエンクロージャと光結合したプリズムに入射した光線が、エンクロージャと反応基板の光結合面を経由し反応基板へ入射し、該基板界面で全反射を1回、又は複数回繰り返し、この全反射のいずれかが反応スポット付近にエバネッセント場を形成する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、スラブ型導波路を形成する反応基板の反応スポット領域側の面にエンクロージャ(試薬室)を配置し、その反対側の面に対物レンズを対向配置した場合であっても、対物レンズ側には全反射プリズムや光入射用のプリズムを不要とするので、対物レンズとプリズムの干渉がなくなり、対物レンズを反応基板に近接して配置することができる。しかも、スラブ型導波路(反応基板)には、エンクロージャ(試薬室)の壁面或いはこれと光結合するプリズムを介して、エンクロージャと反応基板間の光結合面(接合面)における試薬室に接近した位置を経由して、入射光線を導くことができるので、対物レンズの外形の寸法的制約を受けることなくエンクロージャひいては反応基板の大きさを決定できるので、反応基板の小形を図ることができる。したがって、特に半導体ウエハ製造と同様のプロセスで作成する反応基板の場合に、ウエハからの反応基板の切り出し数を増やして反応基板ひいては核酸分析デバイスのコスト低減を図ることができる。
【0029】
さらに、入射プリズムを不要な構造にした場合には、上記効果に加えて部品点数の削減を図り核酸分析デバイスのコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1に係る核酸分析デバイスに係る概略断面図及びその一部を拡大して示す図。
【図2】実施例1における一部を示す俯瞰図。
【図3】実施例1における核酸分析デバイスを取り入れた核酸分析システムの概略構成図。
【図4】本発明の実施例2に係る核酸分析デバイスの一部を示す部分断面図。
【図5】本発明の実施例3に係る核酸分析デバイスの一部を示す部分断面図及びその変形例の製造工程の一部を示す部分断面図。
【図6】本発明の実施例4に係る核酸分析デバイスの一部を示す部分断面図。
【図7】本発明を完成させるに至る経緯で検討された技術的課題を示す核酸分析デバイスの構造例を示す概略断面図。
【図8】本発明を完成させるに至る経緯で検討された技術的課題を示す核酸分析デバイスの他の構造例を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を添付図面に示された実施例に基づき説明する。
【実施例1】
【0032】
図1は本発明の実施例1に係る核酸分析デバイスに係る概略断面図及びその一部を拡大して示す図、図2はその一部を示す俯瞰図、図3は本実施例に係る核酸分析デバイスを用いた核酸分析システムの全体図を示すものである。
【0033】
本実施例に係る核酸分析デバイスは、核酸塩基伸長反応を行うための反応基板101、反応基板上の反応スポット110の領域に試薬室106を形成するためのエンクロージャ102、反応基板101を支持する基板ホルダ104、反応基板101上の反応スポット110で生じる蛍光を検出するための対物レンズ120を備える。
【0034】
反応基板101は、光透過性に優れた材質、例えば石英基板やサファイア基板により形成される。ここでは、一例として石英基板を例に説明する。反応基板101は、一方の面に塩基伸長のための反応スポット110が形成され、反応スポット110は、例えば半導体製造プロセスと同様にして多数形成される。かような反応基板101は、多数のDNAプローブ(例えば鋳型DNAやその相補鎖)112を固定し、反応基板上でポリメラーゼを介して、DNAプローブ112に試薬中の蛍光色素114付き単一核酸分子(ヌクレオチド)113を一分子ごとに取り込むいわゆる塩基伸長反応を行うことで、塩基配列を決定する。反応基板101の製造は、種々のものが考えられるが、例えば特開2009-45057号公報に示されているものが採用される。例えば、既述したように、円形のウエハ状石英基板に、金属蒸着、エッチング、スパッタリング、ミリング等の半導体製造と同様のプロセス処理により各反応スポットの基礎となる金ナノ微粒子である金属構造体(例えば金属-絶縁層-金属の積層構造体)111を形成し、その金属構造体111にDNAプローブ112を固定することで反応スポット110が形成される。DNAプローブ112の金属構造体111への固定は、ビオチン-アビジン結合、あるいは金-チオール結合などの化学結合により行われる。またDNAプローブ112には塩基伸長反応を開始するのに必要なプライマー分子を取り付け済みである。このようにして形成される反応スポット110は、反応基板101上に規則的な配列をもって多数形成される。このような反応スポットを有するウエハ状基板を反応・観察装置で使用するのに適した大きさにダイシング(裁断)することで、反応基板101が得られる。また、反応基板101は、平行な両面内側で入射光線103が反射しながら基板101中を進行するスラブ型導波路として機能するもので、このスラブ型導波路を形成するための光の入射角(臨界角)や入射点については後で詳述する。
【0035】
反応基板101は、基板ホルダ104に設けた基板取り付け窓104aに、接着、圧力吸着、あるいはねじ固定などの機械的固定構造により取り付けられている。反応基板101の取り付け代は、広いほど機械強度が増すが、反応基板切り出し寸法も大きくなりコスト高となるため、強度が問題とならない程度に狭くするのが好ましい。
【0036】
エンクロージャ102は、反応基板101における反応スポット110が形成されている領域を囲って塩基伸長反応及び蛍光計測するための試薬107を導入する試薬室106を形成するものであり、反応基板101と同等の屈折率を持ち且つ光透過性をもつ材質、例えばガラスあるいはPDMS(ポリジメチルシロキサン)などで形成されている。エンクロージャ102をPDMSで形成した場合には、密着性をもち、また酸素プラズマ照射、あるいは紫外線照射による親水性処理により、反応基板101へパーマネントボンディング(恒久接着)を行うことが可能である。エンクロージャ102を反応基板101に接合することで、エンクロージャ102は、反応基板101の反応スポット110を形成した側の面(本例では上面)に光結合され、その光結合面を符号105により示す。
【0037】
試薬室106は、エンクロージャ102と反応基板101とで囲まれる断面が台形状(逆V字形)の空間(截頭四角錐形状)により形成され、反応基板101の反応スポット領域およびその周辺が試薬室106の底壁となり、エンクロージャ102が試薬室106の頂壁102aと四方を囲む側壁102bを構成する。これらの側壁102bのうち対向する側壁が頂壁102aから底壁101に向けて広がる傾斜を有する。対向する側壁102bのうちで、一つの側壁の外面が光入射面102b’をなす。もう一つの側壁102b”の外面が、光出射面をなし、反応基板101の両面を反射しながらスラブ型導波路(反応基板101中)を進行する入射光103をエンクロージャ102の外部に出す機能を有する。
【0038】
エンクロージャ102は側面に光入射面102’を持つが、この面の法線の角度は、入射する光線103の光軸と平行であることが望ましい。入射する光線103の角度は、反応基板101内の反応スポット観察位置にエバネッセント場115を発生させるのに最適な角度で入射することが望ましい。
【0039】
反応基板101上の反応スポット110近傍にエバネッセント場115を生成するためには、反応基板101における反応スポット近傍の平行な両面内側で入射光線103を全反射させ、スラブ状の導波路を形成する必要がある。全反射をおこすための臨界角θmは、スネルの法則より
【0040】
【数1】

【0041】
ただしn, n:媒質A,Bの絶対屈折率
である。ここで、n,nは、n>nであり光は媒質Bから媒質Aへ向かうものとする。従って、導波路内にθm以上の角度で光線を入射すれば全反射が起こる。例えば、反応基板101(クラウンガラス、屈折率1.52)と純水(屈折率1.33)では、臨界角θmは、
【0042】
【数2】

【0043】
である。本実施例では、エンクロージャ102の光入射面102b’を介してレーザ光線103を反応基板101に入射させるが、反応基板101内に、例えば角度θmで光線を入射するには、エンクロージャ102を反応基板101と同材質のガラスで製作して反応基板101と光結合し、光入射面102b’を反応基板101の面に対してθmの傾斜角とする。このように構成することで、エンクロージャ102が試薬室106を形成すると同時に、エバネッセント場を生成するために必要な光入射面をも一体形成することができる。
【0044】
前記の例において、エンクロージャ102をガラス以外の材質、例えばPDMSで形成する場合には、PDMS(エンクロージャ)とガラス(反応基板)の界面で起こる屈折の影響を考慮する必要がある。PDMSの屈折率はおよそ1.40である。スネルの法則から、
【0045】
【数3】

【0046】
である。従って、θPDMS以上の角度で光線を入射すれば全反射が起こる。なお、前記までの説明では、光入射面102b’へ、その法線と平行に光線103を入射することを前提としているが、光入射面へその法線に対し角度をもって光線103を入射する場合には、エンクロージャ102へ入射する際の屈折も考慮しなければならない。
【0047】
なお、エバネッセント光の染み出し深さは、光線の入射角に依存する。光の強度が1/eとなる界面からの距離をdとすると、
【0048】
【数4】

【0049】
で示される。ここで、λは、光線の入射波長である。
【0050】
以上のことから光線の入射角は、観察対象への照明に最適なエバネッセント場の染み出し深さを得るため、選定することが必要となる。
【0051】
また入射する光線の位置は、反応基板101とエンクロージャ102の光結合面105において、図1に示すように、光結合面105と試薬室106が接するエッジに最も近く入射するよう設定することが好ましい。これは、入射した光線103が反応基板101の底面で反射した場合に、反射光がエンクロージャ102へ再帰してしまうことを防ぐ構造にする必要があるためである。ここで、入射した光線がエンクロージャへ再帰するメカニズムについて図7を用いて説明する。
【0052】
図7は、光入射用のプリズム(光入射面)703と方形(逆凹型)のエンクロージャ702を用いて、本実施例の光入射面102b’を備えるエンクロージャ102と等価的な状況を作り出したものである。石英基板701は、実施例1における石英基板101に相当する。図7に示すように試薬室706と光線103の基板701の入射光軸とが離れていると、反応基板701へ入射した光線103が基板701への底面で反射し、それがさらにエンクロージャ702へ再度入射した場合に再帰現象が生じ、入射光線103は、破線で示すようにエンクロージャに逃げてしまうので、反応基板702は、スラブ型導波路を形成しないことになる。このような再帰現象を避けるためには、入射する光線103の位置は、図1に示すように、光結合面105と試料室106が接するエッジに最も近く入射するよう設定することが好ましい。
【0053】
ちなみに図8は、本実施例との比較例としての核酸分析デバイスを示すものであり、反応基板801の一方の面(反応スポット)側にエンクロージャ(試薬室)802を配置し、それと反対側の面に対物レンズ820と光入射用プリズム803を配置して、レーザ光線103をエンクロージャ802と反対側から反応基板801に入射させた例である。このような配置では、仮に反応基板801ひいてはエンクロージャ802(試薬室806)を小形化しようとすると、光線103をできるだけ試薬室806寄りに入射させる配慮からすれば、プリズム803を対物レンズ820に接近させなければならない。したがって、プリズム803の存在により、対物レンズ820が反応基板801に思うように近づけない。本実施例では、このような問題は解消できる。なお、プリズムを介さずに、平行な板面を有する反応基板に光を直接入射させることはできない。
【0054】
図1では、図示省略してあるが、図2に示すように、エンクロージャ102には、試薬室106に蛍光計測に必要な試薬107を導入するための試薬流入口201と塩基伸長反応後の使用済み試薬を排出する試薬流出口202とが設けられている。流入口201は、図3の核酸分析システムに示すように試薬送液チューブ318の一端と接続されている。流出口202は、試薬廃液チューブ319の一端と接続されている。なお、図2では、対物レンズについては図示省略してある。
【0055】
レーザ光線103の入射位置及び出射位置を、エンクロージャ102のそれぞれ流入口201および流出口202がある面と同じ面に形成する場合には、光線103の入射位置及び出射位置が流入口201及び流出口202と干渉しない位置に設定される。あるいは、光線103の入射位置及び出射位置を、流入口201および流出口202のある面と直交する他の面に設定してもよい。なお、図2では、反応基板101を保持する基板ホルダについては図示を省いている。
【0056】
図1に示すように、対物レンズ120は、反応基板101を基準にして反応スポット領域(エンクロージャ設置領域、試薬室領域)と反対側に配置されている。本例では、反応スポット領域(エンクロージャ、試薬室)を反応基板101の上面側に配置し、対物レンズ120を反応基板101の下側に配置しているが、両者の位置関係を逆転させることも可能である。対物レンズ120は、反応基板101に近接配置され、かつ対物レンズ120と反応基板101との間には、光透過性を有するマッチングオイル(例えば無蛍光グリセリン等)が介在してもよい。
【0057】
上記構成において、光線103は、光入射面102b’を介してエンクロージャ102に入射し、エンクロージャ側壁を通過し、光結合面105へ到達する。光結合面105は、互いに同等の屈折率をもつ材料(エンクロージャ102、反応基板101)が光結合されているため、光線103は直進する。そして光線103は、臨界角θm或いはそれ以上の角度で反応基板101に入射した後、反射基板101の下面へ到達し全反射する。この反射光は反応基板101の上面側に向かい反応基板101・試薬室106との界面で再度全反射する。このとき全反射界面の試薬室106(反応スポット110)側には、エバネッセント場115が、およそ数100nmの高さで形成される。以降、光線103は反応基板101の上下面(界面)で反射を繰り返し、複数のエバネッセント場115を形成しながら、最終的にはエンクロージャ102を経由して光出射面102b”を介して外界へ放出される。エバネッセント場115が形成される位置は、光線103が試薬室106と反応基板101の界面で全反射する位置である。このエバネッセント場発生位置は、反応基板101の厚み、およびレーザ光線の入射角によって規定される。したがって、これらの規定に従い反応スポットの間隔を取り配置しておくことで、複数の反応スポット110を同時に照明することも可能である。
【0058】
試薬室106には、蛍光標識(蛍光色素)114で標識された一種類ごとの塩基であるdNTP (NはA、C、G、Tのいずれかである)112及びポリメラーゼを含んだ試薬(溶液)107が、溶液交換によって随時導入される。蛍光標識114には、例えばCy5などが用いられる。エバネッセント場115内に入った蛍光標識114は、エバネッセント光(本実施例ではエバネッセント光により励起される局在型表面プラズモン)により励起され蛍光を発する。これを対物レンズ120で集光し計測する。
【0059】
ポリメラーゼ及び蛍光標識(例えばCy5)で標識された一種類ごとの塩基dNTPを溶液交換によって導入すると、当該蛍光標識付きのdNTP分子(ヌクレオチド)113がDNAプローブ112におけるターゲットDNA分子に対して相補関係にある場合に限り、プライマー分子の伸長鎖に取り込まれる。ある一定時間、このような伸長反応を行った後に、使用済みの試薬を排出して未反応の余剰なdNTPを洗い流す。その後、励起光635nmを用いた全反射エバネッセント照射により、Cy5がエバネッセント場に存在するため、ターゲットDNA分子の結合位置における蛍光検出によって相補関係を確認することができる。確認後、Cy5を高出力の励起光で照射することによって蛍光退色させ、以降の蛍光発光を抑制する。以上のdNTPの取り込み反応プロセスにおいて、塩基の種類を例えばA→C→G→T→A→のように順次段階的に伸長反応を繰り返すことによって、ターゲットDNA分子と相補関係にある塩基配列を決定する。
【0060】
次に本実施例に係る核酸分析デバイスを用いて核酸分析を行なうシステムの一例を図3の実施例に基づき説明する。核酸分析システム340は、既述した実施例1における核酸分析デバイス314と解析用コンピュータ322を含む。
【0061】
本分析システム340において、反応基板101とエンクロージャ102からなる核酸分析デバイス314での核酸伸長反応を、対物レンズ120,蛍光波長フィルター332を介して2次元センサカメラ321で観測する。核酸分析デバイス314は、基板ホルダ104にて固定される。
【0062】
核酸分析デバイス314の試薬室106への試薬の供給は、試薬保管ユニット316内の各容器に格納された試薬を分注ユニット317によって分注し、送液チューブ318によって行なわれる。反応が完了した後の廃液は、廃液チューブ319を経由し廃液容器320へ廃棄される。
【0063】
2つの励起光レーザ325a,325bにより照射されるレーザ光線103は、それぞれλ/4波長板326a,λ/4波長板326bを通過し、ミラー327a,ダイクロイックミラー328を介して同軸調整された後,ミラー327bを介して核酸分析デバイス314のエンクロージャ102の光入射面(一側面)ひいては反応基板101へ入射される。λ/4波長板326a,λ/4波長板326bは、レーザ光の偏波面を規定するために設けられる。
【0064】
2つの励起光レーザ325a,325bを用いる理由は、蛍光標識114の蛍光強度を十分に得るためである。すなわち、一般的に励起光により励起される蛍光波長は、励起光波長より長波長であり、その強度は励起光波長と近いほど強度が強い。本実施例の反応系では、4種の塩基に対応して4種(4色)の蛍光色素を用いるが、1つ(1種)の励起光レーザで4色の蛍光を励起するには、励起光より長波長側に4色の蛍光のそれぞれの波長を設定する必要がある。この4色の蛍光において、波長が励起光波長に近い方から順に第1の蛍光、第2の蛍光、第3の蛍光、第4の蛍光とすると、第3、第4の蛍光では、十分な蛍光が得られないことが多い。このため、本実施例では、第3、第4の蛍光を励起するための第2(もう1種)の励起光レーザを用意し、該レーザの波長は第2の蛍光の波長と第3の蛍光の波長の間を選定する。すなわち、2つの励起光レーザ325a,325bのうち前者は、第1、第2の蛍光色素を励起するためのものであり、後者は第3、第4の蛍光色素を励起するためのものである。これにより4種の蛍光強度を十分に得ることができる。
【0065】
入射した光線103により、基板上面の試薬液相との境界平面上で全反射が起こるが、このとき、およそ入射光の1波長程度までの高さだけ試薬液相側の内部にエバネッセント光が浸透する。これにより、図1に示す反応スポット110、DNAプローブ112等を含めた極々限られた領域のみがエバネッセント場により照明される。
【0066】
核酸分析デバイス314内の反応基板101上に配置された反応スポット110には、既述したようにDNAプローブ112が取り付けられており、前述した手順により塩基伸長反応を進行させると、ポリメラーゼにより取り込まれた核酸分子113に標識されている蛍光色素(例えばCy5)114が、エバネッセント光を励起光として発光する。この蛍光を対物レンズ120で集光する。蛍光波長フィルター332は、蛍光波長のみを透過する光学フィルターである。蛍光は、この蛍光波長フィルター332および結像レンズ333、および2次元センサカメラ321からなる光学検出系により2次元の輝点画像として捉えられる。その後、上記レーザ光源を用いて、高出力の励起光(エバネッセント場)で照射することによって蛍光退色させ、以降の蛍光発光を抑制する。
【0067】
撮影した画像は、カメラコントローラ334および装置制御用コンピュータ323を通じて解析用コンピュータ322へ送信される。解析用コンピュータ322では、得られた画像から蛍光輝点の検出、およびその各輝点の強度、時間変化の情報を収集する。
【0068】
本実施例によれば、反応基板101を基準にして対物レンズ120と反対側に光入射面102b’及び試薬室106を兼ねるエンクロージャ102を配置し、エンクロージャ102を介して、スラブ型導波路として機能する反応基板101へ入射光線103を導く構成としたので、対物レンズ120側にはエンクロージャや光入射用のプリズムが不要となる。その結果、たとえ反応基板101の外形を対物レンズ120の外形より小さくしても、対物レンズ120は反応基板101に何らの障害無く接近配置できる。したがって、従来、入射プリズムなどの配置位置に制約を受けていた試薬室106の寸法、ひいては反応基板101の寸法を小さくすることができる。特に、半導体製造プロセスと同様にして製造される反応基板においては、反応基板の小型化を図ることで、石英基板ウエハからの反応基板の切り出し寸法を小さくして、1枚のウエハからのより多くの反応基板101を得ることができ、反応基板1枚あたりの製造コストを相対的に低下させることができる。
【0069】
具体的には、5インチ、または8インチの石英ウエハ上に、半導体製造プロセスと同様にしてDNA塩基伸長反応をおこなうための反応スポットを生成し、このウエハから反応基板を切り出す場合には、装置への取り付け等を考慮した場合、反応基板寸法は、手技あるいは自動封入で操作する場合の最低限の寸法として、少なくとも10mm×10mm程度の寸法が必要である。この寸法では、例えば8インチウエハからおよそ256枚の反応基板を得ることができる。本実施例では、かような反応基板の切り出し数を得ることができる。
【0070】
一方、スラブ型導波路方式の、特に特許文献2のような構成では、一般的なスライドグラスの寸法である76mm×26mmのものを使用することが想定されている。観察に用いる対物レンズの直径は、市販品では直径30mm〜40mm程度であり、対物レンズの可動範囲に入射プリズムが干渉しないよう設置したとしても、基板寸法は1辺が60mm程度必要となる。8インチウエハから60mm×26mmの基板を切り出す場合、13枚しか得ることができない。10mm×10mmの寸法切り出しと比較すると、反応基板1枚あたりの製造コストはおよそ20倍となる。以上のように、ウエハからの反応基板切り出し寸法をより小さくするほど多数の基板を得ることができ、反応基板1枚あたりの製造コストは相対的に低下する。
【0071】
しかも、本発明によれば、対物レンズを反応基板に極力接近させることができるので、核酸伸長反応の蛍光観察精度を高めることができる。特にエバネッセント場での蛍光計測において、例えば単一分子蛍光のように非常に微弱な蛍光を計測する場合には、本実施例は極めて有効な手段である。
【実施例2】
【0072】
図4は本発明の実施例2に係る核酸分析デバイスの概略断面図である。図4において、反応基板401は、実施例1の反応基板101に相当するものであり、エンクロージャ402は実施例1のエンクロージャ102に相当するものである。エンクロージャ402の形状は実施例1とほぼ同様であり、側面402bの一面が光入射面402b’となり、これと反対側のもう一側面に光出射面402b”を有する。実施例2において、反応基板がスラブ型導波路をなしエンクロージャが光入射面を兼用するなどの基本的構成は、実施例1と同様である。ここでは、実施例1との相違点を主に説明する。
【0073】
先に述べた実施例1では、反応基板101を基板ホルダ104に固定し、反応基板101上にエンクロージャ102を設置した。このような構造によれば、反応基板101における基板ホルダ104への固定端が、エンクロージャ102,試薬107などを含む核酸分析デバイス全体の荷重を支えることとなる。一方、エバネッセント場での蛍光計測では、非常に微弱な蛍光、例えば単一分子蛍光を計測したい場合がある。この場合には高N/A値のレンズ、例えばN/Aが1.4〜1.45といったレンズを利用する必要があり、基板の厚みは0.1mm〜0.15mm程度に薄くしなければ焦点を合わせることができないこともある。ちなみに従前の通常の市販の基板(スライドガラス)の厚みは、1.8mmである。
【0074】
このように極端に薄い基板で実施例1の構成を実現するには、反応基板の強度が不足する場合も想定され、反応基板の歪みが発生したり、最悪の場合には反応基板が破損する場合も想定されるので、上記した薄い基板用の対策も講じる必要がある。
【0075】
実施例2では、以上の対策を講じた例であり、反応基板へ荷重がかからない構成を図4に示す。反応基板401は、実施例1と同様に、半導体製造プロセスと同様にして製作される。エンクロージャ402は、実施例1のエンクロージャ102と同様の性状をもつ材質で製作すればよいが、本実施例では、基板ホルダ404に直接保持される側壁402bの外側底部402cと、反応基板401と光結合する側壁402の内側底部402dとを有する。さらに本実施例では、エンクロージャ側壁402bの底部において、上記した外側底部402cと内側底部402dとの間に底部突起部403を側壁402bの周方向に沿って設ける。反応基板401の周縁及び周縁付近の上面部が、側壁402bの底部突起部403内側面及び側壁402bの内側底部402dにそれぞれ光結合して光結合面405を構成する。換言すれば、上記したエンクロージャ側壁402bの底部突起部403内側面及び側壁402bの内側底部402dは、反応基板401の周縁及びその付近の上面を嵌め込む凹部を形成するので、光結合面405は凹型光結合面となる。
【0076】
さらに本実施例では、基板ホルダ404において、反応基板401を支持する部分、すなわち反応基板401の側壁402の外側底部402cと接触する部分404aは、基板ホルダ404の上面において一段低くした段差(凹部)により構成されている。
【0077】
上記構成において、レーザ光線103はエンクロージャ402に光入射面402b’を介して入射し、エンクロージャ側壁402bを通過し、光結合面405へ到達する。光結合面405では、互いに同等の屈折率をもつ材料(エンクロージャ、反応基板)が光結合されているため、光線103は直進する。実施例1でも述べたように、光線103の反応基板401に対する入射角は、臨界角θm以上であるので、反応基板401の下面へ到達し全反射する。この反射光は、反応基板401の上面側に向かい、試薬室406と反応基板401の界面で再度全反射する。このとき全反射界面の試薬室側には、エバネッセント場がおよそ数100nmの高さで形成される。以降、レーザ光線は反応基板401の上下面で全反射を繰り返し、反応基板401の各反応スポット110に対応して複数のエバネッセント場を形成しながら、最終的にはエンクロージャ402を経由して外界へ放出される。
【0078】
図4の核酸分析デバイスでは、反応基板401は、エンクロージャ402の少なくとも側壁内側底部402dの光結合面405を介して光結合しながらエンクロージャ402で保持され、且つエンクロージャ402は、その外側底部402cが反応基板401に荷重をかけないように基板ホルダ404に支持される(載る)ことから、実施例1の構造と比較し、より薄い反応基板を利用することができる。
【0079】
また実施例1の構造と比較し、反応基板401は、上面および周縁がエンクロージャ402によって保持されるため、換言すれば、エンクロージャ側壁の底部突起部405の内側に収まる寸法でよく、実施例1の構造と比較し、より反応基板401の寸法を小さくすることできる。なお、反応基板401をエンクロージャ側壁の底部突起部405の内側に収まる寸法にしても、光結合面405は、レーザ光線が通過する幅だけあればよいので、十分に確保される。
【実施例3】
【0080】
図5(a)は本発明の実施例3に係る核酸分析デバイスの概略断面図である。ちなみに本実施例におけるエンクロージャ、反応基板、基板ホルダ、反応スポットなどについて、実施例1と同一構成をなすものについては、実施例1と同一の符号を付している。
【0081】
実施例1および実施例2では、エンクロージャの材質として、ガラス或いはPDMSなどを示した。このうち特にPDMSは、試薬室を形成するのに適した強度をもち、かつ耐薬品性が高いため一般的に用いられる。しかし試薬室を形成するのに適した硬度をもつ市販のPDMS材は、シート状で流通していることが多い。実施例1または実施例2のエンクロージャ構造を実現するには、シート状のPDMSを試薬室の形状に対応するように切断するか、またはエッチングにより試薬室の形状に溶解する必要がある。このような場合、光入射面が均一な面とならず、入射したレーザ光103が拡散したり、減衰したりする場合があり得ることも想定される。これを避ける方法の例を図5(a)に示す。
【0082】
図5(a)は入射面として、光学ガラス板或いは石英板などの光透過性板材502を、エンクロージャ102に貼り付ける方法である。
【0083】
PDMSは密着性をもち、また酸素プラズマ照射、あるいは紫外線照射による親水性処理によりパーマネントボンディング(恒久接着)を行うことが可能である。この特性を利用し、切断またはエッチング処理で荒れた入射面に光透過性板材502を恒久接着する。
【0084】
図5(b)は、光透過性の軟材503を、エンクロージャの入射面へ平板504で押し付け、そのまま硬化させる方法である。光透過性の軟材503には、たとえばPDMSプレポリマーなどがある。PDMSプレポリマーは硬化剤と混合し、常温で十分な時間放置するか、あるいは60℃〜100℃程度に加熱すれば硬化する。平板504は、フッ素やシリコン等の離型材をコートした、均一な面を持つガラス、石英などの平板を用いる。エンクロージャの端面に光透過性の軟材503を貼り付け、次に平板504を押圧し、必要に応じて加熱などの硬化処理を行う。これにより、エンクロージャの端面に均一な樹脂面505を生成することができる。
【実施例4】
【0085】
図6は、本発明の実施例4に係る核酸分析デバイスの一部を示す部分断面図である。
【0086】
既述した実施例1、2では、エンクロージャ102を断面台形状にして、エンクロージャ102の側壁102bに直接、光入射面102b’及び光出射面102b”を形成した実施形態を例示し、実施例3では、エンクロージャ102の光入射面102b’に光学ガラス板,石英板などの光透過性板材502或いは505を貼り付けた実施形態を示したが、実施例4では、さらに異なる実施形態の一例を示す。
【0087】
すなわち、本実施例4では、エンクロージャ602については、材質は既述した実施例のものと同様であるが、その形状は方形状(断面逆凹形状)である。また、光入射面603b’は、エンクロージャ602と別部材の光入射用のプリズム603の一面であって、この光入射用のプリズム603がエンクロージャと光結合している。光入射面603’の傾斜角度も実施例1〜3のエンクロージャに設けた傾斜角度と同様に設定してある。
【0088】
なお、反応基板601,エンクロージャ602,対物レンズ620,基板ホルダ604の配置構成は、実施例1同様であるが、実施例2と同様の構成としてもよい。
【0089】
本実施例のように光入射用のプリズム603をエンクロージャ602と光結合すれば、プリズム603を介して反応基板601に臨界角θm以上で入射する光線103は、エンクロージャ102の側壁602bを介して光結合面105、特に光結合面105と試薬室106が接するエッジに最も近い位置を経由して反応基板601に入射するように設定可能である。
【0090】
したがって、本実施例において、実施例1、2同様の効果を奏することができる。
【0091】
なお、本実施例では、光入射面605b’は、エンクロージャ602と別部材の光出射用のプリズム605の一面であって、この光出射用のプリズム605がエンクロージャ602の光出射側側面と光結合している。この光出射用のプリズム605により、反応基板(スラブ型導波路)601を全反射を繰り返しながら進行する入射光線を、反応基板からエンクロージャ外部に放出することが可能になる。
【0092】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定するものではなく、本願発明の思想を逸脱しない範囲で随時設計変更することが可能である。
【符号の説明】
【0093】
101…反応基板、102…エンクロージャ、103…レーザ光線、104…基板ホルダ、105…光結合面、106…試薬室、110…反応スポット、111…エバネッセント場、112…DNAプローブ、113…dNTP、114…蛍光色素、20…対物レンズ、314…核酸分析デバイス、316…試薬保管ユニット、317…分注ユニット、318…送液チューブ、319…廃液チューブ、320…廃液容器、321…2次元センサカメラ、322…解析用コンピュータ、323…装置制御用コンピュータ、325…励起光レーザ、326…λ/4波長板、327…ミラー、328…ダイクロイックミラー、340…分析システム、401…反応基板、402…エンクロージャ、403…レーザ光線、404基板ホルダ、405…光結合面、502…光透過性板材、503…光透過性の軟材、504…平板、505…均一な樹脂面、601…反応基板、602…エンクロージャ、603…光入射用プリズム、605…光出射用プリズム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基伸長反応により取り込まれる単一核酸分子を蛍光計測により検出するための核酸分析デバイスにおいて、
光透過性を有する板状材質により形成され、一方の面に塩基伸長反応のための反応スポットが形成される反応基板で、スラブ型導波路を有し、入射光が反射基板両面の内側で反射しながら前記スラブ型導波路を進行すると前記反応スポットの領域にエバネッセント場が形成される反応基板と、
前記反応基板における前記反応スポットが形成されている領域を囲って塩基伸長反応及び蛍光計測するための試薬を導入する試薬室を形成するエンクロージャで、前記反応基板と光結合する面を有する試薬室形成用の前記エンクロージャと、
前記反応スポットの領域で生じる蛍光を検出するための対物レンズと、を備え、
前記対物レンズは、前記反応基板を基準にして前記エンクロージャが設けられている側と反対側に配置され、
前記エンクロージャの側壁外面には、前記入射光を前記エンクロージャの側壁から前記光結合面を経由して前記反応基板の前記スラブ型導波路に導く入射光路における光入射面が形成或いは光結合されていることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項2】
前記光入射面は、前記エンクロージャの側壁外面により形成され、前記反応基板の法線に対して傾きをなす斜面である請求項1記載の核酸分析デバイス。
【請求項3】
前記エンクロージャの側壁外面には、前記反応基板の法線に対して傾きをなす斜面が形成され、この斜面に前記エンクロージャと材質が同一或いは異なる光透過性の平板或いは膜が貼り付けられ、この平板或いは膜の一面により前記光入射面が構成されている請求項1記載の核酸分析デバイス。
【請求項4】
前記光入射面は、前記エンクロージャと別部材のプリズムの一面であって、該光入射面を有するプリズムが前記エンクロージャと光結合している請求項1記載の核酸分析デバイス。
【請求項5】
前記エンクロージャにおける前記光入射面が形成或いは光結合されている側の側壁と反対側の側壁の外面には、前記反応基板の両面を反射しながら前記スラブ型導波路を進行する前記入射光を前記エンクロージャの外部に出射させる光出射面が形成されている請求項1ないし4のいずれか1項記載の核酸分析デバイス。
【請求項6】
前記試薬室は、前記エンクロージャと前記反応基板とで囲まれる断面が台形状の空間により形成され、前記反応基板が前記試薬室の底壁となり、前記エンクロージャが前記試薬室の頂壁と四方を囲む側壁を構成し、これらの側壁のうち対向する側壁が前記頂壁から前記底壁に向けて広がる傾斜を有し、対向する前記側壁のうちで、一つの側壁の外面が前記光入射面をなし或いは前記光入射面と光結合する面をなし、もう一つの側壁の外面が、前記反応基板両面を反射しながら前記スラブ型導波路を進行する前記入射光を前記エンクロージャの外部に出射させる光出射面をなしている請求項1記載の核酸分析デバイス。
【請求項7】
前記反応基板は金属構造体にDNAプローブを結合した反応スポットを多数形成した四角形の透明材質基板であって、前記反応基板の各辺の寸法が前記対物レンズの直径よりも小さく設定してある請求項1ないし6のいずれか1項記載の核酸分析デバイス。
【請求項8】
前記エンクロージャは、その側壁底部のうち内側底部が前記反応基板と光結合して該反応基板を保持し、外側底部が前記基板ホルダに載って該基板ホルダを介して支持されている請求項1ないし7のいずれか1項記載の核酸分析デバイス。
【請求項9】
前記エンクロージャは、その側壁底部の内側底部と外側底部との間に周方向に沿った底部突起部が設けられ、前記反応基板の周縁及び周縁付近の上面部が、前記底部突起部の内側面及び前記内側底部にそれぞれ光結合して光結合面を構成している請求項1ないし8のいずれか1項記載の核酸分析デバイス。
【請求項10】
前記反応基板に形成される反応スポットは、エバネッセント波により励起されて表面プラズモンを生じさせる金属構造体を有し、この金属構造体に塩基伸長反応に用いるDNAプローブが固定されている請求項1ないし9のいずれか1項記載の核酸分析デバイス。
【請求項11】
前記エンクロージャは、PDMSにより形成されている請求項1ないし10のいずれか1項記載の核酸分析デバイス。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載された核酸分析デバイスと、
前記核酸分析デバイスの前記試薬室に前記試薬を供給する試薬供給系と、
前記試薬室で使用された試薬を前記試薬室から排出する試薬排出系と、
前記反応基板の前記反応スポット領域に前記エバネッセント場を形成するために、前記エンクロージャの側壁外面に形成或いは光結合された前記光入射面から前記エンクロージャの側壁および前記エンクロージャ・反応基板間の光結合面を介して前記反応基板の前記スラブ型導波路を結ぶ線上に、前記入射光となる光線を照射する光照射系と、を備えてなることを特徴とする核酸分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−115174(P2012−115174A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266059(P2010−266059)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】