説明

核酸分離方法および核酸分離用の固体基板

【課題】アミノ基とカルボキシル基とを含み第1pHで正電荷を帯びる物質を利用して核酸を分離する方法、および該方法に使われうる核酸分離用の固体基板を提供する。
【解決手段】核酸を含む試料と、アミノ基およびカルボキシル基を含み、正電荷を帯びる二官能性物質とを、第1pHで接触させて核酸を該物質に結合させるステップ、および第1pHより高い第2pHで該核酸を放出させるステップを含む、核酸を含む試料から核酸を分離する方法および該方法に使われうる核酸分離用の固体基板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ基とカルボキシル基とを含み、第1pHで正電荷を帯びる物質を利用して核酸を分離する方法、およびそれに使われうる核酸分離用の固体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、pH依存性イオン交換マトリックスを利用した核酸の分離方法が公知である。例えば、特許文献1には、イオン化可能な基を有している物質を利用する核酸の分離方法が開示されている。ここで、核酸と結合するようなイオン化可能な基は、第1pHで正電荷を帯びており、イオン化可能な基を有する物質は、結合していた核酸を前記第1pHより高い第2pHで、放出する。イオン化可能な基を有する物質の例としては、N−2−アセトアミド−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、N−2−アセトアミド−2−イミドジ酢酸(ADA)、N−トリヒドロキシメチル−メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、およびトリヒドロキシメチルアミノエタン(Tris)などが含まれる。また、特許文献2には、シリカ磁性粒子と;芳香族炭化水素環、前記芳香族炭化水素環に共有的に付着しているスペーサ、および第1末端で前記シリカ磁性粒子に付着しており、第2末端で前記スペーサに付着しているリンカーアルキル鎖を有するリンカーを含む複数個の第1イオン交換配位子と、を含むpH依存性イオン交換マトリックスを利用する核酸の分離方法が開示されている。
【特許文献1】米国特許公開第2001/0018513号公報
【特許文献2】米国特許第6,310,199号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記従来技術によっても、イオン化可能な基を有する物質と核酸との結合速度が大きく、pHを上昇させた場合核酸を放出する効率が高い物質は、依然として要求されている。この現状を鑑みて、本発明者らは、核酸とさらに速い速度で結合して迅速に核酸と吸着でき、pHを上昇させた場合に核酸を放出する効率が顕著に高い物質を探索していたところ、カルボキシル基とアミノ基とをいずれも含む二官能性物質を発見して本発明を完成するに至った。
【0004】
すなわち、本発明の目的は、核酸との結合速度が速く、かつpHを上昇させたときに核酸の放出効率の高い物質を利用し、核酸を迅速、かつ効率的に分離する方法を提供することである。
【0005】
本発明の他の目的は、前記方法に使われうる核酸分離用の固体基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、核酸を含む試料と、アミノ基およびカルボキシル基を含み、第1pHで正電荷を帯びる二官能性物質とを、前記第1pHで接触させて、前記核酸を前記二官能性物質に結合させるステップと、結合している前記核酸を、前記第1pHより高い第2pHで放出させるステップと、を含み、前記二官能性物質は、下記化学式(1)、または、下記化学式(2)で表されることを特徴とする、核酸の分離方法を提供する:
【0007】
【化1】

【0008】
前記化学式(1)中、nおよびn’は、1〜10の整数であり;Aは、下記化学式
【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
(式中、XはO、CO、S、SO、CH、C(CHまたはC(CFである)、
【0012】
【化4】

【0013】
(式中、カルボニル基とカルボキシル基との置換位置は、環連結部を除いては、任意の位置の炭素でありうる)、
【0014】
【化5】

【0015】
で表される基のいずれか一つであり;Yは、窒素含有ヘテロ環塩基である:
【0016】
【化6】

【0017】
前記化学式(2)中、RとRは、互いに同じであるか、または異なり、−OH、または−NH(CHY’(この際、mは1〜10の整数であり、Y’は窒素含有ヘテロ環塩基である)であり;Rは、炭素数1〜10のアルキレン基であり;lは、1〜30,000の整数である。
【0018】
前記他の目的を達成するために、本発明は、 核酸を含む試料と、アミノ基およびカルボキシル基を含み、第1pHで正電荷を帯びる官能基が固定化されている固体基板とを、前記第1pHで接触させ、前記核酸を前記固体基板に結合させるステップと、
結合している前記核酸を、前記第1pHより高い第2pHで放出させるステップと、
を含み、
前記固体基板上に固定化される官能基が、下記化学式(3)または下記化学式(4)で表されることを特徴とする核酸の分離方法を提供する。:
【0019】
【化7】

【0020】
前記化学式(3)中、nは、1〜10の整数であり;Aは、下記化学式
【0021】
【化8】

【0022】
【化9】

【0023】
(式中、XはO、CO、S、SO、CH、C(CHまたはC(CFである)、
【0024】
【化10】

【0025】
(式中、カルボニル基とカルボキシル基との置換位置は、環連結部を除いては、任意の位置の炭素でありうる)、
【0026】
【化11】

【0027】
で表される基のいずれか一つであり;Yは、窒素含有ヘテロ環塩基である:
【0028】
【化12】

【0029】
前記化学式(4)中、RとRは、互いに同じであるか、または異なり、−OHまたは−NH(CHY’(この際、mが1〜10の整数であり;Y’が窒素含有ヘテロ環塩基である)であり;Rは、炭素数1〜10のアルキレン基であり;lは、1〜30,000の整数である。
【0030】
前記他の目的を達成するために、本発明は、固体基板上に前記化学式(3)または(4)で表される官能基が固定化されていることを特徴とする核酸分離用の固体基板を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本発明の核酸分離方法によれば、迅速、かつ効率的に核酸を分離できる。また、本発明の固体基板を用いることにより、迅速、かつ効率的に核酸を分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の第一は、核酸を含む試料と、アミノ基およびカルボキシル基を含み、第1pHで正電荷を帯びる二官能性物質とを、前記第1pHで接触させて核酸を前記二官能性物質に結合させるステップと、結合している前記核酸を、前記第1pHより高い第2pHで放出させるステップと、を含み、前記二官能性物質は、下記化学式(1)で表される。
【0033】
【化13】

【0034】
化学式(1)中、nおよびn’は、1〜10の整数であり、好ましくはnおよびn’が1〜3である。なお、nおよびn’は、同一であっても、異なるものであってもよい。また、化学式(1)中、Aは、下記化学式
【0035】
【化14】

【0036】
【化15】

【0037】
(式中、xはO、CO、S、SO、CH、C(CHまたはC(CFである)、
【0038】
【化16】

【0039】
(式中、カルボニル基とカルボキシル基との置換位置は、環連結部を除いては、任意の位置の炭素でありうる)、
【0040】
【化17】

【0041】
のいずれか1つで表される基である。さらに、Yは、窒素含有ヘテロ環塩基である。
【0042】
前記二官能性物質は、また下記化学式(2)でも表される。
【0043】
【化18】

【0044】
前記化学式(2)中、RとRは、互いに同じであるか、または異なり、−OH、または−NH(CHY’(この際、mが1〜10の整数であり、Y’が窒素含有ヘテロ環塩基である)である。また、Rとしては同種のもののみが存在してもよいし、−OH、または−NH(CHY’の2種が存在していてもよい。R2も同様である。また前記化学式(2)中、Rは、炭素数1〜10のアルキレン基である。Rは同種のもののみが存在してもよいし、2種以上が存在していてもよい。lは、1〜30,000の整数である。
【0045】
化学式(1)または(2)で表される二官能性物質は、1種のみを用いてもよいし、また2種以上を混合して用いることもできる。
【0046】
前記化学式(1)で、Aは、2個のカルボキシル基と2個のカルボニル基とを含み、好ましくは、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、および1,2,3,4−テトラカルボキシブタン二無水物からなる群から選択されるテトラカルボン酸二無水物の誘導体由来の二価の基である。前記カルボニル基は、それぞれ化学式(1)中の−NHと結合している。
【0047】
前記化学式(1)において、Yは、窒素含有ヘテロ環塩基である。好ましくは、前記Yは、ピリジニルまたはイミダゾリル基であるが、これらの例に限定されるものではない。
【0048】
前記化学式(2)において、Rおよび/またはRが、Y’が−NH(CHY’である場合、Y’は、好ましくは、ピリジニル基またはイミダゾリル基であるが、これらの例に限定されるものではない。
【0049】
本発明の核酸分離方法は、核酸を含む試料と、アミノ基およびカルボキシル基を含み、第1pHで正電荷を帯びる二官能性物質とを、前記第1pHで接触させて核酸を前記二官能性物質に結合させるステップを含む。前記試料には、核酸を含むもの、例えば、血液および細胞を含む溶液のような生物学的試料またはPCR産物を含む溶液のような化学的核酸溶液が含まれる。
【0050】
本発明において、試料中の核酸が結合される物質の一実施形態は、アミノ基とカルボキシル基とを含む物質であって第1pHで正電荷を帯びる二官能性物質である。
【0051】
本発明の一具体例で、前記二官能性物質は、前記化学式(1)で、nおよびは、1〜10の整数、好ましくはnが1〜3の整数であり、Aは、
【0052】
【化19】

【0053】
のいずれか1つであり、Yは、
【0054】
【化20】

【0055】
のいずれか1つである前記化学式(1)である。
【0056】
また、他の具体例は、前記化学式(2)で、RとRは、互いに同じであるか、または異なり、−OHまたは−NH(CHY’(この際、mが1〜10の整数、好ましくはmが1〜3の整数であり、Y’が
【0057】
【化21】

【0058】
のいずれか1つである)であり、Rは、炭素数1〜10のアルキレン基であり、lは、1〜30,000の整数である前記化学式(1)である。
【0059】
化学式(1)の化合物と化学式(2)の化合物は、アミノ基とカルボキシル基とをそれぞれ有する化合物である。化学式(1)の化合物は、好ましくは第1pHで正電荷と負電荷とが約2:1の割合で含まれることが好ましい。また、前記化学式(2)の化合物は、好ましくは、−OHと、−NH(CHY’とが、モル比で1:1〜3:1の割合で含まれている化合物である。
【0060】
本発明において、化学式(1)の化合物は、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物のようなテトラカルボン酸二無水物、および4−(アミノメチル)ピリジンまたは1−(3−アミノプロピル)イミダゾールのようなnが1〜10の整数であり、Yは、窒素含有ヘテロ環塩基であるNH(CHYを化学反応させることによって得られる。また、化学式(2)の化合物は、下記化学式(5)の化合物と、NH(CHY’(この際、mが1〜10の整数であり、Y’は、窒素含有ヘテロ環塩基である)と、を化学反応させることによって得られる:
【0061】
【化22】

【0062】
式中、Rは、炭素数1〜10のアルキレン基であり、lは、1〜30,000の整数である。その結果得られる化学式(2)の化合物のうち、−OHと−NH(CHY’との比率は、反応物中の−OHとNH(CHY’の量を調節することによって調整することができる。
【0063】
前記化学式(5)の好ましい一例は下記化学式(6)の化合物である:
【0064】
【化23】

【0065】
式中、pは1〜10の整数であり、lは、1〜30,000の整数である。
【0066】
化学式(5)の化合物は、ポリ無水物である。前記ポリ無水物は、遠心分離のような分離工程によって溶液から容易に分離されうる。したがって、核酸と、前記ポリ無水物から得られる化学式(2)の重合体とを結合させて得られる核酸−二官能性物質の複合体を溶液から分離し、分離された核酸−二官能性物質の複合体を第2pHで溶出させることによって、核酸が容易に前記複合体から分離されうる。
【0067】
本発明の第二は、下記化学式(3)で表される官能基が固定化されている固体基板である。
【0068】
【化24】

【0069】
式中、nは、1〜10の整数であり;Aは、下記化学式
【0070】
【化25】

【0071】
【化26】

【0072】
(式中、xはO、CO、S、SO、CH、C(CHまたはC(CFである)、
【0073】
【化27】

【0074】
(式中、カルボニル基とカルボキシル基との置換位置は、環連結部を除いては、任意の位置の炭素でありうる)、
【0075】
【化28】

【0076】
で表される基のいずれか一つであり;Yは、窒素含有ヘテロ環塩基である。
【0077】
または、下記化学式(4)で表される官能基が固定化されている固体基板である。
【0078】
【化29】

【0079】
式中、RとRは、互いに同じであるか、または異なり、−OHまたは−NH(CHY’基(この際、mが1〜10の整数であり、Y’が窒素含有ヘテロ環塩基である)であり、Rは、炭素数1〜10のアルキレン基であり、lは、1〜30,000の整数である。なお、上記化学式(4)中、Rとしては同種のもののみが存在してもよいし、−OH、または−NH(CHY’の2種が存在していてもよい。R2も同様である。また、Rは同種のもののみが存在してもよいし、2種以上が存在していてもよい。
【0080】
化学式(3)または(4)で表される官能基は、1種のみを固体基板への固定化に用いてもよいし、また2種以上を用いることもできる。
【0081】
前記化学式(3)中、好ましくは、nは、1〜10の整数であり、Aは、
【0082】
【化30】

【0083】
のいずれか1つであり、Yは、
【0084】
【化31】

【0085】
のいずれか1つである官能基である。
【0086】
また、前記化学式(4)中、好ましくは、RとRは、互いに同じであるか、または異なり、−OHまたは−NH(CHY’(この際、Y’が
【0087】
【化32】

【0088】
のいずれか1つであり、mは1〜10の整数である)であり、Rは、炭素数1〜10のアルキレン基であり、lは、1〜30,000の整数の官能基である。
【0089】
前記化学式(4)の好ましい一例は下記化学式(7)
【0090】
【化33】

【0091】
で表される基である(式中、pは1〜10の整数であり、lは、1〜30,000の整数である)。また、好ましくは、前記化学式(4)中の−OHと、−NH(CHY’との割合が、モル比で1:1〜3:1である官能基である。
【0092】
本発明の前記実施形態で、前記固体基板を構成する材料は、シリコン、ガラスおよびプラスチック物質から選択されうるが、それらの例に限定されるものではない。また、前記固体基板は、任意の形態を有したものでありうる。例えば、球形、板状または無晶形の形状を有するものでありうるが、これらの例に限定されるものではない。また、前記固体基板は、化学式(3)または化学式(4)で表される基を固定化するために、活性化されていることもある。例えば、アミノ基のような活性基がコーティングされている基板でありうる。
【0093】
本発明において、固体基板上に化学式(3)または化学式(4)の各化合物が固定化される固体基板は、当業界に公知の任意の固定化方法によって製造することができる。例えば、NH(CHNHのようなアミノ基でコーティングされている固体基板(例えば、シリコン、ガラスまたはプラスチック物質から構成される)に1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物のようなテトラカルボン酸二無水物を化学反応させて基板上に固定化した後、nが1〜10の整数であり、Yが窒素含有ヘテロ環塩基であるNH(CHYで表される化合物(例えば、4−(アミノメチル)ピリジンまたは1−(3−アミノプロピル)イミダゾール)を化学反応させることによって製造することができる。また、化学式(4)の官能基が固定化されている固体基板は、例えば、化学式(5)のポリ無水物を、アミノ基がコーティングされている基板上に化学反応させることによって固定化した後、pが1〜10の整数であり、Y’が窒素含有ヘテロ環塩基であるNH(CHY’の化合物(例えば、4−(アミノメチル)ピリジンまたは1−(3−アミノプロピル)イミダゾール)を化学反応させることによって製造することができる。
【0094】
本発明において、試料中の核酸が結合される物質の他の実施形態は、上記のようにして得られる固体基板である。結合されうる核酸は、前記二官能性物質のところで述べた通りである。
【0095】
本発明は、また固体基板上に上記化学式(3)または化学式(4)で表される基が固定化されていることを特徴とする核酸分離用の固体基板を提供し、さらにこれを利用した核酸の分離方法を提供する。
【0096】
本発明において、前記第1pHは、化学式(1)の化合物および化学式(2)の化合物または化学式(3)および化学式(4)の基内のカルボキシル基のpKa値より低いpHが好ましい。具体的に、前記第1pHは2〜3.5であるが、これらの例に限定されるものではない。
【0097】
本発明の方法は、得られた核酸−二官能性物質複合体または核酸−官能基が固定化された固体基板複合体から前記第1pHより高い第2pHで核酸を分離するステップを含む。この際、核酸を分離させるステップは、前記複合体を混合物から分離し、前記第1pHより高い第2pHを有する溶液中から溶出するステップを含む。
【0098】
第2pHは前記第1pHより高ければ、いかなる値でも可能であるが、好ましくは、5〜10である。前記核酸−物質複合体を溶出するために使われる溶液は、水およびバッファなどでありうる。
【0099】
本発明の核酸分離用の固体基板は、第1pHで正電荷を有し、第2pHに負電荷を有するだけではなく、第1pHで核酸と結合する場合に速く結合し、第2pHで核酸を効率的に放出させることができる特性を有している。したがって、本発明の核酸分離用の固体基板は、試料中の核酸を分離するのに有用に使われうる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を実施例を介してさらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がそれら実施例に限定されるものではない。
【0101】
実施例1:化学式(7)の基が固定化された基板を利用した核酸の回収
本実施例では、下記化学式(7)の官能基が固定化された固体基板を製造し、第1pHでDNAを結合させた後、第2pHで、前記DNA−基板複合体から核酸を回収した。
【0102】
本実施例で使われた下記化学式(7)の官能基は、
【0103】
【化34】

【0104】
式中、RとRは、互いに同じであるか、または異なり、−OH、および−NH(CHNH(対照群)、4−(アミノメチル)ピリジニル(実験群1)、または1−(3−アミノプロピル)イミダゾリル(実験群2)基から選択され、pは2であり、lは、約2000であり、RとR中の−OH基と、−NH(CHY’基との比率は、約2:1であった。
【0105】
基板上への前記化学式(7)で表される官能基の固定化は、次の通り行った。まず、アミノ基でコーティングされたガラス(Corning GAPS glass、コーニング社)基板を溶媒がN−メチル−2−ピロリドン(NMP)である200mM(反復単位基準)のポリ無水物(エチレン−無水マレイン酸交互共重合体)(分子量Mw 100,000−5000,000)に室温で1時間浸漬した後、アセトンで洗浄し、真空下で乾燥した。得られた前記ポリ無水物が結合されたガラス基板をNMP中のエチレンジアミン、4−(アミノメチル)ピリジンまたは1−(3−アミノプロピル)イミダゾール(濃度は、モル比であり、エチレンジアミン、4−(アミノメチル)ピリジン、または1−(3−アミノプロピル)イミダゾール:HO=4:6)中に室温で1時間浸漬した後、エタノールで洗浄して乾燥した。前記エチレンジアミン、4−(アミノメチル)ピリジン、または1−(3−アミノプロピル)イミダゾールの濃度は400mMおよび水600mMであった。
【0106】
得られた化学式(7)の官能基が固定化された2枚のガラス基板上に、pH3で、5’末端がCy3と標識された配列番号1のDNAと反応させた。反応は、前記DNA 1μMを含む0.15Mの酢酸ナトリウム溶液を基板上に添加してふたをして覆い、室温で1分間放置することによって行われた。反応後、一方のガラス基板は0.15M酢酸ナトリウムでpH3で洗浄し、他方のガラス基板はpH7.9で洗浄した後、532nm(PMT 350)でAxon scanner(米国・GenePix社)を使用して蛍光強度を測定した。蛍光強度の測定結果を下記表1に表した。
【0107】
【表1】

【0108】
表1に表したように、DNAの回収率は、実験群1および2で対照群に比べて顕著に高かった。
実施例2:化学式(7)の基が固定化された基板を利用した核酸の回収
本実施例では実施例1と同じ方法で製作された化学式(7)の各官能基が固定化された1枚の基板を用いた。本実施例では、pH3でDNAを結合させ、洗浄した後、pH3で蛍光強度を測定した。その後、基板を再度洗浄し、pH7.9で蛍光強度を測定した。
【0109】
その結果、測定された蛍光強度は、下記表2のようである。
【0110】
【表2】

【0111】
表2に示したように、実験群1及実験群2の基板を利用する場合、対照群1に比べて顕著に優れた回収率を表した。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のアミノ基とカルボキシル基とを含んで第1pHで正電荷を帯びる物質を利用して核酸を分離する方法、および該方法に使われうる核酸分離用の固体基板は、例えば、試料分析関連の技術分野に効果的に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を含む試料と、アミノ基およびカルボキシル基を含み、第1pHで正電荷を帯びる二官能性物質とを、前記第1pHで接触させて、前記核酸を前記二官能性物質に結合させるステップと、
結合している前記核酸を、前記第1pHより高い第2pHで放出させるステップと、
を含み、
前記二官能性物質は、下記化学式(1)、または、下記化学式(2)で表されることを特徴とする、核酸の分離方法:
【化1】

前記化学式(1)中、nおよびn’は、1〜10の整数であり;Aは、下記化学式
【化2】

【化3】

(式中、XはO、CO、S、SO、CH、C(CHまたはC(CFである)、
【化4】

(式中、カルボニル基とカルボキシル基との置換位置は、環連結部を除いては、任意の位置の炭素でありうる)、
【化5】

で表される基のいずれか1つであり;Yは、窒素含有ヘテロ環塩基である:
【化6】

前記化学式(2)中、RとRは、互いに同じであるか、または異なり、−OHまたは−NH(CHY’(この際、mは1〜10の整数であり、Y’は窒素含有ヘテロ環塩基である)であり;Rは、炭素数1〜10のアルキレン基であり;lは、1〜30,000の整数である。
【請求項2】
前記二官能性物質は、前記化学式(1)中のnおよびn’が、1〜10の整数であり;Aが、下記化学式
【化7】

で表される基のいずれか1つであり;Yが、
【化8】

で表される基のいずれか1つである前記化学式(1)、または、
前記化学式(2)中のRとRが、互いに同じであるか、または異なり、−OHまたは−NH(CHY’(この際、mが1〜10の整数であり、Y’が
【化9】

で表される基のいずれか1つである)であり;Rが、炭素数1〜10のアルキレン基であり;lが、1〜30,000の整数である前記化学式(2)である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸を放出させるステップは、核酸−二官能性物質の複合体を混合物から分離して、前記第2pHである溶液中で前記核酸を溶出するステップを含む請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1pHは2〜3.5であり、前記第2pHは5〜10である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記化学式(2)中の、−OHと−NH(CHY’との割合が、モル比で1:1〜3:1である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
核酸を含む試料と、アミノ基およびカルボキシル基を含み、第1pHで正電荷を帯びる官能基が固定化されている固体基板とを、前記第1pHで接触させ、前記核酸を前記固体基板に結合させるステップと、
結合している前記核酸を、前記第1pHより高い第2pHで放出させるステップと、
を含み、
前記固体基板上に固定化される官能基が、下記化学式(3)または下記化学式(4)で表されることを特徴とする核酸の分離方法:
【化10】

前記化学式(3)中、nは、1〜10の整数であり;Aは、下記化学式
【化11】

【化12】

(式中、XはO、CO、S、SO、CH、C(CHまたはC(CFである)、
【化13】

(式中、カルボニル基とカルボキシル基との置換位置は、環連結部を除いては、任意の位置の炭素でありうる)、
【化14】

で表される基のいずれか一つであり;Yは、窒素含有ヘテロ環塩基である:
【化15】

前記化学式(4)中、RとRは、互いに同じであるか、または異なり、−OHまたは−NH(CHY’(この際、mが1〜10の整数であり;Y’が窒素含有ヘテロ環塩基である)であり;Rは、炭素数1〜10のアルキレン基であり;lは、1〜30,000の整数である。
【請求項7】
前記固体基板を構成する材料は、シリコン、ガラスおよびプラスチック物質からなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記核酸を放出させるステップは、核酸−官能基が固定化された固体基板の複合体を混合物から分離して、前記第2pHである溶液中で前記核酸を溶出するステップを含む請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1pHは2〜3.5であり、前記第2pHは5〜10である請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記化学式(4)中、−OHと−NH(CHY’との割合が、モル比で1:1〜3:1である請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
固体基板上に前記化学式(3)または(4)で表される官能基が固定化されていることを特徴とする核酸分離用の固体基板。
【請求項12】
前記固体基板を構成する材料は、シリコン、ガラスおよびプラスチック物質からなる群から選択されることを特徴とする請求項11に記載の固体基板。
【請求項13】
前記化学式(4)中の、−OHと−NH(CHY’との割合が、モル比で1:1〜3:1の割合である請求項11または請求項12に記載の固体基板。

【公開番号】特開2006−288398(P2006−288398A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108934(P2006−108934)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】