説明

核酸合成の感度および特異性の増大のための組成物および方法

【課題】核酸分子の合成を増強するための核酸インヒビター、組成物および方法を提供する。
【解決手段】核酸の合成、配列決定または増幅の阻害もしくは制御であり、詳細には、そのような合成、増幅、または配列決定反応の際に使用するための、ポリメラーゼ活性を有するポリペプチドに対する親和性を有する核酸。核酸インヒビターは、特定の条件下(例えば、周囲温度)において非特異的核酸合成を阻害し得る。従って、核酸分子の「ホットスタート」合成に関し、非特異的核酸合成を防止するか、減少させるか、または実質的に減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、周囲温度で生じる非特異的な核酸合成を減少することによって、核酸合成の感度および特異性を増加するための方法に関する。本発明はまた、ポリメラーゼに対して高い親和性を有する新規の核酸に関する。本発明の方法および組成物は、DNA配列決定、増幅反応、核酸合成およびcDNA合成において使用され得る。
【0002】
本発明はまた、例えば、ポリメラーゼ活性を有する1つ以上のポリペプチドに結合することによって、核酸合成、配列決定、増幅およびcDNA合成を阻害または阻止し得る核酸および組成物に関する。さらに、本発明の材料および方法は、それらの生活循環の完成のための逆転写酵素活性に依存する生物(レトロウイルスなど)の複製を阻害するために、治療法として使用され得る。本発明はまた、核酸分子などを含むベクターおよび宿主細胞に関する。本発明はまた、本発明の組成物または核酸を含むキットに関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
DNAポリメラーゼは、DNAテンプレートに相補的なDNA分子の形成を合成する。プライマーの一本鎖DNAテンプレートへのハイブリダイゼーション時において、ポリメラーゼは、伸長する鎖の3’ヒドロキシル基にヌクレオチドを連続的に付加して、5’→3’の方向にDNAを合成する。従って、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)およびプライマーの存在下で、新しいDNA分子(一本鎖DNAテンプレートに相補的)が合成され得る。
【0004】
中温性DNAポリメラーゼと高温性DNAポリメラーゼの両方が、核酸を合成するために使用される。中温性ポリメラーゼよりも耐熱性ポリメラーゼを使用することは、好ましい。なぜなら、耐熱性ポリメラーゼとともに使用された、より高いアニーリング温度は、誤ってアニーリングしたプライマー由来の非特異的ではないDNA産物を生じるためである。これらの非特異的な産物は、ポリメラーゼに基づいたアッセイの感度を減少し得、そしてそれぞれのプライマーセットに対する過度の最適化を必要とし得る。さらに、周囲温度において高い活性レベルを有するポリメラーゼ(例えば、Thermatoga neapolitana由来のDNAポリメラーゼ)が使用される場合、この問題は増強される。
【0005】
生物、組織、または細胞の構造および生理を試験する際に、その遺伝的内容を決定することがしばしば望ましい。生物の遺伝的枠組みは、生物の体細胞および生殖細胞に含まれるデオキシリボ核酸(DNA)のヌクレオチド塩基の二本鎖配列にコードされる。DNAの特定のセグメントの遺伝的内容、すなわち遺伝子は、その遺伝子がコードするタンパク質の産生時のみ明かにされる。タンパク質を産生するために、DNA二重らせんの一方の鎖(「コード」鎖)の相補的なコピーを、ポリメラーゼ酵素によって産生し、リボ核酸(RNA)の特定の配列を生じる。この特定の型のRNAは、タンパク質の産生のためにDNA由来の遺伝的メッセージを含むので、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれる。
【0006】
所与の細胞、組織または生物において、それぞれ別々のおよび特定のタンパク質をコードする多くのmRNA種が存在する。この事実は、組織または細胞における遺伝的発現を研究することに興味を持つ研究者にとって強力なツールを提供する。mRNA分子が単離され得、さらに種々の分子生物学的技術によって操作され、それによって、細胞、組織または生物の全機能の遺伝的内容の解明が可能になる。
【0007】
遺伝子発現の研究に対する通常のアプローチは、相補DNA(cDNA)クローンの産生である。この技術において、生物由来のmRNA分子は、生物の細胞または組織の抽出物から単離される。この単離は、しばしば、チミジン(T)のオリゴマーが複合体化されたクロマトグラフィーマトリックス(例えば、セルロースまたはアガロース)を使用する。大部分の真核生物mRNA分子の3’末端が、アデノシン(A)塩基のストリングを含み、AがTに結合するので、mRNA分子は、組織または細胞抽出物において他の分子および基質から迅速に精製され得る。これらの精製されたmRNA分子から、cDNAコピーが、逆転写酵素(RT)またはRT活性を有するDNAポリメラーゼを使用して作製され得、これは、一本鎖cDNA分子の産生を生じる。次いで、一本鎖cDNAは、DNAポリメラーゼの作用によって、元のmRNA(従って、生物のゲノムに含まれる、このmRNAをコードする元の二本鎖DNA配列)の完全な二本鎖DNAコピー(すなわち、二本鎖cDNA)に変換され得る。次いでタンパク質特異的二本鎖cDNAがベクターに挿入され得、次いでこれは、宿主細菌、酵母、動物細胞または植物細胞に導入され、このプロセスは、形質転換またはトランスフェクションと呼ばれる。次いで、宿主細胞は、培養培地において増殖され、目的の遺伝子または目的の遺伝子の部分を含む(あるいは多くの場合、これらを発現する)宿主細胞の集団を生じる。
【0008】
この全体のプロセス(mRNAの単離からcDNAのベクター(例えば、プラスミド、ウイルスベクター、コスミドなど)への挿入、単離された遺伝子または遺伝子の部分を含む宿主細胞集団の増殖)は、「cDNAクローニング」と呼ばれる。cDNAが多くの異なるmRNAから調製される場合、生じるcDNAのセットは、「cDNAライブラリー」と呼ばれ、cDNAのセットが、供給源の細胞、組織、または生物に存在する機能的な遺伝的情報を含む遺伝子または遺伝子の部分の「集団」を表すので、適切な用語である。
【0009】
cDNA分子の合成は、mRNA分子の3’末端においてまたはその近くで開始し、成長する鎖にヌクレオチドを連続的に付加して5’→3’方向に進行する。オリゴ(dT)プライマーを使用してポリAテールの3’末端でcDNA合成をプライミングすることによって、このmRNAの3’メッセージが、産生されるcDNA分子において表されることが確実になる。cDNA合成の間の感度および特異性を増加する能力は、さらに代表的なcDNAライブラリーを提供し、全長cDNA分子(例えば、全長遺伝子)を有するcDNAライブラリーの可能性を増加し得る。このような進歩は、目的の全長遺伝子を見つけ出す確率を非常に改善する。
【0010】
研究目的のためのそれらの重要性に加えて、逆転写酵素は、多数の重要な病原性ウイルス(特に、ヒト免疫不全ウイルス(HIV))の生活環において重要な役割を果たす。その生活環を完成させるために、HIVおよび他の類似したウイルスは、宿主の遺伝物質への組み込みのために、ウイルスRNAゲノムをDNAに変換する逆転写酵素を使用しなければならない。この工程は、ウイルス生活環にとって重要であり、そして宿主細胞は、類似した逆転写酵素活性に対する必要性を全く有していないことから、逆転写酵素は、化学療法の標的として集中的に研究されている。概して、逆転写酵素を標的とする大部分の治療試薬は、ヌクレオチドアナログ(例えば、AZT)である。オリゴヌクレオチドベースの試薬(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイム)を使用する他の治療様式は、ウイルスの複製を阻害するために使用されるが、これらの試薬は、ウイルスゲノムの核酸に対して標的化する代わりに、逆転写酵素に対して特異的に標的化されない。例えば、Goodchildら、「Inhibition of human immunodeficiency virus replication by antisense oligodeoxynucleotides」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5507−5511(1988):非特許文献1,Matsukaraら、「Regulation of viral expression of human immunodeficiency virus in vitro by anantisense phosphorothioate oligodeoxynucleotide against rev(art/trs)in chronically infected cells」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:4244−4248(1989):非特許文献2,Rossiら、「Ribozymes as Anti−HIV−1 Therapeutic Agents:Principles,Application,and Problems」Aids Research and Human Retrovirus 8:183:189(1992):非特許文献3,Goodchild,「Enhancement of ribozyme catalytic activity by a contiguous oligodeoxynucleotide(facilitator)and by 2’−O−methylation」,Nucleic Acids Research 20:4607−4612(1992):非特許文献4 and Kinchingtonら、「A comparison of gag,pol and rev antisense oligonucleotides as inhibitors of HIV−1」Antiviral Research 17:53−62(1992):非特許文献5を参照のこと。それらは、本明細書中に参考として明確に援用される。逆転写酵素によってオリゴヌクレオチドの伸長が妨げられ、3’末端でブロックされるオリゴヌクレオチドもまた、インヒビター(例えば、Austermannら、「Inhibition of human immunodeficiency virus type 1 Rreverse transcriptase by 3’−blocked oligonucleotide」Biochmical Pharmacology 43(12):2581−2589(1992):非特許文献6を参照のこと)として考えられる。上述のそれぞれの参考文献は、その全体が、本明細書中に明確に援用される。
【0011】
オリゴヌクレオチドは、抗HIV活性のために調査されてきた。例えば、Idrissら、(1994),Journal of Enzyme Inhibition 8(2)97−112:非特許文献7は、HIV RT活性のインヒビターとしてのヘアピン構造のDNAオリゴヌクレオチドを開示し、これに対し、Kuwasakiら、(1996)Biochemical and Biophysical Research Communications 228:623−631:非特許文献8は、抗HIV活性を有するデオキシ−ヌクレオチドおよび2’−メトキシ−ヌクレオチドの混合物を含むアンチセンスヘアピンオリゴヌクレオチドを開示する。
【0012】
ポリメラーゼ活性を調節するためのこれらの努力および他の努力に逆らうことなく、当該分野に、ポリメラーゼの望ましくない活性を妨げるための物質および方法の必要性が残るが、そのような合成が望ましい場合、ポリメラーゼによる核酸の合成が可能である。これら必要性および他の必要性は、本発明によって満たされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Goodchildら、「Inhibition of human immunodeficiency virus replication by antisense oligodeoxynucleotides」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5507−5511(1988)
【非特許文献2】Matsukaraら、「Regulation of viral expression of human immunodeficiency virus in vitro by anantisense phosphorothioate oligodeoxynucleotide against rev(art/trs)in chronically infected cells」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:4244−4248(1989)
【非特許文献3】Rossiら、「Ribozymes as Anti−HIV−1 Therapeutic Agents:Principles,Application,and Problems」Aids Research and Human Retrovirus 8:183:189(1992)
【非特許文献4】Goodchild,「Enhancement of ribozyme catalytic activity by a contiguous oligodeoxynucleotide(facilitator)and by 2’−O−methylation」,Nucleic Acids Research 20:4607−4612(1992)
【非特許文献5】Kinchingtonら、「A comparison of gag,pol and rev antisense oligonucleotides as inhibitors of HIV−1」Antiviral Research 17:53−62(1992)
【非特許文献6】Austermannら、「Inhibition of human immunodeficiency virus type 1 Rreverse transcriptase by 3’−blocked oligonucleotide」Biochmical Pharmacology 43(12):2581−2589(1992)
【非特許文献7】Idrissら、(1994),Journal of Enzyme Inhibition 8(2)97−112
【非特許文献8】Kuwasakiら、(1996)Biochemical and Biophysical Research Communications 228:623−631
【発明の概要】
【0014】
(発明の要旨)
本発明は、特定の条件下で(好ましくは、周囲温度でおよび/または細胞中で)核酸合成を阻害するか、減少するか、実質的に減少するかまたは排除するための材料および方法を提供し、そのような合成が望ましい場合、合成が可能である。
【0015】
好ましい局面において、本発明は、反応の準備(set up)中(例えば、インビトロ)の、そして好ましくは、核酸合成の最適反応条件が達成される前の、核酸合成の防止および阻害するのための方法に関する。準最適条件または反応準備期間でのそのような合成の阻害は、非特異的核酸合成を防止または減少させる。一旦、反応準備が完成し、そして最適条件に達すれば、核酸合成は開始され得る。
【0016】
別の局面において、本発明は、細胞に、本発明のオリゴヌクレオチドまたはインヒビター(好ましくは、5’部分および3’部分を含むそのオリゴヌクレオチド)を導入することによって、細胞内(例えば、インビボ)のポリメラーゼ酵素を阻害する方法に関し、ここで、その3’部分は、1つ以上のデオキシヌクレオチドまたはその誘導体を含み、そして5’部分は1つ以上のリボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、ここで、その3’部分のすべてまたは一部は、その5’部分の全部または一部に塩基対形成し得、ポリメラーゼの阻害を生じる条件下で、前記細胞をインキュベートし得る。いくつかの実施形態では、リボヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドの5’部分は、5’オーバーハング(overhang)を形成する。別の局面では、そのオリゴヌクレオチドは、ヘアピンの形態で存在し、そして好ましくは、そのヘアピンの基部は、一連の連続するリボヌクレオチド塩基対を含むか、または一連の連続するデオキシリボヌクレオチドとハイブリダイズする。いくつかの実施形態では、ポリメラーゼは、逆転写酵素であって、そして好ましくは、HIV逆転写酵素であり得る。
【0017】
別の局面では、本発明は、ウイルス(このウイルスは、逆転写酵素を含み、そして複製のための逆転写酵素の活性を必要とする)を提供することによって、そして前記逆転写酵素を、逆転写酵素活性を阻害する本発明のオリゴヌクレオチドまたはインヒビターと接触させることによって、ウイルスの複製を阻害する方法を提供し、従って、そのウイルスの複製を阻害する。いくつかの実施形態では、そのオリゴヌクレオチドは、5’部分および3’部分を含み、ここで、その3’部分は、1つ以上のデオキシリボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、そして、前記5’部分は、1つ以上のリボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、そして、ここで、その3’部分の全部または一部は、その5’部分の全部または一部に塩基対形成し得る。いくつかの実施形態では、リボヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドの5’部分は、5’オーバーハングを形成する。別の局面では、そのオリゴヌクレオチドは、ヘアピンの形態で存在し、そして好ましくは、一連の連続するリボヌクレオチド塩基対を含むヘアピンの基部であるか、または一連の連続したデオキシリボヌクレオチドとハイブリダイズする。いくつかの実施形態では、そのウイルスは、HIVである。いくつかの実施形態では、接触させることは、細胞にそのオリゴヌクレオチドを導入することを含む。
【0018】
さらに具体的には、本発明は、ポリメラーゼ活性を有するポリペプチド(例えば、DNAポリメラーゼ、逆転写酵素など)に結合または相互作用する、抑制的な核酸またはオリゴヌクレオチドを導入することによって、核酸合成を制御することに関する。従って、そのような抑制的核酸またはオリゴヌクレオチドは、ポリメラーゼに結合し得、そしてポリメラーゼまたは逆転写酵素と、プライマー/テンプレートとの結合または相互作用を妨げることによって、核酸合成に干渉し得る。その分子が目的の重合化酵素と結合または相互作用し得る限り、任意の形態の核酸分子が使用され得るが、好ましくは、そのような抑制的な核酸分子は、二本鎖分子である。そのような分子は、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、二本鎖DNA、二本鎖RNAおよびDNA/RNA二本鎖分子であり得る。誘導性核酸分子はまた、例えば、タンパク質核酸(PNA)、連結核酸(LNA、Proligo,Boulder Co.より入手可能)および改変ヌクレオチドを含む核酸分子として使用され得る。さらに、その核酸分子は、任意の形態または位相(例えば、直線構造、環状構造、高次コイル構造、1つ以上の一本鎖部分を有する二本鎖構造、ヘアピン構造)、または他の分子(例えば、ペプチドまたはタンパク質など)との複合型で存在し得る。そのような抑制的核酸は、好ましくは、二本鎖核酸分子(それは、1つ以上の内部部分、5’および3’の一本鎖部分を含み得る)、または二本鎖形態に折り畳まれ得る(すなわち、1つ以上のヘアピンループを形成する)一本鎖核酸分子を含み、結果として、核酸分子の二本鎖部分の少なくとも1つは、ポリメラーゼ活性を有するポリペプチドに結合し得る。1つの局面では、本発明で使用されるその核酸分子は、高い親和性で、ポリメラーゼ活性を有するポリペプチド(例えば、DNAポリメラーゼまたは逆転写酵素など)と結合する。一旦、そのポリメラーゼまたは逆転写酵素が、抑制的な核酸と複合体化すると、プライマー/テンプレート基質にアニーリングするためには利用できず、実質的に減少したポリメラーゼまたは逆転写酵素活性を生じるか、または全く活性を生じない。いくつかの実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、5’および3’部分を含み得、ここで、その3’部分は、1つ以上のデオキシリボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、そして、その5’部分は、1つ以上のリボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、そして、ここで、その3’部分の全てまたは一部は、その5’部分の全てまたは一部に塩基対形成し得る。いくつかの実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、5’部分を含み得、ここで、リボヌクレオチドを含む5’部分は、5’オーバーハング部分を形成し得る。いくつかの実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、伸長可能とならないように、1つ以上の改変を含み得る。いくつかの実施形態では、この改変は、大部分の3’のヌクレオチドであり得る。いくつかの実施形態では、この改変は、3’ヒドロキシルの大部分の3’ヌクレオチドのリン酸化である。本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば、1つ以上のヌクレアーゼによる消化または分解に耐性となるために、1つ以上の改変を含み得る。いくつかの実施形態では、この改変は、1つ以上のホスホロチオエートの部分の取り込みであり得る。いくつかの実施形態では、この改変は、1つ以上のヒドロキシル基のアルキル化を含み得る。
【0019】
従って、阻害核酸は、反応混合物(ここで、阻害核酸は、ポリメラーゼに競合的に結合または相互作用する)中に好ましくは導入され、それにより、特定の反応条件下で、ポリメラーゼによる合成を阻害する。従って、インヒビターおよびポリメラーゼの相互作用または結合は、好ましくは、インヒビター/ポリメラーゼ複合体の形成を生じる。
【0020】
本発明の核酸によるポリメラーゼ活性または核酸合成の阻害は、好ましくは低減されるか、実質的に低減されるか、阻害されるか、または排除され、その結果、核酸合成は、反応条件が変化する場合、例えば、温度が上昇される場合、進行し得る。好ましい局面において、変化した条件は、ポリメラーゼと相互作用してポリメラーゼの放出および/または阻害核酸の変性または不活性化を引き起こす、阻害核酸の能力に影響し、このポリメラーゼを利用可能にして、核酸合成を進行させることを可能にする。1つの局面において、阻害核酸およびプライマー/テンプレート基質は、ポリメラーゼと競合的に相互作用して、合成を阻害する。変化した条件下で、競合的な相互作用は低減され、その結果、核酸合成が生じる。別の局面において、変化した条件は、2本鎖阻害核酸分子(ヘアピンを含む)を生じ、変性または融解して、その結果ポリメラーゼと実質的に結合または相互作用しない1本鎖分子を形成する。別の局面において、条件(すなわち、温度が、例えば周囲温度に対して低下する)における第2の変化は、本発明の阻害核酸分子が、核酸合成を再活性化または再び阻害することを可能にする。つまり、インヒビターは、変化した条件下でポリメラーゼまたは逆転写酵素と再び相互作用または結合し得る。例えば、変化した条件は、インヒビターがポリメラーゼまたは逆転写酵素と、結合または相互作用する能力を効率的に増強する2本鎖分子を形成することを可能にし得る。従って、本発明通りに、インヒビターは、さらなるインヒビターを添加する必要なく、複数の調節または反応条件における変化(すなわち、温度変化)を必要とし得る合成反応(単一または複数)の間に、再利用または再利用可能であり得る。
【0021】
従って、本発明は、1つ以上の核酸分子を合成するための方法に関し、これは(a)1つ以上の核酸テンプレート(これは、cDNA分子のようなDNA分子、またはmRNA分子のようなRNA分子であり得る)を、1つ以上のプライマー、および1つ以上の阻害核酸またはポリメラーゼ活性を有する酵素と結合または相互作用することが可能な本発明の組成物と混合すること、ならびに(b)全てまたは一部のテンプレートに相補的な1つ以上の第1の核酸分子を合成するのに十分な条件下で、核酸ポリメラーゼ活性を有する1つ以上の酵素(例えば、DNAポリメラーゼまたは逆転写酵素)の存在中で、その混合物をインキュベートすること、を包含する。あるいは、この方法は、一つ以上の阻害核酸を、1つ以上のポリメラーゼと混合すること、および1つ以上の核酸分子を合成するのに十分な条件下で、このような混合物をインキュベートすることを包含し得る。このような条件は、1つ以上のヌクレオチドおよび1つ以上の核酸合成緩衝液の使用を含み得る。本発明のこのような方法は、必要に応じて、1つ以上のさらなる工程(例えば、第1の核酸分子の全てまたは一部分に相補的な第2の核酸分子を作製するのに十分な条件下で、合成された第1の核酸分子をインキュベートする工程)を包含し得る。これらのさらなる工程はまた、本発明の阻害核酸分子の使用を含み得る。本発明はまた、これらの方法により合成される核酸分子に関する。
【0022】
関連する局面において、核酸合成方法は、(a)1つ以上のポリメラーゼを、1つ以上の本発明の阻害核酸分子と混合すること、および(b)このようなポリメラーゼのポリメラーゼ活性を、不活性化または実質的に阻害もしくは低減するのに十分な条件下で、このような混合物をインキュベートすること、を包含し得る。別の局面において、このようなインキュベーションは、このような核酸合成を阻害するかまたは妨げるのに十分な条件下にある。
【0023】
本発明はまた、1つ以上の核酸分子を増幅するための方法に関し、この方法は、(a)1つ以上の核酸テンプレートを、1つ以上のプライマー、およびポリメラーゼ活性を有する酵素と結合または相互作用可能な本発明の、1つ以上の阻害核酸分子または組成物と混合すること、ならびに(b)テンプレートの全てまたは一部分に相補的な1つ以上の核酸分子を増幅するのに十分な条件下で、核酸ポリメラーゼ活性を有する1つ以上の酵素(例えば、DNAポリメラーゼ)の存在中で、その混合物をインキュベートすること、を包含する。さらに詳細には、本発明は、DNA分子を増幅する方法に関し、この方法は、以下:(a)第1および第2のプライマー(ここで上記第1のプライマーは、上記DNA分子の第1鎖の3’末端内か、またはその3’末端においてか、またはその3’末端付近の配列に相補的であり、そして上記第2のプライマーは、上記DNA分子の第2鎖の3’末端内か、またはその3’末端においてか、またはその3’末端付近の配列に相補的である)、ならびに本発明の1つ以上の阻害核酸または組成物(例えば、ポリメラーゼ活性を有する酵素に対して親和性を有する核酸)を提供すること;(b)上記第1のプライマーを上記第1鎖に対して、および上記第2のプライマーを上記第2鎖に対してハイブリダイズすること;(c)上記第1鎖の全てまたはその一部分に相補的な第3のDNA分子および上記第2鎖の全てまたはその一部分に相補的な第4のDNA分子が合成されるような条件下で、混合物をインキュベートすること;(d)上記第1鎖および第3鎖、ならびに上記第2鎖および第4鎖を変性すること;ならびに(e)工程(a)〜(c)または(d)を、1回以上繰り返すことを包含する。このような条件は、1つ以上のポリメラーゼ、1つ以上のヌクレオチドおよび/または1つ以上の緩衝塩の存在下でのインキュベーションを含み得る。本発明はまた、これらの方法により増幅される核酸分子に関する。
【0024】
関連する局面において、核酸増幅方法は、(a)1つ以上のポリメラーゼを、本発明の一つ以上の阻害核酸分子と混合すること、および(b)このようなポリメラーゼのポリメラーゼ活性を不活性化または実質的に阻害もしくは低減するのに十分な条件下で、このような混合物をインキュベートすること、を包含し得る。別の局面において、このようなインキュベーションは、このような核酸の増幅を阻害または妨げるのに十分な条件下である。
【0025】
本発明はまた、以下を含む、核酸分子を配列決定する方法に関する:(a)配列決定される核酸分子を、1つ以上のプライマー、本発明の1つ以上の阻害核酸または組成物、1つ以上のヌクレオチドおよび1つ以上の終結薬剤を混合し、混合物を形成すること;(b)配列決定される分子の全てまたは一部分に相補的な分子の集団を合成するのに十分な条件下で、この混合物をインキュベートすること;ならびに(c)配列決定される分子の全てまたは一部分のヌクレオチド配列を決定するためにその集団を分離すること。本発明は、より詳細には、以下を含む、核酸分子を配列決定する方法に関する:(a)本発明の阻害核酸または組成物(これに対して、ポリメラーゼ活性を有する酵素は親和性)、1つ以上のヌクレオチド、および1つ以上の終結薬剤を提供すること;(b)プライマーを、第1の核酸分子に対してハイブリダイズすること;(c)上記第1の核酸分子に相補的な核酸分子のランダムな集団を合成するのに十分な条件下で、工程(b)の混合物をインキュベートし、ここで上記合成された分子は、上記第1の分子より長さが短く、そして上記合成された分子は、それらの3’末端において終結ヌクレオチドを含む、こと;および(d)大きさによって上記合成された分子を分離し、その結果上記第1の核酸分子のヌクレオチド配列の少なくとも一部分が決定され得る、こと。このような終結ヌクレオチドとしては、ジデオキシリボヌクレオシド三リン酸(例えば、ddNTP、ddATP、ddGTP、ddITPまたはddCTP)が挙げられる。このような条件としては、1つ以上のポリメラーゼおよび/または緩衝塩の存在下でのインキュべーションが挙げられ得る。
【0026】
関連する局面において、核酸配列決定方法は、(a)本発明の1つ以上の阻害核酸分子と、1つ以上のポリメラーゼを混合すること、および(b)このようなポリメラーゼのポリメラーゼ活性を不活性化または実質的に阻害するのに十分な条件下で、このような混合物をインキュベートすること、を包含し得る。別の局面において、このようなインキュベーションは、このような核酸配列決定を阻害または妨げるのに十分な条件下である。
【0027】
本発明はまた、本発明の阻害核酸および本発明の阻害核酸を含む組成物、これらの核酸分子を含むベクター(これは発現ベクターであり得る)、およびこれらの核酸分子またはベクターを含む宿主細胞に関する。本発明の組成物はまた、本発明の方法を行うために作製されるか、またはこのような方法を行う間に産生される組成物を含み得る。本発明はまた、薬学的組成物に関する。このような組成物は、本発明の1つ以上の阻害核酸分子またはオリゴヌクレオチドならびに1つ以上のヌクレオチド、1つ以上のポリメラーゼ(例えば、高温性もしくは中温性のDNAポリメラーゼおよび/または逆転写酵素)、1つ以上の適切な緩衝液または緩衝塩、1つ以上のプライマー、1つ以上の終結薬剤、1つ以上のウイルス、1つ以上の細胞、および本発明の方法により産生される1つ以上の増幅または合成された核酸分子からなる群より選択される少なくとも1つの他の成分を含み得る。本発明はまた、宿主細胞による核酸の産生を支持する条件下で、上記の宿主細胞を培養すること、およびその核酸を単離することを含む、阻害核酸を産生する方法に関する。本発明はまた、合成方法により産生される核酸に関する。本発明のこのような阻害核酸分子はまた、標準的な化学合成技術により作製され得る。
【0028】
関連する局面において、本発明は、ポリメラーゼ活性のインビボでの阻害についての材料および方法を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、生物への本発明の阻害オリゴヌクレオチドの導入、それによって生物内に存在するポリメラーゼを阻害することを提供する。いくつかの実施形態において、ポリメラーゼは、逆転写酵素、好ましくはウイルス性逆転写酵素であり得る。いくつかの実施形態において、本発明は、逆転写酵素を阻害するオリゴヌクレオチドを引き起こす条件下で、ウイルス性逆転写酵素を発現する細胞またはウイルスをこの阻害オリゴヌクレオチドと接触させることを含む、ウイルス逆転写酵素の阻害についての方法を提供する。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、周知技術により、細胞によってオリゴヌクレオチドを取り込ませるのに十分な条件下で、細胞と接触される。いくつかの実施形態において、本発明は、オリゴヌクレオチドを細胞により取り込ませ、かつ逆転写酵素を阻害させる条件下で、ウイルスのライフサイクルを完了するために逆転写酵素活性を必要とするそのウイルスで感染された細胞を、阻害オリゴヌクレオチドと接触させ、それによってウイルスの増殖を阻害することを包含する、ウイルスの増殖を阻害する方法を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、オリゴヌクレオチドを細胞により取り込ませ、かつ逆転写酵素を阻害させる条件下で、生物または被験体の感染された細胞を、阻害オリゴヌクレオチドを含む組成物と接触させること、それによって生物体を処置することを包含する、ウイルスのライフサイクルを完了するために逆転写酵素活性を必要とするそのウイルスで感染された生物または被験体を処置する方法を提供する。
【0029】
本発明はまた、核酸分子の合成、配列決定および増幅における使用のためキットに関し、これは、本発明の1つ以上の阻害核酸または組成物を含む一つ以上の容器を備える。本発明のこれらのキットは、1つ以上のヌクレオチド、1つ以上のポリメラーゼ(例えば、高温性もしくは中温性のDNAポリメラーゼおよび/または逆転写酵素)、1つ以上の適切な緩衝液、1つ以上のプライマーおよび1つ以上のターミネーター薬剤(例えば、1つ以上のジデオキシヌクレオチド)からなる群より選択される1つ以上のさらなる成分を必要に応じて含み得る。本発明はまた、本発明の阻害核酸を含むウイルス複製を阻害するキットまたはウイルス感染を処置するためのキットに関する。このようなキットはまた、本発明の方法を行うための指示書またはプロトコルを備え得る。
【0030】
本発明の他の好ましい実施形態は、本発明の以下の図面および説明、ならびに請求の範囲を考慮して、当業者に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】Tne DNAポリメラーゼの活性は、定性的に決定された。パネルA:インヒビターAの非存在下における決定、パネルB:インヒビターの存在下における決定。左から右へ、各パネルの5つのレーンは、反応がクエンチされる前に経過する、15秒、30秒、1分、2分および5分の時点である。PおよびCは、それぞれ、プライマーの位置、およびコントロールレーンを示す。インヒビターAは、その末端に、ジデオキシヌクレオチドを含まなかった。
【図2】2.7Kb標的DNA配列(pUC19)の増幅は、テンプレートの5つの異なる希釈において実施された。標的は、Tne DNAポリメラーゼにより増幅された。Tneポリメラーゼ(85nM(例えば、1ユニット)および42.5nM(例えば、0.5ユニット))の2つの異なる濃度ならびにそれぞれインヒビターB複合体(ポリメラーゼ濃度に対して150倍の過剰なヘアピンBを使用する)が、各増幅条件について使用された。レーン1、2、3、4および5における標的DNAの濃度は、それぞれ、100pg、20pg、2pg、0.2pgおよび0.02pgである。インヒビターBは、その末端に、ジデオキシヌクレオチドを含まなかった。
【図3】1Kb、3Kbおよび5Kb標的DNA配列(ヒトゲノム供給源)は、それぞれ、パネルA、BおよびCにおいて表されるように、Tne(85nM(例えば、1ユニット)およびTaq(例えば、1ユニット))DNAポリメラーゼにより増幅された。a、b、cおよびdとして表される各パネルの4つのレーンは、それぞれ、Tne(+125倍過剰なインヒビターA)、Tne(+50倍過剰なインヒビターA)、Tne(インヒビターなし)およびTaq(インヒビターなし)である。インヒビターAは、3’末端ジデオキシヌクレオチド(すなわち、ddT)を含んだ。
【図4】5Kbおよび15Kb標的DNA配列の増幅(ヒトゲノム供給源)が、Tne DNAポリメラーゼ(8.5nM(例えば、0.1ユニット))を用いて実施された。5つのパネルA、B、C、DおよびEは、反応条件(それぞれ、Tne(インヒビターなし)、Tne(+50倍過剰なインヒビター)、Tne(+150倍過剰なインヒビター)、Tne(+300倍過剰なインヒビター)、Tne(+750倍過剰なインヒビター))を表す。各パネルについての2つのレーン(aおよびb)は、5Kbおよび15Kbの標的サイズの増幅を表す。このアッセイについて、末端ジデオキシヌクレオチドを含まないインヒビターBが、使用された。
【図5】3Kb標的DNA配列の増幅(ヒトゲノム供給源)が、1ユニットTaq DNAポリメラーゼを用いて実施された。3つのパネルA、BおよびCは、反応条件(AおよびBについては、同じプライマー配列が使用された)を表す。I)PCRミックスは、94℃にて1分間インキュベートされ、そして氷上に設定され、ミスプライミングを強制した。全てのPCR反応が、30分間25℃にて設定され、その結果非特異的DNA合成を増大した。各条件は、4つのレーン(レーンa(Taqコントロール)、レーンb(Taq+16nMインヒビター)、レーンc(Taq+32nMインヒビター)およびレーンd(Taq+64nMインヒビター))を有する。末端ジデオキシヌクレオチドを含まないインヒビターBが使用された。
【図6A】図6Aは、周囲温度(左のバー)、37℃(中央のバー)および55℃(右のバー)において、核酸インヒビターの非存在および存在下で、ThermoscriptTM Iのポリメラーゼ活性アッセイの結果を示すグラフである。TSは、ThermoscriptTM Iにより開始されるポリメラーゼ反応を示し、TS−Dは、核酸インヒビターDの存在下で、ThermoscriptTM Iにより開始されるポリメラーゼ反応を示し、TS−Eは、核酸インヒビターEの存在下で、ThermoscriptTMにより開始されるポリメラーゼ反応を示し、そしてTS−Hは、核酸インヒビターHの存在下で、ThermoscriptTM Iにより開始されるポリメラーゼ反応を示す。
【図6B】図6Bは、周囲温度(左のバー)、37℃(中央のバー)および55℃(右のバー)において、核酸インヒビターの非存在および存在下で、ThermoscriptTM Iのポリメラーゼ活性アッセイの結果を示すグラフである。TSは、ThermoscriptTM Iにより開始されるポリメラーゼ反応を示し、TS−Cは、核酸インヒビターCの存在下で、ThermoscriptTM Iにより開始されるポリメラーゼ反応を示し、TS−Hは、核酸インヒビターHの存在下で、ThermoscriptTM Iにより開始されるポリメラーゼ反応を示し、TS−Eは、核酸インヒビターEの存在下で、ThermoscriptTM Iにより開始されるポリメラーゼ反応を示し、TS−Fは、核酸インヒビターFの存在下で、ThermoscriptTM Iにより開始されるポリメラーゼ反応を示し、そしてTS−Gは、核酸インヒビターGの存在下で、ThermoscriptTM Iにより開始されるポリメラーゼ反応を示す。
【図7】図7は、NF2遺伝子の1.6kb(A)、2kb(B)および2.6kb(C)フラグメントを用いた増幅反応の結果を示すアガロースゲルの写真である。各パネルにおいて、レーンaは、Taqポリメラーゼ単独を使用した増幅であり、レーンbは、インヒビターHPHH4Sspa3の存在下で、1.2:1のモル比のインヒビター:ポリメラーゼにおける増幅反応であり、そしてレーンcは、白金Taqを使用した増幅である。
【図8】図8は、示された温度におけるdNTP取り込みアッセイの結果を示す棒グラフである。各温度において、濃い黒の長方形は、Taqポリメラーゼ単独を用いて得られる結果を表し、ストライプの長方形は、インヒビターHPHH4Sspa3を用いて、モル比2:1のインヒビター:ポリメラーゼで得られた結果を表し、白の長方形は、同じインヒビーを用いて、モル比7.5:1のインヒビター:ポリメラーゼにおいて得られる結果を表す。
【図9】図9は、示されたモル比で存在するインヒビターHPHH4Sspa3によるTaqポリメラーゼの用量依存阻害を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(発明の詳細な説明)
(定義)
以下の説明において、組換えDNA技術に使用される多くの用語が、広範に使用される。明細書および特許請求の範囲(このような用語を与えられる範囲を含む)に関して、より明確かつ一貫した理解を提供するために、以下の定義を提供する。
【0033】
(プライマー)本明細書中で使用される場合、「プライマー」は、DNA分子の増幅または重合の間にヌクレオチドモノマーの共有結合によって伸長される、一本鎖オリゴヌクレオチドをいう。
【0034】
(テンプレート)用語「テンプレート」は、本明細書中で使用される場合、増幅、合成または配列決定される、二本鎖または一本鎖の核酸分子をいう。二本鎖分子の場合、第1の鎖および第2の鎖を形成するための鎖の変性は、好ましくは、これらの分子が増幅、合成、または配列決定され得る前に実施されるか、あるいは、二本鎖分子は、テンプレートとして直接使用され得る。一本鎖テンプレートに関して、テンプレートの一部に相補的なプライマーは、適切な条件下でハイブリダイズされ、次いで1つ以上のポリメラーゼが、このテンプレートの全体または一部に相補的な核酸分子を合成し得る。あるいは、二本鎖テンプレートに関して、1つ以上のプロモーター(例えば、SP6、T7またはT3プロモーター)は、1つ以上のポリメラーゼと組合せて使用され、テンプレートの全体または一部に相補的な核酸分子を作製し得る。本発明に従って新規に合成された分子は、本来のテンプレートに等しい長さかまたはそれよりも短い長さであり得る。
【0035】
(組込み)用語「組込み」は、本明細書中で使用される場合、DNAおよび/もしくはRNA分子またはプライマーの部分になることを意味する。
【0036】
(増幅)本明細書中で使用される場合、「増幅」は、ポリメラーゼの使用によって、ヌクレオチド配列のコピー数を増加するための任意のインビトロの方法をいう。核酸増幅は、DNAおよび/もしくはRNA分子またはプライマーへのヌクレオチドの組込みを生じ、それによってテンプレートに相補的な新規分子を形成する。形成された核酸分子およびそのテンプレートは、さらなる核酸分子を合成するためのテンプレートとして使用され得る。本明細書中で使用される場合、1つの増幅反応は、多く回の複製からなり得る。DNA増幅反応としては、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が挙げられる。1回のPCR反応は、DNA分子の変性および合成の5〜100「サイクル」からなり得る。
【0037】
(ヌクレオチド)本明細書中で使用される場合「ヌクレオチド」は、塩基−糖−リン酸塩の組み合わせをいう。ヌクレオチドは、核酸配列(DNAおよびRNA)のモノマーユニットである。ヌクレオチドはまた、このようなヌクレオチドの一リン酸塩、二リン酸塩、および三リン酸塩の形態を含み得る。用語ヌクレオチドとしては、リボヌクレオシド三リン酸ATP、UTP、CTG、GTPおよびデオキシリボヌクレオシド三リン酸塩(例えば、dATP、dCTP、dITP、dUTP、dGTP、dTTP、またはそれらの誘導体)が挙げられる。このような誘導体としては、例えば[αS]dATP、7−デアザ(deaza)−dGTPおよび7−デアザ−dATP、ならびにヌクレオチド誘導体(これは、これを含む核酸分子にヌクレアーゼ耐性を与える)が挙げられる。用語ヌクレオチドはまた、本明細書中で使用される場合、ジデオキシリボヌクレオシド三リン酸塩(ddNTP)およびそれらの誘導体をいう。ジデオキシヌクレオシド三リン酸塩の例示された例としては、ddATP、ddCTP、ddGTP、ddITP、およびddTTPが挙げられるが、これらに限定されない。本発明に従って、「ヌクレオチド」は、非標識であり得るか、または周知技術によって検出可能に標識され得る。検出可能な標識としては、例えば、放射性同位元素、蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識および酵素標識が挙げられる。
【0038】
(ブロッキング剤)「ブロッキング剤」は、ヌクレオチド(またはその誘導体)、改変されたオリゴヌクレオチドおよび/またはヌクレアーゼ活性によるこのような核酸分子の分解または消化を防止または阻害するために本発明の核酸インヒビターに取り込まれる1つ以上の他の改変物をいう。1つまたは複数のブロッキング剤は、核酸インヒビターの3’末端またはその付近、および/あるいは5’末端またはその付近で、本発明の核酸インヒビター内部に取り込まれ得る。好ましくは、このようなブロッキング剤は、直線インヒビター核酸分子については、このような分子の3’末端またはその付近、および/あるいは5’末端またはその付近、および/あるいは5’から3’へのエキソヌクレアーゼの好ましい切断位置に位置される(Lyamichev,V.,Brow,M.A.D.,およびDahlberg,J.E.,(1993)Science,260,778−783)。好ましくは、このようなブロッキング剤は、使用されるポリメラーゼまたは逆転写酵素に関連するか、あるいはこの合成反応中に存在し得るエキソヌクレアーゼ活性によって、インヒビター核酸分子の分解または消化を防止もしくは阻害する。例えば、本発明のブロッキング剤は、ポリメラーゼ(例えば、DNAポリメラーゼ)に関連する3’エキソヌクレアーゼ活性および/または5’エキソヌクレアーゼ活性によって、インヒビター核酸分子の分解(degredation)または消化を防止する。本発明に従う好ましいブロッキング剤としては、ジデオキシヌクレオチドおよびその誘導体(例えば、ddATP、ddCTP、ddGTP、ddITP、およびddTTP)が挙げられる。本発明に従う使用のための他のブロッキング剤としては、AZT、ホスファミド骨格(例えば、PNA)、3’−dNTP(例えば、コンジセピン(Condycepin))またはブロッキング基を(好ましくは3’位に)含む任意のヌクレオチドが挙げられるがこれらに限定されない。このようなブロッキング剤は、好ましくは、本発明の抑制性核酸の変化または消化から、エキソヌクレアーゼ活性(例えば、3’−エキソヌクレアーゼ活性)を阻害または防止するように作用する。いくつかの実施形態において、本発明のオリゴヌクレオチドの5’末端は、これを5’から3’へのエキソヌクレアーゼ活性に対して耐性にするために改変され得る。このような改変の1つは、さらなるヌクレオチドをオリゴヌクレオチドの5’末端に5’−5’連結で付加することであり得る(Koza.M.et al.,Journal of Organic Chemistry 56:3757を参照のこと)。これは、オリゴヌクレオチドの5’末端で生じ、これは3’を有する5’末端を生じる。別の局面において、このようなブロッキング剤は、好ましくは、本発明の抑制性核酸への改変または変化(例えば,ヌクレオチドの取り込み)により、ポリメラーゼのポリメラーゼ活性を阻害または防止する。
【0039】
(オリゴヌクレオチド)本明細書中で使用される場合、「オリゴヌクレオチド」は、1つのヌクレオチドのペントースの3’位と隣接ヌクレオチドのペントースの5’位との間のリン酸ジエステル結合によって結合され得る、共有結合したヌクレオチド配列を含む、合成的にまたは生物学的に生成した分子をいう。本明細書中で使用される場合、オリゴヌクレオチドは、天然の核酸分子(すなわち、DNAおよびRNA)、ならびに非天然分子または誘導体分子(例えば、ペプチド核酸、ホスホチオエートを含む核酸、ホスホネートを含む核酸など)を含むことが理解される。さらに、本発明のオリゴヌクレオチドは、改変されたかまたは天然に存在しない糖残基(すなわち、アラビノース(arabainose))、および/あるいは改変された塩基性残基を含み得る。オリゴヌクレオチドは、誘導体分子(例えば、種々の天然ヌクレオチド、誘導体ヌクレオチド、改変されたヌクレオチドまたはこれらの組合わせを含む核酸分)を含むことが理解される。従って、本発明の方法において有用な任意のオリゴヌクレオチドまたは他の分子は、この定義によって意図される。本発明のオリゴヌクレオチドはまた、この分子の、特定のタンパク質、酵素または基質との相互作用を防ぐブロッキング基を含み得る。
【0040】
(ヘアピン)本明細書中で使用される場合、用語「ヘアピン」は、オリゴヌクレオチドの1つ以上の部分が、オリゴヌクレオチドの1つ以上の他の部分と塩基対を形成するオリゴヌクレオチドの構造を示すために使用される。2つの部分が塩基対形成してオリゴヌクレオチドの二本鎖部分を形成する場合、この二本鎖部分はステムといわれ得る。従って、使用した相補的な部分の数に依存して、多数のステム(好ましくは、1〜10)が形成され得る。さらに、1つ以上のステムの形成は、好ましくは、ヘアピン分子中に1つ以上のループ構造の形成を可能とする。別の局面において、1つ以上のループ構造のいずれかが、ループの内の1つ以上の部位で切断またはニック形成され得るが、好ましくは、少なくとも1つのループはこのように切断またはニック形成されない。オリゴヌクレオチドの配列は、ヌクレオチド(これが塩基対形成して、約3ヌクレオチド〜約100以上のヌクレオチド、約3ヌクレオチド〜約50ヌクレオチド、約3ヌクレオチド〜約25ヌクレオチド、および約3〜約10ヌクレオチドのステムを形成する)の数を変化するように選択され得る。さらに、このオリゴヌクレオチドの配列は、ヌクレオチド(これは、0ヌクレオチド〜約100以上のヌクレオチド、0ヌクレオチド〜約50ヌクレオチド、0ヌクレオチド〜約25ヌクレオチド、または0〜約10ヌクレオチドの塩基対を形成しない)の数を変化するように変化され得る。塩基対形成するオリゴヌクレオチドの2つの部分は、オリゴヌクレオチドの配列中のどこにでも位置し得るか、またはかなり多数の位置であり得る。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドの1つの塩基対形成部分は、オリゴヌクレオチドの3’末端を含み得る。いくつかの実施形態において、1つの塩基対形成部分は、オリゴヌクレオチドの5’末端を含み得る。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドの1つの塩基対形成部分は、3’末端を含み得るが、他方、他の塩基対形成部分は5’末端を含み得、そして、塩基対が形成される場合、このオリゴヌクレオチドのステムは平滑末端である。他の実施形態において、オリゴヌクレオチドの塩基対形成部分の位置は、3’オーバーハング、5’オーバーハングを形成するように選択され得、および/または3’の大部分のヌクレオチドも5’の大部分のヌクレオチドも塩基対形成に関係しないように選択され得る。
【0041】
(ハイブリダイゼーション)用語「ハイブリダイゼーション」および「ハイブリダイズする」は、二本鎖分子を得るための2つの相補的な一本鎖核酸分子(RNAおよび/またはDNAおよび/またはPNA)の塩基対形成をいう。本明細書中で使用される場合、2つの核酸分子はハイブリダイズされ得るが、塩基対形成は、完全に相補的ではない。従って、ミスマッチの塩基は、2つの核酸分子のハイブリダイゼーションを妨げない。ただし、当該分野で周知の適切な条件が使用される。好ましい局面において、二本鎖抑制性分子は、ハイブリダイズする相補的な一本鎖分子が分離することを可能にするような特定の条件下で変性される。形成した一本鎖分子は、ポリメラーゼと相互作用するか、またはこれと結合しないか、あるいは対応する二本鎖分子と比較して減少した効率でポリメラーゼと相互作用するか、またはこれと結合する。
【0042】
(ユニット)用語「ユニット」は、本明細書中で使用される場合、酵素の活性をいう。例えば、DNAポリメラーゼをいう場合、1ユニットの活性は、標準的にプライムされたDNA合成条件下で30分間、酸不溶性物質(すなわち、DNAまたはRNA)に、10ナノモルのdNTPを取り込む酵素の量である。
【0043】
(ウイルス)本明細書中で使用される場合、そのライフサイクルを完了するために逆転写酵素活性を必要とするウイルスとしては、以下を含むレトロウイルス科ファミリーの任意のメンバーが挙げられるが、これらに限定されないことが理解される:ヒト免疫不全ウイルス、ウシ免疫不全ウイルス、ウシ白血病(leuukemia)ウイルス、ヒトTリンパ増殖性ウイルス、ヤギ関節炎−脳炎ウイルス、ウマ感染性貧血ウイルス、ネコ免疫不全ウイルス、ネコ肉腫および白血病ウイルス、ヒツジのマエディ/ビスナウイルス、マウス乳腺癌ウイルス、サル免疫不全ウイルスおよび当業者に公知の他のレトロウイルス。
【0044】
(ベクター)用語「ベクター」は、本明細書中で使用される場合、プラスミド、ファージミド、コスミドまたはファージの核酸あるいは宿主細胞中で自律的に複製可能であり得る他の核酸分子である。好ましくは、ベクターは、1または少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位によって特徴付けられ、この認識部位で、このような核酸配列が、ベクターの本質的な生物学的機能の損失なしに決定可能な様式で切断され得る。そしてその複製およびクローニングをもたらすために、このベクター内に核酸分子がスプライシングされ得る。クローニングベクターは、このクローニングベクターで形質転換された細胞の同定における使用に適切な1つ以上のマーカーをさらに含み得る。例えば、マーカーは、抗生物質耐性変化遺伝子であり、テトラサイクリン耐性またはアンピシリン耐性が挙げられるがこれらに限定されない。
【0045】
(発現ベクター)用語「発現ベクター」は、本明細書中で使用する場合、クローニングベクターに類似のベクターであるが、宿主への形質転換後、ベクターにクローン化された遺伝子の発現を増強し得るベクターをいう。このクローン化された遺伝子は、特定の制御配列(例えば、プロモーター配列)の制御下に、通常、配置される(すなわち作動可能に連結される)。
【0046】
(組換え宿主)用語「組換え宿主」は、本明細書中で使用する場合、発現ベクター、クローニングベクターまたは任意の他の核酸分子に所望のクローン化された遺伝子を含む、任意の原核微生物または真核生物微生物をいう。用語「組換え宿主」はまた、宿主の染色体または宿主のゲノムに所望の遺伝子を含むように遺伝的に操作された、これらの宿主細胞を含むことを意味する。
【0047】
(宿主)用語「宿主」は、本明細書中で使用される場合、複製可能な発現ベクター、クローニングベクターまたは本発明の抑制性核酸分子を含む任意の核酸分子のレシピエントである、任意の原核微生物または真核生物微生物をいう。この核酸分子は、構造遺伝子、プロモーターおよび/または複製起点を含み得るが、これらに限定されない。
【0048】
(プロモーター)用語「プロモーター」は、本明細書中で使用される場合、遺伝子の5’領域として一般的に記載され、開始コドンの近傍に位置するDNA配列をいう。プロモーター領域で、隣接遺伝子の転写が開始される。
【0049】
(遺伝子)用語「遺伝子」は、本明細書中で使用される場合、ポリペプチドまたはタンパク質の発現に必要な情報を含むDNA配列をいう。このDNA配列は、プロモーターおよび構造遺伝子、ならびにタンパク質の発現に関連する他の配列を含む。
【0050】
(構造遺伝子)用語「構造遺伝子」は、本明細書中で使用される場合、メッセンジャーRNAに転写されるDNA配列をいい、次いでこのメッセンジャーRNAは、特定のポリペプチドの特徴的なアミノ酸配列に翻訳される。
【0051】
(作動可能に連結される)用語「作動可能に連結される」は、本明細書中で使用される場合、プロモーターが、構造遺伝子によってコードされるポリペプチドの発現の開始を制御するために配置されることを意味する。
【0052】
(発現)用語「発現」は、本明細書中で使用される場合、遺伝子がポリペプチドを産生するプロセスをいう。発現は、遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)への転写、およびこのようなmRNAのポリペプチドへの翻訳を含む。
【0053】
(実質的に純粋)本明細書中で使用される場合、「実質的に純粋」は、所望の精製分子(例えば、タンパク質または核酸分子(本発明の抑制性核酸分子を含む))が、代表的に所望の分子に結合する混入物を本質的に含まないことを意味する。混入成分としては、本発明の抑制性または合成反応に干渉し得、および/または本発明の抑制性核酸分子(例えば、エキソヌクレアーゼおよびエンドヌクレアーゼを含むヌクレアーゼ)を分解または消化するか、あるいは本発明の方法によって産生した合成核酸分子または増幅核酸分子を分解または消化する化合物または分子が挙げられ得るがこれらに限定されない。
【0054】
(耐熱性)本明細書中で使用される場合、「耐熱性」は、熱による不活化に対してより耐性であるDNAポリメラーゼをいう。DNAポリメラーゼは、5’−3’方向でプライマーを伸長することによって一本鎖DNAテンプレートに相補的なDNA分子の形成を、合成する。中温性DNAポリメラーゼについてのこの活性は、熱処理によって不活化され得る。例えば、T5 DNAポリメラーゼ活性は、90℃の温度に30秒間、酵素を曝露することによって完全に不活化される。本明細書中で使用される場合、耐熱性DNAポリメラーゼ活性は、中温性DNAポリメラーゼよりも熱不活化に対してより耐性である。しかし、耐熱性DNAポリメラーゼは、熱不活化に完全に耐性である酵素をいうことは意味せず、従って、熱処理は、ある程度までDNAポリメラーゼ活性を減少し得る。耐熱性DNAポリメラーゼはまた、代表的に、中温性ポリメラーゼより高い最適温度を有する。
【0055】
(3’から5’へのエキソヌクレアーゼ活性)「3’から5’へのエキソヌクレアーゼ活性」は、当該分野で周知の酵素学的活性である。この活性は、しばしばDNAポリメラーゼと関連し、そして、DNA複製の「編集(editing)」または補正メカニズムと関連すると考えられる。
【0056】
「DNAポリメラーゼは、3’から5’へのエキソヌクレアーゼ活性を実質的に減少した」は、本明細書中で以下のいずれかとして定義される:(1)対応する非変異、野生型酵素の約10%または10%未満の、好ましくは約1%または1%未満の3’から5’へのエキソヌクレアーゼ活性を有する変異DNAポリメラーゼ、あるいは(2)約1ユニット/mgのタンパク質未満、または好ましくは約0.1ユニット/mgタンパク質または0.1ユニット/mgタンパク質未満の3’から5’へのエキソヌクレアーゼ比活性を有するDNAポリメラーゼ。3’から5’へのエキソヌクレアーゼの活性のユニットは、60分間37℃で10ナノモルの基質末端を可溶化する活性の量として定義される(「BRL 1989 Catalogue&Reference Guide」第5頁に記載されるように、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)によって、[3H]dTTPで標識されたλDNA 3’末端のHhaIフラグメントを用いてアッセイされた)。タンパク質は、Bradford,Anal.Biochem.72:248(1976)の方法によって測定される。比較手段として、pTTQ19−T5−2によってコードされる天然の野生型T5−DNAポリメラーゼ(DNAP)またはT5−DNAPは、約10ユニット/mgタンパク質の比活性を有するが、pTTPQ19−T5−2(Exo−)(米国特許第5,270,179号)によってコードされるDNAポリメラーゼは、約0.0001ユニット/mgタンパク質の比活性を有するか、または非改変酵素の比活性の0.001%を有する(105倍の減少)。本発明に従って使用されるポリメラーゼは、3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失し得るか、または実質的に減少され得る。
【0057】
(5’〜3’エキソヌクレアーゼ活性)
「5’〜3’エキソヌクレアーゼ活性」はまた、当該分野で周知の酵素活性である。この活性は、しばしば、DNAポリメラーゼ(例えば、E.coli PolIおよびTaq DNAポリメラーゼ)に関連する。
【0058】
「5’〜3’エキソヌクレアーゼ活性において実質的に減少されたポリメラーゼ」は、(1)対応する変異されてない野生型酵素のうちの約10%以下、または好ましくは約1%以下の5’〜3’エキソヌクレアーゼ活性を有する変異または改変されたポリメラーゼ、あるいは(2)約1ユニット/mgタンパク質未満、または好ましくは約0.1ユニット/mgタンパク質以下の5’〜3’エキソヌクレアーゼ特異的活性を有するポリメラーゼのいずれかとして本明細書中で定義される。
【0059】
3’〜5’エキソヌクレアーゼ活性および5’〜3’エキソヌクレアーゼ活性の両方は、配列決定ゲル上で観察され得る。活性な5’〜3’エキソヌクレアーゼ活性は、モノヌクレオチドを取り除くことによって配列決定ゲルにおいて異なるサイズの産物を産生し、かつ増殖プライマー(growing primer)の5’末端からより長い産物を産生する。3’〜5’エキソヌクレアーゼ活性は、配列決定ゲルにおいて放射標識されたプライマーの分解の後に測定され得る。したがって、これらの活性の相対量(例えば、野生型ポリメラーゼと変異体または改変されたポリメラーゼとを比較することによる)は、慣用的にすぎない実験を用いて測定され得る。
【0060】
(阻害性核酸)
本発明の核酸は、一本鎖核酸および二本鎖核酸(三本鎖分子(例えば、3重らせん)のような他の複数鎖の分子が使用され得るが)を含み、これには、DNA、RNA、PNA、LNA、または他の誘導核酸分子あるいはそれらの組み合わせから構成される核酸が挙げられる。阻害性核酸は、第1セットの条件(好ましくは、周囲温度)にて1つの部位を形成し得る配列を含み、その部位は、ポリメラーゼ活性を有する酵素を結合するための、合成または増幅において使用されるテンプレート/プライマー基質と競合し、かつ核酸合成または増幅のための第2セットの条件(好ましくは、上昇された温度)下であまり効率的でなく競合する。好ましくは、阻害性核酸の配列は、合成、増幅または配列決定反応において使用される、阻害されるプライマーに相補的ではない。認識されるように、他の核酸(天然の核酸、非天然の核酸、修飾された核酸など)は、本発明に従って選択されかつ使用され得る。このような選択は、結合研究および/または核酸合成阻害アッセイによって達成され得る。ヘアピン形成のための核酸配列の設計は、当業者により達成され得る(例えば、Antao,V.P.およびTinoco,I.Jr.,1992,Nucl.Acids Res.20:819−824を参照のこと)。好ましくは、核酸インヒビターは、ヌクレアーゼ耐性(3’〜5’エキソヌクレアーゼおよび5’〜3’エキソヌクレアーゼ)および/または重合化に対して不活性にされ得る。核酸をエキソヌクレアーゼおよび重合化に対して不活性にするための方法は、当該分野で公知であり、そして例えば、誘導ヌクレオチドを含み得る誘導核酸分子を用いること(例えば、ホスフェートよりむしろホスファミドおよび/またはホスホロチオエートバックボーンを用いること)、ならびに/または1以上のブロック因子の、本発明の阻害性核酸分子への添加をを含む。阻害性核酸は、好ましくは、二本鎖ステム(stem)と1以上のヘアピンループ構造を形成する。二本鎖ステムは、設計された、平滑末端および/または一本鎖突出を(例えば、5’末端および/または3’末端において)有し、その結果、ポリメラーゼの代表的なプライマー/テンプレート基質を模倣し得る。
【0061】
本発明の阻害性核酸は、好ましくは、ポリメラーゼまたは転写酵素の存在下でこのような合成、配列決定または増幅を防止または阻害するのに十分な合成、配列決定または増幅反応における最終濃度で本発明の組成物および方法において使用される。本発明の阻害性核酸の、ポリメラーゼまたは逆転写酵素に対する比は、使用されるポリメラーゼまたは逆転写酵素に依存して変化し得る。合成、配列決定または増幅反応のための阻害性核酸の、ポリメラーゼ/逆転写酵素に対するモル比は、約0.001〜100:1;0.01〜1000:1;0.1〜10,000:1;1〜100,000:1;1〜500,000:1;または1〜1,000,000:1の範囲であり得る。当然のことながら、このような阻害性核酸の本発明において使用するために適切なポリメラーゼ/逆転写酵素に対する他の適切な比は、当業者に明らかであるかまたは慣用的にすぎない実験を用いて測定される。
【0062】
本発明の阻害性核酸分子は、標準化学的オリゴヌクレオチド合成技術(例えば、当該分野で公知のホルホルアミダイトおよび他のもの、米国特許第5,529,756号を参照のこと)によって合成され得る。あるいは、組み換えDNA技術を使用して、目的の阻害性核酸分子を、ベクターにクローニングすること、このベクターを宿主細胞に導入すること、宿主細胞を増殖すること、そしてこの宿主細胞から目的の阻害性核酸分子を単離することによって産生し得る。本発明の阻害性核酸分子はまた、カスタムオリゴヌクレオチドの市販の供給元(例えば、Life Technologies,Inc.)から入手され得るか、または例えば、核酸合成または増幅反応においてポリメラーゼを使用することによって酵素学的に作成され得る。
【0063】
いくつかの実施形態において、本発明のオリゴヌクレオチドは、治療目的のために使用され得る。好ましい実施形態において、本発明のオリゴヌクレオチドを使用して、複製するために逆転写酵素活性を必要とするウイルスに感染した被験体(例えば、ヒトまたは動物)を処置し得る。治療的処置のために、オリゴヌクレチドは、薬学的に受容可能な組成物として投与され得、ここで、本発明の1以上のオリゴヌクレオチドは、1以上のキャリア、シックナー、賦形薬、緩衝液、防腐剤、表面活性剤、賦形剤などと混合され得る。薬学的組成物はまた、オリゴヌクレオチドに加えて、1以上のさらなる活性成分(例えば、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔薬など)を含み得る。
【0064】
本発明の薬学的組成物は、薬学的組成物を投与するために一般的に使用される任意の経路によって投与され得る。例えば、投与は、局所的(眼、膣、直腸、鼻腔内が挙げあられる)、経口的に、吸入によってか、または、非経口的に、例えば、静脈内滴注または皮下、腹腔内もしくは筋肉内注射によって行われる。
【0065】
局所投与のために処方される薬学的組成物は、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、ゲル、ドロップ、坐剤、スプレー、液体および散剤が挙げられ得る。任意の従来の薬学的賦形剤(例えば、キャリア、水性ベース、粉末ベースまたは油性ベース、シックナーなど)が、使用され得る。
【0066】
経口投与のために処方される薬学的組成物は、1以上の散剤、顆粒、水もしくは非水性培質における懸濁液または溶液、カプセル剤、サシェット(sachet)あるいは錠剤の形態であり得る。経口投与のために処方される薬学的組成物は、シックナー、香味料、賦形薬、乳化剤、分散剤、結合剤などをさらに含み得る。
【0067】
非経口投与のために処方される薬学的組成物としては、緩衝液、賦形薬および他の適切な添加物をも含み得る滅菌水溶液が挙げられ得る。
【0068】
本発明の薬学的組成物は、治療的有効用量で投与され得る。治療的有効用量は、宿主内のウイルスの複製を阻害する用量である。ウイルスの複製は、処置が治療的に有効であるために、完全に排除される必要はない。ウイルスの複製の速度の減少は、治療的に有効であり得る。本発明の薬学的組成物の1以上の用量は、数日から数ヶ月の期間に、1日あたり単回投与であり得るかまたは複数回投与であり得る処置の期間、あるいは治療の効果があるかまたは疾患状態の縮小が達成されるまで、1日に1回以上投与され得る。当業者は、最適投薬量、投薬経路、および用量が投与されるべき頻度を容易に決定し得る。
【0069】
(ポリメラーゼ)
本発明の阻害性核酸が結合または相互作用し得る、ポリメラーゼ活性を有する酵素としては、核酸合成、増幅または配列決定反応において使用される任意の酵素が挙げられる。このようなポリメラーゼとしては、ポリメラーゼ(DNAおよびRNAポリメラーゼ)、および逆転写酵素が挙げられるが、これらに限定されない。DNAポリメラーゼとしては、Thermus thermophilus(Tth)DNAポリメラーゼ、Thermus aquaticus(Taq)DNAポリメラーゼ、Thermotoga neopolitana(Tne)DNAポリメラーゼ、Thermotoga maritima(Tma)DNAポリメラーゼ、Thermococcus litoralis(TliまたはVENTTM)DNAポリメラーゼ、Pyrococcus furiosus(Pfu)DNAポリメラーゼ、DEEPVENTTMDNAポリメラーゼ、Pyrococcus woosii(Pwo)DNAポリメラーゼ、Pyrococcus sp KOD2(KOD)DNAポリメラーゼ、Bacillus sterothermophilus(Bst)DNAポリメラーゼ、Bacillus caldophilus(Bca)DNAポリメラーゼ、Sulfolobus acidocaldarius(Sac)DNAポリメラーゼ、Thermoplasma acidophilum(Tac)DNAポリメラーゼ、Thermus flavus(Tfl/Tub)DNAポリメラーゼ、Thermus ruber(Tru)DNAポリメラーゼ、Thermus brockianus(DYNAZYMETM)DNAポリメラーゼ、Methanobacterium thermoautotrophicusm(Mth)DNAポリメラーゼ、Mycobacterium(Mtb、Mlep)DNAポリメラーゼ、E.coli pol IDNAポリメラーゼ、T5DNAポリメラーゼ、T7DNAポリメラーゼ、および一般に、pol I型のDNAポリメラーゼ、ならびにそれらの変異体、改変体および誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。RNAポリメラーゼ(例えば、T3、T5およびSP6、ならびにそれらの変異体、改変体および誘導体)はまた、本発明に従って使用され得る。
【0070】
本発明において使用された核酸ポリメラーゼは、中温性または高温性であり得、そして好ましくは、中温性である。好ましい中温性DNAポリメラーゼとしては、PolIファミリーのDNAポリメラーゼ(およびこれらのそれぞれのクレノウフラグメント)、このファミリーのいずれかは、生物(例えば、E.coli、H.influenzae、D.radiodurans、H.pylori、C.aurantiacus、R.Prowazekii、T.pallidum、Synechocystis sp.、B.subtilis、L.lactis、S.pneumoniae、M.tuberculosis、M.leprae、M.smegmatis、Bacteriophage L5、phi−C31、T7、T3、T5、SP01、SP02、S.cerevisiae MIP−1由来のミトコンドリア、ならびに真核生物C.elegans、およびD.melanogaster(Astatke,M.ら、1998、J.Mol.Biol.278、147−165)、ならびに任意の供給源から単離されたpol III型DNAポリメラーゼ、およびその変異体、誘導体または改変体などが挙げられる。本発明の方法および組成物において使用され得る好ましい耐熱性DNAポリメラーゼとしては、Taq、Tne、Tma、Pfu、KOD、Tfl、Tth、Stoffelフラグメント、VENTTMDNAポリメラーゼおよびDEEPVENTTMDNAポリメラーゼ、ならびにその変異体、改変体および誘導体が挙げられる(米国特許第5,436,149号;米国特許第4,889,818号;米国特許第4,965,188号;米国特許第5,079,352号号;米国特許第5,614,365号;米国特許第5,374,553号;米国特許第5,270,179号;米国特許第5,047,342号;米国特許第5,512,462号;WO 92/06188;WO 92/06200; WO 96/10640;WO 97/09451;Barnes,W.M.、Gene 112:29−35(1992);Lawyer,F.C.ら、PCR Meth.Appl.2:275−287(1993);Flaman,J.−M,ら、Nucl.Acids Res.22(15):3259−3260(1994))が挙げられる。
【0071】
本発明において使用する逆転写酵素は、逆転写酵素活性を有する任意の酵素を含む。このような酵素としては、レトロウイルス逆転写酵素、レトロトランスポゾン逆転写酵素、B型肝炎逆転写酵素、カリフラワーモザイクウイルス逆転写酵素、細菌逆転写酵素、Tth DNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼ(Saiki,R.K.ら、Science 239:487−491(1988);米国特許第4,889,818号および同第4,965,188号)、Tne DNAポリメラーゼ(WO 96/10640およびWO 97/09451)、Tma DNAポリメラーゼ(米国特許第5,374,553号)ならびにそれらの変異体、改変体または誘導体(例えば、WO 97/09451およびWO 98/47912を参照のこと)が挙げられるが、それらに限定されない。本発明において使用される好ましい酵素としては、減少したRNase H活性、または実質的に減少したRNase H活性を有するか、あるいはRNase H活性が排除された酵素が挙げられる。「RNase H活性の実質的に減少した」酵素によって、対応する野生型またはRNase H+酵素(例えば、野生型モロニーマウス白血病ウイルス(M−MLV)逆転写酵素、鳥類骨髄芽球症ウイルス(AMV)逆転写酵素またはラウス肉腫ウイルス(RSV)逆転写酵素)のRNase H活性の約20%未満、より好ましくは約15%未満、10%未満または5%未満、そして最も好ましくは、約2%未満の活性を有する酵素を意味する。任意の酵素のRNase H活性は、種々のアッセイ(例えば、米国特許第5,244,797号、Kotewicz,M.L.ら、Nucl.Acids.Res.16:265(1988)およびGerard,G.F.ら、FOCUS 14(5):91(1992)において記載されるアッセイ(この参考文献の全ての開示は、本明細書中で参考として完全に援用される))によって決定され得る。本発明における使用のための特に好ましいポリペプチドとしては、M−MLV H-逆転写酵素、RSV H-逆転写酵素、AMV H-逆転写酵素、RAV(ラウス関連ウイルス)H-逆転写酵素、MAV(骨髄芽球症関連ウイルス)H-逆転写酵素およびHIV H-逆転写酵素(米国特許第5,244,797号およびWO 98/47912を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されない。しかし、リボ核酸分子からDNA分子を産生し得る(すなわち、逆転写酵素活性を有する)任意の酵素が、本発明の組成物、方法およびキットにおいて同等に使用され得ることは当業者に理解される。
【0072】
本発明における使用のためのポリメラーゼ活性を有する酵素は、例えば、Life Technologies,Inc.(Rockville、Maryland)、Perkin−Elmer(Branchburg、New Jersey)、New England BioLabs(Beverly、Massachusetts)またはBoehringer Mannheim Biochemicals(Indianapolis、Indiana)から、市販により入手可能であり得る。本発明における使用のための、逆転写酵素活性を有する酵素は、例えば、Life Technologies,Inc.(Rockville、Maryland)、Pharmacia(Piscataway、New Jersey)、Sigma(Saint Louis、Missouri)またはBoehringer Mannheim Biochemicals(Indianapolis、Indiana)から市販により入手可能であり得る。あるいは、ポリメラーゼまたはポリメラーゼ活性を有する逆転写酵素は、当業者に周知の、天然のタンパク質を単離および精製するための標準的な手順に従って、その天然のウイルスまたは細菌の供給源から、単離され得る(例えば、Houts,G.E.ら、J.Virol.29:517(1979)を参照のこと)。さらに、このようなポリメラーゼ/逆転写酵素は、当業者が熟知している組換えDNA技術によって、調製され得る(例えば、Kotewicz,M.L.ら、Nucl.Acids Res.16:265(1988);米国特許第5,224,797号;WO 98/47912;Soltis,D.A.、およびSkalka,A.M.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3372−3376(1988)を参照のこと)。ポリメラーゼ活性および逆転写酵素活性を有する酵素の例としては、本願に記載される任意のものが挙げられ得る。
【0073】
(核酸合成、増幅および配列決定の方法)
本発明の阻害性核酸および組成物は、核酸の合成のための方法において使用され得る。特に、本発明の阻害性核酸および組成物が、非特異的な核酸合成(特に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような増幅反応において)を減少することが発見された。従って、本発明の阻害性核酸および組成物は、核酸分子(例えば、DNA(cDNAを含む)分子およびRNA分子)の合成を必要とする任意の方法において使用され得る。本発明の阻害性核酸または組成物が、有利に使用され得る、方法としては、「ホットスタート」合成または増幅(ここで、この反応は、この阻害性核酸がDNA合成または増幅を競合的に阻害し得る温度でセットアップされ、増幅反応の合成を、温度を上昇することによって開始し、このポリメラーゼのインヒビターによる競合的阻害を減少し、従って、核酸合成または増幅が起こることを可能にする)を含む、核酸合成方法、核酸増幅方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
本発明のこの局面に従う核酸合成方法は、1つ以上の工程を包含し得る。例えば、本発明は、(a)核酸テンプレートを、1つ以上のプライマーおよび本発明の1以上の阻害性核酸(同じであっても異なってもよい)ならびにポリメラーゼ活性または逆転写活性を有する1つ以上の酵素と混合し、混合物を形成する工程;(b)核酸合成を阻害または予防するのに十分な条件下で、この混合物をインキュベートする工程;および(c)このテンプレートの全てまたは一部に相補的である第1の核酸分子を作製するのに十分な条件下で、この混合物をインキュベートする工程を包含する、核酸分子を合成するための方法を提供する。本発明のこの局面に従って、この核酸テンプレートは、DNA分子(例えば、cDNA分子またはcDNAライブラリー)、またはRNA分子(例えば、mRNA分子)あるいは分子の集団であり得る。pH、温度、イオン強度、およびインキュベーション時間のような合成を可能にするのに十分な条件は、当業者に公知の慣用的方法に従って最適化され得る。
【0075】
本発明によれば、投入またはテンプレートの核酸分子またはライブラリーは、天然の供給源(例えば、種々の細胞、組織、器官または生物)から得られる核酸分子の集団から調製され得る。核酸分子の供給源として使用され得る細胞は、原核生物の細胞(Escherichia、Bacillus、Serratia、Salmonella、Staphylococcus、Streptococcus、Clostridium、Chlamydia、Neisseria、Treponema、Mycoplasma、Borrelia、Legionella、Pseudomonas、Mycobacterium、Helicobacter、Erwinia、Agrobacterium、Rhizobium、およびStreptomycesの属の種のものを含む、細菌細胞)であっても真核生物の細胞(真菌(特に、酵母)、植物、原生動物および他の寄生生物、ならびに昆虫(特に、Drosophila spp.細胞)、線虫(特に、Caenorhabditis elegans細胞)、および哺乳動物(特に、ヒト細胞)を含む動物を含む)であってもよい。
【0076】
一旦、出発の細胞、組織、器官または他のサンプルが得られると、当該分野において周知の方法(例えば、Maniatis,T.ら、Cell 15:687−701(1978);Okayama,H.、およびBerg,P.、Mol.Cell.Biol.2:161−170(1982);Gubler,U.、およびHoffman,B.J.、Gene 25:263−269(1983)を参照のこと)により、核酸分子(例えば、DNA、RNA(例えば、mRNAまたはポリA+ RNA)の分子)が単離され得るか、またはcDNA分子もしくはライブラリーがそれから調製される。
【0077】
本発明の好ましい局面の実施において、上記のように得られる核酸テンプレート(これは好ましくは、DNA分子、またはmRNA分子もしくはポリA+ RNA分子のようなRNA分子である)を、ポリメラーゼ活性を有する1つ以上の上記の酵素と混合して、そこに本発明の阻害性の核酸または組成物を添加して混合物を形成することによって、第1の核酸分子が合成され得る。核酸テンプレートの全てまたは一部と相補的である、第一の核酸分子の合成は、好ましくは、反応の温度を上昇させ、そして本発明の阻害性核酸の競合阻害を減少し、これによって投入核酸分子またはテンプレート核酸分子の逆転写(RNAテンプレートの場合)および/またはポリマー化を助けることによって達成される。このような合成は好ましくは、ヌクレオチド(例えば、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)、ジデオキシリボヌクレオシド三リン酸(ddNTP)、またはこれらの誘導体)の存在下で達成される。
【0078】
もちろん、本発明の阻害性の核酸、組成物および方法が有利に使用され得る、核酸合成の他の技術が、当業者に容易に明らかである。
【0079】
本発明の他の局面において、本発明の阻害性の核酸および組成物が、核酸分子を増幅または配列決定するための方法において、使用され得る。本発明のこの局面による、核酸増幅方法は、1工程逆転写酵素増幅反応(例えば、1工程RT−PCR)または2工程逆転写酵素増幅反応(例えば、2工程RT−PCR)として当該分野において一般的に公知の方法において、逆転写酵素活性を有する1つ以上のポリペプチドの使用をさらに包含し得る。長い核酸分子(例えば、約3〜5Kb長より長い)の増幅のためには、WO98/06736およびWO95/16028に記載されるように、DNAポリメラーゼの組合せが使用され得る。
【0080】
本発明のこの局面による増幅方法は、1以上の工程を包含し得る。例えば、本発明は、以下の工程を包含する、核酸分子を増幅するための方法を提供する:(a)ポリメラーゼ活性を有する1つ以上の酵素を本発明の阻害性の核酸または組成物および1つ以上の核酸テンプレートと混合する工程;(b)この混合物を、核酸増幅を阻害または妨害するのに十分な条件下で混合物をインキュベートする工程;および(c)ポリメラーゼ活性を有する酵素が、このテンプレートの全てまたは一部に相補的な1つ以上の核酸分子を増幅することを可能にするのに十分な条件下でこの混合物をインキュベートする工程。本発明はまた、このような方法により増幅された核酸分子を提供する。
【0081】
核酸分子またはフラグメントを増幅および分析するための一般的方法は、当業者に周知である(例えば、米国特許第4,683,195号;同第4,683,202号;および同第4,800,159号;Innis,M.A.ら編、PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications、San Diego、California:Academic Press,Inc.(1990);Griffin,H.G.およびGriffin,A.M.編、PCR Technology:Current Innovations、Boca Raton、Florida:CRC Press(1994)を参照のこと)。例えば、本発明に従って使用され得る増幅方法としては、PCR(米国特許第4,683,195号および同第4,683,202号)、鎖置換増幅(SDA;米国特許第5,455,166号;EP 0 684 315)、ならびに核酸配列に基づく増幅(NASBA;米国特許第5,409,818号;EP 0 329 822)が挙げられる。
【0082】
代表的に、これらの増幅方法は、以下の工程を包含する:(a)ポリメラーゼ活性を有する1つ以上の酵素を本発明の1つ以上の阻害性核酸と混合し、複合体(タンパク質−核酸)を形成する工程;(b)核酸サンプルを1つ以上のプライマー配列の存在下で(a)の複合体と混合する工程;および(c)好ましくはPCRまたは等価な自動化増幅技術によって、この核酸サンプルを増幅して、増幅された核酸フラグメントのコレクションを生成する工程。
【0083】
本発明の方法による増幅または合成に続いて、増幅または合成された核酸フラグメントを、さらなる使用または特徴付けのために、単離し得る。この工程は、通常、任意の物理的または生化学的手段(ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、クロマトグラフィー(サイジングクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、および免疫クロマトグラフィーを含む)、密度勾配遠心分離および免疫吸着が挙げられる)によって、増幅または合成された核酸フラグメントを大きさで分離することにより、達成される。ゲル電気泳動による核酸フラグメントの分離が、特に好ましい。なぜなら、これは、多数の核酸フラグメントの高感度な分離の、迅速かつ再現性の高い手段を提供し、そして核酸のいくつかのサンプルにおけるフラグメントの、直接的な同時の比較を可能にするからである。別の好ましい実施形態において、このアプローチを拡張して、これらのフラグメントまたは本発明の方法により増幅もしくは合成された任意の核酸フラグメントを、単離および特徴付けし得る。従って、本発明はまた、本発明の増幅または合成の方法により産生される、単離された核酸分子に関する。
【0084】
この実施形態において、1つ以上の増幅または合成された核酸フラグメントが、標準的な技術(例えば、電気溶出または物理的切除)に従って、同定のために使用されたゲル(上記を参照のこと)から除去される。次いで、この単離された独自の核酸フラグメントを、種々の原核生物(細菌)細胞または真核生物(酵母、植物またはヒトおよび他の哺乳動物を含む動物)細胞のトランスフェクションまたは形質転換に適した標準的なベクター(発現ベクターを含む)に、挿入し得る。あるいは、本発明の方法により産生された核酸分子を、例えば、配列決定(例えば、核酸フラグメントのヌクレオチド配列の決定)、以下に記載の方法および当該分野において標準的な他の方法(例えば、米国特許第4,962,022号および同第5,498,523号を参照のこと、これらは、DNA配列決定の方法に関する)によって、さらに特徴付け得る。
【0085】
本発明による、核酸配列決定の方法は、1以上の工程を包含し得る。例えば、本発明は、以下の工程を包含する核酸分子の配列決定のための方法を提供する:(a)ポリメラーゼ活性を有する酵素を、本発明の1つ以上の阻害性核酸、配列決定される核酸分子、1つ以上のプライマー、1つ以上のヌクレオチド、および1つ以上の終止因子(例えば、ジデオキシヌクレオチド)と混合して、混合物を形成する工程;(b)この混合物を、核酸の配列決定または合成を阻害もしくは妨害するのに十分な条件下でインキュベートする工程;(c)この混合物を、配列決定される分子の全てまたは一部に相補的である分子の集団を合成するために十分な条件下で、インキュベートする工程;ならびに(d)この集団を分離して、配列決定される分子の全てまたは一部のヌクレオチド配列を決定する工程。
【0086】
本発明の阻害性の分子または組成物を使用し得る、核酸配列決定技術としては、米国特許第4,962,022号および同第5,498,523号に開示されるもののような、ジデオキシ配列決定方法が挙げられる。
【0087】
(ベクターおよび宿主細胞)
本発明はまた、本発明の阻害性核酸分子を含む、ベクターに関する。さらに、本発明は、本発明の阻害性核酸を含む宿主細胞、および好ましくは、このような核酸を含む組換えベクターを含む宿主細胞、ならびにこれらのベクターおよび宿主細胞を使用する、本発明の核酸の産生のための方法に関する。本発明の方法によって産生される核酸合成産物および核酸増幅産物はまた、本発明に従ってベクターおよび宿主細胞にクローン化され、このような核酸分子またはこのような核酸分子によってコードされるタンパク質の産生を容易にし得る。
【0088】
このベクターは好ましくは、少なくとも1つの選択マーカーを含む。このようなマーカーとしては、E.coliおよび他の細菌における培養のためのテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子のような抗生物質耐性遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
適切な宿主細胞の代表的な例としては、E.coli、Streptomyces spp.、Erwinia spp.、Klebsiella spp.およびSalmonella typhimuriumのような細菌細胞が挙げられるが、これらに限定されない。宿主細胞として好ましいものは、E.coliであり、そして特に好ましいものは、E.coli DH10B株およびStbl2株であり、これらは市販されている(Life Technologies,Inc.,Rockville、Maryland)。
【0090】
(核酸産生)
上記のように、本発明の方法は、上記の核酸分子もしくはベクターの宿主細胞への挿入および宿主細胞からの核酸分子の単離またはこの核酸分子を発現している宿主細胞からのタンパク質の単離を介する任意の核酸またはこのような核酸分子によってコードされる任意のタンパク質の産生に適する。形質転換された宿主細胞を産生するための、核酸分子またはベクターの、宿主細胞への導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、塩化カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染または他の方法により達成され得る。このような方法は、多くの標準的な実験室手引書(例えば、Davisら、Basic Methods in Molecular Biology(1986))に記載されている。好ましくは、化学的にコンピテントな細胞または電気コンピテント(electrocompetent)な細胞が、このような形質転換反応のために用いられる。一旦、形質転換された宿主細胞が得られると、この細胞は、任意の生理学的に適合性の条件のpHおよび温度のもとで、宿主細胞の増殖を支持する炭素、窒素、および必須無機物の同化可能な供給源を含む任意の適切な栄養培地中で、培養され得る。例えば、特定の発現ベクターは、特定の温度での細胞増殖、または細胞増殖のための特定の化学物質もしくは誘導薬剤の添加を必要とする調節領域を含む。上記宿主細胞およびベクターのための適切な培養培地および条件は、当該分野において周知である。宿主細胞中での産生に続いて、目的の核酸またはタンパク質は、いくつかの技術により単離され得る。目的の核酸またはタンパク質を宿主細胞から遊離させるために、好ましくは、細胞が溶解または破壊される。この溶解は、細胞を低張性溶液に接触させること、リボザイムのような細胞壁破壊酵素で処理すること、超音波処理、高圧での処理、または上記方法の組合せにより、達成され得る。当業者に公知の、細菌細胞の破壊および溶解の他の方法もまた、使用され得る。
【0091】
破壊に続いて、核酸またはタンパク質は、複雑な混合物中の粒子を分離するために適した任意の技術により、細胞の破片から分離され得る。次いで、この核酸またはタンパク質は、周知の単離技術によって、精製され得る。精製のための適切な技術としては、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、電気泳動、免疫吸着、CsCl遠心分離、アニオン交換クロマトグラフィーまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、免疫アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー(LC)、高性能LC(HPLC)、高速LC(FPLC)、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
(キット)
本発明はまた、核酸分子を合成、増幅、または配列決定する際に使用するための、キットを提供する。本発明のこの局面によるキットは、1つ以上の容器(例えば、バイアル、管、アンプル、ビンなど)を含み得、これは、1つ以上の本発明の阻害性の核酸および/または組成物を収容し得る。
【0093】
本発明のキットは、以下の成分のうちの1つ以上を含み得る:(i)1つ以上の本発明の核酸または組成物、(ii)1つ以上のポリメラーゼおよび/または逆転写酵素、(iii)1つ以上の適切な緩衝液または緩衝塩、(iv)1つ以上のヌクレオチド;および(v)1つ以上のプライマー。
【0094】
本明細書中に記載される方法および適用に対する他の適切な改変および適合が明らかであり、そして本発明の範囲またはそのあらゆる実施形態から逸脱することなくなされ得ることが、関連分野の当業者に容易に明らかである。ここで、本発明を詳細に記載したので、本発明は、以下の実施例を参照することにより、さらに明白に理解される。この実施例は、例示のみの目的で本明細書中に組み込まれ、そして本発明を限定することは、意図されない。
【実施例】
【0095】
(実施例1 核酸インヒビター)
核酸インヒビターを、Life Technologies,Inc.によって合成し、そしてHPLCまたはPAGE精製した。
核酸インヒビター A(34マー)
【0096】
【化1】

核酸インヒビター B(55マー)
【0097】
【化2】

周囲温度において、上記の配列は、ヘアピン様構造(AntaoおよびTinoco,1992(前出))を形成する(以下の構造を参照のこと)。
【0098】
いくつかの実施形態において、インヒビターAの3’末端を、DNAポリメラーゼI(Escherichia coli)またはT7 DNAポリメラーゼのクレノウフラグメント変異体(F762Y)を使用してジデオキシチミン三リン酸で3’末端においてキャップ形成し得る(Tabor,S.およびRichardson,C.C.,1995,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 92,6339−6343)。このオリゴヌクレオチドの3’−OH末端を、37℃で30分間50mM Tris pH7.5緩衝液中2mM Mg2+の存在下で20μM ddTTPにおいてポリメラーゼによってddTTPを用いて伸長した。伸長の後、このサンプルを、3分間100℃の水浴中に置き、タンパク質を変性した。加熱後、オリゴヌクレオチドサンプルを、周囲温度まで緩やかに冷却し(2〜3時間)、ヘアピン構造の形成を可能にした。
ヘアピン構造としての核酸インヒビターA:
【0099】
【化3】

ヘアピン構造としての核酸インヒビターB
【0100】
【化4】

いくつかの実施形態において、核酸インヒビターBを、上記のようにddGTPによって3’末端においてキャップ形成し得る。
【0101】
本発明を、Tne DNAポリメラーゼを用いて試験した−デオキシヌクレオチドの成長している鎖への組み込みにおいて低温度で有意に効果的である熱安定性DNAポリメラーゼ(37℃でのTaq DNAポリメラーゼよりも約50倍を超える効果)。使用したTneは、D137A変異体の効力によって実質的に減少した5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を与えることを除いて野生型であった(WO 98/09451を参照のこと)。
【0102】
(実施例2)
(インヒビターでのポリメラーゼの阻害)
Tne DNAポリメラーゼ活性の時間経過を、3つの異なる温度で、34/60マーのプライマー/テンプレート基質を用いて定性的に決定した。図1は、これらの実験からの結果を示す。各温度について、ポリメラーゼ活性を、インヒビターAの不在(パネルA)および存在(パネルB)下で測定した。反応混合物のアリコートを種々の時点で採取し、そしてアガロースゲル上で分離した。各パネルの5つのレーンは、左から右に、15秒間、30秒間、1分間、2分間、および5分間(反応がクエンチする前に経過した時間)。PおよびCは、それぞれ、プライマー位置およびコントロールレーンを示す。
【0103】
図1において見られ得るように、Tneによって触媒されるポリメラーゼ反応の阻害効力は、温度が上昇するにつれて、有意に減少する。
【0104】
(実施例3)
(プラスミドDNA供給源からの標的DNA配列の増幅)
pUC19プラスミド由来の2.7Kbの標的DNA配列を、テンプレートの5つの異なる希釈物を用いて増幅した。標的を、Tne DNAポリメラーゼによって増幅した。2つの異なる濃度のTneポリメラーゼ(85nM(例えば、1ユニット)および42.5nM(すなわち、0.5ユニット))およびインヒビター核酸に複合体化されたTne(ポリメラーゼに対して150倍過剰のインヒビターBを使用)を、各増幅条件で使用した。この結果を図2に示す。レーン1、2、3、4および5の標的DNAの濃度は、それぞれ、100pg、20pg、2pg、0.2pg、および0.02pgを示す。
【0105】
結果は、Tneの感度がインヒビターの添加によって大いに改善され、そして標的分子の相対的純度が非常に増強されたことを示す。
【0106】
(実施例4)
(ゲノムDNA供給源からの標的DNA配列の増幅)
1Kb、3Kb、および5Kbの標的DNA配列を、それぞれ、図3のパネルA、B、およびCにおいて示されるように、Tne(85nM(例えば、1ユニット))およびTaq(1ユニット)DNAポリメラーゼによって増幅した。a、b、cおよびdとして示される、各パネルの4つのレーンは、それぞれ、Tne(+125倍過剰のインヒビターA(ddTキャップ形成化))、Tne(+50倍過剰のインヒビターA(ddTキャップ形成化))、Tne(インヒビターなし)、およびTaq(インヒビターなし)である。
【0107】
結果は、Tneの感度がインヒビターの添加によって大いに改善され、そして各標的条件について、標的分子の相対的純度が非常に改善されたことを示す。
【0108】
(実施例5)
(Tne DNAポリメラーゼによる、5および15Kbの標的DNA配列の増幅)
図4の5つのパネルA、B、C、DおよびEは、以下の反応条件を示す:それぞれ、コントロールTne(インヒビターなし)、Tne(+50倍過剰のインヒビターB)、Tne(+150倍過剰のインヒビターB)、Tne(+300倍過剰のインヒビターB)、Tne(+750倍過剰のインヒビターB)。AおよびBとして示された、各パネルの2つのレーンは、5および15Kbの標的サイズの増幅に関する。各反応におけるTne DNAポリメラーゼの最終濃度は、8.5nM(例えば、0.1ユニット)であった。
【0109】
図4において見られ得るように、Tneの感度は、このインヒビターの添加によって大いに改善され、そしてインヒビターの濃度が最適化されるにつれて、標的分子の相対的純度は非常に改善された。パネルDおよびEにおいて示されるように、15Kbの産物は、インヒビター核酸の存在下におけるTaq PCR条件(Perkin−Elmer)下のTne DNAポリメラーゼによってのみ増幅され得る。
【0110】
(実施例6)
(1ユニットのTaqによる、3Kbの標的DNA配列(ヒトゲノム供給源)の増幅)
(DNAポリメラーゼ)
図5の3つのパネルA、B、およびCは、反応条件を示す。AおよびBについては、同じプライマー配列を使用した。Aでは、PCR混合物を、94℃で1分間インキュベートし、そしてミスプライミング(mis−priming)させるために、氷上に置いた。すべてのPCR反応を、非特異的DNA合成を増加させるために、25℃で30分間に設定した。各条件:レーンA(Taqコントロール)、B(Taq+126nMインヒビター)、C(Taq+32nMインヒビター)、およびD(Taq+64nMインヒビター)。
【0111】
結果は、非特異的DNA合成の有意な減少および標的配列産物量の増強を生じる各々の場合において、Taqの特異性が、インヒビターの添加によって大いに改善されたことを示す。
【0112】
(実施例7)
(本発明のオリゴヌクレオチドを用いた、RTの阻害)
ThermoScriptTMI RNase欠損変異体逆転写酵素(RT)(Life Technologies,Inc.から入手可能)のDNAポリメラーゼ活性を、周囲温度、37℃および55℃にて、オリゴヌクレオチドインヒビター分子の存在下および不在下で決定した。オリゴヌクレオチドインヒビターの配列および二次元構造を以下に示す。RTのポリメラーゼ活性を、プライマー/テンプレート基質としてオリゴ(dG)15/ポリrC(olig(dG)15/polyrC)を使用して、定常状態の動力学的条件下で決定した。このアッセイは、Poleskyら(1990)によって記載されており、そしてわずかな改変を伴って使用した。
【0113】
(オリゴヌクレオチドインヒビター)
本発明者らのアッセイにおいて使用されたすべての核酸インヒビターは、HPLC精製され、そして3’末端に、ホスフェート(PO4-)で合成的にキャップ形成された。核酸インヒビターの長さに影響を与えずに、二本鎖の融解温度を低下させるために、分子の二本鎖部分にミスマッチを導入した。核酸インヒビターHは、本発明者らの実験条件下で二本鎖構造を形成しないコントロールオリゴ核酸であり、そしてRNA配列による阻害レベルを決定するために使用される。
【0114】
(核酸インヒビターC(Synthetic Geneticsによって合成))
17/27マーのDNA/DNA二本鎖核酸インヒビター。
【0115】
【化5】

(核酸インヒビターD(Life Technologies,Inc.によって合成))
50マーのDNA/RNAハイブリッド核酸。RNA塩基に下線を付す。
【0116】
【化6】

(核酸インヒビターDのヘアピン構造)
【0117】
【化7】

(核酸インヒビターE(Life Technologies,Inc.によって合成))
50マーのDNA/RNAハイブリッド核酸。RNA塩基は一重下線であり、そして2つのミスマッチ位置は、対応するヘアピン構造のDNA部分に二重下線を付す。
【0118】
【化8】

(核酸インヒビターEのヘアピン構造)
【0119】
【化9】

(核酸インヒビターF(Life Technologies,Inc.によって合成))
50マーのDNA/RNAハイブリッド核酸。RNA塩基に一重下線を付し、そして3つのミスマッチ位置は、対応するヘアピン構造のDNA部分に二重下線を付す。
【0120】
【化10】

(核酸インヒビターFのヘアピン構造)
【0121】
【化11】

(核酸インヒビターG(Life Technologies,Inc.によって合成))
50マーのDNA/RNAハイブリッド核酸。RNA塩基に一重下線を付し、そして4つのミスマッチ位置は、対応するヘアピン構造のDNA部分に二重下線を付す。
【0122】
【化12】

(核酸インヒビターGのヘアピン構造)
【0123】
【化13】

(核酸インヒビターH(Life Technologies,Inc.によって合成))
50マーのDNA/RNAハイブリッド核酸。RNA塩基に一重下線を付す。
【0124】
【化14】

周囲温度(約22℃)、37℃、および55℃での、核酸インヒビターの存在下および不在下におけるThermoScriptTMIの相対的ポリメラーゼ活性を決定した。dGTP(dGT32Pでスパイク化(spike))およびMgCl2の存在下におけるプライマー/テンプレートの溶液に、RTまたはRT/インヒビター(5μL)を添加することによって、重合化反応を開始した(最終反応容量50μL)。この混合物を、反応温度でインキュベートし、そしてサンプル(5μL)を、1分(22℃)および15秒(37℃および55℃)の間隔で取り出し、そして50μLの25mM EDTA中に添加した。クエンチした溶液の一部分を、DE−81フィルターに適用した。取り込まれていないdGTPを取り除くための洗浄の後、EconoFluor−2(Packard)を含むシンチレーションバイアル中で、このフィルターをカウントした。反応の見かけ上の速度を、速度プロット(時間間隔に対してプロットされたcom)から導き出した。オリゴ(dG)15/ポリrCの反応濃度は、プライマーで800nMであり、dGTPは100μMであり、そしてMgCl2およびKClは、それぞれ、10mMおよび50mMであった。各反応条件について、逆転写酵素の濃度を12nMに維持した。一方、各オリゴヌクレオチドインヒビターの濃度は、540nMであった。
【0125】
インヒビターの存在下および不在下において、周囲温度、37℃、および55℃で、ThermoScriptTMにより触媒される重合化反応の相対的活性を、図6Aおよび6Bに示す。オリゴヌクレオチドインヒビター(遊離ThermoScriptTMI)の不在下の活性を、各温度での測定値に対して、1に正規化した。インヒビターの存在下でのRT活性は、各温度で、ThermoScriptTMの活性と相関した。そして相対的な正規化活性を棒グラフとして表し、これを図6Aおよび6Bに示す。各反応条件セットについて、3つの棒は、左から右に、それぞれ、周囲温度、37℃、および55℃で実施された反応を示す。図6AのTS、TS−D、TS−EおよびTS−Hは、それぞれ、ThermoScriptTMI、ThermoScriptTMI−核酸インヒビターD複合体、ThermoScriptTMI−核酸インヒビターE複合体、およびThermoScriptTMI−核酸インヒビターH複合体によって開始されたポリメラーゼ反応を示す。RT活性の阻害効力は温度に依存し、このことは、核酸インヒビターによるRTの阻害レベルが、核酸の融解温度に依存することを示す。
【0126】
(核酸インヒビターD)
上記の実験条件下において、重合化反応を開始する前に、ThermoScriptTMIを約50倍過剰のこの核酸と複合体化させることによって、各反応温度で、RT活性が約85〜90%阻害された。阻害レベルの相対的な類似性は、RT活性についてアッセイされた温度範囲における、この核酸インヒビターのヘアピン構造の安定性を示す。
【0127】
(核酸インヒビターE)
上記の実験条件下において、重合化反応を開始する前に、ThermoScriptTMIを約50倍過剰のこの核酸と複合体化させることによって、周囲温度および37℃では、RT活性が約90%阻害されたが、55℃では阻害レベルは45%であった。55℃での阻害レベルの有意な減少は、このヘアピン構造が、2つのミスマッチの導入によって不安定化されたことを示唆する。この結果は、逆転写酵素によって触媒されるポリメラーゼ反応の「ホット−スタート」が、周囲温度では二本鎖を形成するが所望される重合化温度では変性する核酸インヒビターを使用することによって、増強され得ることを示唆する。
【0128】
(核酸インヒビターH)
上記の実験条件下において、重合化反応を開始する前に、ThermoScriptTMIを約50倍過剰のこの核酸と複合体化させることによって、周囲温度で、RT活性が約50%阻害された。37℃および55℃での阻害レベルは無いに等しく、本発明者らの実験誤差の範囲内であった。この結果は、周囲温度での阻害のバックグラウンドレベル(これは、プライマー/テンプレート基質の競合に由来しない)が存在することを示唆する。一方、本発明者らの実験条件下において、インヒビターHの添加による阻害レベルは、37℃および55℃では、ごくわずかであった。
【0129】
残存する上記の核酸インヒビターの存在下および不在下におけるThermoScriptTMIの相対的ポリメラーゼ活性を図6Bに示す。各反応条件セットについて、3つの棒は左から右に、それぞれ、周囲温度、37℃、および55℃で実施された反応を示す。TS、TS−C、TS−H、TS−E、TS−FおよびTS−Gは、それぞれ、ThermoScriptTMI、ThermoScriptTMI−核酸インヒビターC複合体、ThermoScriptTMI−核酸インヒビターH複合体、ThermoScriptTMI−核酸インヒビターE複合体、ThermoScriptTMI−核酸インヒビターF複合体、およびThermoScriptTMI−核酸インヒビターG複合体によって開始されたポリメラーゼ反応を示す。
【0130】
(核酸インヒビターC)
実験条件下において、ポリメラーゼを開始する前に、ThermoScriptTMIを約50倍過剰のこの核酸(DNA/DNA)と複合体化することは、RT活性を各反応温度において約70%阻害した。阻害レベルの相対的な類似性は、RT活性がアッセイされる温度範囲における、この核酸配列の二本鎖構造の安定性を示す。
【0131】
(核酸インヒビターH)
実験条件下において、重合反応を開始する前に、ThermoScriptTMIを約50倍過剰のこの核酸と複合体化することは、RT活性を周囲温度において約40%阻害した。37℃および55℃における阻害レベルは、本発明者らの実験誤差内では、無視できるほどであった。
【0132】
(核酸インヒビターE)
実験条件下において、重合反応を開始する前に、ThermoScriptTMIを約50倍過剰のこの核酸と複合体化することは、RT活性を周囲温度および37℃において90%よりも大きく阻害したが、55℃においては、阻害レベルは60%であった。
【0133】
(核酸インヒビターF)
実験条件下において、重合反応を開始する前に、ThermoScriptTMIを約50倍過剰のこの核酸と複合体化することは、RT活性を、周囲温度において約80%、37℃において65%、そして55℃において40%阻害した。
反応温度の上昇と相関した阻害レベルの減少は、3つのミスマッチに起因する、ヘアピン構造の不安定化を示す。
【0134】
(核酸インヒビターG)
実験条件下において、重合反応を開始する前に、ThermoScriptTMIを約50倍過剰のこの核酸と複合体化することは、RT活性を、周囲温度において約80%、37℃において55%、そして55℃において30%阻害した。
反応温度の上昇と相関した阻害レベルの減少は、3つのミスマッチに起因する、ヘアピン構造の不安定化を示す。
【0135】
(実施例8)
(細胞内での逆転写酵素活性の阻害)
本発明のオリゴヌクレオチドを使用して、細胞内での逆転写酵素の活性を阻害し得る。細胞内での使用のためのオリゴヌクレオチドは、必要に応じて、改変されて、細胞内に存在し得る1つ以上のヌクレアーゼ酵素に対して耐性にされ得る。例えば、核酸インヒビターの誘導体は、1つ以上の以下の改変によって合成され得る:1)オリゴヌクレオチドのRNA部分上のリボース基のうちの1つ以上を、アルキル化(例えば、好ましくは2’−OHにおいてメチル化し、2’−Oメチルを生成する)し得る;2)オリゴヌクレオチド(例えば、核酸のDNA部分)のヌクレオチド間結合のうちの1つ以上に、ホスホロチオエート結合のような改変された結合を含ませ得る;3)オリゴヌクレオチドの3’末端を、伸長しないように、キャップ化し得る(例えば、ホスフェート、ホスホロチオエート、もしくはジデオキシヌクレオチドを用いてか、または伸長しないように3’ヒドロキシルの他の改変を用いる)。細胞性RNase活性に対する耐性レベルを増加する他の改変、および/または、他の細胞因子によるDNA分解の効率を減少する他の改変は、当業者に公知であり、そして、本発明のオリゴヌクレオチドの設計に組み込まれ得る。オリゴヌクレオチドを1つ以上の細胞分解因子に対して耐性にすることに加えて、ホスホロチオエートは、所定のインヒビターが宿主染色体上の領域に相同性の領域を含む場合、宿主染色体への相同組変えの可能性を減少する。
【0136】
オリゴヌクレオチド(olligonucleotide)を、アッセイして、細胞において逆転写酵素活性に対する阻害効果を有するか否かを決定し得る。
本発明のオリゴヌクレオチドで処理される細胞、例えば、NIH3T3細胞を、当業者に公知の任意の方法を用いて核酸(Life Technologies,Inc.)でトランスフェクトし得る。いくつかの好ましい実施形態において、本発明のオリゴヌクレオチドを、脂質媒介トランスフェクトを用いて細胞に導入し得る(例えば、米国特許第5,334,761号;同第5,674,908号;同第5,627,159号;同第5,736,392号;同第5,279,833号および公開された国際出願WO94/27345(これらの全ては、参考として本明細書中に特に援用される)を参照のこと)。
【0137】
細胞のトランスフェクト後、逆転写酵素を発現するウイルス(例えば、モロニーウイルスマウス白血病V、M−MLV)は、そのウイルスを用いて細胞を効果的に感染し、逆転写酵素活性の供給源をもたらすために添加され得る。(Jolicoeur,P.and Rassart,E.,1980)。細胞のアリコートを、逆転写酵素活性についてアッセイするために、ある間隔で遠心分離し、そして溶解する。核酸インヒビターでトランスフェクトされた細胞から誘導されるRT活性のレベルと、トランスフェクトされていない細胞から誘導されるRT活性のレベルを比較することによって、細胞におけるウイルス増殖の阻害効果を決定し得る。
【0138】
(実施例9)
(ホスホロチオエート置換のオリゴヌクレオチドを用いたTaqポリメラーゼ阻害)
いくつかの好ましい実施形態において、1つ以上のホスホロチオエート残基を、本発明のオリゴヌクレオチドに組み込み得る。当業者は、そのようなヌクレオチド間結合を組み込むオリゴヌクレオチドが、反応混合物中または細胞内に存在し得るヌクレアーゼ活性に対してより耐性であり得ることを理解する。従って、そのような改変は、インビボ使用またはインビトロ使用が意図されたオリゴヌクレオチド中でなされ得る。いくつかの好ましい実施形態において、全てのヌクレオチド間結合は、ホスホロチオエート結合であり得る。
【0139】
いくつかの実施形態において、本発明のオリゴヌクレオチドの3’末端が、改変されて、そのオリゴヌクレオチドは、反応混合物中または細胞内に存在する任意の3’から5’へのエキソヌクレアーゼ活性に対してより耐性になり得る。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドの3’ヒドロキシルを、例えば、スペーサー改変因子(modifier)をヒドロキシル基にカップリングすることによって改変し得る。そのようなスペーサー改変因子は、市販され(Glen Research)、そして、ヘテロ原子を含む1つ以上の基で置換され得る炭素原子の鎖を含み得る。いくつかの好ましい実施形態において、本発明のオリゴヌクレオチドの3’−ヒドロキシルを、ヘテロ原子を含む基(例えば、アミン基またはヒドロキシル基など)で終結する3炭素スペーサーで改変し得る。
そのようなスペーサー改変因子のオリゴヌクレオチドへの組み込みは、当業者に周知の化学を使用して、例えば、適切に保護されたホスホルアミダイトバージョンのスペーサーの組み込みによって、達成され得る。
【0140】
ホスホロチオエート改変されたオリゴヌクレオチドがTaqポリメラーゼを阻害する効果を試験するために、全てのホスフェートヌクレオチド間結合がホスホロチオエートヌクレオチド間結合に変化されたオリゴヌクレオチドを、構築した。4つのそのようなオリゴヌクレオチドを構築した。これらの配列を以下に提供する。
HPHH1は、3ヌクレオチドループを有し、二量体領域の融解温度が59℃であり、そして二本鎖形成のΔG=−15.70kcal/molである、ホスホロチオエートヘアピンオリゴヌクレオチドである。
【0141】
【化15】

(配列番号9)
HPHH2は、3ヌクレオチドループを有し、二量体領域の融解温度が67℃であり、そして二本鎖形成のΔG=−18.10kcal/molである、ホスホロチオエートヘアピンオリゴヌクレオチドである。
【0142】
【化16】

(配列番号10)
HPHH3は、5ヌクレオチドループを有し、二量体領域の融解温度が70℃であり、そして二本鎖形成のΔG=−18.90kcal/molである、ホスホロチオエートヘアピンオリゴヌクレオチドである。
【0143】
【化17】

(配列番号11)
HPHH4は、4ヌクレオチドループを有し、二量体の融解温度が65℃であり、そして二本鎖形成のΔG=−13.5kcal/molである、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドである。
【0144】
【化18】

(配列番号12)
幹構造の形成に関与する塩基を、縦線で示す。オリゴヌクレオチドが、ヒドロキシルで終結する3炭素スペーサー基によって3’末端において改変される場合、名称Sspa3を、このオリゴヌクレオチドの名前に加えた。
【0145】
図7を参照して、増幅は反応してNF2遺伝子の1.6kb(A)フラグメント、2kb(B)フラグメントおよび2.6kb(C)フラグメントを生成する。各パネルにおいて、レーンaは、Taqポリメラーゼ単独による増幅であり、レーンbは、インヒビターHPHH4Sspa3の存在下(インヒビター:ポリメラーゼが1.2:1のモル比)における増幅反応であり、レーンcは、Platinum Taqによる増幅である。テンプレートは、200ngのゲノムDNAであった。各パネルにおいて、レーンaおよびレーンcに対するレーンbの比較は、インヒビターの存在が、これらの反応条件下において全長生成物の量を改善し、そしてより短い生成物の量を減少することを示す。
【0146】
図8に示されるように、ヌクレオチド取り込みアッセイにおけるTaqポリメラーゼの活性を、3つの温度(25℃、55℃および72℃)において、2つの異なる濃度のインヒビターHPHH4Sspa3(インヒビター:ポリメラーゼのモル比が、2:1および7.5:1)の存在下で決定した。各温度において、黒い棒線は、Taqポリメラーゼ単独であり、ストライプの棒線は、Taqポリメラーゼおよびインヒビター(インヒビター:ポリメラーゼの比が、2:1)、そして白い棒線は、Taqおよびインヒビター(インヒビター:ポリメラーゼの比が、7.5:1)である。組み込みを、α−[32P]−dCTPの存在下、示された温度でインキュベートされたPCR反応混合物中でアッセイした。30分後、EDTAの添加によってこの反応を停止させ、そして各反応のアリコートを、GF/Cフィルター上にスポットした。このフィルターをTCAを用いて洗浄し、そしてカウントした。活性を、同じ温度におけるTaqポリメラーゼの活性量に対して規準化した。
【0147】
25℃、2:1の比において、Taq活性は、阻害されていないポリメラーゼの約60%に減少されたが、7.5:1の比は、約90%活性を減少させた。55℃(典型的なアニーリング温度)において、阻害はなお観察され、2:1および7.5:1において、それぞれ、約20%および約60%の活性の減少であった。72℃(典型的な伸長温度)において、阻害は、2.5:1の比ではほとんど無視でき、そして7.5:1の比では約50%であった。これらのデータは、阻害は温度依存的であり、より低い温度(すなわち、オリゴヌクレオチドが、ヘアピン構造である場合)においてより大きな阻害が、より高い温度においてより低い阻害が観察されることを示す。
【0148】
インヒビターHPHHSspa3によるTaqポリメラーゼ阻害の濃度依存性を、37℃において研究し、結果を図9に示す。上記の組み込みアッセイを使用した。これらの結果は、阻害は用量依存的であり、インヒビター:ポリメラーゼが0.5:1のモル比におけるわずかな阻害(20%)から、7.5:1におけるほぼ完全な阻害(96%)までが見出された。比較として、抗体(Platinum Taq)により阻害されるTaqポリメラーゼを、同じ条件下で試験した。7.5:1のモル比において、本発明のインヒビターは、この抗体に匹敵する量のTaq活性阻害を提供する。
【0149】
これまで理解の明確化を目的として、本発明を、いくらか詳細に例示および実施例によって十分に記載してきた。本発明が、本発明の範囲および本発明の任意の特定の実施形態に影響を与えることなく、条件、処方および他のパラメーターの広範および等価な範囲内で、本発明を改変または変更することによって実施され得ることは、当業者に明らかである。そして、このような改変または変更は添付の特許請求の範囲内に含まれることが、意図される。
【0150】
本明細書中に言及される全ての刊行物、特許および特許出願は、本発明に関連する当業者のレベルを示し、そして、あたかも各個々の刊行物、特許または特許出願が詳細かつ個々に参考として組み込まれることが示されるのと同じ程度まで、本明細書中に参考として組み込まれ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸合成を阻害するための組成物であって、該組成物は、ポリメラーゼ活性を有する酵素と結合し得る核酸インヒビター、または該酵素に対する親和性を有する核酸インヒビターを含む、組成物。
【請求項2】
前記核酸インヒビターがヘアピンを形成するか、または二本鎖核酸分子を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記酵素に対する前記核酸インヒビターの結合または親和性が、核酸の合成、増幅または配列決定のための条件下で阻害されるか、減少されるか、実質的に減少されるか、または排除される、組成物。
【請求項4】
前記核酸インヒビターが、前記酵素と複合体を形成し得る、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ポリメラーゼ活性を有する1つ以上の酵素をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記酵素が好熱性である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物であって、ここで前記核酸インヒビターが、核酸の合成、増幅または配列決定のための条件下で変性されているか、または阻害する能力を減少されている、組成物
【請求項8】
請求項5に記載の組成物であって、ここで、核酸ポリメラーゼ活性を有する前記酵素が、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼおよび逆転写酵素からなる群から選択される、組成物。
【請求項9】
前記DNAポリメラーゼが、Taq DNAポリメラーゼ、Tne DNAポリメラーゼ、Tma DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、VENTTM DNAポリメラーゼ、DEEPVENTTM DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Tfl DNAポリメラーゼおよびTth DNAポリメラーゼ、ならびにそれらの変異体、改変体および誘導体からなる群より選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記逆転写酵素が、M−MLV逆転写酵素、RSV逆転写酵素、AMV逆転写酵素、RAV逆転写酵素、MAV逆転写酵素およびHIV逆転写酵素、ならびにそれらの変異体、改変体および誘導体からなる群より選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記逆転写酵素が、RNase H活性を実質的に減少されている、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
核酸分子を合成するための方法であって、以下:
1つ以上の請求項1に記載の核酸インヒビターおよび1つ以上のテンプレートを、ポリメラーゼ活性を有する少なくとも1つの酵素と混合する工程;ならびに
該テンプレートの全てまたは一部に相補的な1つ以上の第1の核酸分子を合成するのに十分な条件下で、該混合物をインキュベートする工程、
を包含する、方法。
【請求項13】
核酸合成を妨げる条件下、および/またはポリメラーゼ活性を有する前記酵素への前記核酸インヒビターの結合を可能にする条件下で、前記混合する工程が達成される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記核酸インヒビターの阻害作用を減少させるのに十分な条件下、および/あるいはポリメラーゼ活性を有する前記酵素への該核酸インヒビターの結合を阻害するか、減少するか、実質的に減少するか、または排除するのに十分な条件下で、前記第1の核酸分子の合成が達成される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
1以上のヌクレオチドおよび1以上のプライマーからなる群より選択される、少なくとも1つの成分の存在下で、前記合成が達成される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記テンプレートが、二本鎖核酸分子である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
1つ以上の前記第1の核酸分子を、該第1の核酸分子の全てまたは一部に相補的な1つ以上の第2の核酸分子を作製するのに十分な条件下でインキュベートする工程をさらに包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
請求項12に記載の方法に従って作製された、核酸分子。
【請求項19】
核酸分子を増幅するための方法であって、以下:
請求項1に記載の少なくとも1つの核酸インヒビターを、ポリメラーゼ活性を有する1つ以上の酵素および1つ以上のテンプレートと混合する工程;ならびに
該テンプレートの全てまたは一部に相補的な1つ以上の核酸分子を増幅するのに十分な条件下で、該混合物をインキュベートする工程、
を包含する、方法。
【請求項20】
核酸増幅を妨げるのに十分な条件下、および/またはポリメラーゼ活性を有する前記酵素への前記核酸インヒビターの結合を可能にするのに十分な条件下で、前記混合する工程が達成される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記核酸インヒビターを変性するのに十分な条件下、または増幅を阻害する前記インヒビターの能力を減少するのに十分な条件下で、前記増幅工程が達成される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記増幅工程が、1つ以上のヌクレオチドおよび1つ以上のプライマーからなる群から選択される少なくとも1つの成分の存在下において達成される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記テンプレートが、二本鎖核酸分子である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
請求項19に記載の方法に従って作製された核酸分子。
【請求項25】
核酸分子を配列決定するための方法であって、以下:
配列決定される少なくとも1つの核酸分子を、1以上の請求項1に記載の核酸インヒビター、ポリメラーゼ活性を有する1以上の酵素および1以上の終結因子と混合する工程;
配列決定される該分子の全てまたは一部に相補的な分子の集団を合成するのに十分な条件下で、該混合物をインキュベートする工程;ならびに
該集団を分離して、該配列決定される分子の全てまたは一部のヌクレオチド配列を決定する工程、
を包含する、方法。
【請求項26】
合成を妨げるのに十分な条件下、および/またはポリメラーゼ活性を有する前記酵素への前記核酸インヒビターの結合を可能にするのに十分な条件下で、前記混合する工程が達成される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記合成が、前記核酸インヒビターを変性するのに十分な条件下、および/または該核酸インヒビターの阻害作用を減少するのに十分条件下において達成される、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記合成が、1つ以上のヌクレオチドおよび1つ以上のプライマーからなる群から選択される少なくとも1つの成分の存在下において達成される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記配列決定される分子が二本鎖核酸分子である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
核酸分子の合成、増幅または配列決定において使用するためのキットであって、該キットは、1つ以上の請求項1に記載の核酸インヒビターを備える、キット。
【請求項31】
請求項30に記載のキットであって、該キットは、1つ以上のヌクレオチド、1つ以上のDNAポリメラーゼ、1つ以上の逆転写酵素、1つ以上の適切な緩衝液、1つ以上のプライマーおよび1つ以上の終結因子からなる群から選択される1つ以上の成分をさらに備える、キット。
【請求項32】
二本鎖DNA分子を増幅するための方法であって、以下:
第1のプライマーおよび第2のプライマーならびに請求項1に記載の1つ以上の核酸インヒビターを、該インヒビターが核酸合成を妨げるかもしくは阻害するような条件下で提供する工程であって、ここで、該第1のプライマーは、該DNA分子の第1の鎖の3’末端以内または3’末端または3’末端近辺の配列に相補的であり、かつ該第2のプライマーは、該DNA分子の第2の鎖の3’末端以内または3’末端または3’末端近辺の配列に相補的である、工程;
該第1のプライマーを該第1の鎖にハイブリダイズさせ、そして該第2のプライマーを該第2の鎖にハイブリダイズさせ、ハイブリダイズした分子を形成する工程;
該第1の鎖の全てまたは一部に相補的な第3のDNA分子および該第2の鎖の全てまたは一部に相補的な第4のDNA分子の合成を可能にするのに十分な条件下で、該ハイブリダイズした分子をインキュベートする工程;
該第1の鎖および該第3の鎖、ならびに該第2の鎖および該第4の鎖を変性させる工程;ならびに
工程(a)〜(c)または(d)を、1回以上繰り返す工程、
を包含する、方法。
【請求項33】
mRNAからcDNAを調製する方法であって、以下:
1つ以上のmRNAテンプレート、1つ以上の逆転写酵素を、1つ以上の請求項1に記載の核酸インヒビターと混合する工程;および
該テンプレートの全てまたは一部に相補的な1つ以上のcDNA分子を合成するのに十分な条件下で、該混合物をインキュベートする工程、
を包含する、方法。
【請求項34】
核酸の合成を妨げるのに十分な条件下、および/または前記逆転写酵素への前記核酸インヒビターの結合を可能にするのに十分な条件下で、前記混合する工程が達成される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
核酸の合成、増幅もしくは配列決定を阻害または妨げるための方法であって、該方法は以下:
1つ以上の請求項1に記載の核酸インヒビターを、ポリメラーゼ活性を有する1つ以上の酵素と混合する工程;ならびに
核酸の合成、増幅および/または配列決定を阻害または妨げるのに十分な条件下で、該混合物をインキュベートする工程、
を包含する、方法。
【請求項36】
5’部分および3’部分を含むオリゴヌクレオチドであって、ここで、該3’部分が一連の連続デオキシリボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、かつ該5’部分が一連の連続リボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、そして、該3’部分の全てまたは一部が、該5’部分の全てまたは一部と塩基対形成し得る、オリゴヌクレオチド。
【請求項37】
前記5’部分が、5’オーバーハングを形成するリボヌクレオチドを含む、請求項36に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項38】
前記3’部分の末端ヌクレオチドが、伸長不可であるような1つ以上の改変を含む、請求項36に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項39】
前記改変が、前記ヌクレオチドの3’ヒドロキシルのリン酸化である、請求項38に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項40】
1つ以上のヌクレアーゼに対して耐性であるように1つ以上の改変を含む、請求項36に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項41】
前記改変がホスホロチオエートである、請求項40に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項42】
前記改変がヒドロキシル基のメチル化である、請求項40に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項43】
細胞内のポリメラーゼ酵素を阻害する方法であって、該方法は以下:
細胞内にオリゴヌクレオチドを導入する工程であって、該オリゴヌクレオチドは、5’部分および3’部分を含み、ここで該3’部分が一連の連続デオキシリボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、かつ該5’部分が一連の連続リボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、そして、該3’部分の全てまたは一部が、該5’部分の全てまたは一部と塩基対形成し得る、工程;および
該オリゴヌクレオチドを用いて該ポリメラーゼの阻害を引き起こす工程、
を包含する、方法。
【請求項44】
前記オリゴヌクレオチドの前記5’部分が、5’オーバーハングを形成するリボヌクレオチドを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記ポリメラーゼが逆転写酵素である、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記ポリメラーゼがHIV逆転写酵素である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
ウイルスの複製を阻害する方法であって、該方法は、以下:
ウイルスを提供する工程であって、該ウイルスは逆転写酵素を含み、そして該ウイルスは複製のために該逆転写酵素の活性を必要とする、工程;
該逆転写酵素を、該逆転写酵素の活性を阻害し、それにより該ウイルスの複製を阻害するオリゴヌクレオチドと接触させる工程、
を包含する、方法。
【請求項48】
請求項47に記載の方法であって、ここで該オリゴヌクレオチドは、5’部分および3’部分を含み、該3’部分が一連の連続デオキシリボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、かつ該5’部分が一連の連続リボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、そして、該3’部分の全てまたは一部が、該5’部分の全てまたは一部と塩基対形成し得る、方法。
【請求項49】
前記5’部分が、5’オーバーハングを形成するリボヌクレオチドを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記ウイルスがHIVである、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
前記接触工程が、前記オリゴヌクレオチドを細胞内に導入する工程を包含する、請求項47に記載の方法。
【請求項52】
被験体におけるウイルス感染を処置する方法であって、該方法は、以下:
該被験体に、5’部分および3’部分を含むオリゴヌクレオチドを含む組成物を投与する工程であって、ここで、該3’部分が一連の連続デオキシリボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、かつ該5’部分が一連の連続リボヌクレオチドまたはその誘導体を含み、そして、該3’部分の全てまたは一部が、該5’部分の全てまたは一部と塩基対形成し得る、工程、
を包含する、方法。
【請求項53】
1つ以上の逆転写酵素と結合するか、または該酵素に対して親和性を有する、オリゴヌクレオチド。
【請求項54】
1つ以上のリボヌクレオチドまたはその誘導体、および1つ以上のデオキシリボヌクレオチドまたはその誘導体を含む、請求項53に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項55】
前記オリゴヌクレオチドが、分解または消化に対して耐性である、請求項53に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項56】
1つ以上の逆転写酵素を阻害する方法であって、該方法は、以下:
サンプルまたは細胞を、1つ以上の逆転写酵素と結合する1つ以上のオリゴヌクレオチド、または該酵素に対して親和性を有する1つ以上のオリゴヌクレオチドと接触させて、該オリゴヌクレオチドに、該逆転写酵素のポリメラーゼ活性の阻害を引き起こさせる、工程、
を包含する、方法。
【請求項57】
前記オリゴヌクレオチドが、該オリゴヌクレオチドの分解または消化を阻害または防止するための1つ以上の改変を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
被験体におけるウイルス感染を処置する方法であって、該方法は、以下:
請求項53に記載のオリゴヌクレオチドの有効量を、該被験体に投与する工程;および
該オリゴヌクレオチドに、該被験体における該ウイルス感染を阻害または予防を引き起こさせる工程、
を包含する、方法。
【請求項59】
請求項53に記載のオリゴヌクレオチドを含む、薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−41572(P2011−41572A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232252(P2010−232252)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【分割の表示】特願2001−508332(P2001−508332)の分割
【原出願日】平成12年6月30日(2000.6.30)
【出願人】(502221282)ライフ テクノロジーズ コーポレーション (113)
【Fターム(参考)】