説明

核酸回収量推定装置、及び、核酸回収量推定方法

【課題】核酸を含む生体試料から核酸を回収するときに、核酸の回収量を推定することができる核酸回収量推定装置等を提供する。
【解決手段】核酸回収量推定装置100は、核酸を含む試料200を吐出吸引する吐出吸引部110と、試料200を吐出吸引部110で吐出吸引することによって、核酸を回収する回収部120と、試料200を吐出するときの吐出圧力と試料200を吸引するときの吸引圧力とを測定し、吐出圧力と吸引圧力との差分である差分圧力を測定する圧力測定部130と、差分圧力に基づいて、回収した核酸の回収量を推定する推定部140と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸回収量推定装置、及び、核酸回収量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、患者から採取した生体試料から生体高分子(核酸)を抽出(回収)し、当該核酸を解析することにより、感染症及び遺伝子疾患等を遺伝子レベルで診断する方法が広く実施されている。特許文献1には、核酸を回収するためのピペットチップを用いて、生体試料から核酸を回収する方法が開示されている。この方法は、ピペットチップで核酸を含む生体試料を吸引し、ピペットチップが備える担体に生体試料を通過させて、核酸を担体に物理吸着させることにより、生体試料から核酸を回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/082631号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている方法では、核酸を吸着した担体に加熱処理を施して、担体から核酸を遊離させることにより、核酸を回収している。このため、核酸を担体に吸着させた時点では、核酸の回収量がわからない場合があった。核酸の回収量が少ない場合、回収量がわかるまでの処理が無駄になるし、その時点では、生体試料を改めて採取することができない場合がある。また、生体試料に核酸が多量に含まれる場合、核酸が担体に過剰に吸着されることで、目詰まりが発生し、担体から核酸を遊離させる工程に移行できない場合がある。そこで、核酸を担体から遊離させなくとも核酸の回収量を推定(予測)できる新たな方法が求められている。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、核酸を含む生体試料から核酸を回収するときに、核酸の回収量を推定することができる核酸回収量推定装置、及び、核酸回収量推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点に係る核酸回収量推定装置は、
核酸を含む試料を吐出吸引する吐出吸引部と、
前記試料を前記吐出吸引部で吐出吸引することによって、前記核酸を回収する回収部と、
前記試料を吐出するときの吐出圧力と前記試料を吸引するときの吸引圧力とを測定し、当該吐出圧力と当該吸引圧力との差分である差分圧力を測定する圧力測定部と、
前記測定された差分圧力に基づいて、前記回収した核酸の回収量を推定する推定部と、を備える。
【0007】
好ましい形態の一つとして、前記推定部は、前記差分圧力と核酸回収量との相関情報を予め記憶し、当該差分圧力と当該相関情報とに基づいて、前記回収した核酸の回収量を推定する。
好ましくは、前記吐出吸引部は、前記試料を吐出した後、前記試料を高速で吸引し、さらに、低速で吸引する。
【0008】
なお、前記核酸を含む試料に界面活性剤が含まれていてもよい。前記核酸を含む試料にプロテアーゼが含まれていてもよい。また、前記核酸を含む試料にタンパク質変性剤が含まれていてもよい。
【0009】
好ましくは、前記回収部は、所定のメッシュサイズからなるフィルタを備え、前記試料を吐出吸引することによって前記試料を前記フィルタに通過させて前記核酸を回収する。
【0010】
好ましくは、前記推定部は、前記差分圧力の最大値が所定の値以上の場合、前記回収した核酸の回収量が所定量に達したと推定する。
【0011】
好ましくは、前記推定部は、同一の前記試料について所定の回数、前記吐出吸引部で吐出吸引を繰り返したのちの前記差分圧力の最大値が所定の値未満の場合、前記試料が不良試料であると推定する。
【0012】
本発明の第2の観点に係る核酸回収量推定方法は、
核酸を含む試料を吐出吸引して、前記試料を回収部に通過させて、前記試料から前記核酸を回収する回収工程と、
前記試料を吐出するときの吐出圧力と前記試料を吸引するときの吸引圧力とを測定し、当該吐出圧力と当該吸引圧力との差分である差分圧力を測定する圧力測定工程と、
前記測定された差分圧力に基づいて、前記回収した核酸の回収量を推定する推定工程と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、核酸を含む生体試料から核酸を回収するときに、核酸の回収量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る核酸回収量推定装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】試料を吐出吸引する方法を説明するための図である。
【図3A】回収部の一例を示す図である。
【図3B】図3AのA−A線の断面図である。
【図3C】図3AのB−B線の断面図である。
【図3D】異なる回収部の例を示す断面図である。
【図4】差分圧力と核酸濃度との相関関係を示す図である。
【図5】核酸回収量推定処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】圧力の時間変化の一例を示す図である。
【図7】差分圧力と吐出吸引回数との相関関係を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る核酸回収量推定処理を説明するためのフローチャートである。
【図9】圧力の時間変化の変形例を示す図である。
【図10】差分圧力と吐出吸引回数との関係を示す図である。
【図11】差分圧力と核酸濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に記載する実施の形態は説明のためのものであり、本願発明の範囲を制限するものではない。当業者であればこれらの各要素または全要素をこれと均等なものに置換した実施の形態を採用することが可能であるが、これらの実施の形態も本発明の範囲に含まれる。
【0016】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る核酸回収量推定装置は、核酸等の生体高分子を含む試料から核酸を回収する際に、核酸の回収量を推定するための装置である。本発明の実施の形態1に係る核酸回収量推定装置100は、図1及び図2に示すように、吐出吸引部110、回収部120、圧力測定部130、推定部140、チューブ111、フィルタ121等から構成される。
【0017】
吐出吸引部110は、例えば、ポンプ等から構成され、核酸を含む試料を吐出吸引する。図2に示すように、吐出吸引部110と回収部120とはチューブ111等により結合されている。吐出吸引部110が吐出吸引を行うと、吐出吸引によってチューブ111内と吐出吸引部110の外側とに圧力差が生じ、チューブ111と結合した回収部120が、所定の容器内に蓄えられた核酸を含む試料200を、吐出吸引する。
【0018】
回収部120は、例えば、試料200を物理吸着により回収するためのフィルタ(担体)、試料を吐出吸引するためのノズル等から構成され、核酸を含む試料200から核酸を回収する。回収部120は、図2に示すように、フィルタ121を備え、当該フィルタ121に所定の容器内に蓄えられた核酸を含む試料200を通過させて、試料200内の核酸をフィルタ121に物理吸着させることにより、試料200内の核酸を回収する。
【0019】
図3Aは、回収部の一例を示す図である。また、図3Bは、図3AのA−A線の断面図であり、図3Cは、図3AのB−B線の断面図である。回収部120は、同図に示すように、ノズル状に形成され、ノズルの一端から核酸を含む試料200を吸引し、試料200をフィルタ121に通過させる。そして、フィルタ121は、試料200が通過する際に核酸を吸着することにより、試料200から核酸を回収する。
【0020】
図3Dは、異なる回収部の例を示す断面図である。図3Dに示すノズルキャップ122は、ノズルが別部材をつけることで、回収部120として機能する構成になっている際に、ノズルの先端部につける部材を示すものである。ノズルキャップ122は、例えば、円錐形の管で構成され、細い先端を試料200の溶液に浸けて、試料200を吐出吸引する。ノズルキャップ122は、先端が細くなっているため、少量の試料200でも吐出吸引することができる。また、試料200を吐出する際に、試料200を撹拌する効果が大きい。ノズルキャップ122を用いる場合、例えば図3Dに示すように、フィルタ121はノズルキャップ122の内部に形成することができる。
【0021】
図1及び図2に戻って、圧力測定部130は、例えば、圧力センサ等から構成され、吐出吸引部110が試料200を吐出吸引するときに、吐出圧力と吸引圧力とを測定することにより、吐出圧力と吸引圧力との差分である差分圧力を測定する。圧力測定部130は、例えば、チューブ111内の圧力や、核酸の回収が行われるフィルタ121付近の圧力を測定することにより、吐出時の吐出圧力と吸引時の吸引圧力とを測定する。吐出吸引部110が吐出吸引を行うと、核酸を含む試料200がフィルタ121を通過することとなる。試料200がフィルタ121を通過すると、試料200に含まれる核酸がフィルタ121に物理吸着することにより、フィルタ121がいわゆる目詰まり状態となる。そして、吐出吸引部110が吐出吸引を繰り返すことにより、フィルタ121に吸着した核酸が徐々に増えるため、フィルタ121が徐々に目詰まりしてくる。このため、圧力測定部130が測定する吐出圧力及び吸引圧力は、徐々に変化していくこととなる。
【0022】
推定部140は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成され、所定の動作プログラムに従って、核酸回収量推定装置100全体の動作を制御することにより、核酸の回収量を推定する。推定部140は、圧力測定部130が測定した吐出圧力と吸引圧力との差分である差分圧力、及び、差分圧力と核酸濃度との相関情報に基づいて、回収部120(フィルタ121)が回収した核酸の回収量を推定する。推定部140は、図4に示すような、差分圧力と核酸濃度(核酸の回収量)との相関情報(相関グラフ)を予め記憶している。推定部140は、圧力測定部130が測定した、吐出圧力と吸引圧力との差分圧力を、予め記憶した相関情報(相関グラフ)に対応させて、差分圧力に対応する核酸濃度から、核酸の回収量を推定する。
【0023】
なお、核酸を回収する方法、核酸を回収するフィルタ、核酸を回収するための試薬等は、公知の手法を用いることができ、また、国際公開第2010/082631号に記載される内容を含み、当該内容が参酌される。
【0024】
次に、核酸回収量推定装置100の動作について説明する。図5は、核酸回収量推定装置100が行う、核酸の回収量を推定する処理を説明するためのフローチャートである。以下、図面を参照して説明する。
【0025】
まず、核酸回収量推定装置100は、核酸の回収を行うようにユーザに対して促して、核酸の回収が実施されると、核酸回収量推定処理を開始する。
【0026】
吐出吸引部110は、試料200を吐出する(ステップS101)。吐出吸引部110が吐出を行うと、吐出吸引部110とチューブ111で結合された回収部120が、試料200を吐出することにより、容器内に蓄えられた試料200を撹拌する。
【0027】
次に、圧力測定部130は、吐出吸引部110が吐出したときの(最大)吐出圧力を測定する(ステップS102)。図6は、圧力測定部130が測定する圧力の時間変化の例を示す図である。吐出吸引部110が、試料200を吐出する際の圧力を陽圧、試料200を吸引する際の圧力を陰圧とすると、同図に示すように、圧力のピークは回を追う毎に漸増し、圧力が大気圧に戻るまでの時間は長くなる。これは、核酸がフィルタ121に吸着することにより、フィルタ121を通過する試料200の流量が変化するためである。
【0028】
次に、吐出吸引部110は、試料200を吸引する(ステップS103)。吐出吸引部110が吸引を行うと、吐出吸引部110とチューブ111で結合された回収部120が、容器に蓄えられた試料200を吸引する。回収部120が試料200を吸引することにより、図2に示すように、試料200は、回収部120が備えるフィルタ121を通過する。核酸を含む試料200がフィルタ121を通過することにより、フィルタ121が核酸を吸着し、核酸を回収することができる。ここで、吐出吸引部110は、図6に示すように、吐出後、高速吸引と低速吸引との2回の吸引を行う。高速吸引とは、80〜200μl/sで規定される瞬時速度の吸引であり、好ましくは、90〜150μl/s、さらに好ましくは、100〜120μl/sの吸引である。また、低速吸引とは、20〜80μl/sで規定される瞬時速度の吸引であり、好ましくは、30〜60μl/s、さらに好ましくは35〜50μl/sの吸引である。また、吐出、高速吸引、低速吸引の1サイクルを、1回の吐出吸引としている。このサイクルの一例としては、ステップS103において、吐出吸引部110は、高速吸引を0.5秒行い(50μlを吸引し)、3秒停止後(50μlを完全に吸引するまで待機し)、低速吸引を2.5秒行う(100μlを吸引する)とするが、この例に限定されるものではない。
【0029】
次に、圧力測定部130は、吐出吸引部110が吸引したときの吸引圧力を測定する(ステップS104)。ここで、ステップS103において、吐出吸引部110が高速吸引と低速吸引との2回の吸引を行うのは、高速吸引時では、チューブ111内(フィルタ121付近)の圧力が安定しない場合があるためである。また、吐出吸引を繰り返すことにより、吸引後の圧力が大気圧に戻らない(大気圧からずれる)場合があるため、低速吸引を行うことにより、フィルタ121付近の圧力が大気圧に戻るようにしている。このため、圧力測定部130は、圧力を安定して測定できる、低速吸引時の(最大)吸引圧力を測定する。
【0030】
次に、圧力測定部130は、吐出時の最大吐出圧力と低速吸引時の最大吸引圧力との差分から、差分圧力を測定する(ステップS105)。吐出吸引部110が吐出吸引を繰り返し、フィルタ121に吸着した核酸の量が増えると、圧力測定部130が測定する差分圧力は、図7に示すように、徐々に増大していく。この場合の増加傾向は略線形的であったり、ある一定値に均衡する傾向で増大していく。
【0031】
次に、推定部140は、圧力測定部130が測定した差分圧力が所定圧力以上であるか否かを判定する(ステップS106)。当該判定によって、核酸回収量推定処理後に行うPCR(Polymerase Chain Reaction)法に必要な核酸の量があるか否かを判定することができる。なお、所定圧力は、フィルタ121のメッシュサイズ(目の粗さ)、試料200の濃度や粘度等によって変化するものであり、任意である。
【0032】
差分圧力が所定圧力以上でない場合、すなわち、差分圧力が所定圧力未満である場合(ステップS106;No)、吐出吸引部110は、試料200を再び吐出する(ステップS101)。ステップS101〜S106の処理を繰り返すことにより、フィルタ121に吸着する核酸の量が増えていく。そして、フィルタ121に吸着する核酸の量(核酸の回収量)が増えて、差分圧力が所定圧力以上になるまで当該処理を繰り返す。なお、核酸を効率的に回収するためには、処理回数は少ない方がよく、その回数が少ない場合には2回となることもある。
【0033】
差分圧力が所定圧力以上である場合(ステップS106;Yes)、推定部140は、予め記憶した、差分圧力と核酸濃度(核酸の回収量)との相関関係(相関情報)に基づいて、圧力測定部130が測定した差分圧力から核酸濃度(核酸の回収量)を推定する(ステップS107)。その後、本処理は終了する。ここで、差分圧力と核酸濃度(核酸の回収量)とには相関関係がある。これは、核酸がフィルタ121に吸着することにより核酸の回収量が増えると、フィルタ121がいわゆる目詰まり状態となるため、吐出吸引する際の圧力が増大するためである。このため、差分圧力と核酸濃度(核酸の回収量)との相関関係を予め求めておくことにより、差分圧力から核酸濃度(核酸の回収量)を推定することができる。差分圧力を測定した際の核酸濃度(核酸の回収量)を測定するために、フィルタ121から核酸を分離(遊離)させ、例えば、リアルタイムPCR法により、分離した核酸濃度の測定を行う。これにより、図4に示すような、差分圧力と核酸濃度(核酸の回収量)との相関グラフ(相関情報)を求めることができる。推定部140は、ステップS105において測定された差分圧力に相当する相関グラフ(相関情報)上における差分圧力を求め、当該差分圧力に対応する核酸濃度を特定する。
【0034】
以上の処理により、核酸を含む試料200から回収した核酸の回収量を推定することができる。核酸回収量推定処理を行った後、フィルタ121に吸着した核酸を分離させて、PCR法等により、DNAの定量を行うことが一般的である。PCR法等によりポリメラーゼ連鎖反応 による増幅を行うためには、一定量以上の核酸が必要となる。このため、差分圧力から核酸の回収量を推定することにより、核酸の回収量がPCR法等を行うために必要な量であるかを、予め判断(判定)することができる。また、すでに核酸の回収量(核酸濃度)が推定されているため、核酸濃度を測定するためのリアルタイムPCR法や吸光度測定法を省略することができる。従って、核酸を含む試料200から核酸を回収し、当該核酸の濃度を短時間で効率的に判断することができる。また、核酸を担体に物理吸着させて回収する方法を用いることにより、従来からの課題などを回避でき、また、効率的にかつ簡易に、適量の核酸を回収することができる。
【0035】
なお、核酸を分離する方法、核酸を分離するための試薬等は、公知の手法を用いることができ、また、国際公開第2010/082631号に記載される内容を含み、当該内容が参酌される。
【0036】
(実施の形態2)
実施の形態1に係る核酸回収量推定装置100では、差分圧力が所定圧力以上になった際には、PCR法に必要な核酸の量を回収したものとして、核酸の回収を終了する場合について示した。本実施の形態では、差分圧力が、規定圧力に達しない場合には、核酸を含む試料200が不良であると判定する方法について説明する。以下に、本実施の形態に係る核酸回収量推定処理について、図8を参照して説明する。なお、実施の形態1に係る核酸回収量推定装置100と同様の構成、動作については、説明を適宜省略する。
【0037】
図8に示すステップS101からS105及びS107の処理は、図5に示すステップS101からS105及びS107の処理と同様であるため、説明を省略する。本処理では、差分圧力が所定圧力未満である場合に、核酸を含む試料200が不良であるか否かの判定を行う。
【0038】
まず、推定部140は、吐出吸引部110が行った吐出吸引回数を測定するために、吐出吸引回数の初期化(吐出吸引回数N=1)を行う(ステップS201)。そして、ステップS101〜S105の処理を行った後、差分圧力が所定圧力未満である場合(ステップS106;No)、推定部140は、吐出吸引回数(N)が所定回数より多く、かつ、差分圧力が規定圧力未満であるか否かを判定する(ステップS202)。ここで、所定回数と規定圧力は、所定回数のとき規定圧力以下なら、そののちある回数繰り返しても所定の差分圧力に達しないだろうと予測できる回数と差分圧力値である。所定回数と規定圧力は、実験や設計事項により決定される。
【0039】
吐出吸引回数が所定回数以下である場合や差分圧力が規定圧力以上である場合(ステップS202;No)、吐出吸引回数(N)をインクリメントして(ステップS203)、吐出吸引部110は、試料200を再び吐出する(ステップS101)。
【0040】
吐出吸引回数が所定回数より多く、かつ、差分圧力が規定圧力未満である場合(ステップS202;Yes)、推定部140は、核酸を含む試料200が不良であると推定する(ステップS204)。その後、本処理は終了する。試料200の濃度が低い(試料200に含まれる核酸の量が少ない)場合には、フィルタ121に吸着する核酸が少ないため、吐出吸引を何度行っても、差分圧力は上昇しない。このため、吐出吸引を行うことにより、核酸の回収が行われる試料200は、核酸回収量推定処理後にPCR法等を行うに十分な核酸を回収できない不良試料であると、推定部140は推定する。
【0041】
以上の処理により、核酸の回収量がPCR法等を行うために必要な量であるかを、予め判断(判定)することができる。また、リアルタイムPCR法や吸光度測定法を行う前に、不良試料であることが判明しているため、不要な測定を省くことができ、測定時間を短縮することができる。
【0042】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。
【0043】
本実施の形態で回収量を推定する対象の核酸としては、例えば、DNA(ゲノムDNA、プラスミドDNA、ミトコンドリアDNA等)、RNA(メッセンジャーRNA、トランスファーRNA等)があげられるが、フィルタ121に物理吸着する程度の長さがある核酸であれば、任意である。核酸の具体例としては、ほ乳類の核酸があげられる。
【0044】
なお、本実施の形態にて回収量を推定する工程に入る前に、核酸を含む試料200に界面活性剤、好ましくは、非イオン性界面活性剤やプロテアーゼを添加する工程を経ることがのぞましい。この界面活性剤を用いる方法やプロテアーゼを用いる方法としては米国特許出願公開第2011/275126号明細書に詳述されている。また、もし、前記試料200が既に界面活性剤を含む場合はその限りではない。界面活性剤としては、例えば、TRITON X−100、TRION X−114, Nonidet P40等のNonidet系、Tween 20、Tween 80等のTween系界面活性剤があげられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、Polyoxyethylene-p-isooctylphenol, Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate, ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ノニルフェノールポリチオエトキシレート、などがあげられる。これらの界面活性剤は何れか1種類でもよいが、2種類以上を併用してもよい。
【0045】
前記プロテアーゼとしては、例えば、プロテイナーゼK、キモトリプシン、ペプシン、カテプシンD、パパイン等があげられる。これらのプロテアーゼは、いずれか1種類でもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0046】
前記処理試薬と前記細胞試料とを混合した処理液において、前記プロテアーゼの濃度は、例えば、0.5mU/μL以上であり、前記界面活性剤の濃度は、例えば、0.1体積%以上であることが好ましい。このような条件で前記細胞試料を処理することによって、前記核酸複合体を十分に放出できる。前記プロテアーゼ濃度および前記界面活性剤濃度は、例えば、それぞれ前記処理試薬と前記細胞試料とを含む処理液における濃度であって、前記処理液における細胞の含有量を約1×10〜1×10個と仮定した場合の濃度である。また、前記プロテアーゼ濃度および前記界面活性剤濃度は、例えば、それぞれ、前記処理試薬と前記細胞試料とを含む処理液における濃度であって、前記処理液における前記細胞試料の添加割合を50〜100μL、好ましくは50μLと仮定した場合の濃度であってもよい。
【0047】
前記処理液において、前記プロテアーゼの濃度の下限は、例えば、0.5mU/μL以上であり、好ましくは1mU/μL以上であり、より好ましくは2mU/μL以上である。前記処理液において、前記プロテアーゼ濃度の上限は、特に制限されないが、例えば、1U/μL以下であり、好ましくは500mU/μL以下である。前記プロテアーゼの濃度範囲としては、例えば、0.5〜1000mU/μLであり、好ましくは1〜1000mU/μLであり、より好ましくは2〜500mU/μLであり、特に好ましくは5〜15mU/μLの範囲である。プロテアーゼの活性単位(U:ユニット)は、一般に、ヘモグロビンを基質として37℃で1分間に1μmo lのチロシンに相当するペプチドを生成する酵素量を1Uとする。
【0048】
前記処理液において、例えば、前記細胞1×10〜1×10個に対するプロテアーゼの割合は、特に制限されないが、下限が、例えば、0.02mU以上であり、好ましくは0.08mU以上であり、上限が、例えば、100U以下であり、好ましくは50U以下である。また、前記処理液において、例えば、前記細胞試料50μLに対するプロテアーゼの割合は、特に制限されないが、下限が、例えば、0.02mU以上であり、好ましくは0.08mU以上であり、上限が、例えば、100U以下であり、好ましくは50U以下である。
【0049】
前記処理液において、前記界面活性剤の濃度の下限は、特に制限されないが、例えば、0.1体積%以上であり、好ましくは0.2体積%以上である。また、前記処理液において、前記界面活性剤の上限は、特に制限されないが、例えば、20体積%以下であり、好ましくは10体積%以下であり、より好ましくは5体積%以下であり、さらに好ましくは2体積%以下である。前記界面活性剤の濃度範囲は、例えば、0.1〜20体積%であり、好ましくは0.1〜5体積%であり、より好ましくは0.1〜2体積%であり、特に好ましくは0.2〜0.8体積%の範囲である。
【0050】
また、前記処理液において、前記細胞1×10〜1×10個に対する界面活性剤の割合は、特に制限されないが、下限が、例えば、1フェムトモル(1×10〜15モル)以上であり、好ましくは、2フェムトモル以上であり、上限が、例えば、200フェムトモル以下であり、好ましくは100フェムトモル以下である。また、前記処理液において、前記細胞試料50μLに対する前記界面活性剤の割合は、特に制限されないが、下限が、例えば、1フェムトモル以上であり、好ましくは、2フェムトモル以上であり、上限が、例えば、200フェムトモル以下であり、好ましくは100フェムトモル以下である。
【0051】
前述のプロテアーゼおよび界面活性剤の割合は、前記細胞が真核細胞(有核細胞)の場合、好ましくは1×10〜1×10個に対する割合であることが好ましく、より好ましくは1×10〜1×10個に対する割合である。前記真核細胞の中でも、特に、前記細胞が全血由来の細胞(例えば、白血球)の場合、例えば、5×10〜1×10個に対する割合であることが好ましく、より好ましくは2.5×10〜1×10個に対する割合である。前記真核細胞の中でも、特に唾液由来の細胞の場合、例えば、1×10〜1×10個に対する割合であることが好ましく、より好ましくは1×10〜1×10個に対する割合である。また、前記細胞が原核細胞の場合、例えば、1×10〜1×10個に対する割合であることが好ましく、より好ましくは1×10〜1×10個に対する割合であり、例えば、大腸菌等も同様である。
【0052】
前記処理試薬におけるプロテアーゼ濃度および界面活性剤濃度は、特に制限されず、例えば、前記処理試薬を前記細胞試料と混合した際に、前記処理液において、前述のような濃度になるよう設定することが好ましい。
【0053】
また、本実施の形態で回収量を推定する際の検体試料としては、タンパク質変性剤等を含んでおいてもよい。タンパク質変性剤としては、例えば、尿素、β−メルカプトエタノール、ラウリル硫酸ナトリウム、ジチオトレイトール、グアニジン塩酸などがあげられる。処理試薬におけるタンパク質変性剤の濃度は、特に制限されないが、例えば、0〜8mol/mLであり、好ましくは、1〜5mol/mLであり、より好ましくは1〜3mol/mLである。これらのタンパク質変性剤は、何れか1種類でもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0054】
吐出吸引部110が吐出吸引する速度(圧力変化速度)は、容器内に蓄えられた試料200を撹拌できる程度の速度であり、例えば、80μl/s以上である。また、図9に示すように、容器内に蓄えられた試料200を撹拌するために、吐出圧力(吐出速度)を一定以上に設定することもできる。また、吐出吸引部110の動作量と動作速度とは、フィルタ121のメッシュサイズ(目の粗さ)、試料200の濃度と粘度、核酸の長さに合わせて設定することができる。そして、設定した動作量と動作速度で、回収量を推定する差分圧力、不良判定の動作回数と規定圧力を決めることができる。
【0055】
また、例えば、吐出吸引部110は、200〜80μl/sの瞬時速度で、0.25〜0.625秒間、高速吸引を行い、2〜4秒間、吸引を停止し、その後、80〜20μl/sの瞬時速度で、1.25〜5秒間、低速吸引を行うこともできる。瞬時速度、高速吸引を行う時間、吸引を停止する時間、低速吸引を行う時間は、フィルタ121のメッシュサイズ(目の粗さ)、試料200の濃度と粘度、核酸の長さに合わせて設定することができる。
【0056】
また、吐出吸引部110は、吸引(高速吸引、低速吸引)を行い、その後、吐出を行うこともできる。この場合、高速吸引→低速吸引→吐出が1サイクルとなる。吐出吸引のサイクルは任意であり、例えば、低速吸引→高速吸引→吐出、吐出→低速吸引→高速吸引、吐出→低速吸引、低速吸引→吐出を、1サイクルとすることもできる。
【0057】
図3に示す、回収部120の形状は一例であり、回収部120の形状、材質等は任意である。また、回収部120が備えるフィルタ121の形状、メッシュサイズ、材質等は、回収を行う核酸の長さによって変化するものであり、任意である。
【0058】
圧力測定部130は、チューブ111内の任意の位置の圧力を測定することができる。また、圧力測定部130は、チューブ111以外の任意の位置(例えば、回収部120の端面位置、フィルタ121の端面位置)で、圧力を測定することもできる。また、チューブ111の形状、材質は任意である。
【0059】
吐出吸引の終了を判定するための圧力、不良試料を判定するための圧力、及び、吐出吸引回数は、試料200の濃度、フィルタ121のメッシュサイズ、差分圧力(吐出圧力、吸引圧力)、圧力変化速度等によって変化するものであり、任意である。
【0060】
推定部140は、圧力測定部130が測定した差分圧力の最大値だけでなく、例えば、差分圧力の平均値、差分圧力の中間値等に基づいて、核酸の回収量を推定することもできる。また、推定部140は、図6に示すような、差分圧力のピークから0になるまでの変化率または時間で、核酸の回収量を推定することもできる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0062】
(差分圧力と核酸濃度との相関関係)
差分圧力と核酸濃度との間に、どのような相関関係があるかを確認した。
まず、試薬1(2U プロテアーゼK、10mM Tris、5mM 塩化カルシウム、30%グリセロール、1%Nonidet P40、0.05%アジ化ナトリウム水溶液)に、試薬2(10mM Tris、1%Nonidet P40、0.05%アジ化ナトリウム水溶液)を添加して、混合試薬を作製した。次に、ヒト血液試料に混合試薬を添加した生体試料を所定容器に蓄えて、当該生体試料を吐出吸引した。生体試料から核酸を回収するために、図3A〜3Cに示す形状の回収部を用いた。核酸を回収するフィルタとして、メッシュサイズ(オープニング)60μmのPETメッシュシート TN255(サンプランテック社製)を使用した。また、吐出吸引を行うポンプとして、GASTIHGT(登録商標)1750 0.5ml(ハミルトン社製)を使用した。
【0063】
生体試料を吐出吸引し、吐出圧力と吸引圧力との差分圧力を測定しながら、生体試料に含まれる核酸をフィルタに吸着させた。核酸が吸着したフィルタを、試料3(200mM 塩化カルシウム、0.05%アジ化ナトリウム水溶液)及び試料4(10mM Tris、1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、0.05%アジ化ナトリウム水溶液)で洗浄後、フィルタを試薬4中で、95℃、10分加熱することにより、フィルタから核酸を溶出(遊離)させた。そして、リアルタイムPCR法により、フィルタから溶出させた核酸の濃度測定を行った。
【0064】
図10は、差分圧力と吐出吸引回数との関係を示す図である。同図に示すように、吐出吸引を繰り返すことにより、差分圧力が増大していく。このため、フィルタに核酸が吸着することにより、差分圧力(吐出圧力、吸引圧力)が変化することがわかった。
【0065】
図11は、差分圧力と核酸濃度との関係を示す図である。同図に示すように、差分圧力が増大していくと、核酸濃度(核酸の回収量)が増大することがわかった。そして、差分圧力が2kPa未満の場合、核酸濃度が1000copy/μl以下と推定され、PCR法等による測定を確実に行うことができない可能性があることがわかった。差分圧力が2.4kPa以上の場合、核酸濃度が4000copy/μl以上と推定されため、PCR法等による測定をより確実に行うことができることがわかった。
一方で、差分圧力が3kPaを超える場合に、核酸の過剰な吸着による担体の目詰まり状態となる可能性があり、目詰まり状態となった場合は、次工程において溶液の吐出吸引が行えなくなり、担体から核酸を回収することが不能となる。従って、差分圧力が2.8kPaとなった際には、核酸濃度が10000copy/μl以上と推定されるため、差分圧力が2.8kPa以上になった時点で、吐出吸引を停止し、次工程に移ることで核酸の過剰な吸着による目詰まりを未然に防ぐことが出来ることがわかった。
【符号の説明】
【0066】
100 核酸回収量推定装置
110 吐出吸引部
111 チューブ
120 回収部
121 フィルタ
122 ノズルキャップ
130 圧力測定部
140 推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を含む試料を吐出吸引する吐出吸引部と、
前記試料を前記吐出吸引部で吐出吸引することによって、前記核酸を回収する回収部と、
前記試料を吐出するときの吐出圧力と前記試料を吸引するときの吸引圧力とを測定し、当該吐出圧力と当該吸引圧力との差分である差分圧力を測定する圧力測定部と、
前記測定された差分圧力に基づいて、前記回収した核酸の回収量を推定する推定部と、を備える、
ことを特徴とする核酸回収量推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記差分圧力と核酸回収量との相関情報を予め記憶し、当該差分圧力と当該相関情報とに基づいて、前記回収した核酸の回収量を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の核酸回収量推定装置。
【請求項3】
前記吐出吸引部は、前記試料を吐出した後、前記試料を高速で吸引し、さらに、低速で吸引する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の核酸回収量推定装置。
【請求項4】
前記核酸を含む試料に界面活性剤が含まれていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の核酸回収量推定装置。
【請求項5】
前記核酸を含む試料にプロテアーゼが含まれていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の核酸回収量推定装置。
【請求項6】
前記核酸を含む試料にタンパク質変性剤が含まれていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の核酸回収量推定装置。
【請求項7】
前記回収部は、所定のメッシュサイズからなるフィルタを備え、前記試料を吐出吸引することによって前記試料を前記フィルタに通過させて前記核酸を回収する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の核酸回収量推定装置。
【請求項8】
前記推定部は、前記差分圧力の最大値が所定の値以上の場合、前記回収した核酸の回収量が所定量に達したと推定する、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の核酸回収量推定装置。
【請求項9】
前記推定部は、同一の前記試料について所定の回数、前記吐出吸引部で吐出吸引を繰り返したのちの前記差分圧力の最大値が所定の値未満の場合、前記試料が不良試料であると推定する、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の核酸回収量推定装置。
【請求項10】
核酸を含む試料を吐出吸引して、前記試料を回収部に通過させて、前記試料から前記核酸を回収する回収工程と、
前記試料を吐出するときの吐出圧力と前記試料を吸引するときの吸引圧力とを測定し、当該吐出圧力と当該吸引圧力との差分である差分圧力を測定する圧力測定工程と、
前記測定された差分圧力に基づいて、前記回収した核酸の回収量を推定する推定工程と、を備える、
ことを特徴とする核酸回収量推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−235776(P2012−235776A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−102052(P2012−102052)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】