説明

核酸固相合成用担体

【課題】高純度の核酸を高収量にて合成することができる核酸合成用固相担体を提供する。
【解決手段】本発明によれば、分子中に2個以上のビニル基を有する多官能性単量体単位と分子中に1個のビニル基を有するビニル単量体単位からなる多孔質共重合体粒子からなり、アセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積が3.5mL/g以上であり、レーザー散乱式粒度分布測定法によるメジアン粒径が50〜120μmの範囲にある核酸固相合成用担体が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸合成のための多孔質共重合体粒子からなる固相担体に関する。
【背景技術】
【0002】
固相合成法によるオリゴデオキシリボヌクレオチドやオリゴリボヌクレオチド等のような核酸の化学合成法が既に知られている。例えば、よく知られているホスホロアミダイト法によれば、次のようにして、核酸が合成される。
【0003】
即ち、先ず、合成しようとする核酸の3'末端になるヌクレオシドをスクシニル基等のリンカーを介して固相担体に担持させる。次いで、このヌクレオシド・リンカーを担持させた固相担体を核酸自動合成装置の反応容器に入れ、溶媒としてアセトニトリルを流し込む。以降、核酸自動合成装置が合成プログラムに従って、前記ヌクレオシド5'−OH基の脱保護反応、5'−OH基へのヌクレオシドホスホロアミダイトのカップリング反応、未反応の5'−OH基のキャッピング反応及び生成したホスファイトの酸化反応からなるサイクルを繰り返し、かくして、目的の配列を有する核酸が合成される。最終的に合成された核酸は、アンモニア等を用いて、リンカーを加水分解させて、固相担体から切り出される(非特許文献1参照)。
【0004】
このような核酸の固相合成において、従来、上記固相担体としては、CPG(Controlled Pore Glass) やシリカゲルのような無機粒子が広く用いられている。その理由は、例えば、ペプチド固相合成に用いられている高膨潤性の低架橋性ポリスチレン粒子を固相担体として核酸合成に用いるときは、合成サイクルの過程で頻繁に行われる固相担体中への合成試薬や溶媒の出入りに時間を要する等の理由によって、高純度で核酸を合成することができないためと考えられる。一方、核酸合成に使用される酸やアルカリに対する化学的安定性を向上させるために、これまで、高度に架橋された非膨潤性の多孔質ポリスチレン粒子も核酸合成用固相担体として使用されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、上述したCPGや非膨潤性多孔質ポリスチレン粒子を核酸合成用固相担体に用いる場合、固相担体当りの核酸合成量を高くするために、ヌクレオシド・リンカーの担持量を多くして、核酸合成を行うときは、生成する核酸の純度が著しく低下するという問題があった。
【非特許文献1】Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry (2000)
【特許文献1】特開平03−068593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、固相担体を用いる核酸合成における上述した問題を解決するために鋭意研究した結果、アセトニトリル中での膨潤体積とメジアン粒径を最適に調整して得た多孔質共重合体粒子が核酸合成用固相担体としてすぐれることを見出して、本発明を完成するに到った。即ち、本発明は、高純度の核酸を高収量にて得ることができる核酸合成用固相担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、分子中に2個以上のビニル基を有する多官能性ビニル単量体単位と分子中に1個のビニル基を有する単官能性ビニル単量体単位からなる多孔質共重合体粒子からなり、アセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積が3.5mL/g以上であり、レーザー散乱式粒度分布測定法によるメジアン粒径が50〜120μmの範囲にあることを特徴とする核酸固相合成用担体が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の核酸合成用固相担体を用いることによって、高純度の核酸を高収量にて得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明による核酸固相合成用担体は、分子中に2個以上のビニル基を有する多官能性ビニル単量体単位と分子中に1個のビニル基を有する単官能性ビニル単量体単位からなる多孔質共重合体粒子からなり、アセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積が3.5mL/g以上であり、レーザー散乱式粒度分布測定法によるメジアン粒径が50〜120μmの範囲にある。
【0010】
本発明において、多官能性ビニル単量体は、後述する単官能性ビニル単量体との共重合によって、架橋した網目構造を有する共重合体を形成し得るものであれば特に限定されないが、例えば、ジビニルベンゼン(p−又はm−ジビニルベンゼン又はこれらの混合物)やトリビニルベンゼンのように分子中に2個以上、好ましくは、2個又は3個のビニル基を有するポリビニルベンゼン、ジビニルシクロヘキサンやトリビニルシクロヘキサンのように分子中に2個以上、好ましくは、2個又は3個のビニル基を有するポリビニルシクロヘキサン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコール単位が4以上であるポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレートや、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール単位が4以上であるポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートのような炭素原子数4〜10のアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0011】
上述したなかでも、本発明において、多孔質共重合体を構成する多官能性ビニル単量体は、ジビニルベンゼン、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、多孔質共重合体における多官能性ビニル単量体単位の割合は、通常、0.1〜2mmol/gの範囲であり、好ましくは、0.3〜1mmol/gの範囲である。多孔質共重合体における多官能性ビニル単量体単位の割合が0.1mmol/gよりも少ないときは、得られる多孔質共重合体粒子の耐溶剤性、熱安定性、多孔度が十分でないために、核酸の固相合成において固相担体として用いたときに、得られる核酸の合成量が少なくなると共に、得られる核酸の純度も低くなる傾向がある。反対に、多孔質共重合体における多官能性ビニル単量体単位の割合が2mmol/gよりも多いときは、得られる多孔質共重合体粒子の有機溶剤中での膨潤度が低いために、固相担体として用いたときに、得られる核酸の合成量が少なく、また、その純度も低い傾向にある。
【0013】
本発明において、多孔質共重合体における単官能性ビニル単量体単位は、特に限定されるものではないが、代表例として、芳香族ビニル化合物を挙げることができる。
【0014】
この芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレンのほか、メチルスチレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ブチルスチレン等のアルキルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、フルオロスチレン、ペンタフルオロスチレン、ブロモスチレン等のハロゲン化スチレン、クロロメチルスチレン、フルオロメチルスチレン等のハロゲン化アルキルスチレンや、更には、安息香酸ビニル、スチレンスルホン酸ナトリウム、アミノスチレン、シアノスチレン、メトキシスチレン、エトキシスチレン、ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、ニトロスチレン等を挙げることができる。
【0015】
本発明によれば、多孔質共重合体粒子は、核酸固相合成の起点となる種々の官能基を有するように、そのような官能基を有する単官能性ビニル単量体単位を有する。そのような官能基が、例えば、水酸基であるとき、そのような官能基を有する単官能性ビニル単量体単位として、例えば、ヒドロキシスチレンを挙げることができる。但し、本発明によれば、加水分解によって水酸基に変換することができる置換基(即ち、核酸固相合成の起点となる官能基の前駆体をなす置換基)を有する芳香族ビニル化合物、例えば、アセトキシスチレンを単量体単位として有する多孔質共重合体粒子を製造し、これを加水分解して、水酸基を有する多孔質共重合体粒子とすることもできる。
【0016】
また、多孔質共重合体粒子が核酸固相合成の起点となる官能基としてアミノ基を有する場合には、アミノ基を有する単官能性ビニル単量体単位として、例えば、アミノスチレンを挙げることができる。
【0017】
本発明によれば、単官能性ビニル単量体単位として、上記芳香族ビニル化合物以外にも、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、2−ビニルピリジン、1−ビニルピロリドン等を挙げることができる。
【0018】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖状のアルキルエステルが好ましい。具体例として、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ポリエチレングリコール、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸オクタフルオロペンチル等を挙げることができる。
【0019】
本発明において、多孔質共重合体粒子は、例えば、官能基として水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを単官能性ビニル単量体単位として有することによって、核酸固相合成のための起点を有することもできる。そのような水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等を挙げることができる。
【0020】
本発明において、上述したような核酸固相合成のための起点としての官能基を有する単官能性ビニル単量体単位の多孔質重合体粒子における割合は、0.01〜1mmol/gの範囲であり、好ましくは、0.05〜0.5mmol/gの範囲である。官能基を有する単官能性ビニル単量体単位の多孔質重合体粒子における割合が0.01mmol/gよりも少ないときは、固相担体として用いたときに、合成の起点となる官能基量が少ないために、核酸の合成量が低い。反対に、官能基を有する単官能性ビニル単量体単位の多孔質重合体粒子における割合が1mmol/gよりも多いときは、固相担体として用いたときに、隣接する官能基間の距離が不十分なために、隣り合って起こる化学反応が互いに阻害され、その結果、得られる核酸の純度が低い傾向にある。
【0021】
上述したような多孔質共重合体粒子からなる本発明による核酸固相合成用担体は、その形状において、何ら限定されるものではないが、好ましくは、粒子状であって、レーザー散乱式粒度分布測定法により測定したメジアン粒径が50〜120μmの範囲であり、好ましくは、70〜100μmの範囲である。核酸固相合成用担体のメジアン粒径が50μmよりも小さいときは、固相担体として用いたときに、得られる核酸の純度が低い傾向にあり、他方、メジアン粒径が120μmよりも大きいときは、固相担体として用いたときに、固相担体中への合成用試薬や溶媒の出入りに時間を要するために、得られる核酸の合成量と純度が低下する傾向がみられる。
【0022】
本発明において、核酸固相合成用担体のメジアン粒径は、レーザー散乱式粒度分布測定法によって測定される。具体的には、固相合成用担体試料を50/50容積比のエタノール/水混合物中で超音波分散させ、得られた分散液を50/50容積比のエタノール/水混合物を測定分散媒として、レーザー散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製LA−920)により測定して、メジアン粒径を求める。
【0023】
本発明による核酸固相合成用担体は、アセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積が3.5mL/g以上、好ましくは、4.0mL/g以上である。アセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積が3.5mL/gよりも小さいときは、核酸固相合成用担体として用いたときに、固相担体中への合成用試薬や溶媒の出入りが困難になり、更に、核酸を合成するための十分なスペースが固相担体中に得られないので、核酸の合成量と純度が低下する。本発明による核酸固相合成用担体のアセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積は、その上限において、特に限定されるものではないが、通常、10mL/gである。
【0024】
核酸固相合成用担体の試料をアセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積は、メスシリンダーを用いて測定される。具体的には、1.00gの固相合成用担体試料を10mL容量のメスシリンダーに入れ、これに過剰量のアセトニトリルを注入して、軽く振とうするか、攪拌して、脱泡した後、12時間静置して、試料を十分に沈降させた後、メスシリンダーの目盛から見掛けの体積を読み取る。
【0025】
本発明による核酸固相合成用担体は、特に限定されるものではなく、例えば、懸濁共重合法やシード共重合法にて製造することができる。以下に一例として懸濁共重合による製造について説明する。
【0026】
先ず、冷却管と窒素ガス導入管を備えた重合用フラスコ中に水と分散安定剤を投入し、攪拌して、分散安定剤を水中に溶解又は分散させる。次に、多官能性ビニル単量体と単官能性ビニル単量体と(好ましくは、核酸固相合成の起点となる官能基又はその前駆体をなす置換基を有する単官能性ビニル単量体)を含む単量体混合物、多孔質化剤及び重合開始剤からなる混合物を上記フラスコ内に加え、かくして、得られた混合物を重合開始剤が分解しない温度下で攪拌し、乳化させて、懸濁共重合系を形成して、これを不活性気体雰囲気下に所定の温度に加熱して、懸濁共重合を行う。
【0027】
分散安定剤は、単量体混合物、多孔質化剤及び重合開始剤からなる混合物を水中に油滴として分散安定化させるために用いられる。分散安定剤は、特に限定されず、従来、知られているものが適宜に用いられる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ゼラチン、デンプン、カルボキシルメチルセルロース等の親水性保護コロイド剤、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ベントナイト等の難溶性粉末等が用いられる。分散安定剤の使用量は、特に限定されないが、好ましくは、懸濁共重合系において、水の重量に対して0.01〜10重量%の範囲である。懸濁共重合系において、分散安定剤が水の重量に対して0.01重量%よりも少ないときは、懸濁共重合の分散安定性が損なわれて、多量の凝集物が生成する。反対に、懸濁共重合系において、分散安定剤が水の重量に対して10重量%よりも多いときは、粒径5μm程度以下の微粒子が多数生成する。
【0028】
多孔質化剤は、得られる共重合体粒子に多孔質構造を付与するために用いられる。多孔質化剤としては、有機溶媒や合成高分子が用いられる。有機溶媒としては、重合反応に関与せず、水に難溶であり、更に、前記多官能性及び単官能性ビニル単量体には溶解するが、生成する共重合体に溶解しないものであれば、特に限定されるものではないが、好ましくは、炭化水素又はアルコールが用いられる。
【0029】
炭化水素としては、飽和又は不飽の脂肪族和炭化水素や芳香族炭化水素が用いられる。炭化水素は、好ましくは、炭素数5〜12の脂肪族又は芳香族炭化水素であり、具体例として、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トルエン等を挙げることができる。アルコールは、好ましくは、脂肪族アルコールであり、特に好ましくは、炭素数5〜12の脂肪族アルコールであり、具体例として、例えば、2−エチルヘキシルアルコール、t−アミルアルコール、ノニルアルコール、2−オクタノール、ノナノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール等を挙げることができる。これらの炭化水素とアルコールはそれぞれ単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
懸濁共重合において、これら多孔質化剤は、単量体の合計重量に対して、通常、0.5〜2.5倍の範囲で用いられ、好ましくは、1.0〜2.0倍の範囲で用いられる。懸濁共重合において、単量体の合計重量に対して、多孔質化剤の割合が0.5倍よりも少ないときは、得られる多孔質共重合体粒子の細孔と細孔容積がいずれも小さく、その結果、得られる多孔質共重合体粒子を核酸合成用担体として用いた場合に、前述したように、核酸の合成量と純度が低い傾向にある。他方、懸濁共重合において、単量体の合計重量に対して、多孔質化剤の割合が2.5倍よりも多いときは、多孔質構造が崩壊して粒子形状にならない。即ち、種々の大きさの重合体粒子の塊状物や、多孔質でない重合体の塊が生成し、このようなものを固相担体として用いても、得られる核酸の合成量は著しく少なくなる。
【0031】
重合開始剤も、特に限定されず、従来から知られているものが適宜に用いられる。例えば、ジベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカルボネート等の過酸化物、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が用いられる。
【0032】
懸濁共重合においては、前述したように、分散安定剤を水中に溶解又は分散させ、これに単量体混合物と多孔質化剤と重合開始剤からなる混合物を加え、攪拌、乳化させて、懸濁共重合系を形成し、所定の温度に加熱して、懸濁共重合を行うが、ここに、上記攪拌、乳化に用いる攪拌翼の形状と攪拌速度を制御することによって、最終的に得られる多孔質共重合体粒子の粒径を任意に調整することができ、例えば、撹絆速度が速いほど、得られる多孔質共重合体粒子の粒径は小さくなる。
【0033】
このようにして、重合用フラスコ内に懸濁共重合系を形成させた後、フラスコ内に窒素ガス等の不活性ガスを導入しながら、攪拌下に懸濁共重合系を所定の温度まで昇温させ、所定時間にわたって懸濁共重合反応を行う。
【0034】
懸濁共重合反応の条件は、適宜に設定すればよく、例えば、反応温度は60〜90℃の範囲であり、反応時間は0.5〜48時間程度である。但し、これに限定されるものではない。
【0035】
このようにして、懸濁共重合反応の終了後、得られた共重合体粒子を水や有機溶媒を用いて濾過、洗浄して、共重合体粒子中に残存する多孔質化剤、未反応の単量体、重合開始剤の熱分解物、分散安定剤等の不純物を除去する。上記濾過洗浄用の溶媒としては、上記除去すべき物質を溶解する溶媒から適宜に選択することができ、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン等が用いられる。これらの溶媒は、単独で、又は適宜に組み合わせて、又は順次に用いられる。得られた共重合体粒子をこれらの溶媒で洗浄するには、例えば、濾紙を敷いたブフナー漏斗に懸濁共重合によって得られた反応混合物を投入し、吸引濾過して、得られた濾紙上の共重合体粒子に濾過洗浄用溶媒を適量加えて攪拌し、再び、吸引濾過する操作を繰返す。必要に応じて、このような洗浄を加熱下に行って、共重合体粒子中の揮発性の物質を除去することができる。
【0036】
このようにして得られた多孔質共重合体粒子が核酸合成の起点として必要である官能基の前駆体である置換基、例えば、アセトキシ基を有するときは、多孔質重合体粒子の有するこの置換基を更に加水分解して水酸基とし、濾過、洗浄、乾燥して、目的とする多孔質共重合体粒子を得る。
【0037】
本発明によれば、懸濁共重合によって得られた多孔質共重合体粒子が当初から核酸合成の起点として必要である官能基又はその前駆体をなす置換基を有していることが好ましいが、しかし、場合によっては、そのような官能基又は置換基をもたない多孔質共重合体粒子を製造した後、そのような共重合体粒子に官能基を付与するための反応を更に行ってもよい。
【0038】
このようにして、得られた多孔質共重合体粒子は、乾燥して粉末とし、また、アセトニトリル等の適宜の有機溶媒に分散させた分散液とすることができる。場合によっては、得られた多孔質共重合体粒子を分級する等して、粒子中に含まれる微小粒子、粗大粒子、凝集粒子、異物等を除去する。このようにして、本発明による核酸合成用固相担体を得ることができる。
【0039】
このような本発明による核酸合成用固相担体を用いることによって、オリゴデオキシリボヌクレオチド、オリゴリボヌクレオチド又はそれらの誘導体を高い合成量と純度にて合成することができる。これらを合成する方法は、従来、知られている方法を採用することができる。
【0040】
先ず、本発明による固相担体の水酸基やアミノ基のような官能基に5'水酸基がジメトキシトリチル(DMT)基によって保護されたヌクレオシド・スクシニルリンカーを、例えば、下記式に示すように、共有結合によって結合させて、担持させる。次に、このヌクレオシド・スクシニルリンカーを担持させた固相担体の所定量を反応カラムに充填して、これを核酸自動合成装置に取り付ける。この後、装置の合成プログラムに従って、反応カラムにフロー方式で順次、合成用試薬や有機溶媒が送液されて核酸合成が行われる。即ち、ヌクレオシドの5'−OHの保護基(DMT基)を酸により脱保護する工程、5'−OHにヌクレオシドホスホロアミダイトをカップリングする工程、未反応の5'−OHを無水酢酸によりキャッピングする工程及び生成したホスファイトを酸化して、リン酸トリエステルに変換する工程を繰り返して、目的の配列を有する核酸が合成される。合成された核酸は、アンモニア水を用いてスクシニルリンカーを加水分解し、切断することによって、固相担体から切り出される。
【0041】
【化1】

【0042】
ここに、○は本発明による固相担体、DMTは5’−OHの保護基であるジメトキシトリチル基、B1は塩基を示す。
【実施例】
【0043】
実施例1
(核酸合成用固相担体の調製)
冷却管、攪拌機及び窒素導入管を備えた500mL容量のセパラブルフラスコを恒温水槽に浸し、これに蒸留水262.5gとポリビニルアルコール((株)クラレ製、平均重合度約2000、ケン化度80モル%) 2.6gを仕込み、恒温水槽の温度を28℃に保ち、攪拌しながら、ポリビニルアルコールを水に溶解させて、水溶液とした。
【0044】
別に、スチレン40.1g、p−アセトキシスチレン3.6g、ジビニルベンゼン(55%)7.2g及び1−ビニル−2−ピロリドン9.0gの混合物に過酸化ベンゾイル(75%)1.1gを加えて溶解させ、更に、2−エチルヘキサノール54.5gとイソオクタン23.3gを加えて混合し、得られた溶液を上記ポリビニルアルコール水溶液に加えた。
【0045】
得られた混合物を窒素気流下、毎分520回転で30分間攪拌して、上記混合物を乳化させた後、同じ攪拌回転数にて恒温水槽の温度を28℃から80℃まで昇温して、8時間、懸濁共重合反応を行った。反応終了後、恒温水槽を28℃まで降温した。
【0046】
このような懸濁共重合反応によって得られた反応混合物を蒸留水とアセトンを用いて、順次に濾過、洗浄した後、全量が約1Lになるようにアセトン中に分散させた。この分散液を静置して、共重合体粒子が沈殿し、分散液を傾けても沈殿が乱れない程度になるまで放置した後、上清のアセトンを廃棄した。得られた共重合体粒子の沈殿に再びアセトンを加えて、分散させ、静置した後、アセトンを廃棄するという操作を10回繰返して、得られた共重合体粒子を分級した。最終的に得られた分散液を濾過し、減圧乾燥して、共重合体粒子を粉末として得た。
【0047】
次に、冷却管、攪拌機及び窒素導入管を備えた500mL容量セパラブルフラスコを恒温水槽に浸漬し、上記共重合体粉末20gとエタノール100gを仕込み、共重合体粉末をエタノール中に分散させた。水酸化ナトリウム1gを蒸留水50gに溶解させた水溶液を上記分散液に加え、75℃で24時間加熱して、共重合体の有するp−アセトキシ基を加水分解した。反応終了後、反応混合物に塩酸を加えて中和した後、蒸留水とアセトンを用いて、順次、濾過、洗浄した。最終的に得られた分散液を濾過し、得られた共重合体粉末を減圧乾燥して、核酸合成用固相担体を粉末として得た。
【0048】
得られた共重合体粒子のアセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積とメジアン粒径を前述した方法に従って測定した。結果を表3に示す。
【0049】
(核酸合成用固相担体へのヌクレオシド・リンカーの担持)
上記核酸合成用固相担体1g、DMT−dT−3'−succinate (Beijing OM Chemicals製) 0.18g、HBTU(Novabiochem製)0.09g、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(アルドリッチ製)0.048mL及びアセトニトリル10mLを混合し、攪拌下、室温で12時間反応させた後、アセトニトリルを用いて濾過、洗浄した後、乾燥させた。これにCapA(20%無水酢酸/80%アセトニトリル)2.5mL、CapB(20%N−メチルイミダゾール/30%ピリジン/50%アセトニトリル)2.5mL、4−ジメチルアミノピリジン(アルドリッチ製)0.025g及びアセトニトリル5mLを混合し、攪拌下に室温で12時間反応させた後、アセトニトリルを用いて濾過、洗浄した。この後、減圧乾燥して、固相担体重量当り200μmol/gのDMT−dT−3'−succinateを担持した核酸合成用固相担体を得た。
【0050】
(オリゴヌクレオチドdT20の合成)
上記DMT−dT−3'−succinate を担持した固相担体5mgを反応容器に入れ、Applied Biosystems 3400DNA合成機(アプライドバイオシステムズ製)に取り付けて、合成スケール1μmol、DMT−offの条件にてオリゴヌクレオチドdT20の合成を行った。固相担体からのオリゴヌクレオチドの切り出しと脱保護は、濃アンモニア水を用いて55℃で15時間反応させて行った。
【0051】
得られたオリゴヌクレオチドの吸光度測定(260nm)によるOD収量(合成量に相等)とHPLC測定(ウォーターズ製アライアンスUVシステム、YMC製Hydrosphere C18)によって得られたdT20の割合(全長オリゴヌクレオチド%)を表3に示す。また、上記OD収量とdT20の割合(全長オリゴヌクレオチド%)との積の値を表3に示す。この積の値は、目的とする配列の20塩基長のオリゴヌクレオチド(dT20)の合成量を意味する。
【0052】
実施例2〜9
表1に示す量にて単量体、多孔質化剤、重合開始剤、分散安定剤及び蒸留水を用い、実施例1と同様にして、多孔質共重合体粒子からなる核酸合成用固相担体を調製した。得られた共重合体粒子のアセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積とメジアン粒径を表3に示す。
【0053】
得られた核酸合成用固相担体に実施例1と同様にしてヌクレオシド・リンカーを担持させ、これを用いて、オリゴヌクレオチドdT20を合成した。実施例1と同様にして測定したオリゴヌクレオチドのOD収量とdT20の割合(全長オリゴヌクレオチド%)を表3に示す。また、上記OD収量とdT20の割合(全長オリゴヌクレオチド%)との積の値を表3に示す。
【0054】
比較例1〜9
表2に示す量にて単量体、多孔質化剤、重合開始剤、分散安定剤及び蒸留水を用い、実施例1と同様にして、多孔質共重合体粒子からなる核酸合成用固相担体を調製した。得られた共重合体粒子のアセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積とメジアン粒径を表4に示す。
【0055】
得られた核酸合成用固相担体に実施例1と同様にしてヌクレオシド・リンカーを担持させ、これを用いて、オリゴヌクレオチドdT20を合成した。実施例1と同様にして測定したオリゴヌクレオチドのOD収量とdT20の割合(全長オリゴヌクレオチド%)を表4に示す。また、上記OD収量とdT20の割合(全長オリゴヌクレオチド%)との積の値を表3に示す。また、上記OD収量とdT20の割合(全長オリゴヌクレオチド%)との積の値を表3に示す。
【0056】
表3及び表4に示す結果から明らかなように、実施例1〜9によって得られた核酸合成用固相担体を用いるとき、比較例1〜9の多孔質共重合体粒子を固相担体として用いる場合に比べて、高い全長オリゴヌクレオチド%を維持しつつ、オリゴヌクレオチドのOD収量を高くすることができる。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に2個以上のビニル基を有する多官能性ビニル単量体単位と分子中に1個のビニル基を有する単官能性ビニル単量体単位からなる多孔質共重合体粒子からなり、アセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積が3.5mL/g以上であり、レーザー散乱式粒度分布測定法によるメジアン粒径が50〜120μmの範囲にあることを特徴とする核酸固相合成用担体。
【請求項2】
単官能性ビニル単量体単位がスチレンを含み、多官能性単量体単位がジビニルベンゼン、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の核酸固相合成用担体。
【請求項3】
単官能性ビニル単量体単位がスチレンとアセトキシスチレンを含む請求項1に記載の核酸固相合成用担体。



【公開番号】特開2009−280544(P2009−280544A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136468(P2008−136468)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】