説明

核酸増幅反応の新規短時間検出方法

【課題】dNTP重合反応の結果を、従来法である電気泳動法や蛍光法等を用いることなく簡便な操作方法で5分以内に目視で判定可能な方法を提供する
【解決手段】dNTPの重合反応液をベタイン存在下に酸性条件とすることにより、該反応液中に核酸が析出物として検出されることを指標として、該重合反応の結果を判定する。また、未反応のdNTPに結合している有機リン酸が呈色できない条件下で、dNTPの重合反応液をベタイン存在下又は不存在下に酸性条件にするとともに、モリブテン酸もしくはモリブテン酸塩と還元剤を添加し、該反応液中に核酸が析出物として検出されること及び又は遊離のピロリン酸とピロリン酸金属塩ならびに遊離のリン酸とリン酸金属塩を呈色させることを指標として判定する。本発明方法は、判定の誤差を少なくすることが出来、検出感度が高まる利点もある。また、判定に要する時間は約5秒〜5分で、従来の方法に比べて大幅に短い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR等の核酸増幅法における、デオキシヌクレオシド三リン酸(deoxynucleotide tri−phosphate:以下dNTP)の重合反応生成物である核酸とピロリン酸の簡易検出法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子を用いた診断方法として核酸重合(Polymerase Chain Reaction;PCR)法やligase chain reaction(LCR)法が用いられてきた。これらを実施するためには、高価なサーマルサイクラー(温度サイクリング増幅法)が必要なばかりか、特定のサーマルサイクラーでしか反応できないことも頻繁におこり、簡便で安価な迅速診断にはなり得なかった。この温度サイクリング増幅法に代わり得る方法として一定の温度でDNAやRNAの増幅が高頻度で行える等温増幅法が開発されてきている。DNAを用いる方法として、Standard Displacement Amplification(SDA)法、Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids(ICAN)法とその変法であるUCAN法、Loop−mediated Isothermal Amplification (LAMP)法などがあり、RNAを用いる方法としてTranscription Reverse transcription(TRC)法、Nucleic Acid Sequence−Based Amplification(NASBA)法、Transcription Mediated Amplification method(TMA)法 などがある。これらの増幅方法は、いずれもdNTPの重合反応である。
【0003】
増幅反応を確認する方法には、直接増幅されたDNAやRNAを検出方法する方法がある。例えば、電気泳動後にエチジウムブロマイドによる染色、ビオチン化プローブを用いた発光法、エキシマー形成蛍光センサー、電気化学的センサーなど、様々な方法があるが、何れも高価な機器や試薬を必要とするか、操作が煩雑になる欠点を有している。
また、dNTP重合反応液中のピロリン酸をリンモリブテン反応によって検出する方法が、特許文献1又は2に見られるが、いずれもdNTP重合反応液中に存在するdNTPやDNAやRNAに結合されているリン酸を検出する危険性を含んでいるばかりか、簡便なキット化はされていない。
【0004】
等温増幅法によるDNAやRNAの検出方法も、一部を除いてほとんどが従来のPCRの検出方法と同様であり、検出方法に関する改善はなんら認められていない。唯一、栄研化学で開発されたLoop−mediated isothermal amplification(LAMP)法は高価なサーマルサークラーを必要とせず、約60℃前後の一定の温度でDNAの増幅(等温増幅法)が高頻度で行え、かつDNA増幅の確認はDNA増幅時に産生されるピロリン酸と過剰量に添加されているマグネシウムが反応したピロリン酸−マグネシウムの析出を目視で行う簡便な方法がとられている。しかし、ピロリン酸−マグネシウムが目視できるまでの産生量を確保する反応時間が必要になり、一般的に約1時間以上を要す。さらに、LAMP法に使用されるプライマーはPCRのプライマーよりも特殊で複雑であり、目視可能なまでの十分な反応をおこすには非常に制限された特定のプライマーが必要になる欠点を有す。
【特許文献1】特開平7−59600号公報
【特許文献2】特開2004−205298公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、頻繁に使用されているdNTP重合反応の結果を、従来法である電気泳動法や蛍光法などの高価な機器や試薬を用いることなく簡便な操作方法で5分以内に目視で判定可能な方法をキットとして提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するべく、本発明者らはdNTP重合時の産生物質である核酸と遊離のピロリン酸とピロリン酸金属塩ならびにピロリン酸の分解物であるリン酸とリン酸金属塩に注目した。一般的にdNTP重合反応溶液中には、dNTP重合反応に必要な酵素の補酵素的役割をマグネシウム、マンガン、亜鉛などの2価の金属イオンが担っている。dNTPが重合される量に比例してピロリン酸が産生されるが、このピロリン酸は反応液中に含有されている2価の金属イオンとキレートを形成し、不溶性のピロリン酸−2価金属塩が形成されると同時に、ピロリン酸が分解したリン酸でもリン酸−2価金属塩が形成される。一方、dNTP重合反応溶液中には、未反応物質として残存しているdNTPが共存しているが、これらはいずれもリン酸を結合している。dNTPに結合したリン酸は全リン酸測定方法であるモリブテン法でも検出されるため、これらが含有されている反応溶液中で特異的にピロリン酸−2価金属もしくはリン酸−2価金属中のピロリン酸とリン酸を短時間で簡便に検出することは困難であると考えられた。しかし、本発明者は鋭意検討の結果、未反応のdNTP中に結合している有機リン酸が呈色できない条件があることを見い出し、特異的にピロリン酸−2価金属もしくはリン酸−2価金属中のピロリン酸とリン酸を短時間で簡便に検出することに成功した。さらに、dNTP重合反応によって産生される核酸は、ベタイン存在下強酸性の条件下で析出することを見出し、核酸の析出によってもdNTP重合反応の進行を確認できることを見出した。
【0007】
即ち、本発明以下のとおりである。
第一の発明は、デオキシヌクレオシド三リン酸(deoxynucleotide tri−phosphate:dNTP)の重合反応液をベタイン存在下に酸性条件とすることにより、該反応液中に核酸が析出物として検出されることを指標として、該重合反応の結果を判定するdNTP重合反応の結果判定方法である。
第二の発明は、未反応のdNTPに結合している有機リン酸が呈色できない条件下で、dNTPの重合反応液を酸性条件にするとともに、モリブテン酸もしくはモリブテン酸塩と還元剤を添加することにより、dNTPの重合反応によって産生された遊離のピロリン酸とピロリン酸金属塩ならびに遊離のリン酸とリン酸金属塩を呈色させることを指標として判定するdNTP重合反応の結果判定方法である。
第三の発明は、未反応のdNTPに結合している有機リン酸が呈色できない条件下で、dNTPの重合反応液をベタイン存在下に酸性条件にするとともに、モリブテン酸もしくはモリブテン酸塩と還元剤を添加することにより、該反応液中に核酸が析出物として検出されること及び又はdNTPの重合反応によって産生された遊離のピロリン酸とピロリン酸金属塩ならびに遊離のリン酸とリン酸金属塩を呈色させることを指標として判定するdNTP重合反応の結果判定方法である。
第四の発明は、少なくともモリブテン酸もしくはモリブテン酸塩、酸性水、還元剤よりなる前記のdNTP重合反応の結果判定方法に用いるキットである
【発明の効果】
【0008】
第一の発明の方法によれば、通常二本鎖DNAを不安定にし、かつ核酸を溶解するために用いられるベタイン存在下において、dNTP重合反応生成物である核酸の析出によってdNTP重合反応の進行を検出可能である。
第二の発明の方法は、dNTP重合反応に比例して産生されるピロリン酸とその分解物であるリン酸および反応液中に含まれる金属で塩を形成したピロリン酸金属塩およびリン酸金属塩を、酸性条件下でモリリブデン酸(塩)と還元剤の添加による呈色でdNTP重合反応の進行を検出する方法であり、dNTP重合反応が進行しない反応液では着色しない特異性を有する。
第三の発明の方法は、核酸の析出とともに、dNTP重合反応に比例して産生されるピロリン酸とその分解物であるリン酸および反応液中に含まれる金属で塩を形成したピロリン酸金属塩およびリン酸金属塩を、ベタイン存在下かつ酸性条件下でモリリブデン酸(塩)と還元剤の添加による呈色でdNTP重合反応の進行を検出する方法であり、dNTP重合反応が進行しない反応液では着色しない特異性を有する。この方法によれば、dNTP重合反応によって産生される核酸とピロリン酸の両方を確認することも可能であり、より確実にdNTP重合反応の進行を確認できることになる。
【0009】
上記、本発明の方法によれば、特にLAMP法などで用いられている多量のdNTP重合物質(DNAもしくはRNA)が産生される方法において、その結果判定の大幅な短縮が可能となる。さらに検出感度が優れているため一定以上のdNTPの重合が行われれば、不完全なプライマーでも使用できる。特許文献2で公開されている「フィルターを用いたピロリン酸の比色検出法」もリンモリブテン反応を利用している。しかし、dNTP重合反応終了液にてモリブテン反応を行った後、フィルター上に呈色された色素物を集めることで比色検出する方法であり、同一容器内で検出できない不便さを有している。また、特許文献1の「標的核酸の検出方法および診断試験キット」は無機オルトホスフェートの検出方法であり、遊離のピロリン酸とその金属塩およびリン酸金属塩の検出に関する記載はない。
【0010】
本検出方法で用いるモリブテン法自体は既知の方法である。しかし、ピロリン酸2価金属もしくはリン酸2価金属中のピロリン酸もしくはリン酸を反応溶液中に共存するdNTP中のリン酸と区別して検出する手段を講じた例は無い。また、ベタイン存在下又はベタインとモリブテン酸もしくはモリブテン酸塩存在下の酸性条件下で特定のdNTP重合反応生成物の核酸の析出と析出量が多くなることを報告した例もない。本検出方法は、dNTP重合反応溶液中に共存するdNTP中の有機リン酸と反応性生物である無機ピロリン酸を区別して検出することが可能であるばかりか、産生された核酸をも検出することができる。つまり、添加する酸性物質濃度、モリブテン酸もしくはモリブテン酸塩及び/又は還元剤濃度を調整することで、意図的に核酸の析出物を生じさせることに成功し、かつピロリン酸の特異的呈色も可能となったばかりか検出感度も高くなった。
【0011】
本発明の原理は、dNTP重合反応生成物である核酸を析出させると同時に無機リン酸であるピロリン酸と未反応のdNTP中の有機リン酸をリンモリブテン反応の感度差を利用して特異的に感度良くピロリン酸のみを検出することである。さらに、酸性物質濃度とモリブテン酸もしくはモリブテン酸塩ならびに還元剤濃度を調整することで目視判定での検出感度を高めることもできる。特に還元剤が塩化第一スズの場合は析出物が青色に染まるため沈殿状態での目視は極めて判定しやすくなる。そのため、個人による判定の誤差を少なくすることが出来きるばかりか、検出感度が高まる利点もある。また、判定に要する時間は約5秒〜5分で、従来の方法に比べて大幅に短い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の方法は、リン酸含有の緩衝液を用いない全てのdNTP重合反応結果判定に使用できる。例えば核酸のサイクリング増幅法(denaturation → annealing → extension)であるPCR法、Reverse Transcription(RT)−PCR法、Arbitrarily Primed(AP)−PCR法、Single Strain Counting(SSC)−PCR法、ligase chain reaction(LCR)法、等温増幅法であるLAMP法、Standard Displacement Amplification(SDA法)、Ligase chain reaction(LCR法)、Single Nucleotide Polymorphysm(SNP法)、Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids(ICAN法)などの重合反応液を対象とすることができる。
【0013】
第一及び第三の発明においては、ベタイン存在下で酸性にすることにより核酸が析出する。ベタインとしては、トリメチルグリシンが代表的であるが、それ以外の、第4級アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩等のベタインも用いられる。ベタイン量は、生成される反応物によって変わるが、添加するdNTP量の10倍〜5000重量倍が通常用いられる。なお、例えばLAMP法のように増幅法自体でベタインを使用し、反応液が既にベタインを十分含有している場合があるが、その場合は改めてベタインを添加する必要はない。
なお、重合反応液中の核酸の生成量が多い場合は、ベタインが不存在でも単に酸性にするだけで析出が見られることがあるが、ベタインが存在すると析出量が多くなり、判定が容易となる。
【0014】
本発明において、dNTP重合反応液中に核酸を析出させるための酸性条件は、pH3以下が好ましく、さらに好ましくはpH1以下である。酸性にする試薬は、リンモリブテン酸反応を阻害しない酸性物質であれば特に制限なく使用できる。例えば塩酸、硫酸、硝酸などが例示できる。酸濃度としては0.25〜3Nが好ましい。酸性条件があまり強すぎると、例えば硫酸や塩酸で3Nを超えると、核酸の析出は低下する。
【0015】
第二、第三の発明においては、リンモリブデン反応を利用して、呈色反応を行う。使用するモリブテン酸(塩)は、一般的に使用されているモリブテン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カドミウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸ビスマス、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸亜鉛およびモリブデン酸アルキルアンモニウム(1〜6個の炭素原子を有するアルキルを有する)が挙げられる。また、還元剤としてアスコルビン酸、メルカプトエタノールなどのSH含有還元剤、アミノナフトールスルホン酸、硫酸p−メチルアミノフェノール、塩化第一錫、フェニルヒドラジン、ヒドロキノン、硫酸第一鉄、2,4−ジアミノフェノール、N−フェニル−p−フェニレンジアミン並びにハロゲン化銀化合物が挙げられるが、短時間で着色可能な塩化第一スズか2−メルカプトエタノールが好ましい。感度を上げるために必要であれば、アミド硫酸アンモニウム、タルトラトアンチモン酸カリウムもしくは酒石酸アンチモルニルカリウムが使用できる。
上記物質は、試薬として市販されているものでも合成品でも構わない。また、液状でも固形状でも構わない。さらに、個々の試薬自体でも、混合された状態でも構わない。また作成されうる塩の形態をとっていても構わない。
【0016】
第二、第三の発明においては、未反応のdNTP中に結合している有機リン酸が呈色できない条件下で、dNTPの重合反応によって産生された遊離のピロリン酸とピロリン酸金属塩ならびに遊離のリン酸とリン酸金属塩をモリブテン酸もしくはモリブテン酸塩と還元剤の添加によって呈色させる。未反応のdNTP中に結合している有機リン酸が呈色できない条件とは、主として反応液中の還元剤の濃度、pHである。これらの条件は実験により定めることができる。還元剤の濃度は使用する還元剤により異なるが、形成されたリンモリブテン酸化合物を還元して青色を呈色する充分な量が望ましく、一般的には最終濃度として0.01〜10重量%の添加量が好ましい。塩化第一スズ場合は反応液中で0.15〜2重量%が特に好ましく、2−メルカプトエタノールの場合は0.01〜0.5Mが特に好ましい。還元剤として塩化第一スズを用いた場合、0.01%未満では呈色が弱くなりすぎ、2%を超えると反応液中で黒色の沈殿が形成され判定がしにくくなる。2−メルカプトエタノールの場合、0.01M未満の添加量では呈色が弱くなりすぎ、0.5Mを超えるとメルカプトエタノール自体の色(オレンジ色)が強くなりすぎて、判定しにくくなる。反応液のpHはpH3以下が好ましく、pH1以下がさらに好ましい。
【0017】
第二、第三の発明におけるリンモリブテン試薬の添加量は、dNTP重合反応に用いられるdNTP量と溶液量によってかわるため制限はないが、添加するdNTPと同モル数のピロリン酸が充分に反応可能なモリブテン酸(塩)を含有することが望ましく、最終濃度として0.01〜10重量%のモリブテン酸(塩)の添加量が好ましく、さらに好ましくは0.125〜1重量%である。
【0018】
本発明に用いる酸性物質、モリブテン化合物、還元剤は別々に又は組み合わせて常法により任意の剤形とすることができる。例えば固化製剤、水剤とすることができる。また、担体に個々、もしくは複数の試薬を含有される形態をとることもできる。例えば、ろ紙に試薬を染み込ませて乾燥したものを用いることができる。
試薬は、酸性物質、モリブテン化合物、還元剤をキットとして提供することができる。これらはそれぞれ別々に又は組み合わせて容器に入れて提供することができる。好ましくは、酸性物質含有水、モリブテン化合物含有水、還元剤含有水の個々の試薬が分別されたキットが安定性の面で好ましい。容器は内容物を滴下でき、且つ、1滴当たりの滴下液量が一定で明らかなものを使用するのが好ましい。このような容器を使用することにより、秤量操作を簡易化でき、また還元剤と空気の余分な接触を避けることができるので、試薬の安定性を保つことができる。なお、試薬には安定化剤が配合されても構わない。
【0019】
本発明を実施するには、例えば以下のようにして行う。
第一の発明の場合は、これらの重合反応液に酸性物質及び必要ならベタインを加えて5〜40℃(室温)で5〜20秒間反応させる。重合が進んで重合反応物が生成している場合は、核酸が析出物として検出される。
第二、第三の発明の場合は、これらの重合反応液にモリブテン酸(塩)、還元剤、必要ならベタイン及び酸性物質を加えて5〜40℃(室温)で5秒〜10分間反応させる。重合が進んでいる場合は核酸が析出物として検出されるとともにピロリン酸(金属塩)又は遊離のリン酸(金属塩)が呈色する。dNTPに結合しているリン酸は反応しないので、重合が進んでいない場合は呈色しない。
【実施例】
【0020】
以下、実施例で本発明を説明する。
実施例1
LAMP法に用いる黄色ブドウ球菌検出(femA)のプライマーは、配列番号1(f−1)と配列番号2(f−2)及び配列番号3(f−3)と配列番号4(f−4)を使用した。
LAMP反応液は、抽出DNAを2.0μL(コントロールは滅菌蒸留水を添加)、各100pmol/μLのプライマーを、f−1とf−2は各々0.8μL、f−3とf−4は各々0.1μL、8.0U/μLのBst DNA Polymeraseを2.0μLのそれぞれを添加して核酸増幅反応を行った。反応液は上記プライマーと酵素以外に、20mM Tris HCl(pH8.8)、10mM KCl、8mM MgSO、10mM SO(NH、0.1% Tween20、0.8M Betaine、1.4mM each of dNTPsが全量50μLの反応液中に含有されている。反応液を63℃で60分間加温後、10μLの25%HCl(最終濃度2.5%、pH1以下)を添加して写真撮影を行い、図1に示した。比較のためにLAMP未反応液及びHCl添加前のLAMP未反応液の写真も示した。図1において、1はLAMP反応終了液+0.25N硫酸、2はLAMP反応終了液、3はLAMP未反応液の写真である。
LAMP反応終了液を酸性にした1の場合、中性のままの2と比較して明らかな白濁が確認される。また、未反応液3は透明のままであった。
【0021】
実施例2
実施例1のHClを添加した反応液に15μLの1.0%モリブデン酸アンモニウム(最終濃度0.15%)、25μL の1.0% 塩化第一スズ(最終濃度0.25%)を順次混合し、5分間静置後、写真撮影を行った。同時に7,000gで1分間の遠心を行って写真撮影した。同時にLAMP反応終了液をLAMP未反応液で2段階希釈により1/64倍まで希釈した各溶液で、塩化第一スズを用いたリンモリブテン酸反応を行い、電気泳動法との比較を行った。リンモリブテン酸反応の結果の写真を図2に、電気泳動法の結果の写真を図3に示した。電気泳動法は以下の操作に従った。8.0μL のLAMP反応液とその2段階希釈した溶液に4.0μLの0.1%ブロムフェノールブルーを添加し、Tris(hydroxyl−methyl)aminomethane−酢酸−Disodium EDTA(pH8.0)bufferで作成した2%アガロースゲルに各サンプルの8μLずつを添加した。コントロールとして3μL のDNA ladderを添加後、Tris(hydroxymethyl)aminomethane−酢酸− Disodium EDTA(pH8.0)buffer中で100Vの電圧をかけて45分間電気泳動を行った。電気泳動終了後、アガロースゲルを1.0μg/mLのエチジウムブロマイドに20分間浸漬後、精製水に10分間浸漬を2回行った。バンドはUVランプで確認した。
【0022】
同様にLAMP反応液の50μLに 20μLの7.5N硫酸(最終濃度1.5N)、20μLの3.75% モリブテン酸アンモニウム(終濃度0.75%)、10μL の1M 2−メルカプトエタノール(終濃度0.1M)を順次混合し(pH1以下)、5分間静置の後、7,000g、1分遠心を行った。反応開始5分後に遠心前後の写真撮影結果を図4に示した。
還元剤として塩化第一スズを用いたリンモリブテン酸反応は目視で32倍希釈まで確認され、遠心後では64倍希釈まで確認された。電気泳動では64倍以上の希釈まで確認されたことから、本検出方法は電気泳動法と同程度の感度と考えられる。また、LAMP反応で白濁を目視で確認できる時点はせいぜい4倍希釈程度であるが、本検出法では16倍程度の強い感度であった。つまり、LAMP反応によって白濁が確認されない時点でも、本検出方法による検出が可能であることが判明した。また、還元剤として2−メルカプトエタノールを用いたリンモリブテン酸反応は目視で32から64倍希釈まで確認され、遠心後でも同様であった。但し、塩化第一スズを用いた方が、着色時間は若干早く、かつ析出物が青色に呈色していた。
【0023】
実施例3
リンモリブテン反応試薬を用いたPCR反応終了液に対する検討
PCRはブドウ球菌が保有する遺伝子の中で、黄色ブドウ球菌のみが特異的に保有する領域を配列番号5と配列番号6(PCR products 306bp)のプライマーで検出した。PCR反応液は、黄色ブドウ球菌の抽出DNAを0.2μL(コントロールは滅菌蒸留水を添加)、各100pmol/μLのプライマーをそれぞれ0.2μL、5.0U/μLのAmpliTaq Gold(Applied Biosystems)を0.4μL、2mM dTNPmix(GeneAmp)を1.0μL、25mM MgClを3.0μL、10xPCR緩衝液(Applied Biosystems)を5.0μL、蒸留水を40.0μL添加した。サイクリング時間と温度設定は、femA用が、95℃で12分間加温後、(94℃,30sec.→52℃,1min.→70℃,1min.)×40サイクルし、70℃で10分間処理した。サーマルサイクラーはGeneAmp PCR System 9700 (Applied Biosystems)を使用した。反応結果を図5に示す。左側がベタイン無添加、中央が0.5Mベタイン添加、右側が0.5Mベタイン添加遠心後の写真である。LAMP反応液と同様にリンモリブテン酸反応試薬(還元剤:塩化第一スズ)で検出可能であり、ベタインの添加によって実施例1と同様に核酸の析出も確認された。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1のLAMP反応終了液+0.25N硫酸(1)、LAMP反応終了液(2)、LAMP未反応液(3)の写真である。
【図2】実施例2の塩化第一スズを用いたリンモリブテン酸反応の結果の写真である。
【図3】実施例2の比較とした電気泳動の写真である。
【図4】実施例2の2−メルカプトエタノールを用いたリンモリブテン酸反応の結果の写真である。
【図5】実施例3のPCR反応終了液の塩化第一スズを用いたリンモリブテン酸反応の結果の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシヌクレオシド三リン酸(deoxynucleotide tri−phosphate:dNTP)の重合反応液をベタイン存在下に酸性条件とすることにより、該反応液中に核酸が析出物として検出されることを指標として、該重合反応の結果を判定するdNTP重合反応の結果判定方法。
【請求項2】
未反応のdNTPに結合している有機リン酸が呈色できない条件下で、dNTPの重合反応液を酸性条件にするとともに、モリブテン酸もしくはモリブテン酸塩と還元剤を添加することにより、dNTPの重合反応によって産生された遊離のピロリン酸とピロリン酸金属塩ならびに遊離のリン酸とリン酸金属塩を呈色させることを指標として判定するdNTP重合反応の結果判定方法。
【請求項3】
未反応のdNTPに結合している有機リン酸が呈色できない条件下で、dNTPの重合反応液をベタイン存在下に酸性条件にするとともに、モリブテン酸もしくはモリブテン酸塩と還元剤を添加することにより、該反応液中に核酸が析出物として検出されること及びdNTPの重合反応によって産生された遊離のピロリン酸とピロリン酸金属塩ならびに遊離のリン酸とリン酸金属塩を呈色させることを指標として判定するdNTP重合反応の結果判定方法。
【請求項4】
ベタインの量が重合反応に際して添加したdNTP量の10倍〜5000重量倍である請求項1又は3の方法。
【請求項5】
酸性条件がpH3以下である請求項1、2又は3の方法。
【請求項6】
還元剤の濃度が反応液中で0.01〜10重量%である請求項2又は3の判定方法。
【請求項7】
還元剤が塩化第一スズ又は2−メルカプトエタノールであることを特徴とする請求項2又は3の判定方法。
【請求項8】
反応液中の塩化第一スズ濃度が0.01〜2重量%又は2−メルカプトエタノールの濃度が0.01〜0.5Mである請求項7の判定方法。
【請求項9】
反応液のモリブテン酸もしくはモリブテン酸塩の濃度が0.01〜10重量%である請求項2又は3の判定方法。
【請求項10】
モリブテン酸もしくはモリブテン酸塩の濃度が0.05〜2.5重量%で、酸物質濃度が0.1〜5Nである請求項2又は3の判定方法。
【請求項11】
呈色後さらに反応液を濃縮して判定する請求項2又は3の判定方法。
【請求項12】
少なくともモリブテン酸もしくはモリブテン酸塩、酸性水、還元剤よりなる請求項2又は3のdNTP重合反応の結果判定方法に用いるキット。
【請求項13】
モリブテン酸もしくはモリブテン酸塩含有水、酸性水、還元剤含有水を個々もしくは組み合わせて滴下液量が明確な容器に入れた請求項12のキット。
【請求項14】
モリブテン酸もしくはモリブテン酸塩及び/又は還元剤を担体に担持させてなる請求項12のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−317201(P2006−317201A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137993(P2005−137993)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(390027214)社団法人北里研究所 (20)
【Fターム(参考)】